ヘッドスタートに学ぶ...56 -であり、’九七...

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54

一九六○年代以降〔資本主義諸国では、教育の機会均

等を実質化することを通じて社会経済的不平等を是正し

ようとする政策が本格化した。いわゆる補償教育(S三-

℃①ロの臼○二①90畳。ご)政策である。米国のヘッドスター

ト(国の己⑩己[庁)や英国の教育優先地域(団目、昌・三]

弓国・国旦少局①諾)計画は、こうした政策の代表例である。

この時期、日本でも「特措法」が制定され、奨学金制度

や同和加配教員の拡充がはかられ、学力と進路の保障を

めざす同和教育の実践が本格化した。

それから約三○年。教育を通じて不平等を是正しよう

という政策は、成功したとはいいがたい。この間行われ

てきた内外の実証研究は、社会における貧富の差が固定

論文

はじめに

ヘッドスタートに学ぶ

化ないし拡大傾向にあることを示している。曰本でも一

九八○年代後半以降、西曰本を中心に同和地区の子ども

の学力や生活状況にかんする調査が盛んに行われている

が、これらの調査結果は、同和地区の子どもの「低学力」

問題が依然として解決されていないことを示している。

「学力不振、進学機会の制約やドロップアウト、社会経

済的低位性」という悪循環の構造は、洋の東西を問わず

根強く存在し続けているのである。

従来、同和教育・保育の関係者の間では、補償教育政

策の理論的根拠であった文化剥奪論への批判が根強く、

また、この政策の失敗を示唆する実証的研究がいくつも

現れたこともあって、補償教育に関心がむけられること

は少なかった。だが、近年は、学力向上や地域における

子育て支援の課題と関わって、補償教育への関心が高ま

っているようである。

高田-宏

研究部
テキストボックス
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トに学ぶヘッドスタ55

本稿で紹介するヘッドスタートは、ジョンソン政権下

の米国で「貧困との闘い(二四二口而三①【q)」政策の一

環としてはじまった就学前教育・福祉プログラムである。

ヘッドスタートは一時期その効果が疑問視されていた

が、一九九○年代以降、人種・民族間の対立や貧困問題

の再燃、「卓越性」を強調する教育改革の動きの中で急

速に拡充されている。最近では、初等学校以後のプログ

ラムをヘッドスタートと同様の考えにたって進めたり、

ヘッドスタートと学校教育の連携を強化する政策もとら

れるようになっている。

現在、ヘッドスタートは、厚生省の児童青年家庭局

(シQ三宮宮室はopopO亘一Q局①ご》閂○二げこQ可四三]]』①の)

の所管下にある。連邦政府は、一定の要件を満たした被

交付組織(ぬニニ①の)に補助金を交付し、地方事務所を拠

点としてプログラム開発やスタッフ訓練の支援を行い、

プログーフムが適正に実施されているかを監視することに

なっている。補助金を交付されるヘッドスタート組織は、

1家族支援としてのヘッドスタート

一ヘッドスタートとは何か

民間非営利組織、コミューーティアクションの機関、公立

学校など多彩であるが、各地域の--1ズに配慮して自主

的にプログラムを開発し運営することになっている。つ

まり、連邦政府の役割は、財政基盤ならびにプログラム

の質の確保であり、組織のあり方やプログラムの開発な

らびに実施に関しては、各ヘッドスタート組織に大きな

自由裁量が認められているのである。連邦政府は次のよ

うに述べている(缶Q三三の(&は。□・ロ○三Q【①ご》目・ロ&

邑旦司口已邑】①の巴c、)。

米国で最も成功した就学前プログラムの一つとならしめ

た。非営利組織や学校システムに基盤をおく約一四○○

のコミューーティは、各々の独自のニーズを満たすユーーー

クで革新的なプログラムを開発している」。

ヘッドスタートの中心課題は、貧困層の就学前児童に

早期に学校教育の準備をはじめさせ、就学後の学業不振

を防止することにある。だが、ヘッドスタートのねらい

はアカデミックな面に限定されるものではない。例えば、

エール大学で心理学教授をつとめ、ヘッドスタートの開

始にあたって設置された「ヘッドスタート企画立案委員

会(国①四Qの画[(勺]四三旨㈹0.三三二①①)」の構成メンバ

臼Q司口Hご』]肘の骨@cm)。

「プログラムの肝要の点は、親とコミューーティの関与

(旨く○}『①三①亘)であり、このことが、ヘッドスタートを

56

-であり、’九七○年代前半にヘッドスタートを管轄し

ていた児童発達局(○霊、①。【○三Q□①ぐ①]・己三①三)の長

であったジグラーは、次のように述べている(N垣①【囚己

三口①ごso雪ご缶)己・〆・)。

「我々は、ヘッドスタートは教育プログラムをはるか

に超えるものであり、その成功の多くは、その総合的な

医療および家族支援サービスに帰することができると主

張する。しかし、教育を、アカデミックな教授という狭

い意味ではなく、子どもの養育(gび国口、ご伽・【O三s①ご)

を含むよう広い意味で定義すれば、ヘッドスタートは、

米国の最も重要な教育の実験である。我々は、このよう

な広い意味において、年少児の教育が国家の重要課題に

なったのだと確信する」。

ジグラーのいう「広い意味での」教育とは、どのよう

なものなのだろうか。連邦政府は、ヘッドスタートは、

教育、保健(ず①囚]岳)、親の関与(b弩①ご豆三・」ご①三①亘)、

ソーシャルサービスという四つの柱からなるとしている

(シQ己旨宮三は○ご【CHO毎]Q【①ロニ旦司四三』屋①の』毛函)。

・教育亜ヘッドスタートの教育プログラムは、子ども、

コミューーティ、そしてそれらの民族的・文化的特色

に由来するニーズを満たすようデザインされる。子

ども一人ひとりは、知的・社会的・情緒的成長を促

進するさまざまな学習経験を提供される。

・保健叩ヘッドスタートは子どもの健康問題を早期に

発見することを重視している。子ども一人ひとりは、

予防接種、内科、歯科、精神医療、栄養補給を含む

総合的な保健医療プログラムに参加する。

・親の関与函ヘッドスタートの本質的要素は、親教育

(己昌①員①旦巨、昌一・ロ)とプログラムの計画および運

営への参加である。多くの親が政策評議会(己。}]e

Oo三口]の)や委員会(S三三茸①①の)の構成員として

働いており、管理ならびに運営上の意志決定に発言

権をもつ。親は、子どものクラスや子どもの発達に

関するワークショップに参加したり、家庭訪問を受

けることによって、子どものニーズや家庭での教育

活動について学ぶことができる。

・ソーシャルサービス卵各家族のニーズが明らかにさ

れたのち、具体的なサービスが各家庭の事情に応じ

て提供される。サービスは次のような内容である。

スタッフが地域に出向き、登録の推薦をし、家族の

ニーズを評価し、子どもを登録しプログラムに参加

させること、緊急支援および、または危機への介入。

ヘッドスタートは単なる就学前教育プログラムではな

い。それは、保護者の関与をうながしつつ展開される総

トに学ぶヘッドスタ57

合的な家族支援プログラムである。だが、政策の開始当

初、”ヘッドスタートに関する調査研究の焦点は短期的な

教育効果に集中し、他の側面に関する調査研究はごくわ

ずかであった。そして、教育面におけるヘッドスタート

の効果を疑問視する見解が有力になるにつれ、この政策

への支持は急速に失われていった。初期の調査研究が再

検討され、ヘッドスタートの長期的、総合的な効果に関

する調査研究が行われるようになったのは、一九七○年

代末以降のことであった。

図1は、ヘッドスタートへの連邦政府の支出ならびに

参加児童数の推移である。参加児童数からみると、ヘッ

ドスタートが開始された一九六五年度から一九六九年度

までは、六○万人から七○万人程度である。その後、一

九七○年代に入ると参加児童数は急減し、’九七七年に

は三○万人近くまで減少する。その後、一九八○年代ま

で参加児童数は大きくは増えないが、’九九○年代に入

ると、一転して参加児童数は急増し、現在の参加児童数

は約八○万人となっている。連邦政府の支出も、とくに

一九九○年代に入ってからの伸びが顕著である。このよ

うに規模の面から見るとヘッドスタートの政策展開は、

2ヘッドスタートの現状

図1ヘツドスタートの参加児童数と連邦の支出額

叩咽噸

噸魍加

加川川棚咽加川川川血

川川川加川川加川川叩

汕川柳川”剛泗Ⅷ伽”

迫邦の支出頓(ドル)

伽皿

噸瓢

如切

切肌

◆加児宜敷〈人)

◆ 夕

少◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ぃタマ・~つつ一-.M

0

1111111111111111111111111111111111 9999999999999999999999999999999999 6666677777777778888888888999999999 567890123456789012.3456789012345678

一●加児宜敷一◆-連邦の支出餌

58

一九六○年代、’九七○年代から一九八○年代、一九九

○年代以降の三つの時期に区分できるように思われる。

表1から表4は、連邦政府の支出の内訳とヘッドスタ

ート組織の現状をしめしている。支出のほとんどが各ヘ

ッドスタート組織への交付金であるが、スタッフの訓練

や調査研究の補助金にも、多額の予算が割かれている。

ヘッドスタート組織のあり方は多彩であり、民間の非営

利組織が大きな比重を占めていることが注目される。プ

ログラムが提供される時間をみると、保護者のフルタイ

ム就労の前提条件と思われる週五曰、一日六時間以上は、

一三%にとどまる。一九九六年の福祉改革で、貧困家庭

への児童手当(シ]9(・可四三国①の三岳ロ①己①己①曰O三‐

&①ご)が廃止され、就労を促進する法律(勺①Hの○三]

閃①の□・口の三]ご囚己二・具○℃b・再三ご肉①no己」畳。ご

シg)が制定されたが、これ以降、フルタイムのプログラ

ムの提供が以前にもまして重要な課題になっている。

表5から表8は、参加児童の家庭背景や属性をしめし

ている。ヘッドスタートに参加する資格のある児童は、

政府の定めた「貧困線」を下回る所得の家庭の子どもで

(1)

あり、キンダーガーテンクーフスに入る前の四歳児と一一一歳

児が中心である。また、一九七五年の障害児教育法成立

以後、障害児が参加児の一○%以上になるよう定められ

表1連邦政府の支出(98年度)

各地のヘツドスタートプロジェクトへの交付州、海外領土のプロジェクト

先住民、季節労働者むけのプログラム3,948,956,809

283,476,265

小計

支援活動

スタッフの訓練、技術的支援、障害児の特別プログラム

調査、デモンストレーション、評価モニター、プログラムのレビュー

4,232,433,074

90,100,000

12,000,000

12,900,000

小計 115,000,000

合計4,347,433,074(約43億5千万ドル)

※98年度の参加児童数は822,316人、連邦の交付金を受ける組織の数は1,513である。

また、有給スタッフは167,130人、ボランティアのスタッフは1,389,715人である。

59ヘッドスタートに学ぶ

表3プログラムの時間(93年)表2連邦の交付金を受ける組織(93年)

コミュニティアクションの組織35.4%

(communityactionagency)

民間非営利組織35.1%

(privatenon-profit)

学校(schools)18.8%

地方政府(localgovernInent)55%インディアン居留区53%

(IndianTribes)

%%%%

5528

332

週5曰未満

週5曰、1日6時間未満

週5曰、1曰6時間以上

家庭で(homebased)

表4連邦の交付金の支出内訳(92年)

教育414%

管理13.2%

スタッフの雇用13.1%

保健・栄養補給8.5%

移動7.9%

ソーシャル・サービス5.2%

親の参加4.2%

障害児むけサービス3.0%

その他3.5%

表5児童の年齢内訳(93年→97年)

5歳以上7%→6%

4歳63%→60%

3歳27%→30%

3歳未満3%→4%

表6児童の人種/民族内訳(93年→97年)

黒人37%→36%

白人33%→31%

ヒスパニック23%→26%

アメリカン・インディアン4%→4%

アジア系3%→3%

表7児童の保護者(93年)

2人親41%

1人親55%

養親(fostercare)1%

その他3%

表8保護者の就労状況(93年)

就労してない(unemployed)フルタイム

パートタイム

季節労働者(seasonal)

職業訓練中

引退/障害者

%%%%%%

539652

43

60

ている。政府は、九三年時点で、有資格者のうち、ヘッ

ドスタートに参加している児童は、三歳児で一一一%、四

歳児で五三%と推計していた。また、九六年時点のある

推計では、三歳および四歳児の有資格者のうち、ヘッド

スタートに参加しているのは三八%であるという

e①ぐぢ①]》向}三・・Q四己伊・ぐ①》」毛『》□□・]○]Iご←・)。参

加児童の内訳を見ると、半数以上が一人親家庭であり、

白人が約三割、残りはマイノリティの子どもたちである。

また、保護者がフルタイムの仕事に従事している家庭は

約三分の一、何らかの理由で就労していない家庭が約半

(2)

数である。

規模の面から見ると、一九七○年代から一九八○年代

にかけてヘッドスタートは停滞していた。だが、年表に

しめすように、この時期、ヘッドスタートの内容は大き

く変化している。

第一は、プログラムの長期化である。ヘッドスタート

は、初年度、夏期のみの短期プログラムとして実施され

た。後述する『ウェスティングハウス報告』で短期プロ

グラムに効果が認められないことが明らかになると、’

九七○年代のはじめには通年プログラムが主流となっ

3初期の評価とその後の改善

年表1964

1965

1966

1967

1969

1970

〔経済機会法〕、〔公民権法〕1965へツドスタート開始、〔初等中等教育法〕1966<コールマン報告>

1967【親子センター】や【フォロースルー】を盛り込んだ経済機会法の改正1969<ウェスティングハウスレポート>

1970【児童発達局(OfficeofChildDevelopment)】新設。フォロー・スルーは教育局、親子センターは児童発達局の所管に。

1972【児童発達士】養成プログラム創設。1973全国へツドスタート協会(NationalHeadStartAssociation)設立1975障害児教育法、〔ヘツドスタート実施基準〕公表1979教育省設立。ヘッドスタートは厚生省の管轄に1985<TheIInpactofHeadStartonChilderen,FamiliesandCommunities.> 1988教育省の事業として、成人基礎教育や親教育を提供するEvenStartが始まる1990乳児と妊産婦向けの実施基準を公表(ProgramPerformanceStandardsfor

HeadStartPrograrnsServinglnfants,Toddlers,andPregnantWomen) 1991スクールレディネス法(ScoolReadinessActofl991)議会を通過1992ヘッドスタート参加児の弟妹にもヘルスサーピスを行うよう議会が勧告1993ヘッドスタートの拡充に関する委員会報告

<CreatingaTwenty-firstCenturyHeadStart> 1994〔ヘッドスタート法〕改正【早期ヘッドスタート】開始1996〔ヘッドスタート実施基準〕の改定(早期ヘッドスタート等の基準)〔〕法律・法令.【】ヘッドスタートの改善く>主な報告書

トに学ぶヘッドスタ61

たC現在では短期プログラムは廃止されている。

第二は、質の底上げである。とくに、一九七○年代に

導入されたプログラム実施基準(弓『・伽三三勺①瓜・【三四口、①

のごpgaの)と児童発達士(O亘]Q□①『①]○℃己①昌少のmoQ‐

胃の)の資格制度は、重要である。ヘッドスタートのプロ

グラムを実施するのは、連邦政府から補助金を受ける各

地域の組織であるが、質のばらつきは開始当初からの大

問題であった。実施基準は、この問題を解決するために

設けられた。実施基準を満たさない組織は、補助金をう

ち切られることもある。実施基準はいくたびか改訂され、

最新版は一九九六年二月のものである。児童発達士の

資格は、有償スタッフの実務能力を向上させるために設

けられたものである。ボランティアとしてヘッドスター

トにかかわる保護者にもこの資格の取得が奨励されてお

り、保護者の職業訓練や一雇用確保に果たしてきた役割も

大きい。

第三は、「デモンストレーション。プログラム」とよば

れる実験的プログラムがいくつも実施されたことであ

る。その代表例は、通常のプログラムに加えて、妊産婦

や三歳未満の子どもとその親を対象とするプログラムを

提供する親子センター(O三。口己勺弩①昌○の三①H)事業

や、さまざまな困難に直面する家族にソーシャルサーピ

スを提供するOニロロ&同国昌一『用①mopHOの勺ご伽三三な

ど(一九八三年に廃止)である。また、現在は教育省の

所管となっているが、ヘッドスタート修了児を対象とし

た、小学三年生までの教育プログラムとしてフォロース

ルー(句。]]・二目冑・ロ召)が一九六八年以来行われてい

る。これらのプログラムの対象者は少なく、その直接的

な効果は限られているが、ヘッドスタートを改善するた

めの知見を提供してきた。

ヘッドスタートの政策展開に、マイノリティ集団の政

治運動と世論の動向、時の政府の政治姿勢、大統領と議

会の関係など、狭義の政治的要因が影響していることは

確かである。だが、それ以上に重要なのは、プログラム

の効果に関する調査研究の存在である。政府機関はヘッ

ドスタートに関する報告書をいく度か公表しており、非

政府組織や研究者グループによる調査研究も膨大な数に

のぼる。それらのうち、後の政策や研究に大きな影響を

与えた政府関係の報告書を以下にあげておく。

一一ヘッドスタートに関する調査研究

62

カーター大統領の求めに応じて、ヘッドスタート一五

年間の成果と課題をまとめた報告書である。この報告書

では、一九七○年代なかば以降現れたヘッドスタートの

効果に関する研究を回顧し、保健サービス、学業達成、

家庭での保護者の養育、保護者のキャリア開発などの面

主に子どもの認知発達に焦点をあてたものであり、ヘッ

ドスタートの総合的な効果を評価するものではなかっ

た。だが、ヘッドスタートに参加した時にみられた認知

的能力の向上の効果が小学校入学後まもなく消失すると

いう調査結果は、政策開始時の期待を裏切るものであっ

た。調査結果は通年プログラムにいくぶんかの肯定的効

果があることをしめし、専門家からはサンプリングに重

大な欠陥があるとの批判も出た。しかし、当時、補償教

育の効果に疑問がもたれていたことも影響して、報告書

公表後は、ヘッドスタートの効果を否定する見解が有力

となった(三①の言召・口の①F①昌口㈹○・・℃①量は○二@$)。

ヘッドスタートに関する初の全国調査の報告書であ

る。この調査はヘッドスタートのさまざまな側面のうち、

2『八○年代のヘッドスタート』

1「ウェスティングハウス報告」

現在のヘッドスタートを方向づけることになった報告

書である。全国のヘッドスタートの実施状況をふまえて、

スタッフの資質向上、ヘッドスタートと学校の連携の強

化、「二世代プログラム」とよばれる保護者むけプログラ

ムの充実などを提言している。また、アカウンタピリテ

ィを強調し、プログラムの効果を評価する指標(厚・‐

ぬ三三句①H【・【三三・①三①四m言①の)を開発するよう、厚生省

に求めている。この報告書を受けて、学齢期への移行プ

ロジェクト(目三口の昼。ご印・]①R)が本格化し、妊産婦や

三歳未満児とその保護者を対象とする早期ヘッドスター

一九八○年の報告書と同様、ヘッドスタートの効果を

総合的に評価している。学業達成に関しては、ヘッドス

タート参加児は高校のドロップ・アウト率が低いことや

特殊教育クラスに入る者が少ないことなどが明らかにさ

れているe①己四再三①亘○帛国①四一号囚ごQ出口三二の①二]、①の

骨①、⑰)o

で」、ヘッドスタートが長期的な成果をあげたとしている

(□①b四再三①二○{国①四]弓四口Q国巨三口どののご』O①のこぎ)。

4コ一一世紀のヘッドスタートの創造』

3「子ども、家族、コミュニティへの影響」

トに学ぶ63 ヘッドスタ

ト(同囚1国西①ロロ⑩己耳)も開始されたe①宮三口①ロ(・[

国①四一(ロロョ四二三二の①三』、①の』毛』)。厚生省からは、効

果を評価する指標に関わる調査の中間報告書が、これま

でに一一回公表されているe①己【曰〕①昌・【国①囚一吾四己

西口三四口の①HaO①のど二)]毛、)。

ヘッドスタートは、連邦政府においては厚生省が所管

しへ補助金は各地域のヘッドスタート組織に直接交付さ

れている。各地のヘッドスタート組織の中では、民間非

営利団体が大きな位置を占めており、保護者の参画やプ

ログラムの運営に関する意志決定への関与が強調されて

いる。このような実施形態は、各家庭の一一-ズに柔軟に

対応する総合的なプログラムの提供を可能にするもので

ある。各家庭が必要とする支援は、子どもの保育・教育

だけではない。メンタル・ケアを含めた保健医療、成人

基礎教育や職業訓練、親教育、経済的サポート、家庭内

暴力や児童虐待への対応など、多岐にわたる。そうした

一一-ズに対応して、ヘッドスタートは、当事者参加を促

しつつ地域レベルで教育と福祉の統合をはかる家族支援

プログラムとして展開されてきたのである。

三ヘッドスタートから何を学ぶか

このことと関わって、われわれがヘッドスタートに学

ぶべきことは少なくないように思う。同和保育・教育に

おいては、家庭、地域、学校園所の「連携」の大切さが

いわれてきた。しかし、その「連携」の内実はいかなる

ものであったか。隣保館(解放会館)、児童館・教育集会

所(青少年会館)、保育所、幼稚園、学校、診療所などの

施設間の連携は十分にとれているだろうか。小中学校の

連携が比較的進んでいるのに比べ就学前・就学後の連

携は弱いのではないか。子育てに困難を抱える家庭に対

する支援は、上述した機関や個人がバラバラに行ってい

るというのが実状ではないか。保護者や地域住民の「参

加」はどうか。対行政の要求運動(これ自体は必要なこ

とであるが)以外の場面で当事者のボランタリーな活動

はどれほど行われてきただろうか。

米国の貧困問題の現状は、ヘッドスタートが貧困に対

する「勝利」をもたらすものではなかったことをしめし

ている。好景気に沸く米国ではあるが、社会における貧

富の差は今なお大きく、マイノリティ集団と白人の社会

経済的格差は近年固定化ないし拡大する傾向にある。ヘ

ッドスタートへの参加は有資格者の一部にとどまってお

り、参加児童の学業成績や教育達成も、ミドルクラス出

身の子どもを凌駕しているわけではない。ヘッドスター

64

卜の成果を好意的に評価するにしても、次の見解が妥当

なところであろう(N侭]①H囚己のご【、。』毛@℃.]令・)。

「我々は奇跡を期待するべきではない。早期の介入

(]三①三①貝】・ロ)は、子どもの就学準備を助け、家族の機

能のある側面を強化することができる。しかし、早期の

介入は、貧困を根絶したり、公教育システムをオーバー

ホールしたり、強力な国家経済を保障したりはできない

のである」。

教育を通じて不平等を是正し貧困を撲滅するという

「貧困との闘い」は、敗北に終わったかのようにみえる。

しかし、教育が完全に無力だったというわけではない。

教育には何ができ、何ができないのか。家庭、教育機関、

就学前と就学後の取り組みを接続するためにはどうすれ

ばよいのか。素朴な楽観論と悲観論を排した冷静な議論

が求められている。そうした議論は、信頼に足るデータ

に依拠したとき、はじめて可能になる。ヘッドスタート

においては、効果評価の手続きがあらかじめ組み込まれ

た実験的プログラムがいくつも行われており、アクショ

ンリサーチが盛んである。『ウェスティングハウス報告』

以後、大規模な調査も何年かごとに行われている。これ

らの調査の詳細は、機会を改めて詳しく紹介したい。

教育には何ができ、何ができないのか。家庭、教育機雫

福祉機関はそれぞれどのような役割を担うべきなのか

それにしても、日本の同和教育・保育における実証的

研究は立ち後れているといわざるを得ない。調査研究を

めぐる日米のちがいは、主には、曰本では教育における

不平等の問題が社会一般で(そして研究者の間でも)関

心をもたれてこなかったために生じている。くわえて、

社会科学的な調査が政策立案や実践に寄与することが期

待されてこなかったという事情もある。「現場」と「研究」

の断絶である。同和教育や保育に関わる調査が盛んにな

りつつある今だからこそ、研究者としては、実証的な証

拠にもとづいた政策提一一一一口を軽視していないか、調査研究

が「業績稼ぎ」の手段に堕していないか、反省してみる

必要はありそうである。

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1997)。

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trationonChildren,YouthandFamilies(l998lPL6b

DepartmentofHealthandHumanServices(1993)。

67 ヘッドスタ トに学ぶ

本稿は、拙稿「ヘッドスタートの研究lその歴史と今曰的評

価」(『姫路工業大学環境人間学部研究報告」第二号、二○○○

年)を下じきにしている。同和教育・保育の側からの補償教育

政策の評価などについて、本稿よりもくわしく検討している

ので、あわせてご覧いただければ幸いである。

追「HU

一三口子どものエンパワメントと教育

。』『》》》》州》蹄》》》》》》密墹》|部落解放・人権研究所編

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