平成27年9月関東・東北豪雨における災害情報 の伝...

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平成 27 年 9 月関東・東北豪雨における災害情報 の伝達と避難行動:避難行動と情報入手の実態 DISASTER INFORMATION AND EVACUATION BEHAVIOR IN JOSO CITY UNDER KANTO-TOHOKU HEAVY RAINFALL DISASTER IN SEPTEMBER 2015: THE ACTUAL CONDITIONS OF EVACUATION BEHAVIOR AND INFORMATION ACQUISITION 関谷直也 Naoya SEKIYA 東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センター(〒113-0033 東京都文京区本郷 7‐3‐1) 1.問題意識 平成 27 年台風第 17 号と第 18 号の 2 つの台風の影響 により,9 月 9 日から 10 日にかけて鬼怒川上流域では記 録的な大雨が降り,鬼怒川下流部では 10 日 6:00 頃に越 水,12 時 50 分に三坂町で堤防が決壊した.被害が集中し た常総市では,死者 2 人,負傷者 44 人の人的被害が発 生し,全壊 53 軒,大規模半壊 1,581 軒,半壊 3,491 軒の 住宅被害が発生した.また,市の発表する避難勧告や指 示について,タイミングの遅れや範囲,避難先などについ て課題が指摘された.本研究では,東北・関東豪雨時の 常総市における避難行動と情報入手について概観する. 2.調査の概要 調査は特定非営利活動法人環境・防災研究所と東京 大学大学院情報学環総合防災情報研究センターが共同 で実施し,避難勧告・指示が発表された鬼怒川左岸住民 を対象に平成 28 年 4 月 1 日~30 日まで実施した.調査 方法は郵送配布・郵送回収とし,郵便番号から地区を抽 出し,鬼怒川左岸の地区の約半数の 6,512 票を配布し た.回収率は 32.9%(2,144/6,512)であった. 3.調査結果 (1)避難と浸水 当該地域で浸水しなかったという人は 27.7%であり,7 割以上が何らかの形で浸水被害を受けている(図-1).ま た,浸水の程度によって避難率は上がっている(図-2). 水害の避難時には,約 9 割が常総市の自宅におり,避 難率は 67.7%と高い( 表-1 ).避難先は常総市内が 45.3%,市外が 49.8%,避難形態指定避難場所が 40.9%, 家族・親戚の家が 48.8%であった.また,80.7%が自力避 難し,75.8%が自動車で,浸水があまりない状況で避難し ている(図-3). この被害では,ヘリコプターで 1,399 人,全体で 2,919 人が救助され,報道では,その逃げ遅れに対する指摘が 目立ったが,実際は多くの人が自力で避難していたので ある.避難途中の状況としても,「冠水して足元がわからな かった」(18.7%),「水深が深くて,移動が難しかった」 (14.9%)という人は少なく,「危険はなかった」という人が 51.6%であった(図-4). 避難した理由としては,全体として,特に大きな理由が あるわけではなく,「近くで浸水していたから」(21.4%), 「鬼怒川が決壊したから」(14.5%)という状況の認識, 「「避難勧告」「避難指示」が発表されていたから」(19.0%), 「避難を呼びかけられたから」(14.3%)という避難に関する 情報が理由としてあげられていた(図-5). 第 15 回都市水害に関するシンポジウム,2016 年 11 月 基調講演論文 -1-

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Page 1: 平成27年9月関東・東北豪雨における災害情報 の伝 …平成27年9月関東・東北豪雨における災害情報 の伝達と避難行動:避難行動と情報入手の実態

平成 27 年 9月関東・東北豪雨における災害情報

の伝達と避難行動:避難行動と情報入手の実態

DISASTER INFORMATION AND EVACUATION BEHAVIOR IN JOSO CITY

UNDER KANTO-TOHOKU HEAVY RAINFALL DISASTER IN SEPTEMBER 2015: THE ACTUAL CONDITIONS OF EVACUATION BEHAVIOR AND INFORMATION

ACQUISITION

関谷直也 Naoya SEKIYA

東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センター(〒113-0033 東京都文京区本郷 7‐3‐1)

1.問題意識

平成 27 年台風第 17 号と第 18 号の 2 つの台風の影響

により,9 月 9 日から 10 日にかけて鬼怒川上流域では記

録的な大雨が降り,鬼怒川下流部では 10 日 6:00 頃に越

水,12時50分に三坂町で堤防が決壊した.被害が集中し

た常総市では,死者 2 人,負傷者 44 人の人的被害が発

生し,全壊 53 軒,大規模半壊 1,581 軒,半壊 3,491 軒の

住宅被害が発生した.また,市の発表する避難勧告や指

示について,タイミングの遅れや範囲,避難先などについ

て課題が指摘された.本研究では,東北・関東豪雨時の

常総市における避難行動と情報入手について概観する.

2.調査の概要

調査は特定非営利活動法人環境・防災研究所と東京

大学大学院情報学環総合防災情報研究センターが共同

で実施し,避難勧告・指示が発表された鬼怒川左岸住民

を対象に平成 28 年 4 月 1 日~30 日まで実施した.調査

方法は郵送配布・郵送回収とし,郵便番号から地区を抽

出し,鬼怒川左岸の地区の約半数の 6,512 票を配布し

た.回収率は 32.9%(2,144/6,512)であった.

3.調査結果

(1)避難と浸水

当該地域で浸水しなかったという人は 27.7%であり,7

割以上が何らかの形で浸水被害を受けている(図-1).ま

た,浸水の程度によって避難率は上がっている(図-2).

水害の避難時には,約 9 割が常総市の自宅におり,避

難率は 67.7%と高い(表-1).避難先は常総市内が

45.3%,市外が 49.8%,避難形態指定避難場所が 40.9%,

家族・親戚の家が 48.8%であった.また,80.7%が自力避

難し,75.8%が自動車で,浸水があまりない状況で避難し

ている(図-3).

この被害では,ヘリコプターで 1,399 人,全体で 2,919

人が救助され,報道では,その逃げ遅れに対する指摘が

目立ったが,実際は多くの人が自力で避難していたので

ある.避難途中の状況としても,「冠水して足元がわからな

かった」(18.7%),「水深が深くて,移動が難しかった」

(14.9%)という人は少なく,「危険はなかった」という人が

51.6%であった(図-4).

避難した理由としては,全体として,特に大きな理由が

あるわけではなく,「近くで浸水していたから」(21.4%),

「鬼怒川が決壊したから」(14.5%)という状況の認識,

「「避難勧告」「避難指示」が発表されていたから」(19.0%),

「避難を呼びかけられたから」(14.3%)という避難に関する

情報が理由としてあげられていた(図-5).

第 15 回都市水害に関するシンポジウム,2016 年 11 月 基調講演論文

-1-

Page 2: 平成27年9月関東・東北豪雨における災害情報 の伝 …平成27年9月関東・東北豪雨における災害情報 の伝達と避難行動:避難行動と情報入手の実態

図-1 浸水被害の程度(N=2144)

図-2 浸水被害と避難行動(N=2144)

表-1 避難の形態(自宅にいたかどうか)

避難した(67.7%、1451人)

常総市内の自宅から避難した 81.7 % 1185 人

常総市内の外出先(職場・学校など)から自宅に戻り、その後避難した 4.0 % 58 人

常総市外の外出先(職場・学校など)から自宅に戻り、その後避難した 5.0 % 73 人

常総市内の外出先(職場・学校など)から直接避難した 3.8 % 55 人

常総市外の外出先(職場・学校など)から直接避難した 3.5 % 51 人

無回答 2.0 % 29 人

避難せず、最初にいた場所に留まっていた(30.2%、647人)

常総市内の自宅から避難せず、そこに留まっていた 91.3 % 591 人

常総市内の自宅以外(職場・学校など)から避難せず、そこに留まっていた 4.2 % 27 人

常総市外の自宅以外(職場・学校など)から避難せず、そこに留まっていた 2.3 % 15 人

無回答 2.2 % 14 人

無回答(2.1%、46人)

-2-

Page 3: 平成27年9月関東・東北豪雨における災害情報 の伝 …平成27年9月関東・東北豪雨における災害情報 の伝達と避難行動:避難行動と情報入手の実態

図-3 避難した人の行動(避難先,形態,救助の有無,手段,浸水,N=1451)

図-4 避難途中の状況(N=1451)

図-5 避難した理由(N=1451)

-3-

Page 4: 平成27年9月関東・東北豪雨における災害情報 の伝 …平成27年9月関東・東北豪雨における災害情報 の伝達と避難行動:避難行動と情報入手の実態

(2)避難行動の詳細:地域と時間

なお,氾濫発生情報と破堤に関する情報以外の認知率

は低い(表-2,図-6).

これを前提に,地域毎に,避難,避難指示の受信,被

害,孤立の有無,避難時間,救助の有無などを分析したと

ころ,①早めに避難が始まり,日中に避難している地域

(三坂,若宮戸,本石下ほか),②破堤後に避難が始まり,

夜に避難し,浸水の程度が激しく孤立率・救助率が高い

地域(平内,沖新田,中山町,水海道橋本町,水海道森

下町),③破堤後に避難が始まり,浸水の程度が激しいが,

孤立率・救助率は低い地域(東町,箕輪町,長助町,平

町)④10 日 9:50 に避難が指示されるが,避難は遅く,

徐々に浸水し,孤立率・救助率はやや高い地域(水海道

諏訪町,宝町,亀岡町,山田町,高野町など下流部)に分

類可能であった(表-3,表-4).

またこの水害では,広域避難が問題になったが,県外

への避難は少なかった.常総市外への避難は多いものの

(52.3%),東方向(つくば市,つくばみらい市ほか)は半数

程度であり,全方位的に避難がなされていた(図-7).これ

は避難先の種別が公的な避難所とは限らないからである,

避難先の種別について図-3 を参照.

また,この水害では,浸水が始まっている鬼怒川を越え

て右岸に避難が指示されたことが問題となったが,避難の

方向を聞き,従った人は 23.6%に過ぎなかった(図-8).

なお,その場に留まった人の中で,床上浸水以上で,

安全確保行動を取らなかったという人は 5.5%と極めて少

なかった(表-5).各自で判断し,なんらかの行動をとって

おり,全体としてはリスクを無視するような人は極めて少な

かったといえる.

表-2 避難に関連する情報の受信

10日 11日以降

覚えていない

入手していない

無回答

栃木県への大雨特別警報(10日00時20分)

18.5 2.4 29.0 39.1 11.1

茨城県への大雨特別警報(10日07時45分)

30.6 3.1 33.8 22.9 9.6

はん濫危険情報(川島10日0時15分)

14.1 2.4 20.7 51.0 11.8

はん濫発生情報(若宮戸10日6時30分)

48.6 3.4 15.9 23.2 8.9

上三坂の堤防決壊の情報(10日12時50分頃)

55.8 3.8 14.2 18.0 8.2

図-6 避難に関連する情報の受信率(時間毎)

-4-

Page 5: 平成27年9月関東・東北豪雨における災害情報 の伝 …平成27年9月関東・東北豪雨における災害情報 の伝達と避難行動:避難行動と情報入手の実態

表-3

避難

、被

害の

程度

、孤

立の

有無

(地

域毎

避難した避難せ

ず、最初

にいた場

所に留

まってい

N.A.

入手して

危機感を

感じた

入手した

が危機感

を感じな

かった

情報を入

手しな

かった

N.A.

床上浸水

(2階部

分も浸

水)

床上浸水

(1階部

分ほぼ浸

水、2階

部分浸水

せず)

床上浸水

(床上か

ら1m程

度)

床下浸水浸水しな

かった

その他

N.A.

自宅で浸

水、孤立

職場で浸

水、孤立

避難所で

浸水、孤

その他の

場所で孤

孤立する

前に、避

避難しな

かった

し、孤立

もしな

かった

N.A.

合計

上蛇町

40.6%

53.1%

6.3%

37.5%

28.1%

17.2%

17.2%

0.0%

0.0%

14.1%

28.1%

50.0%

6.3%

1.6%

4.7%

1.6%

0.0%

0.0%

37.5%

50.0%

6.3%

64

三坂町

76.5%

23.0%

0.5%

10:30、なし

43.0%

16.5%

29.0%

11.5%

0.0%

1.0%

22.0%

15.0%

57.5%

3.0%

1.5%

10.5%

1.0%

1.0%

3.5%

63.5%

17.5%

3.0%

200

若宮戸

86.0%

10.8%

3.2%

2:20

57.0%

28.0%

4.3%

10.8%

0.0%

9.7%

77.4%

8.6%

4.3%

0.0%

0.0%

14.0%

1.1%

6.5%

2.2%

64.5%

7.5%

4.3%

93

小保川

59.7%

37.7%

2.6%

2:20

29.9%

44.2%

13.0%

13.0%

0.0%

2.6%

39.0%

36.4%

19.5%

1.3%

1.3%

22.1%

2.6%

0.0%

3.9%

44.2%

24.7%

2.6%

77

豊田

35.4%

61.1%

3.5%

34.5%

19.5%

26.5%

19.5%

0.0%

0.0%

0.0%

8.0%

89.4%

2.7%

0.0%

3.5%

.9%

0.0%

1.8%

29.2%

61.1%

3.5%

113

本石下

71.7%

26.3%

2.0%

2:20

53.7%

27.7%

8.7%

10.0%

0.0%

6.3%

62.3%

16.3%

13.0%

1.3%

0.7%

20.3%

2.3%

3.0%

3.3%

59.7%

10.7%

.7%

300

曲田

32.0%

64.0%

4.0%

一部13:08

24.0%

20.0%

52.0%

4.0%

0.0%

0.0%

0.0%

56.0%

44.0%

0.0%

0.0%

24.0%

0.0%

0.0%

8.0%

28.0%

40.0%

0.0%

25

大房

82.4%

17.6%

0.0%

4:00

57.4%

25.0%

11.8%

5.9%

0.0%

4.4%

29.4%

33.8%

32.4%

0.0%

0.0%

13.2%

1.5%

0.0%

2.9%

73.5%

8.8%

0.0%

68

平内

73.9%

26.1%

0.0%

4:00

34.8%

17.4%

34.8%

13.0%

0.0%

8.7%

60.9%

17.4%

8.7%

0.0%

4.3%

43.5%

0.0%

8.7%

4.3%

34.8%

0.0%

8.7%

23

沖新田町

83.3%

16.7%

0.0%

13:08

22.2%

27.8%

44.4%

5.6%

0.0%

44.4%

55.6%

0.0%

0.0%

0.0%

0.0%

55.6%

0.0%

0.0%

0.0%

44.4%

0.0%

0.0%

18

中山町

79.3%

17.2%

3.4%

13:08

34.5%

37.9%

20.7%

6.9%

0.0%

17.2%

72.4%

3.4%

0.0%

0.0%

6.9%

44.8%

3.4%

0.0%

3.4%

44.8%

0.0%

3.4%

29

水海道 橋本町

74.8%

23.9%

1.3%

13:08

30.5%

23.5%

35.4%

10.6%

0.0%

40.3%

30.5%

8.0%

18.1%

1.3%

1.8%

30.1%

.4%

2.2%

3.5%

49.1%

12.8%

1.8%

226

水海道 森下町

68.8%

27.2%

4.0%

13:08

31.8%

19.1%

34.7%

14.5%

0.6%

19.1%

48.6%

21.4%

8.7%

0.6%

1.2%

39.9%

.6%

.6%

.6%

43.4%

11.6%

3.5%

173

東町

61.5%

38.5%

0.0%

13:08

30.8%

7.7%

38.5%

23.1%

0.0%

0.0%

0.0%

0.0%

100.0%

0.0%

0.0%

0.0%

0.0%

0.0%

0.0%

38.5%

46.2%

15.4%

13

箕輪町

86.7%

6.7%

6.7%

13:08

53.3%

6.7%

40.0%

0.0%

0.0%

13.3%

86.7%

0.0%

0.0%

0.0%

0.0%

20.0%

0.0%

0.0%

6.7%

73.3%

0.0%

0.0%

15

長助町

87.0%

13.0%

0.0%

13:08

30.4%

30.4%

26.1%

13.0%

0.0%

30.4%

69.6%

0.0%

0.0%

0.0%

0.0%

13.0%

0.0%

0.0%

4.3%

73.9%

8.7%

0.0%

23

平町

83.3%

16.7%

0.0%

13:08

16.7%

8.3%

66.7%

8.3%

0.0%

91.7%

8.3%

0.0%

0.0%

0.0%

0.0%

33.3%

0.0%

0.0%

0.0%

66.7%

0.0%

0.0%

12

水海道 諏訪町

66.3%

32.7%

1.0%

9:50

35.6%

38.5%

18.3%

7.7%

0.0%

17.3%

54.8%

19.2%

4.8%

1.9%

1.9%

31.7%

0.0%

3.8%

2.9%

44.2%

15.4%

1.9%

104

水海道 宝町

42.0%

56.8%

1.1%

9:50

34.1%

38.6%

17.0%

10.2%

0.0%

3.4%

12.5%

36.4%

47.7%

0.0%

0.0%

5.7%

1.1%

0.0%

8.0%

38.6%

44.3%

2.3%

88

水海道 亀岡町

23.5%

76.5%

0.0%

9:50

64.7%

5.9%

29.4%

0.0%

0.0%

0.0%

0.0%

0.0%

94.1%

0.0%

5.9%

0.0%

0.0%

0.0%

11.8%

11.8%

76.5%

0.0%

17

水海道 山田町

69.9%

27.3%

2.7%

9:50

39.9%

32.2%

16.9%

10.9%

0.0%

2.7%

50.8%

15.3%

29.0%

1.6%

0.5%

18.0%

1.6%

0.0%

4.9%

56.8%

15.8%

2.7%

183

水海道 高野町

70.2%

29.8%

0.0%

9:50

61.7%

14.9%

12.8%

10.6%

0.0%

0.0%

10.6%

8.5%

76.6%

4.3%

0.0%

2.1%

2.1%

2.1%

2.1%

53.2%

34.0%

4.3%

47

その他

72.8%

25.7%

1.5%

37.6%

30.7%

19.3%

12.4%

0.0%

12.9%

55.9%

19.8%

10.4%

1.0%

0.0%

25.2%

1.0%

1.0%

6.4%

55.9%

7.9%

2.5%

202

N.A.

48.4%

41.9%

9.7%

16.1%

12.9%

35.5%

35.5%

0.0%

12.9%

32.3%

16.1%

32.3%

0.0%

6.5%

19.4%

3.2%

3.2%

0.0%

32.3%

25.8%

16.1%

31

合計

67.7%

30.2%

2.1%

40.1%

26.2%

22.1%

11.7%

0.0%

11.7%

41.0%

17.2%

27.7%

1.4%

1.0%

20.7%

1.2%

1.5%

3.5%

51.5%

18.8%

2.7%

2144

9月

9~

12

日の

避難

行動

避難指示

孤立の有無

被害

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表-4 避難した人の避難時間(平均)と救助

度数

救助され

自力で避

難した

上蛇町 10日 16.8 21 0.0% 100.0%

三坂町 10:30、なし 10日 15.9 141 12.8% 87.2%

若宮戸 2:20 10日 7.2 69 6.5% 93.5%

小保川 2:20 10日 9.7 45 15.6% 84.4%

豊田 10日 17.0 32 5.3% 94.7%

本石下 2:20 10日 5.5 195 7.2% 92.8%

曲田 一部13:08 10日 14.1 7 0.0% 100.0%

大房 4:00 10日 8.2 55 7.1% 92.9%

平内 4:00 10日 14.9 14 56.3% 43.8%

沖新田町 13:08 11日 1.2 12 46.7% 53.3%

中山町 13:08 10日 21.1 20 36.4% 63.6%

水海道 13:08 10日 21.5 144 25.8% 74.2%

水海道 13:08 10日 23.5 98 32.2% 67.8%

東町 13:08 10日 11.3 6 0.0% 100.0%

箕輪町 13:08 10日 21.9 12 0.0% 100.0%

長助町 13:08 10日 12.8 12 10.0% 90.0%

平町 13:08 10日 22.1 8 10.0% 90.0%

水海道 9:50 10日 19.1 59 22.2% 77.8%

水海道 9:50 10日 18.4 34 2.8% 97.2%

水海道 9:50 11日 11.6 3 0.0% 100.0%

水海道 9:50 10日 20.8 108 14.5% 85.5%

水海道 9:50 10日 17.4 29 0.0% 100.0%

その他 10日 19.1 130 23.6% 76.4%

N.A. 10日 20.8 14 21.4% 78.6%

合計 15.8 16.3% 83.7%

1268 1399

避難時間

(平均)

24h

1.1%

745.5%

846.2%

3 64 221 73 384 11.2% 4.8% 16.4% 5.4% 28.6% .8%

19614.6%

13610.1%

131.0%

常総市内

茨城県内鬼怒川 小貝川

D方向 B方向

A方向

C方向

自宅

A方向

(北方向)

B方向

(小貝川を

越え東方向)

C方向

(南方向)

D方向

(鬼怒川を

越え西方向)

鬼怒川と小

貝川に挟ま

れた地域以外にいた

合計

84 73 196 221 29 603

6.2% 5.4% 14.6% 16.4% 2.2% 44.8%

74 384 136 64 46 704

5.5% 28.6% 10.1% 4.8% 3.4% 52.3%

1 11 13 3 10 38

.1% .8% 1.0% .2% .7% 2.8%

159 468 345 288 85 1345

11.8% 34.8% 25.7% 21.4% 6.3% 100.0%

常総市内

常総市外

の茨城県

茨城県外

合計

避難方向

図-7 避難の方向

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浸水の程度

床上浸水(1階部分ほぼ浸水、2階部分は浸水せず)

床上浸水(床上から1m程度まで)

床下浸水 浸水しなかった

その他 合計

38 157 39 42 5 281

6.2% 25.4% 6.3% 6.8% 0.8% 45.5%

2 15 53 93 1 164

0.3% 2.4% 8.6% 15.1% 0.2% 26.6%

1 16 32 121 2 172

0.2% 2.6% 5.2% 19.6% 0.3% 27.9%

41 188 124 256 8 617

6.6% 30.5% 20.1% 41.5% 1.3% 100.0%合計

安全確保行動の有無

2階以上に退避まではしなかったが、情報に注意した

2階に退避など

特に何もしていない

図-8 避難の方向と防災行政無線

表-5 避難しなかった人と浸水の程度

(3)情報と危機感

最後に情報について分析する(図-9).

気象情報(注意報・警報,降水量など)についてはど

うか.今回の災害は台風を契機とするものであり,9 日の

段階から注意の呼びかけが行われ始め,10 日 0 時 20

分には栃木県への大雨特別警報,7 時 45 分には茨城

県に大雨特別警報など注意報・警報,降水量などの情

報が提供された.だが,約半数以上がこれらの情報を

受け取っているものの,危機感を持った人は少なかった.

茨城県の大雨特別警報についても 69.9%が入手したも

のの 24.7%しか危機感を感じていなかった.

河川情報についてはどうか.「はんらん危険情報」は,

入手した人は 36.7%であり,危機感を感じた人も少ない.

一方,ほぼそれと同意の「増水して氾濫しそうだという情

報」は多くの人が入手したと答えており,それによって感

じる危機感も高い.すなわち,はんらん危険情報は,住

民に対しては,意味がよく理解されてなく,危機感を伝

える情報として十分に機能しているとはいいがたいこと

がわかる.「はんらん発生情報」については入手し,危

機感を感じたという人は 32.0%,ほぼ同意の「既に氾濫

しているという情報」は入手し,危機感を感じたという人

が 38.0%と,こちらの方がやや高い.はんらん発生情報

についてもほぼ同じ問題を抱えているといえる.

これらの情報の中でもっとも大きな意味をもっていたの

は「上三坂の堤防決壊の情報」であり,70.5%の人が入

手し,45.0%の人が危機感を感じていた.次に大きな意

味をもっていたのは,「避難勧告・避難指示」で 66.3%

が入手し,40.1%の人が危機感を感じていた.

すなわち,堤防決壊という状況と避難勧告・避難指示

が危機感を感じさせるのに大きな影響をもっており,大

雨特別警報を含めた気象情報,河川情報はそれらと比

べて,危機感を与えるには十分な役割を果たしていな

かったことがわかる.

また,全体として「無回答」が多いのも特徴である.ど

の項目でも2割程度を占める(他の質問項目では無回

答は多くはない).これは,様々な情報が多く出され,情

報の弁別,認識できていない人が2割程度いることを示

している.

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図-9 情報の入手と危機感(N=2144)

4.考察

救助された人が多く,避難行動が低調であったとい

われることもある東北・関東豪雨ではあるが,常総市全

体の避難行動としては,堤防決壊や近くまでの浸水とい

う状況や,避難勧告・避難指示を理由として,多くの人

が避難していたことが分かった.

ただ,破堤後に流下し,徐々に浸水してくる状況では

避難行動は低調であった.これは,大規模水害の避難

を考える上で極めて重要な知見である.

また,情報面でも課題があった.今回は「越水」「破

堤」情報が有効であり,平成 19 年以来改善されてきた

水位などに関する河川情報はあまり理解されておらず,

有効に活用されていないという現状が明らかとなった.

伝え方などの改善を図る必要があるだろう.

今後は,地域別の分析,避難行動の意思決定過程

に関する詳細な分析などを行い,結果的に避難率が高

かった理由,地域毎での避難率が異なる理由などを分

析する予定である.

謝辞:本研究は,平成 27 年度河川情報センター研究助成「水

災害経験の忘却・風化のメカニズムと風化抑止策」(研究代

表:関谷直也)の研究の一貫として実施したものである.

参考文献

1) 作間敦・柏田すみれ・関谷直也・荒木優弥・松尾一郎:関

東・東北豪雨における常総市の災害情報の伝達と避難行

動:避難行動の推移,第 35 回日本自然災害学会学術講演

会,2016 年 9 月 20 日,静岡県地震防災センター:静岡市

(第 35 回日本自然災害学会学術講演概要集,85-86),

2016

2)柏田すみれ・関谷直也・作間敦・荒木優弥・松尾一郎:「平

成 27 年 9 月関東・東北豪雨災害」住民アンケート調査結果

の GIS 解析からみる避難行動の地域比較,第 35 回日本自

然災害学会学術講演会,2016年9月20日,静岡県地震防

災センター:静岡市(第 35 回日本自然災害学会学術講演

概要集,87-88),2016

3)関谷直也・作間敦・柏田すみれ・荒木優弥・松尾一郎:関

東・東北豪雨における常総市の災害情報の伝達と避難行

動:避難行動と情報入手の実態,第 35 回日本自然災害学

会学術講演会,2016 年 9 月 21 日,静岡県地震防災センタ

ー:静岡市(第 35 回日本自然災害学会学術講演概要集,

51-52),2016

4)柏田すみれ・関谷直也・作間敦・荒木優弥・松尾一郎:関

東・東北豪雨における常総市の避難行動と浸水範囲の時

系列変化について,日本災害情報学会第18回学会大会,

2016 年 10 月 22 日,日本大学文理学部:東京都

5)作間敦・柏田すみれ・関谷直也・荒木優弥・松尾一郎:関

東・東北豪雨において発表された情報と避難行動の関係,

日本災害情報学会第18回学会大会,2016 年 10 月 22 日,

日本大学文理学部:東京都

6)関谷直也・作間敦・柏田すみれ・荒木優弥・松尾一郎:関

東・東北豪雨における常総市の災害情報の伝達と避難行

動:避難行動の詳細,日本災害情報学会第18回学会大会,

2016 年 10 月 22 日,日本大学文理学部:東京都

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