Ⅲ 水稲の土づくりと施肥対策 -...

22
- 74 - 水稲の土づくりと施肥対策 地力窒素と施肥 1) 地力窒素の多少と施肥の工夫 水稲が吸収する窒素の約半分は地力によって賄われるので、地力窒素の多少が水稲の生 育に及ぼす影響は大きく、一般に、肥沃な水田は中干し等による地力窒素の制御が、そし て、痩地は地力窒素レベルの向上が課題となる。 一部の重粘土水田や下層泥炭土水田および転作跡地や堆肥の大量投入水田では、地力 窒素の無機化量が多く、基準量の基肥を施用すると激しい倒伏を招く場合があり、基肥 量の削減や表層施肥等が必要となる。 一方、砂質や礫質の浅耕土圃場では、地力窒素の無機化量と保肥力が小さく、通常の 速効化成体系では、肥効変動が大きい。こうした水田は、根本的な地力向上対策(稲わ ら+石灰窒素の徹底や堆肥等の施 用)を必要とするが、施肥面でも、 基肥の位置を深くしたり、中間肥 や実肥を含むきめ細かい分施等の 工夫が必要で、施肥量の増加も避 けられない。 また、近年、各種の緩効性肥料 が市販されているので、地力窒素 の底上げや分施労力の軽減等目的 に応じて溶出期間の異なる肥料を 活用したい(底上げに持続期間が 3~4か月タイプを、基肥に2~3か月タイプの混合品、穂肥に1か月タイプの混合品 等)。 水稲の基肥量は、その地区毎におおよその量が経験的に知られているが、一般に、粘 土含量・腐植含量・水もち・灌漑水中の窒素濃度・畑転換中の乾燥程度等の要因強度が 強くなったり、重複要因が多い程、施肥量を減らす必要がある。 この逆に、砂質の漏水田等では施肥量を多く必要とするが、このうち地力窒素の発現 量が水稲の生育に与える影響は大きいので、その予測法の確立が望まれている。 2)地力窒素の予測 現在のところ、春または秋に生土を採取し、 30℃恒温培養を一定期間継続する方法が 一般的であり、4週間や10週間後に無機化する アンモニア態窒素量は、幼穂形成期や成熟期 の窒素吸収量と高い相関を示す。 3)窒素の形態と肥効 土壌肥沃度と地力窒素の無機化量

Upload: others

Post on 15-Nov-2020

3 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: Ⅲ 水稲の土づくりと施肥対策 - maff.go.jp...の注意(p121参照)が必要である。 耕耘回数と水稲N吸収 量 0 2 4 6 8 10 12 5~7 2~4 1~2 (回)

- 74 -

Ⅲ 水稲の土づくりと施肥対策

1 地力窒素と施肥

1) 地力窒素の多少と施肥の工夫

水稲が吸収する窒素の約半分は地力によって賄われるので、地力窒素の多少が水稲の生

育に及ぼす影響は大きく、一般に、肥沃な水田は中干し等による地力窒素の制御が、そし

て、痩地は地力窒素レベルの向上が課題となる。

一部の重粘土水田や下層泥炭土水田および転作跡地や堆肥の大量投入水田では、地力

窒素の無機化量が多く、基準量の基肥を施用すると激しい倒伏を招く場合があり、基肥

量の削減や表層施肥等が必要となる。

一方、砂質や礫質の浅耕土圃場では、地力窒素の無機化量と保肥力が小さく、通常の

速効化成体系では、肥効変動が大きい。こうした水田は、根本的な地力向上対策(稲わ

ら+石灰窒素の徹底や堆肥等の施

用)を必要とするが、施肥面でも、

基肥の位置を深くしたり、中間肥

や実肥を含むきめ細かい分施等の

工夫が必要で、施肥量の増加も避

けられない。

また、近年、各種の緩効性肥料

が市販されているので、地力窒素

の底上げや分施労力の軽減等目的

に応じて溶出期間の異なる肥料を

活用したい(底上げに持続期間が

3~4か月タイプを、基肥に2~3か月タイプの混合品、穂肥に1か月タイプの混合品

等)。

水稲の基肥量は、その地区毎におおよその量が経験的に知られているが、一般に、粘

土含量・腐植含量・水もち・灌漑水中の窒素濃度・畑転換中の乾燥程度等の要因強度が

強くなったり、重複要因が多い程、施肥量を減らす必要がある。

この逆に、砂質の漏水田等では施肥量を多く必要とするが、このうち地力窒素の発現

量が水稲の生育に与える影響は大きいので、その予測法の確立が望まれている。

2)地力窒素の予測

現在のところ、春または秋に生土を採取し、30℃恒温培養を一定期間継続する方法が

一般的であり、4週間や10週間後に無機化する アンモニア態窒素量は、幼穂形成期や成熟期

の窒素吸収量と高い相関を示す。

3)窒素の形態と肥効

土壌肥沃度と地力窒素の無機化量

Page 2: Ⅲ 水稲の土づくりと施肥対策 - maff.go.jp...の注意(p121参照)が必要である。 耕耘回数と水稲N吸収 量 0 2 4 6 8 10 12 5~7 2~4 1~2 (回)

- 75 -

4)代かき程度や中耕と地力窒素の発現量

乾田直播田の地力窒素発現量が少ない要因の一つに、代かき行程のないことが考えら

れる。

上図に示すように、代かき時の土塊が粗い程、地力窒素の発現が少ないので、転作大

豆跡等、過大な地力窒素の発現が予測される時には、除草剤の散布や田植作業に影響の

ない範囲で、できるだけ粗い砕土を心掛ける(とろとろまでの練り返しをさける)。ま

た、中耕等の土壌撹拌は、地力窒素の発現や地温の上昇を促すので、生育の劣る圃場で

は、除草を兼ねた機械中耕を行うのが望ましい。

5)地力窒素と倒伏

地力窒素発現量が多いほど幼穂形成期における窒素吸収量が多くなり、一定量を越え

ると倒伏が激しくなる。地力窒素の潜在量は植え付け前にある程度決まっているので、

水稲が倒伏するか否かは、初めから決まっているとも言える。

特に、大麦や大豆等転作作物跡地では、土壌の窒素供給力が大幅に高まるため、種々

の注意(p121参照)が必要である。

耕耘回数と水稲N吸収

0

2

4

6

8

10

12

5~7 2~4 1~2 (回)

N 吸 収 量 g / ㎡

成熟期 幼穂形成期

土壌の状態と土壌窒素供給力

0 2 4 6 8

10 12 14

代かき状 土塊状

NH

4

-N

mg/

100

g 10週値 4週値

Page 3: Ⅲ 水稲の土づくりと施肥対策 - maff.go.jp...の注意(p121参照)が必要である。 耕耘回数と水稲N吸収 量 0 2 4 6 8 10 12 5~7 2~4 1~2 (回)

- 76 -

6)地力の違いと稲体窒素吸収パタ-ン(基肥N3kg+穂肥N3kg、コシヒカリ)

下図に地力窒素の発現量の違いと稲体窒素吸収の模式図を示した。

輪換田の窒素供給力の変化

0

2

4

6

8

10

4 月 4W 4 月 10W 10 月 4W 10 月 10W

-N生

成量

mg/

10g

転換田 連続田

NH

地力窒素と稲体窒素吸収

量 (無肥料栽培、コシヒカリ)

0

2

4

6

8

10

0 2 4 6 8 10 12 湿潤土30℃・4週間 NH 4 -N生成量 mg/100g

g/

倒伏3> 倒伏3<

Page 4: Ⅲ 水稲の土づくりと施肥対策 - maff.go.jp...の注意(p121参照)が必要である。 耕耘回数と水稲N吸収 量 0 2 4 6 8 10 12 5~7 2~4 1~2 (回)

- 77 -

7)地力の違いと管理対策 低地力水田 地力中庸水田 高地力水田

症 生育不足 収量減 幼穂形成期の葉色3.5 倒伏甚大(コシヒカリ)

登熟期の栄養不良 倒伏程度3(中)以下 乳白粒、青未熟粒の多発

状 玄米品質の悪化 高品質米生産

土づくりにより地力を高

める

石灰窒素10kg/10a 耐肥性品種の導入

対 ・深耕 基肥N3kg/10a コシヒカリ:

・土づくり資材 穂肥N3kg/10a 減肥

・堆肥施用 基肥の肥効が切れやすい施

肥位置

・石灰窒素 20kg/10a 弱めの中干し ・側条施肥

策 肥料の分施回数を増やす ・植代後施肥等

緩効性肥料等の利用(全層

施肥)

田干し(中干し無し) やや強めの中干し

2 生わらの分解と生育抑制

生わらは、前年秋~春先にかけての腐熟が劣ると、生育初期の急激な分解に伴い、施肥

窒素の競合(水稲との奪いあい)や有機酸の生成による生育抑制がおこる。また、水稲の

生育と直接の関係はないが、メタンガス(メタンは二酸化炭素に比べ、21倍の温室効果

がある)が増加するので、今まで以上に腐熟対策に留意する必要がある。(レンゲの鋤き

込みも同様なので、3週間程度の腐熟期間をおく)

3 中干しの効果 下表から中干しにより地力窒素発現量が減少すると考えられる。

落水とアンモニア態窒素の変化(大向) (mg/100g)

対照田 排水田

6/15 6/29 7/13 7/29 6/15 6/29 7/13 7/29

無 窒 素 2.59 1.79 1.39 0.63 2.8 0.52 0.42 1.27

標 準 10.43 8.45 1.71 1.07 15.00 0.90 0.97 1.12

土地改良 10.28 8.04 1.55 1.17 12.66 5.97 1.30 0.93

注 排水区は7月2~13日、地下水位30cmに排水

Page 5: Ⅲ 水稲の土づくりと施肥対策 - maff.go.jp...の注意(p121参照)が必要である。 耕耘回数と水稲N吸収 量 0 2 4 6 8 10 12 5~7 2~4 1~2 (回)

- 78 -

4 玄米の食味値と止葉窒素濃度

水稲の止葉窒素濃度が高まると、玄米中の蛋白質濃度が高まりやすい。

各地区の土壌タイプ(土壌の窒素肥沃度)により、穂肥の適量が異なるので、葉色計(S

PAD-502)等を活用して、地域に合った施肥配分や、緩効性肥料(有機質肥料も緩

効性肥料)の活用により、止葉の窒素濃度を穏やかに保つことが必要である。

先の基肥診断の項の他に黒泥土壌・泥炭土壌等は、圃場の窒素肥沃度が高いので、やや

基準量より窒素施用量を減らすことができる。

一方、砂質の漏水田等窒素肥沃度の低い圃場は、多肥となり易いので、客土等根本的対

策を必要とするが、当面は緩効性肥料を導入して肥料の流亡を防ぎ、綺麗な熟色(黄金色)

を得るよう努める。

5 おいしい米をめざす施肥のポイント

従来の施肥基準は、土づくり等で圃場間の地力差を縮めることを前提に作成され、その

上、各農家も経験的な圃場の癖に応じて施肥の工夫を重ねてきた。

近年、土づくりの意欲低下等から圃場間の地力差が拡大方向にあるにもかかわらず施肥

法が画一化し、異常気象に弱くなっていることが懸念される。

客土等根本的対策を取る事なく、営農的に可能な土づくり対策と施肥の工夫で適正な生

育を得ることが、良質米の安定生産にとって緊急の課題となる。

中でも、圃場の保肥・保水力と地力窒素の高低が品質・食味に及ぼす影響が大きいので、

地力を適度に高め、肥効の急激な上下を防ぐことが重要である。

[施肥のポイント]

(1) 土壌の保肥力を高め、緩やかで安定した肥料の吸収を進める。

(2) 地力窒素を適度に高め、出穂直前の多肥を避ける。

(3) 極端な穂肥や実肥の施用をしない(合計窒素量3.0~5.0kg迄)

(4) 基肥の施肥法や追肥量に留意し、穂肥Ⅰ~Ⅱが的確に施用できる草型とする。

(5) 地区毎で不足する養分の補給や珪酸質資材の投入対策を真剣に検討する。

(特に砂質漏水田は、ベントナイトの投入や遅効性肥料を活用し、実肥を抑える。)

1)基肥

活着や初期生育を良くするためには、苗質と馴化、代掻きと植付け深度、水温等の要

因が大きく影響する。基肥は補助的役割を果たすにすぎないが、施肥法によって肥効の

発現パタ-ンが異なるので、品種・土壌・気象条件によって、使い方を工夫し、施肥量

を増減する。

Page 6: Ⅲ 水稲の土づくりと施肥対策 - maff.go.jp...の注意(p121参照)が必要である。 耕耘回数と水稲N吸収 量 0 2 4 6 8 10 12 5~7 2~4 1~2 (回)

- 79 -

施肥位置と肥料の分布や吸収時期

基肥は深くまで混合される程、苗の根部で薄い濃度となり、初期の生育は劣るが、中

期(6月中旬~)の生育は旺盛となる。このため、生育期間の長い日本晴や落肥の強い

圃場に適する。逆に、浅い位置に混合されると、初期の生育が良く、中期の落肥は強く

なるので、でき遅れ(初期生育が悪く、中期に過繁茂)となる圃場や早期茎数を確保し

たい早生種に適する。また、早期に良質の茎数を確保し、中期に適度に色落ちを求める

場合には、施肥量をやや増して浅層に施用する方法や深層と浅層の組み合わせ・速効性

肥料と緩効性肥料の組み合わせ・低窒素リン高肥料の活用等、土壌によって使い分けが

必要である。

側条施肥は、肥料が局所施肥されるので、基肥の窒素やリン酸の利用率が高く、初期

生育が旺盛となる。このため、通常の代かき前施肥より、窒素では約1kg/10aの減肥が

可能となるが、その反面基肥吸収後の落肥が急激に現れる。したがって、前年秋の石灰

窒素や深耕等で生育中期の肥効維持を図る。特に肥効の低下しやすい痩地では、堆肥や

長期溶出型緩効性肥料による地力の底上げ、全層施肥と側条施肥の組みあわせ、緩効性

肥料のブレンドされた肥料の利用等で、急激な落肥を防止する。

肥料の種類が変わった場合の施肥量調整について、繰り出し部のハケ等が新しい間は本体等

に張られた落下量早見表を参考にすれば大きい誤差はない。一方、ハケの磨耗や曲り、肥料の

固着が有る時や、早見表にない肥料を施用するときは、肥料の仮比重を参考に割り出しても良

いが、意外と誤差が大きい。このため、1往復(6条植え 100m圃場なら枕地を除いて 3.3a)

当たりの肥料減少量(重量差)や繰り出し試験(路上等に機械を止め、箱等の上で施肥部のみを

回転させ、肥料の落下量を計算する(6条植え、70株/坪設定なら、爪の 35回植えが、ほぼ 0.1a

相当)を行い、施肥量を調整する。

基肥等の施肥位置と窒素肥料の効き方

施肥法

根部の

肥料濃度

効き始め

肥効期間

施用量

Nkg/10a

N利用率

弁当肥(速効性)

活着肥( 〃 )

代かき後( 〃 )

側 条( 〃 )

粗起前( 〃 )

代かき前(慣 行)

代かき前(緩効性短)

代かき前(緩効性長)

代かき前(遅効性)

代かき前(有 機)

濃い

濃い

濃い

濃い

薄い

通常

薄い

薄い

なし

薄い

極早い

早い

早い

早い

やや早い

早い

やや遅い

やや遅い

指定時期~

やや遅い

殆どなし

2~3週間

3~4週間

1.3か月

2か月

1.5か月

2.3か月

4か月

1か月

1~4か月

0.002

1~2

3~6

3~6

3~6

3~6

3~6

2~4

4~5

3~6

80~90

~5~

10~15

40~50

40~50

30~40

40~50

50~60

60~80

30~50

Page 7: Ⅲ 水稲の土づくりと施肥対策 - maff.go.jp...の注意(p121参照)が必要である。 耕耘回数と水稲N吸収 量 0 2 4 6 8 10 12 5~7 2~4 1~2 (回)

- 80 -

土壌条件に応じた土づくりと施肥の組みあわせ(コシヒカリ)

土壌条件 土づくり※ 初期生育確保 中期維持 登熟向上

過剰肥沃土 冬期排水 弁当肥のみ 地力窒素 少量の穂肥

やや肥沃土 冬期排水 表層施肥や減肥側条 地力窒素 穂肥やや減肥

平均的土壌 秋石灰N 通常の代かき前基肥 地力窒素 通常の穂肥

砂質浅耕土 秋石N+深耕 粗起基肥や緩効性 残効+地力 緩効性穂肥

礫質浅耕土 堆肥投入 粗起基肥や緩効性 残効+地力 緩効性穂肥

黄~赤色土 秋鶏糞+深耕 (平均的肥沃度になるまで、緩効性肥料利用)

(注1 ※地力窒素的対策のみ記載、珪酸・鉄分・塩基等適正化は土壌マップで)

(注2 短稈品種は、これより1ランク多肥側にシフトした対策)

2)追肥

活着肥(根付け肥)や中間追肥(つなぎ肥)は、いずれも作土の極表層に施用される

ので、肥効が早く切れやすい特徴を持つが、前者と後者では根の張りが異なるので、生

育に及ぼす影響が大きく異なる。

活着肥は、まだ稲体や根が小さいため利用率が低く(5%前後)、残効も短いので、初

期の稲体窒素濃度を一時的に高めるに過ぎない。これに対して、中間追肥(6月初め以

降~穂肥施用前)は、根が伸びて吸収が旺盛な時期に施用されるので、分げつ促進や草

丈伸長に対して基肥の過剰や地力窒素の一時的放出と同様の肥効を示す。特に、コシヒ

カリでは、使い方を誤ると過剰分げつや下位節間の伸長から倒伏を招くことがあり、余

程の痩地や施用技術の高い農家を除いて施用されていない(地力窒素で維持)。低地力

田では、高度な診断技術を要する中間追肥を多用するより、地力窒素レベルを適度に高

める(厩肥・石灰窒素)か、緩効性肥料を活用し、基肥(速効性窒素)が吸収された後

の稲体窒素を穏やかに維持することが求められる。

中間追肥を施用する場合には、穂肥時に適度に葉色が褪めるよう窒素で1kgまでとし、

遅れないように(6月5日頃まで)施用する。また、地区の土壌に応じたSi、P、K、

Mg等の補給に留意する。

3)穂肥

(1)基本的な考え方

穂肥は収量や品質さらには倒伏

に結びつく大変重要な施肥である。

通常2~3回に分けて施用してい

るが、それぞれの時期で水稲に及

ぼす影響が異なっている。N肥料

を出穂30~25日前頃に施用すると、

気粒数増加 等による増収効果が

高いので、強稈の品種では、ほぼ

この時期に穂肥1回目が施用され

ている。一方、この時期は、下位節間(N4+N3)の伸長時期とも一部重なるので、

倒伏しやすいコシヒカリでは伸長がほぼ停止した出穂18日前頃に、そして、心白等を

重視する五百万石では出穂20日前頃に穂肥の1回目が施用されている。

近年、玄米蛋白の過剰が米の食味を低下させるため、穂肥の過剰が嫌われている。

生産効率の高い穂肥1回目~2回目は玄米中の窒素(蛋白)に及ぼす影響が小さいの

節間伸長時期(コシヒカリ)

Page 8: Ⅲ 水稲の土づくりと施肥対策 - maff.go.jp...の注意(p121参照)が必要である。 耕耘回数と水稲N吸収 量 0 2 4 6 8 10 12 5~7 2~4 1~2 (回)

- 81 -

で的確に施用する。また、草型によっては、穂肥2回目を多くする。過繁茂の圃場で

は、穂肥1回目を基準より減肥する。

泥炭質土壌、黒泥土壌、多腐植質土壌、粘質強湿田等地力窒素の多い圃場は、穂肥

3回目を施用しない。砂質の漏水田では、土づくりに努めるとともに緩効性の穂肥を

利用し、急激な肥効の上下を防ぐ(穂肥量の増大や実肥の施用を抑える)。

地力の低い地帯では、施肥量を多くして収量を確保したいが、これを施肥のみで対

応しようとすると実肥を含む少量多回数の分施が必要となる。

穂肥量を抑えるには、土づくりによって地力窒素のレベルを適度に高めるのが最も

有効であるが、当面は肥効の緩やかな緩効性肥料を活用したい。なお、矮化剤等を含

む肥料が開発され、この肥料はコシヒカリの出穂30~25日前頃に施用できるので、施

肥時期が早い分、収量や食味値(タンパク含量)面から有利となる。

出穂の数日前から10日後間に施用される穂肥は、多用すると玄米白度の低下や食味

値が低下(玄米タンパク含量の増加)するので施用量に注意する。但し、高温干ばつ

年における低地力田等、根の活力を登熟後期まで維持できない圃場では、葉色診断に

基づき窒素成分で1~2kg/10aまでの実肥を施用する(穂肥と実肥の合計が5kg/10a

を超さないこと)。

(コシヒカリの穂肥施用基準は次項参照)

(2)コシヒカリの穂肥管理基準

品質をはじめ倒伏や収量に影響の大きい

穂肥の施用法は、主として葉色値を目安と

しており、生育量に見合ったよりきめ細か

な穂肥管理の方法が求められている。そこ

で、過去のデ-タを解析し、コシヒカリを

対象に幼穂形成期の生育量から穂肥の適正

施用法を判定するための穂肥管理基準であ

る穂肥目安板、通称“穂肥くん”(別項参照)

が作成された。

この基準は、幼穂形成期の草丈、茎数、

葉色の値からN吸収量を推定し、目標と

する玄米N濃度(蛋白含量)、倒伏程度、

収量を得るための穂肥管理方法を示し

たものである。

【目標値】

・ 倒伏程度3以下、

・ 玄米の蛋白含量6.5%以下(15%水分換算値)、

・ 玄米収量は約570kg/10a

【目標値の根拠】

・ コンバインによる刈り取りのロスや作業効率、倒伏による乳白粒の発生等を考慮した

場合、倒伏程度はおおむね3以下にしなければならない。

・ 食味官能評価は玄米蛋白含量(15%水分換算値)がおおむね6.5%以上になると低下

する。

玄米蛋白含量と食味の関係

-1.0

-0.5

0.0

0.5

5 6 7 8 9 10

玄米の蛋白含量 %

食 味 官 能 評 価

Page 9: Ⅲ 水稲の土づくりと施肥対策 - maff.go.jp...の注意(p121参照)が必要である。 耕耘回数と水稲N吸収 量 0 2 4 6 8 10 12 5~7 2~4 1~2 (回)

- 82 -

【使い方】

・幼穂形成期頃(平年暦日7月7日頃)に、生育

中庸な10株を選び、草丈、茎数、葉色値(葉

緑素計SPAD502)による上位展開第2葉の値

を測定する。標準葉色票を用いる場合には

右図を参考に読み替える。

(葉緑素計値=11.66+6.22×標準葉色票値)

・草丈(cm)、茎数(本/㎡)、葉色値(葉緑素計値)

の各平均値を乗じた値を算出し、下記の穂肥

管理判定表に基づいて、穂肥管理区分を判定

する。

【穂肥管理判定表】

草丈×茎数

×葉色

推 定

N保有量

倒伏3

可能性

<玄米N1.3%>

とするための

N保有量

目標玄米収量*

を得るための

推定N施用量

穂肥管理区分

N施用量

***

×10000 kg/10a kg/10a kg/10a kg/10a

~ 77

~ 88

~ 98

~109

~121

~132

~146

~163

~178

~190

~3.1

~3.4

~3.8

~4.2

~4.6

~5.1

~5.6

~6.1

~6.7

~7.1

約5>

約5>

約5>

約4>

約4>

約4>

約3>

約3>

約2>

約2>

5.0

4.5

4.0

3.5

3.0

2.5

2.0

1.5

1.0

0.5

2 - 2 – 1

2 -1.5 -1

2 - 2

2 -1.5

2 – 1

1 -1.5 **

0 - 2 **

0 -1.5 **

0 - 1 **

0 -0.5 **

*:精玄米重 約570kg/10a(9.8 Nkg/10a)

**:倒伏軽減剤の利用も考慮する

***:3回施用は出穂18日前より1週間ごと、2回施用は出穂18日前より10日ごと

※ 上表は、分施体系での結果に基づく穂肥管理と倒伏軽減剤使用の目安である。

現在、基肥一括施肥法が中心となり、表は穂肥管理の意味は薄れ、倒伏軽減剤使用の目安と

して用いられるが、基肥一括施肥では、穂肥分の窒素も施肥されているので、表よりもやや小

さい値でも倒伏軽減剤の利用を考慮すべき、と考えられる。

・ 幼穂形成期の草丈(cm)×茎数(本/㎡)×葉色(上位展開第2葉のSPAD値)の値とN吸収

量とは相関が高く、生育調査の結果からN吸収量を推定することができる(図1)。

・ 幼穂形成期のN吸収量と倒伏とは関連が深く、幼穂形成期のN吸収量が概ね5kg/10

aを超えると稈長が90cmを上回り、倒伏程度が高まる(図2、3)。

・ 目標玄米N濃度(1.3%以下=15%水分換算の蛋白含量では6.5%以下)を得るための

葉緑素計値と標準葉色票値

の読替図

45

25

30

35

40

2.5

3.0

3.5

4.0

4.5

5.0

5.5

Page 10: Ⅲ 水稲の土づくりと施肥対策 - maff.go.jp...の注意(p121参照)が必要である。 耕耘回数と水稲N吸収 量 0 2 4 6 8 10 12 5~7 2~4 1~2 (回)

- 83 -

穂肥N施用量は、幼穂形成期のN吸収量によって異なる。

・ 幼穂形成期と成熟期のN吸収量(無穂肥)の関係から、幼穂形成期から成熟期までの

地力由来のN供給量が概ね推定できる。また、幼穂形成期のN吸収量別穂肥N利用率

を組み合わせると、幼穂形成期のN吸収量別に目標収量{玄米N濃度1.3%とした場

合の精玄米重(約570kg/10a)、この場合のN吸収量は約9.8kg/10aに相当}を得るた

めの穂肥N施用量が推定できる。

(3) 穂肥施用法が収量・品質に及ぼす影響

一般に穂肥施用量が多くなるほど収量性が高まるが、高蛋白となり食味評価は悪くなり、

総籾数増加により良質粒割合は低下する。しかし、分施の方法によって、収量および品質・

食味さらには倒伏に及ぼす影響は大幅に異なる。

Page 11: Ⅲ 水稲の土づくりと施肥対策 - maff.go.jp...の注意(p121参照)が必要である。 耕耘回数と水稲N吸収 量 0 2 4 6 8 10 12 5~7 2~4 1~2 (回)

- 84 -

注)図中の数字は穂肥施用時期(第1回目:出穂前18日、第2回目:出穂前9~11日、第3回目:

出穂後4日)と10a当たりN施用量を表す。肥料は追肥1号(15-5-15)使用。

(4) 穂肥時期の遅延効果

乳白粒が出やすい圃場では、その原因を明らかにし、その対策を講ずることが先決であ

るが、穂肥の施用法によっても、ある程度乳白粒の発生を軽減することができる。すなわ

ち、穂肥時期を基準より1週間程度遅らせて、乳白粒の発生しやすい2次枝梗着生籾(弱

勢頴花)を減らし、1次枝梗着生籾(強勢頴花)の割合を高める方法である。この方法は、

穂肥施用量と玄米収量・品質との関係

-1.0

-0.8

-0.6

-0.4

-0.2

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

相 関 係 数

食味評価

良質粒割合

整粒歩合

穂数

登熟歩合

1穂籾数

総籾数

籾/わら

精玄米

千粒重

玄米蛋白

穂肥施用量と玄米N

310 320

220

022 202

221

200

000 1.20

1.25

1.30

1.35

1.40

1.45

0 2 4 6 穂肥N施用量 kg/10a

玄 米 N %

穂肥施用量と良質粒割合

000

200

221

202

022

220

320 310

76

78

80

82

84

86

88

90

92

94

0 2 4 6

穂肥N施用量 kg/10a

良 質 粒 割 合 %

穂肥施用量と収量

310 320

220

022

202

221

200

000 400

420

440

460

480

500

520

540

0 2 4 6 穂肥N施用量 kg/10a

精 玄 米 重 ㎏ / 1 0 a

Page 12: Ⅲ 水稲の土づくりと施肥対策 - maff.go.jp...の注意(p121参照)が必要である。 耕耘回数と水稲N吸収 量 0 2 4 6 8 10 12 5~7 2~4 1~2 (回)

- 85 -

若干収量が低下し、玄米蛋白が増加する傾向にあるので、低収地帯や玄米蛋白の高い地域

では留意する必要がある。

(5) 穂肥施用効果の年次変動

穂肥の効果は、穂肥までの生育と登熟期間の気象条件とのバランスで年次間差を生ず

る。一般に、収量は登熟期間が高温多照であれば多収となり、逆に低温寡照であれば低

収となる。一方、多収年次の玄米蛋白は低く、低収年次には高い傾向がある。

外観品質は、玄米粒全体に対する充実度であるから、一律に判断できない。特に、近

年の登熟期間の異常高温のため消耗が激しく、光合成産物が効率よく転流しないため、

高温多照が高品質に結びつかないケ-スがみられる。さらに、穂肥不足が重なって品質

を落としている例がみられる。

通常、無穂肥では着生籾数が少なく低蛋白となり、良質粒割合は高くなるが、近年は

高温の影響により、無穂肥で低蛋白となるものの、澱粉の蓄積不良による乳白粒や背白・

基白粒等の発生で良質粒割合が低くなっている。玄米の食味が良い(蛋白が6%以下と

低い)のに外観品質(等級)が良くない場合には、この点を疑ってみる必要がある。こ

のように登熟期間の高温が予想される場合には、穂肥窒素量を増施する方がよい。

H5:低温寡照、作況指数89「著しい不良」

H6:高温多照、作況指数103「やや良」

H7:7月末~低温寡照、8月末~高温多照、

作況指数98「平年並み」

穂肥施用量と玄米収量

40

45

50

55

60

65

0 1 2 3 4 5 6

穂肥施用量 kg/10a

玄 米 収 量 ㎏ / a

平成5年 平成6年 平成7年

穂肥施用量と玄米蛋白

5.0

5.5

6.0

6.5

7.0

7.5

0 1 2 3 4 5 6

穂肥施用量 kg/10a

玄 米 蛋 白

平成5年 平成6年 平成7年

Page 13: Ⅲ 水稲の土づくりと施肥対策 - maff.go.jp...の注意(p121参照)が必要である。 耕耘回数と水稲N吸収 量 0 2 4 6 8 10 12 5~7 2~4 1~2 (回)

- 86 -

6 土づくり対策

1)気象変動に対して弱い稲となっていないか?

近年いわれている気候の温暖化では、地球規模での気温の上昇が問題となっている。

そのような長期にわたる大きな話でなくても、最近は稲作期間の気温が高くなってきており、

特に出穂期前後~登熟期間(7月末~8月)中の高温が、白未熟粒や胴割粒の多発を招き、米

の品質を低下させる要因となっている。

また、稲作期間を通じて、降水量や日照時間など変動幅が大きくなり、そのため水稲生育の

不安定性が増大しているともいわれている。

さらに、近年は稲作期間の高温傾向が続いていたが、2009 年は低温・寡照条件下での水稲栽

培となり、年次による気象状況の不安定性も大きいことから、どのような天候となっても、そ

れに対応できる稲体とし、年次変動の小さい、安定した生育、収量、品質とするための栽培技

術、いわゆる「全天候対応型稲作」技術とでもいうべき技術対策が必要である。

そのためには、目には見えないが、その土台となる部分をしっかりと構築する必要がある。

(1) 健全な稲体は健全な根が支え、健全な根は健全な土が支える

稲は光合成により、炭水化物を得ている。それを生きるためのエネルギーとしたり、稲体

をつくるもととしている。炭水化物をつくるための水は根から、二酸化炭素は気孔から取り

入れるが、体内水分が不足すると気孔を閉じてしまう。二酸化炭素を十分に取り入れるため

には、根から十分な量の水を取り込む必要がある。また、根は地上部を支える役割を持って

おり、根張りが悪いことは地上部の生育にも悪影響を及ぼすことになる。

最近、特に稲株直下方向に伸びる下層根の発達が劣るといわれ、それが、品質低下と関係

あるという調査結果もある。

近年は、耕深が浅くなったり、有機物や土づくり資材の施用が減少しているうえに、基肥

一括肥料の側条施肥田植が広がっている。これらの要因が重なって、水稲の根群形成が浅く

なり、しかも貧弱となっているという指摘がある。貧弱な根群では、大きな気象変動に耐え

られず、稲体の活力を維持できずに、籾に十分な転流が行えなくなっているというものであ

る。

おいしい米づくり、登熟の良い米づくり、産米の大粒化をめざすためには、収穫直前まで

稲体の活力を維持する必要があり、そのため、根をじゅうぶんに張らせ、健全に保つことが

重要となる。

しっかりとした根を張らせるためには、土壌環境の整備と生育に応じた栽培管理が必要で

ある。土づくりを含めた基本技術を再認識し、実践することが重要となる。

(2) 圃場の状況により、土づくりの重点対策は異なる

土づくりの基本は、深耕(作土深 15cm の確保)、有機物の施用(腐植を増やし陽イオン交

換容量=土壌の保肥力向上、保水力向上など)、珪酸その他ミネラルの供給(必要なミネラル

分の保持量向上)である。しかし、圃場の状況により、これらのすべてが同等に必要という

わけではない。優先すべき項目は圃場条件により異なってくる。また、根腐れの多い湿田で

は、地下水位を下げるための手段が必要となる場合もある。それぞれの圃場に応じた対策実

施のためには、その圃場の状況を知ることが大切である。土壌保全調査分析システム等を活

用し、対策を検討する。

◎ 土づくり、根づくりの観点から栽培技術を見直そう!

Page 14: Ⅲ 水稲の土づくりと施肥対策 - maff.go.jp...の注意(p121参照)が必要である。 耕耘回数と水稲N吸収 量 0 2 4 6 8 10 12 5~7 2~4 1~2 (回)

- 87 -

2)良質米の安定生産と土づくりの基本技術

不良土壌の欠陥を矯正するため、客土等の根本的対策が叫ばれているが、近年の農業情

勢から殆ど実践されず、産地間競争や異常気象に弱い米づくりになっている。

高温年の胴割れ、低温年の倒伏等、各地域において生育や収量・品質や食味も阻害して

いる要因に対し、根本的土づくりが行われるまで手をこまねいていることなく、営農的に

可能な土づくりと施肥の対策を重点的に組み合わせて、不良要因の改善を図ることが緊急

の課題となる。

また、近年の兼業化・高齢化・機械の大型化(耕盤の圧密化等)等による全県的な土

壌変化にも留意する必要がある。

(1) 土壌タイプ毎の生育的特徴と対策

土 壌 山間冷水田 礫質浅耕田 重粘肥沃田 黒ボク田

タイプ 畦畔漏水田 砂質浅耕田 下層泥炭田

↓ ↓ ↓ ↓

土壌的 生育初期の地温が 地力が低い 地力窒素が過剰 高温年に地力窒素

特徴等 低い 根が浅い 多

↓ ↓ ↓ ↓

平年の 出来遅れや生育む 浅根と急激な落肥 下節伸長や過繁茂 初期生育がやや劣

生 育 らで青未熟多 で茎数不足低収 で、倒伏し易い る

低 温 上記が顕著+いも 上記+いもち病で 下節伸長や追肥で 初期生育がかなり

多雨年 ち病で登熟不良 登熟不良 倒伏し、登熟不良 劣り、稈が細い

高 温 水不足で胴割・乳 保水力小でフェーンに 良食味多収 登熟期の地力窒素

多照年 白 弱く、胴割・乳白 がやや過剰

↓ ↓ ↓ ↓

改 善 水温上昇 地力レベル 中期落肥をやや強 高温年には掛け流

目 標 漏水防止 保水力拡大 めに し等

↓ ↓ ↓ ↓

当面の 迂回ホースや迂回 珪酸石灰+転炉滓、 弁当肥や表層施肥、 弁当肥等の活用

対 策 水路、漏水防止の 石灰窒素や厩肥施 側条施肥で初期生 穂肥やや少な目

ベントナイト 用、漏水防止 育を確保し減肥

Page 15: Ⅲ 水稲の土づくりと施肥対策 - maff.go.jp...の注意(p121参照)が必要である。 耕耘回数と水稲N吸収 量 0 2 4 6 8 10 12 5~7 2~4 1~2 (回)

- 88 -

(2) 近年の土壌変化等と土づくり

作 業 圃場の高低 ロータリ耕 農業大型化 生わらの切 土づくり肥

体 系 差が大きい が主体 転作の乾燥 り落とし 料の急減

↓ ↓ ↓ ↓ ↓

土 壌 水口周辺が 作土が浅い 耕盤が硬く 本田初期の 珪酸や微量

変 化 軟弱で深い 練り返す 根が深い 急激な分解 要素の不足

↓ ↓ ↓ ↓ ↓

栽 培 収穫時、軟弱部の作業性を重視した水管理(強 初期生育の不良やいもち病

管 理 い中干しと早期落水で干ばつ気味)作土が浅 に対し、土づくり作業より

いと窒素の肥効が急激に上下 も手軽な肥料や農薬で対応

↓ ↓

1 高温干ばつ年は、フェーンに弱い 2 低温寡日照年は、倒伏やいもち病に

影 響 (胴割れ・茶米・乳白米等) 弱い(未熟・穂発芽等登熟不良)

3 玄米中の蛋白質(窒素)濃度が高まり易い

4 圃場養分の較差が拡大し、農家や地区間での生育や品質のフレが大きい

1 刈り取り直後(高温時)の軽い耕起と従来の暮れ起し(2回耕起)によって、

生わらの腐熟と適正作土深(15~18cm)の確保を進める。

2 水口周辺の軟弱部は、秋耕を避け、4~5cm高めに土を盛る。

対 策 3 機械化・組織化で、地域の土壌タイプに応じて土づくり肥料等を散布。

(砂礫質浅耕土は転炉滓+石灰窒素か堆肥、重粘肥沃土はケイカル、その他

の土壌は、いね一番等を作業しやすい時期に散布)

Page 16: Ⅲ 水稲の土づくりと施肥対策 - maff.go.jp...の注意(p121参照)が必要である。 耕耘回数と水稲N吸収 量 0 2 4 6 8 10 12 5~7 2~4 1~2 (回)

- 89 -

3)土壌保全調査分析システムの利用

土壌の実態に応じた適切な土づくりを行うため、平成9年度から12年度にかけて実施

した土壌保全調査事業の結果を基に作成した「土壌保全調査分析システム」を活用する。

(1) パソコンの初期画面

Page 17: Ⅲ 水稲の土づくりと施肥対策 - maff.go.jp...の注意(p121参照)が必要である。 耕耘回数と水稲N吸収 量 0 2 4 6 8 10 12 5~7 2~4 1~2 (回)

- 90 -

(2) 個別調査票および処方箋のパソコン画面例

Page 18: Ⅲ 水稲の土づくりと施肥対策 - maff.go.jp...の注意(p121参照)が必要である。 耕耘回数と水稲N吸収 量 0 2 4 6 8 10 12 5~7 2~4 1~2 (回)

- 91 -

(3) 土壌診断マップ

土壌保全調査分析システムでは、種々の土壌診断マップが画面上に表示される。これ

らを活用して、地域に応じた適切な土づくりを把握し、おいしい米作りに繋げてゆく。

① 作土深のパソコン画面例

Page 19: Ⅲ 水稲の土づくりと施肥対策 - maff.go.jp...の注意(p121参照)が必要である。 耕耘回数と水稲N吸収 量 0 2 4 6 8 10 12 5~7 2~4 1~2 (回)

- 92 -

② 可給態ケイ酸のパソコン画面例

③ 可給態リン酸のパソコン画面例

Page 20: Ⅲ 水稲の土づくりと施肥対策 - maff.go.jp...の注意(p121参照)が必要である。 耕耘回数と水稲N吸収 量 0 2 4 6 8 10 12 5~7 2~4 1~2 (回)

- 93 -

④ 土づくり肥料の施用量のパソコン画面例

⑤ 石灰窒素施用の可否のパソコン画面例

Page 21: Ⅲ 水稲の土づくりと施肥対策 - maff.go.jp...の注意(p121参照)が必要である。 耕耘回数と水稲N吸収 量 0 2 4 6 8 10 12 5~7 2~4 1~2 (回)

- 94 -

4)育苗床土

苗質の良否は、移植後の活着や収量品質にも影響する非常に重要な要素の一つである。

したがって、良質米生産には育苗方法や育苗管理にも注意を払うことが求められる。育苗

用の床土は、苗質を決めるうえで大きなウエイトを占めている。良い床土に播種された苗

は、育苗期間中の気象変動や立枯性病害などによる障害に強く、育苗管理が容易である。

基本的には、床土の土性、pH、透水性、保水力、保肥力、施肥量などの要因が重要であ

る。土以外の資材を用いる場合には、これらの要因が完全でない場合が多く、育苗管理に

は注意が必要である。

(1) 土性

床土の土性は透水性や保水力、保肥力と密接に関係している。適度な透水性と保水

力を持った砂壌土から埴壌土が床土として適している。砂土では保水力、保肥力とも

に乏しいため、粘質な土壌と混合すると良い。一方、埴土では一般に透水性が不良で

あるため、籾殻くんたんなどを混合することによって孔隙率を高めると良い。くんた

んはpHが高いため、混和の適量は容量比で30~50%程度である。また、土壌を団粒

化することにより透水性を高めるのも良い。

床土の土性は根の張りの良否を通して病害の発生とも密接に関連しているため、良

い床土を選定することによって障害の発生を減らすことが出来る。

(2)pH

床土のpHも苗の正常な生育にとって

重要で、適正なpHは肥料混和後で4.5~

5.5である。高いpHでは立枯性病害やム

レ苗が発生しやすく、低いpHでは根の

張りが悪くなることがある。水田の土壌

を用いると、しばしばpHが高いことが

あるので矯正が必要である。酸度矯正資

材(硫酸第一鉄等を主成分とする)の混

和によって床土のpHを下げることがで

きるが、土壌の緩衝能の違いによって適

正混和量が異なっているので使用量に注

意する。

表1  くんたん混合と苗質(福井農試 1981)

くんたん 草丈 地上物 充実度

混合率 葉 令 乾物重 根の張り

(%) (cm) (mg/本) (mg/cm)

0 5.2 3.8 11.0 2.3 9.00 0.82 良

30 5.8 3.9 11.8 2.3 10.31 0.87 良

50 5.7 4.0 12.4 2.3 10.17 0.82 良

70 6.1 4.5 13.0 2.2 10.13 0.78 良

pH

H2O KCl

図1 床土の種類と籾枯細菌病の発病率(茂木 1984)

0

20

40

60

80

100

灰褐色沖積土

黒色火山灰土

人口粒状床土

 

 土

赤褐色火成岩

葉鞘腐敗苗

腐敗枯死苗

Page 22: Ⅲ 水稲の土づくりと施肥対策 - maff.go.jp...の注意(p121参照)が必要である。 耕耘回数と水稲N吸収 量 0 2 4 6 8 10 12 5~7 2~4 1~2 (回)

- 95 -

(3) 施肥

用いる床土の土性によっ

て肥料の吸着程度が異なる

ため、施肥量を変える必要が

ある。壌土から埴壌土では、

一箱当たりN、P2O5、K2Oそ

れぞれ1.5gが基準である。

肥料の吸着が強い黒ボク土

では施肥量を増やし、砂土や

砂壌土では塩類障害を起こ

しやすいため基肥量を減ら

して追肥で補う必要がある。

一回の追肥量は窒素成分で0.5~1g

/箱程度が適量である。

一般に、肥沃な土壌や多施肥条件

では苗の生育が過剰となり、軟弱徒

長気味の生育となって苗質が低下し

やすい。さらに、籾枯細菌病などの

病害の発生も助長しやすい。したが

って、新たに床土を作る場合には土

の肥沃度をあらかじめ検討して施肥

量を決定することが望ましい。

また、5月中旬以降に移植する場合、

育苗期間の気温が高いために、床土施

肥量が多いと徒長して苗質が低下しや

すい。このため、一箱あたり基肥窒素

量を30%程度減らして1g程度とする

のが望ましい。また、換気と灌水管理

に注意し、特に緑化期から1葉期にか

けては高温にせず、多量な灌水は行わ

ないようにする。

(4) その他

・土壌が団粒構造となっている床土は、

透水性や根の張りの面で粉質の床

土より優れている。小石などの夾雑

物が混入していると根の発達が不

良となるので、ふるいで選別して除

去する。

・土壌水分は育苗用プラントの床土詰

め作業に影響するため、あまり多湿

な土壌では乾燥させて水分を10%

以下に下げる必要がある。

・育苗期間に発生する病害を軽減するための薬剤は、有効期間を保持するため床土詰めの

直前に混和すると良い。

図2 酸度矯正剤の添加量とpHの変化(例)

4

4.5

5

5.5

6

6.5

7

0 20 40 60 80 100

サンドセット添加量(g/箱)

土壌pH

埴土

壌土

山砂

(原土)

図4 施肥と籾枯細菌病発病との関係(茂木 1984)

0

20

40

60

80

100

000

100

010

001

110

101

011

111

222

444

施肥量(標準育苗箱当り成分g)

発病苗率

(%

葉鞘腐敗苗

腐敗枯死苗

NPK

0.50.50.5

図3 床土の種類と施肥限界

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

0 5 10 15 20 25

床土の施肥量 (g/箱)

EC 

(mS/㎝

)

山砂

黒ボク

水田土

砂限界山砂限界

各土壌限界