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日日日日日日日日日日日日日 日日日日日 * 日日 日日 S YŪGO H OTTA 1. 日日日 本本本本 Grimshaw and Mester (1988)本本 本本本本本本本本本本本本本本本本本本 本本本本本本本本本本本 本本本本本本本本本本本 、。 i 本本本本本本本本本本本本本本本本 VN本本本本本本本本本本本本本本 (Kageyama 1991, 本本 1993, Terada 1991) 本本本本本本本本本本本本本本本本 X C O M P本 本 本 本 本 本 (Matsumoto 1996) 本本本本本本本本 本本本本本 本本本本本本本本本本本本本本本本本本 、、 本本本本本本本本本本本本本本 Di Sciullo and Williams (1988)本 functor 本本本本本本本本本本本本本 = VN 本本本本本 LCS Grammatical Relation 本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本 ii 本本本本本本本本本本本本本本本 本本本本本本本本本本本本本本本本 本本本本本本本本本本本本 )、、 本本本本本本本本本 本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本 本本本本本本本本本本本本本 、、 「」「 本本本本本本本本本本本 本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本 本本本本本 、、 本本本本 本本本 本本本本本本本本本本本本本 、一。 2. 日日日日日日日日日日日日日日日日日 本本本本本 本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本 本本本本本本本本本本本本 本本本本本 本本 、、。、 本本本本本(light verb construction)本本本本本本本本本本 本本本本本 本本本本本 、、 本本本本本本本本 本本本本本本本本本本本本 。(1)。 1) a. 本本本本本 本本本 (本本本本本 light verb construction) b. 本本本本本本本本 (VN本本本本 VN- su - construction) (1a)本(1b)本本本 本本本本本本本本本本本本 、、( 1a 本本本本本本本本本本本本本本本本本本本 )、 本本本本本本本 本本本本本本本本本本本本本 「」 (1b)本本 本本本本本本本本本本本本本本本本本本 * 本本本本本本 、、。。、。

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Page 1: A NEW APPROACH TO LIGHT VERB …hotta/docs/hotta2001_2.doc · Web view日本語の軽動詞に関する考察:意味と形態 堀田 秀吾 Sy ūgo Hotta 1. 初めに 本論では、Grimshaw

日 本 語 の 軽 動 詞 に 関 す る 考 察 : 意 味 と 形 態 *

堀 田   秀 吾

SYŪGO HOTTA

1. 初 め に

  本 論 で は 、 Grimshaw and Mester (1988) 以 来 、 様 々 な 研 究 者 に よ っ て 議 論 さ れ て

い る 日 本 語 の 軽 動 詞 構 文 に 関 し 、 次 の よ う な 議 論 を 行 う 。

i ) 従 来 の 軽 動 詞 構 文 か ら 編 入 を 用 い て VN ス ル 構 文 を 派 生 す る と い

う 分 析 (Kageyama 1991, 影 山 1993, Terada 1991) 、 お よ び 軽 動 詞 を 通 常 の

動 詞 と 見 な し XCOMP を 用 い る 分 析 (Matsumoto 1996) の 問 題 点 を 指 摘 し 、

軽 動 詞 は 、 機 能 的 に は 品 詞 を 転 換 す る 接 辞 の よ う な も の で あ る と い う

仮 定 を も と に 、 Di Sciullo   and Williams (1988) の functor と い う 概 念 を

応 用 し た 動 名 詞 ( = VN ) と 軽 動 詞 の LCS 、 Grammatical   Relation の 合

成 と い う 観 点 か ら 軽 動 詞 構 文 を 分 析 し 直 す 。

ii ) 軽 動 詞 構 文 に お い て 観 察 さ れ る 、 軽 動 詞 を 主 要 部 と し た 名 詞 句 内

に 、 あ る 種 の 項 だ け が 残 留 可 能 で あ る と い う 現 象 を 、 従 来 の 分 析 と は

全 く 異 な っ た 立 場 か ら 分 析 し 直 し 、 「 形 態 的 編 入 」 と 「 統 語 的 編 入 」

と い う 区 別 を 導 入 し 、 「 統 語 的 編 入 」 を 経 た 場 合 に 問 題 の 現 象 が 起 こ

る と い う こ と を 、 類 型 論 的 な 観 点 か ら 、 よ り 一 般 性 の 高 い 原 理 で 説 明

す る 。

2. 軽 動 詞 構 文 に 関 す る 先 行 分 析 の 再 検 証

  こ の 節 で は 、 先 行 研 究 の 代 表 的 な も の を い く つ か 紹 介 し 、 そ れ ぞ れ 個

別 に 検 証 す る 。 そ の 前 に 、 ま ず 、 軽 動 詞 構 文 (light verb construction) と は 何 か

と い う こ と を 、 念 の た め 、 明 確 に し て お く 必 要 が あ ろ う 。 ( 1 ) の 例 文

を 比 べ て 頂 き た い 。

1) a. 太 郎 が 勉 強 を す る 。 ( 軽 動 詞 構 文 : light verb construction)

b. 太 郎 が 勉 強 す る 。 (VN ス ル 構 文 : VN-su- construction)

* これは、初校用の原稿で、校正前のものです。実際に出版されたものとはページ数等においても異

なります。以上のことを念頭において、ご笑覧ください。

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(1a) と (1b) の 文 は 、 意 味 的 に は 全 く 同 じ だ が 、 ( 1a ) で は 述 部 の 「 勉

強 」 が 意 味 的 に 軽 い 動 詞 、 い わ ゆ る 軽 動 詞 の 「 す る 」 の 目 的 語 と し て 機

能 し 、 (1b) で は 、 形 態 的 に 酷 似 し た 「 勉 強 」 と い う 要 素 が 「 す る 」 と 結

び つ い て 動 詞 そ の も の と し て 機 能 し て い る 。 一 般 的 に 、 前 者 を 「 軽 動 詞

構 文 」 、 後 者 を 「 VN ス ル 構 文 」 と 呼 ぶ 。 本 論 で は 、 こ れ ら 二 つ の 構 文

の う ち 、 特 に 軽 動 詞 構 文 に 重 点 を お い て 議 論 を 進 め る 。

 

2.1 Grimshaw and Mester’s (1988)

最 初 に 、 Grimshaw & Mester の 分 析 を ご く 簡 単 に 見 て み よ う 。 彼 女 達 の 主

張 の 主 た る 点 を (2) と し て ま と め て お く 。

2) A. 主 語 以 外 に 、 す く な く と も 一 つ の 項 が VN を 主 要 部 と す る

名 詞 句 の 外 に な け れ ば な ら な い 。

B. 項 構 造 は 階 層 的 構 造 を 持 ち 、 Ѳ 役 割 付 与 は そ れ に 従 っ て 行

わ れ る 。

(Agent (Experiencer (Goal / Source / Location (Theme)))

C. 軽 動 詞 自 体 は 、 項 構 造 を 持 た な い 。

D. 軽 動 詞 は 対 格 を 付 与 す る 能 力 を 持 つ 。

E. VNの 項 構 造 は 軽 動 詞 に 転 写 (Argument Transfer) さ れ 、

軽 動 詞 が 各 NPに Ѳ 役 割 を 付 与 す る 。

( 2 ) で 特 に 注 目 す る 必 要 が あ る も の は 、 ( 2 B ) の 項 構 造 に 階 層 性 を

認 め て る こ と 、 ( 2 C ) の 軽 動 詞 に は 項 構 造 が な い と 仮 定 し て い る こ と 、

そ し て ( 2 D ) の 軽 動 詞 自 身 に 対 格 を 目 的 語 に 付 与 す る 能 力 を 持 っ て い

る こ と の 三 つ で あ る 。 Ѳ 役 割 の 付 与 は 、 通 常 、 項 構 造 を 持 っ た 述 部 に よ

っ て 行 わ れ る が 、 ( 2 C ) に よ り 、 軽 動 詞 は 項 構 造 を 持 っ て い な い わ け

で あ る か ら 、 軽 動 詞 自 体 か ら は Ѳ 役 割 が 付 与 で き な い 。 そ こ で

Grimshaw & Mester は 、 ( 2 E ) の 「 VN の 持 つ 項 構 造 が 軽 動 詞 に 転 写 さ れ 、

そ の 転 写 さ れ た 項 構 造 が 軽 動 詞 か ら そ れ ぞ れ の NPに Ѳ 役 割 を 付 与 さ れ

る 。 」 と い う 操 作 を 仮 定 す る 。 ( 2 E) の メ カ ニ ズ ム を ( 3 ) に 簡 単 に

図 に し て 示 す 。

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3) Argument Transfer

S

  S’

NP NP NP       V

少 年 が     村 人 に   狼 が 来 る と 警 告 を

す る

<Agent> <Goal> <Theme>   (Agent(Goal(Theme))) (   )

VN 「 警 告 を 」 か ら は 、 直 接 項 に θ 役 割 を 付 与 さ れ ず 、 ま ず 軽 動 詞 「 す

る 」 に VN の 項 構 造 が 転 写 さ れ 、 軽 動 詞 か ら 各 項 に θ 役 割 の 付 与 が 行 わ

れ る 。 こ の 分 析 の 問 題 点 は 、 次 の Kageyama 分 析 を 検 証 す る 際 に 見 る 。

2.2 Kageyama (1989) 、 影 山 (1993)

で は 、 次 に Kageyama (1989) 、 及 び 影 山 (1993) の 分 析 を 見 て み よ う 。

近 年 、 影 山 や Terada (1990) を始 め と す る多 く の 日 本 語 学 者 の間 で 、 (1b)

の よ う な 「 VN す る 構 文 」 は 、 (1b) の 軽 動 詞 構 文 か ら VN の 軽 動 詞 への

編 入 と い う 操 作 を 経 て 派 生 さ れ る と 分 析 さ れ て い る 。 こ の 操 作 は 、 (4) に

示 す よ う な 、 Burzio の 一 般化 (Burzio's Generalization:) 、 及 び Chomsky (1981)

の 格 フィルター (Case Filter)に よ っ て 、 実 質 上 義 務 的 に適 用 さ れ る こ と に な

る 。

4) a. Burzio's (1986) Generalization:

A verb assigns an external thematic role iff it can assign Case.

b. Case Filter (Chomsky1981):

*NP if NP has phonetic content and no Case.

そ れ ぞ れ を ご く 簡 単 に 説 明 し よ う 。 (4a) は 、 外 項 、 す な わ ち ( 2 B ) の

項 構 造 階 層 で言 う と こ ろ の 、 Agent や Experiencer に当 た る 意 味 役 割 を 持

つ 項 を 指 定 し て い る 動 詞 の み が 対 格 を 付 与 す る 能 力 が あ る と い う こ と で

あ る 。 そ し て 、 (4b) は 、 「 痕 跡などの 実 際 に発 音さ れ な い 要 素 に 対 し 、

実 際 に音 声と し て発せら れ る NP は 、 格 を 持 た な け れ ば な ら な い 。 」

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と い う規 則で あ る 。 こ れ ら の 原 理 に よ っ て 、 外 項 を取 る VN の み が 軽 動

詞 構 文 を許す と い う こ と が予測 さ れ る 。 し た が っ て 、 非 対 格 の VN は 、

外 項 を 持 た な い わ け で あ る か ら 、 軽 動 詞 構 文 に で き な い と い う こ と が 予

測さ れ る 。 次 の 例 文 を 比 べ ら れ た い 。

5) a. UNERGATIVE : 自 動 詞 、非能 格

  太 郎 が 勉 強 ( を ) す る 。

b. UNACCUSATIVE: 自 動 詞 、非対 格

太 郎 が蒸発( * を ) す る 。 .

c. TRANSITIVE :他動 詞

    太 郎 が発言の訂正 を す る 。 /   太 郎 が発言を訂正 す る 。

(5 b ) の 例 文 に 見 ら れ る よ う に 、 非 対 格 VN は 、 対 格 を伴 っ た 場 合 に

は非 文 と な る 。 ち な み に 、 ( 2 ) で 示 し た Grimshaw & Mester の 分 析 で は

軽 動 詞 が も と も と 対 格 を 付 与 す る 能 力 を 持 っ て い る た め 、 非対 格 VN で

も 対 格 を 与えて し ま う 。 そ う す る と 、 (5b) の非 文 法 性 が 説 明 で き な い 。

こ れ が 様 々 な 研 究 者 が 指 摘 す る Grimshaw & Mester の 分 析 の 最 大 の 問 題 点 で

あ る 。

ま た 影 山 は 、 同 じ 編 入 を 用 い た 分 析 で も Terada 等 の他の 軽 動 詞 分 析

と は 異 な り 、 (6) に 示 す よ う な 、 格 付 与 能 力 の 転 写 と い う 操 作 を 軽 動 詞

構 文 に 仮 定 し て い る 。

6) Kageyama (1989) 影 山 (1993)

こ の メ カ ニ ズ ム を 簡 単 に 説 明 す る と 、 VN が 持 っ て い る 格 を 付 与 す る 性

質は 、 ま ず 軽 動 詞 に 転 写 さ れ 、 目 的 語 位 置の VN は 、 軽 動 詞 か ら 格 を 付

与 さ れ る 。 Grimshaw & Mester の Argument Transfer と の違 い は 、 項 構 造 で な く 、

格 付 与 能 力 が 転 写 さ れ る 点 で 異 な る 。

こ の 仮 定 と (4) の 原 理 に よ っ て 、 上 で 述 べ た 「 非対 格 の VN は 軽 動 詞 構

文 に で き な い 。 」 と い う 一 般 化 が保 証 さ れ る 。 なぜな ら 、 非対 格 構 文 は

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外 項 を 持 た な い た め 、 対 格 を 付 与 す る 能 力 が な い 。 し た が っ て 、 軽 動 詞

に は 対 格 を 付 与 す る 能 力 が 転 写 さ れ な い 。 転 写 が さ れ な い と な る と 、 VN

は 格 が 与 えら れ な い の で 格 フィルター に よ っ て排 除さ れ て し ま う 。 し た

が っ て 、 格フィルター を逃 れ る た め に は 、 VN は 軽 動 詞 に 編 入 さ れ な け

れ ば な ら な く な る 。 編 入 さ れ れ ば も はや NPで は な く な る の で 、 格 フィル

ター は適 用 さ れ な い 。 こ の よ う に 、 非対 格 の VN は 常 に 編 入 を受け る た

め 、 軽 動 詞 構 文 に は 現 わ れ得な い の で あ る 。

ま た 影 山 は 、 軽 動 詞 構 文 に は抽 象 的 編 入 ( abstract incorporation ) を含 むも

の が あ る と 仮 定 す る 。

7) a. ダイエー が韓国か らキムチの輸入 を す る 。

b. キムチは i ダイエー が韓国か ら t i 輸入 を す る 。

c. VP

NP V’

ダイエー が VN’ Vi

NP1 VN’i す る

韓国か ら NP2 VNi

       キムチ 輸入

抽象 的 編 入 で は 、 実 際 の移 動 が な い 代 わ り に 、 編 入 を す る 要 素 と 編 入 を

さ れ る 要 素 に 同 一 指 標 がふら れ 、 そ の 結 果、 丸で囲ま れ た 部 分 が 機 能 的

に 1 つ の 複 雑 述 語 と し て 働 く よ う に な り 、 「 統 率 透 明 化 の 系 (Government

Transparency Corollary: Baker 1988) 」 に よ り 、 編 入 の 結 果 出 来 上 が っ た 複 合 的 語

彙範 疇が 、 VN が元 の位 置で 統 率 し て い た 要 素 を 全 て 統 率す る こ と に な

る 。

  こ の よ う な 抽 象 的 編 入 と い う 操 作 を 仮 定 し な け れ ば な ら な い 理 由 を

( 8 ) に 示 す 。

8) a. VN の あ る 種 の 項 ( = 内 項 以 外 の 項 ) は 、 「 の 」 を伴 う こ と を許

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れ ず 、 見 か け は VN 句 の 外 に位置す る よ う に思える 。

b.θ付 与 と移動 などの 統 語 現 象 か ら判断す る と 、 「 の 」 の有無に

か か わ ら ず 、 VN の 内 項 は 全 て VN 句 の 内 部 に 生 成 さ れ る 。

  (8a) は 、 軽 動 詞 構 文 の 内 項 以 外 の 項 は 、 名 詞 句 内 に 生 起 し て い る こ と

を 示 す 「 の 」 格 で は な く 、 通 常 の 文 の 項 をマークす る 格 助 詞や後置 詞 に

よ っ てマークさ れ る と い う こ と を言 っ て い る 。 例 えば 、 (7a) の 例 文 を 見

て い た だ き た い 。 こ の 文 で 、 内 項 は 「 キムチ」 で あ る が 、 こ の 内 項 以 外

の 項 は 全 て 、 文 の中に 生 起 し て い る こ と を 表 す 格 助詞 や後 置詞 でマーク

さ れ て い る 。 こ れ は 、 (7c) に 示 す よ う に 、 抽 象 編 入 が大き い方 の円 で囲

ま れ た 要 素 を NP2 ま で抽 象 的 に 編 入 し て い る た め 、 本 来 は VN の投 射 の

内 部 に あ る NP1 が 、 「 の 」 格 で マ ー ク さ れ な け れ ば い け な い と こ ろ 、

Baker の 「 統 率 透 明 化の系」 に よ り 、 抽象 的 編 入 に よ っ て 合 成 さ れ た複合

的 語 彙範 疇 ( お そ ら く V ) に よ っ て 統 率さ れ る た め 、 通 常 の 文 要 素 の 格

を 与えら れ る 。

  同 様 に 、 (7b) の 例 文 で は 、 内 項 「 キムチ」 が 名 詞 句 内 の 要 素 で あ る こ

と を 示 す 「 の 」 格 を伴 わ ず 、 文 の 要 素 で あ る か の よ う に 文 頭 に 移動 し て

い る が 、 こ れ も (7c) の 、 小さ い方 の円 で囲 ま れ た 要 素 が抽象 的 に 編 入 さ

れ た と 考 えれ ば 、 やは り抽 象 的 編 入 に よ っ て 合 成 さ れ た複 合 的 語 彙 範疇

( お そ ら く V ) に よ っ て 統率さ れ る た め 、 通 常 の 文 要 素 の よ う に振舞う 。

  (8b) は 、 VN の 内 項 は 、 「 の 」 格 を伴 な う 場 合 も 、 文 の 項 と し て の 格

を 与 えら れ て い る 場 合 も 、 必 ず VN を 主 要 部 と す る 名 詞 句 内 に 生 成 さ れ

る 、 つ ま り言 い 換 えれ ば 、 オバート (overt) な 構 成 素 構 造 に違 い は な い

と言っ て い る 。

  で は 、 こ の 影 山 の 分 析 の 問 題 点 を 考 えて み た い 。 ま ず は 、 影 山 が 自 分

自 身 で挙げて い る 2 つ の 問 題 点 を 見 て み よ う 。 次 の 文 を 比 べ ら れ た い 。

9) a. 太 郎 がアメリカ に 出 張 を し た 。

b.* 太 郎 がアメリカ を 出 張 し た 。

( 9a ) の 文 法 性 が 示 す よ う に 、 「 出 張 」 と い う VN は 、 軽 動 詞 構 文 に な

り う る 。 し か し 、 (9b) の非 文 法 性 は 、 こ の VN が も と も と 対 格 を 付 与 す

る 能 力 が な い と い う こ と を 示 し て い る 。 影 山 の 分 析 で は 、 VN が 持 つ 格

付 与 能 力 を 軽 動 詞 に 転 写 す る た め 、 (9) の よ う に も と も と 対 格 を 付 与 す る

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能 力 が な い VN は 、 対 格 を 付 与 す る 能 力 を 軽 動 詞 に 転 写 で き な い は ず で

あ る 。 し た が っ て 、 (9a) の よ う に 、 VN が 対 格 を伴 っ て 現 れ る こ と は あ

りえな い こ と に な る 。

  ま た 、 次 の よ う な 文 を 生 成 す る 場 合 に も 、 影 山 分 析 は 問 題 を 生 じ る 。

10) a. 地震が発生 す る 。

b.* 地震の発生 が す る 。

影 山 は 、 日 本 語 に お い て は 、 非 対 格 述 語 の 主 語 名 詞 句 は 、 主 語 位置 に移

動 し な く て も 、 述 語 の姉妹 位置 でガ格 を 与えら れ る と 仮 定 し て い る た め 、

非対 格 VN も 構 造 格 と し てガ格 を 付 与 す る 能 力 を備 えて い る こ と に な る 。

し た が っ て 、 (10) の よ う な 文 に お い て は 、 軽 動 詞 がガ格 を 付 与 す る 能 力

を VN か ら受 け継 ぎ、 VN にガ格 を 与 えて し ま う と い う わ け で あ る 。 そ

の 結果で き あ が っ た 文 は 、 (10b) に 示 す 通 り非文 に な る 。

  影 山 自 身 に よ っ て言及 さ れ て い る 問 題 点 は 以 上 で あ る が 、 実 際 、 影 山 分 析

は多く の 問 題 点 を含む。 ま ず 、下の (11)-(13) の 文 を 比較さ れ た い 。

11) a. 父が胃の手術を し た 。

b. 太 郎 は よ く病気を す る 。

12) a. 太 郎 がフランス料理 を堪能 し た 。

b.* 太 郎 がフランス料理 の堪能 を し た 。

13) a. 太 郎 が学生 生活を満喫し た 。

b.* 太 郎 が学生 生活の満喫を し た 。

影 山 は 、 (11) の よ う な 例 を根拠に 、 軽 動 詞 構 文 の 主 語 は 、 Experiencer を含む、

「 外 項 」 を 持 つ 動 詞 で な く て は な ら な い と言っ て い る 。 し か し 、 (12, 13) の

例 文 が 示 す よ う に 、 実 際 に は 、 主 語 が Experiencer で も 軽 動 詞 構 文 に 現 れ る こ

と が で き な い も の が あ る 。 こ れ ら の違い を 生 み 出 し て い る 要因は 何 で あ ろ う

か 。

  確 か に 、 (11) か ら (13) ま で の 文 に お い て は 、 全 て 主 語 が Experiencer だ が 、

実 は 、 同 じ Experiencer で も 、 は っ き り と し た 意 味 的 な違い が あ る 。 (12)-(13) の

文 で は 、 VN は 主 語 の feeling 、 す な わ ち 「感覚」 を 表 し て い る の に 対 し 、

(11) の 文 で は VN は 主 語 の 「 経 験 」 を 表 し て い る 。 一 般 的 に 、 経 験 を 表 す

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VN は 、基本 的 に 軽 動 詞 構 文 に 現 れ る こ と が 可 能 な よ う で あ る 。 次 の 例 を参

照さ れ た い 。

14)  僕ら は良い 経験を し た 。

(14) の 例 文 に お い て 、 VN は 、 主 語 の 「 経験」 を 表 す VN の 代 表 的 な も の だ

が 、やは り 軽 動 詞 構 文 に 現 れ る こ と が で き る 。 結局、 同 じ Experiencer で も 、

「 経験」 と 「感覚」 を 表 す VN は 区 別 す る 必 要 が あ る 。 影 山 分 析 に は 、 こ の

区 別 を 行 う メ カ ニ ズ ム が欠如し て い る た め に 、 こ の違い を捉える こ と は で き

な い 。

  次 に 、 日 本 語 の 軽 動 詞 構 文 に抽 象 的 編 入 を 応 用 す る こ と に 関 す る 問 題

点 を 考えて み た い 。

15) a. *This bed has been slept comfortably/silently in by Queen Elizabeth.

b. ダイエー が韓国か らキムチの輸入 を   来 年 か ら   す る 。

(15a) は 、 Baker が抽象 的 編 入 の 例 と し て挙げて い る英語 の 例 で あ る が 、 こ こ

で は 、 動 詞 slept に in が抽象 的 編 入 さ れ て い る と Baker は言う 。 し か し 、

VN と 軽 動 詞 の間に副詞 などの 統 語 的 要 素 が 入 り込むと 、非文 に な っ て し ま

う 。 こ れ は 、抽象 的 に し ろ 目 に 見える 形 に し ろ 、 編 入 が 起 こ れ ば 編 入 に か か

わ っ た 二 つ の 要 素 は 、 一 つ の ま と ま り を な す わ け で あ る か ら 、 他の 要 素 の 介

入 は許さ れ な い 。 も し 、 影 山 の言う よ う に 、 軽 動 詞 に も抽象 的 編 入 が 起 こ っ

て い る な ら 、副詞 などの 要 素 が VN と 軽 動 詞 の間に 介 入 し た 場 合 、非文 に な

る こ と が予測さ れ る訳で あ る が 、 (15b) の 文法性 が 示 す よ う に 、 実 際 に は 可 能

で あ る 。 し た が っ て 、 (15a) と (15b) の違い を捉える た め に は 、 (15b) で は抽象 的

編 入 は 起 こ っ て い な い と 考える の が妥当で あ ろ う 。

ま た 、 影 山 の 分 析 で は 、 VN を 主 要 部 と す る 名 詞 句 は独自 の投射 (VNP)

を 持 つ と し て い る が 、 そ う す る と 、 なぜそ の中に絶対 に VN の 主 語 に あ

た る 句 が 現 れ る こ と が で き な い の か 説 明 で き な く な る 。 次 の 文 を 比 較さ

れ た い 。

16) a. * [VNP 太 郎 の英語 の 勉 強 ] を す る 。

a’ [VNP 太 郎 の英語 の 勉 強 ] を妨げる 。

b. * 太 郎 が [VNP 花子のドアの修繕 ] を す る 。

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b’ 太 郎 が [VNP 花子のドアの修繕 ] を手伝う 。

( 花子のドア = 花子に よ るドアの (修繕)

花子の 部屋 / 家のドアの (修繕) )

軽 動 詞 構 文 の 場 合 、 VN の 主 語 「 太 郎 」 が VNP の 内 部 に 生 起 す る と 、 (16a)

の よ う に 、 必 ず非 文 に な る が 、 動 詞 が 軽 動 詞 以 外 の 動 詞 、 例 えば 「 妨げ

る 」 に な る と 、 (16a’) の よ う に 、 適 格 文 と な る 。 VNP の 主 語 と 別 の 主 語 が

VNP の 外 側 に あ っ て も 、 (16b) の よ う に 、 VN の 主 語 を VNP の中 で具 現 し

た 場 合 、 軽 動 詞 だ と非 文 に な り 、 通 常 の 動 詞 「 手 伝う 」 だ と 、 (16b’)の よ

う に 、 適 格 文 に な る 。 影 山 の 分 析 で は 、 なぜこ の よ う に 軽 動 詞 構 文 に お

い て の み 、 VN の 主 語 が VNP の 内 部 に具現 で き な い の か 説 明 で き な い 。

さ ら に 、 先ほどの (8b ) の 一 般 化に よ る と 、 VN の 内 項 が 「 の 」 を伴

わ な っ て い よ う が い ま い が 、 内 項 は VNP の 内 部 に 生 成 さ れ る と言っ て い

る が 、 こ れ は 、 言 い かえれ ば 、 内 項 と VN は 常 に 構 成 素 を 成 し て い る い

う こ と に な る 。 も し 本 当に抽象 的 編 入 が 起 こ っ て い る な ら 、 内 項 と VN

を 軽 動 詞 か ら引き離す移動 は不 可 能 だ と い う こ と を予 測す る 。 し か し 実

際 に は 、 (17) の 例 文 に 見 ら れ る よ う に 、 VN が 「 の 」 格 を伴 っ た 場 合 は

適格 で 、 対 格 を伴っ た 場 合 は不適格 で あ る 。

17) a. 首相が   ti   し た の は [ 内閣の改造 ] だ 。

b. * 首相が   ti   し た の は [ 内閣を改造 ] だ 。

  こ れ ら の 文 の 文 法性 の違 い は 、 VN と そ の 内 項 は 、 内 項 が 「 の 」 を伴

わ な い時 は 構 成 素 を 成 し て い な い と い う こ と 示 す 。 す な わ ち 影 山 の 主 張

と は裏腹 に 、 内 項 が 「 の 」 を伴 な う時と伴わ な い時で は 、 構 成 素 構 造 に

違い が あ る と い う こ と 証 明 し て い る 。

ま た 、 も し 本 当に抽象 的 編 入 が 起 こ っ て い る な ら 、 VN と 軽 動 詞 も ま

と ま り を 成 し て い る わ け で あ る か ら 、 内 項 と VN を 軽 動 詞 か ら引き離す

移動 は不 可 能 だ と い う こ と を予 測す る 。 し か し 実 際 に は 、 (17a) の よ う に 、

適格 文 に な る と い う こ と は 、 やは り抽象 的 編 入 は 起 こ っ て い な い と 考 え

る の が妥当だ と い う こ と に な る 。

次 に 、 音韻 的 な 特 徴か ら 影 山 分 析 の 問 題 を 考 えて み た い 。 日 本 語 で は 、

通 常 一 語 に つ き 一 つ のハイトー ン・ ピー クが 与えら れ る と い う 原 則 が あ

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る 。 例 えば 、 (18a) の 様 に 、 VN す る 構 文 の 「 勉 強 す る 」 と い う 動 詞 は 、

一 つ のハイトーン・ピークで発音さ れ る 。

18) a. L H H H H H (one stretch of high-tone peak)

英語 を べんきょう す る 。

b. L H H HL H H L

英語 を べんきょう す る と き

c. L H H HL H H L

英語 を べんきょう し た あ と

し か し 、 「 VN す る 」 と い う複 合 語 が 、 時 や後 などの 接 続詞 を 従 える と 、

(18b) と (18c) の よ う に 二 つ のハイトーン ピークで発 音さ れ る 。 す な わ ち・ 、

こ れ ら の 例 で は 、 VN と す る は音韻的 に 二 語 だ と い う こ と を 示 す 。

こ こ で 、 影 山 が 、 過 去 に 、 Shibatani & Kageyama (1988) で 行 っ た 議 論 を 見 て

も ら い た い 。 ・ Shibatani & Kageyama で は 、 形 態 的 に は複 合 語 の 特 徴 を 持 っ

た 語 の 各 要 素 が 、 統 語 的 に独立 し た 機 能 を担 い な が ら 、 音 韻 的 に 二 語 に

振舞 う 例 に 注 目 し 、 そ れ ら は 統 語 部 門を 通 過 後 、 音韻 部 門 で そ れ ぞ れ 別

の 語 と し て の音韻 規則 が適 用 さ れ た 後 に 形 成 さ れ る 語 で あ る と 主 張 し て

い る 。 次 の 例 を 見 て い た だ き た い 。

19) H L L L H H

博士の が く い しゅと く < 学位取得 >

こ の 例 に お い て 、 「学位」 と 「取得」 が音韻的 に 二 語 に な っ て い る が 、 「博

士 の 」 と い う修 飾 語 は 、 「 学 位 」 を修 飾 し て い る の で 統 語 部 門 で は 「 博 士

の 」 と 「学位」 と は 通 常 の 統 語 関係に あ る と 考えら れ る 。 同 様 に 、 「学位」

と 「取得」 も 、 そ れ ぞ れ 目 的 語 ( = VN の 内 項 ) と VN と い う 機 能 を果た し て

い る と 考えら れ る 。 こ の よ う に 形 態 的 に は複合 語 の 特徴を 持 っ た 語 の 各 要 素

が 、 統 語 的 に独立 し た 機 能 を担い な が ら 、音韻的 に 二 語 に振舞う 例 に 注 目 し 、

そ れ ら は 統 語 部門を 通過後 、音韻部門で そ れ ぞ れ 別 の 語 と し て 通 常 の音韻規

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則が適用 さ れ た 後 に 形 成 さ れ る 語 で あ る と 、 Shibatani & Kageyama は 主 張 し て い

る 。

こ こ で 、 先ほど (18) の 例 に戻っ て 考えて み た い 。 Shibatani & Kageyama の 議 論

に 従えば 、 (18b,c) の 「 勉 強 」 と 「 す る 」 は 、音韻的 に 二 語 な訳で あ る か ら 、

統 語 部門通過し 、音韻部門に 入 っ た時は 別 々 の 語 で あ っ た と い う こ と に な る 。

す な わ ち 、 統 語 部門で は 別 々 の 語 で あ っ た と い う こ と に な る 。 す な わ ち 、 編

入 と言う 操 作 が 統 語 部門で は 起 こ っ て い な い と い う こ と を 意 味 す る 。 し か し 、

影 山 は 、 編 入 は 統 語 部門で 行 わ れ る と 主 張 し て い る の で 、 (18b,c) の事実 は こ

の 仮 定 と矛盾す る の で 問 題 に な る 。

  こ の よ う に 、 影 山 分 析 は 様 々 な 問 題 点 を含むが 、 そ れ ら は 全 て 、根本 的 な

仮 定 に誤り が あ る と い う こ と を 示 し て い る 。

2.3 Matsumoto (1996a, b)

次 に 、 Matsumoto (1996a, b) の 分 析 を 見 て み よ う 。

20) a. S

(↑SUBJ) =↓ (↑XCOMP OBLgo) =↓ (↑XCOMP) =↓ ↑ =↓

NP PP   NP V

彼 ら は     東 京 へ (↑OBJ) =↓ ↑ =↓ 始 め た / し た

  NP         N

    物 資 の   輸 送 を

b.

PRED ‘ し た ’ <XCOMP> SUBJ

SUBJ [PRED ‘ 彼 ら ’ ]

PRED ‘ 輸 送 <SUBJ, OBJ, OBLgo>’

SUBJ

OBJ [PRED   ‘ 物 資 ’ ]

XCOMP PRED   ‘ へ <OBJ>’

OBLgo CASE GOAL

OBJ [PRED ‘ 東 京 ’ ]

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c. S →       XP* {V, A}

(↑XCOMP GF) =↓ ↑ =↓

d. NP → XP* N

  (↑GF) =↓ ↑ =↓

Matsumoto は 、 VN と 軽 動 詞 は 、 c-, f-, a-structure のどのレベル に お い て も 2 つ の

独立 し た 語 で あ り 、完全 に 指 定 さ れ た (= fully specified)   Predicate、 項 構 造 、 機 能

を 持 っ て い る と 、 そ し て VN は 、 軽 動 詞 の XCOMP で 、 軽 動 詞 は 、 control 動 詞

で 、 そ の 主 語 は 軽 動 詞 の 主 語 に よ っ て control 、 お よ び bind さ れ て い る と

仮 定 し て い る 。 こ の 二 つ 目 の 仮 定 の根拠と し て 、 (21) の よ う な 証拠を提示 し

て い る 。

21) a. 太 郎 は 、 [*(花子の ) 英語 の 勉 強 ] を手伝っ た 。

(non-raising/non-control verb)

b. 太 郎 は 、 [(*花子の ) 英語 の 勉 強 ] を し た 。

(control (light) verb)

(21a) の 場 合 、 主 動 詞 が 軽 動 詞 で は な い が 、 こ の 場 合 、 VN 句 内 の 主 語 は 、 主

文 の 主 語 に よ っ てコントロー ル さ れ て い な い た め に 、具現 が義務的 に な る 。

一方、 軽 動 詞 構 文 の 場 合 、 VN 句 、 す な わ ち XCOMP の 主 語 は 、 主 動 詞 に よ

っ てコントロー ル さ れ て い る た め に 、具現化す る と逆に非文 に な っ て し ま う 。

  こ の Matsumoto 分 析 の 最 大 の 問 題 点 は 、 統 語 構 造 ( c-structure ) に 関 す

る 軽 動 詞 の 特 徴を完全 に捉 えき れ て い な い と こ ろ に あ る 。 (20c,d) の 句 構

造規 則に よ る と 、 基本 的 に S 内 の 項 の NPの 数 、 NP内 の 項 の 数 は 自 由 で あ

る と い う こ と に な る 。 お そ ら く 、 別 の独 立 し た規 則に よ り 、 S 内 で の 主

語 に あ た る 名 詞 句 の具現 は義務的 に な る と し て 、 残 り の VN の 項 は 、 VN

を 主 要 部 と す る 名 詞 句 の 内 で も 外 で も 自 由に具 現 で き る と い う こ と に な

る 。 し か し そ う す る と 、 VN の 項 が 三 つ あ る 場 合 に 、 そ の う ち の 2 つ が

VN 句 内 に 残 留 し た 構 造 も 可 能 で あ る と 言う こ と を予 測す る が 、 実 際 に

は (22) に 示 す よ う に容認度が低く な る 。

22) */?? 政府が [ アメリカ か ら のコーンの輸入 ] を し た 。

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Grimashaw & Mester 分 析 や影 山 分 析 で は 、 内 項 の み が VN を 主 要 部 と す る

名 詞 句 内 に 残 れ る と は っ き り 述 べ 、 そ れ を捉 える た め の 仮 定 な り 、 原 理

な り を提 示 し て い る が 、 Matsumoto 分 析 で は そ の よ う な 原 理 が な い た め 、

こ の非文法性 は捉えき れ な い 。

  ま た 、 (20d) の 句 構 造 規 則 に は 、 VN を 主 要 部 と す る 名 詞 句 内 に 残 留 す

る XPの GFは 指 定 さ れ て い な い た め 、 ( お そ ら く SUBJ 以 外 の ) どの GFの XP

で も 残 留 す る こ と が 可 能 で あ る と 予 測 す る 。 と い う こ と は 、 OBJ2 や OBL

で も 残 留 で き る は ず で あ る 。 し か し 実 際 に は 、 VN が Ditransitive な 場 合 、

OBL に あ た る 項 を VN を 主 要 部 と す る 名 詞 句 内 に 残 す と 完 全 な非 文 に な

る 。

23) * アメリカ (SUBJ) がコー ン( OBJ ) を [ 日 本 へ( OBL ) の輸 出 ]

を し た 。

こ の よ う に 、 Matsumoto 分 析 は 、 VN を 主 要 部 と す る 名 詞 句 への XP残 留 に

関 し 、 そ れ を司る 原 理 を 示 さ な い た め に 、 こ れ ら の 現 象 を 捉えき る こ と

が で き な い 。

  実 は 、 こ の VN を 主 要 部 と す る 名 詞 句 内 で の XP残 留 現 象 に 関 し て は 、

編 入 に 関 す る 実 に 一 般 的 な 原 理 が働 い て い る の だ が 、 こ の 節 で 検 証 し た

研 究 で は 、 そ の 原 理 を 見 落 と し て い た た め に 、 現 象 を捉えき る 仮 説 を打

ち た て る こ と が で き な か っ た の で あ る 。 そ の 一 般 的 な 編 入 の 原 理 を 、 下

の 3.3で詳し く 議 論 す る

3. 自 立 語彙文法に よ る 軽 動 詞 の 分 析

  こ の 節 で は 、 前 節 で 見 た 、 代 表 的 な 軽 動 詞 の 分 析 の 問 題 点 を クリアで

き る新 し い 分 析 を提 案 す る 。 以 下 で は 、 Sadock (1985,1991) に端 を発 す る 自

立 語彙文法 (Autolexical Grammar) に 、 語彙概 念 構 造 (Lexical Conceptual Structure)

や文 法 関 係 (Grammatical Relations) などを扱 う 部 門 を取 り 入 れ た も の を 文 法

的枠組み と し て 用 い て 議 論 を 進 め る 。

3.1. 語彙概 念 構 造 ( Lexical Conceptual Structure )

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  近 年 、 語 彙 概 念 構 造 (LCS)の 観 点 か ら 、 統 語 構 造 と 形 態 構 造 の 関 わ り を

分 析 す る 研 究 が盛 んで あ る が 、 軽 動 詞 の 分 析 に お い て も LCS を 用 い た 分

析 は 、 非 常 に有用 な視 座を 与えて く れ る 。 軽 動 詞 の LCS を 分 析 す る に あ

た り 、 ま ず大 前提 と す る の は 、 「 軽 動 詞 と VN は 、 形 態 的 、 統 語 的 に は

独立 し た 構 成 素 で あ る が 、 抽象 的 なレベル 、 す な わ ち 、 語彙 概 念 構 造

に お い て は 一 つ の ま と ま り を 成 す 。 」 と い う こ と で あ る 。 3.1で は 、 こ の

メ カ ニ ズ ム に つ い て詳し く 考えて 行 く 。

  軽 動 詞 構 文 と VN ス ル 構 文 は 、 そ の 同 義 性 か ら 、 影 山 、 Terada 等 の よ

う な 軽 動 詞 構 文 か ら VN ス ル 構 文 を 派 生 す る と い う 考 え方を と る 研 究 者

も多 い が 、 本 論 で は 正 反対 の 立 場 を と り 、 軽 動 詞 構 文 と VN ス ル 構 文 は 、

も と も と独立 し た 、 別 の 構 造 で あ る と 仮 定 す る 。 軽 動 詞 構 文 の VN は 名

詞 、 VN す る 構 文 の VN は 動 詞 で あ る と 仮 定 す る 。 そ し て 、 こ れ ら の 構

文 の 同 義 性 は 、 そ の LCS か ら 自 動 的 に 導 き だ さ れ る と い う こ と を 議 論 す

る 。 本 論 で は 、 軽 動 詞 構 文 の VN は 名 詞 で あ る と 仮 定 す る わ け で あ る か

ら 、 ま ず 名 詞 の LCS に つ い て 考えて 行 き た い と思う 。

3.1.1. Classification of Nominals

  軽 動 詞 構 文 の VN は 名 詞 だ と し て も 、 通 常 の 名 詞 と は 明 ら か に 振舞 い

を 異 に す る 。 そ の 本 質 を探 る た め に は 、 ま ず 、 名 詞 に はどの よ う な も の

が あ る の か と い う こ と を 知 っ て お く 必 要 が あ る 。 (24) に 、 基 本 的 な

Grimshaw(1990) に よ る 名 詞 表 現 の 分 類 を 示 す 。

24) 名 詞 の 分 類 (Grimshaw 1990)

語彙概 念 構 造意 味 役 割 を伴う

項 構 造 ( p 65 )

a. 名 詞

( noun )有 無

b. 結果名 詞

  (result nominal)有 無

c. 単純事象 名 詞

(simple event nominal)有 無

d. 複雑事象 名 詞 有 有

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(complex event nominal)

こ の 分 類 は非常 に大雑把な も の で あ る の で 、 こ れ で 全 て を カバー し て い る訳

で は な い 。当然、プロセス・ノミナル (process nominal) やそ の他の 名 詞 的 表 現

(nominal) も こ の 表 のどこ か に収ま る と思っ て い た だ き た い 。 こ れ ら の中で 、

特 に 注 目 す べ き な の は 、 名 詞 は 全 て 語彙概 念 構 造 を 持 っ て い る と言う こ と で

あ る 。 し か し ま た 、 そ の中で も複雑事象 名 詞 の み が 、 項 の具現 が義務的 で あ

る 。 そ の こ と は 、 「 意 味 役 割 を伴う 項 構 造 」 と い う欄に 表 さ れ て い る 。 項 構

造 で は 、 LCS か ら の投射に基づい て 、 PP 理 論 で言う と こ ろ の D 構 造 で義務的

に具現 さ れ る 要 素 が 階 層 的 に 表 示 さ れ る 。

影 山 は 、 単純事象 名 詞 と複雑事象 名 詞 が 軽 動 詞 構 文 に 現 れ得る と言っ て い

る 。 次 の (25) の 例 文間に お け る 文法性 の違い が 、 そ の こ と を 示 す 。

25) a. * 太 郎 はコーヒー を し た 。 ( 名 詞 )

b. * 太 郎 は梅干を し た 。 ( 結果名 詞 )

c. 太 郎 は心臓移植の手術を し た 。 ( 単純事象 名 詞 )

d. 太 郎 は胃の手術を し た 。 ( 複雑事象 名 詞 )

そ し て 、 次 の (26) に 示 す よ う に 、 複 雑事 象 名 詞 の み が 軽 動 詞 への 編 入

と い う 操 作 を受け る と 影 山 は言っ て い る 。

26) a.*太 郎 は心臓移植を手術し た 。 ( 単純事象 名 詞 : cf. 25c)

b. 太 郎 は胃を手術し た 。 . ( 複雑事象 名 詞 : cf. 25d)

影 山 は 、 一 見 、 単 純事 象 名 詞 に も複 雑事 象 名 詞 に も 見 えな い 名 詞 、 す

な わ ち 結 果名 詞や名 詞 で も 、 軽 動 詞 構 文 に 類 似 し た 構 造 を 取る も の が あ

る が 、 そ れ ら は 名 詞 の 意 味 的 拡 張 を 経 て 、 結 局 、 動 作 や出 来 事 を 表 す 単

純事象 名 詞 と な っ て い る と言う 。 次 の 例 を 比 べ ら れ た い 。

27) a. 太 郎 が花子に誕生 日 の贈り物を す る 。

( 届け物、頼み ご と 、 etc. )

b.* 太 郎 が花子に誕生 日 を贈り物す る 。 .

c. 贈り物の季節 / * 本 の季節

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28) 鍋を す る → * 鍋す る →鍋の季節

「 ~ の季 節 」 は 、 基本 的 に事象 名 詞 と 結 び つ く 。 し た が っ て 、 「 本 」 と

い う 語 は 、 名 詞 で あ る か ら 、 「 本 の 季節 」 と は言 えな い 。 (27a) の 「 贈り

物」 は 、 本 来 は 結 果名 詞 と 考えら れ る が 、 (27c) の よ う に 「 ~ の季 節 」 と

い う言葉 と 結 び つ く こ と が で き る こ と か ら 単 純事 象 名 詞 だ と言 う 。 (28)

の 「 鍋 」 と 言 う 語 に も 同 様 の こ と が 言 え る 。 名 詞 で あ る が 、 「 ~ の 季

節 」 と 結 び つ く こ と が 出 来 る の で 、 軽 動 詞 構 文 の よ う に 振 舞 え る が 、

「 VN ス ル 」 の 形 で は 現 れ ら れ な い 。

し か し 、 単 な る 名 詞 で あ る 「 桜 」や「秋 刀魚 」 なども 、 「 ~の季節 」

と 結 び つ く こ と が 出 来 る が 、 「 * 桜を す る /* 桜す る 」 「 * 秋刀魚を す る /*

秋刀 魚す る 」 と は言えな い 。 し た が っ て 、 「 ~の季節 」 を 用 い たテスト

が 必 ず し も信 頼で き るテストで あ る と は 考えに く い が 、 名 詞 が 意 味 的 拡

張 を 経 て 単 純 事 象 名 詞 と し て振 舞う と い う 影 山 の 分 析 は 、 基本 的 に は 正

し い で あ ろ う 。 し か し 、 影 山 は 、 単 純事 象 名 詞や複雑 事 象 名 詞 が なぜ軽

動 詞 構 文 に な る の か と い う メ カ ニ ズ ム に つ い て は 議 論 を 展 開し て い な い 。

実 は 、 そ の メ カ ニ ズ ム は 、 事象 名 詞 の 一 般 的 特 徴 か ら 導 き だ さ れ る と い

う こ と を こ れ か ら 見 て 行 く 。

(29) の 表 に 、 Grimshaw の 用 い て い る 項 構 造 、 概 念 構 造 を 名 詞 の 種 類 ご と

に 示 す 。

29) Grimshaw (1990) に よ る 名 詞 の 分 類 、 及 び 項 構 造 、 語 彙 概 念 構

項 構 造 語彙概 念 構 造

a. book

( 名 詞 )(R) R<=x> such that y reads x

b. conclusion

( 結果名 詞 )(R) R <=x> such that y holds x

c. attempt

( 単 純 事 象 名

詞 )

(R) R< > such that x attempts y (y an I)

d. development

( 複 雑 事 象 名

(Ev(x-ø(y))) an event such that x develops y

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詞 )

*R も Ev も non-thematic external arguments で あ る 。 (p 64)

*R → LCS の参 加 者 (participant) と 結 び つ く : Ev → LCS の参 加 者

と は 結 び つ か な い 。

Grimshaw は 、 名 詞 は 全 て 語 彙概 念 構 造 を 持 っ て い る と言っ て い る 。 ま た 、

Grimshaw は 、 項 構 造 と 語 彙 概 念 構 造 で 、 同 じ R/Ev と い う ( 名 詞 、 及 び

受動 化動 詞 などに の み 現 れ る ) 外 項 を設 定 し 、 そ れ ら の 外 項 の変項 と の

結 び 付 け を 語 彙概 念 構 造 で 行 っ て い る 。 項 構 造 の 欄の R と い う記 号は 、

意 味 役 割 を 持 た な い義 務 的 外 項 で 、 名 詞 と predication の 関 係 に あ る 要 素

が 入 る 。 語 彙 概 念 構 造 に お い て は 、 非 常 に 基 本 的 な 論 理 関 係 (logical

relation) が 示 し て あ り 、 R の変項 と の束縛関係が 表 さ れ て い る 。

本 論 で は 、 影 山 が 用 い て い るタイプの命 題 的 な 語 彙概 念 構 造 を 、 語 彙

概 念 構 造 と し て 用 い た い 。 そ う す る と 、 Grimshaw の 語 彙 概 念 構 造 の よ う

に 、 義務 的 外 項 と変項 の束 縛 関 係を 語 彙 概 念 構 造 で扱 えな く な る 。 し か

し 、 項 束 縛 は 、 Grimashaw の扱 い方 を 見 れ ば わ か る よ う に 、 論 理 関 係 の話

で あ る か ら 、 影 山 型 の 意 味 的 構 造 に 重 点 を置 い た 語 彙 概 念 構 造 と は 別 の

次 元 で 扱 う の が 望 ま し い 。 し た が っ て 、 項 束 縛 は 論 理 意 味 部 門 (Logico-

semantics) で扱わ れ る こ と と 仮 定 す る 。

<仮 定 1> 項 の束縛 関係 を扱 う 次 元と 語 彙 概 念 構 造 を扱 う 次 元は

別 で あ る 。

  そ し て 、 そ れ ぞ れ の 名 詞 の 語彙情報を (30) の 様 に設定 す る 。

(30) 項束縛 語彙概 念 構 造

a. book ( 名 詞 ) R(x) x

b. conclusion ( 結 果 名

詞 )R(x) x

c. attempt ( 単純事象 名

詞 )R( ) [x-ø ACT ON y]

d. development (複雑事象

名 詞 )Ev

[[x-ø ACT ON y]CAUSE[BECOME [y BE

AT-z]]]

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名 詞 や結 果名 詞 は 、 命 題 を 表 す 語 彙 概 念 構 造 に お い て は変 項 と し て の

情報 に とどま り 、 単 純 事 象 名 詞 や複 雑事 象 名 詞 は 、 語 彙 概 念 構 造 に お い

て event structure を 持 つ と 仮 定 す る 。 こ の 仮 定 を 基 に 、 語 彙 概 念 構 造 に お

い て event structure を 持 つ 名 詞 の み が 軽 動 詞 構 文 に 現 れ 得 る と 仮 定 し て み

る 。

修 飾 関 係 な ど は 、 項 束 縛 の 次 元 で 扱 う 。 book の 様 な 名 詞 は 、 1-place

predicate で あ る と い う 性 質 は 、 こ の 次 元 で捉 えら れ る 。 こ こ で 注 目 し て

欲 し い の は 、 先 ほど示 し た Grimshaw の 語 彙 概 念 構 造 に お い て も 、 単 純

事象 名 詞 の R は 、 変項 と の束縛 関 係 が 指 定 さ れ て い な い と い う こ と で あ

る 。 こ れ は 、 ( 25c ) で 見 た よ う に 、 単 純 事 象 名 詞 の修 飾 語 は 、 変項 を

修飾 す る の で は な く 、 出 来 事自 体 を修飾 し て い る 。 し た が っ て 、 単 純事

象 名 詞 は 、 取 り得 る 項 で な くイベント自 体 を修飾 、束 縛し て い る と 考え 、

項束 縛の 指 定 が な い と 考 える 。 複雑 事 象 名 詞 の Ev は 、 束縛 関係 も な く 、

Predication の 関 係 に も な い と い う こ と を 表 す 。 こ の よ う な 体 系 作 り は 、 派

生 名 詞 一 般 に係わ る 問 題 で 、 本 論 のテー マか ら も 少 し離れ て し ま う し 、

ま だ 研 究 の余地が あ る の で 、 こ こ で は こ れ 以 上深入 り し な い で お く 。

さ て 、 次 に 名 詞 の 一 般 的 な 特 徴 を 考 えて み た い 。 Grimshaw は 、 「 動 詞

が 名 詞 化 さ れ る と 外 項 は抑 制さ れ る 。 」 と言 っ て い る 。 次 の (31b) の 例

を 見 て い た だ き た い 。

31) a. examination (x-ø (y))

Agent Theme

b. The examination(*s) *(of the patients (by the doctor)) took a long time.

名 詞 examination は 、 内 項 の patients が具 現 さ れ な け れ ば非 文 と な る が 、

主 語 の具 現 は任意 で あ る 。 ま た 、 抑 制さ れ た 項 は 、 統 語 的 具現 が義 務 的

で な く な る た め 、 外 項 の 意 味 役 割 を 担 う 要 素 ( by the doctor ) が 再 び 名 詞

句 内 に 現 れ た 場 合 、 by を伴 っ て 現 れ る こ と か ら 明 ら か な よ う に 、 付 加 詞

と な る 。 (Projection Principle)

  同 様 の こ と が 日 本 語 に も言える 。

32) [NP ( そ の医者 の / に よ る ) 患者 の 検診 ] は時間が か か っ た 。

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(32) の 例 は 、 日 本 語 に お い て も 、 VN の 主 語 の具現 は 、 任 意 だ と い う こ

と を 示 し て い る 。 こ の よ う な 外 項 の 抑制 は 、 LCS 上 で は 、 (30) の 表 の 様

に 、 “ x-ø” と い う 形 で 表 さ れ る 。

  以 上 の 仮 定 と 観 察 か ら 、 語彙概 念 構 造 に お い て変項 で な い も の が 軽 動 詞 構

文 の VN に 成 り得る と す る 。

3.1.2 語彙概 念 構 造 の 合 成

次 に 、 動 詞 の LCS に つ い て 考えて み た い 。 (33) に 示 す 表 は 、 影 山 (1996)

に よ る 動 詞 の 分 類 で あ る 。 (34) で は 、 そ の典型 的 な LCS を 示 す 。

33) 影 山 (1996) に よ る 動 詞 の 分 類

外 項

対 応 す る

他動 詞 構

対 応 す る 他

動 詞 構 文 で

の 役 割

上位事象 /

下位事象 例

他 動 詞

(transitive)有 有 / 有 kill, bear

非 対 格 動 詞

(unaccusative)無 無 無 / 有

Occur,

happen

非 能 格 動 詞

(unergative)有 有 主 語 有 / 無

Dance,

cry

能 格 動 詞

(ergative)有 有 目 的 語 有 / 有

Open,

break

34) a. [[x ACT ON y] CAUSE/CONTROL [y (BECOME) [......]]] ( 他

動 詞 )

b. [ (x) BECOME [ x BE AT-z]] ( 非対 格 動 詞 )

c. [x ACT (ON y)] ( 非 能 格 動

詞 )

d. [x=y CONTROL/CAUSE [y BECOME [......]]] ( 能 格 動 詞 )

軽 動 詞 構 文 に 現 れ る の は 、 こ の中で (34a,c,d) で あ る が 、 共 通 の 特 徴 は 、

こ れ ら す べ て が 、 外 項 を 持 っ て い る と い う こ と で あ る 。 し か し 、 外 項 を

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持 っ て い る こ と が 、 軽 動 詞 構 文 の 可 、 不 可 を決 定 す る も の で は な い 。 先

ほど (11-13) で 見 た よ う に 、 Experiencer は 外 項 、 お よ び LCS で の 主 語 を含

む上 位事 象 に相当 す る 要 素 を 持 つ と 通 常 考 えら れ る が 、 経 験を 表 す 動 詞

と feeling を 表 す 動 詞 と で は 、 あ き ら か に 振 舞 い を 異 に す る た め 、 こ れ ら

は 異 な る 意 味 述 語 を 持 っ て い る と 仮 定 す る 。 影 山 は 、 (11) の 文 で は 、 主

語 が VN で 表 さ れ る 出 来 事 に 対 し て 、 自 分 の 意 志 に よ っ て あ る程度 コン

トロー ル が 可 能 な 立 場 に あ る と言っ て い る 。 と い う こ と は 、 「 経 験 」 を

表 す VN は 、 そ の 経 験 を す る かどう か は 、 主 語 の責任 に お い て 行 わ れ る

も の な の で 、コントロー ル が 可 能 で あ る と 考えら れ る 。 し た が っ て 、 (35a)

の よ う な LCS に CONTROL と い う 意 味 述 語 を 持 つ と 仮 定 す る 。 一方、 feeling

を 表 す VN は 、 コントロー ル不 可 能 で あ る の で 、 CONTROL と い う 概 念 が

含 ま れ な い 。 か と言 っ て 、 他 の 動 詞 の よ う に CAUSE に相 当 す る 意 味 を 持

つ わ け で も な い 。 し た が っ て 、 仮 に UNDERGO と い う 意 味 述 語 を 導 入

す る 。 す る と 、 こ れ ら の Experiencer を 外 項 に 持 つ 動 詞 は 、 概 ね (35b) の

よ う な LCS を 持 つ と 仮 定 で き る 。

35) a. [x CONTROL [(BECOME) [x BE WITH y /AT-z]]] ( 経験 )

b. [ x UNDERGO [x BECOME [ x BE WITH y /AT-z]]] ( 感覚 )

こ れ ら の 議 論 を基に 、 軽 動 詞 の LCS に 関 し 、 次 の 仮 定 を 立 て て み る 。

<仮 定 2> 「 VN す る 」 構 文 の VN は 、純粋な 動 詞 で完全 な LCS を 持 つ 。

そ れ に 対 し て 、 軽 動 詞 構 文 の VN は 名 詞 で 、 名 詞化に よ り 機 能 の 一 部 が抑

制さ れ た不完全 な LCS を 持 つ 。

  ま た 、 軽 動 詞 の LCS を 次 の 様 に 仮 定 す る 。

<仮 定 3> 軽 動 詞 「 す る 」 は 、 CONTROL, CAUSE, ACT に相当す る 意 味 述 語

を 語彙概 念 構 造 を 持 っ て い る 。

  さ ら に 、 軽 動 詞 構 文 で は 、 VN と 軽 動 詞 の LCS が 合 成 さ れ る と 考え、 次 の

仮 定 を 立 て て み る 。

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<仮 定4> 軽 動 詞 構 文 で は 、 軽 動 詞 と VN の LCS が 同 定 さ れ 、複雑述 語

を 形 成 す る と 仮 定 す る 。

同 定 を 行 う た め に は 、 軽 動 詞 と VN の LCS が 部 分 的 に共 通 の 意 味 述 語 を

持 つ 必 要 が あ る 。 し た が っ て 、 こ れ ら の 仮 定 に よ り 軽 動 詞 「 す る 」 と 共

起 可 能 な VN は 、 LCS に 上位事象 、 及 び CONTROL 、 CAUSE 、 ま た は ACT

が あ る も の に限ら れ る と い う 一 般化が 導 き 出 さ れ る 。

そ れ で は 、 こ れ ら の 仮 定 、 特 に<仮 定4>を裏付 け る 証拠を 見 て み よ う 。

先程 2.2 で 見 た よ う に 、 軽 動 詞 構 文 で は 、 必 ず 主 語 は 、 VN を 主 要 部 と し

た NPの 外側に 現 れ な け れ ば い け な い 。

36) a.*[NP 太 郎 の英語 の 勉 強 ] を / が す る

b.* 太 郎 が   [NP 花子のドアの修繕 ] を す る 。 (= 16b)

(花子のドア = 花子に よ るドアの (修繕)

花子の 部屋 / 家のドアの (修繕) )

こ の振舞い は 、<仮 定4>に よ っ て 正 確 に予測さ れ る 。 VN の LCS と 軽 動 詞

の LCS が 合 成 さ れ て 、 そ の 結果出 来 上 が っ た LCS が 文 全 体 の LCS と な る の で

あ れ ば 、 項 は基本 的 に 文 要 素 と い う こ と に な る の で 、当然主 語 は VN を 主 要

部 と す る 名 詞 句 の中で は な く 、 文 の中で具現 さ れ な け れ ば な ら な い と い う

こ と に な る 。 と い う こ と は 、逆に 、 軽 動 詞 以 外 の 動 詞 が VN と共起 し た 場 合

に は 、 LCS の 合 成 が 行 わ れ な い た め 、 VN の LCS は 文 全 体 の LCS に は な ら な

い た め 、 VN か ら投射さ れ る 句 の中で 主 語 を具現 で き る と い う こ と が予測さ

れ る 。 次 に 示 す (37) の 例 文 が 、 ちょうどそ の 構 造 を 持 っ て い る が 、予想通 り

適格 文 と な る 。

37) a. 太 郎 が [NP  花子のウイル ス の 研 究 ] を支えた 。

b. 太 郎 が   [NP 花子のバラの栽培 ]   を手伝っ た 。

ち な み に 、 内 項 に は 全 く 別 の 原 理 が働き 、 VN を 主 要 部 と す る 名 詞 句 の中

で具現 が 可 能 に な る の で あ る が 、 こ の 原 理 に つ い て は 3.3で 説 明 す る 。

次 に 、どの よ う に LCS の 合 成 が 行 わ れ る か 、 そ の メ カ ニ ズ ム つ い て具体 的

に 例 を挙げて 考えて み た い 。

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38) a. ‘ 改善 ’

[[ x - ø ACT ON y] CAUSE [BECOME [y BE AT[STATE GOOD]]]]

抑制

b. (Di Sciullo and Williams 1988) ( 接 辞 )

‘sharp’ [A] + ’-en’ [V] ‘enlarge’ [V]

(Theme) (Agent, Theme)  → (Agent, Themei) Themei)

(functor)

b’ ‘sharp’ + ’-en’

[ y BE AT-[STATE SHARP]] + [[ x ACT ON y ] CAUSE [y BECOME [y BE AT-[STATE       ]]]]

同 定

c. ‘ す る ’ (light verb)

[[ x (ACT (ON y))] CONTROL/CAUSE [ ]]

d. ‘ 改善を す る ’

      [[x- ø ACT ON y] CAUSE [BECOME [y BE AT[STATE GOOD]]]] + [[ x (ACT (ON y))] CAUSE [ ]]

同 定

抑 制 ⇒ 軽 動 詞 と 合 成 さ れ る こ と に よ り 復 活 、 ま た は 軽 動 詞 の

LCS に あ る 同 じ 項 に よ っ て 代替

e.

統 語 部門・形 態 部門 機 能 ( 意 味 ) 部門

合 成 前 合 成 後 合 成 前 合 成 後

‘ 改 善 ( を す

る )’名 詞 名 詞 名 詞 的 動 詞 的

「改善」 と い う VN が 名 詞化さ れ る と 、当然外 項 を 持 つ VN で あ る か ら 外 項

は抑制さ れ る 。 し か し 、 軽 動 詞 と共起 す る と 、 同 定 に よ っ て抑制さ れ た 外 項

に相当す る 部 分 が補わ れ 、 通 常 の 文 の LCS と し て 機 能 す る こ と が で き る わ け

で あ る 。   こ の よ う な 軽 動 詞 の 機 能 に 関 し て 、多少 見方を変えて 、 軽 動 詞 は

機 能 的 に 名 詞 を 動 詞化す る 接 辞 の よ う な も の で あ る と 仮 定 し よ う 。

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<仮 定5>  軽 動 詞 は 、 機 能 的 に (事象 ) 名 詞 を 動 詞化す る 接 辞 で あ る 。

つ ま り 、端的 に言っ て し まえば 、 軽 動 詞 は 、 (38e) に 示 す よ う に 、 VN の 統

語範疇、 形 態範疇を変えず に 、 名 詞 の 意 味 機 能 だ け を 動 詞 の 意 味 機 能 に変え

る 接 辞 の よ う な も の な わ け で あ る か ら 、 い っ たん名 詞 が 動 詞 に な れ ば当然、

「 外 項 の抑制」 と い う 動 詞 派 生 名 詞 の独特 の 意 味 的 性質は な く な る と 説 明 で

き る 。

  ま た 、 機 能 的 に 接 辞 と 同 じ で あ る な ら 、 接 辞 の 「 機 能 」 に 関 す る既存の 原

理 が適用 で き る と い う こ と に な る 。 そ こ で 、 VN と 軽 動 詞 の LCS の 合 成 のパ

ターンに 影 山や Di Sciullo & Williams などで扱わ れ て い る 接 辞 の 項 の 合 成

の 原 理 を 応 用 し て み る 。 (38b) は 、 Di Sciullo & Williams   の 項 の 合 成法で あ る

が 、 彼 ら は 、 項 の 合 成 を functor と い う 概 念 を使っ て 説 明 し よ う と し て い る 。

functor で あ る 要 素 は 、 他 の 要 素 と の 項 のリンクが義 務 的 に 行 わ れ る 。 functor

で あ る か な い か は 語 彙 的 に 指 定 さ れ て い る 。 ま た 、 (38b) の 場 合 の よ う に 、

functor で あ る 語 が 、具体 的 に θ 役 割 を 持 っ て い る 場 合 、 合 成 さ れ る 語 と 語 の

同 じ 役 割 の 項 同士がコントロー ル 関係( 影 山 は こ の 関係を 同 定 と 呼 ぶ ) で 結

ば れ る 。 (38b) で は 、 functor   で あ る 「 -en」 と い う 接 辞 が 、 も と も と Theme

を 指 定 し て い る の で 、 合 成 の 際 に は 、 host と な る 語 の Theme とコントロ

ー ル 関係を 結 ぶ 。 こ の メ カ ニ ズ ム を LCS の 合 成 に も 応 用 す る 。 LCS の 場 合 は 、

項 自 体 が 意 味 役 割 を 持 っ て い る わ け で は な い の で 、 そ の ま ま 応 用 は で き な い 。

し か し 、 項 構 造 は 、 LCS の 構 造 に密接 に 関係し て い る訳で あ る か ら 、 項 構 造

を決め る 際 に 最 も大き く 関係し て く る 意 味 述 語 、 ま た は 意 味 述 語 の組み 合 わ

せの間で 同 定 と い う 操 作 が 行 わ れ る と 考える こ と に す る 。 (38b’) は 、 (38b) を

LCS に置 き 換 えた 例 で あ る 。 形 容 詞 sharp と 接 尾 辞 – en に は 、 意 味 述 語

BE-AT が共通 し て い る の で 、 こ の 部 分 が 同 定 さ れ 、 動 詞 sharpen の LCS を 構

成 す る 。

  軽 動 詞 構 文 の 場 合 は 、 軽 動 詞 が 、 functor で 、 軽 動 詞 の 意 味 述 語 と VN の 意

味 述 語 が 一致し た時の み 同 定 が 行 わ れ る こ と に す る 。 こ れ ま で の 観 察 か ら 、

軽 動 詞 「 す る 」 は 、 だ い た い (38c) の よ う な LCS を 持 っ て い る と 考えら れ 、 こ

れ が (38d) に 見 ら れ る よ う な 形 で 同 定 さ れ る と 考えら れ る 。 同 定 が 行 わ れ る た

め に は 、当然意 味 述 語 が 同 じ で な く て は い け な い訳で あ る か ら 、 VN と 意 味

述 語 の identity が 自 動 的 に保証 さ れ 、 軽 動 詞 構 文 を 構 成 し得る VN は 、感覚

以 外 の 意 味 の 、 上位事象 を LCS に 持 っ た VN に限ら れ る と言っ た VN と 軽 動

詞 の 意 味 的 な共起制限も 説 明 で き る 。

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  さ ら に 、 こ こ で提示 さ れ た 分 析 を使えば 、 項 構 造 を 持 た な い は ず の 単純事

象 名 詞 が 軽 動 詞 構 文 に な り う る と い う 現 象 も 説 明 が つ く 。 単 純 事 象 名 詞 も

LCS を 持 っ て い る の で 、 LCS の 合 成 に参加で き る 。 項 構 造 は 、 LCS の 構 造 を

も と に決定 さ れ る の で 、 単純事象 名 詞 の LCS   が 軽 動 詞 と の LCS と 合 成 さ

れ る こ と に よ り 、 full-fledged な も の に な り 、 項 構 造 を 持 つ こ と が で き る よ う な

る わ け で あ る 。 こ の こ と か ら 、 結局、 項 の 統 語 的具現義務性 は 、 ( 合 成 など

の 必 要 な 操 作 を受け た完全 な 形 で の ) LCS を参照し て 、 そ の well-formedness が

決定 さ れ る と言える だ ろ う 。

3.2 Grammatical Relations

で は 、 次 に Grammatical Relation ( 以下 G-relation) に つ い て 考えて み よ う 。 こ

の 次元で は 、 統 語 的 に具現 が義務的 な 項 の 数 、 項 の 文法関係を 指 定 す る 。 こ

こ で 、 ま ず 注 意 し な け れ ば な ら な い の は 、 軽 動 詞 構 文 に お い て は 、 意 味 的 な

項 ( 参 加 者 ) の 数 と 統 語 的 な 項 の 数 が 異 な る と い う こ と で あ る 。 例 えば 、

「 太 郎 が花子に連絡を し た 。 」 と い う 文 で 、 LSC で の変項 の 数 は 、 「 太 郎 」

と 「花子」 だ け で あ る が 、 統 語 的 な 項 の 数 は 、 SUBJ 、 OBLQ 、 OBJ の 3 つ で

あ る 。 し た が っ て 、 こ の不均衡を捉える た め に は 、 G-relation に お い て 、 ま た

独自 に 項 の 合 成 と い う 操 作 が 行 わ れ て い る と 仮 定 す る 必 要 が あ る だ ろ う 。

< 仮 定 6 > 軽 動 詞 構 文 は 、 G-relation に お い て 、 VN の 持 つ 項 と 軽 動

詞 の 持 つ 項 の 合 成 が 行 わ れ て い る 。

で は 、 そ の よ う な 合 成 の メ カ ニ ズ ム を 考えて み た い 。 次 の (39) の 文 を 観 察

さ れ た い 。

39) [NP ( そ の医者 の / に よ る ) 患者 の 検診 ] が始ま っ た 。

こ の 文 に お い て 、 「 そ の医者 」 と い う 句 は 、具現 が非義務的 で あ る 。 す な わ

ち 、 付加詞 で あ る 。 Grimshaw に よ れ ば 、抑制さ れ た 項 の 意 味 役 割 を担う 名 詞

句 は純粋な 項 で な く 、 付加詞 で あ る と言っ て い る 。 し た が っ て 、 G-relation で

は義務的 な 項 が 表 さ れ る の で 、 外 項 に当た る 要 素 、 SUBJ は G-relation で も抑制

さ れ る と い う こ と に な る 。

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< 仮 定 7 > 外 項 に あ た る 句 、 す な わ ち SUBJ は 、 G-relation で も抑

制さ れ る 。

こ の 仮 定 に よ り 、 名 詞 と VN の 、 統 語 部 門 、 G-relation に お け る 語 彙 情 報

の違い は 、 次 の (40) の よ う に 表 さ れ る 。

40) a. ‘ 検診 ’

syntax : V[0]

G-relation : <SUBJ, OBJ>

b. ‘ 検診 ’

syntax : N[0]

G-relation : <ø, OBJ>   ( ø = 抑圧さ れ た 要 素 )

  無 論 、 語 彙 情 報 は 、 上 の よ う な 統 語 的 な情 報 、 G-relation の情 報 以 外 に

も 、 形 態 的 な情報 、 意 味 的 な情 報などあ ら ゆ る情 報を含んで い る が 、 便

宜上 、 現 在の 議 論 に 必 要 な も の だ け を 示 す 。 他の い く つ か に 関 し て も 、

必 要 に 応 じ て 、 ま た 後ほど加えて い く 。

  次 に 、 軽 動 詞 「 す る 」 の 統 語 部門、 G-relation の 語彙情報を 示 す 。

41)     ‘ す る ’ (light verb)

syntax : V[0, SF4]

G-relation : <SUBJ, OBJ>

        functor

  上 で 述 べ た よ う に 、 軽 動 詞 構 文 で の 項 の 数 は 、 VN が も と も と潜在的 に取

れ る 数 と 軽 動 詞 自 身 が 取 れ る 数 の和 で決 ま る た め 、 VN と 軽 動 詞 の 間 で G-

relation の 合 成 が 起 こ る と 考えら れ る 。 合 成 を促す の は 、 軽 動 詞 の 語彙情報で

あ る 。 こ こ で も 先ほどの functor の 概 念 を利用 し て 、 軽 動 詞 の 「 す る 」 は 、 G-

relation に お い て functor で あ る と い う こ と を 、 (41) の よ う に 、 語彙情報に 指

定 し て い る こ と に す る 。 そ し て 、 VN と 軽 動 詞 は 、 次 の よ う に 合 成 さ れ る 。

42) ‘ 感謝 ’   ‘ す る ’ (light verb) “ (感 謝を )

す る ”

<ø, OBLQ> + <SUBJ, OBJ>   <SUBJ, OBLQ, OBJ>

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        functor

し か し 、 LCS の 合 成 の 場 合 と 異 な り 、 統 語 的 に は VN と 軽 動 詞 は 、複雑述 語

を 構 成 し な い た め 、 合 成 の 結果、 出 来 上 が っ た G-relation は 、 統 語 上 の 述 語

で あ る 軽 動 詞 の も の と な る と 考える べ き で あ ろ う 。

<仮 定8>合 成 さ れ た G-relation は 、 軽 動 詞 の も の と な る 。

で は 、 VN と 軽 動 詞 の G-relation が 合 成 さ れ て い る 証拠と し て 、 NPの G-

relation が大き く 関 わ っ て く る 軽 動 詞 構 文 の敬語化に 関 す る 現 象 を 見 て み よ う 。

43) a. 先 生 が 日 本 語 を ご 研 究 な さ る 。

b.* 太 郎 が 先 生方を ご誘導 な さ る 。

c. 先 生 が [NP 日 本 語 の ご 研 究 ] を な さ る 。 .

d.* 太 郎 が [NP 日 本 語 の ご 研 究 ] を な さ る 。 .

e.*池田 先 生 が [NP 太 郎 / 菅原 先 生 の 日 本 語 の ご 研 究 ] を な さ る 。

ま ず 、 (43a) と (43b) を 比 べ て欲し い 。尊敬語 の 形 態 素 の 「 ご~な さ る 」 は 、

敬 意 のター ゲット が SUBJ で な く て は な ら な い の で 、 敬 意 の 対 象 「 先

生 」 が 主 語 、 す な わ ち 、 SUBJ の時は適格 文 で 、 「 先 生 」 が 目 的 語 、 す な わ ち

OBJ の時は 、不適格 と な る 。 次 に (43c) と (43d) を 比 べ て み よ う 。今度は 軽 動 詞

構 文 の敬語化で あ る が 、 こ の 場 合 もやは り 、 SUBJ が敬意 の 対 象 で あ る時は 、

(43c) の よ う に適格 文 に な り 、 そ う で な い時は (43d) の よ う に非文 に な る 。 ま た 、

(43c) の 軽 動 詞 構 文 で は 、 VN と 「 す る 」 が 両 方 と も敬 語 化 を受 け て い る が 、

VN と 「 す る 」 が複雑述 語 を 成 し て い る か ら こ そ 、 VN の 主 語 も 「 な さ る 」

の 主 語 も 、両方と も 同 じ SUBJ をターゲットに す る こ と が 可 能 な の で あ る 。 し

た が っ て 、 (43e) の よ う に 、 「 ご 研 究 」 のターゲットを 、 軽 動 詞 のターゲット

で あ る SUBJ(= 池田 先 生 ) と違う SUBJ ( = 太 郎 / 菅原 先 生 ) に し た 場 合 、予想

通 り非文 に な る 。

  ま た 、 VN と 軽 動 詞 の 合 成 が 起 こ っ て い な い 場 合 、 VN は独自 の投射の中

で 主 語 を取り 、敬語化す る こ と が 可 能 だ と い う こ と が予測さ れ る が 、 こ の予

想が 正 し い こ と が 、 次 の (44a) 、 (44d) の 文法性 か ら 証 明 さ れ る 。

44) a. [NP 先 生 の 日 本 語 の ご 研 究 ] は 素晴ら し か っ た 。

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b. *[NP 太 郎 の 日 本 語 の ご 研 究 ] は 素晴ら し か っ た 。

c.*先 生 が [NP 日 本 語 の ご 研 究 ] を妨げる / を お妨げに な る 。

d. 太 郎 が [NP 先 生 の 日 本 語 の ご 研 究 ] を妨げる 。

ま た 、 先ほどの (43) で の 議 論 を さ ら に裏付 け る 証拠と し て 、 (44c) を 見 て い

た だ き た い 。 動 詞 「 妨 げる 」 は 軽 動 詞 で は な い の で 、 目 的 語 の 位 置 に あ る

VN と G-relation の 合 成 は 行 わ れ な い 。 し た が っ て 、 文 の 主 語 は 、 VN の 主 語

と 関係な い の で 、 主 語 が敬意 のターゲットで あ る の に 、敬語 の 形 態 素 「 ご 」

と 結 び 付 け ら れ ず 、非文 と な っ て い る 。

次 に 、 合 成 さ れ た G-relation は 、 軽 動 詞 の G-relation と な る訳で あ る か ら 、基

本 的 に 項 は 文 の 項 と し て 現 れ る は ず だ と い う こ と が 予 測 さ れ る 。 し か し 、

VN 自 体 が も と も と OBJ を 持 っ て い る 場 合 、 軽 動 詞 も OBJ を も と も と 持

っ て い る た め 、 2 つ の OBJ が存在す る こ と に な っ て し ま う 。 こ の こ と に 関

し 、 少 し 考えて み た い 。 次 に あげる 文 の違い を 観 察 さ れ た い 。

45) a.*太 郎 が花子を 頭 を殴っ た 。

b. 太 郎 が花子の 頭 を殴っ た 。

c.*そ の報告書が解決の方向を 示唆を し て い る 。

d. 解決の方向は そ の報告書が 示唆を し て い る 。

e. そ の報 告 書 が解 決 の方 向 は 示 唆 を し て い る が 、 解 決 の方 法 は

明 示

を し て い な か っ た 。

f. そ の報告書が解決の方向し か 示唆を し て い な い 。

46)     ' 示唆 ' ‘ す る ’

<ø, OBJi> + <SUBJ, OBJj> <SUBJ, OBJi, OBJj>

functor 軽 動 詞 か ら 付 与

2 つ の OBJ が そ の ま ま 実 現 さ れ る と 、 (45c) の よ う に非文 に な っ て し ま う 。 だ

が 、 こ れ は (45a) に 見 ら れ る よ う な 、 日 本 語 の 一 般 的 な 制 限 で あ る double o

constraint ( 二 重 対 格制限 ) 、 す な わ ち 、 二 つ のヲ格 が 同時に存在し て し ま っ た

た め に非文 と な る と 考えら れ る 。 し か し 、 こ の制限は 、 よ く知ら れ て い る よ

う に 、 何 ら か の方法で片方のヲ格 の使用 が避け ら れ れ ば逃れ ら れ る制限で あ

る 。 し た が っ て 、 (45d)(e) の よ う に 、 主 題 の 「 は 」 な り 、 比較の 「 は 」 な り

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を 用 い て 、片方のヲ格 の使用 を避け る と た ち ま ち適格 な 文 に な る 。 こ の よ う

な こ と もやは り 、 VN の 項 は 合 成 さ れ る と 、 文 の 項 に な っ て い る と い う こ と

を 示 す 。 文 の 項 で あ る な ら 、 文 の 要 素 、 す な わ ち S な り V な り に 直 接支配さ

れ た 要 素 と し て具 現 さ れ る の が 基 本 で あ る 。 で は 、 なぜ一 つ の 名 詞 句 だ け

VN を 主 要 部 と す る 名 詞 句 の中に 残 る の か と い う疑問 が 起 こ る が 、 こ れ に つ

い て は 次 節 で詳し く 説 明 す る 。

3.3 XP 編 入 分 析

  こ こ で は 、 軽 動 詞 の 統 語 構 造 に つ い て 考える 。 特 に 、 VN を 主 要 部 と す る

名 詞 句 の中に 名 詞 句 が 残 留 す る と い う 現 象 に つ い て詳し く調べ 、 そ の 原 理 を

解明 す る 。

3.3.1 VN を 主 要 部 と す る 名 詞 句 の中に 残 留 可 能 な 項 の 種 類 に 関 す る 考 察

で は 、 ま ず 残 留 可 能 な 句 に 関 す る 考 察 を し て み よ う 。 Grimshaw and Mester

(1988) は 、 VN が Theme と Goal の両方を取る と き 、 Goal に相当す る 名

詞 句 は 、 VN を 主 要 部 と す る 名 詞 句 の投射内 に 残 留 で き な い と言っ て い る 。

次 の 例 文 を 比較さ れ た い 。

47) a. NPAgent- が NPGoal- に NPTheme VN-を

す る

生徒 た ち が 先 生 に花束 だ け贈 呈 を し た 。 / 生 徒 達 が 先 生 に花 束

贈呈を し た 。

b. NPAgent- が NPGoal- に [NP NPTheme- の VN]- を す

  生徒た ち が 先 生 に [NP 花束の贈呈 ] を し た 。

c.??NPAgent- が [NP NPGoal- への NPTheme- の VN]- を す る

  生徒た ち が [NP 先 生ヘの花束の贈呈 ] を し た 。

d.*NPAgent- が NPTheme [NP NPGoal- への VN]- を   す る

  生徒た ち が 花束を [NP 先 生ヘの贈呈 ] を し た 。

こ れ は 、 い わ ゆ る 二 重 目 的 語 構 文 で あ る 。 上 で 述 べ た よ う に 、ヲ格 を 二 つ 持

つ と非文 に な っ て し ま う の で 、片方のヲ格 を 「 だ け 」 ま た は 、 比較の 「 は 」

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に変 える こ と に よ っ て使 用 を避 け る 。 (47a) が基 本 文 に な る が 、 ま ず は Theme

を取り込んで み る 。 す る と (47b) の よ う な 文 に な る 。 こ れ は 、 全 く 問 題 が な い 。

次 に 、 Goal と Theme の両方を取り込んで み る 。 す る と (47c) の よ う に許容度が

か な り落ち る 。 さ ら に今度は 、 Theme を VN を 主 要 部 と す る 名 詞 句 の 外 に 出

し 、 Goal の み を取り こんで み る 。 す る と (47d) の よ う に完全 な非文 に な る 。

  し か し 、 Goal は 常 に VN を 主 要 部 と す る 名 詞 句 の 外 に い な け れ ば な ら な い

訳で は な い 。 次 の 例 を 比較さ れ た い 。

48) a. 太 郎 がテレビ番組に投書を す る 。

a'.? 太 郎 が [NP テレビ番組への投書 ] を す る 。

b. 市民が政府に協力 を す る 。

b'. 市民が [NP 政府への協力 ] を す る 。

こ れ ら の 例 が 示 す の は 、 結 局 、 VN が Agent と Goal を と る two-place

predicate の 場 合 , Goal が VN を 主 要 部 と す る 名 詞 句 内 に 残 留 で き る と い う こ

と で あ る 。 こ れ は 、 Grimshaw & Mester の 分 析 で 見 た (2B) の 意 味 役 割 の 階 層 性

に 従 う と 、 Theme が あ る と き は Theme 、無い と き は Goal が 最 も 内側に

あ る ( innermost ) 内 項 、 す な わ ち 最 も 階 層 が低い 内 項 で あ る 。 従 っ て 、 VN

を 主 要 部 と す る 名 詞 句 内 に は 、 常 に 最 も 階 層 が低い 内 項 が 残 留 で き る と言え

る 。

し か し 、 Grimshaw and Mester 及 び 影 山 の 分 析 で は 、 なぜ一 つ の NPし か VN を

主 要 部 と す る 名 詞 句 内 に 残 留 で き な い の か と い う 理由、 そ し て根本 的 に なぜ

そ の よ う な 現 象 が 起 こ る 理由を 説 明 で き な い と い う 問 題 が 残 る 。 そ こ で 、 こ

の 問 題 を解決す る た め に 、 次 の 仮 説 を提案す る 。

<仮 説9>  軽 動 詞 構 文 で は 、 項 は 全 て 文 の 項 な の で 、基本 的 に VN を 主

要 部 と す る 名 詞 句 の 外 で具現 さ れ な け れ ば な ら な い が 、 内 項 は 、 XP編 入 と

い う 操 作 を 通 じ て VN を 主 要 部 と す る 名 詞 句 内 に取り こ ま れ て も良い 。

こ の 仮 説 を取り 入 れ る こ と に よ り 、 よ り世界言語 的 に 一 般 性 の 高 い 原 理 で 、

こ の 現 象 の 説 明 が つ く 。 こ の 仮 説 の 論 証 は 次 節 で 行 う 。

3.3.2 XP 編 入 vs. X[-0] 編 入

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で は 、 編 入 と い う 操 作 を 、 (49) の よ う に 一 般化し て み よ う 。

49) 編 入 に 関 す る 一 般化 :

編 入 と は 、 内 項 を 一 つ だ け 述 語 要 素 (Predicate) に取り込む操 作 で あ る 。

50) Proposition

Argument Predicate’

Argument Predicate

編 入 と は 、 こ の黒線の 操 作 が 、 構 造 的 に具現 さ れ た も の で あ る 。

こ の 操 作 が 統 語 部 門 で 具 現 さ れ た 場 合 は 、 統 語 操 作 の 最 小 単 位 は 通 常

XP で あ る た め (Saito 1985) 、 XP 編 入 (= Syntactic Incorporation) と な る 。 一 方 、

こ の 操 作 が 形 態 部 門 で具 現 さ れ た 場 合 は 、 形 態 部 門 で の 最 小 単位 は 通 常

X[-0] で あ る た め N[-0] 編 入 (= Morphological Incorporation : Head Movement in GB)

と な る 。 例 を あげて 見 て み よ う 。

51) a. Syntactic incorporation ( 注 : 実 際 に は移動 は含ま れ な い 。 )

S S

NP VP NP VP

NP VP

NP NP V Syntax NP N V

N

太 郎 が  英語 を   勉 強     す る   太 郎 が 英 語 の 勉 強

を   す る

Morphology

N[-0] N[-0] N[-0] V[-0] N[-0] N[-0] N[-0] V[-0]

b. Incorporation Metarule

Syntax: VP →  NP NP * V ⇒   VP →  NP * V

G-relation : (SUBJ, X*) ⇒(SUBJ, X*-1)

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c. Noun incorporation (Nisga; Mithun 1984)

( 注 : 実 際 に は移動 は含ま れ な い 。 )

(51a) は 、 統 語 的 編 入 の 例 で あ る が 、 こ の 場 合 、 形 態 構 造 に は 何 も 変 化が

起 こ っ て い な い 。 逆に 、 (51b) は 形 態 的 編 入 で あ る が 、 統 語 構 造 に は 何 も

変 化 が 起 こ っ て い な い 。 統 語 構 造 に お け る 、 こ の よ う な 再 構 成

(reconstruction) 的 なバリエーションは 、 (51b) の Incorporation Metarule の Syntax

の 部 分 で 認 可 さ れ る 。

  ま た 、 XP 編 入 は 、 軽 動 詞 構 文 に お い て 、 内 項 に あ た る G-relation を

一 つ抑 制 す る 操 作 で あ る 、 す な わ ち 、 編 入 が お こ る と 文 の G-relation の

中 か ら 内 項 に当 た る も の ( 通 常 OBJ 、 OBJ が な い 場 合 い は OBL ) が 一

つ減 る 操 作 で あ る と い う こ と で あ る 。 こ れ は 、 次 節 で 見 る 編 入 に 関 わ る

一 般 原 理 に 通 ず る と こ ろ で あ る が 、 (51b) の よ う に 、 G-relation に適 用 さ れ

る Metarule と し て 表 さ れ る 。

  次 節 で は 、 こ の XP分 析 を支持 す る 証拠を 見 て 行 く 。

3.3.3 XP 編 入 分 析 を支持 す る 証拠

  そ れ で は 、 編 入 に 関 す る 一 般 的 な 原 則 を 、 こ れ ま で の 様 々 な言語 に お

け る 研 究 を引 用 し な が ら 見 て 行 き た い 。 そ し て 、 軽 動 詞 構 文 の VN を 主

要 部 と す る 名 詞 句 内 への 残 留 と い う 現 象 と の 類 似 性 と い う 観 点 か ら 、 前

節 で提示 し た 分 析 の妥当性 を 証 明 す る 。

 第一 に 、 Baker(1988), 影 山 (1993) 等 は 、 編 入 の 一 般 的 特徴と し て 、 内 項 の み

が 編 入 を受け る と言う が 、 影 山 の 分 析 で は 、 軽 動 詞 「 す る 」 が VN に 内 項 の

意 味 役 割 を 与えら れ な い の で 、 内 項 を 編 入 し て い る こ と に は な ら な い 。 一方、

こ こ で提示 さ れ て い る XP編 入 分 析 で は 、 こ の こ と は 、 (49) の 一 般化か ら 正 し

く予測さ れ る 。

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  第 二 に 、 Mithun (1984) は 、 編 入 を 含 む 文 は 、 編 入 を 含 ま な い

COUNTERPART が存在す る と言っ て い る 。 次 の 例 を 比較さ れ た い 。

52) Koryak ( Mithun 1984 )

a. tiqoyanmátekin 'I-reindeer-slaughter' (a noun incorporated)

b. tinmékin qoyáwge 'I-slaughter reindeer.' (a noun not incorporated)

(52a) で は 、 直 接 目 的 語 が 動 詞 に 編 入 さ れ て い る が 、 (52b) に 示 す よ う に 、 直 接

目 的 語 が 編 入 さ れ て い な い 形 も存在し て い る 。 こ の よ う に 、 編 入 を含む構 造

は 、 編 入 を 含 ま な い 場 合 の 構 造 が 通 常 存 在 す る の で あ る 。 し か し 、 影 山 、

Terada (1990) の 分 析 で は 、 非 対 格 VN ( = 影 山 ) 又 は Agent を 取 ら な い

VN ( = Terada ) の 場 合 、義務的 に 編 入 が 行 わ れ る が 、 COUNTERPART と な る 軽

動 詞 構 文 は な い の で 、 こ の 一 般化に反す る こ と に な っ て し ま う 。 一方、 こ こ

で提示 さ れ て い る 分 析 で は 、 本 来 文 の 項 と し て具現 さ れ て い る も の を 、 VN

を 主 要 部 と す る 名 詞 句 内 に取り込むと捉える た め 、 前 節 で 見 た よ う に 、 目 的

語 が VN を 主 要 部 と す る 名 詞 句 内 に取り込ま れ て い る 形 と 、取り こ ま れ て い

な い 形 が あ る 。 し た が っ て 、 こ の 一 般化に 従 っ て い る と言える 。

 第三 に 、 名 詞 編 入 は 、 Valence を 一 つ減ら す 操 作 で あ る と い う こ と が Mithun

に よ っ て 指 摘 さ れ て い る 。

53) Niuean (Baker 1988).

a. Volu nakai he tau fánau e fua niu?

grate Q Erg-Pl-children Abs-fruit coconut

'Are the children grating (the fruit of the) coconut?'

b. Volu niu nakai e tau fánau?

grate coconut Q Abs-Pl-children

'Are the children grating coconut?’

上 の 例 で は 、 niu ‘coconut’ と い う 項 一 つ だ け が 、 述 部 volu ‘grate’ に取り こ ま れ

て い る 。 従 っ て 、 文法的 で あ る 。 し か し 、 二 つ 以 上 の 項 が 編 入 さ れ る と 次 の

(54b) の よ う に非文 に な る 。

54) Southern Tiwa (Baker 1988)

a. Ta-'u'u-wia-ban hliawra-de.

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1s:A/A-baby-give-past woman-Suf

'I gave the woman the baby.'

b.*Ta-hliawra-'u'u-wia-ban.

1s:A/A-woman-baby-give-past

'I gave the woman the baby.'

こ れ は 、 前 節 の (45) 、 (48) 、 (51) と (47c) の間に 見 ら れ た違い で あ り 、 軽 動

詞 構 文 に も共通 す る 特徴で あ る 。

 第四に 、 Baker に よ れ ば 、 与 格 を 与える 二 重 目 的他動 詞 は 、 与 格 目 的 語 を

編 入 し な い と言う 。

55) Southern Tiwa (Baker 1988)

.*Ta-hliawra-wia-ban.

1s:A/A-woman-give-past

'I gave the woman him.'

こ れ もやは り 、 (47d) で 見 た よ う に 、 軽 動 詞 構 文 に も共通 す る 特徴で あ る 。

次 に 、 Sadock (1991) に よ っ て 観 察 さ れ て い る 編 入 を含む構 造 の 一 般 的 特

徴を 考えて み た い 。

  ま ず 一 つ 目 と し て 、 Sadock は 、 名 詞 編 入 を含む節 は 、 編 入 さ れ た 名 詞 と 同

じ 統 語 的 機 能 を 持 つ 要 素 と共起 す る こ と が 出 来 な い と言う 。 こ れ は 、 編 入 の

起 こ っ て い る 軽 動 詞 構 文 で は 、 述 語 の 外 に 直 接 目 的 語 を取る こ と が で き な い

と い う 現 象 と 一致し て い る 。 次 の 文 を 比較さ れ た い 。

56) a. 太 郎 が [ 英語 の 勉 強 ] を し た 。

b. 太 郎 が英語 だ け   [ 勉 強 ] を し た 。

c. 太 郎 が 文法だ け   [ 勉 強 ] を し た 。

d.* 太 郎 が 文法だ け [ 英語 の 勉 強 ] を し た 。

(56b) と (56c) に 見 ら れ る よ う に 、 「 英 語 」 と言 う 語 も 、 「 文 法 」 と い う 語

も 、 どち ら も 単 独 で は 「 勉 強 」 と い う 述 語 の 直 接 目 的 語 と な り 得る が 、

(56b) の よ う に 、 「 英語 」 と い う 直 接 目 的 語 を 編 入 し た 上 に 、 さ ら に 「 文

法」 と言う 語 を 目 的 語 と し て具現 す る こ と が で き な い 。

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  そ し て 、 二 つ 目 の 特徴と し て 、 編 入 が 起 こ っ た時、 編 入 さ れ た 要 素 に 付随

し て い た 要 素 は 、取り 残 さ れ た ま ま に な る と言う 。 こ れ は 、 編 入 前 に 名 詞 が

伴っ て い た 形容詞 、 関係節 、所有詞 などは 、 そ の ま ま 述 語 の 外 に取り 残 さ れ

る と い う こ と で あ る 。 し か し 、 XP編 入 は 、 NPを ま る ご と 編 入 す る も の な の で 、

形容詞 、 関係節 、所有詞 などを取り 残 す こ と は で き な い 。 従 っ て 、 NPの投射

の 外 に 現 れ て 名 詞 を修飾す る 要 素 で あ る 数量子 (quantifier) の振舞い か ら 考えて

み た い 。 次 の 文 を 比較さ れ た い 。

57) a. 太 郎 が [ 三 通 の [NP 公的 な書類 ]] を 作 成 し た 。

b. 3 通 i 太 郎 が [ti [NP 公的 な書類 ]] を 作 成 し た 。

c.*3 通 i 太 郎 が [NP[ti [NP 公的 な書類 ]] の 作 成法 ] を教わ る 。

58) a. 太 郎 が   [NP [ 三 通 の [NP 公的 な書類 ]] の 作 成 ] を し た 。

b. 3 通 i 太 郎 が [NP [ti[NP 公的 な書類 ]] の 作 成 ] を し た 。

c.*3 通 i 太 郎 が [NP [ti[NP 公的 な書類 ]] の 作 成 ] を断っ た 。

日 本 語 で は 、 名 詞 の投 射に 現 れ る 要 素 だ け が 、 「 の 」 格 を 伴う こ と が で

き る と い う こ と が知ら れ て い る が 、 (57a) の 文 で は 、 数 量子 「 三 通 」 が

「 の 」 格 を伴 っ て い る の で 、 「 公 的 な書 類 」 と言 う 構 成 素 を修 飾し て 名

詞 句 の投 射に 現 れ て い る こ と は 明 ら か で あ る 。 こ の 数 量 子 は 、 (57b) の よ

う に 、 名 詞 句 か ら 分 離 し 、 スクランブリングを 経 て 、 文 頭 に 来 る こ と が

で き る 。 し か し 、 (57c) の よ う に 、 そ の 名 詞 句 が 、 数 量 子が 分 離 さ れ た状

態 の ま ま 、 別 の 名 詞 句 の中 に取 り込 ま れ る と 、 非 文 に な っ て し ま う 。 一

方、 全 く 同 じ 操 作 を 軽 動 詞 構 文 で 行 っ て み る と 全 く逆 の 結 果が得ら れ る 。

軽 動 詞 構 文 で は 、 名 詞 句 が 数 量 詞 を 分 離 し た ま ま VN の投 射の中に取り

込ま れ て も 、 (58b) の よ う に 全 く 問 題 が な い 。 こ れ は 、 軽 動 詞 構 文 が 、 XP

編 入 を含 んで い る と い う 証 拠で あ る 。 名 詞 句 が 、 そ れ を修 飾し て い る 数

量詞 を取 り 残 し た ま ま 、 VN を 主 要 部 と す る 名 詞 句 内 に取り込ま れ て い

る 、 す な わ ち 、 Sadock の言 う 二 つ 目 の 編 入 を含 む構 造 の 特 徴 に 合 致 し て

い る か ら で あ る 。 当然 、 主 動 詞 が 軽 動 詞 で な い 場 合 に は (58c) の よ う に非

文 に な る 。

  Sadock は 、 三 つ 目 の 特徴と し て 、 編 入 に よ っ て取り 残 さ れ た 要 素 は 、 そ の

言語 に お い て 通 常 で は有り得な い 統 語 構 造 を 持 つ こ と が あ る と言っ て い る 。

こ れ は 、 再 び (58b) の 文 を 見 て い た だ き た い 。 こ の よ う な 構 造 が許さ れ る の は 、

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軽 動 詞 構 文 の 場 合 だ け で あ っ た 。 し た が っ て 、 軽 動 詞 構 文 は 、 こ の 点 に お い

て も 一 般 的 な 編 入 を含む構 造 と平行 し た振舞い を 見せて い る の で あ る 。

  こ の よ う に 、 軽 動 詞 構 文 に お い て 、 VN を 主 要 部 と す る 名 詞 句 内 に 、 あ る

種 の 名 詞 句 が 残 留 す る と い う 現 象 は 、 あ ら ゆ る面で 編 入 一 般 に 関 わ る 原 理 に

従 っ て い る と い う こ と が わ か っ た 。 本 論 で提示 さ れ た 、 軽 動 詞 に お け る VN

句 内への 名 詞 句 残 留 の 現 象 を XP編 入 と し て捉える 分 析 は 、 そ の よ う な 意 味 で

非常 に 一 般 性 の 高 い 分 析 で あ る 。 「 VN す る 」 構 文 で は な く 、 軽 動 詞 構 文 に

お い て OVERT に 編 入 と い う 現 象 が 起 こ っ て い る と 分 析 し て い る 研 究 者 はほと

んど皆無で あ る 。唯一 、 影 山 だ け は 、 「 VN す る 」 構 文 だ け で な く 、 軽 動 詞

構 文 に も 編 入 が 起 こ っ て い る と 分 析 し て い る が 、 軽 動 詞 が VN と そ の 内 項 を

ま と め て抽象 的 なレベル で 編 入 す る (抽象 編 入 ) と い う 、 こ こ で提示 さ れ た

分 析 と は大き く こ と な る 分 析 で あ り 、当然、 こ の 節 で 考 察 さ れ た 様 々 な 編 入

の 一 般 的 特徴に 合致し な い 点 が多い 。 し た が っ て 、 本 論 で提示 し た 分 析 の方

が 、 影 山 の 分 析 よ り も 、普遍性 に富み 、 か つ 説 明 的妥当性 も 高 い 分 析 で あ る

と言えよ う 。

4. 結 論

結局、 軽 動 詞 構 文 と い う の は 、 動 詞 が 名 詞化す る こ と に よ っ て抑制さ れ て

し ま っ た 部 分 を 、 機 能 的 接 辞 で あ る 軽 動 詞 を 付加す る こ と に よ り復活させ、

再 び 述 語 と し て 主 語 を取っ て 機 能 で き る よ う に す る と い う 操 作 の 結果で き あ

が っ た 構 文 と 考える こ と が で き る 。 ま た こ こ で提示 さ れ た 統 語 的 編 入 と い う

分 析 に よ り 、抽象 的 編 入 よ り も 一 般 性 の 高 い 原 理 で 残 留 可 能 な 項 に 関 す る 説

明 が得ら れ る 。 ま た 、過去の 研 究 者 に よ る 分 析 の 様 々 な 問 題 点 が解決さ れ る 。

例えば 、 2.2 で 指 摘 し た 影 山 の 分 析 の 問 題 点 を 一 つ 一 つ 考えて み よ う 。

  ま ず 、 も と も と 対 格 を 付 与 す る 能 力 が な い VN で も 軽 動 詞 構 文 に 現 れ得る

( = 9 ) と い う 問 題 は 、 本 分 析 で は 、 上位事象 を 持 つ事象 名 詞 で あ れ ば 、 ス

ル の LCS と 同 定 が で き る の で 、 現 れ る こ と が で き る 。

  ま た 、非対 格 文 に お い て 、 ス ル が 、ガ格 が 付 与 す る 能 力 を受け継ぎ、 VN

にガ格 を 与えて し ま う ( = 10 ) と い う 問 題 に 関 し て は 、 本 分 析 で は 、 軽 動 詞

は SUBJ と OBJ を下位範疇化し て い る の で 、 (10b) の 様 な SUBJ と OBJ

の両方が存在し な い 文 は 自 動 的 に排除さ れ る 。

  次 に 、 影 山 は 、 軽 動 詞 構 文 の 主 語 は 、 Experiencer を含む、 「 外 項 」 を 持 つ 動

詞 で な く て は な ら な い と い う が 、 実 際 に は Experiencer で も 軽 動 詞 構 文 に 現 れ得

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な い も の が あ る (= 11-13) た め 、 本 論 で は 、 LCS に CAUSE ま た は

CONTROL を含むも の の み が 軽 動 詞 構 文 に な る と 定義し 、 そ れ ら の違い を捉え

る 。

  ま た 、 も し 影 山 の 言 う よ う に 、 実 際 に 抽 象 的 編 入 が 起 こ っ て い る な ら 、

VN と 軽 動 詞 の間に副詞 などの 統 語 的 要 素 の 介 入 を許さ な い こ と が予測さ れ

る が 、 実 際 に は 可 能 で あ る (= 15) と い う 問 題 が あ っ た が 、 本 分 析 で は 、 軽 動

詞 構 文 は 、 意 味 的 に は連続体 で あ っ て も 、 統 語 的 に は非連続体 な の で副詞 介

入時の 文法性 は予測で き る 。

  さ ら に 、 影 山 の 分 析 で は 、 VN を 主 要 部 と す る 名 詞 句 は独自 の投射 (VNP)

を 持 つ が 、 なぜそ の中に VN の 主 語 に あ た る 句 が 現 れ る こ と が で き な い の か

説 明 で き な か っ た が (= 16)、 本 分 析 で は 、 軽 動 詞 と VN の 外 項 が 同 定 し て複

雑述 語 を 成 し 、 そ の 外 項 は 文 全 体 の 主 語 と な る た め 、 名 詞 句 内 に は 現 わ れ得

な い 。

  そ し て 、 も し 影 山 の言う よ う に 、 軽 動 詞 構 文 に お い て は 、 常 に 本当に抽象

的 編 入 が 起 こ っ て い る な ら 、 NPと VN と 軽 動 詞 、 あ る い は VN と 軽 動 詞 が 常

に 構 成 素 を 成 し て い る は ず で あ る か ら 、 NP+ VN と い う 部 分 だ け を移動 す る

こ と が不可 能 で あ る と い う こ と を予測す る が 、 実 際 に は 「 の 」 格 の 場 合 は適

格 で 、 対 格 の 場 合 は不適格 で あ る 。 (= 17)こ れ は 、 本 分 析 で は 、 前 者 は 内 項 と

VN が 構 成 素 を 成 し て い る の で 可 能 で 、 後 者 は 、 そ れ ら が 構 成 素 を 成 し て い

な い の で不可 で あ る と 、既存の 原 理 で無理 な く予測さ れ る 。

  ま た さ ら に 、 編 入 は 統 語 部 門 で 行 わ れ る と 言 う 影 山 の 主 張 に 従 う と 、

「 VN す る 」 が 「時、 際 」 などの あ る 種 の 語 を 従えて 現 れ た と き 、 「 VN 」

と 「 す る 」 なぜ音韻的 に 二 語 の振る舞い を す る の か 説 明 で き な く な る が (=

19) 、 こ れ は 、 統 語 部門の output を音韻部門の input と す る よ う な 文法部

門の 直列的 な配置に よ っ て 問 題 が 生 じ る の で あ っ て 、音韻部門と 統 語 部門は

独立 し て平行 的 に存在す る と す る と 仮 定 す る こ と に よ っ て回避さ れ る 。 ( cf.

前 社 長 HL-LHH, フ ラ ン ス 旅 行 LHHH-HLL LHHH-LHH⇔ フ ラ ン ス 旅 行 中

LHHH-LHH-HH ) 本 分 析 で は 、音韻部門の 表 示 は扱わ な か っ た が 、 (51) で み た

統 語 部門と 形 態 部門の 表 示 の よ う に 、 文法部門は基本 的 に 全 て並列に存在す

る と 仮 定 し て い る 。

  ま た 、 Matsumoto 分 析 で は 、 VN の 項 が 三 つ あ る 場 合 に 、 そ の う ち の 2 つ が

VN 句 内 に 残 留 し た 構 造 も 可 能 で あ る と言う こ と を予測す る VN の 項 が 三 つ

あ る 場 合 に 、 そ の う ち の 2 つ が VN 句 内 に 残 留 し た 構 造 も 可 能 で あ る と言う

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こ と を予測し て し ま う と い う 問 題 点 が あ っ た が 、 本 分 析 に お い て は 、 編 入 の

一 般 的 原則に よ っ て 説 明 が つ く 。

本 論 で は 、 「 VN す る 」 構 文 の VN は 、純粋な 動 詞 で完全 な LCS を 持 つ の

に 対 し て 、 軽 動 詞 構 文 の VN は 名 詞 で 、 名 詞化に よ り 機 能 の 一 部 が抑制さ れ

た不完全 な LCS を 持 つ と 仮 定 し た が 、 軽 動 詞 構 文 と 「 VN す る 」 構 文 の 意 味

上 の 類 似 性 は 、 結局、 軽 動 詞 構 文 の VN +軽 動 詞 の 合 成 さ れ た LCS と 「 VN

す る 」 構 文 の VN が 、 結局は 同 じ LCS を 持 つ こ と と い う こ と か ら 自然に 説 明

が つ く 。 し た が っ て 、 VN の 軽 動 詞への 編 入 と い う 操 作 を 用 い な く て も両者

の 関連は捉えら れ得る 。

ま た 、 軽 動 詞 構 文 か ら 編 入 を 用 い て 「 VN す る 」 構 文 を 派 生 す る 仮 説 は 、

大き な 問 題 を含んで い る 。 例えば 、 日 本 語 で は 、ほとんど全 て の VN が 軽 動

詞 に 編 入 可 能 な の に 対 し 、 軽 動 詞 構 文 は 、 あ る 種 の 意 味 的 特徴を 持 っ た VN

に限ら れ る 。 こ の よ う な 、 Marked な 構 造 か ら 、 Unmarked な 構 造 を 派 生 す る と

い う 考え方は根本 的 に 説得力 に欠け る 。 本 分 析 で は 、基本 的 に両者 は 別 の 構

造 で あ る と 認識し て い る た め 、 そ の 様 な不自然さ は な い 。

影 山 ( 1996 ) は英語 の 軽 動 詞 構 文 に お い て 軽 動 詞+派 生 名 詞 の 目 的 語 が 全

体 と し て複雑述 語 を 構 成 す る と い う 分 析 を提案し て い る が 、 上 で提案さ れ て

い る よ う な 、 派 生 名 詞 の 概 念 構 造 の変化、 及 び 軽 動 詞 自 体 の 概 念 構 造 を設定

し て 、両者 を 合 成 す る と い う メ カ ニ ズ ム ま で は 述 べ ら れ て い な い 。 ま た 、 影

山 は 日 本 語 に 関 し て は 「 VN す る 」 構 文 、 お よ び 「ひと V す る 」 (e.g. ひと泳

ぎす る ) の み の言及 に 留 ま っ て い る 。 こ こ で の 分 析 は 、 軽 動 詞 構 文 の が 現 れ

る 原 理 の解明 に貢献し て い る と言う 点 で 、過去の 研 究 者 達 の 分 析 を さ ら に 進

め た も の で あ る と言える 。

References

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