第8章.共和分¬¬8章.共和分 129 2)i(1)変数での回帰における「共和分」...
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第 8 章.共和分
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第 8 章.共和分
8-1.共和分の概念
8-1-1.定常時系列を用いた回帰分析
いま2つの定常時系列 Xtと Ytがある。
Xt ~ I(0) Yt ~ I(0) (8-1)
このとき、これらの2系列の線形結合はやはり定常時系列となる。
Zt = β1・Xt +β2・Yt ⇒ Zt ~ I(0) (8-2)
この性質を、単純な線形回帰式にあてはめる。( Xt ~ I(0), Yt ~ I(0) )
Yt = γ・Xt +ut ただし、E(ut)=0,Xt と ut は無相関 (8-3)
移項して整理すると
ut = Yt -γ・Xt = -γ・Xt +Yt (8-4)
これを(8-2)式に対応させると、Zt → ut ,β1 → -γ,β2 → 1 となる。このもとで、
ut ~ I(0) すなわち、誤差項は White Noise となり、「古典的標準線形回帰モデルの諸仮
定」が満たされる。
このように定常時系列のみで構成された回帰では「古典的標準線形回帰モデルの諸仮
定」が満たされる。よって、係数の OLS 推定値は BLUE(Best Linear Unbiased Estimator)
である。
8-1-2.非定常時系列を用いた回帰
1)I(1)変数を用いた回帰の問題点:見せかけの回帰 (復習)
複数の I(1)変数を用いて回帰したとき、高い確率で「見せかけの回帰」が生じうる。
① 通常のt検定で、本来は有意ではない係数推定値が「有意」と判定される。
② 本来は相関が低いのに、決定係数が高くなりがち
③ DW 値が低くなりがち
第 8 章.共和分
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2)非定常変数を用いた回帰したときの誤差項の DGP:一般的なケース
いま 2つの非定常時系列 Qtと Vt がある。
Qt ~ I(d) 、Vt ~ I(f) d,f:ゼロではない正の整数 (8-5)
この線形結合は、一般には定常とはならない。
Wt = ζ1・Qt +ζ2・Vt ⇒ Wt ~ I(g) g:正の整数 (8-6)
これを単純な I(1)変数どうしの線形回帰式にあてはめる。
Mt = γ・Lt +ut where Lt ~I(1), Mt ~I(1), E(ut)=0 (8-7)
移項して整理すると
ut = Mt -γ・Lt ⇒ 一般には、ut ~ I(1) (8-8)
このように非定常時系列を用いた回帰では、一般的に誤差項は“Random Walk”となり、「古
典的標準線形回帰モデルの諸仮定」が満たされない。
ところが、(8-8)式で ut ~ I(0) が実現されるようなγが存在することがある。
8-1-3.共和分
1)共和分の定義
いま2つの I(d)非定常時系列 Xtと Ytがある。
Xt ~ I(d) Yt ~ I(d) d:正の整数 (8-9)
ここで、Xtと Ytの線形結合
Zt = b1・Xt + b2・Yt (8-10)
の和分次数が I(d-f)となる、すなわち、もとの変数と比較して和分の次数が小さくな
るときがある。( f:正の整数、d≧ f ≧0 ) このとき「Xtと Ytは次数d,fの共和分」
とよばれ、以下のように表記される。
Xt ,Yt ~ CI(d,f) (8-11)
共和分を成立させる係数(b1 ,b2)は「共和分ベクトル」とよばれる。
γ̂
第 8 章.共和分
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2)I(1)変数での回帰における「共和分」
実際の実証分析で「共和分」の有無が問題となるのは、I(1)変数を用いた回帰のケース
がほとんどである。よって、このケースにおける「共和分」を改めて定義する。
[I(1)変数間の共和分]
いま2つの I(1)非定常時系列 Qtと Vtがある。
Qt ~ I(1) Vt ~ I(1)
ここで、Qtと Vtの線形結合
Rt = γ1・Qt + γ2・Vt
の和分次数が I(1-1)=I(0)となる、すなわち定常時系列になるときがある。
このとき「Qtと Vtは次数 1,1 の共和分」とよばれ、Qt ,Vt ~ CI(1,1)と表
記する。共和分を成立させる係数(γ1 ,γ2)を「共和分ベクトル」という。
3)複数の共和分関係
I(1)変数と I(2)変数が混在している場合でも、これらの線形結合が I(0)になることが
ありえる。それは、複数の共和分関係が存在しているケースである。いま以下の重回帰モ
デルを想定する。
Yt = β1・X1t +β2・X2t +β3・X3t +u t (8-12)
これら 4変数 Yt ,X1t,X2t,X3t は以下のような非定常時系列である。
Yt ~ I(1), X1t ~ I(1), X2t,X3t ~ I(2) (8-13)
ここで、以下の2組の共和分ベクトルが存在するとしよう。
① Pt = γ1・X2t +γ2・X3t ~I(1) を成立させる共和分ベクトル(γ1,γ2)
② u t = Yt -(α1・X1t +α2・Pt)~I(0) を成立させる共和分ベクトル(α1,α2)
このとき、4変数 Yt ,X1t,X2t,X3t を線形回帰したときの誤差項は I(0)になる。
Yt = α1・X1t +α2・(γ1・X2t +γ2・X3t)+u t
⇒ u t = Yt - {α1・X1t +α2・(γ1・X2t +γ2・X3t)}
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⇒ u t = Yt -(δ1・X1t +δ2・X2t +δ3・X3t ) ~ I(0) (8-14)
8-1-4.共和分回帰と超一致性(Super Consistency)
共和分関係にある回帰では、誤差項が I(0)(i.e. White Noise)となって「古典的線形回帰
モデルの諸仮定」が満たされることに加え、OLS による係数推定値が「超一致性(Super
Consistency)」を有する。
・一致性(復習)
標本数を無限大に近づけていくにつれて、パラメータ推定値(b)が真のパラメータの
値(β)に収束していく性質。
・超一致性(Super Consistency)
I(0)変数を用いた OLS 推定よりも早いペース(=より少ない標本数の回帰)で、パラメ
ータ推定値(b)が真のパラメータの値(β)に収束するという性質。
8-2.共和分検定
現実には、I(1)変数どうしの回帰で「共和分」が成立するケースはそれほど多くない。しかし、
いったん「共和分」が成立すれば、レベル項で回帰を行っても「見せかけの回帰」を回避できる。
加えて、係数推定値は「超一致性」という望ましい性質を有する。ゆえに、共和分関係の有無を
検定する手法が重要になってくる。 共和分検定には大きく 2つの種類がある。初期段階(1980
年代まで)では「Engle-Granger 検定」が主流だったが、近年(1990 年代~)は「Johansen 型
の共和分検定」がよく用いられる。E-Views では、このうち「Johansen 型の共和分検定」しかサ
ポートされていない。しかし、「Johansen 型の共和分検定」は統計理論的に難解なため、まずは
理解しやすい「Engle-Granger 検定」について説明する。
8-2-1.Engle-Granger 検定
Engle-Granger 検定はきわめて直観的にわかりやすい。以下では、4つの I(1)変数間での共
和分関係の有無を検定するケースを考える。
Yt ,X1t ,X2t ,X3t ~ I(1)
まず、以下の回帰式を OLS 推定する。
Yt = β0 +β1・X1t +β2・X2t +β3・X3t +u t [誤差項:White Noise を仮定] (8-15)
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なお、「トレンドのある共和分関係」を想定するときには、(8-15)式にトレンド項を付加
してもよい。次に、(8-15)式の推計結果をもとに残差系列を作成する。
et = Yt -(β0+β1・X1t +β2・X2t +β3・X3t ) (8-16)
この残差系列が定常であるか否かを ADF 検定の枠組みを用いて確認する。
Δet = β・et-1 + + εt (8-17)
このとき定数項とトレンド項ははじめから含めない。なぜなら、(8-15)式の OLS 推定の
残差項(et)は平均ゼロとなるように推定されているからである。
(8-17)式において、帰無仮説“β=0”(残差項は Random Walk にしたがう =共和分なし)
が棄却されれば、「共和分」関係が存在するとみなされる。 ただし、Engle-Granger 検定に
おいて帰無仮説が棄却されるか否かの判定に用いる臨界値は、ADF 検定のそれとはかなり異
なることが知られている。具体的には MacKinnon 表を用いて臨界値を計算する。
8-2-2.E-Views による Engle-Granger 検定
以下では実習問題を交えながら、E-Views による Engle-Granger 検定の手順を説明する。
Q8-1 (保存 Workfile 名:Q8-1.wf1)
“Q8 四半期 貨幣需要.xls” には 1967 年 Q1~1999 年 Q1 までの①RGDP:実質 GDP(季調
済み)、②R:名目国債発行利回り、③RM2:実質 M2+CD(季調済み)が収録されている。
下記の単純な貨幣需要関において共和分関係が成立するか否かをEngle-Granger検定によ
って検証せよ。
RM2 = α + β1・ RGDP + β2・R +ε (1)
⇒ 操作手順は以下のとおり (以下の作業についての解答例は巻末〔P283〕に掲載されている)
【操作手順】
① ADF 検定などの単位根検定を実施し、回帰に用いる変数が全て I(1)であることを確認する。
② これらの I(1)変数を用いて(1)式を OLS 推定する。(必要に応じてトレンド項を付加せよ)
∑=
−∆⋅p
iite
1θ
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※ 蓑谷(2003)p.501 より抜粋
[表の見方]
例 1)標本数:500、変数の数(含:被説明変数):4、トレンドなし、有意水準 1%の棄却域
τ= -4.6493 + (1/500)×(-17.188)+ (1/(500×500))×(-59.20)= -4.68
例 2)標本数:100、変数の数(含:被説明変数):3、トレンドあり、有意水準 5%の棄却域
τ= -4.1193 + (1/100)×(-12.024)+ (1/(100×100))×(-13.13)= -4.23
第 8 章.共和分
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③ NAME コマンドで推計結果に“EQ01”などの名前をつける。
④“Proc → Make Residual Series”とすすみ、残差系列に“Resid01”などの名前を付す。
⑤“Resid01”に対して“View → Unit Root Test”とすすみ、以下を設定して“OK”を押す。
1)Test for Unit Root in ⇒ “Level”
2)Lag Length ⇒ “Automatic Selection”/ 基準は任意(例:Schwartz Info ~)
3)Include in Test Equation ⇒“None”
⑥ E-Views に表示される棄却域の臨界値は、単位根検定にのみ利用可能あり、共和分検定では
利用できない。よって、表示された“t-statistic”について、MacKinnon 表をもとに「帰無
仮説:共和分なし」が棄却されるか否かを検定する。 臨界値の計算方法は表の最下部に示さ
れた注のとおりである。すなわち、
MacKinnon 表から 5%有意水準の臨海値を算出
・変数の数 = 「説明変数(除:定数項)の数」 + 1(被説明変数)= 3
・標本数: 124 (最適ラグ次数 4のケース)
・共和分回帰にトレンドはなし
・有意水準 5%
τ= -3.7429 +(1/124)×(-8.352) +(1/(124×124))×(-13.41)= -3.81
⇒ 実習問題 Q8-1 において、共和分関係は 5%水準で有意に認められるか?
8-2-3.Johansen 型の共和分検定
E-Views ではデフォルトの共和分検定として、(既に説明した Engle-Granger 検定ではなく)
より先進的な Johansen 型の共和分検定のみをサポートしている。 Johansen 型の共和分検定の
利点は、k変数の重回帰で共和分の有無を検証しようとするとき、複数の共和分ベクトルを識
別できることにある。
◆ Engle-Granger 検定の欠点
いま、4つの I(1)変数のケースを想定する。
第 8 章.共和分
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Y1t ,X1t ,X2t ,X3t ~ I(1)
これら4変数の線形結合が I(0)になるケースは、以下の諸例をはじめとして幾つかありうる。
① Yt -α・X1t -β・X2t -γ・X3t ~I(0)
を成立させる共和分ベクトル(1,-α,-β,-γ)が存在する。
② Yt -a・X1t ~I(0) を成立させる共和分ベクトル(1,-a)
Xt2 -b・X3t ~I(0) を成立させる共和分ベクトル(1,-b)
このもとで両者の線形結合はやはりI(0)になる。
(Yt -a・X1t )- c・( X2t -b・X3t ) ~I(0)
③ Yt -δ・X1t ~I(0) を成立させる共和分ベクトル(1,-δ)
Yt -η・X2t ~I(0) を成立させる共和分ベクトル(1,-η)
Yt -φ・X3t ~I(0) を成立させる共和分ベクトル(1,-φ)
これらの和をとると(すなわち 3つの共和分関係の線形結合)、やはりI(0)になる。
3・Yt -δ・X1t -η・X2t -φ・X3t
さらに Yについて基準化すると
Yt -(δ/3)・X1t -(η/3)・X2t -(φ/3)・X3t ~I(0)
Engle-Granger 検定の問題点は、②や③のタイプの共和分関係の可能性を最初から排除し、
あらかじめ①のタイプの共和分関係を想定したうえで「OLS 推定→残差項の単位根検定」とい
う手順を踏んでしまうことにある。31
◆ Johansen 型の共和分検定
Johansen 型の共和分検定では、単に共和分の有無を検定するだけでなく、共和分のタイプ
(例えば①~③)を識別することができる。だが、Johansen 型の共和分検定を統計理論とし
て理解することはかなり難しい。
31 共和分関係を正しく識別できなければ、後述する「誤差修正モデル(ECM:Error Correction Model)」に誤った解
釈を与えてしまいかねない。
が並存
が並存
第 8 章.共和分
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【必要とされる知識】
① 行列(一次独立と一次従属、行列のランク、固有値、固有ベクトルなど)
② Vector Autoregression Model(VAR)への深い理解(= 行列ベースでの理解)
ゆえに、本章では E-Views による Johansen 型の共和分検定の実施方法と、結果の見方のみ
を説明する。なお、VAR については第 9章で詳しく学ぶ。ゆえに、第 9章を学んだうえで改め
て本節に戻ってきてもよいだろう。
k変数で回帰を行う場合、最大で(k-1)本の共和分ベクトルが存在する可能性がある。た
だし、実際の共和分ベクトルの本数が必ず(k-1)本になるわけではない。そこで、Johansen
型の共和分検定では多層的な仮説検定をおこなう。例えば、3つの I (1)変数(X,Y,Z)間で
の共和分関係を検定する場合の帰無仮説の設定は以下のとおりである。
[第 1段階]
H0 : 共和分ベクトルは存在しない
H1 : 共和分ベクトルはたかだか(“at most”)1 本
⇒ 帰無仮説が棄却されなければ「共和分関係なし」とみなす。帰無仮説が棄却されれば
第 2段階へ
[第 2段階]
H0 : 共和分ベクトルはたかだか(“at most”)1 本
H1 : 共和分ベクトルはたかだか(“at most”)2 本
⇒ 帰無仮説が棄却されなければ「共和分ベクトルは 1本」とみなす。帰無仮説が棄却さ
れれば「共和分ベクトルは 2本」とみなす。(4変数以上ならさらに次の段階あり)
Johansen 型の共和分検定では、先見的に説明変数と被説明変数の区別をせず、以下の多変
量方程式体系(いわゆる Error Correction VAR モデル)を最尤法で推定する。32 例として、
3変数でラグ次数を1とした場合の定式化は以下のとおりである。ただし、誤差項(ε1,ε2,
ε3)は White Noise を仮定する。
32 順番は前後するが、Error Correction VAR については第 9章で説明する。
第 8 章.共和分
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(8-18)
上の式において左辺の階差項は I(0)である。よって、右辺も I(0)にならないと式がバラン
スしない。ところで、右辺第 2 項も階差項だから I(0)である。また、誤差項も White Noise
の仮定より I(0) である。よって、右辺全体が I(0)となるには右辺第 1 項が I(0)でなければ
ならない。右辺第 1項が I(0)となる可能性は大きく分けて 2通りある。
第 1に、以下の係数推定値行列(V)がゼロ行列になるケース(=右辺第 1項が消滅)である。
このとき「共和分ベクトルは存在しない」ことになる。
第 2に、以下の行列積、すなわち I(1)変数の線形結合が共和分しているケースである。33
ここで(8-20)式の右辺において、
と表記できる場合、両者は実質的に同じ共和分ベクトルとみなされる。このとき「共和分ベクト
ルは 1本のみ存在する」ことになる。 他方、
となる場合には、両者は異なる共和分ベクトルである。このとき「共和分ベクトルは 2 本存在す
33 なお、各係数推定値は必ずしも非ゼロである必要はない。
+
∆∆∆
⋅Φ+
⋅
⋅
=
∆∆∆
−
−
−
−
−
−
3
2
1
1
1
1
1
1
1
33
22
11
εεε
φηδγβα
t
t
t
t
t
t
t
t
t
ZYX
ZYX
bababa
ZYX
左辺
右辺第一項
右辺第二項
誤差項
=
=
000000
φηδγβα
V
⋅+⋅+⋅⋅+⋅+⋅
=
⋅
−−−
−−−
−
−
−
111
111
1
1
1
ttt
ttt
t
t
t
ZYXZYX
ZYX
φηδγβα
φηδγβα
(8-19)
~I(0)
~I(0) (8-20)
( )111111 −−−−−− ⋅+⋅+⋅⋅=⋅+⋅+⋅ tttttt ZYXmZYX γβαφηδ (8-21)
( )111111 −−−−−− ⋅+⋅+⋅⋅≠⋅+⋅+⋅ tttttt ZYXmZYX γβαφηδ (8-22)
3×2 2×3 3×3
第 8 章.共和分
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る」ことになる。
結局のところ、検定すべき仮説は、第 1に「推計される係数行列(V)が有意にゼロ行列(=
共和分なし)と異なるか否か」であり、第 2 に、もしゼロ行列と異なるとしたら、「係数行列
の『行の関係』は有意に(8-22)式(=共和分ベクトル 1 本)とは異なるのか否か」である。
行列演算の知識がある者は、この条件が行列(V)の「階数(Rank)」に対応していることがすぐ
にわかるだろう。34 ただし、
⇒ 行列Aは Full Rank 35 (8-23)
を前提とすれば、係数行列(V)の階数と以下の行列(Π)の階数は一致する。
(8-24)
このように階数の判定に用いる行列をわざわざΠに変更するのは、Πが「A(3×2 行列)」
と「V(2×3 行列)」の積であり、3×3 の正方行列として表されるためである。正方行列は、
以下の有用な性質を有する。36
(n×n)正方行列Xの対角化 ⇒ X = C・Λ-1・C´ (8-25)
ここで、Λ:「固有値(λ1,λ2,・・・)」を対角要素にもつ対角行列
C:対応する「固有ベクトル」を順番に配置した行列
このもとで、さらに以下の便利な性質も有する。
(n×n)正方行列Xの「階数」は、非ゼロの固有値の数に等しい。
34 行列の階数:非ゼロ要素を含む行(ないし列)のうち「線形独立」であるものの数。線形独立とは、その行(ないし
列)が、他の行(ないし列)の線形結合(加減乗除)では表現できないことを意味する。 35 行列を構成する全ての行(ないし列)が「線形独立」であること。 36 行列の固有値や固有ベクトルの概念を理解していない状態で、Johansen 型の共和分検定に挑むのは時期尚早といわ
ざるを得ない。線形代数のテキストや第 1 章で挙げた Greene のテキストなどによって、まずは行列の対角化について
学んでほしい。
=
33
22
11
bababa
A
⋅
=⋅=Π
φηδγβα
33
22
11
bababa
VA
第 8 章.共和分
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この性質を行列Πに適用し、行列Πの有意にゼロと異なる固有値の数を明らかにすれば、共
和分ベクトルの数を明らかにできる。Johansen 型の検定では、まず、推計された係数行列Π
から算出された固有値を大きいほうから順番に並べる。そのうえで、以下の 2種類の方法によ
って「非ゼロの固有値の数」を検定する。
1)Trace 検定:
「全ての固有値の和がゼロ」という帰無仮説が棄却されるか否かを検定
⇒ もしこの帰無仮説が棄却されれば、少なくとも最大固有値(λMAX)は非ゼロである。
⇒ λMAXに対応する共和分ベクトルが存在
Trace 検定量 > 有意水準 5%や1%の臨界値
→「帰無仮説:共和分なし」は棄却される
cf. “Trace = 行列の対角要素の和”である。これと(8-25)式より検定名の由来がわかるだろう
2)最大固有値検定
「もっとも大きい固有値(λMAX)がゼロ」という帰無仮説が棄却されるか否かを検定
⇒λMAXがゼロと異なれば、この固有値に対応する共和分ベクトルが存在するはず
最大固有値検定量 > 有意水準 5%や1%の臨界値
→「帰無仮説:共和分なし」は棄却される
第 1 段階で帰無仮説が棄却された場合には、第 2段階ではλMAXを除いて同様の検定を行
う。なお、トレース検定量や最大固有値検定量の具体的な算出方法については本書の範囲
を超えるのでここでは省略する。しかし、計量ソフトに表示される検定統計量が臨界値を
超えるかどうかをチェックすることにより、我々が何を検証しようとしているかは理解で
きたであろう。
8-2-4.E-Views における Johansen 型の共和分検定
E-Views では非常に簡単な操作によって Johansen 型の共和分検定を実施し、あわせて共和分
ベクトルの最尤推定量をえることができる。以下では実習問題を交えながら、E-Views による
Johansen 検定の手順を説明する。
第 8 章.共和分
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Q8-2 (保存 Workfile 名:“Q8-1.wf1”に作業を付加し、新たに“Q8-2.wf1”として保存)
Q8-1 で推定した貨幣需要関数において、Johansen 型の共和分検定を実施せよ。
⇒ 操作手順は以下のとおり (以下の作業についての解答例は巻末〔P285〕に掲載されている)
【操作手順】
① 被説明変数(RM2)から順に全ての変数を選択し、ダブルクリックしたうえで“Open Group”
②“View → Cointegration Test”とすすみ、
Deterministic Trend Assumption of Test について、
・共和分回帰に定数項を含めたい場合:
“Allow for linear deterministic ~” & 3)Intercept in ・・・
・共和分回帰に定数項とトレンド項を含めたい場合:
“Allow for linear deterministic ~” & 4)Intercept and Trend in ・・・
※“Q8-1”との比較を重視し、本実習問題では定数項のみ含めることにする。
③“Lag Intervals”については、本来は情報量基準で選ぶのが適当である。しかし、E-Views
の Johansen 検定のコマンドでは情報量基準が表示されないため、ある程度は恣意性をも
って設定するしかなかろう。37 さしあたり、この例題では“1 1”(=ラグ次数 1)に設
定されたい。
④“OK”を押すと検定結果が表示される。結果の見方は以下のとおりである。
1)最初に「トレース検定」、2番目に「最大固有値検定」の結果が表示される。
2)各検定の結果(Freeze → Name で保存)は、左から順に以下の形態で表示される。
左 A)帰無仮説
B)固有値の推計値
C)実際の検定統計量
D)5%棄却域
右 E)1%棄却域
37 厳密には、VAR コマンド(第 8 章で学ぶ)を駆使すると各ラグ次数における AIC や SBIC を算出できるが、作業はい
ささか煩雑である。この作業を行わないとすれば、どうしても分析者が恣意的にラグ次数を選ぶことになってしまう。
第 8 章.共和分
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3) 最初に Trace 検定において「帰無仮説:全ての固有値の和はゼロ = 行列Πのラ
ンクは 0 = 共和分ベクトルなし」の検定統計量が“31.90”と表示される。
4) その右横の有意水準 5%と 1%の臨界値をみると、帰無仮説は 5%水準では棄却さ
れる。よって、次段階の検定にいく。
5) 次段階では「帰無仮説:2番目に大きい固有値から一番小さい固有値の和はゼロ =
共和分ベクトルはたかだか 1 本」の検定統計量が“6.74”と表示される。その右横
の有意水準 5%と 1%の臨界値をみると、帰無仮説は 5%水準でも棄却されない。 よ
って、Trace 検定の結果では「共和分ベクトルは 1本」とみなされる。
6) 次に、最大固有値検定の結果が表示されるが、表の見方は同じである。この例で
は、最大固有値検定でも、やはり有意水準 5%で「共和分ベクトルなし」の帰無仮説
が棄却され、次段階の「共和分ベクトルはたかだか 1 本」という帰無仮説は棄却さ
れない。
7) 共和分ベクトルの数が 1 本と決まったら、検定結果をスクロールダウンして“1
Cointegrating Equation”欄にいく。すると、そこには共和分ベクトルの推計結果
が表示されている。ただし、表示形式は「線形結合=0」となっている。ゆえに、第
2項以降は右辺に移項して解釈されたい。
⇒ Johansen 検定の結果と Engle-Granger 検定の結果を比較すると違いはあるか?
[補足] もしも共和分ベクトルが 2 本と判定されたら、“2 Cointegrating Equation”に表示
された 2つのベクトルが「共和分ベクトル」となる。
8-3.Granger の表現定理と誤差修正モデル
8-3-1. Granger の表現定理
I(1) 変数である Yt ,X1t ,X2t ,X3tを用いた回帰式、
Yt = β0+β1・X1t +β2・X2t +β3・X3t +u t [誤差項:White Noise を仮定] (8-26)
において共和分関係が認められなかった場合、「見せかけの回帰」を回避するためには、階差をと
って I(0)にした系列を用いて推計せざるを得ない。
第 8 章.共和分
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ΔYt = γ0+γ1・ΔX1t +γ2・ΔX2t +γ3・ΔX3t +η t [誤差項:White Noise] (8-27)
しかし、(8-25)式に共和分関係が成立する場合には、以下の有名な定理が存在する。
【Granger の表現定理】38
以下の回帰式に共和分関係が成立している場合、
Yt = β0+β1・Xt +u t [誤差項:White Noise を仮定] (8-28)
この回帰式は「誤差修正モデル(Error Correction Model:ECM)」で表現できる。
ΔYt = δ0+δ1・ΔYt-1 +δ2・ΔXt-1 +α・ECT t-1 + ε t (8-29)
where ECT = Yt -(β0+β1・Xt )
または、ΔYt = δ0 +δ1・ΔXt-1 +α・ECT t-1 + ε t (8-30)
8-3-2.ECM の解釈
1)経済理論からみた ECM の解釈
ECM において、(8-28)式は経済の「長期均衡式」と解釈される。ゆえに、(8-29)式によっ
て記述される被説明変数の短期的な変動は、
① 説明変数のフローの変動に起因する部分(=差分回帰の部分)
② 前期の長期均衡からの乖離(=誤差修正項:ECT)に対する部分的な調整
の2つのパートから構成されていることになる。特に②の解釈が成立するためには、
ECT > 0 ⇒ 1 期前のレベル項 > 均衡値 ⇒ マイナスの調整が必要
ECT < 0 ⇒ 1 期前のレベル項 < 均衡値 ⇒ プラスの調整が必要
となる必要がある。ゆえに、誤差修正項αに期待される符号条件はマイナスである。また、
均衡への収束が実現されるためには、誤差修正項αの大きさは「-1<α<0」でなければな
らない。この係数が-1に近くなるほど、長期均衡からの乖離が瞬時に調整される。
38 本来、この定理は多変量連立方程式体系で示されている
第 8 章.共和分
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2)推定の頑健性の視点からみた ECM の解釈
共和分関係が成立しているにもかかわらず、ECM ではなく単なる差分体系(8-27)式で推
定を行うことは、「本来必要な説明変数を省いて推定する」ことと同値であり、誤差項に系列
相関が生じる原因になる。よって、「古典的線形回帰モデルの諸仮定」を保つためにも、共和
分関係が成立している場合には誤差修正項(ECTt-1)を無視すべきでない。もっとも、小標
本の場合には誤差修正項が有意にならないこともある。
※ 学派によって異なる ECM の定式化
誤差修正モデルの研究は、もともとアメリカの Granger たちとイギリス(LSE)の Hendry た
ちとで全く別々に発展してきた。現在では、両者はかなり融合しているものの、テキストに
よっては ECM の定式化にばらつきが見られる。
具体的には、(8-29)式は Granger の表現定理を忠実に再現しているが、LSE 学派の文脈で
は(8-30)式のように、被説明変数のラグ項を落としてもよい。そればかりか、「当該期」の説
明変数の階差項を加えてもよい。ただし、誤差修正項はどちらも必ず「1期前」となる。
8-3-3.E-Views による ECM の解釈
Q8-3 (保存 Workfile 名:“Q8-1.wf1”に作業を付加して“Q8-3.wf1”で保存)
Q8-1 の Workfile を開き、任意の定式化で誤差修正モデルを推計せよ。
⇒ 操作手順は以下のとおり (以下の作業についての解答例は巻末〔P287〕に掲載されている)
【操作手順】
① RM2,RGDP, R, RESID01(誤差修正項に相当)をアクティブ(青色反転)させ、“Open Equation”
② これまでの説明を参考にして ECM の定式化を試み、OLS で推定
[定式化例]
Model A
ΔRM2t = δ0+δ1・ΔRM2t-1 +δ2・ΔRGDPt-1 +δ3・ΔRt-1 +α・ECT t-1 + ε t
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Model B
ΔRM2t = η0+η1・ΔRGDPt +η2・ΔRt
+η3・ΔRGDPt-1 +η4・ΔRt-1 +α・ECT t-1 + ε t
Model C
ΔRM2t = φ0+φ1・ΔRM2t-1 +φ2・ΔRGDPt +φ3・ΔRt
+φ4・ΔRGDPt-1 +φ5・ΔRt-1 +α・ECT t-1 + ε t
⇒ 誤差修正項の係数は有意か? 符号条件や係数の大きさは条件を満たしているか?
※ Johansen 型の検定結果を用いても Granger タイプの ECM が推定できるが(Error
Correction VAR)、これについては第 9章で解説する。
《演習》賃金関数の ECM 推定 ※ 蓑谷(2003)より抜粋
(保存 Workfile 名:“Test8.wf1”)
“Test8 賃金関数.xls”には、1960 年~2000 年の以下 3系列が収録されている。
1)WDOT:名目賃金上昇率、
2)CPIDOT:消費者物価上昇率、
3)RU :完全失業率
いま、下記の推計式において共和分関係が成立するか否かを検証したい。
WDOT = α + β1・(1/RU) + β2・CPIDOT
問 1)“GENR”を用いて、新たに「INVRU=1/RU 」を作成せよ。
問 2)ADF 検定によって WDOT,CPIDOT,INVRU の和分次数を確定せよ。(有意水準 5%で判断)
問 3)Engle-Granger 検定によって、上記推計式が共和分回帰であるか否かを検証せよ。
臨界値は MacKinnon 表を用いて計算すること(有意水準 5%で判断)
問 4)ECM を推定せよ。ただし、定式化はある程度、分析者にゆだねる。
問 5)Johansen Type の検定で上記推計式が共和分回帰であるか否かを検証せよ。ラグ次数
は任意とする。(有意水準 5%で判断) Engle-Granger 検定と判断は同じになるか?
⇒ 解答例は巻末〔P289〕に掲載されている