平成26年度司法書士試験解説 午前の部 午前の部第1問...

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-1- 平成26年度司法書士試験解説 午前の部 午前の部第1問 正解5 誤り。判例は、検閲を「行政権が、思想内容等の表現物を対象とし、網羅的一般的に、 発表前にその内容を審査したうえ、不適当なものの発表を禁止すること」ととらえたう えで、検閲は絶対に禁止される、としている(最判昭59.12.12。税関事件判決)。 本肢は、検閲主体を「公権力」と広く解しているから誤りである。 誤り。判例は、検閲は絶対禁止される、としている(ア参照)。 誤り。裁判所は行政権ではないから、検閲主体にはあたらない(ア参照)。 正しい。判例は、教科書検定は検閲ではない、とする(第一次家永教科書訴訟判決(最 判平5.3.16)。その理由として、不合格となった場合、教科書としては発行でき ないが、一般図書として発行することができる点を挙げている。 正しい。判例は、検閲をアのように解したうえで、税関検査は、関税徴収手続の一環 として行われているから、思想内容の網羅的一般的規制ではなく、検閲にはあたらない、 としている。 よって、正しい肢はエとオであり、5が正解となる。 ★判例問題。難易度:易。各肢とも正誤の判断は容易である。 午前の部第2問 正解2 誤り。国政調査権の性質については、補助的権能説(議院に与えられた権能を実効的 に行使するために認められた補助的な権能である、とする説)と、独立権能説(国権の 最高機関性に基づく、国家統括のための独立した権能である、とする説)があるが、補 助的権能説に立ったとしても、「個別具体的な行政事務の処理の当否を調査する目的で 国政調査権を行使することはできない」ことにはならない。 正しい。両議院は、各々その総議員の3分の1以上の出席がなければ、議事を開き議 決することができない(憲法56条1項)。 誤り。予算について、参議院で衆議院と異なった議決をした場合に、法律の定めると ころにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は参議院が、衆議院 の可決した予算を受け取った後、国会休会中の期間を除いて30日以内に、議決しない ときは、衆議院の議決が国会の議決となる(憲法60条2項)。これが、予算について の衆議院の優越性の内容であり、法律案のように、3分の2以上による衆議院の再議決 によって成案となる旨の規定(憲法59条2項)はない。 誤り。国会議員が国会で行った質疑等において、国民の名誉や信用を低下させる発言 があり、それが国家賠償法のいう違法な行為に該当したとしても、国の損害賠償責任が 生じるためには、当該国会議員が、その職務とはかかわりなく違法または不当な目的を もって事実を摘示し、あるいは、虚偽であることを知りながらあえてその事実を摘示す るなど、国会議員がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと 認めうるような特別な事情のあることが必要である(最判平9.9.9)。本肢は、「国 が賠償責任を負うことはない」とするから、誤りである。 誤り。特別会においても、衆議院と参議院はともに開会される(同時活動の原則)。 禁:無断複製(C)飯島正史 平成26年度司法書士試験解説

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    平成26年度司法書士試験解説

    午前の部

    午前の部第1問 正解5

    ア 誤り。判例は、検閲を「行政権が、思想内容等の表現物を対象とし、網羅的一般的に、

    発表前にその内容を審査したうえ、不適当なものの発表を禁止すること」ととらえたう

    えで、検閲は絶対に禁止される、としている(最判昭59.12.12。税関事件判決)。

    本肢は、検閲主体を「公権力」と広く解しているから誤りである。

    イ 誤り。判例は、検閲は絶対禁止される、としている(ア参照)。

    ウ 誤り。裁判所は行政権ではないから、検閲主体にはあたらない(ア参照)。

    エ 正しい。判例は、教科書検定は検閲ではない、とする(第一次家永教科書訴訟判決(最

    判平5.3.16)。その理由として、不合格となった場合、教科書としては発行でき

    ないが、一般図書として発行することができる点を挙げている。

    オ 正しい。判例は、検閲をアのように解したうえで、税関検査は、関税徴収手続の一環

    として行われているから、思想内容の網羅的一般的規制ではなく、検閲にはあたらない、

    としている。

    よって、正しい肢はエとオであり、5が正解となる。

    ★判例問題。難易度:易。各肢とも正誤の判断は容易である。

    午前の部第2問 正解2

    1 誤り。国政調査権の性質については、補助的権能説(議院に与えられた権能を実効的

    に行使するために認められた補助的な権能である、とする説)と、独立権能説(国権の

    最高機関性に基づく、国家統括のための独立した権能である、とする説)があるが、補

    助的権能説に立ったとしても、「個別具体的な行政事務の処理の当否を調査する目的で

    国政調査権を行使することはできない」ことにはならない。

    2 正しい。両議院は、各々その総議員の3分の1以上の出席がなければ、議事を開き議

    決することができない(憲法56条1項)。

    3 誤り。予算について、参議院で衆議院と異なった議決をした場合に、法律の定めると

    ころにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は参議院が、衆議院

    の可決した予算を受け取った後、国会休会中の期間を除いて30日以内に、議決しない

    ときは、衆議院の議決が国会の議決となる(憲法60条2項)。これが、予算について

    の衆議院の優越性の内容であり、法律案のように、3分の2以上による衆議院の再議決

    によって成案となる旨の規定(憲法59条2項)はない。

    4 誤り。国会議員が国会で行った質疑等において、国民の名誉や信用を低下させる発言

    があり、それが国家賠償法のいう違法な行為に該当したとしても、国の損害賠償責任が

    生じるためには、当該国会議員が、その職務とはかかわりなく違法または不当な目的を

    もって事実を摘示し、あるいは、虚偽であることを知りながらあえてその事実を摘示す

    るなど、国会議員がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと

    認めうるような特別な事情のあることが必要である(最判平9.9.9)。本肢は、「国

    が賠償責任を負うことはない」とするから、誤りである。

    5 誤り。特別会においても、衆議院と参議院はともに開会される(同時活動の原則)。

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    平成26年度司法書士試験解説

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    平成26年度司法書士試験解説

    よって、正しい肢は2であり、2が正解となる。

    ★条文・判例問題。難易度:易。見慣れない判例があったかも知れないが、結局、条文知

    識で2が正解であると判断できる。

    午前の部第3問 正解5

    ア 正しい。国家試験における合否の判定は、司法審査の対象とはならない(最判昭41.

    2.8)。

    イ 正しい。権利義務に関する争訟であっても、宗教問題が前提となっている場合は、裁

    判所は判断をすることはできない(最判昭56.4.7)。

    ウ 誤り。裁判所は、地方議会議員に対する懲罰のうち、出席停止については判断できな

    いが、除名処分については判断できる(最判昭35.10.19)。自律的法規範を持

    つ社会、団体にあっては、当該規範の実現を内部規律の問題として自治的措置に任せる

    のがよい(これは、部分社会の法理に共通して言えることである。)。ただし、一般市

    民秩序につながる問題(除名処分等)については司法審査権の範囲内である。

    エ 誤り。政党が党員に対してした処分は、一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部

    的な問題にとどまる限り、裁判所の審判権は及ばない。

    オ 正しい。衆議院の解散の違憲性について、裁判所は判断をすることはできない(統治

    行為論。最判昭35.6.18)。

    よって、誤っている肢はウとエであり、5が正解となる。

    ★判例問題。難易度:易。正解肢のウエの選択は容易である。

    午前の部第4問 正解3

    ア 否定説の根拠となる。民法96条3項を取消しの遡及効から第三者を保護する規定で

    ある、ととらえると、錯誤は初めから無効であるから、類推を否定することとなる。

    イ 肯定説の根拠となる。錯誤によって意思表示をした者について、欺された者より帰責

    性が大きい、と考えると、より第三者を保護すべきこととなるから、民法96条3項(第

    三者保護規定)の類推を肯定することとなる。

    ウ 肯定説の根拠にはならない。民法96条3項は、取消前に第三者が現れた場合にこれ

    を保護する規定である。したがって、錯誤無効の主張後に第三者が現れた場合を、取消

    後に第三者が現れた場合と同視する、といっても、それは同項を類推することにはなら

    ない。

    エ 肯定説の根拠となる。錯誤無効と詐欺による取消しのいずれを主張するかによって第

    三者の地位が左右されるべきではない、とすると、錯誤の場合も民法96条3項を類推

    適用して、同じ結論を導くべき、ということになる。

    オ 否定説の根拠となる。表意者の要保護性が高い、とすると、民法96条3項(第三者

    保護規定)の類推を否定することとなる。

    よって、肯定説の根拠となるのはイエであり、3が正解となる。

    ★見解問題。難易度:中。なじみのない論点であったかもしれないが、落ち着いて考える

    ことができれば、アイの判断で正解が可能である。

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    午前の部第5問 正解4

    ア 誤り。代理人が本人のためにすることを示さないでした意思表示は、自己のためにし

    たものとみなされる(民法100条本文)。ただし、相手方が、代理人が本人のために

    することを知り、又は知ることができたときは(相手方に悪意又は過失がある場合は)、

    本人に対して直接にその効力を生ずる(但書)。代理人が自己の名を示さず、本人の名

    だけを示した場合、そのような権限が与えられていれば、有効な代理行為となる(大判

    大9.4.27。我妻P346)。

    イ 正しい。ア参照。

    ウ 誤り。代理人が権限を濫用した場合、判例は、心裡留保の規定を類推適用する(最判

    昭42.4.20)。したがって、相手方が代理人の真意を知り又は知り得べき場合(悪

    意又は有過失)は代理行為は無効であり、本人に履行を請求することはできない。

    エ 誤り。無権代理であることを相手方が知っていたとき又は過失(軽過失を含む。)に

    より知らなかったとき(悪意又は有過失)は、無権代理人の責任を追及することはでき

    ない。

    オ 正しい。無権代理人がした契約は、本人が追認をしない間は、相手方が取り消すこと

    ができる。ただし、契約の時において代理権を有しないことを相手方が知っていたとき

    (悪意)は、この限りでない(民法115条)。すなわち、相手方は、善意である場合

    に限り、取消権を有する。過失の有無は問わない。

    よって、正しい肢はイとオであり、4が正解となる。

    ★条文・判例問題。難易度:易。イウ又はイエの判断で正解が可能である。

    午前の部第6問 正解4

    ア 消滅時効が完成する。本問の場合、消滅時効が完成するのは、起算日(支払期限=平

    成15年10月1日)から10年を経過した平成25年10月1日(の午前零時)であ

    る。裁判上の請求は、訴えの却下又は取下げの場合には、時効の中断の効力を生じない

    (民法149条)。

    イ 消滅時効が完成する。時効の期間の満了前6か月以内の間に未成年者又は成年被後見

    人に法定代理人がないときは、その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となっ

    た時又は法定代理人が就職した時から6か月を経過するまでの間は、その未成年者又は

    成年被後見人に対して、時効は、完成しない(民法158条1項)。本肢の場合、消滅

    時効が完成するのは、新たな成年後見人が選任された平成25年11月1日から6か月

    を経過した平成26年5月2日(の午前零時。初日不算入)である。

    ウ 消滅時効は完成していない。和解の申立て又は調停の申立ては、相手方が出頭せず、

    又は和解若しくは調停が調わないときは、1か月以内に訴え(又は破産手続参加、差押

    え、仮差押え、仮処分等の強力な中断事由。大判昭4.6.22)を提起しなければ、

    時効の中断の効力を生じない(民法151条)。本問の場合、時効完成前に調停の申立

    てがなされ、調停不調から1か以内に訴えが提起されているから、消滅時効は中断した

    こととなる。

    エ 消滅時効は完成していない。裁判上の請求によって中断した時効は、裁判が確定した

    時から、新たにその進行を始める(民法157条2項)。本問の場合、平成21年7月

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    平成26年度司法書士試験解説

    1日から新たな消滅時効が進行するから、平成26年7月6日の時点では消滅時効は完

    成していない。

    オ 消滅時効が完成する。催告は、6か月以内に、裁判上の請求、支払督促の申立て、和

    解の申立て、民事調停法若しくは家事審判法による調停の申立て、破産手続参加、再生

    手続参加、更生手続参加、差押え、仮差押え又は仮処分をしなければ、時効の中断の効

    力を生じない(民法153条)。催告をしてから6か月以内に再度催告をしても、当初

    の中断効を維持することはできず、やはり、当初時効が完成すべき時点で時効が完成す

    る(大判大8.6.30)。本問の場合、催告を繰り返しただけで、催告から6か月以

    内に裁判上の訴え等をしていないから、本来、消滅時効が完成すべき時期に消滅時効が

    完成する。

    よって、消滅時効が完成していない肢はウとエであり、4が正解となる。

    ★条文問題。難易度:易。全肢とも判断は容易である。アイウの判断で正解が可能である。

    午前の部第7問 正解2

    ア 誤り。土地所有権に基づく物権的請求権を行使して建物収去・土地明渡しを請求する

    場合において、建物の現実の所有者と登記名義人が異なる場合、相手方とすべきは、原

    則として現実の所有者だが、自らの意思で所有権登記を経由した者(旧所有者=譲渡人)

    は現所有者でなくても相手方となる(最判平6.2.8)。本肢のCは、過去に乙建物

    を取得したことはないから、これを相手方とすることはできない。

    イ 正しい。共有者の一人から第三者への無効な持分移転登記がなされた場合は、各共有

    者は、単独で、その抹消を請求することができる。例えば、AB共有不動産につきCへ

    の無効なB持分全部移転登記がなされた場合、BのみならずAも単独で、Cに対して、

    当該持分移転登記の抹消を請求することができる(最判平15.7.11)。この場合

    も、Cの登記によって共有不動産に対する妨害状態が生じているといえるからである 。

    ウ 誤り。物権的請求権を行使するためには、現に、物権の侵害又はそのおそれ(目的物

    の占有の喪失、一部の侵害、侵害のおそれ)があれば足りる。請求の相手方は、現に占

    有等によってその侵害又はそのおそれを生じさせている者であり、その者に故意過失が

    あることは要件ではない(この点、不法行為による損害賠償請求とは異なる。)。

    エ 誤り。不動産の所有者は、不動産の不法占拠者に対して、未登記でも明渡しを請求し

    (物権的請求権の行使)、又は不法行為による損害賠償請求をすることができる(最判

    昭25.12.19)。

    オ 正しい。物権から派生する権利である物権的請求権は、物権から独立して消滅時効に

    かからない(我妻P500)。

    よって、正しい肢はイとオの2個であり、2が正解となる。

    ★判例問題。難易度:易。基本的な判例の理解により、正解が可能である。

    午前の部第8問 正解4

    ア 正しい。占有開始時(時効の起算点)をずらすことはできない(最判昭35.7.2

    7)。

    イ 誤り。時効完成後に第三者が現れた場合、時効取得者は、未登記で第三者に対抗する

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    ことはできない(最判昭42.7.21)。しかし、本肢のCは原所有者の相続人であ

    り、第三者にはあたらない。時効取得者のBは、原所有者Aに未登記で時効取得を対抗

    できるのと同様、Cに対しても対抗することができる。

    ウ 誤り。時効完成後の第三者(所有権取得者)が登記を受けた時から、時効取得者たる

    占有者が時効取得に必要な占有を継続すれば、再度、時効が完成し、未登記で、当該第

    三者に対抗することができる(最判昭36.7.20)。

    エ 誤り。時効完成後に現れた第三者が背信的悪意者にあたる場合は、未登記でも対抗す

    ることができる(通常の二重譲渡の場合と同じ。)。第三者(本肢のC)が背信的悪意

    者にあたるためには、第三者(C)が、時効取得者(B)が取得時効の成立要件を充足

    していることをすべて具体的に認識している必要はないが(認識していなくても背信的

    悪意者になりうる。)、少なくとも、時効取得者による多年にわたる占有継続の事実を

    認識している必要がある(そうでなければ、背信的悪意者にはならない。最判平18.

    1.17)。本肢のCは、時効取得者による多年にわたる占有継続の事実を認識してい

    るから、背信的悪意者にあたり、Bは、Cに対して、未登記で時効取得を対抗すること

    ができる。

    オ 誤り。時効完成前に第三者が現れた場合、時効取得者は、未登記で第三者に対抗する

    ことができる(最判昭41.11.22)。現れたのが時効完成前であれば、第三者が

    登記を得たのが時効完成後であっても同じである。

    よって、誤っている肢はアを除く4個であり、4が正解となる。

    ★判例問題。難易度:易。基本的な判例の理解により正解が可能である。

    午前の部第9問 正解3

    ア 誤り。囲繞地通行権を有する者は、必要があるときは、通路を開設することができる

    (民法211条2項)。

    イ 正しい。賃借人は、対抗要件を備えていれば、囲繞地通行権を有する(最判昭36.

    3.24)。

    ウ 正しい。分割又は一部譲渡によって公道に通じない土地が生じたときは、その土地の

    所有者は、公道に至るため、他の分割者の所有地のみを通行することができる。この場

    合においては、償金を支払うことを要しない(民法213条1項)。土地の分割や一部

    譲渡によりBがAの所有地(丙土地)のみに囲繞地通行権を有している場合において、

    Aが囲繞地をCに譲渡した場合であっても、特則が適用される。

    エ 誤り。土地の一部譲渡によっても、囲繞地通行権は発生する(ウ参照)。この場合、

    譲渡人に袋地の認識は当然にあるから、当該認識の有無は関係ない。

    オ 誤り。競売も、一部譲渡には違いないから、買受人は無償の囲繞地通行権を有する。

    よって、正しい肢はイとウであり、3が正解となる。

    ★判例・条文問題。難易度:易。基本的な条文及び判例の理解によりアイで正解が可能で

    ある。

    午前の部第10問 正解3

    ア 誤り。地上権においては、地代は要素ではない。したがって、無償でもよい。永小作

    権においては、小作料は要素(必須)である。地役権の対価については、民法に規定は

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    平成26年度司法書士試験解説

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    ないが、判例は、地役権は無償に限る、としている(大判昭12.3.10)。本肢は、

    地役権に関する記述が誤りである。

    イ 正しい。抵当権の民法の定める目的物は、不動産の所有権、地上権、永小作権である

    (民法369条1項、2項)。これに対し、地役権は、要役地から分離して譲り渡し、

    又は他の権利の目的とすることができない(民法281条2項)。

    ウ 正しい。地上権の存続期間を定める場合においては、長期短期とも制限はない。永久

    とすることも許される(大判明36.11.16)。また、民法には地役権の存続期間

    に関する規定はない。これに対し、永小作権の存続期間を定める場合は、20年以上5

    0年以下でなければならない。設定行為で50年より長い期間を定めたときであっても、

    その期間は、50年となる(民法278条1項)。

    エ 誤り。区分地上権は、第三者がその土地の使用又は収益をする権利を有する場合にお

    いても(既存の用益権者の存在)、その権利又はこれを目的とする権利を有するすべて

    の者の承諾があるときは、設定することができる(民法269条の2第2項前段)。「既

    存の用益権者」には地役権者も含まれる(これを除外する規定はない。)。

    オ 誤り。地役権が設定された後における要役地の地上権者・永小作人は、地役権を行使

    することができる(我妻P412)。

    よって、正しい肢はイとウであり、3が正解となる。

    ★条文問題。難易度:易。イウの正誤の判断は容易であり、これのみで正解が可能である。

    午前の部第11問 正解3

    ア 正しい。不動産の売買の先取特権の効力を保存するためには、売買契約と同時に(売

    買による所有権移転登記と同時に、の意味である。)、不動産の代価又はその利息の弁

    済がされていない旨を登記しなければならない(民法340条)。

    イ 誤り。不動産の工事の先取特権の効力を保存するためには、工事を始める前に工事費

    用の予算額を登記しなければならない(民法338条1項前段)。

    ウ 正しい。同一の不動産について特別の先取特権が互いに競合する場合には、その優先

    権の順位は、次の順序に従う(民法331条1項。民法325条で規定されている順位

    である。)。

    ①不動産の保存

    ②不動産の工事

    ③不動産の売買

    エ 正しい。不動産の保存の先取特権の効力を保存するためには、保存行為が完了した後

    直ちに登記をしなければならない(民法337条)。登記をした不動産保存又は不動産

    工事の先取特権は、先に登記をした抵当権に優先する(民法339条)。

    オ 誤り。一般の先取特権(債務者の不動産にも当然成立する。)は、不動産について登

    記をしなくても、特別担保(抵当権等)を有しない債権者に対抗することができる(民

    法336条本文)。登記をした第三者に対しては、未登記で優先弁済権を主張すること

    はできない(但書)。

    よって、誤っている肢はイとオであり、3が正解となる。

    ★条文問題。難易度:易。すべて基本的な条文の知識を問うものである。アイのみの正誤

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    の判断で、正解が可能である。

    午前の部第12問 正解2

    ア 誤り。利息その他の定期金、債務不履行による損害賠償(損害金)は、満期となった

    最後の2年分についてのみ、その抵当権を行使することができる。利息その他の定期金

    と債務不履行による損害賠償(損害金)のいずれも発生するときは、両者を通算して2

    年分を超えることができない(民法375条1項、2項)。この2年分の制限は、配当

    を受ける際の制限である。したがって、債務者に代わって被担保債権を任意に弁済して

    抵当権を消滅させるためには、誰彼を問わず(設定者のみならず、後順位抵当権者や一

    般債権者が弁済する場合も)、延滞利息の全部を弁済しなければならない(我妻P25

    0)。

    イ 誤り。他人の債務を担保するため抵当権を設定した者(物上保証人)は、その債務を

    弁済し、又は抵当権の実行によって抵当不動産の所有権を失ったときは、保証債務に関

    する規定に従い、債務者に対して求償権を有する(民法372条、351条)。ただし、

    物上保証人は、保証人と異なり事前求償権を有しない(最判平2.12.18)。

    ウ 誤り。抵当不動産の第三取得者は、抵当権消滅請求をすることができる(民法379

    条)。ただし、主たる債務者、保証人及びこれらの者の承継人は、抵当権消滅請求をす

    ることができない(民法380条)。

    エ 正しい。抵当権は、債務者及び抵当権設定者(物上保証人)に対しては、その担保す

    る債権と同時でなければ、時効によって消滅しない(民法396条)。

    オ 正しい。物上代位による差押えの前に債権譲渡がなされ対抗要件が執られた場合であ

    っても、物上代位が優先し、抵当権者はなお債権を差し押さえて物上代位をすることが

    できる(最判平10.1.30)。

    よって、正しい肢はエとオの2個であり、2が正解となる。

    ★判例・条文問題。難易度:易。すべて基本的な判例及び条文の知識を問うものであり、

    個数問題であっても正解が可能である。

    午前の部第13問 正解2

    ア 正しい。法定地上権が成立するためには、抵当権設定当時、土地と建物が同一の所有

    者に帰属していなければならない。登記上は土地と建物の所有者が異なっていても、実

    際は同一人であれば、法定地上権が成立する(大判昭7.10.21)。法定地上権は、

    土地の利用の調整規定であり、対抗問題ではないからである。

    イ 誤り。1番抵当権設定当時、土地と建物の所有者が異なる場合は、後に同一人になっ

    た後に2番抵当権が設定されても、法定地上権は成立しない(最判平2.1.22)。

    ウ 誤り。本肢の場合、抵当権設定当時、土地と建物が同一の所有者に帰属しているから、

    土地又は建物のいずれに設定された抵当権が競売された場合であっても、法定地上権が

    成立する。

    エ 誤り。法定地上権が成立するためには、土地の上に建物が存在していなければならな

    い(更地に設定された場合は不可)。更地に抵当権が設定された後、建物が建てられ、

    土地にさらに抵当権が設定された場合は、2番抵当権に基づいて競売がなされて土地と

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    平成26年度司法書士試験解説

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    平成26年度司法書士試験解説

    建物の所有者が別人となっても、法定地上権は成立しない。2番抵当権を基準とすれば、

    抵当権設定当時に建物が存在するが、成立するとなると、1番抵当権者を害するからで

    ある。順位変更により2番抵当権が1番抵当権より先順位になってもいても同じである

    (最判平4.4.7)。

    オ 正しい。建物に1番抵当権設定当時、土地と建物の所有者が異なるが、後に同一人に

    なった後に2番抵当権が設定された場合、法定地上権が成立する(大判昭14.7.2

    6)。この場合に法定地上権の成立を認めても、1番抵当権者を害さないからである。

    よって、正しい肢はアとオであり、2が正解となる。

    ★判例問題。難易度:易。基本的な判例知識によりアイの正誤が判断できれば、正解が可

    能である。

    午前の部第14問 正解4

    ア 誤り。根抵当権設定契約において、確定期日を定めることができる(必須ではない。)。

    イ 正しい。根抵当権の債権の範囲又は債務者の変更には、後順位の抵当権者その他の第

    三者の承諾を得ることを要しない(民法398条の4第2項)。

    ウ 誤り。根抵当権者は、確定した元本並びに利息その他の定期金及び債務の不履行によ

    って生じた損害の賠償の全部(2年分に限らない。)について、極度額を限度として、

    その根抵当権を行使することができる(極度額支配。民法398条の3第1項)。

    エ 正しい。元本の確定前に根抵当権者から債権を取得した者や、元本の確定前に債務者

    のために又は債務者に代わって弁済をした者は、その債権について根抵当権を行使する

    ことができない(民法398条の7第1項)。

    オ 誤り。根抵当権の極度額は、これを変更することができる(民法398条の5)。元

    本確定前後を問わない。

    よって、正しい肢はイとエであり、4が正解となる。

    ★条文問題。難易度:易。超基本的な条文問題である。容易に正解が可能である。

    午前の部第15問 正解4

    ア 正しい。例えば、Bが所有する不動産をAに譲渡担保に供した後、弁済期後に当該不

    動産をAの債権者Cが差し押さえた場合、Bは、差押登記後に債務の全額を弁済しても、

    第三者異議の訴えにより強制執行の不許を求めることはできない。なぜなら、弁済期後

    は、譲渡担保権者は目的不動産を処分する権能を取得するから、設定者としては、目的

    不動産が換価処分されることを受忍すべき立場にあるというべきところ、譲渡担保権者

    の債権者による目的不動産の強制競売による換価も、譲渡担保権者による換価処分と同

    様に受忍すべきだから、差押え後に受戻しができなくてもやむを得ないというべきだか

    らである(最判平18.10.20)。

    イ 正しい。Bが所有する不動産をAに譲渡担保に供した後、当該不動産をAがCに弁済

    期後に譲渡した場合、Bは、目的物を受け戻すことはできない。いずれの構成に立って

    も、弁済期後は、譲渡担保権者は処分権限を取得し有効に処分することができ、その場

    合は、設定者は受け戻すことができなくなる。したがって、譲受人は確定的に所有権を

    取得する(最判平6.2.22)。BC間の関係は、対抗関係ではない(前主後主の関

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    平成26年度司法書士試験解説

    係である。)。第三者Cが背信的悪意者にあたるか否かは関係ない(対抗関係ではない

    から。)。

    ウ 誤り。譲渡担保権者が譲渡担保権を実行すると、債務者(設定者)は、受戻しができ

    なくなる。逆に言うと、債務者(設定者)は、実行されるまで受け戻すことができる。

    エ 正しい。譲渡担保の実行方法(優先弁済を受ける方法=確定的に所有権を取得する方

    法)には帰属清算型と処分清算型がある。いずれも、譲渡担保権者は、目的物の価額と

    被担保債権額の差額を設定者に支払わなければならない(清算型。最判昭46.3.2

    5)。設定当初、譲渡担保契約が帰属清算型、処分清算型のいずれであったかを問わず、

    弁済期後は、譲渡担保権者は、目的物を処分する権能を取得する(最判平6.2.22)。

    オ 誤り。仮登記担保権や譲渡担保権を有する債権者に対する清算金支払請求権を被担保

    債権として、留置権が成立する(最判昭58.3.31、最判平9.4.11)。すな

    わち、仮登記担保権等が実行されて確定的に所有権を取得した債権者が債務者に対して

    目的物の引渡しを請求した場合、債務者は、清算金の支払いを受けるまで留置権に基づ

    き目的物の引渡しを拒むことができる。債権者から譲渡を受けた第三者からの引渡請求

    に対しても同様である。

    よって、誤っている肢はウとオであり、4が正解となる。

    ★判例問題。難易度:易。重要判例の理解を問うものである。アイウのみの正誤の判断で、

    正解が可能である。

    午前の部第16問 正解1

    ア 誤り。債権者代位権の被保全債権の履行期は、原則として到来していなければならな

    い。ただし、次の場合は、履行期が到来していなくても債権者代位権を行使できる(民

    法423条2項)。

    ①裁判上の代位の場合

    ②保存行為を代位してする場合

    これに対し、詐害行為取消権の被保全債権については、その取得時期が詐害行為前で

    あれば、履行期が到来しているか否かは関係ない(最判昭46.9.21。債権者代位

    権と異なる。)。

    イ 誤り。金銭債権を保全するために、金銭債権を代位行使する場合は、代位行使できる

    範囲は、代位債権者の債権額に限られる(最判昭44.6.24)。また、金銭の移転

    行為を詐害行為取消権を行使して取り消して取り戻す場合も、詐害行為時の取消権者の

    債権額が限度となる。

    ウ 誤り。債権者が債権者代位権を行使した場合と詐害行為取消権を行使した場合のいず

    れの場合も、債権者が支出した費用は債務者に求償することができる。

    エ 正しい。債権者代位権は、裁判上、裁判外を問わず、行使することができる。これに

    対し、詐害行為取消権の行使は、必ず訴えによらなければならない(民法424条本文)。

    オ 誤り。債権者代位権を行使して代位訴訟をする場合の被告は第三債務者である。また、

    詐害行為取消権を行使して訴えを提起する場合の被告は受益者のみである。

    よって、正しい肢はエの1個であり、1が正解となる。

    ★判例・条文問題。難易度:中。求償についてはピンとこなかったかもしれない。個数問

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    平成26年度司法書士試験解説

    題なので、その点が響くことがあるかもしれない。

    午前の部第17問 正解2

    ア 正しい。債権譲渡は、譲渡人と譲受人の譲渡契約によって行う。これに対し、債権者

    更改は、新旧債権者と債務者の三面契約でする。債権譲渡と異なり、必ず債務者も契約

    の当事者となっていなければならない。

    イ 誤り。債権譲渡の第三者に対する対抗要件は、確定日付のある証書によってする通知

    又は承諾である(民法467条2項)。これに対し、債権者更改の第三者に対する対抗

    要件は、確定日付のある証書によってする契約である。債務者は必ず契約の当事者とな

    るから(ア参照)、これに対する通知又は承諾が対抗要件となるのではない。

    ウ 誤り。債権譲渡登記制度は、法人が金銭債権(指名債権に限る。)の譲渡をした場合

    において、当該債権の譲渡につき債権譲渡登記ファイルに譲渡の登記がされたときは、

    当該債権の債務者以外の第三者については、確定日付のある証書による通知があったも

    のとみなす制度である。更改は債権譲渡ではないから、この制度の適用はない。

    エ 誤り。債権譲渡の場合は、債務者が異議をとどめないで承諾をした場合は、債務者は、

    対抗要件がとられるまでに生じた抗弁事由をもって、譲受人に対抗することができない

    (抗弁切断。民法468条1項前段)。債務者が異議をとどめて承諾をした場合は、債

    務者は、対抗要件がとられるまでに生じた抗弁事由をもって、譲受人に対抗することが

    できる(民法468条1項前段の反対解釈、2項)。債権者更改には、この民法468

    条1項が準用されるから、債務者が異議をとどめた場合は、抗弁権は消滅しない。

    オ 正しい。抵当権の被担保債権が譲渡された場合は、それが物上保証人が設定した抵当

    権であっても、当然に抵当権も譲受人に移転する(随伴性)。これに対し、更改の当事

    者は、更改前の債務の目的の限度において、その債務の担保として設定された質権又は

    抵当権を更改後の債務に移すことができる(民法518条本文)。新旧債務には同一性

    はないから、旧債務の担保は消滅するのが原則である。それを当事者の合意により特に

    存続することを認めたものである。ただし、第三者がこれを設定した場合(物上保証の

    場合)には、その承諾を得なければならない(但書)。

    よって、正しい肢はアとオであり、2が正解となる。

    ★条文問題。難易度:中。特別法を含めなじみが薄い分野であるから、解答にとまどった

    かもしれない。

    午前の部第18問 正解3

    ア 誤り。請負の目的物に瑕疵がある場合の損害賠償請求権と、報酬支払債権相互間には、

    当事者のどちらか一方が相殺の意思表示をするまで同時履行の抗弁権が成立する(民法

    634条2項後段)。報酬額の方が損害賠償額より大きい場合でも、注文者は、信義則

    に反する場合を除き、損害賠償を受けるまで報酬全額の支払いを拒むことができる(最

    判平9.2.14)。

    イ 正しい。仕事の目的物に瑕疵があり、そのために契約をした目的を達することができ

    ないときは、注文者は、契約の解除をすることができる。ただし、建物その他の土地の

    工作物については、解除することはできない(民法635条)。

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    平成26年度司法書士試験解説

    ウ 正しい。建物その他の土地の工作物の請負で、工作物又は地盤に瑕疵がある場合、担

    保責任の追求は、仕事の目的物を引き渡したときから5年以内にしなければならない(民

    法638条1項本文)。担保責任の存続期間は、契約で民法167条の消滅時効期間(1

    0年)まで伸長することができる(民法639条)。

    エ 誤り。注文者は、瑕疵の修補に代えて、又はその修補とともに、損害賠償の請求をす

    ることができる(民法634条2項前段)。

    オ 誤り。請負契約における仕事の目的物の瑕疵について、修補に代える損害の賠償を請

    求する場合の損害の額の算定は、右修補請求の時が基準となる(最判昭36.7.7)。

    よって、正しい肢はイとウであり、3が正解となる。

    ★判例・条文問題。難易度:易。判例を知らなくても、基本的な条文知識を問うイウのみ

    の正誤の判断で、正解が可能である。

    午前の部第19問 正解1

    ア 正しい。組合契約は、各当事者(組合員)が出資をして共同の事業を営むことを約す

    ることによって成立する契約である。出資の種類に制限はない。労務をその目的とする

    こともできる(民法667条2項)。

    イ 誤り。組合の業務の執行は、組合員の過半数で決する(民法670条1項)。組合契

    約で業務執行を委任した者が数人あるときは、その過半数で決する(2項)。以上にか

    かわらず、組合の常務は、各組合員又は各業務執行者が単独で行うことができる。ただ

    し、その完了前に他の組合員又は業務執行者が異議を述べたときは、この限りでない(3

    項)。その場合は、原則に戻り、組合員の過半数で決する。

    ウ 正しい。業務執行組合員を定めていない場合の組合の業務執行権と代理権はパラレル

    である。したがって、常務を除き、組合員の過半数によって代理行為をすることができ

    る(大判明40.6.13)。

    エ 誤り。当事者が損益分配の割合を定めなかったときは、その割合は、各組合員の出資

    の価額に応じて定まる(民法674条1項)。

    オ 誤り。脱退した組合員と他の組合員との間の計算は、脱退の時における組合財産の状

    況に従ってしなければならない。すなわち、払戻しがなされる(民法681条1項)。

    除名によって脱退した場合も同様である。

    よって、正しい肢はアとウであり、1が正解となる。

    ★条文・判例問題。難易度:易。条文知識によるアウ又はアエの正誤の判断で、正解が可

    能である。

    午前の部第20問 正解3

    ア 誤り。未成年者を養子とするには、家庭裁判所の許可を得なければならない(民法7

    98条本文)。ただし、自己又は配偶者の直系卑属を養子とする場合は、家庭裁判所の

    許可は不要である(但書)。本問の場合、C男が養子とするBは未成年者であるが、C

    男の配偶者A女の直系卑属であるから、家庭裁判所の許可は要しない。

    イ 正しい。子が養子であるときは、養親の親権に服する(民法818条2項)。ただし、

    養親と実親が夫婦の場合は、共同親権となる(昭25.9.22民甲2573号)。

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    平成26年度司法書士試験解説

    ウ 誤り。 養子は、養親の氏を称する(民法810条本文)。ただし、婚姻によって氏

    を改めた者については、婚姻の際に定めた氏を称すべき間は、この限りでない(但書)。

    本問のC男は、この但書に該当する。

    エ 正しい。縁組前に出生した養子の子と、養親及びその血族との間には、親族関係は生

    じない。

    オ 誤り。配偶者のある者が縁組をするには、その配偶者の同意を得なければならない(民

    法796条本文)。同意がない場合は、同意をしていない者が縁組の取消しを請求する

    ことができる。

    よって、正しい肢はイとエであり、3が正解となる。

    ★条文・判例問題。難易度:易。基本的な条文知識によるアイのみの正誤の判断で、正解

    が可能である。

    午前の部第21問 正解2

    ア 正しい。親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う(民法818条3項本文)。

    ただし、父母の一方が親権を行うことができないとき(長期旅行、後見開始の審判等)

    は、他の一方が行う(但書)。

    イ 誤り。子の出生前に父母が離婚した場合には、親権は、母が行う。ただし、子の出生

    後に、父母の協議で、父を親権者と定めることができる(民法819条3項)。離婚し

    た父母が共同親権を行うことはない。

    ウ 誤り。父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなけ

    ればならない(民法819条1項)。こうして親権者が父又は母の一方に定められた場

    合において、子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の親族の請

    求によって、親権者を他の一方に変更することができる(6項。家事事件手続法別表第

    二8)。当事者の協議で変更することはできない。

    エ 正しい。利益相反行為にあたるか否かは、もっぱら行為の外形で決すべきであり、親

    権者の意図や実質的効果によって決すべきではない(形式判断説。最判昭49.9.2

    7)。したがって、子の養育費捻出のためであっても親権者を債務者とする抵当権を子

    所有不動産に設定する行為は利益相反行為であり、特別代理人を選任しないでした代理

    行為は無権代理であり無効である。

    オ 誤り。親権停止の審判とは、父又は母による親権の行使が困難又は不適当であること

    により子の利益を害する場合に、2年を超えない範囲内で、親権を停止することを内容

    とする家庭裁判所の審判である(民法834条の2)。親権喪失と異なり、「著しく」

    は要件ではない。

    よって、正しい肢はアとエであり、2が正解となる。

    ★条文問題。難易度:易。基本的な条文の知識を問うアイのみの正誤の判断で、正解が可

    能である。

    午前の部第22問 正解1

    ア 誤り。相続の承認・放棄をするには、財産行為についての行為能力を要する。したが

    って、未成年者の相続の承認・放棄は、法定代理人の同意を得て自身でするか、法定代

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    平成26年度司法書士試験解説

    理人が未成年者を代理してする。

    イ 誤り。相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内(熟

    慮期間)に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない(民

    法915条1項)。ただし、相続人が相当な理由により相続財産(保証債務)が全く存

    在しないと信じていた場合は、熟慮期間は、通常これを認識しうべき時から起算する(最

    判昭59.4.27)。

    ウ 正しい。限定承認又は放棄の前に、相続人が相続財産の全部又は一部を処分すること

    は、単純承認事由にあたる(民法921条)。保存行為及び短期賃貸借にあたる賃貸は、

    単純承認事由には含まれない。

    エ 誤り。相続の承認及び放棄は、熟慮期間内でも、撤回することができない(民法91

    9条1項)。

    オ 誤り。すべての相続人が相続を放棄した場合は、相続人不存在の手続をすることとな

    り、特別縁故者への財産分与がなされかった場合の残余財産は、原則として、国庫に帰

    属する(民法959条前段)。帰属時期は、現実に残余財産が引き継がれた時である。

    よって、正しい肢はウの1個であり、1が正解となる。

    ★条文・判例問題。難易度:中。個数問題であるので、正確な知識がなければ正解は難し

    かったかもしれない。

    午前の部第23問 正解5

    ア 取得できない。本肢の場合、Bに遺贈する旨の第一の遺言を第二の遺言で撤回してい

    るから、Bへの遺贈の効力は生じない。第一の遺言が公正証書遺言で、第二の遺言が自

    筆証書遺言であったとしても、このことに違いはない。

    イ 取得できない。本肢の場合、Bに遺贈する旨の第一の遺言とCに遺贈する旨の第二の

    遺言の内容が抵触するから、第一の遺言の撤回が擬制される(民法1023条1項)。

    撤回行為が撤回され、又は詐欺強迫以外の理由により取り消され、又は失効しても、遺

    言の効力は回復しない(民法1025条本文)。ただし、第二の遺言を撤回する第一の

    遺言が、第一の遺言の復活を明示的に希望している場合は、第一の遺言の効力は回復す

    る。本肢の場合、第一の遺言の復活を明示的に希望していないから、Bへの遺贈の効力

    は生じない。

    ウ 取得できない。停止条件付きの遺贈については、受遺者(本肢のC)がその条件の成

    就前に死亡したときは効力を生じない。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示

    したときは、その意思に従う(民法994条2項)。本肢の場合、遺言者がその遺言に

    別段の意思を表示していないから、遺贈は失効し、Cの相続人Bが遺贈を承認して甲土

    地を取得することはできない。

    エ 取得する。本肢の場合、停止条件付きの遺贈の条件が成就しているから、遺贈の効力

    が生じている。受遺者と遺贈者の相続人は対抗関係ではないから、受遺者Bは、未登記

    で、登記を得た相続人Cに所有権を対抗することができる。

    オ 取得する。受遺者(本肢のC)が遺贈の承認又は放棄をしないで死亡したときは、そ

    の相続人(本肢のB)は、自己の相続権の範囲内で、遺贈の承認又は放棄をすることが

    できる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う(民

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    平成26年度司法書士試験解説

    法988条)。本肢の場合、遺言者がその遺言に別段の意思を表示していないから、B

    は遺贈を承認して甲土地を取得することができる。

    よって、Bが遺贈を承認して甲土地を取得することができる肢はエとオであり、5が正解

    となる。

    ★条文問題。難易度:中。条文知識を問う問題であるが、学習が薄くなる箇所なので、苦

    戦したかもしれない。

    午前の部第24問 正解2

    ア 正しい。共謀共同正犯とは、二人以上の者が犯罪の実行を共謀し、そのうちの一部の

    者だけが実行をした場合、実行をしなかった他の共謀者も共同正犯になる、というもの

    である。順次共謀でも全員が共同正犯となる(最判昭33.5.28)。

    イ 誤り。共同正犯中、重い罪を犯した者には重い罪が成立し、軽い罪を犯した者との間

    で軽い罪の限度で共同正犯となる(最決平17.7.4。シャクティ治療殺人事件)。

    本肢の場合、殺意のなかったAについては殺人罪の共同正犯は成立せず、強盗致死罪が

    成立する。殺意のあったBについては殺人罪が成立し、強盗致死罪の限度でAとの間で

    共同正犯となる。

    ウ 誤り。共犯が実行に着手した後に離脱が認められれば、他の共犯が生じさせた致死傷

    につき責任を問われない。離脱の要件は、犯罪が遂行されるおそれを消滅させることで

    ある。これをしなければ、共犯関係を解消したとは言えない(最判平1.6.26)。

    「もう止めよう、俺帰る。」と告げて立ち去っただけでは、共犯関係が消滅したとはい

    えず、本肢のAについては、Bとともに傷害致死罪が成立する。

    エ 正しい。業務上の物の占有者でない者が業務上横領罪に加功したときは、業務上横領

    罪の共犯が成立するが、刑法65条2項により単純横領罪の刑が科せられる(最判昭3

    2.11.19)。ただし、現在の最高裁判所は罪刑一致を求めている、とする説もあ

    る。

    オ 誤り。従犯を幇助した場合(間接従犯)、従犯と同様に処罰される(明文はないが、

    最判昭44.7.17)。

    よって、正しい肢はアとエであり、2が正解となる。

    ★判例問題。難易度:中。アの正誤の判断は容易であるが、アと組合されているイとエの

    正誤は、学説における異論もあって困難である。

    午前の部第25問 正解3

    ア 誤り。一個の住居侵入行為と三個の殺人行為とがそれぞれ牽連犯の関係にある場合に

    は、全体を科刑上一罪として(併合罪ではなく)、その最も重い刑に従って処断すべき

    である(かすがい現象。最決昭29.5.27)。

    イ 正しい。殺人罪と死体損壊(遺棄)罪は、併合罪である(大判昭9.2.2、大判明

    43.11.1)。

    ウ 誤り。文書の偽造罪と行使罪は、牽連犯である。

    エ 正しい。異なる所有者に属する物を損壊した場合、所有者の数だけ器物損壊罪が成立

    し、一個の行為によって行っているので観念的競合となる。

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    平成26年度司法書士試験解説

    オ 誤り。窃盗罪のような状態犯(既遂となった後も違法状態が継続する犯罪)が犯され

    た場合において、事後になされた行為が犯罪を構成するように見えても、それがもとの

    構成要件で予定されているものであれば、別罪を構成しない(不可罰的事後行為)。例

    えば、窃盗(詐欺)罪の犯人が、窃取(詐取)した物を毀損しても、器物損壊罪は成立

    しない。盗品等の毀損は、窃盗罪等の構成要件で予定されている(評価しつくされてい

    る)からである。

    よって、正しい肢はイとエであり、3が正解となる。

    ★判例問題。難易度:易。重要判例の知識を問うアイのみの正誤の判断で、正解が可能で

    ある。

    午前の部第26問 正解4

    ア 誤り。飲食店で、始めから代金支払いの意思なく注文をした場合、1項詐欺罪が成立

    する(大判大9.5.8)。

    イ 誤り。他人のクレジットカードを入手した者が、自己をカード名義人本人と誤信させ

    て財物の交付を受けた場合、1項詐欺罪が成立する(最決平16.2.9)。

    ウ 正しい。欺罔行為と交付(処分)との間には、因果関係が必要である。欺罔行為があ

    ったが、相手方が錯誤に陥らず、憐憫の情から財物を与えた場合は、詐欺罪の未遂であ

    る(大判大11.12.22、大塚改訂増補版P247)。

    エ 正しい。誤振込みにより銀行口座に過剰入金があった場合、民事上は、誤振込みであ

    ったとしても受取人が銀行に対して預金債権を取得するが、刑法上の占有は銀行にある。

    これをキャッシュディスペンサーで引き出せば窃盗罪が成立する(東京高判平6.9.

    12)。通帳で引き出せば詐欺罪が成立する(最決平15.3.12)。

    オ 誤り。不動産の騙取を目的とする詐欺罪が成立するためには、人を欺いて所有権移転

    に関する意思表示をさせただけでは十分でなく、現実にその占有を移転させるか、また

    は所有権移転登記を完了させることが必要である(大判大11.12.15)。この場

    合は、不動産(財物)を目的とするものであるから、1項詐欺罪が成立する。

    よって、正しい肢はウとエであり、4が正解となる。

    ★判例問題。難易度:易。ややこしい判例もあるが、ウエは基本判例であり、その正誤の

    判断で、正解が可能である。

    午前の部第27問 正解4

    ア 正しい。公益法人や協同組合も発起人になることができる(昭36.8.15民甲2

    011号)。

    イ 誤り。 各発起人は、株式会社の設立に際し、設立時発行株式を1株以上引き受けな

    ければならない(会社法25条2項)。発起人のうちある者が1株も引き受けないこと

    となった場合は、設立無効原因となる。

    ウ 正しい。設立登記に至らなかった場合(株式会社が不成立の場合)は、発起人は、連

    帯して、株式会社の設立に関してした行為についてその責任を負い、株式会社の設立に

    関して支出した費用を負担する(会社法56条)。募集設立の場合において、発起人以

    外の者であって、募集の広告その他募集に関する書面(電磁的記録)に自己の氏名又は

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    平成26年度司法書士試験解説

    名称及び株式会社の設立を賛助する旨を記載(記録)することを承諾した者は、発起人

    とみなして(疑似発起人)、発起人としての責任を負う(会社法103条2項)。

    エ 正しい。創立総会は、発起人が創立総会招集に際して定めた決議事項以外の事項につ

    いては、決議をすることができない。ただし、次の事項は、招集の決定の際に議題とし

    て定められていなくても決議することができる(会社法73条4項)。

    ①定款変更

    ②株式会社の設立の廃止

    オ 誤り。設立無効判決が確定すると、株式会社の設立は、将来に向かってのみ無効とな

    り(会社法839条)、株式会社は清算手続に入る(会社法475条2号)。

    よって、誤っている肢はイとオであり、4が正解となる。

    ★条文問題。難易度:易。条文知識によるイウ又はイオの正誤の判断で、正解が可能であ

    る。

    午前の部第28問 正解2

    ア 誤り。株式が二人以上の者の共有に属するときは、共有者は、当該株式についての権

    利を行使する者一人を定め、株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければ、

    当該株式についての権利を行使することができない。ただし、株式会社が当該権利を行

    使することに同意した場合は、この限りでない(会社法106条)。共有者間で権利行

    使者を定めるにあたっては、持分の価格に従いその過半数をもってこれを決することが

    できる(最判平9.1.28)。

    イ 正しい。共有者が選定した権利行使者は、自己の判断に基づいて議決権を行使するこ

    とができる(最判昭53.4.14)。

    ウ 誤り。株主総会の決議不存在確認の訴えについては、条文上は、提訴権者について制

    限はないが、一般論として、訴えには訴えの利益が必要である。相続により株式を共有

    する共同相続人は、原則として、株主の権利の行使者として指定を受け、その旨が会社

    に通知がなされない限り、株主総会決議不存在確認の訴えを提起することはできない。

    ただし、その株式が会社の発行済株式の全部に相当し、共同相続人のうちの一人を取締

    役に選任する旨の総会決議がされたとして登記されている場合には、他の共同相続人は、

    当該指定及び通知を欠く場合であっても、この決議の不存在確認の訴えを提起する原告

    適格を有する(最判平2.12.4)。

    エ 正しい。旧法下においても、「権利行使者の指定および会社に対する通知を欠くとき

    には、共有者全員が議決権を共同して行使する場合を除き、会社の側から議決権の行使

    を認めることは許されない」とし(最判平11.12.14)、共有者全員が議決権を

    共同して行使する場合に会社の側から議決権の行使を認めることを許していた。会社法

    においては、一般的に、会社からの権利行使を認めている(ア参照)。したがって、少

    なくとも、「共有者全員が議決権を共同して行使する場合」に会社が議決権行使を認め

    ることができるとする本肢は正しい。

    オ 正しい。株式を未成年の子とその親権者が共有する場合において、親権者が未成年の

    子を代理して株主の権利を行使すべき者を指定する行為は、親権者と子との間の利益相

    反行為にはあたらない(最判昭52.11.8)。

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    平成26年度司法書士試験解説

    よって、誤っている肢はアとウであり、2が正解となる。

    ★判例問題。難易度:難。旧法時代の判例問題であり、肢のからみで解こうとしても困難

    であったと思われる。

    午前の部第29問 正解4

    ア 正しい。株式会社は、買取通知をしようとするときは、本店所在地の供託所に金銭(1

    株あたりの純資産額×対象株式数)を供託して譲渡等承認請求者に供託を証する書面を

    交付しなければならない。

    イ 誤り。譲渡等承認請求者は、買取通知により売買が成立した後は、株式会社の承諾を

    得た場合に限り請求を撤回することができる。

    ウ 正しい。株式会社又は譲渡等承認請求者は、買取通知(売買成立)から20日以内に

    裁判所に売買価格決定の申立てをすることができる。

    エ 正しい。株式会社が指定買取人を指定するには、定款で指定買取人を定めていた場合

    において、定款に別段の定めがない場合は(本問はこの場合に該当する。)、取締役会

    設置会社の場合は取締役会の決議で指定し、非取締役会設置会社は株主総会の特別決議

    で指定する。

    オ 誤り。株式会社が指定買取人を指定した場合は、指定買取人は、譲渡等承認請求者に

    対して買取通知をしなければならない。通知をするのは株式会社ではなく指定買取人で

    ある。

    よって、誤っている肢はイとオであり、4が正解となる。

    ★条文問題。難易度:易。条文知識によるアイエのみの正誤の判断で、正解が可能である。

    午前の部第30問 正解3

    ア 誤り。監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めを廃止する

    定款の変更をした場合、監査役の任期は、当該定款変更の効力が生じた時に満了する(会

    社法336条4項)。しかし、取締役の任期は満了しない。

    イ 正しい。委員会を置く旨の定款変更をした場合、取締役、会計参与及び監査役の任期

    は当該定款変更の効力が生じた時に満了する(会社法332条4項、334条1項、3

    36条4項)。

    ウ 正しい。累積投票で選任された取締役の解任は、株主総会の特別決議(本肢の決議)

    でする。

    エ 誤り。取締役が監査役選任(選任のみであり、解任は含まれない。)議案を株主総会

    に提出するには監査役(二人以上ある場合は過半数。監査役会設置会社の場合は監査役

    会)の同意を得なければならない(会社法343条1項、3項)。

    オ 誤り。本肢の場合、Aが取締役を辞任しても取締役に欠員は生じないから、権利義務

    承継取締役とはならない。すると、代表取締役の前提資格を失うから、権利義務承継代

    表取締役にもならない。

    よって、正しい肢はイとウであり、3が正解となる。

    ★条文問題。難易度:易。イウのみの正誤の判断で、正解が可能である。

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    平成26年度司法書士試験解説

    午前の部第31問 正解5

    ア 第2説である。第2説(異質説)においては、取締役の忠実義務は、取締役が株式会

    社の利益を犠牲にして自己又は第三者の利益を図ってはならない(会社の利益が会社以

    外の利益により動かされない)、という義務である。

    イ 第2説である。第2説(異質説)においては、取締役が忠実義務に違反した場合の責

    任は単なる債務不履行責任(過失責任)ではなく、無過失責任となるが、これに対して

    は、わが国の私法体系が過失責任を原則とすることを理由に適切ではないとの批判がな

    される。

    ウ 第1説である。第1説(同質説)は、取締役の忠実義務は、善管注意義務を強行規定

    にしたところに意味がある、とする。

    エ 第2説である。第2説(異質説)においては、取締役が忠実義務に違反した場合の責

    任は単なる債務不履行責任ではなく、取締役が受けた利益を全部返還しなければならな

    い責任となる。

    オ 第1説である。第1説(同質説)においては、取締役が忠実義務に違反した場合の責

    任は過失責任となり、過失の有無については本肢記載の事情が考慮されることとなる。

    よって、第1説を指す肢はウとオであり、5が正解となる。

    ★見解問題。難易度:難。これまで出題されなかった論点であり、試験の場での検討は困

    難であったと思われる。

    午前の部第32問 正解3

    ア 正しい。持分会社の社員の加入の効力は、合名会社及び合資会社の場合は、加入に係

    る定款変更をしたときに発生する(会社法604条2項)。これに対し、合同会社の社

    員の加入の効力は、定款変更と出資の履行のうちいずれか遅い時に発生する(3項)。

    イ 誤り。持分会社の社員は、やむを得ない事由があるときは、いつでも退社することが

    できる。持分会社の種類によって違いはない。

    ウ 誤り。持分会社の社員は、持分会社に対し、出資の払戻しを請求することができる。

    合同会社の場合は出資の払戻しには本肢記載の定款変更を要するが、合名会社及び合資

    会社の場合は、定款変更は要しない。

    エ 正しい。合同会社の債権者は、当該合同会社の営業時間内は、いつでも、その計算書

    類(作成した日から5年以内のものに限る。)について社員と同様の請求(閲覧・謄写

    の請求等)をすることができる(会社法625条)。合名会社及び合資会社の債権者は、

    こうした請求をすることはできない。

    オ 正しい。持分会社(合名会社と合資会社に限る。)は、自律的解散(存続期間の満了、

    解散の事由の発生、総社員の同意)をした場合は、定款又は総社員の同意で決定した財

    産の処分方法にしたがって、清算をすることができる(任意清算)。合同会社は、任意

    清算をすることはできない。

    よって、誤っている肢はイとウであり、3が正解となる。

    ★条文問題。難易度:易(中)。しっかりと条文をおさえていれば、アイのみの正誤の判

    断で、正解が可能である。ただし、会社法の中でもマイナー分野であるので、「易(中)」

    とした。

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    平成26年度司法書士試験解説

    午前の部第33問 正解2

    ア 誤り。会社は、社債を発行する場合には、社債管理者を定めなければならない。ただ

    し、次の各場合は、その限りでない(会社法702条)。

    ①各社債の金額が1億円以上である場合

    ②ある種類の社債の総額を当該種類の各社債の金額の最低額で除して得た数が50を

    下回る場合(会社法施行規則169条)

    本肢の場合、①②のいずれの要件も満たさないから、社債管理者を置かなければなら

    ない。

    イ 正しい。社債管理者は、社債権者のために社債に係る債権の弁済を受け、又は社債に

    係る債権の実現を保全するために必要な一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有

    する(会社法705条1項)。

    ウ 正しい。社債管理者は、イの行為又は社債権者集会の決議に基づいてすべき行為をす

    るために必要があるときは、裁判所の許可を得て、社債発行会社の業務及び財産の状況

    を調査することができる(会社法705条4項、706条4項)。

    エ 誤り。社債管理者が社債権者集会を招集するには、裁判所の許可は要しない。

    オ 正しい。社債管理者は、社債発行会社及び社債権者集会の同意を得て辞任することが

    できる。この場合において、他に社債管理者がないときは、当該社債管理者は、あらか

    じめ、事務を承継する社債管理者を定めなければならない(会社法711条1項)。

    よって、誤っている肢はアとエであり、2が正解となる。

    ★条文問題。難易度:易(中)。しっかりと条文をおさえていれば、アイのみの正誤の判

    断で、正解が可能である。ただし、会社法の中でもマイナー分野であるので、「易(中)」

    とした。

    午前の部第34問 正解4

    ア 誤り。事業譲渡と吸収分割のいずれの場合も、その対価は金銭には限定されない(事

    業譲渡について江頭第二版P858)。

    イ 誤り。事業譲渡の相手方には限定がないので自然人であってもよい(会社法コンメP

    35)。これに対し、吸収分割承継会社は、会社(会社法が規定する四種の会社)でな

    ければならない。

    ウ 正しい。事業譲渡と吸収分割のいずれの場合も、略式手続があり、相手方が特別支配

    会社である場合は、株主総会の決議を要しない。

    エ 誤り。事業譲渡については債権者は異議を述べることはできない。これに対し、吸収

    分割株式会社において、人的分割以外の場合は、吸収分割後、吸収分割株式会社に債務

    の履行(連帯保証人としての履行請求を含む。)を請求できない債権者は吸収分割につ

    いて異議を述べることができ、人的分割の場合は、全債権者が吸収分割について異議を

    述べることができる。

    オ 正しい。事業譲渡は登記事項ではない。これに対し、会社分割をした旨は、吸収分割

    会社の本店所在地における登記事項である。

    よって、正しい肢はウとオであり、4が正解となる。

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    平成26年度司法書士試験解説

    ★条文問題。難易度:易。問題文には普段あまり聞かれない内容も含まれているが、登記

    法の学習をしていればオが正解肢の一つであることは容易に分かり、これと組み合わさ

    れているウエの正誤の判断も容易である。

    午前の部第35問 正解2

    ア 誤り。商行為の代理人が本人のためにすることを示さないでこれをした場合であって

    も、その行為は、原則として、本人に対してその効力を生ずる(商法504条本文)。

    ただし、相手方が、代理人が本人のためにすることを知らなかったときは、代理人に対

    して履行の請求をすることを妨げない(但書)。本肢の場合、「商行為の代理人」では

    なく、「法律行為が代理人にとって商行為」であるから、商法504条の適用はない。

    イ 正しい。商法504条但書(ア参照)は、相手方が善意であれば代理人に対して履行

    請求ができる、としているが、判例は、代理関係につき善意無過失の相手方は、商法5

    04条但書により、その選択に従い、本人との関係を否定して代理人との法律関係を主

    張することもできる、としている(最判昭43.4.24)。

    ウ 正しい。商法504条但書により相手方が本人または代理人を債権者として選択する

    ことができる場合に、本人が相手方に対し債務の履行を求めて提訴し、その訴訟係属中

    に相手方が債権者として代理人を選択した場合は、本人の請求は、当該訴訟が係属して

    いる間、当該代理人の債権につき催告に準じた時効中断の効力を有する(最判昭48.

    10.30)。

    エ 正しい。商行為の受任者は、委任の本旨に反しない範囲内において、委任を受けてい

    ない行為をすることができる(商法505条)。

    オ 誤り。商行為の委任による代理権は、本人の死亡によっては、消滅しない(商法50

    6条)。この規定は、委任行為自体が委任者から見て商行為である場合(例えば商人が

    支配人を選任する行為)のみに適用される(大判昭13.8.1)。

    よって、誤っている肢はアとオであり、2が正解となる。

    ★判例・条文問題。難易度:中。オが誤っていることは容易に判断がつくので、後はアエ

    の判断である。エの条文を学習していれば、正解が可能である。

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    平成26年度司法書士試験解説

    午後の部

    午後の部第1問 正解5

    ア 正しい。送達は、特別の定めがある場合を除き、職権でする(民事訴訟法98条1項)。

    イ 正しい。送達を受けるべき者は、当事者が訴訟無能力者の場合は、その法定代理人で

    ある(民事訴訟法102条1項)。

    ウ 誤り。日本国内に住所等を有することが明らかな者又は送達場所の届出をしている者

    で送達を受けることを拒まない者に対しては、出会った場所で送達することができる(民

    事訴訟法105条)。

    エ 誤り。送達は、就業場所以外の送達をすべき場所で、送達を受けるべき者に出会わな

    い場合、使用人その他の従業者又は同居者であって、書類の受領について相当のわきま

    えのある者に書面を交付する方法ですることができる(補充送達。民事訴訟法106条

    1項前段)。この場合、使用人等であって事理を弁識する能力を備えた者に書類が交付

    されれば送達の効力が生じる(基本コンメ第三版P267)。内容を了知する必要はな

    い。

    オ 正しい。交付送達や差置送達をすることができない場合には、裁判所書記官は、書類

    を書留郵便等に付して発送することができる(民事訴訟法107条1項)。この場合は、

    発送の時に、送達があったものとみなされる。

    よって、誤っている肢はウとエであり、5が正解となる。

    ★条文問題。難易度:易。基本的な条文の知識によるアイのみの正誤の判断で、正解が可

    能である。

    午後の部第2問 正解5

    ア 正しい。相手方が在廷していない口頭弁論においては、準備書面(相手方に送達され

    たもの又は相手方からその準備書面を受領した旨を記載した書面が提出されたものに限

    る。)に記載した事実でなければ、主張することができない(民事訴訟法161条3項)。

    イ 正しい。裁判所は、当事者(一方又は双方)が出頭しない場合は、手続を終了させる

    ことができる(民事訴訟法170条5項、166条)。

    ウ 誤り。証拠調べは、当事者が期日に出頭しない場合においても、することができる(民

    事訴訟法183条)。

    エ 誤り。請求の放棄又は認諾をする旨の書面を提出した当事者が口頭弁論等の期日に出

    頭しないときは、裁判所又は受命裁判官若しくは受託裁判官は、その旨の陳述をしたも

    のとみなすことができる(民事訴訟法266条2項)。

    オ 正しい。判決の言渡しは、当事者が在廷しない場合においても、することができる(民

    事訴訟法251条2項)。

    よって、誤っている肢はウとエであり、5が正解となる。

    ★条文問題。難易度:易。基本的な条文の知識によるアイのみの正誤の判断で、正解が可

    能である。

    午後の部第3問 正解2

    ア 正しい。補助参加人は当事者ではないから、これを証人として尋問することができる

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    平成26年度司法書士試験解説

    (伊藤第4版P636)。

    イ 誤り。証拠の申出を却下する裁判に対しては、終局判決に対する上訴によってこれを

    争う(新堂P522)。即時抗告をすることはできない。

    ウ 誤り。裁判所は、文書提出命令の申立てに係る文書が、一般的提出義務の除外事由(刑

    事事件関係文書であることを除く。)に該当するかどうかの判断をするため必要がある

    と認めるときは、文書の所持者にその提示をさせることができる。この場合においては、

    何人も、その提示された文書の開示を求めることができない(民事訴訟法223条6項)。

    エ 誤り。当事者が文書提出命令に従わないときは、裁判所は、当該文書の記載に関する

    相手方(挙証者)の主張を真実と認めることができる(民事訴訟法224条1項)。第

    三者が文書提出命令に従わないときは、裁判所は、決定で過料に処す(法225条1項)。

    文書提出命令を債務名義として強制執行をするのではない。

    オ 正しい。訴えの提起前における証拠保全の申立ては、尋問を受けるべき者若しくは文

    書を所持する者の居所又は検証物の所在地を管轄する地方裁判所又は簡易裁判所にしな

    ければならない(民事訴訟法235条2項)。

    よって、正しい肢はアとオであり、2が正解となる。

    ★条文問題。難易度:中。条文そのものではない知識を問う肢もあったので(アイ等)、

    てこずることがあったかもしれない。

    午後の部第4問 正解2

    ア 誤り。既判力は、事実審(控訴審まで)の口頭弁論終結時(標準時=基準時)までに

    生じた事項について生じる。基準時後に新たな事実が生じたのであれば(本肢の場合で

    いえば、訴訟要件が具備されたのであれば)、再訴が許される。

    イ 正しい。確定判決に基づいて強制執行がされた場合において、判決の成立過程におい

    て、原告が虚偽の事実を主張して裁判所を欺罔する等の不正な行為を行ない、その結果、

    本来ありうべからざる内容の確定判決を取得してこれを執行して被告に損害を与えた場

    合は、原告の行為は不法行為となり、被告は、再審の訴を提起するまでもなく、原告に

    対し、損害賠償請求をすることができる(最判昭44.7.8)。

    ウ 正しい。基準時前に取消権や解除権を行使できるのに行使しなかった場合、遮断効に

    より、後日これらを行使することはできない(最判昭36.12.12、最判昭55.

    10.23)。

    エ 誤り。一部請求であることを明らかにした請求(明示的一部請求)については、今回

    の請求と、残部請求の訴訟物は異なり、既判力は及ばない。したがって、残部を別訴で

    請求することは許される。

    オ 正しい。再審において原告となることができるのは、確定判決の効力を受け、かつそ

    の取消しを求める利益を有する者である。したがって、確定判決の当事者のほか、口頭

    弁論終結後の当事者の承継人も含まれる(最判昭46.6.3、新堂P811)。

    よって、誤っている肢はアとエであり、2が正解となる。

    ★判例問題。難易度:易。基本的な判例の知識を問うアウのみの正誤の判断で、正解が可

    能である。

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    平成26年度司法書士試験解説

    午後の部第5問 正解5

    ア 誤り。訴えは、判決が確定するまで、その全部又は一部を取り下げることができる(処

    分権主義。民事訴訟法261条1項)。判決の確定前であれば、控訴審においても取り

    下げることができる。

    イ 誤り。詐欺脅迫等明らかに刑事上罰すべき行為によってなされた訴えの取下げは無効

    である(最判昭46.6.25)。

    ウ 正しい。訴えの取下げは、相手方が本案について準備書面を提出し、弁論準備手続に

    おいて申述をし、又は口頭弁論をした後にあっては、相手方の同意を得なければ、その

    効力を生じない。訴えの取下げに同意しない旨の意思表示をした後、これを撤回してあ

    らためて同意をしても、訴えの取下げの効力は生じない(最判昭37.4.6)。

    エ 誤り。本訴の取下げがあった場合における反訴の取下げについては、相手方(反訴被

    告=原告)の同意は要しない(民事訴訟法261条2項但書)。

    オ 正しい。一審の終局判決が上級審で取り消され、差戻し後の一審においてあらためて

    本案の終局判決がなされるまでに訴えの取下げがなされた場合には、再訴禁止の効果は

    生じない(最判昭38.10.1)。

    よって、正しい肢はウとオであり、5が正解となる。

    ★判例・条文問題。難易度:易(中)。正解肢のウオの判例は知らないかもしれないが、

    他の肢(アイエ)は基本的な条文・判例であり、その正誤の判断で、正解が可能である。

    午後の部第6問 正解5

    ア 正しい。仮の地位を定める仮処分命令は、争いがある権利関係について債権者に生ず

    る著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができる

    (民事保全法23条2項)。

    イ 正しい。保全命令の申立ては、その趣旨並びに保全すべき権利又は権利関係及び保全

    の必要性を明らかにして、これをしなければならない(民事保全法13条1項)。保全

    すべき権利又は権利関係及び保全の必要性は、疎明しなければならない(2項)。

    ウ 正しい。仮の地位を定める仮処分命令は、口頭弁論又は債務者が立ち会うことができ

    る審尋の期日を経なければ、これを発することができない。ただし、その期日を経るこ

    とにより仮処分命令の申立ての目的を達することができない事情があるときは、