347 全部取得条項付種類株式を用いた完全子会社化と株主総 …347 法律論叢...
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Meiji University
Title
全部取得条項付種類株式を用いた完全子会社化と株主
総会決議の瑕疵-東京地裁平成二二年九月六日民事第
八部判決・平成二一年(ワ)第二六一二一号株主総会
決議取消事件(控訴)・判タ一三三四号一一七頁・金
判一三五二号四三頁・資料版商事三一九号二三一頁-
Author(s) 秋坂,朝則
Citation 法律論叢, 84(1): 347-368
URL http://hdl.handle.net/10291/13499
Rights
Issue Date 2011-09-30
Text version publisher
Type Departmental Bulletin Paper
DOI
https://m-repo.lib.meiji.ac.jp/
明治大学 法律論叢 84巻 1号:責了 tex/akisaka-841.tex page347 2011/09/20 18:25
347
法律論叢 第八四巻 第一号(二〇一一・九)
【判例研究】商法判例 商法研究会(監修)
全部取得条項付種類株式を用いた完全子会社化と株主総会決
議の瑕疵―
―東京地裁平成二二年九月六日民事第八部判決・平成二一年(ワ)第二六一
二一号株主総会決議取消事件(控訴)・判タ一三三四号一一七頁・金判一
三五二号四三頁・資料版商事三一九号二三一頁――
秋 坂 朝 則
目 次
一 事実の概要
二 判旨
三 研究
1 本判決の意義
2 株主総会決議取消訴訟における原告適格について
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――法 律 論 叢―― 348
3 株主総会における取締役等の説明義務違反について
4 特別利害関係人による議決権行使について
5 全部取得条項付種類株式の制度趣旨について
6 株主平等原則について
7 結語
一 事実の概要
Y株式会社(被告、以下、Y社という)は、インターネット関連システムの開発・販売を目的とする株式会社であ
る。訴外A株式会社(以下、A社という)は、Y社が平成一五年一〇月ころ実施した第三者割当増資を引き受け、Y
社の筆頭株主(発行済株式総数の六九・六%を所有)となり、A社グループの代表者であるBらをY社の取締役会長
などの役員として派遣した。その後、A社保有のY社株式は、A社の子会社であるC株式会社(以下、C社という)
に移転され、本件で問題となる株主総会が開催された平成二一年六月二五日当時、C社はY社の発行済株式総数の七
一・五%を所有していた。
また、A社は、Y社の第三者割当増資を引き受けたころ、Y社との間で事業提携覚書書を取り交わしていた訴外D
株式会社(以下、D社という)にも出資をし、その経営権を獲得していた。A社がY社及びD社の親会社となったこ
とから、A社によって、Y社とD社の双方のプラグイン・ソフトウェアの一本化方針が決定され、Y社とD社との間
で再び事業提携覚書書が取り交わされた。
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本件株主総会により締め出されることとなるY社の少数株主であるX1
が、この提携関係がY社の特許を侵害してい
るのではないかという疑いを抱くようになったことから、X1
らとBらとの間に対立が生じ、X1
らは、平成一九年九月
と平成二〇年七月の二回に亘り、Y社に対して、Bらに対する責任追及等の訴えを提起するように請求した。
そのような中で開催された平成二一年六月二五日の株主総会及び普通株式を有する株主による種類株主総会におい
て、全部取得条項付種類株式を用いてY社をC社の完全子会社とすることを内容とする決議が行われ、承認可決され
た。その結果、平成二一年七月二八日に、Y社の株主には、全部取得条項付種類株式(旧普通株式)一株に対して、
A種種類株式が一二万六三八〇分の八株の割合で交付されるため、C社以外のY社の株主には一株に満たない株式が
交付されることになった。そして、Y社は一株に満たない端数を合計したところのA種種類株式一株をC社に売却し、
その代金(全部取得条項付種類株式一株当たり七〇円)をその端数に応じてC社以外のY社の株主に交付した。
そこで、X1
らは、平成二一年七月二七日に、①株主総会における取締役の説明が十分でないこと、及び②特別利害
関係人であるC社が株主総会において議決権を行使したことにより、著しく不当な決議がなされたことを理由として、
当該株主総会の決議取消しを主張するとともに、③全部取得条項付種類株式を利用するには「正当な理由」を必要と
すると解釈すべきであり、少数株主の締出しを目的として全部取得条項付種類株式を利用することは法の趣旨を逸脱
した違法があること、及び④単に少数株主を締め出すこととなる本件決議は株主平等原則に違反することを理由とし
て、当該株主総会決議の無効を主張した。
これに対して、Y社は、X1
らには、全部取得条項付種類株式の取得対価として一株に満たないA種種類株式が交付
されることとなったため、X1
らはもはやY社の株主とはいえないので、株主総会の決議取消しを請求する原告適格を
有しておらず、かつ、②の理由は株主総会決議から三ヶ月経過後に追加されたものであり、その主張自体許されるも
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のではないと主張するとともに、決議取消事由及び決議無効事由について争った。
二 判旨
請求棄却
判旨1
「原告が被告の株主としての地位を失う原因は、本件各決議の効力によるものであり、原告が本件各決議に取消事
由があると主張しているにもかかわらず、当該決議の取消訴訟の原告適格を有しないという解釈は、当該株主の権利
保障にあまりにも乏しく、条理上あり得ないものである。」
「思うに、本件各決議の効力により、取得日である平成二一年七月二八日に原告らが、被告の株主としての地位を
喪失するにしても、本件各決議の取消請求の認容判決が確定により、本件各決議の効力が遡及的に無効となる余地が
ある以上、原告らが同請求の本案判決を求める訴訟上の地位、すなわち原告適格を喪失することはない。」
判旨2
「議長にはC社の親会社としての適格性を説明すべきであるのにこれをしなかったという義務違反があるものの、・・・
議長は、それ以外の点について、・・・平均的な株主が会議の目的たる事項を合理的に判断するのに客観的に必要な範
囲の説明はなされていたものと認められる。」
「本件において、決議の方法が法令に違反する点があるものの、その違反事実は重大といえず、かつ、決議に影響
を及ぼさないと認められるから、会社法八三一条一項一号に基づく取消請求は棄却すべきである。」
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判旨3
X1
らが追加主張した事由として準備書面に記載された事実は、X1
らの訴状「に記載された事実の範囲内で法的に構
成した取消原因を主張するに過ぎないから、原告らが、会社法八三一条一項三号の取消原因を主張すること自体は妨
げられない。」
会社法八三一条一項三号による取消事由があるというために必要となる「不当性要件について検討するに、全部取
得条項付種類株式制度を規定した会社法一〇八条一項七号、二項七号、一七一条ないし一七三条が、多数決により公
正な対価をもって株主資格を失わせることを予定していることに照らせば、単に会社側に少数株主を排除する目的が
あるというだけでは足りず、同要件を満たすためには、少なくとも、少数株主に交付される予定の金員が、対象会社
の株式の公正な価格に比して著しく低廉であることを必要とすると解すべきである。」
「本件各決議において少数株主に交付することが予定されている普通株式一株当たり七〇円という金額が著しく低
廉であると認められるかについて検討するに、被告は平成一九年及び平成二〇年と二期連続して純損失を計上し、純資
産も急激に低下し、本件各株主総会の直前の平成二一年五月三一日時点では、純資産がわずかに三八一万三〇〇〇円
となっていたこと・・・などに照らすと、著しく低廉であるとまではいえず、他にこの点を認めるに足る証拠はない。」
判旨4
「全部取得条項付種類株式制度については、倒産状態にある株式会社が一〇〇%減資する場合などの「正当な理由」
がある場合を念頭に導入が検討されたという立法段階の経緯があるにしても、現に成立した会社法の文言上、同制度
の利用に何らの理由も必要とされていないこと、取得決議に反対した株主に公正な価格の決定の申立てが認められて
いること(会社法一七二条一項)に照らせば、多数決により公正な対価をもって株主資格を失わせること自体は会社
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法が予定しているというべきであるから、被告に少数株主を排除する目的があるというのみでは、同制度を規定した
会社法一〇八条一項七号、二項七号、一七一条ないし一七三条の趣旨に違反するとはいえない。」
判旨5
「全部取得条項付種類株式を用いてC社が被告を完全子会社化するスキームにおいては、最終的にC社のみが被告
の株式を取得し、それ以外の少数株主には現金を交付する結果となるものの、本件各決議自体は、被告の筆頭株主で
あったC社も含め、本件各決議の当時の被告の普通株主らに対し、普通株式一株当たりA種種類株式一二万三八六〇
分の八株を交付することを内容とするものであり、株主平等原則に違反するとはいえない。」
三 研究
判旨4については、当該株主総会決議を「著しく不公正」な決議と考えることもできるので疑問が残るが、その他
の点については判旨に賛成である。
1 本判決の意義
本件(インターネットナンバー株主総会決議取消請求事件)は、株式会社が全部取得条項付種類株式を用いて当該
会社の親会社の完全子会社となるために開催した株主総会決議及び旧普通株式の株主による種類株主総会決議につい
て、完全子会社化により締め出される株主が、当該株主総会決議及び当該種類株主総会決議には、決議取消事由又は
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決議無効事由があるとして、その決議の効力を争ったものである。会社法により導入された全部取得条項付種類株式
による完全子会社化に伴う少数株主の締出しに関しては、締め出された少数株主が、全部取得条項付種類株式の取得
に係る株主総会決議に反対し、会社法一七二条一項に基づく全部取得条項付種類株式の取得価格の決定を裁判所に申
し立て、その取得価格を争うという事例は多く存在するが(1) 、総会決議の効力を争った事例は少なく、本件は先例とし
て重要な意義を有する。
本件における争点は、判旨に基づき分類すると次の五点となる。
第一点は、全部取得条項付種類株式を用いた完全子会社化により締め出される株主が株主総会の決議取消訴訟にお
ける原告適格を有するかという問題である(判旨1)。第二点は、全部取得条項付種類株式の導入及びその取得に係る
株主総会決議における取締役などの説明義務の範囲とその程度に関する問題である(判旨2)。第三点は、全部取得条
項付種類株式を導入する株主総会において当該決議後完全親会社となる株主が議決権を行使することが、会社法八三
一条一項三号に該当しないかという問題である(判旨3)。第四点は、全部取得条項付種類株式を用いた完全子会社化
に正当な理由が必要となるかという問題である(判旨4)。そして第五点は、全部取得条項付種類株式を用いて完全子
会社化することが当該完全子会社化される会社の株主平等原則に反しないかという問題である(判旨5)。
そこで、以下においては、これらの各争点につき、個別に検討することとする。
2 株主総会決議取消訴訟における原告適格について
訴えをもって株主総会等の決議取消しを請求することができる者は、株主等に制限されている(会社法八三一条一
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項前段)。ここで、株主等とは、株主、取締役又は清算人をいい、監査役設置会社の場合には監査役が含まれ、委員会
設置会社の場合には執行役が含まれる(会社法八二八条二項一号)。また、瑕疵ある株主総会決議が取り消されたこと
により取締役、監査役又は清算人となる者や、当該決議が取り消されることにより取締役、監査役又は清算人として
の権利義務を有する者となる者にも、原告適格が認められる(会社法八三一条一項後段)。ただし、瑕疵ある株主総会
決議が取り消されることにより株主資格を回復する者については、株主総会決議取消訴訟における原告適格に関する
規定が存しないことから、その者に当該株主総会決議取消訴訟の原告適格が認められるかが問題となる。
提訴権者の法定制限には、①瑕疵を主張しうる資格を有する者を制限し、②訴えの利益のある者を定め、③判決効を
非当事者に及ぼすことが正当化されるような真剣な訴訟追行能力が期待できる者に原告を限定するという、三つの機
能があると考えられており、②の訴えの利益については、株主総会決議取消訴訟が法令又は定款に従った会社経営を
求める株主の訴権の一つであるという性質から、株主にはその地位に基づいて、そして取締役、監査役、執行役又は
清算人にはその職務上の権限又は義務に基づいて、当該利益が認められている(2) 。このため、株主総会決議取消訴訟の
原告適格は、訴えの提起時に原告適格が認められていても、訴訟係属中に株主としての地位を失えば、原告適格を喪
失する場合があるし(3) 、また、原告適格が認められる監査役は監査役設置会社の監査役に限られ、定款により監査役の
監査の範囲が会計に関するもの限定されている株式会社の監査役には認められていない(会社法二条九号)。そして、
瑕疵ある株主総会決議が取り消されたことにより取締役となる者については、株主総会決議の瑕疵を攻撃せしめ、総
会の運営を監督させようとする法の趣旨に沿うことから、その原告適格について明文の規定が設けられていなかった
二〇〇五年の商法改正前から、判例上認められており(4) 、このことは多くの学説により支持されていた(5) 。
瑕疵ある株主総会決議が取り消されることにより取締役となる者などに株主総会決議取消訴訟の原告適格を認める
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会社法八三一条一項後段の規定が設けられたことが、瑕疵ある株主総会決議が取り消されることにより株主の地位を
回復する者にも当該訴訟における原告適格が認められるかという問題を顕在化させた。
本件判決はこの点について、一九七〇年(昭和四五年)七月一五日の最高裁大法廷判決を引用し、株主総会決議取
消しの「訴えは、株主の共益権に基づくものであるから、訴え提起時に原告適格が認められても、訴訟係属中に株主
たる地位を失えば、原告適格を喪失する場合があると解される」としながらも、日本高速物流株主総会決議取消請求
事件の控訴審判決(6) とほぼ同様の表現を用いて、「原告が被告の株主としての地位を失う原因は、本件各決議の効力によ
るものであり、原告が本件各決議に取消事由があると主張しているにもかかわらず、当該決議の取消訴訟の原告適格
を有しないという解釈は、当該株主の権利保障にあまりにも乏しく、条理上ありえないものである」として、その原
告適格を認めている。そして、会社法八三一条一項後段の規定については、改正前商法における「解釈を明文化した
にすぎないと位置づけられることとなり、会社法八三一条一項後段に株主が含まれていないことは、原告らの原告適
格を否定する根拠とはならない」として、当該規定が限定列挙ではないことを明らかにしている。
この点に関して、本件とは少し事例が異なるが(7) 、全部取得条項付種類株式を利用した完全子会社化により締め出さ
れた株主による株主総会決議取消訴訟の原告適格に関する先例である日本高速物流株主総会取消訴訟事件における第
一審判決は、「株主として、株主総会決議取消しの訴えを提起した場合に原告適格を有するには、少なくとも口頭弁論
終結時において、当該会社の株主であることを要する」として、その原告適格を否定していた(8) 。しかし、その控訴審判
決は、「当該決議が取り消されない限り、その者は株主としての地位を有しないことになるが、これは決議の効力を否
定する取消訴訟を形成訴訟として構成したという法技術の結果に過ぎないのであって、決議が取り消されれば株主の
地位を回復する可能性を有している以上、会社法八三一条一項の関係では、株主として扱ってよいと考えられる」と
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して、その原告適格を認めた。さらに、当該控訴審判決は、「株主総会決議により株主の地位を奪われた株主が当該決
議の取消訴訟の原告適格を有しないという解釈は、当該株主の権利保障にあまりにも乏しく、条理上あり得ないもの
である」としている。また、別の判例も「株主たる地位を失った者が株主総会決議無効確認の訴えによらない限り決
議の瑕疵を争うことができないとすると、少数株主の地位が著しく不安定になること」及び「全部取得条項付種類株
式制度を利用した株主総会特別決議により株主たる地位を失った者は、決議取消しの訴えが認容されることによって
直接株主の地位を回復する地位にあること」を理由として、「全部取得条項付種類株式制度を利用した株主総会特別決
議により株主たる地位を失った者については、株主総会決議取消しの訴えの原告適格を認めることが相当である」と
している(9) 。
なお、全部取得条項付種類株式が会社法により導入された制度であるため、二〇〇五年改正前商法では、株主総会
の決議により株主資格を喪失した者による株主総会決議取消訴訟が提起された事例は少なく、減資決議取消訴訟提起
中に当該減資手続きとして行われた株式併合により株主資格を失った株主の原告適格につき、「裁判ノ確定スルニ至ル
マテハ其効力ヲ保持シ原告等株主モ亦之ニ拘束セラルルハ当然ナリト謂ハサルヘカラス」として、それを否定したも
のがある(10) 。しかし、この判決に対しては、有力な学説が反対し、当該株主は当該決議取消しにより回復されるべき潜
在的株主資格を有しているとして、原告適格を失わないと考えられていた(11) 。
この点に関する最近の学説の多くは、株主総会決議により株主としての資格を喪失した者の当該株主総会決議取消
訴訟における原告適格を認めている(12) 。そして、その論拠としては、①株主総会決議の取消しにより取締役・監査役又
は清算人となる者にも株主総会決議取消しの訴えの訴権が認められていることとの権衡上認められるべきであるとす
るもの(13) 、②原告適格を認めないと不当な結論が導かれるとするもの(14) 、③株主にとり強烈な効果を発揮する全部取得条
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項付種類株式制度とのバランスをとるためにも決議の効力を否認できる方途を残しておかなければならないとするも
の(15) が挙げられている。また、時期尚早かもしれないとしながらも、全部取得条項付種類株式の取得により株主の地位
を失った者も、仮に株主総会決議が取り消されれば株主の地位を回復することができる場合には、当該決議について
は原告適格が認められるという方向で裁判例は固まりつつあるとするものもある(16) 。
確かに、瑕疵ある株主総会決議により株主権を奪われる者が当該決議の取消訴訟の原告適格を有しないとする解釈
は、当該株主の権利保障にあまりにも乏しく、妥当なものではない。しかし、株主総会決議の取消訴訟が法令及び定
款に従った会社経営を求めるという、株主の会社に対する基本的権利に基づく訴権の一つとして認められたものであ
ることからすると、その者に訴権を認められるのは、その者の利益が不当に剥奪されることのみではなく、そのこと
が当該目的に沿うからであるはずである。
つまり、株主総会の運営の適正化を図るという法の趣旨に沿うことから、瑕疵ある株主総会決議によりその資格を
失った取締役などに株主総会決議取消訴訟の原告適格を認められるとするならば、株主総会の決議により株主権が奪
われた者に原告適格を認めることの理由も、株主総会の運営の適正化を図るという法の趣旨に沿うことになるべきで、
株主の個人的な利益が不当に剥奪されたことのみをその理由として考えるべきではない。では、このことが如何にし
て、株主総会の運営の適正化に資するのであろうか。
例えば、株主総会決議により株主権が奪われなかった株主のみに株主総会決議取消訴訟の原告適格を認めると、当
該訴えの提起が行われずに株主総会の運営の適正化が図られないおそれがある。そこで、株主総会の運営の適正化を
図るには、当該決議により不利益を受けるおそれのある者、すなわち当該株主総会決議により株主権を失った者に原
告適格を認める必要性があると考えられる。そして、その者は法技術的に当該決議により株主権を奪われることとな
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るにすぎないので、会社法八三一条一項との関係では株主として取り扱って問題がないと考えられることから、その
者に原告適格が認められると解される。
3 株主総会における取締役等の説明義務違反について
取締役、会計参与、監査役及び執行役は、株主総会において、株主から特定の事項について説明を求められた場合
には、当該事項について必要な説明をしなければならない(会社法三一四条)。また、種類株式発行会社が、株主総会
において、全部取得条項付種類株式の全部を取得する決議をする場合には、取締役は、当該株主総会において、全部
取得条項付種類株式の全部を取得することを必要とする理由を説明しなければならない(会社法一七一条三項)。した
がって、これらの説明が十分なされずに、株主総会において議決が行われれば、当該株主総会決議は、その決議方法
が法令に違反していることになる。
この場合、取締役に求められる説明義務の程度と、説明義務の範囲とが問題となる。
株主総会が、報告、審議、議決の場であることから、本件判決が指摘するように、「株主総会における取締役の説明
義務は、株主が、会議の目的たる事項を合理的に判断するのに客観的に必要な範囲の説明で足りると解すべきであ」
り(17) 、「株主総会が多数の株主により構成される機関であり、説明の相手方が多人数であることから、取締役が上記説明
をしたか否かを判断するに当たっては、平均的な株主が基準とされるべき」である。つまり、取締役などは、平均的
な株主が、株主総会の議案を合理的に判断するのに客観的に必要な範囲の説明をしなければならないこととなる。
しかし、この点については、「判示事項は、主として上場会社における取締役の説明義務の範囲、説明の水準に関す
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るものであって、本件事例のように株主数が限定されており、しかも株主資格の喪失にかかわる決議がなされる際に、
同様の一般論が妥当するとは思われない」とする批判がある(18) 。確かに、株主資格の喪失にかかわる決議における説明
の水準については、より高度な水準による説明が求められるとも考えられるが、その水準が、一般論としての「平均
的な株主が、会議の目的たる事項を合理的に判断するのに客観的に必要な範囲」を超えるものとした場合、どのよう
なものになるのかについては言及されておらず、法的な基準としてはその内容が不明確である。したがって、一般論
としては、本件判決が述べる基準で足りるが、具体的な事例における取締役などの説明が、当該基準に適合するか否
か、つまり合理的に判断するのに客観的に必要な範囲か否かを、慎重に検討する必要があると思われる。
なお、取得を必要とする理由など一定の事項に関する説明が法的に求められているときの会社法三一四条の取締役
などの説明義務の水準が、一般的な説明義務の水準よりも高くなるとも考えられるが、この場合も説明義務が履行さ
れたか否かに関する判断基準が不明確となるので、その説明義務の水準も、一般論としては通常の説明義務の水準と
同様に考えて差し支えないものと考える。
本件判決は、各質疑における説明が、平均的株主が会議の目的たる事項を合理的に判断するのに客観的に必要な範
囲に含まれるかを個別に検討し、判旨に示した通り「議長にはC社の親会社としての適格性を説明すべきであるのに
これをしなかったという義務違反がある」としながらも、「議長は、それ以外の点について、被告がC社の完全子会社
となる理由、完全子会社化のために全部取得条項付種類株式を用いること及びその具体的手続き、完全子会社化によ
り被告から排除される株主が受ける金員の額並びにその根拠について、平均的な株主が会議の目的たる事項を合理的
に判断するのに客観的に必要な範囲の説明はなされたものと認められる」としている。
しかし、判決文が明らかにしている質疑応答の内容について、①完全子会社化に当たり全部取得条項付種類株式制
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度を採用した理由に対する説明が「株式交換等もあったが、法律的、財務的見地から検討した結果」であるということ
のみである点、及び②一二万六三八〇分の八株という割合の根拠に対する説明が「C社以外の株主に対して被告が交
付するA種種類株式が一株未満の端数となるように調整した値とし、かつ、C社以外の各株主に対して交付される端
数の総数が整数株数(一株)となるように計算した結果である」ということに対しては、会議の目的たる事項を合理
的に判断するのに客観的に必要な説明がなされたものと言えるかにつき、疑問が残るとする批判がある(19) 。確かに、①
の点については、メリットとデメリットを含めどのような検討がなされたかについて、もう少し説明があったほうが
良かったとも考えられるが、どのような観点からの検討をしたかについての説明はなされており、株主総会での説明
としては、当該説明により法的義務が果たされていると評価できるように思える。②の点については、C社以外の株
主を締め出すためという説明と変わらず、全部取得条項付種類株式を用いた少数株主の締出しが認められるとしても
(この点については5で検討する)、少数株主を締め出す理由についての説明がなければならないものと考えられる。
そして、株主総会の招集通知にも記載され株主総会の冒頭でも説明された「完全子会社化を必要とする理由」にその
理由が含まれていれば、当該割合とした根拠のみの説明で、その理由までの説明がなされなくとも、法的義務が果た
されていると評価できるように思える。ただし5で検討するように、「完全子会社化を必要とする理由」の内容は、被
告を取り巻く環境が極めて厳しいので、抜本的改革を推進する必要があり、そのためには完全子会社化が必要であり、
それにより、C社からの経営資源の提供がより迅速かつ効率的に受けることができることになるので、被告の経営基
盤の強化と企業価値の最大化を実現できるというものである。この説明は、被告がC社による経営資源の提供をより
迅速かつ効率的に受けたいのであれば、C社の完全子会社にならなければならないといっているのと同じであり、他
の選択肢についての説明がなされておらず、平均的株主が全部取得条項付種類株式を用いて少数株主を締め出すこと
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361 ――全部取得条項付種類株式を用いた完全子会社化と株主総会決議の瑕疵――
が必要であるか否かを、合理的に判断することができる内容の説明となっているかについては、疑問が残る。
なお、C社の完全親会社としての適格性に関する説明が不十分であったと認定していながら、当該違反の事実は重
大ではなく、かつ決議に影響を及ぼさないと認められるとした点については、当該株主総会決議により締め出される
こととなる株主にとっては、その対価が十分であれば、完全親会社となる会社の適格性に関する説明は、あまり重要
なものとは考えられないので、裁判所の判断は適切であったと考えられる。
4 特別利害関係人による議決権行使について
株主総会等の決議について特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって不当な決議がなされたこと
は、株主総会決議取消訴訟の取消事由となる(会社法八三一条一項三号)。株主総会決議に当該取消事由があるという
ためには、本件判決が述べるように①特別利害関係の要件及び②不当性の要件が必要となる。全部取得条項付種類株
式を用いた少数株主の締出しにおいて、締め出されない株主は、①特別利害関係の要件には該当するので(20) 、②の要件
に該当するかが問題となる。
本件判決は、当該不当性の要件に関し判旨に示したように、「全部取得条項付種類株式制度を規定した会社法一〇八
条一項七号、二項七号、一七一条ないし一七三条が、多数決により公正な対価をもって株主資格を失わせることを予
定していることに照らせば、単に会社側に少数株主を排除する目的があるというだけでは足りず、同要件を満たすた
めには、少なくとも、少数株主に交付される予定の金員が、対象会社の株式の公正な価格に比して著しく低廉である
ことを必要とすると解すべきである」として、少数株主を排除する目的により全部取得条項付種類株式を用いただけ
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――法 律 論 叢―― 362
では、当該不当性の要件に該当しないとしている。この点は、次の5とも関連する問題であり、そもそも少数株主の
排除のみを目的とした株主総会決議が認められるのかということに帰結する。もし、そのような決議が認められない
とすれば、対価が著しく低廉であるのかを判断することなく、当該決議は不公正であることになるが、そのような決
議が認められるとすると、対価が著しく低廉であるのかが当該不当性を判断する上で、重要となる。
しかし、そのような場合であったとしても、交付される対価の内容が株主間で実質的に異なり、その実質的な平等
が確保されていない場合には、株主総会の決議が著しく不公正とされる余地は残されている(21) 。本判決は、6で検討す
るように、株主平等原則の違反を法令違反という観点からのみ検討しており、実質的な平等が確保されていないこと
が著しく不公正な結果となっていないかという観点からの検討がなされておらず、この点に関する検討が不十分であ
る。また、全部取得条項付種類株式の制度には、立法論上の疑問が残るとした上で、「たとえ少数派株主に交付される
対価が公正なものであっても、大株主の持株比率、大株主・経営陣と少数派株主との関係、少数派株主の権利行使の
状況その他の少数派株主の締め出しがなされるに至った経緯を考慮して、少数派株主を締め出す株主総会決議を「著
しく不当な決議」として取り消す余地はなお残ると認めるべきと解する(22) 」とする見解も示されている。
なお、本件判決は、対価の額が、被告の一株あたりの純資産額を基準とし、被告の有力事業の中核的な特許の価値
の検討をした上で、当該事業の状況を加味して算定されているので、「著しく低廉であるとまではいえ」ないとしてい
る。しかし、本件では被告会社が二期連続して純損失を計上している理由に対する疑問が原告にはあるように思われ、
将来キャッシュ・フローの現在価値をその算定の資料としてまったく利用していないこと、争いのある特許の価値を
考慮していないことに対する裁判所の検討が十分ではなかったように思われる。このように公正な価格の評価につい
ての検討が不十分なため、当該対価が著しく低廉な場合に該当するかが、不明確となってしまっており、この点につ
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363 ――全部取得条項付種類株式を用いた完全子会社化と株主総会決議の瑕疵――
いても本件の判断には疑問が残る。
5 全部取得条項付種類株式の制度趣旨について
全部取得条項付種類株式制度は、本件判決で述べられているように、「倒産状態にある株式会社が一〇〇%減資する
場合などの「正当な理由」がある場合を念頭に導入が検討されたという立法段階の経緯がある」ものであるので、少
数株主を排除する目的で全部取得条項付種類株式を利用することは、その制度趣旨に違反することになるのではない
か、という点について検討する。
本件判決は、この点に関して、「現に成立した会社法の文言上、同制度の利用に何らの理由も必要とされていないこ
と、取得決議に反対した株主に公正な価格の決定の申立てが認められていること(会社法一七二条一項)に照らせば、
多数決により公正な対価をもって株主資格を失わせること自体は会社法が予定していることであるから、被告に少数
株主を排除する目的があるというのみでは、同制度を規定した会社法一〇八条一項七号、二項七号、一七一条ないし
一七三条の趣旨に違反するとはいえない」としている。確かに、全部取得条項付種類株式制度の利用に「正当な理由」
がなければ、当該制度により全部取得条項付種類株式を取得する株主総会決議が無効となると考えることは、条文上
の根拠もないので、難しいように思われる(23) 。
しかし、「正当な理由」という要件が立法過程において落とされてしまったからといって、多数決により公正な対
価をもって株主資格を失わせること自体を会社法が予定していると解釈することは、行き過ぎのように思える。した
がって、「正当な理由」がない全部取得条項付種類株式の利用は、その利用状況を考慮して、「著しく不当」の決議に
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おける不当性の判断の根拠となり、決議取消事由を構成する要素となると考えるべきである(24) 。
本件では、株主総会の招集通知に、完全子会社化を必要とする理由として、「①被告を取り巻く環境が極めて厳しい
こと、②被告の抜本的改革を推進するために、中長期の観点で継続的かつ実質的なサポートを行うことが可能な少数
の株主にガバナンスを一本化し、改革に集中できる期間を持つことが必要と考えていること、③完全子会社化により、
C社から経営資源の提供をより迅速かつ効率的に受けることが可能となり、また経営及び投資に関する意思決定を迅
速かつ効率的に行うことで、被告の経営基盤の強化と企業価値最大化を実現できると考えていること」が挙げられて
おり、これらの理由が完全子会社化をすることの「正当な理由」といえるかが問題となる。①は一般的な状況の説明
であり、②は抜本改革をするには被告がC社の完全子会社になる必要があるということを説明しており、③はその結
果として被告の経営基盤の強化と企業価値最大化が実現できるとしている。したがって、完全子会社化を必要とする
理由の中心は②の記載であると考えられるが、それは、抜本改革をするためには少数株主を排除することが必要であ
るといっているのと大差はない。しかし、なぜ、抜本改革の推進に少数株主の排除が必要となるかについては、その
対案が示されていないことから、十分な説明とはなっておらず、これをもって「正当な理由」の説明がなされている
と評価することには、疑問が残る。ただし、裁判所が認定した事実から、原告とC社との間に経営方針等に関する争
いが生じていることが窺えるので、そのことが抜本改革を推進することの阻害となっているのであれば、その阻害原
因を明確にすることにより、上記の説明でも全部取得条項付種類株式を用いた完全子会社化の「正当な理由」と評価
することができるかもしれない。
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6 株主平等原則について
株式会社は、株主を、その有する株式の内容及び数に応じて平等に取り扱わなければならない(会社法一〇九条一
項)。したがって、全部取得条項付種類株式を用いた完全子会社化により、少数株主の締出しが行われると、最終的に
は、親会社のみが当該会社の株式を取得することとなり、他の少数株主には現金が交付されることとなるので、株主
の実質的な平等が確保されているとはいえない。しかし、本件判決が指摘するように、「本件各決議自体は、被告の筆
頭株主であったC社も含め、本件各決議の当時の被告の普通株主らに対し、普通株式一株当たりA種種類株式一二万
二八六〇分の八株を交付することを内容とするものであり」、形式的意味での株主平等原則に反するものではない。株
主平等原則に反する決議は、決議内容が法令に違反することになるので、その判断は明確な基準によるべきであると
すれば、本件結論は妥当ということになる。しかし、実質的な平等まで視野に入れて、株主平等原則を判断すべきで
あるとした場合、親会社と少数株主とでは、完全子会社化により交付される対価の内容が異なることになるので、株
主平等原則に反すると評価されることが多くなってしまい、法的安定性を阻害する結果となる。したがって、実質的
な平等に反する場合には、4で説明したように「著しく不公正」とされる余地が残されていると考えるべきであろう。
7 結語
以上のように検討してきたように、本件は、全部取得条項付種類株式を用いて親会社の完全子会社となるための株
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主総会決議につき、当該完全子会社化により締め出される株主が、当該株主総会決議の取消を請求したものである。
論点は多義にわたるが、完全子会社化をするときには、当該会社の株式の全部を取得することとなる株主と少数株主
との間には利害対立が生ずることになり、当該会社の株式の全部の取得をする株主は、全部取得条項付種類株式の取
得決議において特別利害関係人に当たることになるので、当該決議が著しく「不公正な決議」とならないように注意
をしなければならない。本件は、全部取得条項付種類株式の取得対価が著しく低廉でなければ、「不公正な決議」には
ならないとするが、完全子会社化をする「正当な理由」がない場合には、取得対価が著しく低廉でない場合であって
も、著しく「不公正な決議」となることもありえるので、この点の判旨には反対である。他の点については、妥当な
判断であると評価できる。
(本稿は、平成二二年一一月二七日に開催された明治大学商法研究会での報告に、加筆・修正を加えたものです。席
上ご意見をいただいた先生方には、この場を借りて厚く御礼を申し上げます。)
注(1)
最決平成二一年五月二九日金判一三二六号三五頁(レッスク・ホールディングス事件)、最決平成二二年二月二三日資料版商
事三一二号一二三頁(サンスター事件)、最決平成二二年一二月七日判時二一二〇号一四七頁(メディアエクスチェンジ事件)、
東京高決平成二二年一〇月二七日資料版商事三一二号一二三頁(サイバードホールディングス事件)など。
(2)
上柳克郎=鴻常夫=竹内昭夫編集代表『新版注釈会社法(5)』(有斐閣、一九八六)三二七頁〔岩原紳作〕。
(3)
最大判昭和四五年七月一五日民集二四巻七号八〇四頁。
(4)
東京地判昭和三一年一二月二八日判時一〇七号二一〇頁。
(5)
上柳=鴻=竹内・前掲注(2)三三三頁〔岩原〕。
(6)
東京高判平成二二年七月七日金判一三四七号一八頁。
(7)
本件においては、訴訟提起時に原告は株主であったが、日本高速物流株主総会決議取消事件においては、全部取得条項付種
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類株式の取得の効果が生じていたため、訴訟提起時に原告は既に株主ではなかった。
(8)
東京地判平成二一年一〇月二三日金判一三四七号二七頁。なお、当該判決は、会社法八五一条一項二号、三項を類推適用し
て株主ではなくなった者の訴訟追行を認めるべきかについても判断しているが、この点については、会社法八五一条一項二号、
三項によって株主でなくなった者に訴訟追行が認められるには、「新設会社又は存続会社若しくはその完全親会社の株式を取得
することを要するところ、本件においては、・・・株主には金銭が交付され、・・・株式は交付されておらず、・・・会社法八五
一条一項二号、三項を類推適用する前提を欠く」として、その類推適用を否定している。
(9)
宇都宮地判平成二二年三月三〇日L
EX/DB25463502
。
(10)
東京地判大正一一年三月二八日新聞一九九五号一九頁。
(11)
大隅健一郎=今井宏『総合判例研究叢書・商法(5)』(有斐閣、一九五九)一五一頁、上柳=鴻=竹内・前掲注(2)三二八頁
〔岩原〕。
(12)
中村信男「全部取得条項付種類株式の取得と少数株主の保護」中村信男=受川環大『ロースクール演習会社法』(法学書院、
二〇〇九)五二頁、山本爲三郎「日本高速物流株主総会決議取消訴訟事件控訴審判決判批」金判一三五七号(二〇一一)五頁、
藤原俊雄「全部取得条項付種類株式と株主総会決議取消訴訟の原告適格」商事一九二一号(二〇一一)一六頁、福島洋尚「本件
判批」金判一三五九号(二〇一一)一八頁。
(13)
中村・前掲注(12)五二頁、藤原・前掲注(12)一八頁。
(14)
山本・前掲注(12)五頁。
(15)
藤原・前掲注(12)一七頁。
(16)
弥永真生「本件判批」ジュリスト一四一〇号(二〇一〇)三七頁。
(17)
最判昭和六一年九月二五日金法一一四〇号二三頁。
(18)
福島・前掲注(12)一八頁。
(19)
福島・前掲注(12)二〇頁。
(20)
宇都宮地判平成二二年三月三〇日・前掲注(9)。
(21)
弥永・前掲注(16)三七頁、福島・前掲注(12)二〇頁。
(22)
鳥山恭一「本件判批」法学セミナー六七三号(二〇一一)一一七頁。
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(23)
笠原武朗「全部取得条項付種類株式制度の利用の限界」黒沼悦郎=藤田友敬編『江頭憲治郎先生還暦記念企業法の理論(上
巻)』(有斐閣、二〇〇七)二四三頁、福島・前掲注(12)二〇頁。
(24)
笠原武朗「少数株主の締め出し」森淳二朗=上村達男編『会社法における主要論点の評価』(中央経済社、二〇〇六)一一九
頁、福島・前掲注(12)一二二〇頁。
〔追記〕本原稿の校正中、本件に対する控訴審判決が東京高裁から言い渡され、株主の控訴は棄却された。
(明治大学専門職大学院会計専門職研究科教授)