競争の激しい小売業界における『100 円生鮮コンビ...

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競争の激しい小売業界における『100 円生鮮コンビニ』の生き残り術 丹沢ゼミ 中央大学総合政策学部国際文化学科 03W2114005D 手塚恵 【サマリー】 競争が激しい小売業界で,はたして 100 円生鮮コンビニの業界は生き残れることができる のか.業界を five forces を用いて構造的に分析し,問題点を示す.そしてその問題をもと に政策的提言を行う.この論文では,問題点は流通モデルにあると考え,共同配送のシス テムとバーチャルカンパニーを構築することを提言する.最後にその政策的提言が理論的 にどう有益であるかを説明する. 【キーワード】Five forces 【目次】 はじめに Ⅰ.100 円生鮮コンビニ 1.定義 2.展開の契機 3.優位性 Ⅱ.理論による分析 1.five forces (1)市場内競争 (2)新規参入の脅威 (3)買い手の交渉力 (4)売り手の交渉力 (5)代替品の脅威 2.事例分析 (1)事例~九九プラス~ ①概要 ②ケイパビリティー (2)理論的分析 ①市場内競争②新規参入の脅威③買い手の交渉力④売り手の交渉力⑤代替品の脅威 3.考察 Ⅲ.政策的提言 (1)政策的提言 ①共同配送 ②バーチャルカンパニー (2)理論的分析 おわりに 脚注 参考文献

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競争の激しい小売業界における『100 円生鮮コンビニ』の生き残り術

丹沢ゼミ 中央大学総合政策学部国際文化学科

03W2114005D 手塚恵

【サマリー】 競争が激しい小売業界で,はたして 100 円生鮮コンビニの業界は生き残れることができる

のか.業界を five forces を用いて構造的に分析し,問題点を示す.そしてその問題をもと

に政策的提言を行う.この論文では,問題点は流通モデルにあると考え,共同配送のシス

テムとバーチャルカンパニーを構築することを提言する. 後にその政策的提言が理論的

にどう有益であるかを説明する. 【キーワード】Five forces 【目次】

はじめに Ⅰ.100 円生鮮コンビニ 1.定義 2.展開の契機 3.優位性 Ⅱ.理論による分析 1.five forces (1)市場内競争 (2)新規参入の脅威 (3)買い手の交渉力 (4)売り手の交渉力 (5)代替品の脅威

2.事例分析 (1)事例~九九プラス~ ①概要 ②ケイパビリティー (2)理論的分析 ①市場内競争②新規参入の脅威③買い手の交渉力④売り手の交渉力⑤代替品の脅威

3.考察 Ⅲ.政策的提言 (1)政策的提言 ①共同配送 ②バーチャルカンパニー

(2)理論的分析 おわりに 脚注 参考文献

はじめに 今や,コンビニは現代の日本人の生活に欠かせない存在である.昼間であろうが夜中で

あろうが,ふらりとコンビニに出かけてパンやおにぎりを買い,それと同時に文具や化粧

品下着まで買うなんてことが日常である.どんな時間帯でも売り切れはなく,24時間い

つでもほしいものを購入することができる. 近では本来のモノを売る機能に加え,さら

に ATM の設置や携帯代金などの振込み,食品宅配サービスまでも行っており,コンビニは

人々の日常生活にさらに密着してきていると言える.このようにさまざまな機能を合わせ

持つコンビニは,文字通り「便利な店」である.それゆえ毎日コンビニに通う人も珍しく

ない. そのような利便性や品揃えの良さなどが受け,人々に愛用され続けているコンビニは,

20世紀後半で も成長を遂げた産業と言われている.そして,2005 年には市場規模 7 兆

円を超える巨大産業へと成長した.1だが,栄枯盛衰と言われるように,コンビニももはや

成長業態とは言えなくなってしまった.その背景には,市場の成熟化やコンビニ同士の競

争はもちろん,24時間スーパーなどとの小売店同士の競争激化などが挙げられる.結果,

コンビニ業界全体の売上高は 19 ヶ月連続前年割れであり,もはや業界は完全に飽和状態で

ある.2

そこで近年,既存店の売上の伸びが思わしくないこの現状を打開するために,新しい客

層をターゲットにしたユニークなスタイルの新コンビニが次々と出店している.たとえば,

店内の通路の幅を通常より約2倍広げマッサージチェアを設置する「お年寄りコンビニ(ロ

ーソン)」や,女性対象で健康志向に配慮した食品や無添加化粧品などをそろえる「ナチュ

ラルローソン」などだ.こうしたさまざまな趣向を凝らしたコンビニが出現する中,私が

注目したのが,なんともユニークな「100円生鮮コンビニ」である.このコンビニの特

徴は全品 100 円などの均一価格であり,かつ生鮮食品をも扱う点にある.生鮮食品は,老

若男女問わずだれもが口にする食べ物である.その生活必需品である生鮮食品を大体的に

扱うコンビニは今までなかった.そしてまた,消費者もそれを求めていなかった.また,

従来のコンビニは安さを追及するのではなく利便性を追求していた.そのような固定観念

をあえて打ち破ったのがこの「100円生鮮コンビニ」スタイルなのだ. この「100 円生鮮コンビニ」のターゲットは,今までコンビニが取り込みの難しかった主

婦や高齢者である.この層にさらに享受されやすい店を作るためにはどうすればよいか.

生鮮食品は在庫費用が高く取り扱いが難しいうえ,競争の激しい小売業界においてどのよ

うな戦略を立てたら生き残ることができるのか.その点を軸に,「100 円生鮮コンビニ」の

中でも特に,その第一人者でありかつ業績を伸ばし続けている「SHOP99」を経営す

る九九プラスに焦点を絞り研究を行う.この研究の目的は成長途中である現時点で発生す

る問題点を Five forces を使って理論的に分析,指摘し,解決に向かう政策を提言すること

である.そしてまた,その政策によって社会的余剰を向上させることはできるか否かを検

討する.

Ⅰ.100 円生鮮コンビニ 1.定義

正確な定義はないが,一般的には「100円生鮮コンビニ」は,コンビニ・食品スー

パー・100 円ショップの業態の融合と位置づけられている.つまり,コンビニの「便利

さ」,食品スーパーの「生鮮」,100 円ショップの「安さ」を兼ね備える業態と言える.32006年7月末時点で,全国に966店舗あり 06 年度の市場規模は 1000 億円超と見られてい

る.4九九プラスの成長に触発され,これに大手コンビニも多数進出してきている.また,

近ではマルイやダイエーのような食品スーパーの進出も見られるようになっている. 2.展開の契機

近年,どの業界においても少子高齢化が大きな問題とされているが,コンビニ業界も

また例外ではない.それというのも,コンビニのターゲット層は,20~30 代の男性が主

流であるからだ.(図1)日本社会で自然と若者が減っていくなか,現状のまま若者をタ

ーゲットにしたスタイルで成長をし続けることは難しい.そのため,ターゲットの照準

を,シフトさせる必要性がでてきた.そこで,100 円生鮮コンビニは生鮮食品を扱い,主

婦や中高年の取り込みを狙うことで,少子高齢化社会に適応したビジネスを展開してい

る. また,総合スーパーや食品スーパーの拡大に伴う商店街の衰退による影響も大きい.

生鮮品市場は中・大商圏型に移行し,商店街や住宅街には生鮮品の空白商圏が広がった.

(図2)結果,特に一回の購入量の少ない単身や二世帯は徒歩や自転車で食料品を買い

に行けずに不便を感じていた.その空白商圏である住宅地に目をつけ,出店することで

ビジネスを成立させた.

66.3

74.7

58.8

47.0

30.9

17.0

62.1

47.7

29.323.2

14.910.5

0

10

20

30

40

50

60

70

80

10代 20代 30代 40代 50代 60代

男性

女性

図1・コンビニエンスストアを週2回以上利用する割

合(出所:NRI「生活者1万人アンケート調査」)

図2・商業地区別の事業所推移

(出所:経済産業省 商業統計調査「小売業の地区別事業所数の推移」)

3. 優位性 それでは,100 円生鮮コンビニの優位性を経済学的に分析する. まず,低価格であり均一価格であることが優位性として挙げられる.なぜなら,100

円生鮮コンビニのターゲットである主婦は価格に敏感であり,また,お年寄りは値段の

わかりやすさを重視するからである.つまり,ターゲットに応じた価格設定をしている

ため,集客力が高まる.これは 100 円均一の性質を持つ.つまり,コスト優位を獲得し

消費者余剰を拡大していると考えられる. 次に,出店地が主に住宅街であり各家庭から近場にある点も優位性の一つだ.これは

従来の八百屋の特徴を持っており,時間や労力の削減などの取引費用の削減につながる. そして,品数が平均 3500 品と豊富であり,ワンストップで買い物を済ますことが可能

だ.商店街やスーパーの特徴と同様,複数の店を回って買い物をするような手間が省け

る.つまりは,消費者にとって取引費用の削減につながる. 後に,流通経路の違いである.以下の表は流通経路の例である.

生産者(出荷団体輸入業者)

消費者

問屋

①生産者直売等

小売業者 ②

集配センター等 小売業者

小売業者

小売業者

全農集配センター④

卸売業者

産地市場

仲卸買参

消費地市場

⑤ (市場流通)

(市場外流通)

図3・青果物の流通経路(出所:『新・生鮮食料品流通政策』p54 図 3-1より)

(卸売市場経由)

食品スーパーなどの流通経路は通常,市場流通の⑤の形態をとることが多い.これらは,

モノの流れの中に仲介者が多数存在しており,中間マージンが発生してしまうことが欠

点である.それゆえの日本の物価の高さが指摘されている.その欠点を覆すのが①~④

である.多くの 100 円生鮮コンビニは仕入れの半数を①か③の経路をとり,できるだけ

中間マージンを減らしコストを抑えるようにしている.そのため,低価格での販売が可

能となるのだ. これら4点により消費者余剰や満足度が高くなると言え,これらが 100 円生鮮コンビ

ニの優位性であると言える.

Ⅱ.理論による分析 1.Five forces5

では,理論的分析を行う前に,まず私が用いる理論,マイケル・E・ポーターの”Five forces”を紹介する. マイケル・E・ポーターは「業界構造を分析することが競争戦略を策定する上で重要

である」と述べている.そこで用いられるのが Five forces だ.Five forces は,「五つの

要因」と訳すことができる.その「五つの要因」がどのように作用するのかをそれぞれ

分析する.ここで言う五つの要因とは,「市場内競争」「新規参入の脅威」「買い手の交渉

力」「売り手の交渉力」「代替品の脅威」の五つである.これらを一つ一つ分析すること

で業界構造を明確にし,競争戦略へと導く. (1)市場内競争 市場内,業界内での企業同士が対立すれば,当然競争は激しくなり,利益の低下に

つながる.競争が激しくなる要因としてポーターは8項目を挙げている. ① 同業者が多いか ② 業界の成長が遅いか ③ 製品差別化がないか買い手を変えるのにコストがかからない ④ キャパシティを増やすのは小刻みにはできない ⑤ 競争業者がそれぞれ異質な戦略を持つ ⑥ 戦略がよければ成果が大きい

⑧ 撤退障壁が大きい (2)新規参入の脅威 新規参入業者が増えれば増えるほど,競争は激しくなる.なぜなら,同じパイをよ

り多くのものと分け合うことで自分の取り分が減ってしまうからである.新規参入者

が参入するかしないかは参入障壁の高さが大いに影響を及ぼす.参入障壁の主のもの

は以下の六つある. ①規模の経済性 ②製品差別化 ③巨額の投資 ④仕入先をかえるコスト ⑤流通チャネルの確保 ⑥規模とは無関係なコスト面での不利

そして,参入障壁の特性は二点あり,第一に参入障壁は条件が変わると変化するこ

とで,第二に参入障壁は会社の戦略決定とも大きな影響を与えうるということである. (3)買い手の交渉力 買い手は,値下げや高い品質を要求し,売り手同士を競い合わす.それによって利

益を得ようとする性質がある. ① 買い手が集中化していて大量の購入がある

② 買い手が購入する製品が,買い手のコストまたは差別化されないものである ③ 取引先を変えるコストが安い ④ 収益が低い ⑤ 買い手が川上統合に乗り出す姿勢を示す ⑥ 売り手の製品が買い手の製品やサービスの品質にほとんど関係がない ⑦ 買い手が十分な情報を持つ 以上7点が買い手の強さを表す指標である.これに当てはまる数多いまたは度合い

が大きいほど買い手の交渉力は強いと言える. (4)売り手の交渉力 売り手は,価格や品質を変動させることによって業界に対して影響を与える.価格

を上げ,品質を下げることは業界に対し脅威である.そのような脅しをかけることで

交渉力を行使することができる.次の6点の要因で売り手の交渉力は増す. ① 売り手の業界が少数の企業である ② 別の代替品と戦う必要がない ③ 買い手業界が供給業者グループにとって重要な顧客でない ④ 供給業者の製品が,買い手の事業にとって重要な仕入れ品である ⑤ 製品が差別化された特殊製品であり,ほかの製品に変更すると買い手のコストが

増す ⑥ 供給業者が今後確実に川下統合に乗り出すという姿勢を示す

(5)代替品の脅威 代替品は,買い手の同じニーズをみたすもののことを言う.そして,代替品もまた

新規参入者と同様のやり方で他社から利益を奪い,市場内競争を激しくする要因とな

り得る.一番注意すべき代替品は,現在の製品よりも価格対性能比がよくなる傾向を

持つもの,高収益を上げている業界によって生産されている製品である.脅威になり

得る代替品に対しての戦略としては,たたきのめす,または避けられない強敵として

対処するかである. 2.事例分析 それでは,この five forces 理論に事例を当てはめて分析をする.今回の事例はショ

ップ99を経営する「九九プラス」である. (1)事例~九九プラス~

①概要 九九プラスは,「100 円生鮮コンビニ」の先行企業であり,平成 18 年 11 月末時点で

847 店舗を展開する企業である.現在はキョウデンのグループ会社であり,開業当初は

株式会社ベスト内の一事業部で,スーパー出身だ.そして独立し,2000 年に「99 エン

オンリーストア」の店名で 1号店を開店 した.同年に,現在の株式会社九九プラスを

設立した. 2002 年,同じキョウデングループの食品スーパーの関西チコマートを買収

し,2003 年にジャスダック証券取引所に上場する企業である.一店舗あたりの平均日

商は約58万円で,これはコンビニの平均日商の約44万円6を大きく上回る売上であ

る.売上高は年々上がり続けていることからも,成長企業と言える.(図4)

九九プラス売上高(単体)

0

20000

40000

60000

80000

100000

2002 2003 2004 2005 2006

(年)

(百万円)

図4・九九プラス売上高(出所:九九プラスHPを参考に筆者作成)

②ケイパビリティ7

私が考える,九九プラスのケイパビリティは3点ある. まず,企業基盤が元々スーパーであることによる,店舗経営などのノウハウや商品

の流通経路の確保しやすさである.また,それと同時に,その当時形成された人脈や

生鮮食品の取扱のノウハウは大きな強みである.そうというのも,仕入先の確保や流

通経路などがあらかじめ確立されていることは大きな模倣障壁となりうるからである.

そのケイパビリティがあるゆえに,5~6割を契約農家からの仕入れが可能であるの

だと考えられる.契約農家を持つことで,気候などの影響によって市場調達できない

場合でも商品欠如ということがないことが利点だ.九九プラスでは従来なら市場には

出せず商品価値のない不ぞろいな野菜も,カット野菜や漬物,惣菜にする.そうする

ことで,九九プラスにとってはもちろん,それだけでなく農家にとっても有益な契約

であると言える.なぜなら,気候などが原因で不作に陥ったとしても特に不都合が生

じなくなり,また,そのような農作物の加工も農家が行うため閑散期にも働くことが

できる.つまり農家はこの契約によって一年中働くことができるのだ.このビジネス

モデルは,両者にとって有益な,Win-Win関係が成り立っていると言える. また,コストを下げるために物流コストを抑制している点も従来コンビニや食品ス

ーパーとは異なる.たとえば,配送回数は一日1回だ.これは,物流コストをコンビ

ニのほぼ半分に抑制するためである.そのため,従来コンビニでは売り切れがご法度

であるのに対し,「売り切れ御免」 方式である.このような,コストを極力抑えるノ

ウハウが構築されており,九九プラスにおいてはさらに先発企業であることから,学

習効果8が大きい.それに加え,すでに 847 店舗9展開しているこということは,規模

の経済が大きくはたらくと言える.よって,その学習効果により店舗運営のノウハウ

などがすでに構築されていると考えられること,また,「100 円生鮮コンビニ」の先発

企業であることから先行優位があることが大きなケイパビリティとなっていると考え

られる.

(2)理論的分析 では,five forces を用いて分析を行う.以下の図は各要因を当てはめた市場の枠組み

である.市場の定義は生鮮食品や惣菜を取り扱っている小売店とする.

新規参入者

主婦 高齢者 100 円生鮮コンビニ 食品スーパー 八百屋 コンビニ

市場 農協

農家

外食 食品宅配サービス

市場内競争 売り手

買い手

代替品

図5・Five forces(出所:筆者により作成)

①市場内競争 この市場内競争は激しいと言える.その要因は以下の4点である.

まず,市場内の同業者が多い.小売業の事業所数は,大変多く,平成 16 年調査の

経済産業省の統計によると小売業の事業所数は「総合スーパー1670 食料品スーパ

ー18493 コンビニ 42749 食料品専門店・中心店 323167」10もある.この中から

消費者は食料購入店を選ぶ.このように,同業者が多数いる場合,対立は起きやす

くなり,もちろん自社が優位に立てるような戦略を立てる.それは,時に価格を下

げるか,品質を向上させることが一例である.しかし,その戦略が結果的に自社の

首を絞めることになるのだ. そして,市場の成長率という点で言うと,100 円生鮮コンビニは出店をとどまるこ

となく続けているのに対し,食品スーパー,八百屋,は停滞中である.既存のコン

ビニに至っては,売上高が 19 ヶ月連続で前年割れている.この状況では市場内の成

長率は決して高いと言えない.図6をみると実に明白に成長率が下がっているのが

分かる.

図6・コンビニエンスストアの市

場規模と成長率 (出所:nikkeiBPnet 財団法

人日本フランチャイズチェー

ン協会 コンビニエンススト

ア統計調査資料) 次に,生鮮食品や惣菜は在庫費用が高いことも要因だ.それらの商品は,消費者

から鮮度の高さが常に求められる商品である.しかし,時間が経つと商品価値は下

がり,また,需要に見合った商品数を納品しなければロスが出てしまうという危険

性が高い.もしロスが出てしまった場合,これらの商品は大幅な値下げを行ってで

も売ろうとする.そうすることで,競争はさらに激化する.なぜなら,その値下げ

によって価格競争がそこで起こるからである. 後に,スイッチングコストが低いことも競争激化につながる.これは,モータ

リゼーションが進んでいること,それと同時に買い手の購買店の選択肢の多さのた

めだ.買い手は,商品の質と価格の安さを常に求めていると考えられる.そのよう

な買い手を自社に囲い込むためには,常に商品の質を向上させる努力と価格を低く

する努力を同時に行わなければならない.これらの行為は自社の売上率が増す位一

方で,利益が減ることも考えられ,消耗戦となりうる. これら4点より,市場内競争は激しいと言える.

②新規参入の脅威 新規参入者の例を挙げるとネットスーパーやドンキホーテの新型コンビニなどが

挙げられる.この市場は参入障壁が低いため,参入が比較的しやすい.以下2点が

参入障壁の低い要因である. まず,規模の経済がはたらくことが要因である.一つの店舗を開店するより,よ

り多く開店させるほうが,流通や契約などの一店舗あたりのコストは低くなる.つ

まりそれは店が多ければ多いほどコストが低くなると言える.規模の経済の長所は

コストの面だけではない.この事例の場合,店舗を数多く出店すればするほど規模

の経済性が高まると考えられる.すると,それによってブランドネームが確立され

ると言える. そして,参入に巨額の投資が必要ない.商品の製造は基本的に自社では行わず,

契約によって他社から購買しているため,固定費用としては土地と店の建物のみと

なる.これらの埋没費用は参入企業にとってほとんどリスクにならず撤退障壁は比

較的低いため,参入しやすい. 以上2点から,参入障壁は低く参入しやすい市場だということが分かる.しかし,

たとえこのように参入障壁が低い場合においても,収益の見込みがあるかどうかに

よって参入企業の数は変動する.特に市場内競争が激しいこの事例では,参入企業

が多数あるとは考えがたい.だが現在,実際に参入企業による参入は少数ではある

があり11,今後そのような企業が増えるとすれば市場内競争はさらに激化すると考

えられる. ③買い手の交渉力

買い手の力は強いと言える.この市場における買い手は,消費者,特に主婦や高

齢者である. 消費者は日常の生鮮食料品や惣菜を購入する際,前述したような数多くある小売

店のなかからある一店舗を選んで購入する.また,彼らは広告や評判などから十分

な情報を持っている.よって,各消費者は小口な購入ではあるが,消費者自体の母

体が大きいため非常に大きな力を作り出し,店の存続を左右することができる.な

ぜなら,スイッチングコストは比較的低く,よりよい品質や価格を求めて購入店を

変えることが容易であるからである.すなわち,店の将来をも左右できる消費者の

力は大きいと言える.

④売り手の交渉力 売り手の力は比較的強い.生鮮食品の仕入れはほとんどが卸売市場や農協からの

調達である.生鮮食品の価格は気候の変化に大きく左右される.それこそ年次的,

循環的に変化する.そのため,大幅な値下げ交渉は難しいと考える.市場の価格の

決定はとても世界的に見ても特殊で,セリで競争させて価格を決定する.その点か

らすると,価格の値段は市場に委ねられ交渉力をほとんど持てないと考えられる. ⑤代替品の脅威

a. 外食 外食市場は,買い手が生鮮食品を購入する機会を減少させる要因となりうる.売

上の増減は比較的緩やかであり,成長しているとは言えない(図7).よって,市場

のパイを奪い続けているわけではない.一見脅威にならないように見えるがしかし,

市場規模が食料品の市場に比べ断然大きいがゆえに,さらなる脅威になりうる潜在

能力があると考えてもおかしくない.(図8).

図7・外食市場の売上げ推移 図8・各市場の規模

(出所:外食産業総合調査研究センター)(出所:社団法人日本フードサービス協会)

b.食品宅配サービス 食品宅配サービスとは,生鮮品や出来合いの惣菜をインターネットなどで契約,

配達をするサービスである.つまり,市場のパイを奪う可能性がある業界であるた

め,代替品と言える. 少し前までは,インターネットで食材を購入することに抵抗感のある消費者が多

いように見られたが,2004 年にインターネットを利用した食材調達の市場規模は 2兆 4,860 億円と急速に拡大をしている.これは,前年比 177.2%という驚異的な成

長率である12.その中で,個人向けの食材宅配サービス市場は 1999 年から 5 年間

で 27%増加している13.このデータより,各家庭においても食品宅配サービスは

浸透してきており,成長を続けていることがわかる.その例として分かりやすいの

が生協だ.生協はつい 10 年前までは班配送を主流にしていた.だが,ここ 10 年で

個別配送が伸びを続けている.その変化は顕著であり,1995 年に 300 億円だった

個別購入は,2004 年には 6300 億円にまで拡大している(図9).どうして急成長

を遂げたのか.それは,行動範囲が限られてしまう高齢者の増加や働く女性の増加

が背景にある.彼らにとって,家にいながらにして注文でき,直接自宅まで配送し

てくれる食品宅配サービスは利便性が非常に高い. このように,食品宅配サービスは現在成長中であり注目される業界でもある.よ

って市場のパイを奪われる可能性は大きくなると予想できる.つまり,代替品の脅

威はかなり大きいと言える.

図9・生協の班配達と個別配達における購入金額の推移(出所:ニッスイアカデミー「変

わる販売形態―注目される宅配ビジネス」図表4より) 3.考察

以上,Five forces の理論的枠組みに基づいて分析を行った結果,図 10 のような市場構

造であると結論づいた.

市場内競争 高

参入障壁 低

買い手の力 高

売り手の力 中

代替品 高

図 10・市場構造(出所:筆者により作成) 図 10 から,市場構造は市場内の企業にとって非常に厳しい環境であると言える.以下

の2点がその理由である. まず,競争激化が予想されることが要因だ.参入障壁が低く,参入の可能性が高いこ

とにより,市場内の企業がさらに増えることが予想できる.よって,競争は激化する.

また,それだけでなく代替品の脅威も強い.代替品は市場内のパイを奪う恐れがある.

よって,パイが奪われれば奪われるほど市場内競争はさらに激しさを増すことが予想で

きる. 2点目は,コストを下げる余地があまりないことである.前述した通り,買い手の交

渉力はとても強く,売り手も比較的に強い.これはつまり,買い手にコストを下げるこ

とを求められる一方で,売り手の交渉力が強いためにコスト下げる余地もないことを物

語っている. 以上により,競争激化は免れない.では,競争激化した状況でも生き残るために他社

に打ち勝つためにはどうしたらよいか.それには,今まで同様コストを抑え低価格を維

持したまま,さらに品質を向上させることが第一である.そのために,コストをおさえ

たまま配送回数が増やすことが必須である.現在の配送回数は1日に 1 回であり,十分

な配送であるとは決して言えない.そこで私は,新しい低コストの流通システムを構築

することで新鮮な生鮮食品を今までどおりの低価格で提供することができると考える.

4.政策的提言 (1)政策的提言 このように,流通システムを変革することが重要だと述べたが,配送コストを抑える

流通システムとはなにか.それを可能にするために,私2点の政策を提案する.まず,

共同配送を行うこと,そしてそれと同時に,バーチャルカンパニーのシステムを構築す

ることである.では共同配送をどのように実現させるのか,バーチャルカンパニーをど

のように完成させるのかについて述べる. ① 共同配送 共同配送とは,自社の流通経路を持つのではなく他者と共同の流通経路を持つこと

を言う.そうすることで,低コストで配送回数を増やすことができるのだ. では,どのような企業との共同配送が可能なのか.まず,同業者の共同配送は実現

困難だと考える.その理由は3点ある.100 円生鮮コンビニ自体まだ規模が小さいため

規模の経済が働かないこと,同業他社への情報漏えいの可能性があること,各配送業

者との契約の違いがあることである. そこで,食品宅配サービスの流通ラインに乗る共同配送システムを構築することが

適であると私は考えた.食品宅配サービスは九九プラスにとって代替品となるもの

である.しかし,先ほど述べたように食品宅配サービス業界は成長を続けてきており,

個人宅配をする家庭が増えている.また今後も,働く女性のさらなる増加や高齢者の

増加が予想されることなどからもさらに成長するだろうと考えられる.そこで,食品

宅配サービスの流通経路に乗ることによってコストを抑えたまま配送回数を増やすこ

とが可能だ. これにより,九九プラスの利得だけでなく食品宅配サービス会社の利得も上がるこ

とが見込まれる.なぜなら,食品宅配サービスは契約時に個人配送の費用よりも高く,

九九プラスが共同配送せず独自に 1 日数回配送するコストよりも少し低い価格での契

約を交わすことが可能であるからである.つまり,この共同配送は Win-Win 関係が築

けるのである. ②バーチャルカンパニー バーチャルカンパニーとは,農家,卸,配送すべてを同じ会社のように扱うことで

ある.取引費用の削減により農家・卸・配送・販売それぞれにとってコスト削減する

ことが見込まれる.

九九プラスの仕入れは約5割が契約農家から,残り 5 割が市場調達である.いずれ

の場合もバーチャルコーポレーションを構築することでコスト削減は明白である.

卸売業

農家

ショップ99

POS データ 作物情報

納品

自動発注 納品 自動発注

図11・バーチャルコーポレーション(出所:高谷和夫『超価格破壊と「製・配・販」

同盟』P.119 図表 26 より)

図11を相互に情報を交換しながら取引を行うことで,取引費用が削減される.ま

た,生鮮食品は在庫費用が高い.そのため,いかにロスを防ぐかということが課題と

なる.このモデルの場合,その問題も解決する.なぜなら POS データなどを使い,在

庫管理や生産管理が可能になるからである.相互に依存し情報を公開するため,ホー

ルドアップの危険性も低いと考えられる. (2)理論的分析

これらの提言を理論的分析し,いかに有効的かについて述べる. まず,共同配送によって規模の経済性が達成できる.一社の店舗だけに配送するコ

ストに比べると,食品宅配サービス会社のラインに乗ることでコストを抑えることが

出来るからだ.配送コストを抑えることで低価格を維持し,配送回数を増やせること

から品質の向上が見込まれる.よって他社に有利に立てる可能性が高くなる.つまり

は,共同配送のシステムを構築することでコスト優位と便益優位を同時に達成するこ

とが可能だということである. 一方,バーチャルコーポレーションを成立させることで取引費用の削減が達成され

る.相互の情報交換がさかんに,かつ円滑に行われることで,取引先を選ぶ費用や契

約書を書く費用が削減される.また,在庫管理や商品情報などが行き届きやすくなる

ため,消費者にとっても有益性が見込まれる. よって,これらの政策的提言を実行すると,創出価値(消費者余剰+企業の利益)

を高めることができる.つまりは社会全体の富を増大させることが可能である. Ⅲ.おわりに 競争が激しい小売業界において,どうように生き残っていくのか.これは各企業にとっ

て非常に大きな問題である.特に 近では,小売業界の中でそれぞれの業態のしきいがな

くなってきているため,差別化が大変難しい.よって,どう独自性をみいだしていくか,

また,それが消費者に受け入れられるものかを熟考する必要が大いにある.100 円生鮮コン

ビニは食品スーパーとコンビニと 100 円ショップの融合であるが,さらに新しい活路を見

出して行けたら着実に生き残っていくことができるだろう.私は,企業間同士のさらなる

競争と協調がなければならないと考える.競争をすることでお互いの企業としての質を高

めあい,コストを抑えるために他の企業と協調することで相乗効果が得られることがある

だろうからだ. 終的にはそうすることで,社会全体の富を増大させることができるので

はないか. 競争が激しくめまぐるしくかわる現代社会のなかでどのように活躍していくのか,今後

も 100 円生鮮コンビニを見守っていきたい. 【脚注】 1 Nikkei BP(http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/feature/industry/060713_conveni/)よ

り 2 2004 年8月以来マイナスと停滞が続く状態。経済産業省より 3 朝日新聞朝刊 2005/5/28 8 ページより 4 日本経済新聞朝刊 2006/3/14 12 ページより 5 M.E.ポーター『競争の戦略』より 6 大手各社の全店平均日商(04 年度単体)は,セブン-イレブン:63.9 万円,ローソン 48.8万円,ファミリーマート 47.3 万円,サンクス:49.5 万円(東レ経営研究所「岐路に立つコ

ンビニ業界,新たな成長の原動力はみつかるか」永井知美 参照) 7 企業が他の企業よりも秀でている活動のこと(『戦略の経済学』p.441 参照) 8 経験やノウハウの累積によって得られるコスト優位(『戦略の経済学』P98「学習曲線」

参照) 9 平成 18 年 11 月 30 日現在(九九プラスHP参照) 10経済産業省商業統計調査平成16 年調査より 11 ドン・キホーテの「次世代コンビニ」など 12 経済産業省「平成 16 年度電子商取引に関する実態・市場規模調査」 13 ㈱富士経済調べ

【参考文献】 ◎書籍・論文・新聞 アーノルド・ピコー ヘルムート・ディートル エゴン・フランク 『新制度派経済学による組織入門 市場・組織・組織間関係へのアプローチ』白桃書房,

1999 年 朝日新聞 2005/5/28 8ページ デイビッド・ペサンコ,デイビッド・ドラノブ,マーク・シャンリー『戦略の経済学』ダ

イアモンド社,2003 年, グローバルタスクフォース『ポーター教授「競争の戦略」入門』総合法令,2004 年, 経済産業省「平成 16 年度電子商取引に関する実態・市場規模調査」 高谷和夫 『超価格破壊と「製・配・販」同盟』産能大学出版部,1994 年 M.E.ポーター『競争の戦略』ダイアモンド社 日経プラスワン 2005 年 6 月 18 日 日経流通新聞 2005 年 7 月 27 日 7ページ 日本経済新聞朝刊 2006/3/14 12 ページ 農林水産省平成 15 年度食料品消費モニター 農林水産省総合食料局「生産から消費に至るフードシステムの現状について」平成 17 年6

月 塩崎純一,川津のり「新たな消費スタイルとマーケティング戦略」野村総合研究所,

知的資産創造,2004 年3月号 住友信託銀行「多様化するコンビニエンスストア」調査月報,2005 年9月号 鈴木豊『小売業 新業態革命 「何を売る」から「どう売る」へ』日本実業出版社,1997年 山本博信『新・生鮮食料品流通政策-卸売市場流通政策の解明と活性化方策-』農林統計

協会,2005 年 ◎ インターネット ㈱富士経済 藤本育夫「変わる販売形態―注目される宅配ビジネス」ニッスイアカデミー

(http://www.nissui.co.jp/academy/index.html) ケーススタディ (http://premium.nikkeibp.co.jp/cgi-bin/print.cgi?tmpl=retail) 九九プラスホームページ (http://www.shop99.co.jp/) みずほコーポレート銀行 産業調査部

(http://www.mizuhocbk.co.jp/pdf/industry/1013_18.pdf) 農業協同組合新聞 (http://www.jacom.or.jp/oroshiuri/shir111s03040801.html) 社団法人日本フードサービス協会 (http://www.jfnet.or.jp/index.asp) らでぃっしゅぼーやホームページ(http://www.radishbo-ya.co.jp/first/index.html)