テレメータシステムを活用した故障予兆検知5.2 7日先の故障予兆検知 5.2.1...
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論文番号 605
テレメータシステムを活用した故障予兆検知
四国旅客鉄道株式会社 三﨑 友樹 四国旅客鉄道株式会社 為広 重行 日本電気航空宇宙システム株式会社 川端 正憲 日本電気株式会社 大澤 健一 日本電気株式会社 佐藤 大地 日本電気株式会社 建山 弓弦
1.序論
四国旅客鉄道(株)(以下、JR 四国)では 2017 年より
テレメータシステムを更新しており、信号保安設備のリ
アルタイムでの集中監視および 2 年間分のビッグデータ
の蓄積に成功した。今回、機械学習技術の一種である異
種混合学習技術を用いて、運転方向回路の分析モデルの
作成と 7 日先の故障予兆検知を実現したので報告する。
2.JR 四国を取り巻く現状と課題
2.1 現状
日本では 2025 年に団塊世代が後期高齢者となり超高
齢社会になると言われている。地方においても労働人口
減少が続く一方で、IoT や AI をはじめとする新技術がめ
まぐるしい発展を続けており、鉄道業界における電気設
備のあり方や、これを取り巻く環境も大きく変化するこ
とが想定されるため、JR 四国では、2017 年度にテレメー
タシステムを更新し、取得可能となったビッグデータを
活用し、TBM(Time Based Maintenance:時間周期による
均一的な取り替え・保全方法)から CBM(Condition Based
Maintenance:機器を個別に状態監視する方法)への移行
を目指している。 2.2 課題
現状、JR 四国では 3 ヵ月~2 年の周期にて TBM を行っ
ているが、これだけでは設備故障を未然に防ぐことは困
難である。また、テレメータシステムを用いたリアルタ
イムでの監視を行っているが、完全な故障要因の特定に
は至っていない。 JR 四国が目指す CBM は、電気設備の検査の省力化およ
び取り替え基準の延伸である。この 2 点を実現するため
には、鉄道電気設備の故障要因を特定し、故障予兆を検
知することは必要不可欠である。そこで、日本電気株式
会社(以下、NEC)の判断根拠の説明が可能なホワイト
ボックス型 AI である異種混合学習技術を用いることで
解決できると考えた。異種混合学習技術については、5
章にて説明する。
3.テレメータシステムと運転方向回路
3.1 テレメータシステム
テレメータシステムの構成を図-1 に示す。ビッグデ
ータの活用を目的とし、中央集中方式を採用、指令所機
器室と拠点駅間の伝送は IP 伝送網にて構築した。拠点駅
図-1 システム構成図
に伝送変換器を設け、計測端末からメタルケーブルによ
るバイフェーズ伝送にてデータを収集する構成である。
機器室や信号器具箱などの設置箇所毎にリレーの接点情
報(以下、接点入力情報)、電圧や電流といった機器の計
測情報(以下、アナログ情報)を取得している。
3.2 運転方向回路
単線区間では、複線区間の閉そく方式と異なり上り列
車と下り列車の運転を一本の線路にて行う。よって、列
車の運転方向を設定する運転方向回路が存在し、運転方
向を保持するための回線(FC 回線)電圧及び運転方向を
表示するための回線(FK 回線)電圧をテレメータシステ
ムで計測し、取得している。
本研究では、運転方向回路を対象とし、予讃線 観音
寺・豊浜間(以下、観音寺・豊浜間)の 2018 年 2 月 1 日
から同年 12 月 19 日までのデータを使用し、7 日先の故
障予兆検知を実現した。
4. テレメータシステムデータ加工手法の確立
4.1 テレメータシステムデータの特徴と活用の課題
4.1.1 テレメータシステムデータの特徴
テレメータシステムで取得される接点入力情報および
アナログ情報のデータ(以下、テレメータデータ)につ
いて、そのデータ取得の条件を表-1 に示す。
2
表-1 データ取得の条件
4.1.2 テレメータデータ活用の課題
テレメータデータを分析する上で、下記 3 点の課題を
解決し、分析可能なデータを作成する必要がある。
・データ集積条件とタイミング
接点入力情報については、アナログ情報のデータ取
得条件を満たした場合でもデータ取得を行うが、ア
ナログ情報については、接点入力情報のデータ取得
条件を満たさなかった場合は、データの取得を行わ
ず、保存されるデータは欠損状態(空白)となる。
・複数拠点でのデータ取得
運転方向回路は、両駅機器室、閉そく信号機器具箱
など、複数の離れた箇所に運転方向回路を構築する
ための機器が設置されており、運転方向の設定状態
や列車の在線状況により、それぞれの設備設置箇所
でデータ取得のタイミングが異なる。また、取得デ
ータ項目も設備設置箇所で異なる。分析データとし
て扱うにはデータ取得タイミングの同定、及び取得
データ項目の同定をする必要がある。
・列車の在線状況や、信号条件の設定状況による変動
運転方向回路をはじめ、信号関係設備には、列車の
在線状況や、信号条件の設定状況によって、接点入
力情報やアナログ情報が大きく変動する。この変動
を適切に捉えることで、設備の状態を加味したモデ
ル作成が見込まれる。
4.2 テレメータデータの加工
テレメータデータの分析に向けたデータ加工フローを
図-2 に示す。加工フローに従い運転方向回路の故障予
兆検知に向けたデータを作成することとした。次項以降
に、それぞれのデータ加工についての詳細を示す。
4.2.1 データ補間その 1
一般的に機械学習においてデータの欠損は好ましくな
い。そのため欠損部分に対してデータ補間を実施する。
拠点ごとのデータを時間で昇順ソートし、格納されてい
る値それぞれにおいてアナログ情報の取得条件より、2
秒前までその値で補間を実施し、それ以降は欠損してい
る箇所を前値で補間(以下、前後値補間)を実施した。
4.2.2 複数拠点データの結合
データ結合イメージを図-3 に示す。複数拠点のデー
タを一つのデータとして扱うために、設備設置箇所毎で
図-2 データ加工フロー
図-3 複数拠点データの結合イメージ
取得していたデータを時系列順に結合を行う。
4.2.3 データ補間その 2
4.2.2 項にて結合したデータは、結合した際に、他拠
点のデータ項目が欠損している状態となっているため、
前後値補間にて結合後のデータに対して、データ補間を
実施する。これにより、欠損のないデータが完成する。
4.2.4 在線状態のイベント化とイベント同定
本研究で対象とした、観音寺・豊浜間の運転方向回路
のイベントパターンを図-4 に示す。方向回線および信
号条件による信号機の現示状況と、列車の在線状況によ
り、上下それぞれ 8 パターン×2(上り・下り)のイベン
トがあると仮定した。そして、各イベントにデータの振
り分けを行うため、リレーパターンの整理を行い、設定
したリレーの動作状態に一致する結合データの振り分け
を行った。
観音寺・豊浜間の各機器室にて接点入力情報として、
取得している運転方向回路の関係するリレーの情報およ
びリレーパターンの整理を行ったイベントのうち 1 条件
を表-2 に示す。
本研究にて考案したイベント振り分け手法による、集
計結果を表-3 に示す。同じイベントが連続した場合は 1
イベントとし、データ内のイベント数の抽出を行った。
当該日の列車本数は上りが 44 本、下りが 43 本であった
が、全列車を抽出できており、イベント化の効果が確認
できる。
本研究で考案したイベント化(以下、イベント同定)
によって、集計したパターンを図-5 に示す。イベント
の変化パターンを時系列に並べることで、時間ごとの列
車位置に加え、信号機の制御タイミングと列車密度を推
定できるようになり、運転方向回路のデータから列車の
運行状況を判断できるようになり、列車の動きを考慮し
たデータ解析が可能となる。
監視内容 データ取得条件
接点入力
情報
・接点伝送端末が監視している設備の接
点状態が変化した場合
・アナログ情報のデータ取得条件を満た
した場合
・ 終データ取得後、約 3 分間経過した
場合
アナログ
情報
・規定値以上のデータ変動が発生した後、
2 秒間安定した場合
・ 終データ取得後、約 3 分間経過した
場合
3
図-4 運転方向回路のイベントパターン(上り)
表-2
上り方向上り 2 進入時(場内未開通)リレー動作状態
表-3 1 日あたりのイベント数
図-5 信号機の制御タイミングと列車密度
前述したとおり、信号関係設備では、列車の在線状況や、
信号条件の設定状況が、接点入力情報やアナログ情報が
大きく変動することから、信号関係設備のデータ分析に
おいて、イベント同定は分析精度向上に対し大きな効果
が期待できる。
図-6 異種混合学習技術
図-7 分析タスク
5.異種混合学習技術を用いた 7 日先の故障予兆検知
5.1 異種混合学習技術
本研究で用いた異種混合学習技術の特徴を図-6 に示
す。異種混合学習技術は膨大な予測モデルの候補から、
複数の規則性とその条件を“自動的に”導きだす。さら
に自律的に新たなデータを追随し、精度を維持する。ま
た、作成されたモデルは予測値を算出する根拠を人間が
理解できる形で導出することが可能である。
5.2 7 日先の故障予兆検知
5.2.1 分析タスク
本研究にて設計した、分析タスクを図-7 に示す。分
析対象は、運転方向設定時の電圧降下が列車運行に影響
を与えることを考慮し、列車が発車する側の駅の FK 回線
電圧とした。そして、予測先については、仮にシステム
にて電圧降下を予測した際に、対処に要する時間を考慮
し、7 日先(約 280 列車通過後)とした。JR 四国では、
運転方向回路における FK回線電圧の下限値を 22Vと設定
しているが、本研究では、故障に至る可能性がある電圧
降下の下限値を 24V と設定し、故障予兆を検知するモデ
ルを作成した。そして、異種混合学習技術モデルの精度
評価をするために、予測値、実績値共に 24V を下回るか
どうかを評価指標とした。
5.2.2 初回分析結果と課題
初回分析では上下 8 パターンのイベントのうち、方向
設定時の場内未開通時を分析対象とし、得られた全デー
タを用いて分析を実施した。結果を図-8~図-10 に示
す。また、評価結果を図-11 に示す。
4
図-8 予実グラフ
図-9 異種混合学習技術モデル(分岐条件)
図-10 異種混合学習技術モデル(説明変数係数)
図-11 24V 未満に関する混同行列
予実グラフにおいては、青線が実績値を示しており、
赤線が異種混合学習技術による予測値を示している。一
通りの傾向を捉えているが、以下の課題が存在する。
・24V 未満のデータに対しての誤差が大きい
・分析パラメータにチューニングの余地あり
・他イベントの情報を加味できていないため在線状態と
の関連性が不明
上記課題への対策を実施、再度分析を実施した。
適合率
再現率
F 値
5
図-12 対策後の予実グラフ
図-13 対策後の異種混合学習技術モデル(分岐条件)
図-14 対策後の異種混合学習技術モデル(説明変数係数)
図-15 対策後の 24V 未満に関する混同行列
5.2.3 終分析結果
前項の課題を基に、下記対策を実施した。
・24V 以下を強く学習させるために、学習データ量をチ
ューニング
・各イベントのセンサ値を説明変数として活用
・列車の動きによる影響を把握するため、イベントパタ
ーンを駅間進入時に場内信号機が青となったパターン
に特定し説明変数に加える
以上の対策を実施した、 終分析結果を図-12~図-15
に示す。
F 値
再現率
適合率
6
図-16 在線状態別の FK 回線電圧と各要因との相関
これにより、異常の可能性がある 24V 未満に対しても誤
差の改善ができ、再現率において、6.3%、F 値(適合率
と再現率の調和平均)において 0.9%改善した。また、
モデルが大幅に簡略化されモデルの可読性が向上した。
異種混合学習により導出した、FK 回線電圧とその増減
要因との相関を図-16 に示す。この図は以下のことを意
味する。
・下り方向設定時(場内未開通)には観音寺 RH 方向の FK
回線電圧、及び上 2 下 1 閉そくの回線電流との間に正
の相関がある
・下り方向駅間進入時(場内未開通)には観音寺 RH 方向の
FK 回線電圧、及び上 2 下 1 閉そくの FC 回線電圧との
間に負の相関がある
・下り方向下り 2 進入時(場内開通)には観音寺 RH 方向の
FK 回線電圧、及び上 2 下 1 閉そくの FK 回線電圧との
間に負の相関が、豊浜 RH 方向の FK 回線電圧との間に
正の相関がある
・下り方向場内進入時(出発復位)には観音寺 RH 方向の
FK 回線電圧、及び豊浜 RH 方向の FK 回線電圧との間に
負の相関がある
・上 1 下 2 閉そくのデータは相関が無いことが分かる。
下り方向駅間進入時(場内開通)、及び下り方向下り 1
進入時のデータとは相関が無い
6.結論
観音寺・豊浜間の 2018 年 2 月 1 日から同年 12 月 19 日
までのデータにより、異種混合学習技術を用いて運転方
向回路の 7 日先の故障予兆検知を行った。その結果、
93.3%と高い再現率を得た。また、列車の在線状況によ
る運転方向回路の回線電圧への様々な相関性および鉄道
電気設備のデータ分析におけるイベント同定の重要性を
も明らかにした。
図-17 テレメータシステムの将来構想
後に、テレメータシステムの将来構想を図-17 に示
す。JR 四国工務部電気課では、「メンテナンス方法の革
新」とテレメータの将来構想テーマを掲げている。来た
るべき 2025 年に備え、電気指令員へのオペレーション支
援の実現および装置老朽化によるメンテナンス計画策定
と修繕コストの 適化を図る。今後は、全イベントパタ
ーンの分析や気温や湿度といったテレメータデータ以外
の有用なデータを活用し、予測精度の向上に取り組む。
参考文献
[1]三﨑友樹:「新型テレメータシステムと2025」,JREA,
Vol.62,No.3,pp.41-44(2019)
[2]岩井亮祐:「テレメータシステムの更新」,鉄道と電
気技術,Vol.28,No.10,pp.20-24(2017)
[3]松本直征・為広重行・岩井亮祐・渡邊健治・西園青
史・小林和弘:「新型テレメータシステムの開発」,
サイバネティクス,Vol.23,No.2,pp.40-45(2018)
[4]藤巻遼平・森永聡・江藤力・本橋洋介・菅野亨太:
フジサンケイビジネスアイ賞「異種混合学習技術と
ビッグデータ分析ソリューションの研究開発」
pp.100-112(2015)
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