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73 スポーツ・コーチ教育への 変革型リーダーシップ理論の導入の試みの紹介 之* 雄** 隆*** 人**** 一***** An Attempt to Introduce Transformational Leadership Theory into Sports Coaching Education Takayuki NATSUHARA Masao NAKAYAMA Hirotaka OKADA Hayato KAWAKITA Soichi ICHIMURA Abstract Research on coach education in sports is one of the major issues in the field of sports coaching in recent years. To become an excellent coach, the following three area of knowledge and skills are required: (1) professional motor skills and tactical skills, (2) interpersonal relations (leadership, team building, etc.) , (3) intrapersonal factors (self-introduction, self-control, etc.) . In previous coach development programs (CDP) , the majority of CDPs dealt with professional knowledge and skills, including motor skills and tactical skills. On the other hand, only about 10% of the total dealt with knowledge and skills related to interpersonal relationships (such as leadership and team building) and intra-personal factors (inner reflection and self-control) . However, in recent studies on coach education, it has been reported that good relationships between coaches and athletes have a significant impact on the effectiveness of coaching and on the outcomes resulting from participation in Takayuki NATSUHARA 健康・スポーツ心理学科(Department of Health and Sport Psychology) ** Masao NAKAYAMA 筑波大学(University of Tsukuba) *** Hirotaka OKADA 筑波大学(University of Tsukuba) **** Hayato KAWAKITA 健康・スポーツ心理学科(Department of Health and Sport Psychology) ***** Soichi ICHIMURA 名誉教授(Professor Emeritus)

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73

スポーツ・コーチ教育への

変革型リーダーシップ理論の導入の試みの紹介

夏 原 隆 之*

中 山 雅 雄**

岡 田 弘 隆***

川 北 準 人****

市 村 操 一*****

An Attempt to Introduce Transformational Leadership Theory into Sports Coaching Education

Takayuki NATSUHARA

Masao NAKAYAMA

Hirotaka OKADA

Hayato KAWAKITA

Soichi ICHIMURA

Abstract

 Research on coach education in sports is one of the major issues in the field of sports coaching in recent

years. To become an excellent coach, the following three area of knowledge and skills are required: (1)

professional motor skills and tactical skills, (2) interpersonal relations (leadership, team building, etc.), (3)

intrapersonal factors (self-introduction, self-control, etc.). In previous coach development programs (CDP),

the majority of CDPs dealt with professional knowledge and skills, including motor skills and tactical skills. On

the other hand, only about 10% of the total dealt with knowledge and skills related to interpersonal relationships

(such as leadership and team building) and intra-personal factors (inner reflection and self-control). However,

in recent studies on coach education, it has been reported that good relationships between coaches and athletes

have a significant impact on the effectiveness of coaching and on the outcomes resulting from participation in     *Takayuki NATSUHARA 健康・スポーツ心理学科(Department of Health and Sport Psychology)   **Masao NAKAYAMA 筑波大学(University of Tsukuba)  ***Hirotaka OKADA 筑波大学(University of Tsukuba) ****Hayato KAWAKITA 健康・スポーツ心理学科(Department of Health and Sport Psychology)*****Soichi ICHIMURA 名誉教授(Professor Emeritus)

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sports. Therefore, coach development programs that focus on acquiring and improving knowledge and skills

related to interpersonal relationships are attracting attention. In this paper, in order to improve the quality of

interpersonal relationships between coaches and athletes, we will introduce the background of the planning of

coach education using Transformational Leadership (TFL) theory and explain the contents of the workshop in a

new coach education program that promotes coach behavior change.

Keyword:sports coaching education, transformational leadership, coach development programs, transformational

coaching workshop

緒 言

 スポーツを指導するスポーツ・コーチン

グの研究は21世紀に入ってますます盛んに

なってきている.国際的な専門誌に関しても,

International Journal of Sports Science & Coaching

が2006年に,International Sport Coaching Journal

が2014年にそれぞれ創刊されている.

 この潮流の中で,「優れたスポーツ・コーチ

とはどのような働きをするか」「有効なコーチ

ングとはどのようなものか」が改めて研究の対

象になった.

 本論文は,優れたスポーツ・コーチングはど

のように定義されるかについての最近の海外の

研究を紹介するとともに,コーチが優れたス

ポーツ・コーチングをできるようにするコーチ

育成の新しい取り組みを紹介することを目的と

する.本論文で取り上げるコーチ教育の新しい

試みは,Turnnidge and Côté(2017)による,コー

チが変革型リーダーシップ(Transformational

leadership: TFL)行動を実行できるようにする

ワークショプの試みである.本論文では彼女の

ワークショップの内容を紹介することを中心と

して,TFL理論を導入してコーチ育成を計画す

るようになった背景を,関連する他の文献の紹

介と解説を加えることを目的としている(なお,

本論文では,スポーツ・コーチをコーチと省略

する).

1 優れたコーチの定義

 Côté and Gilbert(2009)は,優れたコーチン

グの有効性(coaching effectiveness)は「競技

者の発達的成果」に現れると主張した.その成

果は4Cとよばれ,Competence (能力)の向上

だけでなく,Confidence (自信),Connection(人

間関係),Character(人格)などの発達的成果を

含んでいた.さらに,先行研究を展望したCôté

et al.(2016)は,有効的コーチ(effective coach)

と競技者の間に生起する相互作用は,成績の向

上や参加の促進,人格的発達などを含めた競技

者の発達に重要な関連を持つことを示した.こ

の研究では,優れたコーチというものは,競技

者に有効な影響を与え,4Cで示されるような

成果を上げることができるコーチであると定義

された.

 このように定義された優れたコーチに必要な

知識・技能には,次のような3つの種類が挙げ

られた.(1)専門的運動技能や戦術技能に関

するもの.(2)人間関係的な知識・技能(リー

ダーシップやチーム・ビルディング等).(3)

個人内の要因の知識・技能(自己内省力や自己

コントロール等).

2 コーチ育成プログラム

  (Coach Development Programs: CDP)

 このような3種類の知識・技能を身につけた

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スポーツ・コーチ教育への変革型リーダーシップ理論の導入の試みの紹介

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コーチを育成するためには,コーチ育成プログ

ラム(CDP)にもそのための内容が含まれてい

なければならず,専門種目の技能や戦術に関す

る知識の伝達だけでは十分とは言えない.

Lefebvre et al. (2016)による近年の展望論文は,

現在行われているCDPで目標とされているコー

チングの知識・技能は何であるのか(つまり,

専門職的なものか,対人関係的なものか,個人

内的なものか)を調べた.彼らが285のCDPを

調査した結果,261のCDPは集中的に専門職的

知識・技能を扱っており,その中には運動技能

や戦術技能に関するものが含まれていた.18の

CDPは,何よりも人間関係的な知識・行動(リー

ダーシップやチームビルディング等)を強調し

ていた.一方,わずか6つのCDPのみが個人内

の要因の知識,行動(自己内省や自己制御等)

を扱っていた.総じていうならば,大多数の

CDPは専門職的知識・行動の教育の促進に力点

を置いていた.それとは逆に,人間関係やコー

チ個人の内面に関する問題は,コーチ教育の分

野では十分には扱われないままになっていた.

Lefebvre et al.(2016)は,専門職的な知識が特

に重要視される理由に関して,技術や戦術につ

いてのコーチング技能の育成は,コーチングの

有効性が技能の発達と競技成績の向上という分

かりやすい成果として評価できるが故に,コー

チ教育の伝統的な目標になっていたと推察して

いる.

3 人間関係を重視するコーチ育成プログラム

  (CDP)

 Erickson and Gilbert(2013)は、スポーツ種目

の専門的な知識・技能を競技者に教えることは

コーチングのプロセスでは重要な一要素である

が,有効的なコーチによって示される行動の全

領域を意味しているわけではないことを認識す

ることも重要であると指摘している.この主張

と同調するように,Côté and Gilbert(2009)は

コーチングの有効性の不可欠な要素は,他者と

の高いレベルの関係を作るコーチの能力に関係

していると主張した.さらに,コーチの指導す

る競技者との良好な関係は,競技者がそのス

ポーツへの参加から得る成果の良し悪しを決定

する上で重要な意味を持つとしている.そのよ

うな成果の中には,競技者の練習や成績につい

ての満足感(Jowett and Nezlek, 2011),内発的

動機づけ(Adie and Jowett, 2010),そしてスポー

ツへの情熱(Lafrenière et al., 2008)などが含ま

れる.しかしながら,CDPの中で「人間関係的

知識・行動」をどのように扱ったらよいかにつ

いてはたくさんの疑問が残されている.

 結果として,研究者にとっては,コーチと選

手の相互作用の対人関係の側面を探求し,対人

関係に焦点を絞った効果的なCDPを設計するた

めには,異なる理論的枠組みを利用することに

価値があるかもしれない.

  こ の よ う な 背 景 の も と に,Turnnige et al.

(2017)はTFL理論を導入する計画を立てた.

 つぎの項ではTFL理論の概要と,この理論の

スポーツでの効果を証明したいくつかの研究を

紹介する.

3.1 変革型リーダーシップ(TFL)とはどの

ようなリーダーシップ理論か?

 TFL理論についてはArthur and Lynn(2017)に

詳しい解説がでているので,その部分を引用す

る.

 変革型リーダーシップ理論は,もともとは政

治学の分野でBurns(1978)によって発展させら

れた.(訳者注:Burnsは過去の偉大な政治的リー

ダーであった,ワシントンやルーズベルト,ガ

ンジー,キング牧師,ネルソン・マンデラなど

の行動を分析し,彼らに共通するリーダーシッ

プの特徴を見出し,そのリーダーシップの型を

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「変革型リーダーシップ」と名付けた).そして,

その理論はBass(1985)によって企業の組織心

理学の中に取り入れられ,比較的最近になって

スポーツの分野でも研究されるようになった

(Arthur and Tomsett, 2015).

 変革型リーダーたちは,フォロアーたちをよ

り大きな「良い目標」に向かって個人の私利私

欲を超越するように,感情に訴える方法で鼓舞

した,と考えられている.そうする中で,変革

型リーダーたちは,フォロアーたちに期待を超

えた成績を達成させるように奮い立たせる,と

言われている.変革型リーダーシップの影響力

の根底には,フォロアーに課題を達成すること

の重要性をはっきりと気づかせ,彼らの私利私

欲を超えて組織のために行動するように奮い立

たせる能力を含んでいると考えられる.

 変革型リーダーシップは取引型リーダーシッ

プ(transactional leadership)との対比で語られ

ることがある.取引型リーダーシップではフォ

ロアーを従順に服従させるために,賞罰が用い

られた.実は,変革型リーダーシップの重要な

効果は,パフォーマンスに大きな影響を与え,

その影響は取引型リーダーシップの影響より大

きいだろうということである.このことは「増

強仮説」とよばれている.Bass(1985)は,変

革型リーダーシップは取引型リーダーシップに

取って代わるものではなく,両者が相まって効

果を発揮するものであると考えていた(ここま

での引用はArthur and Lynn, 2017; p. 188).

4 変革型リーダーシップ(TFL)の構造とそ

の測定

 スポーツ・コーチングの領域に特化した変革

型リーダーシップの質問紙(DTLI)はCallow

et al.(2009)によって作成され,Vella et al. (2012)

によって新しい質問紙に改変され,原著者の

許可を得て,我々によって翻訳された.この

質問紙によってコーチのTFLは7つの下位特性

(例:動機づけ、個人への配慮など)に分けられ,

競技者がそれらの特性をどの程度感じているか

を評定することで測定された.7つの特性を測

定するための質問紙の項目を表1に示す.

5 変革型リーダーシップ(TFL)が競技者に

あたえる影響

 変革型リーダーシップ行動は,競技者の内発

的動機づけ(Charbonneau et al., 2001),幸福度

(Well-being)と欲求満足(Stenling and Tafvelin,

2014),競技者の練習や成績についての満足感

(Jowett and Nezlek, 2011),発達への影響(Vella

et al., 2013a),チームの集団的有能感(Price &

Weiss, 2013), 練 習 へ の 出 席(Rowold, 2006)

など様々な心理・行動に影響を与えることが報

告されている.例えば,Newland et al.(2019)は,

バスケットボール競技を対象にコーチのTFL行

動が青年のポジティヴな発達(PYD)に及ぼす

影響について検討している.調査では,28の異

なるチームに所属する青年バスケとボール選手

を対象に,以下の3つの質問紙への回答を求め

た.

 1 コーチのリーダーシップ・スタイルを

TFL理 論 の 観 点 か ら 評 定 す る 質 問 紙(DTLI;

Callow et al., 2009).

 2 スポーツでのポジティヴな発達を測定す

るための質問紙の1番目は,青年期のスポーツ

での経験調査(YES-S; MacDonald et al., 2012).

 3 スポーツでのポジティヴな発達を測定す

るための質問紙の2番目は,青年のポジティヴ

な発達調査用紙-短縮版(PYD-VSF; Geldhof et

al., 2014).

 1番目のDTLI (Callow et al., 2009)は,競技

者からみたコーチのリーダーシップのスタイル

を7つの特性に分けて測定する質問紙である.

7つの特性とは次のようなものである.① 競

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スポーツ・コーチ教育への変革型リーダーシップ理論の導入の試みの紹介

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表1「変革的リーダーシップの多面的調査用紙」

「あなたのコーチは・・・・」に続く下記の項目に,(常にそうである)ときには(5),(まったくそうではな

い)ときには(1)をつけて答えてください.

1 個人の尊重:競技者の成長のための個々人の要求を理解し支援することが出来る程度.

・チームのメンバーを一人の個人として扱う

         ・チームのメンバーの長所・強みの成長を助ける

         ・私が他のメンバーとは違う強みや能力があることを認める

         ・違うメンバーは違う要求を持っていることを理解する

2 鼓舞的動機づけ:競技者が良いパフォーマンスを行うために激励し誘因を与えることによって,競技者を

動機づけることが出来る程度.

・楽観的に話す

・私は成功すると信じられるように話してくれる

・熱心に話す

・自信を表明する

3 知的刺激:コーチが知的に競技者を刺激できる程度.

・われわれが問題を解決するために工夫することを助けてくれようとする

・私のやってきたやり方を再考させる

・競技者に困難なポイントを新しい角度から見ることを教えてくれる

・問題について新しい方法で考えることを要求する

4 グループの目標とチームワークを受け入れる態度を育てること:コーチがチームの凝集性を高めることが

                               できる程度.

・競技者にチームプレーヤーになることを励ます

・チームのメンバーに強いチーム・スピリットを育てる

・人の同じ目標に向かってチームを一丸となって動かす

5 高度達成への期待:コーチが競技者のパフォーマンスに期待している程度.

・我々に多くのことを期待する

・我々に高度な水準の達成を期待する

・セカンド・ベストで満足することはない。

・常に我々が最善を尽くすことを期待する。

6 適切な役割モデル:コーチが競技者に従うべきポジティヴな役割モデルを示している程度.

・手本を示すことで指導する

・できるときには正面に出て指導する

・言葉よりも行動で指導する

・コーチは我々が従うべき良い役割モデルである

7 随伴的褒賞:競技者の望ましい行動に対するコーチがポジティブな言葉を使う程度.

・私がとてもよい仕事をしたときには特別の誉め言葉を与えてくれる

・我々がよい仕事をしたときには褒めてくれる

・競技者が進歩したときには褒めてくれる

・常にわれわれの達成したことを認めてくれる

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技者への個別的配慮, ② 動機づけ, ③ 知的刺激,

④ チームワークの養成, ⑤ 役割モデル, ⑥ 高度

な達成への期待, ⑦ 達成への報酬. 質問紙には

「コーチは私が進歩したときにほめてくれる」

というような27項目が含まれており,参加者は

自分のコーチの行動に合致した度合いを5段階

で評定した.

 2番目のYES-S(The Youth Experience Survey

for Sport)はスポーツでの次のような経験をど

のくらいしたかについて競技者の回答を「まっ

たくしなかった」(1)から「はい,たしかに

した」(4)までの4段階で行った.37項目の

質問項目は次の5つの下位尺度を含んでいる.

① 個人的・社会的技能,② 認知的技能,③ 目

標設定,④ 自発性,⑤ ネガティヴな経験.こ

の質問紙の質問項目については,MacDonald, et

al.(2012)を参照してほしい.

 3番目のポジティヴな発達の測定はPYD-

VSF(The Positive Youth Development - Very

Short Form)という質問紙によって行われた.

この質問紙は次のような5つの側面についての

質問項目を含んでいる.① 能力,② 自信,③

人格,④ 配慮・思いやり,⑤ 人間関係.質問

項目の例としては,「私はほとんどいつも幸せ

だと感じている」(自信),「誰かが人に利用さ

れているのをみると,私はその人を助けたいと

思う」(思いやり)などが含まれている.

 結果では,コーチの行動が変革的リーダー

シップに合致していると評価している競技者

は,スポーツの中でポジティヴな経験をしてお

り,ポジティヴな発達を遂げている傾向がある

ことが確かめられた.統計的分析の言葉で言う

な ら ば,DTLI得 点 と,YES-Sお よ びPYD-VSF

の間に有意な相関関係があることが確認され

た.この研究のほかにもTFLが良好な成果を競

技者にもたらしているという研究は,コミュニ

ケーション(Smith et al., 2013),発達への影響

(Vella et al., 2013a),コーチへの満足感(Rowold

et al., 2006),チームの集団的有能感(Price and

Weiss, 2013),主体性と市民としての行動(Lee

et al., 2013),攻撃性(Tucker et al., 2010),練習

への出席(Rowold, 2006),コーチの目からみ

たパフォーマンス(Charbonneau et al., 2001)と

いった領域で報告されている.

 以上の研究結果は,コーチがTFL行動を発揮

することは競技者に様々な望ましい影響を与え

る証拠と考えられているが,いずれも相関関係

に基づいており,因果関係に基づく証拠ではな

い.TFLが競技者の成果に望ましい影響を与え

ることの因果関係を証明するためには,コーチ

のTFL行動が向上したときに,競技者の「コー

チに対する満足感」や「パフォーマンス」など

が向上したことを確かめる必要がある.

6 コーチの行動変容は可能か?

 コーチのTFL行動はコーチ教育によって望ま

しい方向に変化させることができるか,という

問題がある.子どもの振る舞いの良い点を褒め

るより,悪い点を叱ることが多かった母親の行

動を,良い点を見つけて褒めることができるよ

うに変化させるように,コーチの行動の傾向も

変えることは可能かという行動変容の問題で

ある.TFL行動の頻度を増やす教育的介入が可

能であることは,企業組織や健康管理や教育

の分野ではすでに確かめられている(Turnnige

and Côté, 2016).スポーツのコーチングの分野

では,Vella et al.(2013b)がユース・サッカー

(12-18歳)のチームのコーチ9名に,TFL行

動の指導を行い,指導を受けていないコーチ9

名と,コーチング行動と競技者の変化の比較

を行っている.指導を受けたコーチのTFL行動

は競技者からの高い評定点を与えられた.そ

してTFL得点の高さは競技者の個人的技能,社

会的技能,認知的技能,目標設定,率先性と関

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スポーツ・コーチ教育への変革型リーダーシップ理論の導入の試みの紹介

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連していることが示された.しかし,Vella et

al.(2013b)の行った指導法は,TFLの教育に特

化したプログラムではなく,TFL理論と共通の

要素を含んでいると考えられたSmoll and Smith

(2009, 2010)によるCoach Effectiveness Training

(コーチ有効性トレーニング)を援用したもの

であった.このような研究の流れのなかで,

Turnnidge and Côté(2017) は,CDPの 中 にTFL

理論に基づく教育プログラムを組み入れる計画

を立てた.このコーチ育成プログラムの実施と

効果の検証のプロジェクトは2019年に完結する

と,彼女らの論文には記されている.そのため

に,このプログラムの成果はしばらく待たねば

ならない.本論文では,次項で「変革型コーチ

ングのワークショップ:コーチ育成プログラム

のためのパーソン中心的方法の適用」という表

題の彼女らの論文に示された,TFL理論に基づ

く斬新なワークショップのプログラムを紹介す

ることにする.

7 変革的コーチング・ワークショップ(TCW)

の内容

 ワークショップの最初のセクションでは,

ワークショップの内容と構造のアウトラインに

ついて説明される.全体として,TCWはコー

チのリーダーシップ・スキルを向上させ,最終

的には対人関係の質を向上させるように設計さ

れていることが説明される.

 半日(4時間)のワークショップは,リー

ダーとしてのコーチの理解を高め,競技者の育

成を促進できるリーダーシップ・スキルの開発

を支援する.ワークショップは,変革的コーチ

ングの原則に対するコーチの理解を高め,コー

チング実践において、変革的コーチング行動を

実行するための方略を開発する能力を高めるた

めの、対話的かつ内省的活動で構成されている.

加えて,ワークショップは,コーチのリーダー

シップ行動を積極的に変えるための行動計画を

開発する機会をコーチに提供している.

7.1 導入活動

 TCWは,ファシリテーター(世話役)の自

己紹介や、彼らの経歴,ワークショップの目的,

議論する話題などの紹介を含む,いくつかの導

入活動から始まる.参加者には,コーチングの

経験やワークショップに参加する理由などを,

自己紹介する機会も提供される.これらの活動

は,ファシリテーターと参加者,および参加者

間の信頼と関係構築プロセスの一部として実施

される.さらに,これらの活動は,参加者が自

分の経験をファシリテーターや仲間と気持ちよ

く共有するために重要である.

 導入活動コンポーネントの中で,参加者は

Stand by your quote ice breaker activity (場を和や

かにするための導入活動「あなたの好きな引用

句の側に立ちなさい」)に参加するように求め

られる.その活動とは,参加者が部屋の中を歩

き回り,部屋の周りに掲示されている有名な

リーダーシップの引用句を見てまわり(注:例

えば、「リーダーは一人一人の個性を尊重する」

や「リーダーはフォロアーたちの手本でなけれ

ばならない」というような言葉と思われる),

自分自身のリーダーシップに対する考え方と最

も共感する引用句のそばに立つというものであ

る.リーダーシップの引用句は,スポーツ,政

治,ビジネスなど様々な分野から選択されてい

る.この活動は,参加者にスポーツにおけるリー

ダーシップの概念について議論させ,これらの

引用句が,自己のコーチング実践にどのように

適用されるかを考える機会を提供することを目

的としている.さらに,この活動は,参加者間

およびファシリテーターと参加者間での非公式

的な議論を促進する.

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7.2 コーチングの有効性

 導入活動に続いて,参加者はコーチングの有

効性(coaching efficacy)の概念,より具体的

には,指導が効果的かどうかを評価するために

は,どのような基準を使用すべきかについて

考えるよう求められる.つぎに,参加者はCote

and Gilbert’s(2009)のスポーツにおけるコーチ

ングの有効性の定義(第1項に前述)と,コー

チングの有効性における次のような3つの重要

要素を紹介される:(a)コーチの専門種目,対

人関係,自分自身の個人についての知識と適切

な行動,(b)アスリートの発達的結果(つまり,

4C),(c)特定のコーチング・コンテキスト(場

面・状況)の3つである.コーチングの有効性

に関するこのセクションでは,コーチの対人関

係および個人内の知識・行動の重要性を理解し,

これらの知識・行動が,アスリートの発達に貢

献する可能性を説明する機会を参加者に提供す

る.

7.3 スポーツにおけるリーダーシップ

 このセクションでは,コーチはリーダーシッ

プの概念と,アスリートの生み出す成果に対す

るリーダーシップの影響力について考え,コー

チ自身の行っているリーダーシップ行動につい

て批判的に内省する.このセクションにおける

中心的な要素の1つは.ベスト/ワースト指導

活動である.この活動では,コーチは経験上最

も効果的な指導と最も効果の低い指導における

行動と,それらの指導と他のすべての指導を区

別する行動について批判的に内省する.参加者

は,これらの行動を書き留めグループと経験を

共有するように求められる.この活動における

ディスカッションの質問例は,「これらの行動

は,コーチングの有効性(つまり,専門的,対

人的,個人内の知識・行動)で概説されたコー

チングの知識・行動における様々な形態とどの

ように関連していますか?」.最後に,参加者

は全種目に対応したリーダーシップのフル・レ

ンジ・モデル(Bass and Riggio, 2006)を紹介

される.このモデルは,2つの軸に沿ってリー

ダーシップを概念化しており,1つの軸は非関

与から関与,もう1つの軸は非効果的から効果

的までを表している.このセクションの主な目

的は,コーチング・リーダーシップに対する参

加者の認識を広げることと,競技者のスポー

ツ経験と同様に指導者自身のスポーツ経験も,

様々なリーダーシップ行動によって影響を受け

てきたことを示すことである.

7.4 コーチングの4分類:有害、無干渉、中

性的、変革型コーチング

 4種類のリーダーシップ・スタイルのそれぞ

れについて,参加者には広範な定義,関連する

コーチング行動,および映像サンプルが提供さ

れる.ファシリテーターは,参加者と一緒に,

競技者の生み出す成果に対するそれらの行動が

及ぼす潜在的影響を議論し,さらにそれらの行

動の使用を促進する要因と妨げる要因,参加者

自身のそれらの行動に関する経験などについ

て、いくつかの側面から意見交換的な議論を行

う.

7.5 変革的コーチング

 ワークショップの次のセクションでは,参加

者に変革型コーチングの原則を紹介する.より

具体的には,このセクションでは,(a)変革型

コーチングの概要,(b)変革型コーチングに関

連する一般的な神話についての議論,(c)変革

型コーチングの有効性および変革型コーチング

行動が,競技者の発達にポジティブな影響を及

ぼすことが出来るメカニズムに関する実証的証

拠のレビューが含まれる.

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スポーツ・コーチ教育への変革型リーダーシップ理論の導入の試みの紹介

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7.5.1 変革的コーチング:4つのI’s

 このセクションはTCWの中心である.この

セクションにおいて,参加者は,変革型コー

チングにおける4つの特徴:理想的な手本と

し て の 影 響(Idealized Influence), 心 を 鼓 舞

す る 動 機 づ け(Inspirational Motivation), 知

的 刺 激(Intellectual Stimulation), 個 別 対 応

(Individualized Consideration)(4I’sと総称)を

紹介される.4つの�における各特徴について,

概念の概要,各特徴に関連付けられたコーチン

グ行動の詳細な説明,変革型コーチング行動が

スポーツにどのように適用されるのかを示す具

体例(ストーリー,ビデオ,コーチからの引用)

が提供される.

 このセクションでは,ファシリテーターは,

参加者が重要な質問(例えば,実際には,いつ

個別対応を用いることが出来ますか?)につい

て振り返り,各特徴に関連付けられた行動を経

験または使用した場合の具体例について共有す

るためのインタラクティブな議論を指導する.

最後に,参加者には,4つの�のそれぞれの特

徴をコーチング実践に統合するアクション・プ

ランを完成させることが要求される.アクショ

ンプラン活動は,参加者に,日常行動にわずか

な変更を加えることがリーダーシップ・スキル

の向上を助けることを示し,目標設定とアク

ション・プランニングの実践を促すことを意図

している.概して,4つの�のセクションにお

ける主な目的は,変革型コーチング行動が,実

際にどのように実施され,これらの行動がアス

リートの発達結果(能力,自信,人間関係,人

格など)にどのように影響するかを説明する実

例を参加者に提供することである.したがって,

参加者は経験を共有し,ワークショップで提供

される情報を競技者との日々のやりとりにどの

ように統合できるかを検討する機会が数多く提

供される.

7.6 知識を行動に:参加者間の活動

 TCWのつぎのセクションは,参加者が変革

型コーチングの原則を日々のコーチング実践に

適用できるように計画された。そこでの活動は

実践的な方法を、参加者がファシリテーターや

仲間と話し合い、協力して考え出す機会を提供

する.

7.6.1 コーチング映像の分析

 この活動では,様々なコーチング行動に関す

る一連の5つのビデオ映像が参加者に呈示され

る.映像1~3では,参加者は,そこに映され

た行動は,どの変革型コーチング行動であった

のかを同定することを求められる.映像4~5

では,参加者に対して中立的なコーチング行動

のビデオが呈示され,各シナリオにおいて変革

型コーチングの原則をどのように適用できるか

を考えるように求められる.この活動では,参

加者に対して知識を応用し,実際の状況におい

て変革型コーチングを実施するための実践的な

方略を,仲間やファシリテーターと話し合う機

会を提供する.

7.6.2 練習時間

 この活動では,参加者は小グループに分けら

れ,グループで演じるロールプレイング・シナ

リオが提供される.1人の参加者がコーチ役,

1人が競技者役、もう1人がオブザーバー役を

演じる.各ロールプレイング・シナリオは,実

際のコーチング状況に基づいて作られている.

例えば、イライラするような敗北に苦しむ状況

や,難しいドリルを教える状況や,新しいメン

バーをチームに統合する状況などである.この

活動においてコーチには一枚のカードが渡され

る.そのカードにはシナリオが書かれており,

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東京成徳大学研究紀要  ―人文学部・国際学部・応用心理学部― 第27号(2020)

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さらにシナリオに関連する背景情報と,討議す

べき重要な行動のポイントなどが書かれてい

る.この情報に基づいて,コーチはこのシナリ

オのような状況で,変革型コーチング行動に関

する知識をどのように適用すればよいかを考え

るよう求められる.競技者役には,シナリオの

状況で,その状況についての最初の解釈を示す

カードが与えられ,オブザーバー役は,ロール

プレイング活動中に出現する変革型コーチング

行動の量と質を記録する.この活動は,コーチ

に変革型コーチング行動を実践する機会を提供

し,ファシリテーターや仲間と一緒に,これら

の行動のパフォーマンスに関するフィードバッ

クを与えたり,受けたりするようにデザインさ

れている.また,この活動は,アスリートが変

革型コーチング行動の行使に対して,どのよう

に対応するかを検討するための貴重な場を提供

する.

7.6.3 見る、聴く、感じる

 この活動では,参加者は小グループに分けら

れる.各グループには,チャート紙とマーカー

が用意される.その後,参加者には,次の3

つの質問のいずれかが割り当てられる.(a)変

革型コーチングは,どのように見えるか,(b)

変革型コーチングは,どのように聞こえるか,

(c)変革型コーチングは,どのように感じられ

るか.その後,各グループは,3つの質問に対

して自分たちの感じていることを説明するため

に,チャート紙の上に絵を描くか,言葉を書く

ように求められる.この活動は,参加者に対し

て変革型コーチングの理解を仲間と共有し,創

造的・協働的な方法で彼らの知識を応用する機

会を提供する.

7.6.4 フォローアップ活動

 参加者には,ワークショップに続いて実行で

きるフォローアップ活動の概要が提供される.

リーダーシップ・カレンダー活動では,参加者

はパートナーを選び,パートナーはリーダー

シップ・カレンダー・ワークシートに記入する

ことが求められる.このワークシートでは,今

後3か月間に12日間以上を選択し,その日の実

践活動で用いたリーダーシップ行動(効果的で

あったか,効果的ではなかったか)を書き留め

ることが求められる.毎月末には,参加者は

フィードバックのために回答を送信し,進捗状

況について話し合うように指示される.その後,

参加者は,3か月間の最後に,このプロセスに

ついてさらに話し合うための予定を組むことを

求められる(対面または電話/スカイプ経由

で).この活動は,パートナーと協力するアプ

ローチを採用することで,参加者に対してソー

シャルサポート源を提供し,活動のコミットメ

ントを高めることに寄与する.また,この活動

は,参加者が変革型コーチング行動に関連する

行動計画と目標設定のスキルを開発できるよう

に設計されている.

 実践計画活動において,参加者には,変革型

コーチング行動をどのように彼らの指導計画に

組み込むことができるかを示す実践計画テンプ

レートが提供される.このテンプレートには,

変革型コーチング行動におけるモニタリングお

よび内省の重要性を強化する一連の質問も含ま

れている.まとめると,フォローアップ活動は,

参加者に対して,目標を設定し,変革型コーチ

ング行動を用いる計画を作成する機会を提供

し,変革型コーチング行動がどのようにタイム

リーかつ効果的な方法で適用され得るかを具体

的に示すようにデザインされている.

8 最後の活動

 まとめの活動で,ワークショップ参加者に

は,ワークショップ中に引用句に対する認識が

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スポーツ・コーチ教育への変革型リーダーシップ理論の導入の試みの紹介

83

変わったかどうかを確認するために,“Stand by

your quote activity”(あなたの引用句脇に立つ

活動)を検討する機会が提供される.また,参

加者は,変革型コーチングとそのスポーツ場面

への適用に関するtake home messages(持ち帰り

メッセージ)も提供される.例えば,参加者は,

変革型コーチング行動における量と質を高める

ために,日常の行動に小さな変化を加えるこ

とに努力を傾けることが奨励される(Kelloway

and Barling, 2000).最後に,参加者には,take

home resources(持ち帰り資料:ワークブック,

変革型コーチング・キューカード,補足資料な

ど)の概要,ファシリテーターとのフォロー

アップ方法の概要,ファシリテーターにワーク

ショップの内容に関する質問をする機会が提供

される.これらのフォローアップ・リソースは,

ワークショップでカバーされている原則を再確

認し,さらには,現実のスポーツ場面において,

この内容の適用を強化するように計画されてい

る.

9 TCWの実施の推奨

 TCWの内容と構造を導く原則の一つは,参

加者に双方向性のある学習体験を提供すること

である.特に,参加者は,自分たちの経験を共

有し,仲間の参加者と交流することが奨励され

る.そうすることによって,参加者は,ファシ

リテーターからだけでなく仲間からも学ぶこと

ができる.このような議論と知識共有活動は,

コミュニティ・パートナーやステークホルダー

(関係者)による好ましい学習源とみなされ,

コーチの行動にプラスの影響を与えることが示

唆されている(Culver and Trudel, 2008).その

上,このワークショップで形成されたつながり

は,参加者のソーシャルネットワークの幅や深

さを潜在的に広げ,ワークショップの正式な修

了後に,貴重なソーシャルサポート源として寄

与することが期待される.TCWのもう一つの

重要な側面は,参加者が,(a) TCW行動を行う

にあたって,促進要因や妨害要因になると思わ

れる事柄を見極めること,(b) これらの促進要

因を最大限に利用し,妨害要因を克服するため

の実践的方法を作り出すことである.コーチを

対象にした予備的な実証的研究およびコミュニ

ティ・パートナーやステークホルダーとの共同

ディスカッションの両方の結果から,時間とリ

ソース(情報源や周りからの支援)は,変革型

コーチング行動を実際のスポーツ場面に効果的

に統合するための障害と見なされることが多い

ことが明らかにされた.したがって,TCWは,

コーチが変革型コーチング行動を採用するため

の具体的な方略の作成を可能にし,ファシリ

テーター主導型ディスカッションやピアディス

カッション(仲間との討論),プランニング活

動(アクションカード,実践計画など)を含む,

いくつかの方法でこの問題に取り組むように

デザインされている.観察研究(e.g., Erickson

et al., 2011; Turnnidge et al., 2014)およびビデオ

例からの成果は,実施している変革型コーチン

グ行動が,どのように効果的かつタイムリーな

方法で実行できるかを示すために提供されてい

る.例えば,研究と事例的根拠の両方を利用し

て,参加者は,コーチング行動(つまり,チー

ムに向けられたもの vs. 個々の競技者に向けら

れたもの)の狙いを変えると,コーチと競技者

の相互作用の質にどのように影響するかを検討

するよう求められる.概して,ワークショップ

の目的は,毎日のコーチング行動にわずかな変

化を加えるが,どのように競技者のスポーツ体

験の質にプラスの影響を与えるのかを説明する

ことであった.そうすることによって,このワー

クショップは,変革型コーチング行動を参加者

のコーチング実践に統合できるようにすること

が期待される.

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東京成徳大学研究紀要  ―人文学部・国際学部・応用心理学部― 第27号(2020)

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10 まとめ

 近年のスポーツ・コーチング領域におけるト

レンドの一つは,コーチの教育,訓練,能力向

上に関することであり,こうした問題に取り組

んだ研究からは,コーチ教育にとっての最善の

諸原則に関して有意義な情報が提供されている

(Hedlund et al., 2018).しかしながら,これま

での知見は,コーチ教育をどのように構成した

らよいかということについての一般的包括的な

情報に過ぎず,具体的に,コーチに対して,い

つ,どんな内容を,どのように教えることが良

いのかについての科学的根拠は乏しく,大きな

課題の一つであると考えられる.加えて,我が

国のコーチ教育の現状に目を向けると,日本ス

ポーツ協会はTCWに沿ったコーチ養成講習会

の取り組みを始めているものの,コーチ教育に

関する研究に関しては,管見の限りほとんどな

されていないのが現状である.欧米諸国と我が

国におけるアスリートとコーチを取り巻く環境

や文化的な違いを鑑みると,国内の様々な年齢,

種目を対象にTFLに関する調査を実施し,変革

型リーダーシップがアスリートの心理や行動等

に与える影響に関する研究知見を蓄積していく

ことが重要なことの一つであり,こうした研究

の積み重ねが,我が国に適したコーチ教育の枠

組みの構築にも寄与していくものと思われる.

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