3.4 太陽熱給湯システム 1)太陽熱利用の概要 - env · 2018-04-03 ·...
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54
3.4 太陽熱給湯システム
1)太陽熱利用の概要
太陽熱利用機器は太陽光発電等と比較してエネルギー変換効率が高いとされている。太陽光を
電力に変える太陽光発電では、エネルギー変換効率で 10~20%程度であるが、太陽光を熱に変え
る方式では 40%以上のエネルギー利用が可能とされる。設置費用も比較的安価なため費用対効果
の面でも有効な技術とされている。 利用用途は給湯や暖房だけでなく、冷房・プール加温・乾燥及び土壌殺菌等への幅広い分野で
利用可能な技術である。 一般的な太陽集熱器は、熱エネルギーを水に蓄える水式集熱器と空気に蓄える空気式集熱器に
分けることができる。また、水式集熱器は、自然循環型と強制循環型の 2 種類に分類することが
でき、それぞれの特徴を図 3-17 に示す。
(出典)新エネルギー・産業技術総合開発機構 ホームページ
図 3-17 代表的な集熱器の特徴
なお、アメリカなどで行われている太陽熱発電では、太陽光を反射板等によって集光すること
で高温集熱し、得られた高温蒸気によりタービンを回転させ発電するパラボラ集熱器(CPC)な
55
どが使われている。 (1)給湯利用
一般家庭での給湯は、年間を通して 50℃~60℃と使用温度が比較的低温であることから集熱効
率が高く、太陽熱利用に適していると言える。但し、曇天日等で太陽熱を利用できない場合に備
えて補助熱源(給湯器等)の設置が必要となる。
(出典)社団法人ソーラーシステム振興協会
図 3-18 自然循環型太陽熱温水器
(2)給湯・暖房の併用
暖房利用は、集熱器で集めた熱を居住域へ送るだけで比較的簡単に導入することができ、また
給湯とセットにすることで年間を通じて太陽熱を利用することが可能となる。暖房利用では、利
用する時間帯と集熱時間帯が常に一致しないため、蓄熱装置を設置する必要がある。なお、給湯
利用と同様に曇天日等に対応するため補助熱源の設置が必要となる。
(出典)社団法人ソーラーシステム振興協会
図 3-19 ソーラーシステムによる給湯・暖房利用
ソーラーシステムには水式と空気式があり、水式は太陽集熱器により不凍液などの熱媒を循環
ポンプで循環させ、蓄熱槽の中に蓄えた水を熱交換器によりお湯にする。空気式はガラス付き集
56
熱面などにより高温にした空気を、屋根裏部に設置した送風機ユニットで床下に送風し、床下の
蓄熱材(コンクリート)に蓄熱させた後で、室内に入れ直接暖房する。
(出典)社団法人ソーラーシステム振興協会
図 3-20 水式ソーラーシステム(左)と空気式ソーラーシステム(右)
57
2) 太陽熱温水器の概要
太陽熱温水器は、昭和 50 年代の原油価格の高騰とともに設置台数が飛躍的に伸び、昭和 58 年
には年間 40 万台を越えた。現在では、太陽熱温水器が年間 3~4 万台、ソーラーシステムが年間
4 千台程度となっており、地域的には九州や中国・四国地方などの比較的温暖な地域で多く普及
している。
(出典)社団法人ソーラーシステム振興協会より作成
図 3-21 太陽熱温水器の設置台数の推移
太陽熱温水器の多くは自然循環型が主であり、集熱器の上部に貯湯槽が接続され、水栓より高
い位置の屋根上に設置される。 貯湯槽に給水された水は下部の集熱器へ流れ込み、太陽熱で温め
られ比重が軽くなり、貯湯槽へ戻りお湯が蓄えられる。動力を使わないで循環を行うため、自然
循環型太陽熱温水器と呼ばれている。
(出典)社団法人ソーラーシステム振興協会
図 3-22 自然循環型太陽熱温水器
0
3
6
9
12
昭和
57年
58年
59年
60年
61年
62年
63年
平成
元年 2年 3年 4年 5年 6年 7年 8年 9年
10年
11年
12年
13年
14年
15年
16年
17年
18年
19年
20年
(
万
台
)
0
1
2
3
4 累
積
台数
(
百
万
台
)
累積合計(右軸)
北海道・東北
関東
中部・北陸
近畿
中国・四国
九州
58
太陽熱温水器で生成される湯の温度は、冬季で 40℃、夏季で 60~70℃程度となっている。
(出典)(財)新エネルギー財団ホームページ
図 3-23 太陽熱温水器の月別湯温
太陽熱利用機器の集熱量をベースに、エネルギー節約量と CO2 削減量について試算した例を
表 3-15 に示す。エネルギー節約額は、平成 17 年 10 月時点における主な家庭用燃料価格に基づ
く。設置台数の多い太陽熱温水器について毎年の設置台数 3 万 7 千台として 1 台当りの CO2 削
減量を 500kg-CO2 とすると、年間に 18,500t-CO2 が新たに削減されていることになる。
表 3-15 太陽熱利用機器 1台あたり1年間のエネルギー節約と CO2 削減量
太陽熱温水器 集熱面積 3.0m2
集熱量 156 万 kcal
ソーラーシステム 集熱面積 6.0m2
集熱量 312 万 kcal 比較エネルギー
エネルギー節約 CO2削減量 エネルギー節約 CO2削減量
LPG 節約量/163kg 節約額/47,433 円 489kg-CO2 節約量/325kg
節約額/94,575 円 975kg-CO2
都市ガス 節約量/199m3 節約額/27,044 円 420kg-CO2 節約量/397m3
節約額/53,952 円 838kg-CO2
灯油 節約量/222ℓ 節約額/16,805 円 553kg-CO2 節約量/445ℓ
節約額/33,687 円 1,108kg-CO2
電力 節約量/2,267kWh 節約額/52,141 円 680kg- CO2 節約量/4,535kWh
節約額/104,305 円 1,360kg-CO2
(出典)社団法人ソーラーシステム振興協会
59
3)太陽熱給湯システムによるヒートアイランド緩和効果
太陽熱給湯システムのヒートアイランド緩和効果に関して、既存の文献等は見当たらない。ま
た、自然循環型等の太陽熱温水器について、その表面温度等を測定したデータも探すことはでき
なかった。ただし、メーカー等にヒアリングしたところ、屋根などに設置する太陽熱利用のため
の集熱器(板)の表面(ガラス)温度については、集熱器(板)の内部(金属パネル)ほど熱く
ならず、大気を暖める力は通常のスレート等の屋根面より小さいとの情報が得られた。 以下に、太陽熱温水器やソーラーシステムのメーカー等にヒアリングした結果をまとめる。 主なヒアリング事項を以下に示す。 ①集熱器(板)の表面温度特性(夏季) ②貯湯ユニットの表面温度特性(夏季)
表 3-16 メーカー等へのヒアリング内容(太陽熱温水器及びソーラーシステム)
会社名等 ヒアリング内容 E社 太陽熱温水器、ソーラーシステムともに、集熱器及び貯湯ユニット
の表温度特性に関するデータはない。 F社 太陽熱温水器の集熱板の表面温度を実測したデータはない。
以前に 1.5 ㎡の集熱板で湯を作る状況をシミュレーションしたとこ
ろ、集熱板の中央部の表面温度は夏の日中で 48~50℃程度であった。
集熱板の表面のガラスは熱を透過しているのでそれほど表面温度は
上昇せず、通常のスレート屋根などの方が表面温度が高いと思われ
る。 G協会 集熱器の表面温度を実測したデータはない。
自然循環型の太陽熱温水器やソーラーシステムの集熱器の表面は
ガラス板であり、集熱するのは内部の金属パネルである。そのため、
金属パネルは水が循環しなければ 100℃を超す温度になる可能性があ
るが、水と熱交換するため夏の日中に 70℃以上になることが考えられ
る。ただし、ガラス板については日射を透過しているのみで、極端に
熱くなることはないと考えられる。 貯湯ユニットについては、断熱されているためその表面温度が気温
にくらべて極端に熱くなることは考えられない。 夜間については、自然循環型の太陽熱温水器では貯湯ユニットの湯
が使われることで、集熱器には水道からの冷水が入り込むため、集熱
器が熱くなっていることはないと考えられる。
60
3.5 ヒートポンプ給湯器
1)給湯による CO2 排出量
家庭部門のCO2排出量は全体の約 14%、年間 180百万 t-CO2となっている。そのうち 31.6%、
すなわち年間に 56 百万 t-CO2 が給湯の使用により排出されている。
図 3-24 部門別 CO2 排出割合(2007)と主要 4部門の排出量推移13
(出典)H19 環境白書
図 3-25 民生家庭部門の CO2 排出量の内訳(2005 年度)
13 国立環境研究所温室効果ガスインベントリオフィスのデータをもとに作成
廃棄物2.4%
運輸部門19.1%
産業部門36.1%業務その他
部門18.1%
家庭部門13.8%
工業プロセス4.1%
エネルギー転換部門
6.4%
100
150
200
250
300
350
400
450
500
550
京都
議定
書の
基準
年
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
排出
量
(単
位
百万
トン
CO
2)
(年度)
産業部門(工場等)
運輸部門(自動車・船舶等)
471百万t
(前年度比+2.8%)
249百万t
(前年度比▲1.6%)
236百万t
(前年度比+1.9%)
家庭部門
127百万
t
180百万t
(前年度比+8.4%)
業務その他部門(商業・サービス・事業所等)
482百万t
164百万t
217百万t
127百万t
61
2)ヒートポンプ給湯システムの概要
近年、エアコン暖房の原理をそのまま水の加熱に応用するヒートポンプ式の給湯器が開発され
ている。 物質が液体から気体に変化する現象を「気化」といい、気体から液体に変化する現象を「凝縮」
という。物質は気化する際に周囲から熱を奪い、物質が「凝縮」する際に周囲へ放熱する。 ヒートポンプは、この自然現象を利用して空気の熱を効率よく汲み上げ、加熱・冷却すること
でエネルギーを効率的に利用するシステムである。冷媒をコンプレッサ(圧縮機)で加圧して高
温・高温ガスにし、水と間接的に接触させて高温水を発生させる。熱交換された冷媒は、熱を奪
われて液体となり、膨張弁によって減圧され、温度が低下する。温度が下がった冷媒は、間接的
に外気と熱交換して温まり(外気を冷やし)、気体となった冷媒は再びコンプレッサで加圧され、
循環する。 現在、普及しているヒートポンプ給湯器は、CO2 を冷媒として使用し 60 ℃以上の高温に沸き
上げることを可能としている。経済的メリットを 大にするため、電力単価の安い夜間電力を使
用し、300~ 460 リットルの湯を貯湯槽に貯めることができる
(出展)財団法人 ヒートポンプ・蓄熱センター
図 3-26 ヒートポンプ給湯器の仕組み
家庭の主要な CO2 排出源である給湯は、これまでガスによるものが主であり、年々そのエネ
ルギー効率は高まっているものの、100%を越えることは無い。しかし、ヒートポンプ給湯器の効
率を示す定格 COP(Coefficient of Performance:成績係数)は、発売当初は 3.0 を上回る程度
であったが、急速に改善が進み 近では 4.5 まで性能が向上している14。
14 (財)電気工事技術講習センター「全電化住宅の総合エネルギー効率と CO2 排出」電気工事技術情報、Vol.25、
2007 年 9 月
62
図 3-27 ヒートポンプ給湯器のエネルギー効率 14
ただし、2 次エネルギーとしての電力と単純に比較はできないため、発電によるエネルギー損
失を考慮する必要があるが、発電のエネルギー効率を 35%としても、ヒートポンプ給湯器の COPが 4.5 であれば、1 次エネルギーから計算するエネルギー効率でも 150%以上となる。 第三者認証機関が認証した標準的なエコキュート 1 台あたりの年間 CO2 削減量は、
515.65kg-CO2 と公表されている15。 また、ヒートポンプ給湯器は急速に導入が進んでおり、2009 年には 200 万台を越えている。 1 台あたり年間約 500kg-CO2 の削減で年間に 200 万台が導入される場合、年間に百万トンの
CO2 が新たに削減されていることになる。
(出展)財団法人 ヒートポンプ・蓄熱センター
図 3-28 ヒートポンプ給湯器の普及台数
15 家庭用自然冷媒ヒートポンプ給湯機「エコキュート」の CO2 排出削減量算定方法について、東京電力資料、
2004 年 7 月
63
3)ヒートポンプ給湯器によるヒートアイランド緩和効果
ヒートポンプ給湯器は、省エネを主目的として開発された技術であるが、室外機で熱交換を行
う際に大気から熱を奪うため、特に夏季にはヒートポンプ給湯器が稼動する夜間の屋外気温を低
下させる効果を有する。 ヒートポンプ給湯器を導入した場合の効果を数値シミュレーションにより計算した研究事例
16,17では、東京都区部の集合住宅団地にヒートポンプ給湯器を導入することで明け方の 5~6時に
ピークを持つ気温低減効果が表れ、その効果は-1℃程度であった。また、被覆対策などの地表
面温度を低下させる対策と合わせてヒートポンプ給湯器を導入することで、大気の安定度が増し、
ヒートポンプ給湯器の室外機から排出される冷涼な空気が地上付近に滞留しやすくなることで、
気温低減効果が大きくなることが示されている。
図 3-29 ヒートポンプ給湯器の気温低減効果(左)16と地上気温による影響解析(右)17
ヒートポンプ給湯器の気温低減効果を3階建て計 16 戸のマンションの周辺で実測した研究事
例18では、12 戸中おおよそ2/3の給湯器が稼動したところ、平均風速が 0.4m/s(4:00~6:30)の状況で敷地内の地上 1.5m のマンション風下側の気温が 5:00 の平均で 0.7℃低下していた。
16 山口和貴、井原智彦、亀卦川幸浩、玄地裕、遠藤康之「住宅街区へのヒートアイランド対策導入による熱環境
改善・省エネルギー効果の評価(その1)」日本建築学会学術講演梗概集(中国)2008 年 9 月 17 井原智彦、山口和貴、亀卦川幸浩、玄地裕、遠藤康之「住宅街区へのヒートアイランド対策導入による熱環境
改善・省エネルギー効果の評価(その2)」日本建築学会学術講演梗概集(中国)2008 年 9 月 18 山口和貴、望月寛、山田耕治、遠藤康之、井原智彦、亀卦川幸浩「ヒートポンプ給湯機運転による住宅の屋外
熱環境影響-実測による熱帯夜緩和効果の検証-第 28 回エネルギー・資源学会研究発表会公演論文集、2009 年
64
図 3-30 ヒートポンプ給湯器の気温低減効果の実測結果(その1)18
また、40 階建てマンションの 3 階ベランダでベランダ内の気温を測定した研究事例19では、給
湯器の室外機からは初期外気温 28℃であったところに 22℃の冷気が吹き出され、周辺温度は 26~27℃になったと報告している。
図 3-31 ヒートポンプ給湯器の気温低減効果の実測結果(その2)19
19 竹林英樹、笠原万起子、森山正和「ヒートポンプ給湯機の室外機による屋外熱環境の緩和効果に関する研究、
空気調和・衛生工学会論文集、No.145、2009 年 4 月
65
以下に、ヒートポンプ給湯器の夜間運転時、どの程度、外気より低い温度の排気が出されるの
かなどについて、ヒートポンプ給湯器のメーカー等にヒアリングした結果をまとめた。 おおよそ外気温にくらべて 5~10℃程度低い空気が排出されるとのことであったが、真夏の夜
間の外気が 27℃程度の熱帯夜であった場合、20℃程度の冷気が排出されることになる。 主なヒアリング事項を以下に示す。 ①ヒートポンプ給湯器の室外ユニットから排出される排気温度(外気温に対して) ②貯湯タンクの表面温度特性
表 3-17 メーカー等へのヒアリング内容(ヒートポンプ給湯器)
会社名等 外気温に対する 排気熱温度
貯湯タンクの表面温度
H社 -10℃ タンクは断熱材で保護されている
ため、さわっても熱くはない。 I社 -7℃(家庭用 370~550L) 表面は熱くはないが、多少の放熱
があるため、貯湯温度が夏季は0.2~0.3℃程度、冬季は 1℃程度下が
る。 J社 -10℃ タンクはカバーされているため、
熱くはない。ただし、昼間の太陽
熱を吸収してタンクカバーが温ま
ることはある。 K社 状況により変化するが、-5
~8℃ タンクを発泡性耐熱 ASK 樹脂で
保温し、さらに外装をするため、
外気温と殆ど変わらない。 L社 -4~5℃ タンクはステンレス管体であり、
表面は温水温に近くなるが、放熱
による熱損失を避ける(APF を高
める)ために断熱材で覆うことで、
外気とは遮断されている。
66
3.6 家庭用燃料電池等の家庭用コージェネレーションシステム
1)家庭用コージェネレーションシステムの概要
電力会社などが構築している発電・電力供給システム(電力系統)は、発電所と消費地を送電
網で結ぶ集中型のシステムであり、 新の発電施設はエネルギー効率が 50%を超えるものも見ら
れる。しかし、使われないエネルギーは発電所で排熱として捨てられており、エネルギー効率の
向上にはこの排熱の利用が求められる。 電気は送電網を通して運ぶことができるが貯めておくことは困難である。一方、熱は貯めてお
くのは比較的容易であるが運ぶのは難しい。そこで、電力や熱が消費されるエネルギーの需要地
で発電し(分散型発電)、発電の際に生じる熱を貯めて活用することで、エネルギー効率を格段に
向上させることができる。これが家庭用コージェネレーションシステムである。 現在、実用化している家庭用コージェネレーションシステムには、発電に燃料電池を用いるも
のとガスエンジンを用いるものがある。以下にそれぞれの技術の概要を整理する。
(1)家庭用燃料電池の概要
燃料電池は、電極と電解質を組み合わせた「セル」と呼ばれる単電池に酸素と水素を送り込む
ことで発電する。1 組のセルがもたらす電圧は 0.7V 程度であるが、複数のセルを重ねて「セルス
タック」をつくることで必要な電圧と電力を得ることができる。
(出典)新エネルギー・産業技術総合開発機構 ホームページ
図 3-32 燃料電池のセル及びスタック
67
酸素は空気中から取り入れるが、水素は主に天然ガスや LPG、灯油などを改質して取り出す方
式が用いられている。燃料電池の反応は発熱反応であり、水と電気とともに熱が発生する。
(出典)新エネルギー・産業技術総合開発機構 ホームページ
図 3-33 燃料電池と改質装置
燃料電池の原理は共通だが、電解質の種類によっていくつかの種類に分類される。燃料電池は、
その種類によって運転温度や発電規模・効率が異なる。水素を燃料にする固体高分子形燃料電池
(PEFC)、りん酸形燃料電池(PAFC)、水素に加えて CO も燃料とできる溶融炭酸塩形燃料電池
(MCFC)、固体酸化物形燃料電池(SOFC)がある。 固体高分子形燃料電池は運転温度が比較的低く、起動性が良いために自動車や家庭用に適して
おり、りん酸形燃料電池はやや大型で運転温度も比較的高いことから、ホテルやデパートなどの
商業施設や企業などで実用化されつつある。溶融炭酸塩形燃料電池はプラントでの利用が期待さ
れている。
(出典)新エネルギー・産業技術総合開発機構 ホームページ
図 3-34 燃料電池の種類
68
家庭用のコージェネレーションシステムには「小型」が求められ、その点で燃料電池のセルの
効率は枚数には関係なく、小さくとも高効率な発電が可能なところが家庭用コージェネレーショ
ンシステムに燃料電池が適している点でもある。また、「固体高分子形(PEFC)」の燃料電池の
運転温度は比較的低温の 80℃前後であるが、家庭で使用する湯を作るのに適した効率の良い温度
域であり、他のタイプに比べ低温であることから間欠運転の際にも無駄が少ないと考えられてい
る。 システムは燃料電池ユニットと貯湯ユニットから形成され、燃料電池ユニットは「PEFC(固
体高分子形燃料電池)スタック」、スタックに供給する水素を LPG 等から作るための「燃料処理
装置」からなる。燃料処理装置には LPG 等から取り出したメタンと水蒸気を 700~1,000℃の高
温下で反応させ水素を得る「改質器」が組み込まれている。「PEFC スタック」では、電気と熱
と水が生み出され、反応で生じた水は再び「改質器」に必要な水蒸気として利用される。また、
発電される電気は、電池などと同様の直流のため、「インバータ」により交流に変換される。 「熱回収装置」で回収された熱で湯をつくり「貯湯タンク」に貯められる。湯が不足する場合
には「バックアップ熱源機(=ガス給湯器)」がある。
(出典)東京ガス ホームページ
図 3-35 家庭用燃料電池のシステム構成
69
(2)家庭用ガスコージェネレーションシステムの概要
ガスを燃料として内燃機関(ガスエンジン)により発電するとともに、エンジンから発生する
熱を利用して湯をつくり、暖房や給湯に活用するシステムである。
(出典)東京ガス ホームページ
図 3-36 ガスコージェネレーションシステムの概要
ただし、燃料電池が家庭の電力需要に応じて柔軟に運転を制御できるのに対し、ガスコージェ
ネレーションでは一定の出力(1kW)で運転する必要がある。また、小型の内燃機関のため発電
効率は 20%と燃料電池にくらべると低くなっている。
70
2)家庭用コージェネレーションシステムの CO2 排出削減効果
燃料電池、ガスコージェネレーションともに、従来のシステムより大幅にエネルギー効率が向
上している。従来の発電所から送電される電力の総合エネルギー効率は 35%程度であるが、燃料
電池では 80%程度、ガスコージェネレーションでも 77%程度の効率が達成されている。 ただし、燃料電池では燃料のエネルギーを 100 とした場合に電力 40 と湯 40 が得られるのに対
し、ガスコージェネレーションシステムでは電力 20 と湯 57 となっており、無駄なく得られた電
力や湯を使うことが省エネにつながることから、各家庭の電力や湯の需要量に応じて適切なシス
テムを選択することが重要である。
(出典)新エネルギー・産業技術総合開発機構 ホームページ
図 3-37 従来の発電システム(上)と燃料電池システム(下)のエネルギー効率
(出典)東京ガス ホームページ
図 3-38 ガスコージェネレーションのエネルギー効率
71
CO2 排出量で比較すると、家庭用燃料電池の CO2 排出量は、買電(LNG 火力発電と仮定)と
ボイラにてまかなう場合に比べ 33%の削減となる20。電力 36、熱 40 を得るために家庭用燃料電
池では 100 の CO2 が排出されるが、買電とボイラによって賄う場合には 150 に相当する CO2が排出される。
図 3-39 家庭用燃料電池と既存エネルギー使用との比較による CO2 削減効果 20
20 新エネルギー・産業技術総合開発機構、技術情報データベース
72
3)コージェネレーションシステムの導入によるヒートアイランド緩和効果
コージェネレーションシステム(CGS)はこれまでの集中型の発電システムにくらべるとエネ
ルギー効率が大幅に改善し、CO2 排出削減に寄与する。ただし、現状の電力系統で捨てられてい
る熱の多くが都市から離れているところで海水や大気中に排出されているのに対し、分散型の
CGS を導入することで、排熱量は少なくなるものの都市内で排出されることになり、ヒートアイ
ランド現象に影響を及ぼすことが考えられる。 商業・業務街区に CGS 型の地域冷暖房プラントを導入したことによる街区の熱環境をシミュ
レーションにより評価した事例21では、九州小倉駅を拠点とした 2.5km 四方の街区を対象に 3 つ
のケースを計算している。ケース 1 は現況を再現したものであるが、ケース2では CGS 地域冷
暖房プラントを商業業務建物が密集する需要エリアの近くに配置、ケース 3 では需要エリアから
離れた郊外に CGS 地域冷暖房プラントを配置した。 CASE1では、需要エリアは業務、商業の集積地のため、かなり高い気温を示している。地区
全体の 高気温は約 34℃、平均気温は約 32℃である。また、需要エリアでは、他のケースと比
べ、 高気温が も低いものの、平均気温は他のケースより 0.1-0.5℃高くなっている。CASE2と CASE3では、地区プラントがあるため、地区全体の 高気温は 34.5℃を超えるが、地区全
体平均気温は CASE1に比べ、ほんのわずかに低くなる。需要エリアの 低気温は、特に CASE3では、プラントが需要エリアから離れたため、CASE1より約 0.5℃低い。
図 3-40 コージェネレーション地域冷暖房プラントの導入による地域熱環境の評価 21
21 高偉俊、李海峰、尾島俊雄「コージェネレーションシステムの導入による地域大気環境への影響に関する評価
研究、日本建築学会関東支部研究報告集、2001 年 3 月
73
家庭への燃料電池の設置を含め、コージェネレーションシステムやヒートポンプ給湯などの電
化システムを導入した場合の熱環境変化を計算した研究事例22では、東京 23 区を対象にシミュレ
ーションを実施したところ、家庭用燃料電池の導入により住宅地区の気温は朝 8 時ころと夜 20時ころをピークとする気温上昇が見られたもののその影響は 0.1℃未満であった。また、住宅へ
の燃料電池の導入影響を東京 23 区の平均気温で見ると、朝、夕ともにおおよそ 0.02℃の上昇と
なった(図 3-41)。 ただし、商業・業務地区ではコージェネレーションシステムの導入により 0.5℃程度、日中の
気温が上昇する可能性があることが示された。商業・業務地区へのコージェネレーションシステ
ムの導入に際しては、熱の排出方法などについて地域の熱環境への影響に配慮することが望まれ
る。 現実的にはヒートポンプ給湯などの導入が急速に伸びており、ヒートポンプ給湯を含む電化ケ
ースでは朝方に気温が下がることなどを考えると、燃料電池の普及による気温上昇影響はそれほ
ど大きくない可能性がある。
表 3-18 検討ケースと想定条件 22
表 3-19 業務・家庭分野において想定した冷房・給湯システム及び性能 22
22 田村英寿、岩坪哲四朗、高橋雅仁、西尾健一郎、平口博丸、浅野浩志「コジェネレーションや電化システムの
普及に伴う都市熱環境変化の予測手法の開発-排熱推定法の確立と感度解析-、電力中央研究所報告(N06015)、2007 年 3 月
74
図 3-41 各ケースにおける気温変化量の時系列変化 22
次頁に、機器の発電効率や総合効率、また機器運転時の排熱などについて、家庭用燃料電池の
メーカー等にヒアリングした結果をまとめる。 いずれのメーカーの機器においても総合効率は非常に高く、80%を超えている状況である。排
熱については、機器の運転時、燃料電池ユニットから 200~300Wh 程度の熱が排出されているこ
とが推察される。 主なヒアリング事項を以下に示す。 ①燃料電池の発電効率、総合効率 ②熱損失と排熱状況
75
表 3-20 メーカー等へのヒアリング内容(家庭用燃料電池)
会社名等 ヒアリング内容 M社 現在の燃料電池の効率は 34~37%、総合効率で 87%(いずれも低位発
熱基準)となっている。発電効率は燃料電池の稼動強度によって変動する
が、発電効率が低下すれば給湯に使われるエネルギーが多くなるため総合
効率はほぼ一定である。 燃料電池ユニットと貯湯ユニットから構成されるが、発電している状態
で 60℃程度の排気が排出される。システムの稼動時には燃料としては都
市ガスを毎時 0.24 ㎥(約 3kWh)使用しているため、 大でその 13%分
が排熱として排出されていることになる。 燃料電池の稼働時間は、電気と湯の使い方によって異なるが、できるだ
け給湯需要に合わせて無駄のない運転をするようシステムが学習機能を
備えている。この学習機能のソフトについては各社のノウハウと考えてい
る。 N社 発電効率は 35%~38%、総合効率は 80%以上(低位発熱基準、700W
時)、発電は必要な貯湯量が確保されるまで稼働する。稼働における熱ロ
スは 20~30%発生するが、発電ユニットと貯湯ユニット毎のロス量は把
握できない。熱ロス分の一部は排気口から 60℃程度の排熱として排出さ
れる。機器の筐体(きょうたい)自体は JIA 認証で「やけどをしないこと」
が規定されているため、表面は 50℃以下となっている。 O社 発電効率は 35%以上、総合効率は 80%以上(いずれも低位発熱基準、
700W 時)。 周辺への排熱については、少ないと考えている。
P社 発電効率はいずれも約 40%、総合効率は 85~95%(いずれも低位発熱
基準、750W 時)。 稼働時の外部への排熱は若干あると思われるが、総合効率からみても、
影響は少ないと思われる。外装は塗装鋼板であるため、表面に触れても熱
いことはない。
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