基礎数学講義ノート - tokyo metropolitan university(平成23 年3 月25 日作成) 2011...
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(平成 23 年 3 月 25 日作成)
2011年度前期 経営学系専門科目 基礎数学 講義ノート
首都大学東京 都市教養学部 経営学系
目的 大学 1年生が経営学系専門科目の講義で利用される数学手法を習得すること.講義の合間
に適時問題演習を行い,論理的思考や数学の概念の理解と実践的な計算能力の向上を図る.
関連項目 統計学,ミクロ経済学,マクロ経済学,計量経済学,ファイナンス,経営科学,企業
経済学,金融経済学,金融工学,経済数学,金融数学,経営数理 他.
授業内容 制約下における資源配分と不確実性下の意思決定は経済学・経営学の大きなテーマで
ある.経営学系の多くの講義では,論理的な考え方,微分の概念と計算方法,制約付き最大化問
題の解法,確率に関連する計算が必要となる.前提知識は高校の数学 II・B程度.
教科書 本講義ノートを毎回持参すること.ホームページからもダウンロード可能.経済学に関
連する項目には(経済)の印がついており,余裕があれば取り扱う (宿題・期末試験には含まな
い).章末の練習問題,演習問題,復習問題については各自の予習,復習に利用されたい.教員が
講義中に利用することもある.この他,講義中にレジュメを配ることもある.
• 問題水準の区別:(♠)やや難しい数学の問題,(♦)経済学の知識を要する問題.
参考書 講義ノートは説明をコンパクトにまとめているため,標準的なテキストに比べれば説明
や証明に割いているスペースは少ない.より詳細な説明文章を読みたい場合には,個々の学力に
応じた水準の参考書を読むことを勧める.
(初級)水野勝之『テキスト経済数学』中央経済社 (ISBN 4502651303)
標準的な経済数学のテキスト
(初級)「経済セミナー」増刊『経済学で出る数学』日本評論社
高校数学からのつながりを重視して書かれた図書(雑誌の増刊号)
(中級)木島正明・岩城秀樹『経済と金融工学の基礎数学』朝倉書店 (ISBN 4254275013)
経済学と金融工学へ応用するための数学(特に確率関連)のテキスト
(中級)藤田・秋本・福沢・中村『経済数学』勁草書房 (ISBN 4326547722)
ある程度の厳密性を維持しながら経済学に必要な数学をまとめたテキスト
(上級)岡田章『経済学・経営学のための数学』東洋経済新報社 (ISBN 4492312986)
厳密な議論を知りたい学生や大学院進学を志望する学生向け
ホームページ http://www.comp.tmu.ac.jp/bizmath/
スケジュール,連絡事項,問題解答などを掲載するので確認すること. 本講義ノート,問題解答
(授業進度にあわせて)がダウンロード可能.
1
成績評価 宿題 4回 20点満点, 期末試験 80点満点の合計で評価. 平均点が 70点になるように調
整後の点数で 50点以上の学生が単位を取得できる. 他人の解答の丸写しは厳禁.
• 宿題提出締切時間:午後 4時
• 宿題提出場所:4号館 1階事務室 経営学系教務係 前のレポート入れ
講義内容 [日付はあくまでも予定であるため変更の可能性もある]
A. 基礎 (水) (木)
1. 論理と集合(必要十分条件,対偶証明法・背理法,集合の演算) 4/13 4/14
2. 写像・ベクトル・行列(写像の例,ベクトルの内積,2× 2行列) 4/20 4/21
3. 連立方程式(2× 2逆行列による解法,行列式) 4/27 4/28
B.微分
4. 関数(指数関数,対数関数,逆関数,等比級数,利息の複利計算) 5/11 5/12
5. 微分(多項式・指数関数・対数関数,合成関数,積,商) 5/18–25 5/19–26
6. 偏微分・全微分・テーラー展開 6/1 6/2
C.最大化問題
7. 最大化問題・最小化問題の 1階条件と 2階条件(利潤最大化) 6/8 6/9
8. 多変数関数の最大化問題・最小化問題(最小 2乗法) 6/15 6/16
9. 制約付きの最大化問題・最小化問題(ラグランジュ法,効用最大化) 6/22–29 6/23–30
D.積分
10. 積分(定積分,不定積分,部分積分,置換積分) 7/6–13 7/7–14
11. まとめ 7/20 7/21
期末試験 7/27 or 8/3 7/28 or 8/4
Appendix A.確率 B.確率分布は講義対象外
宿題の予定 以下のように 4回宿題を課す予定
水曜日 3限クラス 木曜日 3限クラス
宿題 講義範囲 問題提示 提出締切 解答 問題提示 提出締切 解答
宿題 1 1, 2, 3 4/20 5/18 5/20 4/21 5/19 5/23
宿題 2 4, 5 5/11 6/1 6/3 5/12 6/2 6/6
宿題 3 6, 7, 8 5/25 6/22 6/24 5/26 6/23 6/27
宿題 4 9, 10 6/15 7/20 7/22 6/16 7/21 7/25
ギリシャ文字
α アルファ η エータ ν ニュー τ タウ
β ベータ θ, Θ シータ ξ クシ υ ウプシロン
γ, Γ ガンマ ι イオタ o オミクロン φ,Φ ファイ
δ, ∆ デルタ κ カッパ π, Π パイ χ カイ
ε イプシロン λ, Λ ラムダ ρ ロー ψ, Ψ プサイ
ζ ゼータ µ ミュー σ,Σ シグマ ω, Ω オメガ
2
1 論理と集合
項目 命題と対偶,集合の演算・包含関係,必要十分条件,対偶証明法
記号 a ∈ A, A ⊂ B, P ⇒ Q
1.1 論理
・その内容の真偽が客観的に確定する主張を命題という.命題の例: 主張「東京は大阪より東に位置する」,
主張「4の倍数であれば奇数である」
命題ではない例: 主張「Aさんは優秀な社員である」 (優秀の判断基準が不明または主観的)
・ 2つの命題 P,Qに対して,主張「P であればQである」もまた命題であり,P ⇒ Qと表す.
(例)
P 「ある数は偶数である」
Q 「ある数は 2で割り切れる」
P ⇒ Q 「ある数が偶数であれば,それは 2で割り切れる」
・三段論法:命題 P ⇒ Qと命題Q ⇒ Rの両方が真であれば,命題 P ⇒ Rも真である.
・命題 P ⇒ Qが真であるとき,
P はQであるための十分条件であり,Qは P であるための必要条件である,という.
(例)命題「4の倍数であれば偶数である」において,
4の倍数は偶数であるための十分条件であり,偶数は 4の倍数であるための必要条件である.
・命題 P ⇒ QとQ ⇒ P の両方が真であるとき,P とQは同値であるといい,P ⇔ Qと表す.
また,P はQの必要十分条件(および,Qは P の必要十分条件)であるともいう.
(例)命題「偶数でかつ 3の倍数である」と命題「6の倍数である」は同値
・命題「P ではない」を命題 P の否定といい,¬P と表す.
・命題 P ⇒ Q(P であればQである)とその対偶命題 ¬Q ⇒ ¬P (Qでなければ P ではない)は同値
である.
(例)命題「2は偶数である」の対偶は「ある数が奇数であれば,その数は 2ではない」
したがって,命題P ⇒ Qが真であることを示すために,直接示すのではなく,対偶命題¬Q ⇒ ¬P
が成立することを示してもよい.これを対偶証明法という.
§ ¥¦[P ⇒ Q] ⇔ [¬Q ⇒ ¬P ]
・背理法は,P と¬Qの両方を仮定して矛盾を導き,結果的にはQが成立することを証明する方法.
3
1.2 集合
・集合とは,ある性質(条件)を満たすもの(数)の集まりである.その性質を満たすものを要素
(あるいは元)という.以下では,全体集合 Ωを決めたうえで,その中で考える.
aが集合Aの要素である(aは集合Aに属する)ことを § ¥¦a ∈ A と表す.全体集合Ωの要素 aが
Aに属するかどうかを判断できないAは集合ではない.
・性質 P を満たす集合Aは次のように書く.
A = x ∈ Ω | xは P を満たす
・要素 a ∈ Ωが集合Aに属さないことを a /∈ Aと表し,集合Aに属さない要素 a ∈ Ωの集合をA
の補集合Acという ( c : complement).
a /∈ A ⇔ a ∈ Ac = x ∈ Ω | x /∈ A
例 Ω = 1, 2, 3, 4, 5, 6, A = 2, 4, 6 ⇒ Ac = 1, 3, 5
・全体集合 Ωの補集合は要素を一つも持たない集合で,これを空集合 φという. φ = Ωc.
・集合A,Bについて,命題「a ∈ A であれば a ∈ B」が成り立つとき,AはBの部分集合である,
といい,A ⊆ BあるいはA ⊂ Bと書く.
自然数 N = 1, 2, 3, · · · 整数 Z = · · · ,−3,−2,−1, 0, 1, 2, 3, · · ·
有理数 Q = n
m| n ∈ Z,m ∈ N
実数 R = (−∞,∞)
N ⊆ Z ⊆ Q ⊆ R
(a) A と Ac
Ω
A
Ac'&
$%
(b) A ⊆ B
Ω
A
B'&
$%
'
&
$
%
・対偶証明法 [P ⇒ Q] ⇔ [¬Q ⇒ ¬P ] は,
集合の包含関係 A ⊆ B ⇔ Bc ⊆ Ac と同じ.
・和集合,積集合
和集合 A ∪ B = x ∈ Ω | x ∈ A または x ∈ B,n⋃
i=1
Ai = A1 ∪ A2 ∪ · · · ∪ An
積集合 (共通集合) A ∩ B = x ∈ Ω | x ∈ A かつ x ∈ B,n⋂
i=1
Ai = A1 ∩ A2 ∩ · · · ∩ An
4
例 A = 1, 2, 4, B = 2, 4, 6 ⇒ A ∪ B = 1, 2, 4, 6, A ∩ B = 2, 4
A = 偶数 , B = 奇数 ⇒ A ∪ B = Z, A ∩ B = φ (空集合)
A ∪ Ac = Ω, A ∩ Ac = φ
(c) A ∪ B
Ω
A B'&
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(d) A ∩ B
Ω
A B'&
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・ドモルガンの法則
(A ∩ B)c = Ac ∪ Bc, (A ∪ B)c = Ac ∩ Bc
・「すべての…」と「ある…」
定義に関する性質や計算結果が成立する条件を,言葉でいちいち書くと長くなることが多いので,
簡略化して表記できるように次の記号を使う(∀はA(all,any)の転置,∃は E(exists)の転置).
(1) 命題「すべての a ∈ Aが性質 P を満たす」を ∀a ∈ A, P と書き,
(2) 命題「ある a ∈ Aが性質 P を満たす」を ∃a ∈ A, P と書く.
(3) (1)の否定は ∃a ∈ A, ¬P であり,
(4) (2)の否定は ∀a ∈ A, ¬P である.
「すべての a」と「任意の a」は同じ意味であり,また,
「ある aが…を満たす」と「…を満たす aが存在する」も同じ意味である.
否定については,ドモルガンの法則と同じように ∀ と ∃を入れ替える.
例 (1) すべての実数 xについて x2 ≥ 0である : ∀x ∈ R, x2 ≥ 0
(2) ある実数 xについて x2 + 1 ≤ 0である : ∃x ∈ R, x2 + 1 ≤ 0
(3) x2 < 0となる実数 xが存在する ((1)の否定) : ∃x ∈ R, x2 < 0
(4) 任意の実数 xについて,x2 + 1 > 0である ((2)の否定) : ∀x ∈ R, x2 + 1 > 0
(5) 任意の実数 aについて,x + 1 = aを満たす実数 xが存在する : ∀a ∈ R, ∃x ∈ R, x + 1 = a
(6) A1 ∩ A2 = x | ∀i = 1, 2, x ∈ Ai(7) Ac
1 ∪ Ac2 = x | ∃i = 1, 2, x /∈ Ai ((6)の補集合)
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練習問題
Ex 1-1. 次の命題の対偶を述べなさい.ただし,因果関係に気をつけること.
(a) 明日雨が降れば,大学には行かない
(b) 価格が上がれば,需要は減る
(c) 勉強すれば合格する
(d) 勉強しないと合格しない
Ex 1-2. 次の集まりは集合といえるか.
(a) 優秀な学生の集まり
(b) ある試験で 90点以上を取った学生の集まり
(c) 美人の集まり
(d) 歴代のミス・ユニバースの集まり
Ex 1-3. 次の命題の対偶を述べなさい.
(a) x > 2ならば,x > 1である.
(b) 携帯電話で毎日 1時間以上話せば,携帯電話の(割引考慮前の)通話料は 1ヶ月で
2万円を越える.
(c) 英語の成績が「不可」である学生は,大学を卒業できない.
演習問題
Problem 1-1. 命題「平家にあらずんば人にあらず」を,講義中の記法にしたがって表現しなさ
い.また,その対偶命題を述べなさい.ただし,平家の人々の集合をA,人の集合
をBとする.
Problem 1-2. サイコロを 1回振った結果出る目の集合Ω,奇数の目の集合A,偶数の目の集合B
を記述しなさい.また,A ∩ B,A ∪ Bはどのような集合か.
Problem 1-3. 命題「x + y ≥ 2ならば,x, yのうち 1つは 1以上である」を証明したい.
(a) 命題の対偶を述べなさい.
(b) 命題を対偶証明法により証明しなさい.
復習問題
Quiz 1-1. 次の命題を記号を用いて記述しなさい.
(a) すべての自然数 xについて x ≥ 0である.
(b) x < 0となる整数 xが存在する.
(c) 任意の正の実数 aについて,1/x < aを満たす自然数 xが存在する.
(d) 任意の有理数 x ∈ Qは,ある整数 n ∈ Zと,ある自然数m ∈ Nによって,x = nm
と書ける.
6
Quiz 1-2. つぎの問いについて,必要条件,十分条件,必要十分条件のいずれであるか答えなさい.
(a) 「yは自然数である」は「yは整数である」に対して何条件か.
(b) 「yは実数である」は「yは有理数である」に対して何条件か.
(c) 「yは有理数または無理数である」は「yは実数である」に対して何条件か.
Quiz 1-3. 命題「x + y < 0ならば,x, yのうち 1つは負である」を証明したい.
(a) 命題の対偶を述べなさい.
(b) 命題を対偶証明法により証明しなさい.
Quiz 1-4. 次の集合をベン図を用いて簡単に表記せよ.
(a) (A ∪ B) ∩ (A ∪ Bc)
(b) (A ∪ B) ∩ (Ac ∪ B) ∩ (A ∪ Bc)
Quiz 1-5. アルバイトで 3人の学生を募集したところ,男子 3人,女子 2人の合計 5人の応募が
あった.3人の採用学生を決定するにあたり,次のリストをつくりなさい.ただし,応
募男子学生の集合を 1, 2, 3,応募女子学生の集合を a, bとする.
(a) アルバイトの人選で可能な組み合わせ
(b) 少なくとも 1人の女子学生が含まれる組み合わせ
(c) ちょうど 1人の女子学生が含まれる組み合わせ
Quiz 1-6. 1枚のコインを投げて,表が出る結果をH (head),裏が出る結果をT (tail)と表し,3
回コインを投げた結果を (x1, x2, x3)のように表す.ここで,xiは i回目の結果 (H or
T)である.例えば,1回目のみ表が出て,2,3回目に裏が出る結果は (H,T,T)と表す
ことができる.
(a) 3回コインを投げる場合の結果をすべて列挙しなさい.
(b) 1回目に表が出る結果の集合を A,3回のうち 2回だけ表が出る結果の集合を B
とするとき,集合A,B,A ∩ B,A ∪ Bを記述しなさい.
Quiz 1-7. 命題「xは偶数でなく,かつ奇数でないならば,xは整数ではない」と命題「整数は偶
数か奇数かのどちらかである」が同値であることをドモルガンの法則を使って示せ.
7
2 写像・ベクトル・行列
項目 写像,ベクトルと内積,行列の計算
記号 写像 f : X → Y,線形写像 f(x + y) = f(x) + f(y), f(αx) = αf(x)
公式 内積 x · y = x1y1 + x2y2 = |x||y| cos θ
2.1 写像
・X,Y を集合とする.§ ¥¦写像 f : X → Y とは,
X の各要素 xに対して,Y のあるひとつの要素 f(x)を対応させる規則
である.X を定義域,Y を値域という.Y が Rnの部分集合のときは,f を関数と呼ぶ.
'
&
$
%
'
&
$
%• •R
fX Y
x f(x)
・写像の例
X = 学生 , Y = A,B,O,AB f(x) =学生 xの血液型
・関数の例X = R+ = [0,∞), Y = N f(x) =携帯電話の通話時間 xに対する月額料金
X = Y = N f(x) =みかん x個を購入するために必要な現金
X = Y = R f(x) = a + bx
X = Y = R f(x) = x2
X = R+, Y = R f(x) =√
x
X = Y = R2 f(x1, x2) = (a1x1, a2x2)
X = R2, Y = R f(x1, x2) = a1x1 + a2x2
・関数ではない例X = R+, Y = R f(x) = y2 = xとなる y = ±
√x
(xに対応する要素が 2つあるので写像ではない)
・和の記号∑も写像のひとつ.
n∑i=1
xi = x1 + x2 + · · · + xn
・ f と f(x)の違いに注意せよ.f が写像(あるいは関数)であり,f(x)はあくまでも xに対応す
る Y の要素(関数の値)である.
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2.2 ベクトル
・高校数学では,平面上や空間内の点と原点を結び,方向と大きさを持った量をベクトルと呼び,−→x と表していた.その利便性は足し算と定数倍の操作をできる点にあるので,大学数学では,そのような性質を持ったものをすべてベクトルと呼ぶことにする.以下のように定義し,ベクトル
を表す記号 xに矢印はつけない.
・集合X が次の性質(およびその他の細かい条件)を満たす場合には,X を(R上の)ベクトル空間と呼び,X の要素をベクトルという.
∀x ∈ X, ∀y ∈ X, ∀α ∈ R に対して
ベクトル和 x + y ∈ X, スカラー倍 αx ∈ X
「ベクトル」同士を足しても「ベクトル」になり,定数倍してもやはり「ベクトル」になる,とい
う構造(要素間の関係).
・Rnは n次元ベクトル空間になる.(高校数学のベクトル)
x =
x1
...
xn
∈ Rn, y =
y1
...
yn
∈ Rn, α ∈ R に対して
ベクトル和 x + y =
x1 + y1
...
xn + yn
∈ Rn, スカラー倍 αx =
αx1
...
αxn
∈ Rn
(例 1) n財の価格を成分とするベクトル p = (p1, p2, · · · , pn)を価格ベクトルという.
(例 2) n財の消費量を表すベクトル q = (q1, q2, · · · , qn)を消費財ベクトルという.
・Rnにおける内積
x, y ∈ Rn に対して 内積を x · y = x1y1 + x2y2 + · · · + xnyn と定義する.
(例)n財の価格ベクトル p = (p1, p2, · · · , pn)と消費財ベクトル q = (q1, q2, · · · , qn)の内積
p · q = p1q1 + p2q2 + · · · + pnqn
は,その n財を購入するために必要な資金を表す.
・ベクトルの長さ |x|,内積,2つのベクトルの間の角 θ
|x| =√
x21 + x2
2 + · · · + x2n =
√x · x
x · y = |x||y| cos θ
・内積の性質
|x + y|2 = |x|2 + 2x · y + |y|2
xと yは直交 ⇔ x · y = 0 ⇔ |x + y|2 = |x|2 + |y|2
−|x||y| ≤ x · y ≤ |x||y| (−1 ≤ cos θ ≤ 1)
・ 2次元平面上で原点を通る直線 1本(点の集合)も 1つのベクトル空間である(なぜか?)が,原
点を通らない直線はベクトル空間ではない(なぜか?).
9
2.3 行列
・数を長方形状に並べたものも行列と呼ぶ.行列の横方向に並んだ要素を行と呼び、縦方向に並ん
だ要素を列と呼ぶ.以下のようなm行 n列の行列Aはm × n行列と呼ばれる.
A =
a11 · · · a1n
......
am1 · · · amn
・行列の和
2つのm× n行列に対して,その和は以下のように定義される.すなわち,対応する要素を足す
だけである.同じ型同士の行列でなければ和は定義できない.a11 · · · a1n
......
am1 · · · amn
+
b11 · · · b1n
......
bm1 · · · bmn
=
a11 + b11 · · · a1n + b1n
......
am1 + bm1 · · · amn + bmn
例 (
3 −1 2
9 0 3
)+
(−2 1 5
−7 3 −3
)=
(1 0 7
2 3 0
).(
0 4
−2 −2
)+
(−3 −1 9
0 3 −2
)· · ·行列の型が違うので和は定義できず.
数やベクトルの和と同様に,同じ型の行列の和については次のことが成り立つ.
行列の和の性質¶ ³交換法則 A + B = B + A
結合法則 (A + B) + C = A + (B + C)µ ´・行列の積
m × n行列と n × t行列に対して,その積は以下のように定義される.すなわち,左の行列の行
と右の行列の列の成分同士の積の和(ベクトルの内積)である.
j 列
i行
a11 · · · a1n
ai1 · · · ain
am1 · · · amn
b11 b1j b1t
......
...
bn1 bnj bnt
=
∑n
k=1 a1kbk1 · · ·∑n
k=1 a1kbkt
...∑∑∑n
k=1 aikbkj...∑n
k=1 amkbk1 · · ·∑n
k=1 amkbkt
対応する要素をかけるのではないので注意!左の行列の列の数と右の行列の行の数が同じでなけ
れば積は定義できない.
10
例
(2 −3 5
1 2 0
)1 3
−2 8
0 5
=
(2 × 1 + (−3) × (−2) + 5 × 0 2 × 3 + (−3) × 8 + 5 × 5
1 × 1 + 2 × (−2) + 0 × 0 1 × 3 + 2 × 8 + 0 × 5
)
=
(8 7
−3 19
).
(3 −1 2
9 0 3
)(−2 1 5
−7 3 −3
)· · ·左の行列の列数と右の行列の行数が違うので
積は定義できず
行列の積が定義できるときは,次のことが成り立つ.
行列の積の性質¶ ³結合法則 (AB)C = A(BC)
分配法則 (A + B)C = AC + BC
C(A + B) = CA + CBµ ´・X,Y はベクトル空間とする.写像 f : X → Y が線形写像であるとは,¶
µ³´
∀x ∈ X, ∀y ∈ X, ∀α ∈ R に対して
ベクトル和 f(x + y) = f(x) + f(y), スカラー倍 f(αx) = αf(x)
を満たす写像である.
・このような線形写像は無数にあるが,その形は判明している.すなわち,X = Rn, Y = Rmの場
合の任意の線形写像 f : Rn → Rmは,m × n行列Aによって表現される.
f(x) = Ax =
a11 · · · a1n
......
am1 · · · amn
x1
...
xn
・以下では,n = m = 2として,2次元ベクトル空間と 2 × 2行列を考える.
・線形写像 f : R2 → R2
x =
(x1
x2
)7→ Ax =
(a11 a12
a21 a22
)(x1
x2
)=
(a11x1 + a12x2
a21x1 + a22x2
)
特に単位行列
I =
(1 0
0 1
)
はすべての xについて Ix = xを満たす.
11
練習問題
Ex 2-1. 次の計算をしなさい.
(a)6∑
k=1
k (b)6∑
k=1
k2
Ex 2-2. 次の計算をしなさい.
(a)
(1 2
3 4
)(2
−1
)(b)
(1 2
3 4
)(6 5
4 3
)(c)
(6 5
4 3
)(1 2
3 4
)
Ex 2-3. 各小問毎に与えられたベクトルに直交するベクトルを 1つ挙げなさい.
(a) (1, 0) (b) (1, 1) (c) (1, 2) (d) (1,−2)
演習問題
Problem 2-1. リンゴとミカンの 2財が市場で売られている.価格は p = (p1, p2)で与えられてい
る(第 1成分がリンゴ,第 2成分がミカンの価格を表す).購入する量をq = (q1, q2)
とするとき,購入金額合計が 1000円を超えない,という条件をベクトル p,qを用
いて記述しなさい.
Problem 2-2. ある工場では,2種類の製品 A,Bを生産するために 2種類の原料 a, bを用いてい
る.A,BをそれぞれX,Y 単位生産するために必要な原料 a, bの単位数 x, yは
x = 0.1X + 0.5Y
y = 0.5X + 0.2Y
である.(X,Y ) = (30, 50)および (X,Y ) = (50, 30)の場合の必要な原料の単位数
の組み合わせ (x, y)を求めなさい.
Problem 2-3. 次の式を示しなさい.
n∑k=1
k =12n(n + 1),
n∑k=0
ak =1 − an+1
1 − a(a 6= 1)
復習問題
Quiz 2-1. ミカン 1個は 50円で売られているが,ミカン 100個が入った箱は 4,500円で売られ
ている.ミカンの購入数量に対して支払金額を対応させる写像は線形かどうか答えな
さい.
Quiz 2-2. 次の計算をしなさい.
(a)
(0 −1
1 0
)(1
0
)(b)
(0 −1
1 0
)(1
1
)(c)
(0 −1
1 0
)(1
−2
)
(d)
(1 0
0 1
)(1
0
)(e)
(2 0
0 1
)(1
1
)(f)
(1 1
0 1
)(1
−2
)
12
Quiz 2-3. 次の計算をしなさい.
(a)
(3 2
2 1
)(1 0
0 1
)(b)
(3 2
2 1
)(2 1
5 4
)(c)
(6 5
5 4
)(1 4
2 4
)
Quiz 2-4. 次の計算をしなさい.
(a)
(3 2
2 1
)+
(6 5
4 3
)(b)
(1 2
3 4
)+
(6 5
5 4
)(c)
(6 5
5 4
)−
(1 4
2 4
)
Quiz 2-5. 各小問毎に与えられたベクトルに直交するベクトルを 1つ挙げなさい.
(a) (3, 0) (b) (2, 3) (c) (2, 4) (d) (−2,−1)
Quiz 2-6. (予算制約式) A工場で B商品を生産するのに必要な労働量 (L)と資本量 (=機械)(K)
の組合せを投入量ベクトルQ = (L, K)で表わし,また労働者の時給 (w)と資本のレ
ンタル料 (r)を要素価格ベクトルP = (w, r)で表わすとする.B商品を生産するため
に要する費用の制約が 200,000円であるとき,この予算制約をベクトルQ,Pを使って
表しなさい.
Quiz 2-7. ある工場では,2種類の原料 a, bから 2種類の製品A,Bを生産している.製品A, Bを
それぞれX,Y 単位生産するために投入する原料 a, bの単位数 x, yは(x
y
)=
(0.04 0.20
0.24 0.30
)(X
Y
)
である.(X,Y ) = (30, 50)および (X,Y ) = (50, 30)の場合に必要な原料の単位数の組
み合わせを求めなさい.
Quiz 2-8. (♠) x, y ∈ R2に関する三角不等式
|x| + |y| ≥ |x + y|
を,両辺の 2乗を計算することにより証明しなさい.また,三角不等式の意味を平面
図上で説明しなさい.
13
3 連立方程式
項目 連立方程式,行列式
記号 Ax = b ⇔ x = A−1b
A =
(a11 a12
a21 a22
)⇒ A−1 = 1
det(A)
(a22 −a12
−a21 a11
), det(A) = a11a22 − a12a21
公式 逆行列が存在する ⇔ det(A) 6= 0
3.1 方程式
(Q1) ある会社が,資金 300千円であるイベントの開催を企画している.会場費用 100千円を
支払い,アルバイトを 1人 1千円で募集する場合,何人のアルバイトを雇用できるか?
(A1) x人雇用するとすれば,方程式は
予算制約 1, 000x + 100, 000 = 300, 000
1, 000x = 300, 000 − 100, 000
x = 200人
の 1次方程式となる.一般には,1次方程式の解は
ax = b ⇒ x = a−1b (1)
である.
3.2 連立方程式
(Q2) 上記の会社は,単純作業の作業Aには 1人 800円を支払い,高度な労働の作業 Bには 1
人 1,200円を支払うことにしたが,雇用するアルバイトの総数は 190人にしたい.職種A,Bをそ
れぞれ何人募集するべきか?
(A2) 作業A,Bのアルバイトをそれぞれ x1, x2人雇用するとすれば,方程式は
予算制約 800x1 + 1, 200x2 + 100, 000 = 300, 000
人数制約 x1 + x2 = 190
の連立 1次方程式となる.
この連立 1次方程式は行列を用いて(800 1200
1 1
)(x1
x2
)+
(100000
0
)=
(300000
190
)すなわち
Ax = b (2)
A =
(800 1200
1 1
), x =
(x1
x2
), b =
(200000
190
)と表現できる.(1)式と (2)式は類似の形になっていることに注意.
14
3.3 逆行列
2 × 2行列Aの逆行列A−1
¶µ
³´A =
(a11 a12
a21 a22
)⇒ A−1 =
1det(A)
(a22 −a12
−a21 a11
), det(A) = a11a22 − a12a21
ここで,det(A) = a11a22 − a12a21を行列Aの行列式という.¶µ
³´
逆行列が存在する ⇔ det(A) 6= 0
AA−1 = A−1A = I
(2)の行列の行列式は det(A) = 800 − 1200 = −400 6= 0だから,逆行列が存在する.(2)の解は
x = A−1b =
(800 1200
1 1
)−1 (200000
190
)=
1800 − 1200
(1 −1200
−1 800
)(200000
190
)=
(70
120
)
以下,様々な行列に対して行列式を求めてみる.
det
(3 −5
2 0
)= 3 × 0 − (−5) × 2 = 10, det
(−4 10
4 3
)= (−4) × 3 − 10 × 4 = −52
det
(1 2
2 4
)= 1 × 4 − 2 × 2 = 0, det
(−3 −12
1 4
)= (−3) × 4 − (−12) × 1 = 0
上の例からもわかるように,ある行(列)が他の行(列)の定数倍になっているような行列の行
列式は 0となる.これは
det(A) = 0 ⇔ a11a22 − a12a21 = 0 ⇔ a11a22 = a12a21 ⇔ a11 : a12 = a21 : a22
であることを考えると当然である.
3.4 投入係数行列(経済)
・農業部門と工業部門で相互に依存した生産活動を行い,消費者もそれらの生産物を購入している.
その経済活動における需要と供給を考える.
・農業部門の生産物 1単位をつくるために,農業部門自身の生産物 0.1単位,工業部門の生産物 0.8
単位必要である.工業部門の生産物 1単位をつくるために,農業部門の生産物 0.25単位,工業部
門自身の生産物 0.5単位必要である.
消費者からは,農業部門の生産物を 110単位,工業部門の生産物を 180単位の需要がある.
・農業部門が x1単位と工業部門が x2単位の生産物を生産するとすれば,経済全体における供給は
x =
(x1
x2
)
15
・一方,需要は,消費者の需要(最終需要)と産業における需要(中間需要)がある.
最終需要: b =
(110
180
), 中間需要:
(0.1 0.25
0.8 0.5
)x
ここで,行列の成分 aij は,生産物 j を 1単位生産するために必要な生産物 iの単位数(投入係
数)で,行列
A =
(a11 a12
a21 a22
)=
(0.1 0.25
0.8 0.5
)を投入係数行列と呼ぶ.
・需要と供給が一致する均衡では,
x = Ax + b (3)
が成立するので,この方程式の解 x = (I − A)−1bが均衡状態における生産量である.
練習問題
Ex 3-1. 次の行列の行列式を求めなさい.
(a)
(1 2
3 4
)(b)
(6 5
4 3
)(c)
(a c
0 b
)(d)
(1 1
2 2
)(e)
(1 2
1 2
)
Ex 3-2. 次の連立方程式を解きなさい.解がない場合には,解なし,とすること.
(a)
x + 2y = 8
2x + y = 7(b)
x + 2y = 8
2x + 4y = 7(c)
x + 2y = 8
4x + 2y = 7
Ex 3-3. 方程式 (3)を解き,均衡状態における生産量を具体的に求めなさい.
演習問題
Problem 3-1. 次の連立方程式を解きなさい.解がない場合には,解なし,とすること.
(a)
2x + 3y = 8
3x + 2y = 7(b)
2x + 3y = 8
4x + 6y = 7(c)
2x + 3y = 8
4x + 5.999y = 7
Problem 3-2. E[X], E[Y ], E[X2], E[XY ]はE[X2] − (E[X])2 > 0を満たす定数とする.
次の α, βに関する連立方程式を解きなさい.
E[Y ] = α + βE[X]
E[XY ] = αE[X] + βE[X2]
16
Problem 3-3. (♦) 国民所得決定モデル
(a) 次の国民所得決定モデルを解き,均衡における所得Y と消費Cを求めなさい.
財市場の需給均衡 Y = C + I
消費関数 C = c0 + cY
ここで,I, c0, cは定数で,c0 ≥ 0, 0 < c < 1とする.
(b) 前問の結果をグラフで説明しなさい.
-
6
¡¡
¡¡
¡¡
¡¡
¡¡
¡¡
¡¡¡
³³³³³³³³³³³³³³³
³³³³³³³³³³³³³³³
C = c0 + cY
Y = c0 + cY + I
6
?
I
Y
C, Y Y = Y
•
•
Y =c0 + I
1 − cY =
c0
1 − c
復習問題
Quiz 3-1. 次の行列の行列式を求めなさい.
(a)
(3 1
1 2
)(b)
(3 5
4 3
)(c)
(a 2
0 b
)(ab 6= 0)
Quiz 3-2. Quiz 3-1の逆行列を求めなさい.
Quiz 3-3. Quiz 3-2の逆行列を使って,次の連立方程式を解きなさい.
(a)
(3 1
1 2
)(x
y
)=
(5
4
)(b)
(3 5
4 3
)(x
y
)=
(11
11
)(c)
(a 2
0 b
)(x
y
)=
(a + 4
2b
)
Quiz 3-4. (♦) (生産物市場と均衡国民所得 (GDP)の決定) 所得 Y と消費 C の関係を表す消費
関数が,
C = 0.8Y + 500
であるとする.一方,均衡国民所得 Y は消費 C と投資 I に支出されるので,関係式
Y = C + I が成立する.
(a) 投資が I = 100の場合の均衡国民所得 Y を求めなさい.
(ヒント; 次の式を解け)
(1 −0.8
−1 1
)(C
Y
)=
(500
100
)
17
(b) 投資 I を 200増加させた場合 I = 300の均衡国民所得 Y を求めなさい.
(平成 8年地方上級)
Quiz 3-5. (♦) (生産物市場と貨幣市場の同時均衡) ある経済において生産物市場および貨幣市場
では,次のような関係が成立しているとする.
生産物市場 Y = C + I, C = 50 + 0.8Y, I = 50 − 500r
貨幣市場 L = 0.2Y − 500r + 180
(C :消費, Y :国民所得, I :投資, r :利子率, L :実質貨幣需要)
実質貨幣供給 (=貨幣需要 L)が 150であったとすると,この経済における均衡国民所
得 Y はいくらになるか.(平成 2年国家 II種改題)
1. 170 2. 175 3. 180 4. 185 5. 190
(ヒント:Y と rの行列をつくれ)
Quiz 3-6. (♦) (産業連関分析) AおよびBの 2つの産業からなる産業連関表において,投入係数
の値が次のように与えられている.ここで,各産業の総生産量が,産業Aは xA = 300,
産業 Bは xB = 200であるとするとき,各産業の最終需要量 YA, YB はいくらか.
(国家 II種改題) 注) 総産出量は,最終需要と中間需要の合計値である.
投入 / 産出 産業A 産業 B
産業A 0.04 0.20
産業 B 0.24 0.30
(ヒント: 上の問題は次の式になる.)(1 0
0 1
)(xA
xB
)︸ ︷︷ ︸総生産量
=
(0.04 0.20
0.24 0.30
) (xA
xB
)︸ ︷︷ ︸
中間需要
+
(YA
YB
)︸ ︷︷ ︸最終需要[(
1 0
0 1
)−
(0.04 0.20
0.24 0.30
)](xA
xB
)=
(YA
YB
)
Quiz 3-7. (♦) (投入係数行列) AおよびBの 2つの産業からなる産業連関表において,投入係数
の値が次のように与えられている.ここで,各産業の最終需要が,産業Aは 248,産
業 Bは 68あるとするとき,各産業の総産出量はいくらか.(国家 II種改題)
注) 総産出量は,最終需要と中間需要の合計値である.
投入 / 産出 産業A 産業 B
産業A 0.04 0.20
産業 B 0.24 0.30
(ヒント; 次の式を解け)
(0.04 0.20
0.24 0.30
)(xA
xB
)+
(248
68
)=
(xA
xB
)
18
4 関数
項目 利息の複利計算,指数関数,対数関数,逆関数
記号 e, ax, log a x, lnx
公式 au+v = auav, (au)v = auv, log a w + log a x = log a(wx),
log a xw = w log a x, a = eln a
4.1 関数
・Dを実数Rの部分集合とする.D上の関数 f とは,定義域D上の各点 x ∈ Dにただひとつの実
数 y = f(x) ∈ Rを対応させる写像(規則)である.定義域Dと値域 Rを明示するために関数f : D → Rと書く場合が多い.
f(x) = a + bx, x ∈ R (D = R)
f(x) = x2, x ∈ R (D = R)
f(x) =√
x, x ≥ 0 (D = R+)
・定義域D上のすべての点 xについて,y = f(x)を xについて解いた場合にただひとつの解が存
在して,ある関数 gによって x = g(y)と表すことができる時,gを f の逆関数といい,g = f−1
と書く.
f(x) = a + bx, (b 6= 0) x ∈ R ⇒ f−1(y) =y − a
b, y ∈ R
f(x) = x2, x ∈ R+ ⇒ f−1(y) =√
y, y ∈ R+
f(x) =√
x, x ∈ R+ ⇒ f−1(y) = y2, y ∈ R+
関数のグラフ(x, f(x)) | x ∈ Dを,原点を通る45度線y = xに関して反転させると逆関数のグラ
フ(x, f−1(x)) | x ∈ D′が得られる(D′は関数f−1の定義域D′ = y ∈ R | ∃x ∈ D, y = f(x)).
・計算例
· f(x) = −3x + 4の逆関数を求めよ.
=⇒ y = −3x + 4として xについて解くと,x = −13y + 4
3.従って f−1(y) = −13y + 4
3
· f(x) =√
12x − 3の逆関数を求めよ.
=⇒ y =√
12x − 3として xについて解くと,x = 2y2 + 6.従って f−1(y) = 2y2 + 6
・経済学で用いる関数の例(消費関数) C(Y ) = a + b Y (C :消費, Y ≥ 0 :国民所得)
(効用関数) U(x) =√
x (U :効用 (=満足度), x ≥ 0 :消費量)
(投資関数) I(r) = ar + b (I :投資, r > 0 :利子率)
(生産関数) Y (K,L) = AKαLβ (Y :生産量, K > 0 :資本量, L > 0 :労働量)
19
4.2 指数関数
・ 1億円を運用して 1年間に 5%の利子がつくとしよう.このとき x年間で元金 1億円はいくらに
なるだろうか.
• 1年後には 1.05億円となる
• 2年間では,1年後の 1.05億円が 1.05倍になるので,2年後には 1.05×1.05 = 1.052 となる.
このように利子に更に利子がつくことを複利と呼び,このような計算を複利計算という.
• x年後には,元利合計金額は
1.05 × · · · × 1.05︸ ︷︷ ︸x 個
= 1.05x
となる.このように 1円を金利 rで x期間,複利で運用すれば (1 + r)x円となる.
ちなみに 5%で x期間の運用で 1億円は以下のように増える.
x 1 2 3 10 20
1.05x 1.05 1.10 1.16 1.63 2.65
・指数関数の定義
a > 0のとき xが自然数であれば,aを x回掛け合わせる,という作業は可能である.しかし x
が自然数でない場合,例えば「aを 1.3回掛け合わせる」ということに意味を持たせるには工夫
が必要である.
指数関数 f(x) = ax (x ∈ R) は,aを「x回」掛け合わせる,という作業を,xが自然数である場
合から xが実数である場合へ以下のステップを経て拡張した結果である.
(Step 0) x = 0の場合 ax ≡ 1
(Step 1) x ∈ Nの場合 ax ≡ a × · · · × a (x回)
(Step 2) x ∈ Z, x < 0の場合 ax ≡ 1a−x
(Step 3) x = 1/m, m ∈ Nの場合 ax ≡ b ただし bは a = bmの解
(Step 4) x = nm ∈ Qの場合 ax ≡
(a
1m
)n
(Step 5) x ∈ Rの場合 ax ≡(省略,実数の連続性を用いる)
・指数関数の重要な性質
au+v = auav, (au)v = auv,
1x = 1, a0 = 1, a−x =1ax
a > 1 ⇒ f(x) = axは xの増加関数
a = 1 ⇒ f(x) = ax = 1は定数
0 < a < 1 ⇒ f(x) = axは xの減少関数
20
・次に,1年間を均等に分割して利払い回数を増やした複利運用を考えよう.
• 1年を n期間に分割 , 当初元本=1
• 各期間 1/n年毎に利息 (=元本×r/n)を計算し,翌期の元本に繰り入れる
• m期での元本=m − 1期での元本×(1 + r/n)
• 1年後の元本=(1 + r/n)n
• nを無限大に大きくして細かく分割すると,最終的な 1年後の元本はどうなるか?(連続複
利計算)
n(1 +
r
n
)nr = 1 (年利 100%)
1 2 年利 100%
2 2.25 半年複利 50%
4 2.441 3ヶ月複利 25%
12 2.613 月利 8.3%
365 2.714 日歩 0.27%
∞ 2.7182 連続複利 年 100%
・このように複利計算をするときに,複利となる期間を細かく取り無限に細かくしていくと,1年
後の元本=(1 + 1/n)nはある値 2.7182· に近づいていく.この値を自然対数の底(ネイピアの定数)と呼び e と書く.
・ネイピアの定数,自然対数の底 e
limn→∞
(1 +
1n
)n= e = 2.718 · · ·
limn→∞
(1 +
r
n
)n=
(lim
n→∞
(1 +
1n/r
)n/r)r= er = exp(r)
・現在価値と将来価値
時点 0での元本 P 円が,複利運用によって T 年後に元利合計 F になった場合,P 円を(T 年後
の F 円に対する)現在価値,F 円を(時点 0での P 円に対する)将来価値という.
金利 r,1年複利の場合時点 0 時点 T
現在価値 将来価値
P ⇒ F = P (1 + r)T
P =F
(1 + r)T⇐ F
金利 r,連続複利の場合時点 0 時点 T
現在価値 将来価値
P ⇒ F = PerT
P = Fe−rT ⇐ F
将来価値から現在価値を求める際に用いる金利を割引率という.
・等比級数の和は
1 + x + · · · + xn−1 =1 − xn
1 − x
21
であるので,n年間毎年年末に 1円受け取る年金の現在価値の合計は
11 + r
+1
(1 + r)2· · · + 1
(1 + r)n=
11 + r
1 −(
11+r
)n
1 − 11+r
=1r
(1 − (1 + r)−n
)である.この現在価値合計を年金現価という.
4.3 対数関数
・ 1億円を運用して 1年間に 5%の利子がつき,複利で運用するときx年間で元金 1億円は y = 1.05x
となることは分かった.それでは,何年間立てば元金は 2億円を超えるだろうか.
・このような計算を行うためには 2 = 1.05x を満たす x を求める必要がある.このような x を
x = log 1.05 2と表す.このような指数の逆算を対数と呼ぶ.対数はエクセルなどで計算すること
が可能である.log 1.05 2をエクセルで計算すると 14.2 · · · となるので,15年経てば,元金は 2億
円を超える.
・一般には指数関数 y = f(x) = ax (a > 0)の逆関数を,aを底とする対数関数といいx = f−1(y) =
log a yと表す.
・このことより,aを log a y乗すると yになること,及び log a ax = xであることが分かる.
log 10 10 = 1 (101 = 10), log 10 100 = 2 (102 = 100), log 10 1000 = 3 (103 = 1000)
・また,特に a = eのとき自然対数関数といい,log e x = ln xと書く.
・対数関数の重要な性質
y = ax ⇔ x = log a y ( y = ex ⇔ x = ln y )
log a a = 1, log a ax = x
log a(wx) = log a w + log a x, log a xw = w log a x (積の対数はそれぞれの対数の和)
a = eln a, ax = ex ln a
y = aloga y = xlogx y ⇒ loga y = (logx y)(loga x) ⇒ logx y =loga y
loga x(底の変換公式)
(例) · log2 8 = 3 (23 = 8より) · loga 1 = 0 (a > 0) (a0 = 1より)
· log10 2 + log10 5 = log10(2 × 5) = log10 10 = 1
· log3
√27 = log3 27
12 =
12
log3 27 =12· 3 =
32
· log2 3 · log3 4 = log2 3 · log2 4log2 3
= log2 4 = 2
22
練習問題
Ex 4-1. エクセル等で(1 + 1
n
)nを n = 1, 2, 3, 4, 6, 12, 52, 365, 8760について計算し,exp(1)に
近づくことを確認しなさい.
Ex 4-2. 次の期間にわたって年金金額を毎年年末に受け取る年金の年金現価を求めなさい.
期間 10 10 10 10 2 5 7
年金金額 1 1 1 1 1 1 1
割引率 1% 3% 5% 10% 3% 3% 3%
年金現価
Ex 4-3. 指数関数 y = exと対数関数 y = lnxのグラフを描きなさい.
演習問題
Problem 4-1. 消費関数 C(Y ) = 50 + 0.8 Y (C :消費, Y ≥ 0 :国民所得)で,国民所得が 100
の場合の消費量を求めなさい.また,消費を 150とするためには,国民所得はいく
ら必要か.
Problem 4-2. 次の関数の逆関数を求めなさい.
(a) f(x) = 2x + 1 (b) f(x) =√
2x + 1(
x ≥ −12
)(c) f(x) = e2x + 1
Problem 4-3. 次の単利による 1年後の元利合計と同じ結果になる半年複利,月利,連続複利を求
めなさい.
年単利 1% 2% 3% 5% 7% 10% 100%
元利合計
半年複利
月利
連続複利
Problem 4-4. 次の連立方程式を解きなさい.(ヒント:対数を取ることにより連立 1次方程式に
変換する) x3y2 = 1
x1/2y−2/3 = 8
復習問題
Quiz 4-1. 元本 1を年利率 rで T 年間運用した結果の元利合計は (1 + r)T となる.この事実を用
いて,次の年利率で複利運用する場合に,元利合計が当初元本の 2倍になるために必
要な年数はおよそ何年か,求めなさい.
(a) 1% (b) 3% (c) 5% (d) 10%
次の数値を用いてよい.
ln 1.01 = 0.00995 ln 1.03 = 0.02956 ln 1.05 = 0.04879 ln 1.1 = 0.09531 ln 2 = 0.69315
23
Quiz 4-2. 次の関数のグラフを描きなさい.
(a) (消費関数) C = 50 + 0.8 Y (C :消費, Y ≥ 0 :国民所得)
(b) (投資関数) I = 10r + 10 (I :投資, r > 0 :利子率)
(c) (効用関数) U =√
x (U :効用 (=満足度), x ≥ 0 :消費量)
(d) (生産関数) y = ln K (y :生産量, K > 0 :資本量)
(e) (総費用関数) C = x2 + 2x + 10 (C :総費用, x ≥ 0 :生産量)
Quiz 4-3. (逆関数) Quiz 4-2の関数の逆関数を求めなさい.逆関数の定義域(元の関数の値が取
り得る範囲)に気をつけること.
Quiz 4-4. (投資計画の現在価値) 2つのプロジェクトA,Bがある.Aは毎年年末に 10万円の収
益が 10年間見込まれる一方,Bは 3年後のみに 80万円の収益が見込まれる.割引率
を 10%とするとき,A,Bのどちらの計画を実行すべきか,それぞれの現在価値を求
めて判断しなさい.また,割引率が 15%の場合はどうなるか.
24
5 微分
項目 n次関数・指数関数・対数関数の微分,合成関数の微分,積の微分
記号 f ′(x),d
dxf(x)
公式 合成関数の微分d
dxf(g(x)) = f ′(g(x))g′(x)
積の微分 (f(x)g(x))′ = f(x)g′(x) + f ′(x)g(x)
5.1 微分
• 関数 y = f(x) = x2 を考える.x = 1の点において,xが少しだけ増加したとき,yはそ
の何倍増加するだろうか. すなわち xの増分を∆xとしたときの yの増分を∆yとすると
き,∆y∆x はいくらになるだろうか.このような問題は経済学などを始めとして多くの問題に
現れる.
• ここで xが x = 1から x = 2まで 1増加したときを考えると,
∆y
∆x=
f(2) − f(1)2 − 1
=4 − 1
1= 3
となる.
• しかし「xが 1増加する」ことを「xが少しだけ増加する」と考えるのは不正確である.値
を正確にするには xの増分を小さくした方が良い,例えば xが 0.1だけ増加したと考えて
みよう (∆x = 0.1).すると
∆y
∆x=
f(1 + 0.1) − f(1)(1 + 0.1) − 1
=1.21 − 1
0.1= 2.1
で 2.1となる.
• xの増分を小さくすると,∆y∆x の値は以下のようになる.
∆x ∆y∆x
1 3
0.5 2.5
0.1 2.1
0.01 2.01
0.001 2.001
• このように xの増分を小さくすると,∆y∆x の値は 2 に近づく.この 2を y = f(x) = x2 の
x = 2における微係数と呼ぶ.
25
・関数 f : D → Rのグラフ上で十分近い 2点 (a, f(a)), (a + ∆x, f(a + ∆x))を通る直線を考える.
x軸方向の変化 (xの増分)∆x = (a + ∆x) − a に対して,y軸方向の変化 (yの増分)は∆y =
f(a + ∆x) − f(a) なので,その直線の傾きは
∆y
∆x=
f(a + ∆x) − f(a)∆x
である.したがって 2点 (a, f(a)), (a + ∆x, f(a + ∆x))を通る直線は
y − f(a) =f(a + ∆x) − f(a)
∆x(x − a)
である.もしfのグラフが滑らか(とがっていない)であれば,∆xを小さくする (∆x → 0)ときに,
この直線は点 (a, f(a))における接線に近づくであろう.その際に2点 (a, f(a)), (a+∆x, f(a+∆x))
を通る直線の傾きが近づく極限の値
lim∆x→0
f(a + ∆x) − f(a)∆x
を関数 f の点 aにおける微係数といい,f ′(a)と表す.
したがって f ′(a)は,なめらかな f のグラフの点 (a, f(a))における接線の傾きを意味する.
・定義域上のすべての点 x ∈ Dに対して,その点における微係数を対応させる関数 f ′ : D → Rをf の導関数という.f ′(x)を
df
dx(x),
d
dxf(x)
とも表す.関数 f からその導関数 f ′を求めることを,微分する,という.関数 f を n回微分し
た結果を n階微分 (階は orderの訳)といい,下記のように書く.
f (n),dnf
dxn; f (n)(x),
dnf
dxn(x),
dn
dxnf(x)
5.2 限界概念(経済)
・微分は,関数の増加割合である変化率∆f(x)
∆xの極限なので,経済学の限界概念は微分によって
表される.
限界概念:インプットを 1単位追加的に投入した場合に増加するアウトプットの増加率
x f(x) f ′(x)
c 消費量 効用関数 u(c) 限界効用 u′(c)
q 生産量 費用関数 C(q) 限界費用 MC = C ′(q)
Y 所得 消費関数 C(Y ) 限界消費性向 C ′(Y )
例えば,ミクロ経済学のテキストには,
「企業が限界費用と生産物価格が等しくなるように生産量を調整すれば,その利益が最大になる」
ことが示されている.
26
5.3 具体的な関数の微分
・公式:主な関数の微分 f ′(x) = lim∆x→0
f(x + ∆x) − f(x)∆x
の結果
'
&
$
%
f(x) = a (aは定数) ⇒ f ′(x) = 0“
f ′(x) = lim∆x→0
a − a
∆x= 0
”
f(x) = x ⇒ f ′(x) = 1„
f ′(x) = lim∆x→0
(x + ∆x) − x
∆x= 1
«
f(x) = x2 ⇒ f ′(x) = 2x„
f ′(x) = lim∆x→0
(x + ∆x)2 − x2
∆x= lim
∆x→0(2x + ∆x) = 2x
«
f(x) = xn (n 6= 0) ⇒ f ′(x) = nxn−1
f(x) = ex ⇒ f ′(x) = ex
f(x) = ln x ⇒ f ′(x) = 1x
・重要な性質:微分は線形(関数 f に導関数df
dxを対応づける写像
d
dxは線形写像)
d
dx(f(x) + g(x)) =
d
dxf(x) +
d
dxg(x),
d
dx(αf(x)) = α
d
dxf(x)
(例)
d
dx(x3 + 2x + 3) =
d
dx(x3) + 2
d
dx(x) +
d
dx3 = 3x2 + 2
5.4 合成関数と積の微分
・ f(x) = exと g(x) = x2の微分はわかったが,合成関数 f(g(x)) = ex2や積 f(x)g(x) = exx2の微
分はどうなるであろうか?どちらも,単独の微分の結果 f ′(x) = ex, g′(x) = 2xに関連があるは
ずである.'
&
$
%
合成関数の微分d
dxf(g(x)) = f ′(g(x))g′(x) (外側から微分してかけ算)
dz
dx=
dz
dy
dy
dx(このようにも記述できる)
ただし z = f(y), y = g(x)
積の微分 (f(x)g(x))′ = f(x)g′(x) + f ′(x)g(x) (ひとつずつ微分)
これらは複雑な関数を微分する際に便利な公式であるが,特によく使うのは次の 2つの公式で
ある. ²±
¯°(f(a + bx))′ = bf ′(a + bx) ,
d
dxln f(x) =
f ′(x)f(x)
(対数微分)
27
(例) · d
dxea+bx = bea+bx, · d
dxex2
= 2xex2, · d
dxln(a + bx) =
b
a + bx
· d
dx(3x2 − 5x + 3)4 = 4(3x2 − 5x + 3)3(6x − 5), · d
dx
(1
a + bx
)= − b
(a + bx)2,
· d
dx(exx2) = 2exx + exx2, · d
dx(−5x + 2) ln x =
−5x + 2x
− 5 ln x
· d
dx
(−2x + 6)(3x2 + x + 1)
= (−2x + 6)(6x + 1) − 2(3x2 + x + 1)
= −18x2 + 32x + 4
· d
dx
(x + 3)
√2 − x
=
d
dx
(x + 3)(2 − x)
12
= −1
2(x + 3)(2 − x)−
12 + (2 − x)
12
・商の公式
合成関数の微分の公式で f(x) = 1x を適用すれば
d
dx
(1
g(x)
)= − g′(x)
(g(x))2(g(x) 6= 0)
が得られる.
さらに積の微分の公式を用いると,商の公式
d
dx
(f(x)g(x)
)=
f ′(x)g(x) − f(x)g′(x)(g(x))2
, (g(x) 6= 0)
が得られる.
(例)
d
dx
(a + bx
c + dx
)=
b(c + dx) − d(a + bx)(c + dx)2
, (c + dx 6= 0)
・対数微分の続き
h(x) = f(x)g(x)とするとき,両辺の対数を取り
lnh(x) = ln f(x) + ln g(x)
両辺を微分することによりh′(x)h(x)
=f ′(x)f(x)
+g′(x)g(x)
が成立する.
(例)
f(x) = x, g(x) = ex, h(x) = f(x)g(x) = xex
⇒ (積の微分) h′(x) = f ′(x)g(x) + f(x)g′(x) = ex + xex
(対数微分) h′(x) = h(x)(
f ′(x)f(x)
+g′(x)g(x)
)= xex
(1x
+ex
ex
)= ex + xex
28
練習問題
Ex 5-1. 次の関数を xで微分しなさい
(a)√
x (b)√
x2 + 1 (c) exp(−x2
2
)(d) ln(x2 + 1)
Ex 5-2. 次の関数を xで微分しなさい.
(a) ax (b)x1−γ
1 − γ(γ 6= 1) (c) xex2
Ex 5-3. (限界効用逓減の法則)次の消費量における効用と限界効用の値を求めなさい.
効用関数 u(c) =√
c
消費量 c 0.0001 0.01 1 2 3 4
効用 u(c)
限界効用 u′(c)
演習問題
Problem 5-1. 次の関数を xで微分しなさい.
(a) (1 + x)2 (b) (3x2 + 5x + 6)3 (c)√
2x2 + 3x − 1
(d) 5ex2−5x+2 (e) ln(−2x + 8) (f)(
x +1x
)a
(g) (1 + x)2(3 + x)3 (h) x5(1 + x)2 (i) (1 + x)ax1−a
(j) xe−x2(k)
2x + 3x2 − 3x + 1
(l) (x + 3)√
2 − x
(ヒント:(a)-(f)は合成関数の微分の公式,(g)-(l)は積の微分の公式を用いる)
Problem 5-2. 次の関数を xで微分しなさい.
(a)1
1 + x2(b)
x2
(1 + ex)2(c) x2ex
Problem 5-3. y = f(x)の関係がある変数 x, yについて,弾性値 ηとは,xの変化率に対する y
の変化率の比率で,
η =dyy
dxx
=x
y
dy
dx=
d(ln y)d(lnx)
と計算する.ある財の価格 pとその需要量 q = q(p)について,その弾性値を需要
の価格弾力性という.価格と需要量が次の関係にある場合,それぞれの需要の価格
弾力性を求めなさい.
(a) q = p−a (a > 0) (b)(♠) q =1
a + bp(b > 0)
29
復習問題
Quiz 5-1. 次の関数を xで微分しなさい.
(a) (1−x)2 (b) (x2+5x)3 (c) (1+ax)2(1+bx)3 (d) ex(1+x)−1 (e) (1+x)aax
Quiz 5-2. 次の関数を xで微分しなさい
(a) y =1 − x
1 + x(b) y =
√1 + x4 (c) y =
ex
x(d) y = ln(2x2 − 1)
Quiz 5-3. 次の関数の導関数の値が 0となる点 xを求めなさい.(a,bは「極値点」,cは「変曲点」
を求める問題)
(a) − (x − a)2 + b (b)1√2πσ
exp(−(x − µ)2
2σ2
)(c) (b)の導関数
Quiz 5-4. (限界費用)次の生産量における総費用量と限界費用の値を求めなさい.
総費用関数 C(Y ) = Y 2 − 9Y + 52生産量 Y 0 1 2 5 10 100
総費用 C(Y )
限界費用 C ′(Y )
Quiz 5-5. (需要の価格弾力性)市場に消費者AさんとBさんの2人のみ存在し,それぞれの消費
関数が xA = pεA , xB = pεB である時,以下の問に答えよ.
(a) 各人の需要の価格弾力性を求めなさい.
(b) 市場全体 xA + xB の価格弾力性を求めなさい.
30
6 偏微分・全微分・テーラー展開
項目 多変数関数,偏微分,全微分,テーラー展開
記号 fi, fxi ,∂f
∂x(x, y),
∂2f
∂x∂y(x, y)
公式 df =∂f
∂xdx +
∂f
∂ydy
f(x) = f(x0) + f ′(x0)(x − x0) + 12f ′′(x0)(x − x0)2 + · · ·
6.1 多変数関数の微分
・変数が n個ある関数(定義域Dが Rnの部分集合となる関数)f : D → R (D ⊆ Rn)を n変数
関数といい,その値を
f(x1, x2, . . . , xn)
などで表す.例えば,n種類の原材料から生産される 1種類の製品の生産量 F (x1, x2, . . . , xn)や,
n種類の財の組み合わせの消費から得られる効用 u(x1, x2, . . . , xn)などは n変数関数である.
・ n変数のうち i番目の変数 xiに注目して,他の変数 xj (j 6= i)を変化させず(定数とみなす)に
xiのみを変数とみなした微分を xiに関する偏微分といい,その導関数とその値を
1階の偏微分 fi, fxi ,∂f
∂xi, ;
∂f
∂xi(x1, x2, . . . , xn)
2階の偏微分 fij , fxixj ,∂2f
∂xj∂xi;
∂2f
∂xj∂xi(x1, x2, . . . , xn)
などで表す.
(例) f(x, y) = xy2 ⇒ fx(x, y) = y2, fy(x, y) = 2xy, fxy(x, y) = 2y
偏微分した結果が連続関数であれば,偏微分の順序を交換しても結果は同じ(ヤングの定理):
fxy(x, y) = fyx(x, y)
・各変数 xiがすべて微少な量 dxiだけ増加した場合を考えよう.各変数 xiの増加による関数 f の
増加の寄与は∂f
∂xidxi
だから,関数値の増加 df は,
df =∂f
∂x1dx1 +
∂f
∂x2dx2 + · · · + ∂f
∂xndxn
である.これを関数 f の全微分という.
(例) f(x, y) = xy2 ⇒ df = y2 dx + 2xy dy
・偏微分は関数 f のグラフを xi軸に沿って接線(直線)で近似することで,全微分は f のグラフ
がある (n + 1)次元空間の中で接平面(n次元の平面)で近似することに相当する.
31
6.2 ミクロ経済学への応用:無差別曲線と限界代替率(経済)
・ 2財の消費 (x, y)から得る効用を z = u(x, y) = xy (x ≥ 0, y ≥ 0) とする.
下記のグラフに各自描き入れなさい.
HHHHHHHHj
»»»»»»»»:
6
x
y
z
・無差別曲線:u(x, y) = u(x0, y0) =一定の値 kとなる点 (x, y)の集合
-
6
x
y
rr
x0
y0
・各財に関する効用と限界効用
-
6
x
z = u(x, y0)
rx0
-
6
y
z = u(x0, y)
ry0
・無差別曲線 u(x, y) = kの上の点は効用が一定 du = 0 なので,無差別曲線の傾きは
du =∂u
∂xdx +
∂u
∂ydy = 0 ⇒ dy
dx
∣∣∣u(x,y)=k
= −∂u∂x∂u∂y
となる.この傾きは,効用水準を維持しながら財 xの消費を 1単位増加させる場合に,減らさな
ければならない財 yの消費量である.この量を 限界代替率という.上の例では,
∂u∂x∂u∂y
=y
x
32
6.3 テーラー展開
・ f を n回微分して得られた導関数を f (n)と表し,n階微分という.
(例) f(x) = xm ⇒ f (n)(x) = m(m − 1) · · · (m − n + 1)xm−n, f(x) = ex ⇒ f (n)(x) = ex
・ y = f(x) = ln xを,我々が最も見慣れている y = 3x+2や y = −x2 +2x+1のような多項式(整
式)で近似することを考えよう.全ての範囲で近似するのは難しいので局所的に,例えば x = 1近
辺で近似することを考える.1次関数(直線)で近似する場合,y = lnxの (1, 0)における接線が適
当であろう.すなわちそれは y−0 = c1(x−1)という式で表され,c1は (1, 0)における接線の傾き
f ′(1)であり,ここでは c1 = 1となる.1次関数での近似の様子を次頁の図 1に示す.次に 2次関
数(放物線)で近似することを考える.先ほどの 1次関数の式に 2次の項を付け加えるのだが,や
はり (1, 0)を通るようにするため,y−0 = c1(x−1)+c2(x−1)2という式で近似する.ここに係数
c2はf ′′(1)
2! ととればよいことが知られており,ここでは c2 = −12 である.2次関数での近似の様子
を次頁の図 2に示す.次に 3次関数で近似することを考える.先ほどの 2次関数の式に 3次の項を
付け加えるのだが,やはり (1, 0)を通るようにするため,y−0 = c1(x−1)+c2(x−1)2+c3(x−1)3
という式で近似する.ここに係数 !c3はf (3)(1)
3! ととればよいことが知られており,ここでは c3 = 13
である.3次関数での近似の様子を次頁の図 3に示す.次数を上げるほど近似がよくなっていく
のがとれるであろう.
・一般に,関数 f(x)の x0周りでの近似を考えるとき,上記のような操作を際限なく繰り返してい
くと,x0の周辺において関数 f に一致することが知られている.その際の n次関数の係数に n
階微係数 f (n)(x0)が現れ,以下の x0の周りのテーラー展開が得られる.Â
Á
¿
Àf(x) = f(x0) +
f ′(x0)1!
(x − x0) +f ′′(x0)
2!(x − x0)2 + · · · + f (n)(x0)
n!(x − x0)n + · · ·
x0における微分の値によって,x0の周辺における関数の値を決定できることを意味している.
(例)
· ex = 1 +11!
x +12!
x2 + · · · + 1n!
xn + · · · =∞∑
n=0
1n!
xn (exを x = 0の周りでテーラー展開)
· ex = e +e
1!(x − 1) +
e
2!(x − 1)2 + · · · + e
n!(x − 1)n + · · · =
∞∑n=0
e
n!(x − 1)n
(exを x = 1の周りでテーラー展開)
· x2 = 1 +21!
(x − 1) +22!
(x − 1)2 +03!
(x − 1)3 +(以降ずっとゼロ)= x2
(x2を x = 1の周りでテーラー展開. 多項式は結局もとの形に戻る)
· x3 = 1 +31!
(x − 1) +62!
(x − 1)2 +63!
(x − 1)3 +04!
(x − 1)4 +(以降ずっとゼロ)= x3
(x3を x = 1の周りでテーラー展開. 多項式は結局もとの形に戻る)
33
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0
-1.5
-1.0
-0.5
0.0
0.5
1.0
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0
-1.5
-1.0
-0.5
0.0
0.5
1.0
図 1: y = lnx(実線)と y = x − 1(点線)
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0
-1.5
-1.0
-0.5
0.0
0.5
1.0
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0
-1.5
-1.0
-0.5
0.0
0.5
1.0
図 2: y = lnx(実線)と y = x − 1 − 12(x − 1)2(点線)
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0
-1.5
-1.0
-0.5
0.0
0.5
1.0
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0
-1.5
-1.0
-0.5
0.0
0.5
1.0
図 3: y = ln x(実線)と y = x − 1 − 12(x − 1)2 + 1
3(x − 1)3(点線)
34
練習問題
Ex 6-1. (a) 次の式を原点周り (x0 = 0)のテーラー展開によって証明しなさい.
ex = 1 + x +12x2 + · · · + 1
n!xn + · · · =
∞∑n=0
1n!
xn
(b) エクセル等で 1 + 11! + 1
2! + 13! + · · · + 1
n! を n = 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7について計算し,
exp(1)に近づくことを確認しなさい.また,その結果と Ex 4-1と比較しなさい.
(n! = 1 · 2 · · ·n, エクセルでは=fact(n))
Ex 6-2. Ex 6-1 の結果を用いて次の式を証明しなさい.(左辺はポアソン分布の確率関数の和)
∞∑k=0
e−xxk
k!= 1
Ex 6-3. 次の 2変数関数の偏微分 fx, fy, fxy, fxx, fyy を求めなさい.
f(x, y) = xαyβ
演習問題
Problem 6-1. 次の 2変数関数の偏導関数 fx, fy, fxx, fxy, fyy を求めなさい.
(a) f(x, y) = x4+y4 (b) f(x, y) = (xρ+yρ)1/ρ (ρ > 0) (c) f(x, y) = ln(x2+y2)
Problem 6-2. 次の関数の原点 x = 0の周りのテーラー展開における 2次以下の項を求めなさい.
(a) (1 + x)T (b) ln(1 + x) (c) x2ex
Problem 6-3. 効用関数が u(x, y) = xαyβ (α > 0, β > 0)の場合の (x0, y0)における限界代替率を
求めなさい.
35
復習問題
Quiz 6-1. 次の関数を偏微分しなさい.
(a) (x + y)(x2 + xy + y2) (b)1
x2 + y2(c)
x + y
x2 + y2
(d)√
x2 + y2 (e) x0.3y0.7
Quiz 6-2. 次の関数の全微分を求めなさい.
(a) z = 3x3 − 2x2y + y2 + 3 (b) z = (x + 2y + 3)2
Quiz 6-3. (効用関数の偏微分) 以下の効用関数を偏微分して限界効用を求めなさい.
(a) U = x1x2 (b) U = 10x1/21 x
1/32 x
1/43 (c) U = 12
(0.4x
−1/21 + 0.6x
−1/22
)−2
Quiz 6-4. (生産関数の偏微分と限界生産力)
生産要素である資本 K と労働 L を用いて生産される量 Y の関係を表す関数 Y =
Y (K,L)を生産関数といい,生産要素に関する生産関数の偏微分 YK , YLを限界生産力
という.
生産関数がコブ=ダグラス生産関数 Y = KαL1−αの場合の限界生産力 YK , YLを求め
なさい.
Quiz 6-5. (CES生産関数の限界生産力)
生産関数が CES生産関数 Y = [δK−r + (1 − δ)L−r]−1/r の場合の限界生産力 YK , YL
を求めなさい.
Quiz 6-6. (効用関数の全微分と限界代替率) 効用関数 u = ax1 + bx2について以下の問いに答え
なさい.
(a) 効用関数を全微分しなさい.
(b) 効用水準が一定 (u = u)となる無差別曲線を描きなさい.
(c) 限界代替率 ∂u/∂x1
∂u/∂x2= a
b となることを (a)で解いた全微分から示しなさい.
Quiz 6-7. (テーラー展開)次の関数 f(x)の x = 0における 2次までのテーラー展開を求めなさい.
(a) f(x) =√
1 − x (b) f(x) = ln(1+x+x2) (c) f(x) = ex ln(1+x)
36
7 最大化問題・最小化問題の1階条件と2階条件
項目 局所的最大(極大)・大域的最大,1階条件,1変数関数の 2階条件,企業の利潤最大化
公式 1階条件:n変数関数 f が点 x∗で極大または極小 ⇒ ∀i = 1, 2, · · · , n,∂f
∂xi(x∗) = 0
1変数関数の 1階条件と 2階条件
f ′(x∗) = 0, f ′′(x∗) < 0 ⇒ (端点ではない)点 x∗ ∈ Dで極大
f ′(x∗) = 0, f ′′(x∗) > 0 ⇒ (端点ではない)点 x∗ ∈ Dで極小
7.1 関数の最大・最小:局所的と大域的
・消費者の効用最大化,企業の利潤最大化などの個人や企業の行動原理を考察することは,多くの
場合,目的関数を最大化,あるいは最小化させる変数の値を調べることに帰着する.以下の関数
の最大化・最小化では,2階微分可能な関数に限定する.
・D ⊆ Rnとする.関数 f : D → Rが,ある点 x∗ ∈ Dについて
∀x ∈ D, f(x∗) ≥ f(x)
が成立する場合に,f は x∗で大域的な最大値を取る,という.不等式が逆向きとなる場合
∀x ∈ D, f(x∗) ≤ f(x)
には,f は x∗で大域的な最小値を取る,という.大域的最大・大域的最小は,定義域D上のす
べての点に対する関数値と比べて大小関係が成立する場合を指すことに対して,x∗のある周辺
U (x∗ ∈ U ⊆ D)に限定して,Uの中では最大
∀x ∈ U, f(x∗) ≥ f(x)
となる場合を,f は x∗で局所的な最大値(あるいは,極大値)を取る,という(局所的な最小値
(極小値)は,不等号を逆向きにして同様に定義される).
f が x∗で極大あるいは極小であるとき,f(x∗)を極値(極大値あるいは極小値),x∗を極値点,
という.
・ f は x∗で大域的な最大値を取れば,極大値でもあるが,逆は必ずしも成立しない(極大であって
も大域的な最大とは限らない).すなわち,極大は大域的な最大であるための必要条件ではある
が,十分条件であるとは限らない.
37
7.2 関数の極大・極小の必要条件:1階条件
n変数関数 f : D → R (D ⊆ Rn)が点 x∗ ∈ Dで極大または極小であれば,どの方向でも微係
数が 0になっているのでº¹
·¸
n変数関数 f : D → R (D ⊆ Rn)について
(端点ではない)点 x∗ ∈ Dで極大または極小 ⇒ ∀i = 1, 2, · · · , n,∂f
∂xi(x∗) = 0
条件∂f
∂xi(x∗) = 0 (∀i = 1, 2, · · · , n) を 1階条件という.
7.3 1変数関数の極大・極小の十分条件:2階条件
1変数関数 f : D → R (D ⊆ R)の場合は,上に凸 (f ′′(x∗) < 0)か下に凸 (f ′′(x∗) > 0)かによっ
て,極大・極小が定まる.º¹
·¸
f ′(x∗) = 0, f ′′(x∗) < 0 ⇒ (端点ではない)点 x∗ ∈ Dで極大
f ′(x∗) = 0, f ′′(x∗) > 0 ⇒ (端点ではない)点 x∗ ∈ Dで極小
f ′′(x∗)の符号が極大・極小の十分条件の一部となるので,上記の f ′′(x∗)の符号条件を 2階条件
という.(例) f(x) = x2 : f ′(0) = 0, f ′′(0) = 2 > 0 ⇒ x∗ = 0で極小.
f(x) = −x2 : f ′(0) = 0, f ′′(0) = −2 < 0 ⇒ x∗ = 0で極大.
7.4 凹関数と凸関数
・凹関数・凸関数については,1階条件が,極大・極小および大域的な最大・最小の必要十分条件
になることが知られている.すなわち,2階条件等を調べることなく,1階条件のみで最大もし
くは最小を判定できる.
・凹関数と凸関数
至るところ上に凸である関数は凹関数,至るところ下に凸である関数は凸関数と呼ばれる.正確
には,関数 f : D → R (D ⊆ Rn)が任意の 2点 x, y ∈ Dと 0 ≤ α ≤ 1を満たす任意のαについて,
f(αx + (1 − α)y) ≥ αf(x) + (1 − α)f(y)
を満たすとき,f を(広義の)凹関数と呼び,この逆向きの不等号が成り立つ場合,f を(広義
の)凸関数と呼ぶ.
・上記条件で等号をはずした形で成立する場合を狭義の凹関数という.すなわち,関数 f : D →R (D ⊆ Rn)が任意の異なる 2点 x, y ∈ Dと 0 < α < 1を満たす任意の αについて,
f(αx + (1 − α)y) > αf(x) + (1 − α)f(y)
を満たすとき,f を狭義の凹関数と呼び,この逆向きの不等号が成り立つ場合,f を狭義の凸関
数と呼ぶ.
38
・微分可能な 1 変数関数 f が凹関数であるための必要十分条件は ∀x ∈ D, f ′′(x) ≤ 0(導関数
が単調非増加)である.また,微分可能な 1変数関数 f が凸関数であるための必要十分条件は
∀x ∈ D, f ′′(x) ≥ 0(導関数が単調非減少)である.
・効用関数が凹関数であるとは,限界効用逓減と同じ.
・ 1変数関数 f が狭義凹関数であるための十分条件は ∀x ∈ D, f ′′(x) < 0である.(必要条件ではな
い.例えば,f(x) = −x4は狭義凹関数であるが,f ′′(0) = 0である.)1変数狭義凸関数であるた
めの十分条件は ∀x ∈ D, f ′′(x) > 0である.
(狭義凹関数の例) f(x) = −x2, f(x) =√
x (x > 0), f(x, y) = −(x2 + y2)
(狭義凸関数の例) f(x) = x2, f(x) = x3 (x > 0), f(x, y) = x2 + y2
f が狭義凹関数ならば,局所的最大と大域的最大は一致し,1階条件が(極大のみならず)大域
的最大の必要十分条件となる.'
&
$
%
狭義凹関数 f : D → R (D ⊆ Rn)について
(端点ではない)点 x∗ ∈ Dで大域的最大 ⇔ ∀i = 1, 2, · · · , n,∂f
∂xi(x∗) = 0
狭義凸関数 f : D → R (D ⊆ Rn)について
(端点ではない)点 x∗ ∈ Dで大域的最小 ⇔ ∀i = 1, 2, · · · , n,∂f
∂xi(x∗) = 0
7.5 企業の利潤最大化(経済)
・ある企業は,価格 pの生産物を製造・販売している.q単位の生産物を生産するためには費用C(q)
がかかる.生産物価格 pは市場で決定されている時,企業は利潤を最大にする最適生産量 q∗を
どのように決定すればよいであろうか?
・利潤関数
企業は,費用 C(q)を支払って生産・販売することで収入 pqを得るので,利潤は
π(q) = pq − C(q)
である.したがって,利潤最大化の 1階条件はdπ
dq(q) = p − C ′(q) = 0 ⇔ p = C ′(q) ⇔ 価格=限界費用
である.
・費用関数の例
C(q) = a + bq2 (a ≥ 0, b > 0)
⇒ π(q) = pq − (a + bq2)
1階条件dπ
dq(q∗) = p − 2bq∗ = 0 ⇔ q∗ =
p
2b
2階条件d2π
dq2(q∗) = −2b < 0
この場合の企業の最適生産量は q∗ = p/(2b)である.
なお,aが固定費用,C ′(q) = 2bqが限界費用を表す.
39
練習問題
Ex 7-1. 次の関数のグラフを書き,極大,極小,最大,最小があればどこにあるか,示しなさい.
(a) f(x) = x3 (b) f(x) = x3 − x (c) f(x) = |x| (xの絶対値)
Ex 7-2. xと yは相異なる実数として,αが次の値であるときに,実数 αx + (1−α)yはそれぞれ
どのような値をとるか.
(a) α = 0 (b) α = 1 (c) α =12
xと yがベクトル(したがって αx + (1 − α)yもベクトル)のときはどうか.
Ex 7-3. f(x) = x2とする.次の各不等式が成り立つことを計算で確かめなさい.
(a)12f(1) +
12f(3) > f(2) (b)
12f(k) +
12f(k + 2) > f(
12k +
12(k + 2))
(c) αx2 + (1 − α)y2 > (αx + (1 − α)y)2 (x, y ∈ R, x 6= y, 0 < α < 1)
これらの不等式を図で説明するとしたら,どのような説明が可能であるか考えなさい.
演習問題
Problem 7-1. 次の関数に極大値,極小値,最大値,最小値があれば,それらをすべて求めなさい.
(a) f(x) = x3 − x (b) f(x) = x3 − x2 (b) f(x) = x lnx (x > 0)
Problem 7-2. (♠) x∗に十分近いxにおける値 f(x)をx∗の周りでテーラー展開して,f(x∗)が極大
値であるためには f ′(x∗) = 0が必要条件であることと,f ′(x∗) = 0かつ f ′′(x∗) < 0
が十分条件であることを確かめなさい.さらに,f ′(x∗) = f ′′(x∗) = 0の場合,f(x∗)
が極大値であるための必要条件と十分条件は何か,テーラー展開の 3次の項と 4次
の項を用いて考えなさい.
Problem 7-3. 製品価格が 1で,費用関数が C(q) = 1 + 12q2である企業の最適生産量を求めなさ
い.また,製品価格が 3の場合の最適生産量はいくらになるか求めなさい.
Problem 7-4. 製品価格が 1で,費用関数がC(q) = 13q3 − 3
2q2 + 3q + 1である企業の最適生産量
を求めなさい.
復習問題
Quiz 7-1. 次の関数の極大値,極小値,最大値,最小値があれば,それらをすべて求めなさい.
(a) y = x3 − 2x2 − 4x + 1 (b) y =x2
x4 + 1(c) y = e−x2
(d) y = xe−x2
Quiz 7-2. 次の関数に極大値,極小値,最大値,最小値があれば,それらをすべて求めなさい.
(a) y = 0.5x3−3x2+6x+10 (b) y = x+1x
(c) y =2 − x
x2 + x − 2(d) y = x0.5e−0.1x
40
Quiz 7-3. (企業の利潤最大化)完全競争市場において,ある財を生産する企業の総費用曲線が
c = x3 − 6x2 + 24x (c :総費用, x :財の生産量)
で示されるとする.財の価格が 60で与えられたとき,この企業の利潤が最大となる産
出量はいくらか.(平成6年国税専門官) 1. 3 2. 4 3. 6 4. 8 5. 10
Quiz 7-4. (企業の利潤最大化)完全競争市場において,ある企業の総費用関数 TC は,財の生
産量を qとすると次の式で与えられる.財の市場価格を 130としたとき,この企業の
利潤を最大にする生産量として,正しいのはどれか.(平成 15年地方上級)
TC =13q3 − 7
2q2 + 10q + 25
1. 5 2. 8 3. 10 4. 15 5. 17
Quiz 7-5. (♠)(♦)(限界費用と平均費用の関係) y単位の製品の生産をするには総費用C = C(y)
がかかる.ここに C ′(y) > 0, C ′′(y)> 0を仮定する.平均費用をAC(y) = C(y)y ,限
界費用をMC(y) = dC(y)dy と表すとき,次の図のように,限界費用線MC が平均費用
線ACの最小値を通ること (換言するとACが最小値になる点ではAC = MCになる
こと)を証明しなさい. (ヒント: AC の最小値の 1階条件を求めなさい.)
-
6
y
C
O
•
C
¶¶
¶¶
!!!!
-
6
y
AC,MC
O
ACMC
Quiz 7-6. (♦)(操業停止価格) x財を生産するある企業の費用関数が
c = x3 − 6x2 + 15x + 30 (c :総費用, x : x財の生産量)
で示されるとする.企業の短期操業停止価格はいくらか.
ただし,短期操業停止価格とは,企業が短期において生産量を x = 0 とするような x
財価格の最大値を意味する.(地方上級)
1. 3 2. 6 3. 10 4. 15 5. 30
(ヒント: 短期操業停止価格=最小平均可変費用. )
Quiz 7-7. (♦)(独占企業の利潤最大化) ある独占企業の費用関数は
C = x2 + 10 (C :総費用, x :生産量)
で示され,また,この企業が直面する需要曲線は,
Q = 20 − p (Q :需要量, p :製品価格)
で示される.この時,この独占企業の利潤が最大となる製品価格を求めなさい.
( ヒント: 利潤関数は π = p × Q − C = (20 − x)x − (x2 + 10) ) (国税専門官)
1. 5 2. 8 3. 12 4. 15 5. 18
41
8 多変数関数の最大化問題・最小化問題
項目 2変数関数の 2階条件,最小 2乗法:回帰直線の導出
記号 ヘッセ行列式 H(x)
公式 2変数関数の 2階条件
f1(x∗) = 0, f2(x∗) = 0, f11(x∗) < 0, H(x∗) > 0 ⇒ 点 x∗ ∈ Dで極大
f1(x∗) = 0, f2(x∗) = 0, f11(x∗) > 0, H(x∗) > 0 ⇒ 点 x∗ ∈ Dで極小
8.1 関数の極大・極小の必要条件:1階条件(再掲)
n変数関数 f : D → R (D ⊆ Rn)が点 x∗ ∈ Dで極大または極小であれば,どの方向でも微係
数が 0になっているのでº¹
·¸
n変数関数 f : D → R (D ⊆ Rn)について
(端点ではない)点 x∗ ∈ Dで極大または極小 ⇒ ∀i = 1, 2, · · · , n,∂f
∂xi(x∗) = 0
条件∂f
∂xi(x∗) = 0 (∀i = 1, 2, · · · , n) を 1階条件という.
8.2 2変数関数の極大・極小の十分条件:定符号の条件
2変数関数 f : D → R (D ⊆ R2)の場合の 2階条件は,1変数関数の結果から,1階条件と
f11(x∗) < 0, f22(x∗) < 0 で極大の十分条件になると予想するかもしれないが,すべての方向に
ついて極大にならなければならないので,次の条件が十分条件である.
#
"
Ã
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f1(x∗) = 0, f2(x∗) = 0, v ·
(f11(x∗) f12(x∗)
f21(x∗) f22(x∗)
)v < 0 ∀v 6=
(0
0
)⇒ 点 x∗ ∈ Dで極大
f1(x∗) = 0, f2(x∗) = 0, v ·
(f11(x∗) f12(x∗)
f21(x∗) f22(x∗)
)v > 0 ∀v 6=
(0
0
)⇒ 点 x∗ ∈ Dで極小
この条件は,次のようにして確認できる.点 x∗で極大ならば,任意の方向 vと大きさ h ∈ Rでx∗ → x∗ + hv (h ∈ R)と動いても,f(x)の増分は 0である.すなわち,g(h) = f(x∗ + hv)を h
の関数とみて h = 0で極大になるための十分条件は,前回の 1変数関数の結果から,
1階条件dg
dh(0) = 0 : f1(x∗)v1 + f2(x∗)v2 = 0
2階条件d2g
dh2(0) < 0 :
f11(x∗)v21 + f12(x∗)v1v2 + f21(x∗)v2v1 + f22(x∗)v2
2 < 0
f11(x∗) < 0と f22(x∗) < 0は,それぞれ方向を v = (1, 0)(x1軸方向)と v = (0, 1)(x2軸方向)
に限定したときの条件にすぎない.(極小についても同様)
42
8.3 2変数関数の極大・極小の十分条件:2階条件
前節の条件は,次の条件と同値であることが知られている.¶µ
³´
f1(x∗) = 0, f2(x∗) = 0, f11(x∗) < 0, H(x∗) > 0 ⇒ 点 x∗ ∈ Dで極大
f1(x∗) = 0, f2(x∗) = 0, f11(x∗) > 0, H(x∗) > 0 ⇒ 点 x∗ ∈ Dで極小
ここで,2変数関数 f : D → R (D ⊆ R2)に対して,
H(x) = det
(f11(x) f12(x)
f21(x) f22(x)
)= f11(x)f22(x) − (f12(x))2
とする(上記行列はヘッセ行列,その行列式H(x)はヘッセ行列式と呼ばれる.f12(x) = f21(x)
に注意).
f11(x∗)の符号条件とH(x∗) > 0を合わせて 2階条件という.
H(x∗) < 0となる場合には,極大・極小を取らず,H(x∗) = 0の場合は,これだけでは判定でき
ないことが知られている(例:f(x, y) = x4 + y4 は点 (0, 0))で極小であるが,H(0, 0) = 0).(例) f(x, y) = x2 + y2のとき,
f1(x, y) = 2x, f2(x, y) = 2y, f11(x, y) = 2, f12(x, y) = f21(x, y) = 0, f22(x, y) = 2
となり,点 (0, 0)において
f1(0, 0) = 0, f2(0, 0) = 0, f11(0, 0) = 2 > 0,
H(0, 0) = f11(0, 0)f22(0, 0) − (f12(0, 0))2 = 4 > 0,
となるので,点 (0, 0)において極小である.
8.4 最小 2乗法:回帰直線の導出
・観測可能な 2種類の変数 xと y(例:所得と消費,身長と体重)について,線形関係を仮定する.
y = a + bx
実際に n個 (n ≥ 2) の 2次元データ (x1, y1), (x2, y2), . . . , (xn, yn) (x1, x2, . . . , xnは相異なる)
を観測したときに,これらのデータの当てはまりがよい直線の係数 a, bを求めたい.
・最小 2乗法の考え方:観測値 yiと「理論値」yi = a + bxiの誤差の 2乗和
I(a, b) =n∑
i=1
(yi − yi)2 =n∑
i=1
(yi − (a + bxi))2
を最小にする a = α, b = βを求める.こうして得られる直線を回帰直線という.
・偏微分
Ia(a, b) = −2n∑
i=1
(yi − (a + bxi)), Ib(a, b) = −2n∑
i=1
xi(yi − (a + bxi)),
Iaa(a, b) = 2n∑
i=1
1 = 2n > 0, Iab(a, b) = 2n∑
i=1
xi, Ibb(a, b) = 2n∑
i=1
x2i ,
H(a, b) = Iaa(a, b)Ibb(a, b) − Iab(a, b)2 = 4
n
n∑i=1
x2i −
(n∑
i=1
xi
)2 > 0
43
・ I(a, b)は極小の 2階条件 Iaa(a, b) > 0, H(a, b) > 0を満たす狭義凸関数であるので,大域的最小
のためには 1階条件のみを課せばよい.
E[X] =1n
n∑i=1
xi, E[Y ] =1n
n∑i=1
yi, E[X2] =1n
n∑i=1
x2i , E[XY ] =
1n
n∑i=1
xiyi とすれば
1階条件 Ia(α, β) = −2n∑
i=1
(yi − (α + βxi)) = 0 ⇔ E[Y ] = α + βE[X]
Ib(α, β) = −2n∑
i=1
xi(yi − (a + bxi)) = 0 ⇔ E[XY ] = αE[X] + βE[X2]
より(α
β
)=
(1 E[X]
E[X] E[X2]
)−1 (E[Y ]
E[XY ]
)=
1E[X2] − E[X]2
(E[X2] −E[X]
−E[X] 1
)(E[Y ]
E[XY ]
)
=1
E[X2] − E[X]2
(E[X2]E[Y ] − E[X]E[XY ]
E[XY ] − E[X]E[Y ]
)
となり,回帰直線 y = α + βxを得ることができる.(E等の記号はAppendix A.確率を参照.)さ
らに,V ar[X] = E[X2] − E[X]2, Cov[X,Y ] = E[XY ] − E[X]E[Y ]とおけば次のように整理で
きる. ²±
¯°β =
Cov[X,Y ]V ar[X]
, α = E[Y ] − βE[X]
44
練習問題
Ex 8-1. 行列 A =
(a11 a12
a21 a22
)でベクトル v =
(v1
v2
)を変換したベクトル Avを計算しなさい.
さらに vとこのベクトルAvの内積 v · Avを計算しなさい.
Ex 8-2. 次の不等式が成り立つことを確かめなさい.
(a) 2(x21 + x2
2) ≥ (x1 + x2)2 (b) 3(x21 + x2
2 + x23) ≥ (x1 + x2 + x3)2
Ex 8-3. X = (x1, · · · , xn), Y = (y1, · · · , yn) として,関数 E[X] = 1n
∑ni=1 xi が線形である
(E[X + Y ] = E[X] + E[Y ],E[αX] = αE[X]を満たす)ことを確かめなさい.
さらに,次の式が成り立つことを確かめなさい.
(a) E[(X−E[X])2] = E[X2]−E[X]2 (b) E[(X−E[X])(Y −E[Y ])] = E[XY ]−E[X]E[Y ]
Ex 8-4. 関数 f(x, y) = x2yのヘッセ行列を書き,ヘッセ行列式H(x, y)の値を求めなさい.
演習問題
Problem 8-1. (a) 関数f(x, y) = (x+y)2+(2x+y)2が極小の2階条件fxx(x, y) > 0, H(x, y) > 0
を満たすことを示しなさい.
(b) 関数 f(x, y) = (ax + y)2は fxx(x, y) > 0を満たすがH(x, y) = 0であること
を示しなさい.
Problem 8-2. f(x) = ln(x1x2)と正のベクトル p = (p1, p2)で作られる g(x) = f(x) − p · xが最大化の 2階条件を満たすことを示しなさい.
Problem 8-3. 関数 f(x, y) = x2 − y2は原点において 1階条件を満たすか.2階条件はどうか.こ
の関数のグラフはどのような形をしているかも考えなさい.
Problem 8-4. 2変数関数 f(x) = ln(x1x2) (x1, x2 > 0)と正のベクトル p = (p1, p2) (p1, p2 > 0)
で,新たな 2変数関数 gを g(x) = f(x)− p · xと定義する.関数 gの最大化の 1階
条件を示しなさい.
復習問題
Quiz 8-1. 次の関数 f(x, y)の極大値または極小値を求めなさい.
(a) f(x, y) = x2 + xy + y2 − 4x − 2y
(b) f(x, y) = x2 + 2y3 − 9y2 + 12y
(c) f(x, y) = xy(x2 + y2 − 1)
(d) f(x, y) = 1x + 1
y − xy, (x 6= 0, y 6= 0)
Quiz 8-2. (♠)(関数の凸性) 以下の関数が凸関数であるかどうかを調べなさい.
(a) y = x21 + x2
2 (b) y = x21x
22
45
Quiz 8-3. (♠)(効用関数と生産関数の凹性)以下の関数が凹関数であることを示しなさい.
(a) (効用関数) U = f(x1, x2) = (x1 + x2)1/2
(b) (生産関数) Y = f(K,L) = K1/2L1/2
Quiz 8-4. (利潤最大化の 1階条件と 2階条件)利潤関数がπ = pY −wL−rK, (p:財の価格,Y :生
産量,w:賃金,L:労働量,r:レンタル料,K:資本)であり,生産関数がY = 3K0.5L0.5
であるとき,利潤関数の 1階条件を賃金wとレンタル料 rから求めなさい.また利潤
関数の 2階条件を確認しなさい.
Quiz 8-5. (利潤最大化の 1階条件と 2階条件) 上の問題で,生産関数をコブ=ダグラス生産関数
Y = KαLβ (α, β > 0, α + β = 1) に置き換えて,利潤関数の 1階条件を賃金 wとレ
ンタル料 rから求めなさい.利潤関数の 2階条件を確認しなさい.また,α + β < 1の
場合の 2階条件も確認しなさい.
Quiz 8-6. (回帰直線) 消費関数 C = α + βY で,E(Y ) = 9, E(C) = 8, E(Y 2) = 100,
E(CY ) = 80であるとき,α, βの値を求めなさい.
Quiz 8-7. (♦)(差別価格) 独占企業は自国と外国の 2つの市場をもっており,それぞれの需要関
数が q1 = 10 − p1, q2 = 5 − 0.5p2 である.q1, p1は自国の需要量と価格であり,q2,
p2は外国の需要量と価格である.総費用関数が C = 0.5(q1 + q2)2 と表せるとき,こ
の独占企業の利潤が最大になる生産量 q1, q2と価格 p1, p2を求めなさい.(平成元年 地
方上級 改題) (ヒント: 利潤関数 π = q1p1 + q2p2 − C の最大化となる点を求めな
さい.)
46
9 制約付きの最大化問題・最小化問題
項目 ラグランジュの未定乗数法,予算制約下の効用最大化
記号 ラグランジュ乗数 λ,ラグランジュ関数 L(x, λ) = f(x) + λ(c − g(x))
公式 L1(x∗, λ∗) = 0, L2(x∗, λ∗) = 0, · · · Ln(x∗, λ∗) = 0, Lλ(x∗, λ∗) = 0
9.1 制約付きの最大化問題
消費者が効用を最大化させる消費を選択する際に,予算は有限なので,選択できる消費の組み
合わせは限定される.このような制約付き最大化問題を考える.
すなわち,n変数関数 f : D → R, g : D → R (D ⊆ Rn)に対して
maxx∈D
f(x) s.t. g(x) = c
の解を与える x∗ ∈ D ⊆ Rnを求める(s.t. は subject to あるいは such that の略記).
f を目的関数,g(x) = cを制約条件と呼ぶ.
制約付き最小化問題は,目的関数 f を−f に置き換えれば制約付き最大化問題に帰着する.
9.2 ラグランジュの未定乗数法
・上記の制約付きの最大化問題を,制約なしの最大化問題と同じように扱えるようにする方法が,
次に述べるラグランジュの未定乗数法である.この解法は,理論的にも応用的も重要である.
ラグランジュ乗数と呼ばれる新たな変数 λを追加してラグランジュ関数 Lを®
©ªL(x, λ) = f(x) + λ(c − g(x))
と定義する.このとき,点 x∗ ∈ Dにおいて,制約条件の下で目的関数が極値を取っていれば
∀i = 1, 2, . . . , n, fi(x∗) − λ∗gi(x∗) = 0, g(x∗) = c
を満たす λ∗が存在することが知られている.すなわち,Lの制約なしの極値条件(xに関して極
大,λに関して極小となる鞍点)®
©ªL1(x∗, λ∗) = 0, L2(x∗, λ∗) = 0, · · · Ln(x∗, λ∗) = 0, Lλ(x∗, λ∗) = 0
を満たすことになる.特に,2変数の最大化問題max f(x1, x2) s.t. g(x1, x2) = cでは,®
©ªf1(x∗
1, x∗2) − λ∗g1(x∗
1, x∗2) = 0, f2(x∗
1, x∗2) − λ∗g2(x∗
1, x∗2) = 0, g(x∗
1, x∗2) = c
・条件 L1(x∗, λ∗) = 0, L2(x∗, λ∗) = 0, · · · Ln(x∗, λ∗) = 0は,制約があるために,制約付き
最大化問題において最適な点 x∗では,目的関数 f の微係数は 0ではなく,制約 gの微係数の定
数倍 f1(x∗)
f2(x∗)...
fn(x∗)
= λ∗
g1(x∗)
g2(x∗)...
gn(x∗)
47
となっていることを示している.これは,点 x∗において,目的関数 f の増加方向を示すベクト
ルと制約 gの増加方向を示すベクトルが,平行になっていること,という条件である.
また,条件 Lλ(x∗, λ∗) = 0は,制約条件そのもの g(x∗) = c である.
したがって,最適な点 x∗では目的関数の等高線が制約条件のグラフに接している状態となる.
x1
x2
• x∗¡¡
¡µ
¡ª
„
f1(x∗)
f2(x∗)
«
„
g1(x∗)
g2(x∗)
«
f(x) = f(x∗)(一定)
g(x) = c
・ラグランジュ乗数 λ∗の意味
制約条件における定数cが微少に増えて制約条件が緩和された場合に目的関数 f の値がどれだけ増加
するか,を考えよう.ただし,f gは増加関数とする(fi(x) ≥ 0, gi(x) ≥ 0,∀i = 1, 2, . . . , n).最
適な点 x∗を cの関数 x∗(c)と考えて,制約条件 g(x∗1(c), . . . , x
∗n(c)) = cを cで微分すれば
n∑i=1
∂g
∂xi(x∗(c))
dx∗i (c)dc
= 1
となる.このとき,目的関数の増加率は,1階条件 fi(x∗) = λ∗gi(x∗)を用いて
df(x∗(c))dc
=n∑
i=1
∂f
∂xi(x∗(c))
dx∗i (c)dc
=n∑
i=1
λ∗ ∂g
∂xi(x∗(c))
dx∗i (c)dc
= λ∗
となり,ラグランジュ乗数 λ∗と一致する.したがって,fi(x) ≥ 0, gi(x) ≥ 0ならば,1階条件
より,λ∗ ≥ 0である.
・制約条件 g(x) = cを一般的にあらわすとき,しばしば g(x) = 0の形に書かれる.この場合,ラ
グランジュ関数は L(x, λ) = f(x) − λg(x)の形になる.
・制約条件が二つ以上ある場合 g1(x) = c1, · · · , gm(x) = cm にも,ラグランジュ乗数を増やして
同様に扱える.
L(x, λ1, · · · , λm) = f(x) + λ1(c1 − g1(x)) + · · · + λm(cm − gm(x)).
(例) 条件 x + y = 1の下で x2 + y2の最小値を考える.
ラグランジュ関数を L(x, y, λ) = x2 + y2 + λ(1 − x − y)とおくと,その 1階条件は
Lx = 2x∗ − λ∗ = 0, Ly = 2y∗ − λ∗ = 0, Lλ = 1 − x∗ − y∗ = 0
となり,これを解くと x∗ = y∗ = 12 , λ∗ = 1であるので,点 (1
2 , 12)で最小値 1
2 をとる.
48
9.3 消費者の効用最大化(経済)
・ 2財の消費 (x1, x2)から効用 u(x1, x2)を得る消費者は,効用を最大にする消費の組み合わせを選
択する.ただし,消費者の所得はmで,2財の価格は p = (p1, p2)とする.このとき,消費者は
制約付き最大化問題
maxx1,x2
u(x1, x2) s.t. p1x1 + p2x2 = m
を解かなければならない.
・ラグランジュ関数 L(x1, x2, λ) = u(x1, x2) + λ(m − p1x1 − p2x2)の 1階条件は
u1(x∗1, x
∗2) = λ∗p1, u2(x∗
1, x∗2) = λ∗p2, p1x
∗1 + p2x
∗2 = m
で,3つの未知数 x∗1, x
∗2, λ
∗に対して 3つの方程式があり,これらを解くことになる.ここから
u1(x∗1, x
∗2)
u2(x∗1, x
∗2)
=p1
p2
とすれば,限界代替率(p.23参照)は相対価格に一致している(無差別曲線が予算制約式に接し
ている).この式から,x∗2を x∗
1の式で表し,予算制約式に代入すれば x∗1を得ることができる.
・制約が所得で最大化の対象が効用なので,ラグランジュ乗数 λ∗は,予算制約である所得が 1単
位緩和することで効用が何単位上昇するかを示し,所得の限界効用を表す.また,上記 1階条件
から
λ∗ =u1(x∗
1, x∗2)
p1=
u2(x∗1, x
∗2)
p2
である.すなわち,最適な消費量においては各財の限界効用と価格の比(1円あたりの限界効用)
がすべての財について等しい(加重限界効用均等の法則).
練習問題
Ex 9-1. 条件 x + y =√
2の下で x2 + y2の最小値を求めなさい.
Ex 9-2. 条件 x2 + y2 = 1の下で x + yの最大値を求めなさい.
Ex 9-3. 条件 x2 + y2 = 1の下で xyの最大値を求めなさい.
演習問題
Problem 9-1. 予算制約下における消費者の効用最大化問題を解きなさい.さらに所得の限界効
用を求めなさい.
maxx,y
xαyβ s.t. px + qy = m
Problem 9-2. (♦) 今年と来年の 2時点で消費財をそれぞれ c0, c1単位消費することにより,効用
u(c0, c1) = cα0 cβ
1 を得る消費者を考える.
(a) この消費者は年初に y0, y1単位の所得を得ている.今年の所得 y0のうち c0を
消費して s = y − c0を貯蓄すれば,来年の総所得は y1 + (1 + r)sで,これが
消費 c1に等しくなる.この条件から,sを消去して,異時点間の予算制約式
を c0, c1, y0, y1, rを用いて表しなさい(現在価値で表現すること).
49
(b) 異時点間の予算制約式の下で,効用を最大化する最適な消費量 c∗0, c∗1 を求め
なさい.
Problem 9-3. 生産量一定の条件下で企業の生産費用最小化問題を解きなさい.
minK,L
rK + wL s.t. KαLβ = q
ここで,K:資本量,L:労働量,q:生産量,r:資本コスト,w:賃金率を表す.
復習問題
Quiz 9-1. (消費者の効用最大化)ある家計の効用関数がU = X1/31 X
2/32 で表されるとする.所
得が 120,X1財の価格が 1,X2財の価格が 4である時,効用最大化をもたらす最適消
費量はそれぞれいくらか.(平成 16年国税専門官)X1 X2
1. 20 20
2. 20 25
3. 40 20
4. 50 30
5. 60 15
ヒント; 次の最大化問題を解きなさい maxX1,X2
U = X1/31 X
2/32
s.t. 120 = X1 + 4X2
Quiz 9-2. (消費者の効用最大化)ある家計の効用関数がU = xy2(U :効用,x:X財の購入量,y:Y
財の購入量) で与えられている.この家計は 6000円の予算で X財と Y財の購入を計
画している.X財の価格は 100円,Y財の価格は 400円である.このとき,この家計
がとりうる効用の最大値として正しいのはどれか.(平成 18年国家 II種)
1. 1000 2. 1200 3. 1500 4. 1800 5. 2000
ヒント; 次の最大化問題を解きなさい maxx,y
U = xy2
s.t. 6000 = 100x + 400y
Quiz 9-3. (労働者の効用最大化)ある農家はコメを生産しており,その生産量は努力水準に応
じて次の式のように決まる.
y =√
x (y :コメの生産量 x :労働者の努力水準)
また,この農家の効用は次の式で表される.
u = w − x2 (u :効用 w :所得)
このとき,この農家にとって最適な努力水準はいくらか.ただし,この農家は 20以上
の効用を得られなければコメを生産せず,コメの価格は 32とする.(平成 19年地方上
級) 1. 1 2. 2 3. 3 4. 4 5. 5
ヒント; 次の最大化問題を解きなさい maxx,y
u = w − x2 = 32y − x2
s.t. y =√
x
50
Quiz 9-4. (企業の生産量最大化)等産出量曲線が,x = LK(L:労働投入量 K:資本投入量)で
与えられているとする.労働の価格が 20,資本の価格が 30であり,企業の利用可能
な費用総額が 1500である時,この費用制約の下で最大の生産を得るためには,労働と
資本をそれぞれ何単位投入すればよいか.(平成 17年国家 II種 )
労働 資本
1. 22.5 35
2. 30 30
3. 37.5 25
4. 45 20
5. 52.5 15
ヒント; 次の最大化問題を解きなさい maxL,K
x = LK
s.t. 1500 = 20L + 30K
Quiz 9-5. (企業の利潤最大化)ある生産物 Yの生産関数が Y = 20K0.5L0.5で示され,生産物
Yの価格は 1であるとする.ここで生産要素のうちKは資本であり,Lは労働である.
市場は完全競争を前提としている.
今,資本の要素価格が 20であるとする時,企業の利潤最大化を図る場合,労働Lの要
素価格 wとして正しいのはどれか.(平成 14年国家 II種)
1. 2 2. 5 3. 10 4. 15 5. 20
ヒント; 次の最大化問題を解きなさい maxL,K
π = Y − wL − 20K
s.t. Y = 20K0.5L0.5
Quiz 9-6. (♠)(複数の制約条件) 一つの経済に 2つの企業のみが存在し,各企業の生産関数がそ
れぞれ y1 = f1(K1, L1), y2 = f2(K2, L2)で表され,かつこの経済における資本量と
労働量の賦存量がそれぞれK と Lであるとき,最も効率的な生産方法を選択すると,∂y1/∂K1
∂y1/∂L1= ∂y2/∂K2
∂y2/∂L2(企業 1と企業 2の限界代替率が等しくなる) という条件を満たす
ことを示しなさい.
ヒント; 次の最大化問題を解きなさい
maxL1,K1
y1 = f1(K1, L1)
s.t. y2 = f2(K2, L2), K = K1 + K2, L = L1 + L2
51
10 積分
項目 定積分,不定積分,部分積分,置換積分
記号 定積分∫ ba f(x)dx,不定積分
∫ xa f(t)dt,原始関数
∫f(x)dx
公式d
dx
∫ x
af(t)dt = f(x)
部分積分∫ b
af ′(x)g(x)dx =
[f(x)g(x)
]b
a−
∫ b
af(x)g′(x)dx
置換積分∫ g(b)
g(a)f(x)dx =
∫ b
af(g(t))g′(t)dt, (x = g(t))
10.1 定積分
・区間 [a, b]上で,x軸と y = f(x)によって囲まれた図形の (符号付き)面積を考える.
区間をN 等分
a = x0 < x1 < · · · < xN = b, (xi − xi−1 = (b − a)/N = h)
すれば,(符号付き)面積は幅 h高さ f(xi)の「短冊」の集まりN∑
i=1
f(xi)h によって近似できる.
分割を細かくした極限 (N → ∞, h → 0)を∫ b
af(x)dx と表し,f の [a, b]における定積分という.
・定積分の性質
線形性∫ b
a(f(x) + g(x))dx =
∫ b
af(x)dx +
∫ b
ag(x)dx,
∫ b
aαf(x)dx = α
∫ b
af(x)dx
積分区間の分割∫ b
af(x)dx =
∫ c
af(x)dx +
∫ b
cf(x)dx
積分方向∫ b
af(x)dx = −
∫ a
bf(x)dx,
∫ a
af(x)dx = 0
10.2 不定積分
・積分区間の下限 aを適当に固定し,定積分を上限 bの関数とみなしたものを f の不定積分という.
F (x) =∫ x
af(t)dt
面積の意味(定積分の構成)からわかるように面積の増分は短冊になるので
F (x + h) − F (x) =∫ x+h
xf(t)dt ≈ f(x)h
である.したがって微係数はF (x + h) − F (x)
h→ f(x) (h → 0) となる.すなわち,不定積分
を微分すれば元の関数が得られる(「積分は微分の逆演算」,微積分学の基本定理).
52
Â
Á
¿
Àd
dx
∫ x
af(t)dt = f(x)
・導関数が f となる関数を f の原始関数といい∫f(x)dx
と表すが,微積分学の基本定理は不定積分が原始関数のひとつであることを示している.原始関
数をGとすれば,定積分はÂ
Á
¿
˺ b
af(x)dx = G(b) − G(a) =
[G(x)
]b
a
として計算できる.原始関数は微分の結果からわかることが多い.'
&
$
%
f(x) xn (n 6= −1) ea+bx 1x
G(x) =∫
f(x)dx1
n + 1xn+1 1
bea+bx lnx
∫xn dx =
1n + 1
xn+1 + C (n 6= −1)∫ea+bx dx =
1bea+bx + C∫
1x
dx = lnx + C
(C は積分定数)
(例)
[0, 1]上の関数 f(x) = 1∫ 1
01dx =
[x]1
0= 1 (正方形の面積)
[0, 1]上の関数 f(x) = x
∫ 1
0xdx =
[12x2
]1
0=
12(三角形の面積)
[0,∞)上の関数 f(x) = ae−ax (a > 0)∫ ∞
0ae−axdx =
[− e−ax
]∞0
= 1,(
limx→−∞
ex = 0)
53
10.3 部分積分・置換積分
・部分積分,置換積分は重要なツールである.積の微分の公式,合成関数の微分の公式の両辺の
(不)定積分を求めることにより得られる.Â
Á
¿
À部分積分
∫ b
af ′(x)g(x)dx =
[f(x)g(x)
]b
a−
∫ b
af(x)g′(x)dx
置換積分∫ g(b)
g(a)f(x)dx =
∫ b
af(g(t))g′(t)dt, (x = g(t))
・部分積分↔積の微分積の微分
d
dx(f(x)g(x)) = f ′(x)g(x) + f(x)g′(x)の項を移項した関係式
f ′(x)g(x) =d
dx(f(x)g(x)) − f(x)g′(x)
の両辺を区間 [a, b]上で積分する.微分と積分は逆演算なので∫ b
af ′(x)g(x)dx =
[f(x)g(x)
]b
a−
∫ b
af(x)g′(x)dx
となる.これを部分積分という.
(例)
·∫ b
alnx dx =
∫ b
a(x)′ lnx dx =
[x lnx
]b
a−
∫ b
ax
1x
dx = b ln b − a ln a − b + a
·∫ b
ax lnx dx =
∫ b
a
(x2
2
)′lnx dx =
[x2
2lnx
]b
a
−∫ b
a
x2
21x
dx =[x2
2lnx
]b
a
−[x2
4
]b
a
=b2
2ln b − a2
2ln a − b2
4+
a2
4
·∫ b
aexx dx =
∫ b
a(ex)′x dx =
[exx
]b
a−
∫ b
aex dx = beb − aea − eb + ea
·∫ b
a(1 − x)e2x dx =
∫ b
a(1 − x)
(e2x
2
)′dx =
[(1 − x)e2x
2
]b
a
−∫ b
a
(−e2x
2
)dx
=[(1 − x)e2x
2
]b
a
−[−e2x
4
]b
a
=(1 − b)e2b
2− (1 − a)e2a
2+
e2b
4− e2a
4
・置換積分↔合成関数の微分合成関数の微分
d
dtF (g(t)) = F ′(g(t))g′(t)
の両辺を区間 [a, b]上で積分する.微分と積分は逆演算なので
F (g(b)) − F (g(a)) =∫ b
aF ′(g(t))g′(t)dt
となる.f(x) = F ′(x)とすると,上式を書き換えて∫ g(b)
g(a)f(x)dx =
∫ b
af(g(t))g′(t)dt
54
が得られる.右辺の g(t)を xに置き換えて x = g(t), dx = g′(t)dt,左辺を計算できるので,これ
を置換積分という.
(例)
·∫ b
aet2t dt =
∫ b
aet2 1
2(t2)′ dt =
∫ b2
a2
ex 12
dx =12
(eb2 − ea2
), (0 < a < b)
·∫ b
at(1 − t)6 dt =
∫ b
a((1 − t) − 1)(1 − t)6(1 − t)′ dt =
∫ 1−b
1−a(x − 1)x6 dx
=∫ 1−b
1−a(x7 − x6) dx =
[x8
8− x7
7
]1−b
1−a
=(1 − b)8
8− (1 − b)7
7− (1 − a)8
8+
(1 − a)7
7
·∫ b
a
t
(3 − t)2dt =
∫ b
a
(3 − t) − 3(3 − t)2
(3 − t)′ dt =∫ 3−b
3−a
x − 3x2
dx =∫ 3−b
3−a
(1x− 3
x2
)dx
=[lnx +
3x
]3−b
3−a
= ln(3 − b) +3
3 − b− ln(3 − a) − 3
3 − a
·∫ b
a
ln t + 4t
dt =∫ b
a(ln t + 4)(ln t)′ dt =
∫ ln b
ln a(x + 4) dx =
[x2
2+ 4x
]ln b
ln a
=(ln b)2
2+ 4 ln b − (ln a)2
2− 4 ln a
練習問題
Ex 10-1. 次の定積分を求めなさい.
(a)∫ a
−axexdx (b)
∫ a
−ax2exdx (b)
∫ e
1
1x
dx
Ex 10-2. 次の不定積分を求めなさい.
(a)∫
ea+bxdx (b 6= 0) (b)∫
axdx (a > 0)
Ex 10-3. ln xと x軸に囲まれた部分の面積を考えることにより次の不等式を示しなさい.
ln 1 + ln 2 + ln 3 + · · · + lnn <
∫ n+1
1lnxdx
演習問題
Problem 10-1. 次の定積分を求めなさい.
(a)∫ a
−axe−x2
dx (b)∫ a
0e−kxdx (k > 0) (c)
∫ ∞
0e−kxdx (k > 0)
Problem 10-2. 次の不定積分を求めなさい.
(a)∫
x−0.3dx (b)∫
f ′(x)f(x)
dx (f(x) > 0) (c)∫
lnxdx
55
Problem 10-3. 次の曲線と 2直線および x軸で囲まれた部分の面積を求めなさい.
(a) y = x2 + 4, x = −1, x = 2 (b) y = x2 + 2x, x = −1, x = 2
復習問題
Quiz 10-1. 次の定積分を求めなさい.
(a)∫ a
−a(x2 + x5)dx (b)
∫ a
−ax2/3dx (c)
∫ a
1lnxdx
Quiz 10-2. 次の不定積分を求めなさい.
(a)∫
(6x3 + 10x2 + 5)dx (b)∫
(x1/2 + 5x−2/3)dx
Quiz 10-3. (置換積分) 次の不定積分を求めなさい.
(a)∫
(x3 + 5x)10(3x2 + 5)dx
(b)∫
2(ex + 3x2)(ex + 6x)dx
(c)∫
2x
(x2 + 2)10dx
Quiz 10-4. (部分積分) 次の不定積分を求めなさい.
(a)∫
x3exdx
(b)∫
x3
√1 + x2
dx
(c)∫
x log x dx
Quiz 10-5. (♦)(生産者余剰=利潤) 生産者余剰 (PS)の公式
PS = p0 q0 −∫ q0
0MC(q)dq
を利用して次の問題に答えなさい.ここで,限界費用 c = MC(q)は c = q2 + 3で
ある.
(a) p0 = 7の時の生産者余剰はいくらになるか.
(b) p1 = 12の時の生産者余剰はいくらになるか.
(c) 価格が p0から p1に変化した時の生産者余剰の変化分はいくらになるか.
Quiz 10-6. (♦)(消費者余剰=消費者の利得分) 消費者余剰 (CS)の公式
CS =∫ q0
0D−1(q)dq − p0 q0
を利用して次の問題に答えなさい.なお,需要関数 q = D(p)は q = 50 − 2pであり,
D−1(q)は需要関数の逆関数である.
(a) p0 = 20の時の消費者余剰はいくらになるか.
(b) p1 = 15の時の消費者余剰はいくらになるか.
(c) 価格が p0から p1に変化した時の消費者余剰の変化分はいくらになるか.
56
Appendix
A 確率
項目 事象,確率,条件付き確率,ベイズの公式,確率変数
記号 分布関数 FX(x) = PX ≤ x,条件付き確率 P (A | B) =P (A ∩ B)
P (B)
公式 ベイズの公式 P (A | B) =P (A)P (B | A)
P (A)P (B | A) + P (Ac)P (B | Ac)
A.1 確率の概念
・標本空間,事象,基本事象
将来の不確実性を,起こり得る試行結果(シナリオ)の全体として表現する.
名前 記号 意味 1回サイコロを振る場合
基本事象 ω ∈ Ω ひとつの起こり得る試行結果 ωi = iの目がでる試行結果
標本空間 Ω 試行結果の全体(シナリオの全体) Ω = ω1, ω2, . . . , ω6事象 A ⊆ Ω ある性質を持つ試行結果の全体 A = 偶数 = ω2, ω4, ω6
基本事象 ωと 1つの要素から成る事象 ωは異なる概念であることに注意.事象は標本空間の部分集合なので,事象の演算は集合の演算と同じ.
和事象 A ∪ B = ω ∈ Ω | ω ∈ A or ω ∈ B 余事象 Ac = ω ∈ Ω | ω /∈ A積事象 A ∩ B = ω ∈ Ω | ω ∈ A and ω ∈ B AとBは排反 A ∩ B = φ
事象の集合 F = A | A ⊆ Ωを次の性質を満たすもの(可算加法族)とする.1) φ ∈ F 2) A ∈ F ⇒ Ac ∈ F 3) Ai ∈ F (i = 1, 2, · · · ) ⇒
⋃i Ai ∈ F
・確率Pは事象の生起の可能性の度合いを表す数字を矛盾なく与える(集合の上の)関数である.
1) P : F → [0, 1] 2) P (Ω) = 1
3) Ai ∩ Aj = φ (i 6= j) ⇒ P
(⋃i
Ai
)=
∑i
P (Ai)
1),2)から,確率は 0以上 1以下の値で表され,全体の確率は 1となる.3)は,同時に起こるこ
とがない排反事象の和事象の確率はぞれぞれの事象の和になる,という自然な条件である.3)の
条件から,確率P(A)は事象Aの「面積」と考えればよい(標本空間の「面積」は 1).
Ω
A'&
$%
rω
P
ª -r r0 1rP (A)
57
・サイコロのゆがみ具合によって特定の目がでる可能性が異なる状況は,違う確率によって表すこ
とができる.
ゆがんでいないサイコロを振った結果事象A 1 2 3 4 5 6
確率 P0(A) 1/6 1/6 1/6 1/6 1/6 1/6
ゆがんでいるサイコロを振った結果事象A 1 2 3 4 5 6
確率 P1(A) 1/12 1/12 1/12 1/4 1/4 1/4
・ 2つの事象 A, Bに対して,次の定義・公式があるが,加法定理と条件付き確率は「確率=面積」
で考えると理解しやすい.
Ω
B
'&
$%
A Ac
加法定理 P (A ∪ B) = P (A) + P (B) − P (A ∩ B)
条件付き確率 P (A | B) =P (A ∩ B)
P (B)乗法定理 P (A ∩ B) = P (B)P (A | B)
事象A, Bが独立 P (A ∩ B) = P (A)P (B)
・ベイズの公式
Ω = A∪Ac, A∩Ac = φ よりB = B ∩ (A ∪ Ac) = (B ∩A)∪ (B ∩Ac) になるので全確率の公式
P (B) = P ((B ∩ A) ∪ (B ∩ Ac)) = P (B ∩ A) + P (B ∩ Ac) = P (A)P (B | A) + P (Ac)P (B | Ac)
とベイズの公式
P (A | B) =P (A ∩ B)
P (B)=
P (A)P (B | A)P (A)P (B | A) + P (Ac)P (B | Ac)
が得られる.
Ω
B
'&
$%
A AcP (Ai ∩ Bj) A Ac Ω
B P(A)P(B | A) P(Ac)P(B | Ac) P (B)
Bc P (Bc)
Ω P (A) P (Ac) 1
・事象と確率の構造 F , P を導入した集合 Ωを確率空間 (Ω,F , P )という.
A.2 確率変数
・実際に起こった試行結果ωに関する情報は,確率変数の実現値を観測することによって得られる.
確率変数X とは,シナリオ毎に何らかの情報(数値)を与える関数 X : Ω → R で,その実現値X(ω)の範囲を知ることによって,実際に起こっている事象 ω ∈ Ω | X(ω) ≤ xの確率を計算できるように
ω ∈ Ω | X(ω) ≤ x ∈ F , ∀x ∈ R
となっているものである.(名前に変数とあるが,実態は関数である)
58
・確率変数 X の実現値が可算個 x1, x2, · · · , xn, · · · であるような確率変数を離散確率変数といい,それ以外の場合(例えば,実現値が区間 [a, b]内のどの値もありうる場合)の確率変数を連続確
率変数という.
・確率変数X に対して,実現値が x以下となる事象の確率®
©ªFX(x) = PX ≤ x = Pω ∈ Ω | X(ω) ≤ x
を xの関数と見て,確率変数X の分布関数という.分布関数から確率変数X の実現値とその確
率のペアである確率分布を知ることができる.
事象と面積の単調性から,分布関数は単調非減少で,FX(−∞) = 0, FX(+∞) = 1である.
・ 2つの確率変数X,Y の分布関数が等しいときに,X ∼ Yと書く.Ω
X ≤ x'&
$%r
ω
P
ª -r r0 1rPX ≤ x
X
R -@ RrX(ω)
rx
練習問題
Ex A-1. (a) サイコロを 2回ふる場合の根元事象,標本空間,その和が偶数となる事象を記述し
なさい.2個のサイコロを同時にふる場合はどうか.
(b)サイコロを 1回ふった結果が偶数である条件の下で,6の目である確率を求めなさい.
Ex A-2. P (Ac) = 1 − P (A)を示しなさい.
Ex A-3. 次のようにゆがみのあるサイコロを 1回ふった結果の目を表す確率変数をX とする.
X の分布関数 FX(x) = PX ≤ xのグラフを描きなさい.
X(ω) 1 2 3 4 5 6
PX = i 0.1 0.1 0.1 0.2 0.2 0.3
演習問題
Problem A-1. 事象A,Bについて
P (A ∪ B) = 0.6, P (A ∩ B) = 0.1, P (Ac ∩ B) = 0.3
が成り立つ時,確率 P (A), P (B)の値を求めなさい.
Problem A-2. 1枚のコインを投げて,表が出る結果を H (head),裏が出る結果を T (tail)と表
し,3回コインを投げる結果(基本事象)ωを次のように表す.
ω = (x1, x2, x3) : xi = i回目の結果 (H or T), (i = 1, 2, 3)
例えば,1回目のみ表が出て,2,3回目に裏が出る基本事象 ωは (H,T,T)と表すこ
とができる.
59
(a) 3回コインを投げる場合の基本事象をすべて列挙しなさい.
(b) 1回目に表が出る事象をA,3回のうち 2回だけ表が出る事象をBとすると
き,事象A,B,A ∩ B,A ∪ Bの確率を求めなさい.
Problem A-3. ある中古車販売店で販売している中古車は,5台に 1台の割合で不良品である.中
古車の値段は 70万円(不良品に相当)か 100万円(良品に相当)で販売されてい
るが,中古車販売店は不良品を 2台に 1台の割合で良品として販売していること
がわかっている.実際に不良品かどうかは,販売店は知っているが,購入する前
の顧客はわからない.100万円で販売されている中古車が不良品である確率を求
めなさい.
Problem A-4. 確率変数Xの分布関数 FX の値について FX(0) = 0.5, FX(1) = 0.7, FX(2) =
1 とわかっているとき,次の確率を求めなさい.
(a) P0 < X ≤ 1 (b) P1 < X ≤ 2 (c) P0 < X ≤ 2 (d) P2 < X
復習問題
Quiz A-1. 以下の問に答えなさい.
(a) (加法定理) P (A) = 0.6, P (B) = 0.5, P (A∩B) = 0.3のとき,確率P (A∪B)はいくらか.
(b) (条件付き確率) P (B) = 0.6, P (A∩B) = 0.3のとき,確率 P (A | B)はいく
らか.
(c) (乗法定理) P (A | B) = 0.8, P (B) = 0.5のとき,確率 P (A ∩ B)はいくらか.
(d) (独立) 事象AとBが独立で,P (A) = 0.5, P (A∩B) = 0.4のとき,確率P (B)
はいくらか.
Quiz A-2. 52枚のトランプから1枚引き抜くとき,事象A1 = 引き抜いたカード1枚はハートである,A2 = 引き抜いたカード1枚はキングである とすると,次の確率はいくらになるか.
(a) P (A1) (b) P (A2) (c) P (A1 ∩ A2) (c) P (A1 ∪ A2)
Quiz A-3. 標本空間 Ωの部分集合である事象 A1と A2について,以下の式が成り立つことを示
しなさい.
P (A1 ∩ A2) ≤ P (A1) ≤ P (A1 ∪ A2) ≤ P (A1) + P (A2)
Quiz A-4. (連続確率変数の分布関数) 確率変数Xの分布関数がFX(x) =∫ x0
110e−t/10dtであると
き,F (10)はいくらになるか.
Quiz A-5. (ベイズの公式) 袋の中に大きさ(大・小)と色(赤・白)が異なる玉が全部で 10個
入っている.このうち,赤い玉が 6個と白い玉が 4個で,赤くて大きい玉は 3個,白
くて大きい玉は 2個である.いま袋に手を入れたところ大きい玉であった.この玉が
赤い確率はいくらになるか.
60
B 確率分布
項目 密度関数,平均,分散,正規分布
記号 分布関数と密度関数 FX(x) =∫ x
−∞fX(t)dt 期待値 E[h(X)] =
∫ ∞
−∞h(x)fX(x)dx
公式 E [aX + bY ] = aE [X] + bE [Y ] , V ar[aX + bY ] = a2V ar[X] + 2abCov[X,Y ] + b2V ar[Y ]
X ∼ N(µ, σ2) ⇔ X − µ
σ∼ N(0, 1)
B.1 連続確率変数
・連続確率変数X の分布関数が微分可能であれば
fX(x) =d
dxFX(x)
を密度関数という.
²±
¯°FX(x) =
∫ x
−∞fX(t)dt から,密度関数と x軸のある範囲に囲まれた領
域の面積が,確率変数がその範囲に取る確率になる.
FX(x + ∆x) − FX(x) = Px < X ≤ x + ∆x ≈ fX(x)∆x
分布関数と密度関数は,一方がわかれば他方もわかり,分布に関する同じ情報を持っている.
・期待値
密度関数 fX を持つ確率変数X と,関数 hについて,²±
¯°E[h(X)] =
∫ ∞
−∞h(x)fX(x)dx
は,確率変数 h(X)の実現値 h(x)を確率 fX(x)dxのウエイトで加重平均したものなので,確率
変数 h(X)の期待値という.特定の関数形の hの期待値には別の名前が与えられている.
平均 E[X] =∫ ∞
−∞xfX(x)dx
分散 V ar[X] = E[(X − E(X))2] n次モーメント E[Xn]
共分散 Cov[X,Y ] = E[(X − E[X])(Y − E[Y ])] 相関係数 ρ(X,Y ) =Cov[X,Y ]√
V ar[X]√
V ar[Y ]
平均は線形であるが,分散は線形ではない
E [aX + bY ] = aE [X] + bE [Y ] (4)
V ar[aX + bY ] = a2V ar[X] + 2abCov[X,Y ] + b2V ar[Y ] (5)
(5)式は,ベクトルの関係式 |ax + by|2 = a2|x|2 + 2abx · y + b2|y|2 に対応する.
・すべての関数 f, g について E[f(X)g(Y )] = E[f(X)]E[g(Y )] が成立するとき,2つの確率変数
X,Y は独立であるという.
61
B.2 主な連続確率分布
・一様分布 U ∼ U(a, b)
fU (x) =1
b − a(a ≤ x ≤ b), FU (x) =
x
b − a(a ≤ x ≤ b)
E[U ] =a + b
2, V ar[U ] =
112(b − a)2
・標準正規分布 Z ∼ N(0, 1)
fZ(x) = φ(x) =1√2π
exp(−x2
2
)(−∞ < x < ∞)
FZ(x) = Φ(x) =∫ x
−∞f0,1(t)dt
E[Z] =∫ ∞
−∞xf0,1(x)dx = 0 (密度関数が偶関数) (6)
V ar[Z] =∫ ∞
−∞x2f0,1(x)dx = 1 (部分積分) (7)
・正規分布 N(µ, σ2)
fµ,σ2(x) =1√2πσ
exp(−(x − µ)2
2σ2
)=
1σ
φ
(x − µ
σ
)(−∞ < x < ∞)
Fµ,σ2(x) =∫ x
−∞
1σ
φ
(t − µ
σ
)dt
=∫ (x−µ)/σ
−∞φ(u)du
(u =
t − µ
σで置換
)= Φ
(x − µ
σ
)正規分布X ∼ N(µ, σ2)を線形変換した確率変数 a + bX の分布関数は
P (a + bX ≤ x) = P
(X ≤ x − a
b
)= Φ
( x−ab − µ
σ
)= Φ
(x − (a + bµ)
bσ
)となり,正規分布N(a + bµ, b2σ2)の分布関数である.すなわち,正規分布を線形変換しても正
規分布になり,特に,標準化X 7→ X − µ
σすれば,標準正規分布になる(重要!).
'
&
$
%
X ∼ N(µ, σ2) ⇒ a + bX ∼ N(a + bµ, b2σ2)
X ∼ N(µ, σ2) ⇔ X − µ
σ∼ N(0, 1)
・正規分布X ∼ N(µ, σ2)に対して次式が成立する.
E[exp(X)] = exp(
E[X] +12V ar[X]
)(8)
62
練習問題
Ex B-1. 2つの確率変数X,Y は独立であれば Cov[X,Y ] = 0 を示しなさい.
Ex B-2. 2つの独立な確率変数X,Y を用いて,新たに 2つの確率変数を
U = aX + bY, V = cX + dY (a, b, c, dは定数)
とするとき,E[U ], V ar[U ], Cov[U, V ]を E[X], E[Y ], V ar[X], V ar[Y ]を用いて求めな
さい.
Ex B-3. 確率変数X が次の分布のとき,確率変数−X の分布を求めなさい.
(a) U(a, b) (b) U(−1, 1) (c) N(µ, σ2) (d) N(0, 1)
演習問題
Problem B-1. 標準正規分布 Z の確率について次の事実がわかっている.
P1 < Z = 0.1587, P1.645 < Z = 0.05, P2 < Z = 0.0228
これを用いて,確率変数Xが正規分布N(50, 102)にしたがうとき,次の値を求め
なさい.(a) 確率 PX ≤ 60 (b) 確率 P70 ≤ X (c) 確率 P40 ≤ X ≤ 70(d) P50 − 10a ≤ X ≤ 50 + 10a = 0.9を満たす正の定数 a
Problem B-2. (a) 次式を示しなさい.
Cov[X,X] = V ar[X], Cov[X,Y ] = E[XY ] − E[X]E[Y ],
V ar[X] = E[X2] − E[X]2
(b) (4)式と分散の定義を用いて,(5)式を示しなさい.
Problem B-3. (6)式および (7)式を示しなさい.
Problem B-4. (♠)
(a) 連続確率変数X の分布関数を FX(x)とする.確率変数 Y = FX(X)は一様
分布に従うことを示しなさい.(ヒント:(i)確率変数 Y の分布関数 FY (y) =
PY ≤ yと (ii)分布関数の定義を考える.)
(b) 一様分布に従う乱数(確率変数 Y ∼ U(0, 1)の実現値)を 100回発生させて,
X = Φ−1(Y )の実現値のデータとその平均,標準偏差を求めなさい.
ここで Φは標準正規分布の分布関数で,Φ−1はその逆関数である.
63
復習問題
Quiz B-1. 以下のデータを使って,xと yの平均,分散,共分散,相関係数を求めなさい.
x 1 3 5 6 8 9
y 2 4 8 10 12 16
Quiz B-2. 標準正規分布 Z の確率について次の事実がわかっている.
P1 < Z = 0.1587, P1.645 < Z = 0.05, P2 < Z = 0.0228
これを用いて,確率変数Xが正規分布N(100, 102)にしたがうとき,次の値を求めな
さい.(a) 確率 PX > 120 (b) 確率 PX > 90 (c) 確率 P90 ≤ X ≤ 110(d) P100 − 10a ≤ X ≤ 100 + 10a = 0.9を満たす正の定数 a
Quiz B-3. 以下の等式が成立することを示せ.
(a) E(2X) = 2E(X) (b) V ar(2X) = 4V ar(X)
(c) Cov(2X,Y ) = 2Cov(X,Y ) (d) ρ(2X,Y ) = ρ(X,Y )
(e) (X と Y が独立のとき) E(X + Y )2 = E(X)2 + E(Y )2
Quiz B-4. (期待値) 確率変数Xは,実現値が−2 < x < 4の範囲で密度関数は f(x) = (x+2)/18
である.次の期待値を求めなさい.
(a) E(X) (b) E[(X + 2)3] (c) E[6X − 2(X + 2)3]
Quiz B-5. (♠) 期待値の定義と密度関数から,(8)式を示しなさい.
Quiz B-6. 正規分布X ∼ N(µ, σ2)を用いて確率変数 Y を Y = eX(対数正規分布)とおく.Y
の n次モーメントを求めなさい.
64
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