2-3.有明海における貧酸素水塊発生機構の解明 - maff.go.jp...p1 b3...
TRANSCRIPT
- 79 -
2-3.有明海における貧酸素水塊発生機構の解明
(独)水産総合研究センター西海区水産研究所
木元克則・徳永貴久・有瀧真人
福岡県水産海洋技術センター有明海研究所
白石日出人・福永 剛
佐賀県有明水産振興センター
松原 賢・首藤俊雄・横尾一成
長崎県総合水産試験場
北原 茂・狩野奈々・平野慶二
熊本県水産研究センター
高日新也・櫻田清成・梅本敬人
1.全体計画
(1)目的
春季~夏季のシャトネラ等の有害赤潮発生と貧酸素水塊発生、ノリ漁期の大型珪藻赤潮発生
と水質の関連について明らかにするため、水質及び気象・流動等の物理環境条件との関係を各
機関で共同・分担して解析する。
2.平成22年度計画及び結果
(1)目的
夏季の貧酸素水塊の発生機構を解明するため、貧酸素水塊の発生と水質及び気象・流動等の
物理環境条件との関係を解析する。
(2)試験等の方法
本課題は、環境省が実施する「有明海再生方策検討調査(二枚貝類の環境浄化機能解明調査)」
及び、九州農政局が実施する「貧酸素現象調査」等と連携して実施した。
有明海湾奥部の4点(観測点2、13、P6、P1)(図 2-3-1)において、表層と底層の水
温、塩分、底層のクロロフィル、溶存酸素、及び流向流速等を連続観測した(表 2-3-1)。ま
た、有明海奥部から諫早湾に至る南北8点の観測点において、週1回の頻度で水温、塩分、ク
ロロフィル、濁度、溶存酸素等を多項目水質計により鉛直観測するとともに、塩分、透明度、
栄養塩、溶存酸素、COD、クロロフィル a、フェオ色素、植物プランクトン細胞数等を調査し
た。
これらの観測データ及び試料分析結果等をもとに、夏季の貧酸素水塊の発生について、水質
及び気象・流動等の物理環境条件との関連を解析した。
なお、有明海奥部の夏季の貧酸素水塊の発生状況については、7月~9月末まで環境省の調
査と連携して有明海奥部の5地点の底層の水温、塩分、溶存酸素の 30 分間隔の連続観測デー
タを携帯電話通信網により送受信し、「有明海貧酸素水塊広域連続観測」(図 2-3-2)として、
ホームページ等により観測データをリアルタイムに公表した(図 2-3-3)。
- 80 -
図 2-3-1.調査定点
図 2-3-2.3省庁による「有明海貧酸素水塊広域連続観測」における
観測地点(平成 22年度)
:表層・底層連続観測点:定期鉛直観測点(-観測線):多層テレメトリ連続観測点(九州農政局)
2
P6
P1
B3
赤潮・貧酸素観測地点(水産庁)
13
SB
SC
SA
:表層・底層連続観測点:定期鉛直観測点(-観測線):多層テレメトリ連続観測点(九州農政局)
2
P6
P1
B3
赤潮・貧酸素観測地点(水産庁)
13
SB
SC
SA
P1
2
1
P6
S1
S6
B3
B4 B6
B5
14
有明海貧酸素水塊広域連続観測
13
22年度貧酸素水塊広域連続観測網
:底層連測観測(水産庁)
:底層連続観測(環境省)
:自動昇降連続観測(九州農政局)
:定期断面観測(水産庁)
浜川
六角川
沖神瀬西浜川沖
国営干拓沖
P1
2
1
P6
S1
S6
B3
B4 B6
B5
14
有明海貧酸素水塊広域連続観測
13
22年度貧酸素水塊広域連続観測網
:底層連測観測(水産庁)
:底層連続観測(環境省)
:自動昇降連続観測(九州農政局)
:定期断面観測(水産庁)
浜川
六角川
沖神瀬西浜川沖
国営干拓沖
- 81 -
表 2-3-1.貧酸素水塊漁業被害防止対策における機器と観測項目
注:表中に略称で示した観測機器の名称及び機種は以下のとおり。
DS:多項目水質計; Hydrolab 社 DataSonde DS4 型もしくは DS5型
MS:多項目水質計; Hydrolab 社 MiniSonde MS4 型もしくは MS5型
DOW:溶存酸素計; JFE アドバンテック社 ADOW-CMP 型
CLW:蛍光光度濁度計; JFE アドバンテック社 ACLW-CMP 型
CTW:水温塩分計; JFE アドバンテック社 ACTW-CAR 型
CT:水温塩分計; JFE アドバンテック社 ACT-HR 型
EM:電磁式流向流速計; JFE アドバンテック社 AEM-HR 型
ADCP:超音波式流向流速計;Nortek 社 Aquadopp profiler
図 2-3-3.有明海貧酸素水塊広域連続観測のホームページと公表資料
(上:トップページ、下:1週間分の連続観測データ閲覧ページ、右:公表資料)
度 分 度 分水温・DO
Chl・濁度
水温・塩分
流向流速
水深 水温 塩分溶存酸素
Chl 濁度流向流速
2六角川観測塔
33 8.15 130 13.25 1 0.5m 有 DS CLW ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ -
海底上0.2m
有MS+DOW
CLW EM ◎ ◎ ◎ ◎ ○ ○ ○
13国営干拓沖六角沖(323)
33 6.75 130 12.79 5 0.5m 有 DS CLW ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ -
海底上0.2m
有MS+DOW
CLW EM ◎ ◎ ◎ ◎ ○ ○ ○
P6 沖神瀬西 33 3.75 130 13.30 10 1m 有CT+
DOWCLW-CAR
CTW-CAR
○ ◎ ◎ ○ ◎ ◎ ○
海底上0.2m
有MS+DOW
CLWADCP+EM
◎ ◎ ◎ ◎ ○ ○ ○
P1 大浦沖 33 0.00 130 14.50 20 1m - CLW CT ○ ○ ○ - ○ ○ -
海底上0.2m
-MS+DOW
CLW ○ ○ ○ ○ ○ ○ -
◎○ 10分間隔で測定
10分間隔で測定・30分間隔値を送信
観測層 テレメトリー
機器名 水深(m)
連続観測項目観測点番号
東経観測点名称
北緯
- 82 -
(3)結果及び考察
① 気象の変動
佐賀市の気象観測データ(気象庁データ)を図 2-3-4 及び図 2-3-5 に示す。
2010 年夏季は太平洋高気圧の日本付近への張り出しが強く、気温は平年より高く推移した。
九州北部は平年より7日遅い6月 12 日頃に梅雨入りし、平年並の7月 18 日頃に梅雨明けし、
梅雨の期間は短かったが、平年比 111%の降水量であった。6月 25~30 日には 500m3/秒を
超える出水が、また7月 12~16 日には大雨に伴って最大 2756m3/秒の出水があった。6月下
旬から7月上旬の日照は平年を下回った。8月から9月下旬まで、晴天が続き、気温は平年よ
り高く推移した。また、台風の発生が少なかったが、8月 11 日に台風 4 号が九州の西を北上
し、強い南寄りの風が連吹した。また、9月1日には台風7号が九州の西を北上した。
図 2-3-4.佐賀市における気象の変動(気象庁データ)及び
筑後大堰流量(筑後大堰管理事務所データ)の変動
2010年
0
20
40
60
80
100
120
140
160
180
200
6/
1
6/
6
6/
11
6/
16
6/
21
6/
26
7/
1
7/
6
7/
11
7/
16
7/
21
7/
26
7/
31
8/
5
8/
10
8/
15
8/
20
8/
25
8/
30
9/
4
9/
9
9/
14
9/
19
9/
24
9/
29
日降
水量
(mm
)
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
筑後
大堰
直下
流量
(m
3/
秒)
日降水量(mm)
筑後大堰流量(m3)
2010年
0
5
10
15
20
25
30
35
6/
1
6/
6
6/
11
6/
16
6/
21
6/
26
7/
1
7/
6
7/
11
7/
16
7/
21
7/
26
7/
31
8/
5
8/
10
8/
15
8/
20
8/
25
8/
30
9/
4
9/
9
9/
14
9/
19
9/
24
9/
29
全天
日射
量量
(M
J/
㎡)
全天日射量(MJ/㎡)
2010年
0
5
10
15
20
25
30
35
6/
1
6/
6
6/
11
6/
16
6/
21
6/
26
7/
1
7/
6
7/
11
7/
16
7/
21
7/
26
7/
31
8/
5
8/
10
8/
15
8/
20
8/
25
8/
30
9/
4
9/
9
9/
14
9/
19
9/
24
9/
29
平均
気温
(℃)
0
2
4
6
8
10
12
平均
風速
(m
/se
c)
平均気温(℃) 気温(平年値) 平均風速
- 83 -
図 2-3-5.佐賀市における風向風速の変動(気象庁データ)
②有明海奥部における溶存酸素の変動
有明海奥部干潟縁辺域の4地点の底層の観測データを図 2-3-6 に示す。
2010 年は6月末から7月上旬の降雨により有明海湾奥部には強い密度成層が形成された。躍
層下の底層では溶存酸素が低下して貧酸素化した。その後、湾奥部では小潮~中潮期にかけて
溶存酸素が低下する貧酸素化を繰り返した。7月 19 日頃から湾奥西部(観測点1、2、14、
13)では溶存酸素飽和度 10%以下の著しい貧酸素となり、潮汐による変動を繰り返しながらも
7月 28 日まで貧酸素が継続した。しかし、7 月 28 日から溶存酸素が急速に上昇し、湾奥全域
で貧酸素が解消した。これは 28 日から連吹した南寄りの強い風により、成層が弱められ鉛直
混合が起こったものと推察される。
その後、8月上旬、8月中旬、9月上旬の小潮期には湾奥西部で溶存酸素飽和度が 10%を下
回る著しい貧酸素状態を繰り返した。特に、干潟縁辺域の観測点 14(浜川沖)及び観測点 13
(国営干拓沖)では8月上旬には溶存酸素飽和度が 10%を下回って、無酸素に近い著しい貧酸
素が3日間ほど継続した。
0 0 2
2
2
2
4
4
4
4
6
6
6
6
8
8
8
8
10
10
10
10
N N
S S
風速
(m
/s)
<2010/07/01 01:00~2010/08/01 00:00>
7/01 7/03 7/05 7/07 7/09 7/11 7/13 7/15 7/17 7/19 7/21 7/23 7/25 7/27 7/29 7/31
0 0 2
2
2
2
4
4
4
4
6
6
6
6
8
8
8
8
10
10
10
10
N N
S S
風速
(m
/s)
<2010/06/01 01:00~2010/07/01 00:00>
6/01 6/03 6/05 6/07 6/09 6/11 6/13 6/15 6/17 6/19 6/21 6/23 6/25 6/27 6/29
0 0 2
2
2
2
4
4
4
4
6
6
6
6
8
8
8
8
10
10
10
10
N N
S S
風速
(m
/s)
<2010/08/01 01:00~2010/09/01 00:00>
8/01 8/03 8/05 8/07 8/09 8/11 8/13 8/15 8/17 8/19 8/21 8/23 8/25 8/27 8/29 8/31
0 0
2
2
2
2
4
4
4
4
6
6
6
6
8
8
8
8
N N
S S
風速
(m
/s)
<2010/09/01 01:00~2010/10/01 00:00>
9/01 9/03 9/05 9/07 9/09 9/11 9/13 9/15 9/17 9/19 9/21 9/23 9/25 9/27 9/29
- 84 -
図 2-3-6.有明海奥部の4観測点の底層における水質の変動(2010 年)
(観測点1と 14は環境省請負業務「有明海生態系回復方策検討調査(二枚貝類の
環境浄化機能解明調査)」による)
観測点1(浜川観測塔)
0
5
10
15
20
25
30
35
6/20
6/25
6/30
7/5
7/10
7/15
7/20
7/25
7/30
8/4
8/9
8/14
8/19
8/24
8/29
9/3
9/8
9/13
9/18
9/23
9/28
水温
(℃
)・塩
分・潮
位(m
)
0
20
40
60
80
100
120
140
溶存
酸素
飽和
度(%
)
水温(℃) 塩分 潮位(m) DO(%)
観測点2(六角川観測塔)
0
5
10
15
20
25
30
35
6/20
6/25
6/30
7/5
7/10
7/15
7/20
7/25
7/30
8/4
8/9
8/14
8/19
8/24
8/29
9/3
9/8
9/13
9/18
9/23
9/28
水温
(℃
)・塩
分・潮
位(m
)
0
20
40
60
80
100
120
140
溶存
酸素
飽和
度(%
)
水温(℃) 塩分 潮位(m) DO(%)
観測点14(浜川沖)
0
5
10
15
20
25
30
35
6/20
6/25
6/30
7/5
7/10
7/15
7/20
7/25
7/30
8/4
8/9
8/14
8/19
8/24
8/29
9/3
9/8
9/13
9/18
9/23
9/28
水温
(℃
)・塩
分・潮
位(m
)
0
20
40
60
80
100
120
140
溶存
酸素
飽和
度(%
)
水温(℃) 塩分 潮位(m) DO(%)
観測点13(国営干拓沖)
0
5
10
15
20
25
30
35
6/20
6/25
6/30
7/5
7/10
7/15
7/20
7/25
7/30
8/4
8/9
8/14
8/19
8/24
8/29
9/3
9/8
9/13
9/18
9/23
9/28
水温
(℃
)・塩
分・潮
位(m
)
0
20
40
60
80
100
120
140
溶存
酸素
飽和
度(%
)
水温(℃) 塩分 潮位(m) DO(%)