22 年1 月 社団法人 海外農業開発コンサルタンツ協会 -...

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ラオス人民民主共和国 商業化農業開発計画 プロジェクト・ファインディング調査報告書 平成 22 1 社団法人 海外農業開発コンサルタンツ協会

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  • ラオス人民民主共和国

    商業化農業開発計画

    プロジェクト・ファインディング調査報告書

    平成 22 年 1 月

    社団法人 海外農業開発コンサルタンツ協会

  • 目 次

    調査対象地域位置図

    1. 調査の背景および経緯.....................................................................................................1 2. 調査の目的 .......................................................................................................................1 3. 調査対象地域 ...................................................................................................................1 4. 地域農業の現況と課題......................................................................................................2

    (1) ラオス国における地域農業の現況と課題 ................................................................2 (2) 農業セクターの位置付けと動向...............................................................................2 (3) 農作物生産状況 ........................................................................................................3 (4) 地域的な特徴 ............................................................................................................5 (5) 農業セクターの課題 .................................................................................................8

    5. ラオス国における農業開発の方向性と関連計画.............................................................9 (1) 関連する上位計画.....................................................................................................9 (2) 農業・農村開発分野の関連計画.............................................................................10 (3) 2011 年以降の農業開発の方向性 ............................................................................ 11

    6. ラオス国における農産物の安全性向上とへの取り組み................................................12 (1) Promotion of Organic Farming and Marketing in Lao (PROFIL) ..................................13 (2) Internal Control System (ICS) ....................................................................................13 (3) ビエンチャン市オーガニック・マーケット...........................................................14

    7. タイにおける日系農産加工業と食の安全性確保への取り組み.....................................15 8. タイとラオスにおける農民組織化と契約栽培 ..............................................................16

    (1) タイにおける農民組織化........................................................................................16 (2) ラオスにおける農民組織化 ....................................................................................17 (3) 契約栽培の事例 ......................................................................................................18

    9. 商業化農業開発計画の構想 ...........................................................................................19 (1) 構想の着眼点 ..........................................................................................................19 (2) 民間セクターとの連携の重要性.............................................................................20 (3) 日本の ODA の開発協力プログラムとしての商業化農業開発計画の構想 ............20

    10. 官民連携スキームと農業分野への適用の可能性 .......................................................24 (1) 官民連携スキームと農業分野への適用の可能性 ...................................................24 (2) ラオス農業セクターへの適用について ..................................................................24 (3) 官民連携スキームの適用に向けて .........................................................................26

    11. 官民連携案件形成の課題と提言 ................................................................................26 (1) 課題.........................................................................................................................26 (2) 提言.........................................................................................................................27

  • 添付資料

    A. 調査団員構成 B. 調査日程 C. 収集資料 D. 面談者リスト

    現地写真集

  • まえがき

    社団法人 海外農業開発コンサルタンツ協会(ADCA)は、農林水産省の補助事業とし

    て平成 22 年 1 月 19 日から 1 月 30 日まで、ラオス人民民主共和国に調査団を派遣し、プロ

    ジェクト・ファインディング調査を実施した。本調査では、ラオス人民民主共和国において

    「商業化農業開発計画」について相手国政府関係者との打合せや、資料、情報収集および現

    場踏査を行い、その調査結果を本報告書にとりまとめた。

    本調査の実施に際しご協力頂きましたラオス人民民主共和国政府機関、日本大使館、JICA

    事務所、JICA 専門家など多くの関係者各位に深く感謝の意を表する次第である。

    平成 22 年 1 月

    プロジェクト・ファインディング調査団団長

    小田 哲郎

  • 様式 1-1 平成 21 年度 ADCA P/F 海外農業開発事業事前調査候補案件概要 農業・農村開発協力案件(開発調査、無償、有償)

    (申請区分:案件形成予備調査・プロジェクトファインディング調査・フォローアップ調査)

    国名 (和) ラオス人民民主共和国

    (外) Lao P.D.R 案件名 (和) 商業化農業開発計画

    (外) Market Oriented Agriculture Development Project

    調 査 地 区 名 (和) 中南部(タケク・サバナケット・パクセを中心とする 6 県)

    (外) ( Takhek, Savannakhet, Pakse and 6 Provinces in the Central-South)

    相手国担当機関 (和) 農業森林省、商工省 (外) Ministry of Agriculture and Forestry with Ministry of Industry and Commerce

    Ⅰ.事業の背景 ラオスは GDP の約半分が農業、就業人口の約 8 割が農業人口という農業国であるが、これまでは自家消費用の稲作(モチ)を中心とする自給的な農業が支配的であった。

    近年の GMS(大メコン圏)開発の結果、東西回廊、南北回廊を始め、道路、橋梁整備が急速に進んできた。また、外国資本によるアグリビジネスへの投資が活性化しており、北部や南部でのコーヒー、有機

    野菜、サトウキビ等原材料の生産がのびてきている。エタノール原料の需要の拡大に伴い、メイズやキ

    ャッサバ等の生産拡大が周辺国(タイやベトナム)からも期待されている。特に南部ボロベン高原では

    コーヒーの栽培と輸出、無農薬・有機栽培野菜の栽培が民間主導で行われており、食品加工輸出を行う

    日系企業の投資が期待されており、民間の投資を通じて貧困削減・経済発展への貢献をねらいとしたラ

    オスへの投資セミナーが JBIC、日本アセアンセンター、JETRO によりここ数年開催されてきている。

    ラオス国政府としても小農による自給的農業生産だけでなく、契約栽培、流通・加工販売までを含む農

    業セクター開発の必要性を感じており、官民の連携が鍵となっている。民間投資の前提条件として安定

    的な生産と効率的な流通のためには、畑地灌漑、農村道路、流通施設等公的インフラの整備が必要とさ

    れこれは ODA の役割である。また農民組織化に関してラオスでの過去の失敗の教訓を生かし、共同栽培や出荷の外的要因を契機とした協同組合の組織化に関して日本の知見を活かすことが期待されてい

    る。

    新 JICA のスキームを組み合わせたプログラムアプローチと外務省の方針である官民連携について、ラ国政府機関と協議をしながら新しい枠組みでの協力を日本側より積極的に提案する。

    Ⅱ.事業概要 ODA 部分 プログラム

    ・ 技術協力:安全・安心な農産物生産・流通支援プロジェクト(農産物に関する規制・規格・認証の改善、農民組織化、投資拡大のための PR、優良事例の拡大)

    ・ 無償資金:ポストハーベスト・流通施設・機材(小規模園芸農家のための集荷・予保冷施設、コーヒー輸出検査機材等)

    ・ 有償資金協力:農道・小規模灌漑整備・農村電化(施設のための小水力・太陽光発電) 民間投資部分 ・ 生産資材、種子配布、生産者へのローン、契約農家への生産指導、 ・ 末端灌漑施設投資(スプリンクラー・マイクロ灌漑等)、 ・ 農産物加工場・パッケージング施設への投資・経営 ・ 輸出

    Ⅲ.事業費概算 未

    Ⅳ.特記事項(プロファイ及び正式要請の有無等) 無し

    調査団の構成 2 名 P/F 実施期間 2009 年 12 月

    会 社 名 (株)三祐コンサルタンツ 関 連 企 業

  • 担 当 部 課 海外事業本部

    企画推進部 担当者 須藤 晃 Tel. 5394– 8991 Fax. 5394 – 8990

    作成 平成 21 年 5 月 28 日

    調 査 対 象 地 域 位 置 図

    ビエンチャン

    サバナケット

    パクセ パクソン

    ボロベン高原

  • 1

    1. 調査の背景および経緯

    ラオス人民民主共和国(以下、ラオス国)は GDP の約半分が農業セクターにより、就業人

    口の約 8 割が農業人口という農業国であるが、これまでは自家消費用の稲作(モチ米)を

    中心とする自給的な農業が支配的であった。これに対し、近年の GMS(Great Mekong

    Sub-region: 大メコン圏)開発の結果、東西回廊、南北回廊を始め、道路、橋梁整備が急速

    に進んできており、これに合わせて、外国資本によるアグリビジネスへの投資が活性化し、

    コーヒー、有機野菜、サトウキビ等原材料の生産が伸びてきている。特に南部ボロベン高

    原では輸出用コーヒーの栽培と、無農薬・有機栽培野菜の栽培が民間主導で行われており、

    この中で食品加工・輸出を行う日系企業の投資が期待されていることから、民間の投資を

    通じて貧困削減・経済発展への貢献をねらいとしたラオスへの投資セミナーが JBIC、日本

    アセアンセンター、JETRO によりここ数年頻繁に開催されてきている。

    ラオス国政府としても、小農による自給的農業生産だけでなく、契約栽培、流通・加工販

    売までを含む農業セクター開発の必要性を感じており、官民の連携が鍵となっている。民

    間投資の前提条件として安定的な生産と効率的な流通を確保するためには、畑地灌漑、農

    村道路、流通施設等公的インフラの整備が必要とされるが、これは公共セクターの役割で

    あり、ODA による支援が期待される分野である。また農民組織化に関しては、ラオスでの

    過去の教訓を生かし、トップダウンによるものではなく、共同栽培や出荷等の外的要因を

    契機とした協同組合の組織化に関して日本の知見を活かすことが期待されている。

    2. 調査の目的

    重要性を増してきている商業化農業を推し進めるため、新 JICA による「プログラムアプロ

    ーチ」と外務省の方針である「官民連携」についてラオス国政府機関と協議を重ね、GMS

    開発構想の下での位置づけを前提に、官民連携を通じた農業セクターの開発という新しい

    枠組みでの協力について案件形成を行う。

    3. 調査対象地域

    調査対象地域は、直接の支援対象国かつ農業生産の拠点となるラオス国並びに農産品の主

    な一次輸出先と目されるタイ国の 2 カ国からなる。調査対象地域位置図に示すとおり、ラ

    オス国では、ビエンチャン県、サバナケット県、チャンパサック県の 3 県を調査の対象と

    している。首都を擁するビエンチャン県は外国人旅行者も多く、オーガニック・マーケッ

    トが形成されるなど、商業化農業の萌芽がみられる地域である。中部平原に展開するサバ

    ナケット県はラオス国最大の穀倉地帯となっており、コメの供給地域としての地位を確立

    している。また、南部地域の玄関口であるチャンパサック県はボロベン高原を控え、高原

    野菜の産地として潜在力が高い地域として知られている。一方、タイ国では首都バンコク

    において日系農産加工業者や日本政府関連機関に対する聞き取り調査を行った。

  • 2

    4. 地域農業の現況と課題

    (1) ラオス国における地域農業の現況と課題

    ラオス国はインドシナ半島東部に位置し、その周辺を東にベトナム、西にタイ、南にカン

    ボジア、北に中国とミャンマーと国境をもつ内陸国である。日本の本州に相当する 236,800

    平方キロメートルの国土面積を持ち、人口約 600 万人(2008 年)を有する同国は、国土の

    約 80%が山岳地帯であり、メコン川流域とその支流周辺に平野が広がる。熱帯モンスーン

    地帯に属する同国は、一年を雨季(4 月~10 月)と乾季(10 月~4 月)に大別することが

    できる。年間平均降水量は約 1,500mm~2,000mm であるが、そのほとんどが雨季に集中す

    る。

    (2) 農業セクターの位置付けと動向

    近年ラオス国では、製造業や加工業の増加により GDP に占める農業の割合が減少している

    ものの、依然就業人口の約 8 割が農業活動に従事しており、農業セクターはラオス国の主

    要部門となっている。また、同国に対する海外からの投資件数は農業分野にも多く寄せら

    れており、今後のラオス国経済成長のためには農業セクターの総合的な開発が欠かせない。

    表1:ラオス国の産業構造

    2004 年 2005 年 2006 年

    金額 構成比 金額 構成比 金額 構成比

    農業

    工業

    サービス

    輸入関税

    12,377

    7,189

    6,785

    237

    46.6

    27

    25.5

    0.9

    13,593

    8,932

    7,798

    269

    44.4

    29.2

    25.5

    0.9

    14,940

    11,170

    8,991

    305

    42.2

    31.5

    25.4

    0.9

    GDP 26,590 100.0 30,594 100.0 35,407 100.0

    図 1:対ラオス 国業種別外国投

    出典:Lao PDR Statistical Year Book 2008

    (単位:10 億キープ、%)

    0

    100,000

    200,000

    300,000

    400,000

    500,000

    600,000

    700,000

    貿易

    工業

    ・手工

    農業

    鉱業

    コンサ

    ルタン

    ト縫

    製品

    木材

    加工

    電力

    サー

    ビス

    建設

    銀行

    ホテ

    ル・レ

    ストラ

    ント

    通信

    US$ th

    0

    5

    10

    15

    20

    25

    30

    35

    40

    投資額

    件数

    出典:鈴木基義 (2009) 「ラオス経済の基礎知識」

  • 3

    資額・件数 (2008 年)

    ラオス国政府は社会・経済の基本施策となる「社会経済開発計画」において、農業セクタ

    ーを貧困削減のための優先セクターと位置づけ、農産物の輸出増大、生産・加工への新技

    術導入といった商業的農業の振興を目標として掲げている。農業省計画局の話によれば、

    これまでは米などの自給作物増加を目標として灌漑施設の整備に注力してきたが、今後は

    農産物の生産、加工、流通、マーケティングといった包括的な農業セクターの開発が必要

    であり、そのための民間投資の呼び込みに力を入れているという。

    実際、ラオス国は 1986 年に「新経済メカニズム」に着手して以来、市場経済の活性化を推

    し進めてきた。特に、1997 年に ASEAN に加盟して以降、ASEAN 地域の経済統合に積極的

    であり、ASEAN 自由貿易地域の中で関税引き下げを実施している。さらにアジア開発銀行

    が先導する「大メコン圏(GMS)経済協力」にも積極的に参加しており、南北経済回廊、

    東西経済回廊の開通によるラオス国経済の活性化が期待されている。同国を取り巻くこう

    した市場経済の進展は農業部門にも大きな影響を与えており、“Land Locked から Land

    Linked へ”をスローガンに、輸出農産物の増加を目標とし、生産から加工・流通までを視

    野に入れた包括的な商業農業の振興が推進されている。

    (3) 農作物生産状況

    近年、換金作物の栽培が増加しているとはいえ、ラオス国の主要な農業は稲作である。国

    土面積 2,308 万 ha のうち約 4%にあたる 87 万 ha が耕地面積であり、そのほとんどをメコン

    川流域の稲作栽培が占めている。特に 1990 年代から灌漑整備に取り組んでおり、1995 年に

    約 176,000ha であった灌漑面積は、2005 年には約 370,000ha にまで拡大された。これらの取

    り組みの結果、1995 年には米の自給率を達成するまでになった。しかしながら、その後は

    農民による灌漑施設の運営問題や、ポンプ施設の運営費用などの問題から灌漑面積は減少

    傾向にあるという(農業農村開発戦略検討調査 ラオス現地報告書 2007 年 3 月)。

    近年では、北部地域での飼料用トウモロコシの栽培や南部地域でのコーヒーやサトウキビ

    といった換金作物の生産量が増加傾向にある。これらの輸出用作物の多くは隣国のタイや

    中国へと輸出されている。

    ラオス国農業のもうひとつの特徴として有機栽培が挙げられる。肥料や農薬が高価である

    ことから農民が積極的に使用できないという背景もあり、結果的に近隣諸国に比べ“安全

    な農産物”生産への環境は比較的整っているといえる。既に有機栽培への取り組みが始め

    られており、首都ビエンチャンでは農業局のサポートを受けた農民グループが週に 2 日オ

    ーガニック・マーケットを開催している。今後はこうした有機栽培の普及が期待されてい

    る。

  • 4

    作物 2006 2007 2008収穫面積(ha) 795,545 781,243 825,545収量(ton/ha) 3.35 3.47 3.54生産量(ton) 2,663,700 2,710,050 2,925,510収穫面積(ha) 618,820 604,147 619,950収量(ton/ha) 3.49 3.63 3.67生産量(ton) 2,161,400 2,193,400 2,276,710収穫面積(ha) 68,500 71,400 94,072収量(ton/ha) 4.53 4.61 4.67生産量(ton) 310,00 329,200 439,200収穫面積(ha) 108,225 105,696 111,523収量(ton/ha) 1.78 1.77 1.88生産量(ton) 192,300 187,450 209,600収穫面積(ha) 113,815 154,225 229,220収量(ton/ha) 3.95 4.48 4.83生産量(ton) 449,945 690,795 1,107,775収穫面積(ha) 168,800 11,015 18,335収量(ton/ha) 10.34 21.19 17.19生産量(ton) 174,490 233,420 315,215収穫面積(ha) 2,665 2,450 2,920収量(ton/ha) 1.31 1.01 1.33生産量(ton) 3,485 2,470 3,890収穫面積(ha) 8,920 8,040 9,690収量(ton/ha) 1.34 1.30 1.39生産量(ton) 11,955 10,455 13,515収穫面積(ha) 18,385 15,965 19,377収量(ton/ha) 1.50 2.20 1.69生産量(ton) 27,600 35,070 32,690収穫面積(ha) 5,660 4,700 5,922収量(ton/ha) 4.38 8.84 2.21生産量(ton) 24,800 41,535 13,103収穫面積(ha) 2,560 3,205 1,795収量(ton/ha) 0.93 0.84 0.67生産量(ton) 2,370 2,705 1,195収穫面積(ha) 43,140 44,990 57,875収量(ton/ha) 0.59 0.74 0.54生産量(ton) 25,250 33,200 31,125収穫面積(ha) 490 740 1,930収量(ton/ha) 1.24 1.41 1.30生産量(ton) 610 1,040 2,500収穫面積(ha) 6,070 8,455 17,055収量(ton/ha) 35.99 38.31 43.93生産量(ton) 218,430 323,875 749,295収穫面積(ha) 83,835 84,335 81,305収量(ton/ha) 7.97 8.71 6.41生産量(ton) 668,030 734,385 521,495

    稲合計

    雨季作水稲

    乾季作水稲

    陸稲

    メイズ

    キャッサバ

    マングビーン

    大豆

    サトウキビ

    野菜

    ピーナッツ

    タバコ

    綿

    コーヒー

    表 2:ラオス国における主要農産物生産状況

    出典:Agricultural Statistics Year Book 2008

  • 5

    Export value of Lao PDR (2008) Import value of Lao PDR (2008)

    表 3:主な輸出入農産物(2007 年)

    輸出 輸入

    Commodity ton 1000 $ Commodity ton 1000 $

    1 コーヒー 16886 24994 1 アルコール飲料 1923 40219

    2 メイズ 22910 7706 2 ノンアルコール飲料 36103 31282

    3 ゴマ 2110 1121 3 加工用食品 12755 19488

    4 加工用果物 1390 877 4 濃縮コーヒー 2665 14635

    5 牛 3000 250 5 食品廃棄物 26654 10752

    6 ビール麦 206 143 6 精白米 24000 9000

    7 ピーナッツ 477 76 7 白砂糖 21005 7127

    8 野菜 89 50 8 ドライフルーツ 11587 6891

    9 大豆 195 45 9 砂糖菓子 2194 6147

    10 牛・乾燥 47 30 10 ワイン 855 5235

    表 3 に示すように、主要輸出農産物は南部の高原地帯で栽培されているコーヒーであり、

    これは日本にも輸出されている。また、メイズに関しては飼料用として北部地域で栽培さ

    れており、主に中国へと輸出されている。その他野菜等については主にタイへと輸出され

    ており、表 4 に示すとおり、タイ、中国、ベトナムの 3 カ国だけでラオス国の輸出入の 80%

    以上を占めている。

    表 4:ラオス国の輸出先・輸入元ランキング(2008 年)

    (4) 地域的な特徴

    ラオス国はその地勢的条件から、地域農業を大きく 3 つに区分することができる。1 つはメ

    コン河沿いに形成された平野部であり、水稲作が中心に行われている。2 つ目は北部の山岳

    地帯であり、過去には焼畑が多く行われていたが現在では代替作物としてパラゴムの植林

    や稲作への転換が図られている。そして最後に南部高原地帯であり、標高 1000m 以上の丘

    国名 $US 1000 share %

    1 Thailand 493,311.63 59.60

    2 Vietnam 110,640.49 13.37

    3 Australia 51,215.77 6.19

    4 China 15,273.65 1.85

    5 Swaziland 7,645.87 0.92

    国名 $US 1000 share %

    1 Thailand 1,229,557.28 68.19

    2 China 131,431.09 7.29

    3 Vietnam 114,382.18 6.34

    4 Indonesia 84,871.19 4.71

    5 Japan 63,081.53 3.50

    出典:Lao PDR Statistical Year Book 2008

    出典:FAO

  • 6

    陵地で野菜栽培やコーヒー栽培が行われている。

    ① サバナケット

    本調査対象地域の 1 つであるサバナケットは、中部のタイ国境近くに位置し、北に首都ビ

    エンチャン、南にパクセ、さらにインドシナ半島を横断する東西経済回廊が通っており、

    ラオス国における物流の要となっている。

    前述した地域農業区分に照らし合わせると、本地域はメコン河沿い平野部に分類される。

    そのため稲作が盛んであり、農業局によれば同地区の 1 人当たり米消費量 350kg/年1に対し

    て生産は 700kg/年となっている。このため、余剰米が他県やベトナム、タイといった近隣

    諸国に流れているというが、違法な形で輸出されているため量や品質を政府でコントロー

    ルするのが難しいという。

    一方、野菜に関しては多くが自家消費されており、具体的な数量は不明だが、タイ側から

    チリペッパー、オニオン、ニンジンなどを輸入しているという。換金作物の中心はピーナ

    ッツ、飼料用メイズ、キャッサバなどであり、これらはタイやベトナムに輸出されている。

    また、サバナケットには日本の無償援助で実施された KM35 灌漑地区があるものの、現地

    政府の財政的な理由から末端水路の建設が滞っており、農民によっては田越し灌漑を強い

    られている。さらに、3 年前から貯水池周辺で 160ha にわたりサトウキビ栽培がタイ企業に

    よって始められ、貯水池の水量が減少したという報告が同地区の農民からなされている。

    そのため、同地域では灌漑整備とともに、農民を主体としたそのマネジメントシステムの

    確立が必要とされている。

    図 2:サバナケット県における主要農産物の生産量推移(単位:ton)

    1 1人当たりの水準としては過剰な試算と思われるが、生産量が大幅に上回っていることが伺える(調査団)。

    0

    100,000

    200,000

    300,000

    400,000

    500,000

    600,000

    700,000

    Total rice

    paddy

    Sugar cane Fruit Starchy

    Roots

    Vegetables Maize Peanut

    2006

    2007

    2008

    出典:Agricultural Statistics Year Book 2008

  • 7

    表 5:サバナケット県の主要農産物生産状況

    作物 2006 2007 2008

    収穫面積(ha) 171,610 157,599 187,923

    収量(ton/ha) 3.41 3.59 3.63稲合計

    生産量(ton) 585,635 565,970 682,015

    収穫面積(ha) 555 2,080 10,850

    収量(ton/ha) 24.86 40.42 56.17サトウキビ

    生産量(ton) 13,800 84,070 609,415

    収穫面積(ha) 3,375 5,750 3,315

    収量(ton/ha) 14.77 13.54 12.67果物

    生産量(ton) 49,850 77,850 41,985

    収穫面積(ha) 2,250 3,020 -

    収量(ton/ha) 7.7 7.7 - Starchy Roots

    生産量(ton) 17,400 23,100 -

    収穫面積(ha) 9,250 9,565 7,845

    収量(ton/ha) 7.9 7.3 4.4野菜

    生産量(ton) 72,720 69,350 34,620

    収穫面積(ha) 3,640 3,580 3,420

    収量(ton/ha) 3.27 3.14 3.28メイズ

    生産量(ton) 11,900 11,250 11,220

    収穫面積(ha) 1,380 900 905

    収量(ton/ha) 1.46 1.78 2.04ピーナッツ

    生産量(ton) 2,020 1,600 1,850

    ② パクセ

    パクセはラオス国南部チャンパサック県の東部、ボロベン高原近くに位置する。その冷涼

    な気候と土壌条件は特に野菜栽培に適しており、ラオス国の中でも野菜やコーヒーといっ

    た換金作物の栽培が最も盛んな地域である。なかでもボロベン高原地域内に位置するパク

    ソンはキャベツ栽培とコーヒー栽培の中心となっており、生産されたキャベツのうち 70%

    程度はタイへ輸出されるという。後述するように、パクセが位置するチャンパサック県と

    隣接するタイ国ウボンラチャタニ県で協定を結び、契約農業プロジェクトが始められてお

    り、マーケットの確保、生産性の向上を目的とするこうした取り組みを通じて、キャベツ

    を中心とした野菜栽培のマーケットが拡大されつつある。

    出典:Agricultural Statistics Year Book 2008

  • 8

    一方で、野菜栽培に関しては乾季と雨季の生産量に大きな差があり、パクソンのキャベツ

    栽培農家によれば、水資源の限られる乾季の生産量は雨季の 10%程度まで落ち込み、これ

    に伴い乾季のキャベツ価格は雨季の 5 倍程になるとのことである。また、土壌の水はけも

    よく野菜栽培に適した地域であるものの、品質管理などの技術トレーニングを受けられる

    農民は限られているという現状がある。

    表 6:チャンパサック県における主要農産物生産状況

    Rice

    cash crop

    area Coffee Tea

    Root

    vegetable

    収穫面積(ha) 92,196 31,681 26,627 164 649

    収量(ton/ha) 3.46 5.6 0.99 0.35 23.38チャンパサック県

    生産量(ton) 318,690 177,436 26,468 57.4 15,467

    収穫面積(ha) 1530 510 - - 5

    収量(ton/ha) 3.46 4.29 - - 17.6パクセ

    生産量(ton) 5294 2,188 - - 88

    収穫面積(ha) 149.15 6,663 25,168 164 452

    収量(ton/ha) 3.46 12.31 0.97 0.35 24.4パクソン

    生産量(ton) 516 82,031 24,473 57.4 11,026

    Vegetable Cabbage Cucumber Tomato Banana

    収穫面積(ha) 2,170 1,650 681 210 552

    収量(ton/ha) 24.04 25 5.8 5.5 11.2チャンパサック県

    生産量(ton) 52,170 41,250 3,949 1,155 6,182

    収穫面積(ha) - - 37 8 6

    収量(ton/ha) - - 5 4 10パクセ

    生産量(ton) - - 185 32 60

    収穫面積(ha) 2,170 1,650 195 70 84

    収量(ton/ha) 24.04 25 6.2 5.6 10.5パクソン

    生産量(ton) 52,170 41,250 1,209 392 882

    (5) 農業セクターの課題

    今後商業的農業のより一層の振興を目指す上で、ラオス国政府の抱える課題は大きく 3 つ

    に大別される。1 つは、適切な品質管理体制である。ラオス国政府の積極的な経済活性化施

    出典:チャンパサック県農業局からの入手資料

  • 9

    策により輸出農産物は大きな増加を見せている。しかしながら、依然ラオス国における品

    質管理に関する技術やノウハウは不足した状態である。農産物の輸出を振興し、周辺諸国

    へのマーケット進出を目指すのであれば、GAP(Good Agricultural Practice)認証に代表され

    るような認証や規格の取得といった適切な品質管理体制の構築は欠かせない。既に農業局

    では有機栽培を行う農民グループへの支援、有機栽培の普及といった活動を始めており、

    これらの活動をさらに拡大し、国際マーケットに標準を合わせた品質管理体制の構築と普

    及が求められている。

    さらに、品質管理と並んで欠かせないのが、市場への安定供給である。安定供給のために

    は、灌漑整備や農民の市場へのアクセスなどの環境整備が重要となる。例えば、タイへの

    キャベツ供給源となっているボロベン高原では、乾季と雨季の生産量及び価格に大きなギ

    ャップが存在する。灌漑状況を改善するなどの取り組みを行うことで、乾季においても水

    にアクセスすることができるようになり、一年を通じてキャベツを供給することが可能と

    なる。

    加えて、農民組織の脆弱性が商業的農業を振興していく上では大きなボトルネックとなる。

    現在は協同組合のようなものがほとんど組織されていないことから、栽培技術、品質管理

    方法等の普及や灌漑施設の管理、マーケット情報の取得、といった活動が制限されている。

    今後、より直接的に農民の生活向上を目指した商業的農業開発のためには、農民組織の強

    化が欠かせない。

    5. ラオス国における農業開発の方向性と関連計画

    (1) 関連する上位計画

    ① 2001~2010 年社会経済開発戦略(Socio Economic Development Strategy for 2001-2010)

    『2001~2010 年社会経済 10 カ年開発戦略』は、年平均 GDP 成長率を 7.5%、2010 年の目

    標年における国民一人当たり GDP を 700~750 ドルと設定している。この戦略全体の基本

    方針は、「着実なステップを通じて、経済の力強い成長の基礎を改善・確立する」というも

    ので、農業セクターにあってもこれを重要方針としている。

    ② 国家成長・貧困撲滅戦略(National Growth and Poverty Eradication Strategy---NGPES)

    『国家成長・貧困撲滅戦略』は、貧困撲滅に向けたラオスの包括的戦略フレームワークと

    して 2004 年に公表された。農林業は、教育、医療、交通インフラと並び、4 つの中心セク

    ターの 1 つとして位置付けられている。また、その後の施策においてたびたび登場する 72

    貧困郡(うち 47 は最貧困郡)を規定している。農林業セクターにおいては、優先的開発分

    野として、食料自給確保、洪水・干魃・疾病など脆弱性の緩和、農産加工を通じた高付加

    価値による収入向上などを取り上げるとともに、7 つの優先政策として、市場指向、人材開

  • 10

    発、農業多様化を挙げている。

    ③ 社会経済開発計画(2006~2010)(National Socio Economic Development Plan---NSEDP)

    2006 年に公表された『社会経済開発計画(2006~2010)』は、「市場経済メカニズムに基づ

    く迅速かつ安定した社会経済の発展」がその基本的方向である。農林業セクターは、NGPES

    と全く同様に、貧困削減のための 4 つの優先セクターの 1 つとされ、年平均 GDP 成長率を

    4.0%(全セクターでは 7.5%)としている。商品作物生産の発展、商業的農業の振興を通じ

    た輸出農産物の増大、生産・加工への新技術導入・適用、研修による農村地域の技術向上、

    他セクターとの連携強化を通じた高付加価値化による生計向上、新規農業インフラの整備、

    を 6 つの目標として掲げている。

    (2) 農業・農村開発分野の関連計画

    ① 2020 年までの農林業開発ビジョン(Vision on Agricultural-Forestry Development - 2020)

    『2020 年までの農林業開発ビジョン』は、ADB の支援により 1998 年頃に作成され、ラオ

    ス農林省から公表され、2020 年までの農林業セクターの発展の方向性、農林業開発の基本

    的方向などが述べられている。国全体の年平均 GDP 成長率目標を 7~8%とする中で、農林

    業については、3 区分(農地、丘陵地、山岳急傾斜地)のゾーンで栽培すべき作目(畜産、

    水産を含む)の種類とその生産目標量等を規定するとともに、ゾーニングした地域ごとに、

    目標達成のための調査・研究事項を提唱している。

    ② 農業セクター戦略ビジョン(The Government’s Strategic Vision for Agricultural Sector) ADB の支援により 1999 年に策定された『農業セクター戦略ビジョン』 (戦略ビジョン)で、

    前ビジョンで提示されたゾーニングの考えが、平野部と山間傾斜地という二つの区分に変

    更され、平野部においては、農業における市場経済化を進展させるために、商品作物生産

    の一層の振興を通じた農業の多様化・高付加価値化、農産加工業の振興、マーケット情報

    システム構築への支援などを進める一方、自給生産が大宗を占める山間傾斜地においては、

    生産性を向上させ、商品経済により接近するよう、定住農業への転換、生計安定、道路イ

    ンフラの整備などを図ることに主眼が置かれている。

    ③ ラオス国農業総合開発計画調査(Master Plan on Integrated Agricultural Development )

    2001 年に公表された『ラオス国農業総合開発計画調査』は、前記両ビジョンを上位計画と

    して実施された。JICA による開発調査で、ラオス全土を対象に総合的な調査が行われ、現

    状、農業ポテンシャル、開発の方向性等を検討・分析した上で、土地・水資源管理、作物

    生産、焼畑安定など 10 のサブセクターを設定し、2020 年に向けた農業総合開発アクション

    プランとして、合計 110 のプロジェクト/プログラムを提案している。

    ④ 第 6 次農林業開発 5 か年計画(The 6th Agriculture and Forestry Development Plan)

    『第 6 次農林業開発 5 か年計画』は、NSEDP、党中央委員会の文書等に準拠して策定、2006

  • 11

    年 9 月に公表されたもので、NSEDP を推進するための計画と位置付けられている。そのた

    めの指針として、4 つのターゲット:1) 食料安全保障、2) 商業的農業生産の振興、3) 焼畑

    農業の削減、4) 持続的な森林管理及び利用と保全のバランス、そしてターゲットを達成す

    るための 13 のアプローチ(生産地域、種子、普及、村落開発クラスター、灌漑等)が列挙

    されている。この計画は、2010 年までの農政における中心的存在であり、全ての施策はこ

    れに合致すべきものという存在になっている。

    (3) 2011 年以降の農業開発の方向性

    2010 年は第 6 次国家社会経済開発計画(NSEDP)の最終年にあたり、現在第 7 次 NSEDP の策

    定中であるが、計画投資省によれば次期 NSEDP では次の 5 つの目標が設定されている。1)

    従来の国家成長・貧困撲滅戦略の目標通り 2015 年までに Millennium Development Goal

    (MDG)の達成と 2020 年までに最貧国(LDC)からの卒業を目標、2) 近代化、工業化に向け経

    済の安定、持続性、急速な成長を目指す、3) 調和と持続性に配慮した発展、4) 行政の効率

    性、効果と透明性を高める、5) 世界経済・地域経済統合にむけて協力を進める。

    第 6 次 NSEDP のレビューも行われているが、農業セクターにおいては米生産にめざましい

    進展がみられ、2008 年には 280 万トン、2009 年には 320 万トンの生産が見込まれ『第 6 次

    農林業開発 5 か年計画』において設定されていた 2010 年までに年 330 万トンのコメを生産

    し自給するという目標は達成される。2011 年から始まる 5 か年計画についても現在策定作

    業中である。関係各部局からの聞き取りから以下の方向性を確認した。

    ① 灌漑農業開発の推進

    農業計画局長の Dr. Phouang Parisak は農業開発における統合(Integration)を目指すという方

    針を示した。特に灌漑局では、従来は灌漑施設の建設に重きを置いており施設建設後の生

    産面・流通面での支援取り組みが脆弱であったため、今後は灌漑農業開発 (Irrigated

    Agriculture Development)として灌漑局をリーディング実施機関として農業局や普及サービ

    スと一体的に基盤整備から生産・流通までの開発を行うことを基本方針としている。灌漑

    可能な優良農地においてはコメ以外に商品作物の生産も進める方針である。

    ② メガプロジェクト

    灌漑のみならず農業セクター全体において総合的な開発を目指してポテンシャルのある地

    域において形成するプロジェクトで「メガプロジェクト」とは、対象地域のサイズや事業

    費の大きさではなく、総合的なパッケージのプロジェクトを指す。ラオス政府はこの「メ

    ガプロジェクト」に対して外国からの投資を呼び込んで実施することを目論んでおり、灌

    漑局では現在主要な平野部での 37 プロジェクト(FS 実施済: 7 プロジェクト、工事中 6、既存 24)をメガプロジェクト候補として検討している。今後 3 月までに絞り込まれ、6 月までに投資家や援助機関に提示し、実施可能性のある事業を第 7 次農林業開発 5 か年計画に

  • 12

    反映させる予定とのことである。

    ③ 民間投資

    メガプロジェクトに対して外資を呼び込もうとしているが、ラオス国においては 2+3(ラオ

    ス:Land + Labour, 外国投資家 Capital + Technology + Market)という技術とマーケットをパッケージにした外国からの投資促進を行っている。土地に関しては国有地を無償のコンセ

    ッションで利用許可を与え、ラオス国と外国企業の間で利益分配を想定している。また、

    民間企業だけでなく、企業をバックアップする開発銀行と援助機関(政府)が一体的に取

    り組むことを期待している。

    農業計画局長によれば、これまでは JICA を始め援助機関は小規模なパイロットプロジェク

    トを実施してきたが、いくらパイロットプロジェクトで成功してもそれを普及していくた

    めの国家予算もなく、2020 年に LDC を卒業するためには農業においても外国からの投資に

    よる大規模で総合的な開発が必要であり、上記のような方針が策定されたとのことである。

    一例としてハンガリーの企業による食肉加工プロジェクトが挙げられた。ハンガリー政府

    の支援を受けた企業が輸出入銀行からの資金を借り入れてラオスでの養豚事業と食肉加工

    場の建設、EU で販売可能な衛生基準の認証申請のための品質保証プロセス開発、欧州での

    販売まで行っており、農家の生計向上と雇用の創出に成功しているとのことである。

    6. ラオス国における農産物の安全性向上とへの取り組み

    ラオス国では、これまで自給的農業が主体で粗放的な農業形態が多勢を占めていたことも

    あり、農薬類の使用量は実態としては多くないとされている。この背景として、そもそも

    農民の購買力が低く農薬類を購入することができないという経済的な理由と、高原地帯な

    どでは冷涼な環境なため病害虫の発生が限定的であるという大きく 2 つの理由が挙げられ

    る。このように、実態としては食の安全性に対してポジティブな要素が多くあるにも関わ

    らず、これらを体系的に管理しそれを保証していくようなシステムが欠如している。つま

    り、総量として農薬類の流通量が少ないことを示すことはできても、トレーサビリティが

    確立されていないことから、個々のケースでどれだけ農薬が使用されているかを把握でき

    ず、「使用量が少ない」ことを示すことができない。

    こうした中、外国資本の参入やそれに伴う周辺国への農産物輸出実績の伸びを受け、それ

    ら仕向先からの安全な農産物への潜在的ニーズが伸びてきており、このことが農業局など

    の政府関係機関の間で徐々に認識され、近年、農産物の安全性向上に係るいくつかの取り

    組みが開始されている。例えば、スイス国の支援により実施されている PROFIL や現在農業

    局が推進している Internal Control System (ICS)が挙げられる。以下にこれら 2 つの概要につ

  • 13

    いて述べる。

    (1) Promotion of Organic Farming and Marketing in Lao (PROFIL)

    「ラオス国有機農業・流通振興プロジェクト(仮訳)(PROFIL)」は、スイスに本部を置く

    開発関連企業(Swiss Association for International Cooperation: Helvetas)とラオス国農業森林

    省農業局が提携して立ち上げたプロジェクトで、2004 年より同国における有機農業の振興

    および特にビエンチャン市を中心としたマーケティング促進を支援している。主な活動と

    しては、①有機農業に適した農地の開発、②市場に求められる作物栽培にかかる生産者支

    援、③国内市場における地産地消の促進、④海外市場への販売を目指した取り組み、等が

    含まれる。

    PROFIL は有機農業振興の一環として生産技術に関する各種トレーニングを提供している。

    また、こうした生産面に関する支援に加え、International Federation of Organic Agriculture

    Movements (IFOAM)という国際的な組織が整備した基準に基づき有機栽培の認証規格作り

    も行っており、農業局内に設置された新たな認証機関(Lao Certification Body: LCB)の設立

    にも関わっている。この認証機関は将来的には米国の National Organic Program (NOP)や EU

    基準、あるいは日本の JAS 規格等の認証も行うことが期待されており、長期的には域外へ

    の輸出に対応できるシステムとすることを目論んでいる。

    このように、PROFIL では有機栽培の認証規格作りを通じてラオス国における食の安全性向

    上に貢献している。一方、PROFIL の実施した市場調査によると、消費者(126 サンプル)

    の約 40%が有機野菜の定義を「(伝統的農業である)自然農法」と回答しており、有機野菜

    に対する理解度が未だ低いレベルに留まっていることが示唆されている。また、レストラ

    ン(14 サンプル)の 14%が「(有機野菜は)小さくて、見た目が悪い」と回答しており、必

    ずしも有機野菜が肯定的に認識されていないことも指摘される。このように、PROFIL の活

    動は未だ限定的であり、生産面での支援については規模拡大に伴う課題が、制度面での支

    援については効果発現までの時間が課題として残される。

    ただし、同調査の中で、有機野菜を購入する理由として、ビエンチャンでは 60%、パクセ

    では 97%に上る消費者が「健康への影響」と回答しており、食の安全性に対する潜在的ニ

    ーズは十分に高いことが伺える。

    (2) Internal Control System (ICS)

    Internal Control System (ICS)は、独立して有機野菜の承認を得ることが困難な零細農家のた

    めに、彼らがグループで承認を得ることができるように整備された認証システムである。

    ラオス国では農業局が主にフランス政府の支援を受け設立したシステムであり、上述の

    PROFIL も ICS の設置に関わっている。ICS では、トレーニングを受けた農民グループに対

    して認証を付与することから、零細農家がより簡単に認証を得ることが可能となっている。

  • 14

    ただし、グループが認証を維持するためには、グループ内でのモニタリング活動が必須要

    件とされており、この点が、Internal Control(内部管理)と称される所以である。

    認証を得るにあたり、農民グループは農業局の整備している認証規格に基づき、農地およ

    び生産工程を適正に管理・モニタリングしなければならない。仮に基準を満たせない農家

    が存在する場合は認証が得られないため、そうした農家はグループには入ることができな

    い。このように、ICS を適用する場合は強固な組織活動が必要となってくることから、そう

    した組織化に対する支援ニーズは高く、また、この点が 1 つのボトルネックになっている

    とも指摘されている。

    農民の組織化はラオス国の歴史的文脈において困難を伴う事項である。8 章に述べるとおり、

    かつてラオス国では集団農場制が敷かれており、このときの「苦い記憶」から、政府主導

    で組織化が為されることを農民は嫌う。特に、「Cooperative」という言葉に対して好印象を

    抱いていないため、現在、組織化を推進するにあたり「Village Cluster」という名称を用い

    ることにしており、こうしたことも組織化が困難であることの裏返しであるといえる。

    (3) ビエンチャン市オーガニック・マーケット

    上記、PROFIL や ICS の 2 例に代表されるような安全性向上に対する取り組みが、新たなマ

    ーケットの確立という形で実を結んでいる。ビエンチャン市でのオーガニック・マーケッ

    トがその最たる例である。ビエンチャン市の中心部で週に 2 回開催されているオーガニッ

    ク・マーケットは、現在、多くの顧客を集めている。販売する農家は有機野菜認証を受け

    ている 8 つの有機野菜栽培グループで、現在、その人数は 110 名に達している。彼らは市場

    から 15km~30km 程度の近郊地域で野菜栽培を行っている農家で、グループのメンバーが

    所有しているトラックを用いて野菜を運搬している(所有者に対して 20,000~50,000kip/人

    の使用量を支払う)。

    この有機野菜市場は設立された当初の 2006 年 12 月には月に 1 回の開催であったが、少し

    ずつ開催頻度を高めていき、4 ヶ月後からは月に 2 回、2008 年には週に 1 回、そして 2009

    年に入ってからは集に 2 回開催できるまでに成長している。その理由として、生産システ

    ムの改善やグループメンバーの拡大を通じて供給量の拡大を努めてきたこと、並びに、市

    場の認知度が上がり有機野菜に対する消費者ニーズが伸びてきたことが挙げられる。

    ビエンチャン市の住民は元々それ程オーガニックに対して高い関心を持っていたわけでは

    ないため、市場の設置にあたり、農民グループは農業局等の支援を受けながら広報活動に

    努めた。例えば、ラジオでの宣伝、バナー(看板)の設置などである。こうした継続的な

    広報活動を通じて、富裕層や外国人居住者を中心に安全な野菜へのニーズを掘り起こすこ

    とに成功している。

    有機野菜のブランド維持のため、農民グループは ICS を導入して品質管理を行っている。

  • 15

    農業省の整備している認証規格に基づき、グループ内での継続的なモニタリングを行うと

    共に、1~3 ヶ月に一度、認証機関からの検査を受け入れている。ICS の活動としては、①

    農地保護(圃場を物理的に囲みドリフティングによる農薬混入を防ぐ等)、②営農管理(堆

    肥の生産・施用等)、③生態系管理(天敵による防虫等)が含まれ、こうした活動を通じて

    有機野菜に関する品質管理を行い、安定的な供給に努めている。

    一方、課題もいくつか挙げられている。まず、小規模農家の集まりであることから供給量

    が限定されていること、そして、マーケットが週に 2 回と限定的であること等が挙げられ、

    さらに、「生産者」だった農家が「販売」を行うには、これまでとは違ったノウハウが求め

    られるということも挙げられる。このため、将来への展望として、恒久的な市場の設置、

    規模拡大技術の習得がビジョンとして挙げられている。

    以上に述べた 3 つの事例に加え、農業局が Good Agriculture Practice (GAP)の導入支援も行う

    など、徐々にではあるが食の安全性に関する取り組みが開始されている。ただし、現在は

    パイロットベースでの取り組みが多く、市場化、特に海外市場への展開といった点では未

    熟な段階にある。一方、前述のとおり、ラオス国ではインプットをほとんど使わない粗放

    的な農業(伝統的農業)が支配的であり、特に国際有機野菜市場においては、農薬利用が

    一般的であるタイの生産者よりも有利な立場にあり、安全な野菜のマーケティングという

    点で十分な素地があるものと考えられる。

    7. タイにおける日系農産加工業と食の安全性確保への取り組み

    タイでは日系の農産加工業者がおよそ 60~70 社営業しているといわれているが、そのほと

    んどが中小企業である。こうした日系企業はタイ国内あるいは中国などから原材料を調達

    し、バンコク周辺で加工した後、日本へ輸出している。タイ国内での主な野菜調達先は冷

    涼な気候を有するチェンマイ、チェンライ等北部地域が中心で、500km を超える距離をト

    ラックにて運搬している。

    ここ数年来、日本へと輸出している日系農産加工業者を取り巻く環境は厳しいものがある。

    特に、2007 年から 2008 年にかけて発生した中国産餃子への基準値を大幅に超えた殺虫剤の

    混入とそれに伴う健康被害の発生を境に、日本人消費者の間で食の安全性に対する要求が

    著しく高まった。その反面、安全管理にかかるコストを店頭価格に反映できないことから、

    そうしたしわ寄せが一次加工品の納入業者であるこうした農産加工業者にも及んでいる。

    こうした中、適正に管理された農産物を安価で調達することの必要性がこうした農産加工

    業者の間で高まり、在タイ日系農産加工業者はそれぞれ様々な努力を行っている。例えば、

    本調査にてインタビューを実施した Summit Foods 社では、仲買業者を通じた契約栽培を通

    じて品質管理と供給の安定化に努めている。しかしながら、煩雑な栽培管理に対する生産

  • 16

    者のコミットメントを高めることは容易ではなく、品質管理に多くの苦労を要している。

    例えば、農薬の使用について問えば「使っていない」と答えるが、検査をすると農薬の成

    分が検出されるというケースがあった。この例では、結果的に周辺の圃場で用いていた農

    薬がドリフトしたことが原因であることが判明したが、こうした管理を農家1人1人に対

    して行っていくことは困難が伴う。

    さらに、適正に使用されていても、日本で登録されていない農薬を用いた場合、安全基準

    に抵触するため日本に輸出できないということも大きな制約要因ともなる。安全な、より

    厳密には「適正に管理された」原材料を調達することには多大なコストがかかることから、

    特に中小企業にとっては新たな市場を開拓することは大きなリスクを伴う。

    このように、安く、適正管理の為された食品に対するニーズは高いものの、食品関連企業

    は中小企業が多く、独自の資本で他国へ積極展開を行うことには慎重である。このため、

    ODA を通じて、買い手を探しているラオス国の農民または農民グループと売り手を探して

    いるこうした日系農産加工業者との橋渡しを行うことができれば、Win-Win なソリューショ

    ンを提供することが可能となる。特に、こうした流通の前提条件となる制度や社会基盤の

    整備には、政府の関与が不可欠であり、この点で、日本政府による ODA の役割は大きいも

    のと期待される。

    8. タイとラオスにおける農民組織化と契約栽培

    (1) タイにおける農民組織化

    タイ国においてもラオス国においても、一般にこの地域の農民は個人主義的で組織化は困

    難であるといわれている。それでも両国を比較した場合、タイ国の方が圧倒的に組織化活

    動が盛んである。タイ国では、農村開発の担い手として政府(王室関連事業を含む)と非

    政府組織(NGO)、そして上述のように民間セクターがそれぞれ関与しており、こうした様々

    なアクターの活動を通じて農民の組織化が図られる機会が多い。

    例えば、灌漑開発を行う場合、大規模開発では支線水路毎、小規模開発では水源毎に水管

    理組合の設立並びに組合を通じた水管理が義務づけられており、設立から運営にかかるま

    で中央政府(関係省庁)や地方政府(TAO: Tambon Administration Officeと呼ばれるSub-District

    レベルの行政組織)による支援が行われる。特に最近では森林管理や生計向上活動など、

    農民の参加を基本としたアプローチが採用されることが多く、組織化に伴う手続きやノウ

    ハウ等が蓄積されてきている。

    また、タイ国では NGO の存在も農民組織化を考える上では重要である。タイ国では、国際

    的な NGO だけでなく、地方レベルの NGO や農民ネットワークが数多く活動しており、地

  • 17

    域に根ざしたこうしたNGOが政府機関と協力しながら農村開発に関与することが一般的で

    ある。こうした、地域密着型の NGO の存在により、農民集団におけるリーダーの発掘が容

    易となり、継続的な関与によるリーダーの養成と組織化支援が可能となっている。

    では、農産加工・流通分野における農民組織化はどうであろうか?この分野では、日本の

    一村一品運動に倣って始められた One Tambon One Product (OTOP)や「道の駅」事業ように、

    ODA による支援を通じた比較的大規模な取り組みがあり、こうした中で加工流通を第一義

    とする目的指向型の組織化が試みられている。一方、小規模農民を対象とする個別具体的

    な農村開発事業においても、生産拡大の次のステップとして、あるいは、総合的な取り組

    みの中での1コンポーネントとして農産加工・流通にかかる活動が行われている。例えば、

    農地改革局が日本の有償資金協力を得て東北タイにて実施している「農地改革地区総合農

    業開発事業」では、ため池の開発を端緒とする農村開発の一環として、コミュニティ・マ

    ーケットの導入、有機野菜だけを取り扱うグリーン・マーケットの新設などが行われてい

    る。

    ここで、強調されるべきなのは、農産加工・販売そのものを目的とした事業がその活動の

    中で組織化を進めている例と、農村開発という大きな枠組みの中で元々組織化を進めてい

    る中で農産加工・販売の活動も付加していくという異なるアプローチが混在することであ

    る。このようにタイ国には組織化を支える様々なアクター、アプローチがあり、こうした

    要因によりラオス国に比して農民の組織化が進んでいるといえる状況にある。

    (2) ラオスにおける農民組織化

    一方のラオス国では、組織化に対する取り組みは限定的である。社会主義国という特殊性

    から、トップダウンでの意志決定が基調となっており、未熟な市場経済と相まって農民の

    自由意志による組織化活動への必然性があまり無いことがその一要因と推察される。特に、

    農業部門においては過去に実施された社会主義的集団農場と無縁ではない。以前は家族経

    営体による自給自足型農業が支配的であったが、1975 年に社会主義体制が敷かれると同時

    にソ連のコルホーズ型の「サハコーン・カセート」という集団農場制が採られた2。コルホ

    ーズや中国の人民公社の例に違わず、ラオス国の集団農場においてもインセンティブが著

    しく低い労働形態により労働生産性は上がらず、1986 年に市場経済へ移行するのに並行し

    て家族経営体へと回帰した。このような過去の苦い記憶が残っていることから、「協同組合

    (Cooperative)」という表現には未だに抵抗が強く、それが、農民組織化が進まない1つの

    要因となっている。実際、サバナケットの水利組合やパクセの農民グループの話では、グ

    ループ活動はさほど行われておらず、グループとしてのメリットがあまりないように見受

    けられた。

    2 出典:http://warcs.mond.jp/yamyam/archives/000808.html

  • 18

    しかしながら、商業的農業の振興を目標としているラオス農業セクターにおいて、マーケ

    ット情報へのアクセス、仲買人との交渉力強化、農村金融へのアクセスといった農民が享

    受しうるメリットを考えたとき、農民組織化の必要性は高まっているといえる。事実、ラ

    オス国政府としても農民組織化に向けた取り組みを始めている。例えば農業局によれば、

    農民組合のマネジメントに関する生産組合組織法の草案が現在作成されており、過去の経

    験を踏まえ”Cooperative”ではなく”Village Cluster”としての農民組織化に取り組んでいると

    いう。また、タイ国と同様、灌漑スキームにおける末端水路の維持やゲート管理は農民組

    織が行うよう制度化されており、さらに、前述のとおり、オーガニック・マーケットの設

    立・運営が行われるなど、いくつかのポジティブな事例が出始めている。

    (3) 契約栽培の事例

    ここで、農産物の国際的商取引の先進事例として、契約栽培の事例を紹介する。特に、コ

    ーヒーや高原野菜といった輸出用農産物の栽培が盛んである南部のチャンパサック県では

    タイ国ウボンラチャタニ県と”Contract Farming Project(契約栽培プロジェクト)”に取り組

    んでいる。ここでいう「契約栽培」とは、一般的に理解されているような生産者またはそ

    のグループと流通業者による売買契約ではなく、ラオス国チャンパサック県とタイ国ウボ

    ンラチャタニ県の間で交わされた包括的な「覚書」である。2005 年に締結されたこの覚書

    は、両県の知事が毎年行っている会合の中で発案・締結されたもので、ラオス国における

    多数の生産者とタイ国における多数の流通業者が効率的に取引を行うための地方行政府間

    の包括的な取り決めであり、生産者または流通業者は直接的な契約主体ではないことに注

    意が必要である。

    具体的には、取引奨励品目と参考最低価格並びにその年の目標取引量が定められており、

    ラオス側、タイ側の流通業者がそれぞれ 10 社、14 社からなるコンソーシアムの様な形で登

    録されている。プロジェクトが始められた 2005 年は US$2.4million であったその取引額は

    2009 年には US$9.2million へと拡大しており、表 7 に示す登録品目(2008 年)も当初の 15

    品目から 25 品目に引き上げられている。

    表 7:契約栽培の指定品目並びに最低保証価格(2008 年)

    品 目 最低価格

    (Bhat/kg)

    1) キャベツ 2.6 2) バナナ 4.6 3) タマリンド 3.5 4) ハクサイ 2.0 5) コットン 9.0 6) 大豆 10.0 7) コーン 4.5 8) ジェトロファ 12.0 9) さつまいも 4.0 10) しょうが 3.0

  • 19

    図 3:契約栽培プロジェクトの流れ

    タイ企業14社が参加 ラオス企業10社が参加

    政府間での合意

    ・取り扱い品目の設定

    ・最低価格の設定

    農民グループ

    タイウボンラチャタニ

    ラオスチャンパサック

    国境

    契約・輸送

    ※企業と農民に間には契約は存在しておらず、ラオス企業から農民に対しては価格や数量についてのアナウンスを行っている。

    集荷※集荷・輸送

    タイ企業14社が参加 ラオス企業10社が参加

    政府間での合意

    ・取り扱い品目の設定

    ・最低価格の設定

    農民グループ

    タイウボンラチャタニ

    ラオスチャンパサック

    国境

    契約・輸送

    ※企業と農民に間には契約は存在しておらず、ラオス企業から農民に対しては価格や数量についてのアナウンスを行っている。

    集荷※集荷・輸送

    品 目 最低価格

    (Bhat/kg)

    11) ピーナッツ 15.0 12) カリフラワー 5.0 13) キャッサバ 1.7 14) セサミ 20.0 15) ソルガム* 6.0

    出典:Department of Agriculture and Forestry, Champasak Province (2010 年 1 月 27 日) 注:15 番のソルガムは正確にはソルガムではなく、ソルガムに似た品種(名称不明)

    実際にこのプロジェクトに参加し

    ているキャベツ栽培農家によれば、

    本プロジェクトによりこれまで国

    内向けに限られていたマーケット

    がタイにまで拡大することができ

    たという。しかしながら、企業と

    農民の間には実際の契約は存在し

    ておらず、価格についても国内向

    けに比べて買い叩かれることが多

    く、農薬使用などに関する品質管

    理についてもほとんど行われてい

    ないのが実情である。その為、ラ

    オス国における契約栽培への取り組みは始まったばかりであり、今後、適切な品質管理、

    農民組織化といった契約栽培の拡大に向けた環境整備が望まれている。

    9. 商業化農業開発計画の構想

    (1) 構想の着眼点

    前述のとおりラオス国においては貧困削減から成長段階へと開発アプローチをシフトして

    きており、平地の優良農地における商品作物の栽培と生産から流通までの一貫した取り組

    みが必要とされている。それも従来のトウモロコシやキャッサバといった原料作物をプラ

    ンテーションで生産して輸出するというのではなく、農産物に付加価値をつけて輸出し農

    家の所得向上と雇用を創出することが求められている。ラオス国に新たに食品加工業を興

    し付加価値をつけて輸出することが理想ではあるが、労働者の質や投資環境を考慮すると

    現段階で民間投資を呼び込むことは容易ではない。一方で、隣国タイ国に生産拠点を持つ

    日系食品加工業においては、日本の消費者の「食の安全性」に関する意識の高まりから安

    全性の高い農産物原材料の確保が課題となっており、原料調達先としてラオスが注目され

    ている。生産国のラオス、加工地である隣国タイと消費地である日本という二つ以上の国

  • 20

    を結びつけることによってラオス国政府の政策に沿った農業・農村開発を構想しようとい

    うものが本調査における開発計画立案の着眼点である。

    (2) 民間セクターとの連携の重要性

    ラオス国に限らず、従来の農業開発計画は政府への協力という形で生産に焦点を当て農業

    生産基盤の整備、作物生産技術の普及を開発課題として取り組んできたが、具体的に販売

    されて農家の所得が向上するプロセスはプロジェクトの目標ではあってもプロジェクトの

    活動には含まれてこなかった。生産性の向上や、品質の向上、新たな作物の導入までは行

    えても、さらに農道等の流通の効率化のための基盤整備までは行っても、農民の所得向上

    という目標を達成するのに必要な適正な価格または付加価値をつけて販売するという活動

    は含まれてこなかった。流通までを念頭においた「商業化」においては消費者の需要に応

    じて実際に農産物が取引され農業生産者の所得向上にまで繋げるために民間セクターの役

    割が非常に重要になってくる。一方、「安価な農産物原料の確保」という視点での民間セク

    ターの活動だけでは農業生産者の所得向上は望めず、たとえ出来たとしても範囲が非常に

    限られたものになるため、政府によるコントロールとファシリテーションも重要である。

    民間企業と農業生産者の Win-Win シナリオを描くには政府と民間セクターの連携が不可欠

    になってくる。

    (3) 日本の ODA の開発協力プログラムとしての商業化農業開発計画の構想

    ① 対象地域

    計画対象地区としては日本が協力の重点地区としている東西回廊以南の中南部地域と

    し、今後発展が望まれる東西回廊沿いのサバナケット県、すでに野菜生産が盛んで企

    業との契約栽培や輸出向け作物栽培も行われているチャンパサック県(特にボロベン

    高原)を中心に灌漑農地、優良農地のまとまりのある地域

    ② 対象作物

    特に作物を限定しないが、加工用原料の畑作物・野菜が対象と考えられる。作物の選

    定にあたっては気象、土壌などの自然条件に加え市場のニーズが大きな決定要因とな

    る。ひとつの作物を特定してその生産振興とマーケット探しを行うことではなく、マ

    ーケットのニーズに応じて作物の切り替えを行ったり(サトウキビとキャッサバの切

    り替え等)、新しい作物(例えば日本野菜)の導入を行うことが必要になってくると考

    えられる。

    ③ 想定されるラオス国政府カウンターパート機関および関連機関

    農林省 計画局・灌漑局・農業局・普及サービス

    実施機関については灌漑地区での農業開発が中心となることから灌漑局となるが、

  • 21

    農林省の関係機関との一体的な取組が重要である。計画局は民間投資、農業局は

    農産物安全性や品種改良に、普及サービスは農民組織化と普及に責任を持つ。

    計画投資省

    5 カ年計画の立案と外国投資と援助の受け入れ機関でもあり、官民連携の新しい枠

    組みでの援助に関しては計画投資省との連携が不可欠である。

    商工省 生産貿易促進局

    食品加工業の誘致や外国企業との契約栽培や輸出促進に関して責任を持つため農

    林省との連携が不可欠である。

    県行政

    各県には各省の出先機関があり中央からの指示により計画の実施を行っているが、

    現実には投資事業に関しては県知事の権限と県行政組織の許認可が重要である。

    ④ 協力内容(案)と民間との連携

    農民組織化(技術協力 農林省農林普及サービス事務所)

    商品作物の栽培と契約栽培には、栽培技術指導、栽培技術・品質向上のための学

    習、生産計画による安定確保、品質管理と交渉力の向上のための農民の組織化が

    不可欠である。これは民間企業にとっては個々の農民との契約・技術指導をする

    必要が無くなることから取引費用を下げる働きがあり、また農民にとっては交渉

    力を高めまた学び合いによって栽培技術・品質向上を行えるため、モデルさえ確

    立されれば民間企業が組織化も担うことが可能である。

    政府機関の人材と予算が限られていることを考慮すれば、中長期的には民間企業

    によって農民組織化が行われることで面的拡大へと繋がるが、タイでも民間企業

    が試行錯誤をしてシステム確立までに数年をかけていることから、その負担を各

    企業が負うようでは多くの企業の参入は望めない。

    従ってモデル事業において農民組織化のモデルを確立する必要がある。この場合

    の農林普及サービス事務所(National Agriculture and Forestry Extension Service)が主

    なカウンターパート機関となるであろう。協同組合というと過去の経緯から住民

    の間に抵抗があるようだが、村毎に作物別の生産部会をイメージした組織をつく

    りそれを積み上げて法人格をもつ組合とすることが考えられる。現在策定中の組

    合の組織化を規定する生産組織法(Organization Law)が根拠となると考えられる。

    優良種子普及(民間種子会社の参入)

    現在 JICA は技術協力プロジェクトで稲優良種子増殖普及計画を行っているが、畑

    作物と野菜について政府としての種子開発・普及のシステムは無いため、民間の

  • 22

    種子会社の参入が望まれる。契約栽培で作物を購入する民間企業が農家に配布す

    るシステムとせざるを得ない。

    民間種子会社の参入により、地域にあった品種の改良・増殖と栽培技術体系の確

    立・普及がなされるのであれば、種子生産者も地域の農家自身がマーケットとな

    るため BOP ビジネス3として展開する可能性が考えられる。モデル事業の中に BOP

    ビジネスとしての展開可能性について調査しパイロットプロジェクトを実施する

    活動を組み込むことが提案される。

    認証制度・体制確立(技術協力 農業局)

    すでに農業局を中心に IFOAMと協力してオーガニックの認証基準を策定している

    が、日系企業のニーズからすると日本でも通用する有機認証かグローバル GAP の

    認証・品質保証制度として確立される必要がある。制度・組織面での支援である

    ため中央省庁への技術協力(専門家派遣+研修)を行う必要があるが、すぐに取

    り組む契約栽培については制度確立を待つわけにはいかないため、まずはタイの

    認証を取得することが考えられる。

    契約栽培支援(ラオス政府商工省生産貿易促進局)

    現在行われている契約栽培は地方政府間の枠組みに関する覚書であったり、投資

    に対して土地のコンセッションを付与してプロフィットシェアする方法であった

    りするが、農家の自立に向けての取組や自主性を尊重した企業との契約栽培スキ

    ームを検討する事が必要と思われる。政府としては農民の権利を保護しつつ企業

    活動を促進するための制度整備を行う必要があるが、特に技術協力のスキームを

    使った協力を行うまでもなく、ラオス国政府の取組に知識ベースでの支援を行う

    ことが妥当と思われる。

    アクセス道路・畑灌施設・集出荷施設整備(無償資金協力 農林省灌漑局)

    対象となる生産地の拡大を目指すには農地へのアクセス道路(農道)の整備と畑

    地灌漑整備による安定生産が必要となってくる。また、農民グループで集荷・選

    果し貯蔵する施設も場合によっては整備が必要となる。これらの施設整備につい

    ては無償資金協力によって整備される必要があるが、比較的小規模で分散して実

    施されるものであることから、プログラムタイプでリクエストに応じて設計して

    建設する方式が望ましく、一般無償のように最初に全ての設計を行ってから短期

    間で工事を施工するのは難しいと思われる。

    3 BOP(Base of the Pyramid)ビジネス:所得階層の最底辺に位置する貧困層を対象としたビジネス。特に新市場の開拓といった企業の利益追求と同時に、貧困などの社会的問題の解決に貢献しうるビジネス。

  • 23

    加工・販売(民間 農産・食品加工会社)

    農産物の加工・販売は民間企業によって行われ、中期的にはラオス国内で加工し

    輸出する事で付加価値を付けまた雇用を生み出すことが望まれるが、リスク要因

    や他国との比較優位性からすぐに農産加工企業を誘致することは困難と思われ、

    まずは既存の隣国タイにある企業へ原料供給することから始め、栽培技術が向上

    し品質管理も行われ安定的に供給できるようになった段階で投資を検討する企業

    も現れると思われる。そのためまずはモデル事業でタイに工場を持つ日系企業複

    数社と連携してトライアルを行い、投資の可能性を検証していくことが妥当と考

    えられる。

    ⑤ 段階的開発の構想と実施スケジュール(案)

    上述のように一気に民間投資を呼び込んで農産加工まで行い輸出するには克服すべき

    課題が多く残されている。モデル事業によって実証され、制度面での整備も整える必要

    があり、段階的な開発を進めることが望ましい。短期のモデル事業と中長期の取り組み

    について概略スケジュールを以下に示す。

    短期(1-5 年) 中期(6-10 年) 長期 (11-15 年)

    1) 既存野菜産地と在タイ日系食品加工企業の契約栽培

    2) 優良種子普及、品質向上と農民組織化による優位性確保

    モデル事業

    3) 品質保証制度の確立(制度整備)

    4) 契約栽培の拡大 (制度整備)

    5) 生産基盤整備による産地の拡大

    モデル事業

    6) 農産加工業のラオスへの誘致

    モデル事業

  • 24

    10. 官民連携スキームと農業分野への適用の可能性

    (1) 官民連携スキームと農業分野への適用の可能性

    2008 年 11 月日本政府は民間企業の活動と ODA との連携を促進するため、民間企業からの

    官民連携案件の提案の受付を開始した。このような背景には、労働力や資源の確保、新し

    い市場の開拓、サプライチェーンマネジメントといった開発途上国における民間企業の活

    動が活発化、多様化していることがある。

    一方で我が国の ODA 予算は 1997 年をピークに減少の一途をたどり、2008 年には 1997 年度

    比で約 40%減となっている。ODA 予算が減少し続ける中、グローバルな活動を展開する民

    間企業の存在感は、途上国の経済成長においても大きく増大しているといえる。実際、社

    会経済の基盤となるインフラ整備・運営、サービス提供といった従来の公的セクターでは、

    PPP 事業の上下分離方式や前後方式といった官民の役割分担が進みつつある。

    また、1999 年にコフィ・アナン事務総長(当時)によって提唱された「グローバルコンパ

    クト」4には 2009 年時点で 7500 団体以上、日本からも 100 社以上が参加しており、今後も

    増えて行くことが予想される。世界的な開発援助の潮流においても民間企業は重要なパー

    トナーとして位置づけられており、国連機関などの援助機関では、民間企業との連携を通

    じた途上国でのプログラムも数多く実施されている。例えば UNDP は GSB(Growing

    Sustainable Business)と呼ばれる枠組みで企業と連携し、商業的にも開発上においても双方

    にメリットが認められるようなプログラムを実施している。また、USAID は世界カカオ財

    団と連携しアフリカの小規模カカオ農家の技術支援を行い、その結果、農民の生産性の向

    上や販売方法の改善がなされたという5。

    我が国においても、2008 年に開始された官民連携パートナーシップでは、民間企業から案

    件の提案を受け付け、官民連携案件として採択された場合には相手国政府へと推薦され、

    ODA 部分についての検討がなされるようになった。外務省や JICA に寄せられる官民連携

    に関する相談については、アフリカ地域が多く、資源やエネルギー確保、気候変動への取

    り組みに加えて、CSR との連携に関する相談が多数寄せられているという。しかし、民間

    企業からの提案を受けて採択をされた実績はまだないという(2009 年 3 月 10 日実施 現地

    ODA タスクフォース遠隔セミナーによる)。

    (2) ラオス農業セクターへの適用について

    貧困削減のための優先セクターと位置づけられ、商業的農業の振興を目標に掲げるラオス

    4 1999 年にコフィ・アナン国連事務総長によって提唱され、企業に集団行動を通じて、責任ある企業市民としての行動を促す国際的なイニシアティブである。 5 世界カカオ財団にはネスレ社などを含む 45 社から構成されており、財団側から US$5million、USAID から US$5million が拠出されカカオの小規模生産者への支援が行われた。

  • 25

    国の農業セクターにとって、民間企業は非常に大きな存在となる。ラオス国の小農が輸出

    農産物を増産しマーケットにアクセスすることは、民間企業との取引を行うことを意味し

    ており、言い換えれば民間企業の存在なしにはラオス国政府が打ち出す商業的農業の推進

    はままならない。

    民間企業にとっても安価で安定した原材料の確保は企業の競争力を維持する上で不可欠で

    ある。バンコクの日系食品加工業者の話によれば、近年タイでは物価が上昇しており、原

    材料の仕入れ及び加工におけるコストを圧迫しているという。そのため、適正な品質管理

    と安定供給が可能となるのであれば、ラオス国という産地は企業にとっても非常に魅力的

    な産地になりうるという。こうした環境において、民間企業を巻き込んだ形での商業的農

    業の振興を目的とした農業開発計画の意義は大きい。

    農業分野における官民連携の必要性が高まっているとはいえ、具体的な実績を作るために

    はある一定の時間がかかることも予想される。今後ラオス国の農業セクターへの官民連携

    スキームの適用を考えたとき、官民連携スキームそのものが抱える課題と農業セクターに

    関わる民間企業の課題とに大別することが出来る。

    制度面での課題として、民間企業の活動スピードと ODA 実施スケジュールのギャップが挙

    げられる。民間企業からの提案には ODA 実施スケジュールと事業実施スケジュールに整合

    性がとられなければならないが、常に激しい市場動向の変化にさらされている民間企業が

    ODA 実施スケジュールと整合性をとるのは簡単ではない。また、PPP インフラ型に見られ

    るような「上下分離式」「前後方式」といった ODA と民間の役割分担が農業セクターにお

    いては不明確であり、どこまで ODA 実施部分で可能となるのかが分かりにくいといえる。