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国際シンポジウム ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携 報告書 54

国際シンポジウム ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携報告書目次

5 はじめに

6 プログラム

9 講師プロフィール

30 基調講演「日本のソーシャル・ファームの発展にむけて」炭谷茂 

ソーシャルファームジャパン理事長

恩賜財団済生会理事長 

学習院大学法学部特別客員教授

37 第 1 部 報告「欧州でのソーシャル・ファームを中心とした障害者雇用の取り組み」

38 英国のソーシャル・ファーム-真の雇用創出-

サリー・レイノルズ(イギリス)

ソーシャル・ファーム UK 最高責任者

45 ウェイアウト協同組合(Vägenut!kooperativen)

-ソーシャル・フランチャイズ方式による社会的協同組合の普及-

ダニエル・リンドグレーン(スウェーデン)

ウェイアウト協同組合(Vägen ut! kooperativen)創設メンバー、開発マネージャー

ル・マット・スウェーデン マネージャー

52 デンマークのソーシャル・ファーム-福祉を推進する重要かつ強力な手段-

ラルス・レネ・ペテルセン(デンマーク)

デンマーク・ソーシャル・エコノミーセンター 所長 

58 フィンランドにおけるソーシャル・ファーム-障害者雇用における役割-

マリヤッタ・バランカ(フィンランド)

VATES 財団 最高経営責任者

64 ヨーロッパにおけるソーシャル・ファームの概観

ゲーロルド・シュワルツ(ドイツ/セルビア)

IOM(国際移住機関)プログラムマネージャー

71 第2部 パネルディスカッション

コーディネーター:寺島彰(浦和大学こども学部 教授)

国内パネリスト

宮嶋望 (農事組合法人共働学舎新得農場代表 NPO共働学舎副理事長)

上野容子(東京家政大学人文学部教育福祉学科学科長・教授)

大山泰弘(日本理化学工業株式会社会長)                              

       

総合ファシリテーター:フィリーダ・パービス(リンクス・ジャパン会長)

88 関連資料

1. ソーシャル・エンタープライズとソーシャル・ファームについて

2. 基調講演および日本側パネリストの当日配布資料

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国際シンポジウム ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携 報告書 76

バリアフリーの進展、障害者権利条約の発効、情報通信技術の発展など、障害のある

人々の社会参加のための環境が整備されつつあり、これまでの障害者福祉の領域を超

えた新しい障害者の雇用形態としてソーシャル・ファームが注目されています。ソーシャ

ル・ファームとは、社会的企業の一つであり、障害者など機会の限られた人々の雇用

を目的としながらも、一般の市場で活動する企業をさします。ソーシャル・ファームは、

世界的に広がりをみせており、日本においても、ソーシャル ・ファーム・ジャパンが設立

されるなど、障害者の雇用に対する新しい取り組みがはじまっています。

この報告書は、国際交流基金が 2011年1月30 日に実施した国際シンポジウム「ソー

シャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携」の内容をとりまとめたものです。北

欧を中心とする欧州の専門家と日本の専門家がソーシャル・ファーム発展のための具体

的な方策と今後の日欧の連携の可能性について議論を交わしました。

欧州の専門家は、国際シンポジウムの前に関西・四国を訪問、障害者やホームレスの

雇用を目的とするソーシャル・ファームや非営利団体、過疎地域の活性化を目指す社会

的企業の方々などと意見を交換し、現場を見てきました。そのスタディツアーの成果も、

このシンポジウムに生かされています。

日本と欧州、さらに欧州域内の国々の間でも、ソーシャル・ファームをめぐる状況や

法制度、支援制度等が異なりますし、ソーシャル・ファーム自体のあり方も多様です。

とはいえ、このような機会を通し、同じ目標を持つ「仲間」として、互いの成功や失敗

から学び、国内のみならず国際的ネットワーク形成のための一助となればと願っており

ます。

2011 年 7 月

国際交流基金

** 本事業の実施に当たりまして多大なご協力をいただきました財団法人日本障害者リハビリテーション協会のみなさまに改めてお礼を申し上げます。

ごあいさつ

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国際シンポジウム ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携 報告書 98

プログラム

10:00-10:10 

主催者挨拶

高橋毅 国際交流基金参与

10:10-10:40 

基調講演「日本のソーシャル・ファームの発展にむけて」

炭谷茂 

ソーシャルファームジャパン理事長恩賜財団済生会理事長 学習院大学法学部特別客員教授

1部報告「欧州でのソーシャル・ファームを中心とした障害者雇用の取り組み」

10:40-11:10 

英国のソーシャル・ファーム-真の雇用創出-

サリー・レイノルズ(イギリス)

ソーシャル・ファーム UK 最高責任者

11:10-11:40

ウェイアウト協同組合(Vägenut!kooperativen)-ソーシャル・フランチャイズ方式による社会的協同組合の普及-

ダニエル・リンドグレーン(スウェーデン)

ウェイアウト協同組合(Vägen ut! kooperativen)創設メンバー、開発マネージャール・マット・スウェーデン マネージャー

11:40-12:10

デンマークのソーシャル・ファーム-福祉を推進する重要かつ強力な手段-

ラルス・レネ・ペテルセン(デンマーク)

デンマーク・ソーシャル・エコノミーセンター 所長 

12:10-13:10

休憩

【第一部続き】

13:10-13:40

フィンランドにおけるソーシャル・ファーム-障害者雇用における役割-

マリヤッタ・バランカ(フィンランド)

VATES 財団 最高経営責任者

13:40-14:10

ヨーロッパにおけるソーシャル・ファームの概観

ゲーロルド・シュワルツ(ドイツ/セルビア)

IOM(国際移住機関)プログラムマネージャー

               

14:10-14:25

休憩

2部パネルディスカッション

14:25-16:30

コーディネーター:寺島彰(浦和大学こども学部 教授)

国内パネリスト

宮嶋望 (農事組合法人共働学舎新得農場代表 NPO共働学舎副理事長)

上野容子(東京家政大学人文学部教育福祉学科学科長・教授)

大山泰弘(日本理化学工業株式会社会長)

閉会挨拶

ルディ・フィロン氏

駐日欧州連合代表部 広報部部長

総合ファシリテーター:フィリーダ・パービス(リンクス・ジャパン会長)

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国際シンポジウム ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携 報告書 1110

講師プロフィール

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国際シンポジウム ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携 報告書 1312

講師プロフィール

1969年東京大学法学部卒業後、厚生省(当時)に入る。厚生省社会・

援護局長、環境省官房長等を経て、2003 年7 月環境事務次官に就任、

2006 年9 月退任。現在、恩賜財団済生会理事長、学習院大学法学部特

別客員教授、ドナルド・マクドナルド・ハウス財団理事、朝日新聞厚生文

化事業団評議員等を務める。

また国家公務員在職中から一個人として障害者、ホームレス、引きこも

りの若者、刑余者などへの就労支援、貧困地域のまちづくりなど社会貢

献活動に従事している。

最近の著書に「私の人権行政論」(解放出版社、2007 年)、「環境福祉

学の理論と実践」(編著、環境新聞社、2006 年)、「社会福祉の原理と課題」

(社会保険研究所、2004 年)「地球環境問題の新常識」(共著、東洋経済

新報社、2004 年)

炭谷 茂Shigeru Sumitani

ソーシャルファームジャパン理事長恩賜財団済生会理事長

学習院大学法学部特別客員教授

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国際シンポジウム ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携 報告書 1514

講師プロフィール

ソーシャル・ファーム UKの共同設立者。2004 年1月より現職。

ヨーロッパ全体のネットワークであるソーシャル・ファーム・ヨーロッパ

CEFEC に1997 年より関わり、現在事務局長。

民間企業でのマーケティング及び広報活動を経て、1996年から 2002

年まで Surrey Oaklands NHS トラストにて精神及び知的障害者へのト

レーニングと雇用サービスのマーケティング活動の開発に携わった。労働

市場において非常に不利な立場にある人々の雇用創出のための解決策とし

て、ソーシャル・ファームの認知度を高めるために全力を注ぐ。ソーシャ

ル・ファームモデルへの支援のため英国政府の大臣等への説明等も含めロ

ビー活動を行い、多くの団体、組織、政治家と知見を交換するため世界

中を飛び回る。全英で活動を展開する社会企業連合(Social Enterprise

Coalition)理事。ENSIE (European Network of Social Integration

Enterprises) 役員。ソーシャル・ファーム・ウェールズ、ソーシャル・ファーム・

スコットランド役員、トラベルマターズ、Netherne 印刷の会長。全英のソー

シャル・エンタープライズとパートナーシップを組み、活動を行う。

サリー・レイノルズSally Reynolds

ソーシャル・ファーム・ヨーロッパ CEFEC 事務局長ソーシャル・ファーム UK 最高責任者

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国際シンポジウム ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携 報告書 1716

講師プロフィール

10年前から社会起業家として活動。現在、80人の従業員と1日120 人

の利用者を抱えるウェイアウト協同組合(Vägen ut! Kooperativen)の

開発マネージャーを務める。

経済学と心理療法の学位を所持。ウェイアウト協同組合において新旧

のビジネスの開発に取り組んできた。また、服役中である親を対象とし

た教育プログラム及びその親子関係を支援する組織を全国的に統括する

RiksBryggan の共同設立者でもある。国内外の開発プロジェクトにも長

年にわたり従事している。

ダニエル・リンドグレーンDaniel Lindgren

ウェイアウト協同組合(Vägen ut! kooperativen) 創設メンバー、開発マネージャーLe mat Sweden マネージャー

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国際シンポジウム ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携 報告書 1918

講師プロフィール

デンマークのソーシャル・エンタープライズの経験と知識を提供し、

NGO へのカウンセリング、自治体への戦略の助言や分析を行い、大臣・

議員等との協力関係を通じて政策決定にも関わるデンマーク・ソーシャル

エコノミー・センター の所長をつとめる。

ロスキレ大学で公共政策の修士号を取得後、ソーシャル・エンタープラ

イズ、公的及び民間セクターで活躍。

2005年からデンマークの政治的及び公的課題におけるソーシャル・エ

ンタープライズの戦略的活用の導入に関わる。国家の発展過程とデンマー

ク及びスカンジナビア諸国の福祉の安定のために、ソーシャル・エンター

プライズとその精神をどのように活用できるのか、関係機関、自治体、国

家、マスメディアに対し専門家の立場から発言している。

ラルス・レネ・ペテルセンLars René Petersen

デンマーク・ソーシャルエコノミー・センター 所長

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国際シンポジウム ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携 報告書 2120

講師プロフィール

1975年より地域、国家レベルの障害者雇用に関する開発、経営、研

究に従事し、ヨーロッパ間のプロジェクトの情報交換と協力において幅広

い経験を有している。

1993年、VATES 財団(VATES Foundation)を設立。また、肺障害

協会(Association for the Pulmonary Disabled)障害者雇用セクショ

ンのディレクター、福祉的就労セクションのリーダーを努める。

2009 年、国立労働衛生研究所よりワークプロテクション賞を受賞。

Models of sheltered work, descriptions of sheltered work system

in European countries など著者多数。ヘルシンキ工科大学にて産業経

済及び生産管理における科学修士取得 (1986年 )。

マリヤッタ・バランカMarjatta Varanka

VATES 財団 最高経営責任者

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国際シンポジウム ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携 報告書

講師プロフィール

IOM で不利な立場にある人々のための経済開発・雇用創出部門のプロ

グラムマネージャーを務めており、現在セルビアで、4 つの国際機関とセ

ルビア政府が実施する 800 万 USドルの共同計画を運営している。IOM

に勤務する前は、ソーシャル・エンタープライズ・パートナーシップ(SEP)

所長を 2 年間務めた。SEP は英国における 6 つのソーシャル・エンター

プライズ団体による戦略的連携機関で、ソーシャル・エンタープライズ・

セクターに関する意識向上と啓発、ソーシャル・エンタープライズの業績

改善や支援システムの効率化、ベストプラクティスの主流化、およびソー

シャルインクルージョンと社会起業に関する広範なプログラムを革新する

ことを目的とした全国的なプロジェクトを実施。

また「ソーシャル・ファーム」のためのコンサルティング会社でベルリ

ンに拠点を置く FAF gGmbH で、社会起業に関するプロジェクトマネー

ジャーとコンサルタントを10 年間務めた。この分野における数々の国際

プロジェクトの運営、国際会議の企画、ソーシャル・ファームに関する論

文の発表を行う。

1997 年、労働社会省のために、ドイツのソーシャル・エンタープライ

ズに関する全国調査を実施。1997 年から1999 年までは、自営業を

始める精神障害者を支援する顧客運営型コンサルティング会社である、

ニューヨーク市の InCube 社に勤務した。1994 年から1998 年までは、

CEFEC(精神障がいを持つ人の就労に関する欧州会議)事務局を指揮し、

その執行委員を務めた。

ベルリン自由大学で心理学の修士号を、ベルリン経済大学および英国ケ

ンブリッジのアングリア・ポリテクニック大学で MBA を取得。

ゲーロルド・シュワルツGerold Schwarz

IOM(国際移住機関)プログラムマネージャー

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国際シンポジウム ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携 報告書

講師プロフィール

IOM で不利な立場にある人々のための経済開発・雇用創出部門のプロ

グラムマネージャーを務めており、現在セルビアで、4 つの国際機関とセ

ルビア政府が実施する 800 万 USドルの共同計画を運営している。IOM

に勤務する前は、ソーシャル・エンタープライズ・パートナーシップ(SEP)

所長を 2 年間務めた。SEP は英国における 6 つのソーシャル・エンター

プライズ団体による戦略的連携機関で、ソーシャル・エンタープライズ・

セクターに関する意識向上と啓発、ソーシャル・エンタープライズの業績

改善や支援システムの効率化、ベストプラクティスの主流化、およびソー

シャルインクルージョンと社会起業に関する広範なプログラムを革新する

ことを目的とした全国的なプロジェクトを実施。

また「ソーシャル・ファーム」のためのコンサルティング会社でベルリ

ンに拠点を置く FAF gGmbH で、社会起業に関するプロジェクトマネー

ジャーとコンサルタントを10 年間務めた。この分野における数々の国際

プロジェクトの運営、国際会議の企画、ソーシャル・ファームに関する論

文の発表を行う。

1997 年、労働社会省のために、ドイツのソーシャル・エンタープライ

ズに関する全国調査を実施。1997 年から1999 年までは、自営業を

始める精神障害者を支援する顧客運営型コンサルティング会社である、

ニューヨーク市の InCube 社に勤務した。1994 年から1998 年までは、

CEFEC(精神障がいを持つ人の就労に関する欧州会議)事務局を指揮し、

その執行委員を務めた。

ベルリン自由大学で心理学の修士号を、ベルリン経済大学および英国ケ

ンブリッジのアングリア・ポリテクニック大学で MBA を取得。

ゲーロルド・シュワルツGerold Schwarz

IOM(国際移住機関)プログラムマネージャー

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国際シンポジウム ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携 報告書 2322

講師プロフィール

1998年、リンクス・ジャパンを設立。ソーシャルインクルージョン、地

域再生、ソーシャル・エンタープライズ、国際開発協力問題を中心に取り

組むほか、日本及びアフリカ諸国との交流を促進させる活動を行っている。

日英 21世紀グループの事務局長(1998年~ 99年)。大和日英基金の

副事務局長を 5年間務める。東京大学大学院で日本の外交政策を研究。

その後、英国大使館職員としてシンガポールで政治を、また東京で経済を

担当。ダーラム大学神学部を卒業。ロンドン大学東洋・アフリカ学科で日

本語を学ぶ。

難民や強制移住者のために活動する国際難民トラスト(IRT)理事。世界

各地へ青年ボランティアを派遣するラティテュード理事。世界の地域団体

とソーシャル・エンタープライズが、共同プログラムと IT の利用を通じて

経験を共有することを推進するグローバル・リンクス・イニシアティブの国

際諮問委員会委員。ロンドンに拠点を置く、日本文化、スポーツおよびレ

クリエーションに関するセンターの設立企画プロジェクトである、日本ア

リーナの理事兼事務局長。興望館、墨田区のセツルメントの諮問委員会

委員。国際友好和解基金幹事。ボランティア組織最高責任者協会の日本

に関するアドバイザー。ケニア・ウガンダと日本のコミュニティとの関係を

促進する世界アフリカン・ディアスポラ連合およびメンディング・ザ・ギャッ

プのアジア太平洋地域に関するアドバイザー。王立国際問題研究所、日本

アジア協会のメンバー。

イギリスに拠点を置くリンクス・ジャパンは BUILD(Building Understanding

through International Links for Development)協議会、the United Kingdom

One World Linking Association のメンバー。

フィリーダ・パービスPhillida Purvis

MBE(大英勲章第五位)リンクス・ジャパン創設者、会長

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国際シンポジウム ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携 報告書 2524

講師プロフィール

大学で障害児教育について学んだ後、障害者更生施設のソーシャルワー

カーとして16年間勤務した後、厚生省(現厚生労働省)障害福祉専門官、

国立身体障害者リハビリテーションセンター国際協力専門官、同センター

研究所障害福祉研究部社会適応システム開発室長、同障害福祉研究部長

を経て現職。研究テーマは、障害者福祉政策と福祉機器を活用したソー

シャルワーク。

社会福祉学会、経済政策学会、地域経済学会会員。国際協力機構(JICA)

障害者専門家コース企画委員、総合リハビリテーション研究大会常任委員

を務める。

著書 :『障害者差別禁止法とソーシャルワーク』,翻訳監修,中央法規出版,2003『障害者福祉論』,福祉士養成講座編集委員会編集,共著,中央法規出版,2003『支援費制度辞典』,京極高宣・初山泰弘監修,共著,社会保険研究所,2003などがある。

寺島 彰Akira Terashima

浦和大学こども学部 教授

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国際シンポジウム ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携 報告書 2726

講師プロフィール

1974 年に自由学園最高学部卒業(卒後論文は植物生態学で「森の植生

遷移」)後、米国ウイスコンシン州で酪農実習を行う。ウイスコンシン大学

( マディソン ) の畜産学部卒業した1978年より、北海道上川郡新得町に

入植、共働学舎新得農場を開設。北海道地域おこしアドバイザー(1989

年~)、新得町第 5 期および第 6 期長期策定委員(保健福祉部会部会長

(1990 ~ 2000年)をつとめる。1990 年には 「ナチュラルチーズ・サミッ

ト in 十勝」 を企画、開催。2006 年に NPO 共働学舎が設立。副理事長

に就任。

第1回オールジャパン・ナチュラルチーズコンテスト(1982 年)にて、

最高賞の畜産局長賞をラクレットで受賞。第3回山のチーズオリンピッ

ク(スイス/ 2004 年)で「さくら」が金賞、同第 5 回コンテスト(ドイ

ツ/ 2007 年)「さくら」金賞、「エメレット」銀賞、国際特別賞を受賞、同

第 6 回コンテストにて(スイス/ 2008 年)特別金賞を受賞。Monde

Selection( 2007 年)で「さくら」、「笹ゆき」が最高金賞を受賞など高く

評価されている。

著書に『みんな、神様をつれてやってきた』(地湧社)

宮嶋 望Nozomu Miyajima

農事組合法人共働学舎新得農場代表NPO共働学舎副理事長

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国際シンポジウム ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携 報告書 2928

講師プロフィール

1971 年日本社会事業大学卒業後、東京都内の精神科病院に精神科ソー

シャルワーカーとして 5 年間勤務。 精神障害者の地域生活を支援する活

動を希望し、1978 年、東京都豊島区にて、穂積登精神科医(現:(医)慶

竹会 ホズミクリニック院長)が創設した精神障害者の「居場所づくり」(み

のりの家)にかかわる。

豊島区にて、作業所、グループホーム、ショートステイ、授産施設、地

域生活支援センター等の精神障害者の社会資源づくり、施設の開設、事

業運営、活動に携わり、2000 年まで民間団体「ハートランド」事務局長、

1996 年から 2000 年まで(福)豊芯会副理事長(現:理事)を務める。

1998 年から法政大学、立教大学、駒澤大学、日本社会事業大学等で精

神保健福祉担当の非常勤講師をつとめる。

2001 年 4 月から、東京家政大学専任教員(現:教授)として、精神

保健福祉分野を担当。同年、(福)豊芯会を 退職し、以来、理事の立場や

スタッフのスーパーバイザーの立場で関わりを続けていたが、2009 年

11 月 20 日付けで同法人の理事長に就任。埼玉県狭山市、入間市、飯能

市の関係委員会や関係団体の理事、監査等の役を担い、精神障害者の地

域生活支援事業の発展のために活動。

上野 容子 Yoko Ueno

東京家政大学人文学部教育福祉学科学科長・教授 駒澤大学非常勤講師

社会福祉法人豊芯会理事長 精神保健福祉士

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国際シンポジウム ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携 報告書 3130

講師プロフィール

中央大学 法学部卒業

<現職>

日本白墨工業組合 理事(昭和45年より)

<過去の公職>

昭和62年 11月 5日 重度障害者多数雇用事業所協議会会長

(昭和56年3月26日同上副会長就任)

平成 元年 5月 25日 社団法人全国重度障害者雇用事業所協会設立、会長就任

平成15年 5月 21日 同上会長退任

<外>

(個人)

昭和56年 12月 9日 国際障害者年内閣総理大臣表彰

昭和62年 5月 8日 神奈川県知事表彰

平成15年 9月 2日 厚生労働大臣表彰

平成16年 5月 10日 叙勲瑞宝単光章

平成17年 2月 1日 日本フィランソロピー協会より

企業フィランソロピー大賞のうち特別賞 社会共生賞

平成17年 11月 15日 ソロプチミスト日本財団より社会ボランティア賞

平成20年 11月 3日 テレビ東京「カンブリア宮殿」出演

平成21年 2月 10日 渋沢 栄一賞

平成21年 7月 (知的障害者に導かれた)『働く幸せ』(WAVE 出版)発刊

(会社)

平成 元年 9月 1日 労働大臣表彰

平成16年 1月 21日 神奈川県優良工場表彰

平成16年 7月 1日 川崎市ベンチャー事業奨励賞

大山泰弘Yasuhiro Oyama

日本理化学工業株式会社取締役会長

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国際シンポジウム ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携 報告書 3332

基調講演

基調講演炭谷茂

ソーシャルファームジャパン理事長恩賜財団済生会理事長

学習院大学法学部特別客員教授

〔参考資料 P90〕

今日は、日本でソーシャル・ファームがどのように発展して

いるのか、またどのような問題点を抱えているのかをお話

し、ヨーロッパの方々のお話の前提の知識を得ていただけ

ればと思っております。

日本の就労状況は大変厳しいです。失業率は 5%。大学

を卒業したけれど内定をもらえない人が3割以上いる。そ

ういう状況になっています。そのような中にあって、なかん

ずく障害を持っている人や高齢者、難病患者の人、刑務所

から出所してきた人たち、それからニートや引きこもりの若

者、何かハンディキャップを持っている人の状況はよりいっ

そう厳しくなっています。

私はこのような人たち、日本で適切な仕事を得られない、

もしくは働いていてもどうも自分に合わないと思っている人

は、最低でも2,000万人くらいいらっしゃると思っています。

そんなに多くはないだろうと、よく言われるんですが、重複

計算を除いても最低でも 2,000 万人いらっしゃると推定し

ています。少なくないわけです。日本の不況のとき、真っ先

に解雇されたのは障害者の人でございます。なかなかよい

仕事が見つからない、仕事をしていても合わないという人た

ちが多いのです。

高齢者の所在不明事件ではないでしょうか。そこで私は

以前からソーシャル・インクルージョン=社会的包摂、こ

れを日本の中でもっと強調していかないといけないと思っ

ています。

その中で一番役立つのは、今申しました仕事ということ

です。けれども、仕事がいいということは誰でもわかってい

るけども、仕事自体がない、それが問題だと思っています。

先ほど言いましたように最低でも 2,000 万人以上の人が

いる。それらの人の働く場所ですが、現在の日本では2種

類が用意されていると思っています。

1種類は、公的に用意されている職場。税金が投入され

ている職場。地方自治体または社会福祉法人が作っている、

そういう職場があると思います。私はもちろん、これはもっ

ともっと増やさないといけないと思います。しかし、残念

ながら予算の制約によってなかなか増えない。また働いて

も1ヶ月1万円はなかなか届かない。そういう状況だと思っ

ています。

2種類目の職場は、民間企業だと思います。済生会は現

在 5 万人の職員を擁しています。このような職場では障害

者を1.8%雇用しなければならなくなっています。かろうじ

仕事にはどういう効果があるのかということですけれど

も、もちろん、収入が得られるということがあると思います。

経済的な自立が図られるということです。

一昨日、私のところにスワンベーカリー社長の海津さん

が来てくれました。障害者が働いて一番いいことは何です

かと聞くと、障害者の人たちが言うのは、お客さんに喜ん

でもらえる、自分たちの仕事が感謝してもらえる。それが

一番嬉しいと言っていたよと教えていただきました。その

とおりです。障害者にとって働くというのは、人から感謝さ

れる、自分の満足感、自尊心が得られる。そういうことだ

と思っております。

そのほか、人間として成長していく、また規則正しい生活

で健康が維持できるというとこがあると思います。

でも、何よりも重要なのは、社会とのつながりができ

るということではないでしょうか。現代社会は働くことに

よって人とのつながりができる。日本は今、たくさんの問

題を抱えています。よく見るとそれらの問題というのは、

社会とのつながりがなくなったために、生じたのではない

でしょうか。

例えば児童虐待にしても、社会とのつながりがない。

また孤独死にしても、社会とのつながりがない。究極は、

て私どもは1.9%をクリアしているに過ぎないんですね。民

間企業を見ると、なかなか1.8%がクリアできないところが

多いと思います。

もちろん第1の職場、第2の職場、それぞれ重要ですけれ

ども、これからの情勢を考えると、第3の職場、今日このシ

ンポジウムで使われる言葉で言えばソーシャル・エンタープ

ライズ=社会的企業も重要だと思います。

社会的企業は、第1の職場のように社会的な目的を有し

ています。たとえば、障害者の仕事場づくり、ニートの若者

のための仕事場づくり、刑務所からの出所者のための仕事

場づくりです。しかし第1の職場と違って、税金というもの

をあてにしない。第2の職場のようにビジネス的な手法で行

う。第3の職場は、いわば第1の職場と第2の職場のハイブ

リッド型であると思います。

その社会的企業というものの1つが、今日のシンポジウム

の中心課題であるソーシャル・ファームであります。

ソーシャル・ファームは、北イタリアのトリエステで生ま

れたと言われています。1970 年代にトリエステにある精

神病院で、精神障害者のために作られたものでございます。

このソーシャル・ファームは瞬く間に全ヨーロッパに広がり、

続く

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国際シンポジウム ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携 報告書 3534

基調講演

今日もドイツ、イギリス、スカンジナビア諸国から来ていた

だきました。

私はこのソーシャル・ファームの重要性、何よりも重要だ

と今日強調したいことは、当事者が一般の健常者と一緒に

働く。そこが一番重要だと思っています。つまり、障害者だ

けが働く、刑務所からの出所者だけが働く、そういうもの

ではなくて、当事者と一般の人とが一緒になって働く。ここ

にソーシャル・ファームの特色があるわけでございます。

社会的企業=ソーシャル・エンタープライズには、例えば

コミュニティビジネスというものがあります。例えば家庭の

お母さんが環境のためにやる。これもコミュニティビジネス

で、第3の職場、社会的企業の一つです。しかしその中にあっ

て、ソーシャル・ファームの特色というのは当事者だけが働

くものではない。また一般の健常者だけが働くのではなく、

一緒になって働く。ここにポイントがあります。この部分を

忘れたものは存在しない。ソーシャル・ファームではないと

思っております。

昨日私は岡山の高梁市に行っていました。そこで愛媛県

愛南町の NPO の御荘病院という精神病院の院長の長野先

生と話をしました。ここは、日本でも大変優れたソーシャル・

ファームを展開しているところだと思います。愛南町では、

その精神病院の患者さんと住民の方々が一緒になって、日

本では多分大規模なものはここでしかないんですけれども、

カリフォルニアに勉強にいって、アボカドの栽培を始めると

言っていました。その他、レストラン経営をしております。

日本で精神障害者がまさに住民と一緒になって働いてい

る。これが大変すばらしいところだなと感激しました。

私は、北の浦河町、南の愛南町が日本の二大、精神障害

者の方が住民の方々と一緒に暮らしている町だろうと思って

います。

4年前から私は日本にもソーシャル・ファームを 2,000

社作る活動をやってまいりました。徐々にこの活動が浸透し

てきたのかなと思っています。

先ほど言いましたように日本では、2,000 万人という数

ここにポイントがあります。つまり障害者や引きこもりの

若者、高齢者が作ったといって、質が劣ってはいけないわけ

です。このような試みが、現在、いろいろなところでされよ

うとしています。

この後、お話ししていただくものですけれども、成功して

いる分野、最近始まった分野として一、二をご紹介したいと

思います。

まず環境分野では、3R(リデュース・リユース・リサイク

ル)がこれから発展していくわけですけれども、一昨年から

本格的に神奈川県秦野市にある弘済学園が古本の販売を始

めました。弘済学園というのは、日本で一番すぐれた障害

者施設の一つです。一般の人から本を寄贈してもらう。決し

て買うわけではなく、障害者のためだということで寄贈して

もらう。そしてその本の汚れをサンドペーパーやオイルで消

し、また書き込みは消しゴムで消し、本にハトロン紙をかけ

る。パソコンのできる子が本の名前、著者名、値段等を入れ、

インターネットのアマゾンによって販売する。このようなビ

ジネスモデルで進められています。

現在ではだんだん軌道に乗ってきています。環境省の環

境モデル事業として今年度、採択されています。これが一つ

の人がいます。これのすべてに対してソーシャル・ファーム

が対応できるとは思っておりません。その何十分の一にな

ると思いますけれども、このようにたくさんの人がいる以

上、ソーシャル・ファームは各市町村に最低一ヶ所ほしい。

この一ヶ所が積み上がってくれば 2,000 社になるわけです。

そのようなことになっていけばいいなということで、活動を

やっているわけでございます。

それを支えるために、ソーシャルファームジャパンという

組織を作っています。昨年の12 月19 日、後で話される宮

嶋さんや上野先生、また北海道から来ていただいている菊

池さん、このような方々と一緒に、ソーシャルファームジャ

パンの総会を行い、今後についての話し合いをしました。

それでは、日本のソーシャル・ファームの展開について話

を進めたいと思います。

日本にもソーシャル・ファームが生まれ始めていますし、

今後の日本を背負う分野になっていくと思います。先ほど申

し上げましたようにソーシャル・ファームは第2の分野であ

る企業・職場と同じように、民間のビジネス的手法でやりま

す。民間企業と競争しなければいけない、製品の質、価格

面で民間企業に劣ってはいけないわけです。

今日、わざわざ私がカバンをもってきたのを不思議に思

われたでしょうが、これはエルメスでもなければルイ・ヴィ

トンでもありません。これはある大阪市のカバンの一流メー

カーが、ソーシャル・ファームを作ろうと言って始めている

ものでございます。実はパリにも輸出されており、また東京

でも売っている一流のカバンです。

大変優れているもので、いわゆるエコレザーというもの

を使っています。通常、皮をなめすときには、クローム類を

中心にした重金属を使うわけですけれども、それは環境に

悪いということで、これは柿の渋を使って皮をなめすという

技術です。ですから環境によいということでエコレザーの認

証をとっているものです。デザインもパリで戦っているカバ

ンでございますから、大変良いのです。

これを障害者の仕事づくりとして今、作っていこうとされ

ています。投資額は大変多くなろうかと思います。

のビジネスモデルとして成功すれば、神奈川県を中心とする

地域だけでなく、例えば北海道や九州でも同じものができ

ればいいなと思っております。

時間の関係上、主なものだけお話していきますと、帯広で

活躍しているNPOあうるずでは、エゾシカの皮を活用してカ

バン作りをしています。エゾシカは北海道で大変増えて、こ

れを駆除している。単に駆除するだけではもったいないので、

その皮を使ってカバンを作ってらっしゃるわけです。私が大

阪でやっているエコレザーによるカバン作り。北海道ではエ

ゾシカの皮をもとにしたカバン作り。これがソーシャル・ファー

ムの一つの事業として発展していけば嬉しいと思っています。

二番目に、農業や酪農の分野がございます。酪農につい

ては、午後に共働学舎の宮嶋さんが詳しく話してくれます。

大変成功しているソーシャル・ファームの一つです。

その他、一昨年から始まりました埼玉県飯能市のたんぽ

ぽの例がございます。ここでは、その土地に伝統的に存在

する固定種を利用して、無農薬・無肥料で野菜作りをしてい

ます。近所の人から畑を提供していただいて、現在、2 万

平米という大変広い農地で、約 6 名の高次機能障害、精神

障害、高齢者などによって、野菜作りが行われています。さ

続く

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国際シンポジウム ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携 報告書 3736

基調講演

らに先週の月曜には、飯能市の市街地の中心に旬菜カフェ

たんぽぽというレストランが開業しました。私も開店のとき

に行ってまいりましたけれども、大変優れたレストランで、

一流のシェフをスカウトして料理に当たっています。

なぜレストランを開いたかといえば、野菜を作っているだ

けではどうも利潤が小さい。調理をしてレストランとして出

すことによって利潤が上がる。そういうことで旬菜カフェた

んぽぽというレストランが飯能の駅にできました。ぜひ繁

盛してくれればと思っております。なお、このレストランは、

地方都市の空洞化の対策にも役立つということで飯能市長

も大変期待を寄せているものでございます。

また、福祉も大変有望でございます。これも後ほど上野先生

に豊島区で行われている豊芯会の例を紹介していただきます。

サービス業、これも有望な分野でございます。サービス

業は労働集約的ですので、大企業が苦手とする分野です。

大企業が苦手とする分野こそ、ソーシャル・ファームの出番

があると思います。兵庫県姫路市に、門口堅蔵さんという

高齢の人がいらっしゃいます。姫路市には世界遺産の白鷺

城がございますが、彼は白鷺城に対抗して、ドイツの城を

モデルにして白鳥城というものを作り、1 昨年 4 月にオー

もの、例えばニッチな分野、または労働集約的な分野をやる。

先ほどの弘済学園の古本ビジネスは、回転率は問題にし

ない。商売というのは資本の回転を早くすることが成功す

るポイントですけれども、逆に、回転は問わない、ゆっくり

やる。そういう逆のやり方をしているわけでございます。

それから商品はデザイン力も重要でございます。これにつ

いても、幸い、ソーシャルファームジャパンには、武蔵野美

術大学のグループが支援をしてくれています。

次に、売らなければいけない。販売力でございます。

このために、ソーシャル・ファームのネットワークを作ろ

うということです。そしてできれば、アンテナショップを作っ

たらどうだろうか、商品の共通カタログを作ったらどうだろ

うか。さらにはソーシャル・ファームブランドを日本におい

て確立したいと思っています。

ソーシャル・ファームのロゴマークというものを作っており

ます。ソーシャル・ファームの製品にはソーシャルファームジャ

パンのロゴマークが入っている。それによって、同じ品質、同

じ値段だったらソーシャルファームジャパンのロゴマークがつ

いたものを買ってもらうという形で進めたいと思っています。

第3に、これはどなたも悩みますね、経営資金の問題で

プンしました。一種のテーマパークです。今どきテーマパー

クは儲からないのではないかと心配したんですが、門口さ

んはビジネスは俺の方が得意なんだと多額のお金を投入し

て作りました。そしてこの白鳥城で働いている人は、すべて

元ホームレスや障害者、刑務所からの出所者で、約 100 名

の人が勤務していると聞いています。その人たちが働くた

めに作ったものでございます。オープンして2年近くたちま

すけれども、何とかうまくいってくれればと願っております。

それでは、これからソーシャル・ファームを発展させるた

めにはどうしたらいいのでしょうか。

何よりも商品・サービスの開発が重要でございます。日本

には「三人寄れば文殊の知恵」という言葉があります。いろ

いろな人が集まって、まず考えてみる。これが大変有効な

わけでございます。

たとえば、一昨年、神奈川県厚木市で、この地域でソーシャ

ル・ファームを作るにはどうしたらいいかということで、障

害者の方々などが集まって話し合いをもたれました。このよ

うに、ある地域でサロンを作るというのも大変有効な方法

だと思っております。

また、企業と戦わないといけませんので、企業が苦手な

ございます。

これは福祉関係者の一つの癖ですけれども、国がちゃん

とお金を用意してくれるならやる、国がちゃんと法律を作っ

てくれるんだったらソーシャル・ファームをやってもいい。

そういうのが日本の福祉関係者の大体の習慣でございま

す。それに対してソーシャル・ファームというのは、それで

はダメだと。あくまでも公の金はいただければありがたい

ですが、それがあるからやるという精神ではないわけでご

ざいます。

幸い、日本にはいろんな制度があります。探せば、必ず

使える財政制度、助成制度があるわけでございます。日本

も捨てたものではありません。志が高ければ、それならお

金を出してやると。このカバンにも多額の設備投資が必要

ですが、それならと出される人が現れるんです。それが日本

社会のよさだと思うんですね。志をしっかりと持つ。公の補

助金があるからやるという精神では、このソーシャル・ファー

ムはうまくいかないだろうと思っております。

第4は支援者です。ソーシャル・ファームで一番重要なの

は、先ほどから強調していますけれども、当事者と一般の

人が一緒になって働くということです。障害者だけがやる、

続く

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国際シンポジウム ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携 報告書 3938

基調講演

第1部

報告「欧州でのソーシャル・ファームを中心とした障害者雇用の取り組み」

引きこもりの若者だけがやる、それではソーシャル・ファー

ムの意味はありません。やめた方がいいと思います。障害

者の授産施設にも一般の人がいるよと言われるかもしれま

せん。でも彼らの役割は授産施設の指導者なんですね。そ

れではダメなんです。あくまで一緒に働くこと。

先ほどの愛南町の例ですが、あれはまさに精神障害者の人

と住民の方が一体になって働いているんです。その中心になっ

ている精神科の長野先生も、精神障害者とか住民とかという

区別はやめようと。ひとかたまりで住民が働く場というふうに

なっています。こうならなければいけないんだと思いますね。

住民の方々の協力の仕方はいろいろあると思います。お

金を出してもらうのもありがたい。一緒に働いてくれるのも

ありがたい。でも、それがなかなかできないのが普通の人

だと思います。それであれば、消費者としてものを買ってく

れる。野菜を買ってくれる。本を買ってくれる。それで十分

なわけでございます。

次に国際協力でございます。これは今日のような場を設

けて、ヨーロッパの方と一緒になってどのようにソーシャル・

ファームを進めたらいいか。これが大変大きな力になるんだ

と思います。

先日、ニュージーランドの障害担当大臣とお会いするこ

とができました。ニュージーランドでもソーシャル・ファー

ムを作っているので日本と一緒になってやっていこうと、大

変心強いお話をいただきました。韓国も一緒にやろうと言っ

てくれています。このような国際協力によって進めたいなと

思っているわけでございます。

最後になりますけれども、新しいこれからの国家のあり方、

これにソーシャル・ファームが関係してくるのではないかな

と思っています。

まずソーシャル・ファームというのは、新しい生き方を示

すものだと思っています。障害者をはじめ、日本に 2,000

万人以上の何らかの理由で働きづらい人がいらっしゃいま

す。そのような人が人間として生きるための新しい働き方を

示す。そういうものだと思っています。

また二番目には、これに住民が一緒に参加することによって、

新しい日本の社会のあり方を提示するものだと思っています。

そして三番目には、今、政府によって税と社会保障制度の

改革が検討されています。今日話されるソーシャル・ファー

ムをいかに組み込むか、新しい国家像にも関係してくるので

はないかと思っています。

今日は日本のソーシャル・ファームの現状と今後の展望に

ついてお話しさせていただきました。どうもご清聴ありがと

うございました。

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国際シンポジウム ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携 報告書 4140

第1部 欧州でのソーシャル・ファームを中心とした障害者雇用の取り組み

フィリーダ・パービス:本日はこんなに

多く来てくださいましてとても嬉しく

思っています。私はフィリーダ・パービ

スと申します。リンクス・ジャパンを運

営しています。リンクス・ジャパンは主

に日本とイギリス間の交流を進めてい

ます。いわゆる社会的、非政府セクター

の交流を進めています。特に、私た

ちが大変関心を持っていることはソー

シャル・エンタープライズ、ソーシャル・

エコノミーです。

これは日本とイギリス、日本とヨー

ロッパとの交流でも焦点になってきま

した。非常に認知度も高まってきたと

思います。私たちは、知識や経験を共

有することによって、下から上への活

動を進めていきたいと思います。

政府が主導しているサプライ・サイ

ドの取り組みは、社会的問題の解決に

実効性を持っていません。課題が大変

多様だからです。ソーシャル・エンター

プライズにおいては、人々の福利、あ

るいは幸福、協力、信頼、そしてコミュ

ニティのネットワークによってしかもた

らされることはないということを承知

しているわけです。

ソーシャル・ファームというものがあ

り、ここでは労働市場で不利な立場に

立たされている人たちのための雇用を

生み出しているわけです。いろいろな

国で関心が持たれています。今、炭谷

さんからのご講演がありましたけれど

も、ソーシャル・ファーム、あるいはソー

シャル・ファームに似たような組織が

日本でも増えています。ヨーロッパに

おいてもいろいろ異なるモデルがあり

ます。その歴史的な発展経緯もさまざ

までありますし、法体系もさまざまで

す。今日はいろいろな国からスピーカー

がおいでくださいまして、どういうふ

うにソーシャル・ファームが運営され

ているのか、そしてどういう問題に直

面しているかについてお話しください

ます。

最初のスピーカーとして、イギリス

のサリー・レイノルズさんにお話しい

ただきたいと思います。

ソーシャル・ファームを支援するソー

シャル・ファーム UK の最高責任者で

す。そしてソーシャル・ファーム・ヨー

ロッパ(CEFEC)の事務局長をしてお

られます。また、官と民のセクターで

働いた経験があり、その後、ソーシャ

ル・ファームに関わるようになられま

した。一般の方たちに対する啓発活動

だけではなく、政治家に対する働きか

けもしてこられた方です。ソーシャル・

ファームがいかに重要であり、発展の

ために何が必要なのかということにつ

いて、尽くしてこられた方です。

それではレイノルズさん、よろしく

お願いいたします。

サリー・レイノルズ:ミナサン、コンニ

チハ。今日は、ここでイギリスの経験

についてお話しさせていただくことを

大変にうれしく思います。

スライド1

歴史的な発展についてはあまり詳し

くお話しする時間がありません。今ま

でにも資料を提供していますが、イギ

リスはドイツ、イタリアを手本にしまし

た。1980 年代の初めよりヨーロッパ

間のネットワークは形成され、それは

とても重要な役割を担っています。

スライド 2

89 ページ(関連資料 1)で、ソー

シャル・ファームの定義をお読みいた

だくことができます。これは、ヨーロッ

パのネットワークであるソーシャル・

ファーム・ヨーロッパ(CEFEC)が作っ

たものです。

CEFEC は 94 年に始まったもので、

定義は1997 年に作られたものです。

ヨーロッパでは、これが一般的なソー

シャル・ファームの定義と受け入れら

れています。合意するのに 5 年ぐらい

かかりました。

イギリスでは、1999 年、ソーシャ

ル・ファーム発展のための全国的な統

括組織としてソーシャル・ファーム UK

が設立されました。

スライド 3

ソーシャル・ファームの価値観は、

企業、雇用、エンパワメントの三本柱

となっています。この順番には意味が

あります。つまりビジネス主導の企業

がなければ、雇用は成り立たず、雇

用されれば真のエンパワメントにつな

がるので、この順番になっているわけ

です。構想は、すべての人に雇用の機

会を与えたいということです。そして、

私たちの使命はソーシャル・ファーム・

セクターの支援を強化し、雇用を促進

するということです。もちろん、ロビー

活動や啓発だけではなく、メンバーの

活動に直接関わってソーシャル・ファー

ム・セクター全体の成長の強化を図っ

ています。

私たちは、会員制の組織で、だれでも

入会することができます。当然会費を支

払い、毎年会員資格が更新されます。会

費によって私たちの活動が支えられます。

スライド 4

イギリスには、ソーシャル・エンター

プライズというものがありますけれど

も、これは第三セクターに属していま

す。ソーシャル・エンタープライズの

定義は、社会的及び/あるいは環境的

目的のために商取引を行うものと定

義されています。イギリスには約 6 万

2,000 社があります。ソーシャル・エ

ンタープライズ連合のウェブサイトが

ありますので詳しい情報はそちらにア

クセスしてください。

イギリスにおいては、なかなかソー

シャル・ファーム独自のブランドが育

つほど、十分な数がありません。ただ

ソーシャル・エンタープライズ・マーク

というものがあります。スライドの一

番下に出ていると思いますけれども、

ソーシャル・ファームもこのロゴを使

うことがあります。

ソーシャル・ファームよりもソー

シャル・エンタープライズの方が一般

の人にはわかりやすい。つまり、よ

り大きなセクターの一部というのが

ソーシャル・ファームの位置づけにな

ります。それを認識する必要がある

と思います。

スライド 5

ソーシャル・エンタープライズには、

いろいろなタイプのものがあります。

開発信託、信用組合、労働者協同組合、

住宅協会などがあって、もちろん社会

スライド 1

スライド 2

スライド 3

スライド 4

スライド 5

英国のソーシャル・ファーム-真の雇用創出-サリー・レイノルズ(イギリス)ソーシャル・ファーム UK 最高責任者

報告1

続く

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国際シンポジウム ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携 報告書 4342

第1部 欧州でのソーシャル・ファームを中心とした障害者雇用の取り組み

英国のソーシャル・ファーム-真の雇用創出-報告1

的に不利な立場の人たちの雇用を生み

出す活動をしているソーシャル・ファー

ムも含まれます。

WISE(Work Integration Social

Enterprises)というものがあります。

雇用統合型ソーシャル・エンタープラ

イズです。これは労働市場で不利な立

場にある人たちの雇用創出に従事して

います。職業訓練や職業準備、就職あっ

せんなどをするわけです。ソーシャル・

ファームの場合には、雇用の創出が中

心になってくるわけです。

スライド 6

スライド 6 を見ていただくと、ソー

シャル・ファームは一 番下にありま

す。まず、すべての団体が必ずしも官

か民のセクターに属しているわけで

はなく、第三セクターがあります。こ

こには任意で運営しているブラウニー

ズグループ、カップグループやウィメ

ンズ・インスティチュート・クラスな

ど、大規模なソーシャル・エンタープ

ライズも活動しています。それが 6

万 2,000 件あります。恐らくそのう

ちの 5,000 ~1万が雇用統合型ソー

シャル・エンタープライズということ

になると思います。

労働市場にもっとも縁遠い人のため

に、質の高い持続可能な有給雇用を

創出するという、一番難しい仕事を

ソーシャル・ファームがやっています。

これがセクター全体の中でのソーシャ

ル・ファームの位置づけとなります。

スライド 7

次のスライドはあまり詳しく言及し

ませんが、障害者雇用において、障害

者作業施設、支援事業、ソーシャル・

ファーム、そして支援付一般就労とい

う4つのカテゴリーがあります。

スライド8

ソーシャル・ファーム・セクターには、

現在 181 の企業があります。5 社し

かなかった1996 年の当初から増加

してきました。2006 年と比べても

32%の増加となっています。

最も多く雇用されているのは、精神

障害がある人たちです。このセクター

では、極めて不利な立場にある人 (々全

労働人口の 58%)のために 1064

のフルタイム雇用を創出しました。

ソーシャル・ファームの 74%が、そ

の収入の 75%以上を製品の販売また

はサービスの提供で得ています。イギ

リスにはソーシャル・ファームへの助

成金がありませんので、とても重要な

意味を持っています。

スライド9

ソーシャル・ファームは、市場志向と

社会的使命とを結びつけたビジネス

で、収入の 50%は売上から得なけれ

ばなりません。そしてフルタイム雇用

の従業員の 25%は、極めて不利な立

場にある人たちでなければなりませ

ん。そして、一人ひとりのキャリアが

十分に開発できるような支援をそれぞ

れの職場でやらなければいけないとい

うことです。

スライド10

ソーシャル・ファームは小規模な組

織となる傾向があり、これも課題になっ

ています。

そして隙間市場を狙っています。その

方が収益マージンが多いからです。しか

し、最初の立ち上げ後数年間は、やは

り継続的な支援が必要ですし、外部の

専門知識や技術が必要になってきます。

当初は起業家精神による指導が必要

になりますし、社会起業家といわれる

人たちの存在が必要です。つまりソー

シャル・ファームの発展、そして成功

のためには「チャンピオン〔ヒーロー〕」

とよばれるような人たちが必要だとい

うことです。

そしてこれが立ち上がりますと、親会

社とは別の組織になります。つまり独立

した事業体になっていくということです。

スライド11

ソーシャル・ファームは13 年間で

5 社から181社へと増えました。これ

を見るとどれくらい早いスピードで成

長しているかがわかると思います。

スライド12

それでは、ソーシャル・ファームの

価値は何でしょうか。

一つは極めて不利な立場にある人た

ちに対する偏見に立ち向かっていると

いうことです。つまり、商品やサービ

スの質がいいから買うということです。

それは誰がそれを作ったのか、障害者

が作ったから買うということではない

ということです。そうすることで、偏

見に立ち向かうということです。

そして労働市場に縁遠い人たちに

も、雇用を創出します。特に精神障害

者の回復を助けるという使命もありま

す。精神障害を隠すことはせず、オー

続く

プンにした上で仕事をすることを重要

視しています。民間セクターにおいて、

精神障害を隠して働いている場合、特

に夜、不安にかられます。職場の同僚

が自分たちのことを知ってしまうので

はないかという恐れがあるがゆえ、症

スライド 9

スライド 7

スライド 6

スライド 8

スライド 10 スライド 11

スライド 12

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国際シンポジウム ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携 報告書 4544

第1部 欧州でのソーシャル・ファームを中心とした障害者雇用の取り組み

英国のソーシャル・ファーム-真の雇用創出-報告1

状が悪化することがよくあります。

最近はこの不況のもと、ソーシャル・

ファームにおいて、人員を削減するの

ではなく、コスト削減の他の方法を見

いだそうとしています。

一方、民間企業では、株主は常に自

分たちの投資に対する見返りを求めま

すし、不況の時代にあっても変わりま

せん。民間企業の場合には、コスト削

減のため、まず人の解雇という方法を

とります。現に今回の不況においても、

何万人もの人たちが民間で解雇されて

います。

一方、ソーシャル・ファームで解雇

された人たちは少ないのです。という

のは、ソーシャル・ファームには、社

会的目的があるからです。またソーシャ

ル・ファームは雇用や研修の機会を

提供します。また、このような不利な

立場にある人々を助ける個別就労支援

(IPS)/ 支援付き雇用などの他のモデ

ルと競合するのではなく、むしろそれ

らを補完することになります。

さて、国にとってどの程度の節約に

なるかということですが、このセクター

で、4,000 万ポンドを給付の面でも

助けています。180 の企業が4万ポン

ドの節約をもたらしていますし、国民

保険も 850 万ポンド節約しています。

スライド13

例えば、エジンバラにあるシックス・

メアリーズ・プレイズ・ゲストハウスは、

95 年に設立されたベジタリアンの禁

煙の宿泊施設です。現在もそのような

菜食主義者のための施設は少ないと思

いますが、働いている人たちは精神障

害がある人です。この事業がどのくら

いの恩恵をもたらしているかを長期に

わたって調査しました。その結果、国

民医療サービスだけでも、一人当た

り年間 2 万 1,000 ポンドも節約して

いることになるという結果が出ていま

す。これは、国の医療サービスにとっ

て大きな節約になります。つまり、こ

こで雇われている人たちは、まず摂取

する薬の量が減ります。診察回数も減

りますし、救急施設に入院するケース

が減っています。また回復に向かって

います。

スライド14

さて、イギリスのソーシャル・ファー

ムには、旅行代理店、宿泊施設、下

請け造園会社、ケータリング、テープ

起こし、市場調査会社などがありま

す。今、増えているのはリサイクル会

社です。

私たちソーシャル・ファーム UK は

こうした企業がどんどんサービスや製

品を売り込むべきであると思っていま

す。ここにあるアドレスはソーシャル・

ファームから物を買いたいという方々

のためのウェブサイトです。

スライド15

ソーシャル・ファームのセクターで

すが、まずケータリングが全体の 5 分

の1を占めています。また研修事業も

増えており、本セクターの18%を占

めています。リサイクルが11%を占め、

小売りも伸びています。また 20%は

清掃業となっています。

いわゆる慈善団体という位置づけを

持っているものは少ないと思います。

慈善はビジネスを運営する上では成立

しません。

また、先ほども申し上げましたが精

神障害のある人々が唯一最大のター

ゲットグループです。

スライド16

パック IT ウェールズは、50%が知

的障害の方々です。

スライド17

同じくウェールズの Cae ポストは7

割の収入がリサイクル活動からきてい

ます。

スライド18

ソーシャル・ファームはどのように

始まるのでしょうか。それは既存の障

害者作業施設から発生することも多い

でしょうし、白紙の状態から始まる

ケースもあるでしょう。自分たちがど

ういうビジネスをやりたいかという点

からスタートするところもあります。

また、フランチャイズ事業、ライセ

ンス事業、またビジネスモデルその他

を模索するケースがこの数年間、起き

ています。スコットランドにおけるパ

イロット・プロジェクトでは、これは

ソーシャル・ファーム・オーストラリ

アの例を参考としたものですが、企業

を買収し、ソーシャル・ファームへ組

み込むケースもあります。

また組織として私たちは、効果的な

起業のためのプログラムを始めようと

しています。起業の段階で失敗するこ

とが多いので、ソーシャル・ファーム

UK として取り組んでいきたいと思っ

ています。

スライド19

さて、私たちの共通の課題ですが、

サービス利用者が従業員に転身するこ

とによって、いろいろな問題が生じま

す。彼ら自身だけではありません。こ

れまでケアを提供していた人たち、保

護者、家族なども、自分たちの子ども

が働くことに対して抵抗があるという

こともあるでしょう。このように子ど

もが自立していくことへの対処という

問題もあります。

例えば障害のある人で給付を受けて

いる人は、給付金の方が働いて稼ぐお

金より多いという傾向があります。政

府は今この問題に取り組んでいます。

また、過保護の文化があります。特に

知的障害のある人たちに対してはそう

です。また、知的障害者の雇用を求め

る場合、雇う側としては難しいと感じる

ケースも多いという問題もあります。

また、このようなソーシャル・ファー

ムを立ち上げる企業は、しばしば社会

福祉関連です。したがって彼らが自ら

所得を得るのではなく、助成金をもら

うことになじんでいます。そうなりま

すと企業が困難に直面する際、マーケ

ティングをして経営計画をたてなくて

はいけないとき、それができないとい

うことがあります。つまり、企業経営

の経験の不足という問題です。

設立資金の調達という面での課題も

あります。しばしば4~5ヶ所で設立

資金の調達を試みますが、いろいろな

金融機関を当たっているうちに、市場

におけるチャンスを失ってしまいます。

リスクを避ける風潮があります。社会

続く

福祉中心であるだけに、人々はビジネス

のリスクをとることに慣れていません。

また、ビジネスのアイデアも不足してい

ます。ソーシャル・ファーム UK はこの

点に何とか対応しようとしています。

イギリスにおける課題について少し

説明をしたいと思います。

イギリスの政府は、昔も今もソーシャ

ル ・ファームに助成金を出しません。

ソーシャル・ファーム UK はこれを変

えようとロビー活動を展開しています。

というのは、このような障害のある人

たち、重度な障害で不利な状況にある

スライド 14

スライド 15

スライド 16 スライド 17

スライド 18 スライド 19

スライド 13

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国際シンポジウム ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携 報告書 4746

第1部 欧州でのソーシャル・ファームを中心とした障害者雇用の取り組み

英国のソーシャル・ファーム-真の雇用創出-報告1

ソーシャル・フランチャイズ方式による社会的協同組合の普及ダニエル・リンドグレーン(スウェーデン)ウェイアウト協同組合(Vägen ut! kooperativen)創設メンバー、開発マネージャール・マット・スウェーデン マネージャー

パービス:それでは、ダニエル・リンド

グレーンさんにスウェーデンの経験を

ご紹介いただきます。

ダニエルさんが創設メンバーである

ウェイアウト協同組合は、新しい雇用

を提供するソーシャル・エンタープラ

イズの一つとされています。また、ダ

ニエルさんは、スウェーデンにてEU

の中でも初めてのフランチャイズ方式

を導入しようとしています。障害を持っ

ている人たちで、「ル ・マット ・スウェー

デン」というホテルチェーンをスタート

するということで活動しておられます。

ダニエル・リンドグレーン:皆さん、よ

うこそおいでくださいました。そして、

日本に来るチャンスをいただいきまし

て大変嬉しく存じます。

先週、日本のソーシャル・ファームを

いくつか見せていただき、それほど私た

ちと違いはないかなと思いました。訪

問させていただいたソーシャル・ファー

ムは、ビジネスとしては様々な方向、

そして異なるレベルにあるんですけれ

ども、いろいろと参考になりました。

スライド1

今日は私たちがやってきたことにつ

いてご紹介します。どのように始まっ

たのか、今後、何をなすべきかについ

てもお話しさせていただきます。

ウェイアウト協同組合は、2003 年

に始まりました。その頃私は男性の受

刑者に対し、親になることの意味を教

えていました。彼らは、ある意味、忘

れられた人々でした。つまり、受刑中

に子どもができたような人たちだった

んです。子どもたちのための「ブリッジ」

という小さな組織を作りました。受刑

中の親がいる子どもたちのために、サ

マーキャンプ、ウィンターキャンプもお

こないました。同じようなバックグラウ

ンド、つまり受刑中の親を持つ子ども

たちが会えるようなチャンスも作りまし

た。同じ経験を持つ子どもたちは、お

互いに理解することができるからです。

親にとっては、社会に再統合される

ことが重要ですが、なかなかそれがう

まくいきませんでした。スウェーデン

においては、元受刑者であれば仕事を

得るのが大変難しい状況でした。

スライド2

EQUAL(Equal a European Program)

をとおして、元受刑者を具体的に支援

することにしました。その中で、非常

に広い意味でのパートナーシップが必

要だということに気がつきました。

ブリーガン協会 (Bryggan Association)

というものをつくりました。現在は10

都市にあり、とても誇りに思っていま

す。元受刑者の生活を支援するため

の自助組織 KRIS もつくりました。現

在スウェーデンで 15 都市に存在して

報告2

続く

人を雇うためには費用が必要です。そ

のための財政を私たちに向けてほしい

と考えています。税金を使って間接的

にこのようなソーシャル・ファームに対

し資金提供をするということです。

ここではバランスが必要です。

ソーシャル・ファームには助成金が

ないので、起業家精神がなければ存

続できませんが、一方で、助成金に頼

る体質にはなっては困ります。

したがって、ここで私たちがとろう

としている方法、政府を説得している

内容は、わずかなお金を提供してほし

い、何とか苦しい財務状況を克服でき

るようにしてほしいということだけで

す。残念ながら政府の説得にはまだ成

功していません。しかし、他のヨーロッ

パ諸国を見ると、給与の助成をして

いる国もあります。私たちは、これか

ら5年間で何らかの形で政府からソー

シャル・ファームに資金が提供される

のではないかと期待しています。

さて、なぜこれまで政府の説得に

成功していないかという理由ですが、

それは、第二次世界大戦後より存続し

てきた支援付き一般就労があり、税

金負担がかなり大きいのです。少なく

とも150 のイギリスの工場に多くの

税金が投入され、補助金を受けてい

ます。レンプロイ社には、54 の関連

事業所があります。この 54 ヶ所に毎

年、7,700 万ポンドの税金が投入さ

れています。これでは企業とは言えな

いと思います。経営が成り立っていま

せん。そういった中で障害のある人た

ち、不利な立場にある人たちのため

の企業づくりへの協力を政府に訴え

ますと、彼らは支援付き就労を連想し、

応じてくれません。税金はすべてそち

らに回ってしまっているがためにソー

シャル・ファームに回せるものがない

というのです。

それからもう一つ、政府には 10 年、

15 年先を考えてほしいと思っていま

す。2 年先ではありません。彼らはす

ぐに成果を求めます。即効性のあるも

のがほしいのです。ですので、成果が

出るまでに長くかかるものにお金を投

じたくありません。ソーシャル・ファー

ムのモデルに投資すれば、10 年後に

は見返りが必ずあると私たちが言って

も、「そんな先のことは考えられない」

と言います。

確かに、現在、仕事が不足していま

す。ロンドン市内でも 12 の特別区の

失業率が高く、合計 57 万人の雇用の

創出が必要だと言っています。民間セ

クターでこの 57 万人の雇用を創出す

ることはできません。一方で、この 5

年で 60 万人の公共部門における雇用

が失われることが見込まれています。

解決策は雇用を生み出すことしかあり

ません。景気がいいときでさえ、今申

し上げた問題のある特別区において 2

万人の雇用しか生み出していません。

不況なときにそれ以上の雇用を生み出

すということは不可能でしょう。

イギリスでは「ビッグ・ソサエティ」

(「偉大な社会」「大きな社会」)がさけ

ばれています。これはなかなかわかり

づらいものですが、財政縮小がなされ

ている中で進められていることです。

このビッグ・ソサエティというのは、

残念ながらどんどん節約と結びつけて

考えられています。

政府としてはソーシャル・エンタープ

ライズを奨励したい、万能薬であり、す

べてを解決してくれると考えがちです

が、一方で、政府がソーシャル・エンター

プライズを立ち上げるための財政支援

をカットしています。これがこれからの

10、15 年の課題となるでしょう。

スライド 1

スライド 2

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国際シンポジウム ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携 報告書 4948

第1部 欧州でのソーシャル・ファームを中心とした障害者雇用の取り組み

ソーシャル・フランチャイズ方式による社会的協同組合の普及報告2

います。それから障害をもつ女性、あ

るいはかつて薬物中毒であった女性た

ちを支援する組織であるヴェストガン

(Vävstugan)もあります。大変有名

になりましたが、シルクに絵を描くと

いうような工芸品を製作して販売する

活動もしています。

またコンパニオン(Coompanion)

という組織もあります。これは、地域

の協同組合なんですけれども、スウェー

デン政府が支援をしています。現在、

全国に 12 の協同組合があり、地域の

自治体からも支援を受けています。

社会統合を進めるにあたって労働当

局の支援もありますし、刑務所や保護

観察所、地域社会保障担当部門、市社

会福祉事業リソースセンター、地域協

同組合開発局の支援もあります。こう

いう人々を支援する上で非常に重要な、

最後の頼みとなるようなところです。も

ちろんイエテボリ市も支援しています。

スライド3

ソーシャル・エンタープライズ、ソー

シャル・ファームなどもスウェーデンに

はたくさんあります。一般的にはソー

シャル・エンタープライズもソーシャル・

ファームも似たような言葉として使わ

れていますが、スウェーデンではソー

シャル・エンタープライズという言葉

が頻繁に使われています。

ソーシャル・エンタープライズは通

常、労働市場から疎外されている人、

縁遠い人たちを社会統合するためのビ

ジネスを行っています。障害を持って

いる、外国から来ている、あるいはこ

れまでの事情によって労働市場になか

なか入れない人たちのためにビジネス

を行い、雇用を創出します。

基本的には自社の活動または同様

の活動に利益を再投資します。これま

で 10 年ほど活動してきたわけですが、

当初は障害者を対象とし、新しい仕事

を立ち上げるということを支援してき

ました。

かつては、資本を提供してくれる人を

募るということもやったんですけれど

も、うまくいかない時代も続きました。

企業というのは収益を上げなければな

りません。我々は授産施設ではなく企

業であるわけですから、市場で活動を

していかなければいけない。したがっ

て、ビジネス上のしっかりしたいいアイ

ディアが必要です。そうでないとまた

失敗してしまうということになります。

例えばスウェーデンのある通りに10

軒のカフェがあるとしたら、11軒目を

作ろうということはしません。そして、

収益は新しい機械を買う、教育に使う

など、さまざまな形で我々の活動に再

投資をいたします。

従業員をエンパワメントすることも

重要です。それぞれが能力をもってお

り、それぞれが仕事にアイディアを持っ

ている。それを証明することが重要で

すし、それができなければ、本当の意

味での仕事にはなりません。

それから私どもの組織は公的なプロ

グラムからは独立しています。このこ

とは非常に重要なことです。もちろん

何らかの支援は必要なわけですが、基

本的には独立した組織です。

スライド4

「ウェイアウト、エンパワメントの実践」

とスライドにありますけれども、10 年

ほど前に新たに導入された考え方です。

私たちは上から下にという目線を

持って活動はいたしません。下から上

にという目線を持っています。つまり

一番下にいて、なかなか労働市場に入

れない人が、どうしたら力をつけて労

働市場に入れるか。エンパワメントと

は、どうしたら自分のための解決策を

見いだせるかということを自分で考え

ることです。けれども、それをするた

めには、様々な人と協力する必要があ

ります。ウェイアウトでは、「お互いを

うまく受け入れ合っている」状況です。

コンピュータも学習しており、非常に

よい結果が出ています。

スライド5

いずれにしても重要なのは、「平等

であること」、そして「皆の居場所が

ある」ということです。すべての人が

何かできることがあると信じています。

価値のない人、何もできない人は、一

人もいません。ですからすべての人が

自分の能力を発揮するチャンスを与え

られれば、気分よく生活をすることが

できると思います。

また、大切なことは「民主主義」と「団

結」です。私たちがこの活動を始めた

当初、長期にわたる病気で仕事ができ

なくなった人がいました。その人たちの

ために、まず活動を始めました。例え

ば、病気であっても病気から回復すれ

ばまた仕事に戻りたい、そして意味の

ある仕事をしたいと思うものです。仕

事をしたことで、もっとしたいことがで

きる、あるいはより良く仕事をしたいと

自分自身を再教育したいと思うことも

あるでしょう。そういう場合には、機会

を提供することが重要だと思います。

スライド6

2003 年にソーシャル・エンタープ

ライズ、ウェイアウト協同組合という

コンソーシアム・モデルを作りました。

最初は三つの会社から始まりまし

た。ウェイアウト・ソルベ、カフェ・ソ

ルベ、カリンズ・ドーターです。それ

ぞれの会社(協同組合)は独自の組織

で、そこで働く人々が所有しています。

しかし、協同組合の所有者となるため

には、まず 3 年間働かなければなり

ません。3 年経てば、会員(組合員)

資格を得るための申し込みをすること

ができます。会員資格を持つというこ

とは、会社で積極的な役割を果たす共

同経営者であり、所有者であるという

ことを意味します。自分自身と共同経

営者たちのために働いていると感じる

ことは大変重要なことです。単なる仕

事ではなく、ただの雇用機会というこ

とではなく、自分のビジネスでもある

ということになります。もちろん、こ

のような協同組合のメンバーになりま

すと税金も保険もきちんと払わなけれ

ばなりません。

私たちがここまで到達するには時間

がかかりました。例えば会計処理もき

ちんとしなければいけません。帳簿も

つけなければなりません。税金を払っ

て給料を払って、その他、企業として

すべてやるべきことをやらなければな

らない。それができて初めてコンソー

シアムのメンバーになることが許され

るわけです。そのために、経理の専門

家を雇ったり、他の民間会社からも必

要な技術を得るようにしました。さら

に、労働市場に入りにくい人を雇うこ

とが、その要件になります。

現在では、このような〔スライド 6〕

事業をやっています。この中には、他

の会社で働いていた人たちのアイディ

アを活用したものもあります。こちら

のチューリップマークがついている園

芸の事業は、外のアイディアを取り入

れて始まったものです。それぞれ個人

の庭仕事を引き受けるということで、

今では 20 人を雇うことができるよう

になっています。

このようなコンソーシアム・モデル

を活用しているのでリスクもあります。

いろいろな雑誌に広告を載せています

けれども、15 の広告をするのではな

く、コンソーシアムとして一つの広告を

出すだけということになるわけです。

こういう事業体のどこかで仕事を始

めると、他のことをやりたいという気

持ちも出てきます。そういった場合に

は奨励します。カリンズ・ドーターでは、

女性のための職業リハビリテーション

も実施していますが、このような場所

をはじめて作りました。マネージャー

も含めてキャリアを積んでいくことも

奨励されています。

スライド7

続く

スライド 3

スライド 4

スライド 5

スライド 6

スライド 7

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国際シンポジウム ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携 報告書 5150

第1部 欧州でのソーシャル・ファームを中心とした障害者雇用の取り組み

ソーシャル・フランチャイズ方式による社会的協同組合の普及報告2

新しい組合や事業体なども出てきて

います。現在では15 の社会的協同組

合があります。イエテボリだけではあり

ません。全国にあります。我々はひとつ

のコンソーシアムです。このプロジェク

トは 2001 年に始めたのですが、その

ときには 4 人しかいませんでした。私

たちはビジョンと高い理想を掲げてここ

までやってきたわけです。現在は、80

名以上の従業員がいます。毎日 100

名以上が、活動に参加しています。こ

の方たちは、実地訓練を受けたり、あ

るいはハーフウェイハウスを利用したり

しています。

スライド8

私たちは授産施設ではなく本当の雇

用を創出しています。きちんと勤めれ

ば 1月に1回給料がもらえます。福祉

からの給付ではなく、働いて給料をも

らう。これは個人に大きな影響を与え

ます。そしてそれは周りの人たちにとっ

ても良いロールモデルになります。

しかし、これは福祉制度の一部とい

うことにもなります。例えば病気になっ

た場合には福祉制度の一環として扱わ

れることになります。また、団体労働

協約なども結んでいます。

また、とても重要なのは、借りを返

すことです。たとえば、多くの人たち

が税金を納められない状態にあり大き

な問題になっています。借金を返すと

いう意味も含めて、自分自身で借りを

返していると感じられるということは

とても重要です。

スライド9

 4 つの都市にハーフウェイハウス

(ターゲットグループを対象とした宿泊

兼就労施設)があります。ソーシャル・

フランチャイズ方式で進めています。

ここは二つの使命を持っており、そ

れは生活と就労ということです。受刑

者や保護観察下にある者、あるいは

社会福祉サービスの受益者に対して生

活の場を与えるということです。

最も大きなクライアント・グループ

は受刑者です。刑務所から出た後の

最初の数ヶ月から1年くらいは、ハーフ

ウェイハウスに住み、ソーシャル・トレー

ニングを受けます。その後、社会に戻っ

ていくことになります。もちろん、必

要なメンタル面でのケアを受けながら

ですけれども。

また私たちは、労働市場に縁遠い人々

のために職場を創造します。ですから

新しい一般就労先で仕事を見つける人

もいますが、こうした橋渡しをするのが、

ハーフウェイハウスの役割になります。

スライド10

もちろんこのハーフウェイハウスでは

薬物は禁止です。ホテルではありませ

んので、一日中何もしなくてもいいと

いうわけにはいきません。活動しなけ

ればなりません。

義務もあります。例えば薬物中毒者

の更生会やアルコール中毒者更生会に

出席し、セラピー・セッションに毎週

出ることが義務づけられています。

もちろんどういう方々が来ようがそ

れはいいのですけれども、子どもや家

族とうまくいっていなければ、仕事に

影響することがあります。そこで、家

族や子どもたちとの関係も重視します。

スライド11

スライド12

もちろん、職場では、インテグレー

ション〔統合〕、能力開発、社会起業

家としての精神を育て、エンパワメン

ト、積極的な参加を促進します。それ

らはとても重要です。単なる就労だけ

ではないわけです。もちろん私たちが

人々を雇用するときには、必ず薬物禁

止を条件にしています。

薬物に依存していた人たちが問題な

く仕事に就くことは良いロールモデル

になります。

また、ウェイアウト協同組合では職

業訓練と職業リハビリテーションも

やっています。ハーフウェイハウスでは

できません。ここまでやると負担が大

きくなりますので。

スライド13

カリンズ・ドーターは協同組合のひ

とつです。これは女性のためのもので

ありますが、手工芸品の取引をしてい

ます。

スライド14

スクリーン印刷は若者の働く場所で

イエテボリ市の郊外にありますが、ソー

シャル・フランチャイズも、いずれは

果たしたいと思っています。

企業に対してサービス、たとえば企

業のロゴのプリントなどを行います。

製品を顧客に提供し、販売することを

通じて、企業と関わることを学びます。

スライド15

ケータリングとカフェでの職業訓練

はとても良いです。なぜなら、ケータ

リングを通じて一般社会と接触するこ

とで、とてもよい訓練になります。

スライド16

先ほども言いましたけれどもカフェ

があります。Accoglienza というのは

イタリア語で「温かいおもてなし」と

いう意味です。

スライド17

イタリアで始まったル・マット・ホテ

ルをイエテボリでスタートしました。(こ

れは、「不利な立場にある人」を雇用す

ることによって、より質の高いサービス

が提供できるという「逆転の発想」に

基づくもので、ソーシャル・フランチャ

イズ・システムで拡大しているものです。)

私たちは、一年間かけてどのような

障害の人たちが私たちのそばにいるか

を調べました。またいろいろな意味で

不利な立場にある人たちが見つかり、

そのような人を集めたのです。

もちろん彼ら自身もホテルでどのよ

うに接してほしいのか知っているので、

どのような仕事が必要なのか、また、

ホテルでお客様とどのように触れ合う

べきかがわかっています。

ホテルの仕事の 90%ぐらいは清掃

の仕事なんですけれども、この清掃の

仕事をゲストサービスと呼んでいます。

清掃というと何となく嫌な感じですが、

続く

スライド 10

スライド 8

スライド 9

スライド 11

スライド 12

スライド 13

スライド 14

スライ 15

スライド 16

スライド 17

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国際シンポジウム ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携 報告書 5352

第1部 欧州でのソーシャル・ファームを中心とした障害者雇用の取り組み

ていると思います。若い人たちは将来

を担う指導者ですので、大事にしたい

と思っています。

スライド26

子どもの視点も大事にしています。

単に一人の人間を雇っているというよ

りは、その背後の家族をも重要視して

います。

スライド27

どうもありがとうございました。こ

れがウェブサイトのアドレスですので、

ぜひこちらの方もご利用ください。ど

うもありがとうございました。

ソーシャル・フランチャイズ方式による社会的協同組合の普及報告2

ゲストサービスとなると、非常にやり

がいも出てくると思います。ほこりだ

らけではお客様は喜んでくれません。

イエテボリにおいでの節は、ぜひル・

マットホテルのことを思い出してくだ

さい。

スライド18

他の都市の人がこのようなホテルを

開業するには我々の協同組合との連

携が必要になります。立ち上げたいと

思いますと、ます素敵な部屋やレセ

プションデスクが話題の中心になる

のですが、実際には清掃作業が全体

の 90%を占めるんです。実際に発生

する仕事とは何か、というような研修

が必要になります。そして私たちの価

値観と同じであれば、いろんな都市で

ソーシャル・フランチャイズ方式で展

開していくことができます。

スライド19

もちろん知識を得るという意味もあ

りますけれども、もっと一般の民間企

業とも対等に競争していくという意味

でも、同じブランドのソーシャル・フ

ランチャイズというのは強いと思いま

す。政府からの契約も多く請け負うこ

とができます。

スライド20

ル・マット・〔ホテル〕スウェーデン

ですけれども、キーワードは、「歓迎」

です。もっと詳しくお話する時間があ

ると良いのですが。

スライド21

私たちはソーシャル・フランチャイ

ズ方式を確立しました。ヨーロッパに

ネットワークを作って、もっと活動を

高めたいと思っています。ル・マット

はヨーロッパで実現した最初の協同体

としてのソーシャル・フランチャイズ方

式です。

スライド22

スライド23

スライド24

スライド25

国際的な活動もしています。

ル・マットはドイツ、ロンドン、フィ

ンランド、デンマーク、ノルウェーで

も展開していますけれども、恐らくル・

マットで働く人はいろいろな国に派遣

されることも可能なわけです。そうす

るといろいろな言語を学ぶこともでき

ますし、イエテボリだけではなく、大

きな世界のなかで仕事をしているとい

うことになります。

そ れ からフレア(FLARE: Freedom

Legality and Rights in Europe)

というものがあります。イタリアの組

織で、リーブラ・テラというのがあり

ます。これは自由な地球という意味で、

随分前のことになりますが、マフィア

から自らを守りたいというような会社

が一緒になって作られたわけです。そ

して今ではイタリアで大きな組織とし

て育っています。

このフレアも、やはり犯罪組織から

自らを守るという意味で組織化されて

います。フレア 21は、若い人たちの

ための組織で、ヨーロッパで有名になっ

スライド 22

スライド 20

スライド 21

スライド 18 スライド 19

スライド 23 スライド 27スライド 26

スライド 24 スライド 25

Page 30: 58 - Japan Foundation · 58 フィンランドにおけるソーシャル ... 民間企業でのマーケティング及び広報活動を経て 、1996年から2002 年までSurrey

国際シンポジウム ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携 報告書 5554

第1部 欧州でのソーシャル・ファームを中心とした障害者雇用の取り組み

フィリーダ・パービス:デンマーク・ソー

シャルエコノミー・センター所長のラル

スさんをご紹介いたします。デンマー

ク国内のみならず広い範囲で、ソーシャ

ル・エンタープライズの発展のためにア

ドボカシー、ロビー活動、またネットワー

キング活動も進めていらっしゃいます。

ラルス・レネ・ペテルセン:コンニチハ。

このようにお話できることを大変光栄

に思います。初めて日本にまいりまし

たが、これ以上のことは期待できない

と思えるほどの視察や滞在を楽しませ

ていただきました。

スライド1

今日はここ5年間のデンマークにお

けるソーシャル・エンタープライズの状

況についてご説明します。まず私が所

属しているデンマーク・ソーシャルエコ

ノミー・センターについて、そしてそ

の上でソーシャル・ファームの話をした

いと思います。デンマークにおけるソー

シャル・ファームとソーシャル・エンター

プライズの定義の話もします。

みなさんが北欧の福祉制度にご関心

があるということですので、デンマー

クのような福祉国家で、なぜ今ソーシャ

ル・エンタープライズが盛んなのか。

そして最後に、ソーシャル・エンタープ

ライズから私たちが5年間で何を学ん

だのかということについてお話します。

スライド2

さて、デンマーク・ソーシャルエコ

ノミー・センターですが、私たちはソー

シャル・エンタープライズであり、独

立した機関であります。私たちは政策

的なサポートを行い、アドボカシーを

行い、また中間的組織としてソーシャ

ル・エンタープライズを助け、そして

政府に対して政策提言を行っている機

関であります。

デンマーク・ソーシャルエコノミー・

センターは全国規模の組織です。ソー

シャル・エンタープライズの声、社会

起業家の声となっています。

私たちの使命は、デンマーク全土の

ソーシャル・エンタープライズの能力

を強化し、セクターを超えた連携を図

ることです。この中には、市場、公的

機関、市民社会も含まれています。

2本の柱があります。1つは、アド

ボカシー活動で政策提言をします。議

会に行って、そして議員に対して、た

とえばソーシャル・エンタープライズ

の財務問題を取り上げてほしい、法的

枠組みを作ってほしいなどと働きかけ

ています。国会議員や各省庁の大臣に

も働きかけていますし、またEUでも

同じような活動を展開しています。

もう1つの柱は、もっと実践的な柱

です。ソーシャル・エンタープライズ、

社会起業家を他のセクターと結びつけ

るという活動です。

ソーシャル・ファーム、雇用におけ

る統合のための枠組み作りも進めてい

ます。これは本格的な社会福祉、例え

ば児童福祉や高齢者福祉と組み合わ

せて進めようと考えています。

また、常に社会起業家とソーシャル・

エンタープライズのニーズ、そしてデ

ンマークの政策立案とを関連付ける取

り組みをしています。

主な活動としては、既存のソーシャ

ル・エンタープライズだけではなく、

ソーシャル・エンタープライズを立ち

上げる時や社会起業家へのビジネス・

アドバイスです。ソーシャル・エンター

プライズを立ち上げたいという人たち

はたくさんいます。私たちは経験から

蓄積した知識を使ってアドバイスを提

供し、研修を行う人たちの研修をして

います。デンマーク各地の一般企業専

門アドバイザーを対象とした「指導者

研修」もしています。

市町村や地方に対し、ソーシャル・

エンタープライズをどのように形成す

るかという戦略を開発しています。そ

れぞれの地方において、雇用創出のた

め、福祉の解決策を見いだすため、ソー

シャル・エンタープライズはどのよう

に使えるかの関心が高まっています。

また高校や大学などの教育機関に

対する研修プログラムもあります。若

い人たちは、社会起業家に対する関心

があります。

後でお話したいと思いますけれど

も、ソーシャル・エンタープライズは

ビジネス的な発想を持つ上での難しさ

があり、私たちにはその助けをするた

めのいろいろなツールがあります。

また、私たちには会員ネットワーク

があり、デンマークのいろいろなセク

ターの人たちが協力をしています。

さて、ソーシャル・エンタープライズ

の一部をなすソーシャル・ファームを

中心に話をしたいと思います。はじめ

に成功例を4つ挙げたいと思います。

スライド3

まずスペシャルリステナ(Specialisterne)

です。このネクタイをしている男性の

息子のラルスさんが自閉症です。ラル

スさんが 18 歳になるまでは確かに福

祉制度でサポートされますが、大人に

なれば就職しなくてはなりません。息

子の将来を心配した父親自らがこの会

社を作りました。彼は自閉症の人の能

力をよく知っているのでそれを生かし

たビジネスをしています。

報告3

デンマークのソーシャル・ファーム-福祉を推進する重要かつ強力な手段-ラルス・レネ・ペテルセン(デンマーク)デンマーク・ソーシャルエコノミー・センター 所長

自閉症の人たちは数字が得意です。

またチェスも得意です。ここはソフト

ウェアのテストを行う会社で、マイク

ロソフトのような大手の IT 企業を顧

客にしています。現在、100 人くらい

の自閉症の従業員がいます。

TV グラッド(TV Glad)では知的

障害者が働いています。映像記録を製

作しており、非常に成功している会社

に成長しました。 デンマークの様々

な団体が、例えば会議の記録等の製

作を依頼しています。

また、ケータリングの会社、アレハデ

ン・コーケン(Allehånde Køkken)は

聴覚障害者を雇用しています。ここは

非常においしい食事を作ってくれます。

最優秀ソーシャル・エンタープライズ賞

(賞金1.5 万ユーロ)を受賞しました。

最 後 に、 テレ ハ ン デ シュセット

(Telehandelshuset)は、 視 覚 障 害

続く

スライド 1

スライド 2スライド 3

Page 31: 58 - Japan Foundation · 58 フィンランドにおけるソーシャル ... 民間企業でのマーケティング及び広報活動を経て 、1996年から2002 年までSurrey

国際シンポジウム ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携 報告書 5756

第1部 欧州でのソーシャル・ファームを中心とした障害者雇用の取り組み

デンマークのソーシャル・ファーム-福祉を推進する重要かつ強力な手段-報告3

者を雇用しています。会社の電話の取

り次ぎ、企業対企業のビジネスを電話

で行えるようにするという会社です。

この4社 はいず れもソーシャル・

ファームとして非常にうまくいってお

り、それぞれの社員に合わせて会社を

作っています。逆ではありません。ま

ず最初に従業員ありきです。一方でビ

ジネスを成功させる。一方で社会的に

大きな貢献をするという、その二つを

実現しています。

スライド4

さて、デンマークのソーシャル・エ

ンタープライズとは何か。これは社会

的な目的を掲げる組織です。そして製

品またはサービスを販売し、それで経

費をまかない、利益は使命を果たすべ

く再投資をします。

ソーシャル・エンタープライズは組

織的には公共セクターから独立してい

ます。それは重要なことです。なぜな

ら、公共セクターは、ソーシャル・エ

ンタープライズのプロジェクトや人材

を採用する傾向があり、(ソーシャル・

エンタープライズは)公共セクターを

利用しているからです。

スライド5

デンマークにおいて、ソーシャル・

エンタープライズは新しいものではあ

りません。100 年以上の歴史があり

ます。ただ名称が違っただけです。ソー

シャル・エンタープライズは、NGO、

また財団、投資信託、協同組合の伝

統を踏まえて設立されています。デン

マークの社会福祉サービスの重要な部

分を占めてきましたが、そのことは十

分認識されませんでした。

さて、私たちには世界的水準の社会

福祉制度がありますが、特に現在、資

金が不足しています。新規プロジェク

トも減っています。ですが世界中の大

勢の人たちが、私たちのプロジェクト

を通じて社会的革新をどのようにやっ

ているか見にきてくださっています。

残念ながら今、プロジェクトがどん

どん失われていることも事実です。と

いうのは、私たちは資金が枯渇するこ

となど考えもしませんでした。お金の

流れが止まってしまったらどうなるか

を考えませんでした。私たちはこれま

で、多くの知識がありすばらしいサー

ビスがありましたが、しかしそれが今、

失われています。

デンマークは福祉国家です。北欧の

スウェーデン、ノルウェー、フィンラン

ドも同じような福祉国家ですが、残念

ながら私たちには大きな問題がありま

す。私たちは大きな需要、福祉サービ

スへの新しいニーズがありますが、資

金がありません。そこでジレンマが生

じます。どのようにして、将来、高齢化

が進み、納税者が減る中で、この仕組

みを運営していくのかという問題です。

したがって、私たちは他の方法を模

索しなければならないのです。福祉国

家が抱える他の問題に関しては、後の

パネルディスカッションでお話しした

いのですが、一つ、制度面での問題を

申し上げたいと思います。

福祉国家があまりにも大きくなりす

ぎ、そしてあまりにも制度化しすぎ、

もはや人のニーズを考えられなくなっ

ています。制度ができあがってしまっ

ている。したがってその元ですべてが

進められてしまうという傾向がありま

す。もう一つは公共セクターにおける

独占です。公共セクターが唯一のサー

ビス提供者になってしまっています。

公共セクターがこれまではすべて面倒

を見てくれました。さまざまな課題、

たとえば児童福祉、障害者、高齢者に

対する介護、健康の問題等、すべて公

共セクターが対応してくれました。しか

しこの何年かの間に、公共セクターに

頼ることができなくなってきているわ

けです。他の方法を考えなくてはなり

ません。こういう考え方が一般の市民

にも受け入れられるようになりました。

すなわち、公共セクターではなく、

民間あるいは第三セクターと言われる

分野の人たちが、例えば雇用の創出、

高齢者ケア、子どものケア、住宅問題等、

最も重要な福祉のサービスを担っても

よいという考え方が受け入れられるよ

うになっています。

スライド6

過去 5 年のデンマークの状況をみ

ると、ソーシャル・エンタープライズ

という言葉が、全く知られていなかっ

たころから、一種のブームになってい

るというところまで変化してまいりま

した。みんながソーシャル・エンター

プライズについて話をしています。私

は5年前にこの仕事を始めたわけです

けれども、4~5年前にアドボカシー

活動をしていたときには、頭がおかし

いのではないかと考えられたもので

す。馬鹿な奴だ、こういうものをビジ

ネスとして売り込むなんてとんでもな

いと考える人が多かったわけです。あ

るいは何か政治的意図を持っているの

ではないかとも思われました。しかし

今は、一般的に受け入れられる概念に

なりました。政治的に見ますと左翼も

右翼も受け入れるようになりました。

ソーシャル・エンタープライズがこ

の 5 年間で一般の人に受け入れられる

ようになったことを示す指標がありま

す。それは Googleで調べることです。

当初は 800 件くらいのヒットしかな

かったんですけれども、今は 5 万~

10 万件のヒットがあります。

また、自らをソーシャル・エンター

プライズとして売り込むことが行われ

るようになりました。例えば新しい人

をリクルートするときに、「我々はソー

シャル・エンタープライズだ」という

ふうに売り込むわけです。首相がソー

シャル・エンタープライズを将来の解

決策だとして売り込むよりも、企業が

行う方がずっと効果があるわけです。

企業そのものがソーシャル・エンター

プライズとして自らを売り込むように

なったことは、すばらしい効果を持っ

ています。

また、ソーシャル・エンタープライ

ズというのは大学生や高校生にも、と

てもかっこいいことだと思われるよう

になりました。学生たちはもちろんお

金持ちにもなりたいわけですけれど

も、それだけではなく社会に変革をも

たらしたいと考えていますから人気を

得るようになりました。社会起業とい

うのも非常に人気が高い科目になって

きています。伝統的なマーケティング

もあるわけですけれども、公的な分野

での貢献をするというのも。

ここに挙げているのは 2010 年の

数字ですが、1年間の起業が 500 ~

700 に上っています。今はもっと増え

ていると思います。

福祉国家の中のソーシャル・エンター

プライズというものがイノベーション

をもたらす手段としても見られるよう

になってきています。社会福祉がとて

も手厚い国、福祉国家というのは、非

常に財政負担が大きく、なかなかイノ

ベーションができないという傾向にあ

ります。したがって、ソーシャル・エン

タープライズならできる、何か新しい

ことをやるには、これがいいと言われ

るようになりまして、ソーシャル・エン

タープライズという考え方がイノベー

ションにつながるものとして受け入れ

られるようになりました。

続く

スライド 6

スライド 5スライド 4

Page 32: 58 - Japan Foundation · 58 フィンランドにおけるソーシャル ... 民間企業でのマーケティング及び広報活動を経て 、1996年から2002 年までSurrey

国際シンポジウム ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携 報告書 5958

第1部 欧州でのソーシャル・ファームを中心とした障害者雇用の取り組み

様はもちろん王様ですのでお客さまの

ニーズをしっかり認識することも重要

です。お役所言葉を話せるようになる

ということも重要です。デンマークで

は、ソーシャル・エンタープライズ側が

お役所は敵だと見ることがありますが、

それは愚かなことだと思います。公共

セクターも我々の製品を買ってくれるわ

けですから、上手に売り込むことがで

きるようになるということも重要だと

思います。日本ではどうかわかりませ

んけれども、我々の教訓のひとつです。

ネットワークの結成も非常に重要で

す。他のソーシャル・エンタープライズ

のどこがよくて、何が問題なのか知る

ことも必要です。

ビジネスをしていくためには、クリ

ティカルマス(critical mass)といっ

て、一定の規模が必要になります。一

定の規模を持つことができれば、それ

だけ発言力も大きくなります。先ほど

ダニエルさんがコンソーシアムには15

の企業があるとおっしゃっていました

が、ソーシャル・エンタープライズ、ソー

シャル・ファームとして、いわゆる一

般企業と同じ言語を使って活動する、

つまり同じようなレベルで活動するこ

とができるようになるということが重

要だと思います。

最後に申し上げたいのは、ソーシャ

ル・エンタープライズとして自分たち

のビジネスの価値を認識するというこ

とが重要でしょう。スウェーデンでも

デンマークでも日本でも、自分のビジ

ネスが社会にどのような貢献ができる

のかを認識する必要があります。

デンマークのソーシャル・ファーム-福祉を推進する重要かつ強力な手段-報告3

スライド7

さて、教訓です。国家的なレベルで

どのような教訓があったのでしょうか。

この5年くらいの状況を見ますと以下

のことが言えると思います。

一つは、政府が国家的な戦略を作る

ことが必要だということです。国とし

てソーシャル・エンタープライズ、ソー

シャル・ファームを推進していくという

野心を示さなくてはならないと思いま

す。例えば日本では、今後10 年間に

ソーシャル・ファーム、ソーシャル・エ

ンタープライズに関しては世界で第一

級の国になるんだという野心も必要で

す。しかし政府が国家的戦略を持つだ

けでは十分ではありません。地方自治

体においても、政府が決めた戦略に応

じて自らの政策を調整する必要があり

ます。通常の企業と比べて特別扱いす

るというわけではありませんけれども、

ソーシャル・エンタープライズの起業・

運営には最初は難しいことがいろいろ

ありますので、そういう困難を克服し

やすい環境づくりが必要だと思います。

関連法の改正も重要ですし、注意が

必要だと思います。

イギリスにおいては、例えば、ソー

シャル・エンタープライズの一つの形

態である CIC(コミュニティ・インタレ

スト・カンパニー)というのがあるの

ですが、それを導入するための変革を

急ぎすぎたと思います。ですからその

辺は注意する必要があります。

もう一つ大切なのは、公共調達制度

の改正です。これはデリケートな問題で

す。EU は、加盟国の公共調達制度を

規制しています。デンマークでは今日、

最低価格で最大のものを提供するとい

うことが一番よい公共調達制度だと考

えられているわけですけれども、いろ

いろな社会的な問題を考えた場合、そ

れだけで最善とは言えない状況になっ

ていると思います。例えばソーシャル・

エンタープライズを、地域の環境の改

善に寄与する、あるいは社会的資本の

提供という点で貢献をするという場合

には、別の取り扱いをするというような

規則が必要ではないかと思います。

また、政府あるいはその他の公共セ

クターが、例えば物資の調達をする場

合には、特別にソーシャル・エンター

プライズから調達するというような、

そういうルールの導入も必要だと思い

ます。ソーシャル・ファームやソーシャ

ル・エンタープライズの製品/サービ

スを購入するということが最善の支援

になるからです。

ソーシャル・エンタープライズは、少

なくとも、ビジネスのやり方をしっか

り認識し、学習しなければなりません。

日本にもあるかもしれませんが、ビジ

ネスアドバイザーという制度がありま

す。すなわちビジネスをやっていくため

にはどうしたらいいかというアドバイス

をしてくれる、ビジネスコンサルタント

です。ソーシャル・エンタープライズの

場合も、そういうアドバイスが必要で

す。プロフェッショナルとして、メイン

ストリームの企業に提供されるような

アドバイスがソーシャル・エンタープラ

イズにも提供されるべきだと思います。

また、日本でも同様だと思いますけ

れども、一つ難しい問題があります。

それは起業するときに必要となる資金

の確保です。

私どもの国ではソーシャル・エンター

プライズを始めるときには、銀行にお

金を借りに行きます。そうすると、ア

イディアはいいけれどヒッピー的だと

言われることがあります。一方、慈善

財団などに行きますと、あなたのやろ

うとしていることはビジネス的すぎる

と言われたりするわけです。銀行から

も、あるいは財団からも資金を得にく

いことがありますので、こういうこと

への対応が必要だと思います。

また、実践とアドボカシーとを結びつ

ける独立機関の設立も必要です。カウ

ンセリングとアドボカシーの双方をやる

のは、非常にためになることだと思って

います。こうした独立機関として活動す

るときに、政治家に対し現場を知った

上で働きかけをすることができます。

スライド8

もう一つ大切なことは、社会的投資

収益率です。

ソーシャル・エンタープライズは、

社会に対する貢献度が高い側面があ

りますが、実際にどのような社会貢献

をしているのかをはっきりと認識する

必要があります。

よいソーシャル・エンタープライズに

は一体何が必要なのか、一種の「レシピ」

が必要だと思います。ソーシャル・エン

タープライズを始めるにはもちろんい

いアイディアが必要ですけれども、その

いいアイディアをビジネスとして成功さ

せるための手法が必要になってきます。

組織レベルでの教訓です。

まず最初に資金調達をして、ビジネ

スをはじめます。

日本でも問題となることがあると思

いますけれども、経済危機の状況では、

助成を得てビジネスを始めるというこ

とがあります。しかし、ビジネスとして

本当に成功するためには、プロとして

のスキルはもちろん必要です。製品や

価格についての知識を持つ、そして適

切な販売のタイミング、それからお客

スライド 8

スライド 7

Page 33: 58 - Japan Foundation · 58 フィンランドにおけるソーシャル ... 民間企業でのマーケティング及び広報活動を経て 、1996年から2002 年までSurrey

国際シンポジウム ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携 報告書 6160

第1部 欧州でのソーシャル・ファームを中心とした障害者雇用の取り組み

スライド 6

フィリーダ・パービス:フィンランドか

らいらしたマリヤッタ・バランカさん

をご紹介します。フィンランドでは障

害者の雇用創出についての専門家とし

て知られ、2009 年に国立労働衛生

研究所がバランカさんを表彰。彼女の

功績を国が称えたということだと思い

ます。

マリヤッタ・バランカ:このシンポジウ

ムに参加できることを大変光栄に存じ

ています。

スライド 1

フィンランドにおけるソーシャル・

ファームについてお話をしたいと思い

ます。これは今や政府の公式の雇用プ

ログラムの一環として位置づけられて

います。

スライド2

スライド3

まずソーシャル・ファームのバックグラ

ウンドについてお話をしたいと思います。

雇用、リハビリテーション、職業訓

練を担当する省として、雇用経済省、

社会保健省、教育省の3つ省が関わっ

ています。個別のサービスは地方レベ

ルで提供されています。

スライド4

また、雇用の統計もご紹介しないと

いけませんね。現在、失業率は 7.1%

ですけれども、90 年代は19%にも

なっていました。その頃はちょうど経

済の移行期でもありました。そのとき

に特に雇用に不利な立場にある人たち

のためのシステムが必要だと政府は考

えたわけです。それがきっかけです。

スライド5

フィンランドは、ヨーロッパで最も

高齢化が進んでいる国の一つで、労働

力が不足した時代がありました。一方

で、労働力になる可能性を秘めた障害

年金受給者がいたわけです。そういう

こともあって政府としては新しい革新

的なプログラムで、障害者も労働力の

一環として活用できるのではないかと

考えたわけです。同時に、社会保障費

も削減できます。

新しい研究の結果によると、障害年

金受給者のおよそ3分の1が自分は十

分な、あるいは優れた労働力を備えて

いると感じているそうです。ですから

我々の役割は、障害年金を受けている

人たちを一般雇用市場で活躍できるよ

うにするということです。

スライド6

社会的雇用はなかなか制度的には

整っているとはいえませんけれども、

まず障害者と長期傷病者の特別雇用

があり、職場および職業訓練の場が提

供されています。これは社会福祉・保

健医療サービス / 地方自治体補助金

などで提供されています。また、雇用

に向けたオリエンテーション(ワーク

ショップ)があります。特に、長期失

業中の若年者対象として開始されたも

ので、年間 10,000 -12,000 人が

利用しています。主な財源は教育サー

ビス及び地方自治体の補助金です。

1990 年代に構造的な失業対策とし

て開始されたのが、長期失業者を対象

とした労働活動です。

最近では年間 4,000 ~ 5,000 人

を対象にした雇用活動が行われていま

す。そして、2004 年にソーシャル・

エンタープライズがスタートしました。

スライド7

スライド8

一般市場における雇用促進のため

に、さまざまなサービスを提供する

社会的雇用ユニットおよびセンター

がります。サービスの一つが有給雇

スライド 5

スライド 1

スライド 7

スライド 2 スライド 8スライド 3

スライド 4

報告4

フィンランドにおけるソーシャル・ファーム-障害者雇用における役割-マリヤッタ・バランカ(フィンランド)VATES 財団 最高経営責任者

続く

Page 34: 58 - Japan Foundation · 58 フィンランドにおけるソーシャル ... 民間企業でのマーケティング及び広報活動を経て 、1996年から2002 年までSurrey

国際シンポジウム ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携 報告書 6362

第1部 欧州でのソーシャル・ファームを中心とした障害者雇用の取り組み

フィンランドにおけるソーシャル・ファーム-障害者雇用における役割-報告4

用で、これがフィンランドのソーシャ

ル・ファームの位置づけになると思

います。

構造的な失業を解消しようという目

的もあるわけです。

スライド9

ソーシャル・ファームの原則ですけ

れども、政府の雇用政策の一環といえ

ます。障害のある失業者や長期失業

者の削減を目的としています。しばし

ばソーシャル・ファームは障害者だけ

を対象としているとも聞きますが、フィ

ンランドでは長期失業者も対象となっ

ています。

ソーシャル・エンタープライズ法が

2004 年 1月1日に施行され、雇用

経済省の管轄となりました。フィンラ

ンドでは、ソーシャル・エンタープラ

イズという言葉を使いますが、ソー

シャル・ファームのことを指しますので、

今日のシンポジウムではソーシャル・

ファームという言葉を使いたいと思い

ます。法律はありますが、現場との対

立もあり、実際に効果を上げているか

というと、そうもいかないところがあ

ります。

ソーシャル・ファームの定義ですが、

私どもは CEFEC の定義を導入して

います。これについては他の方が既に

お話しになったと思います。フィンラ

ンドでソーシャル・ファームが普及し、

国家の政策になるのに 10 年以上かか

りました。

ソーシャル・ファームは、国家予算

より賃金補助金をうけることができま

す。一般企業でも、障害者を雇用する

に当たっては賃金補助金をある程度受

けることができますが、ソーシャル・

ファームの方がより容易に獲得するこ

とができます。ソーシャル・ファーム

を立ち上げる場合も、雇用の要件を満

たせば、ある程度有利な条件で立ち

上げることができます。また、利益分

配に関する制限はありません。民間企

業としての利益を確保するためです。

スライド10

ソーシャル・ファームの定義と条件

は、CEFEC とよく似ています。従業

員の少なくとも 30%はターゲットグ

ループに所属しなくてはなりません。

少なくとも最低賃金を保障しなければ

なりません。収入の最低 51%は売り

上げから得なければなりません。また

ソーシャル・ファームは雇用経済省が

保管する商業登記簿に登録します。そ

うしますと法人や財団その他の事業体

の形態をとることが可能になります。

ですからあらゆる組織がソーシャル・

ファームを立ち上げることができるの

です。

スライド11

政府は雇用補助金を通して小さな組

織に障害者を雇用するよう働きかけて

います。一般企業にも雇用補助金は出

ますけれども、ソーシャル・ファーム

に対してはより多く支給され、最高月

額 1,300 ユーロです。一般企業の場

合は 550 ~1,040 ユーロです。

補助金の支給期間は、通常は2年間、

ソーシャル・ファームは3年間で、個々

の再雇用のニーズに応じて連続更新が

可能です。しかし一般企業にはこのよ

うな条件は認められていません。

スライド12

また、職場環境改善助成金がありま

す。障害のある人の職場に対し、最高

は 2,500 ユーロ、特に重度の障害の

場合は 3,500 ユーロが支給されます。

これによって特別な機械を入れたりす

ることができます。これはソーシャル・

ファームに限りません。

またソーシャル・ファームのための

特別な事業開発補助金があります。

これはソーシャル・ファームに特有の

ものです。事業を始めるときに、総

開発費の立ち上がり費用の 75%を

上限として補助金を得ることができ

ます。運営費用への補助はありませ

んが、やはり最初の立ち上げのとき

に補助があるということは大変に助

かると思います。

ということで、ソーシャル・ファーム

を始める人は、政府から事業開発補

助金をもらえますし、また障害者を雇

うことによって、企業は特別な雇用補

助金も得ることができるわけです。

スライド13

現在では154 のソーシャル・ファー

ムが登録しています。その数は増加し

つつあります。公認ソーシャル・ファー

ムのうち5分の1は第三セクターまた

は地方自治体の機関として運営されて

います。5分の4は、ソーシャル・ファー

ムとして登録している民間企業また

は最近新たに設立されたソーシャル・

ファームです。時には大企業が障害者

を雇用するという場合もあります。

そして現在、総従業員は 1,200 人

です。さほど大きな数字ではありま

せんが、新規登録企業の大多数は比

較的小規模なので、数人しか雇って

いないところが多いのです。そのうち

750 人がターゲットグループに属し

ています。

ソーシャル・ファームの業種には多

様なものがあります。リサイクリング

が増えていますが、これは主にソーシャ

ル・ファームの中でも長期失業者協会

が設立したものが中心です。彼らは活

発に活動しており、ヨーロッパのネッ

トワークを通じて拡大しています。

カフェ、レストラン、在宅介護サー

ビスがあります。現在、ソーシャル・

ファームを設立し、介護サービスを提

供しようとする国のプログラムもあり

ます。清掃、不動産管理、小規模製造業、

下請け製造業、物流、各種サービス

業もあります。

スライド14

私たちは7年間、この制度を進めて

きましたが、まだ始まったばかりです。

ソーシャル・ファームは一般雇用政策

の一部ということで、切り離されて行

われているのではありません。一般企

業であっても社会的雇用主になること

ができます。それによって障害のある

人々が専門職につくことが可能になっ

てきます。またソーシャル・ファームも

一般企業を対象としたアドバイス、融

資を受けることができます。

ただ、マイナス面もあります。

続く

スライド 9

スライド 13

スライド 10

スライド 11

スライド 12

スライド 14

Page 35: 58 - Japan Foundation · 58 フィンランドにおけるソーシャル ... 民間企業でのマーケティング及び広報活動を経て 、1996年から2002 年までSurrey

国際シンポジウム ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携 報告書 6564

第1部 欧州でのソーシャル・ファームを中心とした障害者雇用の取り組み

ソーシャル・ファームがまだ計画段

階にあった当時、私たちはこの分析結

果を雇用経済省に提示し、彼らはそれ

を見て法律を導入したのです。

スライド20

第三セクターとして望むことは、ソー

シャル・ファームのモデルを、持続可

能な雇用制度としてだけでなく、一般

就労への移行のための雇用制度として

も維持・開発することです。一方で、ソー

シャル・ファームの支援制度と資金調

達手段をさらに開発することです。ま

た、生産的ワークショップをソーシャ

ル・ファームの開発に組み込むこと、

ソーシャル・ファームの職場の量と質

を改善することです。

スライド 21 スライド22

このセミナーでは皆さんにフィンラ

ンドの状況を中心に話しましたが、私

は、昨日、高島屋でこういったコーナー

を見つけましたのでご紹介します。こ

のデパートではソーシャル・ファームの

セクションを設けていました。ここに

並んでいる商品はいろいろな国からき

たものです。私としてもぜひ将来、こ

のようなものが世界中にできればと思

います。ありがとうございました。

フィンランドにおけるソーシャル・ファーム-障害者雇用における役割-報告4

賃金補助金と障害の重度は無関係

です。また、第三セクター、特に小

規模な地域イニシアティブでは、ソー

シャル・ファームを立ち上げる財源が

ありません。財源があっても有意義な

雇用の成果を上げるまで時間がかか

ります。

また、ソーシャル・ファームのモデ

ル開発への様々なアプローチですが、

一般雇用への入り口としてとらえるの

か、あるいは、ソーシャル・ファーム

自体が主流となる可能性があるのかと

いった議論があります。政府は支援制

度を始めましたが、まだ不安定です。

スライド15 スライド16

ソーシャル・ファームの開発政策は

雇用経済省の管轄です。雇用経済省

は、社会的雇用の中でも有給の仕事に

対するニーズが高いものの、ソーシャ

ル・ファームの職場の数が足りないと

考えています。しかし、充分な職場の

数を確保するにいたるまで、ソーシャ

ル・ファームの構造は発展していませ

ん。そのため、イギリスのソーシャル・

エンタープライズ・モデルを改良した新

たなモデルを模索し、例えば介護に携

わる労働者の確保など、企業における

労働力の有効な活用と長期失業者に

雇用をもたらすことを目指しています。

スライド17 スライド18

国としての構造に話を戻したいと思

います。

障害者、長期傷病者を対象にした職

場および職業訓練の場は約 16,000

あることを申し上げました。

また生産的ワークショップ(授産施

設)は、一般労働市場における就労

の準備がまだ整っていない障害のあ

る人々に、有給の仕事を提供する場で

す。これはどこの国にもあると思いま

す。かつてフィンランドには 5,000 ヶ

所ありましたが、現在は1,100 ヶ所し

かありません。というのは、リハビリ

テーション、職業訓練施設が増えてい

るからです。

労働活動ユニットというものがあり

ます。これは一般雇用に結び付けるた

めのものです。

こういったものを将来のソーシャル・

ファームに組み込んでいきたいと思っ

ています。

スライド19

重要な数字を紹介したいと思います。

生産的ワークショップがどのぐらい

の費用対効果をもたらしているかの分

析結果です。公共の支出、補助金、そ

の他社会保障の支出は 60 万ユーロ

近くになっています。一方で、政府が

節約した金額は 66 万ユーロを超えて

います。したがって最終的には政府は

10 万ユーロ近い利益を上げています。スライド 21

スライド 19

スライド 20 スライド 22

スライド 16

スライド 17

スライド 18

スライド 15

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国際シンポジウム ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携 報告書 6766

第1部 欧州でのソーシャル・ファームを中心とした障害者雇用の取り組み

フィリーダ・パービス:次に、ゲーロル

ド・シュワルツさんにお話ししていた

だきたいと思います。現在はセルビア

で国連の仕事をしていらっしゃいます。

ソーシャル・ファームの開発分野で長

い経験がおありです。ドイツでソーシャ

ル・ファームをお作りになりましたし、

またソーシャル・ファームを支える中間

組織でもお仕事をされてこられました。

ドイツだけでなく、他の国でも活躍を

されました。また、ソーシャル・エンター

プライズの発展に関して、イギリスを

含む EU の研究調査をしてこられまし

た。今日は、いろいろな国におけるソー

シャル・エンタープライズ、ソーシャル・

ファームについての調査のまとめをお

話しいただきます。日本においても、

そういった調査結果を参考にして今後

どうしたらいいかの示唆をしてくださ

ると思います。それではお願いします。

スライド1

ゲーロルド・シュワルツ:ご紹介ありがと

うございました。本日は、お招きいただ

スライド 2

スライド 1

スライド 3

ヨーロッパにおけるソーシャル・ファームの概観ゲーロルド・シュワルツ(ドイツ/セルビア)IOM(国際移住機関)プログラムマネージャー

報告5

続く

きましたことを大変うれしく思います。

日本のソーシャル・ファームをいくつ

か見せていただき、大変感銘を受けま

した。私が日本でのセミナー/シンポ

ジウムに参加するのは5~6回目にな

ります。昨年の訪日を受けて、ヨーロッ

パの様々なソーシャル・ファームの動

きについて集約する時期にきているの

ではないかと考え、主催者と話し合い

この調査をしたわけです。みなさんの

議論のベースにしていただければと思

い、ディスカッションペーパーというタ

イトルを付けました。

この調査の結果をご紹介させていた

だきます。

スライド2

まず、ソーシャル・ファームの定義

と位置づけです。

ソーシャル・ファームは、今のヨー

ロッパではどのような意味を持ってい

るのか。そして、いくつか統計的な数

字をご覧いただきたいと思います。

次に、ヨーロッパ各地におけるソー

シャル・ファームに関する法的枠組み

について、また大変重要な中間組織や

ソーシャル・ファーム支援制度を見て

いきたいと思います。最後にヨーロッ

パや日本において、ソーシャル・ファー

ムの分野における次のステップが何な

のかということを考えたいと思います。

スライド3

定義については時間をあまりかけず

にスキップしたいと思います。

スライド4

ソーシャル・ファームの位置づけに

ついても、サリーさんからお話があり

ましたのでとばします。ソーシャル・

ファームというのは、広い意味での第

三セクターの一部、あるいは社会経済

の一部であり、その一角を占めるソー

シャル・エンタープライズ、その中で

も雇用統合型ソーシャル・エンタープ

ライズの一部です。

スライド5

さて、ソーシャル・ファームというの

は他の企業と比べてどう違うのでしょ

うか。

先ほどからも定義についてのお話が

出てきています。仕事というのは非常

に重要なものです。仕事をすることで

生き甲斐を得ることができますし、ま

たお金を得られるわけですから自立し

た生活ができる。こういうことはとて

も重要なことではありますけれども、

炭谷さんの最初のお話の中で出てきた

エンパワメントという言葉も大変重要

だと思います。

ちょっと曖昧な用語ではあるんです

が、ソーシャル・ファームのエッセンス

がどこにあるかというと、やはりそこ

にあると思います。

ソーシャル・ファームというのは、他

の企業と同じように一人ひとりが意見

を表明することができるし、他の働く

人たちと同じ権利と義務を持ちます。

イタリアにおいてソーシャル・ファーム

が最初に生まれたと言われているわけ

ですけれども、当時は民間セクターの

企業に代わるものとして紹介されまし

た。民間企業というのは人を搾取する。

様々な人を統合するということはなく、

仕事が十分できなければ放り出される

こともある。そういうような社会の中

でソーシャル・ファーム、ソーシャル・

エンタープライズは、別の形の働き方

を提供する。それは人を大事にするモ

デルとして作り出されたと言われてい

ます。ダニエルさんからも、スウェー

デンで実際にどのような形で行われて

いるのか紹介がありうれしく思いまし

たが、ヨーロッパ各地でソーシャル・

ファームの重要な要素として推進され

ています。

その上で、実態を全体的に注意深く

見る必要があると思いました。これま

でそれぞれの国の状況を把握する調

査・分析もあまり行われてこなかった

スライド 4

スライド 5

Page 37: 58 - Japan Foundation · 58 フィンランドにおけるソーシャル ... 民間企業でのマーケティング及び広報活動を経て 、1996年から2002 年までSurrey

国際シンポジウム ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携 報告書 6968

第1部 欧州でのソーシャル・ファームを中心とした障害者雇用の取り組み

ので、興味深いのではないかなと思い

ました。

ビジネスとして見た場合、ソーシャ

ル・ファーム、協同組合というのは、

他の企業と変わりはありません。何か

新しい形でビジネスをやろうというわ

けではありません。ソーシャル・ファー

ムももちろん製品やサービスを作って

販売しなければいけない。それは普通

の民間企業と競争できるものでなけれ

ばならないということは先にも出たと

おりです。

しかし、ソーシャル・ファームをビジ

ネスとして見た場合、普通の企業との

違いは主に二つあると思います。

例えばドイツの数字を見ますと、企

業がビジネスを立ち上げた後、5 年後

に生き残れる事業は 30%以下です。

つまり最初の 5 年間で 60 ~70%

は失敗するわけです。この数字はヨー

ロッパ全土でだいたい同じだと思いま

す。ソーシャル・ファームの場合は、

立ち上げ後に失敗するという話はあま

り聞きません。

その理由の一つとして、非常に能力

の高いビジネスマンがやっているのか

と思うわけですけれども、そうではな

いと思います。多くのソーシャル・ファー

ムは、障害者に対して住宅や職業訓練

を提供するような、より大きな非営利

団体が立ち上げたものです。このよう

な背景がある場合、ソーシャル・ファー

ムがビジネスを立ち上げるときに、傘

となる大きな組織の中で相乗効果を活

用することができます。それが失敗例

が少ない理由ではないかと思います。

しかしさらに詳しく見る必要がある

と思います。ソーシャル・エンタープ

ライズやソーシャル・ファームの立ち

上げに関する文献を調べることも興味

深いと思っています。単独型の場合は、

製品の販売促進も重要ですし、大きな

リスクをとることにもなります。また

企業の雰囲気が違うということも言わ

れています。しかしその辺りもしっか

りと見る必要があると思います。

もう一つは、ソーシャル・ファーム

においてはコンソーシアムやクラス

ターと呼ばれるグループの一員である

ということで相乗効果が生まれるとい

うことがあると思います。ダニエルさ

んからも先ほど詳しくその構造につい

てお話しいただきましたね。

ソーシャル・ファームというのはもち

ろんビジネスではありますけれども、

通常の中小企業とは違うところがあり

ます。協力のレベルがかなり高いとい

続く

ヨーロッパにおけるソーシャル・ファームの概観報告5

うことがその一つです。つまり、グルー

プ内の他の企業、他の母体との協力

関係が強いということです。それが成

功の秘訣だと思います。

日本に来る前にソーシャル・ファー

ムを運営しているベルリンの友人と

話をしたところ、25の事業ユニット

を持っているそうです。また、金融

危機がソーシャル・ファームに与える

影響はあまりなかったと友人は言っ

ています。ある特定の契約に依存し

た事業でない限り、より大きなネット

ワーク企業の一員であることによっ

て、影響を埋め合わせたり、スタッフ

を別の協同組合の事業所に移すとい

うことも行われたそうです。イタリア

でもそのようなことが行われました。

そういうことについて日本でももう少

し見てみる必要があるのではないか

と思います。

スライド6

ヨー ロッパ に お けるソーシャル・

ファームのモデルについて、既存の調

査に基づいて全体像を明かにしようと

したんですけれども、実際には使える

調査というのはそれほどありませんで

した。今後の宿題になるかと思います。

例えば数や売上など少なくとも最低限

のデータを収集するべきだと思いま

す。国際的な論文は3件しか発表され

ていません。

法的枠組みなどがある例えばフィン

ランド、イタリア、ドイツではデータ

を定期的に収集していますけれども、

あまり系統的なものにはなっていませ

ん。それ以外の国では、データがない

ということに驚きました。

スライド7

スライド 7 の表はデータのまとめに

すぎません。信頼あるデータだと思う

ものだけを使っていますのでもう少し

数は多いのではないかと思いますが、

はっきりしたことはわかりません。ソー

シャル・ファームの数は 4,000 ぐら

い。約 10 万人の雇用を満たしていま

す。そのうちの約 42,000 人が障害

者であろうと思います。ヨーロッパで

こういうデータを定期的に集められる

ようになるまでに時間がかかるでしょ

う。おそらく各国政府やEUなどに働

きかける必要があると思います。

数が最も多いのがソーシャル・ファー

ムの起源の国であるイタリアですね。

大変興味深いポイントは、先ほどサ

リーさんがイギリスでは立ち上げのと

きのサポートは得られないと話をして

いましたけれども、イタリアの市町村

のレベルではかなり支援があるという

ことです。これはタイプB、雇用統合

型社会的協同組合に限られます。あ

まり豊かな資金の援助ではありません

が、イタリアでは事業を始めて、軌道

に乗れば、継続的な支援を受けられる

システムがあるのです。

スライド8

それでは、国内の法的枠組みを見て

いきたいと思います。

6つのヨーロッパの国において、ソー

シャル・ファームに特化した法律があ

り、イギリスにはソーシャル・エンター

プライズに関する法律、その他の国に

もソーシャル・ファーム型の WISE を

対象とする法律が存在しています。

〔法的枠組みにおける〕ソーシャル・

ファームの目的やターゲットグループ

の定義は、多かれ少なかれ、(社会的

企業の定義よりは)狭義です。フィン

ランドでは、ターゲットグループに長

期失業者を含むなど広く定義していま

すが、ドイツでは障害者としているな

ど、国によって異なります。

もちろん共通点もあります。社会的

に不利な方々を雇うということ、一定

のパーセンテージの雇用を満たさなけ

ればいけないというような法律の定め

があります。それに応じて政府からの

支援も得ることができるわけです。

政府による支援の種類ですけれども、

7ヶ国で大体共通のものがあります。

フィンランドの場合には、障害者の

ための賃金補助金があります。法律で

規定されているため、全国に適用され

ています。

その背景にある考え方には、社会的

に不利な方々が働く場合には、その生

産性が平均的な労働者よりも低いとい

うことがあります。従って、ソーシャ

ル・ファームが他の一般企業と同じ土

俵で仕事ができるように国が助成をす

るということです。つまり、ソーシャル・

ファームの不利な条件を補完する目的

で賃金補助金が払われているのです。

その補助金の支給期間を設けてい

るところもあります。例えばドイツの

場合には賃金補助として最初は多く

をもらえますが、しかしそれはだんだ

ん減っていきます。こういう人たちが

しばらくソーシャル・ファームで働い

ていると、だんだん生産性が上がり、

一般企業の従業員と差がなくなるだ

ろうということが想定されているわ

けです。

ソーシャル・ファームは毎年このよ

うなタイプの支援に対する申請をし

なければなりません。そして、何名

の社員は生産性が低いというような

データを政府に示さなければならな

いのです。

また、立ち上げ資金についての支援

も共通に見られるものです。

スライド9

いろいろな国が様々なアプローチを

とっています。理由は様々ですが、イ

スライド 6

スライド 7

スライド 8 スライド 9

Page 38: 58 - Japan Foundation · 58 フィンランドにおけるソーシャル ... 民間企業でのマーケティング及び広報活動を経て 、1996年から2002 年までSurrey

国際シンポジウム ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携 報告書 7170

第1部 欧州でのソーシャル・ファームを中心とした障害者雇用の取り組み

タリア、ポーランド、ギリシャでは一番

いい法的形態は協同組合だと考えたよ

うです。これは非常にユニークだと思

います。ほかの国はもっとオープンで

す。フィンランドとドイツでは、ソーシャ

ル・ファームはどのようなタイプの会

社でもいいということになっています。

必ずしも非営利である必要はなく、そ

れぞれの会社の決定に任せるというこ

とです。

特別に優遇された条件が公共調達

において認められている国もありま

す。リトアニアの法律は非常に変わっ

ていると思いますが、市場から得る

べき収入の最低基準が示され、80%

と言われています。実際にどのように

確認されているかわかりませんけれど

も、そこまで調べるのは非常に複雑

だと思います。

ギリシャでは、協同組合の組合員と

理事会についてのきまりもあります。

いわゆる理事会メンバーの何%は障害

者でなければならないということが定

められています。また精神科医など、

ソーシャルケアにあたる人たちも参加

しなければならない、あるいは市議会

のメンバーも入るべきと書かれており、

ギリシャの社会的企業は、かなりユ

ニークな取り組みをしていると思いま

す。また、ギリシャでは、自治体のコミュ

ニティにベースを置いた一つのモデル

を開発しました。コミュニティのヘル

ス・サービスやソーシャル・サービスと

リンクしたものになっています。

ギリシャとリトアニアにおいては、公

的なスペースあるいはビルの使用を優

先的に認めるということが法律に定め

られています。ですからコミュニティ・

ベースの企業だと言えると思います。

ギリシャでは市議会がビルを貸し出し

ていますし、リトアニアでも同じよう

なことが行われています。

次は公的調達です。EUは社会条項

を導入する指令を出しています。そし

てEU加盟国での採用は少しずつです

が広がっています。

イタリアが初めてこの社会条項とい

う指令を採用しました。そのことによっ

ていわゆる公的調達あるいは契約に

おいてはソーシャル・ファームが優遇

されていました。しかしながら、不公

平な競争が行われると非難され、イタ

リアは法律を変更しました。10 年以

上の議論の末、イタリアで指令が復活、

EU はこの指令を採用することを決め、

全ヨーロッパに紹介されています。ド

イツは 2006 年、この指令を導入し

ました。これからはこのEUの指令が

法的な意味で大きな意義を持ってくる

のではないかと思います。

また NPO が非営利型の有限責任

会社として、ソーシャル・ファームを

行うようになってきています。ドイツ

のモデルは大変興味深いものです。

ソーシャル・ファームが採用すべき特

定の法人形態を規定してはおらず、ま

た企業はひとつの部門としてソーシャ

ル・ファームを開設することもでき、

実際にそのような形でも行われてい

ます。それに加えて、ソーシャル・ファー

ム法、ドイツの場合には NPO の税

ヨーロッパにおけるソーシャル・ファームの概観報告5

法になりますが、この法律によります

といわゆる非営利型の有限責任会社

が認められるようになりました。つま

り、いかなる法的形態の企業も非営

利のステータスを申請することがで

きます。

この条件を満たす場合には、例え

ば VAT その他の税金の支払いを免

除されるという条件が提供されます。

もちろん、これらの会社は社会的な

ミッションを掲げています。そして

NPO の規制にのっとった利益の使い

方をしていることを示さないといけ

ません。

スライド10

ヨーロッパにはソーシャル・エンター

プライズやソーシャル・ファームに対

する多くの支援組織があります。この

支援組織がどのような効果を上げてい

るのか、民間のビジネス支援とどう違

うのかということに注目しました。広

範な支援機能が提供されていますが、

以下のような 3 つのレベルにまとめる

ことができます。

まず、経営および個々のビジネスに

対する直接の技術的支援。次にビジネ

スコンソーシアムやクラスターに対す

る組織的・戦略的ビジネス支援、そし

てネットワーク作り、意識啓発、政策

立案、政府・資金提供者への主張といっ

た分野での戦略的支援となります。

このようにソーシャル・ファーム支

援組織は通常の中小企業支援組織と

良く似た機能を有してはいますが、い

くつか特徴もあります。一つは、いわ

ゆる非営利セクターの人にも主流のビ

ジネスに関する知識が利用できるよう

にすることです。それから広報及び啓

発活動。IT 業界が IT 企業を立ち上げ

る、または建設業界が建設会社を立ち

上げるためにはそう苦労はしないので

すが、ソーシャル・ファームの場合は

時間がかかります。これならうまくい

くというモデルを作って、それを広報

することが必要になりますし、多くの

人の役に立つと思います。

また、研究、評価、そして費用対効

果分析のための新たな方法論の開発

も重要です。つまり、資金提供者(主

として政府)に対し、ソーシャル・ファー

ムへの投資は利益を生むこと、ビジネ

スとして見ても理にかなっていること

を証明するためのモデルを開発し、そ

して政府の認識を高めるために広報し

* 資料は国際交流基金のウェブサイトでお読み頂けます。

ていくことになります。

スライド11

最後になりますが、EU のモデルか

らもっと多くの雇用を創出できる可能

性があると確信しています。ヨーロッ

パだけでなく日本、そしてより広いア

ジア地域でも可能性があるということ

です。日本もハブとして重要な役割を

演じることができるのではないかと思

います。

また、どのようにソーシャル・ファー

ムを立ち上げ、運営するかについて、具

体的な実践例を踏まえたガイドライン

やハンドブックが役に立つでしょう。す

でに開発された材料を活用することも

できます。また交流プログラムや共同

研究を通して緊密なネットワークを構築

すること、調査を進めより系統だった

見方をすること。それにより私たちの

努力・協力がより具体的に結実していく

ことができるのではないかと思います。

どうもありがとうございました。

フィリーダ・パービス:ありがとうござ

いました。皆さんを代表し、心よりゲー

ロルドさんに感謝申し上げたいと思

います。このような調査はそれぞれの

ヨーロッパの国における経験を集約す

る上で極めて重要だと思いますし、こ

れを基礎に次の段階へと進めていきた

いと思います。

ソーシャル・ファームのやり方はい

ろいろあるんだということを何度も

おっしゃいました。そして失敗率は低

いともおっしゃいました。福祉制度な

どに組み込まれた支援制度があるが

ために、失敗率が少ないともおっしゃ

いました。

協同組合、クラスター、コンソーシ

アムなども日本の参考になると思い

ます。私はいつも第三セクターにおい

て、政府が果たすべき役割は何かを問

いかけてきました。EUの経験から見

て、政府が果たせる役割は非常に大

きいと思います。例えば法的な枠組

み、優遇政策ないしは建物、公共調

達における優先的な扱いと、そしてこ

こにおられますような組織もまた極め

て重要です。様々な知識や皆さんに

わかるような効果を伝える上でも重要

ではないでしょうか。

ご関心がある方は、ぜひ今後の協

力の可能性についてお話いただきたい

と思います。日欧の間の協力は多くの

方々に恩恵をもたらすことができるの

ではないでしょうか。

スライド 11

スライド 10

Page 39: 58 - Japan Foundation · 58 フィンランドにおけるソーシャル ... 民間企業でのマーケティング及び広報活動を経て 、1996年から2002 年までSurrey

国際シンポジウム ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携 報告書 7372

第2部

パネルディスカッション

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国際シンポジウム ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携 報告書 7574

第2部 パネルディスカッション

めたんです。そこでビジネスをやろう

という意識は初めはそんなになかった

です。でも自分の気持ちがすっきりす

るというか、やりやすいということで、

そちらの方向に進んでいきました。た

だ、食べるのはとても大変でした。牛

乳を売っているだけでは食べられな

い。ということで何を考えたかという

と、もっと付加価値の高いものを売ろ

うと。アイスクリームやヨーグルトみ

たいな足の短い商品には流行があり

ます。例えば生キャラメルも、追いつ

いていかないんですね。ですから足の

長いというか時間をかける商品として

チーズを選びました。

そして自然の中でゆっくりな人と一

緒にものづくりをしよう。当然、機械

を外し、そして自然のリズムを勉強し

て、それにのっとってものづくりをし

ようとやっていったら、チーズの味が

よくなってきた。とても良いものがで

きてきたんです。ただ、売れなかった

んですね。問題は何かと言うと、チー

ズというのはまだ日本で新しいもので

すから、味が評価できない。となると、

宮嶋君は障害者と一緒に作っているん

だろう?衛生管理は大丈夫か?という

ような風評が出るわけです。売れない

んですよ。ところが東京でのオールジャ

パンナチュラルチーズコンテストとい

うのがあって、そこに出したらいきな

り第1回目でグランプリをとってしまっ

た。それから売れましたね。そうか、

機械を使わないでゆっくり作っていく

ことが食品の品質を高めることになる

んだぞと。これはいけると思いました。

そうやって、ものが売れることで、

ものすごい喜びと同時に危機感を脱出

した。皆一緒に喜びを共有できるよう

になったんですね。大変さも共有して

いるんですが。

そこから、よし、じゃあどうしよう

か。もう少しいい生活をしよう、家

を建てようと言って、それを増やして

いって、今の生産規模で言いますと、

牧場全体で 1 億 8,000 万円くらい。

70 人いて、その半数がいろいろな

問題を持っている人たちで、10 人く

らいは小学生から高校生を含めた子

どもたちです。だから実質的に仕事

をしているのは 60 人ですが、1 億

8,000万円売れるようになりました。

チーズだけで 1 億 2,000 万円を超

えています。

それで、すごいだろう!と自慢しても

しようがないんですね。その中で 70

人の生活費を支えなければいけないと

いうことになります。その上に土地や

施設を拡充しようと思ったときに、援

助金は農業関係で普通の農家がもらっ

ているもの以外は来ません。思い余っ

て共働学舎の本部から、教育費などの

支援を受けていましたが、おととし、

すごくチーズが儲かって、新得はお金

があるのにとブチブチ言われるから、

わかった、もういいと。全部自前でやっ

てやると言ってしまいました。

でも、やればできるぞという感覚は

あります。みんなが一緒にやり、連帯

感が出てきた。ただし社会的には非常

に難しくて、今は二枚看板でやってい

ます。もともと任意団体で始まった共

30 年、私立の教師をしていた中でどう

してもやり残したことがある、手が届か

なかったことがある。それをやりたいと

言って、退職後2年をかけ、共働学舎

の構想を作り、始めたプログラムです。

何をやりたかったのかというと、私

立の学校の教師を 30 年やっていまし

たので非常にすばらしい人間教育はで

きます。ただし、本当に教育を必要と

している人に手が届かなかったという

思いがあったようです。学校に行きた

くない、引きこもっている、身体的な

障害を持っている、精神的な不安定

を抱えている方たちが、私立の学校の

入学試験に通らないわけです。自分が

働ける教育現場に来ないということか

ら、逆に、自分が障害者になったから、

その人たちが自分たちの持っている力

でどうやって生きていったらいいのか

ということを学べる場所を作りたいと

言って、作ったのが共働学舎というこ

とになります。

そのときに掲げたスローガンが、「自

労自活」と言いました。自給自足という

言葉はよく聞きますが、とても閉鎖的

に聞こえますよね。そうではなくて、自

分たちで労して、自分たちで生活を成り

立たせてみようと。理想主義、楽観主

義と言ってもいいかもしれないですが、

そういったことで始めた共働学舎です。

始めると言ったらどんどん人が集まり

まして、引きこもり、精神的な不安定を

抱えている人、てんかんの人、刑務所

から出た人、それから孤児で施設を転々

として家庭がない人、いろいろな悩み

をもった人が集まってしまいました。

そういった人たちに一緒にやりたい

ならいいよと言って始めた共働学舎な

んですが、今では全国5ヶ所で 130

人ほどがメンバーとしてやっています。

そのうち半分ほどが悩みを抱えてきた

人たちです。

そのようにいろいろな障害、悩みを

抱えてきた方たちをひとまとめにして

みんなで生活しましょうと言ったとた

んに、それまでの日本の社会福祉法か

らは外れます。ですからずっと法人格

は持たずに任意団体として個人の寄付

を集めて事業を展開してきています。

僕自身は、ずっと自由学園で学び、

自然科学が好きでやっていたんです

が、卒業するときに僕の親父が共働

学舎を始めたわけです。でも、逃げた

んです。一緒にやるのは嫌だと。ただ

し、心を閉ざした子どもも、もしかし

たら動物と接することで心を開くかも

しれない。それを勉強しにいくと言っ

て、4年間アメリカに行って、帰って

きたのが 1978 年です。そのときに、

北海道の新得町で 30 町歩提供するか

ら開かないかというお話がありまして、

すぐにそちらに入って、サバイバルのよ

うな生活が始まりました。

僕自身は、個人の寄付で自分自身

の生活を成り立たせるということに非

常に疑問を感じていました。いや、寄

付はもらいますと。ただし、お金の使

い方は一緒に生活することになった人

たちと一緒に汗を流し、働いて生み出

したものを売って、その範囲内で生活

しようよと。それが自立だと言って始

寺島:第2部では、これまでお話をい

ただいた方々と日本の方たちと議論を

していきたいと思っております。

最初に、国内でソーシャル・ファーム

と呼ばれるような活動をされている3

人の方から、お話しいただきます。ま

ず共働学舎という北海道にある NPO

法人で画期的なプログラムを行ってい

る宮嶋さんからお願いいたします。

宮嶋:ただいまご紹介にあずかりました

共働学舎新得農場の宮嶋望と申します。

共働学舎は共に働く学舎と書きます。

これは宮嶋真一郎、僕の父親ですが、

1974 年に始めたプログラムです。そ

れまで父親は自由学園という私立の学

校の教師をしておりました。全く目が見

えない障害者になってしまったことで、

第2部 パネルディスカッション

コーディネーター:寺島彰(浦和大学こども学部 教授)

[ 国内パネリスト ]宮嶋望  (農事組合法人共働学舎新得農場代表 NPO共働学舎副理事長)上野容子 (東京家政大学人文学部教育福祉学科学科長・教授)大山泰弘 (日本理化学工業株式会社会長)

[ 海外パネリスト ]サリー・レイノルズ (イギリス)ダニエル・リンドグレーン (スウェーデン)ラルス・レネ・ペテルセン (デンマーク) マリヤッタ・バランカ (フィンランド)ゲーロルド・シュワルツ (ドイツ/セルビア)フィリーダ・パービス (イギリス)

続く

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国際シンポジウム ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携 報告書 7776

第2部 パネルディスカッション

働学舎本体は税金の関係で NPO の法

人格をとりました。ところが、チーズ

の売上げが大きすぎる、収益事業が大

きすぎるから、その部分を外しなさい

ということになりました。ですから新

得農場は NPO 法人の顔と、農業生産

法人の顔を持っています。

どうしているかと言うと、メンバーは

全部 NPO に属していて、生産法人が

NPO に労働委託をします。労働提供し

て委託費を払う。こういう面倒くさい

ことをやって2つの経理をやっている。

問題は何か。チーズが儲かった。頑

張って収益が上がった。収益事業とし

てきちっと見られます。利益は半分、

税金で収めないといけない。ヨーロッ

パの方のお話を聞いていたら、その利

益を還元していいという話があった。

うらやましいなとすごく思いました。

そういうところの法整備をぜひソー

シャル・ファームという名のもとにで

きたらと、すごく期待を持っています。

ソーシャル・ファームという言葉を

炭谷先生から聞いたのは、7年くらい

前になります。もうやってるじゃない

かという話で紹介されたのです。それ

から、おつきあいさせていただいてい

ます。僕らが模索しながらやってきた

ように、世界中でも同じように、弱い

立場の人たちの生活を何とかしようと

やってきた人たちがいるんだと。

共働学舎も1970 年代から始まりま

した。トリエステでバザリアのお医者

さんが始めたのも1970 年代です。で

も、なぜ日本では社会システムとして

入っていかなかったのかという疑問が

ありました。ここでこれから社会システ

ムに組み込まれるように、皆さんで働

いていきたいと非常に思っております。

寺島:どうもありがとうございました。

次の上野先生は大学の先生であり、豊

芯会という社会福祉法人を経営されて

いるメンバーの一人です。

上野:今ご紹介があった社会福祉法

人豊芯会で行ってきた活動について、

ソーシャル・ファームをどう目指してい

るかということと関連させながらお話

しさせていただきたいと思います。

豊芯会は1978 年にスタートしまし

たが、当時は民間の小さな団体で「ハー

トランド」という名前でした。1997

10 月に社会福祉法人の認可をいただ

いて今に至っています。

最初は精神障害者の方々が地域に

集まる場がほとんどない時代でしたの

で、それを作ろうということで、精神

科医の方の発案によってスタートしま

した。それから作業所を作り、当事

者の皆さんの声を聞きながらグループ

ホームを作り、授産施設を作り、地域

生活支援センターを作りという経過を

たどってまいりました。

働くことの支援ということに力を入れ

始めたのは、1993 年からです。なぜ

かというと、関係者の方々はよくおわか

りだと思いますが、精神障害者が働き

たいと思っても働く場、働く機会という

ものにはなかなか恵まれていませんで

した。それだったら自分たちで仕事を

起こしていこうと力を入れ始めました。

全体的な障害者の状況を見ますと、

障害者の賃金状況が障害者白書に毎

年載るのですけれども、雇用の場、福

祉工場、授産施設と3つ比較された図

があります。雇用は知的障害者が一番

低かったかと思いますが、福祉工場、

授産施設は精神障害者の賃金が一番

低く、特に授産施設は非常に賃金が低

くなるという状況があります。

今、障害者権利条約が批准されよう

ということで準備を始めていますけれ

ども、この福祉的就労と言われている

賃金の低い状況というのは、そういう

観点から見ても問題があると言われて

きていると思います。

賃金アップと、働くチャンスの場を

作るということで、私たちは何を始め

たかと言いますと、フードサービス事

業所と今は言っていますけれども、作

業所として 1993 年に「ハートランド

ひだまり」というものを作りました。

それまで私たちも部屋の中にこもって

軽作業をしたりということが多かった

のですが、この際に地域に顔を出して

いくということ。それからいつも福祉

サービスを受けるだけではなくて、当

事者の人でもいろんなことができると

いうことを私たちは長い付き合いの中

から感じ取っておりましたので、そう

いうことが生かされる何かしようと。

たまたま料理の好きな人が集まってい

た関係で、家庭料理を作って地域の食

事作りに不自由な人たちに宅配しよう

と。それから小さなお店も作ろうとい

うことで始まりました。

今日の炭谷先生のお話にもありまし

たけれども、大手企業が大量に機械で

作るのではなくて、普通の家庭料理を

出すということを大事にして、そこを

きちんとコンセプトの中心に置いて今

でもやっております。最初は 30 食か

らスタートした食事作りも、現在、平

均毎日 240 食ほど作れるようになっ

てきました。

それから1995 年に豊島区が精神

障害者の方たちの働く場ということ

で、区の建物のなかに喫茶店の場を提

供してくださって、スタートいたしまし

た。区内の作業所が 3 所共同で運営

しました。今考えると豊島区は先駆的

だったと思います。それはなぜかと言

うと、作業所のような補助金の出し方

ではなく、そこは作業所ではなくて働

く場、事業所ですということで最初か

ら始まりました。

最初は 400 万円くらいのお金を区

が出してくださったんですが、年々減

らしていくというやり方で、その事業

が発展していくようにとお金をつけて

くれるようになりました。

私たちはその頃、ソーシャル・ファー

ムなんてことはもちろん知りませんで

したし、自治体の考え方がその頃先駆

的だということも、全く気づきません

でしたけれども、今考えると、とても

ソーシャル・ファームの理念にかなっ

たお金の出し方をしてくれているなと

思っています。

こちらの喫茶店の名前は「カフェふ

れあい」と申しまして、豊島区の区庁

舎のすぐ近くにあります。コーヒーが

お好きな方はご存じだと思いますが、

南千住にありますバッハの豆を使わせ

ていただいて、開店当初はバッハから

スタッフの人を店長として3年間派遣

していただき、その方に技術指導をし

ていただいて、今に至っています。

現在、弁当のところと「カフェふれ

あい」と合わせて障害者自立支援法の

A型事業としております。

スタッフ構成ですが、A型の精神障

害者当事者の登録者は 20 名です。そ

の他に子育て中のスタッフ 1 名、身体

疾患の方 1 名、高齢者の方 2 名、ご

家族 2 名、それから精神障害以外の

障害をお持ちの方 1 名、その他の今

健康な方が私たち含めて8名います。

これは常勤・非常勤を合わせてのスタッ

フの数です。

最初は精神障害者の方を中心にして

作った働く場だったんですが、だんだ

ん、今働きたいけど働けないという状

況の方が集まってきました。

こういう中で、障害者の方たちに訓

練をして事業のお仕事に合わせて働い

てもらうのではなくて、その方たちが

お仕事そのものに生き甲斐が感じられ

るような、生きがいを持ってもらえる

ような職場にしないと売上は上がらな

いということをつくづく感じるように

なりました。

幾つかの取り組みを紹介させていた

だきました。若手のスタッフが試行錯

誤しながら、当事者の方も労働者とし

て主体的に働くということにチャレンジ

してくれております。マネージャー制度

というのを導入し、みんなで経営的な

ことも話し合って決めていく。それを実

行していくこともやってきています。

おかげさまで平成 21 年 4 月から 9

続く

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国際シンポジウム ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携 報告書 7978

第2部 パネルディスカッション

月までの半期分の売り上げは、お弁当

と「カフェふれあい」の売り上げすべて

含めて 2,265 万 2,260 円という数

字が出ました。これは昨年の売り上げ

の13%アップです。公的な補助金は

41%で、そもそもの事業の売り上げが

59%になりました。これをさらにアッ

プさせて、就労継続支援A型事業所か

ら、ソーシャル・ファームの理念を踏襲

しながら、労働者が主体的に働きビジ

ネス展開していける事業所へ発展させ

ていきたいと思っています。以上です。

寺島:どうもありがとうございました。

三番目は様々なマスコミでも報道され

ています日本理化学工業株式会社の

大山会長様にお忙しい中、来ていただ

きました。ぜひこれまで行われてきた

ことをお話ししていただければと思っ

ています。

大山:大変もったいないご紹介をいた

だきました。確かにマスコミ等にも取

り上げられておりますけれども、昭和

12 年に設立されたちっぽけなチョー

クの会社です。昭和 34 年(1959 年)

に、私は初めて知的障害者と関わりを

持ち、それがきっかけで障害者が多数

働く企業の道に入りました。

全国にチョーク工場はたくさんあり

ますけれども、日本理化学工業は、一

番最後にできたメーカーです。従業員

74 人のうち 55 人が知的障害者です。

5 割強が重度の IQ50 以下の方たち

です。それでいて、チョークの業界で、

品質とわずかの差ではありますけれど

も生産数量からいっても、32%を占

めるトップメーカーになっています。こ

れは日本理化学工業の経営がちゃんと

しているからというよりも、むしろ 4

分の 3 近い知的障害者が一生懸命に

働き、それだけの能力を発揮してくれ

ているからではないかと思っています。

では、日本理化学工業がなぜ知的

障害者を大勢雇用するようになったか

をお話したいと思います。たまたま昭

和 34 年に青鳥養護学校、知的障害

者を養育する学校の先生が飛び込み

で就職のお願いに来られ、しかも何回

も来られました。最後に、就職のお願

いはしないから、せめてこれだけお願

いしたいと言われたのが、働く経験を

与えてほしいということでした。当時

は知的障害者のための高等部がない

頃でしたから、15 歳で卒業して就職

できないと、施設に入ってしまう。施

設に入ったら、一生働くことを知らず

にこの世を終えてしまうので、せめて

働く経験だけでもさせてやってくれま

せんかと。この言葉に、ちょっとぐら

いお手伝いしなければいけないかなと

思ったのです。その実習で一生懸命働

く姿を見て、2人ならということで就

職させた。それが始まりでした。

その後、従業員の 4 分の 3 を占め

るほど障害者を多数雇用するのには、

もう一つきっかけがありました。

ある法事の席で、私はご住職にこう

言いました。「ご住職、うちの会社に

は字の読めない、算数もちゃんとでき

ない重度の障害を持つ人たちが何名も

いるんです。そういう人たちは字も読

めないんだから、施設で大事に面倒を

みられたほうがずっと幸せだと思うの

に、なぜ毎日働きに来るのか不思議で

すよ」と。それに対してご住職が、おっ

しゃいました。「大山さん、人間の幸

せっていうのは大事にされることじゃ

ないんですよ。愛されること、褒めら

れること、役に立つこと、必要とされ

ることなんです」と。「企業であればこ

そ、今日も頑張ってくれてありがとう、

たくさんできて助かったよ、こういう

言葉をかけるでしょう。福祉施設が人

間を幸せにするのではなく、企業が人

間を幸せにするんですよ」と。この言

葉から、日本理化学工業は、一人でも

多くの障害者を雇用する会社を目指す

ことになったのです。

障害者雇用に関する助成金制度が

1977 年からできたはずですが、その

4 年前の1973 年、労働省は、障害

者雇用を進めなくてはいけないという

ことで、重度障害者を多数雇用するモ

デル工場への融資制度を作りました。

それは全従業員のうち障害者を 50%

雇用すること、かつそのうちの半数は

IQ50 以下の重度の知的障害者とす

る。こういう条件で工場をつくるなら、

国が金利 4.6%で全額融資するという

制度でした。たまたま知的障害者のモ

デル工場の申請がなかなか上がってこ

なかったので、うちに声がかかり、川

崎のモデル工場となったのです。

それからもう 35 年がたちました。

20 年で償還ということですから、当

時借りた1 億 2,800 万円は返済して

います。最低賃金を履行しての返済で

すから、障害者を雇用しつつも企業

として成り立てることが実証できたと

思っています。

実際にどうしてきたかと言いますと、

知的障害者の理解力に合わせた。これ

までのやり方を、ただ教えて、覚えさ

せながら作業をさせるのではなく、そ

の人たちの理解力に合わせた作業を考

えました。

例えば、時計が理解できない人には、

スイッチのそばに砂時計をおきました。

スイッチを入れたら砂時計をひっくり

返して、上の砂が全部下に落ちたら止

めるんだよと。こうすれば砂時計が正

確な時間を示してくれますから時間ど

おりの作業になりますでしょう。

まして、これだけのパーセントです

と生産ラインはほとんど障害者です。

例えばチョークの配合という材料の計

量も彼らです。でも袋に印刷してある

材料の字が読めない。目盛りの理解

ができない。どうしたかというと、材

料を一回り大きな缶に入れ、その缶を

赤く塗りました。赤い缶から出した材

料を測るためには、同じ赤い色のおも

りを用意しました。赤い缶から出した

ら、赤いおもりを載せる。1、2、3、

4 と数えて秤の針が真ん中で止まった

ら下ろすんだよと。こうしますと、そ

の通りにやってくれます。できるように

なると、むしろ集中して一生懸命やっ

てくれます。集中してやれば生産性も

上がります。ですから、何とか企業経

営もできましたし、しかも栄養剤に使

うカルシウムの粉を利用していますの

で、そういう品質面でもトップメーカー

です。まさに企業でも実証できるとい

うことを世に示すことができました。

重度の障害者でもこのように企業の

やりようで働けるなら、既存の中小企

業、特に小企業をもっと活用したらど

うかと思います。

例えば、もし施設で障害者の面倒

を 20 歳から 60 歳までみるとした

ら、1人 2 億円かかると聞いています。

40 年で 2 億円なら年間 500 万円で

すよね。500 万円かけて生活のケア

をするのなら、そのお金を企業で活用

したらよいのではないかと思います。

障害者には最低賃金の150 万円を支

払えば自立ができる。国は 350 万円

助かるし、国が賃金を負担してくれる

なら、企業も経営を強化できる。障害

者も最低賃金をもらえれば、役に立つ

幸せを叶えながらグループホームで月

6 ~7 万円払って自立できますでしょ

う。ましてやお父さんやお母さんだっ

て、子どもたちがグループホームでケ

アをされながら、働く場ができれば安

心ですものね。世間で言う、江戸時代

にもよく言われた、四方よしになる。

このような四方よしのソーシャル・

ファームが、中小企業の活用で新たに

展開することを提案して、私の発表は

終わります。

寺島:どうもありがとうございました。

それでは、議論に入る前に、会場からい

ただいた質問の中で明らかにしておきた

い点について説明させていただきます。

ソーシャル・ファームやソーシャル・

エンタープライズの概念については先

ほどの話にもありましたが、ソーシャ

ル・ファームがなぜ必要なのか、なぜ

そういう概念が出てきたのか、それに

はいろいろな理由があります。

ソーシャル・ファームの定義は今の

続く

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国際シンポジウム ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携 報告書 8180

第2部 パネルディスカッション

場合、月額 5 万円の調整金を徴収し、

それを多数雇用の事業者には例えば 2

万 7,000 円、4 万 5,000 円を支 払

う形になっています。

そういった日本の制度をご説明した

後で、ソーシャル・ファームと呼ばれ

るところを訪問していただいたのです

が、みなさんにその感想をお聞きした

いと思います。

レイノルズ:少なくとも 6 つのソーシャ

ル・エンタープライズを訪問させてい

ただきました。

イギリスのソーシャル・ファームに近

いと思ったのは大阪近くの豊能障害者

労働センターです。この組織はとても

すばらしいと思いました。最初は国か

ら助成をもらわないで始めたというこ

とでした。つまりこの会社ではソーシャ

ル・ファームの原則にのっとって運営し

ていきたいと考えたからだと説明を受

けました。少なくともスタッフの 30%

が障害を持った人とすると、ソーシャ

ル・ファームヨーロッパのソーシャル・

ファームの定義とも合致します。会社

経営にも障害者が参加されています。

雇用保険だけではなく、労災も支

払っています。ビジネスとして運営し、

障害を持っている人の能力を向上させ

ることが求められています。これが箕

面市から援助を受けるための条件だと

伺いました。売り上げが 9,000 万円、

そして 4,900 万円を箕面市から助成

されていると伺いました。

おそらく多くの方 が ソーシャル・

ファームがうまくいくために必要なこ

ところ、各国で違っているというのが

シュワルツさんのお話の中でおわかり

になったと思います。この会場の了解

としては、イギリスのように社会的企

業全体がソーシャル・エンタープライ

ズで、その一部がソーシャル・ファー

ムだとしておきたいと思います。もと

もと社会的企業は、広く社会的な目的

を持つ企業を指しますが、ソーシャル・

ファームは福祉的領域での取り組みで

す。そういったことを前提としてお話

しさせていただきます。

実はこのシンポジウムの前に、外国

から来られた講演者とパービスさん

と一緒に日本のソーシャル・ファーム

のスタディーツアーをさせていただき

ました。特に関西地方のソーシャル・

ファームと呼べるような施設や機関を

訪問させていただきました。

日本にはご存じのように、障害者関

係で言うと障害者自立支援法と障害者

雇用促進法という 2 つの法律がありま

す。障害者自立支援法の中では、就労

継続支援 A 型、B 型という、いわゆ

るこれまでの話に出てきた保護工場、

シェルタード・ワークショップに相当す

るものです。さらに就労移行事業。か

つて福祉工場と呼ばれていたものがあ

ります。さらに障害者雇用促進法の中

に特例子会社というのがあって、さら

に一般企業で雇用されている障害者の

方がおられ、連続性を持たせていると

いうのが日本の制度になっています。

一般企業の場合1.8%が法定雇用

率ということで、雇用率を満たさない

とについて経験からご存じだと思いま

す。日本の制度の中で、ビジネスとし

ても成功する、質の高い製品を提供し、

なおかつ、人々をエンパワーする。そ

ういうことをやってこられているので

はないかと思います。このようなグッ

ドプラクティスをいろんな方々と共有

していただき、例えば箕面で行われて

いることが他の都市でも行われるよう

に、頑張っていただきたいと思います。

既に日本では学ぶべきグットプラクティ

スが実際に行わ れていると思いました。

寺島:どうもありがとうございました。

ご紹介いただいた箕面市の豊能障害

者労働センターから新居さんがいらし

てます。追加で説明いただけますか?

新居:貴重なお時間をいただきまし

て、ありがとうございます。私たちは、

82 年に 24 時間介護が必要な重度の

方 2 名と、4 名の健常者が助成金も

ないところから始めました。その後の

展開としては、障害を持っている当事

者が仕事を興して健常者と一緒に事業

をしていく、そういうあり方を作って

ほしいというふうに箕面市と交渉を重

ねて、独自の事業を作っていきました。

障害者独自の事業性ということでは、

例えば私が着ているこのTシャツは、

重度脳性マヒの現代表が描いたものを

デザイン化して作ったTシャツです。

市民に支えられながら、ビジネスの

宣伝と社会性の宣伝というのを重要な

キーワードとしています。通信販売を

一つの事業にし、こういったオリジナ

ルグッズを開発して全国の方に販売し

ています。

一方で箕面市の制度を一緒に作った

一つの成果に助成要綱があります。助

成の条件として、一つは重度障害者の

雇用割合が 30%以上、二つ目は、経

営機関に障害者自身が参加している。

一緒に起業をしていくという意味です。

三つ目が労働保険等です。労働行政の

適用事業所である。四つ目が事業所と

しての経営努力がきっちりされている

ということで、ここがポイントだと思

います。五番目として、いろんな職種

を開拓して、社会的に明示していく。

六つ目は、障害者問題、人権問題を事

業を通じて地域に啓発していく。最後

は箕面市と連携してやっていくと。そ

ういう制度を作っています。

今 現 在、9,000 万円ほどの売 上と

5,000 万弱の箕面市からの助成金を柱

に活動しています。先ほどのフィンラン

ドの話と非常に通じるところがあると

思ったんですが、重度障害者の支払い

給料の4分の3を助成する制度です。一

方で、運営費の多くを事業収益で稼ぎ

出していくというモデルになっています。

そういった形で当事者の主体性と市

民と連携する社会性、それから自発性

を失わない形での公的助成がポイント

だと思います。今、うちの市長が国の

制度にできないかということで国にも

働きかけていますので、ご関心のある

方はぜひホームページをご覧ください。

寺島:どうもありがとうございました。

リンドグレーンさん、ペテルセンさん、

バランカさん、シュワルツさん、パー

ビスさんの順でお願いします。

リンドグレーン:私にとって、徳島県の

「クラブノアむぎ」がとても印象に残り

ました。スウェーデンと似ているとこ

ろがあると思いました。まさにアイディ

アのたまものだと思いました。

過疎化していた小さな漁村でした

が、この団体が雇用創出して若い人た

ちが戻ってきていました。ダイビング

センターがあり、今では日本からだけ

ではなく、海外のダイバーが来ている

そうです。例えば海の中の郵便ポスト

など非常にいいアイディアを持ってい

ました。いわゆるスマートビジネスと

して人気を博しているそうです。水族

館も運営していますし、あるいは学校

に出かけていって子どもたちに水族館

について説明をすることもあると伺い

ました。実際に雇用が生まれていまし

たし、珊瑚礁でダイビングをするなど、

何かプラスアルファのことをやってお

り、大きな可能性があると思いました。

このような過疎のコミュニティが忘

れ去られて少しずつ衰退していくのは

とても悲しいことだと思います。活性

化のためには、やはり新しい発想が必

要だと思います。例えば観光産業を掘

り起こし、日本や近隣諸国からの観光

客を呼び寄せるのも一つの可能性だと

思います。「クラブノアむぎ」では、さ

まざまな活動をされており、それをたっ

た一人のアイディアからどうやって広げ

ることができたのかと感動しました、

ペテルセン:6つのすばらしいソーシャ

ル・エンタープライズを訪問して、い

くつか気づいた点をお話します。

観光業に特化している「クラブノアむ

ぎ」は、ビジネス的な考え方が優れて

いたと思います。デンマークから学べ

ることもあるのではないかなと思いま

す。社会的なミッションとビジネスを組

続く

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国際シンポジウム ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携 報告書 8382

第2部 パネルディスカッション

み合わせるときに、ビジネスの側面と

いうのはどうしても下位に置かれ、社

会的な側面が重要視されがちですが、

この二つがうまく融合されていました。

見学したすべてのソーシャル・エンター

プライズでも、この二つのコンセプト

の統合がよく理解されていたと思いま

すし、これがとても重要だと思います。

もう一点は、ソーシャル・エンター

プライズが民間企業にどれぐらい認識

されているのかということです。私た

ちが訪問しましたソーシャル・エンター

プライズは、民間企業とあまり連携し

ていないように思いました。 もちろ

ん、あるところは連携しているとおっ

しゃっていましたが、 より連携モデル

を強めていく必要があると思います。

つまりソーシャル・エンタープライズ

から一般企業に対して、何らかの知識

や経験を伝える。もしかするとソーシャ

ル・エンタープライズからヒントを得

て、商品の開発ができたり、あるいは

今まで考えていなかったビジネスが始

まるかもしれません。ビジネスの代表

をソーシャル・エンタープライズに招

くというのも一つの考え方ではないか

と思います。

またソーシャル・エンタープライズ、

ソーシャル・ファームにはいろいろな課

題がありますので、ネットワークをつく

り、同じような経験を持つ人たちと話

すことが重要な意味を持つと思います。

バランカ:私からは三つコメントがあり

ます。

箕面市の豊能障害者労働センターは

り怒っておられました。というのは、

政府が今、生活保護に大量の資金を

投入している。そして医療保険に大量

のお金が使われている。しかしその

他の支援に対してはほとんどお金が割

かれていないとおっしゃっていました。

もし政府がこのお金をもっと雇用創出

に向けたなら、つまり、働きたいが働

くところがない人たちのために使うの

であれば、大きな違いがもたらされる

とおっしゃいました。

ここにいらっしゃる方は、仕事が社

会的に大きな役割を果たし得るという

こと、ソーシャル・ファームがそういっ

た中で大きな役割を果たし得るとい

うことをご存じだと思います。そして、

政府はもっと円滑化を図れるような環

境作りができるのだと。例えば宮嶋さ

んの組織において利益を再投資でき

ないのはおかしな話だと思います。

ですから健全な法的構造が必要だと

思います。このような活動を進めてい

らっしゃる皆さんがもっと積極的にネッ

トワーク組織を作り、お互いにサポー

トできればいいのではないでしょうか。

私はいろいろな NPO の方々とお付

き合いをさせていただいていますが、

そういった中で日本では、強力な中間

組織が存在しないために問題があると

思います。中間組織なくしてサポート

を提供できればいいとは思いますが、

今現在、あまり政府に対する発言権が

ないと思います。ですから、セクター

の調査をして現状がどうなっているの

かデータを理解し、国際交流を進め、

まずはそのような情報に基づいて政

府、そして日本社会を相手にアドボカ

シーを進めることが求められています。

そのためには、皆さん、当事者の

方々、このセクターで活躍されている

皆さん方の支援が必要です。それが私

からの将来に向けての提言です。

寺島:皆様、どうもありがとうござい

ました。私たちも真摯に受け止めて、

今後に生かしていきたいと思います。

会場からいくつかの質問がきています。

「保護雇用ではなく、ソーシャル・

ファームでないとどうしてダメなので

すか?」「助成金はどのようにあるべき

ですか?」「ソーシャル・ファームと従

来からの福祉施設との違いは何です

か?」「ソーシャル・ファームについて

国民の方はどう思っておられるのです

か?」などです。

大きくわけて 2 つの質問に分類で

きます。なぜ福祉施設からソーシャ

ル・ファームなのか、そして国民はど

のように考えているかということです。

特に北欧の国々は福祉国家で、そも

そも福祉国家の基本は労働政策なの

で、働けない人が多くいるとも思えな

かった。なぜ福祉がダメでソーシャル・

ファームなのか。それから、国民はど

んなふうに考えているのか。この二つ

について、もう一度少しお話ししてい

ただけますでしょうか。

レイノルズさんには、特徴的なイギ

リスのソーシャル・ファームについても

う少しお話を聞かせていただきたいと

思います。基本的に補助金は全く入っ

ていない。他の国では例えば優先的

に融資を行う、あるいはソーシャル・

ファームであるということを社会に示

すという形で補助金がありますが、イ

ギリスにはありません。では、レイノ

ルズさんからお願いいたします。

レイノルズ:私は訪日直前にイギリス

の新聞で批判されました。「レンプロ

フィンランドのワークアクティビティセ

ンターに似ていると思いました。計画

も、事業所の管理も、場所は狭いで

すがとてもすばらしいと思います。自

治体の助成要綱において、障害者が経

営に参加していなければならないと定

めたのはとてもいい考えだと思います。

“Nothing About Us Without Us”

(私たちのことを、私たち抜きに決め

ないで)という精神を生かしていらっ

しゃると思いました。

先ほども質問がありましたが、い

わゆるソーシャル・エンタープライズ

の経営者を支えるためのネットワーク

はどのくらいあるのでしょうか。フィ

ンランドではピアグループのサポート

ネットワークがとても重要です。私た

ちは今、新しい、革新的なことをしよ

うとしているのですから、知識と情報

が必要ですが、そういうものを十分生

かしきれていないのではないかと思い

ます。例えば組織の連絡先などがわか

れば大きなネットワークを作ることが

できると思います。

多くの障害者が楽しく働いていると

ころを見学させいただきました。大き

な施設の客室で、障害者の方々が専

門的な仕事をしているのを拝見しまし

た。支援付き雇用のようでしたが、一

般のホテルでも 訓練を受ければ働くこ

とができると思います。同じ仕事です

が、福祉施設ではなく市場でも、その

ようなモデルを活用していくことがで

きるのではないでしょうか。

既に何度も言われていますが、私た

ちは何らかの社会貢献をしたいと思っ

ています。多くの国々で問題となって

いるホームレスの人たちに対するサー

ビスというのはどうでしょうか。まず

声をかける、彼らに安心感を与え、個

人的な支援をし、清潔な服を着て就

職活動もできるようにつなげていくこ

と。これも貴重な取り組みではないか

なと思いました。

ただ、最も言いたかったことは、私

たちがエキスパートとして皆さんに教

えるというよりは、日本から学ぶこと

も多いということです。

シュワルツ:まず多様性ということに大

変感銘を受けました。興味深いアイディ

アが活用され、いろいろなモデルがあ

り、いろいろな問題に対処しています。

私自身、多くを学んだと思います。

日本には 28 もの関連する法律があ

り、たくさんの規制があるということ

で非常にわかりづらいと思います。ど

ういうサポートが使えるのかについて

も、非常に複雑だと思いました。しか

し、いずれにしてもこんなに多くのこ

とが実現されようとしているわけです

から、すばらしいと思いました。

また、お互いに学びあい、団体間で

サポートし合うネットワークがあれば

もっといいのではないかと思います。

バービス:今回、様々な組織を見学さ

せていただき、本当によかったと思っ

ています。

一つ私がよく覚えているのは、釜ヶ

崎です。NPO 釜ヶ崎の代表は 30 年

間もこの仕事をされていました。かな

続く

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国際シンポジウム ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携 報告書 8584

第2部 パネルディスカッション

イ社の事業所はすべて閉鎖されるべき

だ。7,700 万ポンドも毎年かかってい

るが、年間わずか 5,000 人しか雇っ

ていない。40 年間、その施設から他

の仕事へと移った人はいない」と発言

したためです。

いかにソーシャル・ファームがより

持続可能な解決策になり得るかとい

うことを申し上げたいと思っています。

レンプロイ社の例は、支援付き雇用

で、国から大量のお金が投入されてい

ます。私が批判したのは、ゲットーの

ようなものだからです。健常者によっ

て運営されていますし、私たちにとっ

てはもはや健全な労働とは言えないで

すし、インテグレーションを目指す社

会にはもはやふさわしくないからです。

また、私はこのような支援付き一

般就労(supported businesses)を

ソーシャル・ファームに変えることが

できると話しています。私たちのメン

バーのうち6社は支援付き雇用事業所

でもあり、 ソーシャル・ファームでもあ

りましたが、5 年前に、よりビジネス

志向へと転身しあまり助成金に頼らな

いという大きな変革を遂げました。 し

かし、イギリスにはまだ 150 以上の

支援付き雇用事業所があり、ビジネス

志向にはなっていません。そのような

ところは早く閉鎖し、その資金をもっ

と持続可能なビジネス的アプローチ、

例えばソーシャル・ファームに充てて

ほしいと思います。

シェルタード・ワーク(授産施設)は

ビジネス的アプローチではありません。

シェルタード・ワークには「ワーク」と

いう言葉が入っていますが、 誤解を招き

ます。給与が支払われておりません。意

味のあるセラピーであり、作業療法です。

しかし、こういった授産施設そのも

のをなくしてはいけないと思います。

あたかも職場のように聞こえますので

名称は変えてほしいのですが、しかし、

仕事ができない人たち、重度の障害の

ある人たちは、社会の一員としての自

分の場、自らの自尊心を育むための場

が必要です。しかしながら給与を支払

うとか競争のある市場に投入すること

はできません。

ソーシャル・ファームは今現在、政

府のサポートがない状況でも成長して

います。今後も成長を続けるでしょう

が、もう少しソーシャル・ファームの成

長をさらに促進するための支援が欲し

いと思います。

リンドグレーン:スウェーデンは福祉国

家ですが、他のヨーロッパの国々と同

じく常に高い失業率と債務を抱えてい

ます。郊外に住む若者は、将来に対す

る希望がありません。したがって彼ら

のために仕事を作らなければなりませ

ん。例えば両親が失業している家庭に

育った子どもが非常に多い中、これは

失業者の第二世代と言えるでしょう。

社会に対し、また、政府を助ける意味

でも、ソーシャル・ファームが新規雇

用につながるということを見せる必要

があるでしょう。

ソーシャル・ファーム、ソーシャル・

エンタープライズが雇用を創出するた

めに不可欠な存在となっています。障

害の種類にかかわらず、またどのよう

な形で排除されているにせよ、働く機

会を提供することが周辺の人々に対し

よいお手本になり得ると思います。次

の世代にこういった機会を継承するた

めにもソーシャル・ファームは必要です。

ペテルセン:果たして私たちの国がまだ

福祉国家であるのか、私自身もはっき

りしません。私たちの福祉に対する期

待が高く、働くことによってお金を稼ご

うという意欲が少ないことは確かです。

スウェーデン、ノルウェー、デンマー

クを見てみましょう。例えば福祉国家を

作った場合、合理性を追求するあまり、

非合理的になります。制度のための制

度になってしまいます。その結果どう

なるか。本来であればいろいろな困難

を持った人を助けるはずの制度ですが、

個々のニーズを見失ってしまいます。

また、福祉国家は非常にコストがか

かるため、継続できなくなります。施

設を中心にした政策ではあまりにもお

金がかかり、この金融危機では負担し

きれなくなっています。

また、北欧の福祉国家は連帯感を

人々から奪ってしまいます。これは政

治的な意味ではありません。例えばデ

ンマークのすべての女性は働いていま

す。子どもたちは幼稚園あるいは保育

園に行っています。高齢になりますと

高齢者施設に入ります。したがって家

族というのは一緒にいるべきものだと

いうのを忘れてしまっているわけです。

デンマークの制度について、最初は

疑問を持たなかったわけですけれど

も、結果としてこのようになってしま

いました。ソーシャル・エンタープラ

イズにしても、今までの福祉国家にか

わるものとしてではなく、それを補完

するものとして必要になっています。

福祉国家だけでは今の課題に対応で

きなくなっていることを示しています。

中間組織が必要であるというお話が

出ましたけれども、私からのアドバイス

としては、それはすべての人が参加して

活動することができる実践的組織でな

くてはならないということです。公的セ

クター、民間、第三セクター、市民社

会等も含めたすべてのセクターが含まれ

るものでなければならないと思います。

バランカ:なぜソーシャル・ファームがフィ

ンランドで必要なのか。フィンランドの

人は何を考えているのか、そして、授産

施設についてお話をしたいと思います。

フィンランドには、法定雇用率はあ

りません。障害者は障害を持っている

労働力と登録されたくないのです。こ

れは政治的にも拒否されてきたことで

す。もちろん、政府は、雇用主に対し

て障害のある人を雇用するようにと推

奨しており、そのモデルの一つがソー

シャル・ファームです。

フィンランドでは、国レベルでも自

治体レベルでも税金が高い。それに

よって、社会から援助が必要な人を助

けてきたわけです。

そ の 背景 があって、フィンランド

政府は、ソーシャル・ファームについ

ての法律を作りました。ソーシャル・

ファームでは、様々な就労機会が与え

られ、独自の収入によって支出を賄う

ことが基本です。商業的に市場で競争

する企業でもあります。ただ、ソーシャ

ル・ファームが障害者を雇うための公

的補助金があります。他の企業が雇わ

ないわけですから。

フィンランドには、授産施設があり、

また雇用就労機会を提供する、商業

的にも非常に活発な企業と言います

か、シェルタード・エンプロイメント

というのがあります。これは、ソーシャ

ル・ファームへの発展段階の一つと見

るべきだと思っています。

またフィンランドは通常の賃金を労

働者に払う伝統的な支援付きの雇用

があります。この10 年くらいは、授

産施設で提供するリハビリテーション

あるいは職業訓練に注目が集まってい

ます。また賃金を払う雇用を創出して

います。しかしどの分野でも非常にい

い仕事をしているかというと、そうで

はありません。

職業訓練、リハビリテーション、そし

て賃金を払う雇用とありますが、今は、

真の雇用を提供するという意味でソー

シャル・ファームが重要になっています。

シュワルツ:ソーシャル・ファームに関

連した仕事を続けてきましたが、ソー

シャル・ファームの状況はかなり変わっ

てきたと思います。ドイツではいろい

ろなモデルがあり、授産施設とソーシャ

ル・ファームの両者の線引きが難しく

なってきています。ソーシャル・ファー

ムの価値というものがきちんと共有さ

れていても、法律的には授産施設とな

るかもしれません。例えば授産施設が

子会社を作って市場で競争をしていく

なかで、一般の人たちのために雇用を

創出する。このように社内で様々な人

に様々なチャンスを提供できるような

システムを内包しているなど、ソーシャ

ル・ファームと授産施設の区分けが不

明確になってきています。民間企業で

続く

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国際シンポジウム ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携 報告書 8786

第2部 パネルディスカッション

ソーシャル・ファームだと言っていると

ころもあります。

ですから、我々としては、実際に働

いている人たちが何をしているのかが

一番重要なことだと思います。質問が

出てきたのも、日本にも様々な形の

ソーシャル・ファームと言うべきもの

があるからではないでしょうか。

また、残念ながら、ドイツでは一般

の人はソーシャル・ファームについてよ

くわかっていません。状況は変わって

きていますけれども、もっと知らせる

努力が必要だと思います。ソーシャル・

ファームの製品だから買うという人は

ほとんどいません。けれどもソーシャ

ル・ファームがいい製品を安く作れば

買ってくれます。ソーシャル・ファーム

がやるべきことは、製品等をもっと宣

伝し、品質の最低基準を設け、販売促

進していくことだと思います。

寺島:「ソーシャル・ファームに受け入

れられる障害のある方の資質や条件

はありますか?」 という質問がありま

す。では宮嶋先生、お願いします。

宮嶋:うちは、どんな人でも来てみた

いと連絡があったら断らないことにし

ています。これは大変なことなんです。

普通、福祉の世界で働いてきた方から

言わせるととんでもないことだという

ことになってしまうんです。なぜかと

いうと、それぞれの人がいろんな障害

なり問題を持っています。だけれども、

ひっくり返してみれば、それぞれ違っ

た可能性を持っていますよということ

です。僕らは、都会ではなく農村で生

活するスタイルをとっています。という

ことは、社会の中にあるほとんどの仕

事はやらなきゃいけないわけです。そ

の中で誰がどの仕事に合っているか、

僕らにはわからないんです。わからな

いけど見つけなきゃいけない。

僕は、ある時、発見したんです。こう

やったら本人の中に隠れている可能性

が出てくるよと。そしてその可能性を本

人と周りが見つけたら、その問題はだ

んだん小さくなっていくということです。

見つけ方は、朝食の後に「君、何を

やるの?」と聞くんです。その前提は、

僕らは動物を持っていて、やる仕事は

いっぱいあります。その中で本人に「君、

何をやるの?」と聞くんです。「休みた

い」と言えば休めるんです。そうする

と、意外と、今までああしなきゃいけ

ないと思っていた人が、戸惑いながら

「これやります」と言うんです。もちろ

ん見当違いのこともあるんですが、そ

れをやらせる。失敗をする。その中か

ら本人が可能性を見つけてくるんです。

それを組み合わせて、一つの生産ライ

ンを作ったんです。

そこでできたのが「さくら」という

チーズです。ヨーロッパに持っていっ

たら、ヨーロッパのオリンピックで金

メダル。グランプリをとっちゃったんで

す。なぜかと言ったら、それはゆっくり、

みんなを生かそうと思って作ってきた

生産ラインで、食べ物という生き物の

命を持っているものを加工していくわ

けですから。みんなが作ったものを傷

めないように環境を整えるわけです。

炭や微生物を使って化学物質は使わな

いで環境を整えていく。牛もつながな

いでリラックスさせる。牛のにおいと

ハエがあるとその近くでチーズは作れ

ないから、においとハエが出ないよう

なシステムを考えて木造にしたんです。

そうやってチーズを作る一番いい方

法をみんなでアイディアを出しながら

つくっていったら、チーズもおいしく

なって、ヨーロッパでグランプリをい

ただいちゃったんです。

でも、ふりかえってみると、牛のにお

いとハエをなくそうと考えていった環境

そのものが、非常に負担を抱えている

人たちの生活環境に必要だったんです。

これはほとんど社会システムの話です。

でも、もっと1 人の人間の「生きる

こと」そのものにポイントをもっていっ

たら、もっともっと隠された可能性が

出てくると思うんですよね。

僕らは日本の社会のシステムにほと

んど依存できずに、依存しないできて

しまった。善良な人たちの寄付に頼っ

ていたわけです。でも、僕自身はそれ

にも頼るのは嫌だった。依存心を持つ

のが嫌だったわけです。だから寄付を

もらいながら、いかに個人を生かすか。

自分が持っている土地と個人を生かす

か。それでできるというのが僕の感覚

なんです。

でもその人たちが使う土地、生活す

る寮を建てるまでのお金は、自分たち

で稼ぎ出せるかといったらとてもじゃ

ないができない。その部分だけ何とか

支援していただければと思ったんです。

そしたら、農業支援にはお金を出す

んです、福祉じゃないですよ。農業で

就農をする人のための寮、研修する人

たちの寮を建てるということで、ポン

と補助金が出て建っちゃったんです。

実習生は僕らより全然いいところに住

んでいます。

社会的システムは必要だし、それが

ないと僕らがこれから先困ると思うけ

ど、まず個人をどう生かすかということ

を考えて、そこからシステムを考えた方

がいいんじゃないかなと思うんですね。

うちはずっと働いています。朝4時半

から8時くらいまで働いています。ただ

し自分が働きたい時間に働いている。

うちの娘がフィンランドのシュタイ

ナーのラハスというところで、シンギ

ングセラピーやアートセラピーを勉強

してきたんです。水曜日の午前中は仕

事をしなくてもそこに行くならOKと

言っているんです。そうしたら障害を

持っている人も、全然持っていなくて

仕事をバリバリできる人も行くんです。

仕事がバリバリできるようでいて、昔

の何かのトラウマがあるんです。同じ

なんですよ。

本当に目に見える障害のあるなしに

かかわらず、同じ立場でみんなができ

ることをして、協力をしよう、その方

が儲かりまっせって話になるんですよ。

そこが見つけられると、これから可

能性が広がるのではないかなと思って

います。

寺島:「 研修事業についてもう少し詳

しく教えてください」とレイノルズさ

んに質問がきています。発表の中でも

2006 年以降最も増加した事業として

研修を挙げていましたけれども、それ

についてどんな人がどのようなルートを

経て研修を受けられるのか、どんな内

容、方法、期間なのか、研修後の進路

はどうなのか、研修修了者への扱いや

研修生への補助はどうなっているか、な

どです。

レイノルズ:研修事業ですが、ビジネ

スとして他の組織に研修を行っていま

す。ソーシャル・ファームの中で人を

育てるということではありません。

研修そのものが彼らの売るべき製品

で、市場に機会があります。クライア

ントがイギリスにおける障害者の差別

禁止に関わる法律に準拠するための研

修を実施しているのです。というのも、

2006 年、イギリスでは、法律によっ

て企業や教育施設が障害者へのアクセ

シビリティに完全に配慮しなければな

らないと定められました。それ以来、

このような研修分野のサービスは増加

しています。まさにソーシャル・ファー

ムの意義に即しているサービスである

ということが増加の理由です。

さて、ソーシャル・ファームが採用す

る場合、ビジネスですので、一番重要

なのは仕事をする能力です。障害があ

ろうとなかろうと、関係ないわけです。

ソーシャル・ファームというのは、も

ちろんボランティアの側面もあります。

かなり重度の障害を持っている人も、障

害のある研修生もいますが、しかしな

がら仕事の内容にそった能力がある人を

雇うわけです。その仕事ができないとい

うことであれば、その仕事には就けませ

ん。それがビジネスとしての成功を期す

基本だと思います。結局は、障害があっ

てもなくてもその仕事をする資質がある

かどうかということだと思います。

寺島:ネットワークの構築について質

問がありましたのでシュワルツさんか

続く

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国際シンポジウム ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携 報告書 8988

第2部 パネルディスカッション

ら国際的な協力を含めてご説明をいた

だけますか?

シュワルツ:EU で の 欧 州 委 員 会

(European Commision) はソーシャ

ル・ファームや 社会的協同組合の考え

方に興味のある人々のネットワーク作

りに重要な役割を果たしています。

ソーシャル・ファームはもともとイタ

リア、ドイツ、イギリスで広がっていっ

たのですが、どのようにアイディアが

一つの国から別の国に移っていったの

か、どのように進化していったのかを

振り返ることができます。それぞれの

国の事情に合わせた何か新しいもの

がいつも生まれてきました。ですから

お互いに学び合うという意味のネット

ワーク作りはとても重要だと思います。

私たちはここに集まっていますが、た

だ座っているだけではいけません。た

とえば、紹介された事例を日本で生か

していく。ソーシャル・ファームが実効

あるビジネス計画を進めるには資金が

必要であり、銀行にも行かなければいけ

ない。一人でやろうとすると、とても複雑

な問題に直面することになると思いま

す。グループを作れば、もう少し系統

的なサポートも得ることができると思

いますし、また同じような経験をしよう

としている人を助けることができます。

ヨーロッパでも、具体的な支援シス

テムを開発しなければなりませんでし

た。そのうちの一つは、今日も話に出

ましたけれどもヨーロッパの国際的な

ブランドになっているル・マット・ホテ

ルのアイディアです。ホテルやゲストハ

ウスの運営方法など、ブランドの背景

にあるディテールの開発の促進が重要

で、異なった国々で運営する際、その

国の文化事情に合わせて取り入れるこ

とが大変重要です。このようなアイディ

ア、コンセプトを開発し、いろいろな

文化から学びつつ、育てていきたいと

思っています。それができれば、おそ

らく他のフランチャイズ企業に対しても

十分な競争力を持つことができると思

います。実はいろいろなところで同じよ

うな経験がなされていると思うのです。

私たちはまだ端緒についたばかりで

す。どういう分野で私たちが力を発揮

できるのか、どういうところが不利なの

かを明らかにしようとしていますし、ま

た製品のマーケティング開発をしなけ

ればいけません。そういった観点から、

ネットワーク作りがカギだと思います。

寺島:大山先生、上野さん、コメント

をいただけますでしょうか。

大山:私は企業のことしか知らないの

ですが、重度障害者で一般企業で雇

用の対象になっていない人でも、企業

のやりようでは働けるんだということ

を強く感じたものです。まして、働く

ことが人間にとって一番大事な、幸せ

になることだとも感じています。日本

の憲法は、幸福の追求を最大限に国

民に約束しており、まして最低限度の

文化的生活を保障しながら、働く権利

だけでなく義務までもうたっているだ

けに、重度の人も働ける世の中づくり

を日本の社会は皆でやらなければなら

ないと、私は強く感じました。

今ある中小企業を上手に活用すれば、

設備もあるし場所もある、手取り足取

り教える職人文化を持っている、まして

障害者自身も企業で働くことで張り合

いを感じ、幸せとともに人間的にも成

長する。そういうメリットもあります。

日本で障害者雇用が進まないのは、

企業が安心して雇用できないからで

す。もし仕組みができれば企業は安心

して障害者雇用にチャレンジしてくれ

るはずだと思います。

ちょっと大それた提案ですが、大企

業に特例子会社もあるわけですから、

中小企業にも重度の障害者で一般企

業で働けない人に最低賃金を国が出

す仕組みで特例会社を作って、重度の

障害を持つ人たちも地域で働けるよう

にしてはどうかと思います。

上野:ここには私たちの仲間、福祉関

係者の方も大勢いらしていると思いま

す。今日の話を聞いていると、やもすると

福祉的な支援が否定された感じを受け

た方もいるかと思いますが、私自身は

そうは思っておりません。ただ、補助金

に依存した就労支援ということではなく

て、それを活用しながら事業として発展

させていくことに、もう少し私たちが努

力してもいいのかなと思っています。

その一つの可能性として、ソーシャ

ル・ファームもあると思いますし、理

念的には、私たちがやってきたことも

ソーシャル・ファームだと思っておりま

す。そういう仲間が増えることを願い

ながら今日はお話ししたつもりです。

寺島:最後に炭谷さんからまとめをし

ていただいてよろしいですか。

炭谷:どうもありがとうございました。

今、頭の中にいろいろな情報や問題点

があるので、気がついたことを一つ二

つ述べさせていただきます。

一つは、ヨーロッパの方々から日本

でもっとネットワークを作ったらという

お話ですが、ぜひ進めてみたい。その

ためにソーシャルファームジャパンを

作ったわけでございます。ぜひ今日、

会場の皆様、ソーシャルファームジャパ

ンにご参加していただければありがた

いと思っております。会費等は一切求

めておりませんので、自由に入ってい

ただければありがたいと思っています。

会費がないということ、逆に言うとサー

ビスがないということかもしれません

が。いずれにしろよろしくお願いします。

日本には、経済産業省が推進して

いることもあり、社会的企業のネット

ワークもたくさんできています。しか

し、いわば障害者のために何かをして

あげようというのが現在の社会的起業

家の集まりで、それでは障害者の主体

性、人権の確立という観点から考える

と、やや昔に戻っているのではないか

と、疑問に思っております。

ソーシャル・ファームというのはあ

くまで当事者自身が主体性をもって働

く、社会的企業の分野を言うわけです。

そしてそこには、障害者だけではなく

て、引きこもりやニートのような若者、

高齢者、難病患者、刑務所からの出

所者も入るでしょう、場合によっては

被差別部落の人も入ると思います。そ

のように現在、適切な仕事が得られな

い人たち、2,000 万人以上いらっしゃ

る。そして、ソーシャル・ファームでは、

その人たちが経済主体としても、一般

の経済人と同じ位置になるということ

になるわけです。

質問にもありましたが、保護労働と

どう違うのか。これは、障害者自身が

主体的に働き、一般の人と一緒になっ

て働く。ここが重要だと思うんです。

保護労働というのは、障害者は働くん

ですけれども、障害者でない人がいわ

ば指導者としての位置づけなんです。

それでいいのかなと。それをやってい

る間は、障害者としての主体性、人権、

実勢というものが確立しないわけです。

ただ、そうせざるを得ない人もいらっ

しゃるわけですから、そういうものを

否定するわけではなくて、それと併存

する形でソーシャル・ファームが必要

だと思っています。

結局、ソーシャル・ファームという

のは人間の生き方につながるわけで

す。人間としてどういうふうに生きて

いくか。それはやはり、人から命令を

されたり、保護されて働くということ

ではなくて、自分の主体性を持って働

いていくということだと思っています。

それが第一です。

第二には、それによって新しい社会、

現在崩れている社会づくりにもつな

がっていく。

第三として、新しい国家像がそこか

ら生み出されると思っています。小さい

ソーシャル・ファームの試みですけれど

も、きっと大きく日本の人間の生き方、

社会、国家というものを少しずつ変えて

くれるのではないかと思っています。

本日はどうもありがとうございました。

寺島:どうもありがとうございました。

これでディスカッションを終わります。

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国際シンポジウム ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携 報告書 9190

関連資料

ソーシャル・エンタープライズとソーシャル・ファームについて

ソーシャル・ファームはソーシャル・エンタープライズの一種である。

A Social Firm is one type of social enterprise.

ソーシャル・エンタープライズとは?

・ソーシャル・エンタープライズ は第 3 セクターに所属

・社会的および / あるいは環境的目的のために商取引を行

い、その目的の達成に役立てるために、すべての利益を

主として再投資するビジネス

・英国には約 62,000 社。総売上高は 270 億ポンド。従

業員がいる企業の 5% に相当。年間 84 億ポンドの経

済効果を英国にもたらしている。

( 英国中小企業白書 2005 年- 2007 年資料より)詳しくはソーシャル・エンタープライズ連合 (SEC) のウェブサイトをご覧ください。http://www.socialenterprise.org.uk

(サリー・レイノルズ氏のパワーポイントより)

ソーシャル・ファームとは?

・ソーシャル・ファームとは、障害者或いは労働市場で不利

な立場にある人々の雇用のために作られたビジネスである。

・ソーシャル・ファームは、その社会的任務を遂行するため

に市場志向の商品の製造及びサービスを提供するビジネ

スである。(収入の 50%以上は売上げから得られている)

・ソーシャル・ファームに雇用されているかなりの数の人々

(最低 30%)は、障害者或いはその他の労働市場にお

いて不利な立場にある人々である。

・各労働者は、各自の生産能力に関わらず、仕事に応じた

賃金や給料を、市場の相場によって支払われる。

・労働の機会は、不利な立場にある従業員と、不利な立場

にはない従業員とに、平等に与えられる。すべての従業

員は同じ権利と義務を持つ。

出典:Social Firms Europe (CEFEC) の定義(1997 年)

http://www.socialfirmseurope.org/

What is social enterprise?

・Social enterprise is part of the Third Sector

・A social enterprise is a business that trades for a social and/or environmental purpose, and primarily

reinvests any profit to help meet that purpose

・Approx. 62,000 social enterprises in the UK, combined turnover of £27bn; account for 5% of all

businesses with employees, contribute £8.4bn pa to

the UK economy

(source 2005-2007 data from the Annual Survey of Small Business UK)

More info from SEC: http://www.socialenterprise.org.uk

(Excerpt from Power Point of Sally Reynolds)

What is social firms?

・A Social Firm is a business created for the employment of people with a disability or

disadvantage in the labour market;

・It is a business which uses its market-oriented production of goods and services to pursue its

social mission (more than 50% of its income should

be derived from trade);

・A significant number (minimum 30%) of its employees will be people with a disability or other

disadvantage in the labour market;

・Every worker is paid a market rate wage or salary appropriate to the work, whatever their productive

capacity;

・Work opportunities should be equal between disadvantaged and nondisadvantaged employees.

All employees have the same employment rights

and obligations.

Source: Definition of Social Firms Europe (CEFEC) from 1997

http://www.socialfirmseurope.org

Page 49: 58 - Japan Foundation · 58 フィンランドにおけるソーシャル ... 民間企業でのマーケティング及び広報活動を経て 、1996年から2002 年までSurrey

国際シンポジウム ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携 報告書 9392

日本でのソーシャルファームの発展に向けてソーシャルファームジャパン理事長

恩賜財団済生会理事長学習院大学法学部特別客員教授

    炭谷 茂

1 日本の就労状況

(1)日本全体の雇用状況の厳しさ

高止まりの完全失業率  

雇用調整助成金の対象者

新卒予定者の就職内定率の低さ     

非正規雇用が 3 分の1

ホームレス問題は新しい局面へ入る

(2)社会的にハンディを持った人には一層厳しく

障害者、高齢者、難病患者、ニートや引きこもりの若者、

ホームレス、刑余者など

少なくとも 2 千万人以上

障害者の就労状況

真っ先に解雇される障害者

2 働くことの意味

経済的な自立

人間としての自尊心

人間としての成長

規則的な生活による心身の健康維持

社会とのつながり

社会からの排除、孤立が日本において急激に進行

多くの社会問題の発生(例えば障害者への差別、

自殺、孤独死、児童虐待など)

この解決のためには仕事などを通して社会とのつながりを

→ ソーシャルインクルージョンの具体化

地球温暖化対策につながる

玉野市の「のぞみ園」の竹を伐採し、竹炭作り

北海道芽室町による障害者の木材ペレットの製造

  

バイオマス分野なども可能

生物多様性にも

北海道のNPOアウルスによるエゾシカの皮の活用

②農業、酪農

日本の需給率の向上が食料安保から絶対的に必要

北海道新得町の共働学舎のチーズ作り

飯能市のたんぽぽによる自然農法等による野菜栽培     

③福祉

高齢者等の多様なニーズの急激な増大

豊島区の豊芯会による高齢者向け宅配弁当

ワーカーズコープのホームヘルパー派遣

④サービス業

労働集約で有利に

特産物の販売 

芸術作品販売

ホテル、コンビニも

姫路市の門口堅蔵氏の白鳥城 

(2)発展していくためのポイント

①商品・サービスの開発

皆で考える(サロンの効用)   

需要がある

ニッチなもの

独自性

労働集約的

デザイン力

   

3 第3の職場が必要

公的な職場 … 社会的な目的のため、

税金が投入されて作られる職場

一般企業  … 大企業には障害者雇用率が適用

社会的企業 … 社会的な目的

ビジネス的な手法

利益を外部に出さない

就労者の状態に合った生きがいの感じる仕事

住民参加も

4 第 3 の職場の一つとしてソーシャルファームが重要

障害者を対象として発展してきたが、近年対象の範囲を拡大

ヨーロッパで定着、各国によって特徴がある

当事者が健常者と一緒に働く

日本にも有効 

日本で2千社作るべく、それを支援するため

ソーシャルファームジャパンが2008年 12 月発足、活動

一昨年6月厚木市、9月新宿区 昨年3月7日茂原市で

ソーシャルファームを推進するためのサロンを開催、

昨年12 月19 日 東京都新宿 戸山サンライズで総会

5 日本におけるソーシャルファームの展開

(1)未来の日本を担う分野に進出

今後の成長産業 … 政府の成長戦略分野

他との競争に勝てる

①環境

3R … 秦野市の弘済学園の古本販売

西尾市の「くるみ会」の食品廃棄物のコンポスト化

ヨコタ東北の支援によるNPO等に

よる廃プラスチックのリサイクル

回りの物すべてが3Rの対象になる

②販売力の強化

ソーシャルファームのネットワークの形成

アンテナショップ

商品カタログの作成 

ソーシャルファームブランドの確立

ロゴマーク

今後ソーシャルファームジャパンで検討

③経営資金の確保

国、地方自治体の助成

民間助成団体

探せば必ず見つかる

ソーシャルファームのスピリットは、税に依存せず、自主独立が基本

篤志家の援助

ソーシャルファイナンス

   

④支援者の確保

資金

ボランテイア

消費者として

⑤健常者とのコラボレーション

それぞれの特徴を発揮

⑤国際協力

ヨーロッパ

途上国

   

⑥経営主体

現行法制下では一般公益法人、NPO、社会福祉法人など

特例子会社も活用可能

6 新しい福祉国家を求めて

新しい「公」の形成

これからの人間としての生き方の一つ

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国際シンポジウム ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携 報告書 9594

共働学舎新得農場の歩みからソーシャル・ファームへ 就労継続支援A型事業所からソーシャルファームへ農事組合法人共働学舎新得農場代表

NPO共働学舎副理事長

宮嶋望

就労継続支援 A 型事業所からソーシャル・ファームへ東京家政大学人文学部教育福祉学科学科長・教授

社会福祉法人豊芯会理事長上野容子

宮嶋 望 紹介文

1951 年生まれ、東京で育ち、自由学園(私立)で放射線

物理、植物生態学を学ぶ。1974 年卒業後、渡米。ウイス

コンシン州の牧場で 2 年働き、ウイスコンシン大学へ入学、

酪農学を学び、1978 年に卒業(B.S.)。米国農業の本

質を知り、米国農業の真似はしないと決心し帰国。1978

年に新得町から誘致を受け、共働学舎新得農場を開設し、

心身に重荷を抱える人たちと共に牧場つくりをはじめる。

初めは包丁が飛ぶほどの荒れたサバイバル生活だったが、

次第に落ち着き、生産活動に力を注げるようになり、今で

はチーズが世界ベルで認められるまでになり、経済的な自

立も視野にはいってきた。環境の要素を整え、自然と調和

した教育や福祉のあり方、農業生産のあり方を実践と通し

て模索している。

共働学舎新得農場の33年の歩みから「ソーシャル・ファーム」へ

37 年の歴史を持つ共働学舎は、「自労自活」のことばを

掲げ、障がいを持つ人、ひきこもり、精神的な不安定など

の悩みを抱える人たちと「共に働き、ともに生きる」道を模

索しながら、全国に 5 か所で約 130 人の生活の場を創っ

てきた。

日本の社会福祉法の枠にはまらないため、任意団体として

個人寄付に支えられながら、各々の能力や働く意欲を引き出

し、ゆっくりながら確実なモノづくりの形を作ってきている。

税法上の問題から 2006 年にNPO法人格を取得した。

① 障害者の賃金状況 (2007 年障害者白書より)

○雇用の場、福祉工場、授産施設の比較

*福祉的就労事業所における低賃金は、

障害者の働く権利の視点から問題がある。

② 賃金アップと事業の発展を目指して

○(福)豊芯会フードサービス事業所

(配食センターとふれあい)の事業紹介

1) 配食センター

手作りの家庭料理提供 食事作りの不自由な方へ宅配、

豊島区の委託事業、 特注弁当・パーテイ料理受注

(一日平均 240 食)

2) ふれあい

・豊島区が精神障害者の働く場として提供

・池袋の地の利を生かした営業  

・喫茶・食事の店

・コーヒー専門店「バッハ」の技術と材料を使った商品提供

3)スタッフ構成

A 型登録者 20 名 

子育て中の女性 1 名 

身体疾患 1 名 

高齢者 2 名

家族 2 名 

障害者 1 名 

その他 8 名

*障害者を対象とした訓練の場ではなく、様々な立場の人達と共に

事業発展を目指す

新得農場は1978 年に開始し、農業生産法人とし、有

機栽培で野菜をつくり、羊を飼って手工芸品をつくり、豚

や鶏を飼い豊かな食卓につなげている。放牧された牛たち

の乳で、手づくりするチーズは欧米のコンクールで金賞等

を受賞し、世界でも認められるようになり、生産の柱となっ

てきた。それには炭と微生物で環境を整えることが重要

だった。

新得牧場の年間総生産額は1.8 億円(チーズの売り上げ

1.2 億円)となり、70人余りの日常生活を支えるようになっ

てきた。自ら汗を流して働いた結果が、自分達の生活を支

えているという自覚が芽生え、以前は周りから認められて

いないと感じていた人が、社会人としての自負を持つよう

になってきている。

しかし、NPOとしては収益事業の割合が寄付に対して

大きすぎるとのことから、NPO法人と生産法人を分け、

業務委託契約を両法人間で結び、煩雑だが現行の行政の

枠に収まるようにしている。

このような社会的事業体が日本でも実現可能だと思える

ようになってきた。この牧場の実態はイタリアで始まった

「ソーシャル・ファーム」の理念と重なってきている。

これからの日本の社会福祉を考えるときに必要な形態で

はないだろうか。

北海道ではソーシャルファームマークを製品につけ、ソー

シャル・ファームの理念の普及と理解を深めるよう協力体

制を考えている。

3) A 型登録者が労働者として主体的に仕事に

取り組める環境づくり

・マネージャー制度の導入 

・研修制度や対外的な売り場の拡大

4) 売り上げの向上・事業の発展

・20 年度売上比 13%アップ

・21 年 4 月~ 9 月の

売り上げ 22,652,260 円(全事業収入の 59%)

支援費 10,836,774 円(全事業収入の 28%)

補助金 5,165,717 円(全事業収入の13%)

③ 就労継続支援 A 型事業所からソーシャルファームへ

障害者を対象とした訓練の場から労働者として参画し、事業を発

展させる場に

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国際シンポジウム ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携 報告書 9796

レジュメ「知的障害者に導かれた企業経営と国への期待」

日本理化学工業株式会社会長 大山泰弘

一.日本理化学工業㈱とは

国内シェア 30%を持つダストレスチョークメーカーで、従業員 74 人中 55 人の知的障害者を雇用している

二.何故知的障害者多数雇用モデル工場をつくったのか

1.青鳥養護学校の先生の3回の訪問で

2.禅のお坊さんの言葉から障害者の多数雇用を決意

3.従業員の 50%以上を条件とする、国の心身障害者多数雇用モデル工場

融資制度を活用してスタート (1975 年 )

三.知的障害者の雇用割合7割を超す企業経営の進め方

1.知的障害者の理解力に合わせた工程の工夫

2.彼らの親切さを活用しての班長制度を設けた

四.モデル工場経営は一石三鳥の社会的貢献、そして渋沢栄一賞受賞で知る

日本の中小企業のもう一つの活路

五.真の福祉に立つ日本国憲法からすべての国民が働ける 「働く幸せへの直行便制度」 を

六.商売繁盛のえびす様が、障害者雇用の日本理化学に子育て文化に貢献

するキットパスを用意して下さった

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