3.連続型の確率変数と確率密度に慣れよう...156...
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156
確率変数には飛び飛びの値をとる“離り さ ん が た
散型のもの”と , “連れんぞくがた
続型のもの”
とがあるんだよ。前章まではすべて離散型の確率変数ばかりを勉強してき
たけれど , 今回は連続型の確率変数について勉強していこう !
3.連続型の確率変数と確率密度に慣れよう !
● 確率密度の意味をマスターしよう !
離散型の確率分布
図 1 (ⅰ) に示すように , 円周上に
6 つの目盛り π , 2 π , …… , 2π
がつけてあり, この 6 点を同様に
確からしく針がカチカチ…と指す
場合を考える。これらの目盛りを
確率変数 X とおくと X = π , 2 π ,
…… , 2π となる確率は, 図 1(ⅱ)
のようにすべて 1 となる。
これはいいね ?
連続型の確率分布
次 , 図 2 (ⅰ) に示すように , 同じ
円周に対して針が自由にクルクル
と回って, 無作為にある 1 点に止ま
まず , 離散型と連続型の確率分布
の違いを例で示すよ。
(Ⅰ)
(Ⅱ)
(ⅱ) 確率分布
る場合を考える。このとき, 針が X = x (0 ≦ x < 2π ) の点を指す確率を
計算できる ? そう。今回は円周上には連続的に無限に点が並んでいる
ので, X = x となる確率は x の値に関わらず常に 0 ( = 1 ) となるんだね。∞
図 1 (Ⅰ) 離散型確率分布の例
(ⅰ)
図 2 (Ⅱ) 連続型確率分布の例
3 3
3 3
6
確率 P
X
X = 2π
0
16
π3π
2π3
4π3
5π3
π3
π
2π5π3
2π3
4π3
カチ , カチ , …と
針が動く ! 離散型
確率変数
(ⅱ) 確率密度(ⅰ)X = 0 (2π )
xX = x
クルクル …と
針が動く !
x2π0
f (x )f (x)= 1
2π12π
f (x)=0f (x)=0
連続型
確率変数
でも, x が 0 ≦ x ≦ π の範囲に入る確率は, 60˚ = 1 とすぐに求まるだろ
う ? 一般に連続型の確率計算では, 確率変数 X が a ≦ X ≦ b の範囲3 3
に入る
3 360 ˚ 6
157
講義
講義
講義
123
平面ベクトル
空間ベクトル
数列
講義
4確率分布と統計的推測
確率 P(a ≦ X ≦ b) を, P(a ≦ X ≦ b) = ∫ f (x)dx の定積分3 3 3
の形で表すんだよ。
この被積分関数 f (x) のことを“確かくりつみつどかんすう
率密度関数”または“確かくりつみつど
率密度”と呼ぶ。
図 2 の例では, 確率変数 X が, 0 ≦ X < 2π の範囲に入る確率が全確率 1 で
あり, また, この範囲内のどの点に対しても針は同様に確からしく指すはずだ
から, この確率密度 f (x) は f (x) = c ( 定数 ) と定数関数になるはずだ。よって,
∫ f (x) dx = c[x] = 2π c = 1 ( 全確率 ) となるね。
∴ c = 1 より, この確率密度 f (x) は f (x) = 1 (0 ≦ x < 2π ) となる。当然,
x<0, 2π ≦ x のとき f (x) = 0 だね。( 図 2 (ⅱ) を参照してくれ。)
それでは, 連続型確率変数と確率密度について, まとめておこう。
x
b
a
連続型確率変数 X が a ≦ X ≦ b となる確率 P (a ≦ X ≦ b ) は次式で
表される。
P(a ≦ X ≦ b ) =∫ f (x )dx (a < b )
このような関数 f (x ) が存在する
と き , f (x ) を“確率密度” と 呼
び , 確 率 変 数 X は 確 率 密 度 f (x )の連続型確率分布に従うという。
ま た, y = f (x ) の グ ラ フ を X の
分ぶんぷきょくせん
布曲線と呼ぶ。
この面積 ∫ f (x )dx
が確率 P (a ≦ X ≦ b)を表す !
b
a
ba
連続型確率変数
確率密度関数
y = f(x)
a
b
2π 2π
2π
00
2πc
注意 連続型確率分布では , X = x のように表す場合がよくある。この
場合 , 「確率変数3 3
X が , ある値3
x である」というように考えるといいよ。
ただし , 確率密度 f (x ) では , x は変数3 3
として扱われる。このような独特
の表現法にも慣れていくことだね。
ここに等号をつけてもかまわない。どうせ X = 2π となる確率は 0 だからね。
連続型確率変数 X と確率密度 f (x )
158
連続型確率分布の 4 つの性質を下に示すよ。
(ⅰ) P(X = a ) = 0 (ⅱ) f (x ) ≧ 0 (ⅲ) ∫ f (x ) dx = 1 ( 全確率 )
(ⅳ) ∫ f (x ) dx = P(a ≦ X ≦ b) = P(a < X ≦ b)
= P(a ≦ X < b) = P(a < X < b)
∞
−∞
x = a となる
確率は 0
b
a
● 連続型確率分布の期待値と分散を押さえよう ! 確 率 密 度 f ( x ) に 従 う 確 率 変 数 X の期待値 (平均 ) m = E ( X ) と分散
σ 2 = V ( X ) と標準偏差 σ = D ( X ) の定義式と計算式を次に示す。
“シグマの 2 乗”と読む “シグマ”と読む
確率密度 f (x) に従う連続型確率変数 X の
期待値, 分散, 標準偏差は次のようになる。
(1) 期待値 m = E (X ) =∫ x f (x ) dx
(2) 分散 σ 2 = V (X ) =∫ (x − m ) 2f (x ) dx
= E (X 2) − {E (X )} 2
(3) 標準偏差 σ = D (X ) = √V (X )
∞
−∞
∞
−∞ m
期待値
確率密度
y = f(x)
xm −σ m +σ
離散型確率変数 X の場合のもの , すなわち ,
(1) 期待値 m = E (X ) = Σx kp k (2) 分散 σ 2 = V (X ) = Σ (x k − m) 2p k
(3) 標準偏差 σ = D (X ) = √V (X ) と対比して覚えよう !
期待値 m , 分散σ 2, 標準偏差 σ を求める場合 , 離散型3 3 3
のものの Σ3
計算3 3
が , 連3
続型3 3
のものでは積分計算3 3 3 3
に変わっていることに注意しよう。
k = 1
n
k = 1
n
X = a, X = b となる
確率は 0 なので, 等号はあってもなくて
も同じになる。
連続型確率分布の性質
X の期待値・分散・標準偏差
159
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123
平面ベクトル
空間ベクトル
数列
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4確率分布と統計的推測
Y = aX + b (a , b:実数定数 ) により , Y を新たに定義すると ,
(1) 期待値 E (Y) = E (aX + b ) = aE (X ) + b
(2) 分散 V (Y) = V (aX + b ) = a 2V (X )(3) 標準偏差 D (Y) = √V (Y) = √a 2V (X ) = a √V (X ) = a D (X )
離散型のときと同様に連続型確率変数においても , E (X ) =∫ x f (x )dx と
定義すると , E (X 2) =∫ x 2 f (x )dx などとなるのは大丈夫だね。これから
(2) の分散 σ 2 も次のように変形できるんだね。
(2) σ 2 = V (X ) =∫ (x − m) 2 f (x )dx =∫ (x 2 − 2mx + m 2) f (x )dx
=∫ x 2 f (x )dx − 2m∫ x f (x )dx + m 2∫ f (x )dx
= E (X 2) − 2m 2 + m 2 = E (X 2) − m 2
= E (X 2) − {E (X )} 2 が導けた !さらに , 確率変数 X を使って , 新たな確率変数 Y を Y = aX + b (a , b:実数
定数 ) と定義したとき , Y の期待値 E (Y) , 分散 V (Y) と標準偏差 D (Y) は
次のようになる。この結果も離散型のときのものと同様だから覚えやすい
はずだ。
∞
−∞∞
−∞
∞
−∞
∞
−∞
∞
−∞
E (X 2) m = E (X ) 1 ( 性質 (ⅲ) より )
{E (X )} 2
離散型の σ 2 と同じ式だね。
(1) E(Y) = E(aX + b) =∫ (ax + b) f (x)dx = a ∫ x f (x)dx + b ∫ f (x)dx
= aE (X ) + b となる。また ,
(2) V (Y) = V (aX + b ) =∫ {(ax + b ) − (am + b )} 2 f (x )dx
= a 2∫ (x − m) 2 f (x )dx = a 2V (X ) となるのも大丈夫 ?
∞
−∞
∞
−∞
∞
−∞
E (X ) 1 ( 全確率 )
Y Y の期待値 E (Y)∞
−∞
分散の定義式∞
−∞
∞
−∞
∞
−∞
Y の期待値・分散・標準偏差
160
解答&解説
CHECK1難易度 ★★ CHECK2 CHECK3絶対暗記問題 56
確率密度 f (x )が,f (x )={ax 2 (0 ≦ x ≦ √3,a は正の定数 ) 0 (x < 0,√3 < x )
で定義されている。
このとき, 次の各問いに答えよ。
(1) a の値を求めよ。
(2) 確率密度 f (x ) に従う確率変数 X の期待値 m = E (X ) , 分散 σ 2 = V (X ) , 標準偏差 σ = D (X ) を求めよ。
(3) X を使って新たな確率変数 Y を Y = 4X − √3 で定義するとき,
Y の期待値 E (Y), 分散 V (Y),標準偏差 D (Y) を求めよ。
確率密度 f (x ) は , x<0 または √3 <x のとき 0 より , 0 ≦ x ≦ √3 で
のみ定義されていると考えればいい。よって, (1)では , ∫0
√3f (x )dx = 1 (全確率)
から, a の値を求めよう。(2)では , 定義式に従って , E (X ) , V (X ) , D (X ) を求
めればいい。(3)では , Y = 4X−√3 より, E (Y) = 4E (X )−√3 , V (Y) = 4 2V (X ) ,
D (Y) = √V(Y) となるんだね。正確に迅速に計算できるように練習しよう。
ヒント!
連続型確率分布の期待値・分散・標準偏差 (Ⅰ)
確率密度 f (x ) = { ax 2 (0 ≦ x ≦ √3 ) 0 (x < 0,√3 < x )
(1) 確率密度の性質より,
∫−∞
∞
f (x )dx = 1 (全確率 ) よって,
∫0
√3ax 2dx = a [ 1 3 x 3]√3
0=
a 3 (3√3 −0) = √3 a = 1 (全確率 )
∴a =1 √3 となる。…………………………………………………………………(答)
∫−∞
0f (x )dx +∫
0
√3f (x )dx +∫
√3
∞
f (x )dx
00
0 x
y
f (x)=0 f (x)=0
f (x )=ax 2
∫0
√3f (x )dx = 1
√3
161
講義
講義
講義
123
平面ベクトル
空間ベクトル
数列
講義
4確率分布と統計的推測
(2) f (x ) に従う確率変数 X の期待値 E (X ) , 分散 V (X ) , 標準偏差 D (X ) は,
m = E (X ) =∫−∞
∞
x・f (x )dx =∫0
√3x・ 1 √3 x 2dx =
1 √3 ∫0
√3x 3dx
=1 √3 [ 1 4 x 4]√3
0=
1 4√3 {(√3 )4−0} =9 4√3
=3√3 4 …………(答)
σ 2 = V (X ) = E (X 2)−{E (X )}2 =∫0
√3x 2・
1 √3 x 2dx−( 3√3 4 )2
=1 √3 [ 1 5 x 5]√3
0−
27 16 =(√3 )5
5√3−
27 16 =9 5 −
27 16
=9×16−27×5 80 =
144−135 80 =9 80 ……………………………(答)
σ = D (X ) =√V(X) = √ 9 80 = √32 √42×5
=3 4√5
=3√5 20 ……………………(答)
(3) X を使って定義された確率変数 Y = 4X − √3 の期待値 E (Y) , 分散 V (Y) ,
標準偏差 D (Y) を求めると,
E (Y) = E (4X − √3 ) = 4E (X ) − √3
= 4 ×3√3 4 − √3 = 3 √3 − √3 = 2 √3 …………………………………(答)
V (Y) = V (4X − √3 ) = 4 2V (X )
= 16 ×9 80 =
9 5 ………………………………………………………………(答)
D (Y) = √V(Y) = √ 9 5 =3 √5
=3√5 5 …………………………………………(答)
公式:
E (aX+b ) = aE (X )+b
9 80
3√3 4
3√3 4
9√3
公式:
V (aX+b ) = a 2V (X )
162
連続型確率分布の期待値・分散・標準偏差 (Ⅱ)CHECK1難易度 ★★ CHECK2 CHECK3絶対暗記問題 57
確 率 密 度 f (x ) は x < 0, 2 < x の と き 0 よ り , 0 ≦ x ≦ 2 で の み 定
義されていると考えればいいんだよ。よって , (1) ∫ f (x )dx = 1 ( 全確率 ) か
ら , a の値が求まる。(2) E (X ) , V (X ) , D (X ) の定義式 , 計算式に従って計算し
よう。(3) 公式 E (Y) = pE (X ) + q , D (Y) = p D (X ) を使って解けばいい。
解答&解説
確率密度 f (x ) が,f (x ) = で定義されている。
このとき,次の問いに答えよ。( ただし,a は正の定数である。)(1) a の値を求めよ。
(2) 確率密度 f (x ) に従う確率変数 X の期待値 m = E (X ) , 分散 σ 2 = V (X ) , 標準偏差 σ = D (X ) を求めよ。
(3) X を使って新たな確率変数 Y を Y = pX + q (p,q:定数, p > 0) で定
義する。Y の期待値 E (Y) と標準偏差 D (Y) がそれぞれ E (Y) = 0,
D (Y) = 1 となるように p, q の値を定めよ。 ( 東京都立大* )
(0 ≦ x ≦ 2)ax (2 − x )0{ (x < 0, 2 < x)
2
0
確率密度 f (x ) =(0 ≦ x ≦ 2)a (2x − x 2)
0{ (x < 0, 2 < x)
確率密度の性質より ,
∫ f (x )dx = 1 ( 全確率 ) よって ,
∫ f (x )dx = ∫ a (2x − x 2)dx = a [x 2 − 1 x 3] = a (4 − 8 ) = 4 a = 1 ( 全確率 ) ∴ a = 3
(1)∞
−∞
3 3 4
2
0
2
0
2
0
…………(答)
∫ f (x )dx + ∫ f (x )dx + ∫ f (x )dx0
−∞
0
2
0
∞
2
0
0 x1
f(x) = 0 f(x) = 0
y 確率密度
f (x ) = − ax (x − 2)
2
期待値 E (X )
3
a
ヒント!
163
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空間ベクトル
数列
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4確率分布と統計的推測
f (x ) に従う確率変数 X の期待値 E (X ) , 分散 V (X ) , 標準偏差 D (X ) は ,
m = E (X ) =∫ x f (x )dx =∫ x f (x )dx = 3 ∫ (2x 2 − x 3)dx
= 3 [ 2 x 3 − 1 x 4] = 3 (16 − 4) = 3 ・ 4 = 1
σ 2 = V (X ) = E (X 2) − {E (X )} 2 = ∫ x 2 f (x )dx − 1 2
= 3 ∫ (2x 3 − x 4)dx − 1 = 3 [ 1 x 4 − 1 x 5] − 1
= 3 (8 − 32) − 1 = 3 ・ 8 − 1 = 6 − 1 = 1
σ = D (X ) = √V (X ) = √ 1 = 1 = √5
X を使って , 新たな確率変数 Y を Y = pX + q (p , q:定数 , p > 0) で定
義するとき , 期待値 E (Y) = 0, 標準偏差 D (Y) = 1 となるので ,
E (Y) = E (pX + q ) = p E (X ) + q = p + q = 0
D (Y) = D (pX + q ) = p D (X ) = p・ 1 = 1 ( ∵ p > 0)
以上より , p + q = 0, p = √5 より
p = √5 , q = − √5
(2)∞
−∞ 42
0
2
03 (2x − x 2)4
4 43 4 3 4 3 ………………(答)
分布の対称性から , 当然の結果だね。
12
03 (2x − x 2)4
42
0 4 522
0
4 5 4 5 5 5 …………………………(答)
5 √5 5 ……………………………………(答)
(3)
{1
√5
……………(答)
確率変数 X の期待値を m = E (X ) , 標準偏差を σ = D (X ) とする。
このとき , 新たな確率変数 Y を Y = X − m で定義すると ,
Y の期待値 E (Y) = 0, 標準偏差 D (Y) = 1 となることも覚えておこう。
なぜなら
E (Y) = E ( 1 X − m) = 1 ・E (X ) − m = 0
D(Y) = D ( 1 X − m) = 1 ・D (X ) = 1 ・σ = 1 ( ∵ σ > 0) となるからだ。
σ
σ σ σ
σ σ σ
σ
σ{
このように変数を変換することを変数の“標準化”という
σ
m
2
0
公式:
∫ x ndx = 1 x n + 1 + Cn + 1
を使った。
参考
Y = X − m = X − 1
= √5(X − 1) = √5X − √5 のこと
σ 1√5
p q
164
4.正規分布と標準正規分布をマスターしよう !
● 正規分布の確率密度 f N(x ) をマスターしよう!
離散型の二項分布3 3 3 3 3 3 3 3
B (n , p ) の n を大きくしていくと , 近似的に連続型の3 3 3 3
正規分布3 3 3 3
N (m , σ 2) になることがわかっている。今回は , 連続型の確率分
布の中でも最も重要なこの“正せ い き ぶ ん ぷ
規分布”と , その確率変数を標準化して得
られる“標ひょうじゅんせいきぶんぷ
準正規分布”について , 教えるつもりだ。
二項分布 B (n , p ) を表す確率分布の関数を P B(x ) とおくと ,
P B(x ) = nC x p xq n − x (x = 0, 1 , 2 , … , n ) になるのはいいね。
この P B(x ) は , x = 0, 1 , 2 , … , n と離散的な確率変数の確率分布なんだけ
れど , ここで n を 50, 100, … と十分に大きくとり , そして x を連続的な確
率変数とみなすことにより , 次のような“正規分布”と呼ばれる確率分布
になることがわかっている。この正規分布は , その期待値 ( 平均 ) m と分
散 σ 2 を使って N (m , σ 2) と表され , その確率密度を f N(x ) とおくと , f N(x )は次のように表される。
期待値 m = E (X ) = np , 分散 σ 2 = V (X ) = npq だったね !
正規分布 N (m , σ 2) の確率密度 f N(x ) は
f N(x ) = 1 e …(*) であり ,
(x:連続型の確率変数 , − ∞ < x < ∞ )その期待値と分散は ,
E (X ) = m , V (X ) =σ 2 である。
初めて , 正規分布 N (m , σ 2) の確率密度 f N(x ) を見ると , ほとんどの人が
「ヒェ 〜 !」ってことになると思う。この (*) の右辺の e はネイピア数と
呼ばれる定数で,微分積分では重要な定数なんだけれど,この意味につい
ては,数学Ⅲの講義で解説しよう。今は,e は,e ≒ 2.72 の定数であるこ
とだけ頭に入れておいてくれたらいいんだよ。
−(x − m) 2
2σ 2
√2πσ
正規分布の確率密度
f N(x ) = 1 e −(x − m) 2
2σ 2
√2πσ
m −σ m +σ xmm + 2σm − 2σ
正規分布 N (m , σ 2)
165
講義
講義
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平面ベクトル
空間ベクトル
数列
講義
4確率分布と統計的推測
さらに , 理論的な証明は難しい
んだけれど , 平均 m , 分散 σ 2 の同
一 の 確 率 分 布 か ら 取 り 出 さ れ た
n 個の変数 X 1, X 2, … , X n の相加
平 均 を X = X 1 + X 2 + … + X n と
おくと , n が十分大きいとき , こ
の X は正規分布 N (m , σ2 ) に従
う こ と が わ か っ て い る。 これを
“中ちゅうしんきょくげんていり
心極限定理”という。
このように正規分布 N (m , σ 2) は , 連続型の確率分布として , 非常に重要
なものなので , その確率密度 f N(x ) = 1 e を何回も自分で書いて,
頭にたたき込んでおくことを勧める。
具体的に,正規分布 (10, 25) の確率密度 f N(x ) は,m = 10, σ 2 = 25(σ
= 5) なので , f N(x ) = 1 e となるんだね。これで,少しは慣れ
たかな ?
図 1 中心極限定理のイメージ
平均 m , 分散 σ 2 の n 個の同一の分布
X =X 1 + X 2 + …… + X n とおくと ,
X は正規分布 N (m , σ2 ) に従う。
n
n
X 1 X 2 X n
X 1 X 2 X n
……
……
xm − σ m + σm
X の従う確率密度
√n
n
n
本 格 的 に 勉 強 し た い 人 は , 「統計学キャンパス・ゼミ」( マセマ ) を読むと い い よ。 も ち ろ ん , 大 学 に 入 っ て
からだね。
−(x − m) 2
2σ 2
√2πσ
平均 分散
√n
でも,この正規分布 f N(x ) = 1 e のグラフは , 平均 m に関して
左右対称なキレイなすり鉢ばち
型になっており,その分散は σ 2 ( 標準偏差は σ )の確率密度関数なんだね。たとえば,たく山の学生がある数学のテストを
受けたとき,その得点分布が,この正規分布に近い形になることも,経験
的によく知られているんだね。
−(x − m) 2
2σ 2
√2πσ
−(x − 10) 2
505√2π
166
このように , 変数 X から , 変数 Z = X − m に変換することを , 確率変数を
“標準化”するといい , この標準化した変数 Z が従う正規分布 N (0 , 1) の
ことを特に“標準正規分布”と呼ぶ。
これは , 確率密度の計算でも確認できる。一般の正規分布 N (m , σ 2) の
確率密度を f N(x ) , 標準正規分布 N (0 , 1) の確率密度を f S(z ) とおくよ。
まず , 確率密度 f N(x ) の重要な性質から ,
∫ f N(x ) = 1 ∫ e dx = 1 ( 全確率 )
だったね。ここで , z = x − m と , x から z に置換すると ,
x: − ∞→∞のとき , z: − ∞→∞となる。また
x =σ z + m より , dx =σ となる。よって , ①は ,
1 ∫ e dx = 1 ∫ e ・ dx dz
= 1 ∫ e dz = ∫ 1 e dz = 1 ( 全確率 ) となる。
これから , 標準正規分布 N (0 , 1) の確率密度 f S(z ) は
f S(z ) = 1 e
となるんだね。
どんな正規分布 N (m , σ 2) に従う変数 X も , Z = X − m と標準化すること
により , 標準正規分布 N (0 , 1) ( 確率密度 f S(z ) = 1 e ) にもち込むこ
とができる。ここで, u をある 0 以上の定数とおくよ。そして, z ≧ u となる
確率 P(z ≧ u) を α とおくと, 図 2 に示すように,
α = P(z ≧ u) = ∫ f S(z )dz = 1 ∫ e dz
となる。だけど , 残念ながら , この積分は高校
σ
∞
−∞
−(x − m) 2
2σ 2
√2πσ……①
σ
dz
√2πσ
∞
−∞
− 12 ・
(x − m) 2
σ 2
z 2
dz√2πσ
∞
−∞
1 z 2
2
σ
√2π
∞
−∞
− z 2
2
√2π
∞
−∞
− z 2
2
f S(z ):標準正規分布 N (0 , 1) の確率密度
− z 2
2
√2π f S(z ) = 1 e と書き換えると ,
m = 0, σ 2 = 1 の N (0 , 1) になっていることがわかるね。
√2π・ 1σ
−( z − 0 ) 2
2・1
σ 2
m
σ− z 2
2√2π
∞
u √2π
∞
u
− z 2
2
zu0
f S(z ) 確率 α
図 2 標準正規分布における 確率 α = P(z ≧ u )
∞
−∞
−
正規分布 N (m , σ 2) に従う確率変数 X の平均は E (X ) = m , 標準偏差は
D (X ) =σ となるので , この X を使って , 新たな確率変数 Z を Z = X − m と
定義すると , Z は平均が 0, 分散が 1 ( 標準偏差が 1) の正規分布に従うこと
は大丈夫 ? つまり ,
E (Z) = E ( 1 X − m ) = 1 E (X ) − m = m − m = 0
V (Z) = V ( 1 X − m ) = 1 V (X ) = σ 2= 1
( よって , D (Z) = √V (Z) = 1) となるんだね。
● 標準正規分布N (0 , 1) は, 数表で示されている!
σ
σ σ
σ σ σ 2
σ σ σ σ
σ 2
m
σ 2
このように , 変数 X から , 変数 Z = X − m に変換することを , 確率変数
を“標ひょうじゅんか
準化”するといい , この標準化した変数 Z が従う正規分布 N (0 , 1 )のことを特に“標
ひょうじゅんせいきぶんぷ
準正規分布”と呼ぶ。
σ
167
講義
講義
講義
123
平面ベクトル
空間ベクトル
数列
講義
4確率分布と統計的推測
確率変数 X は , 正規分布 N ( 2 , 16 ) に従うので , これを標準化すると ,
Z = X − 2 となる。
X ≧ 4 となる確率 P(X ≧ 4) は , X − 2 ≧ 4 − 2, X − 2 ≧ 4 − 2 より ,
P(z ≧ 0 .5) に等しい。
よって , 表 1 より , P(z ≧ 0 .5) = 0 .3085 となる。
P(X ≧ 4) = P(z ≧ 0 .5) = 0 .3085
◆ 例題 13 ◆
確率変数 X が正規分布 N (2 , 16) に従うとき , 確率 P(X ≧ 4) を求めよ。
( ただし , 上記の表 1 を用いてよいものとする。)
数学の範囲では解けないんだね。
でも心配は要い
らない。試験では 0 以上
の各定数 u の値に対して ,
確率 α = P(z ≧ u ) の値が表 1 に示すよう
に 与 え ら れ る の で , こ の 表 を 利 用 し て ,
実際に問題を解いていけばいいんだよ。
では , 例題で練習してみよう !
u α = P(z ≧ u )0.0 0.50000.1 0.46020.2 0.42070.3 0.38210.4 0.34460.5 0.3085
… …
表 1 α = ∫ f S(z )dz の表∞
u
4Z = X − m
σ
m σ 2
4 4
z1
= u2
………………………………………………(答)
σ
σ
σ σ
σ σσ
ma b
σ 2
σ 2
偏 差 値 40 〜 60に 含 ま れ る 確 率
は , 約 68 .3% だ。
50 60 704030 y ( 偏差値 )
mm −σm − 2σ m + 2σm +σ
E(aX+b)=aE(X)+bV(aX+b)=a2V(X)
N (50, 10 2)の確率密度
N(m, σ 2) に従う変数 X を
Y=10(X−m)
+50 と変換すると,
E(Y)=E( 10 X− 10m+50 )=10 E(X) − 10m+50=50
V(Y)=V(10X−10m+50)=100 V(X) =100
D(Y)=√V(Y)=10 となる。得点 X を上記の
ように Y に変換すると, Y は平均 50, 標準偏差
10 となって, 俗にいう偏差値になる。
参考
168
標準正規分布における確率 (Ⅰ)CHECK1難易度 ★ CHECK2 CHECK3絶対暗記問題 58
確 率 変 数 X を 標 準 化 し て Z =X − m
と お く と , P(2 ≦ X ≦ 4) は ,
P(0 .5 ≦ z ≦ 1 .5) で求められることがわかるはずだ。
解答&解説
確 率 変 数 X が , 正 規 分 布 N (1 , 4)に従うとき , 確率 P(2 ≦ X ≦ 4) を
求めよ。ただし , 右の標準正規分
布表を使ってよい。
確率変数 X は , 正規分布 N ( 1 , 4 ) , すなわち平均 m = 1, 標準偏差 σ = 2
の正規分布に従うことがわかる。X を標準化して Z で表すと ,
Z = X − 1 となる。
ここで , 2 ≦ X ≦ 4 となる確率 P(2 ≦ X ≦ 4) は ,
2 − 1 ≦ X − 1 ≦ 4 − 1, 2 − 1 ≦ X − 1 ≦ 4 − 1 より ,
0 .5 ≦ z ≦ 1.5 となる確率 P(0 .5 ≦ z ≦ 1.5) に等しい。
∴ P(2 ≦ X ≦ 4) = P(0 .5 ≦ z ≦ 1.5)
= P(z ≧ 0.5) − P(z ≧ 1.5)
= 0.3085 − 0.0668
= 0.2417
α = ∫ f S(z )dz∞
u標準正規分布表
u α
0.5 0.30851.5 0.0668
σ
m σ 2
2Z = X − m
σ
2
z
2 2
…………………………………………………………(答)
[ ][ ]
z0.5 1.5
−z z0.5 1.5
ヒント!
169
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4確率分布と統計的推測
標準正規分布における確率 (Ⅱ)CHECK1難易度 ★ CHECK2 CHECK3絶対暗記問題 59
確率変数 X を標準化した変数 Z を用いると, P(0 ≦ X ≦ 10) =
P( − 0.3 ≦ z ≦ 0.7) となる。今回は, 標準正規分布表を使うとき, 標準正規分布の
グラフの対称性を利用することがポイントとなるんだよ。
解答&解説
確率変数 X が , 正規分布 N (3 , 100)に従うとき , 確率 P(0 ≦ X ≦ 10) を
求めよ。ただし , 右の標準正規分布
表を使ってよい。
確率変数 X は , 正規分布 N ( 3 , 100 ) , すなわち平均 m = 3, 標準偏差 σ =
10 の正規分布に従うことがわかる。X を標準化して Z で表すと ,
Z = X − 3 となる。
ここで , 0 ≦ X ≦ 10 となる確率 P(0 ≦ X ≦ 10) は ,
0 − 3 ≦ X − 3 ≦ 10 − 3, 0 − 3 ≦ X − 3 ≦ 10 − 3 より ,
− 0.3 ≦ z ≦ 0.7 となる確率 P( − 0.3 ≦ z ≦ 0.7) に等しい。
∴ P(0 ≦ X ≦ 10) = P( − 0.3 ≦ z ≦ 0.7)
= 1 − P(z ≧ 0.3) − P(z ≧ 0.7)
= 1 − 0.3821 − 0.2420 = 0.3759
α = ∫ f S(z )dz∞
u標準正規分布表
u α
0.3 0.38210.7 0.2420
m σ 2
10Z = X − m
σ
10
z
10 10
……………………………………………(答)
[ ][ ]
z−0.3 0.7
−z z0.3
−
注意 表で , u は 0 以上の値に対してしか , 確率 α の値を与えてはいな
いが , 標準正規分布は , 直線 z = 0 に関して左右対称なグラフになって
いるので , 上記のような計算ができるんだね。工夫が大切だ !
0.7 z
ヒント!