2 章「連続時間確率過程」20130021/ecmr/chap2-2013.pdf2.2 brown 運動...

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2 章「連 続 時 間 確 率 過 程」 を扱う. において する されるが, において ,さ らに, えるこ きる.こ が, 大き 違い あり,多 たらすこ る. 2.1 空間 L 2 と確率過程 され,2 モーメントを つよう 体から L 2 する.こ き,L 2 するよう {X n } して ように する. ・平均 2 乗収束の定義 L 2 する確 {X n } n →∞ き,E[(X n X ) 2 ] 0 X 2 する いい,l.i.m. n→∞ X n = X す. X ,確 1 一意 ある( 1).また,確 2 する うか 完備性定理 (Lo` eve (1977, p. 163)) きる が多い. 定理 2.1L 2 空間の完備性定理) {X n } 2 するため m, n が,m →∞ かつ n →∞ き,E[(X m X n ) 2 ] 0 るこ ある.こ L 2 ある. P (X n = n)=1/n, P (X n = 0) = 1 1/n るよう {X n } が,いか 2 いこ すために ある. お,こ X =0 確率収束する.す わち, ε に対して, lim n→∞ P (|X n X | )=0 るこ がわかる( 2). に, [a, b] よい) され,L 2 する えよう.こ 2 して 2.1 きるが, モーメント した ておく. 定理 2.2 L 2 する確 {X n (t)} が各 t [a, b] において 2 するため m, n が, m →∞ かつ n →∞ き, E[(X m (t) X n (t)) 2 ] 0 るこ あり,それ E(X m (t)X n (t)) するこ ある. 2 っている. ,そ ある( 3). 定理 2.3 L 2 する 2 {X n (t)} {Y n (t)} があって,各 t [a, b] 対して,それぞれが X (t) Y (t) 2 する き, つ. lim n→∞ E(αX n (t)+ βY n (t)) = αE(X (t)) + β E(Y (t)) (1) lim n→∞ E(X n (t)Y n (t)) = E(X (t)Y (t)) (2) ここ α β ある. 1

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Page 1: 2 章「連続時間確率過程」20130021/ecmr/chap2-2013.pdf2.2 Brown 運動 本節では,連続時間確率過程として最も頻繁に使われる標準Brown 運動と,それから派

第 2 章「連 続 時 間 確 率 過 程」

本章では,連続時間確率過程を扱う.前章で述べた離散時間確率過程においては,時間に関する階差(差分)系列や集計(和分)系列が定義されるが,連続時間確率過程においては,さらに,微分や積分の概念を考えることができる.この点が,離散時間確率過程との大きな違いであり,多様な分析方法をもたらすことになる.

2.1 空間 L2 と確率過程同一の確率空間で定義され,2 次のモーメントをもつような確率変数全体からなる空間を

L2 とする.このとき,L2 に属するような確率変数の列 {Xn} の収束に関しては,次のように定義する.

・平均 2 乗収束の定義L2 に属する確率変数列 {Xn} は,n → ∞ のとき,E[(Xn −X)2] → 0 ならば,X に平均 2

乗収束するといい,l.i.m.n→∞ Xn = X と表す.

収束先の X は,確率 1 で一意的である(問題 1).また,確率変数列が平均 2 乗収束するかどうかは,次の完備性定理 (Loeve (1977, p. 163)) で判定できる場合が多い.

定理 2.1(L2 空間の完備性定理)確率変数列 {Xn} が平均 2 乗収束するための必要十分条件は,任意の自然数 m, n が,m → ∞ かつ n → ∞ のとき,E[(Xm − Xn)2] → 0 となることである.この意味で,空間 L2 は完備である.

完備性定理は,例えば,P (Xn =√

n) = 1/n, P (Xn = 0) = 1−1/nとなるような独立な確率変数列 {Xn}が,いかなる所にも平均 2乗収束しないことを示すために有用である.なお,この列は X = 0に確率収束する.すなわち,任意の正数 εに対して,limn→∞ P (|Xn − X| > ε) = 0となることがわかる(問題 2).次に,区間 [a, b](無限区間でもよい)で定義され,L2 に属する連続時間確率過程の列を考

えよう.この場合の平均 2 乗収束に関しても,定理 2.1 が適用できるが,次の定理では,同値なモーメント条件を追加した形で述べておく.

定理 2.2 L2に属する確率過程の列 {Xn(t)}が各点 t ∈ [a, b]において平均 2乗収束するための必要十分条件は,任意の自然数m, nが,m → ∞かつ n → ∞のとき,E[(Xm(t)−Xn(t))2] → 0となることであり,それは,E(Xm(t)Xn(t)) が有限な関数に収束することと同値である.

平均 2 乗収束は,非常に便利な性質をもっている.次の定理は,その利点を述べたものである(問題 3).

定理 2.3  L2 に属する 2 つの確率過程の列 {Xn(t)} と {Yn(t)} があって,各点 t ∈ [a, b] に対して,それぞれが X(t) と Y (t) に平均 2 乗収束するとき,次のことが成り立つ.

limn→∞E(αXn(t) + βYn(t)) = αE(X(t)) + βE(Y (t)) (1)

limn→∞E(Xn(t)Yn(t)) = E(X(t)Y (t)) (2)

ここで,α と β は,任意の定数である.

1

Page 2: 2 章「連続時間確率過程」20130021/ecmr/chap2-2013.pdf2.2 Brown 運動 本節では,連続時間確率過程として最も頻繁に使われる標準Brown 運動と,それから派

この定理は,平均 2 乗収束の演算 l.i.m. と期待値の演算 E は可換であることを意味している.すなわち,

E(l.i.m.n→∞ Xn(t)

)= lim

n→∞E(Xn(t)) = E(X(t))

であり,L2 の世界では,この関係が 2 次のモーメントの場合にまで成り立つ.平均 2 乗収束の考え方は,すでに,第 1 章で導入した線形過程に対しても暗黙のうちに使

われている.実際,線形過程

yt =∞∑

j=0

αjεt−j ,∞∑

j=1

α2j < ∞ , {εt} ∼ i.i.d(0, σ2)

は,有限次の移動平均過程 {ytn} の平均 2 乗極限として,次のように定義される.

yt = l.i.m.n→∞ ytn , ytn =

n∑j=0

αjεt−j

ここで,ytn が yt に平均 2 乗収束することは,定理 2.1 の完備性定理と係数列の 2 乗和の収束によって保証される.そして,定理 2.3 を使えば,次のような演算が可能となる.

E(yt) = E(l.i.m.n→∞ ytn) = lim

n→∞E(ytn) = 0

E(yt yt+h) = E(l.i.m.n→∞ (ytn yt+h,n)

)= lim

n→∞ E (ytn yt+h,n) = σ2∞∑

j=0

αj αj+h

以上の議論は,ベクトル値の確率過程にも適用できる.すなわち,各要素が L2 に属するような q 次元確率過程 {Xn(t)} に対して,limn→∞ E [(Xn(t) − X(t))′(Xn(t) − X(t))] = 0 が各点 t ∈ [a, b] で成り立つならば,{Xn(t)} は,{X(t)} に平均 2 乗収束するという.このとき,次の定理が成り立つ.

定理 2.4 L2 に属する 2 つの q 次元確率確率過程 {Xn(t)} と {Y n(t)} のそれぞれが {X(t)}と {Y (t)} に平均 2 乗収束するならば,次のことが成り立つ.

limn→∞E(αXn(t) + βY n(t)) = αE(X(t)) + βE(Y (t))

limn→∞E(X ′

n(t)Y n(t)) = E(X ′(t)Y (t))

演算 l.i.m. は,さらに,正規性とも可換である.今,確率過程 {Xn(t)} は正規過程であるとする.すなわち,すべての n,任意の自然数 k,[a, b] 上の任意の点 t1 < t2 < · · · < tk に対して,Xn(t1), Xn(t2), · · · , Xn(tk) が 多変量正規分布に従うものとする.このとき,{Xn(t)} が{X(t)} に平均 2 乗収束するならば,{X(t)} も正規過程となる.実際,

Xn = (Xn(t1), · · · , Xn(tk))′, X = (X(t1), · · · , X(tk))

′, θ = (θ1, · · · , θk)′

とおくと,定理 2.4 から,

φn(θ) = E(eiθ′Xn) = exp{iθ′E(Xn) − 1

2θ′V(Xn)θ

}

→ φ(θ) = exp{iθ′E(X) − 1

2θ′V(X)θ

}

2

Page 3: 2 章「連続時間確率過程」20130021/ecmr/chap2-2013.pdf2.2 Brown 運動 本節では,連続時間確率過程として最も頻繁に使われる標準Brown 運動と,それから派

を得る.ここで,V(X) は X の共分散行列を表す.したがって,φ(θ) は,平均 E(X),共分散行列 V(X) の多変量正規分布の特性関数であることから,{X(t)} も正規過程となる.正規性は,演算 l.i.m. 以外にも,後述する確率過程の微分や積分演算においても,可換であ

ることが示されるであろう.次に,確率過程の連続性について述べよう.

・平均 2 乗連続の定義L2 に属する q 次元確率過程 {X(t)} が時点 t ∈ [a, b] において,

l.i.m.h→0

(X(t + h) − X(t)) = limh→0

E [(X(t + h) − X(t))′(X(t + h) − X(t))] = 0

をみたすならば,{X(t)} は,時点 t で平均 2 乗連続であるという.

この定義は次のように理解することもできる.今,{hn} を n → ∞ のときに 0 に収束するような任意の数列,ただし,t + hn ∈ [a, b] として,Xn(t) = X(t + hn) とするとき,l.i.m.n→∞ Xn(t) = X(t) が成り立つならば,{X(t)} は時点 t において平均 2 乗連続である.一般に,{X(t)} が時点 t で平均 2 乗連続ということは,E(X ′(s)X(t)) が (t, t) で連続で

あることと同値である(問題 4).さらに,区間 [a, b] 上での平均 2 乗連続性は,E(X ′(s)X(t))が,対角線上(すべての (t, t) ∈ [a, b] × [a, b])で連続であることと同値である.対角線上で連続ならば,必ず,全平面上([a, b] × [a, b])で連続となる(問題 5).次に,確率過程の微分可能性について述べよう.

・ 平均 2 乗微分可能の定義L2 に属する q 次元確率過程 {X(t)} に対して,平均 2 乗極限

l.i.m.h→0

X(t + h) − X(t)

h= lim

h→0

E [(X(t + h) − X(t))′(X(t + h) − X(t))]

h2

が存在するならば,{X(t)} は,時点 t で平均 2 乗微分可能であるといい,この極限を X(t)で表す.

明らかに,平均 2 乗微分可能ならば平均 2 乗連続である.また,連続の定義と同様に,微分可能の定義は次のように理解することもできる.すなわち,{hn} を n → ∞ のときに 0 に収束するような任意の数列,ただし,t + hn ∈ [a, b] として,Xn(t) = (X(t + hn) − X(t))/hn

とするとき,l.i.m.n→∞ Xn(t) = X(t) が成り立つならば,{X(t)} は平均 2 乗微分可能である.平均 2 乗微分可能な確率過程 {X(t)} に対しては,次のことが成り立つ(問題 6).

E(X(t)) =d

dtE(X(t)), E(X

′(s)X(t)) =

∂2

∂s∂tE(X ′(s)X(t)) (3)

さらに,確率過程 {X(t)} が平均 2 乗微分可能な正規過程ならば,その微分過程 {X(t)} も正規過程である.実際,Xn(t) = (X(t+hn)−X(t))/hn は正規過程であり,l.i.m. Xn(t) = X(t)の左辺において,正規性と l.i.m. が交換であることより,X(t) も正規過程になることがわかる.

2.2 Brown 運動本節では,連続時間確率過程として最も頻繁に使われる標準 Brown 運動と,それから派

生するさまざまな確率過程について述べる.

・標準ブラウン運動の定義 区間 [0, M ] (M > 0) 上で定義され,次の 3 つの条件をみたす確率過程 {W (t)} を標準 Brown 運動(standard Brownian motion)という.

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i) P (W (0) = 0) = 1

ii) 任意の自然数 n と時点 0 ≤ t0 < t1 < · · · < tn ≤ M に対して,増分 W (t1) −W (t0), W (t2) − W (t1), · · · , W (tn) − W (tn−1) は互いに独立である.

iii) 各時点 t に対して,W (t) は,平均 0, 分散 t の正規分布に従う.

定義の ii) と iii) から,s < t のとき,

E(W (s)W (t)) = E(W (s)(W (t) − W (s) + W (s)))

= E[E[W (s)(W (t) − W (s)) + W 2(s)

∣∣∣W (s)]]

= E(W (s))E(W (t) − W (s)) + E(W 2(s))

= s = min(s, t)

を得る.したがって,s < t のとき,

E[(W (t) − W (s))2] = E(W 2(s)) + E(W 2(t)) − 2E(W (s)W (t))

= s + t − 2s = t − s

となる.このことから,増分 W (t)−W (s) (s < t) は,平均 0, 分散 t− s の正規分布に従うことがわかる.この場合の分散は,時間差のみに依存するので,増分は独立定常である.すなわち,標準 Brown 運動 {W (t)} は,原点から出発する平均 0,分散 t の非定常な正規過程であり,定常な独立増分をもつような確率過程である.なお,一般の Brown 運動は,分散が時点の定数倍となる場合であるが,本書では,標準 Brown 運動のみを扱う.以下,標準 Brown 運動を Bm と表すことにする.

Bm は,次の諸性質をもっている(問題 7).

・Bm の性質

(1) 平均 2 乗連続である.しかし,平均 2 乗微分可能でない.

(2) マルチンゲールである.すなわち,

E(W (t)|W (s)) = E(W (s)) (s < t)

(3) 任意の正数 a に対して,W (at)D= a1/2W (t)が成り立つ.すなわち,W (at) の分布は,

a1/2W (t) の分布に等しい.この性質を Bm の自己相似性(self-similarity property)という.

Bmは連続ではあるが,微分不可能であるということから,ジグザグとした動きのサンプル・パスを想起することができよう.Bm のサンプル・パスをグラフ表示するために,区間 [0, M ]で定義される次の確率過程を考えよう.

X(t) =

√2

M

∞∑n=1

sin ((n − 1/2)πt/M)

(n − 1/2)π/MZn , {Zn} ∼ NID(0, 1) (4)

ここで,右辺の和は L2 完備性定理より,平均 2 乗収束することがわかる.このとき,確率過程 {X(t)} は Bm となる(問題 8).一般に,確率過程を式 (4) のように表現したものを

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Karhunen-Loeve 展開という(詳しくは,第 4 章 1 節を参照).図 2-1 は,M = 5 の場合に,式 (4) に基づいて計算された Bm のサンプル・パスの 1 つを図示したものである.予想通り,ジグザグとした経路となっていることが見てとれる.

図 2-1

Bm の動きについて,別の観点から考えてみよう.今,区間 [0, M ] の有限分割

Π : 0 = t0 < t1 < · · · < tm = M (5)

を考えよう.そして,分割 Π に対する Bm の p 次の変動として,次の量を定義する.

V (p)m (W, Π) =

m∑i=1

|W (ti) − W (ti−1)|p (6)

さらに,各 p に対して,あらゆる有限分割を考えた場合の V (p)m (W, Π) の上限,すなわち,

V (p)(W, [0, M ]) = supΠ

V (p)m (W, Π)

を定義して,これを Bm の p 次変分 という.特に,1 次変分 V (1)(W, [0, M ]) は無限大に発散して,Bm は非有界変動となることがわかる.このことを示すために,次の不等式を考えよう.

V (2)m (W, Π) ≤ max

1≤i≤m(|W (ti) − W (ti−1)|)V (1)

m (W, Π) (7)

ここで,

Zi =W (ti) − W (ti−1)√

Δti, Δti = ti − ti−1, Δm = max

1≤i≤mΔti = O

(1

m

)

とおくと,{Zi} ∼ NID(0, 1) である.そして,任意の正数 δ に対して,次の不等式が成り立つ.

P(

max1≤i≤m

(√Δti|Zi|

)< δ

)= Πm

i=1P(√

Δti|Zi| < δ)

= Πmi=1

(1 − P

(√Δti|Zi| ≥ δ

))

≥ Πmi=1

(1 − Δti

δ2E(Z2

i I(√

Δti|Zi| ≥ δ)))

≥(1 − Δm

δ2E(Z2

1I(√

Δm|Z1| ≥ δ)))m

→ 1

ただし,I(A)は,集合 Aの指示関数である.したがって,式 (7)の右辺の第 1因数は,Δm → 0のとき,0 に確率収束する.他方,(7) の左辺は,

E(V (2)

m (W, Π))

=m∑

i=1

(ti − ti−1) = tm = M

V(V (2)

m (W, Π))

=m∑

i=1

V[(W (ti) − W (ti−1))

2]

= 2m∑

i=1

(ti − ti−1)2

≤ 2Δm

m∑i=1

(ti − ti−1) = 2ΔmM → 0

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となることから,Δm → 0 のとき,M に確率収束する.したがって,(7) の不等式から,V (1)

m (W, Π) は確率収束の意味で無限大に発散しなければならなくなり,Bm の変動が非有界となることがわかる.平均 2 乗収束の観点からも,Bm の変動については,次のことが成り立つ(問題 9).

l.i.m.Δm→0

V (1)m (W, Π) = ∞, l.i.m.

Δm→0V (2)

m (W, Π) = M, l.i.m.Δm→0

V (p)m (W, Π) = 0 (p > 2)

今までは,1 次元の Bm だけを考えてきたが,ベクトル値の場合についても同様に議論できる.ここでは,定義だけを与えておく.

・q 次元標準 Brown 運動の定義区間 [0, M ] 上で定義され,次の 3 つの条件をみたす q 次元確率過程 {W (t)} を q 次元標

準 Brown 運動という.

i) P (W (0) = 0) = 1

ii) 任意の自然数 n と時点 0 ≤ t0 < t1 < · · · < tn ≤ M に対して,増分 W (t1) −W (t0), W (t2) − W (t1), · · · , W (tn) − W (tn−1) は互いに独立である.

iii) 各時点 t に対して,W (t) は,平均 0, 共分散行列 tIq の正規分布に従う.ここで,Iq はq 次元単位行列である.

以下,q 次元標準 Brown 運動を q 次元 Bm と表すことにする.その性質などについては,1 次元の場合と同様であるので,省略する(問題 10).

Bm は,本書において最も頻繁に使われる確率過程であるが,そのバリエーションについても有用なものがいくつかあるので紹介する.

・Brown 橋の定義区間 [0, M ]で定義され,次の条件をみたす確率過程 {W (t)}をBrown橋(Brownian bridge)

という.

i) 正規過程である.

ii) E(W (t)) = 0, Cov(W (s), W (t)) = min(s, t) − st/M である.

Brown 橋は,V(W (M)) = E(W 2(M)) = 0 となることから,始点(t = 0)と終点(t = M)において,ともに 0 となるような正規過程である.もちろん,このことが ‘橋’と名付けられるゆえんである.以下,Brown 橋を Bb と表す.

Bb は,W (M) = 0 という制約を付けた Bm であると解釈することもできる.実際,多変量正規分布の理論から,(

XY

)∼ N(μ, Σ), μ =

(μX

μY

), Σ =

(ΣXX ΣXY

ΣY X ΣY Y

)

のとき,Y = y のもとでの X の条件付き分布も正規であり,

E(X|Y = y) = μX + ΣXY Σ−1Y Y (y − μY ), V(X|Y ) = ΣXX − ΣXY Σ−1

Y Y ΣY X

が成り立つ.ここで,0 ≤ s ≤ t ≤ M として,

X =(

W (s)W (t)

), Y = W (M), y = 0

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とおけば,

E((

W (s)W (t)

)∣∣∣∣W (M) = 0)

= 0, V((

W (s)W (t)

)∣∣∣∣W (M) = 0)

=(

s − s2/M s − st/Ms − st/M t − t2/M

)

を得る.このことから,確率過程 {W (t)|W (M) = 0} は Bb であることがわかる.さらに,次のように定義される確率過程

W (t) = W (t) − t

MW (M) (8)

も,区間 [0, M ] 上の Bb であることがわかる.Bm の場合と同様に,Karhunen-Loeve 展開により,区間 [0, M ] 上で定義される次の確率過

程は Bb であることを示すことができる(問題 11).

Y (t) =

√2

M

∞∑n=1

sin(n πt/M)

n π/MZn , {Zn} ∼ NID(0, 1) (9)

図 2-2 は,M = 5 の場合に,式 (9) に基づいて (4) と同一の {Zn} を使って計算した Bb のサンプル・パスを図示したものである.両端が 0 に固定されている(したがって,Bm よりは変動が少ない)他は,Bm と同様に,ジグザグとした経路となっていることが見てとれる.

図 2-2

・平均調整済み Brown 運動の定義区間 [0, M ] 上で定義される確率過程

Wa(t) = W (t) − 1

M

∫ M

0W (u) du (10)

を平均調整済み Bm という.

上の定義には積分が使われている.詳しくは後述するが,この場合の積分は,通常のリーマン和の平均 2 乗極限として定義される.すなわち,式 (5) にあるように,区間 [0, M ] の任意の分割 Π を使って,次のように定義される.

∫ M

0W (t) dt = l.i.m.

Δm→0

m∑i=1

W (t′i)Δti

(ti−1 ≤ t′i ≤ ti, Δm = max

1≤i≤mΔti, Δti = ti − ti−1

)

である.このとき,平均 2 乗の演算 l.i.m. と期待値の演算 E が可換であることから,次の結果を得る.

E

(∫ M

0W (t) dt

)=∫ M

0E(W (t)) dt = 0

E

⎡⎣(∫ M

0W (s) ds

)2⎤⎦ =

∫ M

0

∫ M

0E(W (s)W (t)) ds dt =

∫ M

0

∫ M

0min(s, t) ds dt

=∫ M

0

[∫ t

0sds + t

∫ M

tds

]dt =

M3

3

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E

(W (s)

∫ M

0W (t) dt

)=

∫ M

0E(W (s)W (t)) dt =

∫ M

0min(s, t) dt

=∫ s

0t dt + s

∫ M

sdt = −s2

2+ Ms

以上から,平均調整済み Bm の共分散関数は,次のようになる(問題 12).

Cov(Wa(s), Wa(t)) =M

3− max(s, t) +

1

2M(s2 + t2) (11)

図 2-3 には,M = 5 の場合の平均調整済み Bm のサンプル・パスを図示してある.この図は,Karhunen-Loeve 展開から,

Wa(t) = W (t) − 1

M

∫ M

0W (u) du

=

√2

M

∞∑n=1

sin ((n − 1/2)πt/M)

(n − 1/2)π/MZn − 1

M

∫ M

0

√2

M

∞∑n=1

sin ((n − 1/2)πu/M)

(n − 1/2)π/MZn du

=

√2

M

∞∑n=1

[sin ((n − 1/2)πt/M)

(n − 1/2)π/M− 1

(n − 1/2)2π2/M

]Zn, {Zn} ∼ NID(0, 1)

により得られたものである.平均調整済み Bm は,必ずしも 0 から出発するわけではないが,その全区間上での積分は,必ず 0 となり,したがって,平均も 0 となる.このことは,定数のみを当てはめた回帰式の残差に対応した性質であり,図からも示唆されるであろう.

図 2-3

・トレンド調整済み Brown 運動の定義区間 [0, M ] 上の Bm を 1 次関数 a + b t に回帰することを考えよう.最小 2 乗法の考え方

より,a と b は,次の正規方程式の解となる.

a∫ M

0dt + b

∫ M

0t dt =

∫ M

0W (t) dt, a

∫ M

0t dt + b

∫ M

0t2 dt =

∫ M

0t W (t) dt

したがって,次の解を得る.

a =∫ M

0

(4

M− 6

M2t)

W (t) dt, b =∫ M

0

(12

M3t − 6

M2

)W (t) dt

このとき,次のように定義される確率過程

Wa,b(t) = W (t) − (a + b t)

= W (t) −∫ M

0

{4

M− 6

M2u + t

(12

M3u − 6

M2

)}W (u) du (12)

をトレンド調整済み Bm といい,次の性質をもっている.∫ M

0Wa,b(t) dt = 0,

∫ M

0t Wa,b(t) dt = 0

これらは,定数と 1 次のトレンドを当てはめた回帰式の残差に対応する性質であることが了解されよう.

8

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図 2-4 には,M = 5 の場合のトレンド調整済み Bm のサンプル・パスを図示してある.この図は,Karhunen-Loeve 展開から,

Wa,b(t) = W (t) − (a + b t)

=

√2

M

∞∑n=1

sin ((n − 1/2)πt/M)

(n − 1/2)π/MZn

−∫ M

0

{4

M− 6

M2u + t

(12

M3u − 6

M2

)} √2

M

∞∑n=1

sin ((n − 1/2)πu/M)

(n − 1/2)π/MZn du

=√

2M∞∑

n=1

[sin ((n − 1/2)πt/M)

(n − 1/2)π− 4

(n − 1/2)2π2+

6(−1)n−1

(n − 1/2)3π3

− t

M

{12(−1)n−1

(n − 1/2)3π3− 6

(n − 1/2)2π2

}]Zn, {Zn} ∼ NID(0, 1)

により得られたものである.平均調整済み Bm と同様に,平均は 0 である.ただし,上述した追加的な制約があるので,この図では明らかではないが,理論的な分散は小さくなる.

図 2-4

・積分 Brown 運動の定義区間 [0, M ] 上で定義される確率過程

Fk(t) =∫ t

0Fk−1(u) du, (k = 1, 2, · · ·), F0(t) = W (t), (13)

を k 重積分 Bm という.

定義式 (13) の積分も通常の Riemann 積分である.特に,k = 1 の場合は,平均調整済みBm の定義にも使われた積分である.一般の k の場合には,逐次的に定義されていることから,逐次代入を繰り返すことにより,

Fk(t) =∫ t

0

∫ u1

0Fk−2(u2) du2du1 = · · · =

∫ t

0

∫ u1

0· · ·∫ uk−1

0W (uk) dukduk−1 · · · du1

のように,Bm の k 重積分で表されることが名称の由来となっている.他方,k 重積分 Bm は,次のように簡単な形で表すことができる(問題 13).

Fk(t) =1

k!

∫ t

0(t − u)k dW (u) (k = 0, 1, · · ·) (14)

ここで使われている積分は Riemann-Stieltjes 積分であり,一般に,区間 [0, M ] で連続な関数f(t) に対して,∫ t

0f(u) dW (u) = l.i.m.

Δm→0

m∑i=1

f(t′i) (W (ti) − W (ti−1)) (ti−1 ≤ t′i ≤ ti)

で定義される.したがって,次のことが成り立つ.

Cov(Fk(s), Fk(t)) = E(Fk(s)Fk(t)) =1

(k!)2)

∫ min(s,t)

0((s − u)(t − u))k du

V(Fk(t)) =1

(k!)2

∫ t

0(t − u)2k du =

1

(k!)2

t2k+1

2k + 1

9

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図 2-5 には,M = 5 の場合の {F1(t)} と {F2(t)} のサンプル・パスが図示されている.左目盛りは前者,右目盛りは後者である.これらのパスは,Karhunen-Loeve 展開から,

F1(t) =∫ t

0W (u) du =

√2

M

∞∑n=1

1 − cos((n − 1/2)πt/M)

(n − 1/2)2π2/M2Zn

F2(t) =∫ t

0F1(u) du =

√2

M

∞∑n=1

(n − 1/2)πt/M − sin((n − 1/2)πt/M)

(n − 1/2)3π3/M3Zn

により得られたものである.図からも明らかなように,k = 2 の場合の方が,k = 1 の場合よりも,変動は大きいが,よりなめらかなパスとなっている.なお,どちらも原点から出発しており,理論的な分散は,V(F1(t)) = t3/3, V(F2(t)) = t5/20 である.

図 2-5

2.3 平均 2 乗積分すでに,前節で Bm の Riemann 積分や Riemann-Stieltjes 積分に関する定義を述べたが,

本節では,区間 [0, M ] 上で定義され,L2 に属する任意の確率過程 {X(t)} に対して,種々の積分の定義と,その存在条件などについて議論する.そのために,区間 [0, M ] の部分区間 [a, b]上での積分を考えることにして,次のような区間分割を定義する.

π : a = t0 < t1 < · · · < tm = b, Δm = max1≤i≤m

Δti, Δti = ti − ti−1

・平均 2 乗 Riemann 積分の定義次の Riemann 和

S1m =m∑

i=1

X(s′i)(ti − ti−1) (ti−1 ≤ t′i ≤ ti) (15)

が,任意の分割 π と ti−1 ≤ t′i ≤ ti となるような任意の点 t′i に対して,Δm → 0 のときに平均2 乗極限をもつならば,その極限を

S1 =∫ b

aX(t) dt (16)

と表す.これを,X(t) の平均 2 乗 Riemann 積分という.

平均 2 乗 Riemann 積分可能となるための 1 つの十分条件は,{X(t)} が平均 2 乗連続となることである(問題 14).そして,平均 2 乗 Riemann 積分可能ならば,l.i.m. と E の可換性より,次のことが成り立つ.

E

(∫ b

aX(t) dt

)=

∫ b

aE (X(t)) dt

E

⎡⎣(∫ b

aX(t)dt

)2⎤⎦ =

∫ b

a

∫ b

aE (X(s)X(t)) ds dt

10

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Bm は,明らかに,平均 2 乗 Riemann 積分可能であり,例えば,前節で議論した k 重積分Bm

Fk(t) =∫ t

0Fk−1(s) ds , F0(t) = W (t) , (k = 1, 2, · · ·) (17)

が定義される.もっと一般に,任意の自然数 n に対して,{W n(t)} は平均 2 乗 Riemann 積分可能である.

例えば,

U1(t) =∫ t

0W 2(s) ds (18)

が定義され,そのモーメントに関しては,

E(U1(t)) =∫ t

0E(W 2(s)) ds =

∫ t

0s dt =

t2

2

E(U21 (t)) =

∫ t

0

∫ t

0E(W 2(u)W 2(v)) dudv =

∫ t

0

∫ t

0

[2 min2(u, v) + uv

]du dv =

7

12t4

を得る.したがって,V(U1(t)) = t4/3 となる.また,Bb の 2 乗の積分

U2(t) =∫ t

0(W (u) − uW (M)/M)2 du (19)

も定義され,

E(U2(t)) = t2/2 − t3/(3M), E(U22 (t)) = 7t4/12 − 13t5/(15M) + t6/(3M2)

を得る.したがって,V(U2(t)) = t4/3 − 8t5/(15M) + 2t6/(9M2) となる(問題 15).

・ 平均 2 乗 Riemann-Stieltjes 積分の定義関数 f(t) を区間 [a, b] 上で Riemann 積分可能な通常の関数とする.このとき,次の和

S2m =m∑

i=1

f(t′i) (X(ti) − X(ti−1)) (ti−1 ≤ t′i ≤ ti) (20)

が,任意の分割 π と ti−1 ≤ t′i ≤ ti となるような点 t′i に対して,Δm → 0 のときに平均 2 乗収束するならば,その極限を

S2 =∫ b

af(t) dX(t) (21)

と表す.これを,f(t) の X(t) に関する平均 2 乗 Riemann-Stieltjes 積分という.

平均 2 乗 Riemann-Stieltjes 積分可能となるための十分条件の 1 つは,f(t) が連続で,E(X(s)X(t)) が有界変動となることである.定義から,次の結果は明らかである.∫ b

adW (t) = W (b) − W (a)

式 (21) で定義される S2 の平均は,

E(S2) = E

[∫ b

af(t) dX(t)

]= E

[l.i.m.

m∑i=1

f(ti−1)(X(ti) − X(ti−1))

]

= limm∑

i=1

f(ti−1)E(X(ti) − X(ti−1)) =∫ b

af(t) E(dX(t))

11

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となる.また,2 次のモーメントは,

E(S22) = E

⎡⎣(∫ b

af(t) dX(t)

)2⎤⎦

= E

⎡⎣l.i.m.

m∑i=1

m∑j=1

f(si−1)f(tj−1)(X(si) − X(si−1))(X(tj) − X(tj−1))

⎤⎦

= limm∑

i=1

m∑j=1

f(si−1)f(tj−1)E [(X(si) − X(si−1))(X(tj) − X(tj−1))]

=∫ b

a

∫ b

af(s)f(t) E(dX(s) dX(t))

である.特に,X(t) = W (t) ならば,

E

[∫ b

af(t) dW (t)

]= 0, E

⎡⎣(∫ b

af(t) dW (t)

)2⎤⎦ =

∫ b

af 2(t) dt

となることが了解されよう.このことから,形式的に,次の表現が成り立つ.

E (dW (s) dW (t)) =

{dt (s = t のとき)0 (s = t のとき)

(22)

例えば,次の積分は,平均 2 乗 Riemann-Stieltjes 積分可能である.

U3(t) =∫ t

0(1 − s) dW (s) (23)

このとき,U3(t) は各 t に対して正規分布に従い,E(U3(t)) = 0 である.また,分散は,

V(U3(t)) =∫ t

0

∫ t

0(1 − u)(1 − v)E (dW (u) dW (v)) =

∫ t

0(1 − u)2 du =

t(3 − 3t + t2)

3

となる.次に,式 (20) の S2m において,f と X を入れ替えた和

S3m =m∑

i=1

X(t′i) (f(ti) − f(ti−1)) (ti−1 ≤ t′i ≤ ti)

を考えよう.S3m が,平均 2 乗収束するならば,その極限を

S3 =∫ b

aX(t) df(t) (24)

と表す.これを,X(t) の f(t) に関する平均 2 乗 Riemann-Stieltjes 積分という.積分可能となるための十分条件は,E(X(s)X(t)) が連続で,f(t) が有界変動となることである.次の定理は,通常の積分における部分積分の公式を確率過程の場合に拡張したものである.

定理 2.5 式 (21) の S2 が存在すれば,式 (24) の S3 も存在する.また,逆もいえる.そして,次の部分積分の公式が成り立つ.∫ b

af(t) dX(t) = [f(t)X(t)]ba −

∫ b

aX(t) df(t) (25)

12

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この定理から,例えば,式 (23) の U3(t) は,次のように表すことができる.

U3(t) =∫ t

0(1 − s) dW (s) = [(1 − s)W (s)]t0 +

∫ t

0W (s) ds = (1 − t)W (t) +

∫ t

0W (s) ds

特に,次のことが成り立つ.∫ 1

0(1 − s) dW (s) =

∫ 1

0W (s) ds

・ 平均 2 乗 Riemann-Stieltjes 重積分の定義平面 [a, b] × [a, b] の分割を

π2 : a = s0 < s1 < · · · < sm = b, a = t0 < t1 < · · · < tn = b

として,

Δm,n = max(s1 − s0, · · · , sm − sm−1, t1 − t0, · · · , tn − tn−1)

とおく.また,K(s, t) を [a, b] × [a, b] 上の対称関数として,次の和

Sm,n =m∑

i=1

n∑j=1

K(s′i, t′j)ΔW (ti)ΔW (tj) (ΔW (ti) = W (ti) − W (ti−1)) (26)

を考える.ここで,s′i ∈ [si−1, si], t′j ∈ [tj−1, tj ] である.Sm,n が,任意の分割 π2 と任意の分点 s′i, t′j に対して,Δm,n → 0 のとき平均 2 乗収束する

ならば,その極限を

S =∫ b

a

∫ b

aK(s, t) dW (s) dW (t) (27)

と表し,これを Bm に関する K(s, t) の平均 2 乗 Riemann-Stieltjes 重積分という.

式 (27) の重積分が可能となるための 1 つの十分条件は,K(s, t) が連続となることである.S の平均は,

E(S) =∫ b

aK(t, t) dt

である.また,S の 2 次モーメントは,

E(S2) =∫ b

a

∫ b

a

∫ b

a

∫ b

aK(s, t) K(u, v) E(dW (s)dW (t)dW (u)dW (v))

を計算すればよい.ここで,

E(dW (s)dW (t)dW (u)dW (v)) =

⎧⎪⎪⎪⎪⎪⎪⎨⎪⎪⎪⎪⎪⎪⎩

3(dt)2 (s = t = u = v)ds du (s = t, u = v, s = u)ds dt (s = u, t = v, s = t)ds dt (s = v, t = u, s = t)0 (その他)

13

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であることと,K(s, t) = K(t, s) であることを使って,次の結果を得る.

E(S2) = 3∫ b

aK2(t, t) (dt)2 +

∫ b

a

∫ b

as �=t

K(s, s)K(t, t) ds dt + 2∫ b

a

∫ b

as �=t

K2(s, t) ds dt

=

(∫ b

aK(t, t) dt

)2

+ 2∫ b

a

∫ b

aK2(s, t) ds dt

したがって,次のことが成り立つ.

V

(∫ b

a

∫ b

aK(s, t) dW (s) dW (t)

)= 2

∫ b

a

∫ b

aK2(s, t) ds dt (28)

例えば,

U4(t) =∫ t

0

∫ t

0(t − max(u, v)) dW (u) dW (v) (29)

の場合には,

E(U4(t)) =∫ t

0(t − u) du =

t2

2, V(U4(t)) = 2

∫ t

0

∫ t

0(t − max(u, v))2 dudv =

t4

3

となる.U4(t) の平均と分散は,式 (18) で定義した U1(t) と同一であることがわかる.実際,

U1(t) =∫ t

0W 2(s) ds =

∫ t

0

∫ t

0(t − max(u, v)) dW (u) dW (v) = U4(t)

が成り立つ.その理由は,次の通りである.

U1(t) =∫ t

0W 2(s) ds =

∫ t

0

(∫ s

0

∫ s

0dW (u) dW (v)

)ds

=∫ t

0

∫ t

0

(∫ t

max(u,v)ds

)dW (u) dW (v) =

∫ t

0

∫ t

0(t − max(u, v)) dW (u) dW (v)

もっと一般に,g(s) が [0, t] 上の連続関数ならば,次のことが成り立つ.∫ t

0g(s) W 2(s) ds =

∫ t

0

∫ t

0

[∫ t

max(u,v)g(s) ds

]dW (u) dW (v) (30)

2.4  Ito 積分本節では,区間 [a, b] 上で,次の形の積分を扱う.

S =∫ b

aX(t) dW (t) (31)

ここで,X(t) は [a, b] 上で定義され,L2 に属する確率過程である.この積分も,近似和の平均2 乗極限として定義されるが,分割区間における X(t) は,常に区間の左端で評価する点で,今までと異なる.すなわち,区間 [ti−1, ti] では,X(ti−1) で評価して,次のような近似を考える.

Sm =m∑

i=1

X(ti−1) ΔW (ti) (ΔW (ti) = W (ti) − W (ti−1)) (32)

分割の最大幅 Δm = max(ti − ti−1) を 0 に近づけるとき,Sm が平均 2 乗収束するならば,その極限を式 (31) の積分で表すことにする.積分 (31)が存在するための十分条件は,次の通りである (Jazwinski (1973), Soong (1973)).

14

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i) {X(t)} が平均 2 乗連続

ii) t < u < v に対して,X(t) は W (v) − W (u) と独立

以下では,{X(t)}は,これらの条件をみたすものと仮定する.最も単純な例は,X(t) = W (t)の場合である.このときの近似和は,次のように変形することができる.

Sm =m∑

i=1

W (ti−1)ΔW (ti)

= −1

2

m∑i=1

[(ΔW (ti))

2 − W 2(ti) + W 2(ti−1)]

=1

2

(W 2(b) − W 2(a)

)− 1

2

m∑i=1

(ΔW (ti))2

ここで,最後の表現の平均 2 乗極限を考えることにより,次の積分結果が得られる(問題 16).∫ b

aW (t) dW (t) =

1

2

(W 2(b) − W 2(a)

)− 1

2(b − a) (33)

以上のように,被積分関数が確率過程の場合に,関数値を各分点の左端で評価した近似和に基づいて定義される Bm に関する積分を Ito 積分という.このようにして定義される Ito 積分は,マルチンゲールの性質をもっている.すなわち,

U(t) =∫ t

0X(u) dW (u)

において,X(u) と dW (u) が独立(X(ti−1) と W (ti)−W (ti−1) が独立)であることを使えば,s < t のとき,次のことが成り立つ.

E(U(t)|U(s)) = E(U(s) +

∫ t

sX(u) dW (u)

∣∣∣∣U(s))

= U(s) +∫ t

sE (X(u)|U(s)) E(dW (u))

= U(s)

このことから,{U(t)} はマルチンゲールである.したがって,∫ t

0W (u) dW (u) =

1

2

(W 2(t) − t

)(34)

もマルチンゲールである.Ito 積分がマルチンゲールであることは,非常に重要,かつ有用な性質であり,Ito 積分の価値を高めている.なお,この関係から,形式的に

W (t) dW (t) =1

2d(W 2(t) − t

)⇔ d

(W 2(t)

)= 2W (t) dW (t) + dt (35)

と表すことができる.これは,次節で述べる Ito 解析の簡単な場合である.Ito 積分は被積分関数を区間の左端で評価して得られる積分であることから,マルチンゲー

ル性をもつが,それ以外の点で評価すれば,マルチンゲール性を失う.例えば,区間 [a, b] 上の各区間 [ti−1, ti] の点 ti(λ) = (1 − λ)ti−1 + λti (0 ≤ λ ≤ 1) で評価した場合には,次のことが成り立つ(問題 17).

l.i.m.Δm→0

m∑i=1

W (ti(λ))ΔW (ti) =1

2

(W 2(b) − W 2(a) − (b − a)

)+ λ(b − a) (36)

15

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・ベクトル値確率過程の Ito 積分Ito 積分は,ベクトル値の確率過程の場合にも定義される.今,{X(t)} を,[a, b] 上で定義

され,各要素が L2 に属する q 次元確率過程とする.また,{W (t)} を q 次元 Bm とする.さらに,{X(t)} の各要素は平均 2 乗連続で,t < u < v に対して,X(t) はW (v)−W (u) と独立であるとする.このとき,q × q の行列値 Ito 積分

U =∫ b

aX(t) dW ′(t)

が定義される.多次元のマルチンゲール性についても成り立つ.例えば,

U(t) =∫ t

0W (u) dW ′(u)

はマルチンゲールである.しかし,次の事実は,1 次元の場合とは異なる∫ t

0W (u) dW ′(u) = 1

2(W (t)W ′(t) − t Iq) (37)

等号が成立しないことは,右辺が対称行列であるにもかかわらず,左辺は非対称となっていることからわかる.ただし,右辺もマルチンゲールである.なお,W (t) の第 k 要素を Wk(t) とすれば,次のことが成り立つ(問題 18).

∫ t

0Wk(u) dWl(u)

D=

⎧⎨⎩

12(W 2

k (t) − t) (k = l のとき)t2

∑∞n=1

Z21n−Z2

2n

(n−1/2)π(k = l のとき)

(38)

ただし,(Z1n, Z2n)′ ∼ NID(0, I2) である.多次元の場合の Ito 積分では,式 (37) の関係では等号が成立しない.しかし,次の形なら

ば成立する(問題 19).∫ t

0W (u) dW ′(u) +

(∫ t

0W (u) dW ′(u)

)′= W (t)W ′(t) − t Iq (39)

2.5  Ito 解析式 (31) の Ito 積分において,X(t) と W (t) を入れ替えた積分

S1 =∫ b

aW (t) dX(t) (40)

は,どのように定義されるであろうか.また,積分

S2 =∫ b

aX(t) dX(t) (41)

をどのように定義したらよいであろうか.{X(t)} が L2 に属する平均 2 乗連続な確率過程であっても,必ずしも Ito 積分可能の条件をみたさないので,別の考え方が必要である.このような疑問に答えるのが,ここで議論する Ito 解析である.ここでは,確率過程 {X(t)} は,次の積分方程式をみたすものとしよう.

X(t) = X(0) +∫ t

0μ (X(s), s) ds +

∫ t

0σ (X(s), s) dW (s) (42)

ここで,次のことを仮定する.

i) X(0) は,増分 W (t) − W (s) (0 ≤ s ≤ t ≤ M) と独立である.

16

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ii) 正数 K が存在して,次の不等式が成り立つ.

|μ(x, t) − μ(y, t)| ≤ K|x − y|, |σ(x, t) − σ(y, t)| ≤ K|x − y|

|μ(x, s) − μ(x, t)| ≤ K|s − t|, |σ(x, s) − σ(x, t)| ≤ K|s − t|

|μ(x, t)| ≤ K√

1 + x2, |σ(x, t)| ≤ K√

1 + x2

このとき,式 (42)の積分方程式は,平均 2乗連続な一意解X(t)をもち,0 ≤ t ≤ u ≤ v ≤ Mとなるような任意の時点に対して,X(t)−X(0) と増分 W (v)−W (u) が独立となる(証明は,例えば,Jazwinski (1970), Arnold (1974)を参照のこと).このときの解 {X(t)} は,平均 2 乗微分可能ではないが,形式的に,微分

dX(t) = μ (X(t), t) dt + σ (X(t), t) dW (t) (43)

で表すことにして,積分方程式 (42) と同値な微分方程式とみなす.この方程式を Ito 確率微分方程式といい,dX(t) を X(t) の確率微分という.次の定理は,Ito の補題と呼ばれるもので,X(t) と t から作られる確率過程 {f(X(t), t)}

がみたす確率微分方程式の表現を与えるものである(Jazwinski (1970), Arnold (1974)参照).

定理 2.6  X(t) が確率微分方程式 (43) に従い,その上で述べた一意解の十分条件をみたすものとする.また,f(x, t) を,(−∞,∞) × [0, M ] 上で定義された関数で,連続な偏導関数fx(x, t) = ∂f(x, t)/∂x, fxx(x, t) = ∂2f(x, t)/∂x2, ft(x, t) = ∂f(x, t)/∂t をもつとする.このとき,f(X(t), t) は,次の確率微分方程式をみたす.

df (X(t), t) = fx (X(t), t) dX(t) +(ft(X(t), t) +

1

2fxx(X(t), t) σ2(X(t), t)

)dt (44)

関係式 (44) を直感的に理解するには,関数 f(x, t) の 2 次までの Taylor 展開を考えて,d2X(t) = σ2(X(t), t) dt, dX(t) dt = 0, d2t = 0 とおけばよい.すなわち,次のようにすればよい.

df ≈ fx dX(t) + ft dt +1

2

(fxx d2X(t) + 2fxt dX(t) dt + ftt d

2t)

= fx dX(t) +(ft +

1

2fxxσ

2(X(t), t))

dt

定理 2.6 を使うことにより,例えば,次の確率微分が得られる(問題 20).

d (Xn(t)) = nXn−1(t) dX(t) +n(n − 1)

2Xn−2(t) σ2(X(t), t) dt (45)

特に,X(t) = W (t) の場合には,次のことが成り立つ.

d (W n(t)) = nW n−1(t) dW (t) +n(n − 1)

2W n−2(t) dt (46)

この他に,例えば,次の確率微分が成り立つ.

X(t) = X(0) exp{W (t) − t/2} のとき,  dX(t) = X(t) dW (t) (47)

17

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したがって,確率微分方程式 dX(t) = X(t) dW (t) の解は,X(t) = X(0) exp{W (t) − t/2} である.このときの {X(t)} を幾何 Brown 運動という.

Ito の補題は,Ito 確率微分方程式に従う確率過程の関数の確率微分の表現を与えているが,その有用性の 1 つとして,今まで定義されなかった積分が定義できることにある.すなわち,Ito の補題の関係式 (44) は,積分の形で,

∫ b

afx(X(t), t) dX(t) = f(X(b), b) − f(X(a), a)

−∫ b

a

(ft(X(t), t) +

1

2fxx(X(t), t) σ2(X(t), t)

)dt (48)

と表すことができるが,左辺は未定義の積分である.しかし,右辺のように定義済みの積分により計算することができることになる.特に,f(x, t) = x2/2,σ(x, t) = 1 とおけば,式 (48) は,

∫ b

aX(t) dX(t) =

1

2

(X2(b) − X2(a)

)− 1

2(b − a) (49)

となる.なお,この関係式は,X(t) = W (t) ならば,(33) に帰着する.

・ベクトル値の場合への拡張Ito 解析は,確率過程 {X(t} がベクトル値の場合に拡張することができる.次のベクトル

値確率微分方程式を考えよう.

dX(t) = μ(X(t), t) dt + G(X(t), t) dW (t) (50)

ここで,μ(X(t), t) と G(X(t), t) は,それぞれ,p× 1,p× q の確率過程とする.また,W (t)は q 次元 Bm である.そして,スカラーの場合と同様に,一意的な解が存在するための十分条件が成り立つものとする.このとき,r 次元ベクトル値確率過程 Y (t) = f (X(t), t) を考え,次の偏導関数が存在して,連続であると仮定する.

∂tf(x, t) = f t : r × 1,

∂xif (x, t) = fxi

: r × 1, x = (x1, · · · , xp)′ : p × 1

∂x′ f (x, t) = fx′ : r × p,∂2

∂xi ∂xjf (x, t) = fxixj

: r × 1

このとき,次の定理が成り立つ(詳細は,Jazwinski (1970),Arnold (1974)を参照のこと).

定理 2.7  p 次元確率過程 X(t) が式 (50) の確率微分方程式に従い,一意解の条件をみたすとする.また,f (x, t) が r 次元ベクトル値関数で,上で述べた連続な偏導関数をもつとする.このとき,Y (t) = f (X(t), t) は,次の確率微分方程式をみたす.

dY (t) = fx′(X(t), t) dX(t) +

⎛⎝f t(X(t), t) +

1

2

p∑i=1

p∑j=1

fxixj(X(t), t)G′

iGj

⎞⎠ dt (51)

ここで,G′iGj は,行列 G(X(t), t) の第 i 行と第 j 行ベクトルの内積を表す.

定理 2.7 を使うことにより,例えば,式 (50) において,X(t) = (X1(t), X2(t))′ の場合,

X1(t) X2(t) の確率微分は,次のようになる(問題 21).

d(X1(t) dX2(t)) = X1(t) dX2(t) + X2(t) dX1(t) + G′1G2 dt

18

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2.6 O-U 過程L2 に属する確率過程 {Y (t)} が次の積分方程式をみたすものとしよう.

Y (t) = Y (0) + α∫ t

0Y (s) ds +

∫ t

0dW (s) (52)

ここで,α は定数であり,Y (0) は W (t)−W (s) (0 ≤ s ≤ t) と独立な確率変数(0 などの定数を含む)である.これは,また,次の確率微分方程式をみたす.

dY (t) = αY (t)dt + dW (t) (53)

このとき,これらの方程式の解は次の形で与えられる(問題 22).

Y (t) = eαtY (0) + eαt∫ t

0e−αs dW (s) (54)

確率過程 {Y (t)} を O-U 過程という.O-U は,2 人の名前 Ornstein-Uhlenbeck の頭文字である.O-U 過程は,式 (51) からも想起されるが,離散時間の AR(1) 過程の連続時間バージョン,ただし,係数にある種の制約をつけたものと考えられる.この点については,次の章で説明する.

・O-U 過程の性質 α = 0, Y (0) = 0 とすれば,O-U 過程は Bm に帰着して,独立増分をもつが,α = 0 ならば,増分は独立とはならない.モーメントに関しては,期待値は E(X(t)) =eαtE(Y (0)) であり,共分散は次のようになる(問題 23).

Cov(Y (s), Y (t)) = eα(s+t)

(V(Y (0)) +

1 − exp (−2α min(s, t))

)(55)

したがって,α が正ならば,必ず V(Y (t)) > V(W (t)) = tとなる.他方,α が負で,Y (0) ∼N(0, −1/(2α)) ならば,{Y (t)} は定常な正規過程となり,次のことが成り立つ.

Y (0) ∼ N(0, − 1

)⇒ E(Y (t)) = 0, Cov(Y (s), Y (t)) = −eα|s−t|

図 2-6 には,区間 [0, 5] の O-U 過程に従う 2 つのサンプル・パスが図示されている.1 つは,Y (0) = 0, α = 1 とした場合(左目盛り),もう 1 つは,α = −1, Y (0) ∼ N(0,−1/(2α)) とした場合である.これらは,式 (52) と Bm の Karhunen-Loeve 展開を使って,

Y (t) = eαtY (0) + eαt∫ t

0e−αs

√2

M

∞∑n=1

cos(n − 1/2)πs

MZn ds

= eαtY (0) +

√2

M

∞∑n=1

αeαt − α cos (n−1/2)πtM

+ (n−1/2)πM

sin (n−1/2)πtM

α2 + (n−1/2)2π2

M2

Zn (56)

により得られたものである.図からも明らかなように,α = −1 の定常な場合は 0 の周りで変動している.それに対して,α = 1 の非定常な場合は,そのようなことはなく,しかも,変動が大きくなっている.なお,α = 1 の場合はなめらかそうなパスに見えるが,それは目盛りの取り方によるもので,実際はジグザグな経路となっている.

図 2-6

19

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第 2 章 練 習 問 題

1. 確率変数列 {Xn} が n → ∞ のとき,平均 2 乗収束するならば,極限は確率 1 で一意的であることを示せ.

2. 完備性定理を使うことにより,P (Xn =√

n) = 1/n, P (Xn = 0) = 1 − 1/n となるような独立な確率変数列 {Xn} は,平均 2 乗収束しないことを示せ.

3. 定理 2.3 で述べた平均 2 乗収束に関する性質を証明せよ.

4. L2 に属する確率過程 {X(t)} が t で平均 2 乗連続であることと,E(X(s)X(t)) が (t, t)で連続であることは同値であることを示せ.

5. L2 に属する確率過程 {X(t)} に対して,E(X(s)X(t)) が,対角線上(すべての (t, t) ∈[a, b] × [a, b])で連続ならば,必ず,全平面上([a, b] × [a, b])で連続となることを示せ.

6. 平均 2 乗微分可能な確率過程 {X(t)} に対しては,次のことが成り立つことを示せ.

E(X(t)) =d

dtE(X(t)), E(X(s)X(t)) =

∂2

∂s∂tE(X(s)X(t))

7. Bm に関して,次の性質が成り立つことを示せ.

(1) 平均 2 乗連続である.しかし,平均 2 乗微分可能でない.

(2) マルチンゲールである.すなわち,

E(W (t)|W (s)) = E(W (s)) (s < t)

(3) 任意の正数 a に対して,W (at)D= a1/2W (t)が成り立つ.すなわち,W (at) の分布

は,a1/2W (t) の分布に等しい.

8. 区間 [0, M ] で定義される次の確率過程 {X(t)} は Bm であることを示せ.

X(t) =

√2

M

∞∑n=1

sin ((n − 1/2)πt/M)

(n − 1/2)π/MZn {Zn} ∼ NID(0, 1)

ヒント:次の公式を用いよ.

∞∑n=1

cos(n − 1/2)πx

(n − 1/2)2π2=

1

2(1 − x) (0 ≤ x ≤ 2)

9. {W (t)} を Bm とするとき,次のことが成り立つことを示せ.

l.i.m.Δm→0

V (1)m (W, Π) = ∞, l.i.m.

Δm→0V (2)

m (W, Π) = M, l.i.m.Δm→0

V (p)m (W, Π) = 0 (p > 2)

ここで,

V (p)m (W, Π) =

m∑i=1

|W (ti) − W (ti−1)|p

ただし,Π は区間 [0, M ] の分割 Π : 0 = t0 < t1 < · · · < tm = M , Δm = max(ti − ti−1)である.

20

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10. 確率過程 {W (t)} が区間 [0, M ] 上の q 次元 Bm に従うとき,次のことを証明せよ.

l.i.m.Δm→0

m∑i=1

(W (ti) − W (ti−1))′ (W (ti) − W (ti−1)) = qM

ここで,0 = t0 < t1 < · · · < tm = M , Δm = max(ti − ti−1) である.

11. 次のように定義される確率過程 {Y (t)} は,区間 [0, M ] 上の Bb であることを示せ.

Y (t) =

√2

M

∞∑n=1

sin(n πt/M)

n π/MZn {Zn} ∼ NID(0, 1)

ヒント:次の公式を用いよ.

∞∑n=1

cos nπx

n2π2=

1

4(x − 1)2 − 1

12(0 ≤ x ≤ 2)

12. 確率過程 {Wa(t)} を区間 [0, M ] 上の平均調整済み Bm とするとき,共分散関数は次のようになることを示せ.

Cov(Wa(s), Wa(t)) =M

3− max(s, t) +

1

2M(s2 + t2)

13. 次の形で定義される k 重積分 Bm

Fk(t) =∫ t

0Fk−1(u) du, (k = 1, 2, · · ·), F0(t) = W (t),

は,次の表現をもつことを示せ.

Fk(t) =1

k!

∫ t

0(t − u)k dW (u) (k = 0, 1, · · ·)

14. 確率過程 {X(t)}が区間 [a, b]で平均 2乗連続ならば,この区間において平均 2乗 Riemann積分可能となることを示せ.

15. 次の確率過程 {U(t)} を考える.

U(t) =∫ t

0(W (t) − tW (M)/M)2 dt

このとき,分散は次の形で与えられることを示せ.

V(U(t)) = t4/3 − 8t5/(15M) + 2t6/(9M2)

16. 区間 [a, b] 上の Bm に対して,次のことが成り立つことを示せ.

∫ b

aW (t) dW (t) =

1

2

(W 2(b) − W 2(a)

)− 1

2(b − a)

21

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17. 区間 [a, b] の分割 a = t0 < t1 < · · · < tm = b において,分割区間 [ti−1, ti] 上の点をti(λ) = (1 − λ)ti−1 + λti (0 ≤ λ ≤ 1) とするとき,Bm {W (t)} に対して,次のことが成り立つことを示せ.

l.i.m.Δm→0

m∑i=1

W (ti(λ))ΔW (ti) =1

2

(W 2(b) − W 2(a) − (b − a)

)+ λ(b − a)

ここで,ΔW (ti) = W (ti) − W (ti−1), Δm = max(ti − ti−1) である.

18. q 次元 Bm {W (t)} の第 k 要素を Wk(t) とするとき,次のことが成り立つことを示せ.

∫ t

0Wk(u) dWl(u)

D=

⎧⎨⎩

12(W 2

k (t) − t) (k = l のとき)t2

∑∞n=1

Z21n−Z2

2n

(n−1/2)π(k = l のとき)

ここで,(Z1n, Z2n)′ ∼ NID(0, I2) である.

19. q 次元 Bm {W (t)} に対して,次のことが成り立つことを示せ.∫ t

0W (u) dW ′(u) +

(∫ t

0W (u) dW ′(u)

)′= W (t)W ′(t) − t Iq

20. 確率過程 {X(t)} が次の確率微分をもつとする.

dX(t) = μ (X(t), t) dt + σ (X(t), t) dW (t)

このとき,n = 2, 3, · · · に対して,次のことが成り立つことを示せ.

d (Xn(t)) = nXn−1(t) dX(t) +n(n − 1)

2Xn−2(t) σ2(X(t), t) dt

21. X(t) = (X1(t), X2(t), X3(t))′ が次の確率微分をもつとき,X1(t) X2(t) X3(t) の確率微分

を求めよ.

dX(t) = μ(X(t), t) dt + G(X(t), t) dW (t)

22. 確率微分方程式 dY (t) = αY (t)dt + dW (t) の解は,次のようになることを示せ.

Y (t) = eαtY (0) + eαt∫ t

0e−αs dW (s)

23. O-U 過程 dY (t) = αY (t) dt + dW (t) の共分散関数は,次のようになることを示せ.

Cov(Y (s), Y (t)) = eα(s+t)

(V(Y (0)) +

1 − exp (−2α min(s, t))

)

22

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図 2-1 Bm のサンプル・パス

0 1 2 3 4 5

−3

−2

−1

0

1

2

3

23

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図 2-2 Brown 橋 のサンプル・パス

0 1 2 3 4 5

−2

−1

0

1

2

24

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図 2-3 平均調整済み Bm のサンプル・パス

0 1 2 3 4 5

−2

−1

0

1

2

3

25

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図 2-4 トレンド調整済み Bm のサンプル・パス

0 1 2 3 4 5

−2

−1

0

1

2

3

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図 2-5 積分 Bm のサンプル・パス

0 1 2 3 4 5

−2.5

−2.0

−1.5

−1.0

−0.5

0.0

0.5

k = 1

−10

−8

−6

−4

−2

0

2

k = 2

27

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図 2-6 O-U 過程のサンプル・パス

0 1 2 3 4 5

−60

−50

−40

−30

−20

−10

0

10

α = 1

−2

−1

0

1

2

α = −1

28