2.ミクロカノニカル分布とエントロピー 2-1理想気体...は de...

31
1 2.ミクロカノニカル分布とエントロピー 2-1理想気体 分子間力が全く働かない気体(実在はしない) 2-1.1 量子力学の簡単な考え方 古典 量子力学 位置ベクトル r 波動関数 r 確率密度 2 r 1 次元粒子を考える ikx ae x (2.1) k p (2.2) 有限領域に閉じ込められた粒子 壁の効果 → 壁の外では波動関数が0に なる 壁の位置を L , 0 とすると、 (教科書は弦の場合、 右図は1次元量子量子井戸) 0 0 L (2.3) 境界条件 弦の振動の場合、固定端の条件下で起こる基準振動は定常波。 弦の変位 x u kx u x u o sin (2.4) , 3 , 2 , 1 n L n k (2.5) 2-1 参照 波動関数も同様にして、 kx a x sin (2.6) または ikx ikx e e i a x 2 (2.7) (2.7) の第 1 項、2 項は各々 x 軸正方向、負方向に進む波を表す。 この重ね合わせ。 この時、粒子の取り得る運動量は , 3 , 2 , 1 n L n k p (2.8) と、飛び飛びの数となる。(離散化、量子化) 0 x L

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Page 1: 2.ミクロカノニカル分布とエントロピー 2-1理想気体...は de Broglie(物質)波長) (2A.1) と書き表される。 一辺 L の立方体に閉じ込められた気体は、前に取り扱った様に、壁に衝突したり、また、分子間

1

2.ミクロカノニカル分布とエントロピー

2-1理想気体

分子間力が全く働かない気体(実在はしない)

2-1.1 量子力学の簡単な考え方

古典 量子力学

位置ベクトル r 波動関数 r 確率密度 2r

1次元粒子を考える

ikxaex (2.1)

kp (2.2)

有限領域に閉じ込められた粒子

壁の効果 → 壁の外では波動関数が0に

なる

壁の位置を L,0 とすると、

(教科書は弦の場合、

右図は1次元量子量子井戸)

00 L (2.3) 境界条件

弦の振動の場合、固定端の条件下で起こる基準振動は定常波。 弦の変位 xu は

kxuxu o sin (2.4)

,3,2,1 nL

nk

(2.5) 図 2-1 参照

波動関数も同様にして、

kxax sin (2.6) または

ikxikx eei

ax

2 (2.7)

(2.7) の第 1 項、2項は各々 x 軸正方向、負方向に進む波を表す。 この重ね合わせ。

この時、粒子の取り得る運動量は

,3,2,1 nL

nkp

(2.8)

と、飛び飛びの数となる。(離散化、量子化)

0 x L

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2

2-1.2 周期的境界条件

結晶の様に周期的に同じ原子配列を取っている場合、ある距離 L を進むと元と同じ状態が実現

Lxx (2.9)

これに波動関数の定義 (2.1) を考えると

Lxikikx ee ∴ 1ikLe

,3,2,1,02

nnL

k

(2.10)

よって運動量は量子化され

,3,2,1,02

nnL

p

(2.11)

即ち、固体の中では運動量は L

p2

を単位として量子化され、離散的。

粒子のエネルギー は、m を粒子の質量として

m

p

2

2

(2.12)

である。 従って、エネルギーも量子化され、

2

2

22

2

22

2

1n

mLn

Lm

(2.13)

エネルギーが より小さい量子状態の数を とすれば、これは運動量が

mp 2

の量子状態の数に等しい。 これは、

(a) 境界条件 (2.9) では mpm 22 に間隔 L

h

L

2 で分布

(b) 境界条件 (2.3) では mp 20 に間隔 L

h

L 2

で分布

物理的には、図 2-1の両端を固定した弦振動で n が奇数のものは周期的境界条件を適用すると、

連続になっていない事に注意。

0

0

|p|

p

h/L

h/2L

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3

いずれの場合も

mL

2

(2.14)

2-1.3 3次元粒子の波動関数とエネルギー

1次元の場合と同様に周期的境界条件を考える

LzyxzLyxzyLxzyx ,,,,,,,, (2.15)

すると、波動関数として、平面波を考える事ができ

zkykxki zyxaezyx

,, (2.16)

が量子状態として存在。 波数ベクトル zyx kkk ,,k は境界条件 (2.15) より

1LikLikLik zyx eee

∴ ,2,1,02

,2

,2

izzyyxx nnL

knL

knL

k

(2.17)

,2,1,02

,2

,2

izzyyxx nnL

pnL

pnL

p

(2.18)

即ち、3次元の運動量空間 zyx ppp ,, を考えると体積

32

L

に1個の割合で存在する。

注:教科書の図 2-3 は2次元の図だが、議論は3次元で行っている事に留意。

3次元の粒子のエネルギー と、運動量 p の関係は

m2

2p

, 2222

zyx ppp p (2.19)

0

0

|p|

p

h/L

h/2L

Lxx

00 L

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4

よって、エネルギーは量子化され、

222

2

2

2

2zyx nnn

mL

(2.20)

エネルギーが より小さい量子状態の数を は運動量空間における半径 m2 の球の中に

ある状態数で、体積 3LV の容器内を考えると

23

32

3

4

2

m

V

(2.21)

☆ 量子状態の数を数える事は、即ち、図 2-3における格子点の数を数える事に帰着。

(参考)同じ事は不確定性関係 2~ hpx x からも導ける事に留意。

(補足)位相空間における離散的状態

物質の運動ないし状態は、一般にその物質の位置 zyx ,,q と運動量 zyx ppp ,,p という

6つのパラメーターで表す事が出来る。 とすると、粒子 N 個のアンサンブルでは、 N6 という自

由度を持った空間で表現が可能である。 が、量子力学の不確定性関係より、 hpx z ~ であるの

で(h は 既出の Planck 定数: sJ 3410626.6 )、Nh3

が位相空間の単位体積である。

この事をもう少し言い方を変え、再度説明する。

図 2A-1 3次元速度空間と1方向における許容される波。

0 L

0 L

0 L

0 L

n = 1/2

n = 1

n = 3/2

n = 2

vz

vx

vy

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5

ここで、原子・分子や電子と云ったミクロな粒子を扱うには、「量子力学」の適用が必要である。 量

子力学に従うと、運動量は

hmvp ( は de Broglie(物質)波長) (2A.1)

と書き表される。

一辺 L の立方体に閉じ込められた気体は、前に取り扱った様に、壁に衝突したり、また、分子間

の衝突により、個々の原子(分子)は速度空間の中での「点」を飛び移る。

従って

mv

h また、

m

hv (2A.2)

問題にしている空間を定めた(ここでは一辺 L の立方体)時、L が の整数倍になっている事が

量子力学の要請である(教科書の (2.9) 式、図 2-2(a) に相当)。 すると、

mv

hnnL ∴

mLn

mL

hnv

2 (2A.3)

この結果、上のピンクの点が実は連続的ではなく、とびとびの値しか取らなくなるのである。

zzyyxx n

mLvn

mLvn

mLv

2,

2,

2 (2A.4)

この結果、速度は量子化されて、mL

2 の整数倍の値を取る事になる。 図を分かり易くするため、

yx の2次元速度空間を考えると、 yx vv , は下図の様に、碁盤の目の値を取る事になる。

注: 連続的な空間の体積でなく、「碁盤の目=格子点」を考える事が量子化の意味する処。 しかし、

碁盤の目が細かくなれば、両者は(単に比例定数を掛けるというだけで)次第に同じ結果に落ち着く。

例えば、水素原子を考え、一辺 cm10 の空間に存在しているとすると、

][1066.11002.6

][10 27

23

3

kgkg

m

(2A.5)

速度は x(無論、 y or z でも構わないが) 方向成分で考えると

Tkvm Bx2

1

2

1 2 ∴

m

Tkv B

x 2

(2A.6)

室温 KT 300 であれば、

∴ ]/[1058.1][1066.1

][300][1038.1 3

27

123

smkg

KKJ

m

Tkv B

x

(2A.7)

のオーダーである。 一方、考える空間 nL であり、 mL 110 なので、

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6

]/[1099.3][10][1066.1

][10626.6 6

127

34

smmkg

sJ

mL

hvi

(2A.8)

のオーダーで量子化されている。

図 2A-2 2次元速度空間の量子化。 原子・分子の速度は格子点を占める。

さて、各点における運動エネルギーは、

222

2

1zyxk mvmvmvE (2A.9)

と書き表され、原点からの距離の自乗に運動エネルギーは比例する。

(因みに、 p 空間でも、v 空間でも、係数 m を考慮すれば同じ事になる)

従って、あるエネルギー範囲 kji EEE に入る状態の数は同心球(3次元の場合。 図 2-3A

は2次元なので円)

m

Evvv i

zyx

2222 と m

Evvv k

zyx

2222 の間の格子点の数 (2A.10)

すると、運動量 p は ]/[1054.4 24 smkgmvp 、この時の de Broglie 波長は

][1046.1]/[1054.4

][10626.6 10

24

34

mmsJ

sJ

p

h

(2A.11)

である。

vy

vx

h/mL

h/mL

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7

図 2A-3 2次元速度空間の格子点と等エネルギー面

ところで、冒頭に述べた通り、量子力学においては、不確定性関係が 2~ hpx x と、

実空間位置(座標) vs. 運動量 で定義されているので、運動量空間で考えるのが通常である。

従って、以下、 zyx ppp ,,p を用いる。 すると、

mEppp zyx 2222 (2A.12)

である。

図 2A-4 2次元運動量空間の量子化と等エネルギー面

py

px

h/L

h/L

vy

vx

h/mL

h/mL

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8

ここに十分碁盤の大きい時、面積・体積を求める事が碁盤の目の数を数える事に相当。

2次元: )(22 222 dEEmpppmE yx にある点の数を考えると、

dEmh

Ldpp

h

L 22

22

(2A.13)

3次元: )(22 2222 dEEmppppmE zyx

dEEmh

Ldpp

h

L 3

3

2

3

244

(2A.14)

ところで、 L は始めに適当に定めた空間だが、3次元で VL 3 (体積)であり、結局、状態

の数は定めた体積に比例する事になる。 要は、

マクロな空間 → 離散的運動量(速度)が連続的に(厳密に連続ではない)

という事で、運動量空間での状態の数を計算する事にある。

運動量の離散の具合は、 cm10 空間では

]/[10626.6][10

][10626.6 33

1

34

smkgm

sJ

L

hpi

(2A.15)

という微小量となる。

(補足 終)

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9

2-2 理想気体のエントロピー

多粒子系の量子状態とエントロピー

独立に運動する多粒子系で、構成粒子に番号をつけ、各々の運動量を定めると、

Npppp ,,, 321 がN 粒子系の量子状態を定める事になる

または、各粒子の運動量ベクトル zyx ppp ,, を

粒子1: 321 ,, ppp 粒子2: 654 ,, ppp ... とすると、

N3 次元ベクトル Npppp 3321 ,,,, と表す事ができる

周期的境界条件により

,2,1,02

iii nnL

p

(2.22)

と量子化され、 N3 次元の運動量空間に、体積 N

N

VL

32

に1個の割合で分布。

N 粒子系全体のエネルギーは

N

i

ipm

E3

1

2

2

1 (2.23)

エネルギーが E より小さい量子状態の数 E は、 mE2 の N3 次元球の体積を量子化した

時の格子点の数。 一般に、半径 R の n 次元球の体積は p.277 の公式 (A.7)

nn

n Rnn

RV2

2 2

(2.24) (課題) (2.24) 式を各自導出せよ。

但し、

0

1 dtetz tz (A.4) はガンマ関数で、

!2

!2

2

12 n

nn

n

(A.6)

eg. 例えば、3次元球では 3n で、

3323

32

23

323

323

33

4

2

!4

3

2

!2

!12

3

2

23

1

3

2

233

2RRRRRRV

よって、N 粒子系のエネルギーが E より小さい量子状態の数は E は

23

23

32

233

2

2

NN

N

N

mENN

VE

(2.25)

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10

エネルギーが E と EE の間にある量子状態の数 EW は

EdE

EdEW

(2.26)

なので、

E

EmE

N

VEW

NN

N

N

2

323

32

232

(2.27)

従って

E

Ek

NkV

N

mENk

E

Ek

Nk

NV

mENk

E

Ek

Nk

NNkV

mENk

E

Ek

Nk

NNNk

mEVNk

E

Ek

Nk

Nk

mEVNk

E

Ek

NkmE

VNk

E

EmE

N

VkEWkES

BBB

BBB

BBBB

BBBB

BBBB

BBB

NN

N

N

BB

log2

3log

2

3log

23

4log

2

3

log2

3log

2

3

2

3log

2

3log

2

2log

2

3

log2

3log

2

3

2

3log

2

3log

2

2log

log2

3log

2

3

2

3log

2

3

2

2log

log2

3log!

2

3log

2

2log

log

!12

3

1log2

2log

2232

loglog

2

2

23

2

3

23

3

23

23

3

23

23

23

3

(2.27)’

1章の議論と同様に、上の (2.27)’ 式の

2

3log

23

4log

2

32

VN

mENkB

は BNk のオーダー

E

Ek

Nk BB

log

2

3log は NkB log のオーダー

よって、第2項は無視でき、

2

3log

23

4log

2

32

VN

mENkES B

(2.28)

さて、 VVEENN 2,2,2 として、エントロピーを再考すると

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11

NN

N

N

mENN

VE

33

3

2

436

2

2

22

(2.25)’

E

EmE

N

VE

dE

EdEW

NN

N

N

33

6

2

432

2

(2.26)

なので、

2log22

2

3log2log

23

4log

2

32

log2

3log

2

33log

2

32log

2

4log

2

32

log3log33log32log2

4log2

log3log33log32

42log2

log3log!3log2

42log2

log!13

1log4

2

2log2

432

2loglog

2

2

23

2

3

23

3

23

23

3

23

33

6

2

BB

BBB

BBBB

BBBB

BBBB

BBB

NN

N

N

BB

NkESVN

mENk

E

Ek

NkNV

mENk

E

EkNkNNkV

mENk

E

EkNkNNNk

mEVNk

E

EkNkNk

mEVNk

E

Ek

NkmE

VNk

E

EmE

N

VkEWkES

即ち、 ESESES 2 であり、示量変数となっていない!!

何がマズイか? → 気体系では、粒子が識別できないものと考えるのが相当

すると状態数を計算し直すと、

E

EmE

NN

VEW

NN

N

N

2

323

32

23!2

(2.29)

(分母にある !N がポイント)

上と同様にエントロピーの計算をすると

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E

Ek

NkN

NV

mENk

E

Ek

NkN

NNkV

mENk

E

Ek

NkNNN

NNNk

mEVNk

E

EkNk

Nk

Nk

mEVNk

E

EmE

NN

VkEWkES

BBB

BBBB

BBBB

BBBBB

NN

N

N

BB

log2

3log

2

5log

2

3log

2

3log

2

2log

2

3

log2

3log

2

5log

2

3log

2

3log

2

2log

log2

3loglog

2

3

2

3log

2

3

2

2log

log!log2

3log!

2

3log

2

2log

223!2

loglog

2

23

2

3

23

3

23

23

23

3

2

5log

3log

2

5log

23

4log

2

3 23

22 N

V

N

mENk

N

V

N

mENk BB

(2.30)

さて、 VVEENN 2,2,2 として、エントロピーを再考すると

E

EmE

NN

VE

dE

EdEW

NN

N

N

33

6

2

43!22

2

(2.26)’

ES

N

V

N

mENk

E

EkNkNNNkV

mENk

E

EkNkNNNNNNk

mEVNk

E

EkNkNkNk

mEVNk

E

EmE

NN

VkEWkES

B

BBBB

BBBB

BBBBB

NN

N

N

BB

22

5log

23

4log

2

32

log3log2

52log3log

2

322log

2

4log2

log3log22log233log32

42log2

log!2log3log!3log2

42log2

43!22

2loglog

2

23

2

3

23

3

23

33

6

2

よって、エントロピーがきちんと示量変数となっている。

但し、この議論も1点ごまかしがある。 2個以上の粒子が同じ運動量を持つ状態は重複して数

えていない。 しかし、一つの量子状態を占める確率が十分小さければ2個以上の粒子が同じ運動量

を持つ確率は(その自乗)更に小さいので、無視する。 → 次節で議論(粗視化)。

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13

エントロピーの熱力学的定義 (1.44) 式 TdE

dS 1 より

ENk

dE

EdS

TB

1

2

31

よって、理想気体のエネルギーとして、

TNkE B2

3 (2.31)

気体分子分配のエントロピー

前に議論した事を思い起こし、2つの領域に分けられた気体のエントロピーを考える。(図 2-4)

領域1,2に エネルギーが 21, EE 、分子数が 21, NN に配分された部分平衡状態の

エントロピーは

2221112121 ,,,;, NESNESNNEES (2.32)

ここに、 constEEE 21 , constNNN 21 である。

よって、(1.37), (1,38) を求めた時と同様、エントロピー最大となるのは

2

222

1

111

1

222

1

111

1

2121 ,,,,,;,

E

NES

E

NES

E

NES

E

NES

E

NNEES

(1.37)’

これが 0 となるのは、

2

222

1

111 ,,

E

NES

E

NES

(1.38)’

(1.23) と同様にして、 N

E

N

E

N

E

2

2

1

1 (2.33)

2

5log

23

4log

2

3

2

5log

23

4log

2

3,

1

21

1

2

1

1111

N

V

N

mEkN

N

V

N

mEkNNES BB

V 1 V 2

E1, N1 E2, N2

図 2-4

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14

2

2

1

12

2

22

1

21

2221112121

loglog2

5

23

4log

2

3

2

5log

23

4log

2

3

2

5log

23

4log

2

3

,,,;,

N

VN

N

VNk

N

mENk

N

V

N

mEkN

N

V

N

mEkN

NESNESNNEES

BB

BB

(2.34)

この内、分子数配分に依存する部分は

N

V

N

N

N

N

N

N

N

NNk

N

VN

N

VNk BB logloglogloglog

2

2

1

1

2

2

1

1

これは1-1節で2項定理を用いて求めた

N

nN

N

nN

N

n

N

nNnPN loglog2loglog (1.5)

と定数を除き一致している。

2-3 理想気体の速度分布則

理想気体分子1個のエネルギーは、(2.31) より、 TkN

EB

2

3 (第1回の演習も参照)

しかし、実際には個々の粒子のエネルギーは分布を持っている。 さて、どの様に?

粗視化された分子分布

ある瞬間、理想気体の個別の状態を見たとする → 分子が様々な量子状態に分布

→ 分子の状態を粗視化

1)1粒子状態をエネルギーによりグループ分けし、グループにエネルギーの低い方から

1, 2, 3, … の番号をつける(図 2-5)

(1) エネルギーの幅は十分小さく、1つのグループに属する量子状態のエネルギーは

中心の値で代表させる

(2) 各グループに属する量子状態の数は十分に多い

グループ l に属する量子状態の数を lM , エネルギーを lE , そこを占める分子の数を lN と

する。 ,,, 321 NNN が粗視化された分子分布。 全粒子数 N は、

l

lNN (2.35)

全エネルギー E は、

l

ll ENE (2.36)

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15

分子分布の関数としてのエントロピー

特定の分子分布 ,,, 321 NNN の下での全系の量子状態の数を求める事を考える

エネルギー値 lE を有する(で代表される)量子状態数を lM として、ここに lN 個の分子を分

配する事を考える。(上図は図 2-5 と等価)

この様な分配の場合の数は lN

lM であり、分子の数が状態数に比べて十分少ない

1l

l

M

N (2.37)

とすると、各々の量子状態には分子は0個若しくは1個しか入っていないと考える事ができる。

これらの分子が区別できないとすると、場合の数は !l

N

l

N

M l

通り

全てのグループについて同じ議論が出来、分布 ,,, 321 NNN の下での全系の量子状態の数は

l l

N

l

N

MNNNW

l

!,,, 321 (2.38)

Stirling の公式を用い、

l

lllllBB NNNMNkNNNWkNNNS loglog,,,log,,, 321321

l l

l

lB

l

l

l

l

lBN

MNkN

N

MNk 1loglog (2.39)

(参考)少し異なる考え方でも上記は導ける

l :粒子数

l :量子準位数

l

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16

分子が区別できるとすると

111!

!

lllll

ll

lNM NMMMM

NM

MP

ll 通り

十分状態数が大きく、占有数が少ないとする。 即ち、

1l

l

M

N (2.37)

とすると、

l

ll

N

l

ll

lNM M

NM

MP

!

! 通り

ここで、分子が区別出来ない場合には、分配の仕方は、 !l

N

l

N

M l

ll NM C 通り (参考終)

Lagrange の未定係数法 (2変数の場合) p.49-50 参照

2変数 x, y の関数

yxfu , (2.40)

を考える。 この関数の極値を

constCyxg , (2.41)

という条件の下で求めるには、未定係数 を導入して関数

yxgyxfu ,,~ (2.42)

について(条件無しで)極値を求めて、係数 は極値を与える 00 , yx が条件 (2.41) を満たす

様に定めれば良い。

(証明)(2.42) が極値を取る条件、即ち

0

,,~

0,,~

y

yxg

y

yxf

y

u

x

yxg

x

yxf

x

u

(2.63)

が (2.41) を満たし、かつ、(2.40) が極値を取る条件を満たしていればよい。

l

l

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17

ところで、(2.41) より y は x の関数。 よって、 (2.40) が極値を取る条件は

0,,

,

dx

dy

y

yxf

x

yxfxyxf

dx

d

dx

du (2.61)

一方、(2.41) を x で微分すると

0,,,

dx

dy

y

yxg

x

yxg

dx

yxdg

これを (2.61) に代入して、

0,,,,

x

yxg

y

yxf

y

yxg

x

yxf (2.62)

(2.63) を (2.62) 左辺に代入すると

0,,,,

x

yxg

y

yxg

y

yxg

x

yxg

よって (2.62) は成立。

即ち

yxgyxfu ,,~ (2.42)

が極値を取る条件は、 constCyxg , の条件下で yxfu , の極値を求める事となる。

(証明終わり)

熱平衡の分子分布

熱平衡状態の分子状態は、(2.39) のエントロピーを、式 (2.35), (2.36) の条件の下で最大にする

事で求まる。 → Lagrange の未定係数法を用いる。

☆ 極値を求めるべき物理量

l l

l

lBN

MNkNNNS 1l o g,,, 321 (2.39)

★ 束縛条件 l

lNN (2.35)

l

ll ENE (2.36)

この時、条件は二つ(粒子数、エネルギー)あるので、2つの未定係数 a, b を導入し

l

ll

l

l

l l

l

Bl ENbNaN

MkNNNNS 1log,,,

~321 (2.43)

を最大にする事を考える事に帰着。 lN で微分して

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18

0log1log

1log

~

l

l

lBl

l

l

l

lB

l

ll

l

l

l l

llB

ll

bEaN

MkbEa

N

N

N

Mk

ENbNaN

MNk

NN

S

∴ ll

BBl

l EEk

b

k

a

M

N log 但し

BB k

b

k

a ,

∴ lE

l

l eM

N (2.44) または lE

ll eMN

(2.44)’

この結果から、(2.35), (2.36) を書き換えて

l

E

lleMN

(2.45)

l

E

llleEME

(2.46)

(2.44), (2.45), (2.46) を (2.39) に代入し

ENk

EkNkeEMkeMk

eEMkNNNS

B

BB

E

l

llB

E

l

lB

E

l

llB

ll

l

1

11

1,,, 321

(2.47)

(全)分子数 N を一定として、エネルギーE で微分すると、(但し、 , も E の関数)

dE

dN

dE

dk

dE

dSB (2.48)

一方、(2.45)

l

E

lleMN

をエネルギー E で微分すると、(但し、 lM は、各グループに存

在する量子状態の数であり定数、また、N も定数)

l

E

ll

l

EE

l

l

E

l

l

El

lll

ll

edE

dE

dE

dMe

d

d

dE

de

d

d

dE

dM

edE

dMe

dE

dM

dE

dN

0

l

E

llle

dE

dE

dE

dM 0

(2.45), (2.46)

l

E

lleMN

l

E

llleEME

を利用し

Page 19: 2.ミクロカノニカル分布とエントロピー 2-1理想気体...は de Broglie(物質)波長) (2A.1) と書き表される。 一辺 L の立方体に閉じ込められた気体は、前に取り扱った様に、壁に衝突したり、また、分子間

19

0

EdE

dN

dE

d

dE

deEM

dE

deMe

dE

dE

dE

dM

l

E

ll

E

l

l

E

lllll

これを (2.48) に代入し

BkdE

dS

ところで温度の定義は (1.44) より、 TdE

dS 1

BkT

1 ∴

TkB

1 (2.49)

また、(2.44) lE

l

l eM

N はグループ l に属する1つの1粒子量子状態を占める平均値。

グループ l に属する1つの量子状態を i とし、 i を占める平均の分子数を in (1 量子状態の占

有確率)とすれば、エネルギー li E としてよいので、

Tk

l

l

iB

i

i eeM

Nn

(2.50)

i を全てのグループ l について検討すると、

i

Tk

i

Tk

i

iB

i

B

i

eeeNn

i

TkB

i

e

Ne

(2.51)

(2.50) or (2.51) で定まる分子分布を Boltzmann 分布と呼ぶ。

Maxwell-Boltzmann の速度分布則

2-1 節の、(2.18)

,2,1,02

,2

,2

izzyyxx nnL

pnL

pnL

p

の導出

で述べた通り、理想気体において 1粒子量子状態は運動量空間に密度 32

V で均一に分布。

(不確定性関係から、 2~ hpx x である)

従って、ここまで 1粒子状態を離散的と考えて l

の形で計算していたものを、連続変数に関

する積分で置き換えて、単位体積当りの密度で調整すると、

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20

zyx

l

dpdpdpV

3

2 (2.52)

運動量 p の 1粒子状態のエネルギーは (2.19) m2

2p

, 2222

zyx ppp p で与えられるので、

1

2

3

222

2

zyx

Tmkpppdpdpdpe

VNe Bzyx

となる。 (2.52) の形の xp に関する積分は、公式 (A.2) a

dxe ax

2

を用い

Tmk

Tmk

dpe B

B

x

Tmkp Bx 2

2

122

yp , zp についても同様なので、

2

322

222

Tmkdpdpdpe Bzyx

Tmkppp Bzyx

よって

2

32

1

23

3

22

2

TmkV

NTmk

VNe

B

B

(2.53)

これと (2.50) より

Tmk

ppp

TmkV

N

TmkTmkV

Nen

B

zyx

B

BB

Tk

pB

p

2exp

2

2exp

2

22223

2

223

2

p

(2.54)

運動量が zzzyyyxxx dpppdpppdppp ~,~,~ の領域にある分子数の平均を

zyx dpdpdpf p として分布関数 pf を定義すれば

TmkTmk

N

TmkTmkV

NVf

BBBB 2exp

22exp

2

2

2

23

223

2

3

ppp

(2.55)

これを Maxwell-Boltzmann の速度分布則という。

これに基くと、運動量の大きさが dppp ~ にある(運動量空間における半径 p , 厚さ dp

の球殻)分子数を pF とすれば

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21

Tmk

pp

Tmk

NpfppF

BB2

exp2

44

22

23

2

(2.56)

となる。

注: 教科書も pf から pf の変換をややごまかしている。 球対称を前提に、変換が可能。

一般に関数 pg と pg の関係は、 zyx ppp ,,p , 222

zyx pppp として、

pg が球対称という仮定の下で、

dpppgdpdpdppppgdg zyxzyx

24,, pp

と変形される事に留意。 (注 終)

pF の概形は図 2-6。 p が最大となるのは、

0

2exp

212

2

4

2exp2

2

4

2exp

2

4

22

23

22

23

22

23

Tmk

p

Tmk

pp

Tmk

N

Tmk

p

Tmk

ppp

Tmk

N

Tmk

pp

Tmk

N

dp

d

dp

pdF

BBB

BBBBB

∴ 02

12

Tmk

p

B

∴ Tmkp B2 で最大値

Tmke

N

Tmk

TmkTmk

Tmk

NTmkF

BB

BB

B

B

2

4

2

2exp2

2

42

23

(2.56)

理想気体のエントロピー

(2.47) ENkNNNS B 1,,, 321 に

(2.53)

23

22

TmkV

Ne

B

即ち

23

22log

TmkV

N

B

と (2.49)

TkB

1 を代入して

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22

Tk

EN

TmkV

NkNNNS

BB

B

23

2

321

2log1,,,

さらに (2.31) TNkE B2

3 を代入し (簡単な計算のみで導けるので説明略)

2

5

2log

2

32log1,,,

23

2

23

2

321

Tmk

N

VNk

NN

TmkV

NkNNNS

BB

B

B

(2.57)

前に、(2.30) で求めたエントロピーは

2

5log

3log

23

2 N

V

N

mENkES B

(2.31) と併せて

2

5

2log

2

5log

2

3

3log

23

2

23

2

Tmk

N

VNk

N

VTNk

N

mNkES B

BB

B

と一致する。

一般にエントロピーは正の量だが、

12

23

2

Tmk

N

V B 即ち 12

32

2

N

VTmkB

32

22

V

N

mTkB

(2.58)

では負になってしまう。 これは、(2.37) の仮定

分配の場合の数は lN

lM で、分子の数が状態数に比べて十分少ない 1l

l

M

N (2.37)

とすると、各々の量子状態には分子は0個若しくは1個しか入っていないと考えられる。

これらの分子が区別できないとすると、場合の数は !l

N

l

N

M l

通り

が低温では正しくない事に由来。 (低温では、 ll MN ではなくなる。 → 第7章)

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23

2-4 熱と仕事

ここまでの話は孤立系・熱平衡。 孤立系に外からの影響を考える。

熱と温度

固体の原子振動や理想気体

エネルギー E が増加 → 量子状態数 EW , エントロピー ES 増加

よって、エントロピーの増加の割合 (1.44)

TdE

dS 1 (2.64)

が温度の定義。

問題は量子状態の数 EW を如何に求めるか。 ここに、量子状態数は

振動子系: 固有振動数

理想気体: 体積 V

といったパラメーターに依存。

よって、例えば理想気体の場合、エントロピーは VESS , と考えられ、(2.64) より

TE

VES 1,

(2.65) or

TE

S

V

1

(2.66)

(2.66) を言葉で考えると、「体積を変えずに気体のエネルギーを取り出す(取り入れる)」事。

これは、気体を温めたり、冷やしたりする事。

この様なミクロな過程で移動するエネルギーを熱という。

体積一定で、エネルギーの変化が E で、これに伴うエントロピー変化を S とすると

TE

S 1

or STE (2.67)

この時、 E は熱として系に加わったものであり、これを q と書くと

T

qS or STq (2.68)

断熱変化、仕事と圧力

系のエネルギーを変えるもう一つの方法: 系を特徴付けるパラメータを変える事

気体における、静かな体積変化を考える (図 2-7)

古典力学的に分子運動を考える ピストンと分子: 速度(運動量)の変化

量子力学的

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24

運動量 initially nL

px

→ finally n

Lpx

n:不変

全ての変化が n:不変で起こるとすると、エネルギーが EEE ~ にある量子状態はそのまま

EEE ~ に移行され、その間にある量子状態の数は不変。 よって、

VEWVEW ,, (2.69)

こうした変化を 断熱変化(adiabatic change)という。

この時、エントロピー WkS B log も不変で、

VESVES ,, (2.70)

即ち、断熱変化ではエントロピーは一定に保たれる。

ところで、図 2-8の様に、ピストンを微小量 L 変化させたとする。 圧力を p とするとピス

トンの面積を A とするとかかる力 f は pAf なので、気体がピストンにする仕事は

VpLpALf

L を微小と考えるので、この時の圧力変化は無視して、エネルギー変化は

VpE (2.71)

全微分式 - 状態量の微小変化の間の関係

(2.67) より STE なので、(2.71) と併せて、

VSEE , (2.72)

と考える事ができる。

∴ VpSTE

変数は微小変化を考えているので、

pdVTdSdE (2.73)

これをエネルギー E の全微分式という。 エネルギー変化 E は

VV

VSEVVSES

S

VVSEVVSSE

VSEVVSSEE

,,,,

,,

と書く事が出来、 0,0 VS とすれば

dVV

EdS

S

EdE

SV

(2.74)

(2.73), (2.74) を比較して

VS

ET

,

SV

Ep

(2.75)

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25

理想気体の状態方程式

(2.30) のエントロピーの定義

2

5log

3log

23

2 N

V

N

mENkS B

を用い、

エントロピー一定の時を考え、両辺を V で微分すると、

VV

E

ENkNVE

N

mNk

V S

BB

11

2

3

2

5logloglog

3log

2

30

2

∴ VV

E

E S

11

2

30

V

E

V

E

S 3

2

(2.75) より、

V

E

V

Ep

S 3

2

(2.76)

(2.31) TNkE B2

3 を代入し、

TNkpV B (2.77)

これは、理想気体の状態方程式に他ならない。

KJNkR B /31.8 (2.78)

は気体定数。

エンタルピー enthalpy

圧力一定の下で、温度変化・体積変化を起こした場合を考える。

A

Mgp (2.79)

気体の体積はミクロにゆらいでいるが、内部エネルギーと位置エネルギーの和が保存

constpVEpALEMgLE

pVEH (2.80) Enthalpy の定義

この気体に少量の熱が加わり、また、図 2-9において、おもりが増したとする。

VdppdVpVdVVdpppVd

(2.73) pdVTdSdE と併せて、

VdpTdSpVddEdH (2.81)

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26

エンタルピーをエントロピーと圧力の関数と考えると、

VdpTdSdpp

HdS

S

HdH

Sp

(2.82)

よって、

Sp p

HV

S

HT

, (2.83)

定積比熱と定圧比熱

比熱の定義 微小な熱 Q を加え、微小な温度上昇 T

T

QC

(2.84)

(2.68) STq より T

STC

(2.85)

定積比熱は

V

VT

STC

(2.86)

(2.73) pdVTdSdE において

V : const なら V

VT

EC

(2.87)

定圧の時は p

pT

STC

(2.88)

(2.81) VdpTdSpVddEdH より

p

pT

HC

(2.89)

(2.31) TNkE B2

3 (2.80) pVEH (2.77) TNkpV B より、

TNkH B2

5 (2.90)

よって、理想気体の定積比熱、定圧比熱は

BpBV NkCNkC

2

5,

2

3 (2.91)

定圧膨張の時には外部に仕事をするため、定圧比熱は定積比熱より大きい。 Vp CC

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27

2-5 局在した粒子系への応用

振動子の量子力学

振動子の Hamiltonian

222

2

1

2xm

m

p (2.92)

この時 22

2

1xmxV は、potential energy である。 量子力学的な考察を加えると、

2

1nn ,2,1,0n (2.93)

で与えられ、 0n は基底状態。

この時エネルギーは 0 ではなく、 2

1 は零点エネルギー。 (1.10) では nn

(補足)Hermite 多項式を用いて、波動方程式を解くと、この零点エネルギーが求まる。

教科書にも少し記述があるが、詳しくは量子力学で扱う。

振動子系のエントロピー

既に 1-2 節で振動子系のエントロピーは求めた

N

E

N

E

N

E

N

ENkES B log1log1 (1.53)

この時は、零点エネルギーに配慮していなかったので、N 個の振動子系では、 NEE2

1

と置き換えて、

2

1log

2

1

2

1log

2

1

N

E

N

E

N

E

N

ENkES B (2.94)

が得られる。

エネルギーと温度の関係 (1.44) TdE

dS 1 より、

TN

E

N

Ek

N

E

N

Ek

NN

E

NNN

E

NNk

dE

dS

B

B

B

1

2

1log

2

1log

2

1log

1

2

1log

1

1

2

1log

11

2

1log

1

Page 28: 2.ミクロカノニカル分布とエントロピー 2-1理想気体...は de Broglie(物質)波長) (2A.1) と書き表される。 一辺 L の立方体に閉じ込められた気体は、前に取り扱った様に、壁に衝突したり、また、分子間

28

∴ TkN

E

N

E

B

2

1log

2

1log ∴

Tk

N

E

N

E

B

exp

2

1

2

1

TkNE

N

NE

NE

B

exp

2

1

2

2

1exp

2

TkNE

N

B

1exp2

Tk

NNE

B

1exp2

Tk

NNE

B

(2.95)

ここで、第1項は零点エネルギー。 比熱を求めると

1exp

Tk

N

dT

d

dT

dEC

B

Z

N

X

N

Tk

N

B

1exp1exp

とおくと、

22

2

2211

11

Tk

Tk

BTk

Tk

B

X

Tk

B

B

B

B

B

e

eN

Tk

N

e

Ne

Tk

Z

N

dZ

d

dX

dZ

dT

dX

e

N

dX

d

dT

dX

e

N

dT

dC

(2.96)

具体的な関数は図 2-11参照。

2準位系

N 個の粒子からなる系で、粒子の取る量子状態を 1, 2 とし、そのエネルギーを 1 , 2 占有粒子

数を 1N , 2N とする。 すると、

21 NNN (2.97)

全エネルギーは

2211 NNE (2.98)

1

N2 2

N1

Page 29: 2.ミクロカノニカル分布とエントロピー 2-1理想気体...は de Broglie(物質)波長) (2A.1) と書き表される。 一辺 L の立方体に閉じ込められた気体は、前に取り扱った様に、壁に衝突したり、また、分子間

29

全系の量子状態の数は

!!

!

2222 NNN

NC

N

NW NN

(2.99)

従ってエントロピーは

N

N

N

N

N

N

N

NNk

NNN

NkWkS

B

BB

2222

22

log1log1

!!

!loglog

(2.100)

(2.97), (2.98) より 1N を消去して

212212 NNNNNE ∴

1

2

NEN

N

EN

N

EN

N

NE

N

NENk

N

NE

N

NE

N

NE

N

NENkS

B

B

2211

1111

loglog

log1log1

(2.101)

よって、

1

212

1111

1

11

1

11

1

11

1

11

1111

logloglog

logloglog1log

1log

1

111log

11log

1

1

1111log

1

log1log11

NE

ENk

N

NE

N

ENk

N

NE

N

NENk

N

NE

N

NEk

N

NEN

NE

N

NE

N

NEN

NE

N

NEk

N

NENN

NE

N

NE

N

N

NENN

NE

N

NE

N

Nk

N

NE

N

NE

N

NE

N

NE

dE

dNk

dE

dS

T

BB

BB

B

B

B

これを解いて

1

2log1

NE

ENk

T

B

1

2log

NE

EN

TkB

1

2

NE

ENe

TkB

Page 30: 2.ミクロカノニカル分布とエントロピー 2-1理想気体...は de Broglie(物質)波長) (2A.1) と書き表される。 一辺 L の立方体に閉じ込められた気体は、前に取り扱った様に、壁に衝突したり、また、分子間

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ENeNETkB

21 TkTk BB eNeE

121

∴ TkTkTkTk BBBB eeNeeE 2121

21

∴ TkTk

TkTk

TkTk

BB

BB

BB

eez

N

ee

eeNE 21

21

21

2121

(2.102)

但し、

TkTk BB eez 21

であり、これは 1粒子の分配関数。 (3-1 節参照)

これは熱平衡状態において、N 個の粒子の内、 zeNTkB1 個が量子状態 1 を zeN

TkB2 が 2

を占めている事を示している。

よって

∴ Tk

iBie

zP

1 (2.103)

これは次章で求めるカノニカル分布に一致。 比熱は

22

2

2

2

21

22

2

221

2

1

2

2

2121

2

2

2

1

2

2

2

2

2

1212

2

2

2

2

1

21

11

2

21

21

21

21

21

21212121

21

21212121

21

21

Tk

Tk

BTk

Tk

BTkTk

Tk

B

TkTk

TkTkTkTkTkTkTkTk

B

TkTk

Tk

B

Tk

B

TkTkTkTkTk

B

Tk

B

TkTk

TkTk

B

B

B

B

BB

B

BB

BBBBBBBB

BB

BBBBBBBB

BB

BB

e

e

Tk

N

e

e

Tk

N

ee

e

Tk

N

ee

eeeeeeee

Tk

N

ee

eTk

eTk

eeeeeTk

eTk

N

ee

ee

dT

dN

dT

dEC

(2.104)

常磁性体-2準位系の例

2準位系の一種 スピン状態が平行・反平行の2つ。

磁場の存在下でエネルギー分裂

B

(2.105)

(2.101), (2.102) で、 B 1 , B 2 とおくと、

B=0

B≠0

Page 31: 2.ミクロカノニカル分布とエントロピー 2-1理想気体...は de Broglie(物質)波長) (2A.1) と書き表される。 一辺 L の立方体に閉じ込められた気体は、前に取り扱った様に、壁に衝突したり、また、分子間

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(2.101)

N

NE

N

NE

N

NE

N

NENkS B

1111 log1log1

ここに、 B 212

(2.102) より、

Tk

BBN

ee

eeBN

ee

BeBeN

ee

eeNE

B

TkBTkB

TkBTkB

TkBTkB

TkBTkB

TkTk

TkTk

BB

BB

BB

BB

BB

BB

tanh

21

21

21

Tk

BBNBTE

B

tanh, (2.107)

BN

EBNEBN

BN

EBNEBN

B

kBES B

2log

2log

2, (2.106)

この時の磁化は

NNM (2.108)

エネルギーは MBNNBE

(2.108)’

(2.107), (2.108)’ より

Tk

BNM

B

tanh (2.109)

磁場が弱い時( B が小さい時) 1Tk

B

B

であり、 xx tanh を用い、(良く出てくるので留意!)

BM , Tk

N

B

2 (2.110) Curie の法則(T に反比例)

を磁化率という。