2011年度数学ia演習第3 -...
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2011年度数学 IA演習第 3回理 I 22, 23, 24, 25, 26, 27組
5月 24日 清野和彦
問題 1. 収束する数列は有界であることを示せ。つまり、数列 {an}∞n=1 が収束するなら、任意の
自然数 n に対して |an| < M を満たすような n に依らない正実数 M が存在することを証明せよ。
問題 2. 二つの数列 {an}∞n=1 および {bn}∞n=1 がそれぞれ a および b に収束しているとき、
(1) limn→∞
(an + bn) = a + b (2) limn→∞
(an − bn) = a − b
(3) limn→∞
(anbn) = ab (4) limn→∞
an
bn=
a
b
が成り立つことを示せ。ただし、(4)では b およびすべての bn は 0でないとする。
問題 3. 数列 {an}∞n=1 と 数列 {bn}∞n=1 から新しい数列 {cn}∞n=1 を{c2m−1 = am
c2m = bm
によって定義する。{an}∞n=1 と {bn}∞n=1 がどちらも同じ値 c に収束しているとき {cn}∞n=1 もこの
c に収束することを証明せよ。
問題 4. 3つの数列 {an}∞n=1, {bn}∞n=1, {cn}∞n=1 が任意の n について an ≤ bn ≤ cn を満たし、さ
らに {an}∞n=1 と {cn}∞n=1 がどちらも b に収束しているとき、{bn}∞n=1 も同じ b に収束している
ことを証明せよ。(いわゆる「はさみうちの原理」が成り立つことを示せということです。)
問題 5. a > 1 とする。次の数列の極限を求めよ。
(1)n
an(2)
an
n!(3)
n!nn
問題 6. 数列 {an}∞n=1 から新しい数列 {bn}∞n=1 を
bn =a1 + a2 + · · · + an
n
によって定義する。{an}∞n=1 が a に収束しているなら {bn}∞n=1 も同じ a に収束していることを
示せ。
問題 7. 数列 {an}∞n=1 について次の命題は正しいか? 正しければ証明し、誤りなら反例を挙げよ。
任意の n に対して |an| < 1 が成り立っているならば limn→∞
a1a2 · · · an = 0 が成り立つ。
問題 8. 数列 {an}∞n=1 は単調増加で上に有界であるとする。つまり、n によらない正実数 M が存
在して、任意の n に対して an ≤ an+1 と an < M が成り立つとする。このとき、{an}∞n=1 は集
合 {an | n = 1, 2, 3, . . .} の上限に収束することを証明せよ。
問題 9. 0 < a1 < 1 とし、数列 {an}∞n=1 を
an+1 =an(3 − an)
2
によって定義する。{an}∞n=1 は収束することを示し、極限値を求めよ。
問題 10. 0 < a1 < b1 とし、数列 {an}∞n=1 と数列 {bn}∞n=1 を
an =√
an−1bn−1 bn =an−1 + bn−1
2
によって定義する。このとき、{an}∞n=1 と {bn}∞n=1 は収束し、しかもその極限値は等しいことを
証明せよ。
問題 11. 数列 {an}∞n=1 を an =√
n によって定義する。この数列は条件
任意の正実数 ε に対して正整数 N が存在して
n > N =⇒ |an+1 − an| < ε
が成り立つ。
は満たすがコーシー列ではないことを示せ。
問題 12. コーシー列は収束するということを、次の手順に従って証明せよ。以下 {an}∞n=1 はコー
シー列であるとする。
(1) {an}∞n=1 は有界であることを示せ。
(2) (1)により、二つの数列 {un}∞n=1 と {ln}∞n=1 を
un = sup{an, an+1, an+2, . . .} ln = inf{an, an+1, an+2, . . .}
で定義することができる。これらの数列は収束することを示せ。
(3) (2)の二つの極限値は一致することを示せ。
(4) {an}∞n=1 は (3)で一致することを示した極限値に収束することを示せ。
問題 13. 漸化式
a1 = 1 an+1 = 1 +1an
で定義される数列 {an}∞n=1 が収束することを示し、極限値を求めよ。
問題 14. 二つの数列 {an}∞n=1 と {bn}∞n=1 が、任意の n について |an| ≤ bn を満たし、しかも無限
級数∑∞
n=1 bn は収束しているとする。このとき、無限級数∑∞
n=1 an も収束することを証明せよ。
問題 15. 無限級数∞∑
n=1
sinn
2n
は収束することを示せ。
2011年度数学 IA演習第 3回解答理 I 22, 23, 24, 25, 26, 27組
5月 24日 清野和彦
今回は二つの節からなっています。
第 1節では数列の収束の定義と性質を扱います。数列の極限の定義、すなわち数列が収束するということの定義は数を実数まで広げず有理数だけで考える場合も全く同じです。例えば、今回の最
初の四問では実数独自の性質は使いません。そこで、第 1節では「数列の収束や上限の定義は実数の性質とは無関係である」ということをはっきりさせるために、多くのところでわざと「実数」
ではなく「数」とだけ書きました。その心は、「数」と書いたところをすべて「実数」に置き換え
れば実数における数列の収束の話になるし、すべて「有理数」に置き換えれば有理数だけを数だと
した場合の数列の収束の話になるということです。少々幼稚な感じを与えてしまうかも知れません
がご了承下さい。
第 2節では、実数に独特の性質である「実数の連続性」が数列の収束を議論する上でどんなに有効か、ということを紹介します。具体的には「有界で単調な実数列は収束する(問題 8)」「コーシー列は収束する(問題 12)」そして、無限級数に関する「優級数の方法(問題 14)」の三つです。講義ではこれらの定理の証明は省略されたようですので、それぞれの定理の証明と具体例への応用
を出題しました。
なお、講義では交代級数という名の無限級数について説明があったかも知れませんが、今回の演
習の範囲があまりにも広いので、交代級数についてはまたの機会に譲ることにしました。あしから
ずご了承下さい。
目 次
1 数列の収束 2
1.1 極限の定義 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21.2 極限の定義の「気持ち」 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 31.3 収束する数列の性質 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4
1.3.1 収束数列の有界性:問題 1の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 41.3.2 四則演算との関係:問題 2の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 51.3.3 大小関係との関係 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9
1.4 実数の連続性を使わない例 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 91.4.1 問題 3の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 101.4.2 問題 4の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 111.4.3 問題 5の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 111.4.4 問題 6の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 121.4.5 問題 7の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13
2 実数列 13
2.1 数列と実数の連続性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 142.1.1 定理 1の証明:問題 8の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14
2.2 定理 1を使って実数列の収束を示す例 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15
第 3 回解答 2
2.2.1 問題 9の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 152.2.2 問題 10の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16
2.3 コーシー列 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 172.3.1 問題 11の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18
2.4 実数の完備性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 192.4.1 問題 12の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 202.4.2 問題 13の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 22
2.5 無限級数への応用 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 232.5.1 問題 14の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 242.5.2 問題 15の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 25
1 数列の収束
1.1 極限の定義
まず、定義を思い出しておきましょう。� �定義 1. 数列 {an}∞n=1 が数 a に収束するとは、どんなに小さな正の数 ε が与えられてもそれ
に応じて十分大きな自然数 N を取れば N より大きいすべての自然数 n に対して |an −a| < ε
を成り立たせられることである。� �「どんなに小さな」などの「感情のこもった」表現を省いてクールに論理式で書けば、
∀ε ∃N ∀n [n > N =⇒ |an − a| < ε]
となります。ただし、ε が正であることや N と n が自然数であることは分かり切っているので、
論理式がゴチャゴチャにならないようにするために省きました。気を付けてください。
数列が収束することを上のように定義した上で、� �定義 2. 数列 {an}∞n=1 が数 a に収束しているとき、a を数列 {an}∞n=1 の極限と言い、
limn→∞
an = a や an → a (n → ∞)
と書く。� �と定義します。「∞」という記号は数を表しているのではなく、「限りなく大きくする/なる」ということを手短に示す記号にすぎないということに注意してください。
なお、数列 {an}∞n=1 が正の無限大に発散することを
どんなに大きな数 R が与えられてもそれに応じて十分大きな自然数 N を取れば N よ
り大きいすべての自然数 n に対して an > R を成り立たせられることである。
論理記号では
∀R ∃N ∀n [n > N =⇒ an > R]
第 3 回解答 3
と定義し、
limn→∞
an = ∞ や an → ∞ (n → ∞)
と書きます。負の無限大に発散することの定義も同様です。論理記号では
∀R ∃N ∀n [n > N =⇒ an < R]
であり、
limn→∞
an = −∞ や an → −∞ (n → ∞)
と書きます。
1.2 極限の定義の「気持ち」
このようないかにも回りくどい定義をするのは、「限りなく続いてゆく数たちのたどり着く到達
点」というどうにも数学になりそうもないものを何とか数学で扱えるようにするための、つまり、
有限の範囲内で表現するための苦肉の策です。もっと平たく言いましょう。例えば、0.999 · · · と表現される「数」は、この表記だけ見ていると 0.9 + 0.09 + 0.009 + · · · という「無限回の足し算を足しきった結果」と思いがちですが、「無限回の足し算を足しきる」ということを数学でそのま
ま扱うことはできそうもないので、
0. の後ろに 9を(有限個だが)沢山付けることで 1 − 0.999 · · · 9 を好きなだけ小さくできる
という他愛もない意味にしてしまうということです。常識的には「0.999 · · · = 1」という式はどこか神秘的で割り切れない(あるいはやりきれない)雰囲気を漂わせていますが、数学では左辺の
0.999 · · · という記号には
数列 0.9, 0.99, 0.999, · · · の(上で定義した意味での)極限
という(数学に慣れ親しんでいない人に 0.999 · · · という表記が与える印象に比べたら)無味乾燥な意味しか与えていないということです。
このような説明ではまだ極限の定義がしっくり自分のものにならない人がほとんどでしょう。そ
のような場合には視覚に訴えるのが良い方法だと思います。
数列を視覚化しようとする場合、関数のグラフを書くのと同じように、数列も xy 平面に点をプ
ロットするのが良さそうです。そのとき使われる一般的な方法は、(1, a1), (2, a2), (3, a3), · · · とプロットして行く方法でしょう(図 1)。 しかし、これだと n → ∞ の様子がそれこそ「無限遠」の
彼方に霞んでしまって収束している感じが掴みにくくなってしまいます。
そこで、例えば (−1, a1), (−12 , a2), (−1
3 , a3), . . . とプロットしてみましょう(図 2)。すると、プロットした点たちが y 軸のどこか 1点に集まっているとき数列は収束していてその点の y 座標が
極限です。収束の定義にでてくる N は、例えば紙か何かでこのグラフの x = − 1N から左側を隠し
てしまうと、残った点の上下方向の散らばりが極限の値から上下に ±ε しかないということです。
第 3 回解答 4
� �an の値
1 5 10 15 20n
a4
a3
a2
a1
図 1: 数列の普通のグラフ。� �� �
1 5 10 20
1
極限値
0
図 2: n → ∞ が視野にはいるようにしたグラフ。� �1.3 収束する数列の性質
1.3.1 収束数列の有界性:問題 1の解答
ここでは二つの数列に四則演算を施したり、二つの数列の大小を比べたりするとどうなるかを説
明したいのですが、その前に、基本的すぎて断りなく使ってしまいがちな性質である「収束する数
列は有界である」ということを証明しておきましょう。問題 1です。
解答. {an}∞n=1 が a に収束しているとします。すると、収束することの定義より、n が N より大
きい自然数ならば |an − a| < 1 が成り立つような自然数 N が存在します。({an}∞n=1 が a に収束
することの定義の「任意の正実数 ε」として 1を選んだわけです。)|an −a| < 1 の絶対値を外すと、
−1 < an − a < 1 すなわち a − 1 < an < a + 1
となります。−|a| − 1 ≤ a − 1 < a + 1 ≤ |a| + 1 ですので、n が N より大きいなら
−|a| − 1 < an < |a| + 1 すなわち |an| < |a| + 1
第 3 回解答 5
が成り立ちます。以上より、N + 1 個の正実数
|a1| |a2| · · · |aN | |a| + 1
の最大値より大きい数 M を一つ選べば、任意の n に対して |an| < M が成り立ちます。これで
示せました。 □
1.3.2 四則演算との関係:問題 2の解答
数には四則演算があるので、数列にも四則演算を与えることができます。第 n 項目同士を足し
たり引いたりすればよいだけです。(割り算については、割る方の数列に 0 がでてきてはいけませんが。)すると、二つの収束数列の間の四則演算によってできる新たな数列は収束するのか、また
収束するとしたらその極限は何か、が真っ先に気になります。もちろん、これの結果は皆さん高校
のころからよくご存じですね。ただし、上のように数列の収束を定義してしまった以上、高校で
習ったことがこの定義に照らしても正しいということを一度は確認しておく必要があります。とい
うわけで、それを問題にしておきました。
解答の前に、足し算について状況を詳しく見てみましょう。極限の定義を知ったからといって、
定義を眺めていれば収束が証明できるというものではありません。まず、考えたい状況に「極限の
定義の気持ち」を当てはめてみて、どのようなことが起こっているのかのイメージを持とうとして
みます。それができてから、そのイメージを極限の定義の文章のように表現しようとしてみるわけ
です1。
そこで、まず二つの収束数列のグラフを書いてみましょう(図 3)。 次にその二つのグラフを足� �
1 2 3 4
1 2 3 4
a
b
{an}∞n=1 のグラフ
{bn}∞n=1 のグラフ
ε
ε
ε
ε
Na
Nb
a1
b1
図 3: {an}∞n=1 と {bn}∞n=1 の収束の様子。� �します。関数のグラフを足すように足せばよいわけです(図 4)。これで、任意の ε に対し an と a の差も bn と b の差も ε より小さくなっているなら、an + bn
と a + b の差は 2ε より小さくなっていることがよくわかりました。なお、収束の定義の見た目に
1「収束の状況をイメージすること」と「そのイメージを定義に合わせて表現すること」の間には結構ギャップがあります。このプリントではイメージの方を重視し、それを定義通りの文章にする部分については別に配布した「ε-N 論法を使った証明について」にまわしました。
第 3 回解答 6
� �
1 2 3 4
a + b
2ε
2εa1 + b1
図 4: {an + bn}∞n=1 の収束の様子。� �ピッタリ合わせるためには an + bn と a + b の差を ε より小さくしなければならないので、an と
a、および bn と b の差は ε2 より小さくしておかなければなりません。しかし、このようなことは
見た目だけのことであって、結論の式が an + bn と a + b の差が 2ε より小さいという不等式に
なっていても、ε は任意なのですから何の問題もありません。
以上を証明らしく整理すると、例えば下の問題 2(1)の解答になります。最初なので、(1)はかなりしつこく書きましたが、(2)(3)(4)に付いては時間の都合で説明を少なくしたり適宜論理式を使ったりしてあっさりした解答にしました。あしからずご了承ください。
解答. (1) 証明したいことを定義に戻って書くと、
どんなに小さな正実数 ε に対しても十分大きな自然数 N をうまくとれば n > N を満
たす任意の n が |(an + bn) − (a + b)| < ε を満たすようにできる
ことです。つまり、正実数 ε が勝手に与えられたとして、上に書いた性質を持つ N が存在するこ
とを示せばよいわけです。
それでは、正実数 ε が任意に与えられたとしましょう。今、 limn→∞
an = a と limn→∞
bn = b が仮定
なので、極限の定義から、この ε に対して自然数 Na と Nb で
n > Na を満たす任意の n は |an − a| < ε2 を満たす
および、
n > Nb を満たす任意の n は |bn − b| < ε2 を満たす
というものがあります。そこで、Na と Nb の大きい方を N とすれば、
n > N を満たす任意の n は |an − a| < ε2 と |bn − b| < ε
2 の両方を満たす
ことになります。結論の二式を足すと、三角不等式から
|(an − a) + (bn − b)| ≤ |an − a| + |bn − b| <ε
2+
ε
2= ε
となるので、これで
n > N を満たす任意の n は |(an + bn) − (a + b)| < ε を満たす
第 3 回解答 7
という示したかったことが示せました。 □
(2) (1)が証明できているので、(2)を証明するには
limn→∞
bn = b =⇒ limn→∞
−bn = −b
だけ示せば十分です。(ε が正であるとか N と n が自然数であるとかいうことは論理式がごちゃ
ごちゃするのを防ぐために省きました。)なぜならば an − bn = an + (−bn) だからです。さて、 lim
n→∞bn = b が成り立っているということは、
∀ε ∃N ∀n [n > N =⇒ |bn − b| < ε]
が成り立っているということです。これに
| − bn − (−b)| = | − bn + b| = |bn − b|
であることを使うと、
∀ε ∃N ∀n [n > N =⇒ | − bn − (−b)| < ε]
の成り立つことが分かります。これは limn→∞
−bn = −b の定義です。これで示せました。 □
(3) 証明したいことを論理式で書くと、
∀ε ∃N ∀n [n > N =⇒ |anbn − ab| < ε]
となります。仮定は limn→∞
an = a と limn→∞
bn = b ですので、|anbn − ab| を |an − a| と |bn − b| に関連づけなければならないでしょう。そのために anbn − ab に例えば 0 = abn − abn を水増しし
てみます。すると、
anbn − ab = anbn − abn + abn − ab = (an − a)bn + a(bn − b)
となります。これの絶対値をとると、三角不等式 |x + y| ≤ |x| + |y| を使って、
|anbn − ab| ≤ |an − a||bn| + |a||bn − b|
が得られます。これで |anbn − ab| と |an − a| および |bn − b| が関連づけられました。さて、数列 {bn}∞n=1 は収束しているのですから有界です(問題 1)。すなわち |bn| < M が n に
よらずに成り立つ正数 M が存在します。上の不等式で |bn| を M で置き換えて
|anbn − ab| ≤ |an − a|M + |a||bn − b|
が得られます。今 limn→∞
an = a と limn→∞
bn = b が成り立っているのですから、与えられた正実数 ε
に対し、
∀n[n > Na =⇒ |an − a| <
ε
2M
]の成り立つ自然数 Na と
∀n
[n > Nb =⇒ |bn − b| <
ε
2|a| + 1
]の成り立つ自然数 Nb が存在します。(a = 0 だと |a| で割れないので 1足しました。)すると、N = max{Na, Nb} と置けば、n が N より大きいとき
|anbn − ab| ≤ |an − a|M + |a||bn − b| <ε
2MM + |a| ε
2|a| + 1<
ε
2+
ε
2= ε
第 3 回解答 8
が成り立ちます。これで示せました。 □
(4) (3)を使うと、
limn→∞
an
bn=
(lim
n→∞an
) (lim
n→∞
1bn
)となるので、すべの n について an = 1 である場合だけ証明すれば十分です。示したいことは、任意の正実数 ε に対して、N より大きいすべての自然数 n について∣∣∣∣ 1
bn− 1
b
∣∣∣∣ < ε
が成り立つような自然数 N が存在することです。以下、正実数 ε を一つ固定します。
絶対値の中身を通分すると、 ∣∣∣∣ 1bn
− 1b
∣∣∣∣ =|b − bn||bn||b|
となります。これが ε より小さくなることを示したいのですから、分子は大きめに、分母は小さ
めに見積もってなお ε より小さくなることを示そうとしてみましょう。
まず分母を小さい方から見積もります。{bn}∞n=1 は b = 0 に収束しているので、今固定している正実数 ε に対して、
∀n
[n > N1 =⇒ |bn − b| <
|b|2
]を満たす自然数 N1 が存在します。三角不等式 ||bn| − |b|| ≤ |bn − b| と合わせると、
∀n
[n > N1 =⇒ |bn| >
|b|2
]が得られます。よって、n が N1 より大きければ、分母 |bn||b| は
|bn||b| >b2
2
を満たすことが分かりました。
次に分子を見積もりましょう。|bn − b| を |bn||b| で割ってもなお ε より小さくなって欲しいので
すから、
|bn − b| < |bn||b|ε <b2
2ε
が満たされていればよいことになります。今、数列 {bn}∞n=1 は b に収束しているのですから、
∀n
[n > N2 =⇒ |bn − b| <
b2
2ε
]の成り立つ自然数 N2 が存在します。
そこで、N = max{N1, N2} とおくと、n が N より大きければ、∣∣∣∣ 1bn
− 1b
∣∣∣∣ =|bn − b||bn||b|
<|bn − b|b2/2
<b2
2ε
2b2
= ε
が成り立ちます。これで示せました。 □
第 3 回解答 9
1.3.3 大小関係との関係
極限が大小関係について次の性質を満たすことも皆さんよくご存知でしょう。� �補題 1. 二つの数列 {an}∞n=1 および {bn}∞n=1 がそれぞれ a および b に収束しているとき、あ
る自然数 N より大きなすべての自然数 n に対して an ≤ bn が成り立つならば a ≤ b が成り
立つ。� �これも「数列のグラフ」を考えることでまずイメージをつかみ、それからそのイメージを言葉に
しようとしてみて下さい。最終的な証明のみ記しておきます。
証明. 背理法で示します。
a > b だったとし ε = a−b2 とおきます。すると、収束の定義から、十分大きな自然数 n を取ると
|a − an| < ε, |b − bn| < ε
が成り立ちます。よって、
bn < b + ε = a − ε < an
となりますが、これは補題 1の仮定に矛盾します。 □
この補題には、an か bn が n によらない定数の場合でよく出会います。つまり、例えば
{an}∞n=1 が a に収束しているとする。任意の n に対して an ≤ b が成り立つならば
a ≤ b が成り立つ。
といったものです。
これらの結果や証明も大切ですが、これらの性質が定義 1のような「列の収束」の定義が意味を
なすどんなものに対してもそのまま成り立つということも重要なことです。なぜなら、an たちが
有理数であるとか実数であるとかいうことは全く使わずに、抽象的な議論だけで証明されているか
らです。複素数、ベクトル、行列といったものの列に対しても数列と同様に収束を定義することが
でき、複素数については四則演算、行列については和と積、ベクトルについては和と実数倍あるい
は複素数倍に対してこの補題と同じことが成り立つことを証明し直す必要はないというわけです。
(補題 1の方は、例えば複素数の絶対値に対するものとしてやベクトルの「大きさ」に対するものとしそのまま成立します。)
1.4 実数の連続性を使わない例
問題 3から問題 7までは、問題 1や問題 2や補題 1と同様、実数の連続性を使わずに数列の収束について議論する問題です。ただし、アルキメデスの原理を使う問題はあります。しかし、アル
キメデスの原理は有理数だけを数だと思っても成り立つ性質ですので、これらの問題と下の解答は
有理数だけを数だと思ってもそのまま成立します。実数の連続性に惑わされずに、数列の収束の定
義だけに親しむための問題のつもりで出題しました。
第 3 回解答 10
� �
1 2 3 4
c
{an}∞n=1 のグラフ ε
ε
1 2 3 4
{bn}∞n=1 のグラフ
2 4 6
{cn}∞n=1 のグラフ
1 3 5
c
ε
ε
c
ε
ε
図 5: {an}∞n=1 と {bn}∞n=1 を互い違いにかみ合わせる。� �1.4.1 問題 3の解答
いきなり証明を完成させようとせずに、まずイメージをつかみましょう。二つの数列のグラフを
互い違いにかみ合わせて一つの数列のグラフにするわけです(図 5)。イメージはつかめましたか? それでは証明です。
解答. 証明したいことは、
任意の正実数 ε に対して自然数 N で、N より大きい任意の n に対して |cn − c| < ε
が成り立つ
こと、すなわち、ε からこのような N を作ることです。
ε を一つとって固定します。{an}∞n=1 も {bn}∞n=1 も c に収束しているので、自然数 Na で、
Na より大きい任意の自然数 n に対して |an − c| < ε が成り立つ
ものと、自然数 Nb で、
Nb より大きい任意の自然数 n に対して |bn − c| < ε が成り立つ
ものが存在します。そこで、Na と Nb のうち大きい方を N ′ とし N = 2N ′ とすれば、N より大
きい任意の n に対して
n が奇数なら |cn − c| = |an+12
− c| < ε、
n が偶数なら |cn − c| = |bn2− c| < ε ˙
となるので、どっちにしろ |cn − c| < ε となります。
これで limn→∞
cn = c が示せました。 □
第 3 回解答 11
1.4.2 問題 4の解答
数列の収束をキチンと定義した以上「はさみうちの原理」も証明しなければならない定理となり
ます。と言うわけで、問題として出題しておきました。
解答. 正実数 ε を一つ固定します。{an}∞n=1 は b に収束しているのですから、
n > Na =⇒ |an − b| < ε
を満たす正整数 Na が存在します。(右辺の ε は一つ選んで固定した ε です。)同様に、{cn}∞n=1
も b に収束していることから
n > Nb =⇒ |cn − b| < ε
を満たす正整数 Nb も存在します。よって、Na と Nb の大きい方を N とすれば、
n > N =⇒ |an − b| < εかつ |cn − b| < ε
が成り立ちます。
ここで、ふたつの不等式から絶対値をはずしてみましょう。すると、
|an − b| < εかつ |cn − b| < ε ⇐⇒ b − ε < an < b + εかつ b − ε < cn < b + ε
となります。今、任意の n に対して an ≤ bn ≤ cn が成り立つと仮定しているので、n > N ならば
b − ε < an ≤ bn ≤ cn < b + ε
が成り立ちます。この不等式から an と cn の部分を省き、絶対値記号を使って書き直すと、
n > N =⇒ |bn − b| < ε
となります。これは {bn}∞n=1 が b に収束することを意味します。 □
1.4.3 問題 5の解答
この問題の分子や分母はすべて単独では発散する数列です。だから、この問題は、いわば、それ
らの発散の間の「速さ比べ」をしているということです。(1)の分子は n そのものとしましたが、
証明を見てもらえば分かるように nk(k は任意の正整数)としてもやはり極限値は 0です。つまり、この問題の結論を標語的に言うと、
an は nk より速く発散し、n! は an より速く発散し、nn は n! より速く発散する
となります。特に、最初の二つは
指数関数は多項式より発散が速く、階乗は指数関数より発散が速い
という(かなり省略された)言い方でよく耳にします。
解答. (1) a > 1 なので a = 1 + h とすると h > 0 です。よって、
an = (1 + h)n = 1 + nh +n(n − 1)
2h2 +
n(n − 1)(n − 2)3!
h3 + · · · + hn >n(n − 1)
2h2
第 3 回解答 12
となります。なぜなら右から二つ目の式の項はすべて正だからです。この不等式から、
n
an<
nn(n−1)
2 h2=
2(n − 1)h2
が得られます。n → ∞ とすると右辺は 0に収束します。一方、左辺は常に正です。よって、はさみうちの原理(問題 4)により、
limn→∞
n
an= 0
が得られます。 □
(2) n0 > a となる正整数 n0 をひとつ選びます。(アルキメデスの原理によって選べます。)する
と、n0 より大きい n に対して
an
n!=
a
1a
2· · · a
n0
a
n0 + 1· · · a
n<
a
1a
2· · · a
n0
a
n0· · · a
n0
という不等式が得られます。見やすくするために実数 R を
R =a
1a
2· · · a
n0
と置くと、得られた不等式はan
n!< R
(a
n0
)n−n0
となります。0 < a/n0 < 1 なのでこの不等式の右辺は n → ∞ のとき 0に収束し2、左辺は常に正
なので、はさみうちの原理により、
limn→∞
an
n!= 0
となります。 □
(3) n 以下の任意の正整数 k に対して kn ≤ 1 が成り立つので、
n!nn
=n
n
n − 1n
· · · 2n
1n≤ 1
n
となります。n → ∞ のとき右辺は 0に収束し、左辺は常に正です。よって、はさみうちの原理により、
limn→∞
n!nn
= 0
です。 □
1.4.4 問題 6の解答
この問題の場合グラフは想像しにくいかも知れませんが、要するに、
はじめの方の an は a とずいぶん違うかも知れないけど、遠くの方の an はほとんど a
と同じなのだから、充分沢山の an を平均してしまえば、やっぱりほとんど a と同じ
ということがポイントです。
2このことの証明は別に配布した「ε-N 論法による証明について」の「実例 2」を参照してください。
第 3 回解答 13
解答. 数列 {an}∞n=1 は a に収束するのですから、どんな正実数 ε に対してもそれに応じて自然数
M をとれば
n > M =⇒ |an − a| <ε
2を満たすようにできます。また、収束する数列は有界(問題 1)なので、実数 R を任意の n に対
して |an − a| < R を満たすように取れます。よって、n > M のとき∣∣∣∣a1 + a2 + · · · + an
n− a
∣∣∣∣ ≤ |a1 − a| + · · · + |aM − a|n
+|aM+1 − a| + · · · + |an − a|
n
≤ MR
n+
(n − M)ε2n
となります。そこで N を
N ≥ 2MR
ε
を満たすようにとれば(アルキメデスの原理)
n > N =⇒∣∣∣∣a1 + a2 + · · · + an
n− a
∣∣∣∣ <MR
N+
n − M
n
ε
2<
ε
2+
ε
2= ε
となって示せました。 □
なお、問題 6の逆は成立しません。例えば an = (−1)n が反例です。{
a1+···+an
n
}∞n=1は 0に収
束しますが、{an}∞n=1 は振動してしまって収束しません。
1.4.5 問題 7の解答
誤りです。例えば、
an = 1 − 1(n + 1)2
=n(n + 2)(n + 1)2
とすると、任意の n について |an| < 1 が成り立ちますが、
a1a2 · · · an =1 · 32 · 2
2 · 43 · 3
· · · n(n + 2)(n + 1)2
=12
n + 2n + 1
となり、
limn→∞
a1a2 · · · an =12= 0
となります。 □
2 実数列
前節では、数列の収束の定義は有理数しか数と認めなくても実数全体を数と認めても全く同じで
あり、従ってたとえば収束する数列に四則演算を施すことと極限をとることの順序が交換可能であ
るといった性質は実数の連続性とは無関係であることを学びました。この節では、実数の連続性に
基づく「実数列ならではの性質」を説明します。ですので、節の題名を「実数列」としました。と
は言え、面倒だし見た目がうるさいので、以下では今まで通り数列と書きます。
第 3 回解答 14
2.1 数列と実数の連続性
数列 {an}∞n=1 が上に有界なら、すなわち、すべての n について an < M の成り立つ n に依ら
ない実数 M が存在するなら、実数の連続性から集合 {an | n = 1, 2, 3, . . .} は上限 s を持ちます。
しかし、s が {an | n = 1, 2, 3, . . .} の最大値の場合、例えば a1 = s となっているような場合、a2
から先は a1 を超えない範囲でどうなっているか全く分かりませんので、数列 {an}∞n=1 が収束す
るかどうかとか収束したとしてもその極限値がどういう値かということと s とを結びつけること
はほとんど不可能です。ということは、数列 {an}∞n=1 の収束や極限値と s が直接結びつきそうな
数列は集合 {an | n = 1, 2, 3, . . .} が最大値を持たないような数列だということになります。そのような数列としてすぐ思いつくのは、n が増えるにつれて an が大きくなる、すなわち単調増加な数
列でしょう。
このように考えると、「有界」と「単調」を併せ持つ数列は収束するだろうと思えます。そして、
実際に次の定理が成り立ちます。� �定理 1. 上に有界な単調増加数列は収束する。� �
極限値は s = sup{an | n = 1, 2, 3, . . .} です。また、下に有界な単調減少数列は inf{an | n =1, 2, 3, . . .} に収束します。普段何気なく使っている無限小数、例えば
3.1415926535897932384626433832795028841971693 · · ·
というものが本当に実数を表しているということは、定理 1によって保証されます。なぜなら、この無限小数は、
3 3.1 3.14 3.141 3.1415 3.14159 . . .
という数列の極限値を意味するのであり、この数列が単調増加で上に有界(例えば、すべての項が
4以下)なので定理 1によって必ず収束するからです。このように、「実数の連続性」というなんだか取っつきにくい概念も、実は普段そうとは知らずに使っているとても身近な考え方なのです。
定理 1は大変重要な定理なのですが、講義では証明されなかったようですので、問題 8として出題しておきました。
2.1.1 定理 1の証明:問題 8の解答
数列 {an}∞n=1 の項のなす集合を A とします。すなわち
A = {a1, a2, a3, . . . , an, . . .}
です。証明すべきことは、A が上に有界で数列 {an}∞n=1 が単調増加のとき、{an}∞n=1 は supA に
収束するということです。
正実数 ε を任意に取ります。supA は A の上限なのですから
∀n [an ≤ supA] and ∃n0 [supA − ε < an0 ]
が成り立ちます。(左側の条件は「supA は A の上界である」ということ、右側の条件は「supA
より小さい数は A の上界ではない」ということです。)数列 {an}∞n=1 は単調増加なのですから、
この n0 に付いて
∀n [n ≥ n0 =⇒ supA − ε < an]
第 3 回解答 15
が成り立ちます。よって、
∀n [n ≥ n0 =⇒ supA − ε < an ≤ supA]
が得られます。supA < supA + ε なので、
∀n [n ≥ n0 =⇒ supA − ε < an < supA + ε]
すなわち
∀n [n ≥ n0 =⇒ |an − supA| < ε]
が成り立ちます。これは {an}∞n=1 の極限が supA であることの定義です。これで示せました。□
2.2 定理 1を使って実数列の収束を示す例
問題 9も問題 10も定理 1を使って収束することを示し、それとは別に、数列を定義する漸化式を利用して極限値を計算するという考え方の例になっています。
重要なことは、定理 1を使うと
極限値がわからないのに収束することが示せてしまう
ということです。そもそも数列の収束の定義には極限値があらわに使われています。にもかかわら
ず極限値なしで収束することが示せてしまうのは、実数の連続性のおかげなのです。だから、例え
ば有理数だけを数だと思ってしまった場合、これからするような議論はできないわけです。
2.2.1 問題 9の解答
解答. まず、{an}∞n=1 は上に有界であることを示しましょう。漸化式は
an+1 = −12
(an − 3
2
)2
+98
と変形できます。よって、 0 < an < 1 なら an+1 も同じ不等式 0 < an+1 < 1 を満たします。0 < a1 < 1 が仮定されているので、すべての an がこの不等式を満たすことになります。よって、
数列 {an}∞n=1 は有界です。
次に {an}∞n=1 が単調増加であることを示しましょう。
an+1 − an =an(3 − an)
2− an =
an(1 − an)2
なので、0 ≤ an ≤ 1 ならば an+1 − an ≥ 0 となり、an+1 ≥ an が成り立ちます。すべての an が
0 < an < 1 を満たすことを上で示してありますので、{an}∞n=1 は単調増加です。(図 6。)以上 {an}∞n=1 は上に有界な単調増加関数なので、定理 1により収束します。lim
n→∞an = a とおくと lim
n→∞an+1 = a であり、また収束する数列の和や積はそれぞれの極限値の
和や積に収束する(問題 2)ので、
a = limn→∞
an+1 = limn→∞
(an(3 − an)
2
)=
32a − 1
2a2
すなわち a2−a = 0 が得られます。これを満たす a の値は 0と 1です。すべての an が 0 < an < 1を満たすことと {an}∞n=1 が単調増加であることから 0 < a ≤ 1 でなければなりません(補題 1)。よって a = 1 です。 □
第 3 回解答 16
� �
O
y
x
a1 a2 a3 a4 a5
1
図 6: 問題 9の数列の様子。� �繰り返しますが、「収束すること」と「極限値」は別に議論しなければなりません。{an}∞n=1 の
収束を示す前に漸化式の両辺の極限を取って、
{an}∞n=1 は収束するとすれば極限値は 0か 1である。
とするのは正しいですが、たとえ極限値は 1だと正しく予想できたとしても、実数の連続性を使わずに直接 |an − 1| がいくらでも小さくなりうることを {an}∞n=1 の定義式から示すのは面倒です。
(が、できますので、興味のある人は考えてみてください。)
また、漸化式の両辺の極限を取って「a = 0 または 1」が得られるからといって、初項がどのような値でも {an}∞n=1 は必ず 0か 1に収束する、と考えるのは間違いです。例えば a1 = −1 としてみると、
a2 = −2 a3 = −5 a4 = −20 a5 = −230 . . .
というように負の無限大に発散してしまいます。「収束することを証明する」というステップは省
けません。
2.2.2 問題 10の解答
この問題も問題 9と同じ考え方で解きます。
解答. 相加相乗平均の関係から、0 < an < bn ならば
0 < an <√
anbn <an + bn
2< bn
が成り立ちます。an+1 =√
anbn, bn+1 =an + bn
2ですので、
0 < an < an+1 < bn+1 < bn
が成り立つことになります。初項について 0 < a1 < b1 と仮定していましたので、帰納的にこの不
等式はすべての n で成り立ちます。よって、数列 {an}∞n=1 は単調増加、数列 {bn}∞n=1 は単調減
少です。さらに、任意の n について an < b1 と a1 < bn が成り立つので、{an}∞n=1 は上に有界、
第 3 回解答 17
{bn}∞n=1 は下に有界でもあります。以上により、実数の連続性(定理 1)からどちらも収束することが分かりました。
極限値をそれぞれ a, b とすると、
b = limn→∞
bn = limn→∞
bn+1 = limn→∞
an + bn
2=
a + b
2
となりなますので、a = b です。 □
2.3 コーシー列
数列の収束の定義の問題点(使いにくいところ)は、定義自体に極限の値が入ってしまってい
ることです。数列 {an}∞n=1 が具体的に与えられたとき、それが収束することを定義に従って示す
には、
n > N =⇒ |an − a| < ε
を満たすような N を ε に応じて見つけようとする前にまず極限値 a を見つけなければなりませ
ん。これは、a が見つかるように工夫されている問題は別として、普通は望み薄です。
しかし、定理 1は数列に課される条件は厳しいものの極限値が分からなくても収束が結論できています。定理 1の条件を満たす数列は「どんどん増えて行くのに発散はできない」という「いかにも収束しそう」な状況になっています。そして、実数の連続性によって「収束しそうなものは本
当に収束する」ということが保証されることによって、定理 1が成り立ったわけです。ということは、「いかにも収束しそうな数列」というものを「有界かつ単調」という条件より緩められれば、
いや、「いかにも収束しそう」ということを過不足なくはっきりさせることができれば、極限値な
しで数列の収束・発散を判定できるようになりそうに思えます。
「いかにも収束しそうな数列」とはどんなものであるべきかを考えるために、「本当に収束して
いる数列」の定義から極限値の情報を取り去ると何が残るか考えてみましょう。数列 {an}∞n=1 が
a に収束しているとは、どんなに小さな「幅」ε が与えられても、ほとんど(つまり、有限個を除
いてすべて)の an が a を中心とした幅 2ε の中に収まってしまうということでした。この定義か
ら安直に「a を中心とした」という部分を取り去り、ε が任意であることから 2ε の 2を取り去って ε にしてしまえば、
どんなに小さな幅 ε が与えられても、ほとんどの an が幅 ε の中に収まってしまう。
となります。
とりあえず、この文が「いかにも収束しそう」という言葉の内容だと信じることにしましょう。
とすると、残っていることは「幅 ε の中に収まっている」ということを、幅の中心の情報を使わ
ずにどうやって式で表現するかという問題です。「ほとんどの」というのが考えるのに邪魔になる
ので、とりあえず「すべての an が幅 ε の中に収まっている」ということを式で表現する方法を考
えてみましょう。すべてが幅 ε の中に収まっているのだから、a1 と他のすべての an との差は ε
より小さいことになります。つまり、
∀n [|a1 − an| < ε]
です。これだけでよいでしょうか? いや、これは「a1 を中心にして幅 2ε の中に収まっている」と
いうことであって、目指していることとピッタリ同じではありません。大体、a1 だけ特別扱いす
る理由はどこにもないのに a1 を持ち出してくるからピントがずれるのではないでしょうか? a1 と
第 3 回解答 18
an の差が ε より小さいように、a2 と an の差も、a3 と an の差もすべて ε より小さいわけです
から。こう考えると、「両方とも特定しない」というのがよさそうに思えます。つまり、すべての
am と an との差が ε より小さい、式で書くと
∀m,n [|am − an| < ε]
となります。あとは「すべての」としていたところを「ほとんどの」つまり「有限個を除いて」に
直してやればよいだけです。これで次の定義にたどり着けました。なお、このような数列のことを
「いかにも収束しそうな列」と名付けてもよいかも知れませんが、初めて考えついた人の名にちな
んでコーシー列と呼ぶことになっています。� �定義 3. 数列 {an}∞n=1 は、任意の正実数 ε に対して十分大きな自然数 N を取ると N より大
きい任意の二つの自然数 n,m に対して |an − am| < ε を満たすとき、つまり、
∀ε ∃N ∀n ∀m [n > N,m > N =⇒ |an − am| < ε]
を満たすときコーシー列という。� �どこを中心にばらついているかを問題にしていないところが、収束の定義とは違うところです
(図 7)。� �
1 2 3 4
幅 ε
図 7: コーシー列。ある n から先の an は幅 ε の帯の中に収まっている。帯の中心は極限値
でなくてよい。� �2.3.1 問題 11の解答
|an − am| < ε を |an − an−1| < ε と誤解してしまうことが結構あります。n と m は(どちらも
N より大きいという以外)何の関連もないというところがミソですので、くれぐれもご注意下さ
い。念のために実例として問題 11を出題しておきました。
解答. まず、任意の正実数 ε に対して
n > N =⇒ |an+1 − an| < ε
を満たす N が存在することを示しましょう。
√n + 1 −
√n =
(√n + 1 −
√n) (√
n + 1 +√
n)
√n + 1 +
√n
=1√
n + 1 +√
n<
12√
n
第 3 回解答 19
です。よって、任意の正実数 ε に対して、例えば N を 1ε2 以上の自然数とすると、
n > N =⇒ |an+1 − an| <1
2√
n<
12√
N<
ε
2< ε
が成り立ちます。これで示せました。
次に、コーシー列ではないこと、すなわち
任意の正実数 ε に対して
m,n ≥ N =⇒ |am − an| < ε
を満たす N が存在する。
は成り立たないことを示しましょう3。示すべきことは、正実数 ε で
どんなに大きな自然数N に対してもN より大きい二つの自然数 n, mで |√
n−√
m| ≥ ε
の成り立つものが存在する
の成り立つものが存在することです。ここで、n = 2m とすると、
√n −
√m =
√2m −
√m =
(√2 − 1
)√m
ですので、例えば ε = 0.4 とすると、どのような N に対しても m を N より大きい任意の自然
数とし n = 2m とすれば√
n −√
m ≥ ε が成り立ちます。これでコーシー列でないことが示せま
した。 □
2.4 実数の完備性4
前小節の考えの筋道からして「本当に収束している数列は収束しそうな数列でもある」というこ
とは当然なのですが、ちゃんと確認しておきましょう。つまり、
収束する数列はコーシー列である
を証明しておこうということです。
証明. {an}∞n=1 を a に収束する数列とします。ということは、任意の正実数 ε に対して自然数 N
を上手く選べば、N より大きいすべての自然数 n に対して
|an − a| <ε
2
が成り立ちます。(ε ではなく ε2 に調節しておいたのは、最後に得られる不等式が「< 2ε」で
はなく「< ε」になるようにするためです。実質的な意味はありません。)よって、三角不等式
|x + y| ≤ |x| + |y| を使うことにより、N より大きい任意の二つの自然数 n,m に対して、
|an − am| = |(an − a) + (a − am)| ≤ |an − a| + |a − am| <ε
2+
ε
2= ε
が成り立つことになります。これは {an}∞n=1 がコーシー列であることを意味しています。 □3問題の数列は発散しますので、既に講義で「コーシー列は収束する」ということを学んである以上その対偶によって
コーシー列でないことを結論できます。しかし、ここではコーシーの判定法を使わずにコーシー列の定義を満たさないことを直接示しておきます。
4「コーシー列は収束する」ということを「完備性」と言います。この用語は講義では紹介されなかったかもしれませんが、説明を簡潔にするためにこのプリントでは使うことにしました。あしからずご了承ください。
第 3 回解答 20
以上、前小節からここまでは、収束しそうということをどのように定義するか考えただけで、実
数の性質は一切使いませんでした。しかし、はじめに書いたように、期待していることは、
収束しそうな数列は本当に収束している
ということが実数の連続性によって成り立っているのではないか、ということです。そして、それ
が本当に成り立っているのだ、ということを実数は完備性を持つと言います。
実数の完備性� �コーシー列は収束する。� �
これで、極限のわからない数列 {an}∞n=1 が収束するかどうかを調べるには、{an}∞n=1 がコーシー
列かどうかを調べればよいということになるわけです。
講義では実数が完備性を持つことは紹介はされたものの証明はされていないようですので、問題
12として出題しておきました。
2.4.1 問題 12の解答
(1) {an}∞n=1 はコーシー列なので、
∀n ∀m [n, m > N =⇒ |an − am| < 1]
を満たす自然数 N が存在します。(問題 1と同様に、コーシー列の定義で「任意の正実数 ε」とし
て 1を選んだのです。)特に、
∀n [n > N =⇒ |an − aN+1| < 1]
が成り立っています。問題 1の解答と同様にして、不等式 |an − aN+1| < 1 から
−|aN+1| − 1 < an < |aN+1| + 1 すなわち |an| < |aN+1| + 1
が得られます。よって、N + 1 個の正数
|a1| |a2| |a3| · · · |aN | |aN+1| + 1
の最大値より大きい数 M を一つ選べば、任意の n に対して |an| ≤ M が成り立ちます。 □
(2) 集合 An を
An = {an, an+1, an+2, . . .}
と定義します。
un = supAn ln = inf An
です。un と ln は同じ集合 An の上限と下限なので
ln ≤ un
が成り立っています。一方、An+1 は An の部分集合なので、
supAn+1 ≤ supAn inf An+1 ≥ inf An
第 3 回解答 21
すなわち
un+1 ≤ un ln+1 ≥ ln
が成り立っています。以上を合わせると、数列 {un}∞n=1 と {ln}∞n=1 の間には
l1 ≤ l2 ≤ · · · ≤ ln ≤ · · · ≤ un ≤ · · · ≤ u2 ≤ u1
という関係があることが分かります。特に {ln}∞n=1 は単調増加で上に有界、{un}∞n=1 は単調減少
で下に有界です。よって、定理 1によりどちらの数列も収束します。 □
(3) limn→∞
un − limn→∞
ln = limn→∞
(un − ln) ですので、 limn→∞
(un − ln) = 0 を示せばよいことになります。
正実数 ε を任意に固定します。
{an}∞n=1 がコーシー列であることから、
∀n ∀m[n,m > N =⇒ |an − am| <
ε
3
]の成り立つ自然数 N が存在します。集合 AN+1 を使うと、これは
∀an, ∀am ∈ AN+1 に対して |an − am| <ε
3が成り立つ
と言い換えられます。
一方、uN+1 と lN+1 はそれぞれ AN+1 の上限と下限ですので、
an1 > uN+1 −ε
3an2 < lN+1 +
ε
3
を満たす an1 と an2 が AN+1 に存在します。
以上の二つのことを合わせると、
uN+1 − lN+1 < an1 − an2 +2ε
3<
ε
3+
2ε
3= ε
が得られます。
(2) の解答で示したように、数列 {un}∞n=1 は単調減少で数列 {ln}∞n=1 は単調増加ですので、
n ≥ N + 1 なら un ≤ uN+1 と ln ≥ lN+1 が成り立っています。この二つの不等式の差をとると、
un − ln ≤ uN+1 − lN+1
が得られます。
un − ln ≥ 0 ですので、以上より、n > N を満たす任意の自然数 n について
|un − ln| = un − ln < ε
の成り立つことが分かりました。これは数列 {un − ln}∞n=1 が 0に収束することの定義です。 □
(4) an ∈ An, un = supAn, ln = supAn ですので、任意の n について ln ≤ an ≤ un が成り立って
います。一方、(3)までで {un}∞n=1 と {ln}∞n=1 が同じ値に収束することを証明してあります。よっ
て、はさみうちの原理(問題 4)により {an}∞n=1 も同じ値に収束します。 □
(2)を示すのに数列 {an}∞n=1 が有界であることは使いましたがコーシー列であることは使って
いません。ということは、コーシー列でなくても有界でさえあれば (2)の二つの数列は必ず収束す
第 3 回解答 22
ることになります。{un}∞n=1 の極限を {an}∞n=1 の上極限、{ln}∞n=1 の極限を {an}∞n=1 の下極限と
言います。イメージとしては、図 8の a が上極限、a が下極限です。講義ではこれらは扱われない
ようですが、講義で挙げられた参考書の中にこれらが出てくるものもあるので、一応名前を紹介し
ておきます。� �
a
a
図 8: 有界な数列のグラフの例。� �(3)と (4)の解答でしたことを図 8でイメージしてみましょう。このグラフの数列がコーシー列だったら、グラフの縦軸に近いところはいくらでも小さな幅に納まってしまわなければなりませ
ん。ということは、図中の a と a は一致せざるを得ず(これが (3)です)、全体もその一致した値に収束することになる(これが (4)です)というようになっているわけです。
2.4.2 問題 13の解答
実数の完備性を使って数列の収束を示す例として問題 13を出題しました。この数列は、漸化式
b1 = b2 = 1, bn+2 = bn+1 + bn
で定義される数列(フィボナッチ数列という名前が付いています)の隣り合う項の比 an = bn+1bn
です。これの極限が黄金比と呼ばれる値に収束することをご存じの人もいるかもしれません。問題
13はそれを証明する問題です。
解答. 初項 a1 が正なので、漸化式から帰納的にすべての an が正です。このことをもう一度漸化
式に入れると、すべての an = 1 + 1an−1
は 1以上であることがわかります。一方、漸化式の両辺に an をかけて分母を払うと、
anan+1 = an + 1
となります。よって、任意の n について anan+1 ≥ 2 です。このことから、
|an+1 − an| =∣∣∣∣(1 +
1an
)−
(1 +
1an−1
)∣∣∣∣ =|an−1 − an|
an−1an≤ |an − an−1|
2
が得られます。この不等式を繰り返し使うと
|an+1 − an| ≤|a2 − a1|
2n−1=
12n−1
第 3 回解答 23
となります。よって、n > m > N を満たす三つの自然数に対し、三角不等式を繰り返し使うこと
により
|an − am| = |an − an−1 + an−1 − an−2 + · · · + am+1 − am|
≤ |an − an−1| + |an−1 − an−2| + · · · + |am+1 − am| ≤ 12n−2
+1
2n−3+ · · · + 1
2m−1
=1
2m−1
n−m−1∑k=0
12k
=1
2m−1
1 − 12n−m
1 − 12
<1
2m−2≤ 1
2N−1
の成り立つことがわかります。よって、任意の正実数 ε に対し、 12N−1 < ε が成り立つ自然数 N
を選べば、
n,m > N =⇒ |an − am| < ε
が成り立ちます。これは数列 {an}∞n=1 がコーシー列であることを意味していますので、{an}∞n=1
は収束します。
{an}∞n=1 の極限値を a としましょう。すると、漸化式の両辺で n → ∞ とすることにより、
a = 1 +1a
という等式が得られます。分母を払って整理すると、これは
a2 − a − 1 = 0
となりますので、
a =1 +
√5
2または a =
1 −√
52
です。一方、すべての n について an ≥ 1 が成り立っているので、極限値 a も 1以上です。よって、
limn→∞
an =1 +
√5
2
です。 □
2.5 無限級数への応用
問題 13の解答を読んで、実数の完備性いかに有用であるがよくわかったように感じるかも知れません。が、実は完備性を使って収束を証明できる具体的な数列はあまりありません。コーシー
列という概念は収束する数列と同値な概念なのでいかにも役に立ってくれそうなのですが、実用
上はおろか、1年生の学ぶ範囲の数学では理論上もほとんど出番がありません。実際に活躍するの
は「単調増加な有界数列は収束する」という定理 1やもうすぐ講義で紹介される(はずの)ボルツァーノ・ワイエルストラスの定理なのです。(もっと専門的な数学においてはコーシー列は大変
重要な役割を果たしますが。)だから、具体的な数列の収束を示そうとするとき、無理にコーシー
列に持ち込もうとするのはやめた方がよいと思います。
完備性が直接役に立つ例は無限級数です。ただし、この場合も完備性を直接適用するというよ
り、完備性を使った「無限級数の収束判定法」が得られ、それを具体例に適用するという筋道に
なっています。その「無限級数の収束判定法」が講義でも紹介された問題 14で、それを使って無限級数の収束を示す例が問題 15です。
第 3 回解答 24
答の前に概念(というか用語)の確認をしておきます。無限級数∑∞
n=1 an とは部分和のなす数列
a1, a1 + a2, a1 + a2 + a3, . . . ,n∑
k=1
ak, · · ·
のことであり、無限級数の和とは部分和のなす数列の極限のこと、無限級数が収束するとは部分和
のなす数列が収束することでした。
2.5.1 問題 14の解答
無限級数∑∞
n=1 an の部分和のなす数列を {Sn}∞n=1、無限級数∑∞
n=1 bn のなす数列を {Tn}∞n=1
と書くことにします。
Sn =n∑
k=1
ak Tn =n∑
k=1
bk
です。示したいことは、
任意の nについて |an| ≤ bn が成り立っているとき、{Tn}∞n=1 が収束するなら {Sn}∞n=1
も収束する
ということです。
{Tn}∞n=1 は収束しているのだからコーシー列です。ということは、正実数 ε が任意に与えられ
たとき
∀n ∀m [n,m > N =⇒ |Tn − Tm| < ε] (1)
の成り立つ自然数 N が存在します。n > m としても一般性を失いませんので、以下そうであると
します。すると、
|Tn − Tm| =
∣∣∣∣∣n∑
k=1
bk −m∑
k=1
bk
∣∣∣∣∣ =
∣∣∣∣∣n∑
k=m+1
bk
∣∣∣∣∣ =n∑
k=m+1
bk (2)
です。(絶対値を外しても等しいのは bk ≥ 0 だからです。)一方、三角不等式 |x + y| ≤ |x|+ |y| を繰り返し使うと、
|Sn − Sm| =
∣∣∣∣∣n∑
k=1
ak −m∑
k=1
ak
∣∣∣∣∣ =
∣∣∣∣∣n∑
k=m+1
ak
∣∣∣∣∣ ≤n∑
k=m+1
|ak| (3)
が得られます。今、任意の k について |ak| ≤ bk が成り立っているのですから、三つの式 (1), (2),(3) を合わせると、n と m が N より大きいとき
|Sn − Sm| ≤n∑
k=m+1
|ak| ≤n∑
k=m+1
bk = |Tn − Tm| < ε
が成り立つことが分かります。これは数列 {Sn}∞n=1 がコーシー列であることを意味しています。
よって、実数の完備性より {Sn}∞n=1 は収束します。 □
第 3 回解答 25
2.5.2 問題 15の解答
任意の実数 x に対して | sin x| ≤ 1 が成り立っているので、任意の自然数 n に対して∣∣∣∣ sinn
2n
∣∣∣∣ ≤ 12n
が成り立っています。
一方、無限級数∑∞
n=112n は公比が 1より小さい 1
2 なので収束します。(思い出しておきましょう。
n∑k=1
12k
=12
+122
+123
+ · · · + 12n
=
(12 + 1
22 + 123 + · · · + 1
2n
) (1 − 1
2
)1 − 1
2
=12 − 1
2n+1
12
= 1 − 12n
n→∞−−−−→ 1
です。)よって、問題 14により問題の無限級数は収束します。 □