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地方創生が叫ばれる今、「田園回帰を進める地域戦略」を学ぶ 平成27年度 まちづくり研修事業視察報告書 【邑南町役場前にて】 平成27年11月10日(火)~11月13日(金)

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地方創生が叫ばれる今、「田園回帰を進める地域戦略」を学ぶ

平成27年度

まちづくり研修事業視察報告書

【邑南町役場前にて】

平成27年11月10日(火)~11月13日(金)

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平成27年度まちづくり研修事業視察概要

1.テーマ

地方創生が叫ばれる今、「田園回帰を進める地域戦略」を学ぶ

2.目 的

「若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえる」を基本目標の一

つとした厚沢部町総合戦略の策定を進める中で、全国の中でも先進的な

取り組みを行い出生者数や Iターン者数が増加している島根県海士町と

邑南町にその地域戦略を学び、今後の地方創生に係るまちづくりに活か

すことを目的とする。

3.日 程

平成27年11月10日(火)~11月13日(金) 3泊4日

4.視察先

・島根県隠岐郡海士町

(1)町の概要、取り組み、町内視察

(2)ヒアリング

・島根県邑智郡邑南町

(1)日本一の子育て村構想について

(2)A級グルメ構想(協力隊活用)について

(3)定住支援コーディネーターについて

(4)里山イタリアン AJIKURAについて

※(1)、(2)については、山形県河北町議会総務産業

常任委員会の行政視察へ同席

5.参加者

グループリーダー 税務財政課課税収納係 主 事 木口 孝志

構成員 総務政策課政策振興係 主 事 中川 一秀

構成員 農林商工課農業振興係 主 事 三戸 康彰

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●島根県海士町 11月11日(水)10:00~12:00

・町の概要、取り組み、町内視察

(説明者:海士町役場交流促進課 芦原昇平 氏)

海士町は、日本海の島根半島の沖合約 60kmに浮かぶ隠岐諸島の四つの有人島の一つの

中ノ島で1島1町の小さな島である。(面積 33.52km2)

昭和 25年に 7,000人いた人口は平成 22年には 2,374人まで減少し、高齢者率は約

40%となっている。

公共事業への投資で島の暮らしは改善されたが、地方債は膨大となり平成 13年度末には

約 100億円の借金があった。(平成 26年度には 82億円まで減少)

平成 15年に合併協議会を解散し単独町政を決断したが、財政シミュレーションを行った

結果、平成 20年度には「財政再建団体」へ転落する可能性が示唆された。その後、平成

16年に「海士町自立促進プラン」を策定し抜本的な行政改革に取り組んだ。

<守りの戦略>

町長の信念による給与削減(△50%)を実施したところ、助役、教育長、管理職、議会

が自分たちもと続き、職員組合からも削減の申し出があった。平成 17年度にはラスパイレ

ス指数は 72.4と全国最低値となり、削減効果は約 2億円であった。(当時の海士町の税収

と同程度の額)

また、削減分の一部を具体的に見える施策に活かすことを目的に「すこやか子育て支援条

例」を制定した。内容としては、人数によって段階的に上がる出産祝い金(町長による手渡

し)や出産は島外で行うことからそれに係る交通費の助成など。

当初は『削減をしたからといっても島の民間給料と比べると役所の給料は高い』と、町民

は冷ややかな反応であったが、この取り組みがマスメディアの注目を浴びたこともあり、

徐々に町民の意識が変わり始め、老人クラブからバス料金の値上げや補助金の返上、各種委

員から日当減額の申し出が出るなど、自分たちに何かできることはないだろうかという声が

上がるようになり、危機意識の共有が危機脱出につながった。

この給与削減は、徐々に削減率を減らしていき、現在職員の削減はなく、町長は 30%の

削減を続けている。

<攻めの戦略>

攻めの実行部隊として町の産業 3課(交流促進

課、地産地商課、産業創出課)を町の玄関で観光

協会もある港ターミナル「キンニャモニャセンタ

ー」のフロアーにおき現場重視を展開。(平成 27

年度からは産業創出課は地産地商課へ統合し 2課

配置)海士町に入るには必ず港を経由することか

【町の玄関でもあるキンニャモニャセンター】

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らお客さまのニーズを確実に拾う役目がある。365日の勤務体制をとっている。野菜の直

売所もあるが、毎朝、地産地商課の職員が島内を周り回収している。また、センターには自

動販売機は設置しておらず、お客さまとのコミュニケーションを大事にし、どんなお客さま

が何を欲しているのかを拾うようにしている。

産業振興の取り組みとして

①島じゃ常識「さざえカレー」

役場、JA加工部、商品開発研修生等により開発。自分たちで販売し 5万食を売ることが

できた。自分たちでは商品価値に気づかなかったものが、商品開発研修生というよそ者の視

点ではそれが魅力となり商品となることに気づく。

商品開発研修生…平成 10年から町外の人を募集し月 15万円支給する。ミッションは 1

年かけて島の宝(魅力)探しをしてもらう。

②いわがき「春香」

3年間養殖し出荷する。10年間で 6倍近く出荷数を増やしている。もともとは隣の島が

養殖を行っていて、地元の漁師と Iターン者がタッグを組み海士町でも取り組みを始める。

ブランド力を高めるために、敢えて厳しい評価の築地市場で勝負に出て信用を得ることに成

功する。海士いわがき生産㈱を設立し、Iターン者 7名が移住している。

③CASによる旬感凍結「活いか」

海士で捕れる「剣先いか」を CASという長期間鮮度を保つことができる冷凍システムに

より、海士の漁師の食卓を都市部にそのまま届けることが可能となった。第三セクター「ふ

るさと海士」を立ち上げ、町が 2億 4千万円の出資金を負担し、さらに追加で 2億円の増

資を行った。税収が 2億円という財政規模の中、町民からの反発もあったが、町長は「島

の漁業が生き抜くには必ずこのシステムが必要になる」と一貫した思いがあり投資を行う。

平成 26年度は 2億 5千万円の売り上げ。冷凍庫 1台が 1億円近くすることから他の自治

体でも導入を検討し視察に訪れてはいるが、なかなか踏み込めない自治体が多いとのこと。

④島生まれ、島育ち「隠岐牛」

現在の産業のメインである隠岐牛。町の建設業を営む経営者が異業種参入を決意した。繁

殖から肥育までを行う。もともと隠岐の畜産は繁殖をさせて子牛を出荷させ松阪牛などにな

るというものだったが、隠岐の牛を繁殖し育て肉牛として出荷する仕組みを作ることに成功

した。出荷には㈲隠岐潮風ファームの職員自らがトラック 1台に 12頭の隠岐牛を乗せ東

京の市場へ出向いており、そこでA4等級以上のものが「隠岐牛」と認定されている。近

年、松阪牛並の評価を受け出荷要望も増えたことから、トラックを 2台体制とした。

隠岐牛のブランド化により、子牛の価格も高騰(今年のセリでは 1頭 70万円近く(昔

は 20万円))し、㈲隠岐潮風ファームだけでなく、島全体の畜産農家にもいい影響となっ

ている。大型の畜産経営が登場したことにより、島中の田んぼを賄う堆肥製造も可能とな

り、島で循環完結する有機農業が可能となった。

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Iターン者数…10年間で 437人。その内 55%の定着率で 240名程度が定着している

が、その 240名についても 3年から 5年くらいでまた移住し、また新たな Iターン者が入

ってくる状況である。

教育・人づくり

「まちづくり」の原点は「ひとづくり」とし、平成 17年に「人間力推進プロジェクト」を

立ち上げる。

①都市との交流

海士中学校の修学旅行では一橋大学を訪問し、海士町を題材に中学生が大学生に講義を行

う。講義を聴いた大学生がその後海士町へ移住。

若手企業家等の一流講師や都会の若者が海士の小中高校で出前授業を行う「AMAワゴ

ン」を実施。第一回の講師として来島した岩本悠氏がその後海士町へ移住し、「ひとづく

り」に参画し、その後の影響力は大きいという。

②島前高校魅力化プロジェクト

海士町にある島根県立隠岐島前高校は、島前 3町村で唯一の高校である。少子化の影響

により入学者数が半減し、一学年 21人を下回ると統合となる可能性があることから、県へ

何とかして欲しいと訴えたが、一校だけ特別視する訳にはいかないとの回答があり、この魅

力化プロジェクトを進めることとなった。

そもそも高校がなくなると、島の子どもは 15才で島外に出ざるを得なくなる。仕送り等

により更なる人口流出や Iターン者などが減少することは自立への取り組みが水の泡となっ

てしまう。→高校の存続が島の存続に直結する。

取り組みその1…カリキュラムの見直し、地域創造コースの創設。高校生のうちから地域

の課題を考える。

取り組みその2…離島からでも大学へ行くための「特別進学コース」を創設。

取り組みその3…学校連携型の公営塾の開設。学校の勉強だけでなく、「夢ゼミ」を実

施。高校生に島の大人達の仕事を見せどんな道を歩んできたか知ってもらい、自分の将来ビ

ジョンを描かせる。その上で将来自分のやりたいことついて考え、目標達成のためには今何

が必要かを気づかさせ、学業のモチベーションを上げる効果にも繋がっている。さらにはこ

れを島内だけではなく、「島留学」とし、全国から生徒を募集し生徒数を増やしている。

島前高校生徒数推移

【ピーク時:平成 15年度 145人】

【最 低 時:平成 20年度 089人】

【現 在:平成 26年度 159人】

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観光協会の取り組み

従来…「窓口での案内」、「パンフレットの作成」程度

一方島では…「行財政改革」、「産業振興」、「定住促進」、「ひとづくり」等行い、

成果が見え始めてきている。

外貨獲得の一番の手段である「観光」について、観光協会はこのままでいいのか?

<島内研修>

窓口に来るお客さんに「泊まるところはありませんか?」と聞かれて宿の紹介をするくら

いでは、クレーム等あったときに、実際に自分たちが宿泊していないことからその宿の状況

が分からない。→観光協会の職員全員で島の宿を泊まり歩き、実際に宿泊者が何を食べどの

ように宿泊しているのかを体験する島内研修を行った。

<会費改正>

観光協会への会費を一律化(減額)し、観光協会が宿を紹介した場合は、宿から紹介料を

負担してもらう制度を導入。

<新聞発行>

こうした観光協会の取り組みを「海士の島だより」として発行している。

①島宿プロジェクト…島の民宿を見つめ直し、窓を開けたら絶景が見える民宿、女将さんが

民謡を踊ってくれる民宿、食べきれないほどの料理の提供で「おばあちゃんの家」に帰っ

て来たかのようなあたたかい民宿というような、特色ある民宿を再発見。しかし民宿とな

るとそこに住んでいる方と水回りが共同になるため、トイレやお風呂の利用に関して満足

度が下がってしまう傾向があった。それではもったいないと…

女将さんたちに掃除をお願いするも、高齢であったり、キレイの基準が曖昧であることか

らなかなか統一した状態にするのが難しい…

→観光協会職員による水回りの掃除を実施。さらには宿が忙しいときは宿のお手伝いも

するようになった。掃除等、観光協会にて基準を定めクリアしたものを「島宿」とし、紹

介するようにしている。

また、島内にあったクリーニング店が閉店してしまったことから、民宿のシーツや浴衣

等は松江など本土でなければクリーニングができない。せっかくの外貨をまた外に出して

しまうのはもったいないということから、観光協会にて子会社を設立し、クリーニングも

島内で行うようになった。

②隠岐神社参拝…夜の隠岐神社参り。自分の願い事を書いたお守りをもらえる。現在そこで

結婚式を行うプランも構想中であり、今年中にアメリカ人が和装により結婚式を行う予定

となっている。

③離島キッチン…島の商品をキッチンカーに乗せて売り歩く。日本全国の離島の商品を売る

アンテナショップを目指す。共感を得て茨城県の水戸駅の中にテナントを設置。さらには

今年の 9月に東京都神楽坂へ店舗を出店するまでとなった。全国約 30の離島と取引を行

っている。

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④島のマルチワーカー…季節にあった雇用に観光協会が人材を派遣するもの。実際に説明者

の芦原さんがマルチワーカー経験者であり、いわがきの水揚げからCASによる出荷を行

い、さらには離島キッチンで販売まで行ったという。作る現場から売る現場まで体験でき

たことは貴重な体験となり、現在の業務である島の取り組み等の紹介に役立っている。

~説明後の主なQ&A~

Q:㈲隠岐潮風ファームについて、民間業者が参入しての立ち上げとあるが、町からの声掛

け的なものは行ったのか。それとも業者自らが手を挙げてきたのか。

A:当時、異業種参入は難しい状況であったが、建設業の社長が「今の自分たちがあるのは

海士のお陰であり海士のためにできることをしたい」と自ら手を挙げ参入してきた。

Q:「ないものはない」「AMAワゴン」「島じゃ常識さざえカレー」等、ネーミングに引きつ

けられる。戦略的な決め方はあるのか。

A:基本的に島の若い人たちの集まりでいくつか案を出し検討している。ベースは島の人た

ちが考える。採用の決定機関等は特に設けていない。

Q:島のマルチワーカーについて、季節ごとの業務を一本にし派遣するとなると過酷な労働

だと思うが、実際やってみて辞めて帰った人もいるのか。

A:まだ 3 人目だが(3 人目が芦原さん)、1 人目の時は体制もままならない状況で最後に

心折れてしまったが、2人目と 3人目の自分は毎回新鮮な立場で職場を見られるという

ことがおもしろく、身体的にはきついが楽しいことが多かった。来年は女性のマルチワ

ーカーを検討している。

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<島内見学>

【CAS凍結センター】

【島前高校の寮宿舎】

【隠岐神社】

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●島根県海士町 11月11日(水)13:30~15:00

・ヒアリング

(対応者:海士町役場地産地商課 大江和彦 課長)

<質問①>

色々な施策を行うために給与削減などを行い、職員のモチベーションをどのように維持し

ているのか。また町長の方針を課長はじめ職員にどのように浸透させているのか。まちづく

りに対する職員の意識改革や人材育成について意見を伺いたい。

<回答①>

町長のリーダーシップが大きい。しかしそれだけで改革はできない。職員が町長の信念を

どう考えるか、あるいは、町長に信念があろうとなかろうと職員は定年までいることから町

の方向性をどのように持って行くか職員自身が考えることが大切である。町長の信念と職員

の信念がうまく合致すれば物事はうまく動いていく。

職員の信念は何かとよく聞かれるが、「この町をどうしたいか」、「この町がどうあるべき

か」、「次の世代にどうバトンタッチするか」ということを考えられるかどうかである。こう

いった信念を持つ職員がいないとまわりを囲い込むことは難しい。しかし、この信念を職員

全員に持てということではなく、職員の中に数人いればいいと思っている。かつて、役場で

「のぼせ上がり」や「浮いた人」を「異端児」と言ったようにこの信念を持つ職員を「改革

派の異端児」とするならば、誰がその異端児をカバーしてやるか、それは町長、副町長しか

いない。

そして信念を持った職員と町長・副町長らが結集し、思いが強ければ強いほど、周りのそ

こまで意識が高くなかった職員も自ずと引き込まれていくようになる。これは町長が先か職

員のやる気が先かという問題にもなるが、海士町の場合は町長の信念と数名の職員の信念が

うまく合致したものと思われる。そこには町長の信念である給与削減が発端となっているこ

とは言うまでもない。

給与削減を行う中、さらなる設備投資を行う事業(「いわがき」や「CAS」など)を展開

したことで、「役場がそこまでする必要があるのか」、「民間にやらせるべきだ」といった職員

からの批判もあったが、そもそも民間にそれだけのやれる力があれば既にやっているという

話である。田舎や中山間地域、離島に企業誘致ができない、また企業が立ち上がらないのは、

採算が合わないことを分かっているからであり、その結果、田舎に雇用が生まれないという

のは明白である。そこを打破するには何か行動を起こすしかない。民間が何に躊躇している

のか、何を問題としているのかを行政が把握し、後押ししてやる必要がある。当然ハード面

での支援が必要になってくるが、行政が後押しすることで民間が企業を立ち上げ地域資源の

ブランド力を高め、民間の活力に繋がる。そして雇用が生まれ、Iターン者が Iターン者を呼

ぶという連鎖が起こった。

町が I ターン者や特定の事業(隠岐牛のレストランなど)に対し投資を行うことに、住民

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や議会からは批判もあったが、「だったら、やる気のある人はいますか?やる気があるのであ

れば町はいくらでも向かい合いますよ」と言うとそこまで腹を決めてやろうという町民はい

ない。「やりたいとういう人が現れているのであれば町はそこに全力を懸けて向かい合いま

す」ということを繰り返し住民や議会へ説明し理解を得てきた。

田舎で大事なことは「やる気」「行動」「実践」をする「人」であるが、そういう人が今ま

では少なかった。今そのような人が出てきたときに、その人が何を恐れているのか、何に躊

躇しているのか、その原因を究明しフォローしてやる。そうしたマッチングをすることで雇

用の創出へと繋がっている。

これは役場内でも同じようなことが言えており、意欲のある職員の提案に対しては、どれ

だけ周りが反対しても町長が責任を取ると言い後押しをしてくれる。そうすることでその職

員もきちんと見てくれていると思い、「やる気・行動」に繋がっている。

このモチベーションは「ふるさとへの愛情・愛着」でしかない。「この町をどうしたいか」

という思いに尽きる。この思いがなければ、国や県の言うことを聞いて行政機関の方ばかり

向いた仕事をするだけとなり、肝心な「雇用の問題」や「町をどう良くするか」といった一

番難しい課題は足下にたくさんあるのにそこには目を向けずに、国や県の方ばかりに目を向

けた一日となってしまう。海士町も現在の町長になるまではそうだった。やる気のある職員

はいたが、「役場がそこまでやる必要はない」「前例がない」「漁協、農協がやればいい」とい

うように出る杭は打たれる状況であり、役場はそういった問題から逃げ、向き合ってこなか

った。その結果、雇用が全く生まれず過疎に拍車がかかる状況に陥った。現在は、そこから

一歩踏み込んだ改革を進められている。

<質問②>

職員の採用について、海士町出身者が多いのか。

<回答②>

最近は I ターン者の採用が多く、地域おこし協力隊や町の臨時職員だった人が海士町の取

り組みに興味を持ち採用試験を受けている現状もある。以前は面接試験を三役、学識経験者

によって行っていたが、いざ採用してみると体調を悪くする(メンタル的に)職員や、力を

発揮するどころか足引っ張りの職員と、面接試験について管理職から批判が上がり(町長と

お酒を飲む席で冗談的に)、職員による面接試験の実施を町長へ提案した。そこには「管理職

が面接をし、最終的な採用は町長が決定するにしても、採用後の育成や更正については、管

理職が責任をもって行う」という意識が現れている。

マスメディアを通して全国から職員を募集したところ 200 人の応募があり、管理職全員

が履歴書をチェックし、管理職 1人 20人までピックアップし、ピックアップが重なる候補

者を 1次クリアとし 20人まで絞り込む。その後 2泊 3日の管理職も含めたグループワー

ク(懇親会も行う)を実施。最終的に 20人から管理職が責任を持って 5人まで選考し、こ

の 5人なら誰が採用になっても責任を持つこととし、最終決断を町長はじめとする三役及び

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学識経験者へ委ねた。結果、1名採用予定のところ 2名採用となっている。採用に当たって

は民間経験のある人を求めるようにしている。

現在の採用試験は、1次試験は筆記試験を行い、町長はじめとする三役及び学識経験者に

よる 2次試験の面接前に、管理職数名及び社会人講師によるグループワークを行い三役へ助

言を行っている。

<質問③>

地域おこし協力隊や集落支援員から職員採用となる人はいるか。

<回答③>

地域おこし協力隊や集落支援員については多く雇用し積極的に活動してもらう。そして、

その活動を見ていい人材は職員として採用していく(1次試験突破は必須)ようにしている。

学力と面接だけで人材を見極めるのは難しいが、協力隊など 3年間の様子を見ていれば職員

として使いものになるかの判断はし易くなる。

<質問④>

若い世代の出会いや結婚について何か取り組みを行っているか。

<回答④>

婚活のイベント等は行っていないが、Iターン者同士がまちづくりの活動を行う中で知り合

い結婚するパターンが多い。

保育所(民間)について、現在の改革前は 60名定員であったが、今日 94名の入所者が

いる。10数名の待機児童もいることから、現在町の負担により保育所の増設を行っている。

<質問⑤>

農業、漁業の後継者不足などの問題はあるか。

<回答⑤>

そこが一番の課題ではあるが、役場としてこの方は後何年で漁業をやめるのかという情報

をきちんと整理し、この方が辞めたら誰がこの漁業・農業をするのか、課題をシンプルに捉

えることが大事である。この課題に対しては職

員の「この町を次の世代にどう残したいか」とい

う思いを持って臨まなければ、問題を漁協や農

協任せにしたり補助金便りにしたりと解決する

ことができない。漁協でも農協でもなく役場職

員が目の前の危機にどう直面し責任を持って一

歩踏み込むことができるかが大事であり、解決

できるかどうかは、「やりきるか」そうでないか

しかない。現在行っている取り組みとしては…

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後継者に対して、月 15万円の最低限の生活保障をし、親方とのマッチング等を行う。ま

た後継者には漁船等は買わせず町が保有しているものを安くリースしている。トラクターや

コンバインなども町が保有しているものをリースしている。これに限らず町が特定の事業へ

投資を行うことについては、補助金、辺地債及び過疎債の活用による町民負担分をさらには

その事業者から賃借代などとして負担してもらうことで実質町民負担はかからないという仕

組みのもと事業を行っている。「いわがき」や「CAS」など全てこの仕組みで行い町民との

折り合いをつけている。

<質問⑥>

職員だけでなく町民のまちづくりに対する意識は?また、海士町以外の 3町の意識は?

<回答⑥>

3町についてはそこまで思い切った独自削減も行っていないことから特段思い切った取り

組みは行っていない。

まちづくりについては、「住民が主体のまちづくり」とよく言われるがそれは難しい。住民

が任せられるかは、役場職員が本気で向き合うかどうかであり、そうでなければいずれ住民

が立ち上がることはあるかもしれないが、海士町としては、住民がまちづくりに参加すると

いうよりは、職員が前向きであることから応援してくれる住民が多くなっている現状である。

職員が中心となってまちづくりを進めている。

<質問⑦>

隠岐 4町による観光の取り組みは?

<回答⑦>

各町温度差があり 4島巡りコースなどもあるがなかなか力が入っていない。広域で進めよ

うとしても隠岐は 4 つそれぞれの個性があり、1 つにまとめて妥協点を作るより 4 つがそ

れぞれいいところ活かした方がいい。自分たちの主張を通す「個性型のまちづくり」が大事

ではないかと考える。

【海士町での視察を終えて】

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≪海士町での視察を終えて≫

海士町の行財政改革は、現在の町長によるところが非常に大きいが、財政再建団体への可

能性や人口減による高校の存続が島の存続に直結するという課題を、役場全体で共有し課題

解決に向けて取り組んでいる印象を強く受けた。それは政策に対して他課との連携を取る横

断的な姿勢に現れていた。自分の町に限らず「まちづくり」を進めるとき、どうしても横断

的ではなく縦割りの行政となりがちである。海士町ではそこをクリアし、さらには住民をも

巻き込んだまちづくり戦略が非常にうまいと感じた。もちろん給料の独自削減は大きいが、

マスメディアにうまく取り上げられ住民の意識を変えたこともまちづくりを進める原動力と

なっているように思う。

また、独自削減を行うだけでなく、その効果を具体的に見えるよう「子育て条例」を制定

するなど職員のモチベーションを保つ取り組みも印象深かった。その中でも出産祝い金につ

いては、町長から対象者へ手渡しにより交付を行うなど、子育ての温かさを感じた。

攻めの戦略として、町の入り口でもあり観光協会も常設されている港ターミナルに町の産

業 2課を配置するなど現場重視としているところも印象的であった。また、産業振興の取り

組みについては、「さざえカレー」「いわがき」「活いか」「隠岐牛」など、もともとある素材

を商品開発研修生など「よその者」の視点から商品価値を見出し事業展開を行っている。「い

わがき」や「活いか」については、町が設備投資を行い I ターン者とうまくマッチングさせ

て事業を進めているが、これに限らず海士町は行政主導で進める事業が非常に多い。なぜそ

こまで行政が動くのか。答えはシンプルであり、「雇用の創出」のためである。「行政がそこ

までやる必要はない」、「農協・漁協がやることだ」、「民間に任せればいい」これらよく耳に

する言葉だが、その結果田舎に雇用が生まれていない。海士町ではそこに一歩踏み込み「や

る気のある人」に真剣に向き合い、何に躊躇し課題は何かということを究明しフォローする。

そうした結果、公設民営による多くの事業を展開し、Iターン者のマッチングや Iターン者が

Iターン者を呼ぶという好循環が生まれている。

また、町の取り組みに感化された観光協会が、自らの役割を見つめ直しお客様のニーズに

応えるため島内研修を行うなど積極的にまちづくりに参加していることも印象的であった。

厚沢部町においても役場と観光協会の連携や課題を共有するといったところを意識し、今後

のまちづくりを更に展開して行ければと思う。

地産地商課の大江課長が言っていたように、まちづくりに対してのモチベーションは、「こ

の町をどうしたいか」、「次の世代にどうバトンタッチするか」ということであり、今回の視

察で改めてこの思いに胸を打たれた。

ただ視察して、財政状況が良くなかったことや離島であるが故にないものが多いというよ

うに、極端な状況だからこそ思い切った取り組みができたのではないかという思いはある。

しかし、そこでの危機意識の共有ができたからこそ今の海士町があるのは言うまでもなく、

今の厚沢部町で何ができるかということを考え、海士町で感じた刺激をフィードバックでき

るよう実践、行動に繋げていきたいと思う。

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●島根県邑南町 11月12日(木)10:00~11:00

・日本一の子育て村構想について

(説明者:邑南町役場定住促進課 田村哲 課長補佐)

邑南町は平成16年10月に町村合併を行い昨年で合併10周年を迎えた。オオサンショ

ウウオをモチーフにしたマスコットキャラクター「オオナン・ショウ」を作成し、郵便局が

「オオナン・ショウ」の切手シートを作成し販売している。また、歌手のさだまさしさんが

邑南町のイメージソングを作曲したことも有名である。

邑南町は島根県の中央部に位置し広島市まで車で60分圏内となっている。このことから

町内の消費が広島市へ流れている懸念もある。人口は平成27年1月現在 11,487 人であ

り、高齢化率は約 42%である。また、面積 419.22 ㎞2のうち8割以上が山林となってい

る。

<日本一子育て村構想立ち上げの経緯>

人口の推移は、平成 12年から平成 17年、平成 17年から平成 22年まで 5年ごとに約

1,000人減少していた。そして平成 22年から平成 27年までは、国立社会保障・人口問題

研究所による平成 27年推計値では 11,031人であったところ、実際には 11,487人であ

った。(1,000人減少から 500人減少となった)

この 5 年間に行ってきたことが、攻めと守りの

定住プロジェクトである。攻めとして A 級グル

メ構想、守りとして日本一の子育て村構想、さら

には徹底した移住者ケアを行ってきた。平成 17

年からの出生数は年間 60人~80人の間を推移

しており、婚姻数については年間 30組台だった

のが平成 26年には 43組と増えた。出生数につ

いては、今後 5年間で年間 100人を目指すこと

としている。

この 2つの構想については、全課が同じ気持ちで同じ目標に向かって取り組んでいること

が全国的に評価されている。総合的な事業を展開するため、平成 22年に副町長・財政課・

保健課・定住企画課・福祉課(保育主管課)と複数課を招集し協議を進め、「日本一の子育て

の村」と称して、保育料の無料化や中学生までの医療費無料化など思い切った戦略展開を提

案していった。また、関係が薄い課にも町として子育てに取り組む概要をペーパー化し周知

を行うと共に、町内全戸にも「子育て支援ガイド」を作成し配布している。

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<複合的・横断的な取り組み>

①医 療

○公立邑智病院の医療体制の充実(3町運営)

産婦人科、小児科に専門医が常勤。全 9科で 11名の医師が常勤している。

24時間救急受付(365日)、ドクターヘリによる緊急搬送(広島へ 20分)

②保 健

○中学校卒業までの子ども医療費無料

現在では、他の自治体でも主流となっており、高校生まで無料を行っている自治体も

ある。

○各種費用助成

妊婦歯科検診費用助成、予防歯科費用助成、不妊治療費助成、妊婦健診票交付など

③福 祉

○保育料第 2子目以降完全無料

邑南町の場合、同時入所に関わらず、世帯の 2子目以降については完全無料としてい

る。

近年サービス合戦になってきているが、町長は別の政策で支援を充実させたい考え。

○保育所完全給食(無料)

課題…3歳以上は米飯持参。夏場の衛生管理や冬場は冷たい弁当。

取組…平成 23年から地産地消として顔の見える地元の農家からコシヒカリを購入し完

全給食を実施。(対象 3歳以上児 2,810人、3,709千円/年)

成果…当番によりお米研ぎを経験→お手伝いの習慣が身につく。

釜での炊飯を実施→火の大切さ怖さの学習にもつながる。

○保育所は町内 9 カ所あり、入所児童は多いところで110名少ないところでは 5 名

とバラツキはあるが、全て職員の配置から完全給食まで行っている。合理化を方針とす

る町では統廃合の話にもなるが、邑南町は統廃合しないと町長が公言している。

小学校8校、中学校3校も同じく統廃合はしない。まずは町民と一丸になり定住、人

口増を目指し、統廃合の問題はその次としている。

○病児保育事業

公立病院と民間病院の2カ所に病児保育室を開設。病院を受診後、そのまま病院で保

育を受けることが可。病児保育利用者数は平成 20年度 115人が平成 26年度 448人

と増えている。邑南町は専業主婦が少ないことから仕事と家庭の両立支援となっている。

また町内の1つの保育所では、登所後に体調不良(発熱等)になった場合、保

護者の迎えがあるまで病児保育室で看護する「体調不良児型」の病児保育も実施している。

○一時預かり保育事業

保護者のパート勤務や病気、育児疲れの解消などに対応するため、一時的に保育所で

児童を保育する制度。

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④教 育

○奨学金制度(医療・農林業・一般)

医療…町内の医療・福祉施設で業務に従事する意思がある人材の、専門資格・知識習

得ための学資援助制度。資格取得後、町内の医療・福祉施設に勤務することで年

数により返済額免除となる。

(対象)社会福祉士、介護福祉士、保育士、医師、看護師、管理栄養士、保健師、

あん摩マッサージ指圧師、はり師・きゅう師、柔道整体師 など多数

農林業…大学等において農林業に関連する知識及び技術を履修する課程に在学してい

る学生に対して学資を貸与する制度。卒業後、町内において自営または関連事

業所に就職した場合、一部または全額返済が免除となる。

一般…経済的理由により就学が困難な人に学資を貸与する制度。

○高校教育支援

人口減による生徒数の減少。寮費、通学費の助成を実施。また、現役東大生によるネ

ット環境を利用したオンライン授業を実施。

⑤生活環境

○新しい住宅の新築・改築費支援制度

多世代による安心子育て住ま居る推進事業として工事費の 10%を補助している。

・3世代同居(同一家屋内) 上限 100万円

・3世代近居(同一集落内) 上限 80万円

・2世代同居・近居(近居は同一集落内) 上限 50万円

○空き家改修補助事業

UIターン者が入居する場合の改修時に工事費の 2分の 1(上限 100万円)を補助し

ている。昨年は 10件の申請があった。

<取り組みの結果>

合併 10年目ではじめて社会動態が 20人増えた。(平成 25年)

平成 26年も 6人増えており、2年連続の増となっている。

○定住支援コーディネーターの配置(詳細は別頁に記載)

平成 22年度から配置し、移住後のフォローも行うなど徹底した移住者ケアを実施。

平成 22年度 平成 26年度 合 計 定住率

問 合 せ 件 数 72件 147件 670件

定 住 者 数 22人 63人 213人 88%

(うち児童数) (3人) (16人) (40人)

定住コーディネーター自身が Iターン者であり、平成27年度から2名体制となっている。

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<子育て村構想が目指す理念>

「地域で子育て 未来を創る みんなが笑顔で暮らせるまち」

町民一丸となって子育てに取り組むことが大

切であり、地域で子育ての大切さに気づき、今ま

で以上に町民が子育てに関われるようにしてい

くことが重要である。

子どもは未来の邑南町を担う大切な財産であ

り、地域で子育てを進めていくことで、子どもた

ちを安心して育てることができ、若者も住みやす

いと感じることが定住促進にも繋がり、邑南町の

未来を創っていくことになる。

↓(目に見える形で…)

①出生届の写しをプレゼント(マスコットキャラクターが印刷された台紙に貼付)

車用のステッカーをプレゼント(「Baby in CAR」と「孫を乗せています」)

②防災無線で町内全域に子どもの誕生を知らせる。(「こんにちは赤ちゃん」の歌を流す)

<その他の取り組み>

①定住促進支援員…定住支援コーディネーターの補佐役。現在 2名おり無報酬で活動。

人望が厚く地域の状況に精通している人にお願いしている。

○役目…空き家の調査、地域のしきたりを教授、地域への紹介など移住者が地域に溶け

込めるようフォローしている。今後は、公民館単位(12地区)に配置したい。

②子育て支援ポイント付与制度…邑南町の商工会の中で流通している買い物カードと同じ

ように子育てサービスを利用するとポイントが貯まり、1ポイント 1円として町内で買

い物に利用することができる。

○例えば…4ヶ月健診を受けると 20ポイント(夫婦で行くと 40ポイント)

子育てサロンに行くと 10ポイント(週 5日で 50ポイント)

※商工会と共同事業とし、商工会も積極的に子育てに関わっている。

有料保育サービス(利用料金 100円1P)

・病児保育(@2,000円) ・一時預かり(@1,500円~2,300円)

無料サービス(来場ごとに 10P~20P)

・乳児健診 ・保育所(歯科、食育)教室 ・離乳食教室

・子育て講座、子育てサロン

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<マスメディアの注目>

これらの取り組みがマスメディアの注目を集め、「週刊朝

日」、「女性自身」、「NHKあさイチ」などで取り上げられる。

また平成 24年には、婚活イベントとして「もてもてナインテ

ィナイン邑南町の花嫁お見合い大作戦 SP」を行い、男性 21

名、女性 31人のお見合いを企画し、過去最高 16組のカップ

ルが成立している。

マスメディアは広告費をかけることなく町を PR すること

ができるので、丁寧に対応することが大切である。

視察についても今年は約 70組の受け入れを行っているが、

町を PRするには大事な機会である。

【丘の上からの邑南町~スイスのような風景~】

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●島根県邑南町 11月12日(木)11:00~12:00

・A級グルメ構想(協力隊活用)について

(説明者:邑南町役場商工観光課 口羽正彦 課長補佐)

邑南町は商工観光課が商工観光だけの仕事をしてきたのではなく、人口減少に危機感を持

ち各課がタッグを組み取り組んできたことが特徴である。また、平成 16年に 2町 1村によ

る町村合併を行っていることもあり、人口分布はまばらな状態である。

観光としては、香木の森公園や瑞穂ハイランドスキー場がある。特産品としては、石見和

牛肉、石見ポーク肉、牛乳、キャビア、さつまいもムースなどがある。農業産出額としては

水稲、生乳が最も多い。

<A級グルメ構想立ち上げの経緯>

平成 22年まで 5年ごとに 1,000人近くの人口減があり危機感を持った。また、当時の

邑南町の農林商工観光の悩みとして、雇用の場がない、農業の担い手不足、地元購買率が低

い、特産品が少ない、目立った観光資源がない、基幹産業の農林業を活かし切れていないな

どが挙げられていた。さらに人口減に伴い子どもたちが少なくなり、地元の高校がなくなる

ことは益々人口減に拍車がかかるとし、高校存続も「まちづくり」の大きなポイントとなっ

ている。

これらのことから、農林商工労働の視点から「人口減少に歯止めをかけたい」「基幹産業の

農業を活かしたい」「小さくても雇用を生み出す仕組みを作りたい」「邑南町へ来てもらいた

い」「特産品を開発したい」という目標を定め、『邑南町農林商工等連携ビジョン=A級グル

メ構想』を計画する。

<A級グルメ構想とは>

邑南町農林商工等連携ビジョンの 3つの柱として、「食」と「農」に絞り込みを行う。

①「食」から「職」を生む

②「食」産業の担い手づくり

③「食」による観光誘客の推進

↓(目標値を設定)

・食と農に関する 5名の起業家輩出

・定住人口 200名の確保

・観光入り込み客年間 100万人の実現

なぜ「A級グルメ」としたか…

ラーメンや焼きそば、たこ焼きを「B級グルメ」と呼ぶことが主流の中、インパクトを持

たせる狙いがあった。しかし、高級食材による高級料理を「A級」と呼ぶのではなく、

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邑南町で生産される良質な農林産物を素材とするここでしか味わえない食や体験 を

「A 級」と位置づけた。これは、邑南町の農家が作る農産物を A 級の食材とし誇りを持ち、

そこに付加価値を加え農林商工が連携し 6次産業化を進めていくものとしている。

<取り組みとして>

平成 23年にA級グルメ発信基地として「イタリアンレストラン素材香房 AJIKURA」を

オープンする。また、商品開発を目的とした「食の研究所」も併設されている。

なぜ、イタリアンか…素材の良さを最も活かすことができる。メニューはフルコースを提

供している。(ディナー…石見和牛、ランチ…石見ポーク)近年、観光施設である香木の森公

園の観光客が減少していることから、近くに建設することで観光客増の相乗効果を図ってい

る。また山の中にイタリアンがあるということがマスメディアの注目を浴び取材も多くなり

町の知名度が上がった。(邑南町の名前が多く知られることで移住の選択肢の一つとなる)

○地域おこし協力隊の活用

「耕すシェフ」…野菜などを作りながら、実際に AJIKURAにて調理・研究を行い、将

来は町内で食に関する起業を目指す。

全国から募集してもなかなか集まらないことから、東京と広島の調理

師学校と提携している。

協力隊の状況(平成 27年 5月 1日現在)

※アグサポ隊

1年目)栽培研修…町の専用農場で JA及び農業普及員のもと農業体験を行う。経営

研修も実施する。

2年目)農家・農業法人研修…町内の農家や農業法人で期間を区切り研修を行いなが

ら、就農を目指す隊員と担い手を求める地域のマッチングを行う。

3年目)就農準備…就農計画の作成や就農地の確保など具体的な活動を行う。研修終

了後は新規就農、雇用就農、兼業なども選択できる。

【協力隊の受入・定住状況】(平成 23年 10月~平成 27年 5月)

参画者:33名(定住…26名(研修中の 21名含む) 転出…7名)

耕 す シ ェ フ AJIKURA(料理研修)+農業研修 10人

ア グ リ 女 子 有機農業の普及+6次産業の商品開発 1人

耕 す あ き ん ど 産直市店舗サポート+ミニ観光案内所の運営 2人

ガーデンプロデュース 香木の森公園でガーデニング 1人

ア グ サ ポ 隊 農業研修+地域と良好な関係構築 7人

合 計 21人

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<取り組みの検証>

商工業の取り組みについて、町に対しての町民重要度・満足度調査を行った結果、重要度

はそこそこ高いレベルではあるが満足度は低いものであった。

結果を踏まえて…

○食の学校をオープン(平成 26年から)

①目的 ・邑南町の農業と食文化を 100 年先の子どもたちに伝承するための食農教

育の実施

・6次産業化の推進に向けた邑南町の食材の活用策の研究・新商品開発及び

テストマーケティング

・来訪者が魅力を感じる来町動機の魅力創造及び町内滞在時間の延長化のた

めの邑南町の農業と食文化の洗い出し及び情報整理

②手法 ・食のプロ、伝統食を知る地元の方々による料理教室等

③成果 ・世界に羽ばたく一流シェフの養成

・町民の食の意識の向上

・農産物の付加価値の向上

<農林商工等連携ビジョンの数値目標と実績> ~平成 27年 11月状況~

①食の農に関する 5名の起業家輩出

→28名(飲食店 8名、農家民泊 20名)

②定住人口 200名の確保

→200名達成

③観光入り込み客年間 100万人の実現

→91万人(昨年も 91万人)

※目標達成するために → 新たな取り組み

1.教育機関との連携…島根大学と連携し、集落維持に関する調査や研究、矢上高校の

将来ビジョンの策定を行うため邑南町役場に共同研究所を設置

2.キーとなるコーディネーターの育成…I ターン者の増加は定住支援コーディネータ

ーの役割が大きく、今後外国人観光客の取り入れも視野に入れながらインバウドコー

ディネーターの育成といった役場職員以外のキーとなるコーディネーターを育成し

「まちづくり」を進めて行く必要がある。

3.雇用・定住の推進…産業創出をはじめ若者や女性の企業を支援する拠点として、平

成 27年 5月に企業支援センターを設置。実践起業塾開催、起業希望者の相談窓口設

置、ビジョン策定などを行っている。また、地域おこし協力隊の任期終了後のフォロ

ーについても行う。

4.観光の振興…広域連携として海のある浜田市や広島市と食の連携協定を結ぶ。

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~説明後の河北町議会と邑南町の質疑応答~

Q:町長はじめ職員一丸となって取り組めている理由は何か。

A:町長から「日本一の子育ての村構想」に取り組むに当たって、各課職員に「定住促進」を

念頭に置いて業務を行うよう周知された。

組織づくりとして日本一子育て村推進本部を設置。

①…部会(教育総務部会、福祉部会、医療保健部会)

役場内で組織され、個別事項を具体的に検討し幹事会へ報告する。

②…幹事会

定住促進課長、財政課長、福祉課長、保健課長等により構成される。

③…本部会議

幹事会からの意見を各種団体代表者及び公募による町民によって検討する。

この仕組みのもと、出生届の写しのプレゼントや車用ステッカー配布などが実現してい

る。また、各課横断に的に取り組むという観点から、税務課が固定資産税の通知書を発

布する際に空き家を所有し町外に転出している方へ「空き家改修補助制度」のチラシを

同封するなど定住促進の取り組みも行っている。

Q:総合戦略をどのように捉えているか。

A:公民館単位(12地区)のまちづくりを進めており、町の方針が木の幹であれば、12地

区のまちづくりプランが枝となっている。総合戦略においても町の目標という一括りに

するのではなく、各地域のプランを付け加えて戦略を策定している。

Q:小さな保育所においても職員の配置や完全給食となると財政的負担が大きいと思うが。

A:9 カ所保育所があり全て社会福祉法人が運営している。3 カ所が公設民営で指定管理制

度を導入しており運営費の委託料を支払っている。残り 6カ所は民設民営で国からの運

営費により運営している。運営費だけでは足りないので一部町が負担している。小さな

保育所は赤字となるが、地域に保育所を残すことで町民の方々も子育てに関わりやすい

環境を作ることに繋がっている。

プチ AJIKURA

役場前のショッピング

センターに店を構え

る。

リーズナブルなランチ

を提供しており、「耕

すシェフ」が調理をお

こなっている。

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●島根県邑南町 11月12日(木)13:30~15:00

・定住支援コーディネーターについて

(説明者:邑南町役場定住促進課 横洲竜 定住支援コーディネーター)

<定住人口の推移>

年度 問合せ件数 定住世帯数 定住者数 (うち児童数)

22年度

(9月~) 72 13 22 3(2世帯)

23年度 153 24 30 4(3世帯)

24年度 160 24 42 7(6世帯)

25年度 138 35 56 10(7世帯)

26年度 147 36 63 16(9世帯)

27年度

(10/20現在) - 9 21 -

合計 670 141 234 40(27世帯)

平成 22年から定住支援コーディネーターを行っており、定住前の相談から定住後のフォ

ローまで行っている。定住率は 88%となっている。

<質問①>

移住者の受け皿として住宅の問題はあるか。

<回答①>

住宅の確保に一番苦労した。住宅の空きも少なく、空き家はボロボロといった状態であっ

た。

<質問②>

町営住宅の入居は選考委員会的なものがあるのか。

<回答②>

町営住宅は新築の場合は 2週間くらいの募集を行い、抽選で入居者を決める。障害等ある

場合は優先的に入居することができるが基本抽選を行っている。募集しても応募者がいない

場合は、随時入居することが可能となる。

現在は定住促進住宅が建設されたり空き家も整備されてきている。空き家の条件等リスト

アップしておき、移住者の要望(地区、間取り、価格等)とマッチし、空きが出た場合はこ

ちらから連絡するようにしている。「勝手にホームページを見て確認してください」というよ

うな対応はしないようにしている。「ご希望に合う物件があればこちらから連絡しますよ」と

伝え「待機者リスト」に登録する。

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<質問③>

今現在、入居待ちの待機者はいるのか。

<回答③>

十数件の待機者がいる。それぞれ条件が違うの

で1件空きがでれば3人くらいに声掛けを行う。

問合せ件数は年間 150件前後あるが、これは町

内の方からの問合せも入っている。移住だけの話

ではなく町内の人を外に出さないことも大事な

ので町内の人へも対応している。

<質問④>

移住の相談を受けるときに住むところ以外の相談は。

<質問④>

仕事は選ばなければあるが、女性の方で事務の仕事があれば来たいと言うような場合です

ぐに見つからず後から連絡するが、もう移住を諦めていたりすることが多い。仕事と家があ

れば移住者は増えていると思う。コーディネーターとしては家を整えることで精一杯の現状

がある。

<質問⑤>

平成 27年度から定住支援コーディネーターが 2名体制と聞いたが。

<回答⑤>

4月の人事異動で福祉課の福祉相談等を主に行っていた女性職員(課長補佐)が異動とな

り定住支援コーディネーターを行っている。また、移住者の奥さんの一人が臨時職員として

勤務している。

<質問⑥>

定住者の内訳は。若い世代が多いのか。

<回答⑥>

最近は子育て世代の移住が増えてきている。移住者のネットワークについても定住支援コ

ーディネーターが声掛けを行い輪を広げている。起業する人を探していたわけではないが、

移住者が増える中でお店を始めたい人が現れ、ランチだけのレストランやカフェを開く移住

者も出てきた。耕すシェフなど取り組みを行っているが、実際は金銭的な面からも起業する

ことは難しい。それよりも多くの移住者の希望を叶え町に来てもらい、雇用が自然発生する

形がいいのではと思っている。条件をつけて移住者を求めることは、全国的にも限られた人

数の中難しいものがある。

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<質問⑦>

地域おこし協力隊など北海道では人気が低いが、募集において何か特別なことをしている

か。

<回答⑦>

農林の部署において募集を行っているが、大変難航している。農業の現実的な厳しさをき

ちんと伝えるようにしており、希望者が減ってもいいから独り立ちすることの難しさなどを

きちんと説明するようにしている。来てからギャップがあるとクレームに繋がることもある。

3年後の保障はないことなど、移住者へは慎重な案内を心がけている。

<質問⑧>

これだけの移住者が多いのは何に魅力を感じているのか。

<回答⑧>

マスコミなどは「福祉に力を入れていて色々無料な制度があるからですか」と聞くが、移

住者は皆違うと答える。制度があることは嬉しいが決め手ではない。地元の人のウェルカム

さが一番である。昔ながらの自然であったり人付き合いを好む人が移住してきている。

なので移住してくる人は趣味が近い。広島市が近いことも条件的にはよく、ちょっと便利

な田舎暮らし初心者には住みやすい町となっている。広島からの移住が一番多い。次に関東、

関西の順である。

<質問⑨>

町内の仕事を取りまとめたりしているのか。

<回答⑨>

ハローワークと連携し、商工の部署において無料職業紹介所を設置している。もと邑南町

役場瑞穂支所長を再雇用し配置しており、顔が広く移住者の条件等幅広く聞き取り起業との

面接なども斡旋している。広報誌にも求人情報は掲載している。

<質問⑩>

民間がアパートを建築することはあるか。

<回答⑩>

民間が建てることはほとんどないことから、UIターン者向けに低コストな賃貸住宅を建設

する事業者に対して建設事業費を補助する「民間賃貸住宅建設支援事業補助金」制度の活用

を進めている。2LDK 以上の戸建てを建てると町から 500 万円補助、県から 150 万円補

助し、家賃は 3万 5千円以下とする。県の補助金は 10年間縛りがあるが、10年後売り払

うこともできるのでいくらかはペイすることも可能である。昨年は 9戸、今年は 7戸建築さ

れている。業者は建てるのはいいが入居者がいるのかという不安もあったが、問合せの多さ

などから納得させてきた。移住後 3年までであれば入居可能としている。

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<質問⑪>

保育所や小学校を統廃合しないのは集落を維持するためか。コンパクトシティなどの考え

はないのか。

<回答⑪>

それだけ色々な地域に移住者を増やすという町長の意思の表れでもある。同じ地域ばかり

に移住するのでなく、町の外れの方にも町営住宅を建設中であり、町内幅広く移住者を受け

入れようとしている。統廃合しないことに賛否両論はある。子どもの部活やコミュニケーシ

ョンの問題など。しかし自分の母校を無くしたくないという人が多く、町長もその思いは強

いようだ。

<質問⑫>

厚沢部町では「ちょっと暮らし」体験を行っているが、邑南町では移住者からそういった

声はないのか。

<回答⑫>

年間 2件くらい問合せはあり何とか対応はできるが、特におすすめはしていない。邑南町

ではないが、他町でちょっと暮らし用の住宅を観光に歩くための拠点とされてしまい定住に

なかなか結びついていない町もあると聞いている。いいなと思ったら住んでみないと始まら

ない。3年経っても 5年経っても答えはでないかもしれない。不安があるから一歩踏み出せ

ないでいることが多いと思うので、そこをいかにフォローしてやれるかが大事だと思ってい

る。移住する方は事前に見学に来る方がほとんどであり、そのフォローも行う。その場合は

宿泊の手配についても行う。

【移住について熱い思いを語る定住支援コーディネーターの横洲氏】

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●島根県邑南町 11月12日(木)15:30~16:00

・里山イタリアン AJIKURAについて

(説明者:AJIKURA 南原悦子 料理長)

邑南町では、これまでインターネットサイト

「みずほスタイル」や道の駅瑞穂において豊かな

農畜産物の PR と販売について一定の成果をあ

げることができた。この経験から平成 22 年に

「農林商工等連携ビジョン」を策定し、「A級グ

ルメのまち」の実現を目指し、平成 23年に地産

地消レストランとして「AJIKURA」をオープン

した。

魅力的な「食」を発信するだけでなく、「耕すシェフ」による農業から調理までできるシェ

フを育てる人材育成も行っている。

現在の南原料理長は、一年半地域おこし協力隊の「耕すシェフ」として勤務の後、AJIKURA

に就職し料理長となっている。メニューの考案も料理長が行う。

邑南町で取れる新鮮な野菜や石見牛に誇りを持ち、その魅力をお客様に伝えていければそ

れが「A級グルメ」であると南原料理長は言う。

【酒蔵を改築した雰囲気のある AJIKURA店内】

【邑南町(AJIKURA)での視察を終えて】

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≪邑南町での視察を終えて≫

今回の視察研修にあたっては、まず「日本一の子育て村構想」という大胆なフレーズに引

きつけられた部分が大きい。厚沢部町総合戦略を策定する中で、私たち 3人は「若い世代の

結婚・出産・子育ての希望をかなえる」という基本目標のもと計画の検討を行ったわけだが、

邑南町においては、地方創生が叫ばれる前から人口減少にいち早く危機感を持ち課題解決に

向け取り組みが行われていた。

現在の石橋町長は、まちづくりの基本を「女性と子どもの貧困が最大の課題」と捉え、平

成 22 年に「日本一の子育て村構想」を掲げた。その後、攻めと守りのプロジェクトとして

「日本一の子育て村構想」や「A級グルメ構想」さらには徹底した移住者サポートを行うこ

とで直近 5年平均の合計出生率は 2.20、平成 25年は 2.65となっている。社会動態もここ 2

年間プラスとなっており、全国から注目が集まっている。海士町でもそうであったが、町長

の信念と職員の思いが本当にうまく合致し物事に取り組んでいる印象を強く受けた。町長の

トップダウンというところは大きいが、一つの目標に向かい各課がタッグを組み課題に立ち

向かっている。そんな印象である。

総合戦略を検討する中で、今の厚沢部町の子育て環境を考えたとき、例えば病児保育だっ

たり、障害児保育、また一時預かり保育など、子を持つ親であれば誰もがこんなサービスが

あればいいな、と思うような取り組みを邑南町は実践している。なぜそこまでして子育てに

力を注ぐのか。邑南町も海士町と同じく地元の高校がある。海士町が思っているように子ど

もの減少は高校の存続に直結し、高校が無くなるということは地域が衰退し町自体の存続に

関わる問題であると邑南町も認識している。つまり邑南町も「この町を次の世代にどう残す

か」ということに必死なのだ。

また邑南町では子育てと同じくらい移住者に手厚いサポートを行っており、雇用や居住の

相談から移住後の地域での近所付き合いなどのフォローまで行っている。特に雇用について

はハローワークと連携した無料職業紹介所を商工課に設置するなど、移住者をたらい回しに

しないような取り組みも行われている。また担当者の横洲さん自身が I ターン者であること

からも、移住希望者の気持ちに寄り添ったフォローができているのだと思う。何よりも移住

者の気持ちに寄り添い丁寧な対応を心がけているとのことであった。話を伺っても仕事をや

らされているのではなく、志を高く持ち取り組んでいることが伝わる。移住者もそんな横洲

さんだからこそ頼りにしこの町にやってくるのだと思う。

地域おこし協力隊制度をうまく活用した「耕すシェフ」については、農家をしながら料理

をするというのは現実的に両立が難しいとの声も聞かれたが、農業を経験することで農家の

気持ちを理解したり、育てる野菜に誇りを持てるようになることは、その人自身が料理をす

るときに活きてくるのだろうと思った。攻めのプロジェクトである「A級グルメ構想」と守

りのプロジェクトである「日本一の子育て村構想」が定住促進とうまくマッチングした戦略

は、今後の厚沢部町における「まちづくり」のヒントとなることは間違いない。

この経験を活かし厚沢部町のために尽力したい。

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≪全 体 総 括≫ 今回の視察で感じたこと。今の厚沢部町において必要なこと。 ●危機意識を持つ 人口減少や農業の担い手不足など町が抱える諸問題に対して、職員一人ひとり

がより危機意識を持ちまちづくりに取り組む。 ●横断的な取り組み 縦割り行政ではなく、他課との繋がりを意識し、職員が同じビジョンを持ってまちづくりを進める。 ●将来ビジョンの共有 総合計画や総合戦略といった計画をいかに職員に浸透させるか。町民が幸せと思える将来ビジョンのもと職員のモチベーションを上げまちづくりを進める。 ●戦略的な情報発信 インパクトある取り組みやネーミングを戦略的に発信していくことの必要性。職員一人ひとりが情報発信の主役となれるような意識改革。 ●まちづくりとひとづくり まちづくりの原点はひとづくりであり、町の宝である子どもたちへの支援は未来への投資である。役場でも同じであり、どんなに良い制度があっても実行する

のは人である。まちづくりの一歩はひとづくりから始まる。 ●厚沢部町への思い 厚沢部町のために何ができるか、厚沢部町がどうあるべきか、次の世代にどうバトンタッチするか、この思いをしっかり持てるかどうか。日常的に行う業務も

もちろん大事な住民サービスに関わるものではあるが、この思いを持って普段の

業務にプラスアルファ何ができるかを考えることが必要。 ●行動・実践・フォロー その上で考えるだけではなく行動を起こす。「やらない・できない」理由を探すのではなく、今やれることを探し行動・実践に繋げる。そして検証を行う。考え

るだけで終わらせるのではなく、まず動く。 その行動に対して誰がフォローするか。目指すべきものが同じであれば必然的にフォローが生まれ、職員一丸となったまちづくりの一歩へと繋がる。