30周年記念研究報告会 -...

30
30周年記念研究報告会 (CYRIC共同利用実験第28回研究報告会) 平成191119()20() 於 サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター 仙台市青葉区荒巻字青葉6-3 主催 国立大学法人 東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター 利用者の会 課題採択部会 Cyclotron and Radioisotope Center TOHOKU UNIVERSITY

Upload: others

Post on 28-Sep-2020

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 30周年記念研究報告会 - inst.cyric.tohoku.ac.jpinst.cyric.tohoku.ac.jp/kenkyu/program/abstracts2007.pdf · ことをふまえ,サポートガスの導入を実施した。これにより,Ar9+の場合で,これまでの約3倍のイオン電流

30周年記念研究報告会

(CYRIC共同利用実験第28回研究報告会)

平成19年11月19日(月)・20日(火)

於 サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター

仙台市青葉区荒巻字青葉6-3

主催 国立大学法人 東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター

利用者の会 課題採択部会

Cyclotron and Radioisotope Center TOHOKU UNIVERSITY

Page 2: 30周年記念研究報告会 - inst.cyric.tohoku.ac.jpinst.cyric.tohoku.ac.jp/kenkyu/program/abstracts2007.pdf · ことをふまえ,サポートガスの導入を実施した。これにより,Ar9+の場合で,これまでの約3倍のイオン電流
Page 3: 30周年記念研究報告会 - inst.cyric.tohoku.ac.jpinst.cyric.tohoku.ac.jp/kenkyu/program/abstracts2007.pdf · ことをふまえ,サポートガスの導入を実施した。これにより,Ar9+の場合で,これまでの約3倍のイオン電流

プログラム

研究報告会URL: http://cycgw1.cyric.tohoku.ac.jp/~sakemi/cyric2007.html

はじめに 9:00 ~ 9:45 座長: 馬場  護 セ ン タ ー

あいさつ 谷内 一彦 利用者の会会長

基調講演 石井 慶造 センター長

10:00 ~ 11:15 座長: 田村 裕和

1-1 加速器研究部の現状と将来 篠塚  勉 セ ン タ ー

1-2 測定器研究部の現状と将来 酒見 泰寛 セ ン タ ー

1-3 放射線管理研究部の現状と将来 山﨑 浩道 セ ン タ ー

11:30 ~ 13:10 座長: 工藤 幸司

2-1 核薬学研究部の現状と将来 岩田  錬 セ ン タ ー

2-2 未来からのメッセージ:ポジトロン医学研究 谷内 一彦

2-3 サイクロトロン核医学研究部の現状と将来 田代  学 セ ン タ ー

2-4 東北大学におけるPET癌診断法の開発と発展 福田  寛

14:10 ~ 15:25 座長: 石井 慶造 セ ン タ ー

3-1 松澤 大樹 名 誉 教 授

3-2 CYRICでの放射線物理、放射線計測、放射線防護の研究の進展 中村 尚司 名 誉 教 授

3-3 東北大学100周年「部局史の中のセンター」 織原彦之丞 名 誉 教 授東北工業大学

15:40 ~ 16:30 座長: 大槻  勤 理学研究科

4-1 本間 壽廣

4-2 世良耕一郎 岩手医科大学

おわりに 16:30 ~ 17:0530周年記念研究報告会まとめ 馬場  護

懇親会 会場:会議室(研究棟) 17:10~

課題採択部会長

* プログラム *

11月19日(月)

<休 憩>

<休 憩>

会場:サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター 分子イメージング棟講義室

午前(9時00分~13時10分)

理学研究科

2つのサイクロトロンでの30年

SF-680-930

午後(14時10分~17時05分)

草創期雑感

先進医工学研究機構

放射線医学総合研究所

<昼 食>

<休 憩>

医学系研究科

加齢医学研究所

-1-

Page 4: 30周年記念研究報告会 - inst.cyric.tohoku.ac.jpinst.cyric.tohoku.ac.jp/kenkyu/program/abstracts2007.pdf · ことをふまえ,サポートガスの導入を実施した。これにより,Ar9+の場合で,これまでの約3倍のイオン電流

プログラム

セッション1 【加速器・核物理・核化学】 8:20 ~ 9:50 座長: 小林 俊雄 理学研究科

1-1 加速器施設の現状 涌井 崇志 セ ン タ ー

1-2 大槻  勤 理学研究科

1-3 質量~80領域でのカイラル2重項回転バンドの探索 鈴木 智和 大 阪 大 学

1-4 井手口栄治 東 京 大 学

1-5 宮下 裕次 セ ン タ ー

1-6 島田 健司 セ ン タ ー

セッション2 【核物理・粒子線治療・測定器開発・照射】

10:00 ~ 11:30 座長: 前田 和茂 理学研究科

2-1 酸素原子核におけるα凝縮状態の研究 伊藤 正俊 セ ン タ ー

2-2 田上 恵子

2-3 ATLAS実験用シリコントップ半導体粒子検出器の放射線耐性の研究 原  和彦 筑 波 大 学

2-4 寺川 貴樹 工学研究科

2-5 一次元位置敏感型CdTe半導体検出器の開発 菊池 洋平 工学研究科

2-6 サイクロトロンを用いた原子力用構造材料のヘリウム効果 長谷川 晃 工学研究科

ポスター発表 11:30 ~ 12:00

ポスター発表

P-1 反跳陽子全エネルギー測定用NaI(Tl)検出器の性能評価 松田 洋平 理学研究科

P-2 小児悪性脳腫瘍の休眠状態の存在 金森 政之 医学系研究科

P-3 食道内酸還流時の食道知覚に関するPET研究 小林 茂之 医学系研究科

P-4 PETを用いた健常人における肩関節外転運動後の筋活動解析 近江  礼 医学系研究科

P-595mTcを用いた北日本産海産物中

99Tcの分析 大塚 良仁

P-6 片側性咬合支持喪失による顎関節部骨リモデリングに関する核医学的検討 渥美 知洋 歯学研究科

P-7 共感覚的イメージ喚起時の脳活動計測 北村 美穂 医学系研究科

P-8 窒化ガリウム素子の放射線耐性評価 成田 晋也 岩 手 大 学

P-9 乳がん患者を対象とした心理的介入と脳活動に関する研究 田代  学 セ ン タ ー

P-10 [11C]donepezil-PETを用いた塩酸ドネペジル投与後の脳内分布の画像化 加藤 元久 医学系研究科

P-11 動物専用核医学装置の利用と展望 三宅 正泰 セ ン タ ー

P-12 Masud Mehedi 医学系研究科

P-13 18F-FRP170による癌低酸素イメージングの臨床応用 金田 朋洋 病 院

P-14 Automatic Segmentation of Lung Tissue in FDG PET Whole Body Images MargarethaSulistyoningsih セ ン タ ー

11月20日(火)

放射線医学総合研究所

(財)環境科学技術研究所

不安定核を対象とする原子線法の開発

EC崩壊核種ベリリウム7の半減期変化

午前(8時20分~12時00分)

質量数110領域での超変形状態の探索

テクネチウムとレニウムの陸上環境中挙動の比較

RFイオンガイド式オンライン同位体質量分離装置を用いた中性子過剰核の研究

粒子線照射装置の開発及び治療研究の現状

Evaluation of Glucose Metabolism in the Surface andDeep Skeletal Muscles in Humans

<昼 食>

<休 憩>

-2-

Page 5: 30周年記念研究報告会 - inst.cyric.tohoku.ac.jpinst.cyric.tohoku.ac.jp/kenkyu/program/abstracts2007.pdf · ことをふまえ,サポートガスの導入を実施した。これにより,Ar9+の場合で,これまでの約3倍のイオン電流

プログラム

セッション3 【PIXE・半導体損傷】 12:40 ~ 13:55 座長: 長谷川 晃 工学研究科

3-1 ダイナミトロン加速器の現状 松山 成男 工学研究科

3-2 重イオンPIXEによる化学状態分析 松山 成男 工学研究科

3-3 マイクロビームを用いた炭素綱酸化皮膜分析法の検討 川村  悠 工学研究科

3-4 黄砂粒子のMicro-PIXE分析 山中健太郎 工学研究科

3-5 里  嘉典

ポスター発表  <休 憩> 13:55 ~ 14:10

セッション4 【放射線測定】 14:10 ~ 15:25 座長: 高井 良尋 医学部

4-1大石 卓司 セ ン タ ー

4-2奥地 俊夫 セ ン タ ー

4-3 AkramMohammadi

セ ン タ ー

4-4 Development of a high count gaseous neutron detector NakhostinMohammad

セ ン タ ー

4-5 Pr:LuAGシンチレータの特性と画像診断機器への応用手法への検討 山口 庸一 セ ン タ ー

ポスター発表  <休 憩> 15:25 ~ 15:40

セッション5 【分子イメージング】 15:40 ~ 16:40 座長: 岡村 信行 医学系研究科

5-1 伊藤 慎悟 薬学研究科

5-2 田代  学 セ ン タ ー

5-3 神経変性疾患における[11C]BF-227PET所見 岡村 信行 医学系研究科

5-4 血管標的薬剤AVE8062により誘発される腫瘍低酸素状態の評価 古本 祥三

セッション6 【高分解能PET】 16:50 ~ 17:50 座長: 松山 成男 工学研究科

6-1 船木 善仁 セ ン タ ー

6-2 高解像度PETによるラット抜歯窩歯槽骨骨代謝動態の検討 横山 政宣 歯学研究科

6-3 渡邊夕紀子

6-4 高解像度PEM(Positron Emission Mammography)装置の開発状況 三宅 正泰 セ ン タ ー

セッション7 【生体機能イメージング】 17:50 ~ 18:35 座長: 福土  審 医学系研究科

7-1 情動と報酬がエピソード記憶の記銘に与える影響:PET研究 重宗 弥生 医学系研究科

7-2 渡辺 諭史 医学系研究科

7-3 PETを用いた有酸素運動後の脳活動および骨格筋糖取り込みの観察 藤本 敏彦 医学系研究科

デジタル信号処理を用いたパイルアップ分離手法の開発(1)―HPGe検出器におけるパイルアップ―

J-PARCビームラインで使用する磁性材料および防錆塗料の放射線耐性試験

11月20日(火)

労働ストレスの高さと急性内臓刺激誘発の前帯状回活性の関連

ナノバブルと超音波を利用したマウス骨格筋へのNa/I symporter(NIS)遺伝子発現の可視化

先進医工学研究機構

高エネルギー加速器研究機構

半導体検出器を用いた新規動物用PET装置の性能評価

午後(12時40分~18時35分)

On the use of a thick carbon target in the 90°compton spectroscopyfor the measurement of diagnostic X-rays

<休 憩>

先進医工学研究機構

[11

C]BF-227を用いた脳内アミロイド蓄積に関する定量的検討

デジタル信号処理を用いたパイルアップ分離手法の開発(2)―有機シンチレーターNE213におけるパイルアップ―

血液脳関門のamyloid-beta peptide(1-40)排出輸送におけるlow-density lipoprotein receptor-related protein-1の寄与の解明

-3-

Page 6: 30周年記念研究報告会 - inst.cyric.tohoku.ac.jpinst.cyric.tohoku.ac.jp/kenkyu/program/abstracts2007.pdf · ことをふまえ,サポートガスの導入を実施した。これにより,Ar9+の場合で,これまでの約3倍のイオン電流

プログラム

利用者の会総会 18:35 ~ 19:101

2 センター近況報告

(1) センター長挨拶

(2) 各研究部報告

(1) 課題採択部会

(2) 理工学利用部会

(3) 安全管理RI利用部会

(4) ライフサイエンス利用部会

(5) RI管理について

4 その他

各部会報告

利用者の会経過報告

-4-

Page 7: 30周年記念研究報告会 - inst.cyric.tohoku.ac.jpinst.cyric.tohoku.ac.jp/kenkyu/program/abstracts2007.pdf · ことをふまえ,サポートガスの導入を実施した。これにより,Ar9+の場合で,これまでの約3倍のイオン電流

CYRIC 研究報告会予稿 Session1:加速器・核物理・核化学

- 5 -

加速器施設の現状

CYRIC 涌井崇志,篠塚勉,酒見泰寛, 伊藤正俊,住重加速器サービス

930 型サイクロトロンと HM12 型サイクロトロンを擁する CYRIC 加速器施設について,この一年間の運転

実績などについて報告する。

この一年間は,計画運転時間が 930 の場合で 3984 時間,HM12 の場合で 1344 時間と例年通りであっ

たが,ほぼ予定通りに順調に運転を行っている。また 930 サイクロトロンでは,P-14 MeV,40Ar9+-185 MeV

および 40Ar9+-212 MeV が新規エネルギーでの加速となっている。

イオン源については,近年のより重い核種に対するより高いエネルギーでの加速要求が増加している

ことをふまえ,サポートガスの導入を実施した。これにより,Ar9+の場合で,これまでの約 3 倍のイオン電流

を得ることに成功している。

また,ビーム輸送系では 32 コース(中性子コース)末端を改造することにより,陽子ビームを空気中で照

射可能としたことや,Q 磁石の制御系を本体系と分離することなどを行っている。また、昨年故障した 5 コ

ースのスゥインガーについては,今年度中に修理が完了する見込みである。

EC 崩壊核種ベリリウム 7 の半減期変化

東北大学大学院理学研究科原子核理学研究施設

大槻勤

放射性壊変は本来原子核に基づく現象であり、その壊変は確率的なもので多くの場合原子核を取り巻く核

外軌道電子とは無関係と思われてきた。しかしいくつかの例では、わずかではあるが、化学状態の変化や加圧

下で壊変定数、いわゆる半減期が変化することが認められている。我々は篭状構造の分子フラーレン内は真

空状態であり、7Be のような EC 壊変核種を内包させて測定した半減期は化学状態に関係しない孤立系のもの

であろうと考え、この場合の 7Be の半減期測定実験計画をたてた。 そして、核反応にともなう原子の反跳を利

用して C60 内に Be 原子などを内包させることができた。実際の実験では 7Be が金属 Be 内と C60 内に存在する

場合に、その半減期に差異が観測されるかを調べた。また、温度やフラーレンの籠サイズ(C60 と C70)の違いと

して半減期がどれほど変化するかも調べた。

これらの壊変曲線を指数関数で解析した結果、C60 内と金属 Be 内での 7Be の半減期は、それぞれ 52.47±

0.04 日及び 53.25±0.04 日と求められた。驚くべきことに、本実験で求められた 5K における C60 内の 7Be の半

減期は、その室温測定による半減期(52.65±0.04)よりも 0.34%も短くなり、さらに、293K の金属 Be 内の半減期

より 1.5%短いことが分った。この値は、これまでのさまざまな化学形や高圧下で測定されたどの半減期よりも大

きな変化が認められた。さらに、C70 では温度に関係なく 52.45±0.04 日程度の半減期が得られている。これは、

フラーレン(C60 と C70)が Be とつくるポテンシャルに違いがあることを示唆している。現在、C70 に関して2回目の

測定を終えた段階である。今後、51Cr 等の核種で差異が現れるかどうか確認したい。

1-2

1-1

Page 8: 30周年記念研究報告会 - inst.cyric.tohoku.ac.jpinst.cyric.tohoku.ac.jp/kenkyu/program/abstracts2007.pdf · ことをふまえ,サポートガスの導入を実施した。これにより,Ar9+の場合で,これまでの約3倍のイオン電流

CYRIC 研究報告会予稿 Session1:加速器・核物理・核化学

- 6 -

質量数 110 領域での超変形状態の探索

東京大学 原子核科学研究センター, 1 東北大学大学院理学研究科,

2 京都大学大学院理学研究科, 3 九州大学大学院理学研究院, 4 大阪大学大学院理学研究科,

5 理化学研究所仁科加速器センター, 6 東北大学 サイクロトロンラジオアイソトープセンター

井手口栄治、小池武志 1、吉田晃 2、大田晋輔、森川恒安 3、村上哲也 2、白鳥昂太郎 1、

馬越 1、三森雅弘 1、大谷友和 1、三輪浩司 1、小田原厚子 4、福地知則 4、鈴木智和 4、

堀稔一 4、増江俊行 4、倉健一郎 4、田尻邦彦 4、岸田隆 5、下田正 4、田村裕和 1、篠塚勉 6

我々は質量数 110 領域に予言される超変形状態を系統的に探査し、その回転バンド構造を調べる事

で Z=48, N=60 に予想される超変形殻構造を確かめるために東北大学サイクロトロンRIセンターで実験研

究を開始した。この領域の中で 107Cd, 109In に対象を絞り、インビームガンマ線核分光実験により高スピン

状 態 か ら の 多 重 ガ ン マ 線 を 測 定 し 超 変 形 回 転 バ ン ド の 観 測 を 目 指 し て い る 。 実 験 で は

20Ne(130MeV)+96Zr 反応を使用し、ガンマ線は 33 コースに設置されている Hyperball-2 を使用して測定す

るが、同時に放出される荷電粒子を測定してデータの S/N 比を向上させるために Si 検出器 11 台からな

る SiBall を組み込んで使用できるようにターゲット周りのチャンバー及びその上流のビームラインの整備を

行った。これまでに 20Ne ビームを用いたテスト実験および Hyperball-2 + SiBall からなる検出器系・データ

収集系のテスト、整備、測定を行ってきた。更なる S/N 比向上のために SiBall のアップグレード、BGO 多

重度フィルターの新設も行っている。これまでの実験結果と今後の展望について報告する。

RF イオンガイド式オンライン同位体質量分離装置を用いた中性子過剰核の研究

東北大学 CYRICA, 東北大学理学研究科 B

宮下裕次 A、B、星野沙代 A、B、石田孝司 A、長野哲也 A、B、大熊三晴 A、B、佐藤望 A、B、島田健司 A、

鈴木智和 A、B、立岡未来 A、B、鵜養美冬 A、涌井崇志 A、山下航 A、B、山崎明義 A、篠塚勉 A

我々のグループではベータ崩壊の安定線から遠く離れた短寿命中性子過剰核の核分光実験を行っ

ている。それと共に、短寿命中性子過剰核を輸送する RF イオンガイド型同位体質量分離装置

(RFIGISOL)の開発を行っている。RFIGISOL 内でのイオンの挙動の理解を目的とし、オフライン実験用に

YAG レーザーを用いたレーザアブレーションイオン源の開発を行い、金属イオンの引き出しに成功した。

これを用いる事で、ガスセル内でのイオンの挙動や、引き出しまでのタイムプロファイル測定が可能になり、

より短寿命な不安定核を引き出すための条件を探ることが容易になると考えられる。オンライン実験では、

質量分離する質量数ごとの短寿命不安定核の輸送収量の測定を行った。その結果、半減期が 1 秒前後

の短寿命不安定核が RFIGISOL から毎秒 4000atoms 程度質量分離されている。今回の発表では、核分

裂生成物を輸送・質量分離したオンライン実験などについて報告する。

1) Y. Miyashita, 15th International Conference on Electromagnetic Isotope separators and

Technical Related to their Applications (2007) Deauville, France

2) Y. Miyashita, International Nuclear Physics Conference INPC (2007), Tokyo, Japan

3) S. Hoshino, 日本物理学会第 62 回年次大会 (2007)

4) T. Nagano, 日本物理学会第 62 回年次大会 (2007)

1-4

1-5

Page 9: 30周年記念研究報告会 - inst.cyric.tohoku.ac.jpinst.cyric.tohoku.ac.jp/kenkyu/program/abstracts2007.pdf · ことをふまえ,サポートガスの導入を実施した。これにより,Ar9+の場合で,これまでの約3倍のイオン電流

CYRIC 研究報告会予稿 Session1:加速器・核物理・核化学

- 7 -

不安定核を対象とする原子線法の開発

東京工業大学理工学研究科基礎物理学専攻・理化学研究所仁科センター

島田 健司

重イオン反応によって生成した不安定核の磁気モーメントを原子線法によって測定を行う手法 (RIABR

法) の開発を行っている.原子線法にて用いるビームの条件としては低速 (数百 m/s, 10-3 eV) であるこ

とと速度が揃っていること,中性であることが挙げられる.これに対し,入射核破砕反応によって生成した

不安定核は数百 MeV 以上のエネルギーを持つため,低エネルギー化する必要がある.低エネルギー化

に関して次のような機構を考え,41 コースにて開発実験を行った.1) 150 MeV の 15N を用いて 16N を生成

し,2) これを一旦 200 Torr の Ne 気体中に停止・熱化させる. 3) 静電場によりノズル付近へ収集する.

4) 真空領域へ噴射させることにより,原子線を成形する.

気体中での入射粒子の位置の測定は安定核を用いている場合はほぼ不可能であるが,本研究では

β不安定核である 16Nが崩壊の際放出するβ

線を気体槽の外に設置したプラスチックシン

チレーターで検出することにより,崩壊時の

16N の位置を特定し,その分布の測定を可能

とした.その結果,上記の 1~3 に相当する効

率は入射した 16N に対して 3.00(28) % を得た.

また,1~4 に相当する効率は 0.1%を得た.

1-6

Page 10: 30周年記念研究報告会 - inst.cyric.tohoku.ac.jpinst.cyric.tohoku.ac.jp/kenkyu/program/abstracts2007.pdf · ことをふまえ,サポートガスの導入を実施した。これにより,Ar9+の場合で,これまでの約3倍のイオン電流

CYRIC 研究報告会予稿 Session2:核物理・粒子線治療・測定器開発・照射

- 8 -

酸素原子核におけるα凝縮状態の研究

東北大 CYRIC

伊藤 正俊, 松尾 亮, 大内 裕之, 大関 和貴, 酒見 泰寛, 杉本 直也

近年、12C や 16O 原子核において構成するαクラスターが、ガス状に拡がり原子核のフェルミ粒子的な性

質を保ちつつ、全て最低エネルギーの S 軌道上に存在していると考えられるα凝縮状態の研究が盛んに

行なわれている。12C においては、第二 0+状態がα凝縮状態であると考えられているが、αクラスター4 個

から成る 16Oにおいてもそのような状態が存在すれば、α凝縮状態の存在を決定づけることでき、αクラス

ターを原子核の構成粒子として考えるαクラスター状態をより普遍的な存在として位置づけることができ

る。

核子数が4Nの原子核におけるN個のα凝縮状態は、その構造が同様であるため、(N-1)個のα凝縮状

態を経由して崩壊していく確率が大きいと考えられる。そのため、本研究では 16O のα凝縮状態が崩壊し

て放出されるα粒子を測定し、その崩壊分岐比を求めることによって、α凝縮状態を探索する。しかしな

がら 16O のα凝縮状態は、4α崩壊しきい値エネルギー付近に存在すると理論的に予言されているため、

αなどの軽イオンを入射プローブとする実験では崩壊α粒子の運動エネルギーが非常に小さくなり、困

難であると予想される。崩壊α粒子の運動エネルギーを稼ぐために、調査対象である 16O を加速して、プ

ローブとなる標的粒子に入射し、反応させる逆運動学の手法を用いて実験を行なう。今回、41 コースの大

型散乱槽を使用してテスト実験を行ったので、その結果と今後の可能性について報告する。

テクネチウムとレニウムの陸上環境中挙動の比較

放射線医学総合研究所,東北大学 高等教育開発推進センターa

田上 恵子,内田 滋夫,a 関根 勉

テクネチウム-99(99Tc)は,物理学的半減期21万の長半減期核種であり,235Uの核分裂収率も約6%と

高いことから,原子力平和利用に伴って徐々に蓄積されている。環境中において 99Tc の易動性は高いと

考えられるため,放射性廃棄物処分の安全評価上重要な核種の一つである。Tc には安定同位体がない

ため,実際の環境挙動を明らかにすることが困難である。長期的な環境挙動を予測するために現在行わ

れているのは,フォールアウト 99Tc の環境試料中濃度分析や,99Tc や 95mTc を用いたトレーサー実験であ

る。一方で Tc の環境挙動解明のためのアナログとして同族元素であるレニウム(Re)を研究することも考

えられている。そこで本研究では,Tc と Re の陸上環境中における挙動の比較をトレーサー実験により行

った。

湛水土壌中における Tc と Re の挙動を比較したところ,Tc は時間の経過と共に土壌に徐々に収着・固

定されたのに対し,Re は土壌溶液中に留まっていたことから,土壌湛水条件下での Tc と Re の挙動が異

なることがわかった。Tc の場合は土壌微生物により土壌溶液から除去されるという報告があるが,Re には

そのような除去効果がないことが示唆された。また,Tc と Re の植物への移行挙動について水耕栽培実験

(TcO4-及び ReO4

-として添加)を行ったところ,植物による吸収挙動および植物体内での分布はほとんど

同じであることがわかった。

2-2

2-1

Page 11: 30周年記念研究報告会 - inst.cyric.tohoku.ac.jpinst.cyric.tohoku.ac.jp/kenkyu/program/abstracts2007.pdf · ことをふまえ,サポートガスの導入を実施した。これにより,Ar9+の場合で,これまでの約3倍のイオン電流

CYRIC 研究報告会予稿 Session2:核物理・粒子線治療・測定器開発・照射

- 9 -

ATLAS 実験用シリコンストリップ半導体粒子検出器の放射線耐性の研究

筑波大学、高エネルギー加速器研究機構 a

原 和彦,井上孝紀,目黒立真,望月亜衣,秦野博光,a 池上陽一,a 高力孝,a 寺田進,a 海野義信

2008 年夏に稼動する欧州 LHC 加速器では,現在の素粒子物理学の最大の課題である「質量の起源」

に関する実験研究がなされる。高エネルギーに加速した陽子を正面衝突させ,そこから発生するヒッグス粒

子を検出する。LHC の実験装置のひとつである ATLAS 検出器には,衝突時に発生する粒子の運動量を

精密に測定するため,微細に電極加工したシリコン半導体検出器が用いられている。稀に発生するヒッグ

ス粒子を検出するためには,多くの陽子を衝突させなくてはならないが,それに伴い,シリコン検出器は放

射線による損傷を受け性能が劣化する。既に据え付けられたものは 2×1014/cm2 程度の放射線を浴びると

性能が著しく劣化し使用不能になる。我々は,さらに加速器の性能を上げた場合の実験,sLHC実験

(2016 年以降に開始),でも使用可能な検出器を開発中である。

高純度のシリコンを用いたシリコン検出器では,逆電圧を加えて電子やホールが無い状態(全空乏化)

にする事で,粒子通過に伴う微小信号を効率良く検出できる。シリコンは,陽子などの放射線を浴びると不

純物密度が増加し,全空乏化させるためには,より高い逆電圧が必要となり,それが検出器の耐圧を越え

ると寿命に達する。我々は,P型の高純度のシリコンを用いることで,全空乏化しない状態でも信号読出し

が可能な新型の検出器を開発中である。実際にCYRICで陽子を 5×1015/cm2 まで照射して新型検出器

の放射線耐性を評価した。ほぼ使用可能な性能が得られ、今回はその結果を報告する。

粒子線照射装置の開発及び治療研究の現状

東北大学工学研究科,北里大学獣医学部 a,CYRIC b

寺川 貴樹,石井 慶造,千葉 俊行,宮下 拓也,山本 竜也,有川 潤,富樫 貴紀,山下 航,

秋山 久樹,小屋田 寛,藤田 雄三,エスマイリ‐トルシャビ アマド,石崎 梓,戸塚 祐希,本田 泰三,

伊藤 伸彦 a,佐野 忠士 a,和田 誠一 a,山崎 浩道 b,船木 善仁 b

我々は平成 17 年度より,粒子線治療における先端的照射技術や新治療法の開発研究,伴侶動物へ

の低侵襲治療応用を目的として,小動物用の粒子線治療装置の開発を行っている.現在,動物実験を

想定したワブラー法による粒子線拡大照射技術及び治療計画システム(体内の吸収線量シミュレーショ

ン)が完成し,治療研究の実施が可能となった.また同時に,高精度照射技術の開発として,スポットビー

ムスキャニング法の呼吸同期照射の基礎実験を行っている.

治療研究においては,悪性腫瘍細胞株を移植したマウスによる治療実験に着手した.治療効果の検

証には,CYRIC で開発されている超高分解能半導体 PET 装置等を用いる予定である.

2-3

2-4

Page 12: 30周年記念研究報告会 - inst.cyric.tohoku.ac.jpinst.cyric.tohoku.ac.jp/kenkyu/program/abstracts2007.pdf · ことをふまえ,サポートガスの導入を実施した。これにより,Ar9+の場合で,これまでの約3倍のイオン電流

CYRIC 研究報告会予稿 Session2:核物理・粒子線治療・測定器開発・照射

- 10 -

一次元位置敏感型 CdTe 半導体検出器の開発

工学研究科 a,CYRICb

a 菊池 洋平、 a 石井 慶造、 a 松山 成男、 b 山﨑 浩道、 a 酒井 智浩、

a 河野 雅之、 中村 賢治

半導体検出器の使用は PET 装置の空間分解能の向上に非常に効果的であり、これによって高分解能

の PET 装置の開発が実現している。空間分解能の他に、重要な PET 装置の性能として感度が挙げられ

る。感度は検出効率の高い材料を検出器に用いることのほか、検出器の充填率(パッキング・レシオ)を高

くすることによって向上する。我々は、半導体 PET の感度向上のため、CdTe を材料とした位置敏感型検

出器の開発を行なっており、1 次元型位置敏感型 CdTe 検出器の開発に成功した。

位置敏感型検出器の開発には、抵抗性電極の形成が必要であるが、我々のグループは既にこの手法

を開発しており、1 次元位置敏感型 CdTe 検出器はこの技術を用いることで可能になった。本発表では、

開発された 1 次元位置敏感型検出器に関して行なった位置特定性能の評価と、PET 応用の有効性を調

査するために行なった PET 測定の結果に関して報告する。

2-5

Page 13: 30周年記念研究報告会 - inst.cyric.tohoku.ac.jpinst.cyric.tohoku.ac.jp/kenkyu/program/abstracts2007.pdf · ことをふまえ,サポートガスの導入を実施した。これにより,Ar9+の場合で,これまでの約3倍のイオン電流

CYRIC 研究報告会予稿 Session3:PIXE・半導体損傷

- 11 -

ダイナミトロン加速器の現状

東北大学大学院工学研究科

○松山成男、藤澤政則、永谷隆男、小松清勝、石井慶造、橋本健太郎

東北大学のダイナミトロン加速器は米国 RDI 社製シュンケル型シングルエンド加速器で、1974 年に設

置された。1996 年より PIXE 分析専用ラインを増設し PIXE 分析を開始すると共に、サブミリ PIXE カメラや

マイクロビーム分析システムの開発を行い、PIXE の応用範囲の拡大を図ってきた。2007 年 2 月より、イオ

ン源とレンズシステム、nsec パルス化装置、加速管と制御系の更新を実施中であり、途中経過を報告す

る。

重イオン PIXE による化学状態分析 1)東北大学大学院工学研究科 2)東北大学サイクロトロン RI センター

○松山成男 1)、石井慶造 1)、山崎浩道 2)、菊池洋平 1)、川村悠 1)、坪井真太郎 1)、渡辺未樹 1)

PIXE 法は高感度分析法として知られているが、本研究では入射粒子を重イオンとした、重イオン PIXE

による化学状態分析法の開発を行った。これは、重イオン照射を用いると、内殻電子の電離とともに、外

殻電子が多数同時に電離されるので、この状態からのX線スペクトル(多重電離スペクトル)には、その原

子の化学状態が強く現れる。そのため、通常の X 線検出器を用いても化学状態分析を行うことが出来る

可能性がある。そこで、X 線スペクトルを HPGe 検出器で測定し、エネルギーシフト、線幅、Kα/Kβ比の 3

つのパラメータでとらえ総合的に化学状態分析分析する手法を開発し、種々の Fe 化合物の重イオン入

射による化学状態分析を行った。

3-1

3-2

Page 14: 30周年記念研究報告会 - inst.cyric.tohoku.ac.jpinst.cyric.tohoku.ac.jp/kenkyu/program/abstracts2007.pdf · ことをふまえ,サポートガスの導入を実施した。これにより,Ar9+の場合で,これまでの約3倍のイオン電流

CYRIC 研究報告会予稿 Session3:PIXE・半導体損傷

- 12 -

マイクロビームを用いた炭素鋼酸化皮膜分析法の検討

東北大学大学院工学研究科量子エネルギー工学専攻 1

東北大学大学院工学研究科技術社会システム専攻 2

1 川村悠、1 石井慶造、1 山崎浩道、1 松山成男、1 菊池洋平、1 小山亮平、2 谷野聖、2 渡辺豊

火力、原子力発電プラントでは、流動高温水配管中で流速の増大によって炭素鋼の腐食が加速され

る FAC(流動加速腐食)による配管減肉現象が見られる。FAC を支配する因子は種々存在するが、中でも

炭素鋼中の Cr 含有量は他の因子に比較して制御が容易であることと、微量の Cr の含有で FAC を減速

させる効果を得られることから、Cr 含有量の制御が FAC 対策として期待されている。このため配管の材料

変更や現有配管の減肉速度予測において、比較的僅かの Cr が FAC 抑制に高い効果を与えるメカニズ

ムを明らかにすることが必要である。このメカニズムは炭素鋼に含有されるわずかな Cr の濃度が、高温水

中での酸化皮膜層の形成に大きな影響を及ぼしているとされている。そこで本研究では、高温水中で形

成された酸化皮膜層の分析法の検討を行い、Cr 濃度と酸化皮膜層の厚みや構成元素を調べることで、

炭素鋼の耐食性との対応関係を明らかにすることを目的とする。分析には酸素などの軽元素を分析する

RBS 法と Cr、Fe などの重金属を分析する PIXE 法を組み合わせた。また炭素鋼中の Cr は不純物として

含有されるため、局所的に分散していることが予想して、マイクロビームでスキャンすることで Cr 含有量と

皮膜厚の関係や、皮膜の厚さ方向に従った Cr の分布について分析していった。 分析の結果、Cr 濃度

が増加するにつれて酸化層の厚さが薄くなることが分かり、酸化膜が形成されている部位で Fe と Cr 濃度

が下がっていることが測定出来た。

黄砂粒子の Micro-PIXE 分析

東北大学大学院工学研究科 1 長崎大学環境科学部 2

山中健太郎 1、石井慶造 1、山崎浩道 1、松山成男 1、菊池洋平 1

川村悠 1、小山亮平 1、山本竜也 1、坪井真太郎 1、渡邊未樹 1、荒生公雄 2

黄砂は砂漠や黄土地帯で吹き上げられた多量の砂塵が、上空の気流により運ばれてくる自然現象で

ある。しかし、東アジアの上空を経由して日本に飛来する際に、人為起源の大気汚染物質を取り込むな

どの変成を起こしている。そのため、日本において環境汚染を生じる可能性があり、黄砂の性状や輸送

中での変成のメカニズムを解明することが非常に重要である。これらの解明には黄砂の化学組成を知るこ

とが必要不可欠である。また日本に飛来する黄砂は、種々の起源や変性を起こした粒子の集合体であり、

バルク状態の分析では化学組成が平均化され、統計的処理による間接的な情報しか得られない。これに

対し黄砂の個別粒子分析を行えば、起源の異なる粒子を分類することが可能になる。

そこで我々は東北大学のダイナミトロン実験室に Micro-PIXE 分析法を中核としたマイクロビーム分析

システムを開発し、黄砂の個別粒子分析を行なった。サンプルには長崎大学で捕集された黄砂粒子を用

いた。実験結果から黄砂の成分や粒子の成因・変性についての知見を得ることができた。この様に、黄砂

を個別粒子で分析することは、粒子同士の相関関係を明らかにすることができるため、輸送時における変

成のメカニズムの解明に役に立つものと期待される。

3-3

3-4

Page 15: 30周年記念研究報告会 - inst.cyric.tohoku.ac.jpinst.cyric.tohoku.ac.jp/kenkyu/program/abstracts2007.pdf · ことをふまえ,サポートガスの導入を実施した。これにより,Ar9+の場合で,これまでの約3倍のイオン電流

CYRIC 研究報告会予稿 Session3:PIXE・半導体損傷

- 13 -

J-PARC ビームラインで使用する磁性材料および防錆塗料の放射線耐性試験

高エネルギー加速器研究機構、茨城県つくば市大穂1-1

1 理化学研究所仁科加速器センター

里嘉典、上利恵三、飯尾雅実 1、高橋仁、豊田晃久、渡辺丈晃

現在建設中の大強度陽子加速器(J-PARC)のハドロン実験室では、50GeV-15μA(750kW)の陽子ビー

ムのプロファイルモニタとして、陽子ビームがビームパイプ中の残留ガスをイオン化して生じる電離電子を

収集することにより非接触でプロファイルを測定できる残留ガスビームプロファイルモニタ(RGIPM)を開発

した。RGIPM では 1Pa の真空度で電子の拡散を抑制するため、永久磁石を用いて磁場を印加する必要

がある。永久磁石の磁性体として Sr フェライトを選択したが、Nd-Fe-B 系や Sm-Co 系と比べて放射線耐

性の定量的なデータがない。これを試験するために CYRIC の 70MeV-1.5μA 陽子ビームを用いて磁化

した試料に直接ビームを照射し、減磁の度合いを測定した。

実験の結果、Sr フェライトは 1017p/cm2 の積算フルエンスの照射後でも起磁力を保つことがわかった。こ

の積算フルエンスは J-PARC の二次粒子生成標的(T1)上流のシビアな放射線環境下での約 7 年程度

に相当し、RGIPM に用いた Sr フェライトは十分実用に耐える材料であることが証明された。

また、ハドロン実験室内の一次ビームラインで防錆塗料として用いる無機塗料についても照射を行い、

30MGy 相当の照射後でも剥離や変色が無いことを確認した。

3-5

Page 16: 30周年記念研究報告会 - inst.cyric.tohoku.ac.jpinst.cyric.tohoku.ac.jp/kenkyu/program/abstracts2007.pdf · ことをふまえ,サポートガスの導入を実施した。これにより,Ar9+の場合で,これまでの約3倍のイオン電流

CYRIC 研究報告会予稿 Session4:放射線測定

- 14 -

デジタル信号処理を用いたパイルアップ分離手法の開発(1)

―HPGe 検出器におけるパイルアップ―

CYRIC

大石 卓司、馬場 護

高純度ゲルマニウム(HPGe)検出器は高エネルギー分解能を持つためにγ線測定に広く使用されて

いる。高エネルギー分解能を十分に引き出すためには長時定数のアンプを用いる必要があるが、信号幅

が広いためにパイルアップが起こりやすい。パイルアップ事象を計数させないパイルアップ除去法が開発、

使用されているが、この手法では事象を除去してしまうために、最大計数率を低下させる。よって、エネル

ギー分解能と計数率の両立は困難であった。

そこで、本研究では、パイルアップ事象を除去するのではなく、それぞれの信号に分離し、正しい信号

として計数するパイルアップ分離手法を開発する。

我々の手法は、デジタル信号処理(DSP)手法を用いて全ての信号波形を取り込み、関数フィッティン

グにより、個々の信号に分離するものである。そのためにパイルアップを起こしにくい短時定数のアンプを

新たに導入し、パイルアップ信号の数とそれらのタイミングに関する情報を導出した。更に、長時定数アン

プの信号は、殆ど同一形状のガウス関数で表現できることが分かったので、数とタイミングの情報を用いる

ことによってフィッティングが非常に容易になり、複雑なパイルアップでも簡単に分離することができた。

開発したパイルアップ分離手法を HPGe 検出器に適用した。パイルアップの分離によって高分解能、

高効率の両立が実現し、スペクトルも補正できることが確認された。

デジタル信号処理を用いたパイルアップ分離手法の開発(2)

―有機シンチレーターNE213 におけるパイルアップ―

CYRIC

奥地 俊夫、大石 卓司、馬場 護

パイルアップ分離手法の開発(1)では HPGe 検出器について分離手法の開発を行ったが、信号波形が

既知であるということが重要な条件であった。中性子測定に広く用いられる有機液体シンチレーター

NE213 はγ線と中性子に感度を持ち、蛍光減衰速度の違いを利用して粒子弁別を行うが、パイルアップ

が生じた場合、弁別が困難となり信号波形を決定できず、前述の分離手法を適用することができない。こ

の問題を解決するために、デジタル信号処理(DSP)を用いて新たにパイルアップ分離手法を開発した。

NE213 のパイルアップを分離するには、波形に関係なく処理を行うことができ、かつ分離後に粒子情報

を保存していなければならない。我々は波形をフィルタリングし変形させることができる伝達関数に着目し、

その利用によって信号テールに含まれる粒子情報を保持したままテールを短くすることを考えた。入出力

信号波形を模擬した傾きの異なる二つの関数により伝達関数を導出した。これを用いてフィルタリングを

行い、信号テールを短くすることができた。これによりパイルアップした信号を重畳させないように変形でき

る。この手法は入力信号の形状を反映した出力信号が得られるので、中性子、γ線区別なく処理し、その

後弁別を行うことができる。変形前後の波高スペクトル、n-γ弁別を比較し、その効果を確認した。

4-1

4-2

Page 17: 30周年記念研究報告会 - inst.cyric.tohoku.ac.jpinst.cyric.tohoku.ac.jp/kenkyu/program/abstracts2007.pdf · ことをふまえ,サポートガスの導入を実施した。これにより,Ar9+の場合で,これまでの約3倍のイオン電流

CYRIC 研究報告会予稿 Session4:放射線測定

- 15 -

On the Use of a Thick Carbon Target in the 90º Compton Spectroscopy

for the Measurement of Diagnostic X-rays 1Cyclotron and Radioisotope Center, Tohoku University,

2Graduate School of Pharmaceutical sciences, Tohoku University

A. MOHAMMADI1,* , M. BABA1, H. OHUCHI2

In order to perform quality assurance (QA) and quality control (QC) of the X-ray radiographic systems,

we studied the Compton spectroscopy using different shape and size of scatterer such as columnar carbon

rods of 2 cm diameter, which were cut at different angles of 15º, 30º, 45º, 60º and 75º. The appropriate

shape of a carbon scatterer was studied in terms of minimum multiple scattering, the energy broadening

and easy practical use.

The Compton spectroscopy measurements were done for scatteres with cutting angle of 30º and 45º.

The primary x-ray spectrum was obtained using the Compton scattering cross section. We measured

Exposure of the x-ray unit by an ionization chamber for evaluation of the reconstructed spectra.

Calculated exposure results from our Compton spectroscopy using two scatteres were confirmed by

the results of exposure measurement using a calibrated ionization chamber. The Compton spectroscopy of

x-ray radiographic systems with a thick carbon scatterer proved to be a useful method for the evaluation

of such system performance.

Development of a high count rate gaseous neutron detector

CYRIC

M. Nakhostin*, M. Baba

Micromegas detector is a high count rate gaseous detector which was introduced in CERN in 1996.

This detector consists of a two-stage parallel-plate avalanche counter with an amplification gap of 50-100

µm.

We have designed and constructed a new version of Micromegas detector which operates at low gas

pressures of isobutene gas (20-50 Torr). With this approach the detector amplification gap can be

increased to 400 µm while the detector rate capability is not impaired and the construction procedure is

significantly simplified. With this configuration, signals with ~100 ns duration were observed which enables

count rates in MHz domain.

4-3

4-4

Page 18: 30周年記念研究報告会 - inst.cyric.tohoku.ac.jpinst.cyric.tohoku.ac.jp/kenkyu/program/abstracts2007.pdf · ことをふまえ,サポートガスの導入を実施した。これにより,Ar9+の場合で,これまでの約3倍のイオン電流

CYRIC 研究報告会予稿 Session4:放射線測定

- 16 -

Pr:LuAG シンチレータの特性と画像診断機器への応用手法への検討

*1)東北大学 CYRIC 2)東北大学多元物質研 3)古河機械金属 4)神戸高専*

1)○山口庸一 1)奥山修平 1)三宅正泰 2),3)鎌田圭 2)柳田健之 2)吉川彰

4)山本誠一 1)馬場護 1)伊藤正敏

陽電子放出核を含む放射性薬剤と、陽電子による対消滅γ線を利用した核医学診断技術の一つであ

る陽電子断層撮像(PET)は、機能画像を得られる技術として進歩し、今日では従来の様々なインビボ検

査に加えて、癌の検査を中心に広く利用されるようになった。現在、解像度のさらなる向上が要求されて

いるが、従来の大きなリング型の PET 装置は角度揺動の影響から解像度には限界が存在する。そのため

今後は部位別に用いる高解像度 PET 装置の開発によって解像度を向上させていくと考えられる。

次世代の PET 装置は高感度、高解像度であることを要求される。解像度を向上させるためには PET の

同時計数固有の問題である散乱線と偶発同時計数をそれぞれエネルギー分解能と時間分解能高めるこ

とで除去する必要があり、感度の向上には高い密度および速い発光減衰による高計数率が求められる。

これは現在の PET 装置が採用している固体シンチレータにおいては密度・エネルギー分解能・時間分解

能・発光減衰の速さ等に優れているということであり、さらに製作上のコストも低い事が望ましい。Pr:LuAG

結晶(Lu3Al5O12:Pr)は、これらの要求を満たすシンチレータとして東北大学多元研にて開発された。しかし、

シンチレーション光の発光波長が他のシンチレータより短い等の問題もあるため、本研究では PET 装置

への使用を前提とした LuAG の特性評価を行った。

4-5

Page 19: 30周年記念研究報告会 - inst.cyric.tohoku.ac.jpinst.cyric.tohoku.ac.jp/kenkyu/program/abstracts2007.pdf · ことをふまえ,サポートガスの導入を実施した。これにより,Ar9+の場合で,これまでの約3倍のイオン電流

CYRIC 研究報告会予稿 Session5:分子イメージング

- 17 -

血液脳関門の amyloid-β peptide(1-40)排出輸送における low-density lipoprotein receptor-related protein-1 の寄与の解明

薬学研究科 1,SORST, 科学技術振興機構 2

伊藤慎悟 1,2,上野孝哉 1、大槻純男 1,2、上家潤一 1,2、寺崎哲也 1,2

血液脳関門(BBB)を介した脳から循環血液中への amyloid-β peptide (Aβ)排出輸送に対する low-density

lipoprotein receptor-related protein-1 (LRP-1)の寄与に関して、相反する結果が報告されている。そこで

本研究では、Aβ(1-40)および LRP-1 によって輸送される活性型α2-macroglobulin (α2M*)のマウス BBB

を介した排出輸送を解析することによって、BBB における Aβ(1-40)排出輸送に対する LRP-1 の寄与を解

明することを目的とした。脳内投与された[125I]Aβ(1-40)は消失半減期 45 分で飽和性排出輸送機構を介

して脳内から消失した。しかし、LRP-1 阻害剤である receptor-associated protein は Aβ(1-40)排出輸送を

阻害しなかった。脳内投与された[125I]α2M*は投与後 90 分まで脳内から有意に消失しなかった。

[125I]α2M*の定常状態における脳切片への取り込みは inulin と等しかったことから、脳内投与された

[125I]α2M*は脳実質細胞に結合および取り込まれないことが示唆された。以上,本研究から、マウス BBB

における LRP-1 の排出輸送機能は非常に小さいことが明らかになった。従って、BBB を介した Aβ(1-40)

排出輸送に LRP-1 以外の分子が大きく関与している可能性が考えられる。

[11C]BF-227 を用いた脳内アミロイド蓄積に関する定量的検討 1 東北大学 CYRIC、2 医学系研究科機能薬理学、3 老年・呼吸器病態学、4TUBERO 高度情報通信、

5 東京都老人医学総合研究所ポジトロン医学研究部門、

6 放射線医学総合研究所分子イメージング研究センター

○田代 学 1、岡村信行 2、熊谷和明 1、古本祥三 3、船木善仁 1、木村裕一 5,6、

石渡喜一 5、伊藤正敏 1、岩田錬 1、工藤幸司 4、荒井啓行 3、谷内一彦 1,2

【目的】昨今、認知症の早期診断および薬物治療モニタリングの手段を確立する目的でアミロイド・イメー

ジングが世界中で行われている。[11C]BF-227 は、本邦で独自に開発され臨床試験が行われた初のトレ

ーサーである。その定量解析について報告する。【方法】AD 患者 15 名(60~70 歳代)および健常者 12

名(30~60 歳代)を対象として[11C]BF227 を投与し、90 分間のダイナミック撮影を行い、加温静脈または

動脈から採血を行った。血液 input または小脳参照領域 input による Logan 法を用いて DV 値と対小脳比

DVR を求め、加算平均画像から求めた SUV と SUVR の値と比較した。DV 値は初期の 60 分までの画像

と 90 分間の画像について求めた。

【結果】AD 症例で最も[11C]BF227 が顕著に集積したのは側頭頭頂葉連合野であり(p<0.001)、アミロイ

ドプラークの重要な蓄積部位と思われる部位と一致し、Logan 法でも SUVR でも有意差が認められた。【考

察および結論】[11C]BF227 は有用なトレーサーであり、AD におけるアミロイドプラーク蓄積の脳内病理を

より直接的に反映している可能性があるものと考えられる。動脈採血を行い、3コンパートメントモデルを用

いた解析の結果では、K1/k2 の局所差が観察されたため、脳内各所において、血液コンパートメントと組

織コンパートメントの薬剤の移行率が均一でなく、参照領域法が適用できない可能性が示唆された。一方、

局所差のパターンには被験者間で一定の傾向が認められないこと、薬剤移行性が大脳皮質内において

大きく異なる特定の原因が見あたらず、現在他のモデルの適用可能性について検討を進めている。

5-1

5-2

Page 20: 30周年記念研究報告会 - inst.cyric.tohoku.ac.jpinst.cyric.tohoku.ac.jp/kenkyu/program/abstracts2007.pdf · ことをふまえ,サポートガスの導入を実施した。これにより,Ar9+の場合で,これまでの約3倍のイオン電流

CYRIC 研究報告会予稿 Session5:分子イメージング

- 18 -

神経変性疾患における[11C]BF-227 PET 所見

医学系研究科, TUBERO a , CYRIC b

岡村信行, a 古本祥三, b 田代学, b 船木善仁, b 石川洋一, 加藤元久, 森雅憲, 古川勝敏,

荒井啓行, b 岩田錬, a 工藤幸司, 谷内一彦

アミロイド斑の生体イメージングは,アルツハイマー病(AD)やプリオン病の早期診断法および薬効評

価系として有用性が高いと予想される。我々は Benzoxazole 誘導体である BF-227 の 11C 標識体を合成し,

種々の神経疾患でその臨床評価を行った。健常ボランティア,軽度認知機能障害(MCI)症例,AD 患者,

レビー小体型認知症(DLB)患者,前頭側頭型認知症(FTD)患者,プリオン病(クロイツフェルトヤコブ病,

ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー症候群(GSS))患者の計50名を対象とした。 [11C]BF-227 5-10

mCi 静注投与後,60 分間のダイナミックスキャンを施行し,各関心領域における SUV 値とその対小脳比,

対橋比を算出した。その結果,AD 患者では,ほぼ全例で大脳皮質領域における[11C]BF-227 の集積を

認めた。MCI 症例では 11 例中 7 例で大脳皮質における集積が上昇し,特に AD へのコンバート例で高

集積値を示した。DLB 症例では 2 例中 1 例で集積上昇が観察されたが,FTD 症例は正常集積パターン

を示した。プリオン病では,GSS 症例で顕著な集積上昇が確認された。最後に AD 患者と健常高齢者の

鑑別能力を[11C]BF-227 PET と FDG-PET で比較した結果,[11C]BF-227 の方がすぐれた鑑別能力を示

した。

以上,本研究により,[11C]BF-227 を用いた PET 検査が AD やプリオン病の診断に有用であることが明

らかになった。

参考文献: 1) Kudo Y, Okamura N, Furumoto S et al. J Nucl Med. 2007;48:553-561.

血管標的薬剤 AVE8062 により誘発される腫瘍低酸素状態の評価

TUBEROa、CYRICb、加齢研 c

a 古本祥三、b 本田芳雄、c 堀勝義、b 石川洋一、c 福田寛、a 工藤幸司、b 岩田錬

【目的】コンブレタスタチン誘導体の AVE8062 は、腫瘍細胞への酸素・栄養素の供給源となっている腫瘍

血流の遮断により抗腫瘍効果を示す薬剤であり、現在欧米で Phase I の治験が進行している。本研究で

は、AVE8062 の血流遮断効果によって誘発が懸念される腫瘍低酸素状態の評価を目的として、

AVE8062投与時における[18F]FMISOの腫瘍集積性の検討を行った。【方法】腫瘍細胞LY80を背部皮下

に移植して作製した担癌ラットに対して、AVE8062(5, 10 mg/kg)および[18F]FMISO を一定時間間隔で尾

静脈内投与し、[18F]FMISO 投与 2 時間後に腫瘍塊及び主要臓器組織を摘出して放射能集積率(%ID/g)

を算出し、AVE8062 未処置の場合(対照群)と比較した。また、同様の処置を施した腫瘍塊のオートラジオ

グラフィー(ARG)を行い[18F]FMISO の腫瘍組織内分布を検証した。【結果および考察】AVE8062 処置群

(2, 5, 10 mg/kg)では、主要臓器組織の[18F]FMISO 集積率は対照群と比較して同程度の値となったが、

腫瘍では 1.5-2.0 倍の値となり腫瘍特異的低酸素化の誘発が確認された。また中容量(5 mg/kg)の

AVE8062 処置で[18F]FMISO は最も高い腫瘍集積性を示した。AVE8062 処置の腫瘍 ARG では、腫瘍中

心部よりも周辺部でより高い放射能集積が確認された。これらの結果から AVE8062 による癌治療では局

所的に腫瘍低酸素細胞が残存する可能性が示唆された。従って、AVE8062 の治療効果・予後の評価を

行う際には FMISO-PET による治療モニターの実施が重要になると考えられる。

5-3

5-4

Page 21: 30周年記念研究報告会 - inst.cyric.tohoku.ac.jpinst.cyric.tohoku.ac.jp/kenkyu/program/abstracts2007.pdf · ことをふまえ,サポートガスの導入を実施した。これにより,Ar9+の場合で,これまでの約3倍のイオン電流

CYRIC 研究報告会予稿 Session6:高分解能 PET

- 19 -

半導体検出器を用いた新規動物用 PET 装置の性能評価 1 東北大 CYRIC, 2 阪大核医学, 3 東北大工

船木善仁 1, 金井泰和 2, 菊池洋平 3, 酒巻学 3, 松山成男 3, 岩田錬 1, 山崎浩道 1, 石井慶造 3

ラットやマウスのような小動物を用いた PET は新規分子イメージングプローブの開発に非常に有用であ

る。しかし、シンチレーター検出器を用いる従来の PET 装置では中心部の解像度が 1.3 mm であり、ノック

アウトマウスなどの特殊なマウスを用いた研究においてはこの解像度ではまだ不十分である。この点を改

善する目的で、工学研究科の石井研究室グループは半導体(CdTe)を用いた PET 装置 (FINE PET)を

開発し、当センターに設置した。本研究ではこの装置の性能評価を行ったので報告する。

Wistar rat (5 週齢,オス)、ddY mouse (7 週齢,オス)を用い、尾静脈より[18F]FDG をそれぞれ 185 MBq (5

mCi), 44.4 MBq (1,2 mCi)を投与した。60 分後に塩酸ケタミンを用いて麻酔を行った後、2 時間撮影を行

った。

その結果、ラットだけでなくマウスにおいても[18F]FDG は大脳皮質と線条体に集積が確認できた。また、

非集積部分である脳梁との境界も区別できることが明らかとなった。併せて、当センターの臨床で使用し

ている 11C 標識リガンドの画像や直径 2 mm 以下の癌を移植した担癌マウスにおける[18F]FDG の画像も

紹介する。

高解像度 PET によるラット抜歯窩歯槽骨骨代謝動態の検討

歯学研究科口腔システム補綴学分野,

東北大学病院附属歯科医療センター顎口腔再建治療部 a

サイクロトロンラジオアイソトープセンター核薬学研究部 b, 放射線管理研究部 c

d 工学研究科量子エネルギー工学

横山政宣, 渥美知洋, 山本未央, a 佐々木洋人, a 小山重人, b 船木善人,d 菊池洋介,

d 酒巻 学, c 山崎浩道, d 石井慶造, 佐々木啓一

動物用高解像度 PET を用いて,ラット抜歯窩歯槽骨における骨代謝動態に関しての検討を行った.被

験動物は,Wistar 系雄性ラット(5 週齢)を用いた. 上顎右側臼歯 3 本を腹腔麻酔(ネンブタール)下にて

抜歯した.抜歯 1 週間後に,18F- 5mCi をエーテル麻酔下にて尾静脈より静注し,投与 1 時間後に吸入

麻酔(イソフルレン)下で PET SCAN を行った.また,コントロールとして抜歯を行わないラットについても

同様の方法で SCAN を行った.収集時間は 2 時間とし,coincidence 後に画像解析ソフト(image J)にて抜

歯窩歯槽骨部(抜歯側)および健側における 18F-の集積値を計測した.分析は、健側と抜歯側の集積カ

ウント数を比較検討するとともに、健側の集積値を基準とした時の抜歯側の集積値、すなわち放射活性

比を算出し、抜歯部位の骨代謝回転の指標とした。

実験では,ラット頭部の鮮明な画像を得ることができた.また,抜歯窩歯槽骨部においては,66.9

count/pixel の集積値を示した.これは以前我々が 99mTc-MDP を用いてγカメラで分析した値の 55.3%の

割合であった.健側に対する抜歯側の count ratio は,1.32 であり,この値はγカメラで行った際の数値と

ほぼ同様の結果となった.

6-2

6-1

Page 22: 30周年記念研究報告会 - inst.cyric.tohoku.ac.jpinst.cyric.tohoku.ac.jp/kenkyu/program/abstracts2007.pdf · ことをふまえ,サポートガスの導入を実施した。これにより,Ar9+の場合で,これまでの約3倍のイオン電流

CYRIC 研究報告会予稿 Session6:高分解能 PET

- 20 -

ナノバブルと超音波を利用したマウス骨格筋への

Na/I sympoter(NIS)遺伝子発現の可視化

1.先進医工学研究機構、 2.CYRIC、 3.工学研究科

渡邊夕紀子 1、 堀江佐知子 1、 冨田典子 1、 小玉哲也 1

船木善仁 2、 菊池洋平 3、 酒巻学 3、 山崎浩道 2、 石井慶造 2,3、 伊藤正敏 2

遺伝子治療では、遺伝子発現にともなう治療効果をモニタリングし、予後の治療計画を立案することが

必要である。動物実験では蛍光分子や発光を利用した分子イメージング法の開発研究が発展しているが、

臨床応用が難しいという問題点がある。ナトリウム・ヨードシンポーター(NIS)遺伝子はヨウ素の取込機能を

有することから、この遺伝子と治療用遺伝子を組合せたレポーター遺伝子を開発し陽電子放射断層撮影

法(PET)と組み合わせることで、臨床応用の実現性が高い遺伝子診断法が可能性であり、特に遺伝子治

療や再生治療等に有効であると判断される。

本研究では、ナノバブル(NB)と超音波(US)を利用した分子導入法によりマウスの前脛骨筋に NIS 遺伝

子を導入し、その発現にともなう 124I の集積を実用型動物用半導体 PET で画像として捕えることを目的と

している。

高解像度 PEM(Positron Emission Mammography)装置の開発状況

CYRICa、神戸高専 b、東北工大 c、多元研 d、医学研究科 e、

工学研究科 f、CMIg、JST フェローh、古河機械金属 i

a 三宅正泰、a 馬場護、a 伊藤正敏、b 山本誠一、c 人見敬太郎、d 福田承生、d 吉川彰、d 荻野拓、

d 小林茂治、e 大内憲明、f 武田元博、gT.R.Santos、h 佐々木雄久、h 熊谷和明、i 薄善行、i 鎌田圭

日本ではがんは、死因のトップであり、中でも女性では、乳がんは死因のトップとなっている。従来、乳

がんの検診には、触診や超音波エコー検査、X 線マンモグラフィーなど、形態診断が主に行われている

が、診断に熟練を要し、正診率もさらなる向上が望まれている。一方 FDG-PET ではがんの機能診断を行

うことができ、乳房に特化した高解像度 PET 装置すなわち高解像度 PEM を用いれば、初期のがんを発

見することが容易になり、早期乳がんの発見率の向上、治癒率の向上に寄与することができる。

本研究は、科学技術振興機構(JST)の地域研究開発資源活用推進プログラムの支援を受け、高解像

度 PEM 装置のプロトタイプ開発を行うことを目的としている。装置は検出器、計測回路、画像処理装置、

ガントリー等で構成される。検出器には多元研で開発された Pr:LuAG を用いる予定である。

検出器は、FP-PMT とシンチレーター結晶アレイを組み合わせた平板型位置弁別型検出器となってい

る。小型の平板型検出器を2台1組用い同時係数を行う、PEMシミュレータを開発した。また、Pr:LuAGの

発光波長や発光減衰時間などの特徴を生かした、反射材の選定や、回路の最適化も行っていく。並行平

板型ジオメトリでノイズの少ない高解像度な画像を得るために最適な画像再構成のプログラムの開発も行

っている。

6-3

6-4

Page 23: 30周年記念研究報告会 - inst.cyric.tohoku.ac.jpinst.cyric.tohoku.ac.jp/kenkyu/program/abstracts2007.pdf · ことをふまえ,サポートガスの導入を実施した。これにより,Ar9+の場合で,これまでの約3倍のイオン電流

CYRIC 研究報告会予稿 Session7:生体機能イメージング

- 21 -

情動と報酬がエピソード記憶の記銘に与える影響:PET 研究 1 東北大学大学院医学系研究科高次機能障害学

2 東北大学 CYRIC 核医学研究部

重宗弥生 1、阿部修士 1、鈴木麻希 2、上野彩 1、森悦朗 1、田代学 2、伊藤正敏 2、藤井俊勝 1

情動や報酬は辺縁系の活動を通して記憶を強めることが知られている。しかし、これまで、情動と記憶

に関する研究と報酬と記憶に関する研究は別々に進められており、それら 2 つが組み合わさった状況に

おいて記憶がどのような影響を受けるのかは明らかになっていない。本研究では、不快情動と金銭的な

報酬を用いて、それらが記憶の記銘にどのような影響を与えるかを、記憶成績と脳賦活画像から検討す

ることを目的として実験を行った。記銘課題では情動(中性情動・不快情動)×報酬(高報酬・低報酬)の 4

つの条件で写真を呈示し、被験者には、呈示された写真を憶えることができたら高報酬条件では 1 枚に

つき 100 円の報酬が、低報酬条件では 1 枚につき 1 円の報酬が得られることを説明した。およそ 24 時間

後の再認課題では記銘課題で学習した写真としなかった写真を呈示し、その写真が記銘課題で学習し

たかどうかの判断を行ってもらった。記憶成績について、情動と報酬の 2 つを要因とした分散分析を行っ

た結果、情動の主効果(不快情動>中性情動)と報酬の主効果(高報酬>低報酬)がみられたものの、情

動と報酬の交互作用はみられなかった。また、脳機能画像データでは、中性情動より不快情動で活動し

ている領域として左扁桃体の賦活がみられ、低報酬より高報酬で活動している領域として左前頭葉眼窩

部の賦活がみられた。これらの結果は、情動と報酬予測によって辺縁系が賦活し、記憶が強められるとい

う先行研究の結果を支持する。

労働ストレスの高さと急性内臓刺激誘発の前帯状回活性の関連 1 東北大学医学系研究科行動医学分野、2 東北大学医学系研究科機能薬理学分野

3 東北大学 CYRIC 核医学研究部

渡辺諭史 1)、金澤素 1)、照井隆広 1)、三根浩敬 1)、濱口豊太 1)、

谷内一彦 2)、伊藤正敏 3)、福土審 1)

機能性消化管障害は、心理社会的要因が症状の発症と持続に密接に関連している代表的ストレス関

連疾患である。しかしながら、社会的要因が脳腸相関に及ぼす神経生理学的メカニズムは未だ明らかで

はない。近年、労働ストレスがストレス関連疾患増加の一因となり、労働力の低下や医療費の増大を招き、

その社会的損失が大きな問題となっている。今回我々は、労働ストレスの多寡が脳腸相関に及ぼす影響

をバロスタット刺激法と脳機能イメージングを用いて検証することを試みた。

労働ストレス得点が高い群 (受動的作業内容、低サポート環境) は、低い群 (能動的作業内容、高サ

ポート環境) に比べて 40mmHg 直腸伸展刺激に対する前帯状回吻側部(BA24/32)、眼窩前頭皮質

(BA11)の活動が高かった (p<0.001)。一方、労働ストレスの低い群は、高い群に比べて右 precuneus にお

ける活動が高かった (p<0.001)。

以上、本研究により前帯状回吻側領域と頭頂連合野のストレス反応性の多寡が、労働負荷によるストレ

ス関連疾患の形成を規定する神経基盤であることが示唆された。

7-1

7-2

Page 24: 30周年記念研究報告会 - inst.cyric.tohoku.ac.jpinst.cyric.tohoku.ac.jp/kenkyu/program/abstracts2007.pdf · ことをふまえ,サポートガスの導入を実施した。これにより,Ar9+の場合で,これまでの約3倍のイオン電流

CYRIC 研究報告会予稿 ポスター

- 22 -

反跳陽子全エネルギー測定用 NaI(Tl)検出器の性能評価

東北大学 理学研究科,1 宮崎大学 工学部、2 理化学研究所、

3 京都大学 理学研究科、4CYRIC

松田洋平、坂口治隆 1、竹田浩之 2、寺嶋知 2、銭廣十三 3、伊藤正俊 4、大関和貴 2、小林俊雄

不安定核の密度分布を決定する為に、中間エネルギー領域での逆運動学を用いた陽子弾性散乱測

定が計画された。この計画の中で反跳陽子全エネルギー測定用検出器として14本のNaI(Tl)検出器が製

作された。この NaI(Tl)検出器が要求される性能(100 MeV の陽子に対して 200 keV(rms)の分解能)を満た

しているか昨年度に続き試験した。

試験は 41 コースで行われた。エネルギー分解能〜1/6000 の分析磁石を用いて輸送された約 80 MeV

陽子フェイントビームを直接結晶中に入射した。ビームライン中にエネルギー減衰板を挿入して入射エネ

ルギー20,40,60,80 MeV でのデータを取得した。

結晶へのビーム入射位置によって 6〜8%(全幅)のゲイン変動が見られた。変動の値が昨年度の測定と

一致しなかった事や結晶によって変動の関数が異なる事から結晶の劣化が原因と考えられる。この位置

依存性を各結晶に対して独自の関数を用いて実験の度に補正する事で、要求される分解能が得られる

事がわかった。

小児悪性脳腫瘍の休眠状態の存在

Tumor dormancy of pediatric malignant brain tumors

東北大学大学院神経外科学分野

金森政之 田代学 永松謙一 斉藤竜太 山下洋二 井上智夫 園田順彦

隈部俊宏 伊藤正敏 冨永悌二

<目的>小児悪性脳腫瘍の治療後に長期間変わらず存在する造影病変の病態解明。<方法>小児悪

性脳腫瘍 3 例について、画像経過とメチオニン PET(MET-PET)を用いて検討した。

<症例 1>1 歳男児 髄芽腫。摘出術後、3 回の PE 療法終了時にテント上・脊髄を含む多発性結節状造

影領域が出現。PE 療法を 6 回追加後、全脳全脊髄 24Gy・後頭蓋窩 30Gy の照射、4 回の ICE 療法を追

加。最終治療後約6年経過し多発性病変は著変ない。最近のMET-PETで対側比1.9の取込みを示す。

<症例 2>3 歳男児 髄芽腫。摘出術後、6 回の PE 療法と全脳全脊髄 24Gy・後頭蓋窩 30Gy の照射を

施行。初発時より認められた頚髄の腫脹は、術後 2 年半頃より緩徐に拡大し造影効果が出現。術後 3 年

時 MET-PET で取込みを認め、半年後には病変拡大・造影効果増強とともに SUVmax 3.29 に上昇。ICE

療法を追加したが、播種により術後 5 年 9 ヶ月時に死亡した。

<症例 3>3 歳男児 脈絡叢乳頭癌。摘出術後、全脳全脊髄 24Gy・後頭蓋窩 26Gy を照射。術後 3 年で

後頭蓋窩・テント上に多発性結節状造影領域が出現し、3 回の ICE 療法を施行。化療後は病変に変化無

く術後 5 年が経過した。最近の MET-PET で対側比 1.7 の取込みを示す。

<結論>小児悪性脳腫瘍の治療経過にて再発後長期の休眠状態と判断される病態が存在し、休眠後

一気に悪化する症例がある。

P-1

P-2

Page 25: 30周年記念研究報告会 - inst.cyric.tohoku.ac.jpinst.cyric.tohoku.ac.jp/kenkyu/program/abstracts2007.pdf · ことをふまえ,サポートガスの導入を実施した。これにより,Ar9+の場合で,これまでの約3倍のイオン電流

CYRIC 研究報告会予稿 ポスター

- 23 -

食道内酸還流時の食道知覚と脳内反応に関する検討 1)東北大学大学院医学系研究科 消化器病態学分野, 2)東北大学サイクロトロンセンター

1)小林茂之 1)阿部靖彦 1)大原秀一 1)小池智幸 1)浅沼清孝 1)飯島克則 1)今谷晃 1)下瀬川徹 2)田代学 2)伊藤正敏

【背景・目的】胃食道逆流症(GERD)は自覚症状と酸逆流や食道炎の程度が必ずしも相関しないことが

知られている。近年、非びらん性逆流症という概念も導入され注目されているが、その病態の一つとして

食道知覚過敏の存在が指摘されている。食道知覚を含め内臓知覚に関しては不明な点が非常に多いの

が現状であるが、体性知覚と同様に知覚の「認知」には体性感覚野、島など、「弁別」には前頭前野など、

「情動」には前帯状回、島などが関与していると考えられている。今回、健常ボランティアにおいて食道内

酸還流時の脳血流の変化を Positron Emission Tomography(PET)を用いて測定し、症状と脳内反応との

関連について検討を試みた。

【方法】対象は健常成人男性ボランティア 18 名。平均年齢 27.2 歳(21~37 歳)。経鼻的に中部食道にカ

テーテルを留置し、pH1、pH7 の水を 10ml/分、5 分間還流し、これに同期させて H215O を静注し 3D-PET

により局所脳血流を測定した。それぞれの画像は食道内水投与前に撮影した画像と比較した。還流によ

る症状出現の有無、程度を 0-10cm の VAS スケールにて記録した。各還流間は蒸留水の還流と嚥下にて

食道内を中性化し、同時に留置した有線式 pH モニターで随時 pH を確認した。

【結果】pH1 還流時における胸やけの出現頻度・程度は、pH7 還流時よりも高度であった。pH1 還流時は、

左前帯状回、右上側頭回、右下前頭回など、pH2 は右上側頭回、左島、pH7還流時は右後帯状回、左

中心前回・後回などが賦活された。pH1 還流時と pH7還流時の比較では右前帯状回、左下前頭回の賦

活が認められた。pH1 で VAS スケールが平均以上の場合、右島、右帯状回、左中心前回・後回などの賦

活を認めた。

【結論】pH1 還流時には知覚の認知・弁別に関与するとされる前頭前野や体性感覚野(中心回域)の賦活

に加え、情動に関与するとされる前帯状回の反応も認められた。pH1 で VAS スケール高値のときは、体性

感覚野や情動に関与する島、帯状回の賦活を認めた。また、症状を呈することのほとんどなかったpH7の

還流時においても賦活化される脳領域が認められ、還流水の酸度や症状に関わらず脳内反応が出現し

ていることが示された。

P-3

Page 26: 30周年記念研究報告会 - inst.cyric.tohoku.ac.jpinst.cyric.tohoku.ac.jp/kenkyu/program/abstracts2007.pdf · ことをふまえ,サポートガスの導入を実施した。これにより,Ar9+の場合で,これまでの約3倍のイオン電流

CYRIC 研究報告会予稿 ポスター

- 24 -

PET を用いた健常人における肩関節外転運動後の筋活動解析

東北大学 医学研究科 整形外科学

近江礼、佐野博高、峯田光能、井樋栄二

【背景】近年、糖代謝の観点から、FDG-PET を用いて骨格筋の活動を評価する研究が積極的に行わ

れており、その低侵襲性や再現性の高さが注目されている。【目的】FDG-PET を用いた、MRI との fusion

を行わない筋活動解析法を確立し、健常人の肩関節外転運動における筋活動パターンを検討すること。

【対象と方法】肩痛の既往のない健常人 5 人 10 肩を対象とした。男性 3 人女性 2 人で、平均年齢は 58

歳であった。検査前、最低 4 時間絶食し、FDG 投与の前後に肩甲骨面での肩関節外転運動を行った。

FDG の投与量は約 2mCi に統一し、投与の 40 分後より PET 撮影を行った。各肩周囲筋の中央部の最も

SUV 値が高い部位を中心に直径 1cm の関心領域(ROI: region of interest)を設定し、standardized

uptake value(SUV)を求め、筋活動の定量化を行った。利き手と非利き手の差および各肩周囲筋の外転

運動における活動量について統計学的検討を行った。【結果】利き手側と非利き手側との間には、SUV

値に有意な差はなかった。また各肩周囲筋の SUV 値の比較では、肩甲下筋が三角筋や棘上筋と同等に

最も高い SUV 値を示した。【考察、結論】従来、FDG-PET による筋活動の解析においては、各筋を同定

するために MRI との fusion が一般的に用いられてきたが、本研究では肩周囲筋の ROI の設定と筋活動

の解析が fusion を行わずに可能であった。また、肩甲下筋が肩関節外転運動に関わるという報告はほと

んどないが、本研究の結果から健常人の肩関節外転運動において、肩甲下筋が三角筋や棘上筋と同等

に大きく関与している事が示唆された。

95mTc を用いた北日本産海産物中 99Tc の分析

大塚良仁, 五代儀貴, 高久雄一, 関根勉 a, 久松俊一

(財)環境科学技術研究所, a 東北大高等教育開発推進センター

海藻類等の海産物は、海水中の Tc を濃縮することが知られており、海外の再処理施設周辺では放射

性核種の計画放出等により、海産物中 99Tc 濃度が著しく上昇した例が報告されている。国内では Tc 濃

縮係数の高い非食用海藻に関する測定例があり、東海村の再処理施設周辺では、施設起源と考えられ

る 99Tc が非食用海藻に存在したという報告がある。

青森県六ヶ所村に立地する再処理施設は、平成 18 年 3 月から使用済核燃料を使用したアクティブ試

験を開始しており、平成 20 年 2 月から本格稼働を予定している。当該施設が立地する六ヶ所村及び青森

県沿岸ではコンブを始めとする海産物の採取が盛んであり、これらの地域において当該施設本格稼働前

から海産物中の 99Tc 濃度を明らかにして、データを蓄積しておくことは、施設の環境影響を評価する上で

極めて重要である。そこで、施設稼働前のバックグラウンドデータ取得のため、平成 16 年から 18 年に北

日本で採藻したコンブ類中の 99Tc 濃度を ICP-MS を用いて分析した。

ICP-MS 分析のためには Tc を化学分離しなければならず、その回収率を評価するためには 99Tc を含

まないトレーサーが必要である。そこで、東北大学 CYRIC において a 粒子を Nb に照射し、93Nb(a, 2n)95m

Tc1)反応により 95mTc トレーサーを製造した。

本研究は、青森県からの委託調査事業(平成 18 年度放出放射能環境分布調査)で実施した成果の一

部である。 参考文献 1) T. Sekine et al. (1999) J. Radioanal. Nucl. Chem., 239, No. 3, 483-487.

P-4

P-5

Page 27: 30周年記念研究報告会 - inst.cyric.tohoku.ac.jpinst.cyric.tohoku.ac.jp/kenkyu/program/abstracts2007.pdf · ことをふまえ,サポートガスの導入を実施した。これにより,Ar9+の場合で,これまでの約3倍のイオン電流

CYRIC 研究報告会予稿 ポスター

- 25 -

片側性咬合支持喪失による顎関節部骨リモデリングに関する核医学的検討

東北大学大学院歯学研究科口腔システム補綴学分野, *東北大学大学院歯学研究科加齢歯科学分野,

**東北大学病院顎口腔再建治療部,***東北大学サイクロトロンラジオアイソトープセンター測定器研究部

渥美知洋,横山政宣,土谷昌広*,佐々木洋人,小山重人**,伊藤正敏***,渡邉 誠*,佐々木啓一

咬合支持の喪失や咬合高径の変化等により,顎関節部には,リモデリングによる形態変化が生じること

が知られている。しかし,その経時的な変化は必ずしも明らかではない。本研究では,咬合支持の喪失に

より顎関節で生じるリモデリングの様相を,骨シンチグラフィー,軟 X 線画像解析および Real-time PCR 法

による遺伝子発現レベルの解析を行った。全身麻酔下にて Wistar ラットの上顎右側臼歯3本を抜歯し,

咬合支持喪失モデルとした。骨シンチグラフィーは 99mTc-MDP を静注(74MBq/body)し,頭部の撮像を行

った。また,下顎頭の軟 X 線撮影を行い HA 密度の測定を行った。さらに下顎頭を摘出し,抜歯側,健側,

およびコントロールの3群でRANKL/OPG比の検討を行った。それぞれの解析期間は抜歯3日後,1,2,

4週間後までとした。骨シンチグラフィーでは,抜歯側の骨代謝活性は抜歯直後から持続的に亢進するこ

とが明らかとなった。軟 X 線画像解析では,抜歯側は非抜歯側と比較して抜歯2週間後で骨密度の上昇

を認めた(p<0.05)。Real-time PCR 法では,抜歯側は,コントロールと比較して,抜歯1週間後で

RANKL/OPG ratio の減少を認めた(p<0.05)。このことから咬合支持喪失による抜歯側顎関節部のリモ

デリングは,骨形成優位に作用することが分子イメージングレベル・遺伝子発現レベルにおいて示唆され

た。これらの変化は,顎関節部に加わるメカニカルストレスに適応するための生体反応として生じた骨代

謝活性の亢進によるものと考えられる。

共感覚的イメージ喚起時の脳活動計測 1日本学術振興会,2 東北大学医学系研究科, 3 東北大学文学研究科

北村美穂1, 2,河地庸介1,3,岡村信行 2,行場次朗 3,谷内一彦 2

共感覚保有者は、特殊な感覚能力を有するわけではなく、一般的な知覚システムが何らかの原因で変

容し共感覚が生じているにすぎないと考えられている。健常人においてみられる通様相性現象、すなわ

ち鋭い形態には鋭い音が想起されるなどの心的現象がその基盤にあると考えられており、両者の神経基

盤はある程度の一致を示すと予想される。本研究では、通様相性現象に関与する脳活動を計測し、共感

覚現象との類似性を検討した。

実験参加者(N=9)は、形態刺激と音声刺激の印象がマッチしているかどうか 3 件法で判断し、判断時

の脳活動が計測された。実験条件は、共感覚的イメージを喚起する形態刺激+音声刺激を呈示する条

件、共感覚的イメージを喚起しない形態刺激+言語刺激を呈示する条件に加え、形態刺激+音声刺激

を呈示するが判断課題のない統制条件を設けた。

実験の結果、形態と音声刺激の印象がマッチしている場合、すなわち共感覚的イメージが生起しやす

い場合には、左扁桃体および右紡錘状回が有意に賦活した。それに対し、形態と音声刺激がマッチして

いない場合には、右縁状回および左中側頭回で有意な賦活がみられた。紡錘状回は、先行研究におい

て共感覚生起時に重要な役割を果たす部位とされており、今回の結果は、通様相性現象と共感覚現象

に共通したシステムの存在を示唆するものである。

P-6

P-7

Page 28: 30周年記念研究報告会 - inst.cyric.tohoku.ac.jpinst.cyric.tohoku.ac.jp/kenkyu/program/abstracts2007.pdf · ことをふまえ,サポートガスの導入を実施した。これにより,Ar9+の場合で,これまでの約3倍のイオン電流

CYRIC 研究報告会予稿 ポスター

- 26 -

乳がん患者を対象とした心理的介入と脳活動に関する研究

○田代 学 1、柿崎真沙子 2,3、石田孝宣 4、菊地信孝 3

伊藤正敏 1、大内憲明 4、福田 寛 5、福土 審 2、辻 一郎 3

1 東北大学 CYRIC、2 医学系研究科行動医学分野、3 公衆衛生学分野、4 腫瘍外科学分野、

5 加齢医学研究所機能画像医学研究分野、

【目的】がん患者は、根治手術後も様々な身体的不調に加えて再発などに対する不安を抱えており、抑う

つ・不安症状を呈する者が多い。本研究の目的は、乳がん患者を対象に、心理的介入法の医学的改善

効果を検証することである。【方法】初発性浸潤性乳がんで、根治術を受けた女性(40~70 歳)で、組織

診の結果が ER-PGR negative かつ化学療法を受けて 6 ヶ月以上経過した者を対象とした。6 名(51 歳±

10.1)が適格基準を満たし、FDG-PET 検査と心理検査(抑うつ、不安、全般的 QOL、乳がん QOL、ストレ

ス要因、認知機能)の直後に3日間の心理的介入を行い、3ヶ月後、6 ヶ月後に心理検査、6 ヶ月後に 2

回目の PET 検査を施行した。【結果】心理検査の結果は、改善した者と増悪した者が混在し、全体として

統計学的に有意差が検出された項目はなかった。SPM2 を用いた PET 画像解析の結果では、6 ヶ月後に

脳局所活動が低下した部位として右上頭頂小葉(BA7)、左下前頭回(BA44)が検出され、亢進した部位と

して左中前頭回(BA8)が検出された(p<0.001, no correction for multiple comparisons)。【考察】今回の研

究はまだ予備的なものであり、症例数も非常に限定されているため結論を出すことは不可能である。今後

の症例の蓄積とさらなる検討が必要と思われる。

[11C]donepezil-PET を用いた塩酸ドネペジル投与後の脳内分布の画像化

医・機能薬理 a、CYRIC・核薬学 b、CYRIC・核医学 c

a 加藤元久、a 岡村信行、b 船木善仁、c 田代学、a 谷内一彦

【目的】塩酸ドネペジルはアセチルコリンエステラーゼ阻害薬としてアルツハイマー型認知症(AD)の治療

に広く用いられている。今回、AD 患者におけるドネペジル投与後の薬物動態を検討することを目的とし

て、正常被験者と AD 患者を対象に 11C 標識したドネペジル([11C]DNP)投与後の脳内分布を計測した。

【方法】[11C]DNP を 6 名の健常高齢者、10 名の AD 患者に静脈内投与し、60 分間の PET ダイナミック撮

像を行った。血漿中の放射線量を入力関数として[11C]DNP の脳内分布容積を算出した。さらに、4 名の

AD 患者において、塩酸ドネペジル服薬前後における[11C]DNP の脳内分布容積を比較した。【結果】

[11C]DNP は線条体、視床、小脳で高集積を示し、大脳皮質では中等度の集積を示した。AD 患者におけ

る[11C]DNP の分布容積は病初期から低下しており、健常高齢者に比べて 20~30%低下していた。さらに

塩酸ドネペジル 5 mg の連日投与によって、[11C]DNP の分布容積は約 60%低下した。以上の結果から、

AD 患者では[11C]DNP の分布容積が病初期から低下していることが確認された。

P-10

P-9

Page 29: 30周年記念研究報告会 - inst.cyric.tohoku.ac.jpinst.cyric.tohoku.ac.jp/kenkyu/program/abstracts2007.pdf · ことをふまえ,サポートガスの導入を実施した。これにより,Ar9+の場合で,これまでの約3倍のイオン電流

CYRIC 研究報告会予稿 ポスター

- 27 -

動物専用核医学装置の利用と展望

CYRIC a、東北大学工学研究科 b

a 三宅正泰、a 伊藤正敏、a 田代学、ab 石井慶造、a 山崎 浩道、b 菊池洋平

日本では飼育動物に対する核医学検査は法律が整備されていないため行われていない。しかし、飼

育動物の高齢化や疾病の多様化などにより、高度獣医療の必要性が高まってきており、核医学検査もそ

の中に含まれる。

現在、獣医療における獣医核医学での放射線防護の技術的基準が検討されており、獣医療法施行規

則の改正にむけて審議が行われている。現行の医療法や障害防止法に準拠する形で進められているが、

当センターで飼育動物の核医学検査を行うにあたって、どのような問題点があるか検討を行った。

当センターにおいて、動物専用の装置として、3台の PET 装置と1台のガンマカメラを導入した。PET 装置

のうち1台は世界初の1mm以下の解像度を持つ新開発の PET 装置で小動物の撮影を行うことができる。

残り2台は CTI 社製 PT-931 と、島津製作所製 SET-1400 で、中動物の撮影を行うことができる。ガンマカ

メラ装置はシーメンス社製 ZLC-7500とパラレルホールやピンホールなどの各種コリメータが備えられて

おり小~中動物の撮影を行うことができる。創薬などの研究分野での動物の機能画像はもちろんのこと、

飼育動物の病気の診断などにも利用することができ、核医学装置の動物への幅広い利用が期待される。

Evaluation of Glucose Metabolism in the Surface and

Deep Skeletal Muscles in Humans 1Center for the Advancement of Higher Education,

2Division of Nuclear Medicine, Cyclotron and Radioisotope Center. Tohoku University

Masud Mehedi1, 2, Itoh Masatoshi2, Tashiro Manabu2, Watanuki Shouichi2, Fujimoto Toshihiko1.

Abstract: Our aim was to evaluate the differences in glucose metabolism among surface and deep

skeletal muscles of thigh using 18FDG and 3DPET technique. Six healthy male subjects (Age,

21.3±1.1y) were studied in resting condition after 18FDG injection (Dose, 1.0±0.1mCi). PET scan

was performed in the thigh regions. ROIs were drawn in the vastus lateralis (VL), vastus intermedius

(VI) and different layers of vastus medialis (VM) muscles, based on surface and deep structures.

Semiquantitative analysis (SUV) was applied to measure glucose metabolism of selected skeletal

muscles. SUV was increased (p<0.5) in the VI to compare with VL muscle. In the VM muscle, SUV

was shown increased (P<0.05) in the inner layers (i.e. Deep and middle) to compare with outer layer.

Present results demonstrate that in resting state, glucose metabolism of inner quadriceps group

skeletal muscles of thigh is higher than surface muscles, suggestive of some physiological variations. 18FDG and 3DPET technique is a fruitful device to assess the characteristics of skeletal muscles and

it’s contribution to health education.

P-12

P-11

Page 30: 30周年記念研究報告会 - inst.cyric.tohoku.ac.jpinst.cyric.tohoku.ac.jp/kenkyu/program/abstracts2007.pdf · ことをふまえ,サポートガスの導入を実施した。これにより,Ar9+の場合で,これまでの約3倍のイオン電流

CYRIC 研究報告会予稿 ポスター

- 28 -

18F-FRP170 を用いた癌低酸素イメージングの臨床応用

東北大学病院 放射線診断科、医学部保健学科 a、CYRICb、

加齢研 c、ポーラ化成 d、放射線治療科 e

金田 朋洋、a 高井 良尋、b 岩田 錬、b 石川 洋一、b 古本 祥三、b 四月朔日 聖一、

b 伊藤 正敏、c 福田 寛、d 辻谷 典彦、e 山田 章吾

数年前より我々は水溶性の高い nitroimidazole 誘導体 RP170 を 18F 標識した 18F-FRP170 を用いて、

癌低酸素細胞イメージングに関する研究を続けてきた。そして 2004 年秋から臨床応用を始めた。まずは

正常ボランティアによる生体内分布の経時的変化の検討を行い、頭部~胸部にかけての低い生理的集

積を確認した。腹部・骨盤に関しては肝からの腸管排泄および腎からの尿排泄による生理的高集積を認

めた。次に癌患者イメージングを行い、投与 1 時間後と 2 時間後の画像を比較検討した。多くの腫瘍は 1

時間後においても明瞭に描出され、水溶性の高い tracer 故にクリアランスが早いためと思われた。2 時間

後の方が、血液プールや筋の集積が落ちるためコントラストが良好であるが、長い待機時間は患者の負

担や放射能減衰の問題が生じる。最近は肺癌術前症例で検査施行し、摘出標本を用いて HIF-1α、

VEGF、CA-IX、Glut-1 に関する免疫染色を行い、比較検討を試みている。未だ症例数が少なく、まとま

った結果は出ていないが、PET イメージと病理所見の相関が見られれば、大変興味深い。

参考文献:1)Kaneta T, Takai Y, Iwata R, et al. Initial evaluation of dynamic human imaging using 18F-FRP170 as a new

PET tracer for imaging hypoxia. Ann Nucl Med. 2007 Feb;21(2):101-7.

Automatic Segmentation of Lung Tissue in FDG PET Whole Body Images 1Division of Cyclotron Nuclear Medicine, CYRIC

2Graduate School of Medicine, Tohoku University 3 Medical Imaging Systems R&D Division, PSP Corp.

Margaretha Sulistyoningsih1,3, Masatoshi Itoh1, Shoichi Watanuki1,

Masayasu Miyake1, Kazuaki Kumagai1, Manabu Tashiro1, Kazuhiko Yanai2 Background and aim: Segmentation of lung is necessary to computer-aided diagnosis. In this study, we

aimed at developing an automatic algorithm for segmenting the lung in FDG PET images.

Subjects and methods: Automatic K-Means thresholding was applied to cluster transmission image.

Region growing algorithm, limited by the border of body cavity that is obtained using the first derivative,

was applied to collect voxels of the lung images. These lung voxels were then filtered and some were

dilated for smoothing the lung. The lung emission data were then segmented using these lung transmission

data.

Results and discussion: We have applied our algorithm for segmenting the lungs of 35 PET data. Some

voxels of the muscles were also segmented together with the lung. It is because in PET transmission

images, sometimes the voxels of the muscles located near the border of the lung have similar values to the

voxels of the lung. Since our next step would be the detection of abnormality, we are examining whether

this segmentation algorithm gives accurate results in the abnormality detection.

P-13

P-14