英語教育学における「グローバリズム」理解の問題点

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英語教育学における 「グローバリズム」理解 の問題点 寺沢拓敬(てらさわ・たくのり) [email protected] 日本学術振興会特別研究員PD/東京大学社会科学研究所 1 2015823全国英語教育学会 熊本国際大学

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Page 1: 英語教育学における「グローバリズム」理解の問題点

英語教育学における 「グローバリズム」理解

の問題点 寺沢拓敬(てらさわ・たくのり)

[email protected]

日本学術振興会特別研究員PD/東京大学社会科学研究所

1

2015年8月23日 全国英語教育学会 熊本国際大学

Page 2: 英語教育学における「グローバリズム」理解の問題点

英語教育学における グローバリズムの語られ方

「説明されるべき概念」ではなく 何かの説明に使われる所与の概念

2

Page 3: 英語教育学における「グローバリズム」理解の問題点

日本の学界ではマイナーな グローバリゼーションをめぐる議論

0

1

2

3

4

2000 2005 2010

論文

TESOL Quarterly

JACET Journal/Bulletin

ARELE

3

※ タイトルあるいはアブストラクトに globalization (globalisation) を含む論文の数。「書評」は除外。

Page 4: 英語教育学における「グローバリズム」理解の問題点

学会P

枕詞としての「グローバル化」

4

2011年「産学連携によるグローバル人材育成推進事業」

2013年「グローバル化に対応した 英語教育改革実施計画」

2014年 「今後の英語教育の改善・充実方策について 報告~グローバル化に対応した英語教育改革の五つの提言~」

業者Q 教育機関R

Page 5: 英語教育学における「グローバリズム」理解の問題点

グローバリズムの語られ方 問題点

5

1. 現代偏重、歴史の軽視 2. 文化面(国際語としての英語等)の偏重、政

治経済的側面軽視 3. 現実とイメージの混同、グローバル化に関す

る言説(discourse) の軽視

Page 6: 英語教育学における「グローバリズム」理解の問題点

6

グローバリゼーションを現代に特有な現象だとしか考えていない。 現代偏重、歴史軽視。

David Block (2012)

ついにグローバル化時代が到来したぞー!やったー!

ついにグローバル化の時代が来てしまった・・・。大変だー!

Page 7: 英語教育学における「グローバリズム」理解の問題点

グローバル化の歴史 (柴山, 2012)

1914 1971 2008

7

シナリオA

シナリオB 第1次

グローバル化

脱グローバル化

第2次 グローバル化

グローバル化の 度合い

Page 8: 英語教育学における「グローバリズム」理解の問題点

② 経済現象としての グローバル化

8

Page 9: 英語教育学における「グローバリズム」理解の問題点

9

文化現象ばかりに注目しすぎ。 政治経済的現象の側面を軽視。

David Block (2012)

グローバル化のおかげで、世界中の人々とコミュニケーション

できるようになったぞ!

情報が瞬時に世界をかけめぐるようになったなー。

Page 10: 英語教育学における「グローバリズム」理解の問題点

グローバル化による英語使用減少

0%

10%

20%

30%

40%

50%

全就労者*

飲食店*

運輸業*

情報サービス

卸売業

公務

金融保険

教育研究

小売業

製造業

建設業

その他サービス業

医療サービス業

農林水産

JGSS-2006

JGSS-2010

*: p(2006 = 2010) < 0.05

過去一年の仕事における

英語使用経験者(%)

※1 日本版総合的社会調査(JGSS)2006年・2010年版。全国に居住する20歳-89歳の男女から無作為抽出。N = 9502 ※2「あなたは過去1年間に、以下のことで英語を読んだり、聴いたり、話したりしたことが少しでもありますか」に対し「仕事」を選んだ回答者。 ※3 詳細:寺沢 (2015, 9章)

10

Page 11: 英語教育学における「グローバリズム」理解の問題点

世界的不況

リーマンショック

サブプライムローン 問題

英語使用 減少

訪日外国人減

貿易減

11

Page 12: 英語教育学における「グローバリズム」理解の問題点

英語の拡大とグローバル化は異なる過程

12

国際語としての英語

ネットワーク外部性(話者が増えるほどコミュニ

ケーション上の価値が向上; de Swaan, 2010)

経済のグローバル化

流動性(大幅な拡大の結果、急にしぼむこと

も。例、大恐慌、リーマン・ショック)

Page 13: 英語教育学における「グローバリズム」理解の問題点

産業界と文科省の 「グローバル人材」は別物

• 産業界は「グローバル人材=エリート」と明言している(吉田, 2012)

• 企業の多くが求めている のはローカル人材や ナショナル人材

13

産業界 グローバル エリート!

文科省

教育言説

僕も私もグローバル!

Page 14: 英語教育学における「グローバリズム」理解の問題点

「グローバル人材」需要は全体のごく一部

0%

5%

10%

15%

20%

全体 社員

50~299人

300~1999人 2000人以上

2012年

2017年予想

14

※1 「大学におけるグローバル人材育成のための指標調査」(みずほ総研, 2011) ※2 「貴社には、…『グローバル人材』は何人あるいは何%いらっしゃいますか」

「貴社がおよそ 5 年後…に計画ないし想定している…『グローバル人材』の数あるいは割合をお答え下さい」という設問からみずほ総研(2011)が推計

※3同調査の「グローバル人材」の暫定的定義:現在の業務において他の国籍の人と意思疎通を行う必要がり、かつ、その意思疎通を英語で(あるいは母国語以外の言語で)行う必要があるホワイトカラー職の常用雇用者

Page 15: 英語教育学における「グローバリズム」理解の問題点

狭義の「グローバル能力」は 普遍的ニーズではない

0% 10% 20% 30% 40%

主体性

実行力

チャレンジ精神

計画力

創造力

柔軟性

規律性

異文化理解力

国家アイデンティティ

TOEIC730以上

「我が社では必要ではない」企業の割合

15

※1 「大学におけるグローバル人材育成のための指標調査」(みずほ総研, 2011)

※2 「グローバル・ビジネスの時代において新卒入社人材に求められる能力・性質として、以下の①~⑰のそれぞれを、入社前に身につけていることを求めますか。それとも、それらは入社後に育成しますか」という問いに対し、選択肢「そのような能力・性質はそもそも必要としない」を選んだ企業の割合。

Page 16: 英語教育学における「グローバリズム」理解の問題点

③言説(discourse) の重要性

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Page 17: 英語教育学における「グローバリズム」理解の問題点

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グローバル化と言説の相互作用が大事。 とくに linguistic globalization の分析では。

Jan Blommaert (2010)

グローバル化の実際の過程と、グローバル化に関する言説(discourse)は別物。

Norman Fairclough (2006)

Page 18: 英語教育学における「グローバリズム」理解の問題点

英語教育熱を過熱させているのは グローバル化?そのイメージ?

Q. 早期英語教育に賛成しているのはどんな人?

A. グローバル社会で英語を日々使って英語の重要性を 痛感している人?

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Rosetta Stone 「グローバル人材イングリッシュ」 http://mydma.com/globaljinzai-english/

Page 19: 英語教育学における「グローバリズム」理解の問題点

英語は役立つと思う人ほど早期開始支持

0%

20%

40%

60%

80%

100%

まったく役立たない

ほとんど役立たない

少しは役立つ

ある程度役立つ

とても役立つ

選択

者(

推定

確率

中学

小5・6

小3・4

小1・2

就学前

※1 JGSS-2010. N = 4502 ※2「あなたの仕事にとって、英語

の力を高めることはどのくらい役に立つと思いますか?」に対する回答

※3 多項ロジスティック回帰モデルにより年齢・就学年数・性別・英語使用を統制した推定確率

※4 詳細:寺沢(2015, 12章)

学校での英語教育はいつから開始すべき?

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Page 20: 英語教育学における「グローバリズム」理解の問題点

英語使用者ほど「遅い開始」支持

0%

20%

40%

60%

80%

100%

英語使用なし 英語使用あり

選択

者(

推定

確率

中学

小5・6

小3・4

小1・2

就学前

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Page 21: 英語教育学における「グローバリズム」理解の問題点

まとめ

• グローバル化を所与の概念にせず、 「説明すべきものと」として扱うべし

• 政治経済現象としてのグローバル化を、「国際語としての英語」の拡大と 区別すべし

• グローバル化の実際のプロセスと、 グローバル化に関するイメージ(言説) をきちんと区別したうえで、 両者の相互作用を検討すべし

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Page 22: 英語教育学における「グローバリズム」理解の問題点

ご清聴ありがとう ございました

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Q. このテーマになぜ興味をもった? A. 興味がある内容だったからです。

Q. 誰に向けた発表? A. 第1に英語教育学者、第2に政策関係者、第3に現場の教員(枕詞と

しての「グローバル化」を相対化することで、現場をエンパワメント)です。

Q. 教育的示唆は? A. 指導上の示唆はありません。学術上の意義については「まとめ」ス

ライドを御覧ください

Page 23: 英語教育学における「グローバリズム」理解の問題点

引用文献

Block, D. (2012). Economizing globalisation and identity in applied linguistics in neoliberal times. In D. Block, J. Gray & M. Holborow (eds.), Neoliberalism and applied linguistics. Routledge.

Blommaert, J. (2010). The sociolinguistics of globalization. Cambridge University Press.

Fairclough, N. (2006). Language and globalization. Routledge.

de Swaan, A. (2010) Language systems. In N. Coupland (ed.) The Handbook of Language and Globalization (pp. 55-76). Chichester: Wiley-Blackwell.

柴山桂太 (2012). 『静かなる大恐慌』集英社

寺沢拓敬 (2015). 『「日本人と英語」の社会学 ―なぜ英語教育論は誤解だらけなのか?』研究社

みずほ情報総研 (2011) 「大学におけるグローバル人材育成のための指標調査(平成23年度)」

吉田文(2012)「2000年代の高等教育政策における産業界と行政府のポリティックスー新自由主義・グローバリゼーション・少子化」『日本労働研究雑誌』629, 55-66.

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Page 24: 英語教育学における「グローバリズム」理解の問題点

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5th/6th year 3rd/4th year 1st/2nd year Preschool

(Intercept) 0.45 1.95* 1.38 2.27**

(0.90) (0.89) (0.81) (0.80)

Age / 100 0.80 1.00 0.75 -0.82

(0.84) (0.83) (0.76) (0.75)

Female 0.40 0.60** 0.66*** 0.76***

(0.22) (0.21) (0.20) (0.20)

Years of schooling -0.09 -0.22*** -0.12* -0.12**

(0.05) (0.05) (0.05) (0.05)

English use in the workplace= YES -0.12 -0.13 -0.44 -0.57*

(0.31) (0.31) (0.28) (0.28)

Perceived usefulness =Hardly 0.51 0.68** 0.37 0.36

(0.27) (0.26) (0.24) (0.24)

= A little 0.92** 1.14*** 0.99*** 1.15***

(0.32) (0.32) (0.29) (0.29)

= To some extent 1.02** 0.86* 1.23*** 0.88*

(0.39) (0.41) (0.35) (0.36)

= To a great extent 0.16 0.98* 1.16** 1.42**

(0.56) (0.50) (0.44) (0.43)

AIC 4549.59

BIC 4740.63

Log Likelihood -2238.80

Deviance 4477.59

Num. obs. 7450

1st row: regression coefficient. 2nd row: standard error. ***p < 0.001, **p < 0.01, *p < 0.05

「英語教育開始時期への意見」の規定要因(多項ロジスティック回帰分析)