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122. 体節の繰り返し構造を規定する分子メカニズムの解析

松井 貴輝

Key words:Hes7,FGF シグナル,Sprouty4,生物時計,位置決定

奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス研究科 遺伝子発現制御学講座

緒 言

 脊椎動物の前後軸にそった繰り返し構造は,発生期に一過性にあらわれる体節の等間隔パターンによって規定される.この等間隔パターンは,胎仔の尾部に存在する未分節中胚葉(presomitic mesoderm,PSM)が一定時間(マウス120分,ゼブラフィッシュ30分)ごとに括れ切れることによって形成される.すなわち体節形成は,時間的周期性を利用した形態形成として位置づけられる. 近年,マウスの PSM に特異的に発現する転写因子 Hes7 が単離され,その遺伝子発現が体節形成周期(120分)と一致して,ON と OFF を繰り返す(振動する)こと 1,2),さらに,実験遺伝学的手法と数理シミュレーションを用いた研究によって,Hes7を介した Notch シグナルのネガティブフィードバックループが“生物時計”のコアとして機能することが明らかになった 2,3).このように,一つの細胞内で時間を計るメカニズムについては明らかになってきているが,生物時計によって生み出された時間的周期性がどのように体節の分節化に変換されるのかについては,ほとんど理解されていない. 胚の最尾部の尾芽領域では,増殖因子 FGF が強く発現しており,FGF シグナルの前方へ向かった濃度勾配が形成される.この勾配が分節化の位置決定をしていると考えられている 4,5).また体節は,分子時計の作り出す時間的周期性を利用して分節化するので,分子時計が FGFの勾配を変化させ,周期的に分節境界を規定する可能性が考えられる.

方 法

  E10.5 日目のマウス胎仔における Sprouty4 の発現は,in situ hybridization 法で解析した.PSM での発現の詳細を調べるため,100個の個体の PSMでの Sprouty4 の発現領域の長さを測定し,時間変化を推定した.Sprouty4 の振動周期を調べるために,E10.5 日目のマウス胎仔の尾部を左右半分に切断し,左側の断片はすぐに固定し(培養前),右側を60分または120分培養した.左右での Sprouty4 の発現パターンを比較することで,Sprouty4 の振動に要する時間を概算した.また,Sprouty4 の発現をHes7 ノックアウトマウス胎仔でも調べ,Sprouty4 の振動へのHes7 の関与を調べた. 

 上原記念生命科学財団研究報告集, 23(2009)

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 図 1. Sprouty4 の発現振動.

E10.5 マウス胚のPSMにおける Sprouty4 の発現は,個体ごとに異なるパターン(I, II, III)を示している(A).この振動パターンは,Hes7 ノックアウトマウスの PSMでは認められない(B).スケール 0.2 mm

 

結 果

  FGF シグナルの抑制因子である Sprouty4 は,FGF 8の発現パターンと一致して,midbrain-hindbrain boundary,somites,PSM で発現する.マウスの E10.5 の 100 個の胚について,PSM での Sprouty4 の発現を詳細に解析したところ,Sprouty4 の発現は,PSM の後端のみ,中間部位のみ,前端のみ発現する個体が存在し,異なる発現パターンを示すことが明らかになった(図1A). このようなパターンは,遺伝子の発現が振動することが知られている Lfng,Hes7 などと類似していることから,Sprouty4 の発現は,PSMにおいて振動している可能性が示唆された.そこで,これを検証するために,E10.5 胚の尾部を左右に分断し,Sprouty4 と Lfng の発現をそれぞれの断片で調べたところ,Sprouty4 の発現領域は,Lfng の振動パターンと同様に変化することが明らかになった.また,右半分を60分培養したときの発現パターンと,培養前のパターンを比較すると,左右で異なる発現パターンを示したが,120分培養すると,培養前のパターンと一致した発現パターンを示した.この結果は,Sprouty4 の発現が2時間周期で振動していることを示唆している.  Lfng の発現振動は,Hes7 に依存することが知られている2).Sprouty4 の発現振動は,この Lfng の振動と同調しているので,Sprouty4 の振動も,Hes7 に依存する可能性が考えられる.そこで,Hes7 を欠損した Hes7 ノックアウトマウス胚で,Sprouty4 の発現を調べたところ,野生型で認められる発現パターンの変化は認められず,PSMの全体に一様に広がって発現することが分かった(図1B).この結果は,Sprouty4 の振動にHes7 が必要であることを示している.

考 察

 以上の結果から,マウス胚において,Sprouty4 の発現は,Hes7 に依存して,2時間周期で振動することが明らかになった.よって,Sprouty4 は,Hes7 の持つ時間情報を FGF 位置情報へ周期的に伝えるメディエイターとして機能している可能性が示唆された(図2).しかし,Sprouty4 のノックアウトマウスでは,体節形成に異常が認められないことから,Sprouty4 以外の因子の関与が示唆される.これまでに,FGF の抑制因子である Sprouty2,dusp4 の発現も振動することが報告されている.これらの因子は,すべてFGF シグナルを負に制御する抑制因子であることから,これら因子の協調的な作用が体節の分節化の周期的な位置決定に関与している可能性が考えられる.

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 図 2. 体節が周期的に分節化するメカニズム.

マウス胚では,2時間周期で1つの体節が形成される.その周期に合わせ,Hes7 の発現が振動する.これと同期して,Sprouty4 の発現も振動する.Hes7 タンパクが存在するときに,Sprouty4 のタンパクも存在し,その存在領域が,FGF の濃度勾配の閾値付近に到達した場所で,FGF シグナルが負に制御され,その位置が,予定体節境界となる.PSM:未分節中胚葉,PS:予定体節,S:体節

   この研究にあたり,ご助力してくださった共同研究者の先生方に深く感謝いたします.また,本研究を支援していただきました上原記念生命科学財団に深く感謝申し上げます.

文 献

1) Bessho. Y., Miyoshi, G., Sakata, R. & Kageyama, R.: Hes7: a bHLH-type repressor gene regulatedby Notch and expressed in the presomitic mesoderm. Genes Cells., 6: 175-185, 2001.

2) Bessho, Y., Sakata, R., Komatsu, S., Shiota, K., Yamada, S. & Kageyama, R.:Periodic repression by thebHLH factor Hes7 is an essential mechanism for the somite segmentation clock. Genes Dev.,17:1451-1456,2003.

3) Hirata, H., Bessho, Y., Kokubu, H., Masamizu, Y., Yamada, S., Lewis, J. & Kageyama, R.: Instabilityof Hes7 protein is crucial for the somite segmentation clock. Nat. Genet.,. 36: 750-754,2004.

4) Dubrulle, J., McGrew, MJ. & Pourquié, O.: FGF signaling controls somite boundary position andregulates segmentation control of spatiotemporal Hox gene activation. Cell, 106:219-232,2001.

5) Sawada, A., Shinya, M., Jiang, YJ., Kawakami, A., Kuroiwa, A. & Takeda, H. :Ffg/MAPK signaling isa crucial positional cue in somite boundary formation. Development, 128: 4873-4880, 2001.

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