愛知学院大学 『経営管理研究所紀要J 第四号 2011 年 12 月

物流におけるマテリアル・ハンドリングの機能に関する研究

一海外のマテハン動向も踏まえて-

A Study on the Function of Material Handling in Logistics

-Based on the overseas MH movement-

丹下博文Hirofumi TANGE

和文要旨

43

物流機能の一つに「マテリアル・ハンドリング」があるが，近代のマテハンは早くも米国フォー

ド社における自動車の大量生産で導入された流れ作業で活用されており 物流分野だけでなく製造

業のモノづくり分野でも重要な役割を果たしてきた経緯がある 。 しかしこのマテハンは 1970 年

代ころからシステム化， 1980 年代ころから IT (情報技術) 化 1990 年代ころからグローノ'\' )レイヒが

進み， 21 世紀の 2000 年代に入ってからは環境問題が深刻化してグリーン化が重要なテーマになろ

うとしている 。 他方，物流もロジステイクスから SCM の時代へと進化しつつあり，運搬や荷役の

作業と捉えられる傾向が強かったマテハンにも新しい観点が必要になって きた。 その一つが米国に

見られる ような企業経営におけるシステム化や IT 化によって問題解決を図るソリュ ー ション・ビ

ジネスに対して，マテハンが威力を発揮するのではないかと考えられる点である 。 21 世紀の今日

では 「マーケテイ ングからロジステイクスの時代へ」という時代の潮流を背景に，企業競争力の源

泉となる優れたロジステイクス・システムあるいはサプライチェーンを構築するうえで必要不可欠

となるマテハンのプレゼンスは，今後，飛躍的に向上するのではないかと予想され， Iマテハン ・

ソリューショ ン革命」 が近い将来に起こるのではないかとまで期待される 。

英文要旨

‘Material Handling' is a function of physical distribution. Modern material handling was

practically used as early as in the automobile mass-production assembly line of Ford Motor in

the U.S.A. That is, material handling has played a vital role not only in physical distribution

but also in manufacturing. However, concerning this material handling history, the systemｭ

oriented has become an important subject since around the 1970s, the IT (information

technology) -oriented has become since around the 1980s, the global-oriented has become since

around the 1990s, and now the green-oriented is becoming an important subject around 2000s in the 21st century against the background of the getting-worse environmental problem. On

the other hand, physical distribution is evolving into the logistis and SCM eras. As a result,

material handling, which is inclined to consider the works of carrying and so on, really needs

new viewpoints. One of them will be the idea that solution business does give a chance to

displaying a strong power of material handling. Considering the trend of "The marketing Era

is evolving into the Logistics Era" , it is expected that the presence of material handling will be

tremendaously enhanced. Actually mateiral handling is indispensable to constructing the

excellent logistics or supply-chain systems as a source of corporate competition. Consequent1y

'Material Handling (MH) Solution Revolution' is expected to take place in the near future.

44 『経営管理研究所紀要J 第四号 2011 年 12 月

和文キーワード:物流 ロジステイクス SCM(サプライチェーン・マネジメント)， MH(マテ

リアル・ハンドリング)，運搬，荷役(にゃく)，マテハン ・ソリューション革

命

英文キーワード: physical distribution, logistics, SCM (supply chain management) , MH

(material handling) , material handling (carrying) , material handling, MH

Solution Revolution

目次

1. はじめに

2. 海外文献における物流とマテハン

3. 日本工業規格における物流とマテハン

4. 日本 MH 協会の資料に基づく考察

5. 米国業界の口ジスティクスとマテハン

6. 21 世紀の日本におけるマテハン

7. 日本における最新のマテハン情勢

8. まとめ

1.はじめに

21 世紀の今日，物流とその進化形としての

ロジステイクスや SCM(サプライチェーン・

マネジメント)に対する関心が産業界だけでな

く学界においても急速に高まってきているが，

物流機能の一つに「マテリアル・ハンドリングJ

(Material Handling: 略称は iMHJ または「マ

テハン J) がある 。 これは具体的には様々なモ

ノを持ち運んだり動かしたり移動したりするた

めの作業や技術を指し 現代の物流ではトラッ

ク，鉄道，船舶，飛行機による中長距離の物資

の移動を表す「輸送j とは異なり，空港などの

特定地域内や倉庫などの特定場所内における短

距離の物資の移動を取り扱う「運搬J，あるい

はや物資の積み卸しゃ仕分けなどを行う「荷役

(にゃく )J の作業を指して使われるのが通例と

なっている 。 このため日本では従来からマテハ

ンは，主にトラック輸送に焦点が当てられやす

い物流産業のサポート的存在と誤解される嫌い

があった。

しかしながら，産業革命によって機械工業化

が進展する以前は，素材(マテリアル)の加工

や移動といった生産に必要な活動を，人間自身

が手を使うこと(ハンドリング)，すなわち手

工業によって行っていた。 この意味でマテハン

はモノづくりを支える重要技術の一つであり，

大量生産・大量流通を背景に製造業だけでなく

流通業とも非常に深く関わってきた経緯があ

る。歴史的にも「ピラミッド」ゃ「万里の長城」

といった世界遺産だけでなく，印刷機や飛行機

などの多くの画期的な製造物も，すべて物流機

能の一つに含められるマテハンの作業や技術の

存在なくしては成し得かった人類の偉業と言っ

て過言ではあるまい。 さらに近代物流への転換

点の一つが「モータリゼーションJ (自動車化)

の進展であるが，この自動車の製造工程にも優

れたマテハンの技術が必要不可欠な点は論じる

までもないであろう 。

一方，今日のグローバル化した市場環境のも

とでは，製品を販売するマーケティング活動の

ほうが， 販売した製品を顧客へ届けるロジス

テイクス活動より簡単な場合がある， とすら主

張されるようになってきた(九 こうしてロジス

テイクス重視の傾向が強まるなかで最適なロジ

スティクス・システムを構築するために，保管，

搬送，仕分け・ピッキング，情報システムなど

の多様な要素を組み合わせたマテハンの高度で

優れた技術が，製造や流通にかかわる幅広い分

野において必須になることは疑う余地がないで

あろう 。 とりわけグローバルイヒによる SCM の

拡大傾向や，高度情報化によるソリューション・

ビジネスの需要増等を勘案すると，マテハン業

界のビジネス・チャンスは今後増大すると予想

物流におけるマテリアル・ハンドリングの機能に関する研究 45

される。

このような現状認識を基に，本研究では従来，

一般的に馴染みの薄かった物流機能の一環とし

てのマテリアル・ハンドリングに焦点を当てて

考察を進める。なお，本研究に際しては日本マ

テリアル・ハンドリング (MH) 協会(本部は

東京都中央区内)やマテハン関連企業などから

多くの貴重な情報や資料を提供いただいたの

で，本紙面を借りて御礼申し上げたい。

2. 海外文献における物流とマテハン

マーケテイングやロジスティクスと同じよう

に「マテリアル・ハンドリング」もカタカナ英

語で，的確な日本語訳が見当たらないことから，

この用語が海外から導入された概念であること

は容易に推測できる 。 実際， 日本では 2008 年

1 月に出版された『広辞苑(第 6 版)J (岩波書店刊)に見出し語として掲載されていないので，

いまだ一般的な日本語として定着しておらず，

専門的な業界用語としてだけ使用されていると

考えられる。ただし 「マテリアル」という見出

し語はあり， I材料，素材，物質的」という説

明が加えられていることから，マテリアル・ハ

ンドリングとは材料や物質を取り扱う，すなわ

ち「ハンドリング」することを意味していると

推;測できる。

ちなみに米国で 2007 年に出版された英語の

ビジネス用語辞典 (Dictionary of Business

Terms) には「マテリアル・ハンドリング

(MATERIAL HANDLING) J という見出し語

が掲載され，次のような説明が加えられている 。

つまり「原料から最終製品にいたるまでのあら

ゆる形態の物資を移動，包装，および保管する

こと。このなかには 入ってくる品物や出てい

く製品の積み出し，受け取り，加工処理，供給

業者への返品，および廃棄処理も含まれる」と 。

さらに「マテリアル・マネジメント

(MATERIAL MANAGEMENT)J という見出

し語では「物資の配置，保管，移動に関するあ

らゆる活動を管理運営すること。このなかには

原料や部品の保管 ならびに製造作業施設にお

ける人員配置も含まれる」と解説されている (2) 。

したがってマテリアル・ハンドリングとかマテ

リアル・マネジメントは 海外ではビジネス用

語のーっとしてかなり定着している概念と言っ

てよいであろう。

そこでロジステイクスや SCM に関する海外

の学術的な専門書を調べてみると，以下の 2 つ

の研究成果のなかでマテリアル・ハンドリング

に関する言及が見られる。ただし，マーケテイ

ング，ロジステイクス. SCM に関する学術的

な専門書で、マテリアル・ハンドリングに言及し

たものは非常に少なく この点からもマテハン

は実務指向または技術指向が極めて強い分野で

はないかと推測される 。

最初に今から 30 年以上も前の Buxton

(1975) (3) の研究では， I倉庫管理とマテリアル ・

ハンドリング (Warehouse Management and

Material Handling) J と題する項目のなかで

マテリアル・ハンドリング活動が次のように説

明されている 。 つまり，物流志向(distribution

oritented) の倉庫(warehouse) 内における

マテリアル・ハンドリング活動は，明らかに保

管 (storage) よりも倉庫作業の中心となる移

動 (movement) を重視している口実際にも移

動と保管には関連性があり 移動が効率的に行

われれば行われるほど 保管に時間とスペース

が少なくてすむようになるからである，と 。 そ

の後に「輸送機能の管理 (Management of the

Transportation Function) J という 項目が続い

ていることから，マテリアル・ハンドリングは

主に倉庫内において効率的に移動する手段を指

していたようである。

次に最近の Cecil & Handfield (2008) (4) の

研究では， Iマテリアル・ハンドリングと包装

(Material Handling and Packaging) J と題す

る項目のなかで次のように記されている。つま

り ， マテリアル・ハンドリ ングと包装は，輸送，

倉庫保管，物流情報システムに影響を与えるこ

とがあるために重要である。マテリアル・ハン

ドリング・システムには，施設内，施設と輸送

手段 (transportation moode) の間，および異

なる輸送手段どうしの間(例えば船舶からト

ラックへの場合)における物品移動に必要な設

備や手順が含まれる。フォークリフト，クレー

ン，コンベア・ベルト，およびコンピュータ制

御された自動保管補充システム (ASRS

automated storage and retrieval systems )

が，マテリアル・ハンドリング設備の適例であ

46 『経営管理研究所紀要』第 18 号 2011 年 12 月

る 。 他方，包装はロジスティクスの観点から，

サプライチェーンを通した物理的，情報的，金

銭的な流れ (flow) を促進するために物品や物

質が梱包される方法を指している，と 。 したがっ

て，マテリアル ・ ハンドリングと包装は関連性

の強い分野と捉えられていることが理解でき

る 。

なお，定期刊行物として米国では rModern

Materials HandlingJ (発行は Peerless

Media) という雑誌が 1946 年に創刊され，現

在は毎月発行されている 。 この月刊誌は米国に

おける企業向け (B2B) のマテリアル・ハンド

リング業界誌としてトップシェア(約 86 ， 000

部発行)を持っており，その対象にはマテハン

の自動化および機械化，保管，在庫データ管理，

輸送用包装，リフトトラック，その他のサプラ

イチェーンにおけるマテハン関係の付属品など

が掲げられている 。

3. 日本工業規格における物流とマテハン

物流やロジスティクスの定義に関しては，工

業標準化法に基づいて制定される日本の国家規

格 IJISJ (日本工業規格)による物流用語

(Z0111 : 2006, 1985 制定， 1999 改正， 2010 確

認) (5) において次のように示されている。最初

に物流 (physical distribution) は「物資を供

給者から需要者へ，時間的及び空間的に移動す

る過程の活動。 一般的には，包装，輸送，保管，

荷役，流通加工及びそれらに関連する情報の諸

機能を総合的に管理する活動。 調達物流，生産

物流，販売物流，回収物流(静脈物流入消費

者物流なと対象領域を特定して呼ぶこともあ

る」と記され，物流機能には包装，輸送，保管，

荷役(にゃく)，流通加工，物流情報システム

の 6 項目が掲げられている 。 他方，ロジステイ

クス (logistics) は「物流の諸機能を高度化し

調達，生産，販売，回収などの分野を統合して，

需要と供給との適正化を図るとともに顧客満足

を向上させ，併せて環境保全，安全対策などを

はじめとした社会的課題への対応を目指す戦略

的な経営管理」と定義されている 。

この物流用語の定義のなかでマテリアル・ハ

ンドリングの直接的な定義はないものの，対応

英語(参考)として‘materials handling' が

付されている用語が 2 つある 。 その一つは荷役

(にゃく)で，次のように定義付けされている。

つまり 「物流過程における物資の積卸し運搬，

積付け，ピッキング，仕分け，荷ぞろえなどの

作業及びこれに付随する作業。 マテリアルハン

ドリングともいう」と。他の一つは運搬で，こ

れには対応英語として‘carrylng と‘materials

handling' の 2 語が当てられ，次のように定

義付けされている 。 それは「物品を比較的短い

距離に移動させる作業。 生産，流通，消費など

いずれの場合にも用いられる 。 マテリアルハン

ドリングともいう」と。したがって JIS では

荷役と運搬がマテリアル ・ ハンドリングの同義

語と考えられているわけである 。

参考までにマテリアル・ハンドリング，すな

わち荷役や運搬と比較的近い概念または対照的

な概念と言える包装，保管，輸送，および配送

は次のように定義されている 。 包装 (packing)

とは「物品の輸送，保管，取引，使用などに当

たって，その価値及び状態を維持するために，

適切な材料，容器などに物品を収納すること及

びそれらを施す技術，又は施した状態。 これを

個装，内装および外装の 3種類に大別する 。 パッ

ケージングともいう」と記されている 。 続いて

保管 (storage) とは 「物資を一定の場所にお

いて，品質，数量の保持など適正な管理の下で，

ある期間蔵置すること J と記されている 。 他方，

輸送 (transportation) とは「貨物をトラック，

船舶，鉄道車両，航空機，その他の輸送機関に

よって，ある地点から他の地点へ移動させるこ

と」と記され，配送 (delivery) は「貨物を物

流拠点から荷受人へ送り届けること J と記され

ている 。

さらに上述した荷役の説明のなかにある詳細

な用語については，それぞれ次のように定義付

けされている。最初に「積卸しJ (loading and

unloading) とは輸送機器などに対して物品を

積み込む作業および取り卸す作業，次に「運搬」

(carrying) とは物品を比較的近い距離に移動

させる作業， I積付けJ (stacking) とは物品を

規則正しく積み上げる一連の作業， I ピッキン

グJ (picking) とは保管場所から必要な物品を

取り出す作業， I仕分け J (sorting) とは物品

を品種別，送り先方面別，顧客別などに分ける

作業，そして「荷ぞろえj とは出荷する物品を

物流におけるマテリアル・ハンドリングの機能に関する研究 47

輸送機器にすぐ積み込めるようにそろえる作業

のことである。

一方，荷役運搬機械 -器具には，フォークリ

フトトラックや無人搬送車などの産業車両，ハ

ンドリフトトラックや産業用キャスタなどの小

型運搬車，巻上装置などのクレーンをはじめ，

チェーンブロック・ホイスト・スリング，コン

ベヤ，パ レ ットなどが掲げられている (6) 。 この

なかで用語の説明があるものを挙げると次のよ

うになる。「産業車両 J (industrial vehicle)

とは一定の作業現場において，各種の荷役作業

に使用する車両のことで フォークリフトト

ラック，ハンドトラック 無人搬送車などがあ

り， r無人搬送車J (automatic guided vechile)

とは，本体に人手または自動で荷物を積み込み，

指示された場所まで自動走行し人手または自

動で荷卸しをする無軌道または有軌道の車両を

指している。また， rパレット J (pallet) とは，

ユニ ッ トロードを推進するために用い られ，物

品を荷役，輸送，および保管するために単位数

量に取り まとめて載せる面をもっ台で，上部構

造物をもつものを含む と説明されている。

ちなみに，ユニットロード (unit load) は，

複数の物品または包装貨物色機械および器具

による取り扱いに適するように，パレットやコ

ンテナなどを使って一つの単位にまとめた貨物

を指している 。 さらにコンテナ (container) は，

物資を収納し反復使用に適する耐久性のある

包装容器で，貨物コンテナ，通い容器，フレキ

シブルコンテナなどをコンテナということがあ

る， と説明されている 。

4. 日本 MH 協会の資料に基づく考察

日本にはマテリアル・ハンドリング関係では

最大の業界団体となる日本マテリアル ・ ハンド

リング (MH) 協会が， (財)社会経済生産性

本部を母体として 1956 年(昭和 31 年)に設立

されている 。 同協会の本部は東京都中央区内に

あり，関西支部も設置されている 。 2011 年 9

月現在の法人会員数は 45 社を数え，その代表

的な企業としては物流機器メーカー最大手の

(株)ダイフク(東証 l 部上場企業で本社は大

阪市内)が挙げられるであろう 。 参考までに同

協会の設立目的は次のように記されている 。 い

わく「生産及び流通の現場における各種の技術

革新の中で，特にマテリアル・ハンドリング

(MH) 理論の適用による効果の検証と，さら

にその管理-運用技術の発展並びに会員相互の

交流による一層の進歩・発展を目的」とする，と。

そこで同協会(英文名は Japanese Material

Handling Society: JMHS) の編集で 1987 年(昭

和 62 年)に出版された『マテリアルハンドリ

ング便覧J (日刊工業新聞社刊)にはマテハン

の沿革が詳細に論じられており，特に興味深い

記述だけを抜粋すると以下のように列記され

る。なお，同協会は発足当初， 日本運搬管理協

会という名称が付されており マテハンも運搬

という訳語から始まったと明記されている(7)

. 近代運搬が成立したのは 1950 年代と考

えてよいであろう。しかし物を持ち，運

ぶことは，はるか昔，人聞が樹上から地上

に降りて人間らしくなり始めたときから，

人間の最初の仕事と して行われ，運搬とか

荷役とか呼ばれてきた。

. 運搬は人間の最も古い仕事である。しか

し，物を運ぶということは，あまり高度化

しなくても，何とか間に合うので，他の仕

事(産業等)に比べて すっかり遅れてし

まった。しかし，大いに進歩した機械工業

は，実は運搬からスタートしたものである。

たとえば，ギリシャ機械学は重量物の持ち

上げから始まったと言われている。

・ ピラミッド，万里の長城など，古代の大規模運搬の跡を偲(しの)ばせる遺跡は，

ほとんどが奴隷的人員による人海戦術的手

法によって作られたものと思われる。-

近代の運搬管理は この人間酷使の悲惨さ

から労働者を解放することが，経営にとっ

ても，コスト低減になるという点で有利に

なるということに気がついた。この線から

運搬管理が経営に受け入れられる道が開け

た。

・ 今日の日本の運搬機器の生産は世界最高

のレベルに達し， MH の技術や管理手法も，

一部においては世界最高のレベルに達して

いるという状態であるが， 一部においては

きわめて原始的な段階にあり， 1 つの工場

の中に，新旧両極端のプラクティスが同居

していることが，実は珍しくない。

48 『経営管理研究所紀要』第 18 号 2011 年 12 月

. 運搬としての特別の意識はなかったかも

しれないが，最初に問題とされたのは，人

力では動かしにくい物をどうして動かすか

ということであった。 このため，重量物の

持ち上げ方法の技術が開発された。 これが

MH 技術の第 l 期で この期の代表的な

MH 設備はクレーンであった。

さらに第 2 次世界大戦終結後における日本へ

の MH 設備導入の契機が次のように感動的に

描かれている (8) 。 いわく「終戦後，アメリカ軍

が入ってきたときに フォークリフトトラック

を持ち込んだ。 このフォークリフトトラックが，

日本の産業界に大きな影響を与えた。 この機械

的取扱いの強い印象と アメリカのコンベア中

心の流れ作業に敗れたという気持ちとが，ちょ

うど上昇してきた工業生産の大きな物量を捌

(さば)かねばならないという要求と，ちょう

どうまく出会って MH 設備に対して異常な熱

意を引き起こした。この傾向は急速に広まって，

多くの MH 設備が設置され，運搬の機械化が

著しく進行したJ と 。

また， MH 機械化のメリッ トには次の諸点が

指摘されている 。 それは ①運搬原価が低減で

きる，② 1 人当たり 1 時間当たりの運搬が大き

くできる， ③作業者の疲労が軽減できる，④安

全が向上できる，⑤大きな物，重いものが運搬

できる，⑥運搬速度が増加できる， ⑦取り扱い

時聞が短縮できる，⑧スペースが活用できる，

⑨品物の損傷が減らせる，⑮仕掛かり時聞が短

くできる，⑪生産量が増加できる ， そして⑫再

取り扱いが減らせる，などである (9) 。

なお，マテハンの効果は「運搬にかかる工数

と人体負担とを節約し もっと有効な労働に振

り向ける一方，人体を保護する」と記され，マ

テハンの目的については次の 4 点が掲げられて

いる 。 その第 l は 運搬方法の改善によって原

価を引き下げること。第 2 は，運搬の迅速化，

面積の効果的利用 レイアウトの改善によって

能力を増大すること 。 第 3 は，できるだけ困難

な仕事， あるいは危険な仕事を少なくして作業

条件を改善すること 。 そして第 4 に ， 納品の迅

速化，生産量の増大，生産原価の低減，運搬方

法の改善，損害賠償の減少によって，顧客への

サービスを向上し，流通を改善すること，であ

る 。 これに対しては，今から 25 年近く前の見

解となるが， 次のようなコメントが付されてい

る 。 いわく iMH を広い見地から捉えており，

今日においても，ほぼこの通りである 。 これが，

われわれを 20 年も前に MH 改善に駆り立てた

MH のビジョンである」と (10) 。

5. 米国業界の口ジスティクスとマテハン

これまでの考察から日本におけるマテリア

ル・ハンドリングの概念および考え方は，最初

は運搬の作業や技術として米国から第 2 次世界

大戦後に導入されたことが分かる 。 そこで本章

では実務指向の強い米国の産業界におけるマテ

リアル・ハンドリング業界にも少し考察を加え

てみたい。 最初に取り上げるのが，マテハンの

専門家に継続的な教育の提供を創出するために

設立された「マテリアル・ハンドリング管理協

会 (Material Handling Management Society:

MHMS)J と称される独立系の専門団体で， 40

年以上も前に米国マテリアル・ハンドリング協

会 (American Material Handling Society) と

いう名称で創立されている 。

同協会のホームページに掲載された専門用語

集 (Glossary of Terms) によれば，マテリアル・

ハンドリングは「すべての作業工程を通しての

製品の保管，移動および安全のことで，その目

的は関連するあらゆるコストを低減するととも

に，効率性，生産性，および安全性を向上させ

ることにある 。 ただし サプライチェーンとロ

ジステイクスは同じではないけれども，互換的

に使われることが多いJ と ( 11 ) 。 そこでロジス

テイクの説明を見てみると次のように記されて

いる 。 つまり 「サプライチェーンを通しての物

質の管理。 ロジステイクスは施設への内的およ

び外的な流れを管理するほど広いか，あるいは

個々の工程内の流れを管理するほど狭い場合も

ある 。 サプライチェーンとマテリアル・ハンド

リングは同じではないけれども互換的に使われ

ることが多い」と (ロ)。 さらにサプライチェー

ンの用言苦解説のなかにもマテリアル ・ハ ンドリ

ングとロジスティクは互換性があることが明記

されている(13) 。 したがって米国の産業界では，

マテリアル・ハンドリングはサプライチェーン

やロジステイクスと互換性を持ってほとんど同

義で使われることがあるほど重要な概念の一つ

物流におけるマテリアル・ハンドリングの機能に関する研究 49

になっていると推測される 。

次に米国で最大のマテリアル・ハンドリング

とロジスティクスに関係する団体である「米国

マテリアル・ハンドリング産業協会 (Material

Handling Industry of America: MHIA) J を取

り上げてみたい。同協会の会員数は 800 社ほど

で，マテハンとロジステイクスにかかわるソ

リューション (solutions) の主要な提供者(プ

ロパイダー: providers) と位置づけられており，

この場合のソリューションはサプライチェーン

を機能させるためのものであると説明されてい

る 。

参考までに同協会のホームページには「マテ

リアル・ハンドリングとロジステイクス」が次

のように定義されている 。 それは「製造，流通，

消費，廃棄のプロセスを通して物資や製品を移

動，保護，保管，コントロールすること。この

プロセスは，予測，資源配置，生産計画，工程

管理，在庫管理，顧客への配送，販売後のサポー

トとサービス，そしてビジネスの基礎となる他

の多くの活動やプロセスを促進する広範囲に配

列された設備やシステムを含む」と (14) 。 他方，

ソリューションは情報の流れを促進する洗練さ

れた技術を含み これには自動位置認識

(RFID : radio frequency identification) およ

び衛星追跡システム (satellite tracking

systems) ，注文出荷情報の電子通信などがあ

る 。 要するに，これらの技術革新が伝統的なマ

テハンとロジステイクスの設備やシステムとと

もに，製造，倉庫保管，配送およびサプライ

チェーンを機能させるソリューション(解決策)

になるわけである。

さらに米国の商務省および労働統計局によれ

ば，マテハンとロジステイクスは米国で最大か

っ急成長している産業の一つに数えられ，実際

にマテハンおよびロジステイクスの設備やシス

テムの消費は年間 1560 億ドルを超えるだけで

なく， 70 万人以上の雇用も創出しているとい

う 。 このように米国ではマテハンとロジステイ

クスは統計上も合体して使われており，今日で

はほとんど同義と考えてよいのではないかとす

ら推測されるほどである 。

参考までに同協会のホームページにはマテハ

ンの原則 (Material Handling Principles) が

掲載され，次の 10 項目が指摘されている。そ

れらは， 計画，標準化，作業，人間工学，ユニッ

トロード，スペース活用，システム， 自動化，

環境，ライフサイクル ・コ スト (Planning，

Standardization , Work , Ergonomic , Unit

Load, Space Utilization, System, Automation,

Environment, Life Cycle Cost) である 。 これ

らの原則はマテハンの活動やシステムを分析

計画・管理する際に役立つことが多く，潜在的

な問題点を把握したりニーズを評価する際の出

発点としても役立つ， と主張されている 。

6. 21 世紀の日本におけるマテハン

日本では 21 世紀になると 1956 年に創立さ

れた前述の日本マテリアル・ハンドリング協会

から創立 45 周年を記念し『グローバルマテハ

ン 10 年考-MH システム機器事例-j と題す

る冊子が 2001 年に出版された (15)。そのなかに

は第 1 章に MH システム事例(生産システム

事例，工場内物流システム事例，精米工場事例，

物流センタ一事例，空港・郵政事例)，第 2 章

に MH 機器事例(自動倉庫，仕分けコンベヤ，

ピッキングシステム， AGV' 走行台車，ロボッ

トパレタイザー，その他の機器)，第 3 章に情

報システムおよび情報機器 第 4 章にリサイク

ルシステムの事例が掲載されているが，同書の

冒頭には次のような言質が見られる 。

・ 当時(昭和 31 年ころに「運搬管理」は生産性向上にむける「残された暗黒大陸」

ともいわれ， MH' 物流を中心とする生産

現場からの 「ムリ，ムラ，ムダj の排除と

生産性指導は，産学官が協力してその克服

に立ち向かうきっかけとなるものであり，

国内工場の生産性向上に着実な成果を挙げ

ることができました。

・ その後の MH 技術の進展は目覚ましく，

優れた製品を低コストで生産することを可

能にしました。 工場において，また流通現

場において， I 自動化，無人化，情報化」

が急速に実現してゆき 我が国産業界は世

界ーといわれるモノづくりに大きな力を発

揮しました。 しかしこの「高度成長J は，

「大量消費 大量廃棄」を生み，近年にわ

かに環境問題を露呈することになりました0

・ MH システム機器は常に世の中の変化に

50 『経営管理研究所紀要J 第 18 号 20日年 12 月

対応し最新技術を取り入れ時代と共に成

長してきました。モノを作り，モノを運び\

モノを回収し，顧客満足・社会満足・会社

満足を実現する快適な社会のインフラの

ベースとして今後ますます重要性を高めて

いくと期待されます。

さらに同書にある日本の市場動向と MH シ

ステム ・ 機器の推移を表した図を参照すると，

次のような MH の動向を想定できる。最初に

日本で MH 機器の本格普及期となる 1960 年代

から 70 年代にかけて(主に昭和 40 年代)は単

品の大量生産・大量販売，すなわち少品種大量

生産にともなう大量搬送・大量在庫の時代とな

り，物流の合理化や省人化が推進され， MH 機

器もリモート・コントロールを指向するように

なる。 1980 年ころになると多品種少量生産の

時代に移行し，その象徴がジャスト・イン・タ

イムの物流で，この背景には「必要なものを必

要なだけ」という在庫レスの思想があり， MH

機器は電子工学を融合させてメカトロニクス

(mechatronics) 化されオンライン・コントロー

ルを指向するようになる。続いて 1990 年ころ

になると多頻度小ロット配送を目指してロジス

テイクスが普及し始め MH 機器はシステム化

されるようになる。そして 20 世紀から 21 世紀

の変わり目あたりには情報技術 (IT) やイン

ターネットの浸透を背景に一括物流や物流共同

化を目指すようになり サプライチェーン・マ

ネジメント (SCM) の時代に移行していくこ

とになるのである。

ところで， 日本マテリアル・ハンドリング協

会ではロジステイクスとマテリアル・ハンドリ

ングの総合誌として rMH ジャーナルj (ISSN

2185-9418) を季刊で発行しており ， 2011 年

7 月号が通巻で 266 号となる。同誌の最近の特

集テーマを列記すると次のようになる 。 つまり

2010 年 1 月号(通巻 260 号)が 「マテハンに

よる低温倉庫の価値向上j ， 10 年 4 月号(通巻

261 号)が「海外物流の現状j ， 10 年 7 月号(通

巻 262 号)が「“求められる"人材育成j ， 10

年 10 月号(通巻 263 号)が 「 ここまで進んで

いる国際物流j ， 11 年 1 月号(通巻 264 号)が「環

境戦略への挑戦J. 11 年 4 月号(通巻 265 号)

が「我が社の MH 最新技術j，そして 11 年 7

月号(通巻 266 号)が「我が社の MH 最新技

術 -2j となっており，これらを見ただけでも

最近のマテハン業界の課題が，グローバル化，

環境問題，人材育成，技術革新への対応である

ことが推測できるであろう(16) 。

このなかのグローバル化への対応の一環とし

て注目されるのが 日本 MH 協会と中国最大

の物流団体との提携である 。 日本 MH 協会は

2011 年 2 月に，中国国家経済貿易委員会が直

接管理する 15 の総合的な協会の一つで， 26 の

全国的な専門協会と 7 つの事業団体を管理する

中国最大の物流団体である中国物流購買連合会

(CFLP) ，マテハンや物流機器分野の中国物流

技術協会 (CLTA) ，倉庫分野の中国物資貯運

協会 (CMSTA) ，そして北京物資学院内に 09

年に設置された中国で初めて日本の物流を専門

的に研究するとともに研究交流を推進する日本

物流研究センター (JLRC) の 4 団体と， 日本

では初めて物流領域における協力協議書を締結

した。 特に中国物流購買連合会は中国国務院の

許可のもとに設立され，中国政府からは外交，

業界統計，業界基準の作成等の権限を与えられ，

会員総数 6，000 社以上を誇る名実ともに中国最

大の物流団体で，実際にも今回の調印は経済発

展の著しい中国の物流関係者の間で大きな関心

を集めたそうである 。 したがって，この提携は

今後の日中間のマテハン ・ 物流分野における交

流と発展に画期的な役割を果たすのではないか

と期待されるわけである 。

7. 日本における最新のマテハン情勢

日本における最新のマテハンに関する情勢を

分析するうえで参考になるのが， 2009 年に出

版された rPDO ハンドブック一物流センター

のシステム構築と運用j (流通研究社刊)であ

ろう (17) 。 同書の冒頭には次のような趣旨の記

述が見られるからである 。 つまり，物流を語る

場合， 一般的にはモノを運ぶ輸配送をイメージ

される方が多いかもしれないが，物流は「モノ

を運ぶ輸配送に関する物流j と 「物流センター

内における物流システムとしての物流」に区分

され，同書は後者に焦点を当てている， と。

さらに物流にかかわる概念のなかで用語的に

荷役について次のような記述見られる (18) 0 I荷

f支(にゃく) j という 言苦については，物流センター

物流におけるマテリアル・ハンドリングの機能に関する研究 51

を中心とした物流活動現場においてはほとんど

使用されることがないために「マテハン (MH

マテリアルハンドリング)J または，より具体

的な表現に代えて記述している，と。なお，上

述した IJISJ (日本工業規格)の物流用語で

は「物流センター (distribution center) J が

次のように定義されている 。 それは「物流活動

を構成する諸機能をもっ施設。流通センターと

もいう。このうち，配送活動に特化した施設を

配送センターという」と。

とりわけ同書の第 2 章 「企業経営に係わるマ

テリアルハンドリング」という項目のなかで，

マテハンは次のように説明されている。物流・

生産活動のいたるところで見られる「物の移動

や管理J を効率化・自動化するのが「マテリア

ルハンドリングシステム」であり，同書の狙い

は具体的に，①物流管理部門が創設され全社のきょうあい

物流を担当することになった，②狭隆な工場

のなかで新しい製品を生産することになった，

③以前に計画し検討した物流センターを見直す

ことになった，④無人化工場を計画することに

なった，等の具体的な課題を持って物流システ

ムの構築に取り組むことになった担当者に対

し，問題解決の手がかりや関連情報を提供し

より現場に適合したマテリアルハンドリング機

器およびシステムの開発・導入を支援すること

にある， と 。そのうえで以下のような見解が掲

載されている(19) 。

. 近年では，物流情報システムなど IT 技

術との係わりなくして物流やマテリアルハ

ンドリングは成り立たない。情報機器を活

用していかにシステム的に運営するかが企

業経営課題であり マテリアルハンドリン

グシステムを構築する上での必須条件でも

ある 0

. マテリアルハンドリング=マテハンとい

う活動は，物を効率的に保管・移動するこ

と，そのものを指し， 1物を動かすのがマ

テハンである」と捉える。即ち，ロジステイ

クスの中にも，物流の中にも，生産システ

ムの中にも，あらゆる場面にマテハンが存

在する。マテハンは手法であり，ロジステイ

クスは構想である。

一方，マテハンに関する最新の統計と して取

り上げたいのが， 日本ロジスティクスシステム

協会から隔月で発行されている専門誌『ロジス

ティクスシステム j (ISSN 0918-6689) の 2011

年 8 ・ 9 月号(通巻 135 号)に掲載された 12010

年度物流システム機器生産出荷統計」である

(20)。同統計の解説には「物流(マテハン)シ

ステム」という表現が随所に使われており，こ

の場合の物流システム機器とは具体的にはマテ

ハンの設備・機械を指していると考えられるか

らである。この統計は 1985 年度から実施され

図表 1 2010 年度物流システム機器生産出荷統計(単位:百万円， %)

設備機器名 売上金額(構成比) 海外向金額(構成比)

自動倉庫 63,982 ( 21.7) 27,797 ( 36.8)

台車系 40,349 ( 13.7) 26,840 ( 35.6)

コンベヤ系 77,118 ( 26.1) 10,552 ( 14.0)

仕分機 15,737 ( 5.3) 261 ( 0.3)

ピッキング系 7,746 ( 2.6) 449 ( 0.6)

回転棚 2,248 ( 0.8) 11 ( 0.0)

移動棚 9,582 ( 3.2) 51 ( 0.0)

棚 23,061 ( 7.8) 01 ( 0.0)

パレタイザ/デパレタイザ 11 ,407 ( 3.9) 2,276 ( 3.0)

垂直搬送機 5,791 ( 2.0) 920 ( 1.2)

コンピュータ 25,260 ( 8.5) 2,789 ( 3.7)

その{也 13,209 ( 4.5) 3,652 ( 4.8)

メロL 計 295,489 000.0) 75,542 (100.0)

資料: rロジスティクスシステム (Vo1.20 ， 2011 年 8 .9 月号H 日本ロジスティクスシステム協会， 2011 年.71 頁。

52 『経営管理研究所紀要J 第 18 号 2011 年 12 月

ており，その目的は「物流システム機器は生産

や流通の効率化，高付加価値化に重要な役割を

果たしており，我が国経済の発展のためにもそ

の発展と成長が期待されている。そのためには，

関係する企業が適切な経営判断を行えるよう，

物流システム機器についての定量的で継続性の

あるデータが不可欠である。このようなことか

ら，物流システム機器の生産出荷状況を定量的

かっ継続的に把握すること J と明記されている。

同統計における調査対象の設備機器は次のよ

うに分類されている。つまり，自動倉庫，台車

系， コンベヤ系，仕分機， ピッキング系，回転

棚，移行棚，棚，パレタイザ/デパレタイザ，

垂直搬送機，コンピュータ，その他， という

12 種類に大別されており これらを合計した

2010 年度の物流システム機器の生産出荷統計

は図表 I のとおりである。これによると総売上

金額の約 2， 955 億円(そのなかで海外向金額

は約 755 億円で 26% を占める)のうちで売上

金額が最も多いのがコンベヤ系(構成比

26.1 %)で，以下に自動倉庫(同 21.7%) ，台

車系(同 13.7%) と続いている 。 また，時系列

における総売上金額と海外売上金額の推移は図

表E のようになっているが，これを見ると物流

システム機器の売上金額は現在のところ海外売

上高比率が平均的には 25% ほどになる一一た

だし 2009 年度の 14% はリーマン・ショック

によって例外と考えてよいであろう一一こと

と， 2008 年 9 月に勃発したリーマン・ショッ

クに起因する世界的な需要減の影響をうけて

2009 年度の売上高が大きく落ち込んだことが

分かる。

なお，全体の推移については次のように説明

されている。いわく 12009 年度は世界同時不

況の影響から設備投資の大幅な減少が起きた

が， 2010 年度はその反動から設備投資には一

定の回復が見られた。一方， 2008 年度前半以

前の好況時に契約された受注残が 2008 年度，

2009 年度の売上高を底支えしていたが， 2010

年度までにはほぼ消化されていたものと考えら

れる 。 これらの要因によって， 2010 年度の売

上高は前年度よりも拡大する結果となった。な

お，相対的には，海外売上高，クリーンルーム

向けの売上高は堅調であった。業種別に見ると，

「電気・精密機器」への売上の回復が目立ったJ

と。

引き続き 2011 年 3 月に勃発した東日本大震

災の影響に関し，次のような補足説明も加えら

れている。 12010 年度の売上金額等は， 3 月 11

日に発生した東日本大震災の影響を受けてお

り，前年度と比較する際に留意が必要である。

本調査は売上金額を「完成基準」で集計してい

るが，物流システム機器の出荷は，年度末にピー

クを迎える傾向がある。そのため，年度末に完

成・納品予定の製品の製造が遅延しまたは物

流網のす断等によって納品ができずに翌期に繰

り越されるなど，マイナスの影響が生じている

と考えられる。一方で，被災した企業の物流施

設の修理・改修・再建等による売上の増加も想

定されるが， 3 月中に改修等が完了したケース

は希であり，売上金額へのプラスの寄与はほと

んどないものと考えられる」と。

8. まとめ

近代のマテハンは早くも米国フォード社にお

ける自動車の大量生産で導入された流れ作業

(assembly line) で活用されており，物流分野

図表E 物流システム機器の売上金額の推移(単位:百万円. %)

2006 年度 2007 年度 2008 年度 2009 年度 2010 年度

総売上金額 452,941 448,l28 389,607 270,652 295,489

(前年比) (119) (99) (87) (69) (109)

海外向け売上金額 108,321 99,471 107.918 36,741 75.542

(前年比) (105) (92) (108) (34) (206)

[総売上高構成比] [23J [22J [28J [l4J [26J

資料 : rロジステイクスシステム (Vo1. 20. 2011 年 8 ・ 9 月号).J日本ロジステイクスシステム協会. 20日年，67 頁および 70 頁。

物流におけるマテリアル・ハンドリングの機能に関する研究 53

図表E マテハンのプレゼンス

モノづくり

(製造業)

物流

ζL

ロジスティクス

~ SCM

-システム化 (1970年代--)

・ IT化 (1980年代--)・グローバル化 (1990年代--)

・グリーン化 (2000年代--)

|マテハン・ソリューション革命|( MH Solution Revolution)

だけでなく製造業のモノづくり分野でも重要な

役割を果たしてきた経緯がある (21) 。 それにも

かかわらず，マテハンは従来あまり注目されて

こなかった嫌いがある 。 その本質的な理由につ

いては次の記述のなかに示唆されている 。 いわ

く「マテハンの考え方が工学的に整備されたの

は 1950 年頃にな っ てからである 。 当時倉庫や

工場の中で，人手作業から機械で物を運ぶマテ

ハンの機械化が本格化してきた。しかし，物を

運ぶ作業はそれほど高度なことを考えなくても

何とかできるという側面があり，物の加工や組

み立てなどのような作業と比べ， 自動化・機械

化などに取り組む認識が薄かったj と (22) 。

例えば，かつて人件費の非常に安かっ た中国

では，機械を使うより人を多く使ったいわゆる

人海戦術をとったほうが安あがりになるだけで

なく雇用創出にもつかがるという側面が見られ

た。 その中国では現在 人件費の高騰でかつて

の固有企業でさえ機械を導入しなければ利益が

圧迫されるようになってきたという 。 また，今

日の日本には米国の移民や中国の出稼ぎ労働者

のような低賃金労働者がいないため，安価な労

働力に頼ることができず それゆえに機械化や

自動化が促進され 日本のマテハンのシステム

や技術は今日世界トップクラスと言ってよい

ほど高度化している 。 しかしこのマテハンは

1970 年代ころからシステム化， 1980 年代ころ

から IT(情報技術)化， 1990 年代ころからグロー

バル化が進み， 21 世紀の 2000 年代に入ってか

らは環境問題が深刻化してグリーン化が重要な

テーマになろうとしている 。

一方，物流もロジステイクスから SCM の時

代へと進化しつつあり 運搬や荷役の作業と捉

えられる傾向が強かったマテハンにも新しい観

点が必要になってきた。その一つが米国に見ら

れるような企業経営におけるシステム化や IT

化によ っ て問題解決を図るソリューション・ビ

ジネスにマテハンが威力を発揮するのではない

54 『経営管理研究所紀要J 第 18 号 2011 年 12 月

かと考えられる点である 。 実際にも最近ではソ

リューション・ビジネスに加え，ソリューショ

ン・サービス，ソリューション・ベンダー， ソ

リューション・プロバイダーという用言音が使用

されるようになってきている。

以上のように物流におけるマテリアル・ハン

ドリングの機能にかかわる動向を考察してくる

と，結論的に，世界市場の激変によって 20 世

紀末に「物流を制するものは企業，そして社会

を制する」とまで唱えられ 21 世紀の今日で

は「マーケテイングからロジステイクスの時代

へ」という時代の潮流を背景に，企業競争力の

源泉となる{憂れたロジスティクス ・ システムあ

るいはサプライチェーンを構築するうえで必要

不可欠となるマテハンのプレゼンスは今後，飛

躍的に向上するのではないかと予想され，図表

Eに示したようなマテハン・ソリューション革

命 (MH Solution Revolution) が起こるので

はないかとまで期待されるわけである 。

注記

( 1 )丹下博文「ロジステイクス ・ マーケテイン

グの提唱」 愛知学院大学経営管理研究所紀要

(第 17 号). 2010 年. 36 頁。

丹下博文「ロジステイクスとマーケテイ

ングの概念的融合に関する研究」愛知学院大

学経営管理研究所紀要(第 16 号). 2009 年，

27 頁。

( 2 ) J ack P. Friedman, Dictionαry of Business

Terms (Fourth Edition) , BARRON'S, 2007,

p.407.

参考までに，マテリアル・ハンドリング

の説明の英文は次のように記されている一一一

moving, packaging, and storing of materials

in every form , ranging from raw materials

to finished goods. It includes the shipping,

receiving, and processing of incoming items

and outgoing products, returns to suppliers,

and disposal of scrap.

続いてマテリアル・マネジメントの説明

の英文は次のように記されている一一

administration of all activities concerned

with the ordering, storage, and movement

of materials. This includes the storage of

raw mateirals and parts and the meaning of

production operation centers

( 3) Graham Buxton , Effective Mαrketing

Logistics , The Macmillan Press Ltd. , pp.

125-144, 1975. なお，同著はイギリスで出版

されている。

( 4 ) Cecil C. Bozarth & Robert B. Handfield,

Introduction to Operαtions αnd Supply

Chαin Mαnαgement (Second Edition) ,

Pearson Education, Inc., 2008, pp. 375-376.

なお，同著は米国で出版されている。参考

までに，マテリアル・ハンドリング・シス

テム (Material handling systems) の説明

の英文は次のように記されている --The

Equipment and procedures needed to move

goods within a facility , between a facility

and a transportation mode , and between

different transportation modes (e.g. , shipｭ

to-truck transfers) .

( 5 )日本規格協会編集 rJIS ハンドブック 園

物流 (2011) j 日本規格協会. 2011 年. 17

~27 頁。

( 6 )向上書. 521 ~ 524 頁。

( 7) 日本 MH 協会編『マテリアルハンドリング

便覧J 日刊工業新聞社. 1987 年. 1 ~4 頁。

( 8 )向上書. 5 頁。

( 9 )向上書. 31 頁。

(10) 向上書. 52 頁。

(11) 英文では次のように記されている一一 The

storage, movement and security of products

throughout the entire operational process.

The objective is to lower all costs involved

while also increasing efficiency, productivity

and safety. Supply Chain and Logistics are

often used interchangeably although they

are not the same.

(12) 英文では次のように記されている一一 The

management of material flow throughout

the supply chain. Logistics can be as broad

as managing inbound and outbound flows

to a facility or as narrow as managing the

flow within an individual process. Supply

Chain and Material Handling are often used

interchangeably although they are not the

same.

(13) 英文では次のように記されている一一

物流におけるマテリアル ・ ハンドリングの機能に関する研究 55

Material Handling and Logistics are often

used interchangeably although they are not

the same.

(14) 英文では次のように記されている一一-the

movement, protection, storage and control

of materials and products throughout

the process of their manufacture and

distribution, consumption and disposal. This

process involves a broad array of equipment

and systems that aid in forecasting ,

resource allocation , production planning,

flow and process management , inventory

management, customer delivery, after-sales

support and service , and a host of other

activities and processes basic to business.

(15) 日本 MH 協会・日本 MH 技術管理士会編集・

発行 『グローパルマテハン 10 年考-MH シス

テム機器事例-j 2001 年。

(16) rMH ジャーナル (260 ~ 266 号)j (季刊)

日本マテリアル・ハンドリング協会， 2010 年

1 月~ 2011 年 7 月 。

(17) RCCI物流センター構築計画マニュアル」

研究会編著 rPDO ハンドブック一物流セン

ターのシステム構築と運用-j 流通研究社，

2009 年。

(18) 向上書， 18 頁。

(19) 向上書， 30 ~ 31 頁。

(20) rロジスティクスシステム (Vo1.20 ， 2011 年 8 ・

9 月号H 日本ロジスティクスシステム協会，

2011 年， 62 ~ 75 頁。

(21)株式会社ダイフク広報部編集発行

rDAIFUKU NEWS (第 195 号)j 2010 年 7 月，

4 頁。 なお，ここにはダイフクグループのウェ

ブ (Webb) 社がフ ォ ード (Ford Motor) 社

に納めたチェンコンベヤシステムの貴重な写

真が掲載されている 。

(22) RCCI物流センター構築計画マニュアルj

研究会編著，前掲書， 144 頁。

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