2.オホーツク海の生態系変動と魚類(スケトウダラ・サケ類 ...33...

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33 2.オホーツク海の生態系変動と魚類(スケトウダラ・サケ類)の動態 2-1)生態系ベースの持続的漁業―知床世界自然遺産を例として 桜井泰憲(北海道大学大学院水産科学研究院) 今日は「知床世界遺産の海域における生態系をベースとした持続的漁業」についてお話 をいたします。先ほど渡邉課長からもお話がありましたが、知床世界自然遺産は、2005 年 の 7 月 14 日に遺産登録され、この中には海域が含まれています。知床半島の海岸線から沖 に向けて 3km までの海域です。特に、遺産登録された時に評価された点は、陸と海の両方 の生態系があって、その間に相互作用があるということと、生物の多様性が非常に豊かで あって希少な生物がたくさんいることです。例えば、海棲の哺乳類や海鳥、サケ類、他に も多様な生物がいることが評価されています。今日のお話のアウトラインを紹介しますが、 最初に環境省と北海道が作りました「多利用型統合的海域管理計画」という名前の計画が あります。これについて少し触れたいと思います。それから知床周辺の海の環境の特徴、 漁業、気候変化、それから地域の漁業の現状を紹介します。もう一つは、どのようにして この世界自然遺産海域の中で生態系を保全しながら、漁業との共存をするかということ、 そして最後に、地球温暖化を含めて、この海域がこれから変わる可能性もありますので、 そういったシナリオを紹介したいと思います。 まず最初に、この多利用型統合的海域管理計画の目的を紹介します。最も明確な点は、安 定した漁業の営みと、この海の生態系の多様性が保全されていること、そして両者が共存 できるということを目的に、この計画が作られています。この海域の特徴は、先ほど大島 さん達が紹介されましたが、まず 3 月ぐらいには流氷が沿岸に来ます。次に、春になると 冷たい海水が覆っていますが、夏、秋になると、対馬暖流が宗谷暖流として入り込みます。 まさに温帯から亜 熱帯のような海に 変わり、再び冷たく なるという形で、知 床半島は非常に寒 い極域の海から温 帯、亜熱帯の海の様 相をもっています。 例えば、夏から秋に かけては南の生物、 シイラやたくさん の亜熱帯性の魚か 図 1:2006 年 6 月下旬の知床半島ウトロ側海域 (下図のライン)の海水温分布の鉛直断面図 (北海道大学練習船「うしお丸」による知床周 辺海域調査,提供:平譯亨准教授,北海道大学大 学院水産科学研究院)

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2.オホーツク海の生態系変動と魚類(スケトウダラ・サケ類)の動態

2-1)生態系ベースの持続的漁業―知床世界自然遺産を例として

桜井泰憲(北海道大学大学院水産科学研究院)

今日は「知床世界遺産の海域における生態系をベースとした持続的漁業」についてお話

をいたします。先ほど渡邉課長からもお話がありましたが、知床世界自然遺産は、2005 年

の 7月 14 日に遺産登録され、この中には海域が含まれています。知床半島の海岸線から沖

に向けて 3km までの海域です。特に、遺産登録された時に評価された点は、陸と海の両方

の生態系があって、その間に相互作用があるということと、生物の多様性が非常に豊かで

あって希少な生物がたくさんいることです。例えば、海棲の哺乳類や海鳥、サケ類、他に

も多様な生物がいることが評価されています。今日のお話のアウトラインを紹介しますが、

最初に環境省と北海道が作りました「多利用型統合的海域管理計画」という名前の計画が

あります。これについて少し触れたいと思います。それから知床周辺の海の環境の特徴、

漁業、気候変化、それから地域の漁業の現状を紹介します。もう一つは、どのようにして

この世界自然遺産海域の中で生態系を保全しながら、漁業との共存をするかということ、

そして最後に、地球温暖化を含めて、この海域がこれから変わる可能性もありますので、

そういったシナリオを紹介したいと思います。

まず最初に、この多利用型統合的海域管理計画の目的を紹介します。最も明確な点は、安

定した漁業の営みと、この海の生態系の多様性が保全されていること、そして両者が共存

できるということを目的に、この計画が作られています。この海域の特徴は、先ほど大島

さん達が紹介されましたが、まず 3 月ぐらいには流氷が沿岸に来ます。次に、春になると

冷たい海水が覆っていますが、夏、秋になると、対馬暖流が宗谷暖流として入り込みます。

まさに温帯から亜

熱帯のような海に

変わり、再び冷たく

なるという形で、知

床半島は非常に寒

い極域の海から温

帯、亜熱帯の海の様

相をもっています。

例えば、夏から秋に

かけては南の生物、

シイラやたくさん

の亜熱帯性の魚か

図1 2006年6月下旬の知床半島ウトロ側海域(下図のラ

イン)の海水温分布の鉛直断面図 (北海道大学練習船「うしお丸」による知床周辺海域調査,提供:平譯亨准教授,北海道大学大学院水産科学研究院)

図 1:2006 年 6月下旬の知床半島ウトロ側海域

(下図のライン)の海水温分布の鉛直断面図

(北海道大学練習船「うしお丸」による知床周

辺海域調査,提供:平譯亨准教授,北海道大学大

学院水産科学研究院)

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ら漁業で重要なスルメイカもやってきます。一方、ここは非常に深い海ですから、生産力

も高く、ホッケやスケトウダラ、ミズタコ、キチジ、マダラ、それからサケ類というよう

に、ごく普通の冷たい海に住む魚もいます。図1は、北大の練習船うしお丸が実際に斜里

沖で調査した時の海の断面です。このように冷たい中冷水が 200mから 500mくらいに存在

します。表層は暖かい海で、中層が冷たい海で、更にその下がまた再び 3 度ぐらいの海水

になるというオホーツク海の特徴があります。次に、同じ年(2006 年)の海の生き物たち

を支えている植物プランクトンの増殖ですが、人工衛星から調べた海面のクロロフィルの

ピークは、斜里・ウトロ側では、6月の初めで、羅臼側では 8月の初めにありました。北海

道周辺では春に植物プランクトンの大増殖(ブルーミング)がありますが、知床半島周辺

では、それより遅く起きています。

それから、これが

これから調べなけ

ればいけない研究

として、漁業を含め

た海の中の食物網

あるいは食物連鎖

です(図2)。下の

方に植物プランク

トンから始まって

色んな生物がいま

す。例えばサケ類で

す。それからイカと

か、こういった食う

食われる関係の、こ

のように実は複雑な食物関係があるわけです。この中に漁業も加えた生態系全体で、持続

的漁業と生態系の多様性を保全するという考え方の下に、知床の海の管理をする必要があ

ります。では、実際にこの知床の周辺の海でどのような魚が獲れているのか。釧路水試の

石田さんがまとめた内容を紹介します。斜里側では、定置網でサケとマスが漁獲されてお

り、日本のサケ、マスのふ化放流事業によって漁業が支えられています。一方羅臼側は、

それに加えて、1950 年代から 70年代にもスルメイカが獲れます。その後スケトウダラがた

くさん獲れて、90 年代に急激に減って、また再びスルメイカに変わっており、同じ海でも

獲れるものがこのように大きく変わります。

この背景を簡単に紹介します。この現象は、知床だけで起きているのではなくて、これ

はオホーツク全体、あるいは日本周辺の多獲性の魚の獲れ方と連動しています。例えば、

マイワシからサバに変わり、次にアジ、カタクチイワシ、スルメイカがたくさん獲れる年

代に変化しています。この現象は魚種交替と呼ばれています。日本の周りの海が冷たかっ

ホッケ

TL(栄

養段

階)

イカ類スケトウダラ

マダラ サケ類

漁業

ナマコ

エイ類

ホヤ

アイナメ類

サバ

マグロ類タコ類

イカナゴ類

ブリ

メヌケ ソイ類

カレイ類

0

1

2

3

4

5

6 ヒグマ

海鳥類鰭脚類

ウミワシ類

サメ類

動物Pウニ類

サンマ

マイワシ

カタクチイワシニシン

多毛類

植物Pデトライタス海藻

二枚貝類 巻貝

髭クジラ類

イルカ類トド

エビ類カニ類

キチジ

ハタハタ

その他魚類

ヒトデ類 コマイ

ホッケ

TL(栄

養段

階)

イカ類スケトウダラ

マダラ サケ類

漁業

ナマコ

エイ類

ホヤ

アイナメ類

サバ

マグロ類タコ類

イカナゴ類

ブリ

メヌケ ソイ類

カレイ類

0

1

2

3

4

5

6 ヒグマ

海鳥類鰭脚類

ウミワシ類

サメ類

動物Pウニ類

サンマ

マイワシ

カタクチイワシニシン

多毛類

植物Pデトライタス海藻

二枚貝類 巻貝

髭クジラ類

イルカ類トド

エビ類カニ類

キチジ

ハタハタ

その他魚類

ヒトデ類 コマイ

図 2:知床海域の海洋生態系の食物網の想定図(IUCN に提出する海域管理計画

素案取り,知床世界自然遺産地域科学委員会,海域ワーキンググループ作成)

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た数十年を、我々は寒冷レジー

ム期といいます。逆数十年続い

て暖かかった時期を温暖レジ

ームと呼んでいます。寒い時期

にはマイワシが獲れ、暖かいと

きにはカタクチイワシ、アジ、

スルメイカが獲れています。こ

こで注目していただきたいの

は、マサバがその中間にありま

す。これが何故起きるかという

ことをちょっと紹介いたしま

す。最近では、1977 年から 88

年までは、実際に日本の周りが

非常に寒かった時で、マイワシがたくさん獲れています。その時にはアリューシャン低気

圧が非常によく発達しており、オホーツク海もよく冷やされております。つまりオホーツ

クの海氷が多い年代です。このような気候変化がどのような海の生物の変化をもたらした

かといいますと、マイワシが全盛の海に変えてしまっています。逆に、1989 年はちょうど

平成元年なのですが、今度はアリューシャン低気圧が弱くなって、冬の季節風が弱くなっ

て、日本の周り全体が暖かくなります。この結果として、スルメイカ、カタクチイワシ、

アジといったものが増えています。なぜ起きるのか。そのヒントが、実はこの図(図3)

にあります。この図は横軸に卵・稚仔の生存できる適水温で、魚・イカの卵と稚仔が海で

とれた水温の幅です。スルメイカに関して、この狭い幅は、これは実験的に私達が確かめ

たため、精度の高い狭い幅となっています。縦軸が再生産と資源に加入できる成功率を表

しています。そうしますと、マイワシが一番冷たい水温幅にあって、逆に暖かい水温幅に

は、スルメイカ、マアジとカタク

チイワシとなっています。このよ

うに、暖かいときにはカタクチイ

ワシ、スルメイカ、アジが増える

というのは、やはり元々暖かいと

ころで生き残ることができ、マイ

ワシは、一番寒いところで生き残

ることができる。面白いことにサ

バ類はその中間にあります。この

ように、僅かな海の水温の変化と

いうものが魚種交代を起こす可

能性があります。

再生産に不適な水塊(<2℃

再生産に適した水塊(2~

7℃)

再生産に不適な水塊(>

7℃)

分離浮遊卵・多数回産卵(産卵は1ヶ月継続)

産卵場(海底は砂泥)

 マダラ 

スケトウ

ダラ

マダラ

再生産に不適な水塊(>8℃

人工魚礁(産卵前の親魚保護)

人工魚礁(索餌回遊魚の保護)

産卵は産卵期に1回

弱粘着性沈性卵

水塊依存型産卵

水塊+基質依存型産卵

再生産に不適な水塊(<2℃

再生産に適した水塊(2~

7℃)

再生産に不適な水塊(>

7℃)

分離浮遊卵・多数回産卵(産卵は1ヶ月継続)

産卵場(海底は砂泥)

 マダラ 

スケトウ

ダラ

マダラ

再生産に不適な水塊(>8℃

人工魚礁(産卵前の親魚保護)

人工魚礁(索餌回遊魚の保護)

産卵は産卵期に1回

弱粘着性沈性卵

水塊依存型産卵

水塊+基質依存型産卵

図 4:マダラとスケトウダラの産卵行動と再生産過程の比較

(Sakurai 2007)

再生

産と

加入

の成

功率

13 1514 1716 18 19 2120 22 23 24 2512

卵・稚仔の適水温(℃)

26 27 28

サバ類

スルメイカ

マアジ

カタクチイワシ

マイワシ

再生

産と

加入

の成

功率

再生

産と

加入

の成

功率

13 1514 1716 18 19 2120 22 23 24 2512

卵・稚仔の適水温(℃)

26 27 2813 1514 1716 18 19 2120 22 23 24 2512

卵・稚仔の適水温(℃)

26 27 28

サバ類サバ類

スルメイカスルメイカ

マアジマアジ

カタクチイワシカタクチイワシ

マイワシマイワシ

図 3:魚種交換に関係する浮魚類とスルメイカの卵・稚仔

の適水温範囲(浮魚類は、海で採集された卵・稚仔魚の分布

から推定 Takasuka et al. 2002; 2006, スルメイカは卵・

幼生の飼育実験に基づく 桜井 2007 他)

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では、もう一度オホーツク海に戻ります。オホーツク海は実際には非常に海氷が多かっ

た年代や、1984 年のように海氷が少ないのですが、この流氷が襟裳まで到達したような年

がありました。これが 80 年代の非常に寒かった時代のオホーツクの海です。ところが 90

年代以降、このように海氷はありますけれども、オホーツク沿岸に流氷がやってこないよ

うなことがしばらく続いております。それで、早速ですがスケトウダラとかマダラ、こう

いった魚が海の変化にどのように反応しているか紹介します。まず 2 種類の産卵の仕方を

紹介します(図4)。左上がスケトウダラ、右側がマダラの産卵行動の様子です。両方とも、

大型水槽で飼育して産卵行動を映像に撮ってあります。スケトウダラはオス・メスがペア

ーとなって抱き合って卵を産みます。産んだ卵は表面に浮いてきます。しかも1尾のメス

が 20 万個ほどの卵を持っている場合、それを数万個ずつ 2 日間隔で 10 回以上に分けて産

卵します。図にありますように、上がメスで下がオスです。オスが腹鰭でメスを抱きます。

そして卵を産みます。この時に、オスは浮き袋にある筋肉を使って発音します。メスに対

してはクークークークーという求愛音を出して、オスに対してはグッという威嚇音を出し

ます。一方、マダラは 1尾 4~5kg のものが 200 万個ぐらいの卵を持っていますが、それを

一気に産みます。マダラは、最初にメスが大量の卵を放出します。そうしますと1尾のオ

スがそれに気がついて精液を大量に水中に出します。わずか 30 秒くらいで 200万くらいの

卵を一気に産み、卵は沈みます。水槽での観察では、15 トン水槽がミルク色に変わりまし

た。このように、スケトウダラとマダラでは、全く違う産卵行動をもっています。彼らが

単なる漁獲物ではなく、れっきとした生き物であることを知って欲しいと思います。

次はスケトウダラの漁獲の状況です。親潮海域にいるスケトウダラは、若干最近減ってい

ますが、根室海峡では 90 年代に一気に漁獲が下がっています(図5)。原因の一つの可能

性として,オホーツク全体の氷の少ないという影響が、何らかの形で資源の増える減ると

いうことに影響を与えたでしょう。もう一つは、やはり過剰な漁獲がそれを追い討ちかけ

たと考えられます。その中で、羅臼の漁

業者の方々は、このような海域の中に、

このスケトウダラの資源を守るために

海洋保護区に近い禁漁区を設けました。

さらに、漁船の減船、それから刺し網の

目を大きくするなどの努力をしていま

す。少なくなったスケトウダラ資源を、

いつかはまた増えてくる時がきますか

ら、そのために資源を守っています。こ

れを自主管理型漁業といいます。

次に知床、あるいは北海道の周りとい

えども、温暖化という話が最近聞かれま

す。早速 IPCC(気候変化に関する政府間パネルのシナリオ)に沿って、マダラやスケトウ

19801980 19851985 19901990 19951995 20002000 2005200500

1010

2020

3030

親潮海域

根室海峡

x10x104 4 ton ton

漁獲

年年19801980 19851985 19901990 19951995 20002000 20052005

00

1010

2020

3030

親潮海域

根室海峡

x10x104 4 ton ton

漁獲

年年

図 5:親潮海域(北海道・東北沿岸)と根室海峡

(羅臼沖)のスケトウダラの漁獲量の経年変化

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ダラがどのようになるかを予測しました。ここでは、21世紀の 2050年に 2度平均水温が

上昇、2100 年に 4 度上がるというシナリオを使ってモデルを作りました。大変興味深いの

は、2000 年代半ばから、渤海、黄海とか韓国沿岸で実はマダラが増えており、対馬海峡の

韓国の沿岸でマダラ産卵しているということを聞いております。では、2度、4度と水温を

上げます。特に、日本海が非常に暖かくなりすぎ、マダラもスケトウダラも殆どいなくな

ってしまいます。ただ、親潮の海域は、まだ冷たいという予測がなされておりますので、

ここだけは残る可能性があります。オホーツクについて我々はまだ疑問があり、まだ明確

な結論を持っておりません。ここで大きな問題になってくるのが、温暖化によってオホー

ツク海がどうなるかということです。何故こんなことをご紹介するかといいますと、スケ

トウダラが中層で産卵すると、産んだ卵は表面に上がってきます。そうしますと、オホー

ツク海や根室海峡では、海表面の水がマイナスの水です。その中に受精卵が入った時に、

卵は果たしてどうなるかということは、これから非常に重要になります。しかも、氷があ

った方がいいのか、氷が無い方がいいのかということも検証する必要があります。それで、

私達は今やっているのは、各温度、1度、マイナス 1度から 0度、2度とかこういう細かい

水温状況を作り、塩分も変えて、スケトウダラの卵の発生条件を調べています。どの水温・

塩分で生き残れるかということを確かめるためです。同時に、円柱水槽の中に、比重の重

い海水から軽い海水までの密度がある条件を作り、ここに比重がわかる玉を入れます。比

重がわかるので、受精卵が 2細胞、4細胞、さらに発生が進んでふ化するまでに卵の比重が

どう変わるか調べることができます。まだ試験の途中ですが、少なくとも、この 2度から 0

度の間に、どうも卵が生き残れる水温条件がありそうだと。上の方は大体 9 度くらいにな

りますけれども、非常にここのマイナス 1度から 0度、1度、2度、この間に非常に厳しい、

卵が生き残れない条件があるかもしれません。浮いてくる卵にとっては氷があると無いと

いうのでは非常に影響するわけです。何故、噴火湾では水深 100-200m で産卵して、羅臼で

は 400m とか 500m と深いのか。つまり、深い所で産むことによって卵がゆっくり上がって

きますけれども、上の冷たい水に入る前に、ある発育段階までに達していれば冷たい水に

耐えられる。そうすると、この冷たい水の条件が重要になってきます。先ほど大島先生達

の話されたマイナスの水がどこにあるのか。産卵する場所がどこにあるのか。そしてその

後、ふ化するまでに約 0 度くらいですと 1 ヶ月かかりますから、それまでの間に上から下

まで水がプラスの条件に変わっていって、植物プランクトンが増えて餌が増えるという状

況にぴったりぶつかると、沢山増えるわけです。このように、このスケトウダラ自身も産

卵する場所を自分達が選択しているわけです。これからは、このオホーツクの氷がある条

件、無い条件によってスケトウダラが増えるか減るか、この研究の方に進めていきたいと

思っております。

最後になりますけれども、今日お話しましたのは、色々な生態系の話と同時に、ここの

場所で行なわれている漁業が持続性を持たせるということが非常に重要になります。そう

しますと、海の生態系は、イカがたくさん獲れたり、スケトウダラがたくさん獲れる海へ、

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そして再びイカが獲れる海へと変わります。これは地球規模での気候変化に応答した変化

なわけです。そうしますと、生態系、海の生態系というのは常に安定したものではなくて

変わりやすい、非常に不定常な系(システム)です。それに対してこの知床の海域管理計

画の中では、Adaptive Management、順応的管理という言葉を使っています。例えば、ある

実行計画を作って、それを実行に移すとしますと、その海がどんな条件で将来どうなるか。

あるいはこの魚がいつまでとれるか。あるいは他の魚がいつくるのかということを、モニ

タリングをすることによって評価して、あるいはモデルを使いながら、またこの計画を作

っていくという形で、常にこういうモニタリングと計画と実行、これを常に繰り返してい

く必要があります。つまり、今回作りました海域管理計画は、このように海が変わってい

くことを前提に、それを順応的にどのように維持していくか。生態系の保全を維持しなが

ら漁業を続けていくかということを考えております。知床の初夏の海には、タスマニアや

オーストラリアから大量のミズナギドリ類がやってきます。ここで、餌となるオキアミな

どを食べ、再びオホーツク海やベーリング海に北上し、再び南半球に戻ってゆきます。私

達は、知床及びこの知床の周辺の海をホットスポットと位置づけて、国際的な共同研究の

枠組みの中に入れています。今後とも、この海の保全を守りながら、漁業が続くことを願

って私の発表を終わりにしたいと思います。どうもありがとうございました。

引用文献

M. Makino, H. Matsuda, Y. Sakurai(2008):Expanding fisheries co-management to ecosystem-based management: A case in the Shiretoko World Natural Heritage area, Japan. Marine Policy, doi:10.1016/j.marpol.2008.05.013.

Sakurai, Y. and T.Hattori (1996): Reproductive behavior of Pacific cod in captivity. Fisheries Science, 62: 222-228.

桜井泰憲 (1997): 水槽の世界から海洋を覗く. 東大海洋研シンポジウム「総特集:水産科

学と海洋科学」月刊海洋,号外 12:67-74.

桜井泰憲・岸道郎・中島一歩 (2007):スケトウダラ,スルメイカ.総特集:地球規模海洋

生態系変動研究(GLOBEC)―温暖化を軸とする海洋生物資源の変動のシナリオ,月刊

海洋 39:323-330.

Sakurai, Y. (2007): An overview of Oyashio Ecosystem. Deep-Sea Research II, 54: 2525-2542.

桜井泰憲(2008):海洋生態系とサステイナビリテイ,連載講座:サステイナビリテイと生態

学-3,サステナ,8,48-51.

桜井泰憲・山本潤(2009):レジームシフトに応答する魚類とイカ類資源の変動―プロセス

研究の重要性.レジームシフト研究-Ⅱ,-歴史と現状および今後の課題,月刊海洋,

41(1): 33-42.

桜井泰憲・松田裕之(2009):保全と利用の両立を目指した知床世界自然遺産,日本水産学

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39

会特別シンポジウム「生態系サービスと水産」,日本水産学会誌,75(1):99-101.

桜井泰憲(2009):水族館の飼育技術から地球温暖化研究へ,35-52,(猿渡敏郎,西源二郎・

編),「研究する水族館,水槽展示だけではない知的な世界」,東海大学出版会,東京,

238pp.

桜井泰憲(2009):地球温暖化が水産資源に与える影響,49-73pp,(日本農学会・編),シリ

ーズ 21 世紀の農学「地球温暖化問題への農学の挑戦」,養賢堂,東京,211pp.

2-1) Ecosystem-based sustainable fisheries of the Shiretoko World Natural Heritage Site, Hokkaido, Japan

Yasunori Sakurai

(Graduate School of Fisheries Sciences, Hokkaido University)

In 2005, the Shiretoko area of Hokkaido Island in Japan was inscribed on the World Heritage list as a natural site. The site includes the Shiretoko Peninsula located at the northeast tip of Hokkaido and the surrounding marine area up to three kilometers from the shore. Due to high nutrient input into these waters from melting sea ice, winter vertical mixing, and seasonal upwelling, the seas around the peninsula are home to a rich and unparalleled marine ecosystem and a variety of fisheries, which support the local economy. Thus, effective management of this site requires both conserving the integrity and diversity of the ecosystem as well as ensuring that the fisheries are sustained. The marine ecosystem at the site is impacted by global-scale climate changes and human activities (primarily fishing). While understanding the changes in fishery resources based on natural laws, it is important to seriously consider and take actions regarding the future of the fisheries. The International Union for Conservation of Nature and Natural Resources (IUCN) gave Japanese Government a challenge to submit a marine management plan for conserving the marine ecosystem at the site and to assess and mitigate the impact of dams for salmon to swim upstream. My talk will describe how Shiretoko's interdependent land and ocean ecosystems can best be maintained to ensure both conservation and sustainable use of the area’s rich natural resources.

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2-2)日本系シロザケの生命線オホーツク海-日本とロシアの架け橋

帰山雅秀(北海道大学大学院水産科学研究院)

私の場合は、どちらかというとサケにターゲットを絞ってオホーツク海の重要性について

お話させていただきたいと思います。結論はタイトルにありますように、我が国のシロザ

ケの生命線が実はオホーツク海である、というお話になると思います。サケといいますと

我々は食料として非常に重視しておりますが、このサケは食料としてだけではなくて、我々

が生息している生態系の物質循環であるとか、生物多様性を高める役割であるとか、更に

は環境あるいは情操教育としての生態系サービスとして重要であります。

アラスカ湾に生息する生物の炭素と窒素の安定同位体比のC-N mapでは、サケはアラスカ

湾生態系の4番目のトラフィックレベルに位置します。非常に生態系の高位に位置しますの

で、サケはこの生態系の動態をよく表すキーストーン種と言われております。そういう意

味では、生態系を評価する上で重要な魚であるわけです。サケは産卵のために川に帰るこ

とにより、海からの物質を陸域の生態系に運ぶという役割を果たします。サケの上る川と

いうのは、上らない川に比べて非常に高い窒素の安定同位体比を示します。図1は知床のル

シャ川の例ですが、カラフトマスは色々な動物に利用され、海の物質を陸域生態系へ運搬

していることがわかります。

図 1:知床世界自然遺産地域ルシャ川におけるカラフトマスによる陸圏生態系への

物質輸送(帰山・南川 2008)

Page 9: 2.オホーツク海の生態系変動と魚類(スケトウダラ・サケ類 ...33 2.オホーツク海の生態系変動と魚類(スケトウダラ・サケ類)の動態

41

今日はあまり時間がありませんので、その中でクマの例だけをちょっと紹介したいと思

います。クマの毛の先端から毛根までを細かく切って、それぞれの安定同位体を求めたC-N

map、知床のルシャ川にくるヒグマに、4つの生活パターンが見られます。「クマ1」は、内

陸にいて植物を中心に一年中生活している。「クマ2」は陸起源と海起源の生物を両方利用

しながら生活している。「クマ3」は、通常は内陸にいて植物を利用、あるいはシカなどを

食べていますが、サケが上る時期になると川に下りてきて越冬のためにサケを食べている。

「クマ4」は常に沿岸域に生活して、海から流れ着くものを餌としている。クマとサケと

の関係につきましては、この後間野さんが詳細に紹介してくれますので、私の方はこの辺

にいたしまして早速サケの話に移っていきたいと思います。

皆さんもうすでにご存知と思いますが、海へ下りた日本系シロザケの幼魚は,2~3ヶ月

沿岸で生活した後、全てオホーツク海に入り夏と秋を過ごします。最初の越冬は、北太平

洋西側で行います。その後2年目以降はベーリング海にわたって成長して、2年目以降の越

冬はアラスカ湾で行います。その後、ベーリング海とアラスカ湾を行ったり来たりして、

成熟すると日本へ帰って来ます。日本系サケの生残率は、沿岸とオホーツク海で生活する

期間にほぼ決まってしまいます。特に,オホーツク海でどれだけ成長できるかによって生

残率は決まります。そこで我々は、鱗の分析からバックカリキュレーションという方法を

使いまして、1939年から2004年に生まれた北海道シロザケのオホーツク海での成長量を調

べてみました。先ほど桜井さんもちょっとご紹介しましたが、PDO、Pacific Decadal

Oscillationといって、長期的な気候変動を表す1つの指数です。PDOの変動指数と、サケの

日本系の北海道系サケのオホーツク海における成長がよくリンクします。この成長量と生

残率の間に高い正の相関が見られます。言い換えると、長期的な気候変動とリンクして,

オホーツク海での成長が非常に良い年級郡ほど、その生残率は高いということがわかりま

す。また、オホーツク海では海氷が少なければ少ないほどシロザケの成長が良く,同様に

オホーツク海の夏と秋の表層の水温が高い年ほどシロザケの成長がよいということが分か

っております。海氷の面積の変化というのは、実はつい最近見られたことではなく、北大

低温研におられた青田先生のデータによると、網走の気温はここ100年間増加傾向を示すの

に対し,北海道に来る流氷は100年前からどんどん減っているとのことです。このような状

況から、青田先生はすでに地球温暖化が始まっているとおっしゃっています。また今朝の

大島先生からも同じようなデータを示していただきましたが、そういう意味では、実はオ

ホーツク海はすでに地球温暖化が始まっており、日本系シロザケはその地球温暖化のプラ

スの影響を現在オホーツク海で受けているということが考えられるわけです。

Page 10: 2.オホーツク海の生態系変動と魚類(スケトウダラ・サケ類 ...33 2.オホーツク海の生態系変動と魚類(スケトウダラ・サケ類)の動態

42

それでは、この地球温暖化の影響はシロザケにどのような影響を与え続けるのでしょう

か? ここでは、IPCC第4次報告書のSRES-A1Bシナリオに基づいて、地球温暖化がシロザ

ケにどう影響を及ぼすのか予測して見ましょう。図2は,現在(2005年),50年後(2050年)

および100年後(2095年)の北太平洋におけるシロザケの最適水温分布域です。今日はオホ

ーツク海のシンポジウムですので、この中からオホーツク海に焦点を絞ってお話させてい

ただきますと、2005年現在の状態ですが、この最適水温分布域が7月には北海道に接岸して

います。従って、北海道、日本から放流されたサケというのは、スムーズにオホーツク海

へ入っていくことができるわけです。その分布エリアというのは、彼らの生息期間は常に

確保されています。それでは50年後どうなるかというと、7月にはすでに最適水温エリアが

北海道から離れています。おそらく日本系シロザケは、オホーツク海への回遊ルートを50

年後には失うのではないかと予測されます。そればかりではなくて、8月、9月になると生

息域が非常に狭められますし、100年後にはこのように殆ど最適水温域が無くなってしまい

ます。これは,日本系のシロザケに限らず、ロシア系のサケにとっても由々しきことが起

きるかも知れないということを予測しているわけです。さてこれまでの結果をまとめてみ

ますと、日本系シロザケは何らかの形で現在も地球温暖化の影響を受けているわけですが、

オホーツク海において現在プラスの影響を受けている。それが結果的に,オホーツク

海での成長を促進し,最初の越冬時の体サイズを大きくすることによって、日本系シロザ

ケの生残率を高めているということがいえるかと思います。但し,もしIPCCの予測が当た

っているとすると、50年後には日本系シロザケは、オホーツク海への回遊ルートを失って

図 2:IPCC の SRES-A18シナリオに基づくシロザケの海洋分布に及ぼす地球温暖化の影響

(Kaeriyama 2008)

Page 11: 2.オホーツク海の生態系変動と魚類(スケトウダラ・サケ類 ...33 2.オホーツク海の生態系変動と魚類(スケトウダラ・サケ類)の動態

43

しまう。100年後にはロシア系も日本系のシロザケも、オホーツク海で生息するには厳しい

ということがわかってきました。

さて、サケが海に住める器の大きさのことを環境収容力と言いますが,カラフトマス、

シロザケおよびベニザケの環境収容力の時系列変化は長期的な気候変動とよくリンクして

いるわけですが、最近どの種も1997/98年の気候レジーム・シフト以降どうも減少傾向にあ

るように見えます。この長期的な環境収容力の変動パターンと地球温暖化の影響というこ

とを考えると、我々は今後このオホーツク海というものを、まず一つには、①シロザケに

とって重要な生命線であるということ、それから、②このオホーツク海をモニタリングす

ることによって、地球温暖化の影響を直接見ていくことができるということを認識すべき

であると思います。そういうことから日露共同で、オホーツク海での調査、研究というの

が、今後ますます重要になってくるのではないでしょうか。それと更には、その生態系を

守っていくためには、先ほど桜井さんも紹介しましたが,海の生態系の特徴をよく捉えた

上で、その順応的管理を行なっていくことが必要ではないかと考えます。そういう意味で

は、ますますオホーツク海というのは重要になってくるわけで、これを機会に、オホーツ

ク海というものを日本とロシアの架け橋として、今後共同で調査研究を行っていくという

のが私の希望であります。

2-2) The Okhotsk Sea as a life line of Japanese chum salmon: a bridge between Russia and Japan

Masahide Kaeriyama

(Faculty of Fisheries Sciences, Hokkaido University)

Pacific salmon (Oncorhynchus spp.) play an important role as ecosystem service in the North Pacific rim. After spending the early marine life in the coastal waters of northern Japan in spring, Japanese chum salmon spend their first summer and fall in the Okhotsk Sea, then move to the Western Subarctic Gyre for the first wintering. Their survival rate is mostly determined immediately after migration to the sea and during the first wintering period. For Japanese chum salmon, that is to say, a larger body migrating to the sea and better growth in the Okhotsk Sea result in a higher survival rate. Temporal change in growth patterns of Hokkaido chum salmon were observed using the back-calculation method based on scale analysis. The growth of Hokkaido chum salmon has been remarkable, and correlated negatively with the extent of sea ice cover area and positively with the sea surface temperature during summer and fall in the Okhotsk Sea since the 1990s. This phenomenon will be positively affected by the

Page 12: 2.オホーツク海の生態系変動と魚類(スケトウダラ・サケ類 ...33 2.オホーツク海の生態系変動と魚類(スケトウダラ・サケ類)の動態

44

global warming. The situation of chum salmon was predicted for periods of 50 and 100 years after based on the IPCC SRES-A1B scenario using their optimal temperature. The result indicated that Hokkaido chum salmon would lose migration route to the Okhotsk Sea by 2050, and be crashed by 2100. The Okhotsk Sea is literally an important life line for the Japanese chum salmon.

Page 13: 2.オホーツク海の生態系変動と魚類(スケトウダラ・サケ類 ...33 2.オホーツク海の生態系変動と魚類(スケトウダラ・サケ類)の動態

45

2-3)南西オホーツク海と国後島と択捉島沿岸におけるスケトウダラ

の分布特性と資源動向

ヴェリカノフ A.(サハリン漁業海洋研究所)

スケトウダラは、最も数の多い海の魚の一つで、北太平洋の北部、オホーツク海、ベー

リング海、そして日本海にも分布しています。このように個体数も多く、分布も広いこと

から、スケトウダラは広範な海洋生態系に大きな役割を持っています。そして、漁業対象

としても大変重要です。例えば、1980 年代には、その総漁獲量は 700 万トンを超え、世界

の他の魚種、例えばニシン、マダラ、カタクチイワシよりもはるかに高い漁獲量となって

います。また、1980 年代のオホーツク海のスケトウダラ資源量は 1500 万トンもあったこと

が報告されています。この地域のスケトウダラ漁業は 1960 年代にカムチャツカ半島西側の

大陸棚で始まりました。そして、70 年代の半ばからは、サハリンの東側の水域で、また 1970

年代末には北部オホーツク海でも操業が始まりました。さらに、国後、択捉、北海道の太

平洋沿岸の陸棚水域でも、1970 年代にはスケトウダラの資源は高いレベルにありました。

例えば、これはこの海域の漁業にとっても重要で、1977 年の世界食糧農業機関(FAO)のデ

ータによれば、60 万トンとスケトウダラの総漁獲量の 14 パーセントを占めていました。し

かし、その後の年間漁獲量は確実に減っており、今は最低の資源状態になっています。本

報告では、サハリン東部海域と千島列島南部周辺におけるスケトウダラの分布特性と資源

状況について紹介します。

オホーツク海のスケトウダラは、大陸棚に沿ってリング状に分布しており、産卵場もそ

の大陸棚上にあります(図1)。主な産卵場は、カムチャツカ半島西岸、南では国後海峡と

根室海峡、そして北海道の北岸域と知床半島突端の北西部です。また、サハリン東岸も産

卵場となっています。産卵期は、オホーツ

ク海南部では冬ですが、北部では春に産卵

のピークがあります。オホーツク海のスケ

トウダラは、夏には広範な海域に分布を広

げています。カムチャッカ半島周辺の産卵

場は、東岸と西岸にあります。そして南の

産卵場は、北部海域に比べて深く、80 年代

には水深 500mに産卵群がいました。特に、

国後海峡あるいは択捉周辺や根室海峡で

も、産卵水深が深くなっています。サハリ

ン東岸では、資源が少なかった年代ですが、

その分布の中心はサハリン北東部でした。

2002 年の夏を例にしますと、アニワ湾やチ

図 1:オホーツク海のスケトウダラの平均的な

再生産分布図:1.産卵場、2-4.浮遊卵、5.海流

実践は等深線 200,500,1000 M(シュントク他

1993)

Page 14: 2.オホーツク海の生態系変動と魚類(スケトウダラ・サケ類 ...33 2.オホーツク海の生態系変動と魚類(スケトウダラ・サケ類)の動態

46

ェルペーニ湾の分布量は、北

東部の10分の1程度でした。

このように、サハリン周辺の

スケトウダラは、2000 年代初

めには北東部に集中し、その

分布水深は 20-500mで、200

m水深の部分に多く分布し

ています(図2)。緯度から

見ますと、北緯 50 度から 53

度の間になります。2003 年か

ら 2005 年では、漁獲水深は

深いですが、1 日の漁獲量は 210~350 トンの記録もあります。11 月-12 月になりますと、

スケトウダラは集中分布するようになり、次第に北部オホーツク海へと移動してゆきます。

2003 年と 2008 年の 7月から 10 月のサハリン北東海域のスケトウダラは、体長 40cm くらい

のものが多く、次に 20-30cm サイズの未成魚も分布しています(図3)。年齢は 4 歳~7 歳

魚が群れの中心となっており、未成魚は 2歳~3歳です。これは表層のトロール観測をした

ものであります。

サハリン漁業海洋研究所では、サハリン沿岸において表層トロールによるスケトウダラ幼

魚の分布調査を行っています。スケトウダラ幼魚は、南東サハリンあるいはアニワ湾で出

現しますが、多くありません。2003年から 2006 年の間の幼魚分布量は非常に少なかったで

すが、2008 年には非常に多く、この調査期間中でその分布量は最大でした。そしてその時

には、スケトウダラとコマイの幼魚が混

ざっていました。その時の幼魚は、全長

4-6cm、あるいは 5-8cm のモードでした。

1 4 3 1 4 4 1 4 5 1 4 6 4 8

4 9

5 0

5 1

5 2

5 3

5 4

1 0

5 0

1 0 0

5 0 0

1 0 0 0

5 0 0 0

142.50 143.00 143.50 144.00 144.50 145.00 145.50 46.00

46.50

47.00

47.50

48.00

48.50

49.00

49.50

1

5

10

50

100

200

142.00 142.50 143.00 143.50

45.40

45.90

46.40

46.90

0.5

1

5

10

20

図 2:2002 年度曳きトロール調査によるサハリン東岸沖のス

ケトウダラ集積分布(左から右へ:北東サハリン9-10 月,南

東サハリンとアニワ湾 8-9月),kg/KM2

N=19364 шт., Х=42.79 см

02468

1012

10 15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75

Длина АС, см

%

2003

N=3057 шт., Х=39.66 см

02468

1012

10 15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80

Длина АС, см

%

2004

N=7070 шт., Х=41.76 см

02

468

1012

10 15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80

Длина АС, см

%

2005

N=4650 шт., Х=42.30 см

02468

1012

10 15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80

Длина АС, см

%

2006

N=4547 шт., Х=39.04 см

02468

1012

10 15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75

Длина АС, см

%

2007

N=9681 шт., Х=44.89 см

02468

1012

10 15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80

Длина АС, см

%

2008

図 3:2003-2008 年北東サハリン沖の索餌期におけ

るトロールで採集したスケトウダラの体長組成

図4. 南サハリンク周辺および国後・択捉周辺海域における145.0 146.0 147.0 148.0 149.0

44.00

45.00

46.00

0.1

1

2

3

4.1

145° 146° 147° 148° 149°

44°

45°

46°

т/кв.милю

0.01

0.1

1

5

10

20

141 142 143 144 145 146 147 148 14944

45

46

47

48

нет1-5051-100101-200201-300

Улов, шт/тралением интай

147.5° 148.0° 148.5° 149.0° 149.5°

45.0°

45.5°

46.0°

145° 146° 147° 148°43°

44°

45°

1

5

10

20

50

100ò/êâ.ì èëþ

左列(表層トロール), 上から下へ: 2008年3月; 2006年5-6月 ; 2004年6-8月

右列 (底曳きトロール), 上から下へ: 2007年8-9月 ; 2008年9-10月 ; 2005年10-11月.

図 4:南サハリン周辺及び国後・択捉周辺

海域におけるスケトウダラの季節別の分

布状況

Page 15: 2.オホーツク海の生態系変動と魚類(スケトウダラ・サケ類 ...33 2.オホーツク海の生態系変動と魚類(スケトウダラ・サケ類)の動態

47

大きなサイズの幼魚は、おそらく北海道周辺などの南の海域、一部は国後海峡に近いとこ

ろから来ているものと考えられます。このトロール調査では、スケトウダラ幼魚以外に、

水深 30m のところでカラフトシシャモを含めて多様な魚が採集されました。

図4は、国後・択捉島周

辺におけるスケトウダラの

季節分布を表しています。

択捉島の太平洋側では、8-9

月にスケトウダラの集中分

布がみられます。スケトウ

ダラの集中分布が見られた

のは、12 月の国後、択捉島

のオホーツク海側です。択

捉島オホーツク海側には、

根室海峡よりも平均体長が

小さい群れが見られます

(図5)。最近のプランクト

ンネットによる調査から、

国後海峡では12月末にはすでに産卵が始まって

いることが明らかになりました。択捉島と国

後・根室海峡におけるスケトウダラの体長を比

較すると、国後・根室海峡の方が大型のスケト

ウダラが分布しています。索餌期の調査では、

大型の成魚から小型の未成魚が分布しており、

特に太平洋側に大型の成魚に濃密に分布し、0歳

から 2歳、3歳魚も見られます。資源量について

1970 年代と 1980 年代を比較すると、70 年代に

は索餌期も産卵期にも多く、資源量は 60 万トン

あるいは75万トンという高い値となっていまし

た。これは、調査対象水域内で移動して成長す

る幼魚がいるということ、あるいは隣接水域か

らの移入によっても資源量の増加につながった

と推定されます。この資源の多さが、その年代

の漁獲量の増加に反映しています。例えば、北

東サハリンでは年間 20 万トン、あるいはサハリ

ン南東で 16 万トン、択捉・国後周辺で 40 万ト

ン以上ということがありました。しかし、最近

0369

121518

17 20 23 26 29 32 35 38 41 44 47 50 53 56 59 62

самцысамкиобщий

%

длина, см

М=38.6 см

М=39.4 смМ=39.0 см

А

0369

121518

17 20 23 26 29 32 35 38 41 44 47 50 53 56 59 62

самцысамкиобщий

%

длина, см

БМ=44.4 см

М=45.7 смМ=45.0 см

0369

121518

17 20 23 26 29 32 35 38 41 44 47 50 53 56 59 62

самцысамкиобщий

%

длина, см

ВМ=42.4 смМ=43.2 смМ=42.7 см

0

15

30

45

60

1 3 5 7 9 11 13 15 17

самцысамкиобщий%

возраст, лет

А

0

15

30

45

60

1 3 5 7 9 11 13 15 17

самцысамкиобщий%

возраст, лет

Б

0

15

30

45

60

1 3 5 7 9 11 13 15 17

самцысамкиобщий%

возраст, лет

В

図 5:2003 年 12 月 15 日-30 日水深別トロールで採集されたスケト

ウダラの体調組成(左)と年齢組成(右):A-択捉島オホーツク海側、

Б-根室海峡、B-両海域共通

0

20

40

13 18 23 28 33 38 43 48

% 2000М=2 0,1 см

0

20

40

13 18 23 28 33 38 43 48

% 2001М=27,6 см

0

20

40

13 18 23 28 33 38 43 48

% 2002М=31,9 см

0

20

40

13 18 23 28 33 38 43 48

% 2003М=36,7 см

0

20

40

13 18 23 28 33 38 43 48

% 2004М=2 0,5 см

0

20

40

13 18 23 28 33 38 43 48

% 2005М=2 9,4 см

0

20

40

13 18 23 28 33 38 43 48

% 2006М=16,8 см

0

20

40

13 18 23 28 33 38 43 48

% 2007М=20,4 см

0

50

100

1 3 5 7 9

%

0

50

100

1 3 5 7 9

%

0

50

100

1 3 5 7 9

%

0

50

100

1 3 5 7 9

%

0

50

100

1 3 5 7 9

%

0

50

100

1 3 5 7 9

%

020406080

100

1 3 5 7 9

%

0

50

100

1 3 5 7 9

%

2008

0

4

8

12

13 18 23 28 33 38 43 48Длина, см

%

М = 29,1 см

0

153045

1 2 3 4 5 6 7 8 9 1Возраст , годы

%

図6.2000-2008年の国後・択捉太平洋側で図 6:2000‐2008年の国後・択捉太平洋側

でトロール調査で採集されたスケトウダ

ラの体長組成と年齢組成

Page 16: 2.オホーツク海の生態系変動と魚類(スケトウダラ・サケ類 ...33 2.オホーツク海の生態系変動と魚類(スケトウダラ・サケ類)の動態

48

の漁獲は激減しており、現在は最低の資源水準になっています。

しかし、この地域のスケトウダラ資源に増加の兆しがみられます。特に、サハリンの北

東部では、最近 2 年間の産卵数が増えているということが観察されております。図6から

も、国後、択捉周辺の太平洋側で幼魚の増加が推定されます。このような増加の兆候が今

後もずっと続いて、それが資源量の増大と漁獲量の増加につながって、70-80 年代のように

資源水準が回復するかは、現時点では断定できません。これで発表を終わります。ありが

とうございました。

2-3) Peculiarities of walleye pollock (Theragra chalcogramma) distribution pattern andabundance dynamics in the southwestern Okhotsk Sea

and along theKunashiri and Etorofu

A.Ya. Velikanov (Sakhalin Research Institute of Fisheries and Oceanography)

In the past century, the walleye pollock stock abundance in the southwestern Okhotsk

Sea and oceanic waters of Hokkaido, Honshu and southern part of Kuril Islands was high and commercially important. In 1986, the walleye pollock catch in this region was 720 000 tons, i.e. 10.7% of the total capture and 37.2% of the capture in the Okhotsk Sea. In this paper the main attention is paid to peculiarities of walleye pollock distribution in the Okhotsk Sea waters of Sakhalin Island and along the southern part of Kuril Islands during its low abundance. In the beginning of the current decade the main aggregations of walleye pollock in the Okhotsk Sea waters of Sakhalin Island are concentrated only along the northeastern coast. The current abundance of this species along southeastern Sakhalin and in Aniva Bay is much lower. Along the southern part of Kuril Islands, walleye pollock are widely distributed in the warm season (summer and autumn) when their significant aggregations are observed both on the Okhotsk Sea and Pacific Ocean sides. In August-October, the densest walleye pollock aggregations were observed in the Pacific Ocean waters of Iturup Island. In December, large aggregations of walleye pollock are concentrated in the Okhotsk Sea waters of Kunashiri and Etorofu Islands, i.e. in its main spawning areas. Along Etorofu Island, aggregation density and mean fish length from catches were lower than in Kunashiri Strait. During the feeding period of recent years, aggregations of the small-sized walleye pollock occurred mainly in the Pacific waters. The annual walleye pollock catch along the northeastern Sakhalin once

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49

reached more than 200 000 tons, and along the southern part of Kuril Islands more than 400 000 tons. However, in the following years the walleye pollock catches in these regions began to decline steadily and currently appeared to be at the minimal level. In recent years, some signs of increase in commercial walleye pollock stock abundance have been observed in several areas of the region considered.

Page 18: 2.オホーツク海の生態系変動と魚類(スケトウダラ・サケ類 ...33 2.オホーツク海の生態系変動と魚類(スケトウダラ・サケ類)の動態

50

2-4)四島における底生魚の種構成及び資源構造(トロール調査の結果)

キム・セン・トク(サハリン漁業海洋研究所)

本日は、サハリン東岸と国

後・択捉周辺水域に生息する魚

種組成と、その資源状況につい

て紹介します。図1は、1987

年から 2007 年の間に実施した

国後・択捉周辺海域でのトロー

ル調査点を示しています。この

ように北方四島周辺海域の大

陸棚とその斜面域を網羅して

います。この調査は、サハリン漁業海洋研究所が実施しており、1987-1990 年は主に漁獲対

象種のみの調査でした。その後中断しましたが、2001 年に再開して、2007 年までに毎年 6

回の調査が行われています。このトロール調査の網の大きさは大きくありませんが、四島

周辺海域の魚類相や主要種の資源の経年的変化を知ることができます。これらの調査は、

毎年夏の終わりから秋に実施しています。なお、同じ調査航海では、サハリン東岸の大陸

棚域、テルペニア湾、アニワ湾などでも、同様のトロール調査をしています。

まず、出現した魚類相ですが、サハリン西岸で 159種、北東岸で 191 種、テルペニア湾が

122 種、アニワ湾が 126種、北方四島のオホーツ

ク海側が 116 種、太平洋側が 191 種で、四島周

辺には、46 科 188-122 種の魚類が出現していま

す。択捉島周辺に限りますと、18科77種ですが、

北方四島の太平洋側の方が圧倒的に魚類の種組

成が多様で生物量も多いと言う特徴があります。

これは、太平洋側の大陸棚が良く発達している

こと、国後海峡のように急に深くなった大陸棚

斜面と海谷があるためと考えられます。一方、

国後・択捉のオホーツク海側の大陸棚は、等深

線 100-200mの幅が狭く、水深 150-200m の大陸

棚が広がっている海域は、国後の北のロフソフ

岬からプロストロール湾の間にあります(図 1)。

サハリン周辺と国後・択捉周辺の魚類相の類似

度を比較しますと(図 2)、サハリン北東岸と国

後の太平洋側、国後と択捉の間のオホーツク海側と太平洋側で、約 64%と類似度が高くなっ

64%

49%

49%

64%

68%

66%

NE Sakhalin

South Kuril

Terpenije Bay

Aniva Bay

Hokkaido

Sakhalin

86%56%

図 2:サハリン周辺海域と北方四島

周辺海域でトロール調査で採集さ

れた魚類層の類似度比較

145° 146° 147° 148° 149° 150°43°

44°

45°

East

North

Hokkaido Island

Kunashir Island

Ithurup Island

Okhotsk Sea

Pacific Ocean

î . Ø è êî òàí

200 m

200 m

100 m50 m25 m

図 1:北方四島周辺海域におけるトロール調査の概要

(1987-2007年)

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51

ています。そして、サハリンのアニワ湾、テルペニア湾と国後太平洋側との類似性は約 49%

で、半分くらい種類が似ていて、半分は似ていないということになります。択捉島のプロ

ストール湾とクイブシュスキー湾の類似度は 86%と高いですが、その東西の湾を比較する

と 56%と低くなっています。

次に、北方四島周辺海域に出現し

た魚類組成を紹介します。最も多い

種はカジカ科の 30 種、カレイ科 20

種、ゲンゲ科 15 種、トクビレ科 15

種、次いでフサカサゴ科 13 種、タ

ウエガジ科とガンギエイ科が、それ

ぞれ 12 種出現しています。このう

ち、生物量が多いのがタラ類、カジ

カ類、カレイ類、ホッケで、全体の

88 から 97%を占めています。スケト

ウダラを含むタラ類は、1980 年代

末から 90 年代初めには全体の 62

から 77%占めていましたが、2000

年代には 30-60%と減っています。カジカ類は 5-32%、カレイ類は 6-21%、ホッケは 5-28%

です。図3は、1988-2007 年における北方四島周辺海域における全魚類の生物量の分布を示

しています。1988 年の調査だけは冬の 12月から 1月に行われていますが、色丹と国後の間

の三角水域に底魚類の集中が見られています。2001 年以降の夏から秋にかけては、年によ

って変化しています。最も集中分布しているのは国後海峡の大陸棚より浅い海域で、カレ

イ、カジカ類が中心です。カサカ湾付近はスケトウダラが多く、あとは国後・択捉のオホ

ーツク海側の湾で、魚種はマダラ、スケトウダラ、ホッケなどでした。

全生物量の 79%が太平洋側、残り 21%がオホーツク海側で、そのうちの主な魚種はマダ

ラ、スケトウダラ、ホッケです(図4)。分布面積から見ますと、太平洋側が 85%、オホー

ツク海側が 15%でした。タラ類のオホーツク海側での生物量は、全体の 24-25%、分布面

積の 15-19%でした。ホッケは、オホーツク海側の分布面積で 28%、生物量では 72%を占め、

カレイ類は、分布面積で 20%、生物量は 24%でした。カジカ類のオホーツク海側の分布は、

面積の 7%、生物量は 15%です。北方四島周辺海域における魚類の全生物量の年代変化は、

大きく 3 つの時期に分けることができます。まず 1980 年代末から 1990 年代初めで、底魚

類の生物量は 26 万から 31 万トンでした。ただし、当時のトロール調査海域は限られてお

り、海域全体を把握できていません。海域全体の調査が始まった 2000 年代では、2001 年か

ら 2003 年にかけては約 15 万トンで、2004 年、2005 年には 5.8 万トンから 10 万トンに激

減しています。ただし、2007年には 22 万トンまで生物量が増加しています。

145° 1 46° 147° 148°43°

44°

45°

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200 ì

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1520

25

3035

40

4550

55

606570

7580

1988

145° 146° 147° 148°43°

44°

45°

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2001

145° 146 ° 147° 148°43°

44°

45°

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70

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12 0

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14 0

15 02003

145° 146° 147° 148°43°

44°

45°

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50

55

60

2004

145° 146° 147° 148°43°

44°

45°

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262830

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2005

145° 146° 147° 148°43°

44°

45°

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2007

1988

2006

2003

2004

2001

2007

145° 1 46° 147° 148°43°

44°

45°

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1988

145° 146° 147° 148°43°

44°

45°

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2001

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20

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13 0

14 0

15 02003

145° 146° 147° 148°43°

44°

45°

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0.001

0.1

1

5

10

15

20

25

30

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40

45

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55

60

2004

145° 146° 147° 148°43°

44°

45°

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0.00 124

68101214

161820

2224

262830

3234

2005

145° 146° 147° 148°43°

44°

45°

â . ä.

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0 .001

5

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20

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30

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60

65

2007

1988

2006

2003

2004

2001

2007

図 3:北方四島周辺海峡における魚類の総生産物の

海域分布(1988-2007年,単位はトン/平方マイル)

Page 20: 2.オホーツク海の生態系変動と魚類(スケトウダラ・サケ類 ...33 2.オホーツク海の生態系変動と魚類(スケトウダラ・サケ類)の動態

52

次に、サハリン周辺海域と北方四島海域における魚種別の生物資源量の年代変化について

紹介します。全海域で優先するのがスケトウダラを含めたタラ類です。ただし、海域によ

ってやや異なり、国後・択捉オホーツク海側では、ホッケがタラ類と変わらない生物量で

すが、太平洋側では、タラ類が多く、次いでカジカ類、カレイ類、最後にホッケです。一

方、サハリン東岸では、タラ類に次いでカレイ類、カジカ類となっています。多くの魚で、

数量増減に年代を通した周期性が見られることがわかっています。北方四島の場合は、1980

年代末から 1990 年代初めは、底魚類の生物量は非常に多かったのですが、2004 年には最も

少なくなっています。ただし、2007 年には増加が見られ、2004-2005 年の最低な時期を越

えて、今後増加する可能性があります。つまり資源量が多い種では、経年的な増減変動が

ありますが、2004-2005 年を境として、魚類群集そのものに大きな転換が起きている可能性

があります。2007 年のデータからは、ホッケを除いて増加傾向が認められます。

サハリン東岸および北方四島周辺海域における魚類優占種はタラ科魚類で、特にスケト

ウダラとマダラが占めています。サハリン北東部では、スケトウダラが数量的にも卓越し

ており、タラ科魚類の 89%から 100%を占めています。サハリン北東水域には、スケトウダ

ラは毎年産卵のために集まってきますが、索餌回遊時はサハリン東岸からオホーツク海全

域、特に北側の大陸棚に分布しています。また、北方四島周辺でも、その周辺海域で索餌

回遊時に集中分布する海域が見られています。全体の底魚類に対するタラ科魚類の生物量

は、1980 年には 94.7%を占め、1994 年から 2000 年の間は 36.7 から 55.6%と横ばい状態

で、2001 年から 2004年には 60.3 から 87.5%になりました。テルペニア湾を例としますと、

スケトウダラの生物量断続的な増減が続き、特に 1980 年代が顕著です。しかし、1989年以

降では、この海域のタラ科の優占種はコマイです。アニア湾は、他の北の海域に比較して

底魚類の種類も生物量も多くありません。これは宗谷暖流の影響が強いためと考えられま

す。一方、北方四島のタラ科魚類では、2000年代は大陸棚でマダラが優勢ですが、1990 年

145° 146° 147° 148° 149° 150°43°

44°

45°

East

North

Hokkaido Island

Kunashir Island

Ithurup Island

Okhotsk Sea

Pacific Ocean

î . Ø èêî òàí

200 m

200 m

100 m50 m25 m

21%15%Total biomass of all fish

15%7%Cotti d-fishes

24%20%Flat-fishes

72%28%Pleurogrammus azonus

Theragra chalcogramma

Gadus macrocephalus 24-25%15-19%

Eleginus gracilis

BSOkhotsk Sea waters

21%15%Total biomass of all fish

15%7%Cotti d-fishes

24%20%Flat-fishes

72%28%Pleurogrammus azonus

Theragra chalcogramma

Gadus macrocephalus 24-25%15-19%

Eleginus gracilis

BSOkhotsk Sea waters

79%85%Total biomass of all fish

85%93%Cotti d-fishes (カジカ類)

76%80%Flat-fishes (カレイ類)

28%72%Pleurogrammus azonus (ホッケ)

Theragra chalcogramma (スケトウダラ)

Gadus macrocephalus (マダラ)

76-75%85-81%

Eleginus gracilis (コマイ)

BSPacific Ocean waters

79%85%Total biomass of all fish

85%93%Cotti d-fishes (カジカ類)

76%80%Flat-fishes (カレイ類)

28%72%Pleurogrammus azonus (ホッケ)

Theragra chalcogramma (スケトウダラ)

Gadus macrocephalus (マダラ)

76-75%85-81%

Eleginus gracilis (コマイ)

BSPacific Ocean waters

図 4:国後・択捉周辺海域における太平洋側とオホーツク海側の魚種ごとの分布面積(S)

と生物量(B)(海域は、大陸棚上と大陸棚斜面の水深 400mより上部)

Page 21: 2.オホーツク海の生態系変動と魚類(スケトウダラ・サケ類 ...33 2.オホーツク海の生態系変動と魚類(スケトウダラ・サケ類)の動態

53

代はスケトウダラがマダラ

を大きく上回っていました。

特に、注目すべき点は、2007

年に見られるようにスケト

ウダラの生物量が急激に増

加していることです。その他

の魚類、特にカレイ類とホッ

ケに関しては、時間がありま

せんので紹介しません。

最後に、全体を総括します。

図5に、サハリン東岸および

北方四島周辺海域における

魚類優占種の相対的な平均

生物量の経年変化を示しま

した。また、図6に、サハリ

ン西岸、テルペニア湾、北東

岸および北方四島周辺海域

における底魚魚類の生物量

の経年変化を示します。北方

四島とサハリン近海におけ

る魚種ごとの生物量の経年

変化は、1988 年以降の調査か

らほぼ一致していることが

判りました。サハリン西岸で

は、冬の調査結果ですが、経

年的に生物量が減少傾向に

ありますが、最近は増加の兆

しがあります(図6)。テル

ペニア湾では、1990 年代の半ばに生物量が多く、これはコマイの急激な増加期にあたりま

す。それ以前は乱獲で全体の生物量が激減していましたが、2000 年代でも依然低水準です。

サハリン北東岸海域では、生物量の最大期は 1980 年代初めにあり、その後 1990 年代末か

ら 2000 年初めに急減しました。ただし、ここ数年は非常にゆっくりと回復しています。以

上のことから、サハリン東岸と北方四島周辺海域の底魚類は、1980年代から 1990 年代の前

半までは多く、その後減っていき、2003 年から 2004 年に最低期を迎え、現在は再び増加に

向かっていると推定されます(図5)。

1988

1990

2001

2003

2004

2005

2007

Gad

usm

acro

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Ther

agra

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amm

a

Eleg

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gra

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0

5

10

15

20

25

average biomass per 1 sq. miles, ton

Gadidae

1988

1990

2001

2003

2004

2005

2007

P.sc

hren

ki

Lepi

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Myz

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lleri

0,0

0,5

1,0

1,5

2,0

2,5

average biomass per 1 sq.

miles, ton

Pleuronectidae

1988

1990

2001

2003

2004

2005

2007

Pleu

rogr

am

mus

azon

us

0

1

2

3

4

5

average biomass per 1 sq.

miles, ton

Pleurogrammus azonus

1988

1990

2001

2003

2004

2005

2007

M.ja

ok

G.d

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yaca

ntho

ceph

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Enop

hrys

dice

raus

0,001,002,003,004,005,006,007,008,00

average biomass per 1 sq. miles, ton

Cottidae

図 5:サハリン東岸および北方四島周辺海域における魚類優先種

の相対的な平均生物量の経年変化(単位:トン/平方マイル)

R2 = 0,9483

0

10

20

30

40

50

1988 1990 2001 2003 2004 2005 2007

aver

age

biom

ass

per

1 sq

. m

iles,

ton

South Kuril

R2 = 0,78

05

101520253035404550

1983 1985 1987 1988 1990 1996 2000 2002 2003aver

age

biom

ass

per 1

sq.

mile

s, to

n We ste rn Sakhalin

R2 = 0 ,88

0

5

10

15

20

1988 1994 1998 2000 2002 2004

aver

age

biom

ass

per

1 sq

. m

iles,

ton

North-Eas tern Sakhalin

R2 = 0,925

0

24

68

1012

14

1983 1988 1992 1996 2000 2004

aver

age

biom

ass

per 1

sq.

mile

s,

ton

Te rpe nije Bay

サハリン西岸

サハリン北東岸テルペニア湾

北方4島

図 6:サハリン西岸、テルペニア湾、北東岸および北方四島周辺

海域における底魚魚類の生物量の経年変化

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2-4) Species composition and resources structure of demersal fishes at four islands. (by results of trawling surveys).

Kim Sen Tok

(Sakhalin Research Institute of Fisheries and Oceanography)

Species composition and resource structure of demersal fishes were compared between areas around four islands, and western and eastern coasts of Sakhalin Island by data of last two decades. Four Islands area supported diverse communities of shelf and upper slope fish that consist of at least 188 species. n the southern Okhotsk Sea area, species composition was similar with lower level of species diversity than in adjacent waters. The most species were present in Cottidae (30), Pleuronectidae (20), Zoarcidae (15), Agonidae (15) families. It was found that 78.8% of total fish biomass was distributed in Pacific Ocean waters, and the rest was concentrated in Okhotsk Sea waters. The Pacific Ocean waters have made up 85% of total area near four islands, and the Okhotsk Sea waters – only 15%. The gadid-fishes were dominant component of biomass in all regions. Walleye Pollack was key dominant species, but there was high biomass of Pacific cod off Kuril Islands. Pleuronectidae, Cottidae and Hexagrammiedae families were included in dominant group besides Gadidae. The fluctuations of fish abundance in four islands area correspond well with ones in Sakhalin Island area in last decades. High level of the total fish biomass was observed in various regions from 1980s to- the first half of 1990s. Then there was decreasing of fish resources, reached to bottom in 2003-2004. In recent years it was shown increasing of most observing resources.

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2-5)気候変動とそのオホーツク海の生態系への影響

ラドチェンコ V.(サハリン漁業海洋研究所)

私は、気候変動によるオホーツク海生態系への影響という事について話したいと思います。

オホーツク海はロシア極東の漁業に重要な意義を持つもので、オホーツク海での漁獲量は

ロシア極東の全体の55%から65%を占め、2001年からこれまで変わっておりません。スケ

トウダラはその48.3%から62.0%を占めますが、この他サケ、マス、ニシン、カレイ、タ

ラ、カニなども重要な漁業対象種となっています。これは、最も漁獲量の多い種類の魚の

資源量が安定していることと、これらの水産物への市場の需要が安定していることにより

ます。オホーツク海で最も漁獲量が多かったのは、1980年代でした。スケトウダラが主で

したが、総資源量は350万トンと評価され、年間の漁獲量は175万トン程度でした。オホーツ

ク海における水産物の中で、スケトウダラの他にタラやコマイがあります。またイワシ類

も回遊をしており、それがオホーツク海の資源量に貢献しています(図1)。

1990年には浮魚類に大きな変化がありました。ご覧のように、スケトウダラのシェアが

減り、ニシンとサケ類のシェアが増えています。いくつかの魚類の資源量は増えておりま

すが、それでもスケトウダラの減った分をカバーするには至っていません。浮魚類の資源

図 1:1965‐2008 年、オホーツク海における漁獲量の経年変化。下図

はスケトウダラを除く漁獲量の経年変化、緑線は海氷面積比(最大値)

の経年変化を示す

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量は140万トンから105万トンに減りました。漁業対象魚の資源量は北太平洋においては、

最も多かったのが暖かいときだったという報告がありますが,オホーツク海でも1980年代

の暖かい時期が最も資源量が多かったようです。オホーツク海の海洋レジームに決定的な

影響を及ぼすのは、冬の間の北の大陸棚の水の冷却が厳しいときです。これについて大島

先生がとても詳しくお話になりましたので詳細は述べませんが、この時期に夏の温度も低

いほうに傾き、それが影響を及ぼしていると思います。すなわち,熱収支が冷たいほうに

傾いているのです。これは北太平洋、日本海からの流入によって埋め合わせることが出来

ないからです。西カムチャッカでは、太平洋からの暖水がオホーツク海に流入しています。

1970年代の始めに、東西方向の大気の流れが南北の流れに変わるということがありました。

1976/77年のレジーム・シフトですが、冬季のアリューシャン低気圧が最小のときに、アリ

ューシャン諸島のほうから大気を運びます。これがオホーツク海のほうにも流れることに

よって,暖夏となります。2010年以降に寒い南北方向の大気循環を特徴とした時代が来る

という予測があるわけですが、しかし今なお東西方向の大気の流れは主流であり、東西の

大気循環の時代が終わるという証拠は今のところありません。そして海洋の水循環が弱か

ったことが、1990年のオホーツク海の熱収支にマイナス方向の影響を与えました。1990年

代、カムチャッカを通ってオホーツク海にやってくる流入が弱くなりました。これはマク

ロスケールでの亜熱帯の渦が強くなり、カリフォルニア海流が強くなったため、そして亜

寒帯の渦によりアメリカの沿岸を通るアラスカ海流が弱くなったということであります。

2002年ですけれども、結局、亜寒帯の渦で循環水面の温度が下がり続けたということであ

ります。2002年からのオホーツク海の状況は、海洋の循環パターンが北の方にシフトした

ので、太陽光の恩恵を受けられなくなったため陸棚の水温が低下しています。

次に,オホーツク海は海氷面積も気温と海の表面水温に大きな影響を及ぼします。2001

年に海氷面積は最大になっていて、その後やや減っています。やや減っておりますのは、

温暖化か原因です。海氷のカバー率は、水温条件を示す重要なファクターとなっています

が、海水面と大気との熱交換,また海水中の撹拌、層形成,海水の表面下の冷たい残存水

が新しいものに変わるということなどの物理学的・生物学的要因が相互に顕著な関係を示

しています。海氷と東西の大気の流れが関係しており,大気循環のタイプ,西カムチャッ

カ海流による海水の移流が関係しています。

次に、魚類の最大資源量であるスケトウダラについて述べたいと思います。スケトウダ

ラ資源量は、1976/77年レジーム・シフト後、最高となっております。1977年生まれの卓越

年級群のスケトウダラですが、6歳以上です。そしてここで注目していただきたいのは、漁

獲量は6歳以上の卓越年級群が多いところに一致しているということです。1970年代後半は、

このスケトウダラの卓越年級群が多く、1980年代は全数のうち半分が卓越年級郡でした。

1990年の漁獲量は2歳魚だけです。スケトウダラは長生きの魚ですので、いくつかの卓越年

級群が重なれば,漁獲量が著しく増加するということがあると思われます。オホーツク海

におけるスケトウダラ漁獲量は海水の移入により補償されます。特に西カムチャッカ海流

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による流入が弱いということ、そして海氷が少ないということとで環境が暖かくなり、ス

ケトウダラの成長に良い条件を作るということになります。この逆の場合は、スケトウダ

ラ資源量は減る方向に向かいます。一方,ニシンは逆の傾向を示します。1976/77年レジー

ム・シフト後、ニシンの漁獲量も著しく減少しました。そのため,ロシアでは1970年代ま

で重要な漁獲対象種だったニシンは禁漁となりました。

次に浮魚ですが、2007年までの資源量は西カムチャッカ大陸棚で非常に多く、半分以上

をカレイ類、1980年代は30%ほどをマダラが占めておりました。2000年までこのような構

成が続いているのですが、マダラ資源量が減ったことにより資源量全体が2分の1に減少し、

現在はコマイが増えてきています。

次は,熱収支とカラフトマス漁獲量との変化です。これは熱収支,英語ではサーマルバ

ジェットといいますが、水深700m層までの熱量(図2)です。熱収支とカラフトマス漁獲量

の変動はよくリンクしています。今後、これがどうなっていくのか非常に面白いものがあ

りまして、帰山先生がPDO(太平洋十年振動指数)とサケ類漁獲量の変動が良くリンクして

いるのではないかとおっしゃっていましたが、カラフトマスの漁獲量とPDOのトレンドには

数年のずれがありますが,両者の変動はよく一致し,カラフトマスの漁獲量は2002年から

少し下がってきています。最後、少し上がっておりますが、これまでの状況を見るとPDO偏

差とカラフトマスというものは、殆ど一致して推移してきております。今後も両者が連動

するのかどうかということはよくわかりません。ロシアでは2015年までに、57のふ化場を

サハリン州に作るという計画になっております。

図 2:1956-2008 年、ロシア極東沿岸で漁獲されたカラフトマス(3)と熱収支(1,2)の経年変化

(1:after Levitus et al. 2005, 2:recised by R. Simmon, after Lindsey 2008)

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このようにして、物理学的な色々なインデックスを見ているとオホーツク海の海洋学的

なレジーム・シフトを追っていくことが出来ます。今後どのような方向に行くのかという

ことを,今、予測することは非常に難しいものがあります。これまでの気候変動および(魚

類などの)生物量の変化を見ると,現在起きている状況が過去50年間起きてきた状況と大

きく異なっていることに気づきます。地球温暖化による偏差は、これまでの偏差の2倍ほど

になっています。すなわち,世界の海洋はこれまで60年間、寒冷化と温暖化を繰り返して

きましたが、この偏差がこれまでよりも大きいというだけではなく、ここ最近の温暖化傾

向が著しくなっているということを表しています。

2-5) Climate variability and its effects on the ecosystem of the Sea of Okhotsk

Radchenko V. I. (Sakhalin Research Institute of Fisheries and Oceanography)

The oceanographic regime of Sea of Okhotsk is mostly determined by water cooling on the

northern shelf in winter. Warm water advection balances the heat budget deficit. The atmospheric

circulation drives these processes and generates the regional scale factors influencing the biota.

The ice cover expansion serves as the significant index of thermal conditions as the notable factor

determining the heat exchange with atmosphere, water column stratification, etc. Zonal type

repetition growth in the atmospheric circulation was the notable events in the Sea of Okhotsk region

in early 1970s, which was followed by the 1976/77 regime shift. The reverse transfer to the “cold”

meridional type epoch is forecasted since 2010 (Klyashtorin & Lyubushin, 2005).

Walleye pollock, as long-living fish, keep the fishery stock in good conditions when it

consists of several strong and super-strong year classes. After 1976, walleye pollock biomass has

increased in the northern Sea of Okhotsk. The fishery harvest have grown up to 1.7–2 million

metric tons (mt) in 1984–1991 and lasted around the same level until 1997. The combinations of

intensive Pacific waters inflow with the Western Kamchatka Current, low intensity of the

Compensating Current, and mild ice conditions create favorable preconditions for strong walleye

pollock year class occurrence. New prediction related to the pair of year classes preliminary

assessed as the strong ones (2004, 2005). The Okhotsk herring demonstrated the abundance

dynamics opposite to the walleye pollock. After the 1976/77 regime shift, sharp reduction in the

herring abundance occurred. In the last decade, herring biomass increased at 2.5 million mt in

1997 and 3.0 million mt in 2003-2004. Stock decrease is expected due to lack of strong year

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classes in the first half of 2000s. Among the short-cycled fish, first strong year-class of Japanese

sardine emerged in 1972. The zonal processes was also predominantly observed in the 1920–1930s,

when the previous increase in Japanese sardine abundance occurred. According to the forecast, the

next favorable epoch will begin after 2030.

Close correlations were stated between the Russian pink salmon catches and the heat budget

of the World ocean upper layer (Sidney Levitus et al., 2005). The last point in the heat budget data

series (for year 2007.5) was placed lower than three last values (for 2004.5-2006.5) that coincided

with the lowering of pink salmon catch deviation, below to 68,000 mt. Pacific Decadal Oscillation

(PDO) is another global index usually related to the Pacific salmon abundance dynamics. In 2008,

the early stage was observed of the “cool” phase of the Pacific basin-wide PDO, which prevailed

from 1947 to 1976 and associated with the low level of Pacific salmon abundance. Pink salmon

catch trends also correlated with the Solar activity index. Spectral analysis, applied to the pink

salmon catch increments series, shows a well-expressed two-year cycle and the existence of 22-years

cycle. New 24th Solar cycle has begun in 2008. Beginnings of the 20th and 22nd cycles have

coincided with positive trends in pink salmon dynamics for both even- and odd-years populations.

Several climate indices demonstrate the “transitional status” in the present time and suppose

the new climate regime shift in the North Pacific. However, there must be significant differences in

the initial conditions. The global temperature anomaly is twice higher now than the previous

“cold” meridional type epoch. The World Ocean has absorbed 14.5 * 1022 J of heat for 44 years

since 1955, and 9.2 * 1022 J for ten years from 1993 to 2003. The warming has been likely

reflected in the recent Sea Surface Temperature (SST) increase in the Sea of Okhotsk, recent

occurring of the strong walleye pollock year classes, and short period of the Okhotsk herring

abundance growth in 1990s.

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