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5 10. 研究室一年のあゆみ 1.循 環 器 研 究 室 岡 﨑 昌 博  (研 究) 006 年度の循環器グループの主な学会での発表数は日本循環器学会:Featured Research Session 3題、一般演題を含むその他の発表 題、日本心臓病学会:1題、日本不整脈学会:6題でし た。米国での主要学会である ACC:2題、AHA:8題の他に ESC 題、国際高血圧学会:2題、 World Congress in Cardiac Electrophysiology and Cardiac Techniques: 3 題、 香 港 で 開 催 さ れ た CardioRhythmにて3題の発表が行われています。007年度も内外の学会にて活発な発表をしています。 主な学会での発表数は日本循環器学会:7 題、日本心臓病学会:1題、日本不整脈学会:5題でした。 また、海外では ACC:4題、AHA:6題、Heart Rhythm Society:3題の発表が行われています。そ の他日本ホルター・ノンインベイシブ心電学研究会、日本心電学会、日本循環器学会や日本内科学会の 地方会、産業医科大学学会でも発表がされています(臨 床) 紹介による外来や入院患者の増加に伴い、心エコーや心臓カテーテル検査といった検査は増加し、 PCI、ペースメーカ植え込みや ICD/CRT-D 症例も年々増加しています。007 年の主要な検査、治療数 は経胸壁心エコー検査 4607 例、経食道心エコー検査 96 例、心臓カテーテル検査 444 例、電気生理学 的検査 4 例、PCI 76 例(ステント 70 例、POBA 例)、カテーテルアブレーション 0 例、ペー スメーカ植え込み 98 例、ICD/CRT-D 30 例、PTMC 例でした。 007 年 4 月からは冠動脈 CT ができるようになり、冠動脈造影をしなくても外来にて冠動脈インター ベンション治療が必要であるかスクリーニングができることになりました。 また、9 月からは竹内講師、園田学内講師がスタッフとして加わり、心エコーと心血管インターベン ション治療の分野でそれぞれ臨床面のレベルアップに大きな貢献をされています。 月からは心エコー室にてデジタル画像解析装置が導入され、検査データ(画像、動画)はすべて 大容量ハードディスク内に保存することが可能となりました。同一患者さんのデータを比較検討するこ とが容易になることから、臨床経過を見ていく上で大変有用になります。008 年 月からは心エコー 室で記録したエコーの動画像が病棟でも観察できる院内画像ネットワークシステム(prosolv)も稼動 し始めています。カンファレンスで心エコーの動画を提示しながら症例を検討することが容易にできる ようになりました。また、竹内講師が戻られた後は心筋虚血や viability の評価を目的とした運動やド ブタミンを用いた負荷エコーも再開されており、治療方針のより詳細な検討ができるようになっています。 不整脈の分野ではペースメーカの植え込みにて国内でいち早く心室中隔ペーシングを導入し、よい臨床 成績を納めています。また、ペースメーカ電池交換手術は日帰りの外来手術で行なっており、入院しなく てよいため患者様には大変好評のようです。008 年 4 月には近藤承一先生が大学スタッフ(助教)とし て赴任されました。デバイス植込み治療のみならず、これまでのカテーテル心筋焼灼術による不整脈治療 の経験を生かし、カテーテル心筋焼灼術による不整脈の非薬物治療の中心となり活躍されています。

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 10. 研究室一年のあゆみ

 1.循 環 器 研 究 室

岡 﨑 昌 博 (研 究) �006 年度の循環器グループの主な学会での発表数は日本循環器学会:Featured Research Session 3題、一般演題を含むその他の発表 �� 題、日本心臓病学会:1題、日本不整脈学会:6題でした。米国での主要学会である ACC:2題、AHA:8題の他に ESC � 題、国際高血圧学会:2題、World Congress in Cardiac Electrophysiology and Cardiac Techniques:3題、香港で開催されたCardioRhythmにて3題の発表が行われています。�007年度も内外の学会にて活発な発表をしています。主な学会での発表数は日本循環器学会:�7 題、日本心臓病学会:1題、日本不整脈学会:5題でした。また、海外では ACC:4題、AHA:6題、Heart Rhythm Society:3題の発表が行われています。その他日本ホルター・ノンインベイシブ心電学研究会、日本心電学会、日本循環器学会や日本内科学会の地方会、産業医科大学学会でも発表がされています。

(臨 床) 紹介による外来や入院患者の増加に伴い、心エコーや心臓カテーテル検査といった検査は増加し、PCI、ペースメーカ植え込みや ICD/CRT-D 症例も年々増加しています。�007 年の主要な検査、治療数は経胸壁心エコー検査 4607 例、経食道心エコー検査 96 例、心臓カテーテル検査 444 例、電気生理学的検査 �4 例、PCI �76 例(ステント �70 例、POBA �� 例)、カテーテルアブレーション �0 例、ペースメーカ植え込み 98 例、ICD/CRT-D 30 例、PTMC � 例でした。 �007 年 4 月からは冠動脈 CT ができるようになり、冠動脈造影をしなくても外来にて冠動脈インターベンション治療が必要であるかスクリーニングができることになりました。 また、9 月からは竹内講師、園田学内講師がスタッフとして加わり、心エコーと心血管インターベンション治療の分野でそれぞれ臨床面のレベルアップに大きな貢献をされています。 �� 月からは心エコー室にてデジタル画像解析装置が導入され、検査データ(画像、動画)はすべて大容量ハードディスク内に保存することが可能となりました。同一患者さんのデータを比較検討することが容易になることから、臨床経過を見ていく上で大変有用になります。�008 年 � 月からは心エコー室で記録したエコーの動画像が病棟でも観察できる院内画像ネットワークシステム(prosolv)も稼動し始めています。カンファレンスで心エコーの動画を提示しながら症例を検討することが容易にできるようになりました。また、竹内講師が戻られた後は心筋虚血や viability の評価を目的とした運動やドブタミンを用いた負荷エコーも再開されており、治療方針のより詳細な検討ができるようになっています。

 不整脈の分野ではペースメーカの植え込みにて国内でいち早く心室中隔ペーシングを導入し、よい臨床成績を納めています。また、ペースメーカ電池交換手術は日帰りの外来手術で行なっており、入院しなくてよいため患者様には大変好評のようです。�008 年 4 月には近藤承一先生が大学スタッフ(助教)として赴任されました。デバイス植込み治療のみならず、これまでのカテーテル心筋焼灼術による不整脈治療の経験を生かし、カテーテル心筋焼灼術による不整脈の非薬物治療の中心となり活躍されています。

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 当院心臓血管外科とは蜜に連携をとっており、週 � 回症例の紹介、報告を目的にカンファレンスをおこなっています。特に、僧帽弁逸脱、腱索断裂による器質的僧帽弁逆流が高度である場合、手術はまず、弁形成を目指すことになりますが、術前の心エコーでの正確な診断が重要になります。外科症例カンファレンスには尾辻教授も毎回出席され、症例検討を行っています。西村陽介心臓血管外科長の執刀で行われた �007 年の高度僧帽弁逆流の手術は �0 例施行され、80%に弁形成術が行われました。また、脳血管や大血管に合併症のある症例が増加していることもあり、冠動脈バイパス手術も人工心肺を使用しないoff pump での手術が増加しています。当院心臓血管外科の �007 年の冠動脈バイパス手術(弁膜症との同時手術を除く)19 例中 �8 例が off pump での手術でした。手術死亡はなく、最高齢の方は 87 歳で大動脈弁置換術の症例でした。症例は高齢化していますが今後も年々手術症例が増加していくことが期待されます。

 心臓超音波グループ 

                竹内 正明・春木 伸彦・岡松 恭子・芳谷 英俊                加来 京子・中井 博美 

 グループ写真

 平成 �9 年 9 月より、第2内科に帰任後、まず心エコー図室で最初に手がけたことは、ルーチン心エコー図検査の質の向上でした。それまでの各自が,バラバラな撮り方をしていたところを、一定の形式で心エコー記録をおこなうように徹底し、取りこぼしがなくなるように心がけました。また �� 月からはデジタル画像解析装置が導入され、検査画像はすべて大容量ハードディスク内に保存することが可能となり、同一患者さんの以前のデータと今回検査時のデータを同時表示し,比較検討することが容易にできるようになりました。この際も以前の記録時と同じ画角、画像深度で各断面を撮るようにと、細かいことにまで口をだしました。心エコー図検査は誰でもプローブを当てればそれなりの絵は出せますが,検査の質は検者の技能、知識、やる気、ひらめきに依存しています。一人一人の技術の向上が必要なことを以前より心エコー図室で働いていた現場の医師、技師の方に理解してもらう点で,� 年間の契約で産業医大に来てもらった中井博美さんの功績は計りしれません。彼女のおかげで失礼な言い方をしますが,自分たちの技量がいかに劣っていたかを痛感し、日々の技量の向上に努力する人が多く出てきたことは大きな喜びです。今年彼女が去るのは寂しいのですが、彼女が植えた種は少しずつ育ちつつあります。現在心エコーに従事している技師さんの中から第二、第三の中井博美さんが育つよう努力しなければなりません。心エコー検査の読影も時間の許す限り、その日の検査終了後から1例ずつ動画,静止画を再生しながら、チェックをおこない,足りない点があればそれを指摘し、判読に関して必要な知識,鑑別のポイントを説明しつつ、レポートを校正するように心がけました。時間はかかりますが,心エコー図室全体のレベル向上のためには必要欠くべからざることと考えています。平成 �0 年に入り、それぞれが新しいやり方になれてきた頃から負荷心エコー図検査の件数を増や

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すように努力し始めました。目標は負荷心筋シンチの件数を凌駕し,虚血性心疾患のスクリーニングとしての地位を確立かつ維持することです。負荷心エコー図検査は被爆もなく、壁運動の変化以外にも色々な情報を得ることができる大変有用な検査法であり、そのさらなる普及が本年度の目標です。研究に関しては,大学院生の岡松恭子先生、専修医の春木伸彦先生、中井博美さんを中心として、臨床分野での研究を始めたところです。岡松恭子先生には尾辻教授の専門分野である僧帽弁の形態学的、機能的異常に対して 3 次元心エコーを用いた解析を、春木伸彦先生は、組織ドップラー法,� 次元スペクルトラッキングエコーを用いた睡眠時無呼吸症候群における睡眠前後の心機能評価、及び負荷心エコー図検査施行時の新たな虚血の定量評価の確立をテーマに研究してもらっています。中井博美さんは左室流入血流波形に認められる L 波の意義をさらに突き詰め,新たな拡張能の分類を模索しているところです。これらの結果をもとに,アメリカ心臓病学会に 4 題、日本循環器病学会に �� 題,日本心エコー図学会に�0 題、アメリカ心エコー図学会に 6 題の演題を通すことができました。中井博美さんは "� 次元スペクルトラッキングエコーを用いた収縮後収縮(postsystolic shortening, PSS)の意義 " のテーマで本年度日本心エコー図学会の Young Investigator Award の最終選考者の一人に選ばれたのですが,残念ながら最優秀賞を取ることはできませんでした。4 月からは新たに大学院生として,加来京子先生が、また専修医として、芳谷英俊先生が加わり、心臓超音波グループのメンバーも段々と充実してきました。芳谷英俊先生は大阪市大で 3 次元心エコーを用いたドブタミン負荷心エコーを数多く手がけており、この分野を中心にさらに飛躍してもらいたいと思っています。今後も尾辻教授の力をお借りし,さらに充実した研究を進めていけるよう努力していくつもりです。皆様のご支援,御鞭撻をよろしくお願い申し上げます。

 不整脈グループ安部 治彦、近藤 承一、河野 律子、 長友 敏寿(産業医臨床研修等指導教員)長谷川 潤

不整脈グループの1年間の活動報告

 不整脈グループのこの1年間の活動を報告させていただきます。 診療面では、専修医の河野律子先生にフル活動していただいたおかげでデバイス植込み手術症例数は ��8 例と過去最多となりました(ペースメーカ 98 例、ICD/CRT-D 30 例で、これは全国大学病院でトップ5に入ります)。これは国内でいち早く心室中隔ペーシングを導入し、すばらしい臨床成績を納めていること、ペースメーカ電池交換手術を日帰り外来手術で行なっていること、等の診療の質の高さが徐々に評価されてきた結果であると自負しています。また本年3月まで沖縄県立中部病院に勤務していた近藤承一先生が4月から大学スタッフ(助教)として帰学してきたことにより、今後デバイス植込み治療のみならずカテーテル心筋焼灼術による不整脈の非薬物治療に更なる力を注いで行きたいと考えておりますので、医局員・同門の先生方の益々の患者紹介を宜しくお願いい

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たします。近藤先生はこれまで多くのカテーテル心筋焼灼術による不整脈治療の経験がありますので、今後当院でのカテーテル治療の中心を担って頑張っていただく予定です。早速4月には、non-contact mapping system(エンサイト)を用いて非常に難治性の心房粗動症例の治療に成功いたしました。また産業医大病院は、ペースメーカの世界的大規模臨床研究である ASSERT 研究に参加していますが、この大規模試験の結果は数年後には N Engl J Med 誌等に発表されると思います。 研究面では、日本循環器学会「失神の診断・治療ガイドライン」作成に、班員(安部)および協力員

(河野)として貢献いたしました。平成 �9 年度不整脈グループの業績は、和文著書 �0 編、欧文論文3編、和文論文 �4 編、国際学会 �0 編、国内学会・研究会 24 編でした。竹政啓子先生が本年3月に学位取得し、劔 卓夫先生(市立八幡病院)が本年7月に学位取得予定です。また、公的研究費として、河野律子先生が臨床研究奨励基金より代表研究者として平成 19 年度研究助成を受けられました。 人事面では、これまで不整脈の臨床面・研究面で大変活躍していただいた河野律子先生が、本年4月から世界的医療機器メーカーである St. Jude Medical 社の専属産業医として派遣されました。河野先生は、本学で数多くのデバイス植込み経験と研究実績を積み、デバイス治療において将来を期待される若手研究者の一人として国内では注目される存在ですが、本学卒業生であることにいち早く着目した St. Jude Medical 社からの逆指名でで派遣させることができました。これまでの臨床経験が直接活かせる専属産業医として、将来本学卒業生のモデルケースになるものと思います。本年3月に大学院を卒業した竹政啓子先生は JR 東海の専属産業医として4月から派遣されています。 今年の不整脈グループの臨床目標は、デバイス植込み 150 例、カテーテル心筋焼灼術 50 例としています。非常に高い目標ですが、何とか達成出来るようにスタッフ一同日夜を徹して頑張っておりますので、同門の先生方のこれまで以上の御協力とご支援を何とぞ宜しくお願いします。 

 心血管インターベンショングループ

                      岡﨑 昌博、田中 正哉、山下 和仁、                      園田 信成、村岡 秀崇

 心血管インターベンショングループは病棟・外来での循環器疾患一般の治療に携わると同時に主に冠動脈疾患が対象になりますが、カテーテルを用いた治療をおこなっています。その対象疾患である急性心筋梗塞を含む急性冠症候群は緊急性の高い疾患であることから、�4 時間体制でチームを組んで診療を行っています。 �007 年は心臓カテーテル検査 444 例、PCI:�76例(DES 68 例、BMS �0� 例、POBA �� 例)でした。PCI の症例は再狭窄率が �0%前後と低下しているにもかかわらず、増加しています。当面はもう少し症例を増やして、ロータブレーター施行施設になるのが、目標になりそうです。緊急症例や血管径が大きい病変には薬物溶出ステントを使用していないため、使用率はそんなに高くありませんが、症例や病変により DES と BMS を使い分けているのが現状です。また、僧帽弁狭窄症のカテーテル治療である PTMC を � 例施行しました。� 例目は九

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州厚生年金病院の吉村仁先生のご指導をいただき施行しましたが、� 例目は当科の医師のみで施行することができました。僧帽弁狭窄症の症例は今後増加することはないと思いますが、適応がある症例は積極的に当科にて治療していきたいと考えています。 �007 年4月からは遅ればせながら当院にも 64 列MDCTが導入され冠動脈CTができるようになりました。週 3 例と施行できる症例は多くありませんが、冠動脈造影をしなくても外来にて冠動脈インターベンション治療が必要であるかスクリーニングができることになりました。また、石灰化が著しいときには冠動脈の狭窄の評価は不能ですが、心筋シンチと違って、冠動脈狭窄の位置や石灰化は逆に評価できるため、冠動脈インターベンション治療前の病変の長さや性状、形態の評価には有効であり、治療前に戦略を立てやすくなりました。 また、9 月からは園田学内講師がスタッフとして加わりました。園田先生は血管内超音波を用いた冠動脈疾患の臨床研究を多く手がけておられることから、血管内超音波の知識を豊富に持っております。現在当科では冠動脈インターベンション治療時に可能な限り、血管内超音波を用いて冠動脈の病変を評価し、より適切でかつオペレーターが変わっても質の高い治療ができるよう心がけております。また、IB-IVUS という後方散乱波の解析から冠動脈の血管組織性状を評価するシステムを用いて、臨床研究を始めています。�008 年 4 月からは村岡秀崇先生が大学院生として加わり、臨床研究の解析を進めています。竹内先生が赴任されてからは運動負荷やドブタミン負荷エコーも再び施行できるようになりました。症例によってはプレッシャーワイヤーを用いて FFR(fractional flow reserve) も測定し、より適切な虚血性疾患の治療方針の決定に役立てています。 また、外科適応症例に関しては、毎週行っている外科症例カンファレンスにて手術の難易度や危険性等を検討していただいた上で、外科手術がよいか、症例によっては冠動脈インターベンション治療がよいかを決定しています。 症例を増やしていくことは重要ではありますが、患者様本位の治療および研究をしていくことがより重要と考え、診療を継続してたいと考えておりますので、今後とも宜しくお願い申し上げます。

 2.腎 臓 研 究 室

田村 雅仁・椛島 成利・芹野 良太・柴田 達也宮本  哲・古野 由美・松本 美香・宮崎三枝子

(研 究) 平成 18 〜 19 年度 �006年の主な学会発表は、日本腎臓学会総会:�0 題、日本透析医学会総会:�6 題、ヨーロッパ透析移植学会(ETDA):� 題、国際腹膜透析学会:� 題(シンポジウム)、アメリカ腎臓学会:3 題(うち � 題口演)で、�007 年は、日本腎臓学会総会:�4 題、日本透析医学会総会:�3 題、アメリカ腎臓学会:5 題(うち � 題口演)、アメリカ細胞生物学会:1題でした。日本腎臓学会と日本透析医学会での発表演題数は、� 年連続で関西以西の大学中で第1位でした。研究

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発表の詳細は業績集を御覧下さい。�008年は5月にアジア太平洋腎臓会議がクアラルンプールで行われ、宮本先生と椛島先生が出張予定です。�� 月にはアメリカ腎臓学会がフィラデルフィアで行われ参加する予定です。また、�009 年 4 月には田村が大会長として日本アフェレーシス学会九州地方会を開催することとなりました。同門会の先生方には御協力をお願いすることもあるかと存じますが、何卒よろしくお願い申し上げます。

(臨 床) 腎グループでは①慢性腎臓病(CKD)の診断・治療:腎生検(免疫染色、電子顕微鏡)、IgA 腎症へのステロイド+扁摘療法、②血液透析:新規透析導入、重症合併症患者の透析、透析患者の周術期管理、免疫吸着法(SLE、重症筋無力症、尋常性乾癬)、白血球除去療法(RA、潰瘍性大腸炎)、血漿交換療法、 ③腹膜透析:新しい導入法(SMAP 法、SPIED 法)、新しい腹膜透析液や自動腹膜透析装置の開発応用、高齢者の在宅療法としての腹膜透析、などを積極的に行なっています。「心腎連関」といわれているように心疾患と腎疾患とは密接な相関関係があり、循環器・腎臓内科として循環器グループと協力し診療を行なっています。 大学病院での腎臓内科および腎センターの診療実績を下記にお示しします。腎生検は平成 �6 年度に当教室開設以来累計 �,000 件を突破し、平成 �0 年 4 月現在 �,��4 件となっています。腎センターでの血液浄化療法施行回数は年々増加傾向にあります。平成 �0 年は特に症例数が多くなっています。手術件数も多く、透析導入時の内シャント作成術やテンコフカテーテル挿入術に加え、シャント再建術、グラフト、PTA などもサテライトの透析クリニックからの御紹介を頂き多数行なっています。平成 �9 年に慢性腎臓病の概念が発表されて以来、近隣の開業医の先生より腎生検の患者様や透析導入の患者様の御紹介を頂くことが増えてきていることも患者増の背景にあるのかもしれません。

(平成 �0 年は 4 月までの実績による推計)

(人 事) �006 年から � 年間芹野先生が病棟医長として御活躍され、同年 �� 月には学内講師へ昇任されています。同年 6 月には宮本先生、古野先生が大学院生、専修医として大学に復帰され、渡辺先生、松尾先生、中俣先生が浜松労災病院、愛媛労災病院、門司労災病院へ赴任されました。8 月に田村が腎センター部長へ昇任しました。�� 月に須田先生が岩手県で須田内科医院を御開業されました。古野先生が鞍手町立病院へ赴任されました。�007 年 � 月に長谷川先生が医生ヶ丘クリニックを御退職され、田中先生が医療法人医生ヶ丘クリニックを設立し理事長・院長に御就任されました。4 月に椛島先生が腎センター副部長に就任されました。藤本先生が専修医として大学に復帰されました。6 月に古野先生が大学院生となり、宮崎先生が専修医として大学に復帰、中俣先生が鞍手町立病院に赴任されました。及川先生が第 � 内科助手を退職されました。�008 年 � 月に鐘江先生が門司労災病院、松尾先生が九州労災病院、4 月に加藤先生が北九州総合病院へ赴任され、いずれも腎臓内科の立ち上げに御尽力されて

年 H13 年 H14 年 H15 年 H16 年 H17 年 H18 年 H19 年 H20 年腎生検数 43 59 53 69 58 64 69 87

血液浄化療法施行回数

2,915 3,203 3,284 3,114 3,326 3,717 3,706 4,488

透析導入数 (うち PD)

42(3) 42(1) 46(4) 41(3) 55(8) 49(4) 48(4) 90(12)

手 術 数           79 67 102

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おられます。4 月に徳永先生が NTT 産業医に赴任し、柴田先生が腎センター助教へ御就任されました。中俣先生が専修医として大学に復帰され、藤本先生が鞍手町立病院へ赴任されました。5 名の後期研修医(長谷川先生、松尾先生、穴井先生、渡部先生、久間先生)が第2内科専修医として大学に復帰され、ともに診療に当たっています。

(学 位) 松尾博司先生が �006 年に Kidney International に掲載された論文で、医学博士号を取得されました。

(専門医) 以下の先生方が新規に専門医を取得されました。認定内科医:古野由美、宮崎三枝子、宮本哲、内科総合専門医:柴田達哉、徳永昌樹、松尾博司、透析専門医:松本美香、徳永昌樹、松尾博司、及川秀、柴田達哉、腎臓専門医:松本美香、徳永昌樹、松尾博司、及川秀

(訃 報) �006 年 5 月に産業医科大学産業保健学部名誉教授の高杉昌幸先生が御逝去されました。先生は本学開学時に九州大学第3内科より赴任し第2内科腎グループを設立され、腎臓内科学、透析療法学の先駆者として北九州の地で多大なる御功績を残されました。謹んで哀悼の意を表します。

 3.学位取得者

五十嵐 友 紀 (博医甲 第 296 号 平成 19 年 3 月 26 日) 

Clock and ATF4 transcription system regulates drug resistance in

human cancer cell lines.

Oncogene. 2007; 26:4749-4760.

◆論文要旨 生物には約 �4 時間を基調とする日内リズムが存在し、時計遺伝子 Clock は、その中心的な役割を果たす転写因子である。本研究では、薬剤耐性に関与している ATF4 遺伝子の発現制御に Clock が関与していることを明らかにした。ATF4 のプロモーター領域には E-box が存在し、Clock 蛋白質がこのE-box に結合することで ATF4 遺伝子の転写調節を行っていた。また、�� 種類の肺癌細胞にて、Clock蛋白質の発現量とシスプラチン耐性度に正の相関が見られ、siRNA により Clock 及び ATF4 蛋白質の発現をノックダウンさせると肺癌細胞は感受性を示した。さらに、ATF4 高発現細胞株は多剤耐性形質を示し、細胞内グルタチオン濃度が著明に上昇しており、グルタチオン合成酵素や薬剤排泄ポンプである BCRP や MRP� の発現も亢進していた。概日リズムを制御する転写因子 Clock が薬剤耐性を決定する重要な転写因子であり、今後抗癌剤の投与時間を選択するといった時間薬理に基づいた化学療法の重要性が高まることが期待される。

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小 出 真一郎 (医博甲 第 302 号 平成 19 年 3 月 26 日)

PTEN reduces cuff-induced neointima formation and proinflammatory

cytokines.

Am J Physiol Heart Circ Physiol. 2007;292:H2824-2831.

◆論文要旨 ラットカフ血管傷害モデルを用い、細胞増殖抑制作用等を有する PTEN を過剰発現させることにより動脈新生内膜形成を抑制するか、またその機序として炎症誘発性サイトカイン等に注目して検討を行った。カフ血管傷害による動脈新生内膜形成や、血管壁細胞の増殖、単球・マクロファージの侵入、炎症誘発性ケモカイン・サイトカインの産生は外膜からの PTEN 遺伝子導入・過剰発現により抑制された。さらに、大動脈血管平滑筋細胞の培養においては PTEN 過剰発現が炎症性ケモカイン MCP-� の産生を直接抑制しており、PTEN の治療分子としての可能性が示唆された。

竹 政 啓 子 (博医甲 第 309 号 平成 20 年 3 月 26 日)

Coexistence of hERG current block and disruption of protein

trafficking in ketoconazole-induced long QT syndrome.

Br J Pharmacol. 2008;153;439-447.

◆論文要旨 従来、薬剤性 QT 延長症候群の成因として遅延整流性カリウム電流 (hERG 電流 ) の直接抑制作用が報告されてきたが、最近ではチャネル蛋白輸送異常による細胞表面の hERG チャネル蛋白の発現量減少作用も報告されている。本研究では、薬剤性 QT 延長症候群が報告されているケトコナゾールを用いて、hERG 電流の直接抑制(急性作用)と hERG チャネル蛋白の輸送異常(慢性作用)が併存するかどうかについて検討した。ケトコナゾールは hERG 電流を濃度依存性に直接抑制した。また、ケトコナゾール添加 48 時間後には成熟型 hERG チャネル蛋白、細胞表面の hERG チャネルの発現量および hERG 電流密度がそれぞれ濃度依存性に減少した。ケトコナゾールによる hERG 電流直接抑制作用と hERG チャネル蛋白輸送異常はほぼ同濃度で生じ、さらにこれらの効果は独立して生ずることが判明した。以上からケトコナゾールが QT 時間を延長させる機序には、hERG 電流の直接抑制作用に加えて hERG チャネル蛋白の輸送異常も関与していることが示唆された。

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亀 﨑 文 彦 (博医甲 第 324 号 平成 20 年 3 月 31 日)

Gene transfer of extracellular superoxide dismutase ameliorates

pulmonary hypertension in rats

Am J Respir Crit Care Med. 2008;177: 219-226.

◆論文要旨 本研究では、抗酸化酵素 EC-SOD の肺高血圧症 (PH) における役割を明らかにするために、経気管的 EC-SOD 遺伝子導入が monocrotaline (MCT) 誘発性 PH を軽減するかどうかを検討した。その結果、EC-SOD 遺伝子導入が肺組織酸化ストレスを有意に減少させ、PH の進展、肺動脈 remodeling、血管平滑筋細胞の増殖、肺組織 eNOS 蛋白の減少を著明に抑制することを初めて明らかにした。本研究は、EC-SOD が PH において抗酸化物として働き、加えて、MCT 誘発性 PH の病因において重要な役割を担っていることを示唆している。