7.プラズマcvdによる高速製膜技術を用いた...

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7.1 はじめに 地球環境問題への世界的な意識の高まりを背景に,太陽 電池の導入量の伸びは著しく,今後も続伸すると予想され ている[1].このような需要の増加に対し,現在の主力であ る単結晶・多結晶 Si ウェハを用いた結晶 Si 太陽電池では, 将来の更なる需要拡大,生産量増進に対応できない可能性 がある.そこで,近年,アモルファス Si(a-Si)および微結 晶 Si(! c-Si)といった薄膜 Si を用いた薄膜 Si 太陽電池への 期待が高まっている.モノシラン(SiH 4 )ガスを原料とし, 結晶 Si の 1/100 程度の膜厚しか要しない薄膜 Si では,結晶 Si 太陽電池でしばしば懸念される Si 原料供給の問題は回避 可能なこと,また,多結晶 Si よりも生産に使用する電力が 少ないことから,エネルギー・ペイバック・タイムがより 短いこと等の利点を有するためである[1‐3].一方,薄膜 Si 太陽電池の生産には,結晶系 Si 太陽電池よりも大きな初 期投資が必要である.これは,薄膜 Si 堆積用のプラズマ CVD 装置や電極形成用のスパッタリング装置などの真空 プロセス装置やモジュール形成用のレーザーパターニング 装置の導入費用が高額であることに起因する.したがっ て,世界的な太陽電池需要増に応えるため,また高額であ る初期投資を早く回収するためにも生産性の向上に対して 高い関心が寄せられている.高生産性を得るための製膜に 関する技術的手法としては,1)製膜速度の高速化,2)製 膜面積の大面積化,および3)同時製膜基板の複数枚化が ある. 現在の薄膜 Si 太陽電池は,主に可視光による発電を行う a-Si太陽電池と,主に赤外光による発電を行う ! c-Si 太陽電 池を積層したタンデム(多接合)型構造で構成される[1‐ 3].本稿では,生産性の改善を特に必要とする ! c-Si 太陽電 池に関して,プラズマ CVD 法による高速製膜技術の開発 と高速製膜 ! c-Si 太陽電池の高効率化に関して概説する. 7.2 微結晶 Si 薄膜の特徴と膜成長過程 7.2.1 太陽電池構造 薄膜 Si 太陽電池の普及のためには,生産性の向上が必要 であるが,並行して,高効率化も必要である.高効率化に 関しては,図1に示すようなタンデム型太陽電池が有効で あり[1‐3],様々な研究機関および企業から,タンデム型太 陽電池に関する研究開発の報告がなされている[4‐9]. 図1のようにタンデム型太陽電池は,それぞれ p-i-n 接合で 構成されるトップセルとボトムセルを積層し,直列接続し た構造を有する.まず,2つの太陽電池を直列接続するこ とにより,高電圧が得られる.次に,各セルの発電層(i 層)のバンドギャップが異なることから,トップセルは, 可視域を中心とした短波長光を中心に吸収し,一方,ボト ムセルは,トップセルを透過した赤外域を中心とした長波 長光を吸収する.これにより,太陽光スペクトルに対し, 広く分光帯域を対応させ,光電流を増加させる[1‐3].薄 膜 Si 太陽電池では.トップセル i 層には,a-Si が広く用いら れ,また,ボトムセル i 層には,最近では,! c-Si が多く用 いられているが[4‐7],フィルム基板を用いる場合には, アモルファス SiGe(a-SiGe)が,しばしば用いられている [8,9].さらに,接合数を増やし,太陽光のスペクトルによ り適合するため,すなわち,より長波長領域の光吸収を行 うために,トップセル/ミドルセル/ボトムセルの3接合 タンデム型太 陽 電 池 を 用 い ら れ る 場 合 も あ る[9].a-Si, ! c-Si の主な物性を表1に示す. 小特集 次世代シリコン太陽電池製造のためのプラズマ技術 7.プラズマ CVD による高速製膜技術を用いた 微結晶 Si 太陽電池の高効率化 外山利彦 大阪大学大学院基礎工学研究科 (原稿受付日:2009年11月9日) 現在,急増している太陽電池需要に対応すべく,薄膜 Si 太陽電池の生産性改善が急務である.高生産性を得 るための製膜に関する技術的手法としては,1)製膜速度の高速化,2)製膜面積の大面積化,および3)同時製膜 基板の複数枚化がある.本章では,生産性の改善を特に必要とする微結晶 Si 太陽電池に関して,高速製膜技術の 開発と高速製膜微結晶 Si 太陽電池の高効率化に関して概説する. Keywords: PECVD, high-rate deposition, thin-film Si solar cell, microcrystalline Si, columnar structure, crystalline volume fraction, VHF excitation, high-pressure depletion region 7. High-Efficiency Microcrystalline Si Thin-Film Solar Cells Using High-Rate Deposition Techniques by Plasma Enhanced Chemical Vapor Deposition TOYAMA Toshihiko author’s e-mail: [email protected] J.PlasmaFusionRes.Vol.86,No.1(2010)21‐27 !2010 The Japan Society of Plasma Science and Nuclear Fusion Research 21

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Page 1: 7.プラズマCVDによる高速製膜技術を用いた 微結晶Si太陽電池の高効率化 · 膜面積の大面積化,および3)同時製膜基板の複数枚化が ある.

7.1 はじめに地球環境問題への世界的な意識の高まりを背景に,太陽

電池の導入量の伸びは著しく,今後も続伸すると予想され

ている[1].このような需要の増加に対し,現在の主力であ

る単結晶・多結晶Siウェハを用いた結晶Si太陽電池では,

将来の更なる需要拡大,生産量増進に対応できない可能性

がある.そこで,近年,アモルファス Si(a-Si)および微結

晶Si(�c-Si)といった薄膜Siを用いた薄膜Si太陽電池への

期待が高まっている.モノシラン(SiH4)ガスを原料とし,

結晶Siの 1/100程度の膜厚しか要しない薄膜Siでは,結晶

Si太陽電池でしばしば懸念されるSi原料供給の問題は回避

可能なこと,また,多結晶 Si よりも生産に使用する電力が

少ないことから,エネルギー・ペイバック・タイムがより

短いこと等の利点を有するためである[1‐3].一方,薄膜

Si太陽電池の生産には,結晶系Si太陽電池よりも大きな初

期投資が必要である.これは,薄膜 Si 堆積用のプラズマ

CVD装置や電極形成用のスパッタリング装置などの真空

プロセス装置やモジュール形成用のレーザーパターニング

装置の導入費用が高額であることに起因する.したがっ

て,世界的な太陽電池需要増に応えるため,また高額であ

る初期投資を早く回収するためにも生産性の向上に対して

高い関心が寄せられている.高生産性を得るための製膜に

関する技術的手法としては,1)製膜速度の高速化,2)製

膜面積の大面積化,および3)同時製膜基板の複数枚化が

ある.

現在の薄膜Si太陽電池は,主に可視光による発電を行う

a-Si太陽電池と,主に赤外光による発電を行う�c-Si太陽電

池を積層したタンデム(多接合)型構造で構成される[1‐

3].本稿では,生産性の改善を特に必要とする�c-Si太陽電

池に関して,プラズマCVD法による高速製膜技術の開発

と高速製膜�c-Si 太陽電池の高効率化に関して概説する.

7.2 微結晶 Si 薄膜の特徴と膜成長過程7.2.1 太陽電池構造

薄膜Si太陽電池の普及のためには,生産性の向上が必要

であるが,並行して,高効率化も必要である.高効率化に

関しては,図1に示すようなタンデム型太陽電池が有効で

あり[1‐3],様々な研究機関および企業から,タンデム型太

陽電池に関する研究開発の報告がなされている[4‐9].

図1のようにタンデム型太陽電池は,それぞれp-i-n接合で

構成されるトップセルとボトムセルを積層し,直列接続し

た構造を有する.まず,2つの太陽電池を直列接続するこ

とにより,高電圧が得られる.次に,各セルの発電層(i

層)のバンドギャップが異なることから,トップセルは,

可視域を中心とした短波長光を中心に吸収し,一方,ボト

ムセルは,トップセルを透過した赤外域を中心とした長波

長光を吸収する.これにより,太陽光スペクトルに対し,

広く分光帯域を対応させ,光電流を増加させる[1‐3].薄

膜Si太陽電池では.トップセルi層には,a-Siが広く用いら

れ,また,ボトムセル i 層には,最近では,�c-Si が多く用

いられているが[4‐7],フィルム基板を用いる場合には,

アモルファス SiGe(a-SiGe)が,しばしば用いられている

[8,9].さらに,接合数を増やし,太陽光のスペクトルによ

り適合するため,すなわち,より長波長領域の光吸収を行

うために,トップセル/ミドルセル/ボトムセルの3接合

タンデム型太陽電池を用いられる場合もある[9].a-Si,

�c-Si の主な物性を表1に示す.

小特集 次世代シリコン太陽電池製造のためのプラズマ技術

7.プラズマCVDによる高速製膜技術を用いた微結晶 Si 太陽電池の高効率化

外山利彦大阪大学大学院基礎工学研究科

(原稿受付日:2009年11月9日)

現在,急増している太陽電池需要に対応すべく,薄膜 Si 太陽電池の生産性改善が急務である.高生産性を得るための製膜に関する技術的手法としては,1)製膜速度の高速化,2)製膜面積の大面積化,および3)同時製膜基板の複数枚化がある.本章では,生産性の改善を特に必要とする微結晶 Si 太陽電池に関して,高速製膜技術の開発と高速製膜微結晶 Si 太陽電池の高効率化に関して概説する.

Keywords:PECVD, high-rate deposition, thin-film Si solar cell, microcrystalline Si, columnar structure, crystalline volume fraction,

VHF excitation, high-pressure depletion region

7. High-Efficiency Microcrystalline Si Thin-Film Solar Cells Using High-Rate Deposition Techniques by Plasma Enhanced Chemical Vapor Deposition

TOYAMA Toshihiko author’s e-mail: [email protected]

J. Plasma Fusion Res. Vol.86, No.1 (2010)21‐27

�2010 The Japan Society of PlasmaScience and Nuclear Fusion Research

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Page 2: 7.プラズマCVDによる高速製膜技術を用いた 微結晶Si太陽電池の高効率化 · 膜面積の大面積化,および3)同時製膜基板の複数枚化が ある.

7.2.2 太陽電池用微結晶 Si 薄膜の特徴

�c-Si は,a-Si と同様に,主にプラズマCVD法で作製さ

れる薄膜Si材料であり,微小な結晶粒で構成される結晶相

とそれらを取り囲むアモルファス相の混相材料である

[1,10,11].断面透過電子顕微鏡(TEM)観測から,�c-Si

に含有される結晶相の形状には,粒状構造と柱状(樹状,

円錐状)構造の2種類ある.結晶学的には,前者は,

(1 1 1)優先配向,後者は,(1 1 0)優先配向で分類される.

また,�c-Si 太陽電池においては,前者は,ドープ層(p層,

n層)に多用され,後者は,発電層(i 層)に好適である.開

発初期の�c-Siは,概ね粒状構造であったが,1990年半ばに

発電層に適用可能な�c-Si が開発され,柱状構造を有する

ことが明らかとなった.以下は,発電層用の柱状構造�c-

Siについて,特徴を説明する.この柱状構造の判定には,X

線回折(XRD)による(1 1 0)配向測定が有用である.TEM

およびXRD観測から得られる結晶子の大きさは 10~

20 nm程度であるが,小さな結晶子が自己相似的に凝集し,

大きな結晶粒を構成するフラクタル構造が形成される.原

子間顕微鏡(AFM)で観測した表面像からは,大きな結晶

粒の横方向粒径は,膜厚に応じて増加し,膜厚 2 μmでは,100~500 nm程度である.また,ラマン散乱スペクトルの

Si TOフォノンモードから算出される結晶化率は,発電層

用の�c-Siには,50~70%が適当とされる[12,13].これは,

適度なアモルファス相が大きな結晶粒の粒界に数原子層程

度の厚みで存在することで,粒界における光キャリアの再

結合を抑制できるためと解釈されている[14].

7.2.3 プラズマCVD装置

一般的には,太陽電池用の Si 薄膜は,SiH4 ガスを原料と

して,容量結合型平行平板プラズマCVD法を用いて製膜

する.図2に筆者のグループが�c-Si 製膜用に使用してい

る超高周波(VHF)帯域励起のプラズマCVD装置の概略

図を,表2に i 層の製膜条件例を示す.p,n層は,従来の

13.56 MHz 励起のプラズマCVD装置を用いて製膜をして

いるが,基本構成は同様であり,ジボラン(B2H6)(p層),

ホスフィン(PH3)(n層)ガスを微量(SiH4 ガスに対する

流量比:0.5~1%)添加し製膜した.

a-Si a-Si0.6Ge0.4 �c-Si

暗導電率(S/cm) < 5× 10-10 < 5 × 10-9 < 5 × 10-9

光導電率(AM1.5G,100mW/cm2)(S/cm)

> 1 × 10-5 > 1 × 10-6 > 1 × 10-6

暗導電率の活性化エネルギー(eV)

約 0.8 約 0.7 0.55

バンドギャップ(eV) 1.75(Tauc)

1.45(Tauc)

1.1

1.6(cubic)

1.32(cubic)

欠陥密度(cm‐3) �1×1016 �1 × 1017 < 3 × 1016

製膜条件 低速 高速

基板温度(℃) 180 200

原料ガス SiH4, H2 SiH4, H2SiH4 流量(sccm) 4.5 10

SiH4 流量/全流量(%) 4.5 1.5

製膜圧力(kPa) 0.1 2.4

励起周波数(MHz) 100 100

投入電力(W/cm2) 0.1 2.2

電極間距離(mm) 20 4

製膜速度(nm/s) 0.38 6.1

変換効率(%) 9.18 7.05

図1 a-Si/�c-Siタンデム型太陽電池の構造(上)とバンド図(下).p,i,n各層は,添加不純物の混入を避けるために,それぞれ異なる製膜室で製膜する.ガラス基板上の透明電極(TCO)膜では,光散乱により光路長を延ばす光閉じ込め効果を得るため,表面粗さが大きい(RMSラフネス 20

~30 nm)テクスチャ構造が用いられるため,a-Si,�c-Si

太陽電池の各層界面は,下部の凹凸を反映する.

表1 太陽電池 i層用 Si系薄膜の諸特性.アモルファス材料のバンドギャップは,�E =(E − Eo)n(�:光吸収係数,E:フォトンエネルギー,Eo:バンドギャップ)から求めるが,複数の算出方法がある(n = 2:Tauc,n = 3:cubic).

図2 i層用プラズマ CVD装置の概略図(MFC:流量計,TMP:ターボ分子ポンプ,RP:ロータリーポンプ).直径4インチの電極間に 2 cm角のガラス基板を最大4枚配して製膜を行う.

表2 太陽電池i層用�c-Si膜の製膜条件の一例[28,37].太陽電池の開口面積は,0.23 cm2.n-i-p構造で,下部 TCO電極にはテクスチャ構造を使用した.

Journal of Plasma and Fusion Research Vol.86, No.1 January 2010

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Page 3: 7.プラズマCVDによる高速製膜技術を用いた 微結晶Si太陽電池の高効率化 · 膜面積の大面積化,および3)同時製膜基板の複数枚化が ある.

本装置は,既存汎用装置(株式会社ユーテック製)を基

に,VHF帯域励起やナローギャップ対応などの改造を施し

た装置である.本装置では,ガラス基板は,ロードロック

室より,基板ホルダーにより搬送され,下部アノード電極

上に置かれるデポダウン構造を採用している.生産用装置

では,上部電極に付着したパーティクルの剥離,基板上へ

の降下を避けるため,アノードを上部電極とするデポアッ

プ構造やアノード,カソードともに垂直に対向した構造を

用いるが,研究用途であることから,使い勝手の良さで勝

るデポダウン構造を採用した.いずれの構造においても,

カソード電極は,ガス供給口を兼ね,シャワーヘッドによ

り,原料ガスが電極面内へ均一に供給されるようにする.

シャワーヘッドの個々の穴径と穴の個数により,堆積した

膜の膜厚の面内均一性が変化するだけでなく,�c-Si の結

晶化率などの膜質の面内均一性,さらには製膜速度も大き

く変化する.カソード電極に高周波電圧を印加し,電子を

放出させることで,原料ガスを電子衝突解離させる.VHF

帯域使用により,整合回路のインダクタンス成分が微小と

なるため,整合器は,配線によるインダクタンスの増加を

抑制するため,製膜室に近接させている.本装置では,基

板ホルダー搬送後,下部アノード電極を上昇させ,電極間

距離を狭めるナローギャップ化が可能となっている.基板

ホルダーの上面と基板上面は一致させている.アノード電

極内部には,基板加熱用ヒーターがあり,基板ホルダーに

は,良好な熱伝導と出ガスの少なさから SiC 焼結体を用い

ている.基板温度は,ホルダー上のガラス基板に熱電対を

接着し,各製膜圧力下で測定した.さらに,�c-Si 太陽電池

では,a-Si 太陽電池より,不純物混入による太陽電池性能

の低減が顕著であるため,ガス純化器の設置やシール性能

の高いガス配管継ぎ手の使用,あるいは配管の溶接接続な

ど,ガス供給側での不純物混入を避ける工夫が必要であ

る.製膜圧力は,可変コンダクタンスバルブで制御し,大

流量対応のターボ分子ポンプで排気を行う.排ガスには,

窒素ガスを加えて希釈し,除害設備を通して排出する.

図2では,簡略化のため,排気口は1カ所にしているが,

高圧領域では,ガス供給と同様に空間的に均一な排気を行

うための工夫も必要になる.

7.2.4 微結晶 Si 薄膜の膜成長過程

プラズマCVD法は,イオンエネルギー,プラズマ密度,

電子温度などのプラズマパラメータで決定される物理気相

堆積(PVD)法の要素を持つ化学気相堆積(CVD)法であ

り[15],製膜条件によっては,PVD的要素が強く現れる

が,a-Si においては,それを抑えた条件で良質な膜が得ら

れている.したがって,a-Si の膜成長過程は,1)プラズマ

中におけるSiH4分子の電子衝突解離およびSiH3などの前駆

体(ラジカル,イオン)の生成,2)前駆体の膜成長表面へ

の輸送,3)膜表面反応と反応により生成した前駆体の気

相中への再放出,という化学反応でよく説明できる

[16].SiH4分子の電子衝突解離により,解離に要するエネ

ルギーの最も低い SiH3ラジカルが多く解離されるため,Si

膜成長過程においては,SiH3 ラジカルが最も大きく関与す

る.�c-Si においては,a-Si の膜成長過程に加えて,一般の

非平衡条件下での結晶成長過程:a)核形成,b)凝集 c)競

争成長を経る.核形成には,H2 ガスによる希釈と高投入電

力が有効である[15,16].赤外分光測定により算出したプ

ラズマ中の SiH4 濃度は,原料ガス流量比で算出した SiH4濃度より,製膜した�c-Si の結晶化率と良い相関を持つ

[17].

次に,膜成長過程を物理的視点から考察してみよう.非

平衡下の成長表面において,ある場所�,ある時間�に高さ

�であった表面高さの時間変化は,一般的な連続の式であ

るランジュバン方程式で表される[10,11,18].

�������

������ (1)

ランジュバン方程式は,ブラウン運動を確率的に記述した

運動方程式である.ここで,第1項�は,拡散方程式に基

づいた決定論的項であり,初期条件ならびに境界条件を与

えれば,一義的な解が得られる.一方,第2項�は,ある

確率で与えられる統計的なばらつきを表す項(ノイズ項)

であり,デルタ関数�を用いて表すことができる.また,

�は,時間�の関数となる熱的ノイズと高さ�の関数となる

消滅ノイズに大別される.モンテカルロシミュレーション

により,�c-Si の成長過程を考察した結果,太陽電池 i 層に

好適な柱状構造を有する�c-Si においては,ランジュバン

方程式に関して,消滅ノイズが適しており,粒状構造を有

する�c-Si に比べて,前駆体の表面拡散距離が短いことが

示唆された.言い換えると,表面に輸送された前駆体の付

着確率が高いことが示唆され,より PVD的要素が強いこ

とが伺える.

7.3 高速製膜7.3.1 高速製膜の必要性

図1の2接合タンデム型太陽電池の場合には,a-Si トッ

プセルにおける i 層の膜厚は,おおよそ 0.2~0.3 μm,�c-Si ボトムセルにおける i 層の膜厚は,おおよそ 1~2 μmとなり,光吸収係数の小さい�c-Si では,a-Si に比べ厚い膜

厚を要する.また,p層および n層の膜厚は,トップセル,

ボトムセルいずれも0.05 μm以下であるため,i層の製膜時間,特に�c-Si ボトムセルの i 層の製膜時間が,生産性向上

に対するボトルネックになることは,容易に想像できる.

p層および n層の製膜時間との整合性等を考慮すると,i

層の製膜時間が,5~10分程度であれば生産性向上に大幅

に寄与できると仮定すると,a-Si トップセル i 層には,0.3

~1 nm/s,�c-Si ボトムセル i 層には,2~7 nm/s の製膜速

度が要求されることになる.以下では,より速い製膜速度

を必要とする�c-Si に関して,高速製膜技術の進捗につい

て説明を行う.

7.3.2 励起周波数

プラズマCVD法による�c-Si の製膜には,a-Si 同様に

SiH3 ラジカルが大きく関与する[13].したがって,製膜速

度向上には,SiH3 ラジカルを効率よく生成する必要があ

る.さらに,低欠陥密度膜を製膜するためには,プラズマ

のイオンエネルギーを低くすることが有効である.ラジカ

Special Topic Article 7. High-Efficiency Microcrystalline Si Thin-Film Solar Cells Using High-Rate Deposition Techniques by Plasma Enhanced Chemical Vapor Deposition T. Toyama

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ル生成の促進およびプラズマのイオンエネルギーの低減の

両者に有効な製膜パラメータは,励起周波数の増加である

[19].

スイス・Neuchâtel大学による�c-Si太陽電池[20]および

a-Si/�c-Si タンデム型太陽電池(Micromorph セル)の報告

により[4],従来使用されてきた励起周波数 13.56 MHz よ

りもVHF帯域である60~100 MHzでの励起が,�c-Si 製膜

に好適であることが明らかとなった.また,励起周波数の

増加により,プラズマ中の電子温度やイオンエネルギーが

低下することも報告された[19,21].これらの報告から,プ

ラズマCVD法でしばしば問題となるイオン衝撃を軽減す

る効果が,�c-Si 製膜に有効であると理解されている.加え

て,励起周波数を増加すれば,カソード電極からの電子放

出も増加し,SiH4 分子の電子衝突解離が促進されるた

め,製膜速度は増加し,ガス使用効率が向上することにな

る.さらに,励起周波数の増加は,a-Si[22],a-SiGe

[23],そして微結晶 SiGe(�c-SiGe)[24]の製膜速度増加に

も有効である.

7.3.3 高圧枯渇領域

�c-Si の作製には,SiH4 ガスのH2 ガス希釈と高投入電力

が有効であることが早くから指摘されていた[25].ところ

が,製膜した�c-Si は,欠陥密度が多く,光感度に乏しいも

のであった.そこで,産業総合研究所(産総研)は,高製

膜圧力下で高H2 希釈・高投入電力条件での製膜を行った

結果,単に製膜速度を増加させるだけでなく,欠陥密度の

少ない�c-Si を製膜するためには,高圧枯渇領域下で製膜

することが有効であることを報告した[26,27].これは,

従来 0.1 kPa(約 1 Torr)以下であった製膜圧力を数倍以上

増加させ,SiH4 原料ガスの供給を十分にした上で,高電力

を投入し,SiH3 ラジカル生成を促進させる.その結果,製

膜速度は,投入電力に対して,増加から,飽和さらには減

少へと転じる.製膜速度の飽和・減少領域では,SiH4 はす

べて解離し,枯渇しているため,このような製膜条件領域

は,高圧枯渇領域と呼ばれている.高圧下では,プラズマ

中の電子の平均自由行程が減少することから,プラズマの

電子温度が低減する効果があるため,これも�c-Si の欠陥

密度低減に有効であると考えられる.VHF(100 MHz)励

起と高圧枯渇領域を組み合わせた結果,9.13%と高効率な

�c-Si 単接合太陽電池が得られている[28].�c-Si 層は製膜

圧力 0.93 kPa(7 Torr)の条件下で製膜され,製膜速度 2

~3 nm/s であった.

VHF励起・高圧枯渇領域での�c-Siの高速製膜ならびに

太陽電池応用は,現在広く行われており,これまでに三菱

重工業[6,29],キヤノン[7,30],ドイツ・Forschungszen-

trum Jülich GmbH[31],オランダ・Utrecht 大学[32]から

高圧枯渇領域での研究結果の報告がなされている.オラン

ダ・Utrecht大学は,約1 kPaの高圧条件を用いることによ

り,製膜速度 4.5 nm/s の高速製膜�c-Si を用いた太陽電池

で変換効率 6.7 %を達成している[32].図3に各研究機関

および企業から報告された�c-Si単接合太陽電池のi層製膜

速度と変換効率との関係をまとめている[25‐37].製膜速

度が増加すると,太陽電池の変換効率が低下傾向にある.

製膜圧力の増加にともない,枯渇条件を満たす投入電力も

増加するため,前述した問題点,高い投入電力よるイオン

衝撃の増加が顕著になり,変換効率が低下傾向にあると推

察される.

そこで,製膜速度の更なる高速化と低欠陥密度を両立さ

せるために,2つの方法が試みられている.1つは,新規

な励起プラズマ源の開発である.産総研グループは,ホ

ローカソード型の微小プラズマ源を多数連結したマルチホ

ローカソード電極を用いたVHF帯域のプラズマCVD装置

を新たに開発し,8 nm/s の製膜速度で�c-Si の製膜に成功

した[33].また,欠陥密度も 1015 cm-3 台に抑制されてい

る.さらに,�c-Si 単接合太陽電池に応用した結果,製膜速

度 7.1 nm/s の i 層を用いて,変換効率 3.8%を得ている

[34].しかし,図3で示すように,現状では,前述の製膜

速度増加に対する変換効率の低減傾向の延長線上にあり,

新プラズマ源の特長は,まだ十分に発揮できていない.

7.4 高速製膜�c-Si 太陽電池の高効率化高速製膜領域では,図3に示したとおり,製膜速度の増

加にともない,太陽電池の変換効率が減少傾向にある.そ

こで,著者のグループでは,高速製膜領域でのさらなる高

効率化を図るため,2 kPa以上の高圧領域での�c-Siの製膜

を試みた[35,36].製膜に使う圧力領域は,基本的に分子流

と粘性流の中間の中間流となるが,より粘性流の要素が強

まるこの領域は,Si 系薄膜の製膜には向かないであろうと

予想された領域であり,実際にプラズマCVD法による製

膜の報告例はなかった.したがって,この圧力領域での製

膜自体,従来の平行平板型プラズマCVD法の限界を見直

す意義があった.実験の結果,図4に示すように,製膜圧

力を 2.4 kPa まで増加させると,製膜速度は 7 nm/sを超え

た.また,製膜速度は,投入電力の増加に対し,増加から

飽和・減少に転じる傾向があり,SiH4→SiH3+Hが進行し

尽くし,製膜に大きく寄与するSiH3ラジカルが新たに形成

図3 各研究機関・企業から報告された製膜速度の異なる i層を用いた�c-Si太陽電池の変換効率.

Journal of Plasma and Fusion Research Vol.86, No.1 January 2010

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されない状態,すなわち高圧枯渇領域内での製膜が行われ

ていることがわかる.なお,結晶化率など膜質を問わず,

製膜速度の増加のみを追求した結果[38],製膜圧力3.2 kPa

では,10 nm/sを超える製膜速度を得た.したがって,平行

平板電極用いても,マルチホローカソード電極での結果と

同等もしくはそれ以上の製膜速度で製膜することが可能で

あることが明らかとなった.

図5に高速(7 nm/s)で製膜した�c-Si 単接合太陽電池

(n-i-p構造)の断面TEM像を示す[39].図5で明らかなよ

うに空隙のない緻密な柱状構造が形成されていることがわ

かる.また,初期成長領域においても結晶格子像が確認で

き,下地ドープ層(n層)直上から結晶粒が連なっている.

さらに,X線回折測定より,この�c-Siは,(1 1 0)優先結晶

配向性を有することが明らかとなった.この時の結晶化率

は,50 %程度である.(1 1 0)優先結晶配向性ならびに結晶

化率50%付近が太陽電池 i層として好適であるという結果

は,我々のグループが,変換効率 9.18%の単接合太陽電池

に用いた低速(0.38 nm/s)で製膜した�c-Si の構造特性と

同様であった[28,40].

結晶化率と変換効率との相関は,高速製膜した�c-Si に

おいても粒界が光キャリアの再結合中心であることを示唆

する.これを実証するために,�c-Si 表面面内での光キャリ

ア拡散長����の測定を行い,横方向粒径との対比を行った

[10,11,41‐43].図6に様々な作製条件で製膜した�c-Si

薄膜表面における光キャリア拡散長����と横方向粒径��との相関を示す.概ね�������で表され,粒界での再結合

が支配的であることが示唆された[41].したがって,横方

向粒径の増加により,曲線因子や���の改善が期待され

る.これまでに(1 1 0)優先配向膜において,大きな横方向

成長を観測している[44].また,欠陥密度が大きな�c-Si

[42]および不純物の混入[43]により n形化した�c-Si で

は,光キャリア拡散長が横方向粒径に比べて小さくなる傾

向にある.今のところ,電子スピン共鳴(ESR)法で見積も

られたダングリングボンド欠陥密度は,1016 cm-3 台後半

から 1017 cm-3 台前半と,比較的多い.一方,基板温度を

180℃から220℃へ高くすることにより,欠陥密度は低減す

ることが,一定光電流測定(CPM)法1[45]で得られたサブ

ギャップ光吸収スペクトルから示唆された[46].また,基

板温度の増加により,暗導電率の活性化エネルギーは,

0.508 eV となり,真性に近いことが確認された.

このような知見を基に 2 kPa 以上の高圧条件下で得られ

た�c-Si を単接合太陽電池に応用した結果,製膜速度

8.1 nm/s の i 層を用いて,変換効率 6.30 %を[36],製膜速

度 6.1 nm/s の i 層を用いて,変換効率 7.05 %を達成してい

1 一定光電流測定(Constant Photocurrent Method:CPM)法:通常の透過分光法では測定できない微弱な光吸収を測定する簡便

な方法.半導体薄膜,特に a-Si や�c-Si など Si 系薄膜の欠陥密度や欠陥順位分布の評価法としてよく用いられている.

図4投入電力を変化させたときの�c-Siの製膜速度.製膜圧力は,1.6 kPa(■)と 2.4 kPa(●).

図5 �c-Si太陽電池の断面 TEM像.i層の製膜速度は,7 nm/s.下部透明電極(Al添加 ZnO)膜の表面は,製膜後,希釈塩酸水溶液でエッチングし,RMS表面粗さを約 20 nmにした.

図6 様々な作製条件で製膜した�c-Si薄膜表面における光キャリア拡散長 Lambと横方向粒径�Lとの相関.

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る[37].その結果,図3における製膜速度増加に対する変

換効率の低減傾向からは脱却し,高速製膜領域において

も,実用レベルに近い変換効率を有する太陽電池が作製可

能であることを実証した.

7.5 残されている課題励起周波数を増加させると,波長は短くなり,大面積化

との両立が困難となる.つまり,周波数 60~100 MHz であ

れば,半波長は,2.5~1.5 m となる.現在では,基板サイズ

が,既に 1 mを超え,さらに 2.4 m×2.6 m角基板での生産

も行われているため,定在波が生じることを避ける必要が

ある[47,48].この問題の対策として,製膜サイズに対応し

た励起周波数の選択(例えば,周波数 40 MHz,半波長 3.75

m)[49],もしくは,ラダー型[6]およびアレイアンテナ型

[50]等の従来の平行平板型以外の新たなプラズマ励起源の

開発が試みられており,一部は既に生産設備に導入されて

いる[6,49].

また,高圧化が進むと Paschen 則により,製膜圧力に反

比例して,電極間距離が狭くなる.上述した 2 kPa を超え

る高圧条件では,1 cm以下のナローギャップでデバイスグ

レードの膜が得られている[24,32].著者のグループでは,

電極間距離 4 mmを用いた[36].電極間距離が狭くなれ

ば,mm台の空隙を 1 m以上に渡って保たなければならな

くなり,基板加熱にともなう基板の変形を含めて,大面積

化における装置の機械的精度への要求が厳しくなる.ま

た,電極面内でのガスの流れが滞り,排気も容易にはでき

なくなるなど,生産設備の設計が,より難しくなる問題が

ある.また,高圧高電力プラズマからの輻射熱による基板

加熱の影響を受け易くなり[35,51],基板温度を分単位の

タクトタイムの中で一定にかつ面内均一に保つことは,困

難を極める.さらに,高圧力下では,気相中の活性種同士

の2次反応が促進され,Si2H6+など高次シラン正イオンの

形成が容易になり,パウダー形成が起こることも報告され

ている[52].高次シランの付着は,欠陥形成に繋がり,ま

た,パウダー除去のために,反応室を大気暴露すると,生

産性が低下するため,2次反応の抑制が必要である.

こうした高圧化にともなう電極間距離のナローギャップ

化に関する課題解決には,プラズマ源の改良が有効であ

る.前述したマルチホローカソード電極では,電極間距離

の制約は緩和される[33].三洋電機株式会社は,カソード

電極表面を微小ピラミッドアレイ形状とし,排気もカソー

ド電極を通して行う局在プラズマCVD法を開発し,55 cm

×65 cmの基板上で,膜厚の均一性±2.4 %,製膜速度 2.4

nm/sの�c-Siを用いたa-Si/�c-Si 2接合タンデム型太陽電

池で変換効率 10.36 %を報告した[53].

このような生産技術へ向けた課題以前に,�c-Si の製膜

に関しては解決されていない基本的な課題が残されてい

る.i 層用には,柱状構造を有する(1 1 0)配向膜が,粒状構

造を有する(1 1 1)配向膜より,好適であることは前述した

通りであるが,この柱状構造を得るための製膜における要

因が解明されていない.したがって,上述した高効率化へ

の過程では,過去の経験に基づいて,職人芸的に製膜条件

の最適化を図った.結晶性の薄膜の有するトポロジー構造

と製膜条件との相関については,古くから研究がなされて

おり,例えば,熱CVD法における多結晶Si膜であれば,結

晶核密度が柱状構造と粒状構造とに別れる主な要因である

ことが報告されている[54].この場合,製膜圧力や基板温

度による前駆体の表面拡散距離の制御が重要となることは

容易に想像できる.逆に,典型的なPVD法であるスパッタ

法で製膜した金属厚膜(約 25 μm厚)においても,やはり製膜圧力と基板温度により,結晶核密度が変化し,トポロ

ジー相図が描けることが早くから報告されている[55].

著者のグループでは,初期核密度と結晶配向性との相関

について着目し,フラクタル概念を取り入れたトポロジー

解析を行ってきたが,PVD的要素を持つCVDであるプラ

ズマCVD法によるアモルファス相と結晶相の混相材料で

ある�c-Si 膜成長は,やはり一筋縄ではいかないようであ

る.まず,低速製膜では,膜成長過程の項で説明した通り,

柱状構造膜の方が,粒状構造膜より,前駆体の表面拡散距

離が短く,結晶核密度が高くなる傾向が見られたが[44],

高圧(2.4 kPa)高速(7 nm/s)製膜では,結晶核密度のよ

り高い膜において,製膜時間100秒ぐらいまでの膜成長初

期段階では,柱状成長を示さず,その後,膜厚 1 μmぐらいを経過してから,突如柱状成長を示唆する結果も得られた

[56].高速製膜の例は,ナローギャップ下での高圧高電力

プラズマからの輻射熱による基板温度の過渡的な擾乱の影

響であろうと推察される.したがって,やはり結晶核密度

が主たる要因の一つであろうとは推察しているが,未だ結

論には到っていない.今後,これまで考慮してこなかった

ようなプラズマパラメータと膜の構造特性との関連性(例

えば,プラズマ密度と結晶核密度との相関)を明らかにす

ることで,新たな展望が開くのではないかと期待してい

る.関連性が得られれば,結晶核密度の制御性が向上する

とともに,さらに発展させれば,現時点では太陽電池用途

には用いられていないような低圧高密度プラズマ源でも,

太陽電池用の�c-Si 膜として高品位な膜を得られる方向へ

適合させることが可能となり,現状の高速化と大面積化と

のジレンマから脱却できるのではないかと期待している.

7.6 まとめ世界的な太陽電池の爆発的な需要増に対応するための高

生産性化技術として,�c-Si における高速製膜技術につい

て述べてきた.しかしながら,高速化技術と大面積化技術

は,相反することが多い.製膜速度の増加に有効な高い励

起周波数は,定在波の生成による面内均一の劣化を引き起

こす.また,同じく高速化に有効な高圧条件は,電極間距

離のナローギャップ化を必要とするため,大面積装置の設

計を困難にする.しかし,高速化と大面積化とを両立させ

る生産技術の開発が進んでいる.また,高速製膜した�c-

Si の物性も徐々に明らかになってきており,今後の変換効

率改善が期待される.このような知見の基に,高効率を維

持したまま,新規なプラズマCVD法を開発し,生産性の向

上により生産量が増加すれば,液晶ディスプレイにおける

a-Si 薄膜トランジスタと同様の経験則に従い,生産コスト

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は減少することが期待される.

謝 辞本稿をまとめるにあたり,貴重な御意見・御助言を賜り

ました大阪大学・岡本博明教授,松田彰久特任教授,傍島

靖助教,佐田千年長特例嘱託技術員,そして,研究室所属

学生および卒業生他関係者の皆様に厚く御礼申し上げま

す.

参 考 文 献[1]太和田善久,岡本博明監修:薄膜シリコン系太陽電池の

最新技術(シーエムシー出版,2009).[2]浜川圭弘編:太陽電池(コロナ社,2004).[3]太陽光発電技術研究組合監修,小長井誠編:薄膜太陽電

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