Ⅴ-4.石炭ガス化複合発電siemens v94.2 (1,100 級) siemens v94.3 (1,300 級) 出...

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156 Oct. 2010 1.はじめに 石 炭 ガ ス 化 複 合 発 電(IGCC:Integrated Coal Gasification Combined Cycle)は,豊富な石炭資源 を高効率で利用でき,環境特性にも優れていることから, 次世代の火力電源の主力を担う新技術として国内外で開 発が進められている。 欧米では,1990年代半ばに4つのIGCCプラントが 運転を開始している。我が国では,1999年度より電気 事業大で発電出力25万 kW 級の IGCC 実証機計画が進め られており,2007年度に実証運転が開始されている。 ここでは,海外および我が国における IGCC 技術の開 発動向について概説し,あわせて今後の課題について述 べる。 2. 海外における石炭ガス化複合発電技術の 開発経緯と最新の動向 石炭ガス化炉の開発の歴史は古く,1920年代に都市 ガスや化学原料の製造用として実用化されている。発電 用ガス化炉の開発は1970年代より本格化し,STEAG 社(独)により,1972年頃からKellerman発電所の固 定床ガス化炉による世界初の IGCC 運転(17万 kW)が 行われた (1) IGCC用石炭ガス化炉の開発は,表1に示す加圧型噴 流床方式が主流となり (2) ,次に紹介するクールウォー タープログラムが,現在の IGCC の草分けと言えよう。 クールウォータープログラムは米国・日本の共同研究 開発プロジェクトとして実施され,日本からは,東京電 力㈱,㈱東芝,石川島播磨重工業㈱及び(財)電力中央研 究所(電中研)がJCWP(Japan Cool Water Program Partnership)を結成し,本プロジェクトに参画した。 本プロジェクトでは,Texaco式噴流床ガス化炉を用い た120MW級IGCCプラントで,1984年から5年間の 実証運転試験が行われ,IGCCが技術的に成立すること を世界で始めて実証した (1) クールウォータープログラム以後,欧米では1990年 代半ばより,300MW級のIGCC実証・商用計画が進めら れ,Tampa(米国),Wabash River (米国),Buggenum (オランダ),Puertollano(スペイン)の4つのプラン トが運転を行っている。これらのプラントは,いずれも 酸素吹きガス化炉を用いており,酸素製造に大きな動力 を要するため,必ずしも,送電端効率は高くない。これ Ⅴ-4.石炭ガス化複合発電 (IGCC Power Generation) 火力原子力発電創立60周年記念特集号 Ⅴ章 1004 ガス化炉名称 / メーカ名 CCP /三菱 EAGLE /日立 Shell /Shell Prenflo /Shell E Gas /Conocophillips Texaco /GE Energy 型  式 2室2段 1室2段 1室1段 1室1段 2室2段 1室1段 流れ方向 上昇流 上昇流 上昇流 上昇流 上昇流 下降流 供給方式 乾 式 乾 式 乾 式 乾 式 スラリー スラリー 炉 壁 材 水冷壁 水冷壁 水冷壁 水冷壁 耐火材壁 耐火材壁 ガス化剤 酸素富化空気 酸 素 酸 素 酸 素 酸 素 酸 素 概 略 図 Coal Coal Air Char Air Coal Coal O2 Char O2 Coal O2 Coal O2 CWM O2 CWM CWM O2 表1 主要な加圧型噴流床ガス化炉の概要

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  • 火 力 原 子 力 発 電

    156

    Oct. 2010

    1.はじめに

    石 炭 ガ ス 化 複 合 発 電(IGCC:Integrated Coal

    Gasification Combined Cycle)は,豊富な石炭資源

    を高効率で利用でき,環境特性にも優れていることから,

    次世代の火力電源の主力を担う新技術として国内外で開

    発が進められている。

    欧米では,1990年代半ばに4つのIGCCプラントが

    運転を開始している。我が国では,1999年度より電気

    事業大で発電出力25万kW級のIGCC実証機計画が進め

    られており,2007年度に実証運転が開始されている。

    ここでは,海外および我が国におけるIGCC技術の開

    発動向について概説し,あわせて今後の課題について述

    べる。

    2.�海外における石炭ガス化複合発電技術の�開発経緯と最新の動向

    石炭ガス化炉の開発の歴史は古く,1920年代に都市

    ガスや化学原料の製造用として実用化されている。発電

    用ガス化炉の開発は1970年代より本格化し,STEAG

    社(独)により,1972年頃からKellerman発電所の固

    定床ガス化炉による世界初のIGCC運転(17万kW)が

    行われた(1)。

    IGCC用石炭ガス化炉の開発は,表1に示す加圧型噴

    流床方式が主流となり(2),次に紹介するクールウォー

    タープログラムが,現在のIGCCの草分けと言えよう。

    クールウォータープログラムは米国・日本の共同研究

    開発プロジェクトとして実施され,日本からは,東京電

    力㈱,㈱東芝,石川島播磨重工業㈱及び(財)電力中央研

    究所(電中研)がJCWP(Japan Cool Water Program

    Partnership)を結成し,本プロジェクトに参画した。

    本プロジェクトでは,Texaco式噴流床ガス化炉を用い

    た120MW級IGCCプラントで,1984年から5年間の

    実証運転試験が行われ,IGCCが技術的に成立すること

    を世界で始めて実証した(1)。

    クールウォータープログラム以後,欧米では1990年

    代半ばより,300MW級のIGCC実証・商用計画が進めら

    れ,Tampa(米国),Wabash River(米国),Buggenum

    (オランダ),Puertollano(スペイン)の4つのプラン

    トが運転を行っている。これらのプラントは,いずれも

    酸素吹きガス化炉を用いており,酸素製造に大きな動力

    を要するため,必ずしも,送電端効率は高くない。これ

    Ⅴ-4.石炭ガス化複合発電(IGCC Power Generation)

    火力原子力発電創立60周年記念特集号 Ⅴ章

    1004

    ガス化炉名称/メーカ名

    CCP/三菱

    EAGLE/日立

    Shell/Shell

    Prenflo/Shell

    E Gas/Conocophillips

    Texaco/GE Energy

    型  式 2室2段 1室2段 1室1段 1室1段 2室2段 1室1段

    流れ方向 上昇流 上昇流 上昇流 上昇流 上昇流 下降流

    供給方式 乾 式 乾 式 乾 式 乾 式 スラリー スラリー

    炉 壁 材 水冷壁 水冷壁 水冷壁 水冷壁 耐火材壁 耐火材壁

    ガス化剤 酸素富化空気 酸 素 酸 素 酸 素 酸 素 酸 素

    概 略 図Coal

    CoalAir

    CharAir

    CoalCoalO2

    CharO2

    CoalO2

    CoalO2 CWMO2

    CWM

    CWMO2

    表1 主要な加圧型噴流床ガス化炉の概要

  • 157

    Vol. 61 No.10 Ⅴ.開発技術 Ⅴ-4.石炭ガス化複合発電

    らのプラントの概要を表2に示す(3),(4)。いずれのプラ

    ントも,運転開始後種々トラブルが発生したものの,年々

    石炭ガス焚きでのAvailabilityは向上し,図1(5)に示す

    とおり70~80%に達している。各プラントの状況を以

    下に記す。

    (1)Tampa(3),(4),(6)

    米国DOEのCCTプログラムラウンドⅢで選定された

    もので,1996年9月~2001年9月の実証期間後,商用

    化されている。設計送電端効率(HHV)は39.7%であっ

    たが,ガス化炉での炭素転換率がやや低いことなどから,

    設計効率に達していない。運転開始後,輻射型及び対流

    型熱交換器,ガス/ガス熱交換器,COS転換器等に改

    良が加えられ,稼働率は70~80%まで向上している。

    (2)Wabash River(3),(4),(7)

    米国DOEのCCTプログラムラウンドⅣとして実施さ

    れ,1995~2000年の実証試験後,商用運転を行ってい

    る。本プラントは既設汽力発電プラントをリパワリング

    したものであり,ほぼ設計通りの効率が得られている。

    運転開始後,灰付着トラブルによるガス化炉壁及び熱交

    換器部の改造,セラミックフィルタからメタルフィルタ

    への変更,COS転換触媒の劣化対策,MDEA吸収液の

    劣化対策等が施された。2000年以降の石炭ガス焚きの

    Availabilityは,70%を超えている。また,2004年に

    契約上の問題から一時運転を停止していたが,2005年

    から運転を再開している。

    (3)Buggenum(3),(4)

    電力会社4社により設立されたオランダ電力委員会

    (SEP)がスポンサーとなり,1994年から4年間の実証

    試験後,1998年から商用運転を行っている。現在は,

    Nuon社が運営しており,バイオマスの混合ガス化試験

    も実施している。ガスタービン燃焼器での燃焼振動が発

    生し,燃焼器やバーナの設計変更を行っている。

    (4)Puertollano(3),(4),(8)

    スペインのENDESA,フランスのEDF,イタリアの

    ENEL等を中心とするElcogasコンソーシアムが推進し

    ている。1998年より石炭/石油コーク(50/50)を燃

    料として運転を行っている。運転開始当初より,ガスター

    ビン燃焼器での燃焼振動,熱交換器部での灰付着,ガス

    化炉メンブレンチューブや生成ガス配管の腐食,COS

    転換触媒の劣化等のトラブルが報告されていたが,種々

    対策を施し,運転信頼性向上が図られている。

    2000年以降,上記4プラントに続く計画が進行して

    いなかったが,地球温暖化対策として,火力発電所から

    のCO2回収について,国内外で種々検討が行われ,

    IGCCに関してもCO2回収型IGCCの検討が進められて

    1005

    Tampa Wabash River Buggenum Puertollano

    場  所 米国 フロリダ 米国 インディアナ オランダ スペイン

    ガス化炉型式 Texaco E-GasTM Shell Prenflo

    脱じん方式 湿式スクラバ フィルタ+湿式スクラバ フィルタ+湿式スクラバ フィルタ+湿式スクラバ

    脱硫方式 湿式化学吸収(MDEA)湿式化学吸収(MDEA)

    湿式化学物理吸収(Sulfinol)

    湿式化学吸収(MDEA)

    GT型式 GE 7FA(1,300℃級)GE 7FA

    (1,300℃級)Siemens V94.2(1,100℃級)

    Siemens V94.3(1,300℃級)

    出  力

    GT 192MW 192MW 156MW 200MW

    ST 123MW 104MW 128MW 135MW

    発電端 315MW 296MW 284MW 335MW

    送電端 250MW 262MW 253MW 300MW送電端効率

    (設計値,HHV) 39.7% 37.8% 41.4% 41.5%

    運転開始 Sept 1996 Oct 1995 Jan 1994 Dec 1997

    表2 海外で稼働中のIGCCプラントの概要

    図1 海外IGCCの石炭ガス焚きのAvailability(5)

    0102030405060708090100

    1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006

    Availability(%)

    -

    1,000

    2,000

    3,000

    4,000

    5,000

    6,000

    7,000

    8,000

    Buggenum

    Tampa

    Puertollano

    Wabash River

    運転時間(hr/年)

  • 火 力 原 子 力 発 電

    158

    Oct. 2010

    いる。ここ数年の間に,欧米や豪州,中国などで新たな

    IGCCプロジェクトが発表されており,キャプチャーレ

    ディーやCO2回収型も含めた主要なIGCCプロジェクト

    を表3に示す(9)。表3に示すプロジェクトについて,必

    ずしも計画通りに進捗していないものも見受けられ,今

    後もその動向を注視しなければならない。

    3.我が国におけるIGCC開発の経緯と動向

    我が国におけるIGCC開発として,流動床石炭ガス化

    複合発電,噴流床石炭ガス化複合発電及び噴流床方式多

    目的ガス化技術の開発経緯を以下に記す。

    (1)流動床石炭ガス化複合発電技術

    我が国におけるIGCC開発としては,先ずサンシャイ

    ン計画において流動床石炭ガス化複合発電の開発が進め

    られた。1974年度より,石炭技術研究所が通産省から

    の委託を受け,夕張試験場において,5ton/日流動床石

    炭ガス化試験設備,40ton/日パイロットプラントを用

    い,空気吹き加圧二段流動床ガス化炉,乾式ガス精製(流

    動床脱硫,移動床脱じん)等の開発を行った。さらに,

    本パイロットプラントの成果に基づき,NEDOからの

    委託研究として電源開発㈱が,1,000ton/日実証プラン

    トの基本設計を実施した。流動床石炭ガス化複合発電技

    術としての開発は1987年度で終了したが,40ton/日パ

    イロットプラントで試験研究が行われた乾式ガス精製

    (流動床脱硫,移動床脱じん)については,後述の

    200ton/日パイロットプラントのガス精製設備として

    採用され,開発が継続された。

    (2)噴流床石炭ガス化複合発電技術

    1980年より,国・電気事業において噴流床石炭ガス

    化複合発電技術の検討が進められ,1983年度~1985年

    度にNEDOからの委託により,電中研が噴流床石炭ガ

    ス化複合発電技術に関するフィージビリティ・スタディ

    (FS)を実施した。このFSの結果を踏まえ,1986年度

    に9電力会社,電源開発㈱,電中研の11法人から成る

    石炭ガス化複合発電技術研究組合(IGC組合)が設立さ

    れ,NEDOの委託事業として,200ton/日パイロット

    プラント計画が開始された。本パイロットプラントのガ

    ス化炉は,電中研と三菱重工業㈱が2ton/日石炭ガス

    化基礎実験装置により開発を行った空気吹き加圧二段噴

    流床方式,ガス精製は前述の夕張40ton/日パイロット

    プラントで開発を行ってきた流動床脱硫・移動床脱じん

    が採用された。なお,メーカとIGC組合との共同研究

    として,20ton/日規模の固定床方式脱じん・脱硫装置,

    4ton/日規模の移動床方式脱じん・脱硫装置も併設さ

    れた。設備は,福島県いわき市の常磐共同火力勿来発電

    所構内に設置され,1991年度より運転が開始された。

    運転開始当初はガス化炉内の灰付着等のトラブルが発生

    したが,それらを全て解決し,1995年3月から4月に

    かけて約1ヵ月間(789時間)の連続運転に成功した。

    その後も1996年2月までの運転期間に各種データの取

    得を進め,1996年度には解体研究を実施し,成功裏に

    終了している(10)~(12)。

    200ton/日パイロットプラントの成果を踏まえ,実

    証機計画に関する検討が行われ,1997,98年度にNEDO

    より東京電力㈱への委託研究として実証機FS及び要素

    研究が実施された(研究体制としては,9電力会社と電

    源開発㈱,電中研の共同研究)。この成果を受け,1999

    年度より電力9社と電源開発㈱ならびに電中研との共同

    研究(国の補助事業)として,空気吹きIGCC実証機プ

    ロジェクトがスタートした。1999~2000年度は東京電

    力㈱が幹事会社となり進められたが,2001年6月に㈱

    クリーンコールパワー研究所が電力共同出資により設立

    され,プラントの立地点が福島県いわき市の常磐共同火

    力発電所構内に決定した。本プロジェクトの体制を図2(5)

    に示すが,プロジェクト費用の30%が国からの補助金

    で,残りを9電力会社,電源開発㈱,電中研の11法人

    で分担している。

    IGCC実証機の構成を図3(5)に,主な仕様を表4に示

    1006

    RWE FutureGen Edwardsport AEP MESABA ZeroGen GreenGen Magnum国 ドイツ 米国 米国 米国 米国 豪州 中国 オランダ

    規  模 450MW 275MW 632MW ① 629MW② 629MW 600MW 400MW 400MW 600MW

    運転開始 2014年 2015年 2012年 ① 2010年② 2012年 2014年 2015年 2020年 2013年

    備  考 ・褐炭利用 ・2008年1月にプロジェクト再構築 ・建設中 ・計画遅延・ P h a s e 2 で

    600MW×2の計画有り

    ・規模変更・第一次計画

    で250MW級IGCC建設

    ・バイオマス混焼・2011年 に 天 然

    ガスで運転開始予定

    表3 海外で計画中の主なIGCCプロジェクト

  • 159

    Vol. 61 No.10 Ⅴ.開発技術 Ⅴ-4.石炭ガス化複合発電

    す。実証機から商用機へのスケールアップ等の観点から,

    実証機出力は250MW規模(ガス化炉石炭処理量約

    1,700ton/日)とされている。実証機の目標送電端効率

    は,最新鋭の大型微粉炭火力並みである42%(LHVベー

    ス)であるが,商用段階では1,500℃級ガスタービンの

    導入等により,送電端効率は48%を超える見込みであ

    る。また,環境特性 (SOx,NOx,ばいじん)は,最新

    鋭の微粉炭火力と同等以下になるように目標値が定めら

    れている。

    図4に示すよう,約3年間の環境アセスメントが

    2004年に終了し,2004年8月に現地工事に着工した。

    その後,順調に建設工事が進められ,2007年10月にガ

    ス化炉石炭ガス化運転が開始された。同年12月にはガ

    スタービンへの石炭ガス供給が行われ,2008年3月7

    日 に プ ラ ン ト 負 荷100 %(250MW) に 到 達 し た。

    2008年6月~9月には,長時間連続運転試験が行われ,

    無事に終了している。2008年度下期には最適化試験が

    実施され,表5に示すよう設計値を上回るプラント性能

    が得られている。また,2008年度及び2009年度に炭種

    拡大として,ベース炭種の中国炭に加え,インドネシア

    炭及び米国PRB炭を用いた試験運転が実施された。更

    に,2009年6月から,耐久性試験(年間累積運転時間:

    5,000時間)が実施され,2010年6月に終了している(5),

    (13),(14)。

    設計値 最適化試験時大気温度発電端出力ガスタービン出力蒸気タービン出力送電端効率

    15℃250MW

    128.9MW121.1MW

    42.0%(LHV)

    9.9℃248.8MW130.4MW118.4MW

    42.9%(LHV)*

    冷ガス効率炭素転換率石炭ガス発熱量

    73%>99.9%

    4.8MJ/㎥N(LHV)

    77%>99.9%

    5.6MJ/㎥N(LHV)環境性能(O216%)SOxNOxばいじん

    (目標値)8ppm5ppm

    4㎎/㎥N

    0.5ppm3.9ppm

    <0.1㎎/㎥N*大気温度15℃換算値

    表5 プラント性能実績値

    出  力 250MW級(石炭処理量:約1,700トン/日)

    方  式

    空気吹きドライフィード二段噴流床炉

    湿式ガス精製(MDEA)+石膏回収

    1,200℃級ガスタービン

    目標熱効率LHV(HHV)

    発電端48%(46%)

    送電端42%(40.5%)

    環境特性(目標値)

    SOx  :8ppm(O216%換算)

    NOx  :5ppm(O216%換算)

    ばいじん:4mg/㎥N(O216%換算)

    表4 IGCC実証機の仕様

    図2 実証機プロジェクトの実施体制(5)

    資源エネルギー庁

    補助金 30%

    ㈱クリーンコールパワー研究所

    共同研究

    分担金 70%

    研究員

    出資

    北海道電力東北電力東京電力中部電力北陸電力関西電力中国電力四国電力九州電力電源開発電力中央研究所

    図3 IGCC実証機の構成(5)

    石炭供給設備チャー回収装置

    排熱回収ボイラ

    蒸気タービン

    ガスタービン

    酸素 空気分離設備

    チャー

    石炭ガス化炉

    窒素

    空気

    COS変換器

    冷却塔 洗浄塔

    M

    燃焼器

    スラグ TC

    空気

    空気昇圧機

    ガス精製設備

    複合発電設備

    煙突

    発電機

    M

    ~T C

    H2S吸収塔

    排熱回収ボイラ

    図4 IGCC実証機プロジェクトのスケジュール

    環境アセスメント

    実証試験

    事前検証試験

    20092008200720062005200420032002200120001999

    基本設計・詳細設計 建 設 運転試験

    1007

  • 火 力 原 子 力 発 電

    160

    Oct. 2010

    (3)噴流床方式多目的ガス化技術

    上記噴流床石炭ガス化複合発電の開発とは別に,サン

    シャイン計画で1983年度より噴流床方式多目的ガス化

    技術の開発について検討が行われ,1986年度より

    NEDOの委託事業として,石炭利用水素製造技術研究

    組合(HYCOL組合)による50ton/日パイロットプラ

    ント計画が開始された。ガス化炉としては㈱日立製作所

    が開発を行ってきた酸素吹き加圧二段噴流床方式が採用

    された。本パイロットプラントは,千葉県袖ヶ浦に建設

    され,1991年度から1994年4月まで運転研究が行われ

    た。1993年12月から1994年1月にかけて1,149時間

    の連続運転に成功するなど,所定の開発目標を達成し,

    成功裏に終了した(15),(16)。これらの成果を引き継いで,

    1995年度より高効率・高信頼性の酸素吹きガス化炉の

    開発ならびに石炭ガスを燃料電池へ供給可能とするため

    のガス精製技術の確立などを目的に,電源開発㈱が

    NEDOとの共同研究事業として,多目的石炭ガス製造

    技術開発(EAGLEプロジェクト;Coal Energy Application

    for Gas, Liquid and Electricity)を実施している。

    EAGLEパイロットプラントの構成を図5(5)に,基本

    仕様を表6に示す。150ton/日酸素吹き1室二段旋回

    型噴流床ガス化炉,湿式ガス精製(MDEA法,石膏回収),

    ガスタービン,空気分離設備(加圧深冷分離),生成ガ

    ス燃焼設備等で構成されている。

    本プロジェクトのスケジュールを図6(5)に示すが,

    1998年より電源開発㈱若松研究所内でプラントの建設

    が開始され,2002年度から2006年度までをSTEP-1と

    して各種試験が実施された。この間に,負荷100%での

    安定した運転,高効率な石炭ガス化性能・ガス精製性能,

    多炭種対応性等が確認されている。さらに,大型化技術

    の検証を行い,1,015時間の長時間連続運転に成功する

    など,全ての開発目標を達成し,STEP-1は成功裏に終

    了した。STEP-1における開発目標と実績を表7(5)に示

    す。引き続き2007年度からは,STEP-2として,①高

    灰融点炭種対応,②CO2分離回収試験,③微量物質挙

    動調査,について試験が実施された。2008年度及び

    2009年度に,高灰融点炭種対応として3炭種の高灰融

    点炭の試験が行われ,高灰融点炭を適用可能であること

    を確認している。CO2分離回収試験を実施するため,精

    製ガスを一部分岐し,化学吸収方式CO2分離回収設備

    が追設された。2008年度及び2009年度で, 累積通ガス

    時間1,341時間15分の運転を行い,基本特性や分離回収

    システムの石炭ガスへの適用性,システムの基本諸元等

    石炭ガス化炉 酸素吹き1室2段旋回流噴流床方式石炭処理量 150トン/日ガス化圧力 2.5MPaガス精製方式 MDEA湿式ガス精製方式精密脱硫方式 酸化亜鉛系吸着剤硫黄回収装置 湿式石灰石・石膏法空気分離装置 加圧深冷分離方式酸素純度 95%GT発電機出力 8,000kWCOシフト触媒 鉄系および銅系触媒CO2分離回収方式 MDEA化学吸収方式

    表6 EAGLEパイロットプラントの基本仕様

    図5 EAGLEパイロットプラントの概略系統(5)

    G

    COMP GT

    石炭ガス化設備

    微粉炭

    ガス化炉 SGC

    N2スラグ

    O2

    原料空気圧縮機精留塔

    空気

    空気分離設備 ガスタービン設備

    生成ガス燃焼炉

    排熱回収ボイラ

    水洗塔

    COS転化器

    チャー

    フィルタ

    水洗塔 吸収塔石膏回収装置

    処理炉

    再生塔

    ガス精製設備精密脱硫器

    煙突

    GGH

    1008

  • 161

    Vol. 61 No.10 Ⅴ.開発技術 Ⅴ-4.石炭ガス化複合発電

    を確認している。更に,微量物質挙動調査についても,

    EAGLE試験炭における微量成分の系内挙動を確認する

    など,所期の目的を達成している(17)~(19)。

    4.IGCCの課題と将来展望

    「Cool Earth -エネルギー革新技術計画」(20)では,

    IGCCについて「2010年頃に発電効率46%,2015年頃

    に48%を目指す。さらに1,700℃級タービンの開発によ

    り2025年に発電効率50%,2030年以降に発電効率

    57%の達成を目指す。」とされている。さらに,二酸化

    炭素回収・貯留(CCS)も重要な技術と位置づけられて

    おり,IGCCとCCS技術を組み合わせた,CO2回収型

    IGCCの検討も進められている。一方,エネルギーセキュ

    リティ確保の観点からは,長期的な石炭資源の有効な活

    用のためには,瀝青炭から亜瀝青炭や褐炭へ炭種を拡大

    していくことが必要である。このような背景のもと,

    IGCC技術開発における今後の課題と展望について以下

    に記す。

    (1)燃料種の拡大

    瀝青炭等品質の高い石炭は,全埋蔵量の約50%であ

    り,残りは,品質の劣る亜瀝青炭や褐炭である(21)。亜

    瀝青炭や褐炭の大きな特徴は,瀝青炭に比べ水分含有量

    が多く,発熱量が低い点である。このような品質の劣る

    石炭をIGCCに適用した場合,瀝青炭に比べ,発電効率

    は低下し,設備費や運転保守費が増加する。従って,今

    後,瀝青炭から亜瀝青炭や褐炭への石炭種拡大を進める

    には,効率の低下とコストの上昇が大きな課題となる。

    (2)高効率化の追求

    IGCCの最も大きな特徴は,その高効率性にある。発

    電効率の向上(41%→57%)でCO2排出原単位を約

    28%(相対値)低減可能であり,エネルギーセキュリティ

    の観点からも,引き続き,高効率化の実現に向けた研究

    開発が必要不可欠である。この発電効率の向上には,ガ

    スタービンの高温化に加え,乾式ガス精製技術も重要な

    役割を果たす。世界最高効率のIGCC技術を目指し,今

    後も着実に開発を進めていくことが重要と考えられる。

    (3)二酸化炭素回収・貯留への展開

    CO2回収型IGCCに関する検討は,国内外で多数行わ

    れている。米国DOEの検討では,CO2回収を行わない

    場合に比べ,CO2を90%回収・貯留する場合は,発電効

    率が6~9%(絶対値)低下し,発電コストは30~

    項目 開発目標 達成値①石炭ガス化性能 ・炭素転換率 ・冷ガス効率 ・生成ガス発熱量 ・ガス化圧力

    98%以上78%以上

    10,000kJ/㎥N以上2.5MPa

    99%82%

    10,100kJ/㎥N以上2.5MPa

    ②ガス精製性能 ・硫黄化合物 ・アンモニア ・ハロゲン化合物 ・ばいじん

    1ppm以下1ppm以下1ppm以下

    1㎎/㎥N以下

    1ppm未満1ppm未満1ppm未満

    1㎎/㎥N未満③連続運転性能 1,000時間以上 1,015時間④多炭種対応 5炭種以上 5炭種

    ⑤大型化対応10倍程度のスケールアップを目標とした大型化対応のためのデータ取得

    ガス化炉大型化対応として,空塔速度増大試験,バーナ噴出速度変化試験等を実施し,スケールアップデータを取得

    表7 STEP-1の研究成果(5)

    図6 EAGLEプロジェクト試験計画(5)

    2006 2007 2008 200920052004200320022001200019991998199719961995

    FS基本・詳細設計

    建設運転試験

    評価

    20092008200720062005200420032002STEP-2STEP-1

    試運転性能確認

    多炭種対応試験

    連続運転 微量物質等抽気連携試験

    連続運転大型化試験

    CO2分離回収

    高灰融点炭対応

    微量物質挙動調査

    ガス化炉改造・ 分離設備設置

    CO2

    1009

  • 火 力 原 子 力 発 電

    162

    Oct. 2010

    40%(相対値)上昇するとされている(22)。このように,

    現状の技術でCO2を回収・貯留する場合は,石炭の消費

    量が増大することにより,資源の枯渇を早め,コスト上

    昇も避けられない。従って,効率低下とコスト上昇を抑

    えた新しいCO2回収型IGCCの開発が望まれる。

    5.おわりに

    地球環境問題への対応から,IGCCは今後益々その重

    要性が高まるものと考えられる。2000年以降,IGCC

    実証機,EAGLEともに着実に進展し,我が国のIGCC

    技術は,もはや世界的にみて遜色の無いレベルに到達し

    てきている。引き続き,実用化に向けた開発が進められ,

    欧米の技術を超える,わが国独自の優れた技術として確

    立し,普及することを切に望むものである。

    参 考 文 献

    (1)電中研レビュー「石炭ガス化複合発電の実用化に

    向けて(その2)」,No.23,1989

    (2)電中研レビュー「石炭ガス化複合発電の実現に向

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    Proceedings of 2004 Gasification Technologies

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    (5)特集「新エネルギー・新発電(第5章 1.石炭の

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    (7)U.S. Department of Energy, Wabash River

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    (8)P. Case ro , Pue r to l l ano IGCC Power

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    Developments, Proceedings of 2nd International

    Conference on IGCC & XtL Technologies, 2007

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    No.1,p62,1997

    (13)Ishibashi Y., Second Year Operation Results

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    (14)クリーンコールパワー研究所ホームページ,

    http://www.ccpower.co.jp/

    (15)古江,花山,植田,小山;噴流床石炭ガス化(HYCOL)

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    No.463,Vol.46 No.4,p35,1995

    (16) 上 田, 吉 田;HYCOL石 炭 ガ ス 化 パ イ ロ ッ ト

    プラントの運転研究成果,日本エネルギー学会誌,

    Vol.74 No.8,p731,1995

    (17)特集「低炭素社会の実現に向けた電力エネルギー・

    環境技術(第Ⅳ章 2)石炭ガス化発電)」,火力原子

    力発電,No.637,Vol.60 No.10,2009

    (18)木村,多目的石炭ガス製造技術(EAGLE)の開

    発とCO2分離回収,石炭利用国際会議2008,2008

    (19)第1回「多目的石炭ガス製造技術開発(EAGLE)」

    (事後評価)分科会資料,2010

    (20)経済産業省,「Cool Earth –エネルギー革新技術

    計画」,2008

    (21)BP Statistical Review of Word Energy 2009,

    2009

    (22)U.S. Department of Energy, Cost and

    Performance Baseline for Fossil Energy Plants

    Vol.1 Bituminous Coal and Natural Gas to

    Electricity Final Report, 2007

    1010