平成28年度 第3回インドワークショップ議事要旨...平成29年1月26日(木)...

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平成29126日(木) 平成28年度 3回インドワークショップ議事要旨 於 財務省 第1会議室(西456財務総合政策研究所国際交流課 ※議事録本文中の脚注は、講師の了承のもと、事務局(財務総合政策研究所 国際交流 課)が補足的に追加したものです

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Page 1: 平成28年度 第3回インドワークショップ議事要旨...平成29年1月26日(木) 平成28年度 第3回インドワークショップ議事要旨 於 財務省 第1会議室(西456)

平成29年1月26日(木)

平成28年度 第3回インドワークショップ議事要旨

於 財務省 第1会議室(西456)

財務総合政策研究所国際交流課

※議事録本文中の脚注は、講師の了承のもと、事務局(財務総合政策研究所 国際交流

課)が補足的に追加したものです

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(1) 発表:日本貿易振興機構(ジェトロ) 海外調査部 アジア大洋州課

リサーチ・マネージャー 西澤 知史

P.2

国の概況については割愛するが、邦人数について触れておく。現在同国内の邦人数は約

9,000人弱であり、毎年約400~500人程度増加している状況である。デリー近郊は約

5,000人、それ以外のチェンナイ、ムンバイ、バンガロールは約1,000人ずつという規模

である。

「デリーに何故これだけ邦人が多いか」という質問が多いが、それは首都であり、立地

として選定しやすいということが挙げられる。また、インドというと非常に厳しい過酷な

ことを想像される方が多いが、デリー近郊のグルガーオンという都市は邦人には住環境が

整っている。関東でいえば、横浜、千葉のようなベッドタウンであり、あえて言えば

ASEAN 並みの住環境である。日本食も数十店舗あり、より好みができるような状況であ

る。

教育に関して言えば、デリーとグルガーオンの間にある日本人学校が 近増改築をし、

600人程度収容できるような、幼稚園、小学校、中学校までが完備されている。

医療に関して言えば、インドというと不安に駆られる方が多いが、実は、日本以上の医

療サービスが安価に受けられるという一面もある。もちろんインド人にとっては高級な病

院であるが、今は現地で出産をされるお母さんたちもいらっしゃるぐらいである。近年デ

リーはこのような生活面が整っており、日本人の駐在者が家族連れで赴任するということ

が多い。

P.3

JBIC の調査報告(2016年度 海外直接投資アンケート結果)によると、中長期的な投

資有望先で、インドが3年連続で第1位になっている。数年前は中国、インドネシアとの

僅差であったが、今年は5%少しの差をもってインドが1位に選ばれている。数年先の投資

先という意味で非常に注目があるということであるが、今すぐ行動に移すかというと、時

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間にどうしても乖離がでたり、難しさがそこに出てしまうというのもまたインドの特徴か

もしれない。いずれにしても、インドが何で注目されているのかというと経済成長率の高

さ、それから、日印関係である。

また、個人的に今1番注目していることは新幹線の案件である。

新幹線がインドで走るようになるというメッセージは、日印関係を広く日本の社会で捉

える視点でも、非常に両国関係を近く印象づけるものではないかなと考えている。国交省、

JICA、日本の鉄道輸出をしている JARTS(Japan Railway Technical Service)1、JORSA

( Japan Overseas Railway System Association) 2が、既に現地での FS( feasibility

study)を行っており、どこに車両基地を、どこに駅を、どこにどういう盛り土をして、

どこにトンネルを掘って、アーメダバードやムンバイ、さらに中間の駅をどのあたりにし

てといったような絵が全てでき上がっていると聞く。私も先日、高速鉄道セミナーに出席

した際に私自身も聴講者としてその資料を拝見し、いよいよ、本当にインドで日本の新幹

線が走るんだなということを実感した次第である。 今後のスケジュールとしては、18

年の着工、それから23年の運行開始を予定している。

それから、もう1つ、インドという大国を前に、内需が注目されがちであるが、あえて

輸出をキーワードにするのがインドに対する向き合い方として重要ではないかと思う。こ

れは私だけが重要と言っているわけではなく、現地に進出している日系企業がインドを製

造拠点として捉えて、輸出をしたい、もしくは既にしているのだ。(後半にお話しをされ

る)日下部電機もその SEZ に入居しており、輸出基地としてのインドもこれからの注目

されるための重要なキーワードではないかと考える。

P.4

インドは小売業に対して非常に厳格な規制を敷いている。日本の無印良品は日系初の小

売業での進出と言っていいと思うが、このようなシングルブランドの小売業であれば基本

1 一般社団法人 海外鉄道技術協力協会

2 日本鉄道システム輸出組合

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的には100%まで進出してよい。但し、いわゆるスーパー、コンビニのようなマルチブラ

ンドについては非常に厳しい条件のもと、51%までしか投資はしてはいけないという条

件がついている。更に、現政権インド人民党(BJP)はマルチブランドの小売には断固反

対という姿勢を貫いており、制度上可能であるが、政治が許さないという、ねじれ状況に

あり、まだ一店舗も外資のスーパー、コンビニ等はない。パパママショップと呼ばれる小

売店、もしくは地場のスーパーがあるのみで、そのような点から、サプライチェーン、コ

ールドチェーンという観点からは非常に未整備、未成熟と言わざるを得ないような状況で

ある。小売業においてはこのような状況であるが、近年非常に注目をされているのが電子

商取引である。 大手の Flipkart、第2位は snapdeal。また外資系企業にもこの電子商取

引に関して門戸があいている。実店舗同様の規制がかけられるが、モール型と言われる自

身で在庫を持たないような形式であれば外資系企業もビジネスが可能だ。snapdeal には

ソフトバンクが2年ほど前に、大規模投資をして注目をされたところである。

この話をすると、インドで本当に商品が家まで届くのか、決済は大丈夫かと、よく質問

される。インドなので何があるかわからないが、当時は、段ボールをあけたら石が入って

いたとか、その日に届くはずが1カ月後だったとか、いろいろ聞いたが、今はその精度も

上がってきて、むしろインフラが脆弱な農村地域からの利用が6割、7割と言われるぐら

い浸透している。

更に、先日高額紙幣の無効化があった。これにより、実は電子決済が今急速にインドで

普及をしている。paytm 社はインドの電子決済 大手の会社である。この高額紙幣の話以

降、利用できる箇所、店舗が急速に増加し、いわゆる町の八百屋等でも利用できるように

なっている。利用者はプリペイドの携帯電話を持っていれば、店に掲示されたコードをカ

メラでをスキャンすることで決済ができる。店側はお釣りも不要、利用者は紙幣を持ち歩

く必要がないということで、両者にとって非常に手軽で、利用者は銀行口座とさえ連携す

る必要がなく、プリペイドの携帯電話をチャージするような感覚で、店先で入金ができ、

急速に普及している。

P.5

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インドの小売の事情に関して、その背景には当然消費の話があるが、それについては地

域特性というのが強くある。確実に言えるのは、北のデリー近郊、ハリヤナ、パンジャブ

州は派手好きな印象がある。一方では、例えば東部のコルカタより北側のミャンマーの北

部、北東州と言われるエリアは、例えば山岳地帯で消費マインドについてもそんなに熱い

ものはないという印象である。あとムンバイは流行の発進基地等あり、どういった地域に

どういった製品を投入すれば売れるのか、どういった広告を打つことが彼らの心に刺さる

のか等は、やはり地域ごとに、言葉も違うので、そのあたりを見きわめていく必要がある。

P.6

モディ首相の政権運営について直近で言えば、高額紙幣の無効化がかなり世界から注目

をされている。この政策に対して複数の調査会社が、どう評価するかと調査しているが、

どれも見ても、7割 -8割の人たちが、モディ首相を評価している。インドが進むべき方向

性をしっかり導いてくれるという評価が多い。経済界は GST の早期導入に注目している。

本年度4月導入予定が、どうも7月ではないかというような報道、ジャイトリー財務大臣

のコメントなどが出ている状況である。

P.7

インドの外交方針について、インドは世界から注目をされている国であることはご承知

の通りである。いくら政治事情、日印関係よくてもビジネスの世界では非常にドライなこ

とを求められる。良好な日印関係に過信することなく、インドにはある種ドライなビジネ

スマインドを持って強い気持ちで臨んでいかないといけないのではないかと考えている。

インドは近隣諸国で、南西アジアの雄としての立場を示そうとしている。スリランカは

政権交代があって、中国一辺倒からかなり今はインド側に寄り戻してきているところであ

る。一方で、パキスタンにおいては、歴史的には非常にセンシティブな関係でもある。そ

のような関係で、今は中国にどんどん染まってきている。一帯一路等のインフラプロジェ

クトが今パキスタンの中で動いていて、インドはそのような中国の海洋進出に非常に警戒

感を持って見ているという状況である。

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P.8

インド経済について、先日通年の経済成長率が発表され、事前推定値として7.1%と発

表された。かろうじて7%は今のところ維持しているが、前年度よりも経済成長が鈍化し

ている。この7.1%という数値が高額紙幣の無効化の話かと言われるようであるが、イン

ドの統計局はそこに対して明確に否定をしており、これはむしろ高額紙幣によるボラティ

リティを含んでいない推計値であるというふうに言っている。あくまでも製造業や鉱業が

減速してしまったことが通年での成長率を押し下げたと発表している。

P.9

自動車産業は日系企業のプレゼンスが も大きい業種であり、進出日系企業の中では、

半数程度は何らかの形で自動車に関与されていると言っても過言ではない。同国の自動車

の売れ行きが日本企業の業績に大きく反映してくるという状況である。本年4月から10月

までが非常に好調だったが、11月の高額紙幣の無効化措置発表以後は急減速、直近の12

月の乗用車の販売だけを見ると1.4%減となっている。二輪車の12月単月の販売を見ると、

こちらも22.0%減となっている。但し、楽観的な見方もあり、一気に回復するのではない

かという見方もある。インドの自動車市場は今300万台、それから二輪車については

1,200万台で、乗用車はまだ世界でも4位或いは5位か、それぐらいの順位である。二輪車

については、1,200万台というのは世界 大の二輪車の市場であり、地場ヒーローや、ホ

ンダ、ヤマハ、スズキ等が日々しのぎを削っているというような状況である。特に乗用車

については安全、それから環境について厳しいものが求められる時代が来る。例えば、エ

アバックや排ガス問題等、インド企業には技術、ノウハウがない場合、日本企業のビジネ

スチャンスの可能性がある。

P.10

外資規制について、割愛。(スライド参照)

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P.11

在インド日本大使館が発表をした、2016年10月時点の日本企業の進出状況は、1,305社、

4,590拠点である。インド進出の日本企業は大企業が85%を占めており、中小企業の進出

があまり進んでいないという現状もある。ほかの国であれば、大企業がおおむね出そろう

と、そこに部品を供給する中小企業が進出するが、インドでは市場獲得の難しさ、投資環

境の厳しさなどから進出が伸び悩みんでいる。進出企業の業界について、例えば食品業界

は中国、タイ、シンガポールと比較しても圧倒的にインドでは少ない。これは、インドと

いう国が非常に巨大な市場でありながらも、食に対して非常に保守的な姿勢を今現在にお

いても崩していないということが言える。日系企業で実際に現地に工場を持って食品を作

っている企業はヤクルト、日清食品、東洋水産・味の素、カゴメ等であり、そこまで多く

はない。

P.12

ジェトロが毎年、アジア・オセアニアの日系企業、現地の日系企業に対してアンケート

調査を行っており、日系企業の黒字化比率の比較をしたものがある。インドについてはか

なり下位の層であり、53.6%と約半分の企業が黒字化を達成できているという状況である。

但し、設立後10年以上経過した企業の黒字化比率という調査では、6-8割が黒字化を達成

しているというデータもある。

P.13

輸出という観点で言えば、例えば、ラオス(人口約670万人)は平均の輸出比率が

68.8%で、内国の市場は別に見ていない。一方、インドは、平均輸出比率が14.5%で輸出

している企業は調査対象国で も低い。

P.14

何故インドからの輸出が強調されるのかということであるが、一つはインセンティブで

ある。日下部電機が入居されている SEZ というのも一つのインドのインセンティブであ

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るし、もう一つ、SEZ に入居していなくても幾つかインセンティブが用意されている。

それは EPCG と言われる、輸出促進資本財スキームが挙げられる。例えば、工場をイン

ドで作った場合に、必要な設備は輸入される。そのときに、相当な関税がかかるが、その

6倍を6年以内に輸出をすれば、その資本財に係る関税を免除するというスキームである。

これは、その設備を輸出だけにしか使ってはいけないという制限はないため、例えば 5

年間で完全に内需向けに使い、あとの1年で輸出品を作って、6倍を達成すれば、それは

それで問題ないという非常にリーズナブルな制度であり、日本企業でも使っている企業が

かなりいると聞く。

もう一つは、アフリカ市場攻略というキーワードである。インドからの今後輸出をす

る先としてどこを注目しているかと尋ねると、アフリカは16.6%という数値がでている。

元々ジェトロの調査では、このアフリカという選択肢を設けていなかったが、入れてみた

ところ、実は日本を上回る率でインドにいる日系企業はアフリカという市場を注目してい

るということが浮き彫りになった。同じ質問は、いろいろな国でやっているが、アフリカ

と出ているのはインドだけで特徴的である。

何故アフリカかというのは、もちろん地理的な近さという話もあるが、東アフリカのビ

ジネスはほぼインド人の社会だ。代理店のオーナーがケニア生まれのインド人であった

り、、インド企業が進出していたりする。部材がもし足りない場合には、親戚がいるイン

ドに頼って、物づくりをさせてケニアに引っ張ってくる等、インドとケニアのつながりは

非常に強いようだ。そうしたパイプに日本企業も頼っており、既に事業として取り組んで

いる企業もある。例えば日立建機、明電舎等の企業は既にアフリカにインドから輸出をさ

れている。自動車業界ではインドを拠点としたアフリカ展開は常識となっており、自動車

以外でもアフリカを見ている企業がインドから増えている。

P.15

(輸出比率50%未満(内販型)の企業と比較すると)輸出比率50%以上という企業の

黒字化率を見ると、インドは10%以上黒字化率が高く、63%という比率を達成している。

もちろん年数がたってインド市場にある程度めどがついたから輸出という流れもあるかも

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しれないので、一概には言えないが、あえて輸出に取り組むことで利益を上げていこうと

いう考えをされる企業が増えてきている。

P.16

近年の日系企業による対印投資の方向性については、自動車業界だけではなく、産業用

機械、化学品など、それ以外の業界にも非常に広がりが出ている。メイク・イン・インデ

ィアというスローガンの通り、インドにおいて商売で勝つためにはインドで作らなければ

何も始まらないということを、常識のように口にされる。ここにある通り、進出企業の半

数以上が製造業の企業であり、そのうちの400社はもうインドに工場をお持ちであるとい

う現状である。

近年の進出企業数の増加の伸び悩みは中小企業のインド進出の比率の低さがひとつの原

因だと考える。例えば隣のバングラデシュにおいては、8割以上が中小企業である。もち

ろん市場の求めるもの、進出企業の求めるものが異なるので、単純比較はできないが、イ

ンドの難しさを一つ反映する数字である。

P.17

このようなインドの厳しい投資環境を少しでも和らげて、物づくりをしてもらえるよう

な土壌づくりというのをしようということで生まれたコンセプトが、「日本工業団地」で

あり、国内に12カ所選定されている。

我々ジェトロが関与をしているのが、4つの工業団地(ニムラナ工業団地、ギロット工

業団地、マンダル工業団地、スパ工業団地)である。具体的には州政府とジェトロが

MOU を結び、州政府が整備する工業団地に対してジェトロが日本企業をご紹介するとい

う活動を行っている。

P.18

代表例として、ニムラナ日本企業専用工業団地がある。2007年から運営をしており既

に約50社の企業が入居している状況である。インドというと、電力が非常に心配される

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が、ニムラナ工業団地は瞬間停電があるかないかであり、電力の質を議論できるようなレ

ベルまで来ている。また、同団地の空き地に、ソーラーパネルが設置されており、再生可

能エネルギーーの発電が行われるようになった。更に、日本人の住環境という意味で、ニ

ムラナに日本の居酒屋、パン屋、日本食料理店も10店舗程度出店している。当時はグル

ガーオンから何時間もかけて通わないと住めるような場所ではなかったが、今やニムラナ

に住んでいる方の方が多いという住環境になっている。

P.20

モディ首相のふるさとであるグジャラート州はスズキ自動車が、間もなく第3工場を稼

働されるところである。更に、ホンダの二輪の第4工場も既に操業を開始している。

そのような工業団地から約30分程度離れたマンダル工業団地をジェトロは州政府とと

もに整備をしている。既に三菱アルミ、ROK ミンダ、TS テック等の企業が操業している。

また、豊田通商が、日系企業としてはインド初のレンタル工場を整備しており、既に販売

も開始しており、好評である。このようなレンタル工場がこれまでインドに不足していた

ということも、実は中小企業が物づくりをすぐに始められないと言われる要因とも言われ

ていた。

P.22

インド投資のメリットとリスク(割愛)。

P.23

税務面(割愛)。

P.24

GST(Goods and Services Tax)の導入について言えば、導入時期・期限が注目されて

いるが、 も遅くとも今年の9月と言われている。その背景は、昨年の9月に憲法改正が

行われた際に、今の現行の税制は1年のみ存続をするとしている。すなわち、もし9月に

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GST が導入できないと間接税体系がインドから消えるということである。現状としては7

月導入が現実的なところと言われている。

GST に関してジェトロとしても国内で GST セミナーをやっており、毎度満員御礼であ

る。日本企業の GST に対する情報収集のニーズの高さを強く感じているところである。

ただ、GST が導入されるからと言ってバラ色ではない。コンプライアンスも増し、手続

きに慣れるまでには時間がかかるかもしれない。但し、透明度は増すと言える。今後の行

方にしていきたい。

P.25

インフラについて、南部の Sri City、その他の地域でも電力の状況は改善してきている

状況である。

P.26

労務について、企業の一つ悩みの種として近年認識されている。

P.27

行政手続について、インドはいろいろハードルが高くあるので、日本的な考えをインド

に持っていってもストレスばかりたまってしまう。ヒンディー語の「Jugaad」という言

葉にもあるが、インドに行けば、郷に入れば郷に従えで、ある程度日本企業も、そのよう

な考えの柔軟性を学んで事業を運営していくことというのがインドでは必要なのかもしれ

ない。

(2)質疑応答

【質問】

インドは面積的に非常に大きな国であるが、日系企業の進出場所選定の基準の傾向はど

のようなものか。

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【回答】

一番わかりやすい例で言えば、自動車もしくは二輪車の完成車メーカーがどこにいる

かであり、それに引っ張られて進出をしていくというのが大きな潮流であると言える。ス

ズキ、ホンダ、ヤマハ、このあたりが北部に集中しているので、この北部、すなわちデリ

ー、ハリヤナ、ラージャスターン、ウッタル・プラデシュに進出を決める企業が比較的多

い。あとはチェンナイである。チェンナイは日産があり、日産関連企業が進出している。

チェンナイにはコベルコとかコマツとか、そういった企業があるので、そういったところ

に引っ張られて出ている。

また生活のしやすさという点で首都、北のエリアが多い。また中央政府との折衝が多い

場合などは北の方が魅力的であるかもしれない。また、例えば輸出を前提に考えていくの

であれば、ASEAN と地理的に近く、港も完備されたチェンナイは非常に魅力的である。

自動車産業の集積もあり、労働力も豊富ということで、チェンナイを選ばれる企業が多い。

ムンバイについては中央銀行の本店はムンバイなので、例えば金融業界の方はムンバイを

選ばれる等そのような傾向がある。

【質問】

モディ首相の政権運営に関して質問がある。この10年、15年を振り返ると、インドは

別の国のように変わったという印象があり、モディ首相のこの数年の業績かと思う。その

実現、変化はモディ首相のリーダーシップに帰すことができるのか。同国は議会のねじれ

問題や非常に強固な官僚機構というのがあるが、この物事を変えるのは難しいと思われる

状況で、これだけのことができた理由は何か。

【回答】

モディ首相はグジャラートの自身の成功体験に対する自信が非常に強く、かつそれを国

民が評価したからこそ、今首相という地位についている。特徴として言えるのが「スロー

ガン」だ。「メイク・イン・インディア、スキルインディア、デジタルインディア」など

非常にわかりやすいメッセージを内外に示す。インドが変わろうとしてるという印象を世

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界に打ち出したのはモディ首相の間違いない功績であると思う。

官僚機構について、非常に稚拙な例で言えば、公務員は、勤怠管理もずさんであり何時

に来ているかもわからないような状況であった。これに、いわゆるタイムカードなるもの

を導入する、各省の次官を集めたミーティングを定期的に行うなど、官僚機構に対しても

独自のアプローチでメスを入れている。国民にこうした取り組みを宣伝することで、好印

象を保っている。

【質問】

モディ政権になってからビジネス環境がどう変わったのか。実際に民間企業の方と接され

る中で感じられたことを教えて頂きたい。

【回答】

掛け声だけで政策が具体化していないという声はある。質問の回答としては、例えば

保険の出資比率が引き上がった。実際、日本生命等の日系保険会社は引き上げている。ま

た、これまでの掛け声倒れという汚名を返上するものとしては、GST が挙げられると思

う。この GST 導入はモディ首相の評価として非常に高いものと思われる。

【質問】

アフリカとの関係ということで言うと、タックスヘイブンのモーリシャスを通じた印僑

送金というのが非常に大きいと思われる。また、モーリシャスに住んでいる印僑が東アフ

リカでのビジネスの大きな橋渡しをしているというふうなことがよく言われるが、そのあ

たりの関係はどのように考えるか。

高額紙幣の廃止問題について当初3分の1程度は回収できないのではないかと言われた

が、当局の話で97%、98%は回収できたということになっている。そうであれば、当初の

目的に対して逸脱しているということになる。これに対して反発もあるという報道もある

が、お考えは如何。

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【回答】

モーリシャスに関して、租税協定はもう間もなくなるので、恐らくタックスヘイブンと

してのモーリシャスの利用というのは近々できなくなると思われる。従って、モーリシャ

スを介したアフリカビジネスのうまみがもしかするとなくなるのかもしれないし、何かネ

ガティブな影響をもたらすのかもしれない。

また、高額紙幣に関して情報だけ言えば、3月に控えている5州での選挙対策が隠れた

目的にあったといわれる。電子決済の急速な普及も本件の隠れた副産物と言えるだろう。

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(3) 発表:産業機械関連メーカー

取締役部長 日下部 光正

【講演者紹介】

大阪大学大学院修了後、人材関連企業での勤務後、産業機械関連メーカーに入社。本

社にて2カ月月勤務後、インド現地法人へ出向し同社のインド事業の立ち上げに尽力。イ

ンドに6年滞在し、その後帰国。現在は取締役部長として従事。現在、インドには、月1

度のペースで訪問している。

【インド進出背景】

当時、極端な円高で海外マーケットにおける価格競争力が低下していたこと、今後新

興国マーケットを開拓する必要があったことなどから、海外での製造を検討していた。

その中でインドを選んだ 大の理由は、実は、以前より合弁会社を既に設立していた

ことである。したがって、何のネットワークや知見もない中国やタイに進出するよりも、

合弁会社が既にあるインドから始めようということになった。また、インドには高炉があ

るため、鉄鋼材料が現地で入手し易いというメリットもあった。さらに、インドの製造業

における裾野の広さも挙げられる。これは、(品質の観点は除いたとして)インドの東南

アジアとは大きく異なる点である。これに加えて、英語が通じるのも利点である。タイも

進出先として非常に魅力的であるが、インドに比べ英語が通じない。これは中国も同じで

ある。以上より、インドは将来的にはポテンシャルのあるマーケットなのでいいだろうと

判断し、現地法人を設立するに至った。

【インド法人について】

インド現地法人は、南インドのある工業団地の SEZ(経済特区)に入居している。従

業員は約45名で、日本人は在籍していない。当方が2016年まで駐在していたが、その後

はインド人だけで運営している。

現地法人は2009年に会社設立し、その後2012年より工場建設を開始した。2014年より

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生産を開始している。同社は、部品加工と組み立て工程の一部を担っており、現在はまだ

完成品の製造は行っていない。具体的には、日本より原材料を調達し(一部は現地調達)、

それを加工・組み立て、日本へ半製品の輸出を行っている。日本で 終的に組み立て、そ

こから全世界に輸出している。

「序章」

【合弁会社でのトライアル】

当社には、工場を建設するにも立地の選定やそれに付随するノウハウが全くないため、

まず既存の合弁会社を活用することより始めた。合弁会社は当社と同じ事業をインドで展

開していたが、日本人の駐在員は置いていなかった。同合弁会社は、デリー近郊に本社お

よび工場を構えており、その工場を活用してトライアルを進めていくこととした。

赴任当時は、必要な機械設備と経験のある人材が揃っていたが、品質管理については

日本と比較するとまだまだ改善すべき点が多い状況であった。この当時の 大の課題は、

「彼ら従業員をどうやって従わせるか?」ということであった。当方は、製造業に従事す

るのは初めてであり、管理職になったこともなく、英語もうまく話せなかった。技術知

識・経験がない中で、リーダーシップを発揮できそうなものを探した。

その中で気付いたものの1つとして、5S がある。これは、「整理・整頓・清掃・清

潔・躾」の頭文字をとった表現であり、日本人にとっては常識的なことである。しかしな

がら、これに対するインド人の認識とは大きな乖離があり、どうやらこれが武器になると

考えた。当方はそれを言動で以って彼らに見せつけることで、「この人は何か違う」と思

わせると同時に、品質第一の文化を形成していくことに尽力した。

その結果、凡そ1年半後には、製品の種類日本とほぼ同品質の製品が作れるようにはな

った。ただし、これだけではやはり成果は限定的と言わざるを得ないものであった。つま

り、製造可能な部品は簡単なものに限定される。また、同合弁会社の工場の設備も質が高

いと言えるものではなかった。それに、そもそも従業員自身も当方自らが採用した人材で

はないため、教育も思うように進まない。これより、当方自身で工場を持ち、また社員も

一から採用することで、より良い経営が実現できるのではないかと考える至り、次のステ

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ップ(自社工場の建設)の検討に移ることとした。

「第一章」

【工場立ち上げ(工場用地探)】

ここより先の話に関しては、主に当方1人で全て取り仕切って行った。新工場の有力な

場所として、チェンナイ、バンガロール、プネー、アーメダバード、ハイデラバードなど

があるという情報を JETRO 様より得たので、その中から候補を絞ることとした。

まずデリー近郊については、その候補対象から外すことを 初から考えていた。その

理由として、まず港が遠いことがある。港(主にムンバイ)までの内陸輸送に3~4日、

悪の場合は1週間を要する。次に、寒暖差が激しいことがある。冬は5度、夏は45度と

約50度の温度差がある。これは製品の品質だけでなく、そこで暮らすインド人にも影響

する。また、周辺地域から飛来すると思われる、細かい砂埃がたつ。当社は、(事業上)

工場を完全に密封することができないため、朝掃除をしても昼か夕方にはかなり砂埃が溜

まる。また、一般的に北インドの人々の商売人気質に比べ、南部の人々の方がコツコツや

る職人気質であり、製造業に向いているという印象がある。その他として土地代や人件費

の高さなどが理由としてあげられる。

終的に現在の工業団地を選んだが、その理由には幾つかある。まず、港が近いこと。

次に、プライベートの工業団地である点である。やはり政府が運営する工業団地は相対的

にインフラなどの基本的な管理が行き届いておらず、対応はスピーディではない。後は、

輸出ビジネスを念頭においた SEZ であることが魅力的であった。その他として、比較検

討した他の工業団地よりも電気が比較的安定していることも魅力であった。また、当社が

日系企業として4社目の入居契約企業であったが、日系企業の進出が今後さらに期待され

ていた。1社だけ離れたところに進出しても助けが全くないため、今後盛り上がる見通し

の立つ場所の方が情報交換や緊急時の支援などを得られると考えた。

【工場立ち上げ(工場建設)】

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工場建設に向け、まずゼネコンの選定を行った。現在でも同じであると想像するが、

インドへ進出している日系企業のほとんどは、日系ゼネコンを起用しているはずである。

しかしながら、当社は予算の都合上、日系の半分以下のコストに抑えられる現地企業を発

注先として探していた。なお、工期は1年を予定していた。日本の場合、取り纏めを行う

ゼネコンがあり、そこからピラミッドになっている。しかしながら、インドの場合は単に

取り纏めのコンサルタントのような業者がおり、それに横並びするかたちで様々な専門業

者が存在する。発注元も発注先も対等であるという前提に立っているため、なかなかゼネ

コンのコントロールが効かない。これが後々相当苦労をした。

後で分かったことであるが、発注先企業の予算や工期の見積もりが非常に甘いもので

あった。これは、選定当初には気付けなかったことであり、これで問題ないという認識で

始めた。しかしながら、いざ始まると設計させても全く思う様なものが出てこなかったた

め、結局自分で CAD を独学で学び設計を行った。製図はインド人の建築士が行ったが、

間取りや建材などは細かく指定した。建材は可能な限り実物を見て選定・チェックを行っ

た。また、施工管理にも思うように進まないため、 低でも週に1度は現場へ行き、写真

を撮って進捗状況の確認や今後の予定についての指示などを行った。 終的には、内装仕

上げと雨漏り修理が終わらなかったため、そのゼネコン会社とは手を切り、我々自身でそ

れぞれローカルの業者を手配して完工にまで持っていった。結果的に工期は2年超、費用

も当初の2倍以上も要した。 初から日系ゼネコンに発注しておけばそれで済んだ話であ

り、相当な機会損失を被ったといえる。したがって、ローカルのゼネコンを起用すること

はよほど現地事情を熟知していない限りお勧めできない。

もう一つ苦労した点は、許認可関連である。認可取得項目は相当数あり、これはかな

りの労力が求められる極めて大変な作業である。全ての認可取得に1年以上要した。1つ

の認可に半年程要したものもある。例えば、申請して順調に進んでいたが、押印者が1ヵ

月程休暇に入り、戻ってきた時点では手続き方法が変更となっていたため、もう一度 初

からやり直しを命じられることなどは何度も経験した。

余談であるが、実は建設中に石像が地下2メートルから出土した。村人曰く、これは約

400年前の石像であるとのことであった。また、これはマドゥライヴィーラムという神様

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で、その左右に女官が描かれているとのことであった。当方は、「これは村人の先祖のも

のであるため、村で祀って下さい。」と依頼したが、「この近くには村が3つあるため、

我々が持って帰ると逆に揉め事が起こるため控えたい。」とのことであった。その結果、

出土した場所にお寺を建立することとなり、現地の風習に倣って本尊は下に埋め、レプリ

カを製作した。工場建設にはあれほど時間を要したにも関わらず、お寺はすぐに建立され、

南インド人の宗教的敬虔さを改めて理解できる出来事であった。当方もお寺の建立は彼ら

の仕事へのモチベーションを高める意味でも有意義であると理解していたため、積極的に

行った。費用は要したが、結果的にその価値は非常にあったと感じている。現在は、折々

に触れ、ここで様々なイベントを催して活用している。

【SEZ について】

SEZ に入居した場合のメリットとして、まず輸入関税が免税になることが挙げられる。

その他、国内の税金(付加価値税・物品税・サービス税)も免税となる。これに加え、法

人税は 初の5年は100%免税、次の5年は50%免税、その後はそれまでの実績(過去10年

間)によって、その次の5年も50%免税の可能性があるため、計15年間の免税メリットが

受けられるというものであった。これが同 SEZ へ入居するうえでの大きな魅力であった

が、 終的には梯子を外される結果となった。つまり、2014年に、Minimum Alternative

Tax( ‘MAT’, 低代替税)という税制が強制適用された3。これにより、SEZ において免税

制度を享受している企業であれ、約20%の税金が賦課されることとなった。これにより、

当初のビジネスプランが大きく狂った。なお、未だにこれは除かれておらず、また当時産

業界にも殆ど相談がなされずに発表されたために相当批判がなされ、裁判にもなったと記

憶している。

その他メリットとして、国内販売が可能な点である。その条件として、総輸出金額が

3 会計上の利益の18.5%が法人税額(控除などを含めた税法上の産出額)を上回る場合、 低

代替税( ‘MAT’)を支払う必要がある。なお、実効税率は、法人の種類や課税対象所得額に応

じて異なる。

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総輸入金額を上回っていれば問題ないという極めて縛りの緩いルールがある。つまり、外

貨を1ルピーでも稼いでいれば、いくらでも国内販売が可能と理解できる。その他外貨を

無期限で保有可能である点も大きなメリットである。SEZ 外の企業でも外貨を保有でき

るが、入金後1ヵ月が経過すれば自動的にその時の為替レートでルピーに振り替えられる。

しかしながら、SEZ への入居企業に対しては、円やドルを無期限で保有できる。これよ

り、日本から材料を調達し、(為替リスクを取ることなく)そのまま円で支払うことが長

期的なスパンで可能になる。

次にデメリットについてであるが、当然ながら国内に物品を販売する時に関税が課税

されるが、スクラップなどについても厳格に適用される。次に、インドの SEZ における

物品の出入りは非常に厳しく管理されており、常に公的書類の提出が求められるという煩

雑さが挙げられる。また、入居企業の業態を限定する制度が取られているため、1つの拠

点でビジネスを多角的に展開することが難しい。当社は製造業者として登録しているため、

例えばトレーディング事業は認められない。また、逆に、トレーディング業者による製造

業も認められない。

【インド現地法人の会社コンセプト】

会社の方向性に関して、当方は「インド人だけで日本と同じ品質の製品を低コストで

実現できる会社にしたい」という方向で考えた。インド現地法人の製品はインド国内では

なく、海外での販売を前提としているため、日本と同じ品質であることは大前提であるが、

日本人駐在員を置くと相当なコストがかかり低コストを実現するのが難しくなる。かとい

って、インド人のトップを置いてインド流経営でやると品質管理が難しくなる。そこで、

日本的経営の基盤を当方が 初に構築し、しかるべき時期にインド人に経営をバトンタッ

チする構想であった。会社を任せられる人物が見つかるかという不安はあったが、インド

に進出している欧米企業のインド法人のトップマネジメントは、殆どインド人が行ってお

り、一部の日系企業においても、インド人に経営を任せて成功を収めている事例もあった

ので、むしろインド法人のトップにはインド人の方が良いのではと思うようになった。

日本的経営実現のためになすべきことを考えるうえで、当方の合弁会社での経験が非

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常に役に立った。まず 初に頭を悩ませたことは、当時多数在籍していた派遣社員、なら

びに、指示通りにうまく動かない40代~50代のベテラン社員への対応であった。また、

インドには強力なヒエラルキー・階層社会が根強いため、強力なトップダウンで下に厳し

く上に服従という文化がある。したがって、意思決定は非常にスピーディであるものの、

指示を行っても伝言ゲームとなるため、一番下まで伝わった時には、こちらの意図とは全

く異なる内容で伝わっていることが多い。また、上層部も指示に対する確認をしないため、

指示した時点で実行済みという認識を持っているが、実際は何も起きていないということ

が頻発する。一方、部下の側としても、上司からの指示待ちの姿勢であるため、自分で考

えて主体的に動くということを行わない人が多い。仮に考えて行動したとしても、怒られ

る可能性があるため、敢えてアクションを起こさない。これは、現場作業員( ‘ワーカ

ー ’)にその傾向が特に顕著である。さらに、業務が非常に細分化されている点もインド

における特徴といえる。また、合弁会社のワーカーはヒンディー語しか話せず、直接的な

コミュニケーションが難しかった。

上記のような状況に対して、新工場ではまず若い正社員を採用し、彼らを教育・啓蒙

していくことを考えた。また、インド特有のヒエラルキーを排除し、公平で平等な会社の

運営を心掛けた。その他、社員とのコミュニケーションを英語で行うために、英語が話せ

る人材をその採用対象とした。また、1人で複数の異なる作業や工程を遂行する技能を身

につけた「多能工」的人材を育成すべく、指示待ちではなく自主的に動く環境作りに尽力

した。これは言葉で言うのは簡単であるが、非常に労も多く難しい作業であった。

組織編成について、まず一般的なインド企業は組織内階層が非常に細かく分かれてい

るが、当社ではこれを3つの階層に限定した。3つとは、つまり①社長、②マネージャー、

③ワーカーである。なお、社長は、当方である。したがって、例えば掃除をするだけの社

員は置くことなく全社員で掃除することにし、社内では平等かつ上下気兼ねなく意見が言

えるような組織作りに尽力した。

採用に関して、インドでは様々な方法がある。具体的には、①新聞公募、②インター

ネット公募、③データベース検索、④人材紹介会社・ヘッドハンティング、⑤縁故、⑥自

主応募などがある。①や②のような公募を行った場合は相当数の応募が来るため、当方は

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④番を採用方法の基本とした。⑤番は強力な手段ではあるが、あまり縁故で採用をすると、

社内の人間関係が複雑になりマネジメントしにくくなるので、縁故採用は一切止めた。

次に、採用コンセプトとして、主に①全員正社員、②35歳以下の若い人、③素人大歓

迎かつ人物重視、④全員英語が話せる人材、⑤女性の積極採用とした。下手にスキルを持

っていても、当社では通用しないスキルの場合が多く、またプライドが高くコントロール

することが困難である。当社のやり方に染めたかったため、素人大歓迎とした。また英語

に関しては、やはり現場のワーカーは話せない人が多く、採用には相当苦労をした。女性

を採用に関しては、(東南アジアと似ているが)女性の方が優秀という印象を持っていた。

女性の地位は相対的に低く、大卒を出た優秀な女性を非常に安い給料で雇うことが可能で

ある。ただし、当社の場合は工場で重いものを扱うため、工場現場での作業は難しい。そ

の代わりに、実務を担当する事務職は全員女性としている。採用活動の結果、当社には応

募書類が約1,500枚届き、300人程面接を行い、 終的に50人を雇用した。なお、そのう

ち数名は退職している。

【採用面接で見えてきたインド製造業の問題点】

現場のワーカーと話をすると、面白いことを色々と教えてくれる、まず彼らが直面し

ている大きな問題は、1~2年で首を切られてしまうことである。インドの企業も非常に

激しい競争に晒されており、人件費は可能な限り押さえたい。特に、長期雇用にはお金が

必要となる。多くの企業がワーカーを正規雇用せず、派遣社員として安価なコストで多く

の労働者を集める。短期間のトレーディングで戦力化できるように仕事を細分化し、1~

2年で新しい労働者と入れ替えていく。インドの人口構造は、三角形のピラミッド型とな

っており、いくらでも若い労働力があるという状況も背景にある。このような状況では、

ワーカーが個人のスキルを習熟させることは難しく、安価な労働力として使い捨てられて

いる。

参考情報ではあるが、インドで人気のある職業は、公務員である。例え民間企業に勤

めているとしても、公務員試験を受け続けるインド人は多い。公務員の給料は非常に安い

が、その一方で福利厚生は非常に充実しており、社会的に非常に尊敬が得られるため、憧

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れの職業となっている。また、首を切られないのも大きな理由の1つである。

【制度・仕組み構築】

当社独自の制度・仕組みを考え、実行した。まず、材料の切断から出荷までの工程を、

全ての作業者が対応できる多能工的仕組みを導入した。つまり、誰がどこをやっても対応

可能という体制構築を行った。その理由として、当社は受注生産が基本であるため、それ

ぞれの工程で繁忙期が多少異なる作業者の役割・ポジションを固定してしまうと、それだ

け人員が必要となると同時に、柔軟性に欠くため、全員が全ポジションを対応可能である

という状態を目指した。

次に、「Give and Give and Give then Take」という取り組みである。基本的に、イン

ドにおけるワーカーには共有でモノを使わせ、何も与えない。しかしながら、当方はその

逆で、きちっと仕事環境を与えれば、彼らもそれに応えてくれるだろうという信頼のもと、

必要なものは支給した。例えば、ワーカー全員にカシオの時計を持たせ、また携帯電話も

ワーカー全員に持たせている。工場で必要となる工具も必要なものは日本から輸入し、各

個人で頻繁に使う工具は全ワーカーへ支給した。あくまでも必要性に応じて支給している

だが、「xxx が無かったため、作業ができなかった」などと言い訳できる口実を排除し、

作業に集中せざるを得ない状況を作り出している。

次に、掃除は全て自分たちでやることを制度化している。インドはカースト制度が根

強く残っており、掃除をする階層の人々が存在する。日系企業の工場でも掃除だけ行う従

業員がいることがあるが、当社では、毎日 低10分間全員で朝掃除している。 初は抵

抗があったが、根気強く説明しまた意味づけをしたことで、今では全く問題なく行われて

いる。

また、ワーカーは自分の仕事は自分で決めるよう指示している。通常、マネージャー

やスーパーバイザーが業務配置を行うが、それを自分達自身で決める仕組みを取り入れて

いる。 後に も苦心している点は、規律についてである。これを身につけてさせるため

に様々な細かいルールを作っている。例えば、椅子には半分(後ろを)空けて。そして真

っすぐ座る。インド人は腕を組むのが好きであるが、これは世界的にはよくないサインで

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あることから、腕は絶対組まないということを徹底させている。

「第二章」

【生産立上げ】

初期投資をできるだけ抑えるために、主に中古の設備機械を日本より輸入した。なお、

当社が SEZ 敷地内にあるため関税がかからなかったが、通常中古機械を輸入することは

大変な苦労を伴う。購入価格が安くとも、税関担当者などが関税を計算する際、評価額を

(場合によれば不当に)非常に高く設定する。このため、中古は諦めて結構新品の機械を導

入する企業もあると聞く。 生産が立ち上がってから追加で購入した機械などは、インド

製などを導入した。これは他社でも同じで、 初は現地事情が分からないため日本製を導

入し、徐々に現地化していく流れである。

【インフラ関係】

当社が入居している工業団地では瞬間的な停電はあるが、1ヵ月で停電時間が数分、停

電回数が数回ぐらいまで良化しており、昔に比べればかなり安定しているといって良い。

ただし、瞬間的な停電があるため、UPS4 (バッテリー)を設置している。当社は設置し

ていないが、ほとんどの企業が発電機を設置している。 後に、当社が入居している工業

団地ではインターネットが非常に遅い。凡そ1Mbps を切っていることが多く、せいぜい2

~3Mbps 程の速度である。

【原材料】

鉄鋼材料は、簡単に入手可能であるが、品質はあまり良くない。インド系大手鉄鋼メ

ーカーの材料であればある程度の品質が期待できるが、模造品が多く出回っており、原材

料は厳選する必要がある。なお、鋳物はなかなか良い品質のものが入手できる。ヨーロッ

4 Uninterruptible Power Supplyの略で、無停電電源装置を指す。停電などによって電力が

経たれた場合に電力を供給し続ける電源装置。

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パに輸出しているインドの業者も幾つかある。

【外注加工業者】

当社だけでは賄えない作業や精度の必要のない部品などについては現地外注業者に出

している。これは当社に限らず、多くの日系企業が外注業者を起用して加工や溶接を行っ

ている。日本と異なりインドでは、加工品質と外注業者の規模がほぼ比例する。会社規模

が小さくて良い製品を作れる会社は殆どないと思われる。良いモノを作ることが可能であ

るのは、良い設備を有し、社員教育をきちんと行っている企業のみである。したがって、

日本のように品質の良い町工場というのは存在しない。量産品というのは、慣れてくれば

徐々に品質が向上するものであるが、当社のような多品種少量や一品物の場合は全く状況

が異なる。

品質管理以上に苦手なのが納期管理で、どのような規模の会社であっても遅延するの

が常である。そのため、常にこちら側でチェックする必要がある。金属加工の産業は裾野

が広いため、適当な業者を見つけることは可能である。しかしながら、やはり根気良く育

てていかなければ、すぐには使えないというような実状である。

【運営コスト】

インドに進出している日系企業の約半分は赤字という報告が JETRO よりあったが、イ

ンドが極端な低価格マーケットであることに加え、想像以上に運営費コストがかかること

が要因であると思う。ワーカーの人件費は安いが、給与は毎年 低でも10%は上昇する。

幹部の給与は、中国・タイ並みで、工場長以上にまでなれば恐らくそれ以上だと思われる。

また、当社工場は町から遠いため、通勤用バスを手配している。そのガソリン代は日

本のそれに比べて若干安い程度であり、物価を考慮するとかなりの費用負担である。また、

年金を拠出しなければならないため、企業から給料の12.5%、個人も12.5%出す必要があ

る。

電気料金も日本より恐らく高い。しかもこれは売電であるため、発電機を使用する場

合は約2倍かかる。したがって、停電対策用に、発電機や UPS を常設しておく必要があ

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り、その初期投資および維持費がかかる。その他、監査、移転価格の対策、許認可の更新

などには必ずコンサルタントが絡んでくるが、これらは非常に高額である。頭脳を使うイ

ンド人の給与は非常に高く、それなりのクオリティを求めるなら安いところでも100ドル/

時、高くなると400-500ドルぐらいは平気で請求される。

【税制】

SEZ 内において、製造業者は製造しか行えないため、製造以外の事業を行いたい場合

には SEZ 外の他の拠点を利用しなければならない。当社も SEZ 外に事務所を持っており、

そこを活用している。しかしながら、何か新しいことをする際には、様々なことを調査す

る必要があり、それには相当な費用を要する。税制が複雑で頻繁にルール変更されるため、

現時点で有効なルールを調べるのに時間がかかる。ベテランのコンサルタントに問い合わ

せても、第三者に確認することが必要である場合や、専門が異なるために回答できないな

ど、本当の答えに辿り着くまでに相当苦労する。

海外の企業より何らかのサービス提供を受けた場合、その支払いにサービス税が賦課

される。このサービス税は海外の企業から受けるサービスについても賦課されるが、海外

の企業との間でどちらがサービス税を負担するかで揉めることがある。源泉徴収税とは異

なり、相殺や還付ができず純粋なコストになるからである。

後に GST についてであるが、これは一応今年4月から施行されることになっている

ため、当社も登録手続きを進めている。しかしながら、この2~3月ぐらいの極めて短い

期間で登録完了をという政府からの通達は、インドではよくあることである。

【輸出入取引】

輸出入の通関には相当な時間を要する。日本だと1日~2日で済むことが、インドでは3

日~4日は平気でかかるうえに、ストライキやシステムダウンなどで更に遅れることも珍

しくない。

次に、インドにおける中央銀行に相当するものとしてインド準備銀行( ‘RBI’)がある

が、同行の権限は非常に強く、また非常に厳しい通貨管理体制を敷いている。その他の銀

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行は RBI のガイドライン等を尊守し、定期的に様々な報告を行っている。海外送金も全

て厳しくチェックされている。

また、インドでは、インドを物理的に経由しない物品の売買取引(所謂、三国間取

引)が認められていない。例えば、インドから日本へ発注を行い、インドを経由すること

なく直接ドバイへ販売するような取引は認められていない。インドから物品購入の支払い

の送金をする際は、インボイスや通関書類を銀行に提出する必要がある。

後に、移転価格税制は世界一厳しいと思われる。当方記憶では、移転価格で後に追

徴課税された金額は、インドが世界でナンバーワンだったと思う。したがって、移転価格

の監査に対して事前に入念な準備が必要であるが、そのための税務コンサルタントへ支払

うフィーは高額であり、多くの日系企業もこれに頭を悩ませている。その対策として、商

社を挟むことで親子間取引を回避するなどの方法が取られている。

【この3年の取り組み結果】

この3年間で、日本的経営の土台はある程度は築けたといえる。当方が今ここで何事も

なく平気な顔をしているというのがその証拠である。しかしながら、課題はまだまだ多い。

特に、規律(Discipline)は 大の課題である。インド人は、ルール・文書・仕組みなど

を作ることに非常に長けているが、それを誰も守らない。逆に、それらを順守できればイ

ンドの製造業の品質はかなり改善されると思う。当社インド現地法人の品質は非常に良く

なってきたが、その分生産性やコストの優先順位を下げていたため、まだまだ利益が出せ

る体制になっていない。それ以外には、現場作業者の意識向上が課題であり、ある一定以

上のレベルに引き上げるための工夫が求められる。

ある程度の基盤が築けたので、後任となるインド人の社長候補を採用した。社内人材

の昇格ではなく中途採用だったが、これは当初よりの計画である。もし 初から将来の社

長候補としてナンバーツーを採用していれば、何をするにも彼を通す必要があり、当方が

現場の細い部分まで関われない可能性があり、日本的経営の基盤を構築するにあたって障

害になると考えたからである。

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「第三章」

【今後の展開】

まず新インド人社長へ経営の移行を段階的に行っていく。現在は月1度の頻度でインド

へ赴いて引き継ぎを進めている。1~2年以内には完全に任せられる状態にし、当方は日

本の方に専念する予定である。現段階では、まだ機械の一部分の加工や組み立て業務に限

定されているが、将来的には完成品の製造を行い、インドのみならず中東・アフリカマー

ケットに拡販できればと考えている。

【インドに投資すべきか?】

これはよく受ける質問である。中国やタイなどに比べ、日系企業の進出数はまだまだ

少なく、製造工場を持っている中小企業となれば、尚更少ないというのが実情である。本

日お話ししたように、インドでのビジネスは容易でなく、安易な進出はお勧めできない。

しかしながら、今回講演するにあたり、一体インドの 大の魅力は何かということを

改めて考えた。その結果、インドの 大の資源は、「インド人自身である」という結論に

至った。インド人は日本人のように細かいことを丁寧に積み上げていくことや計画的に物

事を進めることはあまり得意ではないが、その反面、臨機応変で柔軟なやり方で、意思決

定が早い。また、日本人が考えつかないような飛躍的なアイデアを数多く思いつくなど、

日本人にはない特質を持っている。また、インド人はドライで欧米的な考え方をしている

と思われがちであるが、懐に入っていくとかなりウエットな性質がある。また、義理人情

も重んじる側面も強く、一見しているのと中に入るのとでは全く異なる。メンタリティで

は、欧米よりもアジアに近いと感じるし、そのような話をインド人達とすると、同意して

くれることが多い。さらに、インド人は印僑として世界中でビジネスを行っており、特に

日本人が苦手な中東・アフリカでも幅広くビジネスを行っており、製品をそれらマーケッ

トに販売するというだけでなく、現地の責任者として現地企業の運営や実務を行っている

ことも少なくない。インド人ネットワークにアクセスできれば、日本企業の将来の展開に

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有利に働くものと考えられる。

以上より、現在はマーケットの大きさという観点で見られがちであるが、インドの

大の資源はインド人自身であり、日本人はインド人と良い補完関係を築け、長期的に良い

パートナーとして発展し合えると考えている。インド人との関係性を築く上で効果的なの

ことはやはりインドに投資をすることである。中途半端な関わり方ではインド人も心を開

いてくれない。既に述べたように、インドへの投資は容易なものではないが、中長期の戦

略があり、忍耐力を持ってインド事業に望むことができれば、十分な成功が見込めると思

う。回りくどくなったが、「インドへ投資すべきであるか?」という問いには、インド人

と良い友好関係を築くことを前提に、長期的な視点で投資するのであれば、インドへの投

資は非常に有意義であるという答えになる。

(4)質疑応答

【質問】

滞在されたインドでの6年間で、インドが良い方向に変わってきたなと感じられた経験

や実感はあるか。

【回答】

まず、空港でちゃんと列をなして並ぶようになった。私の赴任当時は、荷物検査場で

は我先にと順番を守らず殺到していたが、 近では一直線に並び、しかも割り込んでくる

人には注意をする人も出てきた。自然とそうなってきているというのが、大きな変化であ

ると感じる。

また、「品質の良い品であれば、必要であればお金を出しても買う」というインド人

が少しずつ増えていると感じる。例えば、日本の工作機械は、台湾製・中国製・インド製

に比べて高価であるが、インドでの販売数は確実に伸びてきている。日本製の良さを理解

しているインド人オーナーは、「お金を投資して良い機械を買えば、その後にしっかりリ

ターンが来る」と考えている。換言すれば、長期的視点で以って投資する人が昔に比べ増

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えているといえる。

【質問】

技能の向上について、どのようにして素人の状態で採用した社員に対して、技能をど

のように身につけさせているのか。

【回答】

これは難しい課題であり、現在も苦労している。しかしながら、当方が実行したこと

は、①必要な技能の水準を下げテクノロジーでカバーすること、②作業の標準化の2点で

ある。日本の技能者と同じレベルにまでインド人社員を引き上げようとすれば、5年や10

年必要となるが、インドではそのような長期間同じ会社に留まってくれる保証はなにもな

い。

そこで、短期間で戦力化すべく、まずは技能の要求レベルを下げた。具体的には日本

では職人が経験により手作業で行っているような熟練の作業の習得を行わず、同様の結果

が実現できる 新の機械や工具などを導入した。つまり、習得に時間のかかる技能は無理

に覚えさせず、同じ結果を出せる別のやり方を考えるということである。また、日本では

職人の頭の中にあるノウハウを可能な限り文書化・可視化して標準化し、見て覚える・経

験して覚える割合を減らし、全員が必要なノウハウを 初から手にしているという状態を

できる限り作った。

【質問】

許認可を取得する際に、規制が細かく結局誰も正解を知らないという場合、 後はど

うしますか。アンダーザテーブルも一つの手段かとは思うが如何か。

【回答】

大手企業の場合であれば、州政府の上層部との交渉で許認可をかなり短時間で終わら

せることができるが、通常の企業はそのようなルートがないため、許認可によっては数ヶ

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月かかることも珍しくない。時間がある場合は、気長に待てばいつかは許認可が下りるが、

時間がない場合は現地の習慣に従ってそれなりの費用をかける必要がある場合がある。

【質問】

ワーカーに自分たちの仕事は自分たちで決めさせるうえで、どのような動機づけの仕

組みを作ったのか。

【回答】

当社の現在の組織階層は3階層しかないが、制度上それ以外に複数の役職を設けている。

通常、インドにおけるワーカーは、一生ワーカーのままであることが多いが、当社ではマ

ネージャーになれる道を段階的に用意しており、それが、一つの大きな動機づけとなって

いる。

自分で仕事を決めるようにすると、やりたい仕事が偏ってしまう可能性があるが、昇

進条件として、必ず全て満遍なく業務を経験することが必須になっているため、強制しな

くても、やりたくない仕事を自発的にやるようになる。