2006 8 1-12 原 著 2006,8,1-12 tr における大うつ病...

12
DSM(TheDiagnosticand StatisticalM anual of M ental Disorder)は,ICD(International Classification of Diseases)とともに,現在,精 神医学の世界で最も大きな影響力をもった診断基 準 と し て 活 用 さ れ て い る。DSM は,1952年 に DSM -I が出版されて以来,DSM -II (1968),DSM - III(1987),DSM -IV (1994)の改訂を経て,現在 の DSM -IV-TR(2000)に至っている。この診断 基準は,従来の病因論は排除され,もっぱら「症 状」による診断基準で構成されている。したがっ て,種々な問題点も指摘されている。 本研究の共同研究者の一人である勝俣は,これ までに,Schneider の一級症状(思考化声,対話形 式の幻聴,自分の行為を批判する幻聴,身体への 影響体験,思考奪取および思考の被影響体験,思 考伝播,妄想知覚,感情・欲動・意志の分野にお ける外からの作為体験)と二級症状(一級症状以 外の形式の幻覚,妄想着想,抑うつと爽快気分, 困惑,感情貧困化)について,コンピタンス臨床 心理学的視点から分析した(2004)。それに引き続 いて,DSM -IV-TR における「統合失調症(schizo- phenia)」の診断基準として挙げられている「A. 特徴的症状」(妄想,幻覚,まとまりのない会話, ひどくまとまりのないまたは緊張病性の行動,陰 性症状)および「B. 社会的または職業的機能低 下」についても,同様な視点からの分析を試みた (2005)。 本研究は,DSM -IV-TR の「大うつ病エピソー (major depressive episode)」に記述されてい る症状(基準)の分析を行うことを通して,大う つ病の様態について,コンピタンス臨床心理学的 視点(勝俣,2001)から考究しようと意図するも のである。 コンピタンス臨床心理学的視点においては,何 らかの問題行動(支援を必要とする種々な行動や 症状)は,「コンピタンスの機能不全」の状態を意 1 駒澤大学心理学論集,2006 ,第 8号,1-12 2006, 8, 1-12 DSM - IV - TR における大うつ病エピソードの意味する もの:コンピタンス臨床心理学的視点から 勝俣 暎史・中嶋 真美・安東 桃子・岩田 佳世・松岡 奈緒 M eaning of symptoms of major depressive episode in DSM -IV-TR: In terms of competence clinical psychology Teruchika Katsumata, M ami Nakashima, M omoko Ando, and Kayo Iwata ( Department of Psychology, Komazawa University, Japan) Nao M atsuoka ( Department of Clinical Behavioural Sciences, Graduate School of Medical Sciences, Kumamoto University, Japan) ABSTRACT The present study examined the characteristic symptoms of major depressive episode using diagnostic criteria in DSM -IV-TR in terms of competence clinical psychology. The criteria were translated into 24 competencesymbols in thecompetencelist consisted offivefactors (cognitive,physical,social,survival,and general self-esteem competence)with three trained graduate students of clinical psychology. The results suggested that the criteria (A1-A9 and C)of the characteristic symptoms of major depressive episode in DSM -IV-TR associated with dysfunction of 17 components included in five competence factors. The 17 dysfunctional components stemmed from (1) verbal expression, thinking (judgment,decision, reasoning, and problem solving),attention,cognitivestyle(concern and flexibility),memory,and planning in cognitive competence factor, (2)physical form (weight), physiological function (internal organs, internal secretion) and physical action (physical expression and motion)in physical competence factor,(3)self-disclosure and social interchange in social competence factor,(4)volition,diligence (effort and continuation),self-control (responsibility),and task accomplishment (vocational activities)in survival competencefactor,and (5)3A for emotional stability (affection, acceptance, and approval)and self-confidence (sense of competence and sense of efficacy) in general self-esteem competence. KEY WORDS: major depressive episode, dysfunction of competence, competence clinical psychology

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  • DSM(The Diagnostic and Statistical Manual

    of Mental Disorder)は,ICD(International

    Classification of Diseases)とともに,現在,精

    神医学の世界で最も大きな影響力をもった診断基

    準として活用されている。DSM は,1952年に

    DSM-Iが出版されて以来,DSM-II(1968),DSM-

    III(1987),DSM-IV(1994)の改訂を経て,現在

    のDSM-IV-TR(2000)に至っている。この診断

    基準は,従来の病因論は排除され,もっぱら「症

    状」による診断基準で構成されている。したがっ

    て,種々な問題点も指摘されている。

    本研究の共同研究者の一人である勝俣は,これ

    までに,Schneiderの一級症状(思考化声,対話形

    式の幻聴,自分の行為を批判する幻聴,身体への

    影響体験,思考奪取および思考の被影響体験,思

    考伝播,妄想知覚,感情・欲動・意志の分野にお

    ける外からの作為体験)と二級症状(一級症状以

    外の形式の幻覚,妄想着想,抑うつと爽快気分,

    困惑,感情貧困化)について,コンピタンス臨床

    心理学的視点から分析した(2004)。それに引き続

    いて,DSM-IV-TRにおける「統合失調症(schizo-

    phenia)」の診断基準として挙げられている「A.

    特徴的症状」(妄想,幻覚,まとまりのない会話,

    ひどくまとまりのないまたは緊張病性の行動,陰

    性症状)および「B.社会的または職業的機能低

    下」についても,同様な視点からの分析を試みた

    (2005)。

    本研究は,DSM-IV-TRの「大うつ病エピソー

    ド (major depressive episode)」に記述されてい

    る症状(基準)の分析を行うことを通して,大う

    つ病の様態について,コンピタンス臨床心理学的

    視点(勝俣,2001)から考究しようと意図するも

    のである。

    コンピタンス臨床心理学的視点においては,何

    らかの問題行動(支援を必要とする種々な行動や

    症状)は,「コンピタンスの機能不全」の状態を意

    1

    駒澤大学心理学論集,2006,第 8号,1-12

    2006, 8, 1-12

    DSM-IV-TRにおける大うつ病エピソードの意味するもの:コンピタンス臨床心理学的視点から

    勝俣 暎史・中嶋 真美・安東 桃子・岩田 佳世・松岡 奈緒

    Meaning of symptoms of major depressive episode in DSM-IV-TR:In terms of competence clinical psychology

    Teruchika Katsumata,Mami Nakashima,Momoko Ando,and Kayo Iwata(Department of Psychology, Komazawa University, Japan)

    Nao Matsuoka(Department of Clinical Behavioural Sciences, Graduate School of Medical Sciences, Kumamoto University, Japan)

    ABSTRACT The present study examined the characteristic symptoms of major depressive episode using diagnostic criteria in DSM-IV-TR in terms of competence clinical psychology. The criteria were translated into 24competence symbols in the competence list consisted of five factors(cognitive,physical,social,survival,and general self-esteem competence)with three trained graduate students of clinical psychology. The results suggested that the criteria (A1-A9 and C)of the characteristic symptoms of major depressive episode in DSM-IV-TR associated with dysfunction of17components included in five competence factors. The 17dysfunctional components stemmed from (1)verbal expression, thinking (judgment,decision, reasoning,and problem solving),attention,cognitive style(concern and flexibility),memory,and planning in cognitive competence factor,(2)physical form(weight),physiological function(internal organs,internal secretion)and physical action(physical expression and motion)in physical competence factor,(3)self-disclosure and social interchange in social competence factor,(4)volition,diligence(effort and continuation),self-control(responsibility),and task accomplishment(vocational activities)in survival competence factor,and(5)3A for emotional stability(affection,acceptance,and approval)and self-confidence(sense of competence and sense of efficacy)in general self-esteem competence.

    KEY WORDS:major depressive episode,dysfunction of competence,competence clinical psychology

    原 著

  • 味し,それらは①コンピタンスの未発達・未学習,

    ②コンピタンスの萎縮,③コンピタンスの歪み,

    および④コンピタンスの障害の4つの原因によっ

    て発現すると仮定される。

    松岡・勝俣(2002)が,うつ病群(入院患者15

    人),健常者・整形外科群(整形外科入院患者14人)

    および健常・学生群(大学生18人)に時間的展望

    テスト(TPT)を実施した結果,うつ病群は,他

    の健常群と比べて,過去,現在,未来の時間的次

    元の間に明確な境界がなく,否定的な過去=否定

    的な現在=否定的な未来として認知されており,

    時間の停滞が認められ,反応内容においても過去

    から持続している悩みや苦しみなどの否定的な事

    項への固着が見られた。また,松岡・勝俣(2003)

    が行った高校生の抑うつとコンピタンスに関する

    研究においては,抑うつ得点(SDS)とすべての

    因子(5因子)におけるコンピタンス得点(熊大

    式コンピタンス尺度)との間には,有意な関係が

    あり,自己のコンピタンスを高く認知(評価)し

    ている者の抑うつ得点は低く,自己のコンピタン

    スを低く認知(評価)している者の抑うつ得点は

    有意に高かった。

    本研究では,上記の研究結果を踏まえて,以

    下の仮説を設定した。

    仮説1 大うつ病エピソード」の諸症状は,人

    のもつ「5つのコンピタンス(24構成成分)の機

    能不全」として意味づけることができるであろう。

    仮説2 大うつ病エピソードにおける諸症状

    は,コンピタンスの未発達・未学習,コンピタン

    スの萎縮による機能不全によって発現したもので

    はなく,コンピタンスの減退・歪みやコンピタン

    スの障害に関わる機能不全として意味づけること

    ができるであろう。

    方 法

    分析対象(症状):本研究では,DSM-IV-TRの「大

    うつ病エピソード」において明記されている以下

    の9項目の基準Aと基準Cの合計10項目につい

    て分析する。なお,下記の各基準中の下線部分は,

    キーワードである。

    基準A1.ほとんど1日中,ほとんど毎日の抑

    うつ気分

    基準A2.ほとんど1日中,ほとんど毎日の,

    すべて,またはほとんどすべての活動における興

    味,喜びの著しい減退

    基準A3.食事療法をしていないのに,著しい

    体重減少,あるいは体重の増加,またはほとんど

    毎日の,食欲の減退または増加

    基準A4.ほとんど毎日の不眠または睡眠過多

    基準A5.ほとんど毎日の精神運動性の焦燥ま

    たは制止

    基準A6.ほとんど毎日の易疲労感,または気

    力の減退

    基準A7.ほとんど毎日の無価値感,または過

    剰であるか不適切な罪責感

    基準A8.思考力や集中力の減退,または,決

    断困難がほとんど毎日認められる

    基準A9.死についての反復思考(死の恐怖だ

    けではない),特別な計画はないが反復的な自殺念

    慮,または自殺企図,または自殺するためのはっ

    きりした計画

    基準C.症状は,臨床的に著しい苦痛,または

    社会的,職業的,または他の重要な領域における

    機能の障害を引き起こしている。

    分析方法:上記の主要症状を,以下の2つの手続

    きを通して分類した(コンピタンス分析について

    訓練を受けた3人の大学院生を含めた4人の共同

    研究者による3回の討議を行い,勝俣による十数

    回のチェックを行った)。

    A.分類基準としてのコンピタンス・リスト(5

    因子24構成成分):症状(問題・問題行動)をコ

    ンピタンスの機能不全によるものと仮定して,直

    接かかわるコンンピタンス因子(構成成分)を主

    分類╱副分類[分類記号]として記載することと

    した。基準としたコンピタンス・リスト(5因子

    24構成成分)は,以下の通りである(勝俣,2002)。

    リスト中,小文字のアルファベットは構成成分を,

    ( )内の○付き数字は構成成分の細成分である。

    第Ⅰ因子 認知的コンピタンス:8構成成分

    a. 感覚・知覚

    b. 言語(①言語理解,②言語表現)

    c. 思考(①判断,②決定,③推論・推理,④課題

    の発見と解決,⑤想像性,⑥創造性)

    d. 注意(①注意集中力)

    e. 対象認知(①関心―興味・好奇心,②柔軟性)

    f. 記憶(①短期記憶,②長期記憶)

    g. 学習(①学習能力,②学業成績)

    h. 計画(①計画能力,②構成力)

    第Ⅱ因子 身体的コンピタンス:5構成成分

    2

  • a. 身体的形態(①身長,②体重,③胸囲,④ 貌)

    b. 生理的機能(①内臓諸機能,②内分泌,③性的

    機能,④その他の生理的機能)

    c. 運動能力(①総合的運動機能,②手腕運動能力)

    d. 身体的健康(①既往症,②(一般的)健康状態)

    e. 身体的行動(①表情,②声,③姿勢,④動作)

    第Ⅲ因子 社会的コンピタンス:5構成成分

    a. 自己開示性

    b. 友好性

    c. 協調性

    d. 社会的交流

    e. リーダーシップ

    第Ⅳ因子 生活コンピタンス:4構成成分

    a. 意志・意欲(①意志・意欲,②主体性,③挑戦

    性,④達成動機)

    b. 勤勉(①努力,②持続性)

    c. 自己制御・管理(①時間管理・未来展望,②自

    律性,③責任,④忍耐,⑤経済管理)

    d. 仕事遂行(①学業活動,②職業活動)

    第Ⅴ因子 総合的自己評価コンピタンス:2構成

    成分

    a. 情緒安定の3A(①愛情,②受容,③承認)

    b. 自信(①自尊心・有能感,②効力感)

    B.症状(問題・問題行動)の発現原因の分類

    基準:コンピタンス臨床心理学的視点において

    は,何らかの症状(問題・問題行動)は,コンピ

    タンスの機能不全によって発現すると仮定され

    る。コンピタンスの機能不全は,以下の4つの原

    因(①コンピタンスの未発達・未学習,②コンピ

    タンスの萎縮,③コンピタンスの歪み,④コンピ

    タンスの障害)によって発現すると仮定される。

    コンピタンスの機能不全を記号化するに当たって

    は,①コンピタンスの未発達・未学習は[―],コ

    ンピタンスの萎縮は[△],コンピタンスの歪みは

    [~],コンピタンスの障害は[☆]という記号を

    用いた。コンピタンスの機能不全の4つの発現原

    因の分類は,以下の基準(定義)によってなされ

    た。

    (1) コンピタンスの未発達・未学習による機

    能不全[―]:人生の発達段階(過程)において普

    通(平均的)であれば当然習得されているべきコ

    ンピタンスが習得されていない(未発達・未学習)

    ことによって発現したと考えられるもの(症状,

    問題ないし問題行動)を指す。ただし,障害によ

    る未発達は除く。例えば,「人の前で,自分の考え

    や気持を他者に理解できるように適切に表現する

    (伝える)ことができない」のは,認知的コンピタ

    ンス因子中の言語の構成成分の「言語表現:文字,

    ことば」の未発達・未学習[Ib②―]として分類

    される。「幼稚園や保育園で,友だちと一緒に遊ぶ

    ことができず,いつも一人遊びしかできない」と

    いう行動ないし特徴は,社会的コンピタンス因子

    中の「社会的交流」の未発達・未学習[IIId―]と

    して置き換えることができる。

    (2) コンピタンスの萎縮による機能不全

    [△]:何らかの脅威ないしストレス(外的要因)

    の負荷によって,すでに保持しているコンピタン

    スが一時的ないしやや持続的に,有効に機能でき

    ずに萎縮することによって発現したと考えられる

    症状(問題や問題行動)である。例えば,体力的

    にも優れた力をもっている中年男性(学生時代に

    は相撲部の選手)が,夜道を一人で歩いている時,

    突然刃物をもった数人の若者に囲まれて強迫さ

    れ,持ち前の力(運動能力)を発揮することがで

    きずに,手も足も出せない状態に置かれてしまっ

    た場合[IIc①△]や,東京から地方の学校に転校

    した中学1年生(特別な問題をもたない)が,数

    人の級友による再三の言動によるひどいいじめを

    受けたことにより,不登校になった(身体症状あ

    り)場合[IIId②△/IVd①△/IIb④~]などが挙

    げられる。

    (3) コンピタンスの歪みによる機能不全

    [~]:一般的・社会的基準に照らして,不適切な

    機能不全(減退や逸脱)が認められるが,了解不

    能な異常や障害とは言えない場合の機能不全であ

    る。例えば,非行少年が抱いている社会的規範無

    視の逸脱した行動をはじめ,多くの犯罪行為,児

    童虐待[Ⅳc②④~],気分障害に認められる認知

    様式の歪み(二分思考,自己関連づけなど)など

    のうち,重篤とは言えないもの[Ie②~]が挙げ

    られる。「コンピタンスの歪み」には,次に述べる

    「コンピタンスの障害」とまでは言えない程度のも

    の(重篤でないもの)を含めた。

    (4) コンピタンスの障害による機能不全

    [☆]:この分類には,原則として,身体障害,知

    的障害および精神障害として分類されている障害

    をベースにした症状(問題,問題行動)という意

    味で用いている。しかし,「障害」の概念は,必ず

    しも明確ではなく,極めて多様である。「国際生活

    機能分類―国際障害分類改訂版」(ICF,2001)に

    3

  • おいても,機能障害(著しい変異や喪失などの心

    身機能または身体構造上の問題)の判定基準(心

    身機能・構造について共通)として,(a)喪失また

    は欠損,(b)減少,(c)追加または過剰,(d)変異,

    の4つを挙げており,一義的ではない。本論文に

    おける「大うつ病エピソード」の症状の分類にお

    いは,「~の著しい減退ないし喪失」「~の著しい

    増加ないし過多」「~の過剰・不適切な~」などの

    表現が付されている症状が少なくない。それらに

    ついては,原則として「障害」として分類する。

    「妄想的である」(了解不能な)場合や,脳波や神

    経生理的な異常所見が認められる場合(あるいは

    可能性が想定されている場合)には,「障害」と分

    類することとした。

    また,歪みと障害と明確に区別できない場合に

    は,「歪み・障害」として分類した。

    結 果

    1. 大うつ病エピソードのコンピタンス・リスト

    による分類の基準について

    DSM-IV-TRにおける「大うつ病エピソード」

    に記載されている症状(基準A1~A9および基

    準C)についてコンピタンス心理学的視点から分

    類(5因子24構成生分)するに当たって,

    a. 各症状についての簡潔な説明(DSM-IV-

    TRによる)

    b. コンピタンス因子(構成成分)分類・分類

    記号(ローマ数字はコンピタンス・リストの

    因子番号,小文字のアルファベットは構成成

    分,○付き数字は構成成分の細成分)

    c. 分類の根拠

    について説明を加える。

    基準A1.抑うつ気分

    a. 症状:大うつ病エピソードにおける抑うつ気

    分(基本的特徴)をその人は,通常,憂うつで,

    悲しく,希望のない,気落ちした,“落ち込んだ”

    と表現することが多い。

    b. コンピタンス因子(構成成分)分類・記号:総

    合的自己評価(情緒安定の3A・自信―有能感,

    効力感)の歪み・障害╱対象認知(柔軟性)の歪

    み・障害╱意志・意欲の歪み・障害

    [Vab~&☆/Ie②~&☆/IVa①~&☆]

    c. 分類の根拠:憂うつで,悲しく,希望のな

    い,気落ちした,“落ち込んだ”気分は,情緒安定

    に必要な3A(愛情,受容,承認)の要求の不充

    足,自信(有能感,効力感)の欠如(総合的自己

    評価の歪み・障害),無気力状態(意志・意欲の減

    退)を表現した複合的な感情であり,対象認知の

    著しい歪み・障害(否定的感情への固着)を反映

    した感情状態として意味づけることができる。

    基準A2.興味・喜びの著しい減退

    a. 症状:ほとんど1日中,ほとんど毎日の,すべ

    て,またはほとんどすべての活動における興味,

    喜びの著しい減退ないし喪失を意味する。以前に

    は喜びであった活動(趣味,娯楽,性的関心など

    を含む)に何の喜びも感じなくなり,社会的ひき

    こもりを示すことも少なくない。抑うつ気分とと

    もに 基本的特徴の1つである。

    b. コンピタンス因子(構成成分)分類・記号:関

    心(興味・好奇心)の著しい減退(障害)╱社会

    的交流の貧困(歪み・障害)

    [Ie①☆/IIId~/☆]

    c. 分類の根拠:「興味・喜びの著しい減退ないし

    喪失」は,「対象認知」の「関心:興味・好奇心」

    の著しい減退(障害)を意味する。また,その結

    果,社会的ひきこもりが発現することは,「社会的

    交流」が貧困になったり,不適切(歪み)であっ

    たりすることを意味している。

    基準A3.著しい体重の減少・増加,または食欲

    の減退・増加

    a. 症状:食事療法をしていないのに,著しい体重

    減少,あるいは体重増加,またはほとんど毎日の,

    食欲の減退または増加が認められる。食欲は通常

    減退し,多数の者は無理して食べていると感じて

    いる。なかには,食欲が亢進し,ある種の食物を

    渇望することもある。食欲の変化が重篤な場合,

    著しい体重の増加や減少がある。

    b. コンピタンス因子(構成成分)分類・記号:体

    重の増減╱内臓諸器官の機能の著しい減退・亢進

    [IIa②☆/IIb①☆]

    c. 分類の根拠:「著しい体重の減少・増加」は,

    単なる体重の減少ではなく,過度の増減を意味し

    ている。また,「食欲の減退または増加」において

    も,通常の範囲を超えた増減であり,「内臓(胃腸)

    機能の不適切な減退と亢進(障害)」に当たる。

    基準A4.不眠または睡眠過多

    a. 症状:大うつ病エピソードで最もよくみられ

    る睡眠障害は不眠である。中期不眠(一晩中起き

    4

  • ていたり,再び眠りにつくのが困難),終期不眠

    (早朝覚醒し,再び眠れない)が典型的であり,初

    期不眠(入眠困難)も起こる。過眠(昼間の睡眠

    が増加したりする寝過ぎ)がみられることもあ

    る。

    b. コンピタンス因子(構成成分)分類・記号:そ

    の他の生理的機能(睡眠)の障害。

    [IIb④②☆]

    c. 分類の根拠:「睡眠障害(不眠・過眠)」は,生

    理的機能のうちの「その他の生理的機能の過度の

    減少(障害)」として分類される。「睡眠障害」に

    は脳波の異常,神経伝達系の調整異常,内分泌障

    害などの異常所見が認められるので,「障害」の記

    号を付した。

    基準A5.精神運動性の焦燥または制止

    a. 症状:精神運動の変化には,焦燥(例:静かに

    座っていられない,足踏みをする,手首を回す;

    または,皮膚や服,その他のものを引っぱったり

    こすったりする)や制止(例:会話,思考,体動

    が遅いこと;応答の前の時間が長くなる;声量,

    抑揚,会話量,内容の豊かさの減少や無口)が含

    まれる。これらの症状は,単に主観的な感じ方の

    表現ではなく,他人にもわかるほどの重症のもの

    でなければならない。

    b. コンピタンス因子(構成成分)分類・記号:身

    体的行動(動作,声)の障害╱言語(言語表現)

    の障害╱自己開示性の歪み・障害╱思考の減退

    (歪み・障害)╱自己制御(自律性)の困難(障害)

    [IIe④②☆/Ib②☆/IIIa~&☆/Ic~&☆/IVc②

    ☆]

    c. 分類の根拠:精神運動性の「焦燥」に含まれる

    行動(静かに座っていられない,足踏みをする,

    首を回す,皮膚や服などを引っ張る)は,すべて

    「身体的行動(表情,声,姿勢,動作)」の構成成分

    中の「動作」成分の障害とともに,それらの動作

    の「自己制御」(自律性)の困難(障害)による機

    能不全として捉えることができる。また,「制止」

    の例として挙げられている項目のうち,「会話が

    遅い,会話量,内容の豊かさの減少や無口」は,

    言語(言語表現)機能の減弱と自己開示性の貧困

    を意味し,「思考,応答の前の時間が長くなる」は,

    「思考」全体の機能の減弱(歪み・障害)を意味す

    る。また,「声量,抑揚」と「体動が遅い」は,「身

    体的行動」(声,動作)機能の減弱(障害)として

    置き換えることができる。

    基準A6.易疲労性,または気力の減退

    a. 症状:身体を使っていないのに持続的疲労感

    を訴える,最低限の仕事さえかなりの努力を要す

    る,物事をやりとげる能率が低下する。例えば,

    朝の洗面や着替えで疲労し,いつもの2倍の時間

    がかかると訴えるなど。

    b. コンピタンス因子(構成成分)分類・記号:意

    志・意欲の減退╱勤勉性(努力・持続性)の減退

    [IVa①~&☆/IVb①②~&☆]

    c. 分類の根拠:「易疲労性」(持続的疲労感)は,

    「意志・意欲」の減退および「努力・持続」の困難

    (勤勉性の機能不全)を意味する。「すぐ疲れてし

    まう」ということは,「たとえ,意志・意欲をっもっ

    て事に当たろうとしても,その意志・意欲を維持

    し,努力を持続することができない」ということ

    を意味している。その場合,「意志・意欲」(気力)

    自体も減退していることを物語っている。他の症

    状のように,「著しい」という表現が付されていな

    いので,「障害」とせずに,「歪み・障害[~&☆]」

    とした。

    基準A7.無価値感,または過剰・不適切な罪責

    a. 症状:無価値感や罪意識には,自己の価値の非

    現実的で否定的な評価や,罪へのとらわれ,過去

    の些細な失敗を繰り返し思い悩むことなどが含

    まれる。そのような人達はしばしば,関係のない,

    またはとるに足らない小さな日々の出来事を自

    分の欠陥の証拠であると誤解し,不運な出来事に

    対する過剰な責任を感じている。無価値感や罪責

    感には妄想的な部分もある。

    b. コンピタンス因子(構成成分)分類・記号:有

    能感の欠如╱不適切で過剰な責任感(障害)╱判

    断の著しい歪み(障害)╱対象認知(柔軟性)の

    著しい歪み(障害)

    [Vb①☆/IVc③☆/Ie☆/Ic①☆]

    c. 分類の根拠:「無価値感」(自己の価値の非現実

    的で否定的な評価)は,「有能感」(総合的自己評

    価)の著しい減退(障害)を意味している。また

    「罪責感」(罪へのとらわれ,過去の些細な失敗へ

    の固執)は,「不適切な責任感」および「否定的な

    側面への固執性・柔軟性の欠如」(対象認知の障

    害)の複合的な心理状態を意味する。このような

    傾向が「妄想的」である場合には, 不適切な確固

    とした信念(判断)」(思考の障害)として意味づ

    けられる。

    5

  • 基準A8.思考力や集中力の減退,または決断困

    a. 症状:多くの人が考えたり,集中したり,決断

    したりする能力が障害されていると述べる。注意

    が散漫になりやすく見えたり,記憶の障害を訴え

    たりすることもある。学問的,または職業的な仕

    事の遂行上,知的能力が要求される人は,たとえ

    少しの集中力の問題があってもしばしば十分に

    機能できない。高齢者では,記憶障害が主な訴え

    となり,認知症(痴呆症)の初期症状と間違われ

    ることもある。

    b. コンピタンス因子(構成成分)分類・記号:思

    考(判断・決定)力の減退(歪み・障害)╱注意

    (集中力)の(歪み・障害)╱記憶力の減退(歪み・

    障害)

    [Ic①②~&☆/Id①~&☆/If①②~&☆]

    c. 分類の根拠:「考えたり,決断する」能力 (思

    考または決断)の障害は,思考(判断,決定)の

    機能の減退(歪み・障害)を,また,集中の困難

    (注意散漫)は,注意(集中力)の減退(歪み・障

    害)を,記憶の障害は,記憶の減退(歪み・障害)

    として,コンピタンスの構成成分に直接的に置き

    換えることができる。これらの障害は,必ずしも

    重篤でなくても認められるので「歪み・障害」と

    して分類した。

    基準A9.死についての反復思考,反復的な自殺

    念慮,または自殺企図,自殺するための計画

    a. 症状:死についての考え,自殺念慮,自殺企図

    がしばしば存在することがある。その考えは,も

    し自分が死ねば他の人には好都合であろうとい

    う確信から,一過性ではあるが,自殺をしようと

    する考えの繰り返し,どうすれば自殺できるかと

    いう実際的な明確な計画までに及ぶ。その考えの

    頻度,強さ,死亡率はさまざまである。自殺の動

    機は,困難な障害と感じたことに直面して,断念

    したい欲求,またはその人が終わりがないと思い

    込んでいる,耐えがたいほどつらい感情状態を終

    わらせたいという強烈な願望を含む。

    b. コンピタンス因子(構成成分)分類・記号:情

    緒安定の3Aおよび自信(有能感・効力感)の喪

    失(歪み・障害)╱対象認知(柔軟性)の歪み・

    障害╱思考(誤論理・課題の発見と解決)の歪み・

    障害╱計画の歪み・障害

    [Vab~&☆/Ie②~&☆/Ic③④~&☆/Ih①②

    ~&☆]

    c. 分類の根拠:「希死念慮(死にたい)」および「自

    殺念慮(自殺したい)」は,思考レベルの自殺的行

    動(自殺にかかわる行動)であり,重篤なうつ状

    態でなくても発現する。これらの行動は,総合的

    自己評価(情緒安定の3Aの不充足,自信―有能

    感・効力感)の機能不全(減退・歪み)状態にお

    いて発現する。その背景には,対象認知(柔軟性)

    の歪み(二分思考,トンネルヴィジョン),思考(推

    理・推論)の歪み(誤論理)がある。「自殺企図」

    は,実際に死の可能性のある手段(低致命度~高

    致命度)によって,生命の断絶を企図する行為で

    あり,自殺企図者にとっては,他者の力を借りず

    に,自己の力でできる最後に残った唯一の「問題

    解決」(生命の断絶による問題解決)である(障

    害)。自殺企図の計画は,自殺の危険度によっても

    異なる(歪み・障害)。

    基準C.症状は,臨床的に著しい苦痛,または社

    会的,職業的,または他の重要な領域における

    機能の障害を引き起こしている。

    a. 症状:大うつ病エピソードに関連する障害の

    度合いはさまざまであるが,軽症の場合でも,臨

    床的に苦痛,または社会的,職業的,および他の

    重要な領域における機能の障害がなければなら

    ない。もし機能障害が重症であれば,その人は社

    会的,職業的に機能する能力を失うかもしれな

    い。極端な症例では,その人は最低限の自己管理

    (例:自分で食事をしたり衣服を着たりするこ

    と)や,最低限の個人衛生の維持さえできないで

    あろう。

    b. コンピタンス因子(構成成分)分類・記号:社

    会的交流の歪み・障害╱仕事遂行(職業活動)の

    困難(歪み・障害)╱自己管理(制御)の困難(歪

    み・障害)

    [IIId~&☆/IVd②~&☆/IVc②~&☆]

    c. 分類の根拠:社会的コンピタンスには,自己開

    示性,友好性,協調性,社会的交流,およびリー

    ダーシップの5構成成分があるが,社会的交流

    (ひきこもり)の困難(歪み・障害)を挙げた。職

    業的領域の機能障害については,仕事遂行(職業

    活動)の困難(歪み・障害)として分類した。ま

    た,自己管理の困難は,自己制御(管理)の構成

    成分中の自律性の歪み・障害とした。

    6

  • 2. 大うつ病エピソードのコンピタンス因子

    別分類:

    DSM-IV-TRにおける「大うつ病エピソード

    (major depressive episode)」の特徴に関するコ

    ンピタンス・リストに基づく上記の基礎的分析(分

    類)の結果を,コンピタンス因子(構成成分)表

    に転記すると,Table1のように整理することが

    できる。Table中のA1からA9は,大うつ病エピ

    ソードの基準Aの9項目の症状(特徴)であり,

    Cは基準Cである。なお,Table1においては,主

    分類と副分類を区別せず,関係するすべてのコン

    ピタンス因子と構成成分を記載した。

    第Ⅰ因子[認知的コンピタンス」

    A1.抑うつ気分

    [Vab~&☆/Ie②~&☆/IVa①~&☆]

    A2.興味,喜びの著しい減退

    [Ie①☆/IIId~/☆]

    A5.精神運動性の焦燥または制止

    [IIe④②☆/Ib②☆/IIIa~&☆/Ic~&☆/IVc

    ②☆]

    A7.無価値感または過剰か不適切な罪責感

    [Vb①☆/IVc③☆/Ie☆/Ic①☆]

    A8.思考力や集中力の減退,決断困難

    [Ic①②~&☆/Id①~&☆/If①②~&☆]

    A9.死についての反復思考,自殺念慮,自殺企

    図,自殺の計画

    [Vab~&☆/Ie②~&☆/Ic③④~&☆/Ih①

    ②~&☆]

    第Ⅱ因子「身体的コンピタンス」

    A3.著しい体重の減少・増加,または食欲の減

    退・増加[IIa②☆/IIb①☆]

    A4.不眠または睡眠過多

    [IIb④②☆]

    A5.精神運動性の焦燥または制止

    [IIe④②☆/Ib②☆/IIIa~&☆/Ic~&☆/IVc

    ②☆]

    第Ⅲ因子「社会的コンピタンス」

    A2.興味,喜びの著しい減退

    [Ie①☆/IIId~/☆]

    A5.精神運動性の焦燥または制止

    [IIe④②☆/Ib②☆/IIIa~&☆/Ic~&☆/IVc

    ②☆]

    C.社会的,職業的,または他の重要な領域にお

    ける機能(自己管理など)の障害

    [IIId~&☆/IVd②~&☆/IVc②~&☆]

    第Ⅳ因子「生活コンピタンス」

    A1.抑うつ気分

    [Vab~&☆/Ie②~&☆/IVa①~&☆]

    A5.精神運動性の焦燥または制止

    [IIe④②☆/Ib②☆/IIIa~&☆/Ic~&☆/IVc

    ②☆]

    A6.易疲労性または気力の減退

    [IVa①~&☆/IVb①~&☆]

    A7.無価値感または過剰か不適切な罪責感

    [Vb①☆/IVc③☆/Ie☆/Ic①☆]

    C.社会的,職業的,または他の重要な領域にお

    ける機能(自己管理など)の障害

    [IIId~&☆/IVd②~&☆/IVc②~&☆]

    第Ⅴ因子「総合的自己評価コンピタンス」

    A1.抑うつ気分

    [Vab~&☆/Ie②~&☆/IVa①~&☆]

    A7.無価値感または過剰か不適切な罪責感

    [Vb①☆/IVc③☆/Ie☆/Ic①☆]

    A9.死についての反復思考,自殺念慮,自殺企

    図,自殺の計画

    [Vab~&☆/Ie②~&☆/Ic③④~&☆/Ih①

    ②~&☆]

    考 察

    1. 大うつ病エピソードのコンピタンス・リスト

    による分類の基準について

    コンピタンス心理学においては,心理学を「有

    機体(人)のもつ5つのコンピタンス(24構成成

    分からなる)の相互作用を究明する学問領域であ

    る」と定義づけている(勝俣,1996)。ここで用い

    られている「コンピタンス(competence)』とは,

    「環境と効果的に相互作用する有機体(人)の能力

    (ability)」である(White, R., 1959)。このよう

    な視点からみると,人の不適応行動ないし問題行

    動(種々な症状を含む)は「コンピタンスの機能

    不全(効果的に機能していないこと)によって発

    現する」と定義づけられる。また,種々な「コン

    ピタンスの機能不全」は,主として4つの原因(①

    コンピタンスの未発達・未学習,②コンピタンス

    の萎縮,③コンピタンスの歪み,④コンピタンス

    の障害)によって発現すると仮定されている。

    ①「コンピタンスの未発達・未学習による機能

    7

  • 8

    Table 1. 大うつ病エピソードのコンピタンス分類(5因子24構成分)表

    因子 構成成分 成 分 備 考

    認知的

    コンピ

    タンス

    a.感覚・知覚 ①感覚(五感),②知覚機能 A1.抑うつ気分

    [Vab~&☆/Ie②~&☆/IVa①~&☆]

    A2.興味,喜びの著しい減退

    [Ie①☆/IIId~/☆]

    A5.精神運動性の焦燥または制止[IIe④②☆/Ib②☆/

    IIIa&☆/Ic☆&~/IVc②☆]

    A7.無価値感または過剰か不適切な罪責感

    [Vb①☆/IVc③☆/Ic①③☆]

    A8.思考力や集中力の減退,決断困難

    [Ic①②~&☆/Id①~&☆/If①②~&☆]

    A9.死についての反復思考,自殺念慮,自殺企図,自殺

    計画[Vab~&☆/Ie②~&☆/Ic③④~&☆/Ih①

    ②~&☆]

    b.言語 ①言語理解:文字,ことば

    ②言語表現:文字,ことば

    c.思考 ①判断,②決定,③推論(推理),

    ④課題の発見と解決,⑤想像性,

    ⑥創造性

    d.注意 ①注意集中力

    e.対象認知 ①関心(興味・好奇心),②柔軟性

    f.記憶 ①短期記憶,②長期記憶

    g.学習 ①学習能力,②学業成績

    h.計画 ①計画能力,②構成力

    身体的

    コンピ

    タンス

    a.身体的形態 ①身長,②体重,③胸囲,④顔貌 A3.著しい体重の減少・増加,または食欲の減退・増加

    [IIa②☆/IIb①☆]

    A4.不眠または睡眠過多[IIb④②☆]

    A5.精神運動性の焦燥または制止

    [IIe④②☆/Ib②☆/IIIa&☆/Ic☆&~/IVc②☆]

    b.生理的機能 ①内臓諸機能,②内分泌,③性的機

    能,④その他の生理的機能(自律神

    経等)

    c.運動能力 ①総合的運動能力,②手腕運動能力

    d.身体的健康 ①既往症,②(一般的)健康状態

    e.身体的行動 ①表情,②声,③姿勢,④動作

    社会的

    コンピ

    タンス

    a.自己開示性 ①家族,②学校,③職場,④地域 A2.興味,喜びの著しい減退

    [Ie①☆/IIId~/☆]

    A5.精神運動性の焦燥または制止

    [IIe④②☆/Ib②☆/IIIa&☆/Ic☆&~/IVc②☆]

    C.社会的,職業的,または他の重要な領域における機能

    (自己管理など)の障害

    [IIId~&☆/IVd②~&☆/IVc②~&☆]

    b.友好性 ①家族,②学校,③職場,④地域

    c.協調性 ①家族,②学校,③職場,④地域

    d.社会的交流 ①家族,②学校,③職場,④地域

    e.リーダー

    シップ

    ①家族,②学校,③職場,④地域

    生活

    (的)

    コンピ

    ドタン

    a.意志・意欲 ①意志・意欲,②主体性,③挑戦性,

    ④達成動機

    A1.抑うつ気分

    [Vab~&☆/Ie②~&☆/IVa①~&☆]

    A5.精神運動性の焦燥または制止

    [IIe④②☆/Ib②☆/IIIa&☆/Ic☆&~/IVc②☆]

    A6.易疲労性または気力の減退[IVa①~&☆/IVb①

    ②~&☆]

    A7.無価値感または過剰か不適切な罪責感

    [Vb①☆/IVc③☆/Ic①③☆]

    C.社会的,職業的,または他の重要な領域における機能

    (自己管理など)の障害

    [IIId~&☆/IVd②~&☆/IVc②~&☆]

    b.勤勉 ①努力,②持続性

    c.自己制御

    (管理)

    ①時間管理・未来願望,②自律性,

    ③責任(感),④忍耐,⑤経済管理

    d.仕事遂行 ①学業活動(登校・学業への取り組

    み)

    ②職業活動(出勤・職務遂行・労働)

    総合的

    自己評

    価コン

    ピタン

    a.情緒安定

    (3A)

    ①愛情,②受容,③承認欲求の充足 A1.抑うつ気分

    [Vab~&☆/Ie②~&☆/IVa①~&☆]

    A7.無価値感または過剰か不適切な罪責感[Vb①☆/

    IVc③☆/Ic①③☆]

    A9.死についての反復思考,自殺念慮,自殺企図,自殺

    計画[Vab~&☆/Ie②~&☆/Ic③④~&☆/Ih①

    ②~&☆]

    b.自信 ①自尊心(有能感),②効力感

  • 不全」は,人生の発達段階(過程)において普通

    (平均的)であれば当然習得されているべきコンピ

    タンスが習得されていない(未発達・未学習)こ

    とによって発現したと考えられるもの(症状,問

    題ないし問題行動)を指す。②「コンピタンスの

    萎縮による機能不全」は,何らかの脅威ないしス

    トレス(外的要因)の負荷によって,すでに保持

    しているコンピタンスが一時的ないしやや持続的

    に,有効に機能できずに萎縮することによって発

    現したと考えられるもの(症状,問題ないし問題

    行動)を意味する。③「コンピタンスの歪みによ

    る機能不全」は,一般的・社会的基準に照らして,

    不適切な機能不全(減退や逸脱)が認められるが,

    了解不能な,重篤な異常や障害とは言えない場合

    の機能不全として用いられている。また,④「コ

    ンピタンスの障害による機能不全(disorder)」は,

    原則として,身体障害,知的障害および精神障害

    として分類されている障害をベースにした症状

    (問題,問題行動)という意味で用いている。しか

    し,「障害」の概念は,必ずしも明確ではなく,極

    めて多様である。国語辞典には,「さわり,さまた

    げ,じゃま」「身体器官に何らかのさわりがあって

    機能を果たさないこと」などの定義がなされてい

    る(広辞苑)。また「国際生活機能分類―国際障害

    分類改訂版」(ICF,2001)においても,機能障害

    (著しい変異や喪失などの心身機能または身体構

    造上の問題)の判定基準(心身機能・構造につい

    て共通)として,(a)喪失または欠損,(b)減少,

    (c)追加または過剰,(d)変異,の4つを挙げてお

    り,一義的ではない。

    そこで,本論文では,「大うつ病エピソード」の

    症状に関する説明のなかで用いられている「~の

    著しい喪失」は「a.喪失または欠損」,「~の著し

    い減退」は「b.減少」,「~の著しい増加ないし過

    多」は「c.追加または過剰」に,「~の著しく不

    適切な」や「種々な検査所見において異常所見が

    認められる場合」は「d.変異」に相当するものと

    看做して,「障害」として分類することとした。ま

    た,歪みと障害と明確に区別できない場合には,

    「歪み・障害」として分類した。

    大うつ病エピソード」の諸症状を「コンピタン

    スの機能不全」(未発達・未学習,萎縮,歪み,障

    害による)として分類するに当たって,最も大き

    な困難は,歪みと障害の区別であった。ベック

    (Beck,A.T.)によると,うつ病者は,幼児期よ

    り否定的見かた(歪んだスキーマ)をもっており,

    それがストレスによって発動され,それが具体的

    には否定的自動思考(negative automatic

    thoughts)となって日常生活に機能し,うつ病が

    引き起こされるという(町沢静夫,1992)。ここで

    は,否定的自動思考を「認知の歪み」(情報処理プ

    ロセスの歪み」としてとらえている。このように

    考えると,「歪み」と「障害」との区別は,かなり

    難しいものとなる。本論文では,たとえば「二分

    思考」などの認知の歪みは,「著しい~」の語が付

    されていない限り,「障害」とせずに,「歪み・障

    害」として分類した。

    この点については,今後さらに検討を必要とす

    るであろう。

    2. コンピタンス因子(構成成分)別にみた大う

    つ病エピソード

    本研究では,「大うつ病エピソード」の症状とし

    て,基準A(A1―A9)の9項目の特徴と基準

    Cの計10項目について,コンピタンス臨床心理学

    的視点から分析した。その結果,分析の対象とし

    てとりあげた10項目の症状(特徴)は,コンピタ

    ンスの5因子すべての機能不全(歪みないし障害)

    によるものであることが明らかにされた。このこ

    とは,すでに松岡・勝俣(2003)が,高校生の抑

    うつ傾向とコンピタンスの関係において見い出し

    た結果と共通する結果と言える。特に,24項目の

    コンピタンス構成成分中,17項目(寄与率70.8%)

    が関与していることが明らかにされた(Table

    1)。

    (1) 第Ⅰ因子の「認知的コンピタンス」では,

    8項目の構成成分中6構成成分(b.言語,c.思

    考,d.注意,e.対象認知,f.記憶)が「大うつ

    病エピソード」の6つの基準と関わりがあった。

    A1.抑うつ気分

    [Vab~&☆/Ie②~&☆/IVa①~&☆]

    A2.興味,喜びの著しい減退

    [Ie①☆/IIId~/☆]

    A5.精神運動性の焦燥または制止[IIe④②☆/Ib

    ②☆/IIIa&☆/Ic☆&~/IVc②☆]

    A7.無価値感または過剰か不適切な罪責感

    [Vb①☆/IVc③☆/Ic①③☆]

    A8.思考力や集中力の減退,決断困難

    9

  • [Ic①②~&☆/Id①~&☆/If①②~&☆]

    A9.死についての反復思考,自殺念慮,自殺企図,

    自殺の計画[Vab~&☆/Ie②~&☆/Ic③④~&☆/Ih

    ①②~&☆]

    該当する6つの基準のうち,主分類がこの因子

    に該当する基準は,A2「興味・喜びの著しい減

    退」(対象認知―興味・関心[Ie①☆])とA8「思

    考力や集中力の減退,決断困難」(思考―判断,決

    定╱注意╱決定[Ic①②~&☆/Id①~&If①②

    ~&☆])の2つであった。このことから見ると,

    「思考(判断,決定)」,「注意(注意集中)」および

    「対象認知(関心―興味・好奇心)」の構成成分が

    特に重要な成分であることが認められたといえ

    る。

    (2) 第Ⅱ因子の身体的コンピタンスでは,5

    項目の構成成分中3構成成分(a.身体的形態,b.

    生理的機能,e.身体的行動)が,3つの基準と関

    わりがあった。

    A3.著しい体重の減少・増加,または食欲の減退・

    増加

    [IIa②☆/IIb①☆]

    A4.不眠または睡眠過多 [IIb④②☆]

    A5.精神運動性の焦燥または制止

    [IIe④②☆/Ib②☆/IIIa&☆/Ic☆&~/IVc②

    ☆]

    該当する3つの基準のうち,主分類がこの因子

    に該当する基準は,A3(著しい体重の減少・増

    加,食欲の減退・増加),A4(不眠または睡眠過

    多)とA5(精神運動性の焦燥または制止)のす

    べてであった。このことから見ると,「身体的形態

    (体重)」,「生理的機能(内臓諸機能╱内分泌╱そ

    の他の生理的機能)および「身体的行動(声,動

    作)」の構成成分が特に重要な成分であることが認

    められた。

    (3) 第Ⅲ因子の「社会的ンピタンス」では,

    5項目の構成成分中2構成成分(a.自己開示性,

    d.社会的交流)が「大うつ病エピソード」の3つ

    の基準と関わりがあった。

    A2.興味・喜びの著しい減退

    [Ie①☆/IIId~/☆]

    A5.精神運動性の焦燥または制止

    [IIe④②☆/Ib②☆/IIIa~&☆/Ic☆&~/IVc②

    ☆]

    C.社会的,職業的,または他の重要な領域におけ

    る機能(自己管理など)の障害

    [IIId~&☆/IVd②~&☆/IVc②~&☆]

    該当する3つの基準のうち,主分類がこの因子

    に該当する基準は,C「社会的,職業的,または

    他の重要な領域における機能の障害[IIId~&

    ☆]」の1つであり,「社会的交流」の減退(ひき

    こもり)であった。

    (4) 第Ⅳ因子の「生活コンピタンス」では,

    4項目の構成成分中4構成成分すべて(a.意志・

    意欲,b.勤勉,c.自己制御・管理,d.仕事遂行)

    が,5つの基準と関わりがあった。

    A1.抑うつ気分

    [Vab~&☆/Ie②~&☆/IVa①~&☆]

    A5.精神運動性の焦燥または制止

    [IIe④②☆/Ib②☆/IIIa&☆/Ic☆&~/IVc②

    ☆]

    A6.易疲労性または気力の減退

    [IVa①~&☆/IVb①②~&☆]

    A7.無価値感または過剰か不適切な罪責感

    [Vb①☆/IVc③☆/Ic①③☆]

    C.社会的,職業的,または他の重要な領域におけ

    る機能(自己管理など)の障害

    [IIId~&☆/IVd②~&☆/IVc②~&☆]

    該当する5つの基準のうち,主分類がこの因子

    に該当する基準は,A6「易疲労性または気力の

    減退[IVa①~&☆/IVb①~/☆]」の1つであり,

    「意志・意欲」と「勤勉(努力・持続)」の構成成

    分であった。

    (5) 第Ⅴ因子の「コンピタンスでは,2項目

    の構成成分中2構成成分すべてが,3つの基準と

    関わりがあった。

    A1.抑うつ気分

    [Vab~&☆/Ie②~&☆/IVa①~&☆]

    A7.無価値感または過剰か不適切な罪責感

    [Vb①☆/IVc③☆/Ic①③☆]

    A9.死についての反復思考,自殺念慮,自殺企図,

    自殺の計画[Vab~&☆/Ie②~&☆/Ic③④~&

    ☆/Ih①②~&☆]

    10

  • 該当する3つの基準のうち,主分類がこの因子

    に該当する基準は,A1「抑うつ気分」,A7「無

    価値観または過剰か不適切な罪責感」およびA9

    「希死念慮,自殺念慮,自殺企図,自殺企図計画」

    の3つであり,「情緒安定の3A」「自信(有能感・

    効力感)」すべてが含まれていたことが明らかにさ

    れた。

    以上の結果をまとめると,①「認知的コンピタ

    ンス」においては,思考(判断,決定),対象認知,

    注意,言語(ことばの表現)が,②「身体的コン

    ピタンス」においては,身体的形態(体重の増減),

    生理的機能(内臓諸機能,内分泌,その他の生理

    的機能),身体的行動(声,動作)が,③「社会的

    コンピタンス」においては,社会的交流(ひきこ

    もり),自己開示性(無口)が,④「生活コンピタ

    ンス」においては,意志・意欲,勤勉(努力・持

    続),自己制御・管理(責任),仕事遂行(職業活

    動)のすべての構成成分において,⑤「総合的自

    己評価コンピタンス」においても,情緒安定の3

    A(愛情,受容,承認)および自信(有能感・効

    力感)が,「大うつ病エピソード」の症状(基準)

    にかかわりの強いコンピタンスの構成成分である

    ことが指摘される。

    これらの結果は,これまでに行った「統合失調

    症」の症状分析の結果と比べると,同じ「障害」

    の分類においても,大きな質の相違があることを

    指摘することができる。しかし,うつ病や統合失

    調症のような精神障害(疾患)の症状を分類する

    ためには,「障害」や「歪み」という用語での分類

    だけでは,それぞれの疾病に特有な微妙なニュア

    ンスの相違を表現するのには困難が少なくないこ

    とに気づく。

    また,「大うつ病エピソード」に記述されている

    症状の多くには,「著しい~」「過剰な~」とか「不

    適切な~」という形容詞が用いられているが,そ

    れらの形容詞を削除したとしたら,多くの症状は,

    一過性には,うつ病者でなくても不調なときには

    一般の人びとでも体験する症状も少なくない。そ

    れに対して,統合失調症の諸症状(陽性症状や陰

    性症状)の多くは,一般の人びとには一過性であっ

    ても体験することは少ないか稀であると言える。

    このような意味で,大うつ病の諸症状は,一般の

    人びととの連続性が認められる。したがって,症

    状を「障害」として分類することに躊躇せざるを

    得ない症状もある。本論文では,そのような場合

    には,「歪み・障害」として分類したが,この点に

    ついては,今後の検討を必要とする課題として残

    された。

    3. DSM-IV-TRの「大うつ病エピソード」に

    含まれていないコンピタンス

    前述したように,「大うつ病エピソード」の症状

    (特徴,基準)においては,5因子のすべての因子

    に含まれる17項目の構成成分が複合的にかか

    わっていることが明らかにされた。

    しかし,第Ⅰ因子の「認知的コンピタンス」に

    おいては2つの構成成分(a.感覚・知覚,g.学

    習)は含まれていなかった。第Ⅱ因子の「身体的

    コンピタンス」においては2つの構成成分(c.運

    動能力,d.身体的健康)は含まれていなかった。

    第Ⅲ因子の「社会的コンピタンス」においては3

    つの構成成分(b.友好性,c.協調性,e.リー

    ダーシップ)は含まれていなかった。したがって,

    計7つの構成成分がかかわっていなかったことが

    明らかにされた。

    しかしながら,「大うつ病エピソード」の症状(特

    徴,基準)には明記されていなかった上記の7つ

    のコンピタンスの構成成分を一つひとつチェック

    してみると,診断基準としては重要でないとして

    も,含まれていなかった7項目のコンピタンスの

    構成成分も,「大うつ病エピソード」に指摘されて

    いる症状(特徴,基準)に関与していることが推

    測される。

    大うつ病エピソード」の基準として挙げられて

    いる抑うつ気分(A1),興味・喜びの著しい減退

    (A2)や思考力・集中力の減退・決断の困難(A

    8)な状態にあっては,感覚・知覚機能[Ia]も学

    習機能[Ig]も減退するであろう。著しい体重の減

    少・増加または食欲の減退・増加(A3)および

    不眠または睡眠過多(A4)は,運動能力[IIc]

    の減退や身体的健康[IId]の低下をもたらすであ

    ろう。抑うつ気分の状態にあっては,自己開示性

    も貧困になり社会的交流も乏しくなるために,他

    者に対する友好性[IIIb]も減退し,他者に対する

    不信感や敵意も生じ,非協調的になることもある

    であろう。また,気力の低下,疲労感,倦怠感(A

    6)および無価値感・罪責感(A7)などの状態

    にあっては,リーダーシップ[IIIe]を発揮するこ

    とは困難となるであろう。

    11

  • このようにみると,「大うつ病エピソード」に挙

    げられている症状(特徴,基準)は,コンピタン

    ス・リストのすべての因子(5因子)と構成成分

    (24構成成分)の機能不全(特に,歪み)として置

    き換えることができる。

    大うつ病エピソード」の基準Aにおいては,「A

    1~A9の症状のうち5つ(またはそれ以上)が

    同じ2週間の間に存在し,病前の機能からの変化

    を起こしている。これらの症状のうち少なくとも

    1つは,(1)抑うつ気分,あるいは(2)興味また

    は喜びの喪失である」と指摘されている。

    うつ病と診断される人びと(患者)が「大うつ

    病エピソード」の診断基準のすべてを含むとは言

    えないとしても,すべてのコンピタンス因子(認

    知的,身体的,社会的,生活,総合的自己評価コ

    ンピタンス)にに及ぶ多くの構成成分(24構成成

    分)の機能不全(歪み・障害,障害)を伴ってい

    ることが確認されたといえる。

    うつ病者において自殺(希死)念慮や自殺企図

    が多発しやすいのは,コンピタンスの機能不全の

    範囲が広く,また重篤になりやすく,耐え難い苦

    痛を解決するための最後の,唯一の手段として,

    「断絶念慮」に基づく自らの生命の断絶行為が選択

    されるからと考えられる。

    今後の研究課題

    (1) 種々な精神疾患における症状を,「コンピ

    タンスの機能不全」によって発現した症状である

    とするコンピタンス(臨床)心理学的視点から分

    析し,比較検討し,種々な精神疾患の特徴を同一

    の視点から明らかにすること。

    (2) 種々な精神疾患について,コンピタンス

    (臨床)心理学的視点から分析(検討)することに

    よって,それらの精神疾患の発現(発症)メカニ

    ズムについて明らかにすることの可能性について

    検討すること。

    (3) コンピタンス(臨床)心理学的視点が,

    種々な精神疾患の心理学的査定および援助(心理

    療法など)のあり方を検討するための有効な知見

    となり得る可能性について検討すること。

    (4) DSM-IV-TRとともに,世界的に活用さ

    れている ICD-10の分類基準との比較を行うこ

    と。

    (5) 筆者等が行っているコンピタンス(臨床)

    心理学的視点からの精神疾患の諸症状に関する一

    連の研究は,あくまでもDSM-IV-TRなどの診断

    基準によって分析(分類)したものであって,精

    神医学の豊な臨床経験を踏まえたものではない。

    したがって,今後,精神医学の臨床経験の豊な専

    門家の視点からの批判を得て,改善して行く必要

    がある。

    引用文献

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    と問題行動:熊大式コンピタンス尺度の開発と有

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    心理臨床大事典 培風館

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    松岡奈緒・勝俣暎史(2003).高校生の抑うつとコンピ

    タンス 日本教育心理学会第45回総会発表論文

    集,313.

    付 記

    本研究は,日本心理学会第69回大会における報告

    をもとに加筆したものである。

    12