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2014 年度 日仏海洋学会学術研究発表会 期日 2014 6 14 日(土) 場所 日仏会館 501 会議室 東京都渋谷区恵比寿 3 丁目 9 番 25 号 〒105-0013

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2014 年度 日仏海洋学会学術研究発表会

講 演 要 旨 集

期日 2014 年 6 月 14 日(土)

場所 日仏会館 501 会議室

日 仏 海 洋 学 会

東京都渋谷区恵比寿 3 丁目 9 番 25 号 〒105-0013

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2014年度 日仏海洋学会学術研究発表会プログラム

期日 : 2014 年 6 月 14 日(土) 場所 : 日仏会館 501 会議室 (東京都渋谷区恵比寿 3-9-25)

10:00~11:30 学術研究発表 午前の部(各 15 分)

座長 奥村 裕(東北水研)

① 気仙沼湾の底泥に含まれる油分の蛍光特性

○戸口和貴 1,藤山凌多 1,池田吉用 1,荒川久幸 1(1:海洋大院)

② 東日本大震災後の気仙沼湾の海底堆積油量

○中村真由子 1,池田吉用 1,荒川久幸 1 (1:海洋大院)

③ NaI(Tl)シンチレーションカウンタを用いたシロメバル Sebastes cheni 生体中の放射性セ

シウム濃度測定 ○松本 陽 1,平川直人 2,荒川久幸 1 (1:海洋大院,2:福島水試)

座長 飯淵 敏夫(海生研)

④ 南北太平洋貧栄養海域における粒状リンの分布

○江濵 誠 1,橋濱史典 1,齊藤宏明 2,櫻庭涼輔 3,諏訪修平 1,神田穣太 1,佐藤光秀 4

(1:海洋大院,2:東大大海研,3:海洋大,4:東京大院)

⑤ ナローマルチビームソナーを用いた藻場タイプ判別手法の開発に関する研究

○濱名正泰,佐々修司,小松輝久(東大大海研)

⑥ 震災後の石巻沿岸を中心とした無給餌養殖漁場の環境について

○奥村 裕 1,増田義男 2,太田裕達 2(1:水研セ東北水研,2:宮城水技セ)

11:45~12:30 評議員会

12:30~13:30 昼休み

13:30~15:30 学術研究発表 午後の部(各 15 分)

座長 内田 裕(JAMSTEC)

⑦ Quasi-horizontal observations of turbulence associated with phytoplankton spatial

microstructures in the upper ocean

○Herminio Foloni-Neto1,田中 衛 1,山崎秀勝 1(1:海洋大)

⑧ 黒潮流軸付近における近慣性内部波の上下伝播の観測と数値実験

○長井健容 1,井上龍一郎 2 ,A. Tandon3,E. Kunze4 ,A. Mahadevan5

(1:海洋大,2:JAMSTEC,3:UMassD,4:UW,5:WHOI)

⑨ 山陰海岸沖で観測された近慣性内部波の時空間変動

○山﨑恵市 1,北出裕二郎 1,井桁庸介 2,渡邊達郎 2(1:海洋大院,2:水研セ日水研)

⑩ アドリア海における風と波の呼称の特徴‐ダルマチア海岸における地域調査‐

○矢内秋生(武蔵野大)

座長 北出裕二郎(海洋大院)

⑪ 北太平洋亜熱帯モード水中の水温微細構造から見た混合効率の研究

○黒野由依,中野知香,根本雅生,吉田次郎(海洋大院)

⑫ 館山湾における乱流構造の研究 ○古見拓郎,中野知香,吉田次郎,根本雅生(海洋大院)

⑬ 館山湾におけるマアジの研究 ○澁谷勝晶,中野知香,吉田次郎,根本雅生(海洋大院)

⑭ 相模湾における外洋性サメ類の研究

○戸髙耀介 1,中野知香 1,塩出大輔 1,吉田次郎 1,根本雅生 1,塩崎 航 2

(1:海洋大院,2:国際水研)

15:40~16:25 総会

16:25~16:45 東北のカキ養殖業に対するフランスからの支援と復興の状況報告(小池康之会員)

「Oyster farming in Tohoku : post-tsunami restoration and technical adaptation of

French culture systems(東北のカキ養殖:津波被災後の復興とフランスの技術導入)」

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16:45~16:55 2014 年度日仏海洋学会論文賞授与式

≪論文賞受賞≫ 田村 康氏(海洋大)「Occurrence patterns and ontogenetic intervals based on the

development of swimming-and feeding-related characters in larval and juvenile Japanese sea

bass (Lateolabrax japonicus) in Tokyo Bay」51 巻 1-2 号,13-29,2013

≪論文賞受賞≫ 國分優孝会員(東大大海研)「Biomass of marine macrophyte debris on the ocean

floor southeast of Hokkaido Island adjusted by experimental catch efficiency estimates」50 巻 1-2

号,11-22,2012

17:00~19:00 懇親会 BAR de ESPANA Ocho(日仏会館斜め前)

会費 5,000 円, 学生 3,000 円

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気仙沼湾の底泥に含まれる油分の蛍光特性

○ 戸口和貴 1・藤山凌多 1・池田吉用 1・荒川久幸 1

(1東京海洋大学大学院)

キーワード:油汚染・蛍光・リモートセンシング・気仙沼湾

目的

東日本大震災によって宮城県気仙沼湾

の沿岸では,燃油タンク 23 基のうち 21

基が倒壊し,重油 12810kL が漁場海域に

流出した.流出した重油は津波で撹拌さ

れた粒子と付着し,海底に堆積したと考

えられている.今後,堆積した油が沿岸

漁業に影響を与え続けることが懸念され

ており,油汚染海底の浄化が求められて

いる.浄化処理を効率的に行うためには,

海底に堆積した油の分布を詳細に把握す

る必要がある.しかし,海底に堆積した

油の分布は,採泥し分析することで観測

されるため,空間的に点の観測しか得る

ことができない.本研究では,気仙沼湾

における海底の油分分布の迅速測定を目

的として,紫外レーザーによる重油の蛍

光特性を利用した検出手法の開発を行っ

ている.本発表では,その一環として気

仙沼湾の底泥に含まれる油分の蛍光特性

を調べ,海面からのリモートセンシング

計測の可能性に言及する.

方法

2012 年 12 月,2013 年7月に気仙沼湾

において底泥の採取と海水の光束透過率,

海底の蛍光の観測を行った.観測点は,

11 点である(図1).底泥はエクマンバー

ジ採泥器を用いて採取された.研究室に

持ち帰った底泥は,暗室内で紫外放射を

照射し分光器 Jaz を用いて底泥からの蛍

光を波長別に測定した.また,各観測点

では水中分光放射照度計 PRR600に 3台の

紫外光ランプ(波長:375nm)を取り付け,

海底に接するまで沈め海底からの蛍光量

を測定した.

結果

室内実験の結果,底泥からの蛍光は

550nm 付近を中心に極大が見られた.流

出したほとんどが A 重油であったが,底

泥の蛍光の波長分布は C 重油のそれと類

似した.現地調査における海底からの蛍

光は 550nm を中心にピークが見られた.

海底からの蛍光と底泥の油分との関連は,

油分が高いほど海底からの蛍光強度が高

くなる傾向がいくつかの観測点で見られ

た.

今後,紫外レーザーを使用した海底堆

積油の検出手法の開発に応用できるもの

と考えられた.

図1 気仙沼湾における

観測点

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東日本大震災後の気仙沼湾の海底堆積油量

○中村真由子・池田吉用・荒川久幸

(東京海洋大学大学院)

キーワード:油汚染・東日本大震災・海底堆積物・PAH

1. 目的

2011 年 3 月 11 日に発生した東日本大

震災と津波によって,宮城県気仙沼湾で

は漁港埠頭に設置されていた燃油タンク

21 基が倒壊し,約 12810kl の重油が養殖

漁業海域へ流出した.流出油の一部は海

上で炎上し,津波の引き波と共に外洋へ

排出された.また一部は粒子と共に撹拌

され気仙沼湾内の海底へ堆積した.今後

の漁場環境の改善のため海底堆積油の除

去が必要となっている.本研究では海底

堆積油の分布および堆積量を明らかにす

る.

2. 方法

調査は 2012 年 2 月,3 月,12 月,2013

年 2 月,7 月,11 月に実施した.観測点

は図 1 に示す 20 点とした.エックマンバ

ージ採泥器(20cm 角)により,各測点で海

底表面の約 1.5Lの底泥を採取した.分析

項目は n-ヘキサン抽出物質重量および

GC×MS による全石油系炭化水素

(TPH)・多環芳香族炭化水素(PAH)とした

3.結果

2012 年 2 月の油分は最低値が

200mg/kg(Sta.4,8,13,20),最大値が

1200mg/kg(Sta.14,17)であった.油分分

布の変化は湾口部(Sta.12,13)では徐々に

減少し現在は検出限界以下となった.多

くの測点では水産用水基準(1000 mg/kg)

を超える値が検出されるものの,減少が

見られた.一方で水道部(Sta.14~17)など

の水深の深い測点(Sta.14)では増加が見

られた.TPH の分布は 2013 年 7 月で検

出限界以下~600mg/kg であり,PAH は

354~48435μg/kg であった.

気仙沼湾底泥に残存する油分(n-ヘキサン

抽出物質)および全鉱物油(TPH)の全量

は 2013 年 7 月時でそれぞれ 1725kℓおよ

び 173kℓと算出された.

4. 考察

残存する油分は湾奥および西側,水道部

で多く、水産用水基準を大きく上回るこ

とから、これらの地点の油分の除去が必

要と考えられた。

図 1 気仙沼大島周辺の観測点

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NaI(Tl)シンチレーションカウンタを用いた

シロメバル Sebastes cheni 生体中の放射性セシウム濃度測定

〇 松本陽 1・平川直人 2・荒川久幸 1

(1東京海洋大学, 2福島県水産事務所)

キーワード:シロメバル・NaI(Tl)シンチレーションカウンタ・放射性セシウム濃度

1.はじめに

東日本大震災に伴う東京電力福島第一

原子力発電所事故により漏出した大量の

放射性物質は福島沿岸域に拡散した.現

在,福島県が実施している水産物中の放

射性物質モニタリングにより,シロメバ

ル等の特定の魚種から高い放射性セシウ

ム濃度(以下,Cs 濃度)が報告されてい

る.これらの魚種において,Cs 濃度の経

時変化や生物学的半減期を推定するため

には,個体毎の Cs 濃度を経時的に測定す

る必要がある.本研究では,上記魚種生

体についての Cs 濃度測定の実行可能性

を評価するために,NaI(Tl)シンチレーシ

ョンカウンタ(以下,NaI)による測定方

法を検討した.

2.方法

2013 年 9-12 月にかけて福島県いわき

市沿岸で刺し網および釣獲により採取さ

れたシロメバル 7 個体(TL:13.8-28.7cm)

のγ線スペクトルを NaI(コンピュータ

ー総合研究所社製,A2730)を用いて測定

した.シロメバル生体を想定し,魚体中

央部と筋肉の多い尾部の 2通りを 3600秒

間測定し,137Cs エネルギー領域のカウン

ト数を NaI 値とした.その後,同一個体

を裁断し,ゲルマニウム半導体検出器(以

下,Ge)により Cs 濃度を 7200 秒間測定

した.Ge 値を真値として NaI 値の信頼性

を評価し,麻酔処理を施したシロメバル

生体 35 個体(TL:22.9-32.6cm)について

も同様に NaI により測定した.生体の測

定時間は,600 秒間とした.

3.結果および考察

シロメバル 7 個体の NaI 値に,部位間

の有意な差は認められなかった.また,

Ge 値との関係で得られた決定係数および

信頼区間から NaI 値の信頼性を確認した.

シロメバル生体については,個体差が大

きいものの,NaI 値は概ね経時的に減少

しており(図1),測定を継続する事で,

本種の生物学的半減期の推定が可能であ

ると考えられた.更に,NaI 値と重量と

の関係から,大型老齢個体ほど Cs 濃度が

高い傾向が見られ,震災後の本種の成長

速度の違いによる Cs 濃度の希釈の可能

性が示された.

図1 シロメバル生体の Cs 濃度の推移

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南北太平洋貧栄養海域における粒状リンの分布

○江濵誠 1・橋濱史典 1・齊藤宏明 2・櫻庭涼輔 3・諏訪修平 1・神田穣太 1・佐藤光秀 4

(1東京海洋大学大学院海洋科学技術研究科,2東京大学大気海洋研究所, 3東京海洋大学海洋科学部,4東京大学大学院農学生命科学研究科)

キーワード: 太平洋亜熱帯域・粒状リン・リン酸塩

【目的】 海水中の粒状リンは, 粒状有機態リン

(POP) と無機態リン (PIP) に分画される. POP は

生物体やデトリタスから構成され, PIPは鉱物や微

生物の細胞内外のリン化合物から成る. 貧栄養な

亜熱帯外洋域における表層のリン酸塩は低濃度な

がら顕著な地理的変動を示すことが明らかになり

つつある. 一般にリン酸塩枯渇下の微生物群集は

細胞内のリン含有量を減らすことが報告されてい

るため, 亜熱帯外洋域においてもリン酸塩濃度に

連動した粒状リン濃度および形態が地理的に変動

すると推察される. しかし, それらの分布様態は,

低濃度の粒状リンの分析が困難であることなどか

ら, ほとんど明らかになっていない. 本研究では

南北太平洋貧栄養海域において, 高感度吸光光度

分析法を用いて粒状リンの分布および組成を明ら

かにしたので, ここに報告する.

【方法】 観測は海洋開発研究機構「白鳳丸」の

KH-11-10 およびKH-12-3 次航海において, 西部お

よび中部北太平洋, 東部南太平洋の亜熱帯域にて

行った. 試水はCTDに取り付けたニスキンX採水

器により採取した. リン酸塩濃度は長光路キャピ

ラリーセルを用いた高感度吸光光度分析法により

測定した. 粒状リンおよび PIP 濃度は, 試水 1075

および 2300 mL を GF/F フィルター (孔径約 0.7

μm) で濾過し, それぞれ湿式酸化分解および希酸

抽出を行った後, リン酸塩の高感度吸光光度分析

法により測定した. POP 濃度は, 粒状リン濃度か

ら PIP 濃度を差し引き求めた. クロロフィル a

(Chl a) 濃度は, 試水を GF/F フィルターで濾過し

た後, DMF 抽出による蛍光法によって測定した.

【結果と考察】 表層混合層内のリン酸塩, 粒状リ

ン, POP, PIP の濃度は鉛直的に均一に分布してい

た. 表層混合層内の平均リン酸塩濃度は日付変更

線を境界に西部北太平洋で低く (8±9 nM, n=35),

中部北太平洋で高かった (38±12 nM, n=16). 一方,

東部南太平洋では北太平洋に比べ高濃度であった

(228±117 nM, n=22) . 表層混合層内の平均粒状リ

ン濃度は, 西部北太平洋 (14±3 nM, n=36) と中部

北太平洋 (17±1 nM, n=16) では同程度であった.

東部南太平洋では測点によって大きな変動がみら

れた (21±14 nM, n=22). 全域における粒状リンに

占める PIP の割合は 15.9±4.4% (n=115) と低く,

海域間による大きな差はなかった. 全域における

表層混合層内のリン酸塩濃度と POP/Chl a 比には

有意な正の相関が認められた (図 1). ただし, リ

ン酸塩濃度が 20 nM 以下の西部北太平洋と 20-60

nMの中部北太平洋とではPOP/Chl a比は同程度も

しくは西部北太平洋で高かった. リン酸塩枯渇域

では, 微生物がアルカリホスファターゼによって

溶存有機態リンを加水分解し, 遊離したリン酸塩

を取込むことが知られている. 本航海ではアルカ

リホスファターゼ活性が中部北太平洋に比べ西部

北太平洋で高かったことから, リン酸塩枯渇下で

微生物が溶存有機態リンを利用し, 細胞内のリン

含有量を維持していたことが示唆された.

図 1 表層混合層内におけるリン酸塩と POP / Chl a 比

の関係 (西部北太平洋 : , 中部北太平洋 : ×,

東部南太平洋 : )

0

100

200

300

400

500

0 100 200 300 400 500

リン酸塩 (nM)

PO

P /

Chl

a (

mm

ol

g-1

)

y = 0.517x + 204

R² = 0.2669

p < 0.001

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ナローマルチビームソナーを用いた藻場タイプ判別手法の開発

に関する研究

○ 濱名正泰・佐々修司・小松輝久

(東大大海研)

キーワード:ナローマルチビームソナー・マッピング・底質判別・藻場

1. 目的

藻場は沿岸生態系において,水産生

物の生育場,餌場,産卵場など重要な

役割を果たしている.また,藻体自体

が漁獲対象となるコンブ類などで構成

される藻場は,漁場として水産業にと

っても重要である.このような藻場の

重要性から,藻場の保全のためにその

分布を把握する必要がある.

藻場の分布の計測方法の一つとして,

ナローマルチビームソナーを用いた方

法がある.ナローマルチビームソナー

は詳細な海底地形データと同時に,海

底面からの超音波の反射強度データを

収集することができ,底質判別にも利

用されている.ナローマルチビームソ

ナーを用いた底質判別では,岩場や砂

場,藻場などの底質タイプを判別する

ことはできるが,スガモ場やコンブ場

などの藻場タイプの判別を行った研究

例は少なく,藻場タイプの判別は,水

中カメラなどの直接観測により行って

いるのが現状である.そこで本研究で

は,ナローマルチビームソナーから得

られる音響データによる藻場タイプ判

別手法の開発のための知見を得ること

を目的とした.

2. 方法

調査は 2013年 6月に北海道襟裳町

沿岸のコンブ漁場にて実施した.ナロ

ーマルチビームソナーは Sonic2024

(R2sonic 社製:周波数 400kHz,パ

ルス幅 35μs)を使用した.Sonic2024

のデータは,Hypack2013(Hypack

社)により収録した.また,シートゥ

ルースデータを得るため,船上からの

目視観測及び水中カメラ GoPro

HERO3(GoPro 社製)による直接観

測を実施した.

収録した海底面からの反射強度デ

ータは,Hypack2013に組み込まれて

いる Geocoder によりモザイキングし

た.

本研究では,藻場タイプの判別を行

うため,海藻の生え方の違いに着目し

た.すなわち,海藻の生え方の違いと

ナローマルチビームソナーから得ら

れる海底面からの反射強度イメージ

との関係に着目し,藻場タイプ判別の

可能性について調べた.ここで,従来,

海底からの反射強度のモザイキング

では,超音波の海底への入射角の影響

の補正を行う.しかし,入射角補正を

行うことで,海藻の生え方による反射

強度イメージの違いが失われてしま

うことが考えられたため,本研究では,

Geocoder により入射角補正を行った

反射強度モザイクと入射角補正を行

わない反射強度モザイクの 2 種類の

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モザイキングを行った.

3. 結果

船上からの目視観測及び水中カメラ

による直接観察により,調査海域には,

コンブ,スガモが繁茂していることが

確認された.

ナローマルチビームソナーにより得

られた海底の傾斜角と Geocoder によ

り入射角補正を行った反射強度モザイ

クから,藻場(コンブ場とスガモ場)

と岩場を判別できることが分かった

(図 1).しかし,入射角補正を行った

反射強度データは,コンブ場とスガモ

場の間で大きな差は無く,藻場タイプ

の判別は非常に困難であった.

そこで,藻場と判別されたエリアに

入射角補正を行っていない反射強度モ

ザイクをオーバーレイした(図 2).そ

の結果,藻場と判別されたエリアにお

いて,反射強度モザイクに 2 つの特徴

がみられた.水中カメラによる直接観

測の結果との比較から,入射角補正を

行っていない反射強度モザイクを利用

することで,コンブ場とスガモ場の 2

タイプの藻場を判別できることがわか

った(図 3).

4. 考察

本研究ではナローマルチビームソナ

ーを用いた音響的手法による藻場タイ

プ判別手法開発のため,海底面からの

反射強度イメージに着目した.

その結果,超音波の海底面への入射

角の影響の補正を行わなかった反射強

度モザイクにおいてコンブ場とスガモ

場の間に明瞭な違いがみられた.これ

は,海藻の生え方の違いが影響したた

めと考えられる.

一方,入射角補正を行った反射強度

モザイクでは,コンブ場とスガモ場と

の間に明瞭な差がみられなかった.こ

れは,コンブとスガモの生え方の違い

が及ぼす反射強度イメージへの影響が

入射角補正により失われたためである

と考えられる.

図 1 海底の傾斜角と入射角補正を行

った反射強度モザイクによる底質分類

マップ(■:藻場 ■:岩場)

図 2 藻場と判定されたエリアに入射

角補正を行っていない反射強度モザイ

クをオーバーレイした底質判別マップ

図 3 藻場タイプ判別結果

(■:コンブ ■:スガモ ■:岩場)

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震災後の石巻沿岸を中心とした無給餌養殖漁場の環境について

○ 奥村裕 1・増田義男 2・太田裕達 2

(1水研セ東北水研・2宮城水技セ)

キーワード: 植物プランクトン、ボックス・モデル、栄養塩

【目的】宮城県沿岸域は津波により無給餌養殖漁場

など多くの施設が被害を受けた。震災から丸3年が

経過したが、カキ生産量は1万トン弱(殻付き重量)

で推移し、震災前の4万~6万トンに比べ大きく減

少しており、未だ震災以前の状態まで回復していな

い(図1)。そこで、漁場環境の状態を把握するため、

貝類の餌料となる植物プランクトンに着目し、石巻

沿岸を中心に栄養環境が植物プランクトンの現存

量や多様性に影響を及ぼしていないか調べた。

【方法】2007年~現在まで、荻浜湾(週1回~月1

回)と、仙台湾(月1回)において環境調査を実施して

いる。深度ごとに採水し、ろ過、色素抽出後に高速

液体クロマトグラフィーで、クロロフィルa(Chl.

a)など分析し、分類群別の植物プランクトン現存量

を経時的に調べた。震災直後の2011年5月から季

節ごとに植物プランクトンを計数し、多次元尺度構

成法(nMDS)により震災前後の植物プランクトン群

集の多様性について解析した。また、塩分や栄養塩

濃度なども測定し、統計資料から河川流量を調べた。

その後、仙台湾奥における窒素・リンの簡易のボッ

クス・モデルを作成し、2009 年以降の栄養塩の状

況を比較した。

【結果】荻浜におけるChl aの最大値は、震災前13.1

μg/Lであったが、震災後の2011年は一時的に14.3

μg/L に増加していた。しかし、翌年の 2012 年は

8.2μg/L となり、昨年、今年はそれぞれ 5.4、6.8

μg/Lと震災直後に比べ減少傾向にあった。

nMDSによる解析では震災前(1985年~1990年)

と震災後(2011~2013 年)の植物プランクトン群集

が完全に別のグループとなり、仙台湾における植物

プランクトンの多様性は震災前後で異なっていた。

栄養塩のリン(P)は、震災前に比べ2012年にかな

り低く、そのためN:P比が約94:1とレッドフィー

ルド比(16:1)より高くなったが、2013年はリン制限

から回復していた。一方、2013 年は窒素量が例年

の半分程度と少なく、震災後窒素やリンのバランス

が崩れた状態が続いていた。

【考察】震災直後に植物プランクトン現存量が増加

いていたのは、津波によりカキなどが筏ごと流され

捕食者が減少したのが一因と推察しているが、その

後の植物プランクトン現存量の減少は栄養塩濃度

の低下や、窒素とリンのバランスが崩れたのが要因

と推察した。また、同一海域ではシストから発芽す

る貝毒プランクトンの増加が今年も報告されてお

り、植物プランクトンの多様性が震災前後で異なる

のは、津波による海底攪乱が一因と推察している。

震災後の沿岸環境は未だ安定しておらず、今後も海

域の栄養状態や植物プランクトンの出現状況など

漁場環境を注意深く観察する必要があると考えら

れた。

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Quasi-horizontal observations of turbulence associated withphytoplankton spatial microstructures in the upper ocean

© Herminio Foloni-Neto1 Mamoru Tanaka1 Hidekatsu Yamazaki1

1Faculty of Marine Science, Tokyo University of Marine Science and Technology, 5-7, Konan 4, Minato-ku, Tokyo 108-8477, Japan

Keywords: upper ocean · phytoplankton · microstructure · turbulence

Introduction and Objectives

New technologies have been central to describ-ing phytoplankton distribution in the oceans withincreased resolution. In this context, the spatialdistribution of phytoplankton and its relationshipwith turbulence has remained the realm of micro-structure profilers that contain adjacent fluores-cence and velocity shear sensors. The TurboMAP-Glider (TMG), a new quasi-horizontal profilercapable of measuring ocean biophysical micro-structure, allows the use of a new perspectivewhile investigating phytoplankton distribution atmicro-scales, where efforts are being made to un-derstand the mechanisms driving the transition ofchlorophyll fluorescence from representing a con-tinuum to a discrete variable.

In this work, we focus on the phytoplanktondistribution in the upper ocean using a combin-ation of vertical and quasi-horizontal microstruc-ture sampling. Moreover, we discuss how phyto-plankton patches are distributed horizontally inthe ocean and how they are affected by the vari-ation of physical structures.

Methods and Field Work

On June 24th 2013, we carried out our exper-iment, on board of the R/V Seiyo Maru nearJoga-shima, Japan. Two microstructure profilerswere used to provide both quasi-horizontal andvertical microstructure measurements: the TMGand the TurboMAP-L (TML). Both profilers havethe same sensors, including two velocity shearprobes (both oriented to detect velocity fluctu-ations in z-direction) and two chlorophyll-a fluor-escence sensors: Light Emitting Diode (LED)and laser fluorescence probes. The LED sensorsamples a volume of 4 ml and has an approximate

spatial resolution of 2 cm. The reduced samplevolume of the laser probe (32 µl), in comparisonto the LED probe (4 ml), allows for measurementsof chlorophyll-a with increased spatial resolutionand gives independent measures of the fluores-cence field approximately every 2–3 mm at typicalprofiling speeds, between 0.50 and 0.80 m s−1.

Results and Remarks

Both instruments have a statistically equalmean for LED and laser probes according to theKolmogorov-Smirnov test with a significance levelof 0.05. Therefore, the averaged phytoplanktondistribution was considered homogeneous.

The non-averaged log-transformed histogramsof vertical and quasi-horizontal segments of fluor-escence data measured by the LED and lasersensors were best fit by log-normal and Gumbeldistributions, respectively (Fig. 1). This resultdemonstrates the existence of a critical scale atwhich the underlying nature of the fluorescencefield diverges, as already suggested by [1]

Phytoplankton patches

It is likely that the peak structures identified bythe laser probe constitute patches of increased bio-mass which may include individual phytoplanktoncells as well as chains and aggregates [2]. TheTMG laser fluorescence is more patchy than thatfrom TML, which can be attributed to TMG’squasi-horizontal path. We propose that the quasi-horizontal sampling increases the probability ofidentifying phytoplankton patches, since particlesand aggregates tend to be orientated with shearlayers, which are a horizontal features.

The high fluorescence concentration patchestended to increase with the mean chlorophyll un-

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Figure 1: Histogram of log-normalized fluorescencevalues measured by the TMG (a) LED and (b) lasersensors between 21 and 25 m depth. CorrespondingQ-Q plots show the comparison of the distribution ofthe (c) LED and the (d) laser fluorescence values totheoretical distributions.

der weak turbulence conditions, with the kin-etic energy dissipation rate, ε, from 1 × 10−10 to1 × 10−8 m2 s−3 (Fig. 2a). At the same time, themean distance between patches decreases with themean chlorophyll (Fig. 2b).

Figure 2: a) Number of patches versus averagedchlorophyll. b) Mean distance between patches versusaveraged chlorophyll. The colorbar indicates the log10ε values from each measurement.

However, under moderate turbulence conditions(1 × 10−8< ε < 1 × 10−6 m2 s−3), the oppositetrend occurs, and very high concentration chloro-phyll patches decrease in number, while the dis-tances between them increases (Fig. 2a and 2b).Very few patches were found in strongly turbu-lent waters (ε > 1 × 10−6 m2 s−3), which indic-ates that strong turbulence might have a negativeimpact (particle erosion) on phytoplankton patchformation.

Our work presents new and relevant empiricalresults about the differences between the verticaland quasi-horizontal application of high-resolutionfluorescence profiling instruments to understand-ing the spatial structure of phytoplankton. In ad-dition, we presented evidence that turbulence af-fects phytoplankton patch formation by increasingor decreasing number, size and distance betweenthe patches as shown in Fig. 3. Observation ofhigh resolution phytoplankton distribution is im-perative to validate biophysical interaction mod-els, and therefore, to help achieve a better under-standing of plankton ecology.

Figure 3: Illustration of phytoplankton patch mi-crostructure under different turbulence conditions.a) Small phytoplankton patches with mean distancebetween patches equal d. b) High chlorophyll concen-tration aggregates with mean distance between patchesequal D.

———————————————————–*References

[1] M. J. Doubell, J. C. Prairie, and H. Yamazaki. Millimeterscale profiles of chlorophyll fluorescence: Deciphering the mi-croscale spatial structure of phytoplankton. Deep-Sea Res.II, 101:207–215, 2014.

[2] M. J. Doubell, H. Yamazaki, H. Li, and Y. Kokubu.An advanced laser-based fluorescence microstructure pro-filer (TurboMAP-L) for measuring bio-physical coupling inaquatic systems. J. Plankton Res., 31(12):1441–1452, 2009.

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黒潮流軸付近における近慣性内部波の上下伝播の観測と数値実験○ 長井健容・井上龍一郎・A. Tandon・E. Kunze・A. Mahadevan(海洋大) (JAMSTEC) (UMassD) (UW) (WHOI) キーワード:黒潮・乱流混合・近慣性波・EM-APEXフロート

1.はじめに 風から海洋に与えられる仕事率のうち約1TW(1012 W)が、黒潮等の海流を含む風成循環を駆動していると見積もられている(Wunsch 1998)。風成循環が準定常状態を維持するためには、同じ約1TWの率でエネルギーが散逸しなければならない。しかしながら、バランスした大規模なスケールの運動が如何に散逸しているかは不明な点が多い。この為、風成循環の一部である中規模渦や海流のもつエネルギーの散逸過程について、現在、活発な研究が展開されている。 これまでの研究で考えられている風成循環の散逸過程として、地衡流が海底で励起するlee波等による散逸や風がフロントの流れと同方向に吹く場合(Downfront-wind)のSymmetric不安定(Thomas & Taylor 2010, D'Asaro et al. 2011, Nagai et al. 2012)、フロントの強化(Frontogenesis)時に伴う中規模エネルギーの3次元乱流への直接的な散逸(McWilliams et al. 2010)等が報告されている。また、大気力学に置いては、蛇行が著しい大気フロントから、近慣性波が発生する事も報告されている(Plougonven & Snyder 2005)。海洋においても、北太平洋東部の亜熱帯フロント域で、風の影響とは考え難い近慣性内部波がフロントから発生していることが、観測によって報告された(Alford et al. 2013)。 Nagai et al.(2009)は、黒潮直下の躍層内部で強い乱流散逸を観測したと同時に、帯状の非地衡流シアを観測した。この様な帯状シアは、その波長から近慣性内部波の影響であると考えられた。近慣性内部波が黒潮フロント直下で発生、或は存在している場合、波はフロント周辺の渦度(Kunze 1985, Kunze et al. 1995)や、鉛直シア(Whitt & Thomas 2013)等の影響を受けて、暖水塊の底部やフロント直下のCritical Layerで著しい乱流散逸を引き起こす事が期待される。Nagai et al. は黒潮フロント自体が近慣性波を発生させているという仮説を検証するために、黒潮の観測データを初期値とした数値実験を実施した。その結果、平均して内部波エネルギ-への散逸率が、O(10 mWm-2)に相当し、地衡流が海底で発生させるlee波と比較した場合、黒潮フロント域は、近慣性波発生と散逸を介して、表層で中規模エネルギーを散逸する重要な海域であることが示唆された。しかしながら、実際にどのようなメカニズムが卓越して散逸に寄与しているかを明らかとするためには、更なる現場観測を要する。2.観測 現場観測は、 2013年7月16-29日にJAMSTEC「かいよう」を用いて実施した。観測では、黒潮を横断する断面観測と、黒潮流軸で船舶をドリフトさせて行う時系列観測を行った。観測では、XCTD、XBT、Underway-CTD、VMP500、TurboMAP-L、XMP等を用いて、密度場と微細構造の測定を高解像度に実施した。流速場は、船底ADCP(38kHz)を用いて観測した。これらに加えて、EM-APEXフロートを3本、黒潮の南側から流軸にかけて投入

し、Navisフロートに微細構造観測装置MicroRiderを装着して黒潮流軸付近に投入した。 3.結果  3本のEM-APEXフロートによる水平流速データに30時間のハイパスフィルータを施した結果、黒潮流軸から若干南側のEM-APEXフロートの流速場が、水深約300m以浅で、上方向、以深で下方向の位相伝播を示し、それぞれ下方向、上方向へのエネルギー伝播を示した。また、10日間黒潮流軸に投入したEM-APEXフロートの流速データは、黒潮の蛇行の峰で主に内部波エネルギーの上方伝播を、蛇行の谷で下方伝播を示唆する流速分布を示した。エネルギーが下方伝播する近慣性内部波は風によっても発生する。一方上方伝播を示唆する近慣性波の成因には、海底による反射・散乱等も考えられるが、本研究では、黒潮フロント内部から近慣性波が生成されると仮定し、この仮説を検証する。内部波の鉛直方向のエネルギーフラックスを推定した結果、3次元の数値実験と同様なO(10 mWm-2)程度のフラックスが算出された。さらに、乱流計フロートで計測された水温の散逸率は黒潮流軸直下の低塩分水貫入層内で著しく大きな値を示した。 これらのことを数値実験で再現するために、本研究では2次元の非静水圧モデルを用いた。実験の結果、観測で得た黒潮流軸の蛇行に伴った近慣性内部波の鉛直伝播方向の変遷に類似した傾向を再現することが出来た。

図1:黒潮流軸若干南側に投入したEM-APEXフロート:(b-c)EM9239 (d-e)EM9032による30時間ハイパスフィルターを施した(b,d)東西、(c,e)南北流。(a)観測期間中の衛星海面高度とフロートの軌跡。

図2:2次元非静水圧モデルで再現したフロント蛇行に伴う近慣性内部波南北流速成分の時間-水深変化

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山陰海岸沖で観測された近慣性内部波の時空間変動 ○ 山﨑 恵市 1・北出 裕二郎 1・井桁 庸介 2・渡邊 達郎 2

(1海洋大院,2水研セ日水研)

キーワード:近慣性内部波・山陰海岸・相対渦度・ADCP

はじめに

日本海沿岸域では,台風により励起される近慣性内

部波が岸まで伝播し,急潮と呼ばれる強流を引き起こ

し定置網破損などの漁具被害をもたらしている.近慣

性内部波の発生・伝播過程の理解が急潮を高精度に予

測する上で重要となる.

平均流に起因する渦度場に存在する近慣性内部波は,

その場のコリオリパラメーター f に相対渦度 ζ を加

えた実効的なコリオリパラメーターfeff = f + ζ / 2に支

配される(Kunze,1985).平均流が持つ正の渦度は近慣性

内部波を反射させる効果を持つことが,理論的に示さ

れている(Kunze,1985).日本海沿岸域では,沿岸捕捉波

などの数日周期変動や対馬暖流沿岸分枝などの平均流

が存在する.これらの背景流は,近慣性内部波の伝播

に対して正の渦度を持つため近慣性内部波を反射させ

る可能性があり,近慣性内部波の岸方向の伝播に影響

することが示唆されるが,詳細は不明である.

本研究では,山陰海岸沖で得られた流速記録を解析

し,近慣性内部波の時空間変動及びそれに及ぼす背景

流の相対渦度の影響について調べた.

観測

日本海山陰海岸沖の3点(HM1,HM2,OM)で,RDI

社製ADCP(Work Horse,300khz(HM1), Long Ranger,

75khz(HM2,OM))を用いた係留観測が行われた(図 1).

観測間隔は,HM1で 30分,HM2とOMでは 60分と

した.HM1で,42~154m深を 4m間隔,HM2とOM

ではそれぞれ 41~393m深,44~396m深を 8m間隔で

観測した.パーセントグッドが 60%未満のデータは欠

測とし,線形内挿により補完した.解析期間は 3 点で

同時に観測が行われた2012年 7月 14日~2013年 4月

14日である.

図 1.係留観測点(赤丸).コンターは水深(m)を示す.

結果

2012年 10月 31日~11月 4日(期間A),11月 12日

~16日(期間B)および 12月 6日~10日(期間C)に,風

応力の変化に関連して,近慣性周期帯(14-22時間)の変

動が強化されたことが分かった.14-22時間のバンドパ

スフィルターを施した東西・南北流速を使用して,各

期間で調和解析を行い,20時間周期変動の時計回り成

分の鉛直構造を調べた(図 2).期間 A において OM で

44m,HM2で 105m,HM1で 130mと,各観測点にお

いて近慣性内部波の振幅の極大が現れる深度が異なっ

ていた.さらに,この振幅が極大となる深度帯では位

相の値が上層に向かい減少する結果が得られた.これ

は,上層への位相伝播(鉛直下方に向かって流速ベクト

ルが時計回りに変化)とエネルギーの下方伝播を示し

ている.期間Bでは,OMで52mと132m,HM2で105m

と 153m,HM1 で 146m に振幅の極大が見られた.期

間Cでは,OMとHM2でそれぞれ 164mと 161mと,

期間AとBに比べて振幅の極大は深いところに現れて

いた.HM1においては 42m~150m深では明確な振幅

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の極大は見られなかった.

図 2.各期間における20時間周期変動の時計回り成分

の振幅(赤線)と位相(青点)の鉛直プロファイル.

考察

各観測点における近慣性内部波の位相関係を調べた

ところ,期間AにおけるOMの 44m深,HM2の105m

深,HM1の 130m深における20時間周期変動の時計回

り成分は,有意な相関を持ち,位相差がほとんどなく

変動していることが分かった.この関係は,沖合から

岸方向への近慣性内部波エネルギーの下方伝播を捉え

たことを示唆している.

近慣性内部波の挙動に与える平均流の相対渦度の時

間変化を調べるため,15日移動平均を施した東西・南

北流速を使用して観測点間の実効的コリオリパラメー

ターの時間変化を推定した(図 3).OM-HM2 間では,

図 3 の期間を通してほぼ正の渦度場が形成されていた

ことが示唆される.一方,HM2-HM1 においても,正

の渦度場が支配的であるが,期間Cで負の渦度場に変

化していた.

近慣性内部波の周期特性を調べるため,モルレー・

ウェーブレットを使用したウェーブレット解析を行っ

た(図 4).バンドパスフィルターを施した流速を使用し

てウェーブレットパワースペクトルを推定した.期間

Aでは,OMの表層44mで 19.8時間,HM2の表層 42m

で 18.1時間,HM1では他の観測点に比べてエネルギー

は小さいが,16.2 時間にピークが見られ,観測点間で

近慣性内部波の周期が異なっていることが示唆された.

期間BとCにおいても同様に観測点間のエネルギーピ

ークの周期に違いがみられる.近慣性内部波の周期を

決定する要因として,その発生域や図 3 に示されるよ

うな平均流の相対渦度による周波数変調などが考えら

れ,現在その要因について検証中である.

図 3.平均流成分(15日移動平均)の相対渦度により変調

された実効的コリオリパラメータの時間変化.暖色と

寒色はそれぞれ正,負の渦度を示す.

図 4.ウェーブレットパワースペクトル.横線は各観測

点における慣性周期を示す.

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アドリア海における風と波の呼称の特徴

―ダルマチア海岸における地域調査― The characteristics of wind and wave names in the Adriatic Sea

- Regional field research in the Dalmatian coast - 矢内 秋生

(武蔵野大学環境学部)

キーワード: 伝承的呼称, 自然観, 気象・海象, ダルマチア海岸

はじめに

筆者のこれまでの気象・海象の呼称調査で

は日本海沿岸の人びとが使う呼称には共通の

パターンが存在し,さらに現象の変化に対応

する呼称のヴァリエーションにも共通性があ

り,漁業を中心にした地域社会の人びとに独

特の心象風景の共通性がみられた(矢内,

2005).

1. 調査の目的,方法と調査地

「民族や文化を異にする地域社会において

も同様の共通性を見出すこと」を目的に日本

海沿岸と気象・海象条件の類似しているアド

リア海沿岸を調査地域に選んだ.

調査は 2013 年 6 月から 2014 年 3 月まで

行われ,調査方法は漁村地域での気象・海象,

自然現象に関わる伝承的呼称の取材である.

本報告ではそのうちアドリア海のクロアチ

ア側(ダルマチア海岸)34 箇所をまとめた.

2. 沿岸地域での伝承的呼称の共通性

調査が明らかにしようとする両海域の伝承

的呼称の共通性は以下の諸点である.

ⅰ.風の呼称は,地域で注目する風の特徴に

対して使われ,より多くの異名をもつ.

ⅱ.気象・海象現象の変化に対して,基本と

なる呼称を変化させた表現で現象を共有す

る.また,そのヴァリエーションには共通

するパターンがある.

ⅲ.伝承的呼称は還元的用語ではなく,ホリ

スティックな用語である.

ⅳ.伝承的呼称の多くは風に関するものであ

るが,波や海象特有の呼称も存在する.

ⅴ.これらの伝承的呼称から地域社会の自然

観・環境観を知ることができる.

3. 調査結果

3-1. 地域固有の Wind rose

地中海には航海図のための Compass rose

が伝えられた.その後,方位の名称は風の呼

称として各地で使われ,地域における伝承的

呼称となっている.図 1 にダルマチア海岸北

部 Crikvenica の Wind (name) rose を示す.

アドリア海には豊富な風の呼称があるが,

代表的な風は Bura と Jugo である.

図 1 特定方向からの風に関心が高いようす

Bura の発生が多い Crikvenica では北西の風

の観察が詳細で,伝承的呼称が豊富である.

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3-2 現象変化と呼称の変化形のパターン

伝承的呼称は気象・海象現象を表現してい

るが,その現象の前兆や変化に対して,呼称

も対応して変化させている.その変化パター

ンを例と共に以下に示す.

①クロアチア語の語幹が文法で転訛したもの

Bura → Burin(一般に弱いブーラ)

Jugo → Južina(一般に弱いユーゴ)

Sušac:乾いた南風.Suh means dry and

Sušac means dryness in English.

Brdura:リップル状の海面のこと.風が吹

き「始まる」(brdurati)から転用された.

②形容詞を付加し現象変化を表現したもの

Škura bura:暗いブーラ.天候の悪い最も

危険とされる北東からの乾燥した強風.

Čista bura,Fortunal bure:真のブーラ.

その地域で最も強いブーラ.

Špalment bura,Bura dimi:ブーラが次第

に強くなり,海面を叩きつけるように吹き

水飛沫や水煙が立つようす.

Vedro jugo,Suho jugo:晴れたときに吹く

ユーゴで波が高く危険な状況を表現.

Diže jugo (Split):晴れたときに吹くユーゴ

が起こす波と海面のようすをさす呼称.

③地名を付加して現象変化を表現したもの

島の多いアドリア海には地名を付した伝承

的呼称が数多く使われている.

④平易な用語で現象を共有するもの

地域社会で現象を代表的な天気の予測とし

て,ブーラの前兆を判断する Velebit 山など

にかかる雲の表現がある.

Kapa (Cap) , Kupa (Cup) , Bravina

(Maton),Brk (Moustache),Rak (Crab),

Račići (little crab), Brv (Hat)

以上の( )は英語訳.

⑤五感による体感を組み入れたもの

この事例を表 1 に示した.

3-3 気象・海象現象の変化に応じた呼称

天候の変化に応じた伝承的呼称が細かい観

察のもとで,数多く使われている.

3-4 ホリスティックな気象・海象現象の把握

地域で使用される意味が表 2 では違うよう

に見えるがホリステックな現象理解と考える

と,もともと二者(風,嵐)に分類すること

に無理があるのが,伝承的呼称である.

3-5 波・海象の呼称から見られる自然観

無風状態を Mrtvo more(死んだ海)とい

う.ここから脱出できる微風を Bavižela とい

い(Split),順風を得た安堵感を含む.一連

の海象表現から「活き活きした海」という認

識を中心にした特有の自然観が存在する.

まとめ

調査によって伝承的呼称に関する共通性と

アドリア海地域の特徴が詳細に得られた.

【参考文献】

矢内秋生(2005)『風土的環境観の調査研究とその理

論』,武蔵野大学出版会.

Penzar,I.and B.Penzar (1997) Weather and

climate notes on the Adriatic up to the middle

of the 19th century, Geofizika Vol.14,47-80.

Vidović,R.(1984) Pomorski Rječnik,Biblioteka

Rječnici,Logos in Split.

表 1 現象体験を身体感覚として表現

感覚の種類 伝承的呼称 知覚表現

Cold & Painful Ujad 海上での極寒体験

Stifling Mulajtina 嵐の飛沫でむせる

Cold Hladnaj

bura 冬の低温の Bura

Taste (salty) Bura

posolila

塩辛い飛沫が上が

Refreshing Digne ti

nervčić 清清しい Bura

A feeling of

troublesome Przne 霧雨の不快な天候

表 2 風または嵐に還元できない呼称(認識数)

風か嵐か Lebić Lebićada Neverin

wind 21 5 3

strom 1 16

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北太平洋亜熱帯モード水中の水温微細構造から見た混合効率の研究

○ 黒野由依・中野知香・根本雅生・吉田次郎

(東京海洋大学大学院海洋科学技術研究科)

キーワード:混合効率・乱流熱渦拡散係数・北太平洋亜熱帯モード水

1. 目的

乱流密度渦拡散係数Kρはエネルギー逸散率 ε

と浮力振動数 N,混合効率 Γ から求められる.

混合効率Γは乱流エネルギーが混合にどれくら

い使われるかを表すパラメータである.Γ を直

接観測することは不可能であるが,水温微細構

造から推測できる.

Osborn(1980)は,成層状態の再配分に使われ

る乱流エネルギーは 4分の 1よりも小さいとい

う仮定から,乱流における Γを 0.2とした.そ

して,Oakey(1982)は,北大西洋の Rockall

Trough での観測により,Γ=0.259±0.214であ

ることを示した.しかし,Γ の研究は主に北大

西洋で行われており,北太平洋における Γの研

究は不十分である.北太平洋の拡散構造を知る

ためにも Γの算出が必要である.

本研究では,北太平洋の中でも特異な水塊で

ある北太平洋亜熱帯モード水(NPSTMW)に注

目した.NPSTMWは,16.5℃,34.85psu,25.2σθ,

渦位 PV<2.0×10-10m-1s-1 を代表値とする,等

温・等密度層な水塊である.NPSTMW は栄養

塩などの南西方向への物質輸送に大きく関わっ

ており,NPSTMW 内での拡散構造の把握が必

要だと考えられる.本研究では,水温微細構造

からNPSTMW内の Γの算出を試みた.

2. 解析方法

JAMSTEC研究船「白鳳丸」による KH12-5

航海での TurboMAP 観測データを用いた.

TurboMAP には超高速応答水温センサー

FPO-7が備わっており,このセンサーにより水

温の平均場からの揺らぎを測定できる.

まず,水温微細構造から水温の逸散 χT,水温

勾配∂�̅� 𝜕𝑧⁄ ,乱流熱渦拡散係数 KT を求め,

NPSTMW 内の拡散構造を調べた.その後,ε

と Nを用いて NPSTMW内の Γを算出した.

3. 結果および考察

PV, ∂�̅� 𝜕𝑧⁄ の鉛直プロファイルから,

NPSTMW の分布域は約 160~280dbar となっ

た.NPSTMW内の KTの平均値は 3.42×10-6 ±

3.39×10-6m2s-1であった.KTの鉛直プロファイ

ルを見ると,NPSTMW 以外の KT に対して大

きくなる傾向にあった.∂�̅� 𝜕𝑧⁄ の鉛直プロファ

イルを見ると,∂�̅� 𝜕𝑧⁄ は NPSTMW 内で小さく

なっていることから,NPSTMW 内では水温勾

配が小さいため,KTが大きくなると考えられた.

NPSTMW 内の Γの平均値は 0.206 ± 0.204

だった.この値は,Oakey(1982)が示した Γの

平均値と近似した.

今後の課題として,北太平洋の拡散構造を把

握するために,異なる海域での Γの算出が必要

だと考えられる.また,Oakey(1982)に倣い,

スペクトルフィッティングから χT を求める必

要がある.

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館山湾における乱流構造の研究 ○古見拓郎・中野知香・吉田次郎・根本雅生

(東京海洋大学大学院海洋科学技術研究科)

キーワード:乱流・エネルギー逸散率・館山湾

1. 目的

館山湾は東京湾外湾に位置する湾であり,東

京湾系水や沖合系水の影響を受けやすい開放

的な湾である.先行研究として,館山湾の海況

特性(副島,1990,東水大修士論文)や鉛直混合

強度に関する研究(阿部,2012,海洋大卒業論文)

は行われてきたが,直接観測による湾内の乱流

構造に関する研究は行われていない.乱流は成

層状態を支配し,物質の循環にも関わっている

ため,乱流場を直接観測し,研究することは重

要である.そこで,本研究では館山湾における

乱流構造の解明を試みた.

2. 方法

東京海洋大学練習船「青鷹丸」の定期航海に

おいて,2013 年 5,7,10,11,12 月の 5 回,

TurboMAP(JFEアドバンテック社製)による

連続観測を行った.また,TurboMAP観測時に

「青鷹丸」において計測された風向風速データ

および気象庁による館山の潮位データを使用

した.

3. 結果

5月は 23日 0時以降上げ潮に伴い,20dbか

ら底層にかけて低温高塩な水塊が出現し,23日

3時以降下げ潮に伴い消失した.エネルギー逸

散率 εは,22日 16時以降,23日 6時以降の下

げ潮時に 20dbから底層にかけて O(10-7~

10-5)W/kgと大きい値を示した.表層において

も散発的に O(10-7~10-6) W/kgの値を示し,23

日 3時前後のみ表層から 25dbにかけて O(10-6

~10-5) W/kgの値を示した.7月は 18時の満潮

直前に,10dbから底層にかけて高温低塩な水塊

が存在し,εも 20dbから底層まで O(10-6~10-4)

W/kgと大きい値を示した.10月は湾内の表層

を覆っていた高温な水塊が 8日 18時以降の下

げ潮時に底層まで覆い,9日 1時以降の上げ潮

時に消失した.εは9日2時以降に全層でO(10-7)

W/kg程度の値を示した.11月は干潮直前の下

げ潮時に底層にのみ低温な水塊が出現した.ε

は表層において 26日 21時前後にO(10-6~10-5)

W/kgと大きい値を示した.12月は 16日 15時

の満潮前後に表層から 25dbにかけて高温な水

塊が現れ,17日2時の上げ潮時に表層から20db

にかけて高温高塩な水塊が現れた.εは 16日

15時前後,17日 3時前後に全層でO(10-7~10-5)

W/kgと大きい値を示した.

4. 考察

εは一般的な傾向として,潮汐周期に対応し

て底層付近において大きくなっていた.これは

潮汐流の海底摩擦によって乱れの大きな層が

生成されているためであると考えられ,このよ

うな周期性を示したと推察された.しかしなが

ら,夏季の成層が強い場合,周期的に変化する

εの大きい乱れた層は密度成層よりも下層に限

られていた.これは成層が上層への乱流の発達

を抑えているためと考えられた.一方で,冬季

に混合層が全層にわたって発達した場合,底層

にて発生した εの大きい乱れは表層付近にまで

達していた.

風向に関わらず,風速が大きくなったとき,

表層において εが大きくなった時もあった.こ

のことから,表面付近での εの変化の要因の一

つとして風の影響が考えられた.また,下げ潮

時の潮位差の大小に対応して,底層の εも変動

していた.このことからも底層付近の εは潮汐

の強さに依存していると示唆された.

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館山湾におけるマアジの研究 ○澁谷勝晶・中野知香・吉田次郎・根本雅生

(東京海洋大学大学院海洋科学技術研究科)

キーワード:マアジ・館山湾・体長組成・潮汐周期

1. 目的

館山湾は,千葉県館山市および南房総市の海

岸線に面し,大房岬と洲崎で結ばれた線より東

側を指す.湾奥では水深 10m 程度であるが湾

口に近づくにつれ急激に深くなり,地形の変化

に富んでいる.館山湾では沿岸漁業が盛んで,

刺し網,定置網,一本釣り漁業などの操業が行

われており,いわし類,さば類,あじ類などが

水揚げされている.マアジは,食用魚として重

要な水産資源である.また,マアジには沖合回

遊群と沿岸に定着する群れが存在し,多様な行

動を行う大変興味深い魚種である.そこで,本

研究ではマアジに着目し,館山湾でのマアジの

分布特性について調べた.

2. 調査方法

東京海洋大学練習船「青鷹丸」の定期調査航

海にて館山湾に錨泊し,一本釣りによる漁獲調

査を行った(2013 年 5~7 月,9~12 月).漁

獲した魚は魚種・釣獲深度を記録し,尾叉長・

体重を測定した.また,漁獲調査と同時に

TurboMAP 定点連続観測を行った(2013 年 5

月は 60分間隔,10~12月は 30分間隔).

3. 結果および考察

漁獲したマアジの体長組成をみてみると,尾

叉長(FL)22cm未満の群れと FL22cm以上の群

れにピークが現れた.FL22cm未満は 1歳前後

の個体,FL22cm 以上は 2~3 歳の個体である

(新版魚類学下巻).館山湾にて年間を通して

漁獲されるマアジのサイズは FL22~30cm が

主体であるが,5 月,10~12 月に FL22cm 未

満の個体が出現した.また,体長と漁獲深度の

関係を調べた結果,FL22cm未満の個体は上層

~中層に,FL22cm以上の個体は中層~下層に

出現した.

TurboMAP 観測より得られた水温の時間変

化と,マアジの漁獲が集中していた時間帯・漁

獲深度を比較した.その結果,上げ潮時に湾内

固有水と性質の異なる水塊が流入してきた際

にマアジが漁獲されることがわかった.また,

下げ潮時に底層から低温な水塊が出現した際

にマアジが漁獲されることがわかった.

漁獲の時間変化についてとりまとめた結果,

マアジは主に夜間に漁獲される傾向があった.

また,集中して漁獲される時間帯・潮位は各月

で異なっていた.

これらのことより,潮汐周期とともに,湾内

の水塊と異なる性質の水塊が流入・流出する際

にマアジがその水塊に伴って移動することが

示唆された.

図 1 マアジの体長組成(2013年 1~12月)

0%

5%

10%

15%

20%

25%

0 5 10 15 20 25 30 35

Fre

qu

en

cy(%

)

FL(cm)

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相模湾における外洋性サメ類の研究

○戸髙耀介 1・中野知香 1・塩出大輔 1・吉田次郎 1・根本雅生 1・塩崎 航 2

(1東京海洋大学大学院海洋科学技術研究科,2国際水研)

キーワード:ヨシキリザメ・相模湾・浮延縄

1.目的

近年,環境保護運動の盛り上がりと共に,サ

メ類の保護への関心が高まっている.まぐろ延

縄漁業においてヨシキリザメ,アオザメなどの

外洋性サメ類が混獲されており,鰭はフカヒレ

に,魚肉は主に練り製品などに利用される重要

な水産資源である.しかし,資源状態に関する

知見は乏しく,特に沿岸域においては,十分な

調査が行われていないのが現状である.そこで

本研究室では,2011年度より本学に所属する練

習船「青鷹丸」を利用して,相模湾においてサ

メ類の漁獲を目的とした浮延縄試験操業を行っ

ている.本研究では,その操業結果,操業前日

および当日に実施した海洋観測により得られた

データをもとに,外洋性サメ類の漁獲状況と海

洋環境との関係について検討した.

2.調査方法

浮延縄試験操業は,青鷹丸における定期調査

航海の際に実施された.操業海域の海洋構造を

把握するために,操業前日に CTD観測を行っ

た.また,操業当日には,投縄終了後に投縄ラ

インに沿って CTD観測を行った.さらに,サ

メ類の漁獲水深を調べるために,いくつかの枝

縄の基部や鈎元に深度計を取り付け,枝縄の到

達深度を測定した.

3.結果および考察

2012年 2月,2013年 2月を除く各操業にお

いて,外洋性サメ類(ヨシキリザメ,アオザメ,

クロトガリザメ,ハチワレ)が 1尾以上漁獲さ

れた.その中でもヨシキリザメの漁獲割合が最

も高かった.

甲板上に取り込むことができたヨシキリザメ

の尾鰭前長を測定したところ,最小で 131cm,

最大で 217cmであった.ヨシキリザメの成熟体

長は 140~160cm(中野,1994)であることから,

相模湾には成熟したヨシキリザメが多く生息し

ており,若い雄の成育海域となっていることが

示唆された.また,秋季にはより大型の個体の

来遊もみられた.

投縄終了後に行った CTD観測および枝縄に

取り付けた深度計より得られたデータから,ヨ

シキリザメは深度40~100m付近で漁獲されて

いることが多く,15~20℃の水温帯であった.

また,2013年 9月,10月の試験操業の際には,

130~160m深において漁獲がみられた.同時期

に表層付近において漁獲された個体と比べて小

型の個体であったことから,ヨシキリザメは成

長段階によって生息水深が異なることが示唆さ

れた.

さらに2013年12月の試験操業において初め

てヨシキリザメの雌の個体が漁獲された.試験

操業当日は相模湾内に沖合系水の波及がみられ,

南方の交尾海域へ南下していた雌がそれに伴い

相模湾に来遊したのではないかと推察された.

今後の課題としては,サメ類の鉛直的な分布

を把握するために縦延縄の試験操業を検討して

いる.また,海気象の状況により春季,冬季の

試験操業データが不十分であるが,継続的に試

験操業を行い,良質なデータを蓄積していくこ

とが必要である.

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Abstract

Oyster farming in Tohoku : post-tsunami restoration and

technical adaptation of culture systems

Yasuyuki KOIKE

The oysters are the important marine product in France and in Japan since old times.

In the year of 1960’s, the oyster culture in France has been entirely destroyed

because of the mass mortality in portuguese oyster, Crassostrea angulata. But it

could resumed by the help of spats exportation urgentry from Japan. The quantity of

spats of the japanese oyster, C. gigas have been transfered to France by the cultivater

of Ishinomaki (Pacific cost of Tohoku, N-East of Japan), under the authority of Japan

and France. From that time, the close relationship has been established beween

oyster cultivators in France and Sanriku.

On March 11th

2011, the Tsunami surged against the coast of Sanriku and ravaged

the fisheries installations included the oyster culture.

Just after the disaster, with the solidality, the organisations of France raise the help to

re-construction and activities of marine production in the coast of Sanriku.

By the finances deliverd from several associations (SFJO1 , ADA

2) and praivate

partners(Air Liquide etc) we could buy back the essential materiels, microscopes and

plankton nets for the Regional Technical Centres. And also by the french fisheries

committee and groop (Comité Regional d’Oléron, Gambalo Japan de Brest ) , life

jackets, bouys and ropes were deliverd to the fisheries cooperations of Miyagi and

Iwate prefectures. Thanks to the solidarity of french colleagues, the restoration of

fisheries and aquaculture have started about four months after the Tunami around the

costs of Sanriku and the enduring way of development should be found.

About two years after the disaster, the restoration has accomplished in the scale of

75% of a draft plan(not a scale of before the disaster) on ostoreiculture. At the

moment, the infrastructure must be reformed urgentry(facilities of fishing port,

macro debris, water level of the shore and fishing ports, transportation, etc).

Last year, several groupe of oyster farmers of Sanriku have visited in France and

exchanged their thechnical informations. To the developpement of oyster culture in

each countries, the exchange of new culture techniques and informations about the

diseases are expected.

SFJO1 : Société franco-japonaise d’Océanographie,

ADA2

: Association pour le Développment d’Aquaculture