544 chemotherapyfa.chemotherapy.or.jp/journal/jjc/18/5/18_544.pdf2018/05/18  · cero.001で...

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544 CHEMOTHERAPY SEPT. 1970 Cefazo1inの 基礎的臨床的研究 真下啓明 ・加藤康道 。斎藤 玲 ・桜庭喬匠 田中一志 ・松井克彦 ・出内秀人 ・矢島 北海道大学第二内科 中山一朗 札幌鉄道病院内科 富沢麿須美 札幌北辰病院内科 松本義孝 北見 日赤病院 内科 Cefazolin(以 下CEZと 略)は1967年 藤 沢 薬 品 中 央 研 究 所 で 開 発 さ れ た 新Cephalosporin誘 導 体 であ る。 本 剤 はCephalosporiumaoremoniumが 生 産 す るCe- phalosporinCか ら 得 ら れ る7-aminocephalosporallic acidの7位 に1-(1H)-tetrazolacety1基 を導 入 し, さ ら に3位 のmethy1基 につ くacetoxy基 を2-(5- methy1-1,3,4-thiadiazoly1)-thio基 で置換 した新規 化 合 物 で あ る 。 他 のCephalosporin誘 導 体 と同 じ く広 範 囲 の抗 菌 ス ペ ク トル を有 し,か つ殺菌的に作用すると いわれる。 また 大 腸 菌,肺 炎桿菌への抗菌力は他 Cephalosporin誘 導 体 に比 較 して期 待 が もた れ て い る。 今 回 本 剤 に つ い て,抗 菌 力,吸 収排泄等 の体 内 動 態,蛋 白 結 合,免 疫学的検討および臨床効果について検討を行 なつたので報告する。 実験方法ならびに実験結果 1) 抗 菌力 教 室 保 存 の病 巣 よ り分離 した 黄 色 ブ 菌47株,大 腸 菌14 株 お よび緑 膿 菌4株 を 用 い,日 本化学療法学会標準法に 従 い 平 板 稀 釈 法 で 最 小発 育 阻 止 濃 度(MIC)を 検討 た。Heartinfusion寒天 培 地 を 用 い,Tryptosoy broth18時 間 培 養 菌液 を1白 金 耳 画 線 塗 抹 し,18時間 培 養後肉眼的集落発生の有無で判定 した。 使用薬剤は CEZ,Cephaloridine(CER),Cephalothin(CET)お よびCepha1exin(CEX)の4剤につ い て 行 な つ た。 結 果 はTab.1,2に 示 し た 。 黄 色 ブ 菌47株 で,CEZは MICの ピー クが0.8mcg/mlにあつ て18株,1.6と3.1 mcg/m1にそ れ ぞれ10株ず つ で あつ た。CERは 幅広い 分散 を示 し,0.8と3.1mcg/m1にそれ ぞれ10株ず つ の 山 が あ つ た 。CETは ピー クが0.4mcg/mlにあ つ て24 株,0・8mcg/mlが16株で 分 散 が少 なか つ た 。CEXは 前3剤 に 較 べ て 劣 り,ピ ー ク が6.3mcg/mlで22株で あ つ た。以 上 よ り黄 色 ブ菌 に対 す る抗 菌 力 はCETが く,次 い でCEZ,CERが 同 程度 で あ る が,CERの 方 がMICの 低 い値 の ものが 多 か つた 。CEXの 抗菌力 は一番悪かつた。 大 腸 菌14株 で は6.3mcg/m1以下 の も の がCEZ8株,CER11株,CET1株,CEXな しで CER,CEZ,CET,CEXの 順 で あつ た。緑 膿 菌4株 対 して は 全 く抗 菌 力は な かつ た。 2) 吸 収,排 泄および体内分布 i) イ ヌ の 血 中 濃 度,胆 汁中および尿中排泄 2頭 の イ ヌを 麻 酔 下 開腹 し,総 胆 管 に ポ リエ チ レソ管 を,膀 胱セこはカテーテルを挿入し,そ れぞれ胆汁および 尿を 採 取 出 来 る よ うに して,CEZ20mg/kgを股 静 脈 よ Tab . 1 Susceptibility of Staphylococcus aureus to Cephalosporins (Plate dilution method)

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544 CHEMOTHERAPY SEPT. 1970

Cefazo1inの 基礎 的 臨床 的研 究

真下啓明 ・加藤康道 。斎藤 玲 ・桜庭喬匠

田中一志 ・松井克彦 ・出内秀人 ・矢島 敢

北海道大学第二内科

中山一朗

札幌鉄道病院内科

富沢麿須美

札幌北辰病院内科

松本義孝

北見日赤病院内科

Cefazolin(以 下CEZと 略)は1967年 藤 沢 薬 品 中央

研 究所 で 開発 され た 新Cephalosporin誘 導 体 であ る。

本 剤 はCephalosporiumaoremoniumが 生 産 す るCe-

phalosporinCか ら得 られ る7-aminocephalosporallic

acidの7位 に1-(1H)-tetrazolacety1基 を導 入 し,

さ らに3位 のmethy1基 につ くacetoxy基 を2-(5-

methy1-1,3,4-thiadiazoly1)-thio基 で置 換 した 新規

化合 物 で あ る。 他 のCephalosporin誘 導 体 と同 じ く広

範 囲 の抗 菌 ス ペ ク トル を有 し,か つ殺 菌 的 に作 用 す る と

い わ れ る。 また 大 腸 菌,肺 炎 桿 菌 へ の 抗 菌 力 は 他 の

Cephalosporin誘 導 体 に比 較 して期 待 が もた れ て い る。

今 回 本 剤 に つ い て,抗 菌 力,吸 収排 泄等 の体 内 動 態,蛋

白結 合,免 疫 学 的 検 討 お よ び臨 床 効 果 に つ い て検 討 を行

な つた の で報 告 す る。

実 験 方 法 な らび に 実 験結 果

1) 抗 菌 力

教 室 保 存 の病 巣 よ り分離 した 黄 色 ブ菌47株,大 腸菌14

株 お よび緑 膿 菌4株 を 用 い,日 本 化 学 療 法学 会 標準 法 に

従 い 平 板 稀 釈 法 で 最 小発 育 阻 止 濃 度(MIC)を 検 討 し

た。Heartinfusion寒 天 培 地 を 用 い,Tryptosoy

broth18時 間 培 養 菌液 を1白 金 耳 画 線 塗 抹 し,18時 間 培

養 後 肉眼 的 集落 発 生 の 有 無 で 判 定 した 。 使 用 薬 剤 は

CEZ,Cephaloridine(CER),Cephalothin(CET)お

よびCepha1exin(CEX)の4剤 につ い て 行 な つ た。 結

果 はTab.1,2に 示 した。 黄 色 ブ菌47株 で,CEZは

MICの ピー クが0.8mcg/mlに あつ て18株,1.6と3.1

mcg/m1に そ れ ぞれ10株 ず つ で あつ た。CERは 幅 広 い

分散 を示 し,0.8と3.1mcg/m1に それ ぞれ10株 ず つ の

山が あつ た。CETは ピー クが0.4mcg/mlに あ つ て24

株,0・8mcg/mlが16株 で 分 散 が少 なか つ た 。CEXは

前3剤 に 較 べ て 劣 り,ピ ー ク が6.3mcg/mlで22株 で

あ つ た。以 上 よ り黄 色 ブ菌 に対 す る抗 菌 力 はCETが 良

く,次 い でCEZ,CERが 同 程度 で あ る が,CERの

方 がMICの 低 い値 の ものが 多 か つた 。CEXの 抗 菌 力

は 一 番悪 かつ た 。 大 腸 菌14株 で は6.3mcg/m1以 下 の

もの がCEZ8株,CER11株,CET1株,CEXな し で

CER,CEZ,CET,CEXの 順 で あつ た。緑 膿 菌4株 に

対 して は 全 く抗 菌 力は な かつ た。

2) 吸 収,排 泄 お よ び 体 内分 布

i) イ ヌの血 中 濃度,胆 汁 中 お よび尿 中 排 泄

2頭 の イ ヌを 麻 酔 下 開腹 し,総 胆 管 に ポ リエ チ レソ管

を,膀 胱 セこは カ テ ーテ ル を挿 入 し,そ れ ぞれ 胆 汁 お よび

尿を 採 取 出 来 る よ うに して,CEZ20mg/kgを 股 静 脈 よ

Tab . 1 Susceptibility of Staphylococcus aureus to Cephalosporins

(Plate dilution method)

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VoL. 18 NO. 5 CHEMOTHERAPY 545

り投与 し,血 液,胆 汁,尿 を経時的に採取 した。血清は

そのまま,胆汁 と尿は10倍 に稀釈 して濃度 測定を行なつ

た。薬 剤濃度測定は溶連菌S-8株 を被検菌 とした鳥居,

川上 の重層法で行なつ た。標準 曲線はpH7.0のbuf-

fered salt solution(BSS)を 用 いて作成 した。以下の

ラッ ト,ヒ ト,蛋 白結合率等 の実験 も本法 を用いた。な

お標準曲線の作成上,BSS稀 釈 と血清稀釈で差があ り,

問題があ るが,こ れに関 しては別項で 述 べ る。 結果は

Fig.1に 図示 した。血中濃度 はA,B両 犬 で採血時点が

異 なつたが,ほ ぼ相似の傾向を示 した。胆汁中濃度は両

犬共に1時 間半 に最高濃度を示 したが,A犬 は740mcg/

ml,B犬 は3,200mcg/mlと 大 きな差があつた。血 中

濃度に対す る比率はA犬 で20倍 以上,B犬 では100倍 以

上 であつた。3時 間 までの 胆汁中排泄率 は2.1%と3.8

%,尿 中排泄率は47.3%と55.4%で あつた。以 上の結果

よ り血 中半 減 時 間(T/2),各 ク リア ラ ソス値(Cs,Cr,

Cb)お よび 各 減 少率(Ks,Kr,Kb)を 算 出 し1),A,B

両 犬 の平 均 値 を だ して,CER2)とCEX3)の そ れ と比 較

しTab.3に 示 した。T/2は0.54時 間 でCER,CEX

よ り短 か つ た 。Csは57.3m1/min,Crは32.1ml/

minで この両 値 は 他 の2剤 と近 似 した 値 を 示 した 。Cb

は1.87m1/minでCERO.07m1/min,CEX0.22ml/

minに 比 べ 大 きい 値 で あ り,胆 汁 へ の ク リア ラ ン ス が

Cephalosporin剤 の 中 で最 も良 好 な こ とを示 した 。減 少

率 はKr/KsとKb/Ksの2つ の比 で 比較 してみ る と,

Kr/Ksで はCEZとCERが 近 似 し,CEXは 大 きい 値

を示 し,CEXが 最 もよ く腎 か ら 出 る こ とを 示 してい る。

Kb/Ksは3剤 の 差 が大 き く,CEZO・035,CEXO・007,

CERO.001で 胆汁 へ の排 泄 はCEZが 最 も よ く,次 い

でCEX,CERの 順 で あつ た 。

ii) ラ ヅ トの 臓 器 内 濃 度

Wistar系 雌 ラ ツ トにCEZ20mg/kg筋 注 後,経 時 的

に 放 血致 死 させ,血 漿,肝,腎,肺,脾,筋 肉 の濃 度 を

測 定 した。 血漿 は そ の まま,他 の臓 器 は エ マル ジ ョ ソを

BSSで5倍 に稀 釈 し,遠 沈 上 清 を 用 い た.結 果 はTab.

4に 示 した 。 各 時 点 い つれ も腎 が 最 も高 く,肝,血 漿,

肺,脾,筋 肉 の順 であ つ た。

iii) ヒ トの血 中 濃 度 お よび尿 中 排 泄

腎 お よび肝 障 害 のな い 患者 にCEZを250mgお よび

Tab . 2 Susceptibility of Escherichia coli and

Pseudomonas to Cephalosporins

(Plate dilution method)

Fig . 1 Blood and bile levels, and biliary and

urinary recoveries of Cefazolin in

dogs after 20 mg per kg intravenous

administration

Tab . 3 Half-life (T/2), clearances (C) and rates of removal (K) of Cephalosporins

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546 CHEMOTHERAPY SEPT. 1970

500mg1回 筋 注 後 の 血 中 濃 度 の推 移 と尿 中 排 泄 率 を み

た。250mgは4例,500mgは3例 に つ い て行 な つ た 。

結果 はTab.5,6に 示 した 。1血中 濃 度 は250mg投 与 で

は,4例 平 均 で ピー クが1時 間 に あ つ て8.3mcg/m1,

2時 間 が7.9mcg/mlで,6時 間 で2.2mcg/mlで あ

つ た 。500mg投 与 では3例 平 均 で ピー クが30分 で15.5

mcg/ml,1時 間が14.4mcg/ml,6時 間 で3.8mcg/

m1で あ つ た。2倍 の投 与 で 血 中 濃 度 は2倍 弱 であ つ た 。

尿 中 排泄 率 は250mg投 与 で6時 間 ま で で4例 平 均 で

77.4%,24時 間 まで は,3例 平 均 で96.9%で あ つ た 。

500mg投 与 で は,6時 間 まで で3例 平 均 で43.3%で あ

つ た 。

a) Serum levels (mcg/ml)

b) Urinary recoveries (%)

a) Serum levels (mcg/ml)

b) Urinary recoveries (%)

3) 血清蛋白結合率 と血清による活性の影響

i) 血 清蛋 白結合率

ウシ血清を用い,セ ロファソ嚢透析法 で結合率をみた。

血清 を内液 とし,CEZお よびCERの20お よび10mcg/

mlBSS溶 液 を外液 とした。4℃ で48時 間透析 した後,

外液 の残存力価を測定 し,結 合率 を 算 出 した。結 果 を

Tab.7に 示 した。2濃 度平均でCEZは68.896,CER

は35.2%で あつた°

ヒ トおよび ウシ血清を用い,超 遠心法 によ り結合率を

みた。 ヒ トおよび ウシ血清にCEZお よびCERを50お

よび10mcg/mlの 濃度に し,4℃55,000回 転18時 間行

ない,上 清が スル ホサ リチル酸法で陰性な ことを確かめ

て,濃 度を測定 し,結 合率 を算出 した。 結果をTab.8

に示 した。 ヒ ト血清 でCEZは2濃 度平均 で65.5%,

CERは21.5%,ウ シ血 清ではCEZは61.5%,CERは

24.6%で あつた。

ii) 血清に よる活性 の影 響

CEZの 血 清蛋 白結合率は大き く,溶 連菌S-8株 を用

いた鳥居,川 上の重層法で,標 準曲線が血清稀釈 とBSS

稀釈 とでの差の有無を検討 した。BSS稀 釈,イ ヌ血清

Tab . 4 Tissue distribution of Cefazolin in rats following single intramuscular dose 20 mg per kg (mean value of 3 rats)

Tab . 5 Serum levels and urinary recoveries

of Cefazolin in patients following

single 250 mg administration

intramuscularly

Tab . 6 Serum levels and urinary recoveries

of Cefazolin in patients following

single 500 mg administration

intramuscularly

Tab . 7 Protein binding of Cefazolin and

Cephaloridine with bovine serum

measured by cellophane bag dialysis

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VoL. 18 NO. 5 CHEMOTHERAPY 547

a) Human serum

b) Bovine serum

稀釈 お よび ヒ ト血 漿 稀 釈 を 比 較 した 。 各 検 体 でCEZを

100mcg/mlよ り2倍 稀 釈 で0.1mcg/mlと して,阻 止

帯 の 長 さを プ 戸 ッ トした もの をFig.2に 図 示 した。BSS

とイ ヌ血 清 は ほ ぼ 同 じ阻 止 帯 長 を 示 したが,ヒ ト血漿 で

は 阻止 帯 長 の短 縮 を認 め,濃 度 に して50%以 上 の減 量 で

あつ た。次 に ヒ ト血 清 をBSSで 倍 々稀 釈 し,血 清 に よ

る影 響 の な くな る稀 釈 濃 度 を検 討 した 。CEZ濃 度 を50

お よび5mcg/mlよ り開始 した 。 結 果 をFig.3に 図 示

した 。 血 清 を8な い し16倍 に 稀釈 す る と,血 清 に よる阻

止帯 長 の短 縮 は 認 め られ な くな つ た。

4) PC-Gと の免 疫 学 的 交 叉 性

Hapten抑 制 試 験3)に よつ て,PC-Gと の 免 疫学 的交

叉性 を 検 討 し た 。 使 用 薬 剤 はPC-G,CER,CET,

CEX,CEZの5剤 で あ る。BPO-抗BPO(PC-G抗 原

とPC-G抗 体 との 反 応)の 沈 降 量 の50%を 抑 制 す る

inhibitorの 濃 度 〔(H)50%mM〕 を 求め,ま た 各 々の

relative association constant (Krel)を 算 出 した。

結 果 をTab.9に 示 した。CEZは(H)50%mMは15.0

と大 き く,Krelは0.0010と 極 め て小 さい 値 を 示 した。

PC-Gの 抗 体 に 対 して,Cephalosporin剤 の中 でcross-

reactivityが 最 も弱い もの で あ つ た。

5) 臨床成績

当教室 お よ び関連病院内科 で の 各種感染症29例 に

CEZを 投与 し臨床効果を検討 した。 症例は呼吸器感染

症11例,尿 路感染症13例,胆 道感染症そ の他5例 であ

る。投 与量は1日1~2gを2~3回 に分 け,筋 注 また

は静注 した。 投与期 間は5~46日 で,最 高総投与量 は

96gで あつた。効 果判定は細菌学的検査所見お よび 自他

覚所見 の改善を主治医の意見に従つて行ない,有 効+,

やや有効 ±,無 効 一の3段 階 とした。 個 々の症例につ

いての概略をTab.10に 示 した。呼吸器感染症11例 では

有効9例,や や有効2例 であつた。尿 路感染症13例 では

有効10例,や や有効1例,無 効2例 であつ た。胆 道感染

症 その他5例 では有効4例,無 効1例 であつた。29例 中

23例有効 で有効率は79.3%で あつた。病 巣 よ りの検出菌

と治療 効果 の関係は,呼 吸器感染症では,検 出菌が多種

類で正確 なことはいえないが,肺 炎球菌,黄 色ブ菌 の各

2例 はいずれ も有効であつた。 また溶連菌を検出 した膿

胸の1例 も著 明な効果が認め られた。尿路感染症 では肺

炎桿菌を検 出した3夜 はいずれ も菌陰性 とな り有効であ

Tab . 8 Protein binding of Cefazolin and

Cephaloridine with human- and

bovine serum measured by

ultracentrifugation method

Fig . 2 Influence of serum in Cefazolin on

the length of inhibition zone

Fig . 3 Influence of serum to be diluted BSS

in Cefazolin on the length of inhibition

zone

Tab . 9 Cross-reactivity of Cephalosporins

to Penicillin G

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548 CHEMOTHERAPY SEPT. 1970

a) Respiratory infections

b) Urinary tract infections

Tab . 10 Clinical effects of Cefazolin

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VOL. 18 NO. 5 CHEMOTHERAPY 549

c) Biliary infection and others

つた。大腸菌に よる5例 では1例 が全 く無効であつた。

本例の大腸菌に対す るCEZの 感受性を検討 してい ない

が,CERのdisc法 では感受性がなかつた。CERに 感

受性のStaph。epid.を 検 出した1例 は菌交代症を起 こし

Morgmellaに 変つて無効であつ た。

CEZのdiscが な く,検 出菌 のCERのdisc感 受性

と臨床効果 の関係について検討 しTab.11に 示 した。 な

お呼吸器感染症については,最 も起炎菌の可能性のある

ものを選 んだ。 これ によるとCERのdiscで 〓,〓,

+の 範 囲にあ るものによい効果が認 められた。 一は2例

のみであつたがいずれ も効果はなかつた。〓を示 した も

のの中で2例 無効であつたが,1例 は前述 した菌交代症

を起 こした例で,他 の1例 は胆嚢炎 で腸球菌を検出 し,

これがCERに 〓 であつたが7日 間の治療で 自覚症状 の

改善が全 く認め られ なかつた ものである。なお投与後 の

菌検索は行なえなかつた。

副作用は全例特別 のものはなかつた。なお投与前後で

血液検査17例,腎 機能検査11例,肝 機能検査17例 につい

て行なつたがいずれ も異常は認められなかつた。

考 案 と 総 括

CEZの 抗菌力を黄色 ブ菌,大 腸菌,緑 膿菌について

検討 した。黄色 ブ菌に対 しては,CETよ り劣 り,CER

とほぼ同程度であるがMICの 低い菌 は少なかつた。 大

腸菌に対 してはCERと ほぼ同 じか少 し劣 り,CETよ

り優れていた。緑膿菌 には殆ん ど感受性 が なか つ た。

CEZの 吸収,排 濯等,体 内動態をイ ヌ,ラ ッ ト,ヒ ト

で検討 した。イ ヌで静注後 の血中,胆 汁中濃度 と胆汁中,

尿中排泄 を測定 し,血 中半 減 時 間,ク リア ラ ソス減少

率をみた。 これ らの測定値か ら,他 のCephalosporin

剤 との比較において特長 とする所は,ま ず血中半減時間

が0.54時 間で非常に短い ことである。次いで胆汁へ のク

リアラソス値が1.87ml/minで 胆汁へ高濃度に排泄 さ

れ ることである。尿お よび胆汁への排泄 をCEZ,CER,

CEXの3剤 で比較 してみ ると,尿 へ はCEXが 最 もよ

く排泄 され,CEZ,CERは 同程度 で あ る。 胆 汁 へ は

CEZが 最 もよ く排泄 され,次 いでCEX,CERの 順で

ある。胆汁への排泄 の態度で化学療法剤を3群 に分けて

い るがCEZは 高濃度排泄群に属する ものであ る。同 じ

Cephalosporin剤 に属す る3剤 が側鎖 の違 い で,胆 汁

への排 泄が この様に異 なるのは興味ある現象である。血

中半減時間の短かい ことは,尿 お よび胆汁への排泄 のみ

で充 分に説 明で きず,蛋 白結合率の高いことも一因にな

つていると考え られる。 ラッ トで臓器内濃度をみたが,

腎,肝 に高 く,肺,脾,筋 肉では低かつた。 ヒ トで250

mg,500mg筋 注後 の血中濃度では,30分 ない し1時 間

に最高濃度を示 し,比 較 的濃度の持続 が認め られた。投

与量 の増加に よ り血中濃度 も高 まつた。な お本剤は静注

も可能 なので,血 中濃度を充分に高め ることが出来得 る

と考 える。尿中排 泄率は250mg投 与で6時 間で77.4%,

24時 間で96.9%で あつた。500mgで は6時 間で43,3%

であつた。多量の投与 で排泄時間の延長はあ るが,尿 中

へ の排泄 も良い薬剤であ る。蛋白結合率を セロファン嚢

透析法,超 遠心法 で検討 したが,60%以 上の結合率 を し

め した。CERに 較べて非常 に高い値であつた。CEZの

濃度測定を鳥居,川 上の重 層法 で行なつたが,標 準 曲線

を ヒ トお よび ウシ血清を用いた とき,BSSと 較 べ て 明

Tab . 11 The relation between CER disc

sensitivity of pathogen and

clinical effect of CEZ

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550 CHEMOTHERAPY SEPT. 1970

らかな阻止帯長の短縮を認めた。本論文の結果はすべ て

BSSを 用いた標準曲線を使用 した もので,CEZの 活性

型の量を しめす ものであ る。 血清を用いた標準曲線に よ

る と,そ の値は血中におけ るCEZの 総量に近い値 を し

めす もの と考 えるが,ど ち らの値 が妥 当であ るかは議論

のあるところである。血清に よる活性 の影響でイ ヌ血清

の場合はBSSと 差はなかつた。NISHIDA等4)の 報告では

イ ヌ血清におけ るCEZの 蛋白結合率 は20%で,他 の動 物

血清に較べて,極 めて低い値であつ た。そ のため この様

な結果が でた もの と考 えられ る。蛋白結合率が各種動物

血清 によ り差があ ることの理 由は不明 で あ る。Hapten

抑制試験 でPC-Gと の免疫学 的交叉性を検討 したが,

CEZは 他のCephalosporin剤 に比較 して交 叉性 が 極

めて少 なかつた。

29例 の各種感染症に対す る臨床効果 をみたが23例 に有

効 で有効率79.3%で あつた。呼 吸器感染症 で黄色 ブ菌,

肺炎球菌に よ く,尿 路感染症では肺炎桿菌,大 腸菌に よ

い成績 であつた。ま た胆嚢炎3例 中2例 に 有 効 で あ つ

た。副 作用は特別 の ものは なかつた。

結 語

1) CEZの 抗菌力は黄色 ブ菌,大腸菌 でよい成績を し

め した。

2) イ ヌに静注 した時,胆 汁中に高濃度 の排泄をみた。

3) ラッ トの臓器 内濃度 では,腎,肝,血 漿,肺,

脾,筋 肉の順であつた。

4) ヒトに筋注後,30分 ない し1時 間に最高血中濃度

を しめ し,250mg投 与で&3mcg/m1,500mg投 与 で

15.5mcg/mlで あつ た。尿 中排泄率 は250mg6時 間で

77.4%,500mgで43,3%で あつた。

5) 蛋白結合率は ヒトお よび ウシ血清で60%以 上であ

つた。

6) PC-Gと の免疫学的交叉性は弱い。

7) 29例 の各種感染症に対 して有効率は79.3%で あつ

た。副 作用は全 くなかつた。

文 献

1) 千 秋 肇:腎 障 害 時 に お け る各 種 抗 生 物 質 の体 内動

態 に関 す る研究 。Chemotherapy15(5):593~

601,1967

2) 真 下 啓 明,堀 内淑 彦,加 藤康 道,柴 田皓 示,富 沢

磨 須 美,斎 藤 玲,小 島 愛 司,桜 庭 喬 匠,田 中-

志:合 成CephalosporinCに 関 す る研究 。J.

Antibiotics,Ser.B18(4):247~252,1966

3) 真 下 啓 明,加 藤康 道,斎 藤 玲,桜 庭 喬 匠,松 本 義

孝,田 中 一志,松 井 克 彦,出 内秀 人,矢 島域,堀

内 淑 彦,渥 美 翻,富 沢磨 須美,中 山 一朗,古 川

博:Cephalexinの 基 礎 的 臨 床 的 研究 。 診 断 と治

療57(9):,1719~1724,1969

4) MINORU NISHIDA, TADAO MATSUBARA, TAKEO

MURAKAWA, YASUHIRO MINE, YOSHIKO YOKOTA,

SACHIKO GOTO & SHOGO KUWAHARA Cefazolin,

a new semisynthetic Cephalosporin antibi-

otic. II. In vitro and in vivo antimicrobial

activity. J. Antibiotics 23(3) : 137-148, 1970

LABORATORY AND CLINICAL STUDIES ON CEFAZOLIN

KEIMEI MASHIMO, YASUMICHI KATO, AKIRA SAITO, TAKANORI SAKURABA

KAZUSHI TANAKA, KATSUHIKO MATSUI, HIDETO IDEUCHI, OSAMU YAJIMA,

ICHIRO NAKAYAMA, MASUMI TOMIZAWA and YOSHITAKA MATSUMOTO

The Second Department of Internal Medicine

Hokkaido University, School of Medicine

The results of some studies on Cefazolin were summarized as follows : 1. The MICs of Cefazolin against clinical isolates were tested by plate dilution method. Of 47

Staph. aureus strains, 41 were inhibited at concentrations ranging from O. 4 to 3.1 mcg/ml; 8 of the

14 E. coli at less than 6.3 mcg/ml; and 4 of Pseudomonas were resistant.

2. In dogs receiving an intravenous dose of 20 mg per kg, the half life of the serum level was

0. 5 hour; Cs, Cr and Cb were 457. 3, 32. 1 and 1.87 ml/min, and Ks, Kr and Kb were 1. 29, 0.75 and

Page 8: 544 CHEMOTHERAPYfa.chemotherapy.or.jp/journal/jjc/18/5/18_544.pdf2018/05/18  · CERO.001で 胆汁への排泄はCEZが 最もよく,次 い でCEX,CERの 順であつた。ii) ラヅトの臓器内濃度

VOL. 18 NO. 5 CHEMOTHERAPY 551

O. 045, respectively. The biliary excretion of Cefazolin was better than that of Cephalexin and

Cephaloridine.

3. In rats receiving an intramuscular dose of 20 mg per kg, the concentration in kidney and

liver was higher than that in plasma.

4. In patients given intramuscular doses of 250 and 500 mg, the peak blood level was 8.3 and 15. 5 mcg/ml and the urinary recovery rate for the first 6 hours was 77. 4 and 43.3 % of the dose

administrated, respectively.

5. Protein binding ratio of Cefazolin to human serum was more than 60 % both by the cellophane bag dialysis and ultracentrifugation method.

6. In hapten inhibition test, Cefazolin showed very low titer to Benzylpenicillin antibody.

7. Of 29 patientc, with various infections treated with Cefazolin, 23 responded well. No patient.

had any side effects.