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1.時制の一致の概念言語には,現在時から見て,事実が起こった時点の捉え方により文の構成が変化することがあります。高校教材に見られる話法ではこのことが顕著になります。(1)He said, “I am busy today.”(2)He said that he was busy that day.(1)の直接話法とは,He saidの部分で「彼が話した時点は現在から見て過去時である」ことを提示した上で,聞き手(読み手)にその時点までタイムスリップしてもらい,実際に話したままを引用符で囲むという方法です。これに対して,(2)の間接話法では「忙しいという内容」を発話時から見て描写するので,I → he,is→ was,today→ that dayのように語句が変換されます。この中で動詞を適切な形態に整える操作を「時制の一致現象」と呼びます。一連の操作は文全体を実際の時刻から相対的な時刻を示す表現に適応させる変換を意図します。(1)の絶対時制を表す副詞 todayが(2)では that dayという相対時制に対応する副詞に変換されていることからも明らかです。2.英語と日本語の時制の一致次に,時制の観点から英語と日本語の特徴を調べておきましょう。英語は動詞などを変
化させるのに対して,日本語では「〜です/〜ます(現在時)」と「〜でした/〜ました(過去時/完了時)」という語尾で時制の違いを示します。ただし時制の一致を受ける場合の英語と日本語の対応関係に注意しましょう。(3) a. Tom knows that her father is a teacher. b. トムは,彼女の父親が教師であること
を知っている。(4) a. Tom knew that her father was a teacher. b. トムは,彼女の父親が教師であったこ
とを知っていた。 c. トムは,彼女の父親が教師であること
を知っていた。[(4)aの日本語訳](5) *Tom knew that her father is a teacher.主節と従属節が現在時である(3)aと(3)bは,英語も日本語も主節動詞の時制に従属節動詞が一致しています。(4)aでは主節動詞 knowが過去形になった場合に,従属節の be動詞 isが wasに変更されて,時制の一致が起こります。ところが対応する日本語は時制の一致を受けない(4)cが的確で(4)bはあてはまりません。さらに(4)cは一見(5)に対応する日本語のように見えますが,今度は(5)の従属節が主節との時制の一致操作をしていないので非文となります。このことから,日英では時制の一致現象に相違があることがわかります。3.時制の一致の例外原則ところでよく指摘されているように,英語では時制の一致の例外があります。(6)He said that the sun rises in the east.(7)We were taught that Columbus discovered
America in 1492.(6)は不変の真理を表すので過去の発言であっても現在形で対応します。また,(7)は歴史上の事実なので,過去完了にすることなく,
内田 恵静岡大学教授
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時制の一致と英語
Book3p.66 の関係代名詞を含む文Steviecontinuedtowritealotof
songswhichtouchedpeoplearoundtheworld. では時制の一致を受けていますが,p.67 の同様の文 Hedecidedtohelpotherswhohavedifficulties. では時制の一致が見られません。どのような理由があるのか教えて下さい。
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15教科研究 TOTAL ENGLISH No.125
過去形で表現されます。言いかえれば,「誰もが認められる事実や史実は時間の流れを超越するので時制表現はどのような環境でも変化しない」と言えます。さらに,現在時点でも続く習慣または状況は時制の一致を受けないことがあります。この分析は難解な点もあるので,筋道を立てて見ていくことにします。4.動詞の特徴と時制の一致そこで TOTAL ENGLISHから関係代名詞を含む例をいくつか挙げてみましょう。(8)People who listened to his music were
amazed.(Book 3, p.65)(9)Stevie continued to write a lot of songs
which touched people around the world.(Book 3, p.66)
(10)He decided to help others who have difficulties.(Book 3, p.67)
まず,主語の一部になる関係節と主節の時制が一致している(8)の状況からは,論理的にlisten→ be amazedという時間の流れが確定していることがわかります。ただし仮に現在も驚いた気持ちを持っていれば,主節動詞は現在形 areになることも可能で,ある種の強調を表します。次に,今回の質問文である(9)と(10)は不定詞句の中の目的語に付く関係節である点は同じですが,表す意味の状況が異なります。(9)において continueに続く不定詞の内容はこれから起こりつつある行為であり,その継続状態は(11)のように考えられます。(11)○ 1つが write(書く)という行為を示し「次から次へたくさんの曲を作った」一連の時間を過去時と捉えます。初発時(最初に writeした時点)から何曲か作った歌がそれぞれ人々を感動させたのですから,継続(continue)する繰り返し動作全体が過去形なので,関係節の中も時制を一致させて過去にします。他方 decideは動作動詞の中でも瞬間的な決着がつく行為を表します。さらに不定詞句の内容は,decideが過去形なので過去時のど
こかで起こりうることを予見しています。したがって過去時の内容の一部である関係節内の動詞も当然時制の一致を受けて hadでも問題はありません。しかし,ここで haveを使用しているのは,困難をかかえた人々の現在をもこの表現に加味しているのです。すなわち,「助けはしたが今なお改善途中であったり,新たに助けた人々もいる」という含意です。現在時まで思いが及んで現在形を使用しているので,時制の一致の例外と判断できます。このように話し手の視点がどこの行為に向いているかにより,時制を一致させるかどうかが決まってくることがあります。5.時制の一致の起こりやすさここまでの分析で「どこまでの範囲で時間を切り取るかは話し手の意図によるので,あえて時制を一致させない場合がある」ことがわかりました。一般的に名詞節は時制の一致を忠実に受けやすいと考えられ,関係節(形容詞節)は,時制の一致を受けない例が比較的多く見られると言われています。これは名詞節が主節動詞の補部として密接に組み込まれる構造になっているのに対して,関係節は付加的情報を示すのであって,時制を一致させる操作より話し手の意図のほうが優先されることが多いからであると推測できます。また,副詞節を含む一部の複文では「時制の一致現象」が起こっているのか議論の余地が残ります。例を挙げてみましょう。(12)Before I became an elementary school
student, I went skiing for the first time.(Book 3, p.112)
(12)において斜字体の従属節は,goの過去形の wentで示されている主節の内容よりも以前の事実を示していて,本来は過去完了形で書くところを時間の前後関係を表示するbeforeという接続詞の慣例により過去形で代用していると解釈できます。時制の一致が適用されない例は,英語コミュニケーションの特徴のひとつであり,それを意識した指導が必要になります。
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