227 Ⅱ−2−6. アパレル −inditex および h&m の戦略を踏まえた日系
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第Ⅱ部 欧州グローバルトップ企業の競争戦略
みずほ銀行 産業調査部
227
Ⅱ-2-6. アパレル -Inditexおよび H&Mの戦略を踏まえた日系アパレル企業の成長方向性
1.日系アパレル企業を取り巻く環境
日系アパレル企業はこれまで、国内市場を専らターゲットとして発展してきた
が、結果として①低収益性、②中小規模に留まる多数のブランド群、③限定
的な海外展開、が特徴や課題となっている。人口動態の変化に伴う国内市場
の縮小や海外企業の参入による競争環境のボーダレス化といった今後想定
される環境変化に鑑みれば、これらの課題を克服し、国内外での競争力を高
めていくことが成長の上で重要となることは論をまたない。
世界に目を転じれば、自社ブランドを展開するアパレル企業として世界No.1、
No.2 の地位を占める Inditex、H&M は、いずれも欧州を出自とするグローバ
ル企業であり(【図表 1】)、①高い収益性、②競争力の高いコアブランド、③高
い海外売上高比率を実現している。ファストファッションと言われる 2 社のビジ
ネスモデルと日系企業のそれとは、コンセプトや成立経緯が全く異なるが、そ
れでもなお、業界環境が変化し、競争環境が一層厳しくなりつつある今、改め
て斯業界における成功企業を研究する意義は大きいだろう。高収益性を実現
しているこれらトップ企業の①ビジネスモデル、②ブランドポートフォリオ戦略、
③海外戦略に着目し、日系アパレル企業が今後目指すべき方向性を考察し
てみたい。
日系アパレル企
業は低収益性、
多数のブランド
群、限定的な海
外展開が特徴
【要約】
日本のアパレル企業においては、収益性の向上や海外事業の不振が課題となっているケースが多く、また多くのブランドを展開している点も特徴的である。
一方、グローバルトップ企業たる Inditex と H&M は、高い収益性を誇り、海外売上高比率が極めて高く、そうした売上や収益をわずかなブランド数で稼ぎ出している。
Inditex、H&M は、競争環境が変化する中、垂直統合型ビジネスモデルを構築すると共
に ITや物流へ投資することで、値下げロスの少ない高収益性を実現してきた。この垂直統合型ビジネスモデルのもたらす柔軟性は、海外展開でも有利に働いている他、自社
競合やブランド希薄化を招かないブランドポートフォリオも競争力の源泉となっている。
国内市場の中長期的な縮小やグローバル企業の参入など厳しさを増す競争環境に鑑みれば、日系アパレル企業にとっても、今後は過剰なブランドポートフォリオの集約を図
り、余剰リソースにより企画・生産・物流・販売への関与を深めることで、差別化された商
品の開発と値下げロス率の抑制を通じた収益性の向上を目指すことが一層重要となっ
てくるだろう。また、こうした垂直統合型ビジネスモデルの形成は、海外展開上の競争力
強化にもつながるものと考えられる。
環境が変化しつ
つある今、改めて
世界のトップ企業
Inditex、H&Mから
学ぶ意義は大き
い
(出所)Deloitte, Global Power of Retailing 2015及び各社決算資料よりみずほ銀行産業調査部作成 (注)網掛けは欧州企業。オフプライスストアとラグジュアリーブランドを除く。
【図表1】 世界のアパレル企業ランキング
rank(apparel)
rank(retailing)
Name of company Country of origin2013 net retailrevenue(US$m)
2013 operatingmargin(%)
2008-2013 retailrevenue CAGR(%)
countries ofoperation 2013
業態
1 44 Inditex, S.A. Spain 22,265 18.6 10.0 89 SPA(ファストファッション)2 49 H&M Hennes&Mauritz AB Sweden 19,729 17.2 7.7 54 SPA型(ファストファッション)3 61 The Gap, Inc. U.S. 16,148 13.3 2.1 54 SPA(ベーシック)4 76 Fast Retailing Co., Ltd. Japan 12,639 11.6 14.3 30 SPA(ベーシック)5 93 L Brands, Inc. U.S. 10,773 16.2 3.6 58 SPA(インナー)6 109 C&A Europe Belgium/Germany 9,733 N/A 3.0 21 SPA(ベーシック)7 144 Primark(Associated British Foods plc) U.K. 6,673 12.0 17.2 8 SPA(ファストファッション)8 163 Next plc U.K. 5,843 20.6 3.8 74 SPA(ベーシック)9 170 Nike, Inc. U.S. 5,304 N/A 19.5 49 スポーツ10 180 Shimamura Co., Ltd. Japan 5,044 8.3 4.1 3 バイイング型ファストファッション
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2.アパレルビジネスの特徴
本論に入る前に、アパレルビジネスの特徴を確認しておきたい。アパレルビジ
ネスは、少品種大量生産向きの資本集約的な川上と、多品種少量供給が適
する川下により構成されることから両者の中間調整機能を要し、従前は卸や
問屋がその役割を担ってきた。また、ファッショントレンドは移ろいやすく、天候
にも左右されやすい一方で、商品企画や生産計画自体は販売のおよそ一年
~半年前にスタートする見込み生産型の事業であることから、リスクの高いビ
ジネスといえ、このリスクをメーカー、卸、小売が分散して負担する多段階の流
通構造を特徴として発展してきた(【図表 2】)。日本のアパレル企業の場合は、
商品企画・パターン化・縫製/検品・物流/検品において、商社への依存度
が高いことも特徴である。すなわち、もともと多段階構造と親和性が高い業界
であることに加え、日本のアパレル業界は、商社が加わることでより多くのプレ
ーヤーによって構成されていると言える。こうした水平分業体制は、日本の生
産拠点が中国にシフトする中で、商社が中小アパレル企業に代わり海外生産
拠点の開拓を担ってきたことや、メーカーや小売が一部垂直統合を図る過程
で賄いきれない機能を商社に依存してきたことにより構築されたものであり、
品質への要求度が高い日本の消費者が求める商品を効率よく供給する体制
としては優れているといえよう。しかしながら、こうした機能のアウトソースが、一
部で商品の同質化や過当競争を招いていることもまた事実である。
アパレルビジネス
は、リスクが高く、
リスクヘッジの観
点より多段階構
造を特徴とする
産業
【図表2】 アパレルビジネスの特徴と日本のアパレル業界構造
(出所)みずほ銀行産業調査部作成
調整機能が必要
=問屋の必要性
原料の調達
製糸生地の製造
染色整理
商品企画
パターン化
縫製/検品
物流/検品
販売糸加工糸の販売・提案
生地の販売・提案
企画~販売までのみでも約1年かかる
繊維素材(川上) テキスタイル(川中) 二次製品(川中)小売(川下)
糸からの調達には約2年かかる
問屋機能の
必要性
原料卸
商社
紡績企業
化合繊メーカー
糸商
生地メーカー
染色整理業者
生地商
アパレルメーカー
アパレル小売
アパレル卸
縫製工場
★ ★
★
★
★
★
★
★
★
★
★ ★ (★)
★
★ ★ ★*★*
★
★
★ (★)
(★) (★)
(★*)【凡例】→商流★既存領域(★)一部企業で実施★*関与するが専門事業者に委託
(★)
(★*) (★*)
各工程においてリスクに見合うマージンが上乗せされる
商品の差別化に繋がる企画~生産工程(の一部)を商社に依存
規模の経済が働く資本集約型産業→少品種大量生産/長い製造期間
消費者の多様な嗜好や変化しやすいファッショントレンドに合わせる必要があるマーケット
多品種少量販売/短い販売期間
生産の間にファッショントレンドが変容することにより、販売時点で過剰在庫・在庫不足に陥るリスク大=多段階流通構造による在庫調整機能・リスク分散機能の必要性
アパレルビ
ジネスの特
徴
日本のアパ
レル業界構
造
多段階構造
の必要性
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3.Indidtex、H&Mの競争力分析 ―ビジネスモデル、ブランドポートフォリオ、海外展開 3-1.ビジネスモデル
それでは、Inditex、H&M が台頭してきた背景とそのビジネスモデルについて
考察してみたい。
欧州のアパレルマーケットは、EU という単一市場を背景としており、1ヶ国あた
りのマーケット規模は日米中に比べ限定的であるが、「欧州」という括りで見れ
ば世界最大のマーケットを形成している。自国マーケットの規模が限定的であ
る一方、単一市場の中で近隣諸国への出店のハードルは相対的に低いこと
は、グローバル志向を促す素地となっているものと推察される(【図表 3】)。
また縫製工場出自である Inditex を生み出したスペインは、従前より欧州諸国
の中では相対的に人件費が安く、繊維産業への従事者数も多い、繊維産業
が盛んな国であった。一方で、小売企業出自の H&M を生み出したスウェー
デンは、相対的に賃金水準が高く、自国での生産背景は限定的であった
(【図表 4、5】)。
【図表3】 アパレル市場規模比較(2013 年)
(出所)Euromonitor よりみずほ銀行産業調査部作成
0 1,000 2,000 3,000 4,000
GermanyUnited Kingdom
ItalyFrance
SpainTurkey
NetherlandsSwedenAustria
Belgium - modelledNorway
DenmarkPortugalGreece
Finland - modelledIreland - modelled
Western EuropeJapan
USAChina
(億ドル)
【図表4】 時間当たり労働コスト比較(1996 年) 【図表5】 EU の繊維生産・雇用状況(1994 年) (単位:円 元資料はマルク、1DM=70円で換算)
賃金 付加分 計
旧西ドイツ 1,817 1,492 3,309 スイス 2,004 1,052 3,056 ノルウェー 1,862 913 2,775 ベルギー 1,429 1,307 2,736
デンマーク 2,172 541 2,713 オーストリア 1,344 1,329 2,673 スウェーデン 1,531 1,084 2,615 フィンランド 1,434 1,180 2,614 オランダ 1,409 1,091 2,500 ルクセンブルグ 1,665 749 2,414
日本 1,343 937 2,280 旧東ドイツ 1,259 972 2,231 フランス 1,119 1,038 2,157 イタリア 967 987 1,954 アメリカ 1,345 517 1,862 カナダ 1,289 495 1,784 スペイン 922 761 1,683
イギリス 1,133 454 1,587 アイルランド 1,123 446 1,569 ギリシャ 592 396 988 ポルトガル 387 302 689
(出所)【図表 4、5】とも、日本紡績協会「日本紡績月報 1998年 2月号」よりみずほ銀行産業調査部作成
Inditex 、H&M 台
頭の背景には、
欧州アパレルマ
ーケットの特徴及
び母国マーケット
を取り巻く環境が
影響
国生産額(100万ECU) 雇用者数(人)
紡織 衣料 紡織 衣料
ベルギー 5,213 2,076 45,326 21,772
デンマーク 1,041 478 12,549 8,854
ドイツ 16,042 8,295 175,585 111,307
ギリシャ 1,749 694 43,594 28,015
スペイン 7,739 3,091 148,368 133,483
フランス 14,435 7,425 140,905 139,035
アイルランド 718 212 10,113 8,326
イタリア 32,507 17,338 364,324 222,751
オランダ 2,106 549 18,200 7,183
ポルトガル 4,068 1,831 162,405 121,143
英国 10,549 5,805 201,957 168,757
(スウェーデン) N/A N/A 9,200 N/A
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両社が台頭してきた時代(1950 年代以降)は、繊維関連の輸入規制の変化と
共に、発展途上国からの安価な繊維製品の流入が増加していった時代であ
った。戦後の復興期(1950 年~1970 年)に、発展途上国の繊維製品が欧米
市場へ流入し、この動きへの対抗策として、1961 年に短期繊維取極(通称
STA)が、1962 年に長期繊維取極(LTA)が、1974 年には MFA(クオータ制
度)が締結され、繊維製品の輸入が制限されたが、その後、1995 年に WTO
繊維協定が締結され、2005年には輸入数量制限が完全撤廃された、という時
代背景がある。
こうした時代背景を踏まえ、Inditex の創業経緯を確認したい。Inditex の前身
である下着製造企業 Goa は、1963 年に設立後、順調に業容を拡大したが、
大手下着メーカーからの突然の大量キャンセルにより経営危機に直面したこ
とを契機として、1975年に卸・小売を担う Zaraを設立し、川下分野へ進出した。
そして、1977 年には、中品質・低価格の婦人服の企画・製造・販売を開始し、
ZARA ブランドが誕生。1985 年には縫製工場を集約し、Inditex が誕生する。
その後、地元の大学教授、ホセ・マリア・カステラーノ氏を IT部長に登用したり、
トヨタ出身の技術者を「ジャストインタイム」のコンサルタントとして招聘したりし
たことも特徴的である。1987 年には卸事業を中止し、自社ブランドを自社で企
画・製造・販売する、現在の様な SPA企業となった Inditexは、2001年のマドリ
ード証券取引所への上場で得た資金より、約 1億ユーロを投じて 2002年に最
新式の物流センター構築に着手、2003 年に完成させ稼働を開始している。そ
の後も出店拡大に伴い、継続的に物流及び ITへの投資を行っている(【図表
6】)。
Inditex は縫製工
場として創業した
ことから、競争環
境の変化 に伴
い、自社工場を
強みとして活かす
観点より SPA 化
を推進
【図表6】 外部環境の変化と Inditex の創業経緯
(出所)張磊「SPAにおける俊敏かつ適応的な垂直統合型 SCM」、東伸一「ファッション専門店小売企業の国際化における歴史的文脈の考察」、Enrique Badia, Zara and her sisters : The Story of the World's Largest Clothing Retailer、その他資料よりみずほ銀行産業調査部作成
欧州経済圏の形成
繊維関連規制の変化
Inditexの動向
1950年 1960年 1970年 1980年 1990年 2000年
1958年EC発足(6カ国)
1968年域内関税撤廃、対外関税の統一達成
1993年EU発足
1974年MFA発効(約50カ国)
1995年WTO繊維協定発効
2005年輸入数量制限撤廃
1986年EC加盟(関税障壁撤廃)
1975年民主化
1960年代高成長期
1970年代後半~80年代前半経済危機
1985年シェンゲン協定により域内パスポート不要に
1999年通貨統一(ユーロ導入)
1975年卸・小売を担うZara設立
(突然の大量キャンセルにより経営危機に直面した為)
1985年Inditex誕生
1988年海外初出店(ポルトガル)
1961年短期繊維取極発効
1962~1973年LTA
1950年~1970年代にかけて途上国から先進国への輸出が急増
メーカー機能
小売機能
スペインの動向
2001年上場
2002年大規模物流センター着工(2003年完成)1971年
販売店Sprint設立するも失敗に(→1979年撤退)
1950~63年創業者が14~17歳まで紳士用ワイシャツ店で、17~27歳まで既製服店
で勤務(高い衣料品への疑問)
1985年ホセ・マリア・カステラーノ博士をIT部長
に登用
1960年代インフレ対策として輸入関税引き下げ
関税による繊維製品保護施策
1963年下着製造企業Goa設立、創業
(ドイツやフランスの大手メーカーからも受注)
1977年中品質・低価格の婦人服の企画製造販売開始(Zaraブランド誕生)
1949年創業者(13歳)が布帛シャツメーカーの雑用係として働き始める
1987年卸事業中止
1983~85年頃トヨタ出身の技術者による「ジャストインタイム」のコンサル
第Ⅱ部 欧州グローバルトップ企業の競争戦略
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スペインにおけるアパレル市場の変容と Inditex の対応を重ね合わせてみると、
Inditex は、1977年の ZARA ブランド誕生以降、低価格・中品質を強みとして
成長してきたが、同時期は海外から安価な製品が流入し始めた時代でもあっ
た(【図表 7】)。また Inditexが上場したのは、ちょうどWTO繊維協定の発効に
伴い段階的に輸入数量制限が撤廃され、海外からの輸入が急増していた時
期でもあった。縫製工場出自であり、すでに複数の自社工場をスペイン国内
に保有していた Inditexは、この自社工場群の強みを活かしながら競争力を維
持・拡大する必要があったものと推察される。同社が、早い時期から IBM のコ
ンピューターに精通した地元の大学教授を招聘したり、ジャストインタイムのコ
ンサルタントを活用したりすることで効率化を図り、またその後継続的に物流
や ITへ投資を行ってきたことは、相対的に高コストである先進国での生産とい
う特徴を価格競争力の低下という弱みに転落させることなく、むしろ柔軟な生
産体制を実現する強みとして活かしながら高いコスト競争力を維持することに
つながったと言える。
Inditexのビジネスモデルの最大の特徴は、企画から販売までのリードタイムを
短縮することで、アパレルビジネス特有のリスク、すなわち売れ残りリスクを最
小化している点である。一般的なアパレル企業のリードタイムは 6 カ月~1 年
であるのに対し、同社は季初に企画生産する 25%を除き、約 1カ月で「作って
売る」体制を構築している。これを可能としているのは、高度に垂直統合化さ
れた企画・生産・物流・販売体制である。具体的には、販売エリア毎の市場特
性や店頭情報を踏まえ、商品構成を策定するマーケター、年間約 4万モデル
のデザインを生み出す自社デザイナー、適切な価格での生産調達を担うバイ
ヤーが連携して商品企画を行い、商品の過半はスペイン国内もしくは近隣諸
国で生産、物流大手 DHL と組みスペインの物流倉庫をハブとして各国店舗
へ 3 日以内に直接輸送する物流体制を実現している。店舗の販売情報は日
次で本社の企画部門へフィードバックされ、ブレの少ない商品企画へ活かさ
れるのである。物流拠点をスペイン国内に集約し在庫を分散させないのも、商
品を最も売れ行きの良い店舗へ迅速に供給することで値下げ販売を回避す
るためである(【図表 8】)。
【図表7】 スペインアパレル市場の変容と Inditex の対応
(出所)WTOデータ及び Euromonitor よりみずほ銀行産業調査部作成
Inditex は値下げ
ロスの抑制を重
視してビジネスモ
デルを構築
「売り切る」店頭の販売体制+店舗への投資によるブランド力強化
スペイン繊維品輸出入推移
1995年WTO繊維協定発効
2005年輸入数量制限撤廃
1986年EC加盟
2001年Inditex上場
海外からの衣料品輸入額が急増
企画~販売のリードタイムを最短化するITで制御された物流体制
「売れる」商品の開発体制(デザイン機能強化)
2002年より約1億ユーロを投入し、最新式の物流センター構築に着手、2003年に完成・稼働開始( 1時間に8万着を処理可能)
すでに保有しているスペインの自社工場群を活かしながら競争力を高める必要性
自社工場及び近隣協力工場を活用した「ジャストインタイム」による柔軟な生産体制
その後も出店拡大に伴い継続的に物流及び
ITへ継続投資
企画
販売
生産
物流
ビジネスコンセプト:
“medium quality fashion clothing at affordable prices”
0
5,000
10,000
15,000
20,000
25,000
30,000
1980
1982
1984
1986
1988
1990
1992
1994
1996
1998
2000
2002
2004
2006
2008
2010
2012
Textiles ExportsClothing ExportsTextiles ImportsClothing ImportsApparel market size
(Millions /USD)
(CY )
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Inditex の収益構造を見ると、欧州での生産を主体とすることや、サプライヤー
への支払いサイトも業界平均より長期であることから、製造コストは相対的に高
くなるものの、値下げロスを抑制することで粗利率の低下を防ぎ、結果として
安定的に高い利益率を実現している。アパレルビジネスに付き物の売れ残りリ
スクとそれに伴う値下げロスを回避するために企画から販売までの組織構成
を最適化し、物流や ITへの投資を惜しまないことが、Inditexの競争力の源泉
になっていると言えよう。
それではH&Mの場合はどうであろうか。H&Mの歴史は、アメリカで見た小売
店舗に刺激を受けた創業者が、1947 年に自国スウェーデンで低価格の婦人
服専門店「Hennes」を開業したのが始まりである。低価格を強みとしてきた当
社は、創業当初は国内から商品を調達していたものの、より安価な生産地を
求め、1960 年代には自国以外の北欧諸国と英国への生産シフトを開始、
1960 年代後半にはイタリア、ポルトガル等の南欧に、1970 年代初頭にはハン
ガリー、ポーランド、旧ユーゴスラビアに生産地を求め、1978 年には香港に生
産管理事務所を立ち上げて東アジア生産の開始に至った。しかしながら、
1980 年代になると、「低価格」のイメージ払拭に注力し、デザインや品質も重
視するようになる。1987年にはデザインディレクターを登用、2004年以降は著
名デザイナーとの協業も開始しており、現在では低価格と共にファッション性
を魅力とするブランドとして認知されている(【図表 9】)。
【図表8】 Inditex のビジネスモデルの特徴
(出所)大村邦年「ファストファッションにおける競争優位のメカニズム」、その他資料よりみずほ銀行産業調査部作成
小売発祥の H&M
は、低価格の維
持と共に、デザイ
ンや品質を重視
することにより環
境の変化へ対
応、その過程で
SPA 型ビジネス
モデルを構築
レディス
ブランド責任者
ブランドコマーシャルチーム
マーケター デザイナー バイヤー
パタンナー/縫製熟練工
自社工場(裁断・検品)
本社
店舗
スペインの自社物流センター
(店舗別に仕分け、直送)
空運(DHL)(欧州以外)
陸運(欧州)
メンズ キッズ
ZARA
エリアや各国の市場調査や店頭情報を勘案し
た商品構成(MD)を策定…担当する国やエリアを持ち、担当店舗のSMG等と毎日コミュニケーションを取ることで各国の消費者ニーズを吸い上げる
350名以上の自社デザイナーは年間4万モデルのデザインを制作(採用は1万点)…世界各国へ頻繁に出張し、国際的なコレク
ションだけでなく、世界各地の主要都市の繁華街、大学キャンパス、娯楽施設等を観察しトレンドや市場ニーズを把握
原料調達から生産、物流調整までの全ての工程管理に責任を持ち、適切なサプライヤーの選択・発注権限を持つ…パタンナー、縫製熟練工がサンプリングした商品データを、生産を担当する工場へリアルタイムで指図書にて送付協力工場
(縫製)
48時間以内 24時間以内
一同に会し商品開発
販売動向を共有
サブブランド毎に別組織
迅速かつ定期的な商品供給
ストア・マネジャー(SMG)
全体の約50%の製品をスペイン国内にある22カ所自社工場で生産、残りは世界中の外部サプライヤーに生産委託
…自社工場を保有し、稼働率に余裕を持たせることによって、急な企画変更や追加生産にもQRできる体制を採用
リードタイムの短縮を最優先、DHLと組みスペインを拠点としたハブ&スポークの物流体制を構築、週2回各国店舗へ商品を供給
日次で販売動向、マーケット情報を本部デザ
イン部門へフィードバック、POSデータを補完…店舗自体が集客装置との位置づけであり、広告を打たない代わりに店舗の内外装に投資
商品企画
・開発
調達
約10日
サプライチェーンをシステム管理
…生地の調達から裁断、縫製、検品、ピッキング、ハンギング、梱包から出荷まで、多くの協
力工場や関連企業の工場と自社工場・物流センターが情報を共有しながら、緊密に連携。売上データ・出荷データもデータベース化。
マーケター
デザイナー
バイヤー
生産
物流
店舗
IT
流通
流通
全体
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スウェーデンにおけるアパレル市場の変容と H&M の対応を重ね合わせて見
たい。スウェーデンは、従前より人件費が高く、自国の繊維産業の規模も限定
的であったことから、比較的早期(1980 年代頃)から海外製品が流入していた
(【図表 10】)。当初、低価格を唯一かつ最大の強みとして成長してきた H&M
にとって、安価な製品の流入は脅威であり、このような環境下、1980 年代にデ
ザインや質も重視する方向へ転換を図ることで価格競争から脱却し、差別化
を図る方向へ舵を切ったものと推測される。同時に、低価格という優位性を維
持するために、より安価な生産地を求めて世界を開拓すると共に、物流体制
についても、海運主体のローコストな体制を構築している。元々、低価格のみ
を強みとしていた H&M は、環境の変化に伴い、価格競争力に加えデザイン
性や品質という付加価値を付加することで、自社の優位性を再構築したとい
える。
【図表10】 スウェーデンアパレル市場の変容と H&Mの対応
(出所)WTOデータ及び Euromonitorデータよりみずほ銀行産業調査部作成
【図表9】 外部環境変化と H&Mの創業経緯
(出所)東伸一「垂直統合型衣料品専門店チェーン小売商をめぐる認識と実在」、その他資料よりみずほ銀行産業調査部作成
0
2,000
4,000
6,000
8,000
10,000
12,000
1980
1982
1984
1986
1988
1990
1992
1994
1996
1998
2000
2002
2004
2006
2008
2010
2012
Textiles Exports
Clothing Exports
Textiles Imports
Clothing Imports
Apparel market size
(Millions /USD)
(CY )
スウェーデン繊維品輸出入推移
1995年WTO繊維協定発効
2005年輸入数量制限撤廃
1996年EU加盟
1974年MFA発効
ローコストを重視した物流体制の構築
「売れる」商品の開発体制(デザイン機能強化)
安価な生産地の開拓(世界中に生産管理事務所を設置)
より安価な生産地を求めると同時に、デザインや
質を重視
安価な海外製品の流入
1978年香港に生産管理事務所設置
1982年~価格だけでなく、デザイン・質を重視
「売り切る」店頭の販売体制+広告宣伝によるブランド力強化
販売
企画
生産
物流
ビジネスコンセプト:
“FASHION AND QUALITY AT THE BEST PRICE”
欧州経済圏の形成
繊維関連規制の変化
H&M
1950年 1960年 1970年 1980年 1990年 2000年
1958年EC発足(6カ国)
1968年域内関税撤廃、対外関税の統一達成
1993年EU発足
1974年MFA発効(約50カ国)
1995年WTO繊維協定発効
2005年輸入数量制限撤廃
1985年シェンゲン協定により域内パスポート不要に
1999年通貨統一(ユーロ導入)
1961年短期繊維取極発効
1962~1973年LTA
1950年~1970年代にかけて途上国から先進国への輸出が急増
メーカー機能
小売機能
スウェーデンの動向
1947年アメリカ視察を経て低価格婦人服
専門店「Hennes」開業
当初は自国生産1960年代自国以外の北欧諸国と英国へ生産シフト
1960年代後半イタリア、ポルトガルの南欧へ
1970年代初頭までにはハンガリー、ポーランド、旧ユーゴスラビア
1964年海外初出店(ノルウェー)
1968年MauritzWidforssを買収
1974年ストックホルム市場に上場
1980年代「低価格」のイメージ払拭に注力、デザイン導入・品質重視へ
1987年デザインディレクター入社
1978年には香港のプロダクションオフィス、東アジア開拓
1976年北欧外へ初出店(イギリス)
1996年スウェーデンEU加盟
1960年EFTA発足(スウェーデン含む)
1966年7月1日以降域内関税2%に
1967年1月1日以降域内関税0%に
2004年著名デザイナーとの協業開始
1980年代後半低価格ブランド「クレージーガンナー」を展開(10年後に全18店舗を撤退)
第Ⅱ部 欧州グローバルトップ企業の競争戦略
みずほ銀行 産業調査部
234
H&M のビジネスモデルは、Inditex と同じく、企画・生産・物流・販売が高度に
垂直統合化されているが、Inditex とは大きく異なる点もある。すなわち、従前
の強みである価格競争力の維持と引き換えにリードタイムが長くなっている点
である。当社は、生産の約 8 割をアジアで大量ロットにて前倒し生産し、海運
主体で主要マーケットである欧州へ輸送することで、低価格を実現している
(【図表 11】)。しかし、低価格と引き換えに長くなるリードタイムは、アパレルビ
ジネス特有の売れ残りリスクを高める要因につながる。これに対しH&Mは、商
品を特性毎に分類すると共に、エリア毎の売れ筋や天候情報等の詳細なデ
ータ分析を行い、死に筋は素早く排除することで予想の的中度を高める取組
を行っており、結果として、50 万点とも言われる大量の商品数にも関わらず、
値下げ率を業界平均よりも低い水準に抑制し、高い利益率を実現している。
Inditex と H&Mに共通していることは、価格競争力という強みが失われる危機
に晒された際に、デザイン・品質強化による差別化を図ると同時に、垂直統合
化を強化することで柔軟なサプライチェーンを構築し、値下げ率を抑制する仕
組みを構築したことであるといえよう。これが高収益性の源泉となっている。
【図表11】 H&M のビジネスモデルの特徴
H&M はリードタイ
ムの長さにより販
売予測を誤るリス
クを IT活用により
カバー、値下げ
率の抑制に成功
Inditex と H&M は
垂直統合型ビジ
ネスモデルの構
築を通じ競争力
を強化
(出所)東伸一「垂直統合型衣料品専門店チェーン小売商をめぐる認識と実在」その他資料をもとにみずほ銀行産業調査部作成
Men
本社企画部門
コントローラー
デザイナー バイヤー
パタンナー/縫製熟練工
各国の店舗
本社
店舗
工場(外部サプライヤー)
Women Kids
H&M・約160名のインハウスデザイナー、約100名のパターンデザイナーが在籍、年間約50万点の商品を開発・デザイナーは、世界中を旅して集めたあらゆる情報源から情報を収集・高級ブランドの有名デザイナーとも協業・世界中のPOSデータを分析し反映・先行して1年先までの商品デザイン化を進め、売れ行きによって後から調整
・企画段階から関与、プロダクションオフィスから提示されたサプライヤーリストを元に、価格、配送頻度、立地を勘案し発注を行う。
Divided Denim
・本社のバイイング部門と生産地の工場との間に立ち、①新たなサプライヤーを探す、②適切なサプライヤーに発注をかける、③価格交渉を行う、④品質管理を行う、⑤輸送時間を最小化する、等の役割を担う・スタッフは現地採用・監査部門を有し、工場の監査を行う・品質管理部門は規定をもとに品質をチェック・R&Dチームと商品開発部門は、本社バイヤー部門に対し、対応可能なサプライヤーリストを納期・コスト等の条件とともに提示・欧州とアジアの900超のサプライヤーから調達(うち80%がアジア)
Managers
プロダクションオフィス
監査部門 品質管理部門
R&Dチーム 商品開発部門
各国Call-offにストックしておき、店舗の売れ行きに応じ毎日1~3回配送
主に海運
transit terminal
海運 陸運 ・物流は本社でコントロール。・香港系海運企業OOCLと組みコストパフォーマンスに優れた物流体制を構築(海運主体)・物流部門は3,200人を雇用(2007年)、物流のほぼすべての段階において在庫管理がなされ、本社で把握されている。・コスト抑制の観点から海運中心
デザイナー
パタンナー
バイ
ヤー
プロダクションオフィス
物流
・立地に応じて品揃えを調整・コールオフの設置により店舗在庫保有しない・1カ月以内に値下げして売り切る
店舗
・サプライチェーンをシステム管理、全世界のPOSデータによる顧客ニーズ分析
IT
各国の“call-off”(distribution
center)
各国の“call-off”(distribution
center)
サブブランド毎に別組織
一同に会し商品開発
販売動向を共有
ローコストの追求
全体で約4週間~3ヶ月
工場は保有しないが生産管理機能を内製化
ローコストの追求
(約15ヶ所)
(約25ヶ所)
商品企画・
開発
調達
流通
全体
販売
第Ⅱ部 欧州グローバルトップ企業の競争戦略
みずほ銀行 産業調査部
235
3-2.ブランドポートフォリオ
次に、ブランドポートフォリオ戦略について考察したい。
Inditexは、傘下に ZARA、Pull&Bear、Massimo、Dutti、Bershka、Stradivarius、
OYSHO、ZARA HOME、Uterque の 8つのブランドを保有している。2014年
度決算ベースで売上の 64.0%を占める ZARAがコアブランドではあるものの、
その他のブランドも数%~10%近くの売上シェアを占め、成長を続けているこ
とから、バランスよく売上を構成しており、比較的分散されたポートフォリオと言
える(【図表 12】)。
ポートフォリオは、価格帯・ターゲット層(対象年齢・性別)・取扱商材が異なる
ブランドで構成されており、自社競合は発生しづらいものと推察される。また 1
つのブランド内にサブブランドを設定することで、ブランド数を増やすことなく
様々なテイストを提案する仕組みとなっており、ブランドの細分化を回避して
いることも特徴である。ブランド別平均店舗面積の推移を見ても、主要ブランド
で店舗が大型化している理由には、こうした事情が背景にあるものと推察され
る(【図表 13】)。
【図表12】 Inditex のブランド別売上シェア
(出所)Inditex社 2014Full Year Results よりみずほ銀行産業調査部作成
ブランドコンセプト
ブランド名 開始時期 特徴価格帯(ZARAを基準)
ターゲット層
メンズレディース
キッズ
衣料品ブランド
Massimo Dutti
1985年(1991年に買収)
・自立した都市の男女向けブランド・メンズファッション向けブランドスタート、1992年からウィメンズを、2003年から子供服を開始
高◎(25~45歳)
○(25~45歳)
○
ZARA 1975年
・働く女性向けブランドから発祥・「ZARA WOMAN」、「ZARA BASIC」、「ZARA TRF(TRAFALUC)」、「ZARA MAN」、「ZARA KIDS」のラインを展開
中 ○◎(30~40代)
○
Stradivarius1994年(1999年に買収)
・若い女性向けフェミニンファッション・バッグ等の雑貨が豊富な点も特徴
低◎(20~35歳)
PULL&BEAR 1991年 ・トレンド感のあるカジュアルウェア 低○(14~28歳)
○(14~28歳)
Bershka 1998年
・低価格でトレンド性の高いティーンズブランド・「ベルシュカ」(トレンドアイテム、ルームウェア、デニム)、「BSK」(アイドルやミュージシャン等をテーマとしたデザイン)、「Man」(メンズ)の3ラインと服飾雑貨
低 ○
◎(10代~20代前半)
雑貨等ブランド
Oysho 2001年
・女性向けランジェリーブランド・ランジェリーの他、モダンでカジュアルなアウターウェア、リラックスウェアも取扱う
- ◎
Zara Home 2003年
・インテリア業態・テキスタイル類(寝具類、ベッドリネン類、テーブルウェア、バスリネン)の他、食器類、カトラリー、グラス類、インテリア用品を取扱う
- - - -
Uterqüe 2008年 ・服飾雑貨(バッグ等)ブランド - ◎
【図表13】 Inditex のブランドポートフォリオの特徴
(出所)Inditex社 Annual report よりみずほ銀行産業調査部作成
Inditex のブランド
ポートフォリオは
過度な細分化を
回避
Inditex は主力の
ZARA に加え複
数のブランドで売
上を構成
64.0%7.1%
7.8%
9.2%
6.2%2.3%
3.0%
0.4%
ZARA
Pull & Bear
Massimo Dutti
Bershka
Stradivarius
OYSHO
ZARA HOME
Uterque
2014年度売上高
181億ユーロ
1991年買収1975年開始 1991年開始
1998年開始 1999年買収 2001年以降開始
ブランド別平均店舗面積
ブランドポートフォリオ形成イメージ
Massimo Dutti
PULL&BEAR
ZARA
BershkaStradivarius
OyshoZara HomeUterqüe
メンズ、高価格帯の取込み
カジュアル・郊外の取込み
ボリュームマーケット(ヤングレディース)の取込み
ヤングレディースの強化
周辺業態への進出
(インナー、家具、雑貨)
都市部の女性向けブランドとして出発
0
200
400
600
800
1,000
1,2002000 (FY) 2014 (FY)
(㎡)
第Ⅱ部 欧州グローバルトップ企業の競争戦略
みずほ銀行 産業調査部
236
一方、H&Mは、売上シェアは非公表であるものの、店舗数ベースでは全体の
92.9%が H&M ブランドで構成されており、ほぼ単一ブランドで売上を構成し
ていると言える(【図表 14】)。ただし、H&M というブランドの中に、LADIES、
MEN 、 KIDS 、 DIVIDED 、 UNDERWEAR 、 &DENIM 、 COSMETICS 、
ACCESSORIES、 H&M HOME といった多くのラインを展開しており、同社も
ブランド数を増やすことなく商品ラインナップを拡大する戦略を採っている
(【図表 15】)。また、2007年に開始された COS、2013年にスタートした& other
stories といった他ブランドも、より高価格帯で展開しており、主力ブランドとは
明確に差別化されたポートフォリオとなっていると言えるだろう。
【図表14】 H&M のブランド別店舗数シェア
(出所)H&M社 Annual report よりみずほ銀行産業調査部作成
【図表15】 H&M のブランドポートフォリオの特徴
(出所)H&M社 Annual report よりみずほ銀行産業調査部作成
H&M は専ら H&M
という単一ブラン
ドで売上の大層
を構成 、 Inditex
同様、ブランドの
細分化を回避
1968年買収1947年開始 2007年開始
2008年買収
ブランドポートフォリオ形成イメージ
MauritzWidforss COSHennes
WEEKDAYCHEAP MONDAYMONKI
メンズ、キッズの取込み
上質な素材で高価格帯の取込み
ニッチマーケットの取込み
女性向け低価格ブランドとして出発
2009年開始
H&M HOME
2013年開始
&other stories
周辺業態への進出(インテリア)
周辺業態への進出(服飾雑貨)
H&Mブランド内のサブブランド
LADIES
MEN
KIDS
DIVIDED
UNDERWEAR
&DENIM
COSMETICS
ACCESSORIES
H&M HOME
92.9%
3.2%0.6%
0.1% 2.6% 0.5%
H&M
COS
Weekday
Cheap Monday
Monki
&Other Stories
2014年度3,511店舗
ブランドコンセプト
ブランド名 開始時期 特徴価格帯(H&Mを基準)
ターゲット層
メンズレディース
キッズ
衣料品ブランド
COS 2007年モダンで、流行に左右されず、肌触りがよくて機能的。流行よりもスタイルを大切にするというコンセプト。
高 ○ ○ ○
&other stories2013年
若い女性向けに、バッグ、靴、アクセサリー、ランジェリー、コスメティックを中心に提案するラグジュアリー感覚のライフスタイルブランド
高 ○
H&M
1947年(1968年に「MauritzWidforss」を買収)
女性、男性、ティーン、キッズを対象にした、パーティファッションから定番のベーシックアイテムや機能的なスポーツウェアまで取り揃える
中 ○ ◎ ○
WEEKDAY2008年買収
デニムを強みとするオリジナルブランドの他、Cheap MondayやRodebjer、Christophe Lemaireなどのブランド等の販売も行うセレクトショップ
高 ○ ○
CHEAPMONDAY
2008年買収
世界中に卸先を持つデニムブランド 高 ○ ○
MONKI2006年(2008年買収)
若い女性向けに個性的なストリートファッションを提供(日本のストリートファッションを原点とする)
低~中 ○
雑貨H&M HOME 2009 年 H&Mのインテリア業態 - - - -
第Ⅱ部 欧州グローバルトップ企業の競争戦略
みずほ銀行 産業調査部
237
ちなみに、ブランドマーケティング戦略の権威であるデービット・A・アーカー教
授1は、多過ぎるブランドがもたらす弊害(選択肢が多過ぎることで消費者の混
乱や不満を招き購買の意思決定を遅らせる)と、選択肢の単純化による効用
(前述の弊害を解消すると共に企業にとっても長期的により効果的なブランド
構築につながる)を指摘している。Inditex と H&Mの 2社が、ブランドポートフ
ォリオを過度に細分化せず経営資源を集中させていることは、重要な成功要
因の一つとなっていると見られる。
3-3.海外戦略
海外戦略についてはどうであろうか。
Inditexは、1988年にポルトガルに出店したことで海外展開を開始したが、この
背景には、1986 年にスペインが EC へ加盟したことで、進出しやすい環境が
整ったことが挙げられる(【図表 16】)。同様に、H&M も、EFTA が発効した
1960 年以降となる 1964 年にノルウェーへ海外初出店し、スウェーデンが EU
に加盟した 1995年以降に、出店国数を増やしている(【図表 17】)。このことか
ら、2 社は経済圏の拡大を海外展開のチャンスと捉え、成長のバネにしたと言
える。
両社の出店国を比較すると、H&M の方が早くに海外展開を始めたにも関わ
らず、Inditex の方がより広範な地域と国に出店を行っている(【図表 18】)。か
つて「太陽の沈まないスペイン帝国」を築いた国を母国とする Inditexは、柔軟
な物流体制を活かし、1992 年に進出し 300 近い店舗を展開しているメキシコ
をはじめ、早期からスペイン語圏をはじめとする多くの国へスピーディに出店
する戦略を採っている。一方 H&M は、欧州中心に展開しているが、1 ヶ国あ
たりの店舗数が Inditex を上回る国も多数ある。同社は、ある程度の出店数に
なると消費地近辺に物流拠点を設けることから、近隣諸国や市場規模の大き
な国へ集中的に出店する戦略を採っている。出店方法に正解はないが、海
外市場への出店は物流戦略と大きく関係することには留意が必要である。
1 カルフォルニア大学バークレー校ハース経営大学院名誉教授(マーケティング戦略論)。ブランド論の第一人者。
【図表16】 Inditex の出店国数推移 【図表17】 H&M の出店国数推移
Inditex、H&M にと
っては、経済圏の
拡大も海外展開
の拡大上重要な
要素だった
海外展開は物流
戦略にも左右さ
れる
(出所)Inditex社 Annual report よりみずほ銀行産業調査部作成
2 10 11 12 12 14 14 14 18 20 22 22 25 26 27 29 32 36 40 42
24
7 89
1112
13 13
0
10
20
30
40
50
60
1964
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
FCでの進出国直営での進出国
(FY)
(ヶ国)
ノルウェーへ海外初出店
スウェーデンがEUに加盟(1995年)
EFTA発効(1960年)
1 28 9 10
1421
303339
4448
566264
68737477
82868788
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
100
1987
1988
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
(ヶ国)
(FY)
ポルトガルへ海外初出店
スペインがECに加盟(1986年)
(出所)H&M社 Annual report よりみずほ銀行産業調査部作成
第Ⅱ部 欧州グローバルトップ企業の競争戦略
みずほ銀行 産業調査部
238
また、ファッションの嗜好はもともと文化や気候、所得水準や人口動態等に大
きく左右され、アパレル業界は各国にあわせ最適な形で発展してきたことから、
もともとドメスティックな産業としての色合いが強い。好まれる色、サイズ、テイス
ト、デザイン、価格等、あらゆるものが異なる市場へ進出し、地場企業と競合し
ながら成功を収めることのハードルは高い。その中で、Inditex と H&M が(マ
ーケット毎のバラつきはあるにせよ)概して成功を収めているのは、各ローカル
マーケットの趣味嗜好のエッセンスを商品企画に反映させる商品企画体制と、
各ローカルマーケットにあわせて柔軟に最適な商品を供給する流通体制を有
しているからである。すなわち、完成度の高い垂直統合化されたビジネスモデ
ルであることが、海外展開にあたっても有利に働いているのである。
以上をまとめると、Inditex と H&M は、価格競争力やメーカー・小売としてのノ
ウハウといった従前の強みを活かしながら、繊維関連輸入規制の変化や経済
圏の拡大という環境変化へ対応し、高い収益性を生み出す垂直統合型ビジ
ネスモデルを構築すると同時に、バランスのとれたブランドポートフォリオの形
成に努め、そうしたコアブランドを関税障壁のない海外市場や自国と同じ文化
圏あるいは大規模マーケットへスピーディに展開していくことで、グローバル企
業としての競争力を勝ち得てきたと言えよう。
【図表18】 Inditex と H&Mの海外出店状況(2014 年度決算における上位 30 位の比較)
(出所)Inditex社、H&M社 Annual report よりみずほ銀行産業調査部作成 (注)網掛けは欧州以外の国
国名 地域 店舗数 国名 地域 店舗数
1 Spain(自国) Europe 1,858 1 Germany Europe 440
2 China Asia 457 2 USA North America 356
3 RUSSIA Europe 386 3 UK Europe 291
4 Italy Europe 335 4 China Asia 253
5 Portugal Europe 316 5 France Europe 205
6 Mexico South America 272 6 Sweden(自国) Europe 176
7 France Europe 267 7 Spain Europe 159
8 Poland Europe 242 8 Netherlands Europe 140
9 Turkey Europe 167 9 Poland Europe 135
10 Greece Europe 167 10 Italy Europe 132
11 Saudi Arabia Middle East 152 11 Norway Europe 130
12 Japan Asia 140 12 Franchise Middle East & Asia 118
13 Germany Europe 106 13 Denmark Europe 99
14 U.K. Europe 104 14 Switzerland Europe 93
15 Romania Europe 99 15 Belgium Europe 78
16 Belgium Europe 98 16 Austria Europe 73
17 United Arab Emirates Middle East 77 17 Canada North America 72
18 South Korea Asia 60 18 Finland Europe 71
19 Brazil South America 59 19 Russia Europe 60
20 Netherlands Europe 55 20 Japan Asia 51
21 Israel Middle East 52 21 Czech Republic Europe 43
22 USA North America 52 22 Hungary Europe 38
23 Ukraine Europe 50 23 Romania Europe 35
24 Indonesia Asia 47 24 Portugal Europe 30
25 Hungary Europe 42 25 Greece Europe 30
26 Lebanon Middle East 40 26 Turkey Europe 30
27 Colombia South America 40 27 Ireland Europe 22
28 Cyprus South America 37 28 South Korea Asia 20
29 Canada North America 33 29 Slovakia Europe 18
30 Bulgaria Europe 32 30 Croatia Europe 16
Inditex H&M
第Ⅱ部 欧州グローバルトップ企業の競争戦略
みずほ銀行 産業調査部
239
4.グローバルトップ企業の強みを踏まえた日系アパレル企業の成長方向性
こうした世界トップクラスのアパレル企業の戦略を踏まえ、日系アパレル企業
が得られる示唆とはどのようなものだろうか。
まず、ビジネスモデルからみてみたい。収益構造は薄利多売型とその逆が想
定されるが、日系アパレル企業は棚卸資産回転率の多寡(すなわち「多売」で
あるかどうか)によらず、概して営業利益率が低い水準にあるといえる(【図表
19】)。一方で Inditex と H&M は低価格帯の商品を取扱いながらも薄利多売
型ビジネスに陥ることなく、高価格帯ブランド並みの高い営業利益率を確保し
ている。これは、いわゆる SPA 型ビジネスモデルによりリスクに見合った収益
性を得ているためであるが、それだけでなく、両社がアパレルビジネス特有の
「値引きロス」の抑制に努め、効果を得ていることが大きな要因と考えられる。
それでは、日系アパレル企業の場合はどうだろうか。
これまで日系アパレル企業は、「値下げをすること」、もしくは「(サプライチェー
ンのより上流工程に)返品すること」を前提とし、「値引きロス」を予め考慮した
価格設定と期末セールでの値下げが常態化していた。しかし、「値引きロス」
に対し非常にシビアなグローバル企業の市場参入や消費の成熟は、「付加価
値」を見る消費者の目を鍛え、従来の方法が通用しない環境となりつつある。
ここにきて、「定価販売」への取組みが広がっている所以である。
しかし、値下げを回避する、すなわち、適時適切に最適な商品を供給するた
めには、最終的には、顧客ニーズを迅速に商品開発に反映する体制や、柔
軟な在庫調整を可能とするサプライチェーンの構築が求められる。
【図表19】 棚卸資産回転率と営業利益率
日本のアパレル
業界においては、
これまで最終的
な値下げが前提
となっていた
(出所)各社決算資料よりみずほ銀行産業調査部作成
0.0
2.0
4.0
6.0
8.0
10.0
12.0
14.0
16.0
-5.0 0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0 35.0
棚卸資産回転率
営業利益率
しまむら
Inditex
Ralph Lauren
H&M
三陽商会
ファーストリテイリング
Michael Kors
Prada SpA
NEXT
アダストリアHD
レナウン
TSI HDGap
Burberry Group plc
ユナイテッドアローズ
ライトオン
ワールド
パル
Espritハニーズ
オンワードHD
(%)
(回)
薄利多売型(強み:価格競争力)
高付加価値型(強み:ブランド力・デザイン・素材等)
中間型
折衷型
第Ⅱ部 欧州グローバルトップ企業の競争戦略
みずほ銀行 産業調査部
240
現状、日系アパレル小売企業は、消費者による品質への要求度の高さ、海外
生産における品質管理の難しさや物流ノウハウの不足等の理由から、企画・
生産分野において商社へ依存するケースも多い。またアパレルメーカーの場
合は依然として卸に近い形態で百貨店や専門店を主販路として事業展開し
ているケースも多いことから、小売企業と遜色のないレベルで顧客ニーズを吸
い上げる機能を有しているといえる企業は限定的である。
この通り、日系アパレル企業においては、メーカー機能と小売機能の両方を
自社で兼ね備え、またそれらを垂直統合させて柔軟なサプライチェーンを構
築している企業はごく限られる状況である。企画、生産、物流、販売のあらゆ
る機能を一足飛びに自社で全て賄おうとすることは現実的ではないにせよ、
今後は、こうした各工程への関与を深めていくことがより重要になるだろう。高
収益性の源泉となる、差別化された商品開発や価格に見合った適切な付加
価値の提供、そして「値下げロス」を抑制するサプライチェーンコントロールの
ためには、各工程への関与が欠かせないからである。
また、ブランドポートフォリオ戦略に目を転じると、日系アパレル企業は、1社で
数十のブランドを展開しているケースが多い(【図表 20】)。こうした多ブランド
化の背景としては、国内の多様かつ移ろいやすい消費者ニーズに対し、トレ
ンドを反映した新規ブランドや流通チャネルに応じたサブブランドを開発する
ことが、売上高伸長要因となってきたことが挙げられる。しかし、実態としては
ターゲット層やコンセプト、商品自体が互いに似通っており、自社競合や過当
競争の遠因となっているケースも少なくない。また、多数のブランド展開は、結
果として管理コストの増加や 1 ブランドあたりの経営資源投入量の減少にもつ
ながる。国内市場が飽和し、中長期的に縮小していく見通しの中で、既にブラ
ンドの数ではなく 1つ 1つのブランドの競争力が問われる時代にシフトしつつ
ある。1 ブランドあたりの経営資源の投入量を増やし、競争力ある自社ブランド
を確立するためにも、ブランドの集約・改廃を通じて、より少ないブランドでより
高収益を稼ぐ体制の構築が重要であろう。
【図表20】 日系アパレル企業のブランドポートフォリオ
日系アパレル企
業にとっても、収
益性向上のため
には垂直統合化
を進めることがよ
り重要に
日系アパレル企
業は多数のブラ
ンドポートフォリ
オを見直し、競争
力の高いブランド
へ経営資源を集
中すべき
(出所)各社決算資料よりみずほ銀行産業調査部作成
Michael Kors Holdings
Prada SpA
Next plc Burberry Group plc
InditexH&M
Ralph Lauren Corp
Gapユナイテッドアローズ
ファーストリテイリング
三陽商会
しまむら パルアダストリアHD
オンワード HDライトオン
ワールド
レナウン TSI HD
-5.0
0.0
5.0
10.0
15.0
20.0
25.0
30.0
35.0
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
営業利益率(%)
ブランド数
少ないブランド/高収益企業群
多くのブランド/低収益企業群
営業利益率とブランド数
デザイン 商品のイメージ
ベーシックトレンドに大きく左右されることなく、長期にわたって幅広い世代に定着しているスタイル
トレンドミックス
ベーシックをベースに、ほどよくトレンドを取り入れたスタイリッシュなスタイル
スイート流行を取り入れつつ、可愛らしさを残したスタイル
ナチュラル自然で、肩の力を抜いた、幅広い世代に親しみやすいスタイル
トレンドモード
流行を取り入れた現代的なスタイル
ストリート若い世代を中心とした、気取らない日常のスタイル
フォーマル 礼装等正統派スタイル
ガーリー 可愛らしさや甘さを重視したスタイル
モードエレガンス
流行を取り入れつつ、上品さを残した洗練されたスタイル
エレガンスキャラクター
上品でありながら個性が活かされたスタイル
フェミニン 女性的なやさしさを感じさせるスタイル
日系企業は1社で多くの細分化されたテイストのブランドを展開し自社競合を招く結果に
アパレルデザインの特徴(例)
海外有力企業は、コアとなるブランドを確立した上で、そのサブブランドや姉妹ブランドを展開するケースが多い
第Ⅱ部 欧州グローバルトップ企業の競争戦略
みずほ銀行 産業調査部
241
最後に、海外展開についてはどうすべきであろうか。Inditex、H&M の場合は、
EU という単一市場の形成や、スペイン語圏という同一文化圏への展開
(Inditex の場合)が、海外展開の上で影響していることを確認した。世界の自
由貿易協定の動向を見極めながら海外進出を検討すべきであろう。また同一
文化圏と呼べる市場は無いに等しいが、親日国であるかどうかは進出の成否
を左右する重要な要素である。
ただし、海外展開においてより重要なことは、グローバルな競争環境で競争力
のあるビジネスモデルを構築することである。ここで言う競争力とは、ローカル
マーケットの特性に応じて嗜好を商品企画に反映したり在庫を調整したりでき
るサプライチェーンの柔軟性と、海外展開時の初期投資コストを吸収できる高
収益性である。というのも、海外市場においては最初から成功することは難し
く、「トライ&エラー」の期間を経て収益改善できることが重要であるが、そのた
めにはこの 2 つの要素が必要となるからだ。そしてこの 2 つの要素は、これま
で見てきたように、企画・生産・物流・販売が有機的に連動した垂直統合型ビ
ジネスモデルと親和性が高いことから、海外展開における成功という観点から
も、垂直統合化を進める意義は大きいと言える。
一方で、品質やサービスに対する日本の消費者の要求度の高さはグローバ
ル企業も口を揃えて指摘するほどであり、そのような消費者から構成されるマ
ーケットにあわせ最適な形で発展してきた日系アパレル企業にとって、海外展
開はたやすいことではない、ということもまた事実であろう。高品質な商品や商
社を含む水平分業型ビジネスモデルは、日本市場での成功要因となっても海
外展開時には必ずしもそのまま強みとなるわけではない。元々洋服の歴史が
浅いことに加え、世界でもとりわけ demanding な日本の消費者の要求に応え
ながら、それを所得水準も文化的背景も異なる世界のマスマーケット層に受け
入れられるように加工することは、難易度が高く、事実苦戦している企業が多
い。その意味で、アパレルビジネスの海外展開においては、階層社会を背景
にラグジュアリーブランドから低価格ブランドに至るまで選り抜きの強豪が存在
する欧州系企業に一日の長があることは否めない。日本のアパレル市場は、
いまなお世界で 3位の規模と成熟した消費者を抱える優良マーケットであるが、
その特異性ゆえに海外企業の成功もさほど容易ではない。日系アパレル企業
の多くにとって、短期的には、自社ブランドの競争力を高め日本の市場で勝
ち残ることと、海外成長市場取込みの観点から欧米系を中心とする有力ブラ
ンドを買収・展開することが現実的な成長戦略となるだろう。
ここまで高収益性を生み出すビジネスモデル、ブランドポートフォリオ戦略、海
外戦略の観点から、日系アパレル企業が今後目指すべき方向性について考
察してきた。垂直統合化による収益性の向上、ブランドの集約・改廃によるブ
ランド力の強化、および強いビジネスモデルを伴っての海外進出が重要であ
ると述べたが、順序としては、まずはブランドポートフォリオを見直し、余剰リソ
ースで企画・生産・物流・販売体制への関与を強化することで、海外展開にも
耐えうる垂直統合型・高収益型ビジネスモデルを構築することが目指すべき
方向性と考える。
海外展開におい
ては自由貿易協
定の動向や親日
国であるかどうか
も着眼点の一つ
海外展開での成
功にあたっては
競争力の高いビ
ジネスモデルの
構築が鍵
日系アパレル企
業にとり、海外展
開が困難である
ことも事実。海外
展開にあたって
は海外ブランドの
M&A も一手段
第Ⅱ部 欧州グローバルトップ企業の競争戦略
みずほ銀行 産業調査部
242
5.結びにかえて
アパレルビジネスは、いつの時代もその国の人口動態や世相の影響を大きく
受ける産業である。その意味で、日本社会が人口減少局面を迎えると共に一
層の消費の成熟が進み、転換点を迎える中、日系アパレル企業もまた変化を
求められていると言えるだろう。最後に、グローバルアパレル企業の言葉を紹
介しておきたい。「日本のアパレルマーケットの競争は厳しい。しかし、どの国
のアパレルマーケットの競争環境も同様に厳しいものである。ファッションは常
に変化するものであり、その変化に柔軟に対応することが重要である。我々は、
最初から成功することではなく、“KAIZEN”し、発展させ、適応していくことを
重視している。」
日系アパレル企業による“KAIZEN”の成果を心待ちにしたい。
(流通・食品チーム 利穂 えみり) emiri.riho@mizuho-bk.co.jp
アパレルビジネス
の中長期的な成
功にとっては変
化へ迅速に対応
できる柔軟性が
重要
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編集/発行 みずほ銀行産業調査部 東京都千代田区大手町 1-5-5 Tel. (03) 5222-5075
/50 2015 No.2 平成 27年 6月 10日発行
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