1.ボディメカニクス勤医協中央病院看護技術マニュアル2010 版...

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勤医協中央病院看護技術マニュアル 2010 1.ボディメカニクス 1/6 2010 3 月改訂 1.ボディメカニクス ボディメカニクスとは 解剖学、生理学、力学などの基礎知識を活用して身体の機能や構造と身体運動がどのように 関連しているか、その仕組みについてよりよく理解しようとする応用理論である。 解りやすく説明すると、介助の場合では、まずナースが安定した姿勢をとること、自分の体重 と重心の移動をうまく調和させることである。また、患者の運動能力を可能な限り発揮させる ような指導と誘導が必要となる。そのためには単に筋力に頼るだけでは、様々な姿勢反射を利 用するとともに、体軸性回旋を有効に利用して、重心の移動をコントロールすることが重要と なる。 介助時のボディメカニクスのポイントは、次の通り。 1.相手側の重心を中心にまとめる 2.相手の身体にできるだけ近づく 3.両足を開いて支持面を広くする 4.重心を移動させやすい姿勢をとる 5.大きな筋群を使う 6.重力に逆らわない様に水平にひく 以上のポイントを効率よく用いることにより、患者にとって安全かつ安楽なケアを提供する ことができる。 腰痛の不安と恐怖から解放されて、安心して看護に専念するには 体位交換のケアを行う看護師の悩みとして腰痛がある。これは有効なボディメカニクスによ って避けられることができる。重い物を持つときに手を伸ばした状態でいると、脊柱(支柱) から腕が離れるため、腰の筋肉や椎間板に強い負担がかかり、痛みの原因となる。 また重い物を持ち上げるとき、かけ声をかえ、拍子をとるが、これはかけ声と同時に全身の 筋肉を緊張させることで、関節にかかる負担をかるくすることができる。さらに忘れてはなら ないのは、深い呼気の後、一時呼吸を止めて動作することである。これは腹圧を上昇させるこ とで腰への負担を最小にくい止めるのだ。患者と息を合わせる場合などに利用して、できる限 り患者にも自分の力を出してもらうことが大切となる。 援助の基本 1.テコの原理、慣性の法則(回転のしやすさ)、ベクトルの法則(力の方向、合力)などを利 用し、援助する側も少ない力で無理なく移動できるように工夫したものである。 2.基底面積と抵抗(摩擦)を小さくすると移動しやすい。これは上肢を組む、膝をたてるなど で患者の基底面積を小さくできる。 援助の実際 1.右側臥位 1)患者の両手を組み、両膝を立てる 手は向く側を先に組む(写真 1 写真 1

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  • 勤医協中央病院看護技術マニュアル 2010 版 1.ボディメカニクス 1/6

    2010 年 3 月改訂

    1.ボディメカニクス

    Ⅰ ボディメカニクスとは

    解剖学、生理学、力学などの基礎知識を活用して身体の機能や構造と身体運動がどのように

    関連しているか、その仕組みについてよりよく理解しようとする応用理論である。 解りやすく説明すると、介助の場合では、まずナースが安定した姿勢をとること、自分の体重

    と重心の移動をうまく調和させることである。また、患者の運動能力を可能な限り発揮させる

    ような指導と誘導が必要となる。そのためには単に筋力に頼るだけでは、様々な姿勢反射を利

    用するとともに、体軸性回旋を有効に利用して、重心の移動をコントロールすることが重要と

    なる。 介助時のボディメカニクスのポイントは、次の通り。

    1.相手側の重心を中心にまとめる 2.相手の身体にできるだけ近づく 3.両足を開いて支持面を広くする 4.重心を移動させやすい姿勢をとる 5.大きな筋群を使う 6.重力に逆らわない様に水平にひく

    以上のポイントを効率よく用いることにより、患者にとって安全かつ安楽なケアを提供する

    ことができる。

    Ⅱ 腰痛の不安と恐怖から解放されて、安心して看護に専念するには

    体位交換のケアを行う看護師の悩みとして腰痛がある。これは有効なボディメカニクスによ

    って避けられることができる。重い物を持つときに手を伸ばした状態でいると、脊柱(支柱)

    から腕が離れるため、腰の筋肉や椎間板に強い負担がかかり、痛みの原因となる。

    また重い物を持ち上げるとき、かけ声をかえ、拍子をとるが、これはかけ声と同時に全身の

    筋肉を緊張させることで、関節にかかる負担をかるくすることができる。さらに忘れてはなら

    ないのは、深い呼気の後、一時呼吸を止めて動作することである。これは腹圧を上昇させるこ

    とで腰への負担を最小にくい止めるのだ。患者と息を合わせる場合などに利用して、できる限

    り患者にも自分の力を出してもらうことが大切となる。

    Ⅲ 援助の基本

    1.テコの原理、慣性の法則(回転のしやすさ)、ベクトルの法則(力の方向、合力)などを利

    用し、援助する側も少ない力で無理なく移動できるように工夫したものである。 2.基底面積と抵抗(摩擦)を小さくすると移動しやすい。これは上肢を組む、膝をたてるなど

    で患者の基底面積を小さくできる。

    Ⅳ 援助の実際 1.右側臥位 1)患者の両手を組み、両膝を立てる

    手は向く側を先に組む(写真 1)

    写真 1

  • 勤医協中央病院看護技術マニュアル 2010 版 1.ボディメカニクス 2/6

    2010 年 3 月改訂

    2)看護者は患者の両膝と右肩を軽く押さえる(写真 2,3) 3)膝を先に倒し時間差で右肩を手前に軽く倒す(写真 4,5)

    4)患者の両肢を伸ばすと元の仰臥位に戻すことができる(写真 6,7)

    写真 2 写真 3

    写真 4 写真 5

    写真 6 写真 7

  • 勤医協中央病院看護技術マニュアル 2010 版 1.ボディメカニクス 3/6

    2010 年 3 月改訂

    2.水平移動(テコの原理の応用) 1)患者の両手は胸に組み、両膝をたてておく 2)患者の腰を少し持ち上げ、看護者の左手をいれる(写真 8,9)

    3)看護者の右手を患者の首の下から向こう側の肩に手をいれる 4)看護者の膝をベッドのテコとして両手で患者の身体を手前に引く(写真 10) 5)下半身の移動は患者の腰から腸骨へ患者の右手を膝から大腿骨の左手を入れて引くと移動

    ができる。(写真 11)

    写真 8

    写真 10

    写真 11

    写真 9

  • 勤医協中央病院看護技術マニュアル 2010 版 1.ボディメカニクス 4/6

    2010 年 3 月改訂

    3.起き上がり 1)患者を側臥位にする(写真 12) 2)患者の下肢をベッドから下ろす 3)患者の左肩の下に看護者の右手を入れ、看護者の左手は患者の腰におき、その手を支点に

    し、起き上がらせる(写真 13,14) 4.枕元の引上げ 1)患者の下肢をくみ一本にする(摩擦面を少なくする) 2)患者の手をくみ、看護者の左手を患者の右肩から対角線上にいれる 3)看護者の右手は患者の右腋窩を通して、組んだ両手をつかむ 4)この時、看護者は左膝をベッドの上にあげて、患者の身体の下に膝を入れておく 5)患者を看護者の膝の上に引き上げるようにスピードをつけて患者の身体を引く

    (写真 15,16)

    写真 13

    写真 15 写真 16

    写真 12

    写真 14

  • 勤医協中央病院看護技術マニュアル 2010 版 1.ボディメカニクス 5/6

    2010 年 3 月改訂

    5.車椅子の移動 1)患者の両手は看護者の腰にまわしてもらう(首や肩にはおかない事、安定・密着性)

    (写真 17)

    2)患者の両足は立ち上がり易いようになるべくベッドに近づけておく 3)患者の身体を上に持ち上げるのではなく、自分(看護者)の身体に引き寄せるように立た

    せる。(写真 18) 4)患者と共に看護者の身体を回転しながら車椅子に座らせる(写真 19)

    写真 18

    写真 19

    写真 17

  • 勤医協中央病院看護技術マニュアル 2010 版 1.ボディメカニクス 6/6

    2010 年 3 月改訂

    6.車椅子姿勢のズレを整える 1)患者の腕を組み腋窩から看護者の両手を回し入れ、患者の両手をしっかりつかむ 2)患者の身体はやや前傾姿勢にする(写真 20) 3)患者を自分(看護者)に引き寄せるように深く車椅子にすわらせる 7.片麻痺患者のギャッジ座位のズレ防止 仰臥位時に患者の両側に肩から骨盤の部分までバスタオルを丸めて物をしっかりパッキンして

    ギャッジアップする(写真 22,23,24)

    写真 22 写真 23 写真 24

    写真 20