1) 前立腺癌 前立腺癌の診断には、生検という組織 …...1) 前立腺癌...
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1) 前立腺癌
前立腺癌の診断には、生検という組織検査が必要ですが、経直
腸生検術と経会陰生検術とを組み合わせた最新の機器を使って、
より正確な診断を目指しています。
(ア) 前立腺癌の診断
前立腺癌と診断されるには,図のように,2つのパターンがあります。
① のパターン
例えば,おしっこが近い,出にくい,残尿感があるなど,ほとんど前立腺
癌の症状というより,前立腺肥大症や加齢の変化です。排尿症状が出て,
たまたま泌尿器科を受診するケース。泌尿器科医は前立腺癌の可能性
もあるので,採血(前立腺腫瘍マーカーPSA)をしたり,前立腺の触診を
行います。前立腺腫瘍マーカーPSAが異常値だったり,前立腺の触診で
前立腺癌が疑われれば,前立腺生検を行います。そうして前立腺癌が判
明します。
② のパターン
最近はこの形が増えています。検診ドックや市町村で最近は癌検診を行
うことが多いようです。症状はないのにたまたま前立腺腫瘍マーカーPSA
が異常値だったり,前立腺の触診で前立腺癌が疑われる事があります。
泌尿器科受診が勧められ,受診すると前立腺生検を勧められ、前立腺生
検を行われ、前立腺癌の診断がなされます。この2つのパターンが最近
の前立腺癌の診断発見のパターンです。症状がなく検診で見つかる前立
腺癌は早期癌のケースが多いようです。
このグラフは、佐賀県立病院好生館泌尿器科に受診され前立腺生検をし
て前立腺癌が見つかった患者さんの、病気の進行度をみたものです。
stage B < stageC < stageD となるほど進行癌になります。検診やドッグを
経由して見つかった前立腺癌は早期のものが多い(約85%)ようです。
一方症状があって、泌尿器科を受診したり、ほかのかかりつけ医からの
紹介で来られた患者さんでは、早期癌の比率は50~60%と低くなりま
す。
当院で発見された前立腺癌患者さんの進行度
[前立腺癌の病期分類]
stage A:手術でたまたま見つかった前立腺に限局する前立腺癌
stage B:前立腺に限局する前立腺癌
stage C:前立腺にはとどまっているが,前立腺の被膜は,越えている
か,または精嚢腺に浸潤している前立腺癌
stage D:転移(リンパ節,骨,その他の臓器に転移)を有する前立腺癌
前立腺生検術:
前立腺癌の診断に必要な検査に前立腺生検術があります。前立腺生検
の方法には 2種類あって、好生館泌尿器科では、最新の機器を用いて、
2種類の生検術行っていますが、最近は、より正確な診断ができる。経会
陰式超音波下前立腺生検術を勧めています。
① 経会陰式超音波下前立腺生検術
これは,肛門に超音波のプローベを挿入して,画像を見ながら,陰嚢と
肛門の間に針を刺して,組織を針で採取する方法です。肛門を介さない
ので,便に汚染されたり,直腸粘膜からの出血がみられることはありませ
ん。しかし,皮膚を刺すので,しっかりした麻酔が必要で,好生館泌尿器
科では,手術室で行います。手術に準じて,心電図、肺機能や一般的な
手術前の検査を行い,入院期間は合併症や副作用が起きなければ2泊
3日としています。
経会陰式前立腺生検術では,癌の好発部位である peripheral zone(前立
腺の辺縁部)を,針1本あたりたくさんの量組織が採取できるため,癌の
発見率が,経直腸式前立腺生検術より高いようです。
② 経直腸式超音波下前立腺生検術
前立腺は肛門から5~8cmほど奥に存在します。
肛門に超音波のプローベを挿入して,画像を見ながら組織を肛門から針
で採取する方法です。短所としては、細菌感染のリスク(便があるので)。
があることと直腸粘膜からの出血があります。
利点としては、経会陰の方法程、しっかりした麻酔がいらないことです。
上の写真は、実際に組織を採取する直前直後の超音波画像です。
当科では、経会陰式超音波下前立腺生検術をお勧めしています。しかし、
抗凝固剤を服用していたり、高齢だったり、体力のない人には、経直腸
式超音波下前立腺生検術を勧めることがあります。好生館泌尿器科で
は、平成 21年以降はほとんど経会陰式超音波下前立腺生検術が行わ
れています。
当院での前立腺生検方法・例数の推移
前立腺生検術は入院して行う施設と外来で行う施設がありますが、好生
館泌尿器科では、入院して行っています。手術室で麻酔をかけて、完全
に痛みのない状態で行います。生検の合併症としては排尿障害、血尿、
疼痛などがあります。平成22年の主な合併症(退院が延期となった場合
や、何らかの処置を要した場合です。一過性の軽微なものは含まれてい
ません)は以下の通りです。
0
20
40
60
80
100
120
140
160
経直腸前立腺生検
経会陰前立腺生検
平成22年の合併症(生検を受けた方:163名)
尿閉(尿が出ない):12名(7.4%)
血尿:2名(1.2%)
発熱(38.0℃):1名(0.6%)
疼痛(鎮痛剤を使用):1名(0.6%)
前立腺癌の診断がつけば,詳細に全身を検査し,治療方針をご本人、ご
家族の方と一緒に相談して決めます。
前立腺腫瘍マーカーPSA
現在、佐賀県でも大半の市町村で前立腺癌検診が行われています。前
立腺腫瘍マーカーPSAを、採血で調べる方法です。基本的には0~4
ng/mlを正常としています。この PSAの値が 4.0を超えると、前立腺癌の
疑いがあるということで、泌尿器科受診を勧められます。やはりこの PSA
の値が大きければ大きいほど前立腺癌である確率が高くなります。
PSA別の前立腺癌病期分類
好生館泌尿器科で検査したPSA4.0以上の患者さん144人のうち51人
(36.2%)に前立腺癌が見つかっています。前立腺腫瘍マーカーPSA
は値が小さいと早期癌,大きいと進行癌の比率が増すようです。
佐賀県内でも、多くの市町村で前立腺癌の採血(前立腺腫瘍マーカー
PSA)による検診が普及してきました。佐賀市も昨年から検診に、この前
立腺腫瘍マーカーPSAの採血が加わっています。
前立腺癌の検診は,他の癌の検診に比べて10倍以上高い発見率で癌
が見つかる検診です。前立腺癌の検診は簡単。採血(前立腺腫瘍マーカ
ーPSA)をするだけです。一応正常値が,4以下として,4.1以上の時に生
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
100%
~4.0 ~10 ~20 ~30 ~50 ~100 ~300 300~ 4.0~
不明
stage D
stage C
stage B
癌(-)
検を勧めるとされています。私の病院で,4.1以上の人を生検して前立腺
癌が見つかる割り合いは,グラフに示しましたが、全体で36.2%でした。
佐賀県の検診のまとめでは,驚くべきことに、生検した人の半分前後で,
癌が見つかっています。ただし、正常値を0~4ng/ml としていますが、前
立腺腫瘍マーカーPSA)が0~2,2~4の人の中に,4以上よりは,割合
は少ないですが,一定の割り合いで癌の方がいるといわれています。PS
Aは年齢とともに上がっていくと言われています。
※父親や兄弟に前立腺癌の人がいる場合や、若い人でも2.0~4.0の
値の人は、泌尿器科で是非相談してください。
前立腺腫瘍マーカーPSA
4~20 :前立腺生検を行った人の内約 2~4割に前立腺癌が見つかり
ます。ほとんどが stage Bの早期癌です。
20~50 :7割以上で,前立腺癌が発見されます。数字が上がるほど進
行癌の比率が増すようです。
50以上 :見つかった前立腺癌の半分以上が進行癌です。
PSA検診にて以上を指摘された方は是非泌尿器科を受診してくださ
い。また、前立腺癌の診断がついた患者さんの治療には、CT検査、骨転
移を調べる骨シンチグラフィー検査などの画像診断にて正確な病期診断
を行います。年齢、合併症、病期(前立腺癌の進行状態)に応じた、個々
の患者さんに最も適した治療を提示した上で、納得してもらうよう努力し
ています。癌の悪性度が低かったり、初期のものでは必ずしも治療が必
要とは限りません。患者さんによっては、治療せずに経過観察を行うこと
もありますので、医師と十分相談してください。
治療を行う場合は、内分泌療法、手術療法、放射線療法などから、最適
な治療法を提示し、十分理解した上で、さまざまな科と協力して行ってい
ます。前立腺癌の根治手術を行う場合は、出血時の輸血を極力防ぐため
に、患者さんの血液を保存しておいて、手術の時に使用する方法(自己
血輸血)を、お勧めしています。年齢や合併症で根治手術が困難な場合
は、内分泌療法と放射線療法を組み合わせた方法などを取り入れていま
す。
最後に、当院での前立腺生検および前立腺全摘術(前立腺癌の手術)を
行う際の、説明同意書を以下に付記します。
経会陰式前立腺針生検を受けられる方へ
1 生検の適応について
前立腺特異抗原(PSA:正常値は 4.0 以下です)が正常値より高いため、前立腺
の悪性腫瘍(癌)の可能性があります。また、PSA 値は正常であっても、診察
(直腸診)や画像検査(CT、MRI など)で前立腺癌が疑われる所見を認めたた
め、前立腺生検により前立腺組織を採取し、癌の有無の確認を行います。
2 経会陰式前立腺針生検とは
肛門よりエコーを挿入し、前立腺を観察します。同時に会陰部より生検針を前
立腺に刺入して組織を採取します。この組織を病理検査(顕微鏡検査)に提出
して、癌細胞の有無を調べる検査法です。当院では、麻酔科による全身麻酔の
下、手術室で生検を行っています。その為、2 泊 3 日の検査入院で行っています。
3 検査を希望されなかった場合
もし前立腺に癌が存在していた場合には、癌を放置する事になります。このた
め生命予後(余命)に重大な影響を及ぼす可能性があります。また、生検を行
っても、大きさの小さな癌であれば、癌が検出されない可能性が 2~3 割ほどあ
ります。このため今回の生検で癌を認めなかったとしても、PSA 採血による定
期的な経過観察は必要です。
4 生検以外の検査方法
診察(直腸診)、PSA 測定、CT、MRI など諸検査がありますが、いずれの検査
も確定診断には至りません。癌を確定させる検査法としては生検しかないのが
現状です。
5 合併症とその対応について
(1)出血
血尿、血便または血精液症といった症状が出現する場合があります。多くの場
合は、排尿初期のわずかな出血(血尿)がほとんどです。通常の出血は少量で
すが、大量に出血して輸血したという報告もあります。直腸内への出血が激し
い場合には大腸ファイバーで観察し、止血する場合もあります。この場合はさ
らに数日間の入院治療が必要です。また生検による死亡例の報告もあります。
ただ、多くは程度が軽く短い期間で治まりますが、検査後 1~2 ヶ月ほど続く場
合もあります。
(2)感染
急性前立腺炎や急性精巣上体炎などの感染を起こす可能性があります。症状と
しては、発熱や排尿時痛、下腹部痛などがあります。この場合は、抗生剤の治
療などを行いますし、程度がひどい場合には入院加療が必要となることがあり
ます。
(3)排尿困難
生検後に一過性に排尿困難(尿が出にくい、尿が出ない)が出現する場合があ
ります。導尿やカテーテル留置などの処置を行う場合もあります。
(4)陰部違和感
直腸からエコーを挿入し、会陰部から針を穿刺するために検査後しばらくの間、
陰部の違和感や疼痛が残る場合があります。
※“痔”がある方の場合は検査後に症状が悪化する可能性があります。
(5)血栓症
まれではありますが、手術中や術後に下肢の静脈に血栓が出来る場合がありま
す。この血栓が肺の血管につまる(肺梗塞)場合があり、つまる血管の部位に
よっては、非常に重篤な状況(突然死など)になる場合もあります。予防する
ために術中、術後は足にマッサージの装置を付けることがありますが、これで
完全に予防できるわけではありません。もし、発症した場合は、診断がつき次
第、適切な処置を行います。
(6)その他
残念ながら、手術および麻酔において 100%安全だという約束は出来ません。ど
の様な手術や麻酔でも合併症はある一定の割合で生じてしまうのが現状です。
合併症にも軽度のもの(少量の出血など)から非常に重篤なもの(術死など)
まで様々なものがあります。また周術期(手術および、その前後の期間)に心
筋梗塞や脳卒中などの予期せぬ病気が発症することもあり得ます。現代医学で
も、これらの合併症や病気の発生率を 0%に出来ないのが現状です。我々として
は迅速かつ適切な処置で対応することを心がけています。この点を十分ご理解
下さい。
6 検査はご本人の意思に従って行われます
検査を受けるか否かの判断は、あくまでも患者さん本人に決定権があります。
つまり、いつでも検査のキャンセルは可能です。
7 その他
(1)
(2)
(3)
年 月 日
佐賀県立病院好生館泌尿器科
医師 印
手術・麻酔・検査・特殊療法同意書
佐賀県立病院好生館 館長 殿
私はこのたび病状について担当医師から説明を受け、その必要性と、それに伴う危険
性及び偶発症などについて十分理解し、手術・検査・その他、医師が必要と認める診療
を受けることを承諾します。
平成 年 月 日
患者 氏名 印
代筆者の場合、氏名 続柄
親族等 氏名 印 患者との続柄
住所
電話番号 - -
○患者の欄は、本人が記入して押印してください。ただし、疾病のため本人が記入できない時は
代筆し、患者との続柄を記入の上患者印を押印してください。なお、患者が未成年、精神障害者
または意識障害者については、その親権者、後見人、扶養義務者、保護者義務者が記入し、押印
してください。
○親族等の欄は、配偶者、子、兄弟、姉妹もしくはその親族等の成年者が記入押印してください。
前立腺全摘術を受けられる方へ
1 早期前立腺癌の治療法について
今回、前立腺針生検により前立腺癌の診断に至りました。CT 検査、骨シンチ検査
等により、画像上明らかな前立腺外への浸潤および遠隔転移を認めなかったた
め、早期前立腺癌との診断となりました。
早期前立腺癌の場合、様々な治療法が確立されており、一般的には以下の方法
で治療を行います。
①前立腺全摘術
前立腺を摘出して膀胱と尿道をつなぐ手術で、現在早期前立腺癌に対して最も
よく行われている治療法です。一般には 75 歳位までの方に行いますが、前立腺
全摘術は出血も多く、手術に耐えられないような合併症がある方には行えませ
ん。手術前には自己血を貯血します。手術の方法や合併症などについては、後
ほど説明いたします。
②放射線療法(外照射・組織内照射・併用照射)
前立腺に放射線を当てる方法で、体の外から当てる外照射法と、前立腺の中に
放射線を出す針や線を入れる組織内照射法があります。根治性に関しては、外
照射は手術とほぼ同等またはやや低いといわれています。組織内照射法の根治
性に関しては、日本ではまだ長期の成績がないため手術との比較は困難です。
合併症には放射線性直腸炎(下痢、下血、狭窄)、放射線性膀胱炎(血尿、萎縮膀
胱)、性機能障害などがあります。再発の可能性が高い方には外照射と内照射を
併用する方法もあります。
③ ホルモン治療
ホルモン治療はおもに進行している方に適応がありますが、癌が前立腺にとど
まっている方でも高齢の方、合併症のため手術できない方には使用します。た
だし、癌の根治は期待できず、多くの場合はいずれ効果が無くなります(前立
腺癌を冬眠させる治療だとご理解していただければ良いかと思います)。また薬
剤は長期にわたって継続する必要があり、副作用による肝機能障害、脱力感、
体のほてり、発汗、性機能障害等の副作用が見られる場合があります。
④ 無治療経過観察
上記に挙げた治療をせず無治療で経過観察をするという方法もあります。PSA
が低く、癌の病巣が小さく、悪性度が非常に低い場合にのみ適応となります。
しかし、こういった方でも年々癌は大きくなる可能性があるため、主に高齢の
方が対象となります。また生検結果は必ずしも癌の状態を正確に反映している
とは限りません。手術で摘出した前立腺を詳しく検査すると、生検結果よりも
はるかに広範に癌を認めることはしばしば経験します。このため 1 年に 1 回は
生検をお勧めします。
2 なぜ前立腺全摘術を勧めるのか
上記③のホルモン治療は、癌を根治することは期待できず、いずれ治療抵抗性
になる可能性があります。余命を考えると、ホルモン治療だけで前立腺癌をコ
ントロールすることは難しいと考えます。
④の無治療経過観察は、癌の進行を許してしまい、適切な治療のタイミングを
逸してしまう可能性が高いと考えます。
②の放射線治療に関しては、根治性は手術とほぼ同等と考えられており有効な
治療法であると考えます。しかしながら、以下の 2 点の理由より前立腺全摘術
より不利な点があります。
(1)いずれの治療を行っても、残念ながら再発する可能性はあります。前立
腺全摘術の術後に再発した場合は、放射線治療が可能です。しかし、放射線治
療の後に再発した場合には、前立腺周囲が強い癒着を起こしてしまうため、前
立腺全摘術は非常に困難になります。このため多くの場合はホルモン治療を行
います。
手術→放射線→ホルモン治療
放射線→ホルモン治療
つまり手術を行って術後に再発した場合と、放射線治療を行って治療後に再発
した場合では、残されている治療法の数が違います。より多くの治療法が残さ
れている手術がより「安全」だと考えています。
(2)前立腺全摘術では前立腺と所属リンパ節を摘出します。摘出標本を病理
検査で評価することによって正確な細胞レベルでの診断がつきます。一方、CT
などの画像診断では、癌細胞が数万個の集まりに増殖しなければ異常を指摘で
きません。つまり細胞レベルでの、微小な転移や前立腺外への浸潤は、画像診
断では指摘できません。この病理診断は、前立腺全摘術後の再発の予測や、再
発した場合の治療法などに大変参考になります。完全切除が出来れば補助療法
が必要なくなります。放射線治療ではこの正確な診断ができず、過小評価とな
ってしまうことがあります。
3 前立腺全摘術とはどのような手術か
1. 全身麻酔で行います。術中の麻酔の補助、術後の痛みを和らげるため背中か
ら硬膜外麻酔用のチューブを入れることが多いです。
2. 臍より下の皮膚を縦切開します。
3. 両側の所属リンパ節の摘出を行います。
4. 膀胱と前立腺、前立腺と尿道をそれぞれ切り離して、前立腺・精嚢をとり出
します。
5. 膀胱と尿道をつなぎ合わせます。
6. 浸出液などを体外に出すための管(ドレーンチューブ)を入れて創を閉じま
す。
7. 手術時間は麻酔時間を入れると通常 5-7 時間で手術室から戻ってこられます。
8. 約 10 日後に尿道バルーンカテーテルから造影検査をして、膀胱と尿道の吻
合部からの漏れがなければカテーテルを抜去します。漏れがある場合には、
さらに 1週間ほど尿道バルーンカテーテルを留置し、再度造影検査をします。
つまり吻合部からの漏れが消失するまで尿道バルーンカテーテルを留置し
ます。尿道バルーンカテーテルの留置によって吻合部からの漏れはいずれ消
失します。カテーテル抜去直後は、尿失禁が出現しますが、徐々に良くなっ
ていきます。完全に失禁が改善するには数ヵ月から 1 年近くかかることがあ
ります。
4 合併症とその対応について
ほとんどの手術は安全に行われ、術後も順調に経過しますが、100%安全に手術
ができるとは限りません。低い確率であっても、何らかの合併症が発生する可
能性のあることをご理解下さい。主な合併症には次のようなものがあります。
(1) 出血
手術時の出血や術後出血に対して、基本的には自己血で対応します。しか
し、自己血のみでは対応できない場合には、献血からの血液を輸血する場
合があります。
(2) 術後出血
手術後に出血が始まる場合があります。血管塞栓術や再手術が必要となる
場合があります。
(3) 直腸損傷
前立腺の後面は直腸が接しています。前立腺と直腸の間をはがす時に直腸
に穴があくことがあります。小さな穴の場合にはその穴を縫合して、術後
しばらく絶飲食とし、縫合部が修復されるのを待ちます。大きな穴の場合
は、人工肛門を造設することがあります。直腸の状態などが良ければ数ヵ
月後に手術で腸をもとの状態に戻します。しかし、状況によっては永久的
に人工肛門状態となる場合があります。まれに手術中に直腸損傷が確認で
きず、術後に判明することがあります。この場合は、緊急手術が必要とな
ることがあります。
(4) 尿失禁
前立腺の先端付近には尿道を締める括約筋という筋肉があります。前立腺
全摘術では括約筋の一部を損傷します。そのため術後尿失禁が出現します。
したがって術後は、しばらく尿パッド(おむつ)が必要となります。括約
筋の訓練で通常は 1 年ぐらいでほとんど漏れない状態になりますが、10%
程度の方では尿失禁が残ってしまいます。一般に 70 歳をこえると失禁の
率が高くなるといわれています。術後、数か月経っても失禁を認める場合
には薬剤を使用することもあります。
(5) 性機能障害(ED)
前立腺・尿道の後面には勃起神経が両側に存在しています。通常の手術で
はこの神経を切断するため、術後勃起できなくなります。癌の部位や広が
りによっては、勃起神経を温存することも可能ですが、術後に確実に勃起
能が回復するとは限りません。また神経を温存することで癌をとり残す危
険が大きくなります。また、出血が多くなることがあります。片側の神経
を温存した場合の機能温存率は 20-30%程度です。前立腺全摘術後、勃起
が可能になっても射精はできません。
(6) 吻合部狭窄
膀胱と尿道の吻合部が狭窄する場合があります。狭窄は術後数か月して生
じる場合が多く、拡張や尿道切開などで対応します。
(7) 尿管損傷
膀胱と前立腺を切離した後、膀胱の修復を行う際に尿管を巻き込んでしま
う可能性があります。この場合は、一時的に腎瘻を造設したり、尿管ステ
ントを留置したりする可能性があります。再度手術が必要な場合もありま
す。
(8) 感染など
創感染で創が開いたり、筋膜が開いて創ヘルニアになったりする事があり
ます。また、術後感染を生じたり、骨盤内に液体が貯留したり、鼠径ヘル
ニアや陰嚢水腫が出現することも稀にあります。これらのなかには再手術
が必要な場合もあります。
また所属リンパ節の摘出によって、リンパ管が切断されます。リンパ液の
流れが遮断されることで下肢が腫れる場合や、リンパ液が漏れることで骨
盤内にリンパ液が溜まる場合があります。
(9) 血栓症。
まれではありますが、手術中や術後に下肢の静脈に血栓が出来る場合があ
ります。この血栓が肺の血管につまる(肺梗塞)場合があり、つまる血管
の部位によっては、非常に重篤な状況(突然死など)になる場合もありま
す。予防するために術中、術後は足にマッサージの装置を付けますが、こ
れで完全に予防できるわけではありません。もし、発症した場合は、診断
がつき次第、適切な処置を行います。
(10)その他
残念ながら、前立腺全摘術に伴う死亡例の報告もあります。手術および麻
酔において 100%安全だという約束は出来ません。どの様な手術や麻酔で
も合併症はある一定の割合で生じてしまうのが現状です。合併症にも軽度
のもの(少量の出血など)から非常に重篤なもの(術死など)まで様々な
ものがあります。また周術期(手術および、その前後の期間)に心筋梗塞
や脳卒中などの予期せぬ病気が発症することもあり得ます。現代医学でも、
これらの合併症や病気の発生率を 0%に出来ないのが現状です。我々とし
ては迅速かつ適切な処置で対応することを心がけています。この点を十分
ご理解下さい。
5 手術の根治性と再発時の治療について
前立腺全摘術は、癌が前立腺に限局していると診断された方に対して、癌を完
全に取り除くことを目指して行う手術です。しかし前立腺癌は手術前に病巣の
広がりを正確には診断できません。癌が限局していると診断したのは、あくま
でも画像診断によるもので、画像に現れない浸潤・転移もあります。手術で摘
出した前立腺やリンパ節を病理検査に提出します。病理検査結果で明らかに前
立腺の外に癌が浸潤している場合(癌が前立腺に限局していなかった場合)は、
術後に放射線治療を追加する場合があります。術後も PSA や CT でのフォロー
が必要です。PSA が上昇してきた場合には再発と考えます。再発した場合には
放射線治療やホルモン治療を追加する予定です。病理検査でリンパ節転移を認
めた場合には、ホルモン治療を追加する予定です。
6 手術はご本人の意思に従って行われます
手術を受けるか否かの判断は、あくまでも患者さん本人に決定権があります。
つまり、いつでも手術のキャンセルは可能です。
7 その他
(1)
(2)
(3)
年 月 日
佐賀県立病院好生館泌尿器科
医師 印
手術・麻酔・検査・特殊療法同意書
佐賀県立病院好生館 館長 殿
私はこのたび病状について担当医師から説明を受け、その必要性と、それに伴う危険
性及び偶発症などについて十分理解し、手術・検査・その他、医師が必要と認める診療
を受けることを承諾します。
平成 年 月 日
患者 氏名 印
代筆者の場合、氏名 続柄
親族等 氏名 印 患者との続柄
住所
電話番号 - -
○患者の欄は、本人が記入して押印してください。ただし、疾病のため本人が記入できない時は
代筆し、患者との続柄を記入の上患者印を押印してください。なお、患者が未成年、精神障害者
または意識障害者については、その親権者、後見人、扶養義務者、保護者義務者が記入し、押印
してください。
○親族等の欄は、配偶者、子、兄弟、姉妹もしくはその親族等の成年者が記入押印してください。