東南アジア5カ国における主要銀行の経営構造: -...

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2006年8月 第30号 1 第1章 はじめに 新興経済国の銀行市場は、各国の銀行市場 の自由化と対外開放が進み、1990年代以降大 きな変化を遂げつつある。自由化政策によっ て地場銀行間の競争が高まり、他業種からの 新銀行の市場参入なども進んでいる。また大 規模な統合・合併が各国で見られており、小 規模銀行が乱立する従来の構造から、小数の 大銀行による集中的な構造への転換が起こっ ている。更に近年の特徴として、金融部門の 対外開放を背景に、多国籍銀行の進出が各地 域で活発に見られるようになっている *1 本稿の目的は、1997年のアジア危機を契機 として大規模な市場再編を経験してきた東 南アジア諸国の銀行経営について、現時点 における各国市場の特徴を概観することであ る。本稿は銀行経営に関する何らかの仮説を 検証しようとするものではなく、インドネシ ア、タイ、マレーシア、フィリピン、韓国の 5カ国について、主要銀行の経営の実態に関 するファクトファインディングを目的とし ている。以下では、まずはじめに、東南ア ジア各国のそれぞれについて、クラスター 分析(Cluster Analysis)を利用した銀行経 営の特性分類と、DEA(Data Envelopment Analysis)を利用した(非)効率性の計測を 行う。次に、各国市場の分析結果を利用して、 東南アジア諸国の国際的な比較を行い、銀行 経営の国毎の特徴を議論する。 第2章 東南アジア諸国への DEA 分析の適用について 1.DEA のメリットとデメリット 本稿では、東南アジア諸国の銀行市場にお ける銀行経営構造の比較手法として、DEA を適用する。DEA は生産関数などを利用し たパラメトリック分析と比較して、関数形を 予め特定化しなくてよい点で恣意性を回避で きるというメリットがある。また、パラメト リック分析が不偏推定量を得るのに多数のサ ンプルを必要とするのに対して、比較的少な いサンプルでも分析が可能であるという点で も優位性がある。このようなメリットがある ため、近年、銀行経営の分析でも多くの研究 が DEA を利用しており、東南アジアの銀行 市場における分析でも、Katib and Mathews (2000) や Intarachote(2005) は じ め DEA の手法による分析が現れてきている。 その一方で、DEA にはサンプルの観察誤 差を想定していないため、不適切なサンプル が混入すると分析結果が大きく歪むという欠 点を持っている。また、経済理論による裏 づけを持った関数形を想定していないことか ら、変数の選択の仕方によっては、理論的に 見て問題のある計測を行ってしまう危険性を 持っている。このため、DEA を銀行の経営 構造の分析に利用する場合にも次の点には十 分注意しなければならない。 東南アジア5カ国における主要銀行の経営構造: DEA とクラスター分析による国際比較 一橋大学 経済学部教授  奥田 英信 一橋大学大学院  竹  康至 ………………………………………………………………………………………………………………………………………………………… *  本稿作成のための資料収集及び現地調査に関して、国際協力銀行開発金融研究所並びにバンコク駐在員事務所より多大のご 支援を頂いた。また本稿作成の過程で、Chulalongkorn 大学の Dr. Sunti Tirapat、Dr. Chayodom Sabhasri、タイ開発研究 所(TDRI)の Dr. Pakorn Vichyanond、Dr. Thida Intarachote、タイ中央銀行の Dr. Pichit Patrawimolpon、Dr. Saovanee Chantapong、日本大学の橋本英俊氏をはじめ多くの方々から、有益なコメントを頂いた。 *1 多国籍銀行の進出については、奥田・ランソンブーン(2006)を参照。

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Page 1: 東南アジア5カ国における主要銀行の経営構造: - JICA...がDEAを利用しており、東南アジアの銀行 市場における分析でも、Katib and Mathews

2006年8月 第30号 �1

第1章 はじめに 新興経済国の銀行市場は、各国の銀行市場の自由化と対外開放が進み、1990年代以降大きな変化を遂げつつある。自由化政策によって地場銀行間の競争が高まり、他業種からの新銀行の市場参入なども進んでいる。また大規模な統合・合併が各国で見られており、小規模銀行が乱立する従来の構造から、小数の大銀行による集中的な構造への転換が起こっている。更に近年の特徴として、金融部門の対外開放を背景に、多国籍銀行の進出が各地域で活発に見られるようになっている*1。 本稿の目的は、1997年のアジア危機を契機として大規模な市場再編を経験してきた東南アジア諸国の銀行経営について、現時点における各国市場の特徴を概観することである。本稿は銀行経営に関する何らかの仮説を検証しようとするものではなく、インドネシア、タイ、マレーシア、フィリピン、韓国の5カ国について、主要銀行の経営の実態に関するファクトファインディングを目的としている。以下では、まずはじめに、東南アジア各国のそれぞれについて、クラスター分析(Cluster Analysis)を利用した銀行経営の特性分類と、DEA(Data Envelopment Analysis)を利用した(非)効率性の計測を行う。次に、各国市場の分析結果を利用して、東南アジア諸国の国際的な比較を行い、銀行経営の国毎の特徴を議論する。

第2章 東南アジア諸国へのDEA 分析の適用について

1.DEA のメリットとデメリット

 本稿では、東南アジア諸国の銀行市場における銀行経営構造の比較手法として、DEAを適用する。DEA は生産関数などを利用したパラメトリック分析と比較して、関数形を予め特定化しなくてよい点で恣意性を回避できるというメリットがある。また、パラメトリック分析が不偏推定量を得るのに多数のサンプルを必要とするのに対して、比較的少ないサンプルでも分析が可能であるという点でも優位性がある。このようなメリットがあるため、近年、銀行経営の分析でも多くの研究が DEA を利用しており、東南アジアの銀行市場における分析でも、Katib and Mathews

(2000)や Intarachote(2005)はじめ DEAの手法による分析が現れてきている。 その一方で、DEA にはサンプルの観察誤差を想定していないため、不適切なサンプルが混入すると分析結果が大きく歪むという欠点を持っている。また、経済理論による裏づけを持った関数形を想定していないことから、変数の選択の仕方によっては、理論的に見て問題のある計測を行ってしまう危険性を持っている。このため、DEA を銀行の経営構造の分析に利用する場合にも次の点には十分注意しなければならない。

東南アジア5カ国における主要銀行の経営構造:DEAとクラスター分析による国際比較*

一橋大学 経済学部教授 奥田 英信一橋大学大学院 竹  康至

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

*  本稿作成のための資料収集及び現地調査に関して、国際協力銀行開発金融研究所並びにバンコク駐在員事務所より多大のご支援を頂いた。また本稿作成の過程で、Chulalongkorn 大学の Dr. Sunti Tirapat、Dr. Chayodom Sabhasri、タイ開発研究所(TDRI)の Dr. Pakorn Vichyanond、Dr. Thida Intarachote、タイ中央銀行の Dr. Pichit Patrawimolpon、Dr. Saovanee Chantapong、日本大学の橋本英俊氏をはじめ多くの方々から、有益なコメントを頂いた。

*1 多国籍銀行の進出については、奥田・ランソンブーン(2006)を参照。

所報30号.indb 31 2006/08/04 18:00:21

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�� 開発金融研究所報

 前者の問題点に関しては、サンプルの中にどのような銀行を含めるべきかということに関わってくる。東南アジアの銀行市場には、大規模なセンターバンク、小規模のリージョナルバンク、農村開発などを目的とした専門銀行、政府系開発銀行、外国銀行支店など多様な銀行が含まれている。従って、適切な分類をしないで DEA を用いると、サンプル中に異質の銀行が含まれ、銀行の効率的経営を表すフロンティアの形状が歪みを生じる。 後者の問題点については、銀行の生産物と投入物として何を計測するかが重要な問題となる。特に、量的な指標と質的な指標を如何に適切に利用するかが難しい問題となる。例えば、銀行の生産物として貸出額を用いた場合、貸出金利収入の大小や、貸出に含まれる不良債権の比率などは、無視されることになる。このため、量的には効率的な経営をしているように見えても、質的には収益性の低い経営をしているという可能性が生じてくる。 DEA は比較的に自由なサンプル選択と計測処理ができる反面、理論的な整合性や、厳密なサンプル分割を行わないと、実態とかけ離れた計測結果を導いてしまう危険性を内包しているといえる。

2.変数の選択と計測方法

 上述のように DEA では生産要素と産出物の選択には特に注意を払う必要があるが、何を銀行の生産物や投入要素とすべきかについては多様な議論があり、その選議論は集約されていない。先行研究では、その選択に関して大別して Value-added approach とOperating approach の2つのアプローチとられている。 2つのアプローチの違いは、何を銀行の

生産物として計測するかによる。銀行は、単に収益を最大化しているのではなく、リスク 管 理(risk management) や、 サ ー ビ ス提供能力(service provision)、金融仲介機能(intermediation)、公共的機能の提供能力(utility provision)の拡充をも目標においていると考えられる。一般的に、収益の最大化にはリスク管理が必要であり、サービス提供能力の拡充には金融仲介機能や公共的機能が必要であることから、利潤最大化(profit maximization)と、サービス提供能力の拡充

(service provision)に銀行機能を大別することができる(Grigorian and Mahole(2002))。 Value-added approach では、銀行生産物として貸出や預金規模などのストック変数が採用されている。収益面だけではなく、サービス提供能力(service provision)を分析することが可能になるが、資産の質の評価に問題が生じる可能性がある*2。例えば、同規模の貸出を持つ銀行でも、不稼動債権が多く含まれているかどうかで、銀行経営の内容は異なる。従って、貸出額を単純に生産物として利用して DEA の測定を行うと、不稼動債権分が調整されずに不適切な計測結果が観察されてしまう。 Operating approach では、銀行生産物として金利収入や手数料収入といったフロー変数が採用されている。従って、規模が小さくても収益性の優れた銀行は、高い効率性が観察される。また、不稼動債権が多く含まれている場合には、金利収入が小さくなるので、より経営の質に整合的な計測を行うことができる。 (図表1)は、Value-added と Operating の両アプローチで用いられる、産出物と投入物の変数をまとめたものである。 Value-added approach では資産面から見た効率性を、Operating approach では収益

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

*2 例えば Das and Ghosh (2005) は、銀行の生産物として Advance, Investments, Demand deposits, Saving deposits, Fixed deposits を、 ま た 銀 行 の 投 入 要 素 と し て Labor(employee expenses),Capital related operating expenses, Interest expenses を変数として用いている。

所報30号.indb 32 2006/08/04 18:00:21

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2006年8月 第30号 ��

面から見た効率性を分析することが示されている。 以上のように、いずれのアプローチを採用するかによって DEA の結果は大きく異なる可能性がある。本稿では、より多面的に銀行経営の特徴を捉えるために、Value-added approach と Operating approach の両方のアプローチによる DEA を併用して、両者の測定結果を対照しながら東南アジア銀行市場における個別銀行の経営特性と経営効率性について検討する。

3.対象国およびデータの選択

 本稿の分析対象国は、インドネシア、タイ、マレーシア、フィリピン、韓国の5カ国である。これらの諸国ではアジア危機までは閉鎖的であり外国銀行や外国資本による銀行経営への参加が制限されてきた。また、アジア危機後に、銀行部門の対外開放が進められ、リテール部門も含んだ広範な事業領域で外国銀行や外国資本の市場プレゼンスが大幅に高まった。これらの国々は、以上のような共通の傾向をもちつつも、従来の経緯から外国銀行がリテール部門まで深く浸透し、地場銀行とほぼ共通の経営内容を持ち市場占有度が比較的高い国もあれば、危機後に外国銀行が急速に進出しつつあるもののリテール部門への浸透は限界的で、外国銀行の経営内容は依然として地場銀行と大きく異なっている国もある。本稿では、これらの各国の市場構造を念頭におきつつ、各国銀行市場で外国銀行の経営がどのように共通点と相違点をもっている

かを検討した。 分析対象とする銀行は、インドネシア、タイ、マレーシア、フィリピン、韓国の現地法人で BANKSCOPE に収録されている銀行とし、現地法人でない外国銀行支店はサンプルには含まれていない。また業務内容が特定の領域に偏っていることに配慮して、政府系専門金融機関や小規模農村銀行はサンプルから除いた。 変数の選択は、各国で共通の項目データが取り易い様に、出来る限り大項目分類で指標を作成した。小項目で指標を作成すれば、各国の特徴を踏まえて詳細な分析が可能になるが、小項目になるほど国毎に項目分類に違いが生じる。本稿では、個別国の分析だけでなく、東南アジア地域の国際比較を行うことを目的としているので、各国比較が可能な程度に大項目での指標を利用してデータを処理した。

4.分析手順国際比較

 銀行市場の国際比較を行う場合、異なる国で営業している銀行の効率性を、直接に比較しても、余り有益ではない。何故なら、銀行の経営効率性は、マクロ経済情勢や金融制度の違いといった銀行業を取り巻く経営環境を強く反映しており、これらの経営環境は国によって少なからぬ違いがあるからである。仮に5カ国の銀行全てから生産フロンティアを作成し、各銀行の技術効率性を算出するとしよう。その場合、ある銀行の技術効率的が低いときに、その銀行固有の経営技術に問題があるのか、その銀行の属する銀行市場の状態

図表1 分析アプローチと利用変数

Variables Definition Variables DefinitionValue-added Y1 XecnavdA 1 Labor

Y2 XstnemtsevnI 2 Capital related operating expensesY3 XstisopeD 3 Interest expenses

Operating Y4 XemocnI tseretnI 1 LaborY5 Non-Interest Income X2 Capital related operating expenses

X3 Interest expenses

stupnIstuptuOModel

所報30号.indb 33 2006/08/04 18:00:21

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�� 開発金融研究所報

に問題があるのかが、個別の銀行の効率性からは識別できなくなる。 従って、異なる市場で経営している銀行の効率性を比較するためには、まず各国の銀行市場の生産フロンティアを DEA を用いて算出し、次にそれらの国別の生産フロンティア同士を比較することによって、政策的な違いによる銀行市場の効率性の比較を行う必要がある。 このため本稿では、2段階の手順を踏んで、対象5カ国の銀行経営の国際比較を行った。まず第4章で5カ国それぞれの生産フロンティアを計算し、各国の経営環境の下で最も効率的に経営が行われた場合の各国市場の特徴を分析した。その上で第5章では、第4章で導出した各国の生産フロンティアが互いにどのような位置関係にあるのかを検討し、5カ国の銀行市場の効率性について国際比較を行った。

第3章 銀行経営のクラスター分析

 各国の銀行市場では、規模や経営領域、あるいは所有属性に関して様々な銀行が存在する。各銀行はそれぞれの特性に合わせて、経営構造の違いがあると考えられる。本章では、次章で DEA による経営効率の計測に先立ち、各国毎にどの銀行とどの銀行とが経営構造の類似性を持っているのか、逆にどの銀行とどの銀行が経営構造に関して大きな違いがあるのかについて、クラスター分析の手法を利用して観察を行った。

1.クラスター分析

 クラスター分析とは、性質の異なる分析対象がデータ内に存在するときに類似性が高いものを集めて集落をつくり、分析対象を分類するものである。特徴としては、事前の仮説を設定せずに分析対象を分類できる。パラメトリック推計のようなモデルに対する恣意性

が存在しないメリットはあるが、得られる結果が理論モデルと整合的でない可能性があり、モデルの有意性を検定できないというデメリットが存在する。 クラスター分析は、分析対象や目的によって、多くのバリエーションが存在するが、本稿では凝集型の階層的クラスター分析によって、財務情報から銀行の分類を行い、その経営特性の分析を行う。 凝集型の階層的クラスターは、次のような手順によって分類を行う。【ステップ1】として分析対象を、それぞれ個別のクラスターとして分類を行う。【ステップ2】として、それぞれのクラスター間で、非類似性を計算し、最も類似性の高い二つのクラスターを融合して、一つのクラスターとして分類を行う。

【ステップ3】として、クラスター数が1になっていれば、分類を終了する。もしクラスター数が2以上ある場合は、【ステップ2】に戻り、クラスター数が1になるまで分類を継続する。クラスター間の非類似性の計算方法は、最短距離法、最長距離法、群平均法、重心法、メディアン法、ウォード法、可変法と数多くの分類方法があり、選択する計算方法でクラスター群に違いが出ることがあるが、本稿では比較的シンプルな重心法を用いた。重心法では、クラスターを構成する分析対象の変数ベクトルによって計算された重心間のユークリッド平方距離とおいて、分類のための非類似性の計算を行う。 (図表2)は、(x1, x2)という変数ベクトルを持つ、二つの性質を持つ A、B、C、Dの四つの分析対象を表している。まず、A、B、C、D の中で、A と B の距離が最も近く、Aと B で一つのクラスター E として分類することができる(図表3)。次に、E、C、D の中で最も距離が近いのは、C と D になるため、C と D をまとめて一つのクラスターFとして分類をすることができる(図表4)。最後に、残った二つのクラスター群である E と F を、一つのクラスターとしてGに分類をし、分類作業を完了する(図表5)。 図表6は、上述の手順でまとめた分類を、

所報30号.indb 34 2006/08/04 18:00:21

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樹形図として表示したものである。分析対象を A と B による群と、C と D による群に分類できることが分かる。

2.データセット

 本稿では、Value-added Approach 準拠の変数と、Operating Approach 準拠の変数に対し、次のような操作を行い変数ベクトルとして用いた。まず、各変数はクラスター分析をかける前に、それぞれ総資産で除算した。

Value-added Approach、Operating Approachで利用する変数は財務データであり、銀行の規模に対して強い相関を持つために、その影響をコントロールする必要がある。さらに、総資産で除したデータを、標準偏差により正規化して修正を行った。分析に用いる財務指標は、各変数間の分散が大きく異なり、一部の変数が強い影響をもつ可能性があるためそれらをコントロールする必要があるためである。

図表3 クラスター分析概念図②

図表2 クラスター分析概念図①

O

X1

A

B

C

D

図表5 クラスター分析概念図④

図表4 クラスター分析概念図③

O X2

X1

A

B

C

D

E

O X2

X1

A

B

C

D

E

F

O X2

X1

A

B

C

D

E

F

G

所報30号.indb 35 2006/08/04 18:00:22

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�� 開発金融研究所報

3.外資の進出状況とクラスター分析の計測結果

(1)インドネシア  インドネシアでは、外国資本はその規

模に関わらず多数の商業銀行に出資している。ただし、母国において銀行業を営む外資が、40%以上の資本を保有するケースは大規模な商業銀行においては観察されない。ただし、外国資本がインドネシア国内で持株会社を設立し、それを通じて銀行に出資しているケースが存在する。例えば、Bank Central Asia は、データベース上では外国国籍の法人の大口所有者は存在しないものの、過半数を占める Farallon Capital Management は米系ファンドだと知られている。Bank Danamon は、シンガポール政府系投資会社 Temasek が過半数を占める Asia Financial Indonesia が65.8%の株式を保有している。

  主要な外国銀行*3は現地法人としてではなく支店を開設して営業しており、外国企業向け企業金融や国際業務、あるいは富裕者向けプライベートバンキングなどに、特化したサービスを提供している。インドネシアでは、外国銀行の現地法人の設立、外

国銀行支店の進出の双方で規制は緩く、外国銀行の参入自体は容易である。しかしながら、他の ASEAN4諸国に比べてインドネシア経済が低迷を続けており、外国銀行に参入意欲が低いことが、外国銀行進出が遅れている原因であると考えられる。

クラスター分析結果: Value-added Approach 準 拠 の 分 類 と、Operating Approach 準拠の分類ともに、銀行の属性による経営構造の明確な違いは示されなかった。銀行規模によって群が分かれることは無く、また外資出資比率の高い銀行と地場銀行でも、クラスター群が分かれることが無かった。 外資出資比率の高い銀行は、アジア金融危機後のインドネシア金融再建庁による整理統合後に、外資の大幅な出資を受け入れた地場銀行である。外資出資後も国内に大規模な店舗網を持っており、外資出資比率の低い他の地場銀行と比較して、営業分野に特に明確な違いがないと考えられる。ただし、日系企業向けに営業を行っているBank UFJ、Bank Mizuho などの邦銀は、地場の主要銀行とは異なる群に分類されており、金融危機後に外資系となった地場銀行とは、経営領域が異なることが確認された。その他の特徴としては、旧華人系銀行と知られる Bank Central Asia と Bank Lippo が、比較的近い群に分類され、両者の経営特性が近いことが示唆されている。

(2)マレーシア  United Oversea Bank を例外として、全

ての外資系銀行は外国銀行の100%出資銀行であり、外国銀行が部分的に資本参加している銀行はない*4。また外国資本の出資は、

図表6 クラスター分析によって作成された    樹形図

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

*3 主要な外国銀行としては、ABN AMRO、Citibank、Standard Charters、HSBC、UOB、DBS などがある。*4 United Oversea Bank が45%と例外になるが、全ての主要株主の究極の株主はシンガポールの United Oversea Bank であり、

実質的に100%子会社となる。

所報30号.indb 36 2006/08/04 18:00:22

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タイの Bangkok Bank を例外として、外国資本は ASEAN4域外からのものである。

  マレーシアでは、総資産規模に占める外資系銀行の比率は、ASEAN 4で最もが高く、外資系銀行の数でも8行と最も多くなっている。これは、マレーシアの外国銀行は1行1支店が原則ではあるが、 歴 史 的 経 緯 に よ り Citibank、HSBC Bank、Standard Chartered Bank、United Overseas Bank、OCBC Bank の主要外銀5行は支店網を持つことができたため、マレーシア銀行市場へ浸透が進んでいるからである。しかし、マレーシアではアジア金融危機後に外国資本への規制を強化したことと、外資を活用した銀行再編処理を行わなかったことから、他の ASEAN 諸国のように危機を契機とした外国銀行の銀行部門への進出は見られなかった。

クラスター分析結果: Value-added Approach 準 拠 と Operating Approach 準 拠 の 両 方 の 分 類 で、ABN AMRO Bank、JP Morgan Chase Bank、Export-Import Bank of Malaysia の属する群が、その他の銀行群から分離された。これらの銀行はいずれも営業店舗が一つの外国銀行支店であり、国内店舗網をベースとして営業している地場銀行とは明瞭に経営構造が異なっていることが示された。 一方で、外資系銀行の中でも Citibank、HSBC Bank、Standard Chartered Bank、United Overseas Bank、OCBC Bank については、地場銀行と同じ群に分類された。これらの銀行は、マレーシアにおける営業暦が長く一定規模の国内支店網を持って活動を行っている銀行であるため、地場銀行と同様の経営活動を行い営業特性も類似していることが

示されたと考えられる。

(3)フィリピン  フィリピンでは、様々な規模の多くの

銀行に外資の出資が見られ、マレーシアのMay Bank を例外として、そのほとんどがASEAN4域外からの外国資本の出資である。また、外資を入れている銀行は多数観察されるが、外資出資比率が高い銀行の数は少なく、外資系銀行の比率は銀行総資産の7.1%で、外資系銀行数も3行に留まる。フィリピンは1995年に IMF 8条国に移行し原則として外国銀行の進出も自由である。しかし、経済が低迷を続けておりビジネスチャンスが乏しいことが外資系銀行の進出の低さの原因であると考えられる*5。

クラスター分析結果: Value-added Approach 準 拠 の 分 類 とOperating Approach 準拠の分類のいずれについても、外資系銀行と地場銀行のクラスター群が明瞭に分かれることが無く、両者の経営構造について明確な分類は示されなかった。ただし、Rizal Commercial Banking Corp、United Overseas Bank、Maybank Philippines らの外資出資比率が高い銀行同士では、互いには経営特性が近いことが示された*6。

(4)タイ タイでは、規模に関わらず多くの銀行で外

国資本の出資が観察されるが、外資出資比率の高い銀行は限られる。外国資本のほとんどが ASEAN4域外からのものであるが、外国銀行の出資が50%を超えるのは、アジア金融危機後の銀行再編処理の過程で地場銀行を買収したものに限られている。大規

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

*5 一旦進出しても撤退する外資もある。ラ米に大規模な進出を見せている Banco Santander Central Hispano は、アジア危機後にフィリピンに進出したが短期間で撤退した。

*6 Chinatrust Commercial Bank については他の外資出資比率の高い銀行と経営内容が相当に異なっているという計測結果が得られた。

所報30号.indb 37 2006/08/04 18:00:22

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�� 開発金融研究所報

模行でも、外国銀行の資本参加は観察されるが、10%を超えるような大きな水準ではない。総資産規模に占める外資系銀行の比率は5.5%で、外資系銀行数も4行と多くはない。タイでは金融危機後に外資の進出が一時的に認められたが、現在では外資系銀行の新規進出は規制されているため、外資の進出が限定的なものに留まっている。

クラスター分析の計測結果: Value-added Approach 準拠の分類では、外資系銀行である Standard Chartered Bankと、ノンバンク系銀行である Tisco Bank、Kiatnakin Bank *7が近い群に分類され、その他の銀行と経営特性が異なっていることが観察された。またアジア危機後に外資が地場銀行を買収して進出した UOB Radanasin Bank と Bank of Asia は、互いに比較的近い群に分類され、両者の経営特性に類似性が高いことをが観察された。ただし、両行の経営特性は一般の地場銀行と特に異なるものではなく、地場銀行と類似の経営特性も併せ持っていることが示された。また Siam Commercial Bank も外資出資比率が高い銀行であるが、一般の地場銀行の経営特性と類似性が高いという計測結果を得た*8。 Operating Approach 準拠の分類でも、外資系銀行である Standard Chartered Bankと、ノンバンク系銀行である Tisco Bank、Kiatnakin Bank が同一の群に分類され、両行は経営特性に関してその他の銀行から分 離 さ れ た。 外 資 出 資 比 率 が 高 い Siam Commercial Bank と Bank of Asia の 両 行は、互いに最も近い群に分類され、経営特性

の類似性が高いことが観察された。外資買収行である UOB Radanasin Bank は、地場銀行に比較的近い群に分類されるが、一般の地場銀行よりは外資系銀行である Standard Chartered Bank やノンバンク系銀行に近い経営特性を持っていることが観察された。

(5)韓国  韓国では、外資系資本は様々な規模の銀

行で見られるが、外国資本が大多数を占める銀行は、中規模行の3行に限られる。1つは外国銀行が進出したものであり、2つは金融危機後に外資系に出資を受けたものである。ただし総資産規模に占める外資系銀行の比率は21.7%で、市場全体でのプレゼンスは小さくない。なお、韓国の外国人持株比率は高いが、外国人投資家は少数株主が多いと指摘されており、データセットでも大口所有者で見た場合の外国人所有比率は、他の分析対象国と比較して抜きん出て大きいものではなかった。

クラスター分析の計測結果: Value-added Approach 準拠の分類では、外資系銀行である Citibank Korea と Korea Exchange Bank の二行が互いに最も近い群に分類され、両者の経営特性が類似していることが示された。もう一つの外資系銀行である Korea First Bank は、他の地場銀行と同様の群に分類され、一般の地場銀行と経営特性の共通点が多いことが観察された*9。 Operating Approach 準拠の分類では、外資系銀行と地場銀行の間で明確な経営特性の差は現れなかった。資産規模1位の Kookmin

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

*7 2004年の時点では、Tisco Bank、Kiatnakin Bank ともに商業銀行の免許は取得していないが、既存の商業銀行と業務的に競合する部分もあるため分析に加えている。

*8 タイの外資系銀行は、全て金融危機後に外資を受け入れる形で発生しているが、Standard Chartered Bank が1999年にNakornthon Bank を買収し、UOB Radanasin Bank が同年に Radanasin Bank を買収しているが、Bank of Asia は ABN AMRO Bank を経由して2005年に UOB に売却されたおり、Siam Commercial Bank は他の外資系銀行と異なり主要株主は外国銀行では無い。

*9 Citibank Korea の韓国における営業暦は古い銀行なのに対して、Korea Exchange Bank は1998年に Commerzbank に、またKorea First Bank は1998年に米系投資ファンドに売却された新しい外資系銀行である。また Korea First Bank は2005年にStandard Chartered Bank に再度売却された。

所報30号.indb 38 2006/08/04 18:00:22

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2006年8月 第30号 ��

Bank が他の銀行と群を別にしており、収入面で見ると外資系か地場銀行かという所有属性よりも、経営規模による経営特性の違いが大きいことが示唆される結果となった*10。

4.東南アジア5カ国の比較

 外資系銀行であっても、地場銀行と同様の経営特性を持つものと、地場銀行と経営特性が明確に異なるものがある。前者の例はインドネシアとフィリピンで、外資系銀行は地場銀行と混じりあったクラスターを形成し、その経営特性は地場銀行と共通する部分が多いという観察結果になった。一方、マレーシア、タイ、韓国の3カ国では、外資系銀行の中でも銀行によって経営特性に違いが見られ、地場銀行と混じりあったクラスターを形成するものと、地場銀行とは離れてクラスターを形成するものとが観察された。 一般に、外資系銀行の中でも、地場銀行と同様に一定の規模の店舗網を持ちリテール市場まで含めた幅広い業務を行う銀行は、地場銀行と類似した経営特性が見られると考えられる。インドネシアやフィリピンでは、外国銀行の出資規制が緩く、危機後に地場銀行に出資する形で進出した外資系銀行が多いため、このような店舗網をベースにリテールまで含む幅広い営業を行う外資系銀行が多い。またマレーシアでも、営業歴の古い外資系銀行は、店舗網をベースに幅広い営業を行っている。これらの外資系銀行は地場銀行と混じりあったクラスターを形成し、経営特性の共通点を多いと言える。 一方、店舗網を持たずに特定の業務に特化した営業を行っている外資系銀行は、地場銀行と異なった経営特性を持つと考えられる。インドネシアの邦銀現地法人や、アジア危機後に下位地場銀行を買収して進出した外資系

銀行、韓国の外資系銀行などは、地場銀行とは離れたクラスターを形成し、経営特性が異なっている。クラスター分析の結果は、これらの銀行は店舗網が無いかあっても小さく、外資系企業向けや富裕層など特定サービスに営業が偏っていることを示している。

第4章 DEA による経営効率性の分析

 前章で分析した通り、分析対象の5カ国では外資の参入規制のありかたをはじめとした金融政策に大きな差異があり、経営構造の類似性にも特徴が見られる。銀行の規模や資本に応じた経営効率性の差異も、5カ国それぞれの金融市場において異なると予想される。 本章では、5カ国それぞれの銀行市場において、各銀行市場の生産フロンティアと、各銀行の効率性がどのような状態にあるかを計測した。各銀行の経営効率性を、技術効率性と規模効率性に分解し、銀行の資産規模と外資と、それらの効率性の関係を分析した。

1.計測モデル

(1)効率性の計測方法 DEA では、生産フロンティアを規模を収穫一定(constant return to scale、以下 CRSと略称)と仮定した場合は、以下の(式4-1)による線形計画問題があたえられる。

 θiは銀行 iの技術効率性を表すスカラー変

00

0..

min,

≥≥−≥+−

i

imi

ik

i

XxYyts

λλθλ

θλθ

(式4-1)

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

*10 2004年は、韓国で消費者信用抑制策が打ち出された時期であり、金融部門に大きな影響を与えた。計測結果にはその影響が含まれている可能性がある。

所報30号.indb 39 2006/08/04 18:00:22

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�0 開発金融研究所報

数であり、θi ≦1である。θi=1のときは、生産は生産フロンティア上で生産が行われている。X は生産要素のベクトルであり、Y は生産物のベクトル、yik は銀行 i の財 k の生産量、Xim は銀行 i の財 m の投入、λは N ×1の定数項ベクトルである。全ての銀行に関して上記の問題を解くことによって、生産フロンティアを計算し、各銀行の技術効率性θを得ることができる。 図表7では、2種類の財をそれぞれ X1、X2だけ投入し、一つの生産物を Y だけ得る銀行 A、B、C と、その生産フロンティアを表している。A、B は、生産フロンティア上で生産し、技術効率性が1となるが、C 点は生産フロンティアから離れており、技術効率性は OC’/OC になる。 DEA では、生産フロンティアを規模に関して規模を収穫変動(variable return to scale、以下 VRS)と仮定することもできる。その場合は、(式4-1)を修正した、(式4-2)による線形計画問題があたえられる。

(式4-2)は凸制約の条件 N1'λ =1(N1 はN ×1のベクトル)を加えることにより、非効率な銀行が、規模が近い銀行を比較対象として効率性を算出することを保証するものである。結果として CRS に対して、VRS での効率性は、より高い値を持ち、VRS での包絡線はより各データに近くなる。(式4-2)をそれぞれの銀行に関して解くことにより、VRS における各銀行の技術効率性 θiを得る

ことができる。 図表8は、横軸に投入財 X、縦軸に産出財Y をとり、CRS による生産フロンティアと、VRS による生産フロンティアを同一図上に描いたものである。D 点は CRS では生産フロンティア上ではないため、技術効率性は D’D’’/DD’’となるが、VRS では生産フロンティア上の点となるため、技術効率性は1となる。この場合、純粋な技術的側面からは効率的であると判断されるものの、生産規模の側面からは非効率的な生産を行っていると解釈される。 図表8の生産フロンティア上の線分 CD より右側の領域Ⅰは、規模効率性が低い領域である。例え生産フロンティア上である CD の上で生産を行っていたとしても、生産量を減らすことにより C 点での生産が可能になるからである。生産フロンティア上の線分 ABより右側の領域Ⅲもまた、規模効率性が低い領域である。例え生産フロンティア上であるAB の上で生産を行っていたとしても、生産量を増加させることにより B 点での生産が可能になるからである。すなわち、図表8においては、線分 CB より右側の領域が、CRSと VRS の技術効率性が一致し、規模に関しては効率的な生産点になる。

(2)規模効率性の計測方法 DEA では、CRS での技術効率性の値をVRS での技術効率性の値で除することにより、規模効率性(scale efficiency、以下 SE)を計測することができる。CRS で計算される技術効率性には、純粋に技術的に非効率な部分と、投入要素の配分が非効率な部分が合わさったものだと考えることができる。VRS

01' λ=1

00..

min,

≥−≥+−

i

mii

ki

i

NXx

Yyts

λ

λθλ

θλθ

(式4-2)

図表7 DEAによる効率性の計測方法

A

B

C

O X2/Y

X1/Y

C'

所報30号.indb 40 2006/08/04 18:00:23

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2006年8月 第30号 �1

での技術効率性では、配分非効率性が除去されているため、CRS での値を VRS での値で除することにより、規模の影響による非効率性が計測できる。SE が1の場合、最適な規模で生産を行っている銀行だと考えることができる。 図表8における D 点で生産を行っている銀行は、CRS での技術効率性の値は D’D’’/DD’’、VRS での技術効率性の値は D’D’’/D’D’’になるため、SE は D’D’’/DD’’となる。

2.データセット

 本章では、第2章で説明した Value-added approach と Operating approach により変数の選択を行い、DEA による銀行の効率性分析を分析対象国別に行った。本稿執筆時に得られた最新のデータである2004年のデータを利用している。変数と、利用データベースである BankScope の項目の対応は(図表9)の通りである。 本稿では外資系銀行を区分するために、利用データベースである BankScope に記録されている主要株主の持ち株比率から、銀行の

国籍と、投資家の国籍が異なるものを外資系比率とし、外資系比率が40%を超えるものを外資系銀行として分類を行った。 なお、利用データベースでは外資系だと分類できなかった Bank Central Asia と Bank Danamon、Korea First Bank を外資系として分類している。また、政府系金融機関である Export-Import Bank of Malaysia Berhadと、貧困者向けのマイクロクレジットを目的としている CARD Bank は、利用データベースでは商業銀行の分類となっているが、本稿の分析では除外した。インドネシアに限っては、外国銀行支店等、小規模行に支店数等が極端に少ない銀行が含まれるため、市場シェアが1%を切るような銀行は除外している。利用データベース内にはマレーシアのイスラム銀行3行も含まれるが、同国のイスラム銀行の業務内容が商業銀行とほぼ同様であることが指摘されており(武藤(2001))、本稿ではデータセットから除外していない。

3.分析結果

(1)インドネシア  インドネシアの分析結果は、(図表10)

の通りである。Value-added Approach によると、CRS で見た場合も VRS で見た場合も、Bank Mandiri と Bank Central Asiaが最も効率的で、インドネシアにおける大規模行*11は、技術効率性も規模効率性も高い。次に中規模行は、CRS で見た場合でも VRS で見た場合でも効率性が低いが、VRS では効率的でも CRS では非効率的な銀行が多数あり、全般的に SE が低い。小規模行は、例外を除き CRS で見た場合でも VRS で見た場合でも効率的で、技術的にも規模的にも効率的ある。外資系銀行は中規模以上の銀行であり、CRS で見ても

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

*11 本稿では、データセットにリストされた商業銀行の総資産で計ったシェアで10%を超える銀行を大規模行、2%未満の銀行を小規模行、それ以外を中規模行と定義した。

図表8 CRSと VRS による生産フロンティアの違い

O X

Y

B

D

A

D'D'' VRSによる生産フロンティア

CRSによる生産フロンティア

C

所報30号.indb 41 2006/08/04 18:00:23

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�� 開発金融研究所報

VRS で見ても1行を除いて効率的で、SEも高い。(図表10)において、大規模行と小規模行の生産点は領域Ⅱの生産フロンティア上に、中規模行の生産点は領域Ⅲの生産フロンティア上に近い領域に、それぞれ対応する。また、外資系銀行の生産点は領域Ⅱの生産フロンティア上に対応する。

  Operating Approach によると、上位3行のうち2行は、VRS で見た場合は効率的であるが CRS で見た場合は非効率であり、技術的には効率的ではあるが規模効率的ではない。中規模行は、CRS で見た場合でもVRS で見た場合でも効率性が低いが、CRSと VRS の間に大きな違いは無い。これは、中規模行が規模的には効率的ではあるが、技術効率的ではない点で生産を行っていることを示している。小規模行においては、例外的な銀行を除き CRS で見た場合でもVRS で見た場合でも効率的で、技術的にも

規模的にも効率的生産を行っている。外資系銀行は、CRS で見ても VRS で見ても効率的な点で生産を行っており、技術的にも規模的にも効率的生産を行っている。(図表8)において、大規模行の生産点は領域Ⅰの生産フロンティア上に、中規模行の生産点は領域Ⅱの生産フロンティア上のやや右領域、小規模行の生産点は領域Ⅱの生産フロンティア上に対応する。また外資系銀行の生産点は、図表8において領域Ⅱの生産フロンティア上に対応する。

解釈: 他の4カ国と比較して効率的な生産を行っている銀行の比率が高く、全般的にインドネシア国内で見た場合に、効率化が進んでいることが示唆された。大規模行は資産面でも、収益面でも、効率的な生産を行っている。インドネシアの大規模銀行は、金融危機後に政

図表9 利用変数に対応するデータベース内の項目

epocsknaB ni metInoitinifeDselbairaVY1 DSUht teN - snaoL latoTecnavdAY2 DSUht seitiruceS latoTstnemtsevnIY3 DSUht stisopeD latoTstisopeDY4 Interest Income Interest Income thUSDY5 Non-Interest Income Net Commission Revenue thUSD + Net Fee Income thUSDX1 DSUht sesnepxE lennosreProbaLX2 Capital related operating expenses Other Operating Expenses thUSDX3 Interest expenses Interest Expense thUSD

図表 10 インドネシアのDEA分析結果

CRS VRS SE CRS VRS SE1 Bank Mandiri 100 100 1.00 97.1 100.0 0.97 0.0% 25.6%2 Bank Central Asia 100 100 1.00 100.0 100.0 1.00 51.3% 15.4%3 Bank Negara Indonesia (Persero) - Bank BNI 94.19 100 0.94 97.7 100.0 0.98 0.0% 14.1%4 Bank Rakyat Indonesia 82.16 100 0.82 100.0 100.0 1.00 0.0% 11.0%5 Bank Danamon Indonesia Tbk 99.67 100 1.00 100.0 100.0 1.00 65.8% 6.1%6 Bank Internasional Indonesia Tbk 96.64 98.7 0.98 82.7 85.4 0.97 0.0% 3.7%7 Bank Permata Tbk 78.23 80.43 0.97 83.0 83.5 0.99 25.9% 3.3%8 PT Bank Niaga Tbk 100 100 1.00 100.0 100.0 1.00 64.5% 3.2%9 Bank Lippo Tbk. 100 100 1.00 100.0 100.0 1.00 83.2% 2.9%

10 Bank Tabungan Negara (Persero) 74.69 81.41 0.92 78.2 79.1 0.99 0.0% 2.8%11 Panin Bank-PT Bank Pan Indonesia Tbk 100 100 1.00 100.0 100.0 1.00 29.0% 2.5%12 Bank Nisp 100 100 1.00 100.0 100.0 1.00 15.0% 1.8%13 Bank Buana Indonesia 91.21 100 0.91 94.01 100 0.94 5.3% 1.7%

93.6 97.0 1.0 94.8 96.0 1.0 26.2% 7.2%85.2 50.9 0.003 63.8 59.5 0.00046% 77% 46% 54% 77% 54%

Indonesia 2004

Bank NameValue-added Operating

FS

注)CRS: Constant Return to Scale, VRS: Variable Return to Scale, SE: Scale Efficiency, FS: Foreign Share, MS: Market Share by Assets

MS

Average

Percentage of efficient banks in the countryVariance

所報30号.indb 42 2006/08/04 18:00:24

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2006年8月 第30号 ��

府主導で合併が行われており、資産規模が政策的に増加したが技術効率性は維持していることが示された。小規模行は概ね資産、収益の両面で見た場合で効率的な生産を行っており、小規模ながら効率的な分野や市場で営業を行っていると考えられる。 外資系銀行は大規模行か中規模行かに係わらず、技術的にも規模的にも効率的な点で生産を行っている。これらの銀行では、アジア危機後の銀行再編処理を契機として外国資本の参加が行われた。分析結果は、外資の経営参画が順調に進んでいることを示唆していると言えよう。 逆に、地場の中規模行は、VRS で見た場合は規模効率性の面で、CRS で見た場合は技術効率性の面でそれぞれ非効率な生産を行っている。これらの銀行は、大規模行に比較して資産規模は小さく規模経済性を生かせない一方で、地場資本だけでは、経営の改善に限界があることを示唆している。

(2)マレーシア  マレーシアの分析結果は、(図表11)の

通りである。Value-added Approach によると、CRS で見た場合も VRS で見た場合も、大規模行の効率性が低く、中小規模行の効率性が高い。大規模行は技術的側面よりも規模的側面で効率性が低く、これは大規模行が特に規模的に非効率な点で生産を行っていることを示している。(図表8)においては、大規模行の生産点は領域Ⅰの生産フロンティアに近い領域にあり、中小規模行の生産点は領域Ⅱの生産フロンティア上に対応している。また、外資系銀行は、CRS で見た場合も VRS で見た場合も概ね効率性が高く、ほとんどの外資系銀行は生産フロンティア上で生産を行っている*12。

(図表8)において、外資系銀行上位2行は、領域Ⅰの生産フロンティア上で、それより

下位の銀行が領域Ⅱの生産フロンティア上で生産を行っている。

  Operating Approach による計測結果によると、大規模行は、CRS で見た場合もVRS で見た場合も、非効率的な点で生産を行うものが多いが、非効率な銀行では SEが低く規模生産性が低い傾向が観察される。中小規模行も、CRS で見た場合も VRS で見た場合も、非効率的な点で生産を行う銀行が多い。しかし、中小規模行の SE は全般的に高く、技術的側面から非効率な生産を行っている。(図表8)で見た場合、大規模行の生産点は領域Ⅰの生産フロンティアに近い領域に対応している。一方、中小規模行の生産点は、領域Ⅱの生産フロンティアに近い領域に対応している。

  外資系銀行は、CRS で見た場合も VRSで見た場合でも、地場銀行よりも効率性が良く規模効率性も高い。地場銀行と比較して、多くの外資系銀行は生産フロンティア上で生産を行っているが、小規模な外資系銀行の中には、技術効率性もしくは規模効率性が低い銀行が観察された。(図表8)において、大規模な外資系銀行の生産点は領域Ⅱの生産フロンティア上にあり、中小規模行の外資系銀行の生産点は領域Ⅲの生産フロンティアの右側に対応している。

解釈: 資産面で見た場合、大規模行は規模生産性に問題があることから、マレーシアの銀行が非効率な水準まで規模を拡大させていると考えられる。アジア金融危機後にマレーシアの銀行は政府主導で合併を行ってきたが、経営の効率性といった観点からは、その後の合併処理が必ずしも適切に進んでいないことが、分析結果から示唆された。 また全般的に見て、外資系銀行の効率性が高いのに対して、地場銀行は効率性が低い。マ

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

*12 ただし、外資系の中で上位行の Citibank と HSBC は、VRS が効率的であるものの、CRS が低く、SE が低い。

所報30号.indb 43 2006/08/04 18:00:24

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�� 開発金融研究所報

レーシアの外資系銀行は、他の ASEAN 諸国に比較しても営業歴が古く、マレーシアの金融市場に関するノウハウが豊富である。また、これらの外資系銀行は母国でも銀行業を営んでおり、母国等で培った経営ノウハウも持っている。外資系銀行は効率性が高い背景として、これらのメリットの存在が考えられる。

(3)フィリピン  フィリピンの分析結果は、(図表12)の

通りである。Value-added Approach による と、CRS で40%、VRS で50% の 銀 行 が生産フロンティア上に位置し、他の4カ国と比較してた場合に、効率的な銀行の比率が少ない傾向が示された。また、CRS で165.8、VRS で136.8と、他の4カ国と比較して、分散が大きい。銀行規模の大小に係わらず、CRS でも VRS でも効率性に差異が見られない。ただし、SE よりも、CRSもしくは VRS の方が、銀行による違いが大きい。(図表8)において、銀行の生産点は、規模に関わり無く領域Ⅱの生産フロンティア上、もしくはやや右側の領域に対

応している。外資系銀行は、地場銀行と比較して、同程度かやや効率性が低い点で生産を行っており、生産フロンティア上で生産を行っている外資系銀行は、Maybankの1行に限られている。外資系銀行の生産点は、(図表8)の領域Ⅱの生産フロンティアの右側で、地場銀行の生産点より更に右に離れたところに位置している。

  Operating Approach に よ る と、CRS で30%、VRS で60%の銀行が生産フロンティ ア上に位置し、他の4カ国と比較してた場合に、効率的な銀行が少ない傾向が示された。また、CRS で201.8、VRS で195.6と、他の4カ国と比較して、分散が大きい。大規模銀行は CRS で見ると非効率であり、VRS で見ると効率的である。従って、大規模銀行は SE が低く、技術的な側面からは効率的だが規模的な側面からは非効率な生産を行っている。中小規模行は、CRS、VRS、SE のいずれで見ても非効率的で、技術的な側面からも、規模的な側面からも、効率性に問題を抱えている。(図表8)において、大規模銀行の生産点は領域Ⅰの生産

図表 11 マレーシアのDEA分析結果

CRS VRS SE CRS VRS SE1 Malayan Banking Berhad - Maybank 98.77 100 0.99 95.8 100.0 0.96 0.0% 22.4%2 Public Bank Berhad 100 100 1.00 100.0 100.0 1.00 0.0% 11.5%3 Bumiputra Commerce Bank Berhad 90.73 97.65 0.93 90.3 96.6 0.93 0.0% 10.3%4 RHB Bank Berhad 66.06 93.12 0.71 81.5 91.2 0.89 0.0% 9.6%5 Hong Leong Bank Berhad 85.47 100 0.85 95.4 100.0 0.95 0.0% 6.1%6 Citibank Berhad 89.19 100 0.89 100.0 100.0 1.00 100.0% 4.7%7 HSBC Bank Malaysia Berhad 98.59 100 0.99 100.0 100.0 1.00 100.0% 4.2%8 EON Bank Berhad 90.89 93.59 0.97 86.1 90.0 0.96 0.0% 4.2%9 Southern Bank Berhad 88.14 91.88 0.96 100.0 100.0 1.00 0.0% 3.7%

10 Standard Chartered Bank Malaysia Berhad 100 100 1.00 100.0 100.0 1.00 100.0% 3.9%11 United Overseas Bank (Malaysia) Bhd. 100 100 1.00 100.0 100.0 1.00 45.0% 3.6%12 OCBC Bank (Malaysia) Berhad 100 100 1.00 90.6 100.0 0.91 100.0% 3.4%13 Alliance Bank Malaysia Berhad 81.02 83.09 0.98 89.0 90.9 0.98 0.0% 2.9%14 Affin Bank 80.93 82.57 0.98 78.7 79.0 1.00 0.0% 2.2%15 Bank Islam (L) Ltd 100 100 1.00 100.0 100.0 1.00 0.0% 1.6%16 Bank Islam Malaysia Berhad 100 100 1.00 97.2 100.0 0.97 0.0% 1.6%17 AmBank Berhad 94.12 94.51 1.00 80.4 80.5 1.00 0.0% 1.6%18 Bank Muamalat Malaysia Berhad 100 100 1.00 78.6 83.5 0.94 0.0% 1.0%19 ABN AMRO Bank Berhad 100 100 1.00 81.1 92.7 0.88 100.0% 0.4%20 Bank of Nova Scotia Berhad 100 100 1.00 88.7 89.0 1.00 100.0% 0.3%21 JP Morgan Chase Bank Berhad 100 100 1.00 100.0 100.0 1.00 100.0% 0.2%22 Bangkok Bank Berhad 100 100 1.00 100.0 100.0 1.00 100.0% 0.1%

93.8 97.1 1.0 92.4 95.2 1.0 38.4% 4.5%81.4 28.4 0.005 66.9 48.8 0.00250% 68% 0.50 41% 59% 0.41

Malaysia 2004

Bank NameValue-added Operating

FS

注) CRS: Constant Return to Scale, VRS: Variable Return to Scale, SE: Scale Efficiency, FS: Foreign Share, MS: Market Share by Assets

MS

Average

Percentage of efficient banks in the countryVariance

所報30号.indb 44 2006/08/04 18:00:24

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2006年8月 第30号 ��

フロンティア上に位置しているのに対して、中小規模行の生産点は領域Ⅲの生産フロンティアより右側の領域に位置している。

  外資系銀行は、地場銀行と比較して同程度かやや効率性が低い。ただし、唯一の中規模な外資系銀行である Rizal Commercial Bank は、CRS、VRS、SE の全てにおいて効率的である。

解釈 : フィリピンの銀行は、資産規模で評価した場合に、規模が効率性に大きな影響を与えていない点で、特徴的である。また、収益力で評価すると、どの規模の銀行についても多くの効率上の問題を抱えていることが伺われる。このような問題が発生する理由としては、フィリピン経済が長期に渡り不安定であったため、銀行が流動性リスクに対して過剰なまでに敏感で、収益性の低い安全資産を過剰に保有している可能性が考えられる。また、外資系銀行の効率性が地場銀行と比較して低いという分析結果については、フィリピンに進出している外国銀行の内で Citibank、HSBC、Standard Chartered Bank といった

優良行がいずれも現地法人として営業していないため、本稿の分析サンプルに含まれていないことを指摘しておく必要がある。同時に、分析対象となった Chinatrust Commercial Bank と United Overseas Bank の両行については、金融危機後にフィリピンに進出してきたものの進出から日が浅く、経営ノウハウを未だ十分に活用できていない可能性が考えられる。

(4)タイ  タイの分析結果は、(図表13)の通りで

あ る。Value-added Approach に よ る と、CRS で40%、VRS で70%の銀行が生産フロンティア上に位置し、また分散が、CRS で205.2、VRS で81.9となっている。CRS で見た場合に、他の4カ国と比較して効率的な銀行の比率が低く、分散が大きい傾向がある。SE に差異が大きく、問題がある銀行が多数存在する傾向が示唆されている。大規模銀行は CRS 、VRS、SE のいずれで見た場合も効率性が高い。ただし資産規模最大の Bangkok Bank は、VRS では効率的であるが CRS は非効率的で、規模的側面で非効

図表 12 フィリピンのDEA分析結果

CRS VRS SE CRS VRS SE1 Metropolitan Bank & Trust Company 86.4 100 0.86 76.9 100.0 0.77 0.0% 17.3%2 Bank of The Philippine Islands 100 100 1.00 87.6 100.0 0.88 20.8% 15.3%3 Equitable PCI Bank Inc 96.37 100 0.96 100.0 100.0 1.00 0.0% 10.1%4 Land Bank of the Philippines 81.06 81.12 1.00 75.5 97.9 0.77 0.0% 9.4%5 Philippine National Bank 75.84 76.41 0.99 100.0 100.0 1.00 0.0% 7.0%6 Rizal Commercial Banking Corp. 97.83 100 0.98 100.0 100.0 1.00 45.5% 6.0%7 Banco de Oro Universal Bank 100 100 1.00 100.0 100.0 1.00 2.9% 5.8%8 Allied Banking Corporation 91.83 91.85 1.00 74.3 82.2 0.90 16.1% 4.7%9 China Banking Corporation - Chinabank 100 100 1.00 94.6 100.0 0.95 0.0% 3.7%

10 United Coconut Planters Bank - UCPB 100 100 1.00 63.4 63.7 0.99 0.0% 3.5%11 Union Bank of the Philippines 93.57 94.28 0.99 86.8 99.9 0.87 0.6% 3.3%12 Security Bank Corporation 83.08 83.44 1.00 94.0 100.0 0.94 0.0% 2.9%13 Philippine Bank of Communications 88.79 93 0.95 93.1 96.3 0.97 0.0% 1.9%14 Bank of Commerce 96.92 100 0.97 100.0 100.0 1.00 0.0% 1.8%15 Prudential Bank 75.99 78.71 0.97 74.6 82.3 0.91 12.1% 1.8%16 International Exchange Bank 100 100 1.00 88.4 100.0 0.88 0.0% 1.7%17 Planters Development Bank 100 100 1.00 100.0 100.0 1.00 34.5% 1.1%18 East West Banking Corporation 83.61 91.53 0.91 70.2 70.4 1.00 0.0% 0.7%19 Chinatrust (Philippines) Commercial Bank Corp 85.9 86.99 0.99 78.9 88.9 0.89 99.4% 0.7%20 Asia United Bank Corporation 100 100 1.00 100.0 100.0 1.00 0.0% 0.6%21 United Overseas Bank Philippines 46.19 53.73 0.86 48.7 50.8 0.96 100.0% 0.5%22 Maybank Philippines Inc 100 100 1.00 86.3 100.0 0.86 100.0% 0.4%

90.2 92.3 1.0 86.1 92.4 0.9 19.6% 4.5%165.8 136.8 0.002 201.8 195.6 0.005

36% 55% 36% 32% 59% 32%

Philippine 2004

Bank NameValue-added Operating

FS

注) CRS: Constant Return to Scale, VRS: Variable Return to Scale, SE: Scale Efficiency, FS: Foreign Share, MS: Market Share by As sets

MS

Average

Percentage of efficient banks in the countryVariance

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�� 開発金融研究所報

率的であった。中規模行は CRS と VRS の両方において、効率性が低い。特に SE よりも、VRS 効率性の値が低く、技術的側面に問題があることが示された。小規模行の効率性は、CRS、VRS、SE のいずれでも非効率であり、技術的側面及び規模的側面の双方に問題がある。(図表8)で見た場合、大規模行の生産点は領域Ⅱの生産フロンティア上に位置しているが、Bangkok Bankだけは領域Ⅰの生産フロンティア上に位置している。また、中規模行の生産点は領域Ⅱもしくは領域Ⅲの生産フロンティアの右側に、小規模行の生産点は領域Ⅲの生産フロンティアの右側に位置している。

  Operating Approach に よ る と、CRS で40%、VRS で80%の銀行が生産フロンティア上に位置し、他の4カ国と比較してた場合に、VRS で効率的な銀行が多い傾向が示された。SE が低い銀行が多く存在する傾向が示唆されている。大規模銀行は、VRS で見た場合は効率性が高いが CRS は効率的ではなく、規模的に非効率な生産を行っている。中規模行は、CRS と VRS の両方において効率性が低く、特に SE よりも VRS 効率性の値が低く、技術的側面に問題がある。小規模行は、CRS、VRS、SE のいずれで見た場合も効率性が高い。(図表8)においては、大規模行の生産点は、領域Ⅰの生産フロンティアに近い領域に、中規模行の生産点は領域Ⅱもしくは領域Ⅲの生産フロンティア

の右側の領域に、また小規模行の生産点は領域Ⅱの生産フロンティア上にそれぞれ対応している。

  外資系銀行は、Value-added Approach によると、地場銀行と比較してやや効率性が低い。これは、外資系銀行はほとんど小規模行であり、技術的側面及び規模的側面の双方の問題が反映されているためだと考えられる。一方、外資系銀行は、Operating Approach によると、地場銀行と比較して効率性が高い生産を行っている。これは、外資系銀行はほとんど小規模行であり、規模による効率性の差が反映されているためだと考えられる。

解釈 : 他の4カ国と比較した場合、資産面、収入面ともに規模効率性が低い銀行が多く存在する傾向が示唆された。資産面と収入面の分析結果の違いから、大規模行は資産面を重視した経営を、小規模行は収入面を重視した経営を行っていると解釈される。特に収入面では、大規模行は規模効率性は最適な点ではないことが観察された。また、大規模行に比較して中規模行が技術効率性に劣る一方で、小規模行は概ね効率的な点で生産を行っている。小規模行は規模効率性もあり、金融危機後のリストラ処理によって、経営効率化が円滑に進んでいることが示唆される。 外資の影響を見た場合、ほぼ外資系で占め

図表 13 タイのDEA分析結果

CRS VRS SE CRS VRS SE1 Bangkok Bank Public Company Limited 94.11 100 0.94 94.7 100.0 0.95 0.0% 22.5%2 Krung Thai Bank Public Company Limited 100 100 1.00 99.2 100.0 0.99 4.2% 18.3%3 Kasikornbank Public Company Limited 100 100 1.00 97.8 100.0 0.98 16.4% 13.2%4 Siam Commercial Bank Public Company Limited 100 100 1.00 97.8 100.0 0.98 35.9% 12.2%5 TMB Bank Public Company Limited 100 100 1.00 100.0 100.0 1.00 0.0% 10.7%6 Bank of Ayudhya Public Company Ltd. 92.8 92.85 1.00 89.4 96.8 0.92 4.5% 9.2%7 Siam City Bank Public Company Limited 100 100 1.00 100.0 100.0 1.00 0.0% 7.5%8 Bank of Asia Public Company Limited 77.48 84.15 0.92 72.7 73.1 0.99 96.1% 2.6%9 Tisco Bank Public Company Limited 62.69 73.85 0.85 100.0 100.0 1.00 43.1% 1.1%

10 Standard Chartered Bank (Thai) Plc 80.41 100 0.80 100.0 100.0 1.00 100.0% 1.0%11 Kiatnakin Bank Public Company Limited 62.5 83.41 0.75 100.0 100.0 1.00 15.7% 0.9%12 UOB Radanasin Bank Public Company Limited 92.65 100 0.93 82.1 100.0 0.82 100.0% 0.8%

88.6 94.5 0.9 94.5 97.5 1.0 34.7% 8.3%205.2 81.9 0.008 77.5 59.7 0.003

42% 67% 42% 42% 83% 42%

Thailand 2004

Bank NameValue-added Operating

FS

注) CRS: Constant Return to Scale, VRS: Variable Return to Scale, SE: Scale Efficiency, FS: Foreign Share, MS: Market Share by Assets

MS

Average

Percentage of efficient banks in the countryVariance

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2006年8月 第30号 ��

られている小規模行で収入面で効率性が改善しているのは、地場資本の銀行に比較して、収入面での経営改善が順調に進んできたことが示唆されている。逆に資産面で見た場合、外資系は地場銀行に対して効率性が悪い。これは大規模な地場銀行が、規模生産性を生かし経営資源を店舗網などの拡充にあてていることと、タイの外資系銀行の参入時期が金融危機後で浅く、整理統合が進行中であることが理由として考えられる。

(5)韓国  韓国の分析結果は、(図表14)の通りで

あ る。Value-added Approach に よ る と、大規模行は、CRS、VRS、SE のいずれで見た場合も効率性が高い。中規模行は、CRS と VRS で効率性が低いが SE は概ね高い値であり、規模的側面から見た効率性はあるものの、技術的側面から見た効率性が低い。小規模行は、CRS、VRS、SE のいずれで見た場合も効率性が高い。(図表8)で見た場合、大規模行の生産点は領域Ⅱの生産フロンティア上に、中規模行の生産点は領域Ⅱの生産フロンティアより右側の領域に、また小規模行は領域Ⅱの生産フロンティア上に位置している。

  Operating Approach による計測結果によると、大規模行は、CRS、VRS、SE の

いずれで見た場合も効率性が高い。中規模行は、CRS、VRS で効率性が低いが SE は概ね高く、規模的側面から見た効率性はあるものの、技術的側面から見た効率性が低い。小規模行は、CRS で見た場合効率性が低く、VRSで見た場合は効率性が高い。よって SE の値が低く、技術的側面からは効率性が高いものの、規模的側面から見た場合は効率性が低いと考えられる。(図表8)で見た場合、大規模行の生産点は領域Ⅱの生産フロンティア上に、中規模行の生産点は領域Ⅱの生産フロンティアより右側の領域に、また小規模行の生産点は領域Ⅲの生産フロンティア上に位置している。

  外資系銀行は、Value-added Approach によると、CRS、VRS、SE のいずれで見た場合も効率性が高い銀行と、CRS、VRS、SEのいずれで見た場合も効率性が低い銀行に分かれた。しかし、外資系銀行は、Value-added Approach によると、CRS、VRS、SEのいずれで見た場合も効率性が低かった。

解釈 : 大規模行は効率性が高く、小規模行も概ね効率性が高いが、中規模行の効率性が低い結果となった。小規模行は中規模行よりも規模効率性があることから、大規模行とは異なった分野や市場に特化している可能性が高い*13

図表 14 韓国のDEA分析結果

CRS VRS SE CRS VRS SE00136.29knaB nimkooK1 0.93 100.0 100.0 1.00 28.6% 25.0%001001knaB irooW2 1.00 100.0 100.0 1.00 0.0% 14.9%001001knaB anaH3 1.00 94.8 100.0 0.95 9.4% 11.6%001001knaB nahnihS4 1.00 100.0 100.0 1.00 0.0% 9.8%63.3922.39knaB gnuhohC5 1.00 100.0 100.0 1.00 0.0% 9.2%13.2925.68knaB egnahcxE aeroK6 0.94 88.4 88.4 1.00 65.8% 8.6%001001.cnI aeroK knabitiC7 1.00 95.8 97.5 0.98 100.0% 7.2%92.3922.19knaB tsriF aeroK8 0.98 85.5 86.0 0.99 100.0% 5.8%001001.dtL knaB ugeaD9 1.00 100.0 100.0 1.00 0.0% 2.6%63.8911.89knaB mangnoyK01 1.00 92.7 94.4 0.98 0.0% 1.7%

11 Suhyup Bank-National Federation of Fisheries Cooperatives 100 100 1.00 100.0 100.0 1.00 0.0% 1.6%001001)ehT( .dtL knaB ujgnawK21 1.00 96.5 100.0 0.96 0.0% 1.4%001001knaB kubnoeJ31 1.00 90.7 100.0 0.91 8.2% 0.6%

97.1 98.3 0.99 95.7 97.4 0.98 24.0% 7.7%20.8 9.3 0.001 25.3 23.3 0.00162% 69% 0.62 46% 69% 0.54

MS

Average

Percentage of efficient banks in the countryVariance

注) CRS: Constant Return to Scale, VRS: Variable Return to Scale, SE: Scale Efficiency, FS: Foreign Share, MS: Market Share by Assets

Korea 2004

Bank NameValue-added Operating

FS

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

*13 タイの小規模行における分析と同様である。

所報30号.indb 47 2006/08/04 18:00:25

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�� 開発金融研究所報

一方で、中規模行は経営効率化が進んでいない可能性が示唆された。ただし、小規模行は収入面で見た規模効率性は十分ではなく、統廃合が十分でない可能性も示されている。 外資系銀行は3行存在するが、効率性に明確な違いがあらわれた。効率性の高いCitibank Korea は元来、外国銀行であり、効率性の低い Korea Exchange Bank と Korea First Bank は元々は地場銀行であり、金融危機後に外銀の出資を受け入れた銀行である。効率性の悪い銀行は、中規模の地場銀行と同様の効率性を示しているため、出資から時期が間もないため、外銀による技術移転などが十分な効果が得られていないと考えられる。

第5章 DEA による効率性の国際比較

 第4章では、5カ国それぞれについて銀行市場の生産フロンティアを導出した。本章では、第4章で得られた各国の生産フロンティアについて、互いがどのような位置関係(より正確には内包関係)にあるかを比較分析する。ある国の生産フロンティアが全ての点において、他の国の生産フロンティアよりも効率的な位置にあるとすれば、その国の銀行市場は効率的であると言える。実際の分析においては、内包関係がこのように明確であるケースは少なく、生産フロンティア中の位置によって、どの国の銀行市場が効率的であるかは異なる。本節では次に述べる方法によって、各国の生産フロンティアが効率的である比率を算出し、政策効果の違いによる各銀行市場の効率性の差異について比較を行った。

1.計測モデル

 生産フロンティアの国際比較を行う場合は、次のような手法によって、各国別の生産フロンティア上に無い銀行の生産点を、各国別の生産フロンティア上の効率的な点に移動

した上で比較分析を行う。まず、各国の各銀行の生産点から、その生産点から最も近い各国別の生産フロンティア上の点であるターゲットと呼ばれる生産点を算出する。ターゲットは全て各国別の生産フロンティア上の点になるため、各国別の生産フロンティアをあらわしていると考えることができる。次に、比較を行う全ての国のターゲットから、一つの生産フロンティア(以後、国際生産フロンティア)を算出する。もし、ある国のターゲットが、国際生産フロンティア上の点であるのであれば、その国はその点においては国際的に最も効率的であると言える。つまり、ある国のターゲットが、国際生産フロンティア上に多数存在する場合は、その国の生産フロンティアは効率的であると言える。しかしながら、データセット中の5カ国のそれぞれの銀行数は異なる。そのために、それぞれの国の国際生産フロンティア上にあるターゲット数を、それぞれの国のターゲット数で割った比率(以下、TA)を計算する。TA が高い国は、他の5カ国と比較して、銀行市場全体の生産フロンティアが効率的であることになる。

 (図表15)は、ある生産物Yを1単位生産するのに必要な、X1財と X2財の投入量をあらわしている。A 国に属する銀行 A1、A2と、B 国に属する銀行 B1、B2、B3があり、A 国の生産フロンティアと、B 国の生産フロンティアが、それぞれ別に存在している。銀

図表 15 生産フロンティアの国際比較

A1

A2

O X2/Y

X1/Y

B1

B2

B3

B3'

B国の生産フロンティア

A国の生産フロンティア

所報30号.indb 48 2006/08/04 18:00:26

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2006年8月 第30号 ��

行 A1、A2、B1、B2はそれぞれの国の生産フロンティア上に位置し、それぞれの生産状態はターゲットと一致する。銀行 B3のみが、各国別の生産フロンティアで効率的な点では無いので、B 国の生産フロンティア上の点、B3’にターゲットの値をとっている。このため、銀行 A1、A2、B1、B2、B3のターゲットで構成された生産フロンティアは、図中太線の A1、B2、B3’を結ぶ包絡線となる。A国のターゲットでは A1が生産フロンティア上に位置し、TA は50%となる。P2国のターゲットでは、B1、B2、B3’が生産フロンティア上に位置し、TA は100%となる。このため、A 国と B 国の生産フロンティアを比較した場合、B 国の生産フロンティアのほうが、より効率的であると評価できる。

2.計測結果

 (図表16)は、第4章と同じデータセットを用いて行った計測の結果をまとめたものである。 全般的にタイの効率性が高く、マレーシア、インドネシアがそれに続いており、韓国とフィリピンが最も効率性が低い市場であると示唆された(図表16)。 タイとマレーシアの銀行市場は将来的な自由化を前提としているものの、現在では厳しい外資の参入規制をひきつつ、地場銀行の強化を図っている点で共通点がある。タイは分

析年である2004年において、金融セクター・マスター・プランが発表されており、異業種からの新規参入行が発生し、外資系銀行の整理統合や新規参入が進んでいる段階である。銀行市場における競争が厳しく、各銀行が事業内容の再編を積極的に推し進めた結果、金融自由化の程度は他の四カ国と比較して低いものの、相対的に効率的な銀行市場が構成されたのだと考えられる。マレーシアも、中央銀行である Bank Negara が打ち出した金融セクター・マスター・プランの第2段階にあたり、国内金融機関の体質強化が完了したフェーズだと考えられる。しかしながら、資産面から見ては効率的ではあるが、収入面に関しては際立って効率的とは言えない点がタイと異なり、独特な銀行市場を形成している可能性が示唆された。 インドネシアと韓国は、金融危機後に自由化が促進された点で共通点があるが、金融部門の状態が、効率性に影響を与えていると考えられる。インドネシアの銀行は金融危機で大きな損害を受けることになり、インドネシア金融再建庁主導の不良債権処理の結果、金融危機後は資産規模で巨大な銀行が増加し、外資系に売却された銀行も多数存在する。資産の生産面では抜きん出た効率性は示されていないが、収入面では他の四カ国と比較しても効率的であり、政府主導の金融再編によって収益性が確保されていることが示唆された。分析年である2004年は、大統領選挙が順調に行われたことによる政治的な信頼回復や、物価の低位安定に伴う金利低下とクレジットカードを含む個人向け信用供与の拡大から、個人消費が順調に推移して景気を拡大しており、金融部門の効率性を高めたと考えられる。民間消費が、農家収入の増加や低金利、クレジットカードの普及などを背景に堅調に推移しており、固定資本形成の上昇時期でもあるため、金融部門全体として好調であった。韓国の銀行も金融危機で大きな損害を受けることになり、金融危機後に金融自由化が促進されている。しかしながら、インドネシアとは違い韓国では1999年にクレジット

図表 16 DEA分析結果-国際比較 

Value-added Operating18% 55%

(3) (2)39% 9%

(2) (3)0% 9%

(4) (3)92% 75%

(1) (1)0% 8%

(4) (5)

注)上段は生産フロンティア上の銀行の比率。下段括弧内 は5カ国中の順位

TA

韓国

インドネシア

マレーシア

フィリピン

タイ

所報30号.indb 49 2006/08/04 18:00:26

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�0 開発金融研究所報

カード優遇策をとり家計部門の負債が大きくなり、社会問題に発展した。このため、家計債務問題の解消のために、消費者信用抑制策が打ち出され、分析年である2004年は消費が不振な時期であり景気は低迷していた。銀行部門にとってもこの影響は避け難く、特に産出水準の低下が、規模効率性に大きく影響したと考えられる。 フィリピンは金融危機前から自由化が進んでおり、分析年である2004年のマクロ経済環境は良好ではあったが、最も効率の悪い銀行市場が形成されていることが確認された。

第6節 終わりに

 本稿では、アジア危機により大規模な再編成が行われた東南アジア5カ国の銀行について、現在の経営構造の特徴を、クラスター分析とDEAを利用して検討し、(図表17)にまとめた結果が得られた。これらの検討結果

は、それぞれ第3章、第4章、第5章で述べたとおりであるが、そこから得られた情報を総合すると以下のようなメッセージが読み取れる。

アジア危機後の銀行再編処理について: アジア危機後には各国で政府主導の大規模な再編処理が行われた。インドネシアの大規模銀行は金融危機後に政府主導で合併が行われたが、資産規模が政策的に増加したため、資産面で見ると生産効率が高いものの、収入面では規模を生かした生産活動が行えていない情況が伺われた。また、マレーシアにおいても、政府主導で合併を行ってきたが、各銀行は非効率な水準まで規模を拡大させていると考えられ、経営の効率性といった観点からは、合併処理が必ずしも適切に進んでいないという結果が得られた。同様の傾向はタイでも見られ、大規模行は資産規模を重視した経営を行う傾向があるが、規模面でも収益面でも、規模に内容が伴わないことが観察された。

図表 17 分析結果まとめ

CRS VRS SE TA CRS VRS SE TA

地場銀 13 66.4% 特色無し大規模行が高い

大規模行が低い

中規模行の効率性が低い

中規模行の効率性が低い

大規模行が低い

外資系 4 27.5%

地場銀 20 79.3%中規模行の効率性が低い

中規模行の効率性が低い

大規模行が低い

外資系 8 20.7%

地場銀 22 92.9% 特色無し大規模行の効率性が高い

大規模行の効率性が低い

外資系 4 7.1%

地場銀 8 94.5%大規模行は効率性が低い

特色無し大規模行は効率性が低い

外資系 4 5.5%

地場銀 10 78.3%中規模行が低い

中規模行が低い

特色無し中小規模行が低い

中規模行が低い

小規模行が低い

外資系 3 21.7%

注)CA:クラスター分析結果, CRS: Constant Return to Scale, VRS: Variable Return to Scale, SE: Scale Efficiency, FS: Foreign Share, MS: Market Share by Assets

地場行と外資系銀行が混在

地場銀行に比較して効率性が高い

マレーシア

フィリピン

外資系銀行が小規模行の大半を占め、地場銀行に比較して効率性が低い

外資系銀行が小規模行の大半を占め、地場銀行に比較して効率性が高い

地場行と混在する外資系銀行と、分離する外資系銀行に分かれる

タイ

地場行と外資系銀行が混在

特色無し

銀行数

外資市場

占有率(総資産基準)

CA

大規模行が効率性が低く、中小行が効率性が高い

地場銀行に比較して効率性が高い

地場行と外資系銀行が混在

インドネシア

韓国

地場銀行に比較して効率性が低い 地場銀行に比較して効率性が低い

地場銀行に比較して効率性が低い

大規模銀行が効率性が高く、中小銀行が効率性が低い

地場銀行に比較して効率性が低い

地場銀行と混在する外資系銀行と、分離する外資系銀行に分かれる

OperatingValue-added

特色無し

効率性が高い

効率性が高い

効率性が低い

地場銀行に比較して効率性が低い 地場銀行に比較して効率性が低い

効率性が低い

効率性がとても高い

効率性が低い

効率性が低い

効率性がとても高い

効率性が低い

所報30号.indb 50 2006/08/04 18:00:26

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2006年8月 第30号 �1

いずれのケースにおいても、危機後の再編によって、合併・統合を通じた規模拡大と中核行の形成が進められたが、効率性の面では未だ十分な成果を挙げられていないことが見られる。

小規模行の存在: 銀行再編の中で生き残った小規模銀行については、各国で比較的経営効率が高いという観察結果が得られた。インドネシアの小規模行は、規模面でも収益面でも、概ね効率的な生産を行っており、小規模ながら効率的な分野や市場で営業を行っている。またタイの小規模行も、規模面でも収益面でも、効率的な点で生産を行っており、規模効率性も観察された。韓国についても小規模行は、規模面で効率的なだけでなく、収益面でも効率的な経営を行っている。このようなことから見ると、中核銀行となるべき大銀行が各国で政府主導で育成される一方で、小規模であるが経営効率の良いサービス対象を絞った銀行が市場で共存しつつある姿がうかがえる。

外国銀行の経営: アジア危機後の銀行再編の1つの特徴は、不良債権処理と銀行再建の一助として積極的に外国資本の参入を進めたことがある。現在の東南アジアでは、地場銀行と同様に一定の規模の店舗網を持ちリテール市場まで含めた幅広い業務を行う外資系銀行と、店舗網を持たずに特定の業務に特化した営業を行っている外資系銀行との2つのタイプが存在している。前者には、マレーシアの様にアジア危機以前から進出していた営業歴の古い場合と、インドネシアやタイのように危機後に銀行再編の流れの中で地場銀行に資本参加する場合あるが、いずれも地場銀行と混じりあったクラスターを形成し地場銀行と類似した経営特性が見られる。一方、後者は、外銀支店と類似の特性をもち、地場銀行とは異なったクラスターを形成し、外資系企業向けや富裕層など特定サービスに営業が偏っている。

外国銀行の経営効率: 外国銀行の経営効率を地場銀行と比較すると、マレーシアのように長期に渡って地場銀行と同程度に市場に浸透して経営を行ってきた場合には、地場銀行に優っているように思われる。これは、現地市場に関するノウハウが豊富であると同時に、母国等で培った優れた経営ノウハウも活用できる事を反映していると考えられる。一方、アジア危機後の銀行再編の流れの中で地場銀行を買収して進出した経営歴の短い外資系銀行の場合は、必ずしも地場銀行に経営効率で優越していとはいえない。確かに、インドネシアでは、危機後に出現した外資系銀行は大規模行か中規模行かに係わらず、技術的にも規模的にも効率的な点で生産を行っており、外資の経営参画が順調に進んでいることを示唆している。しかしタイで危機後に地場下位行を買収して進出した外資系銀行は、収益面では地場銀行よりも効率性で優っているが、営業規模が小さいこともあり規模面では地場銀行と効率性に違いは見られない。これらの事情は、外資系銀行が持てる潜在的メリットを十分に活用できるためには、ある程度の規模と、現地市場の事情に精通するまでの時間が必要であることを示唆している。

銀行経営効率の国際比較: 本稿の分析では、外国銀行への市場開放度と銀行の経営効率との関係は、必ずしも明確ではなかった。 段階的な市場開放にむけて市場整備が進められているマレーシアとタイでは、銀行の経営効率が高いという結果が観察された。逆に、金融自由化が進んでいるものの、両国とも銀行の経営効率性は低いという結果となった。政策政府が積極的に金融改革と制度整備を進めてきたタイ、マレーシア、インドネシアで、銀行の経営効率が高いことが示唆された。その一方で、金融危機後に大幅な金融改革が行われてきたインドネシアでは、マレーシアやタイと同様に銀行の経営効率は高いかった。 これらの観察結果は、むしろ、マクロ経済

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�� 開発金融研究所報

環境の維持と共に政府が積極的に金融制度改革に取り組むことが、銀行経営効率の改善には重要であることを示している。経営効率が高かったタイとマレーシアでは、マクロ経済環境が堅調であり、政府主導による段階的な金融市場の整備が推し進められている。特に分析年である2004年において、他国に傑出して高い効率性を示したタイでは、マクロ経済環境の堅調さがその背景にあると思われる。またインドネシアでも、2004年からマクロ経済が復調し、金融危機後に政府主導による大幅な金融改革と金融再編を積極的に推し進められてきている。これに対して、韓国とフィリピンは、金融自由化が大きく進められてはいるものの、韓国は家計債務問題の悪影響が大きく、フィリピンはマクロ経済が不調であり、このことが銀行経営に強い影響を与えていると思われる。 本稿の結果は、金融行政やマクロ経済環境が、銀行市場の効率性に影響を与える事を確認しており、新興市場経済である東南アジア諸国においても、銀行部門の健全性の維持や発展においては、マクロ経済問題や銀行監督制度といった、制度上の問題がなお大きいものであることを示唆している。

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