20061115 forum
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へき開破壊のマイクロメカニズムについて
東京大学 環境・海洋工学専攻粟飯原周二
●結晶格子のへき開破壊●フェライト組織のへき開破壊モデル●フェライト・セメンタイト、パーライト鋼のへき開破壊モデル●遷移温度のモデル化●ベイナイト鋼の靭性に関する調査の前に●まとめ
鉄鋼協会フォーラム「構造材料の強度と破壊」2006/11/15
equilibrium spacing
cohesive force
bond energy
distance
pote
ntia
l ene
rgy
appl
ied
forc
e
λ
●結晶格子のへき開破壊
結晶面上に の間隔で原子が並んでいるものと考えると、単位面積あたり 個の原子が存在するので、上式を単位面積(すなわち、応力の単位)で考えると、
⎟⎠⎞
⎜⎝⎛=λπ xFF c sin (1)
λπ xFF c=
0x2
0/1 x
(2)
0
02
02
0 xxx
xF
xF c
λπ
= (3)
は歪に相当するので、上式は単軸の弾性応力-歪関係式に相当するものである。従って、Eを縦弾性係数として、
0/ xx
0xE
c πλσ = (4)
0x≈λ と考えてよいので、近似的に
πσ E
c =
表面エネルギーは次式で近似的に計算できる。
(5)
πλσ
λπσγ
λ
ccs dxx=⎟
⎠⎞
⎜⎝⎛= ∫ sin
21
0(6)
0xE s
cγσ = (7)
Ufns =γ2 (8)
n: 単位面積あたりの原子の数
U: 結晶の結合エネルギー
f: 破面形成にともなう原子結合分離の比率
f=4/8 {100}f=2/8 {110}
{100}面破壊 {110}面破壊
材料 へき開面 結合エネルギー U(kJ/mol)
へき開面エネルギー
2γs
(J/m2)
表面エネルギー 2γs *
(J/m2)
理想へき開応力σc
(MPa)
鉄(BCC) {100} 390 4.0 4.0 4.3x104
{110} 2.8 5.6x104
銅(FCC) {100} 340 4.3 3.3 5.5x104
{111} 2.5 2.4x104
アルミニウム(FCC) {111} 230 1.35 1.68 1.9x104
ベリリウム(HCP) {0001} 310 1.9 3.2 6.5x104
チタン(HCP) {0001} 420 2.3 - 3.1x104
シリコン(diamond cubic)
{111} 360 2.3 2.4 4.5x104
マグネシア(NaCl型) {100} 1000 3.2 2.4 6.1x104
シリカ(非晶質) 440 3.2 1.1 3.7x104
* 表面張力など他の方法による測定値
Averbach,B.L., Fracture, vol.1, p.441, 1968.
(結晶粒径)-1/2 (μm)-1/2
遷移
温度
(℃)
● エネルギー遷移温度○ 破面遷移温度
結晶粒径 (μm)
25 2.8 1.0
スーパーメタルprj(藤岡) ナノメタルprj(荒牧)
●フェライト組織のへき開破壊モデル
温度
応力
Yσ
Ylocal σσ 32~=
cσ
脆性破壊非発生脆性破壊発生
歪速度上昇
ミクロ組織制御
-196℃における降伏応力とへき開破壊応力の結晶粒径依存性:
へき開破壊発生には塑性変形が必要Row,J.R., Symposium on Relation of Properties to Microstructure, ASM,p.163, 1954.
Strohのへき開モデル:せん断応力のみに依存し、静水圧
の効果は説明できない。Stroh,A.N., Advances in Physics, 1957, vol.6, p.418
Cottrellのへき開モデル:
堆積転位とき裂についてエネルギー論的にき裂伝播を考察Cottrell,A.H., Trans. Am. Inst. Min. Engrs., vol.212, p.192, 1958
σ
σ
d
σ
σ
c
BCCでは吸引型の反応で、
エネルギー的に安定
]001[]111[2
]111[2
aaa→+
28)1(24ln
)1(4
222
2
22 cNaE
cccRaNEW p
σσνπγνπ
−−
−+⎟⎠⎞
⎜⎝⎛
−= (9)
Stroh,A.N., Proc. Royal Soc., A223, p.404, 1954
R:転位応力場の大きさ(>>c)N:転位総数
a:格子定数
E:縦弾性係数
転位の応力場による歪エネルギー
き裂の表面エネルギー
き裂の歪解放エネルギー
負荷応力がき裂開口の変位によりなす仕事
ener
gy, W
c2
c1
σ1
σ2
σ3
σ1
σ2
σ3
with dislocations without dislocations
crack length, c crack length, c
ener
gy, W
き裂が短い間は転位のエネルギーによる進展力が大きく、き裂が長くなるに従って負荷応力による進展力が大きくなる。
0/ =∂∂ cW の解が平衡き裂の長さ(c1、c2)を与える。
paN γσ 2=
0/ =∂∂ cW(エネルギーは常に減少するので、き裂は伝播できる。)
が解を持たないとき、平衡き裂は存在しない。
2/1
2 )1(4
⎟⎟⎠
⎞⎜⎜⎝
⎛−
≈d
E pγνπ
σ
Hall-Petchの関係を仮定し、堆積転位の数Nを粒径の関数として求める(d1/2に比例)と、最終的に
(10)
(11)
セメンタイトの割れ:フェライトに突入せず停止した例Tsann Lin, Evans,A.G., Ritchie,R.O., Metall. Trans. A,Vol.18A, P.641, Apr. 1987.
セメンタイトの割れ:フェライトに突入後停止した例Lindley,T.G., Oates,G., Richards,C.E., Acta metall., vol.18, p.1127, 1970.
●フェライト・セメンタイト、パーライト鋼のへき開破壊モデル
Cottrellモデル:・堆積転位によるき裂先端の鈍化が生じにくい極低温度において
のみ適用可能。・セメンタイトをはじめとする脆化相からのき裂発生を考慮すべき。
Almond、Petchモデル:・き裂発生は表面エネルギーの低い第二相(発生条件は考えない)。・第二相の割れと同時に堆積転位の多くが割れになだれ込むと仮定。
(静的平衡を仮定したSmithモデルでは粒径の効果が現れない。)
・転位と外部応力下におけるエネルギーバランスから、き裂がフェライト地に突入したときの伝播可能条件を求める。
Almond,E.A., et al, Proc. 2nd Int. Conf. Fracture(ed. Pratt,P.L., p.253, Chapman & Hall, 1969 Petch,N.J., Acta metal. Vol.34, No.7, p.1387, 1986 Smith,E., Proc. Conf. Physical Basis of Yield and Fracture, Inst. of Phys. Phys. Soc., Oxford, p.36, 1966
Almond, Petchのモデル
t
d t
σ
(12)228
)1(24ln)1(4
222
2
22 cbNE
cccRbNEW p
σσνπγνπ
−−
−+⎟⎠⎞
⎜⎝⎛
−=
・き裂がtまで成長する間は考えない(表面エネルギーが低い)。・c>tにおいて、エネルギーが単調減少であればき裂は進展できる。・Hall-Petch則を仮定する。
tdk
tdk
tE p
c ππνπγ
σ228)1(
8 2/12/1
22
2
2 −⎟⎟⎠
⎞⎜⎜⎝
⎛−
−= (13)
R:転位応力場の大きさ(>>c)N:転位総数
a:格子定数
E:縦弾性係数
転位の応力場による歪エネルギー
き裂の表面エネルギー
き裂の歪解放エネルギー
負荷応力がき裂開口の変位によりなす仕事
crack length, c [μm]
ener
gy, W
0 1 2 3 4
1000
1200
1400
1600
σ [MPa]
10001200
1400
1600
c1
c2
d=1/25 mmd=1/16 mm
t
μ=20 104 N/mm2
ky=18.3 N/mm3/2
γp=9.0 10-3 N/mm
Petchモデルによるへき開破壊応力:結晶粒径と炭化物寸法に依存(Petch)
][ 2/12/1 −− mmd
][MPacσ
][ mt μ
球状化セメンタイト、板状セメンタイト
r
σσ
t
2/1
2 )1(2 ⎟⎟⎠
⎞⎜⎜⎝
⎛−
=r
E pc νπ
γπσ
(14)
球状化セメンタイト鋼のへき開破壊応力:セメンタイト最大95%の寸法で整理できる。Curry,D.A., Knott,J.F., Metal Sci. No.1978, p.511.
パーライトコロニーの割れ:フェライト-パーライト鋼Hahn,G.T., Metall. Trans. A, vol.15A, p.947, Jun. 1984.
2/1
0)1(4
⎟⎟⎠
⎞⎜⎜⎝
⎛−
=C
E effc νπ
γπσ
(15)
パーライト鋼の切欠き底における破壊発生起点位置:破壊は必ずしも最大応力点では発生しない(より塑性歪の高い領域)。Lewandowsski,J.J., Thompson,A.W., Acta metall. Vol.35, No.7, p.1453, 1987.
パーライト鋼のへき開破壊応力:粗いパーライト組織ではへき開破壊応力の温度依存性が顕著、限界条件を決める組織単位は何か?(ダブルノッチ試験片ではコロニーサイズ)
パーライト間隔:0.11μm
パーライト間隔:0.29μm
フェライトパーライト鋼の破壊発生起点位置とその位置における最大主応力・塑性歪(田川、溶論23(2005)、p.122.)
2本の曲線は最低と最高の破壊荷重試験片に対応する最大主応力の分布を示す。 (1mmR切欠き)
各曲線は最大主応力位置における最大主応力と塑性歪の関係を示す。
セメンタイト割れ頻度の歪・温度依存性:セメンタイト割れは限界応力で決まる。低歪域では転位堆積モデルで、高歪域ではfibre loadingモデル(地鉄とセメンタイトに
作用する歪が同じ)で説明。Lindley,T.G., Oates,G., Richards,C.E., Acta metall., vol.18, p.1127, 1970.
フェライト中の転位堆積によるセメンタイトへの応力集中(模式図)Porter,D.A, Easterling,K.E., Smith,G.D., Acta metall. Vol.26, p.1405, 1978. fibre loadingモデル:セメンタイトの応力は
フェライトの歪で決まる(Lindley)
衝撃試験遷移温度のモデル化(Petch)
・温度非依存のへき開破壊応力
tdk
tdk
tE p
c ππνπγ
σ228)1(
8 2/12/1
22
2
2 −⎟⎟⎠
⎞⎜⎜⎝
⎛−
−=
・降伏応力の温度・結晶粒径依存性(高歪速度)
2/1][21][5.2350][ −+−= mmdTMPaY ℃σ
・切欠き応力集中
Yl σσ 2.2≈
・切欠き底降伏と同時にへき開破壊が発生する温度
cc dT σ−+= − 2/12.467705.5
(13)
(16)
(17)
(18)
●遷移温度のモデル化
へき開破壊応力モデルによる衝撃遷移温度の計算値(Petch)
cementite size, t [μm]
衝撃試験遷移温度のモデル化(Mintz)
・温度非依存のへき開破壊応力
・降伏応力の温度・結晶粒径依存性(高歪速度)
・切欠き応力集中
Yl σσ 2.2≈
Mintz,B., Morrison,W.B., Cochrane,R.C., Advances in the physical metallurgy and applications of steels, Liverpool, england, Sep. 1981, p.222-228.
tdk
tdk
tE p
c 24)1(8 2/12/1
2
2
−⎟⎟⎠
⎞⎜⎜⎝
⎛+
−=
νπγ
σ
])[(log14.55])[(6.761344][ 12/1)(
−+−+= sKTMPa RTYY εσσ &
2/1
)(
][%5000
][%680][%84][%3270][−++
+++=
dkN
PSiMnMPaRTYσ
(19)
(20)
(16)
へき開破壊応力モデルによる衝撃遷移温度の推定と実験との比較(Mintz):傾向は説明できるが、定量的予測は不十分。
フェライトセメンタイト鋼におけるセメンタイト寸法の結晶粒径依存性:へき開破壊応力の結晶粒径依存性をセメンタイト寸法で説明できる。Curry,D.A. Knott,J.F. Metal Science, Nov. 1978, p.511-514.
古原ほか、まてりあ, vol.45, p.340.
松田ほか、鋼の強靭性、p.47-66 (1971)
●ベイナイト鋼の靭性に関する調査の前に
焼き戻しマルテンサイト・ベイナイト鋼衝撃遷移温度の有効結晶粒径依存性:松田ほか、鋼の強靭性、p.47-66 (1971)
上部ベイナイトと下部ベイナイトの破面単位:松田ほか、鋼の強靭性、p.47-66 (1971)
ベイナイトの模式図
ベイナイト・ラス
マルテンサイト残留γ セメンタイト(ラス内)
上部ベイナイト 下部ベイナイト
セメンタイト(ラス間)
ベイナイトの靭性:明確にすべきポイント
●有効結晶粒(破面単位)の意味・ベイナイト・マルテンサイトにおいて、フェライトと同じような
転位堆積と割れへの転位なだれ込みが起きるか?・テアリッジ間隔に対応すると考えることもできるが、へき開
発生に対してどのように影響するのか?●破壊発生源は何か?
・ベイナイト、焼戻しマルテンサイトでも炭化物(セメンタイト)が破壊の発生源か? (下部ベイナイトの癖へき面割れ)
●最弱リンク・ベイナイトでも最弱リンクが成立しているのか?
( 下部ベイナイトの破面で発生起点を特定できるか?)
・発生抵抗と伝播抵抗の寄与度は?●ボトルネック・プロセスは何か?
●鋼のへき開破壊は、き裂伝播可能条件から導かれるへき開破壊応力で評価できる(第一近似として)。
●その前提となる第二相(セメンタイトなど)のき裂発生条件には歪が関与する。
●応力・歪を考慮したへき開破壊モデルの確立が待たれる。
◆ベイナイト鋼の靭性支配因子の調査にあたり、有効結晶粒径の意味の検討のほかに、第二相の影響、靭性を決める限界プロセス、最弱リンク仮説の適用可能性などの視点も必要と考えられる。
●まとめ