介護者の腰部負荷を軽減するベッド周り空間に関する研究...

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Department of Architecture,School of Science and Engineering, Waseda University 早稲田大学理工学部建築学科卒業論文 指導教授 渡辺仁史 介護者の腰部負荷を軽減するベッド周り空間に関する研究 ベッドから車椅子への移乗動作による評価ー A Study on Space around Bed to Reduce Care’s Physical Stress An Evaluation of Movements from a Bed to a Wheelchair U0514 簾藤 麻木

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2005年度,卒業論文,簾藤麻木

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Department of Architecture,School of Science and Engineering, Waseda University

早稲田大学理工学部建築学科卒業論文        指導教授 渡辺仁史

介護者の腰部負荷を軽減するベッド周り空間に関する研究̶ベッドから車椅子への移乗動作による評価ー

A Study on Space around Bed to Reduce Care’s Physical Stress̶An Evaluation of Movements from a Bed to a Wheelchair̶

U0514

簾藤 麻木

U0514

介護者の腰部負荷を軽減するベッド周り空間に関する研究 ̶

ベッドから車椅子への移乗動作による評価̶

荻内 伸彦

0 はじめに

■■はじめに■■祖母を介護し始めて、今年で15年目を迎える。あと少し広ければ、あと少し導

線が短ければ、介護する側もされる側も何かが違うかもしれない。自分が唯一持っているものはそういう小さな体験の集まりだと思う。高齢社会を迎え、自分と同じ思いをする人はこれからますます増えていくことと思う。そう思い、建築に進んだ。

現在はバリアフリーの概念も一般的になりつつあるが、それは介護される側の自立を念頭においたものがほとんどである。しかしたった2割ではあるが、介護をされないとどうしても日常生活を送れない高齢者がいることは事実であり、彼らを介護する人がそこにいることもまた、事実である。

車椅子がたった3cmで段差が乗り越えられなくなるのと同様に、数センチの中に介護者の負担が変わる何かがないだろうか。そう考えて、本研究を取り組むに至った。

誰もが自分は生きていていいのだと思える場を、誰も泣かなくていい場を、

そんな場がつくれるのならば、そのきっかけの一つにこの研究がなればと思う。

* 目次

DIPLOMA 2005HITOSHI WATANABE LAB. WASEDA UNIV.

*目次

0.はじめに                         001はじめに

*目次 003

1. 高齢社会と在宅介護    007■■ 1-1 高齢社会について ■ 1-1-1 高齢化の現状と今後 ■ 1-1-2 高齢化の要因 ■■ 1-2 高齢社会への対策 008■ 1-2-1 基本的枠組み ■ 1-2-2 在宅介護に関して 009■ 1-2-3 介護とは 010■ 1-2-4 高齢者介護に求められるもの 011■■ 1-3 現在の在宅介護状況 012■ 1-3-1 要介護認定者の内訳 ■ 1-3-2 在宅介護の世帯構造 014■ 1-3-3 主介護者の介護時間 015■ 1-3-4 高齢者の望む居住形態に関して 016■ 1-3-5 高齢者の介護内容 017■■ 1-4. 介護と腰痛 018■ 1-4-1 腰痛とは ■ 1-4-2 日本における腰痛 019■ 1-4-3 日本における介護現場の腰痛に関する認識 020■ 1-4-4 移乗福祉用具に関して 021■■ 1-5. 介護と腰痛の既往研究 022■ 1-5-1 腰痛発生率 ■ 1-5-2 腰痛の発生した動作 023■ 1-5-3 介護職員の腰痛 024■ 1-5-4 移乗動作の原則 025■■ 1-6 海外の高齢者福祉 027■ 1-6-1 海外の高齢者住宅対策 ■■ 1-7. まとめ/研究内容決定                 030

2. 目的    032

3. 研究フロー    034

4. 用語の定義    036

DIPLOMA 2003HITOSHI WATANABE LAB. WASEDA UNIV.

DIPLOMA 2005HITOSHI WATANABE LAB. WASEDA UNIV.

5. 在宅介護者へのアンケート    040■■ 5-1. 基礎調査 ■ 5-1-1 基礎調査内容(介護者へのアンケート) ■ 5-1-2 集計 ■ 5-1-3 基礎調査から分かること ■■ 5-2 調査内容 042■ 5-2-1 調査概要 ■ 5-2-2 アンケート内容 043■■ 5-3 集計結果 044■■ 5-4 アンケートから読み取れる事 053

6. 三次元動作分析実験    056■■ 6-1 研究方法 ■ 6-1-1 実験概要 ■ 6-1-2 腰部関節モーメント 060■ 6-1-3 実験空間 062■■ 6-2 データの扱い 067■ 6-2-1 計測後のデータの扱い及び手順 ■ 6-2-2 データ処理より得られたグラフと動作の関係 068■ 6-2-3 実験後に行うアンケートの扱い 071■■ 6-3 実験結果 072■ 6-3-1 腰部モーメントの持ち上げと下ろしの被験者別での比較 ■ 6-3-2 腰部モーメントの持ち上げと下ろしの全体での比較 075■ 6-3-3 主観とベッド周囲のしつらえの関係(アンケート結果) 076■■ 6-4 分析 080■ 6-4-1 持ち上げと下ろしごとの全体の比較 ■ 6-4-2 同じしつらえにおける持ち上げと下ろしの比較 084

7. 考察    089■■展望 099

8. まとめ    102

9. おわりに    105

*参考文献    106

*資料編 108

1高齢社会と   在宅介護■■1-1.高齢社会について■■■■1-2. 高齢社会への対策■■■■1-3. 現在の   在宅介護状況■■■■1-4. 介護と腰痛■■■■1-5.介護と腰痛の     既往研究■■■■1-6.海外の    高齢者福祉■■■■1-7.まとめ/   研究内容決定■■

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■■■1.高齢社会と在宅介護■■■■■1-1 高齢社会について■■■1-1-1高齢化の現状と今後■わが国の総人口は、2004年で1億2769万人となり、内65歳以上の高齢者は過去最高の

2488万人で、総人口の19.5%に達した。高齢者のうち、前期高齢者と呼ばれる65~74歳の高齢者人口は1381万人、75歳以上の後期高齢者は1107万人であった。高齢者人口は今後2020年まで急速に増加し続け、その後おおむね安定期に推移する一方で、

総人口が減少に転ずることから、高齢化率は上昇しつづけ、2015年には26.0%、2050年には35.7%に達すると見込まれている(図1-1-1)。

■1-1-2高齢化の要因■人口の高齢化は、出生率の低下と高齢者人口の増加により生じる。出生率は主として未婚化・晩婚化・晩産化により低下した。未婚率は1980年では男性が

28.5%、女性が20.9%だったのに対し、2000年にはそれぞれ31.8%、23.7%となっている。また、晩婚化についてみてみると、平均初婚年齢が1980年は27.8歳、女性は25.5歳であったのに対し、2002年には男性が29.1歳、女性は27.4歳になっている。これに伴って晩産化も進み、1975年に25.7歳であった第一子出生時の母親の平均年齢が、2002年には28.3歳に上昇している。次に、高齢者人口の増加についてだが、戦後の生活環境の改善や食生活・栄養状態の改善、更

に医療技術の進歩によって、死亡率が低下し、平均寿命が伸長したことから起こった。戦後、若年層の死亡率は特に大幅に低下し、1947年に14.6だったものが、およそ15年で半減した。平均寿命に関しては、1947年に男性が50.06歳、女性が53.96歳であったものが、2002年には男性が78.32歳で、女性は85.23歳となっている。また、平均寿命は今後もさらに伸び続けるだろうと推測されている。

図1-1-1各国の高齢化率推移 図1-1-1

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■■1-2 高齢社会への対策■■■1-2-1基本的枠組み■我が国の高齢社会に対する対策の基本的な枠組みは平成7年に施行された「高齢社会対策基本

法」に基づいている。この基本法は高齢社会対策を総合的に推進しているもので、地方公共団体の義務や、国が講ずべき就業・福祉・生活環境等に関する施策について明らかにしている。この高齢社会対策基本法によって政府に作成が義務づけられているもののひとつに、高齢社会対策大綱がある。これは、高齢社会対策の中長期的にわたる基本的かつ総合的な指針となるものである。平成8年に最初の高齢社会対策大綱が策定されてから、社会情勢の変化に対応すべく見直しが行われ、平成13年12月に新たな大綱が閣議決定された。これによれば、以下の基本姿勢が社会全体の構成員、これは国や地方公共団体はもとより、企

業から家庭・個人までを含むが、全ての者に求められているという。①旧来の画一的な高齢者像の見直し②予防・準備の重視③地域社会の機能の活性化④男女共同参画の視点⑤医療・福祉、情報通信等に関わる科学技術の活用  この中で「②予防・準備の重視」について、「従来の高齢期における健康面、経済面、社会関係等に係る問題への対処にとどまらず、若年

期から問題を予防し、老後に備えるという国民の自助努力を支援する。」とある。また、この基本姿勢をベースとして、取り組むべき課題のうちのひとつとして「多様なライフスタイルを可能にする高齢期の自立支援」をあげている。政府は、戦後生まれの人口規模の大きな世代、つまり団塊世代が高齢期を迎える10年後を念

頭に置いている。世界に例を見ないほどの高齢化を迎えつつある日本(図1-2-1)は、現状のままでは今後迎える団塊世代高齢者社会に対応が出来ない。また、栄養面の改善や医療技術の進歩によって高齢者の健康面にも大きな改善が見られている。そのために、高齢者の就業や社会参加として、高齢者層を社会の戦力としていこうという姿勢が見られる。

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 ■1-2-2在宅介護に関して■一方で高齢者の人口が増えるということは、要介護の高齢者も増えるということを意味する。

ある推計では、高齢化率が最高値をたたきだす2055年、高齢者は推計3586万人、施設の供給が追いつかないのではないかと懸念されている。確実に在宅介護の必要性が高まるだろう。それをよく表すものとして、「高齢者の居住の安定確保に関する法律(高齢者居住法)」(平成

13年法律第26号)の制定や「高齢者が居住する住宅の設計に係る指針」(平成13年国土交通省告示第1301号)の普及など、自立や介護に配慮した住宅の整備に積極的な姿勢が見られる。住宅金融公庫融資等、バリアフリー性能の高い住宅の賃貸供給の推進及び購入の促進が行われている。

図1-2-1

図1-2-2

在宅介護

・介護技術に関して素人

・不十分な介護環境

施設介護

・介護の専門者・知識技術の教育を受けている

・介護するための環境

多数の高齢者要介護高齢者

高齢社会

図1-2-3

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■1-2-3 介護とは■介護…高齢者・成人などを介抱し、日常生活を助けること(広辞苑第五版より)介護という言葉はもともと、旧陸軍にあった傷兵院や廃兵院などで用いられ始めたもので、「介

助」と「看護」を組み合わせて出来上がったものと考えられている。介護が公的な文書に用いられたのは、1963年の老人福祉法の中が最初であり、比較的最近誕生した言葉とも言うことができる。介護とは介護する人と介護される人の関係で成り立っている。介護される人(以下要介護者)

が自分の能力を活用しながら、自分らしく尊厳をもって生きられるようにQOLの向上を図ることが介護とされている。そのためには要介護者の自立と依存のバランスが重要となってくる。従って、要介護者本人の残存能力を出来る限り活かそうという姿勢が求められる。また介護が難しいとされることの一つに、要介護者の障害の程度や内容、身体的特徴や生活ス

タイル等、人それぞれ異なっているためにマニュアル通りにならないことがある。特に、何十年と生きてきた高齢者の日常活動はさらに個別性が現れる。要介護者に個別性があるほど、それに準じて介護スタイルの種類も増える。このため、高齢者の介護に対して総じて言えることが少ない。

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■1-2-4 高齢者介護に求められるもの■要介護高齢者は、日常生活動作を含め身体能力によっては体位変換まで介助が必要になる。し

かし、要介護者自身が、日常生活動作に不可欠な運動や体位変換の必要性を理解出来ず、介護に十分な協力を得られない場合がある。もしくは、自らの体力や日常生活動作に対する身体能力が低下してい

ることに気付かず、介護者に対して過剰な労力を費やさせてしまう場合もある。また一方で介護にあたる側にも問題点はある。大別すると、①個人的資質の問題②介護技術に関わる問題③介護環境による問題④介護システムから生じる問題である。①は介護に関する知識の有無や体力、精神的安定性と

いったものであり、②に関しての技術は経験を通じて習得していくものである。また④のシステムは主に病院や施設などで求められるもので、人材配置や勤務体制、介護に関するノウハウの教育といったことが必要とされている。ここで③の介護環境に関しては、建築からの対策が求められている。

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■■1-3 現在の在宅介護状況■■現在、要介護認定者数は408万人(2005年3月末 独立行政法人福祉医療機構HP参照)。5

年前の平成12年4月末において要介護認定者数は218万人だったので、およそ2倍にふくれあがっている。一方で、彼らの保険料の担い先である被保険者のうち、第一号被保険者数は5年前と比べて,2165万人が2394万人と10%程度しか増加していない。

■1-3-1要介護認定者の内訳■要介護認定の申請はおよそ3/4が申請している。要介護高齢者のうち、下記のグラフ(図

1-3-1)の通り、要支援が12.4%、要介護1が31.2%、要介護2が16.4%となり、立ち上がりや立位保持などの移動動作に介助が必要とされる要介護3の高齢者と、ほぼ日常生活全てを介助してもらうとされる要介護4.5の高齢者を合わせると、全体の40%であり、移乗動作の補助は約

半数弱の要介護認定者に必要と考えられる。また、要介護認定者の7割弱が女性で、うち84歳以下が6割強となっている。(図1-3-2、

図1-3-1介護給付受給者の現状

図1-3-2要介護高齢者の性別 図1-3-3要介護高齢者の年齢

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1-3-3-)さらに中心的に介護を行っている主介護者と被介護者の関係は、配偶者が31%、娘が26%、

息子が13%で、息子の妻が24%、娘の夫が1%であり、主介護者の7割が女性であった(図1-3-5)。現在、夫婦のみの世帯で、配偶者による介護を行う家庭が増加している傾向にあり、以前に比べて男性の介護者が増えているというものの、やはり7割は女性という現状がある。また、介護者の年齢は65歳未満の中高年が8割を占め(図1-3--4)、高齢者よりストレスを感じるという中高年による介護が多い現実がある。

図1-3-4介護者の年齢 

図1-3-5介護者と被介護者の続柄

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図1-3-7要介護者のいる家庭の世帯構造

■1-3-2在宅介護の世帯構造■以下の図(図1-3-6)に見られる通り、要介護者のいる家庭は現在三世代世帯が最も多く、次

いで夫婦のみの世帯、独居、親夫婦と子供のみの世帯と続く。世帯構造別に要介護度を見ていくと(図1-3-7)-、単独世帯の要介護度が特に低く、次いで夫

婦のみの世帯がやや自立度が高いものの、その他の世帯には要介護度の分布に差はあまり見られない。

図1-3-6要介護者のいる家庭の世帯構造

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■1-3-3主介護者の介護時間■要介護度が高くなるにつれて、やはり介護時間は長くなる傾向にある。中等度の介護を要する

という要介護3でも半日以上、要介護4.5にいたっては一日のうち8割近くが介護時間となっており、介護のイメージに対するアンケートでも多く書かれた「拘束」「自分の時間がない」といった状況が表れている(図1-3-8)。

図1-3-8同居の要介護者の介護時間

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■1-3-4高齢者の望む居住形態に関して■高齢者の住宅所有に関しては以下の通りである(図1-3-9)。全体で6割、高齢者夫婦が主世帯・もしくは高齢者が同居している世帯の8割強が持ち家があると答えている。高齢者の住宅所有率は高いことが伺える。またこのことからか、高齢者に対する意識調査で、「虚弱化した時に望む居住形態」への回答のうち「現在の住宅にそのまま住み続けたい」もしくは「現在の住宅を改造して住みやすくする」が5割を超えている(図1-3-10)。また「現在の住宅に住み続ける」に次いで多かった回答が「公的な施設/ケア付き住宅に入居する」で、「子供等の家で世話してもらう」を上回った。しかし、「民間の専門施設/ケア付き住宅に入居する」を望む高齢者は少なかった。

図1-3-9高齢者の住宅所有関係

図1-3-10虚弱化したときに望む居住形態

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■1-3-5高齢者の介護内容■一日のうち、寝たきり高齢者介護の介護内容の順位は以下の通りになるという。単位は秒である。表から読み取れる通り、介護は日によって、また被介護者の体調や病状によって同じ介護内容でも時間に大きく差が生じる。細かい介護の作業内容が、発生率高く並んでいる事が読み取れる。介護は「介護者の生活を細切れの時間」にしてしまう。

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■■1-4. 介護と腰痛■■ ■■■1-4-1 腰痛とは■腰部脊柱は5つの骨からなり、その下には仙骨が存在する。その骨と骨の間には椎間板と呼ば

れる円盤状の繊維軟骨、つまりクッションが挟まれている。腰痛を起こす原因は多様だが、介護者に見られる腰痛の原因は、おもに腰部脊柱の障害によって引き起こされるものが多い。その原因となる疾患で多いものは、筋・筋膜性腰痛と腰椎退行変性による腰痛の2つである。□筋・筋膜性腰痛神経にも腰椎にも外見上異常が見られない、いわゆる「腰痛症」と称されるもので、重量物の

上げ下げや腰部の捻りといった軽微な外傷の繰り返し、緊張やストレスなどが引き金となる。筋内の血管が収縮することにより、筋肉の循環障害が起こり、痛みを引き起こす。この痛みが持続すると、さらに筋の異常収縮に拍車がかかり、筋の短縮・弱化が進み、慢性腰痛になる。若年の介護者はこの筋・筋膜性腰痛者の割合が高い。□腰椎退行変性老化により、椎間板がクッション作用の機能を低下させ、外圧によって椎間板内の髄核と呼ば

れる組織が飛び出てしまい、神経を圧迫することにより痛みが生じる。介護者に多く見られるものは、このことが原因で発症する腰椎椎間板ヘルニアである。

椎間関節

椎間板

神経管

椎間板

仙骨

椎間関節

図1-4-1腰椎・椎間板

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■1-4-2 日本における腰痛■日本の一般成人において、日常的に身体的苦痛の有訴率の高いものの内、腰痛は男性で1位、

女性では肩こりに次いで2位である。労働衛生環境の改善から、この20年余りで業務上疾病はほぼ半数になったものの、そのうち

休業を4日以上要した業務上腰痛は以前職業に関連した疾病の中でも最多を占めたままであり、その割合は20年前から6割前後のまま移行している。2001年においては業務上疾病総数7502名のうち、58.8%を占める4408名が腰痛という現状である。□業務上疾病と予防対策について業務上疾病は労働基準法第8章に定められる災害補償事由の1つであり、その内容は労働基準

法施行規則第35条で定められている。この内、業務上疾病としての腰痛の認定基準が示されたのは1976年である。職場における腰痛予防対策については、それ以前の1970年に「重量物取り扱い作業における

腰痛予防について」が、さらに1975年に「重症心身障害児施設における腰痛予防について」が提示されている。これに引き続き、1994年に「職場における腰痛予防対策について」が出され、翌1995年には「職場における腰痛予防対策に係る労働衛生教育の推進について」で職場の腰痛予防のための労働衛生教育指導員が設置されることとなった。

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■1-4-3 日本における介護現場の腰痛に関する認識■介護において、例えば排泄や入浴の介護場面において、被介護者をベッドから車椅子へ移乗や

車椅子から便座への移乗があり、抱く・抱える・運ぶといった動作が必ず起こってくる。結果介護者の腰部へ負荷がかかってくる。また5-2でも述べている通り、その他の介護動作においても、例えばベッドでのおむつ交換や入浴介助での体を洗う作業や、車椅子の被介護者への食事の補助等、前屈みや中腰姿勢になることがやはり多く負担もその分大きいといえる。5-1-4で述べている通り、厚生労働省により腰痛に対しての予防指針が出されており、その中

で腰部に著しく負担がかかる作業に関しては、作業の自動化・機械化をすること、適切な補助機器等を導入することが推奨されている。また、重量物を取り扱う作業を行わせる場合の取り扱い重量に関しては、成人男性は体重の40%以下、女性は男性の基準の60%程度とするように明記されている。介護現場において人の手で移乗を行う場合明らかに重量オーバーではあるが、この指針に法的拘束力や罰則がないこと、また介護現場でも周知されていないのが現状と言える。また、移乗介護動作は各介助を行う上でのつなぎ目といった位置づけで認識されており、その危険性があまり理解されていない。このため、日本において移乗用の介護機器の導入が進まず、多くの介護者の腰痛に拍車をかけている結果となっている。

欧米では、移乗介助が最もリスクの高い作業と認識されており、移乗用リフト等の介護機器の導入も進んでいる。それに伴って介護機器の有効性を検証する調査や研究も盛んである。介護機器の購入費用と介護機器の効果を検証した研究では、腰痛の疾患による職員の休業・退職、職員の早期退職に伴う交代要員の補充を低減させる効果があるため、機器購入の費用をはるかに上回る効果があるとしている。また、介護職の腰痛は労働災害として補償がされる。また、英国や東欧諸国においては人力作業の腰に与える危険性を深刻にとらえており、明確に

持ち上げる重さの制限をしている。例えばデンマークにおいては、「お腹につけて持ち上げる場合11kgまで安全 50kg以上は危険 体から30cm離して持ち上げるなら7kgまで安全 30kg以上は危険 体から45cm離して持ち上げるなら3kgまで安全 15kg以上は危険」としている。そして移乗機器の導入を義務づけている。

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■1-4-4移乗福祉用具に関して■介護保険の改正に伴い、利用できるサービスが広がった。このことは、福祉用具の貸与についても変化が起こっている。現在介護保険適用により、福祉用具は車椅子をはじめとして、特殊寝台(ギャッジベッド)・手すり・床ずれ予防のエアマットさらにスロープ・歩行器から移動用リフトまでレンタルが可能となっている。また、便座や尿器、浴槽や移動用リフトの吊り具等レンタルしにくいものについては、購入に際し年間10万円まで支給される。在宅介護において、高齢者はより自立可能であるよう、また介護者は負担が軽減出来るように図られている。このため、数年前に比べても福祉機器の普及が広まってきたと言える。

移乗動作は介護動作の中でも、腰部負荷が最も大きなものの一つとされており、そのため移乗補助の福祉用具の数も増えてきたと言える。しかし一方で、車椅子やギャッジベッドに比べ、移動用リフトや移乗ボードの普及は小さい。移乗ボードや介助ベルトに関しては、やはり認知度がまだ低いことから利用率も低く、またヘルパーステーションの職員からは「介助ベルトをするとベルトに依存してしまい、介護者の腰の筋肉が衰えると聞く」という話もあがっていた。また、依然として日本には「介護は手で行うもの」という意識が強く、介護現場に福祉機器を導入する歯止めになっているのもまた、現実である。

図1-4-2移乗用福祉用具の種類

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■■1-5. 介護と腰痛の既往研究■■介護現場で業務上疾病として腰痛がどの程度発生しているのかに関して国レベルでの統計はま

だなされていない。しかしながら、病院や施設単位の規模で調査は行われている。ここではその中から抜粋して掲載する。

■1-5-1 腰痛発生率■国は違うもののオーストラリアのArad and Ryanによれば、病院勤務看護者の1ヶ月間の腰痛

発生率は42%であり、そのうち生涯腰痛が続く者は87%に及ぶとされている。また、甲田茂樹らによる国内の統計では、日本の病院勤務看護者の1ヶ月の腰痛発生率は64.4%、うち生涯腰痛が続く者は

72.6%としている。

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■1-5-2 腰痛の発生した動作■田島寶による、静岡済生会総合病院で働く看護士および看護補助員へのアンケート調査がある。この病院は65歳以上の高齢患者が外来で全体の41.7%、入院で54.4%を占めており、病床数

735、一日平均の外来患者が1804名、入院患者が660名である。そして調査対象は業務上の誘因で腰痛の経験がある看護士と看護補助員170名(21~58歳 女性)としている。

これによれば、腰痛発生時の動作が、「患者の体位変換時に発生した」とするものが最も多い45.8%で、次いで「オムツ交換時」が39.4%、ベッドからの移動介助時が35.3%、車椅子からの移動介助時が30.0%という(複数回答)。腰痛発生の要因についての自己診断では「患者の体重が予想より重かった」が介護者の年齢に関わらず高く49.4%を占めている。つづいて「無理な姿勢で介護した」というものと、「立ちっぱなし労働に続いたときに発生した」が36.0%を占めている。つまり、自分の非を認めるものと、労働条件に転嫁するものが多かったと言える。腰痛を発症した時は、ほとんどの人が「一人で介護していた時」と回答している。在宅介護において、必ずといっていいほど主介護者と呼ばれる中心的に介護を行なう人に負担

や作業が集中する。そのため今回の、腰痛が「一人で介護していた時」に発症した事例が多いということは、在宅介護において腰痛が発症しやすいということを示していると言える。また、看護経験年数が比較的短い20歳代と、経験年数の長い40歳以上の看護士を比較すると、

腰痛発生動作に違いが見られる。20歳代では、体位変換時またはオムツ交換時が最も多いのに対して、40歳以上ではベッドや車椅子からの移乗時が大半を占めていた。ただし、両者共に患者の体重判断を誤ったことを原因の1位としている。現況調査のアンケートからも分かるように、現在、主介護者は40歳以上の中高年が中心である。

団塊世代が高齢者層入りをする頃には、現在の主介護者が配偶者であるという家庭がさらに増えることが予測出来る。つまり、老々介護する家庭が増えるということである。田島寶の調査により、高年看護士は移乗による腰痛発症が大半を占めていた。中高年の介護者においては、移乗動作について何らかの対策が必要である。

図1-5-1男女別腰痛の有無

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■1-5-3介護職員の腰痛■また、勤務1日のうち、腰痛が発生し易い姿勢とされている中腰姿勢の時間が平均139.1±

104.5分であった。全体の傾向としては、「抱えてのトランスファー」「ベッド上での体位変換と清拭」「起坐介助」「車椅子への移乗の介助」の頻度が高く、うち「抱えてのトランスファー」は体位変換や座位の人を後方から抱きかかえる動作と並んで痛みを感じる頻度が高かった。また腰痛への対応に関しては、仕事前の準備体操に関しては男女共半数が「していない」と答

えており、コルセットや腰ベルトの使用も女性でも半数、男性は2割程度しか使用が見られなかった。また腰痛体操等の腰痛予防対策の運動を自宅で行っている人も男女共半数程度であった。全体の調査結果のまとめとして以下のことが述べられている。①介護職員は腰痛疾患率が8割を超えており、筋・筋膜性腰痛および腰椎椎間板障害(退行変性)

が過半数を占めている.②介護職についたことにより腰痛が悪化したと認識している者が半数である.③介護業務における動作で、1日の中腰平均時間は2時間を超え、中腰を伴う介護動作の頻度

が高い.④患っている腰痛に対して、コルセットや腰ベルトといった器具を使用しているのはほぼ半数

で、準備体操や自宅での腰痛予防運動等も半分の者は行っていなかった.

特別養護老人ホーム

養護老人ホーム

軽費老人ホーム

訪問入浴

デイサービス

ホームヘルパー

図1-5-2

図1-5-3

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■1-5-4 移乗動作の原則■移乗動作は基本的な介護動作の中でも、非常に難易度の高い動作の一つであり、最も腰痛を引

き起こし易い動作とも言われている。前述の各調査においても、トランスファー・移乗における腰痛発症の解答が多かった。人手不足が訴えられる介護現場では、移乗動作を力のある介護者が”上手投げ”の様にして行っていることがある。しかし、これは力の少ない女性や高齢者が真似ると転倒したり、介護者の腰痛にも発展しかねない。時間節約にと介護者のみの力だけで行うのではなく、被介護者の残存能力を生かし、また介護者にとってどのような介護動作が負担の少ないものかの理解が必要になってくる。□重心移動の把握人を動かすために基本とされるのが重心位置である。人の体は左右(全額面)上下(水平面)

前後(矢状面)の中央、つまり骨盤内の仙骨前方に重心があるとされている。移乗動作において、この重心位置をイメージしながら介護することが良いとされている。移乗における重心位置の移動は図の通りである。車椅子は肘掛け等を回避する必要があるため、被介護者の重心をその場で一度上に上げ、足部を段階的に回転させ重心位置を横に移動させていき、体の向きが変わってから重心を下に下ろすような方法が一般的である。最近では、車椅子の肘掛けが外れるものも多く、この重心位置をその場で上げるという動作をせずに、横一直線の移動も可能になってきている。人の座り方と重心の関係は図の通りである。腰痛予防の観点から、物体を持ち上げる際には持ち上げる物体を自分の重心の近くに寄せた状態で持ち上げることが必要であるとされている。多くの被介護者の座位姿勢は⑤の状態の場合が多いため、まず座り位置を前方へ移動し、足部を引い

図1-5-4座り方と重心の位置

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た状態から立ち上がり動作を開始することが必要である。□介護動作次に介護方法では、一般的とされているのが、被介護者の膝の間に介護者の膝を差し込み、被

介護者の腰部・骨盤帯を支えて持ち上げる動作である。ただし、介護者と被介護者の身長差が大きい場合等は脇の下を支持する方法などもとられているという。また、バランスを崩し易い場合や下肢能力が低い場合、移乗動作中に膝折れが懸念される。そのために、時として被介護者の膝を介護者の膝で挟む動作もある。□環境設定被介護者と乗り移る対象物(車椅子やベッド、トイレ等)の位置関係は、極力両者を接近させ

つつ車椅子とベッドの角度は30~45度に配置。乗り移りの距離が最小となるように設定することが必要である。また、片側に麻痺がある場合や、骨折による下肢機能に左右差がある場合には、健常に機能している側をベッドに向けて移乗を行うことが推奨されている。

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■■1-6 海外の高齢者福祉■■■1-6-1 海外の高齢者住宅対策■□デンマーク1960~1970年代はデンマークにおいても施設介護が主流であった。元々養老院をルーツと

しているプライエムと呼ばれる特別養護老人ホームの建設が増えており、64年にはプライエムに関する建設のガイドラインが厳しくされ、結果公的に経営される施設が増加した。施設内容としては、個室が増え、その個室も15平方メートル以上バストイレ付きになっている。68年には「高齢者年金者福祉サービス法」が制定され、老人福祉の基本的な考えた方が慈悲型福祉からケア型福祉へと移行していく。74年にはヘルパーを制度化した「生活支援法」が制定される。しかしその後80年代半ばにフリーコミューン議論と呼ばれる、地域主体型に対する議論が起こり、85年に「フリーコミューン法」が国会に提出される。そして市の各地域ごとに統合ケアシステムの拠点として「高齢者総合センター」が設置され始める。88年からプライエムの新設が無くなり、ケア型福祉から在宅を重視した自立的な福祉へと転換を見せていく。プライエムはその後減少していき、98年にはベッド数も半分まで減少した。94年からはホームヘルパーの派遣会社に国から時間給の半分の補助が出されるようになり、80年頃から見られはじめた「24時間の在宅ケア体制」が95年には全市町村に拡充されるようになる。また90年代半ばからは高齢者ケアサービスに民営化が見られ始め、経費は公費が負担しつつサービスの改善が推進されている。デンマークでは高齢者福祉の三原則である、「自己決定」「生活の継続性」「自己能力の活用」

を重視した政策が具体的に行われていると言える。つまり、デンマークの高齢者福祉は・福祉サービスを市役所中心の中央集権的なものから市をいくつかの地域に区分し、サービス

を各区域で行うようにしている。そのためプライエム(施設)・ヘルパーステーション・デイサービス等の機能を統合した高齢者総合センターをおき、施設と在宅に対し統合的にサービス提供が可能となっている。看護や介護にあたる職員もまた、これによって施設と在宅の両方の学習を実践的に行う事が可能となった。・自立して生活する事が可能な設備や条件を備えた高齢者住宅が全国的に普及、老人ホームで

あるプライエムも個室で、高齢者の住環境の質が高い。・高齢者審議会を設置し、高齢者自身が行政への参画が可能となっている。自分でサービスを

選択出来るようになった。しかし、在宅介護のサービスが非常に合理化されたため、障害度の高い高齢者も在宅ケアする

ようになり、介護や看護者の負担が非常に大きくなってしまったのもまた事実である。また、プライエムを減らし高齢者住宅を増やす政策をとったことで、身体的な障害者が施設での共同生活を選択する事が難しくなったということもまた課題となっている。

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□スウェーデン1950年代初頭から、地域の高齢者住宅に住む高齢者の介護と養護問題が検討されるようにな

り、高齢者が家庭と高齢者施設とどちらで生活するのが適切か討論された。52年に政府は委員会を設置し、高齢者が終末期まで出来る限り家庭で生活できるように援助と保護をすることが最も必要なこととして、これを「家庭介護のイデオロギー」と名付け、その後政府の高齢者対策における考え方のベースのとした。またデンマークと同様にコミューンのサービスシステムが徹底され、高齢者家庭の食事宅配システムの導入等、サービスシステムや高齢者住宅施設の開発がコミューンによって勢力的に行われるようになった。60~70年代にかけては、同時に介護の必要度に合わせ、少数の入居者施設の建設が進められるようになり、長期医療用介護者に対しての施設が高齢者数の増加に伴って各地に建設されるようになった。その後、1992年のエーデル改革によって、医療治療後の身体障害者及び高齢者介護の分野の

責任が県からコミューンへ移行し、高齢者が住居サービスと介護の提供が受けられるように高齢者住宅施設(老人ホーム・サービスハウス・グループホーム・シュークヘム)設置の責任がコミューンに課せられるようになる。以下はこの各高齢者住宅施設の概要である。スウェーデンでは高齢者の住宅施設が6存在する。老人ホームとサービスハウス、グループホームとシュークヘム、さらに高齢者住宅と高齢者住宅+65である。

・老人ホーム:24時間介護を受けられ、施設内に共同のキッチン場があり、食事や休憩は共同に取れるシステムであり、共同生活体制なので日本とシステムの面では変わらないものの、各自が小さなアパートもしくは部屋があり個室化の徹底がされている。・サービスハウス:個人のアパートに住みながら、施設内の一部サービスや休憩室が利用でき

る施設であり、24時間体制で職員が勤務している。施設内にはレストランや美容院、ホールや足の治療室等が設備されている。・グループホーム:日本とほぼ同様で、入居者は普通痴呆高齢者で少数のアパートに共同キッ

チン、食堂、休憩室等の設備が有り、24時間職員が勤務している。ただし、同じ1ユニットには介護の仕方とリハビリが異なるという観点から、アルツハイマー型痴呆症と脳梗塞による痴呆症患者と一緒に住まわせることはしない。職員の教育もそれぞれ専門知識を有している。・シュークヘム:日本で言うナーシングホームのことで、重度の障害または重度の痴呆症の住

宅施設で、24時間常に介護を必要とする高齢者が入居する。部屋は1人または2人の共同部屋となり、医療教育を受けている職員が勤務している。・高齢者住宅:最近ではシニアハウスと呼ばれている。シニアハウスは高齢で健常者が共同施

設を一緒に利用しながらも、個人生活が出来る普通のアパート形式の住宅が多い。基本的には個人所有のアパートとなっている。・高齢者住宅+65:これは独身者または夫婦・同居人のいずれかが65歳以上であれば入居資

格を有するもので、多くはホールなど共同施設がある。入居は健常者でも、ある程度のヘルパー

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の介護援助を必要とする者でも可能。これもまた基本的には個人所有のアパートとなっている。スウェーデンでは、高齢者福祉の公的サービスを受けている高齢者はほとんどが独身者や近親

者がいない者であるが、家族にケアを受けている高齢者も勿論存在する。そしてやはり高齢者介護で重大な役割を担うのがその家族によるケアである。スウェーデンでは近親者や親しい友人等に対する支援制度が設けられている。この支援制度とは、在宅介護サービスやデイサービスといった日本でも行われているものと共に、介護を行う近親者や親しい友人がホームヘルパーとして雇用される形態をとるものと、介護をすることで直接現金で報償が支払われるものがある。

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■■1-7.まとめ/研究内容の決定■■急激な高齢化社会を迎え、施設供給が需要に追いつかない状況が確実に予想される中、高齢者

の意識調査では病気や運動能力の低下で介護が必要になった時も、改造等により現在の住まいに住み続けたいと言う意見が圧倒的に多いのが現実である。また介護保険制度の改正に伴い、福祉機器のレンタルや住宅改修にたいする給付0金の補助など行政によるサポートも普及しつつあり、ここで在宅介護を改めて考え直す必要がある。現在ではバリアフリーという言葉も一般的となったが、日本においてこの言葉は要介護者の自

立のみを念頭において取り組まれているように思える。しかし介護は、要介護者の自立と共に介護者の負担軽減という双方向からの取り組みが必要であり、今もう一度立ち返って考える必要があるものは「介護者のバリアフリー」ではないだろうか。

介護における問題は精神的問題、経済的問題と多岐にわたるが、その中に身体的負担がある。その中でも、介護職者の「腰痛」は深刻である。およそ8割の介護職員が腰痛の経験有りという報告もある。腰痛と介護動作の関係においては、移乗動作が腰痛発生率が高く、また痛みを感じる頻度が高い事が分かった。移乗動作は介護動作の中でも難しい動作の一つで、リフト等様々な福祉機器が開発されている

背景にも、移乗動作の負担の大きさがうかがえる。一方で、欧米と比較しても日本にはいまだ「介護は人の手で行うもの」という意識が強く、それら移乗補助の福祉機器の普及率はいまだ低い。ギャッジベッドの普及率と比べると歴然である。

また、高齢者は身体能力の低下に伴い行動半径が狭まる事は容易に予測され、特に介護が必要な虚弱高齢者のベッドの滞在率は高く、行動範囲もベッド周囲になりがちである。それに伴い、ベッド周囲で行われる介護内容が増加する。ベッド周囲における介護動作には、体位変換や衣服の着脱衣、おむつ交換など多く存在するが、

腰部負荷が大きいとされる体位変換やおむつ交換は、無意識でもベッド上もしくはベッドの端に膝などをついて腰部にかかる負荷を軽減させる行為が見られる。一方、車椅子やポータブルトイレへの「移乗の介助動作(以下移乗動作)」に関してはそれらの行為は見受けられず、負荷が腰部にダイレクトにかかってくると考えられる。

さらに、自分自身の介護経験においても、移乗動作の負荷の大きさは実感するものがあり、介護者の腰部負荷を軽減するベッド周りの空間に関して研究を行う事とした。そして、ベッド周りにおいて、移乗介助という介護動作に焦点をあて、そこから必要な寸法体系を求める事を目的とした。

2 目的

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■■■2.目的■■■

介護者の移乗動作における腰への負担を明らかにし、腰痛を防ぐベッド回り空間の寸法体系を提案する。

高齢者の自立 介護者の負担を減らす

・身体的負担・生理的負担・精神的負担

+ 腰部負荷から見る

在宅介護

・面積の問題・幅の問題

・実験室からの数値計測的アプローチ

・アンケートによる現状把握

3 研究フロー

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在宅介護自立 介護負担軽減

介護者にとってのバリアフリーとは

結果・考察

腰部負荷からみた介護者にとっての介護負担を軽減する介護居室の提案

基礎調査

施設介護者及び在宅介護に関わる人へアンケート

・精神的負荷・身体的負荷 の存在

実験項目の選定

在宅介護者へのアンケート

・精神面の負荷の調査・在宅介護の現状把握・研究のフィードバック先の確認

実験・vicon・アンケート・分析

実験と現状の比較

腰部モーメントを中心とした評価とBorg Scaleによる動作のしやすさとの比較/分析在宅介護の現状も合わせ考察

■■■3.研究フロー■■■

4 用語の定義

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■■■4. 用語の定義■■■介護:病人などを介抱し看護すること要介護者:心身に障害があり、日常生活を営むことに支障がある人

被介護者:要介護者に同じ

介護者:介護を行なう人

QOL:Quality of lifeの略. 生活の質のこと. より良い生き方や健康生活ということを精神的な豊かさや満足度も含めて質的にとらえるという考え方を基本にしている。 

ADL:Activities of Daily Livingの略。日常生活動作と訳される。食事、排泄、着脱衣、入浴、移動、寝起きなどの日常生活を送るために必要な、基本となる動作全てを指す。高齢者の身体活動能力や障害の程度をはかるための指標となっている。しかし、現在はより質の高い生活へという考えが広まり、ADLからQOLへと言われるようになってきている。

ギャッジベッド:高さ調節や起床補助といった機能のあるベッド

ポータブルトイレ:要介護者のようにトイレまで行くことが困難な人が用いる、簡易トイレ

要介護度:生活を行っていく上で、介護を必要とする人の必要介護度合いを身体状況から6段階に区分けしたもの。認定された要介護度によって、受けられるサービスや介護保険からの支給される限度金額が異なる。

要介護認定:市町村によって設置された介護認定審査会によって判定、市町村によって認定されるもの。本人または家族によって市町村に要介護度認定の申請が行われると、調査員によって全国共通の認定調査票に基づいて訪問調査が行われる。結果、コンピューターによる一次判定の後、介護認定審査会による1次判定の結果と主治医の意見書とを加味しての二次判定を通過して決定される。原則として6ヶ月毎に見直し、更新する。

介護認定審査会:市町村に設置。保健、医療、福祉の専門知識をもつ経験者5名程度で構成され、市町村長によって任命される。

調査員:原則一定の専門知識をもつ市町村の職員もしくは介護支援専門員(ケアマネージャー)があたる。

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認定調査票:概要調査、基本調査、特記事項の3部で構成。身体の麻痺・拘縮の有無や動作に関する項目、さらに床ずれや排泄などの介護に関する項目やコミュニケーション等に関する項目で成る。

ケアマネージャー:介護支援専門員のこと。「介護保険法」(2000年4月施行)に基づく資格。要介護者等からの相談に応じ、要介護者が心身状況に応じて適切な在宅サービスや施設サービスを利用出来るように市町村、事業者および施設との連絡調整を図り、要介護者が自立した日常生活を営むのに必要な専門的知識を有する。

老々介護:高齢者が高齢者を介護すること。平均寿命の伸びにより、配偶者による介護や、高齢の親を高齢の子が介護するという状況が起こるようになってきた。

移乗:車椅子からベッドといった生活の中での乗り移り動作のこと。自動車に乗り込むことも移乗に当たるが、本研究内では車椅子とベッド間の乗り移り動作のことを以下「移乗」と称すことにする。移乗動作は高齢者や身体的障害者ではベッド→車椅子、車椅子→トイレ、トイレ→乗り物といった生活を維持していく上で重要で頻繁に必要となってくる。

福祉用具:心身の昨日が低下し、日常生活に支障のある老人、心身障害者の日常生活を補助するための用具。機能回復訓練のための用具及び補装具を称す。

サジカルテープ:医療用で、ガーゼや湿布材を固定するのに用いられるテープ

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要介護度の定義:

5アンケート■■5-1.基礎 調査■■■■5-2. 調査内容■■■■5-3. 集計結果■■■■5-4. アンケートから    読み取れる事■■

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■■■5. 在宅介護者へのアンケート■■■在宅介護に関して、身体的負担としつらえの関係を実験により計測することとなった。これに

当たり、実際要介護度の高い被介護者の在宅介護の現状が今どうあるのか、また実際の介護ではどのようなことが負担となっているのか、在宅介護空間は一般的にはどのような現状かを把握すべく、介護者へ口答もしくは紙面でアンケートを行った。

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■■5-1.基礎調査■■■5-1-1基礎調査内容(介護者へのアンケート)■介護者にとって、どのようなことが負担となっているのか、また介護に対してどのようなイメー

ジを持っているのか把握するため、介護施設の職員及び在宅介護を現在している・もしくは過去にしていた経験者に対し、紙面でアンケートを行った。

□日程4月~6月

□アンケート依頼先逗子清寿苑(特別擁護老人ホーム/デイケアステーション)職員15名在宅介護経験者5名

□質問事項Q1 ”介護”という言葉から連想されるもの・言葉・イメージを教えて下さい。Q2 ”介護”をする上でどのような時に辛いと思いますか?  また介護で悩んでいる事はありますか?

■5-1-2集計■集計した結果は資料編に載せてある。(資料5-1,5-2)

■5-1-3基礎調査から分かること■結果、介護に関して負担となっているものは無力感、拘束感、自己嫌悪、将来への不安や生活

リズムの乱れから来る体調不良が主な訴えとなった。また介護のイメージに対してもそのようなマイナスイメージと共に、優しさや寛容さ、孝行といった求められている介護者の理想像がプラスイメージとしてあげられていた。高齢者社会を迎え、介護が自らに関わる現実としてさしせまっている中、また今回は特に介護

に実際関わっている人に対し、改めて介護というものへのイメージをとったところ、全体的にマイナスイメージの方が多いように感じられた。バリアフリーや住宅改修、介護保険制度といったニュースやメディアでも頻繁にとりあげられているイメージもあげられている中で、拘束・息苦しさ・不安といった精神的な負担と、人手や疲労、力仕事といった肉体的な負担についての言葉が多くあげられた。つまり、現在介護している人にとって「介護」とは精神的な負担と肉体的な負担の2つが切り離せないまま「介護負担」として感じられている事が捉えられた。

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■■5-2 調査内容■■■5-2-1調査概要■調査にあたり、ケアマネージャーを通じて逗子市内の財団法人である訪問看護ステーションに

アンケートを委託した。次に新宿区内の在宅介護支援センターを訪ね、アンケート及びアンケート先の紹介を依頼した。本アンケートは在宅介護の現状調査及び在宅介護者の負担を調査する目的で行うという旨を 伝えたところ、在宅介護支援センターではなくヘルパーステーションが適しているとの指摘を受けることが出来た。ただし、今回は在宅介護支援センターもヘルパーステーションも在宅介護家庭においてもアンケート対象とした。

以下、在宅介護支援センターとヘルパーステーションの違いを記す。在宅介護支援センター:在宅介護に関する相談窓口として役割を果たす機関。ケアプランの作

成や、苦情の対応、情報提供や福祉相談が主な業務。家庭毎に担当者がつくが、実際に直接介護は行わない。ヘルパーステーション:介護を必要とする家庭を直接訪問し、食事や排泄・着替え等の介助と

介護全般のサービスを行う。

□日程訪問・実測11月1日 S邸紙面によるアンケート10月25日~11月10日

□アンケート依頼先●新宿区ヘルパーステーションアイムヘルパー(株)大起エンゼルヘルプ 新宿ケアセンター聖母ホームヘルパーステーション(有)ナイスケア日成ホームヘルプサービスハート介護サービス東京支店モテギケアサービス新宿営業所ゆあはんず

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●新宿区在宅介護支援センター大久保在宅介護支援センター北新宿在宅介護支援センター住吉町在宅介護支援センター聖母在宅介護支援センター高田馬場在宅介護支援センター西新宿在宅介護支援センター

●訪問看護ステーション逗葉地域医療センター訪問看護ステーション

●在宅介護家庭3軒

□対象者在宅介護を行っている人は自らのことを、在宅支援センターの職員とヘルパーに対しては「担

当している家庭の介護者の代理として」回答を依頼した。

□回収したデータ数47の有効回答を得たが、質問によって回答を得られなかったものも存在した。そのような質

問項目に関しては母数に注意して集計を行った。

■5-2-2 アンケート内容■在宅介護者へ依頼したアンケートは、本論文の資料編に記載する(資料01)。

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■■5-3 集計結果■■アンケートを集計した結果、以下のような解答を得ることが出来た。□□介護者と被介護者について□被介護者と主介護者の属性

□被介護者の要介護度

□□介護を行っている居室について□居室の様式

図5-3-1主介護者の属性

図5-3-2被介護者の要介護度

図5-3-3居室の様式

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□居室の広さ

□居室の広さに対する感覚図5-3-4居室の広さ

図5-3-5介護をする上での広さの感想

図5-3-6居室の広さと感想のクロス集計

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□寝具の様式

□ベッド周囲の福祉用具の種類

□介護をする上で困る点

物が多い

風呂場まで遠い

部屋が狭い

トイレまでが遠い にお

水道がない

玄関までが遠い

ベッドの高さが高い

ベッド周りが狭い

ベッドの高さが低い

図5-3-6寝具の様式

図5-3-7ベッド周囲の福祉用具

図5-3-8介護居室で負担にに感じる要素

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□□ベッドの高さ□ベッドの通常時の高さ

□高さ調節機能を利用している時の高さ

□□介護について□介護をする上で負担を感じる部位

図5-3-9通常時のギャッジベッドの高さ

図5-3-10介護動作のために調節する際のベッドの高さ

図5-3-11介護で負担に感じる部位

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□身体に最も負担を感じる動作

□□ベッド・車椅子間の移乗介助を行っている介護者に対して□移乗動作で負担を感じる部位

□移乗動作での痛みの有無

図5-3-12身体的に最も負担を感じる介護動作

図5-3-13移乗介護で負担を感じる部位

図5-3-14移乗介護の痛みの有無

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□痛みを感じる部位□移乗介助をする上での工夫

□□ギャッジベッドの利用者に対して□介護内容の違いによる高さ調節の有無

□高さ調節をする介護内容

図5-3-15移乗介助の工夫

図5-3-16介護内容に合わせた高さ調節の有無

図5-3-17高さを変える介護動作

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□高さ調節機能の利用頻度

一日に 10回以上

一日に 1~3回

一日に 4~6回

週に1~2回

図5-3-118高さ調節機能利用頻度

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1650

590

100

A

棚(薬 パット)

枕 クッション置場

TV

トイレ

リビング

0 1 2M900 1800mm

1050×2010

1550 1000

590

100

B

ポータブル・トイレ

TV

タンス

タンス

椅子

風呂 洗面台

リビング

0 1 2M900 1800mm

1050×2010

3090

300

1050 1500

C

テーブル

仏壇

トイレ

押入

棚(薬 陰洗ボトル)

パット おむつ置場

リビング

0 1 2M900 1800mm

1050×2010

□在宅要介護者のベッド周り

主介護者:ヘルパー要介護者:男性要介護度:5様式  :和室感覚  :狭い原因  :物が多い/ベッド周りが狭い寝具  :ベッド

主介護者:ヘルパー要介護者:女性要介護度:3様式  :和室感覚  :狭い原因  :ベッド周りが狭い寝具  :ベッド

主介護者:ヘルパー要介護者:女性要介護度:5様式  :和室感覚  :狭い原因  :特に無し寝具  :ベッド

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主介護者:ヘルパー要介護者:女性要介護度:5様式  :和室感覚  :狭い原因  :特に無し寝具  :ベッド

主介護者:ヘルパー要介護者:男性要介護度:2様式  :和室感覚  :広い原因  :物が多い/ベッド周りが狭い/     部屋が狭い寝具  :ベッド

主介護者:ヘルパー要介護者:女性要介護度:5様式  :和室感覚  :狭い原因  :物が多い(テーブル上)寝具  :無記入

主介護者:ヘルパー要介護者:男性要介護度:3様式  :和室感覚  :狭い原因  :ベッド周りが狭い/部屋が狭い寝具  :ベッド

400 2150

200

490

D

洋服掛け

0 1 2M900 1800mm

1050×2010490200

2350

E

TV

テーブル

0 1 2M900 1800mm

200

1050×2010

100

1550

690

F

TV

タンス

洋服掛け

0 1 2M900 1800mm

1050×2010

2150

100

590

plan scale:1/50G

クローゼットポータブル・トイレ

TV

タンス

0 1 2M900 1800mm

1050×2010

plan scale :1/100

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■■5-4 アンケートから読み取れる事■■今回、東京都新宿区及び、神奈川県逗子市・葉山町の在宅介護家庭について、在宅介護の現状

を把握するためアンケートという形をとることとした。集計の結果、やはり在宅介護の担い手は子供や配偶者が主であり(図5-3-1)、介護を行ってい

る居室の広さは四畳半六畳を合わせると8割近くを占めた(図5-3-2)。中には八畳や十畳以上の居室で介護が行われている家庭もあったが、やはり地価の高い都心において、大きな部屋を介護専用居室として転用する余裕があることは少なく、日本住居に多いとされる四畳半や六畳が在宅介護の主な居室となっているのが現状であった。しかし、昨今マスメディアでも多々取り上げられる「老々介護」だが、ある高齢者夫婦の事例

では、介護居室は八畳という余裕ある居室面積であるにも関わらず、介護するスペースとしては「狭い」と答えている(図5-3-5)。これは、八畳で夫婦が共に寝起きをしているため、八畳の部屋にベッドが2台・クローゼット、それにポータブルトイレや様々な福祉用具が混在しているためで、例え介護居室が大きくても、その居室面積と実際介護動作を行うスペースの大きさが必ずしも一致しないという現実があった。今後ますます増加する傾向にあるだろうと予測されている老々介護において、夫婦が同じ部屋で寝起きするこのような事例は多いと思われる。また、一方で、今回車椅子の移乗に補助が必要な被介護者を対象としてアンケートを行ったた

め、全体的に被介護者の要介護度は一般的な統計に比べて高いものとなっている。しかし、そのような要介護度が高い高齢者のいる家庭でも、介護専用の居室は和室が6割強となっており、そこにベッドを置いているという現状が見られた。日本の高齢者が和室で暮らす傾向はまだまだ強いことがうかがえる。ただし、介護保険の改正に伴って、レンタル可能な福祉用具の幅が広がったこともあり、在宅

介護家庭のギャッジベッド導入率は9割を超えており、実際在宅介護支援センターでたずねたところ、要介護1~2といった自立度の高い高齢者においてもギャッジベッドの導入率は高く、要介護度3を超えるとほぼ全世帯においてギャッジベッドの導入がなされているという。しかし、レンタル可能な福祉用具の幅が広がったこと、またそういった在宅介護サービスの認

知度が高まったことも受けて様々な福祉用具が家庭に導入されている一方で、ベッド周りはますます物が増えており、介護居室で負担に感じる要素についての質問に対し、「ベッド周りが狭い」「物が多い」という解答が1位2位を占めた。介護職者の職業病ともされている程、介護と腰痛が深く関わってくることは有名である。この

ことは在宅介護においても顕著に見られた。介護で負担に感じる部位についての質問に対し、半数以上が「腰」であると解答している。また、身体的に最も負担を感じる介護動作に対する質問にはベッド・車椅子の移乗介助が最も多く、3割弱を占めた。それ以外の介護動作では、おむつの交換や食事の介助、さらに立ち上がりの補助と続いた。また、その負担を最も感じるとされる「移乗の介助動作」を行う上で、最も負担を感じる部位は「腰」であるとの答えが65%を超えていた。うち、その移乗動作に痛みが伴っているとの解答が3割近くあった。一方で、その腰痛に対する予防措置についてだが、ギャッジベッドが導入されたこともあって

か、およそ8割近くの介護者が移乗補助を行う際に高さ調節機能を利用していることが分かった。また、移乗動作に限らずおむつの交換や衣服の着脱衣の介助においてもギャッジベッドの機能は

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利用されており、それらを合わせると、一日4~6階程度高さ調節機能を利用する家庭が最も多かった。しかし、その中でもギャッジベッドの高さ調節機能を利用する介護動作のうち、5割弱が移乗補助動作(車椅子への移乗、ポータブルトイレへの移乗、ベッドへの移乗)であった。本研究においては、在宅介護者の介護負荷を軽減すべく、介護者の腰痛に焦点をあて、介護動

作の中でも特に腰部負荷が強いとされている移乗補助動作に注目し、移乗補助における腰部負荷軽減を図るベッド回り空間に対して調査を行い、実験するに至った。現状把握のためのアンケートであったが、結果、現在在宅介護において腰の負担は介護者にとってやはり大きな問題であり、介護者は時には痛みを伴うまでの苦痛を抱えながらも介護を続けている。また、介護者自身も導入したギャッジベッドの機能を活かしながら、工夫をこらして介護をている事がわかった。在宅介護の現場から、介護を環境をより改善していこうという姿勢が見られたが、そのための科学的根拠や資料は少なく、試行錯誤しているのが現状である。

6三次元  動作分析実験■■6-1.研究方法■■■■6-2. データの扱い■■■■6-3. 実験結果■■■■6-4.分析■■

6 三次元動作分析実験

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■■■6.三次元動作分析実験■■■■■6-1 研究方法■■■6-1-1 実験概要■本実験は、ベッドから車椅子への移乗を介助する動作において、腰部にどの程度の負荷がかかるのかを求めるために、実験室でその動作を再現し動きとその時にかかる腰部モーメントを測定したものである。現在の在宅介護において高さ調節機能がついたベッド(以下ギャッジベッド)の導入が一般的になっていることから、①ベッドの高さによる負担軽減②介護を行うスペースの違いによる負担軽減の双方から腰部負荷に違いが見られるか、計測を行った。ベッドの高さを3種類、広さを2種類想定した。実験室では、動作を赤外線カメラでとらえるため、通常のギャッジベッドや車椅子では死角が出来て計測不能となる。そのため、高さの異なる実験用のベッドと、典型的な車椅子(福祉機器カタログやバリアフリーデザインブックなどを参照)に高さを合わせた車椅子を模した装置、さらに介護スペースを決定する壁を表すつい立て等を利用して、床反力板上で計測した。また、動作計測には身体の関節部分のうち必要な22箇所にマーカーを貼り、その動きを赤外線カメラでとらえ空間上の座標位置を測定した。この動きのデータと反力のデータから、腰部・股関節・膝関節・足関節の負荷を計算により求めて、動作と身体にかかる負荷の関係を調べた。また、各動作終了後毎回口答でアンケートを行った。アンケート内容としては主観的負担感、動作のしやすさ、痛みの有無等を尋ねた。

□日程予備実験9月30日(金)本実験10月3日(月)10月4日(火)

□場所栃木県大田原市 国際医療福祉大学 動作計測実験室

6 三次元動作分析実験

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□実験に用いたシステム「三次元動作解析装置」VICON612(VICON MOTION SYSTEMS社)を用いた。・赤外線カメラ8台で、赤外線反射マーカー(以下マーカー)の空間位置情報を把握し、被験者の動作を記録した・6枚の床反力板により、被験者によって床にかかる反力や、体重心のぶれを測定した。・マーカーは直径25mm程度の球に直径2cm程度のディスク状の台が付いたものである。球の表面はガラスの粒子が入ったテープで覆われており、銀色でカメラからの赤外線を反射する。油分によって光の反射機能が落ちるために、マーカーには直接手で触れないようにして作業を行った。被験者の体に貼付ける際には、台の裏に両面テープを貼り、各位置に取り付けて、さらにそのディスク部分をサジカルテープで固定した。

壁・障害物

ベッド・車椅子

赤外線カメラ

パソコン

6 三次元動作分析実験

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・マーカーは左右両側の肩峰、股関節(大転子中央と上前腸骨棘を結んだ直線上の、大転子から1/3の点)、膝関節(膝関節裂隙より2cm上方の高さで、前後径の1/2と1/3の中点)、足関節外果突起、第五中足指節関節、上前腸骨棘、腸骨陵、第4腰椎と第5腰椎の間、頭頂部、側頭部、肘関節、撓骨手根関節の計22カ所に貼付けた。また、ベッドと車椅子を模したワイヤーラックの上部6カ所についてもマーカーを貼付けた。また本年度においては前年度左右区別のために用いられた背面に貼るdummyマーカーは使用しなかった。

「その他実験で使用したもの」・水着/アンダーウェア/水泳キャップ:被験者の実験用ウェアとして用いた。黒や紺といった暗い色で、マーカー位置がずれないように小さめのサイズのものを使用した。水泳キャップは頭頂部及び耳の上にもマーカーを貼付けたため、使用した。・ワイヤーラック:ベッド、車椅子及び壁を表すものとして使用。光を反射するとカメラが反応してしまうため、スチール・エポキシコーティング仕上げの黒色タイプのものを使用した。・ワイヤーネット:壁を表す上で、ワイヤーラックにこのワイヤーネットを張ってついたてとした。・ビデオカメラ:実験風景を記録するために用いた。・分度器:車椅子とベッドの間の角度を確認するために用いた。・ビニールテープ:床に貼って、ワイヤーラックやワイヤーネットの置き位置を示した。

L.5Riri

TOH

Liri

LHIPRHIP

LWRI

LELB RELB

RWRI

Rhead

RSHD

Lhead

LSHD

Rhead

RWRI

RSHD

LELB

LWRI

Lhead

LSHD

TOH

RELB

LASIRASI

LANKRANK

RKNE LKNE

RAMPLAMP

RHIP

6 三次元動作分析実験

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□被験者(介護者)実験に用いる機械の人体データの都合から全て男性とし、22~25歳の若年健常者で実験を行っ

た。(解析に用いる人体データが男性の身体のものしか用意出来ていなかったため、全て男性で行った)

□被験者(被介護者)与えられる負荷を統一するため、被介護者を1名のみ(167cm,63kg)固定して、その被介護

者を8名の異なる介護者が移乗補助を行った。被介護者の身体能力の設定としては、全介助ではなく、ベッドと車椅子の移乗補助は必要なものの座位が保てる程度としている。そのため、床反力板が被介護者が自重の1/3程度を支えるようにした。

6 三次元動作分析実験

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■6-1-2 腰部関節モーメント■動作分析は医療福祉の分野において、身体障害者の動作異常のメカニズムを分析し、より効果

的なリハビリ訓練や、より適した補装具などの提案に役立てる目的で利用されている。本研究では、「腰に負担のかからない健康なすまいの研究」(牛山琴美/2003)、「身体への負

担からみた収納行動とデザインの研究ー腰部負荷を中心とした収納計画評価ー」(松井香代子/2004)に倣い、ベッド周り空間の異なるしつらえにおいて、介護者の身体にどの程度の負荷が生じているかを調べるために、関節モーメントの測定を行う事とした。

関節モーメント測定の有効性については以下の通りである。

腰部関節モーメントの計算方法は、国際医療福祉大学の山本澄子・勝平純司らが開発した方法をとった。以下概要である。(詳細は「腰に負担のかからない健康な住まいの研究」牛山琴美/2003を参照)

6 三次元動作分析実験

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X

Y

Z

-

+

□本研究における腰部関節モーメントの取り扱い本研究では、介護者の腰部負荷を軽減するベッド周り寸法体系の提案が目的である。移乗介護

によって発生する腰部関節モーメントの大小をもって、介護者の腰部負荷を評価する。

6 三次元動作分析実験

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■6-1-3 実験空間■計測する実験空間は以下の種類である。ベッドの高さ…300,450,600の3種類(単位はmm)ベッド周囲の介護する広さ(ベッドから壁までの距離)…650,800の2種類(単位はmm)<ベッドの高さ>資料集成の400~450という値を中間値に参考とし、ギャッジベッドが300~600程度まで

の調節機能が付いているものが一般的であるということから、高いものと低いものを設定した。<ベッドから壁までの距離>移乗を行う車椅子の横幅が650~700ということからギリギリ車椅子が入ること、また

車椅子が移乗動作を行う上で適しているとされる45~60°の角度がふれるということから、650,800を設定した。800は予備実験より20代男性が移乗介助を行っても体がぶつかることなく余裕がある広さだったため、800以上のスペースは移乗動作においては800と同様の結果が得られるだろうと推測される。以上より、ベッドと車椅子の移乗の介助動作は3高さ×2広さで計6動作を計測した。

□実験を行わなかった項目当初、ベッドから壁までの広さは500,650,800の3種を想定していた。この500という値は

バリアフリーデザインガイドブックに「介護を行う上で必要なスペース」として壁からベッドまでの距離を500としていたことから設定したのだが、500という広さでは、650~700の幅を持つ車椅子が入らない事がプレ実験でも確認出来た。よって500の広さを除外した。

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□実験項目における介護するしつらえを表すものの表現について今回実験では、ベッド・車椅子・壁を表す必要があった。しかし、三次元動作分析装置においてはマーカーからの赤外線の反射で位置把握を行うため、実物のギャッジベッドや車椅子等ではマーカーが隠れてしまい実験を行えない。そのためベッドや車椅子をワイヤーラックで、ベッド周囲のスペースを規定するついたてをワイヤーラックにワイヤーネットを結びつけたもので表現した。

壁(障害物)

ベッド(高さ300)        ベッド(高さ450)         ベッド(高さ600)

車椅子

650

800

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■6-1-4 実験用語定義■実験において、実験項目を分ける要素にベッドの高さとベッド周囲の広さの2仕様ある。今回実験ではこのベッドの高さを「介護高さ」ベッド周囲の広さを「介護スペース」と称す。

介護高さ

介護スペース

■6-1-5 実験順序■動作に対しての慣れが起こらないように、実験順序を乱数で並べ替え、各被験者の実験順序・動作に対して公平であるようにした。

■6-1-6 Borg Scaleについて■各動作終了後に毎回口答で行ったアンケートにBorg Scaleを指標に用いた。Borg Scaleとは主観的運動強度・主観的負担感を測る方法の1つである。運動の強さを本人が表現した内容から類推するもので、Borg Scaleが中でも有名である。6から20までの数値に対して運動強度を表す言葉がリンクしている。値が大きい程負担を大きく感じているとする。           

6 三次元動作分析実験

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■6-1-7 測定する移乗動作について■測定する動作は介護動作の中でも最も難易度が高いとされる動作の一つ、ベッドから車椅子等への移乗介助に関して計測した。本実験はその移乗介助動作について、東京厚生年金病院リハビリテーション科の黒柳らが推奨する腰をまもる介助手法に倣った。

介護手法は以下の通りである。①介護者はの片方の膝を被介護者の膝の間に差し込む。②介護者はもう片方の足を、足幅を広くとって下げる。③被介護者を浅く腰掛けさせる。前傾させ、重心を前に移動させる。④被介護者の重心を前に移動させ、前傾姿勢のまま脚に体重をのせる。⑤介護者は体幹を軽く前傾させ、移動時には膝の屈伸を使うようにする。⑥被介護者を保持する部分は、腰とする。今回の実験では、本来は推奨されないが在宅ではよく行われるという被介護者のズボンのはしを持って回転させることとした。⑦車椅子やベッドに映る際の方向転換の回転中心は被介護者の脚となるように注意する。

6 三次元動作分析実験

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■実験手順

実験

00立位姿勢の計測01workstation上でのマーカー付け02順序表にならい各動作の計測

被験者に対する準備

00目的と概要の説明/同意書01Borg scaleの説明02着替え03身体データの聞き取り04マーカーづけ05ビデオで動作の確認06体重の1/3を支える感覚をつかむため測定板で練習

システムの準備

00.エレクタ のセッティング01.キャリブレーション

評価

1回の動作終了ごとにBorg scaleおよびアンケート

■6-1-8実験の流れ■

6 三次元動作分析実験

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■■6-2 データの扱い■■計測で得られたデータは前年度の「身体への負担からみた収納行動とデザインの研究」松井香

代子/2003に倣い、Workstationでマーカーの付け直し、利用データの選定およびマーカー補完、ノイズ除去のフィルター処理を行い、c3d形式で書き出し、さらにBodyBuilderにてモデルの設定、マーカー位置の挿入、各種データ出力のための計算を行い、ASCII形式で書き出した。これによりテキスト形式になるため、分析作業へ移行した。詳細については「腰に負担のかからない健康なすまいの研究」牛山琴美/2003を参照。

■6-2-1 計測後のデータの扱い及び手順■□viconのデータ処理データ処理の流れを以下の図に示す。(図)ただし、詳細については「腰に負担のかからない

健康なすまいの研究」牛山琴美/2003を参照。

□ノイズ除去のフィルター処理について一昨年の「腰に負担のかからない健康なすまいの研究」牛山琴美/2003において、

WorkstationとBodyBuilderの作業後に、数値データの整形という行程を挟み、さらにFilterという別のアプリケーションによってノイズ除去を行っていた。しかし、昨年度の「身体への負担からみた収納行動とデザインの研究」松井香代子/2004からはBodyBuilderの中の機能であるButterworth Filterによってノイズ除去が可能となった。

WSCII 形式で書き出し

分析作業

c3d形式で書き出し

Workstation での作業

マーカーの付け直し利用するデータの選択データの補完ノイズ除去のためのフィルター処理

Body Builder での作業

モデルの体型の設定マーカー位置の挿入各種データを出力

c3dファイルで記録されたマーカーに各関節を対応させ記憶させる。また、認識されていなかったマーカーを手動で補完する。マーカーの消失している部分に対して Fill Gapというデータの補完処理を行う。

ノイズ除去のためにButterworth Filter というフィルター処理をかける。

被験者の身長体重といった身体データを設定する。

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■6-2-2 データ処理より得られたグラフと動作の関係■次ページのグラフを参照。

□グラフより読み取る値BodyBuilderによってグラフ化できる形に書き出された各関節モーメントの表から、今回の指

標値である腰部モーメントLBMのみを比較対象として抽出。また、腰部モーメントについてはLBM-X,LBM-Y,LBM-Zの3種存在する。これはXYZが体幹の各方向に軸位置を取り、Xが前後屈、Yが側屈、Zが回旋のモーメントを表している。しかし、Yの側屈とZの回旋モーメントに関しては計算プログラムにより異なる値がもとまってしまうことが学会で発表されており、そのため的確な値とは言えない。また、6-1-2にある通り腰部関節モーメントの解説にも記載した通りX軸回りのモーメントが最も大きくなることが報告されていることから、LBM-Xのみに着目し、これを腰部負担としてこれを指標にすることとした。以下、腰部モーメントとはLBM-Xについてのみ称す。

ここにデカグラフを貼る訳です。

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□指標とする値腰部モーメント:腰部モーメントの最大値を体重と身長で割ったもの(腰部モーメントの最大値)/(被験者の身長*体重)

<一昨年及び前年度との違い>腰部モーメントが前傾姿勢によりー方向で最大値をとるため、絶対値として腰部モーメントの

最大値を読み取ることは一昨年及び前年度と同様である。しかし、今年度は移乗介助であり、前ページのグラフでも見る事が出来るように、腰部モーメントは持ち上げ及び被介護者を下ろす時に2回モーメント値の山が存在する。このため、腰部モーメントの値を「持ち上げ時」及び「おろし時」に場合わけを行った。。

Workstation上で持ち上げ時及び下ろし時の時間を目視し、excelのグラフ上で腰部モーメントが最大値をとっているのが「持ち上げ」の時か「下ろし」の時かの判別を行う。次にその最大値をとっていない時(最大値をとっているのが「持ち上げ」ならば「下ろし」、同様に最大値を取るのが「下ろし」の時ならば「持ち上げ」)の腰部モーメント値をグラフより抽出した。

持ち上げ (-208.36)下ろし (-173.05)

直立

かがむ

相手を持ち上げる

下ろす

起き上がる 直立

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■6-2-3 実験後に行うアンケートの扱い■Borg Scaleで得られたデータに関しては主観的負担感の指標として、6~20の値のまま指標

値として扱った。痛みの有無、動作のし易さも-2から2までの数値で解答したため、主観的動作のしやすさもその値のまま集計した。以下、アンケートの内容である。

Q.1 全身の疲労はBorg Scaleの表ではどの値になりますか?Q.2 腰の疲労はBorg Scaleの表ではどの値になりますか?Q.3 負担を感じたのはいつですか?   [A前方にかがんだ時 B相手を持ち上げた時 C腰を捻った時 D相手を下ろす時 E

腰をのばした時]Q.4 腰よりも負担を感じたところ[A首 B肩 C腰 D腕 E脚]Q.5 この動作に痛みはありましたか?[Aある Bない]Q.6 いつ痛みを感じましたか?[ABCDE]Q.7 その痛みはどの程度でしたか?

わずかな痛み 耐えられる程度の痛み 激痛ひどい痛み0-1-2 1 2

0-1-2 1 2かなり動作しづらい 動作しづらい とても動作しやすい特に動作しづらくはない

Q.8 この動作はどうでしたか?

6 三次元動作分析実験

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■■6-3 実験結果■■移乗動作によって発生した腰部モーメントの最大値を持ち上げ時と下ろし時別に平均値を棒グ

ラフにしてまとめた。ここでは、全被験者の平均において腰部負荷の小さいものから順に上から並べてある。介護スペース2種と介護高さ3種の組み合わせでなる、しつらえの種類は以下の6通りである。

■6-3-1 腰部モーメントの持ち上げと下ろしの被験者別での比較■以下のグラフは、被験者別に腰部モーメントの最大値を「下ろし時」と「持ち上げ時」につい

て比較したものである。上部の薄い灰色が「下ろし時」、下部の濃い方のグラフが「持ち上げ時」の値となっている。被験者別に比較すると、被験者によってバラつきがあるものの、全体的にはやはり下ろす時の方が腰部モーメントが大きい傾向にある。

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■6-3-2 腰部モーメントの持ち上げと下ろしの全体での比較■持ち上げ及び下ろし時において、全体の平均値を各しつらえ同士比較を行ったところ、S30つ

まり広さ650高さ300のみにおいて、「持ち上げ」の方が負荷が大きかった。一方、残りの5しつらえにおいては、「下ろし」時の方が負荷が大きかった。

持ち上げ持ち上げ時のみの腰部モーメント平均値をしつらえ別に比較すると、 以下のグラフの通りの

順位となった。

下ろし下ろし時のみの腰部モーメント平均値をしつらえ別に比較すると、以下のグラフの通りの順位

となった。

6 三次元動作分析実験

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■6-3-3 主観とベッド周囲のしつらえの関係(アンケート結果)■介助動作で感じた腰部および全身の負担感に対し、口答で行ったアンケートの結果は以下の通

りである。

S30W45W60S45

S60

W30

S30W45W60S45

S60

W30

□Borg ScaleBorg Scaleによって身体の疲労及び負担感を計測した。結果は上記の通りとなった。全身と腰を比較すると、やや全身の負担感の方が大きい値を示しているものの、負担を感じた

しつらえの順序は全身・腰共に一致している。つまり、主観的負担感においては、全身の疲労感と腰の疲労感がほぼ一致することが予測出来る。Borg Scaleのアンケートによれば、最も負担が少ないものはS45(広さが狭い650高さが

450)の時が最も負担を少なく感じており、また、その評価は「11.25」「11.875」の[楽である」と「ややきつい」の間という負担感であった。最も負担が大きいと感じられたものはW30(広さが800の広い方高さが300)のしつらえであった。このBorg Scale値は「13」「14」で、「ややきつい」と「きつい」の間という負担感であった。この評価からは、移乗の介助は負担があま

図3--3-

図3--3-

6 三次元動作分析実験

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S30S45S60W30W45W60

S30S45S60W30W45W60

り大きくないように捉えられる。しかし、散布図を見ると全体的に広く分散していることが捉えられる。例えば全身においてW30(広さ800高さ300)というしつらえでは、9から19まで幅がある。全体的には、一つのしつらえの評価が約6~7の幅を持っている。ただし、全身・腰共にW60(広さ650高さ600)のみは分布の幅が3~4と狭く表れた。W60というしつらえでは個々の負担感の差が小さいということが言える。以下は、Borg Scaleの平均値と全体の分布を比較したグラフである。ピンク色の折れ線が平均値を、青の円が分布を示している。分布については、同じしつらえで同じBorg値を答えた場合、円の大きさでその重なりを表すこととした。円が大きい程その値を答えた被験者が多いということになる。

図3--3-

図3--3-

6 三次元動作分析実験

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□その他のアンケート項目「Q.3 負担を感じたのはいつですか?」という質問項目について、「相手を持ち上げた時」の

解答が圧倒的に多かった。ついで多かったのが相手を下ろす時であった。ただし、W60(広さ800高さ600)の時のみ相手をおろす時の負担感の方が大きかった。実際腰部モーメントもW60は持ち上げ時よりも下ろし時の方が値が大きかった。

「Q.4 腰よりも負担を感じたところ」は「無し」つまり腰が最も負担が大きかったとの解答が多かったものの、次いで多かったのが腕・肩との解答であった。被験者は腰だけではなく、腕や肩も移乗に利用していたこと、またその負荷がかなり大きいことがうかがえた。

図3--3-

図3--3-

6 三次元動作分析実験

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「Q.5 この動作に痛みはありましたか?」「Q.7 その痛みはどの程度でしたか?」の質問に対し、唯一W30とW45において1名ずつ痛みがあると答えているものの、ほとんどが無いとの解答であった。痛みがあるとの解答にも、その痛みは「相手を持ち上げた時/耐えられる程度の痛み」「相手を下ろす時/わずかな痛み」と、あまり大きな痛みではなかったことが分かる。

「Q.8 この動作はどうでしたか?」の質問に対しては、以下のグラフの通りとなった。このグラフもバブルチャートで表している。同じしつらえに対し、同じ答えをしたものは円の大きさでその数を表している。円が大きい程、同じ回答があったことが伺える。バラつきがあるが平均(青線)をとると、高さ450のものが介護スペース650,800共に「動作がしやすい」指標が高かった。また高さ600介護スペース800の広い・高い組み合わせも「動作がしやすい」という指標が高かった。

S30 S45 S60 W30 W45 W60

図3--3-

図3--3-

6 三次元動作分析実験

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■■6-4分析■■得られた腰部モーメントのデータを統計処理を通して分析する。

■6-4-1持ち上げと下ろしごとの全体の比較■三次元動作分析実験により、腰部モーメントは「持ち上げ」と「下ろし」の2動作のいずれか

において最大値をとることが分かった。しかし、6-1-2「筋の求心性収縮及び遠心性収縮」に記した通り、本実験のこの「持ち上げ」と「下ろし」の2動作は異なる。以上より、本実験で行う「持ち上げる」という動作はベッドの各3種類について異なる高さから腰部は「求心性収縮」による筋活動を行うが、「下ろす」という動作では車椅子の高さ(450mm)という一定の高さに下ろす、つまり遠心性収縮を行う。ベッドの高さは3種類それぞれ異なるが、どの高さにおいても「下ろす」動作に関しては高さは同じである。つまり、「下ろす」という動作は設定した高さには関係ないのではないかと考える。

ここで、その仮説を示すべく、統計処理を行う。□検定方法SPSSにより、一元配置の分散分析と多重比較を行った。前年度の「身体への負荷からみた収

納行動とデザインの研究」(松井香代子/2004)に倣いTukeyの方法をとった。

6 三次元動作分析実験

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<下ろし時について比較>

図6-4-1

α

□検定結果検定の結果、「下ろし」時においては、広さと高さにによる6種類のしつらえ全てにおいて有

意な差は無いという結果が得られた。つまり、「車椅子に下ろすという動作において、ベッドの高さに関わらず腰部モーメントの最大値に差はない」という仮説が実証される。

6 三次元動作分析実験

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次に「持ち上げ」時において検定を行う。<持ち上げについて比較>

図6-4-2

α

6 三次元動作分析実験

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□検定結果検定の結果、「持ち上げ」という動作において以下の6組で有意な差が見られた。①S30-S60 :高さ300広さ650と高さ600広さ650/高さの違い300-600 ②S30-W60 :高さ300広さ650と高さ600広さ800/高さの違い300-600と広さの違い③W30-S60 :高さ300広さ800と高さ600広さ650/高さの違い300-600と広さの違い④W30-W60:高さ300広さ800と高さ600広さ850/高さの違い300-600と広さの違い⑤S45-S60 :高さ450広さ650と高さ600広さ650/高さの違い450-600⑥S45-W60 :高さ450広さ650と高さ600広さ800/高さの違い450-600と広さの違い

有意な差が認められる組み合わせが6種あったことから、移乗動作において「持ち上げ」については高さ及び広さにより差が生じるということが言える。つまり「持ち上げ」に関しては高さと広さによるしつらえの差異により負荷を軽減出来る余地があると言える。

6 三次元動作分析実験

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図6-4-3

図6-4-4

■6-4-2同じしつらえにおける持ち上げと下ろしの比較■次に、同じ高さ同じ広さにおいて「持ち上げ」と「下ろし」の動作に差は見られるのか検定を行っ

た。

□検定方法一元配置の分散分析を行った。ここで分散分析は次の仮説H「仮説H:「持ち上げ」と「下ろし」の腰部モーメントの最大値の平均は各しつらえにおいて同じ」を検定している。持ち上げをup,下ろしをdで表記する。

6 三次元動作分析実験

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図6-4-5

図6-4-6

図6-4-7

6 三次元動作分析実験

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図6-4-8

検定結果から、以下のことが言える。

分散分析によって以下の仮説を検定した。「仮説H:「持ち上げ」と「下ろし」の腰部モーメントの最大値のばらつきはS45(高さ450広

さ650)において互いに等しい」検定等計量F=4.493998063で、そのときの有意確率(P-値)は0.340898434そこで有意確率を有意水準と比較すると有意確率=0.340898434>有意水準α=0.05なので、仮説Hは棄てられない。従って

「S45において「持ち上げ」と「下ろし」の腰部モーメントの最大値のばらつきには差がない、お互いにばらつきが等しい」ということが分かる。

同様にしてW45(高さ450広さ800),S30(高さ300広さ650),W30(高さ300広さ800)における移乗動作の「持ち上げ」「下ろし」の腰部モーメントの最大値のばらつきに差がない

6 三次元動作分析実験

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ことが分かる。一方で、「仮説H:「持ち上げ」と「下ろし」の腰部モーメントの最大値のばらつきはS60(高さ600広

さ650)において互いに等しい」を検定した結果、検定等計量F=4.493998063で、その時の有意確率(P-値)は4.05992E-05(0.0000405992)そこで有意確率を有意水準と比較すると有意確率=4.05992E-05<有意水準α=0.05なので、仮説Hは棄却される。従って

「S60において「持ち上げ」と「下ろし」の腰部モーメントの最大値のばらつきには差がある」ということが分かる。

同様にしてW60(高さ600広さ800)における移乗動作の「持ち上げ」「下ろし」の腰部モーメントの最大値のばらつきにも差があっ

た。

7考察

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■■■7.考察■■■筋収縮の違いから、移乗動作を「持ち上げ」と「下ろし」の2動作が含まれた動作として捉え

たところ、この2動作のいずれかを行っている時に腰部モーメントは最大値を取ることが分かった。このため、「持ち上げ」時及び「下ろし」時に分類しモーメントを比較することを前章で行った。腰部モーメントの最大値の平均を各しつらえごとに「持ち上げ」と「下ろし」時で比較した結果、ベッドの高さと介護するスペースの大きさの組み合わせで成る計6種類のしつらえにおいて、S30という高さ300広さ650というしつらえ以外は、全て「下ろし」時の方が大きかった。(図7-1)

図7-1

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しかし、SPSSによる多重比較を行ったところ、「下ろす」動作においては6種類全てのしつらえにおいて統計学的に有意な差が見られた無かった。本実験の移乗動作は、3種類の異なる高さのベッドで実験を試みているが、移乗先である車椅子は一般的な車椅子の高さである450で高さを固定した。このため、「下ろす」対象が車椅子である限り、遠心性収縮の筋活動においては同じ動作となり、腰部負荷の量は変わらなかったのではないかと考える。よって「下ろし」という動作に関してベッドの高さ・ベッド周りの広さは腰部負荷にはさほど影響を与えないと言える。本論文の1章で、介護者の腰痛が主に2種類にわけられると述べた。この2種類とは筋・筋膜

性腰痛と腰椎退行変性であるが、これらの発症の主たる要因の一つに長期にわたって負荷をかけつづけていることがある。ここで、腰の負荷は蓄積があると考える。実験の結果として得られた腰部モーメントの最大値のデータは、ほとんどのしつらえにおいて「持ち上げ」より「下ろし」の値の方が大きく、2種類は有意な差であったが、その「下ろし」の値はどの高さでもどの広さでも負荷の大きさに差が生まれなかった。しかし、腰部の負荷の蓄積する量をおさえる事、つまりもう一つの“大きな腰部モーメントをとる時”である「持ち上げ」時における腰部負荷を減ずることは可能である。移乗動作により蓄積される腰部負荷を少しでも軽減するため、2つの内持ち上げ時の腰部負荷をいかに軽減するかに焦点を当てる事とした。

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図7-2

以下、新たに「持ち上げ」について述べる。

<高さによる腰部負荷軽減>SPSSによる多重比較を行った結果、有意な差がみられる組み合わせとして6種類得る事が出

来た。①S30-S60②S30-W60③S45-S60④S45-W60⑤W30-S60⑥W30-W60

図7-2に示す通り、腰部モーメントの最大値の平均は、腰部負荷の小さいものから順に、以下の順位を示した。左からモーメントの値が小さい。赤の線は有意な差がみられた上記の組み合わせを結んだものである。

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図7-3

S30

W60

W30

W45

S60

S45

S W

300

450

600

グラフ(図7-2)より最も腰部に負荷の少ないものはベッドの高さが600のもので、300より600、450より600と、高さが高い程腰部負荷は小さくなる事が読み取れる。また、差は有意ではないものの、同一高さにおいて300と450においては、S(介護スペース650)よりW(介護スペース800)が負荷がより小さい。唯一600の時のみSよりWが負荷が少なかった。ここで、行われた介護動作を振り返ると、ベッドの高さが300と450においては、前傾姿勢

のかがみが深くなり、臀部を突き出す姿勢となる。このため、被験者から度々「壁に臀部が当たる」という訴えがあった。また国際医療福祉大の理学療法学科の学生が同じ動作を行っていた際に力のある男子生徒は「自分の体の上に被介護者を乗せるように重心を低く持ち上げる」と述べている。このことからWの広いしつらえの方が後方を意識せず膝を自然に曲げることが可能となり、腰部に負荷がかかりにくくなっていたのではないかと推測した。一方で600から450の車椅子への移乗は、300と450に比べS(広さ650)とW(広さ800)のモーメントの差は半分程度で、約0.04という数値のため、ほぼ差は無いに等しいと言える。しかし、差が現れた要因を考察するならば、600は被介護者を高さの高いところから下ろす動作となり、どの被験者においても他の2つの高さに比べて膝の曲がり具合が小さい。広いしつらえにおいては臀部が後方に突き出す形をとってしまい、膝を曲げずに腰が曲がっている状態となる。このためWの広い方がやや負荷が大きくなったのではないかと考えられる。よって、上記の考察内容から有意な差の見られた組み合わせは以下の通り整理出来る。矢印が

ひいてあるものが有意な差が見られた組み合わせであり、矢印の矢の向いている方向がより負荷が小さいものとしている。(図7-3)

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S30

S60

S45W30

W45W60

S30S60

S45

W30

W45W60

LBM-X Borg Scale 全身 Borg Scale 腰負担小

負担大

S30S60

S45

W30

W45W60

図7-4

W45W60

W45W60

LBM-X Borg Scale 全身 Borg Scale 腰

S30

S60

S45W30 S30

S60

S45

W30

負担小

負担大

S30S60

S45

W30

W45W60

図7-5

S30

S60

S45S30S60

S45

LBM-X Borg Scale 全身 Borg Scale 腰

S30S60

S45

W30

W45W60

W30

W45W60

負担小

負担大 W30

W45W60

図7-6

<広さによる腰部負荷軽減>次に、身体的負担とBorg Scaleによって得られた主観的負担感の比較を行う。図7-4は持ち上

げ時における腰部モーメントの順位とBorg Scaleの全身と腰部の負担感の順位を並べたものである。

Borg Scaleは全身と腰で全く同一の順位となった。この事から、腰部の負担感と身体の負担感は一致していると言える。一方、腰部モーメントとの比較ではW60(高さ600広さ800)とW45(高さ450広さ800)において主観的負担感と身体的負担が一致した。(図7-5)

しかしS60(高さ600広さ650)は身体的負担としては最も少ないのだが、負担感においては順位が真ん中で、負担が少ないという実感はあまり感じられていない。またS45においては身体的負担はさほど小さくないにも関わらず、負担感は最も少ない。また高さ300に関しても狭いしつらえ(広さ650)と広いしつらえ(広さ800)で、身体的負担の順位と負担感の順位が入れ替わっていた。S45というしつらえは、600の高さのしつらえ2種に対して統計学的に有意な差が見られS45

の方が負荷が大きいと言う結果が出たにも関わらず、それらを抑えて最も負担感の少ないものとしてあがっている。

11楽である

13ややきつい

12普通

(11.875)

(14)

(11.25)

(13)

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Borg Scale

14

12

10

図7-7

以上のことから、“狭い”という空間要素は身体的負担と主観的負担感を認識しづらくさせる要因になっているのではないかと考えられる。つまり、狭いという要因によって、実際は負担の小さな動作も負担があるように感じられたり、負担がさほど小さくないしつらえをもっとも負担の軽いしつらえのように感じる可能性があるということである。

確かに、本実験において多重比較の結果、介護スペースが650と800において腰部モーメントには有意な差は見られなかった。しかし、主観的負担感が実際の負荷量と異なる結果が出たということは、介護者にとって650というしつらえが、実際にかかっている腰部への負荷を認識しづらくさせているのではないかと考えられる。実際の負荷を認識しづらいということは、介護を行う上で腰痛に関して油断した姿勢をとる可能性が高いと言える。1-5-2で述べた通り、看護士へのアンケートでは腰痛発生の要因についての自己診断で「被介護者の体重が予想より重かった」が5割弱、「無理な姿勢で介護した」と4割弱が回答している。つまり、腰痛発生において無理な姿勢を取り易い空間とは、注意すべきなのである。以上より、介護スペースは腰部への負荷だけを述べるならば、移乗において最低650のスペー

スを確保することが必要ではあるが、「介護者の負担」の内の一つである精神的な、負担「感」も加味することは腰痛になりやすい姿勢の予防、負担感の軽減が可能となるため、移乗における介護スペースは650ではなく800必要であると考える。よって、前述の高さによる調整では腰部負荷の軽減が可能に、650を800にすることで負担「感」の軽減が可能になると言える。

また、介護保険制度の改正に伴いレンタル福祉用具の普及が高まり、5章の在宅介護者に対するアンケートにおいてベッド周囲にはポータブルトイレをはじめとする様々な福祉用具が置かれている状況が現れていた。そして、介護居室における負担に感じる要素の上位2つが「ベッド周りが狭い」「物が多い」であった。ギャッジベッドを利用する、日常生活において介助を必要とする虚弱高齢者(以下被介護者)は、時間の経過と共に痴呆の進行や身体能力の減退が、個人差はあるものの、確実に起こる。それとともに被介護者の行動範囲が収縮することは容易に予想がつくことである。また同時にこの行動範囲の収縮は、ベッド周囲への“モノの集まり”を引き起こす。身体能力の低下が重なると、更に福祉機器の数の増加が起こる。このような現状の中で、福祉機器を配置する上でも、介護者の腰部負荷を軽減すべくベッド周

囲には最小でも650.余裕を持つならば800確保すべきである。

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図7-8

図7-9

現在のベッド高さ

S介護スペース 650

W介護スペース 800

300

450

600

主観的負担感大 主観的負担感小

腰部モーメント大

腰部モーメント小

設計資料集成では、在宅における医療最小モデルとして上記のモデル(図7-8)を提示している。しかし現在介護は三方介護というベッドの左右と足下の三方向から介護を行うことが基本とさ

れている。そこでこのように片側を壁に付けたモデルでいいのだろうか。また、ギャッジベッドが一般の介護者を抱える家庭に普及している現在、医療の最小モデルは平面だけで述べる事ができるのだろうか。また高齢者介護に置いて、高齢者が様々なバックグラウンドを持ち、さらに体調や病状も様々なため、高齢者在宅モデルは“これがいい”といった提示方法ではなく、介護者及び被介護者の生活によって異なるモデルが求められるはずだと考えた。よって本研究による、“介護者の負担軽減をはかるベッド周り空間”の展開について、いくつかの例を上げる。

上記のグラフを参照にして以下、介護者の腰部負荷を軽減するプログラムを提案する。

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□ベッドの元の高さが300の在宅介護家庭・被介護者に認知症が見られるため、ベッド上で立ち上がってしまったり、本人の運動能力を

認識出来ずベッドから落下してしまう可能性がある。そのため、ベッドを最も低い高さに設定している。・最近では主介護者は配偶者で介護者が同室にて寝起きする場合、配偶者は布団、被介護者は

ギャッジベッドを利用というケースもあるという。この場合、就寝時の目線の高さをなるべくそろえようと高さを最も下げている。→高さ300においては、ベッド周囲が650ある場合と800ある場合が存在する。有意な差と

してまず現れたのが高さ600広さ650、高さ600広さ800の2パターンである。介護居室に余裕がある場合は広さを800にし「負担感」の軽減にもつとめるが、居室に余裕がない場合は広さは最低650の確保をし、高さを移乗の度に600に上げる事で腰部モーメントを有意な差をもって軽減することが出来る。

□ベッドの元の高さが450の在宅介護家庭・被介護者の身体能力がまだ残っている場合、補助を受ける等してつかまり立ちが出来る場合、

いざりによるポータブルトイレへの移乗等が可能な場合は、ベッドをトイレと同じ高さに設定していて変更しない場合がある。特に被介護者本人がおむつ等の着衣を拒み、出来る限りポータブルトイレで用を済ませるという意思が強い場合に多い。・ギャッジベッドを導入せず、一般に販売されているベッドを利用している場合→高さ450において、ギャッジベッドの場合は高さを600にあげることで有意な差がうまれる。

さらに居室に余裕がある場合は介護スペースを800確保、余裕がない場合は650の確保が必要である。いずれの場合も腰部負荷の軽減に有意な差が現れる。ギャッジベッドではなく一般的に販売されているベッドを利用している場合、介護スペースは650から800に広げることで腰部負荷は有意な差をもって軽減される。 

□ベッドの元の高さが600の在宅介護家庭・被介護者の身体能力が低く誤って転落する可能性が低い場合、もしくは被介護者に認知症が

見られず同様に誤って転落する可能性がない場合、ベッドの高さを600近くまで上げている家庭も存在する。→そのままの高さで移乗を行っていて構わない。「負担感」を軽減するためにはベッド周りの

介護スペースを800とれるとよい。 

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□既存介護居室への提案例アンケートで調査した、現在在宅介護が行われている居室(5-3)への提案を例として行う。

B

ポータブル・トイレ

TV

タンス

タンス

椅子

1550 1000

590

100

風呂 洗面台

リビング

0 1 2M900 1800mm

1050×2010

C

テーブル

仏壇

トイレ

押入

棚(薬 陰洗ボトル)

パット おむつ置場

リビング

3090

300

1050 1500

0 1 2M900 1800mm

1050×2010

A

棚(薬 パット)

枕 クッション置場

TV

トイレ

リビング1650

590

0 1 2M900 1800mm

1050×2010

100

B

870

風呂 洗面台

リビング

0 1 2M900 1800mm

タンス

タンス TV

1050×2010

ポータブル・トイレ 椅子

C

テーブル

仏壇

トイレ

押入

リビング

1650

650

0 1 2M900 1800mm

1050×2010

パット おむつ置場

棚(薬 陰洗ボトル)

A

トイレ

リビング800

0 1 2M900 1800mm

TV棚(薬 パット)

690

1050×2010

枕 クッション置場

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400 2150

200

490

D

洋服掛け

0 1 2M900 1800mm

1050×2010

200

490

200 2350

E

TV

テーブル

0 1 2M900 1800mm

1050×2010

100 1550

690

F

TV

タンス

洋服掛け

0 1 2M900 1800mm

1050×2010

2150

100

590

plan scale:1/50G

クローゼット

ポータブル・トイレ

TV

タンス

0 1 2M900 1800mm

1050×2010

plan scale:1/50G

クローゼット

0 1 2M900 1800mm

690

タンス

1050×2010

ポータブル・トイレ

TV

D0 1 2M

900 1800mm

洋服掛け

1050×20101750

1850

E0 1 2M

900 1800mm

テーブル

TV

1050×2010650

F

TV

タンス

洋服掛け

0 1 2M900 1800mm

690

1050×2010

650

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図7-10

1050mm 1000mmplan scale:1/100

800mm 800mm

病室での展開例

1015

3000

1500

3000

800mm00 1 2M

plan scale:1/100800mm0

0 1 2M

<展望>今回は高齢社会の中で必須とされる在宅介護において、介護者の腰部負荷を軽減するベッド周

りに対し研究を行ってきた。その結果上記の考察を行ったのだが、移乗介助は在宅だけでなく施設においてもまた病院でも行われる。また、1章で述べた通り、介護施設における介護・看護職員の腰痛もまた深刻である。本研究のベッド周囲における、腰部負荷を軽減する寸法体系はそれら福祉施設及び病院にも発展させられる可能性がある。以下例を挙げる。A.病室における展開(参考:東京臨海病院)(図7-10)一般的に見られる病院の4床室において、各ベッド間はカーテン等で仕切られている。4床を

この病室に均等に配置すると、以下の様にベッドで囲われる空間が1015*3000という広さを持つ。しかし、看護士の腰部負荷に着目し、ベッド片側に移乗によるスペースを800確保したところ、病室の真ん中に余裕のあるスペースが生まれる。看護士の腰部負荷を抑えるために必要なスペースを確保しつつ、ベッド間を離す事が可能となり、看護士や患者や見舞い人の移動をスムーズにさせる・多床室のスペースの有効活用・さらにベッド上での応急処置等の場合に反対側の余裕のあるスペースを使えるといったことが可能となる。

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図7-11

1200mm

800mm

福祉施設での展開例

1500

1500

2000

2000

plan scale:1/100800mm0

0 1 2M

plan scale:1/100800mm0

0 1 2M

B.福祉施設における展開(参考:芦花ホーム)(図7-11)特別擁護老人ホームといった介護福祉施設においても本研究は展開可能である。昨今はホーム

の個室化が進んでいるが、居室において左右均等に配置を行うと上の図のようになる。しかし介護職員の腰部負荷に注目し、ベッドの片側に800のスペースを確保することで入り口周りのスペースが広がり、介護者の腰部負荷を軽減すると共に、万が一入所者の具合が悪くなった際に、担架やベッドでの移動や治療をするスペースが確保出来る。

8 まとめ

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■■■8.まとめ■■■本研究で明らかになった事は、以下の通りである。

*1.介護者の移乗動作における、腰部負荷を軽減させる最も大きな要因となるものはベッドの高さである。ベッドの高さは600が最も腰部負荷が小さく、300は最も腰部負荷が大きかった。よって、ベッ

ドの高さは高い程負荷を軽減させる効果があると言える。

*2.腰部の身体的負荷と主観的負担感は必ずしも一致しない。負担感の軽減を図るためには、広さは800必要である。

*3.高齢者介護における介護者の負担を軽減するには、設計資料集成の最小医療モデルのように、適した一つのモデルを定義するのではなく、各々の家庭の状況や部屋のしつらえに応じてよりよいとされるしつらえを提示することが求められる。在宅介護では、始めから介護に合わせた空間作りがなされている事は少ない。そこで、在宅介

護において、より負荷の少ないモデルの定義には各々の現況をまず把握し、それに対してよりよりモデルをそれぞれについて述べられる様な、幅のあるものが求められる。

*4.本研究は住宅内のみではなく、高齢者施設や病院といったあらゆる移乗介助が行われる施設においても展開が可能であり、これによって、介護士及び看護士の腰部負荷に対し配慮をしたベッド配置計画が可能となり、部屋に新たなスペースの確保をすることが可能となる。

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*2の詳細移乗介助を行うスペースが車椅子が入るギリギリの広さ650と、移乗において適しているとさ

れる車椅子を30~45°傾けられる広さ800で比較を行ったところ、狭いしつらえでは身体的負荷を正しく認識出来ないことがあった。主観的負担感と身体的負荷を認識し間違えるということは、腰痛に対して油断した姿勢をとる可能性があるということである。また、広さ650の場合、負荷が小さいしつらえでも負担感は大きいパターンもあったことから、負担感軽減及び腰痛に対する「予防措置」を考慮するならば、広さは800確保すべきと考える。

*3.今の現状からよりよいしつらえに対し、高さによる負荷軽減、広さによる負荷軽減を選択できる「選択誘導型モデル」を提示する。

現在のベッド高さ

S介護スペース 650

W介護スペース 800

300

450

600

主観的負担感大 主観的負担感小

腰部モーメント大

腰部モーメント小

図8-1腰部負荷軽減域

9おわりに

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■■■9.おわりに■■■論文を締めくくるにあたり、本当に自分一人の力ではここまで出来なかった事を思います。本

当にたくさんの人に協力していただいたおかげで、論文として形にすることが出来ました。viconの実験では、実験施設が遠いにも関わらず、皆さん忙しいのにも変わらず、とても協力

してくださいました。浅野さん、バイトの時間ギリギリまで手伝わせてしまった中村さん、小川さん、田中さん・川島さん、平田さん、菊池くん、そして2回もお手伝いしてくださった永池さん、嶋本くん、同じviconで相談に乗ってくれた大河内くん、本当に本当にありがとうございました。そして、忙しい中、被験者として理想の体型をしていたからとお願いしてしまった服部君、2日間嫌な顔一つせず手伝ってくれて本当に本当にありがとう。また、卒論生のみんな、本当に楽しい卒論合宿でした。みんながいたお陰で目も覚めて論文に

励む事ができました。みんなと一緒に長く居られたのが、実はとても嬉しかったんです。本当にお疲れさまでした!遠田さんはゼミが違うにもかかわらず、度々励まして下さり、また考察では大変お世話になり

ました。考察を書く事が出来たのは遠田さんのお陰です。澄子さんは、八王子でお世話になりました。澄子さんの的確な質問とアドバイスはとても参考になりました。松井さんと勝平さんには、実験から統計処理の仕方、その他様々なことをいつも質問していました。その度に丁寧に答えて下さった事、ありがとうございました。白幡さん、具合が悪くなった時にはバイクをとばして薬を買ってきて下さった事、本当にありがとうございました。また、アンケートで大変お世話になった野中さん、白崎さん、新宿区の在宅介護支援センター

の方々、。そしてヘルパーの皆さん、本当にありがとうございました。長嶋のおじさんおばさん、河野のおじさんおばさん、いつも気にかけてくれてた事、とても嬉しかったです。そして、いつも的確なアドバイスをしてくださり時には差し入れまでして励ましてくれた礼子

さん、8ヶ月間本当にありがとうございました。担当者が礼子さんで本当に本当に良かったです。いつもいつも自慢の担当者でした。朝から晩まで、それに誕生日まで実験に付き合って下さり、そしていつも笑顔でいてくれた礼子さんには何度も救われました。時には叱咤していただき、また色々な相談までのっていただいた長澤さんには感謝ばかりです。

どうしてもやりたかった高齢者介護と建築を、長澤さん無しには論文の形には出来ませんでした。散々ご迷惑をおかけしてしまったこと、本当にごめんなさい。そして本当にありがとうございました。そして仁史先生、3年の時から憧れ続けた研究室で、ようやく先生のもとで研究をすることが

出来ました。私は足りないところだらけでしたが、先生のあたたかいご指導のお陰でいつも救われました。本当に本当にありがとうございました。最後に、甘粕さん、悩み相談から執筆の手伝いまで本当にありがとう。いつもいつも励まして

くれてありがとうございました。そして、お父さん、お母さん、おばあちゃん、いつも介護と真っ正面に向き合っている姿を見て、私は進む道を見つける事が出来ました。この場を借りて、お礼を言いたいと思います。本当に本当にありがとうございました。2005.11.21 簾藤 麻木

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■■■参考文献■■■ ■参考書籍■1)日本建築学会編:コンパクト建築設計資料集成バリアフリー、丸善株式会社、2002.42)日本建築学会編:建築設計資料集成【人間】、丸善株式会社、2003.13)米木英雄:在宅介護時代の家づくり・部屋づくり、寿郎社、2001.14)野村歡、橋本美芽:住環境のバリアフリーデザインブック、彰国社、2003.65)秋山哲男、池田誠、大津慶子、大原一興、菊池恵美子、木之瀬隆、長澤泰、萩田秋雄、八藤後猛、山下哲郎、横山勝樹:バリアフリーの生活環境論 第3版、医歯薬出版株式会社、2004.46)岩橋成子:知っておきたい介護技術の基本、誠信書房、1997.107)岩井一幸、奥田宗幸:図解すまいの寸法・計画事典 第二版、彰国社、2004.98)筒井孝子:高齢社会のケアサイエンスー老いと介護のセイフティネット、中央法規出版、2004.69)楢崎雄之:図解 高齢者・障害者を考えた建築設計、井上書院、2004.410)ヤン・ポールソン:新しい高齢者住宅と環境、鹿島出版会、2000.511)春日キスヨ:介護問題の社会学、岩波書店、2001.612)鈴木広、木下謙治、小川全夫:家族・福祉社会学の現在、ミネルヴァ書房、2001.613)新版 社会福祉士養成講座 老人福祉論(第3版)、中央法規出版、2005.314)コーヘン・ユリエル、ジェラルド・D・ワイズマン:老人性痴呆症のための環境デザインー症状緩和と介護をたすける生活空間作りの指針と手法、彰国社、199515)古瀬敏:建築とユニバーサルデザイン、オーム社、2001.616)武藤芳照、田島寶、山田均:介護者の腰痛予防ー腰を守るための介護姿勢と環境整備ー、日本医事新報社、2005.217)東京商工会議所:福祉住環境コーディネーター検定2級テキスト改訂版、東京商工会議所、2001.618)渡辺光子:2004年版福祉住環境コーディネーター3級短期合格テキスト、日本能率協会マネジメントセンター、2003.1219)内閣府:「暮らしと社会」シリーズ 平成17年版 高齢社会白書、株式会社ぎょうせい、2005.620)石井貞夫:SPSSによる分散分析と多重比較の手順、東京図書、200221)石井貞夫、鍵和田京子:よくわかる卒論・修論のための統計処理の選び方、東京図書2001■参考既往論文■1)牛山琴美:腰に負担のかからない健康すまいの研究、20032)松井香代子:身体への負担から見た収納行動とデザインの研究ー腰部負荷を中心とした収納計画評価ー、20043)高齢化社会における家族の介護負担の軽減に関する研究、日本社会事業大学社会事業研究所、1995.3

■参考web site■1)平成17年板 高齢社会白書 概要、http://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2005/gaiyou/17indexg.html2)平成15年度 年次経済財政報告(経済財政政策担当大臣報告)ー改革なくして成長なしⅢー、内閣府、2003.10http://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je03/03-00303.html

* 資料編