18 腫性疾患 granulomatous disorder324 18 章 真皮,皮下脂肪組織の疾患 18...
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真皮の疾患/ D.肉芽腫性疾患 323
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病理所見
真皮上層に変性した弾性線維の蓄積を認め,その上方にある
表皮が異常線維を巻き込むように真皮内へ増殖している像が認
められる.表皮肥厚や真皮での異物肉芽腫も観察される.
2.反応性穿孔性膠原線維症 reactive perforating collagenosis
体幹や四肢に,角栓を伴う直径 1 cm 程度の硬い茶褐色結節
が多発する.外傷などを契機として膠原線維が変性し,経表皮
性排泄をきたしたものである.糖尿病や腎不全を背景に生じや
すく,瘙痒が強い.Kケブネル
öbner 現象陽性になることがある.
3.結節性耳輪軟骨皮膚炎 chondrodermatitis nodularis helicis
同義語:慢性結節性耳輪軟骨皮膚炎(chondrodermatitis nodu-
laris chronica helicis)
耳輪(とくに上部)に 1 cm 大程度の有痛性の角化性結節が
生じる(図 18.13).日光,外傷,寒冷などの外的刺激によっ
て耳輪軟骨と膠原線維に変性と炎症が生じ,膠原線維の経表皮
的排泄をきたしたものである.中年以降の男性に好発し,脂漏
性角化症,基底細胞癌,有棘細胞癌などとの鑑別を要する.治
療はステロイドの外用および局所注射,外科的切除を行う.
1.サルコイドーシス sarcoidosis
● 原因不明の全身性肉芽腫.
● 皮膚病変は特異疹(肉芽腫病変)と,反応性の非特異疹(結
節性紅斑などの炎症病変)に大別される.
● 両側肺門リンパ節腫脹(bilateral hilar lymphadenopathy;
BHL),ぶどう膜炎など.
● 血清 ACE 活性高値,高カルシウム血症,ツベルクリン反応
陰性.
● 治療はステロイド外用,内服など.
D.肉に く
芽げ
腫性疾患 granulomatous disorder
図 18.13 結節性耳輪軟骨皮膚炎(chondrodermati-tis nodularis helicis)有痛性結節.
サルコイドーシスと 結節性紅斑サルコイドーシスの患者では反応性の脂肪組織の炎症として,結節性紅斑が生じることがある.一方,サルコイドーシスでは下腿伸側を好発部位として皮下脂肪組織に肉芽腫を形成することもある.このサルコイドーシスの特異疹は,臨床上は結節性紅斑と区別できず,これをサルコイドーシスの結節性紅斑様皮疹と呼ぶ.
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定義・疫学・病因
サルコイドーシスは,多臓器に出現する原因不明の肉芽腫を
伴う炎症性疾患で,病理組織学的に類上皮細胞肉芽腫を特徴と
する.20 歳代と 50 歳以上に好発しやすい.病因は不明であるが,
①遺伝的素因(欧米では HLA-A1 などと相関がある),②環境
素因(近年は細胞壁欠失型 Propionibacterium acnes との関連が
注目されている),③免疫学的素因(Th1 細胞や組織球の活性化,
IL-2 上昇など)などが複雑に絡んで発症すると考えられる.
皮膚症状
サルコイドーシスの約 25%で皮膚病変を認める.類上皮細
胞肉芽腫によって多彩な皮膚病変を生じる特異疹と,反応性の
炎症病変による非特異疹に大別される.
①皮膚の特異疹(specific lesion)
下に代表的な病型を示す.これらの病変が混在して生じるこ
とが多い.
結節型(図 18.14①a 〜 c):最も多い病型で,顔面(とくに鼻
周囲)や四肢,体幹の中心側に好発する.3 〜 30 mm 大の円
形〜楕円形,淡紅色から暗紅色の浸潤性紅斑や丘疹が多発す
る.下腿においては小型の丘疹が生じることが多い.
局面型(図 18.14①d,e):辺縁は堤防状に隆起し,中央は萎
縮性の扁平な浸潤局面を呈する.顔面に好発する.
びまん浸潤型(図 18.14②a,b):暗赤色のびまん性浸潤局面が
対称性に生じる.鼻,頬,耳,指趾などの凍瘡の生じやすい部
位に好発し,臨床像も凍瘡に酷似するが,自覚症状や季節性は
ない(lupus pernio).難治性である.
皮下型:四肢に好発し,皮下の弾性硬の硬結として触れる.大
きさは直径 3 〜 30 mm.
瘢痕浸潤型(図 18.14②c,d):膝,肘などの外傷を受けやすい
部位に好発し,外傷などでできた陳旧性の瘢痕の上に類上皮細
胞肉芽腫を生じる.サルコイドーシスに特有で診断的価値が高
い.
結節性紅斑様皮疹:外見は結節性紅斑と同様であるが,病理組
織学的に類上皮細胞肉芽腫を認めるもの.自然消退することが
多い(p.323 MEMO 参照).
その他:苔癬様型,潰瘍型,魚ぎょ
鱗りん
癬せん
型,白斑型,疣ゆう
贅ぜい
型,紅斑
症型などの特殊型がある.
②非特異疹(nonspecific lesion)
結節性紅斑(p.323 MEMO 参照),皮膚瘙痒症,多形紅斑な
どを生じうる.図 18.14① サルコイドーシス(sarcoidosis)a,b,c:結節型.d,e:局面型.
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真皮の疾患/ D.肉芽腫性疾患 325
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全身症状
発熱や倦怠感で初発し,不明熱の原因の一つになるが,自覚
症状に乏しい例も多い.種々の臓器に類上皮細胞肉芽腫を形成
する.とくに肺,眼,心臓に好発する.
肺病変:BHL や肺実質浸潤,進行すると肺線維症をきたす.
乾性咳嗽や呼吸困難を約半数で認める.
眼病変:肉芽腫性前部ぶどう膜炎などを生じる.
心病変:房室ブロックなど.突然死の原因になりうる.日本で
は死亡例の 77%が心病変による.
その他:肝機能障害,関節炎,筋肉病変,骨囊胞,中枢および
末梢神経病変,耳下腺炎などを生じうる.
病理所見
非乾酪性の類上皮細胞肉芽腫(サルコイド肉芽腫)が特徴的
(図 18.15)で,肉芽腫周囲には炎症細胞浸潤が少ない(naked
granuloma).巨細胞においては,封入体としてシャウマン小体
(Schaumann body)や星状体(asteroid body)をみることがある.
シャウマン小体は好塩基性で円形の層状構造を有し,カルシウ
ム沈着を伴う.星状体は,中心に核を有し放射状の針状構造が
みられる.瘢痕浸潤では上記病変に加え,異物(シリカなど)
を認める.
診断・鑑別診断
基本的に臨床像と病理組織学的診断,他疾患の除外によって
診断される.検査所見などは表 18.2 を参照.皮膚病変では,
図 18.15 サルコイドーシスの病理組織像(枠内は星状体の拡大像)非乾酪性類上皮細胞肉芽腫が特徴的である.矢印は星状体をさす.
図 18.14② サルコイドーシス(sarcoidosis)a,b:びまん浸潤型(lupus pernio).c,d:瘢痕浸潤型.
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326 18 章 真皮,皮下脂肪組織の疾患
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環状肉芽腫,環状弾性線維融解性巨細胞肉芽腫,リポイド類壊
死症,Mメルカーソン
elkersson-Rローゼンタール
osenthal 症候群,顔面播種状粟ぞくりゅう
粒性狼ろう
瘡そう
,酒しゅ
皶さ
,皮膚抗酸菌感染症,悪性リンパ腫などとの鑑別が必要であ
る.皮膚生検は必須であり,必要に応じて組織培養検査や
PCR 法を行う.
サルコイドーシスに 関連した症候群
表 18.2 サルコイドーシスの診断基準
真皮の疾患/ D.肉芽腫性疾患 327
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治療
本症は約 2/3 の症例で自然軽快する.進行性の肺病変を有す
る例や,心臓,眼,神経病変があるものはステロイド内服が有
効である.皮膚病変に対してはステロイド外用を行う.
2.環状肉芽腫 granuloma annulare;GA
● ドーナツ状の辺縁隆起性の皮疹.
● 病理組織学的に,柵状に細胞が取り囲む肉芽腫(柵状肉芽腫)
を形成.
● 皮疹の形,分布から 4 型に分類される.
● 全身に汎発するものでは,糖尿病を合併していることが多い.
症状・病理所見
主に手背や足背にドーナツ状の小丘疹として生じ,それが遠
心性に拡大して,環状に硬い小丘疹が配列する形態をとる(図
18.16).色調は常色〜淡紅色で,環の中央は陥凹する.鱗りん
屑せつ
や
自覚症状を伴わない.病理組織学的には,中央に変性した膠原
線維を入れ,その周囲を組織球やリンパ球,巨細胞が放射状に
取り囲む柵状肉芽腫(palisading granuloma)の形態をとる(図
18.17).中央の不完全壊死をきたした部位には酸性ムコ多糖が
沈着する.
病因
発症機序は十分に解明されていないが,末梢循環障害,糖尿
病のほか,虫ちゅうし
刺症,紫外線,外傷などが誘因となる.B 型肝炎
や HIV など,感染症に関連して発症する報告もある.
環状肉芽腫の臨床分類①限局性環状肉芽腫(localized granuloma annulare)
最も多い病型.手指背や関節部位などの一定部位に限局する.約半数の症例では 2 年以内に自然治癒する.
②汎発型環状肉芽腫(generalized granuloma annulare)中高年の女性に好発し,体幹や四肢末端に,両側性および散在性に小型の環状肉芽腫が多発する.糖尿病を合併している症例が多い.
③穿孔型環状肉芽腫(perforating granuloma annulare)中心臍窩のある丘疹で,中心が痂皮で覆われ潰瘍を形成することがある.変性膠原線維が経表皮的に排出される.
④皮下型環状肉芽腫(subcutaneous granuloma annulare)小児に好発し,常色の皮下結節として触れる.頭部や前脛骨部などに好発する.
図 18.16① 環状肉芽腫(granuloma annulare)a,b:限局性環状肉芽腫.c,d:汎発型環状肉芽腫.
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治療
自然治癒しやすく,皮膚生検後にその病変部位が退縮するこ
とも多い.局所治療としてはステロイド外用,PUVA 療法,凍
結療法など.糖尿病を合併している場合はその治療を行う.
3.環状弾性線維融解性巨細胞肉芽腫 annular elastolytic giant cell granuloma;AEGCG
同義語:日光性肉芽腫(actinic granuloma),エラストファジ
ック巨細胞性肉芽腫(elastophagic giant cell granuloma)
変性した弾性線維〔日光弾性症(solar elastosis)〕を貪食す
る巨細胞が中心となった肉芽腫性病変である.中年女性に好発
し,辺縁が隆起し中央が脱色した大型の環状局面として,顔面
や頸部,四肢など露出部に出現する(図 18.18).あたかも環
状紅斑のようにみえることがある.自然消退することが多い.
環状肉芽腫の亜型とする考え方が有力である.
4.Mメルカーソン
elkersson-Rローゼンタール
osenthal 症候群
Melkersson-Rosenthal syndrome
類義語:肉芽腫性口唇炎(cheilitis granulomatosa)
症状
20 歳代に好発し,口唇の腫脹,皺襞舌,顔面神経麻痺を 3
主徴とする.上記すべてが出現するものを Melkersson-Rosental
症候群というが,口唇の腫脹のみを訴える症例も多く,肉芽腫
性口唇炎という.
口唇の腫脹:口唇(とくに上口唇)の突然の腫脹がみられる(図
18.19).頬粘膜の腫脹を伴うこともある.これらの腫脹に疼痛
などの自覚症状はなく,数時間から数日間持続する.再発を繰
り返しながら,次第にゴム様の硬さに変化し腫脹が持続するよ
うになる.
皺すうへき
襞舌:口唇の腫脹と同時に舌も腫大し,表面の皺襞が著明と
なる.
顔面神経麻痺:頬部の腫脹に先行あるいは同時に,突然片側の
末梢性顔面神経麻痺をきたす.再発と寛解を繰り返すうちに症
状が固定する.
病因・病理所見
病因は明らかではないが,歯科金属アレルギー,サルコイド
反応などが示唆されている.病理組織学的には,初期では真皮
図 18.16② 環状肉芽腫(granuloma annulare)a:穿孔型環状肉芽腫.b:皮下型環状肉芽腫.
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★
図 18.17 環状肉芽腫の病理組織像中心部に変性した膠原線維とムチン沈着を認め(★印),その周囲に柵状の類上皮細胞肉芽腫を認める.
真皮の疾患/ E.遺伝性結合組織疾患 329
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全層のリンパ浮腫とリンパ球,組織球浸潤が認められる.慢性
期ではリンパ球,類上皮細胞,Lラングハンス
anghans 型巨細胞からなる肉
芽腫性病変を示す.
治療
対症療法的に抗ヒスタミン薬内服,ステロイド内服ないし局
所注射が行われる.
5.乳児殿部肉芽腫 granuloma gluteale infantum
乳児のおむつ接触部位(肛門周囲〜殿部が多い)に一致して,
類円形で 1 〜 4 cm 大までの比較的硬い扁平隆起性,紅褐色の
結節が多発する.ときにびらん,潰瘍を伴う.おむつを使用す
る高齢者にも出現する.糞便,尿,カンジダ感染などの慢性的
な外的刺激によって発症すると考えられている.病理組織学的
には,表皮肥厚と真皮内への多彩な細胞浸潤が認められる.刺
激物の除去により数か月で自然消退する.
1.Eエーラス
hlers-Dダンロス
anlos 症候群 Ehlers-Danlos syndrome;EDS
● 先天性の結合組織疾患.常染色体優性遺伝であるものが多
い.
● 皮膚の過伸展と脆弱性,易出血性,靱帯や関節の可動性亢進
の 3 主徴.
E.遺伝性結合組織疾患 hereditary connective tissue disease
図 18.19 肉芽腫性口唇炎(cheilitis granulomatosa)
図 18.18 環状弾性線維融解性巨細胞肉芽腫(annular elastolytic giant cell granuloma)