2017. 4 no. 54plaza.umin.ac.jp/~dmcra/newsletter/img/newsletter_no_054.pdfno. 542017. 4 fitted curve...

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No. 54 2017.4 Fitted Curve and Observed ACT ACT counts/10sec hour day SHRSP/Izm 0:00 0 12:00 0 50 100 150 24:00 1 48:00 2 72:00 3 36:00 60:00 ACT counts/10sec hour day SHRSPwch1.0 0:00 0 12:00 0 50 100 150 24:00 1 48:00 2 72:00 3 36:00 60:00 図1 ACT counts/10sec hour day WKY/Izm 0:00 0 12:00 0 50 100 150 24:00 1 48:00 2 72:00 3 36:00 60:00 図2 ACT Spectral Density (1/hour) SHRSP/Izm 0 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05 0.06 0.07 0.08 0.09 0.1 0.11 0.12 0.13 0.14 0.15 0 250000 500000 750000 (1/hour) 0 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05 0.06 0.07 0.08 0.09 0.1 0.11 0.12 0.13 0.14 0.15 0 250000 500000 750000 SHRSPwch1.0 (1/hour) 0 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05 0.06 0.07 0.08 0.09 0.1 0.11 0.12 0.13 0.14 0.15 0 20000 40000 WKY/Izm はじめに 脳卒中易発症高血圧自然発症ラット(SHRSP/Izm)が開発され 1) 、次 い で SHRSP/Izm の 第 1 遺 伝 子 の高血圧に関与する遺伝子領域(QTL)に正常血圧ウィスター京都ラットnormotensive Wistar-Kyoto rat (WKY/Izm)の QTL を 移 し 替 え た コ ン ジ ェ ニ ッ ク・ラ ッ ト(SHRSPwch1.0)が 開 発 さ れ た 2) 。この SHRSPwch1.0の特徴は血圧(SAP)と心拍(HR)がSHRSP/IzmとWKY/Izmの中間値を示すが自発運動 locomotor activity (ACT)が非常に亢進している点である 3) 。今回、この ACT の時間生物学的な特徴と SAP と HR の関係について述べる。 SHRSPwch1.0 の ACT の時間生物学的特徴 SHRSP/Izm、SHRSPwch1.0、WKY/IzmのACTの3日間連続記録より、ACTの変動から最大エントロ ピー法のスペクトルの周期と最小二乗法により至適曲線が得られる。時系列データとこの至適曲線とを図 1に示す。それぞれのラットのACTの極大値の時刻は暗期の中央時刻(00:00)前後であり、極小値は明期 の中央時刻(12:00)前後であることが分かる。このACTの変動はサーカディアン・リズムを形成してい る。図1からACTの変動の振幅は明らかにSHRSPwch1.0で他のラットより大である。図2にSHRSP/Izm、 SHRSPwch1.0、WKY/Izm の周波数とそのピーク・パワー(spectral density)の関係を示す。ピーク・パ ワーのX軸上の位置はそれぞれ周波数0.0431/時間(周期23.19時間)、周波数0.0428/時間(周期23.38時間)、 周波数 0.0434/ 時間 (周期23.07時間)である。SHRSPwch1.0のサーカディアン・リズムのパワーは他のラッ トより大である。更に、SHRSPwch1.0には周波数0.0617/時間 (周期16.197時間)と周波数0.0821/時間 (周 期 12.184 時間)のウルトラジアン・リズムが観察される。 SHRSPwch1.0 の ACT と SAP・HR との関係 ACT と SAP、ACT と HR の 相 関 関 係 を Speaman rank test で 解 析 し、95% の 等 確 立 楕 円 で 示 す(図 3,4)。 ACT と SAP の相関係数はSHRSPwch1.0 で他のラットより大であり、しかもその回帰直線の勾配は急峻である。 図 4 でも ACT と HR の相関係数は SHRSPwch1.0 で他のラットより大であり、回帰直線の勾配も急峻であること コンジェニック・ラット(SHRSPwch1.0)の 亢進している自発運動の時系列解析と血圧・心拍との関係 MJG心血管研究所 河村  博 日本歯科大学生命歯学部内科学講座 三ツ林裕巳 武庫川女子大学薬学部薬学科 池田 克己 島根大学医学部病理学病態病理学講座 並河  徹

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Page 1: 2017. 4 No. 54plaza.umin.ac.jp/~dmcra/newsletter/img/NewsLetter_No_054.pdfNo. 542017. 4 Fitted Curve and Observed ACT ACT counts/10sec hour day SHRSP/Izm 0:00 0 12:00 0 50 100 150

No. 542017.4

Fitted Curve and Observed ACT

ACT counts/10sec

hourday

SHRSP/Izm

0:000

12:00

050

100

150

24:001

48:002

72:003

36:00 60:00

ACT counts/10sec

hourday

SHRSPwch1.0

0:000

12:00

050

100

150

24:001

48:002

72:003

36:00 60:00

図1

ACT counts/10sec

hourday

WKY/Izm

0:000

12:00

050

100150

24:001

48:002

72:003

36:00 60:00

図2

ACT Spectral Density

(1/hour)

SHRSP/Izm

0 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05 0.06 0.07 0.08 0.09 0.1 0.11 0.12 0.13 0.14 0.15

0250000

500000

750000

(1/hour)0 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05 0.06 0.07 0.08 0.09 0.1 0.11 0.12 0.13 0.14 0.15

0250000

500000

750000

SHRSPwch1.0

(1/hour)0 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05 0.06 0.07 0.08 0.09 0.1 0.11 0.12 0.13 0.14 0.15

020000

40000

WKY/Izm

が分かる。以上より、SHRSPwch1.0ではSAPやHRに対してACTが大きく応答しているもと考えられる。

SHRSPwch1.0の多動性と血圧の関係SHRSPwch1.0のSAPとHRはSHRSP/Izmのより小さいのにもかかわらずACTが大きい。このことは第1遺伝子の中にSAPに関与するQTLとACTに関与するQTLが別々に存在する可能性があると考えられる。SHRSPwch1.0のACTにはウルトラジアン・リズムが存在することから、サーカディアン・リズムの他に短周期のリズムのACTも存在し、これが全体としてのACTの亢進に影響を与えていると考えている。従って、SHRSPwch1.0のACTはSHRSP/IzmやWKY/Izmのとは量的にも質的に異なるものと考えられる。また他の報告と考え合わせるとSHRおよびその亜系 のACTの亢進性とSAPとの間には直接の因果関係はないもと考えている4,5,6)。今後、この方面での研究が進むことを期待している。はじめに

 脳卒中易発症高血圧自然発症ラット(SHRSP/Izm)が開発され1)、次いでSHRSP/Izmの第1遺伝子の高血圧に関与する遺伝子領域(QTL)に正常血圧ウィスター京都ラットnormotensive Wistar-Kyoto rat (WKY/Izm)のQTLを移し替えたコンジェニック・ラット(SHRSPwch1.0)が開発された2)。このSHRSPwch1.0の特徴は血圧(SAP)と心拍(HR)がSHRSP/IzmとWKY/Izmの中間値を示すが自発運動locomotor activity (ACT)が非常に亢進している点である3)。今回、このACTの時間生物学的な特徴とSAPとHRの関係について述べる。

SHRSPwch1.0のACTの時間生物学的特徴 SHRSP/Izm、SHRSPwch1.0、WKY/IzmのACTの3日間連続記録より、ACTの変動から最大エントロピー法のスペクトルの周期と最小二乗法により至適曲線が得られる。時系列データとこの至適曲線とを図1に示す。それぞれのラットのACTの極大値の時刻は暗期の中央時刻(00:00)前後であり、極小値は明期の中央時刻(12:00)前後であることが分かる。このACTの変動はサーカディアン・リズムを形成している。図1からACTの変動の振幅は明らかにSHRSPwch1.0で他のラットより大である。図2にSHRSP/Izm、SHRSPwch1.0、WKY/Izm の周波数とそのピーク・パワー(spectral density)の関係を示す。ピーク・パワーのX軸上の位置はそれぞれ周波数0.0431/時間(周期23.19時間)、周波数0.0428/時間(周期23.38時間)、周波数0.0434/時間 (周期23.07時間)である。SHRSPwch1.0のサーカディアン・リズムのパワーは他のラットより大である。更に、SHRSPwch1.0には周波数0.0617/時間 (周期16.197時間)と周波数0.0821/時間 (周期12.184時間)のウルトラジアン・リズムが観察される。

SHRSPwch1.0のACTとSAP・HRとの関係 ACTとSAP、ACTとHRの相関関係をSpeaman rank testで解析し、95%の等確立楕円で示す(図3,4)。ACTとSAPの相関係数はSHRSPwch1.0で他のラットより大であり、しかもその回帰直線の勾配は急峻である。図4でもACTとHRの相関係数はSHRSPwch1.0で他のラットより大であり、回帰直線の勾配も急峻であること

コンジェニック・ラット(SHRSPwch1.0)の亢進している自発運動の時系列解析と血圧・心拍との関係

MJG心血管研究所 河村  博日本歯科大学生命歯学部内科学講座 三ツ林裕巳

武庫川女子大学薬学部薬学科 池田 克己島根大学医学部病理学病態病理学講座 並河  徹

Page 2: 2017. 4 No. 54plaza.umin.ac.jp/~dmcra/newsletter/img/NewsLetter_No_054.pdfNo. 542017. 4 Fitted Curve and Observed ACT ACT counts/10sec hour day SHRSP/Izm 0:00 0 12:00 0 50 100 150

図3

200

150

100

50

0

Y=-65.66+0.40X; rS=0.050, P=0.4015

100 120 140 160 180 200 220 240 260SAP

ACT

SHRSP/Izm

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150

100

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0

Y=-683.95+3.84X; rS=0.592, P=0.00001

100 120 140 160 180 200 220 240 260SAP

ACT

SHRSPwch1.0

200

150

100

50

0

Y=-44.91+0.43X; rS=0.460, P=0.00001

100 120 140 160 180 200 220 240 260SAP

ACT

WKY/Izm

図4

200

150

100

50

0

Y=-112.72+0.36X; rS=0.246, P=0.00001

260 280 300 320 340 360 380 400 420 440HR

ACT

SHRSP/Izm

260 280 300 320 340 360 380 400 420 440HR

200

150

100

50

0

Y=-314.0+1.21X; rS=0.693, P=0.00001

ACT

SHRSPwch1.0

260 280 300 320 340 360 380 400 420 440HR

200

150

100

50

0

Y=-23.32+0.091X; rS=0.604, P=0.00001

ACT

WKY/Izm

が分かる。以上より、SHRSPwch1.0ではSAPやHRに対してACTが大きく応答しているもと考えられる。

SHRSPwch1.0の多動性と血圧の関係 SHRSPwch1.0のSAPとHRはSHRSP/Izmのより小さいのにもかかわらずACTが大きい。このことは第1遺伝子の中にSAPに関与するQTLとACTに関与するQTLが別々に存在する可能性があると考えられる。SHRSPwch1.0のACTにはウルトラジアン・リズムが存在することから、サーカディアン・リズムの他に短周期のリズムのACTも存在し、これが全体としてのACTの亢進に影響を与えていると考えている。従って、SHRSPwch1.0のACTはSHRSP/IzmやWKY/Izmのとは量的にも質的に異なるものと考えられる。また他の報告と考え合わせるとSHRおよびその亜系 のACTの亢進性とSAPとの間には直接の因果関係はないもと考えている4,5,6)。今後、この方面での研究が進むことを期待している。

事務局 生産管理部

http://www.dmcra.com/

はじめに 脳卒中易発症高血圧自然発症ラット(SHRSP/Izm)が開発され1)、次いでSHRSP/Izmの第1遺伝子の高血圧に関与する遺伝子領域(QTL)に正常血圧ウィスター京都ラットnormotensive Wistar-Kyoto rat (WKY/Izm)のQTLを移し替えたコンジェニック・ラット(SHRSPwch1.0)が開発された2)。このSHRSPwch1.0の特徴は血圧(SAP)と心拍(HR)がSHRSP/IzmとWKY/Izmの中間値を示すが自発運動locomotor activity (ACT)が非常に亢進している点である3)。今回、このACTの時間生物学的な特徴とSAPとHRの関係について述べる。

SHRSPwch1.0のACTの時間生物学的特徴 SHRSP/Izm、SHRSPwch1.0、WKY/IzmのACTの3日間連続記録より、ACTの変動から最大エントロピー法のスペクトルの周期と最小二乗法により至適曲線が得られる。時系列データとこの至適曲線とを図1に示す。それぞれのラットのACTの極大値の時刻は暗期の中央時刻(00:00)前後であり、極小値は明期の中央時刻(12:00)前後であることが分かる。このACTの変動はサーカディアン・リズムを形成している。図1からACTの変動の振幅は明らかにSHRSPwch1.0で他のラットより大である。図2にSHRSP/Izm、SHRSPwch1.0、WKY/Izm の周波数とそのピーク・パワー(spectral density)の関係を示す。ピーク・パワーのX軸上の位置はそれぞれ周波数0.0431/時間(周期23.19時間)、周波数0.0428/時間(周期23.38時間)、周波数0.0434/時間 (周期23.07時間)である。SHRSPwch1.0のサーカディアン・リズムのパワーは他のラットより大である。更に、SHRSPwch1.0には周波数0.0617/時間 (周期16.197時間)と周波数0.0821/時間 (周期12.184時間)のウルトラジアン・リズムが観察される。

SHRSPwch1.0のACTとSAP・HRとの関係 ACTとSAP、ACTとHRの相関関係をSpeaman rank testで解析し、95%の等確立楕円で示す(図3,4)。ACTとSAPの相関係数はSHRSPwch1.0で他のラットより大であり、しかもその回帰直線の勾配は急峻である。図4でもACTとHRの相関係数はSHRSPwch1.0で他のラットより大であり、回帰直線の勾配も急峻であること

参 考 文 献

1).Yamori, Y, et al. Jpn Circ J 1975, 39:616-6212).Nabika T, et al. Clin & Exper Pharmacol and Physiol 2000 217:251-256 3).Kawamura H, et al. Clin Exp Hypertens 2013, 35:574-581

4).Whitehorn D, et al. Behav Neural Biol 1983, 37:357-361 5).Becker RHA, et al. Clin Exp Hypertens 1997, 19:1233-12466).Hendley, ED, et al. Hypertens 1983, 5:211-217