計算化学実習講座:第一回
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計算化学実習講座 第 1 回計算化学初歩の初歩分子モデリング、エネルギー計算理化学研究所情報基盤センター中田 真秀
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今回の学習内容• 分子をコンピュータの中に作る = 分子をモデリングする– GaussView
• 分子のエネルギーを計算する方法– Gaussian09– B3LYP(DFT; 密度汎関数法 ) 、 6-31G* 基底関数
• 計算結果を読む– エネルギーの値
分子をコンピュータの中に作る= 分子をモデリングする
• たとえば、ベンゼン分子をコンピュータに作る• こういったことは「分子をモデリングする」といわれる。• 原子は球で表す。
– ホントは点だけど…– 色、大きさをつけたりするのは、人間にわかりやすくするため。
• 原子は動かない– 指定したらソコでカッチリ止まる。
• 原子の結合には厳密な意味はない– 原子間の距離で判断して線でつないでいるだけ
• 電子の数は別に入力する– 普通は中性、ゼロなどと入力– イオン化状態は +1, -1 とか入力する
とりあえず分子の計算してみる• 水分子のモデリングを行ってみて– 水分子をコンピュータの中に作ってみて
• 計算して、分子の全エネルギーの読み取り方を説明します。
• 分子のモデリングには GaussView を使う。– 比較的よく使われるモデリングツール。 Gaussianとの接続が容易、実習で使う
• 他のモデリングツール– Avogadro
• http://avogadro.cc/wiki/Main_Page– Facio
• http://www1.bbiq.jp/zzzfelis/Facio.html– Winmostar
• http://winmostar.com/jp/
分子をモデリングするソフトGaussView
分子モデル事始め
1.GaussView の起動と終了
GaussView の起動方法その 12 3 4
1. 左下の Windows アイコン ( スタート )2. すべてのプログラム3. GaussView 5.0 4. GaussView をクリック。これで起動するはず
1
GaussView の起動方法その 2
デスクトップのアイコン、を右クリックこれで起動するはず
GaussView が起動したところまで
1. 右クリックで消去する
GaussView が起動したところまで
3. 分子の入力はここからはじめますが、一旦終了…
2. GaussView Tips も Close を選ぶ
GaussView を終了する
File -> Exit とすることで終了。
1. フッ化水素 • 原子の選択、結合長の調整、データの保存2. 水• 結合角の調整3. エチレン• 二重結合の結合長の調整、結合角の調整4. アセチレン• 三重結合の結合長の調整、結合角の調整5. ベンゼン• 環の選択6. アニリン• 官能基の付け足し7. インドール
2. 分子を入力する
2.1 フッ化水素 :H-F 0.89Å
GaussView を立ち上げ ElementFragment ボタンをクリックするとElements ウィンドウが表示されるので、フッ素を選びます。
2.1 フッ化水素 :H-F 0.89Å次に File->New->Create Molecule Group で Molecule Group ウィンドウを出します。
2.1 フッ化水素 :H-F 0.89Åそのままこのウィンドウをクリックするとフッ化水素ができます。
失敗したらいつでも CTRL+Z で戻れますので焦らないように。次は結合長を調整します。GaussView ウィンドウ内の、 Bond ボタンを押します。
2.1 フッ化水素 :H-F 0.89Åそれからウィンドウに戻り、 2 つの原子をクリックすると、 Bond Semichem SmartSlide が現れます。
ここまできたら、スライダー ( 上図赤丸参照 ) を移動させ 0.89 してみましょう。または、数値をそのまま打ち込むのもよいかもしれません。できたら ok を押してください。これで一重結合は変化させることができるようになりました。ここまででも失敗したら CTRL+Z で一つ手前に戻れます。
2.1 フッ化水素 :H-F 0.89Å最後にこれを保存 ( セーブともいう ) しましょう。下図のように Save を選んでください。
“Save File” ダイアログがでますので、 1-1-hf などと名をつけましょう。ファイルの種類は“ Gaussian Input Files (*.gjf *.com)” を選択してください。最後に “ save” を押して保存が完了します。 Ka
2.2 水分子 :H-O-H 110° O-H 0.96ÅGaussView ウィンドウ内ElementFragments ボタンを押して、Element Fragments を表示します。そこで酸素“ O” をクリックし、その後、Molecule Window でもクリックします。結合は単結合なので、下図を参照して -O- となっているところが選択されることを確認しておいてください
2.2 水分子 :H-O-H 110° O-H 0.96Å結合角を調節しましょう。 GaussView ウィンドウ内メニューから Angle ボタンを押します
そのうえで、 Molecule ウィンドウから水素、酸素、水素の順にクリックします。そして、スライドさせると、結合角が変わってゆきます。 0° から 180° まで変化させてみましょう。 110° に変化させることができたでしょうか。結合長も変えたい場合は、 2-1. の場合と同じように変化させることができます。最後にセーブするのを忘れずに。
2.3 エチレン分子 :C-C-H 120° C-H 1.1Å C-C 1.4Å
GaussView ウィンドウ内 Element Fragments ボタンを押し、下の“ Carbon Fragment”右から 3 つ目を選びましょう。
Molecule Group ウィンドウを立ち上げて、クリックすると、半分完成します。
赤丸をつけたところをクリックしましょう。
するともう半分が現れて、基本的には完成です。
2.3 エチレン分子 :C-C-H 120° C-H 1.1Å C-C 1.4Å
2.4 アセチレン分子 :H-C 1.0Å C-C 1.2ÅElements Fragments から炭素、及び三重結合を選んで Molecule Group ウィンドウをクリックすれば、図のところまでは進められるはずです。 エチレンと同じように、三重結合の切れ目付近をクリックすると完成します。
2.4 アセチレン分子 :H-C 1.0Å C-C 1.2Å
若干遠目をクリックすると失敗してしまいますが、Ctrl+Z で戻れます。
三重結合の長さの調整はこれまでと同じように、Bond から、調節します
2.4 ベンゼン :C-C 1.4Å, C-H 1.1Å GaussView ウィンドウ内 Ring Fragments ボタンを押し、ベンゼン環を選択します。
これで Molecule Group ウィンドウ内でクリックするとベンゼンができます。
2.6 アニリン分子 :C-C 1.4Å, C-N 1.4Å, C-H 1.1Å
ベンゼンができたところで、 Element Fragments ボタンから窒素を選びます。アニリンはベンゼンの水素を一つ NH2に置き換えたものなので、単結合の窒素を選びましょう。その後、ベンゼン環についた水素を一つクリックします。これで完成です
2.7 インドール :C-C, C-N 1.2Å 、正六角形 +正五角形GaussView ウィンドウ内 Ring Fragments ボタンを押し、インデン ( ラジカル ) を選択。
さらに GaussView ウィンドウ内 Element Fragments ボタンを押し、窒素、および原子状態を選択し、炭素クリック。
水の量子化学計算
3.1 水の計算、とその条件• 水分子、密度汎関数法 (B3LYP) 、 6-31G(d)基底関数、電荷は中性、スピンはゼロ、という条件で計算をしてみます。–細かい計算条件については後ほど解説します
3.2 環境設定1. まず、 Gaussian09 の設定をしておきます。これは一度やるだけで構いません。まず Gaussian09 を立ち上げます。
2. すると以下の様な画面がでます。
3.2 環境設定3. File->Preference から
※ 環境によって変わります。 Scratch, Output path, Input Path は C: などが適当な場合もあり
4. 入力、出力、中間ファイル用ディレクトリを設定します。いわゆる“半角”文字でディレクトリを作ってください。
良い例 : c:\kadai\0413悪い例 : c:\課題 \0413
Output Path( 出力ファイル用ディレクトリ ) に計算結果があるよ !
中間ファイル用ディレクトリ出力ファイル用ディレクトリ入力ファイル用ディレクトリ
3.3 計算の流れテキストエディタ
(h2o.gjf)
G09W or Gaussian09
アウトプットファイル (h2o.log)
テキストエディタ GaussView
GaussView
グラフィカルに、おおまかに
設定、修正などいれる
出力を見るにはエディタを使うか、 GaussView を使うか選べる。臨機応変に選択しよう !
分子の入力
計算の細部確認など上手く行かない時が結構ある
3.4 入力ファイルの調整• サクラエディタを使います。
http://sakura-editor.sourceforge.net/index.html.ja
• 水分子 :H-O-H 110° O-H 0.96Å を GaussViewで作成する (2.2 ですでに行ってるはず )• テキストエディタで確認します。• ほぼ右のようになってるはず
– 大体あってれば良い– 完全に一致しなくて良い
%chk=C:\Users\maho\Desktop\H2O.chk# hf/3-21g geom=connectivity
Title Card Required
0 1 O -0.97426469 0.25735294 0.00000000 H -0.01427382 0.25316416 0.00000000 H -1.29866474 1.16088191 0.00000000
1 2 1.0 3 1.0 2 3
3.4 入力ファイルの調整
上記のように修正します。最後に空行を入れるのを忘れずに…これを、 h2o.gjf とセーブしておきましょう。
3.5 水を計算する。1. G09W (Gaussian09) を立ち上げ
2. File から Open を選択
3. H2O を「開く」します
3.5 水を計算する。4. こんな感じになってますか ? なっていたら、 RUN を押します。
3.5 水を計算する。5. Output ( 計算結果 ) をどこに置くか、とでるのでとりあえずデスクトップにして、保存します。
3.5 水を計算する6. 計算が開始します。しばらく待ちます。
7. 1 分程度で計算が終了します。
3.5 水を計算する8. 計算が正常に終了してることを確認しましょう。一番下の方に、以下のように出ていたら ok です。
Normal termination = 正常終了
3.6 計算結果を見る水の全エネルギーを調べる1. サクラエディタを立ち上げて、開くを選択
2. H2O の Gaussian Output File を選択
3. こんな感じになってますか?
3.6 計算結果を見る水の全エネルギーを調べる4. 検索を使います。
5. SCF Done を「下検索」します。 SCF Done の SCF は半角大文字で、 SCF と Done には一つスペースを入れます。正確に !
3.6 計算結果を見る水の全エネルギーを調べる6. E(RB3LYP) が -76.4078711984 A.U. となってるのが確認できますか ?
• 水分子のエネルギーは、 -76.4078711984 A.U. と計算されました。キロカロリー / モルに直すと、 1 A.U. = 627.51 kcal/mol となります。A.U. は原子単位 (Atomic Unit) で、量子化学でよく使われる単位です。• 計算が正しく行われていると、 Convg が 0.7643D-08 = 7.643 × 10-9 のように非常に小さくなります。• 正常に計算が行われたかどうかは、最後の行の “ Normal terminationof Gaussian09 …” で判断できます。
計算方法を変えてみる
量子計算にはいろいろな計算手法がある
Hartee-Fock (SCF)
B3LYP(DFT)
MP2
CCSD
FullCI
高い計算負荷低い計算負荷
低い精度
高い精度
有機分子に最適。分散力出ない( ファンデルワールス、 π-π スタッキング )大きな系、試し計算用など。分散力出ない
分散力は大きめに出る。1kcal/mol 〜数 kcal/mol の誤差
CCSD(T)
かなり精密 1kcal/mol 以下超精密 0.1kcal/mol程度
天文学的に時間かかる
オススメ
よく使われる計算方法の公式#HF/STO-6G … お試し計算、巨大系#HF/6-31G* … お試し計算、巨大系#B3LYP/6-31G … 有機分子など、最もよく使う#MP2/6-31G* … 分散力、有機分子、金属#MP2/cc-pvdz … 分散力、有機分子、金属#ccsd(t)/cc-pvdz… 超精密計算#ccsd(t)/cc-pvtz … さらに超精密計算より良い計算を行うと、より長く時間がかかります。計算方法はお使いのコンピュータに合わせて選びましょう。
STO-6G, 6-31G* などは基底関数。今は気にしなくてよい。
4.1 水の HF/STO-6G 計算 # b3lyp/6-31g*
Title Card Required
0 1 O -0.97426469 0.25735294 0.00000000 H -0.01427382 0.25316416 0.00000000 H -1.29866474 1.16088191 0.00000000
# hf/sto-6g
Title Card Required
0 1 O -0.97426469 0.25735294 0.00000000 H -0.01427382 0.25316416 0.00000000 H -1.29866474 1.16088191 0.00000000大文字小文字は区別しなくて ok
一箇所、#b3lpy/6-31g*を#hf/sto-6gに変更
4.1 水の HF/STO-6G 計算結果を見る
同様にサクラエディタで “ SCF Done” を検索する水分子のエネルギーは -75.6760161259A.U.
4.2 水の MP2/6-31g* 計算 # b3lyp/6-31g*
Title Card Required
0 1 O -0.97426469 0.25735294 0.00000000 H -0.01427382 0.25316416 0.00000000 H -1.29866474 1.16088191 0.00000000
# mp2/6-31g*
Title Card Required
0 1 O -0.97426469 0.25735294 0.00000000 H -0.01427382 0.25316416 0.00000000 H -1.29866474 1.16088191 0.00000000大文字小文字は区別しなくて ok
一箇所、#b3lpy/6-31g*を#mp2/6-31g*に変更
4.2 水の MP2/6-31g* の計算結果を見る
今度は EUMP2 で検索する。この時は、水のエメルギーは -76.195836145A.U. である。
4.2 水の ccsd(t)/cc-pvdz 計算 # b3lyp/6-31g*
Title Card Required
0 1 O -0.97426469 0.25735294 0.00000000 H -0.01427382 0.25316416 0.00000000 H -1.29866474 1.16088191 0.00000000
# ccsd(t)/cc-pvdz
Title Card Required
0 1 O -0.97426469 0.25735294 0.00000000 H -0.01427382 0.25316416 0.00000000 H -1.29866474 1.16088191 0.00000000大文字小文字は区別しなくて ok
一箇所、#b3lpy/6-31g*を#ccsd(t)/cc-pvdzに変更
4.2 水の ccsd(t)/cc-pvdz の計算結果を見る
今度は CCSD(T) で検索する。この時は、水のエネルギーは -76.239692624A.U. である。
計算方法を変えてみる : まとめ• 計算方法をいろいろ変えてみることを行った。• 全エネルギーは計算方法でかなり変わるが、反応前後などの相対エネルギーで議論するため問題は無い。– HF/STO-6G -75.6760161259 A.U.– B3LYP/6-31g* -76.4078711984 A.U.– MP2/6-31g*-76.195836145 A.U– CCSD(T)/cc-pvdz -76.239692624 A.U.
• 計算方法によって計算結果の見る場所が変わることがある。
分子の二面角とエタンの回転障壁エネルギーの計算
分子の二面角• 二面角 (dihedral angle) ってなに ?? 2つの面が作る角度のこと。図の θ です。
θ エタン分子の配座は二面角で指定できる重なり形配座
ねじれ形配座
エタン分子を作る1. Elements Fragments から炭素、単結合を選んでMolecule Group ウィンドウをクリックし、メタンを作ります。
2. 回転させて水素原子が右にでるようにもってゆきます。
エタン分子を作る3. 右にでた水素をもう一度クリックすると、エタン分子を作成することができます。C-H は 1.07Å C-C は 1.54Å で作成しました。4. 二面角の指定には、 4 点を指定します。
Diheadral ボタンを押して、図の順番どおりに原子をクリックし、選択します
5. あとはスライドさせてくるくる回してみましょう。これは実際やってみたほうがわかりやすいでしょう。
エタンの回転障壁を計算する• 二面角を 0° から 60° まで、 10°刻みに gjfを作り、セーブしましょう。• 計算方法は b3lyp/6-31g* で行いましょう。• 結合長は変えないようにしましょう。• 角度を横軸、縦軸にエネルギーでプロットシてみましょう。
ヒント : エタンの回転障壁を計算する0° の時の入力ファイル例
10° の時の入力ファイル例
20° の時の入力ファイル例
40° の時の入力ファイル例
まとめ• 分子のモデリングについて学びました。– 原子を幾つかおき、分子を作成する。– 結合長の変化、結合角の変化、– 二面角の指定の仕方とエタンの回転障壁
• 簡単な分子のエネルギーを計算し、その値を確認するという方法を学びました。– GaussView + Gaussian– HF/STO-6g– B3LPY/6-31G* … よく使う計算方法– MP2/cc-pvdz– CCSD(T)/cc-pvdz…精密計算に使う方法