当日版140920 教育工学・シム2.0

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医療教育におけるインストラクショナル・シ ミュレーションの枠組み 池上敬一、杉木大輔 獨協医科大学越谷病院 救急医療科 日本教育工学会 30回全国大会@岐阜 140920

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Page 1: 当日版140920 教育工学・シム2.0

医療教育におけるインストラクショナル・シミュレーションの枠組み

池上敬一、杉木大輔獨協医科大学越谷病院

救急医療科

日本教育工学会 第30回全国大会@岐阜 140920

Page 2: 当日版140920 教育工学・シム2.0

医療系卒前教育の変遷と方向性

● 過去 講義中心○ 知識教育○ 実践トレーニングは卒後研修で

↓● 現在 医療シミュレーション教育1.0

○ 伝統的な教育と同等の効果○ 現場での行動変容につながらない

↓● これから 医療シミュレーション教育2.0

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医療シミュレーション教育2.0と研究目的

シミュレーション教育2.0のゴール

● 「できる医療者」の実践能力を学習する

● 医療実践ができる

シミュレーション教育2.0のデザインと実証研究

● インストラクショナル・シミュレーション

● 先行研究にもとづき枠組みをデザインする

● 枠組みを利用し実践事例の効果を評価する

Page 4: 当日版140920 教育工学・シム2.0

インストラクショナル・シミュレーションInstructional Simulation, Gibbons 2009

● 状況・生体反応などのシステムが動的に変化する

● 学習者は動的に変化する状態モデルと相互に関わる

● 動的モデルは非線形モデル

● 教授効果がテクノロジーにより増強されている

● 教授ゴールを達成できる

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デザインに利用した先行研究GB: グリーンブック

1. 臨床実践能力モデル○ ガニェの学習成果の分類 (1985)○ Endsleyの状況認識モデル (1988)○ 人間の情報処理モデル (1988)

2. IDモデル○ コンポーネント・ディスプレイ・セオリ (GB I, 1983)○ 精緻化理論 (GB II, 1979)○ インストラクショナル・トランザクション・セオリ (GB I, 1983)○ ゴールベースシナリオ、ストーリー中心型カリキュラム (GB II, 2007)

3. Romiszowskiのモデル○ Four-stage performance cycle (GB III, 1981)○ Skill schema (GB III, 1981)○ Instructional strategies for skills development (GB III, 1981)

4. Gibbonsのインストラクショナル・シミュレーション (GB III, 2009)

Page 6: 当日版140920 教育工学・シム2.0

「よくできる医療者」はなにができるのか

環境・状況・職場・勤務帯

問題の発見

評価 判断 決定 実行結果の評価

卒倒→駆寄るどうしましたか?

反応がない呼吸がない脈が触れない

心停止の定義を満たす心停止と判断

心停止なら心停止の初動を実行するルールの想起と決定

ルールを実行する

実行した結果を再評価する効果的?合併症?

a. 状況認識i. 状況の知覚

ii. 現状の理解

iii. 起こりうる事態の予測

b. 異常の知覚・懸念

時間軸

行なう評価する 解決を作る問題発見

言動選択 自己制御

他者制御説明する

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臨床実践能力を支える基本動詞と17種類の知識カード

説明する

● 事実カード (良いこと)● リスクカード(悪いこと)

行なう

● 技術カード(静的知識)● 操作カード(静的知識)● 実践カード(動的知識)

評価する

● 評価カード(情報の解釈)● 判断カード(定義された概念)

解決策を作る

● ルールカード(ルール・原理)● 解決策マップ(ルールの関連図)

言動を選択する

● 看護師カード(プロ)● ミッションカード(レベル 4)

問題を発見する(メタ認知技能)

● 患者の問題発見カード● 自分の問題発見カード

自分を整える

● 状況認識カード(状況の理解)● 自己改善カード(感情制御)

相手を整える

● 状況認識カード(危険予測・対策)● 対人改善カード(対人技能)

Page 8: 当日版140920 教育工学・シム2.0

知識カードを経験学習で実践知識に構成

バラバラに外在する知識カード

構成され内在する知識

学習

Page 9: 当日版140920 教育工学・シム2.0

フェーズ1達成目標をlearnableな「技術

カード」に書き換える

「技術カード」の一般形(シェル)

厚労省:新人看護職員研修ガイドラインから

Page 10: 当日版140920 教育工学・シム2.0

フェーズ1:静脈内注射「技術カード」作成

業務手順

知的技能

● 用語

● 識別

● 定義

● ルール

すべての項目を

チェックリストと

する

(評価法)

皮下静脈・神経の走行に関する解剖、患者の不安・説明などのコミュニケーション、病院マニュアルの知識薬剤の知識:外形、効果、副作用、禁忌、投与速度

知的技能説明できる:静注の目的、副作用、手技を安全・確実に行なう方法、マニュアル準備できる:指示の確認、準備、感染防御手順:一連の手順を述べることができる

運動技能前提条件:静脈内注射トレーナーで静注技能テストに合格している

態度技能疾患への不安や心配ごとへの共感、医療への不安、医療者への不安、処置・苦痛への不安共感・説明による緩和、自分自身のパフォーマンス能力アップへの責任

リスク低減技能患者確認指示確認感染防御基本手技確認起こりうる合併症のリストアップと回避法患者説明(事前・事後)

指示を確認、患者確認、説明、確実・安全(含、感染防御)に静脈内注射採血を実施、合併症チェック、看護記録まで

Page 11: 当日版140920 教育工学・シム2.0

技術実践の認知プロセス(業務の時間軸)

環境・状況・職場・勤務帯

問題の発見

評価 判断 決定 実行結果の評価

最初のサイクル:どうしましたか?

感覚を使った評価(表情、呼吸に伴う音、触診)

判断(不安定、安定)

判断に応じてルールを選択、決定する

ルールを実行する

実行した結果を再評価する

a. 状況認識i. 状況の知覚

ii. 現状の理解

iii. 起こりうる事態の予測

b. 異常の知覚・懸念

時間軸

Page 12: 当日版140920 教育工学・シム2.0

フェーズ1:静脈内注射「実践カード」作成

再評価

● 効果の評価

○ 予想通り

○ 予想以下

○ 予想外

○ 合併症・副

作用

振返り

● In action● On action

状況認識・予測・事前の計画と問題発見プランA:患者は普段と変わらない場合。コミュニケーションで不安が制御内と判断。予定通り静脈内注射を実行。プランB:不安が強いなど、普段と異なる場合。注射中に副作用が起きた場合の歯止めの段取り。

評価静注前迅速評価心理状態の評価静注への不安度の評価注射中合併症の評価注射後迅速評価心理状態の評価

判断注射への不安と受入れ静注終了に必要な判断迅速評価で安定不安が制御内出血・しびれがない副作用がない不満がない

決定静注前安定、不安が制御内ならGo注射中出血・しびれ、副作用があれば中止静注後合併症がなければ終了宣言

実行確認準備説明と合意実施合併症があれば中止終了合併症確認合併症なければ終了

静脈内注射パフォーマンスで再評価は実践できたかパフォーマンスの振返り、できた点と改善を要する点

Page 13: 当日版140920 教育工学・シム2.0

技術実践のプロセス<評価→判断→決定→実行→評価→>のサイクルとして

問題の発見

評価 判断 決定 実行結果の評価

A:山田さん、看護師の鈴木です。表情、仕草を観察

R:迅速評価顔面蒼白不安そう心配そう

C:不安定R:不安の緩和K:声掛けの仕方

R:不安の緩和病院搬送

S:実行 R:再評価C:表情、仕草から緩和を評価

判断 決定 実行結果の評価

C:不安緩和納得

R:注射OK S:注射実行

R:合併症チェック

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結果の評価

A: AssessK: KnowledgeC: ConceptR: RuleS: Skill

Page 14: 当日版140920 教育工学・シム2.0

問題の発見

評価 判断 決定 実行結果の評価

a. 状況認識i. 状況の知覚

ii. 現状の理解

iii. 起こりうる事態の予測

b. 異常の知覚・懸念

時間軸

態度

知識

概念

ルール

概念

ルール 概念

ルール

態度 知識

ルール

手技

概念

ルール手技弁別 態度

知識

文法 文法

フェーズ1:実践能力のカリキュラムマップ

環境・状況・職場・勤務帯

Page 15: 当日版140920 教育工学・シム2.0

判断カードの例:「心停止の確認」知覚・識別、概念、ルールをまとめたカード

● 知識(言語情報)○ 心停止、心肺蘇生

● 知覚と識別○ 突然の卒倒

● 定義された概念○ 心停止の定義○ If <反応なし & 呼吸なし & 脈

触れない>, then <心停止>

● ルール○ If <心停止=yes>, then <「心

停止の初動」開始>○ 「心停止の初動」:応援要請、

119番通報、AED手配、CPR開始

Page 16: 当日版140920 教育工学・シム2.0

知識カードを経験学習で実践知識に構成

バラバラに外在する知識カード

構成され内在する知識

学習

フェーズ2

Page 17: 当日版140920 教育工学・シム2.0

フェーズ2:教授系列のデザインと教材作成

独習・e-L知識カードの理解と応用

CDT型クイズ

独習+集合学習概念・ルール実践カード

簡易シナリオ演習

独習+集合学習スキーマ獲得基本シナリオ発展シナリオ

集合学習学習ゴールはエキスパートの

実践能力

発展シナリオ

Remember, Understand, Apply, Analyze, Evaluate, Create

PerformanceProcedureRule/PrincipleConceptFact

メンタル・シミュレーション

フィジカル・シミュレーション

Elaboration

Page 18: 当日版140920 教育工学・シム2.0

発展シナリオで追加する知識カード

● 事例ライブラリとして長期記憶化

● ストーリー型シナリオ○ 物語○ 複雑な問題○ 紛争解決○ 問題解決○ プロフェッショナル○ 病院の理念

● 医療実践能力の動詞○ 説明する○ 問題を発見する○ 評価する○ 解決策を作る○ 実行する○ 言動を選択する○ 自分を整える○ 相手を整える

Page 19: 当日版140920 教育工学・シム2.0

学習システム全体のマネジメント・インストラクター

データ・マネジメント

学習コンテンツ

インストラクショナル・デザイン・モデル、教授方略

メッセージ

学習者インターフェイス

コントロール

表現・描写・会話

フェーズ3:教授システムのレイヤー機能記述

Page 20: 当日版140920 教育工学・シム2.0

フェーズ3:教授システムのレイヤー機能記述

学習システム全体のマネジメント・インストラクター

データ・マネジメント

学習コンテンツ

インストラクショナル・デザイン・モデル、教授方略

メッセージ

学習者インターフェイス

コントロール

表現・描写・会話

インストラクションで使用する「知識カード」

Page 21: 当日版140920 教育工学・シム2.0

学習システム全体のマネジメント・インストラクター

データ・マネジメント

学習コンテンツ

インストラクショナル・デザイン・モデル、教授方略

メッセージ

学習者インターフェイス

コントロール

表現・描写・会話

フェーズ3:教授システムのレイヤー機能記述学習者に適用する教授方略の選択・実行

Page 22: 当日版140920 教育工学・シム2.0

学習システム全体のマネジメント・インストラクター

データ・マネジメント

学習コンテンツ

インストラクショナル・デザイン・モデル、教授方略

メッセージ

学習者インターフェイス

コントロール

表現・描写・会話

フェーズ3:教授システムのレイヤー機能記述選択した教授方略に基づく対話・インストラクション

Page 23: 当日版140920 教育工学・シム2.0

学習システム全体のマネジメント・インストラクター

データ・マネジメント

学習コンテンツ

インストラクショナル・デザイン・モデル、教授方略

メッセージ

学習者インターフェイス

コントロール

表現・描写・会話

フェーズ3:教授システムのレイヤー機能記述学習者が発する対話・会話・操作

Page 24: 当日版140920 教育工学・シム2.0

学習システム全体のマネジメント・インストラクター

データ・マネジメント

学習コンテンツ

インストラクショナル・デザイン・モデル、教授方略

メッセージ

学習者インターフェイス

コントロール

表現・描写・会話

フェーズ3:教授システムのレイヤー機能記述情報を学習者の感覚器に伝えるメディア・装置

Page 25: 当日版140920 教育工学・シム2.0

学習システム全体のマネジメント・インストラクター

データ・マネジメント

学習コンテンツ

インストラクショナル・デザイン・モデル、教授方略

メッセージ

学習者インターフェイス

コントロール

表現・描写・会話

フェーズ3:教授システムのレイヤー機能記述学習成果に関する記録・分析・フィードバック

Page 26: 当日版140920 教育工学・シム2.0

学習システム全体のマネジメント・インストラクター

データ・マネジメント

学習コンテンツ

インストラクショナル・デザイン・モデル、教授方略

メッセージ

学習者インターフェイス

コントロール

表現・描写・会話

フェーズ3:教授システムのレイヤー機能記述学習システム全体のマネジメント・インストラクター

Page 27: 当日版140920 教育工学・シム2.0

インストラクショナル・シミュレーションの枠組み

ID式・知識カード

独習・e-L知識カードの理解と応用

CDT型クイズ

独習+集合学習概念・ルール実践カード

簡易シナリオ演習

独習+集合学習スキーマ獲得基本シナリオ発展シナリオ

集合学習学習ゴールはエキスパートの実践能力

発展シナリオ

Remember, Understand, Apply, Analyze, Evaluate, Create

PerformanceProcedureRule/PrincipleConceptFact

Elaboration

学習システム全体のマネジメント・インストラクター

データ・マネジメント

学習コンテンツ

インストラクショナル・デザイン・モデル、教授方略

メッセージ

学習者インターフェイス

コントロール

表現・描写・会話

ゴール設定変換

配列

レイヤーの機能

インストラクション

Page 28: 当日版140920 教育工学・シム2.0

まとめ

● 医療実践能力の学習システムの枠組みをデザインした

● フェーズ1

○ パフォーマンスゴールを設定し、実践に必要な知識をカード化する

● フェーズ2

○ 知識カードの使い方を組立てるインストラクションの教授方略、クイズ・シナ

リオを作成する

● フェーズ3

○ インストラクションに最適なレイヤー機能を設定する

● インストラクション(卒前教育・卒後研修、独習・集合学習・ジョブラーニング)を実

践する

Page 29: 当日版140920 教育工学・シム2.0

今後の課題

デザイン研究

● 枠組み・プロセスの改善

● 枠組み・プロセスを使った実践

● 実践結果を評価

● 枠組み・プロセスの改善

● 普及

レベル4とレベル3の達成● 現場でできていないことをパフォー

マンス・ゴールとして記述する

Within <environment>one or more <actor>execute <performance>using <tool>affecting <system or system process>to produce <outcome, artifact>having <properties, qualities>

● 枠組みを適用する