1 ガイダンス(授業の進め方、計画)、微分方程式、解と解...
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2012年度・微分方程式演習担当者:伊藤 弘道
2012年度前期(EL科)、2012年度後期(P・CB-C科)
1 ガイダンス(授業の進め方、計画)、微分方程式、解と解法、微分方程式の導出
1. 基本的に授業は教科書(『応用微分方程式』(培風館)藤本淳夫 著)に沿って進めていく。また、予習や授業を欠席した者などのために講義ノートをホームページ上で講義前には更新する予定なので活用するとよい。
2. 板書だけの一方通行的な授業ではなく、例題や演習などを多く出題しながら進めていきたいので、その都度、受講者にその解答をしてもらい、受講者全員が積極的に参加できる授業を目指す。
3. 受講者が充分な理解を得る事が第1の授業目的であるので、授業中の質問や授業後の質問は構わない。(授業後の質問は1号館4階411号室でも受付ける。)
4. 成績評価は期末試験の成績(100点)と数回行う小テストや課題(?点)によって評価する。授業中の発言や演習問題の解答などの正解や不正解かは成績とは全く関係しないので、受講者には積極的に授業に参加することを望む。また、授業に対する意欲のある者は加点評価の対象にもなり得る。
1.1 微分方程式とは何か?
自然現象など様々な現象を解析する際、まず、その現象を方程式に記述することを考えるが、多くの場合、ある状況下で、着目する量がどのように微小変化するかを考える(教科書P.5参照)。すなわち、その状況を指定するいくつかの変数 x, y, ...に対して、そのうちの1つの量 x(t)の時間変化率 dx(t)
dtがどのように変数 x, y, ...および時刻 tに依存するか
を記述する。するとそれは、
dx(t)
dt= F (x(t), y(t), ..., t) (1.1)
または、より一般的に
G
(dx(t)
dt, x(t), y(t), ..., t
)= 0 (1.2)
と表すことができる。また、運動方程式などの重要な例では1階微分のみならず2階微分も方程式に現れる:
G
(d2x(t)
dt2,dx(t)
dt, x(t), y(t), ..., t
)= 0 (1.3)
1
1.2 基本的な用語
これら(1.1)、(1.2)、(1.3)のような未知関数 x(t), y(t), ...およびそれらの導関数に対する関係式を微分方程式 (differential equation)とよぶ。特に(1.1)、(1.2)、(1.3)のように関数 x(t), y(t), ...の独立変数が1つ(この場合は t)の場合の微分方程式を常微分方程式 (Ordinary Differential Equation)とよぶ。それに対して、関数の独立変数が複数個で微分方程式に偏導関数が現れる場合は偏微分方程式 (Partial Differential Equation)という。また、微分方程式に含まれる最高階の導関数の階数をその微分方程式の階数 (order)と
いう。今、便宜上、独立変数 xを、未知関数 y(x)をとする。微分方程式の各項が、y(x)およ
び y(x)の導関数について線形であるとき、その微分方程式は線形 (linear)であるといい、そうでないとき非線形 (nonlinear)であるという。理論的な解析が進んでいて系統的な解法が与えられているのは。主に線形微分方程式であるが、自然現象は多くの場合、非線形微分方程式で記述されるので重要である。この講義では基本となる線形微分方程式について解説する。
例:
y′ = cos x → 1階線形ODE
y′′ + 4y = 0 → 2階線形ODE
x2y′′′y′ + 2exy′′ = (x2 + 2)y2 → 3階非線形ODE
(y′)2 − xy′ + y = 0 → 1階非線形ODE
1.3 例(自由落下)
万有引力の法則に従う自由落下運動は、高校の物理の初歩で学んだ。例えば、静止状態(初期速度は0)から落下した物(質点)の t秒後の速度 v(t)は、鉛直方向下向きを正とすると、
v(t) = gt (1.4)
で表される。ここで gは重力加速度と呼ばれる正の定数(g .= 9.8m/s2)である。(gは本
当は場所によって変化するが無視する。)また、時刻 tにおける落下距離を x(t)とすると、v(t) = dx(t)
dtであるから(1.4)に代入すると、
dx(t)
dt= gt (1.5)
という1階の常微分方程式が得られる。(1.5)を両辺 tで積分すると、
x(t) =1
2gt2 + C (1.6)
ここで、Cは積分定数である。(1.6)に t = 0を代入する事で、
x(0) = C (1.7)
2
がわかり、つまりCは時刻 0における落下距離であるので、0とすると、時刻 tにおける落下距離 x(t)は
x(t) =1
2gt2 (1.8)
となる。この様な x(t)を常微分方程式(1.5)の解 (solution)と呼ぶが、(1.6)の表現では未知定数 C を含んでいるため、解は無数にある事になる。この様な解を一般解 (general
solution)と呼ぶ。しかし、適当な条件(この場合は時刻 0における落下距離 x(0) = 0)という条件(この様な条件を初期条件 (initial condition)と呼ぶ)を課す事により、解が(1.8)のように一意に表される。このような解を特殊解(または特解)(special solution)
という。また、一般解の任意定数にある値を与える事では得られない、つまり一般解には含まれない解が存在する場合もあり、これを特異解 (singular solution)と呼ぶ。(教科書P.4例 8参照)ここでは(1.5)のように単純な微分方程式なので両辺を積分する事で解を得る(これを
求積法 (integral method)と呼ぶ)事ができたが、現実の自由落下運動を考えた場合、この様にはいかない。何故なら空気抵抗が落下速度の増加を妨げ、それは物体の形や速度にも影響するからである。また、落下物の後方で乱流が発生する場合などさらに複雑になる。
1.4 演習問題
1. 教科書P.1~P.5の [例1]~[例8]を参照せよ。
2 存在と一意性、ピカールの逐次近似法
2.1 ピカールの逐次近似法
本講義では主に求積法を解説するが、非線型方程式の場合、1階の微分方程式でも(厳密)解が具体的に求まらない場合が多い。そのような場合、級数解法や逐次近似法 (method
of successive approximation)などがある。これらの方法は解が具体的に求められない場合でも解の存在や近似解を構成できる場合がある。ここでは逐次近似法について考える。次のような1階微分方程式
dy
dx= f(x, y) (2.1)
を考え、f は xと yについての連続関数とする。そして、y = y(x)が初期条件 y(a) = bを満たす(2.1)の解とする。(2.1)を aから xまで積分すると、y(x) − y(a) =
∫ x
adydx
dxなので、
y(x) = b+
∫ x
a
f(x, y(x)) dx (2.2)
となる。すると、積分方程式(2.2)を満たす連続関数 y = y(x)は微分可能で、初期条件y(a) = bを満たす微分方程式(2.1)の解である。すなわち、初期条件 y(a) = bを満たす微分方程式(2.1)の解を求める事と積分方程式(2.2)を満たす連続関数 y = y(x)を求める事は同値である。
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そこで、積分方程式(2.2)を解く事を考える。今、関数列 {yi(x)}∞i=0を次のように定める。
y0(x) = b
y1(x) = b+
∫ x
a
f(x, y0(x)) dx
y2(x) = b+
∫ x
a
f(x, y1(x)) dx
···
yn(x) = b+
∫ x
a
f(x, yn−1(x)) dx
すると、作り方から yn(x)は連続関数で、n → ∞のとき、yn(x) → y(x)に(一様)収束すれば、それが積分方程式(2.2)を満たすことがわかる。
2.2 ピカールの逐次近似法の例
1. 初期条件 y(0) = bを満たす微分方程式
dy
dx= −xy (2.3)
の近似解を求める。この問題の場合、f(x, y) = −xy、a = 0、b = bなので、
yn(x) = b+
∫ x
0
f(x, yn−1(x)) dx = b+
∫ x
0
−xyn−1(x) dx
である。よって、
y0(x) = b
y1(x) = b+
∫ x
0
−bx dx = b
(1 − 1
2x2
)
y2(x) = b+
∫ x
0
−xb(
1 − 1
2x2
)dx = b
(1 − 1
2x2 +
1
23x4
)
y3(x) = b+
∫ x
0
−xb(
1 − 1
2x2 +
1
23x4
)dx = b
(1 − 1
2x2 +
1
23x4 − 1
3 · 24x6
)一般に
yn(x) = b
(1 − 1
2x2 +
1
23x4 − 1
3 · 24x6 + · · · + 1
n!
(−x
2
2
)n)= b
n∑k=0
1
k!
(−x
2
2
)k
が得られる。このとき、
y(x) = limn→∞
yn(x) = be−x2
2 (−∞ < x <∞).
この解は確かに(2.3)及び初期条件を満たすことがわかる。
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2.3 存在と一意性
上でみたように、一般に1階常微分方程式でも、厳密解を求めることは非常に困難である。また、一般に解が存在するのかどうかまた存在するならばその解は一意的かという問題がある。これらの疑問を解決するためにまずは下の例を見ることからはじめる。
例:
|y′| + |y| = 0, y(0) = 1 → 解なし ∵方程式の解は y ≡ 0のみ
y′ = x, y(0) = 1 → 一意解 y =1
2x2 + 1
xy′ = y − 1, y(0) = 1 → 一意でない(無数の)解 y = 1 + cx(cは任意定数)
定理 1. Cauchyの存在定理y = y(x)を未知関数とする1階の常微分方程式
dy
dx= f(x, y)
において、
(仮定 1) 関数 f(x, y)が長方形の開領域
R = {(x, y) | |x− x0| < a, |y − y0| < b}
のすべての点 (x, y)において連続で、しかもRにおいて有界、すなわち、Rのすべての点 (x, y)において
|f(x, y)| ≤ K.
(仮定 2) R内の任意の点 (x, y1)、(x, y2)において Lipschitz条件
|f(x, y1) − f(x, y2)| ≤M |y1 − y2|
を満たす。
このとき、初期条件
y(x0) = y0
を満たす解が
|x− x0| < α = min
{a,
b
K
}で一意的に存在する。
注意:
1. (仮定1)は f が長方形の閉領域 R = {(x, y) | |x− x0| ≤ a, |y − y0| ≤ b}で連続、と置き換えても良い。
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2. 連続微分可能な関数はすべて Lipschitz条件を満たす。∵∣∣∣∂f
∂y
∣∣∣ ≤M より、
|f(x, y1) − f(x, y2)| =
∣∣∣∣∫ y1
y2
∂f(x, y)
∂ydy
∣∣∣∣ ≤M |y1 − y2|.
但し、この逆は一般には言えない。
3. 実は (仮定1)のみで解の存在性は言えるが、一意とは限らない。例
y′ =√
|y|, y(0) = 0
は、f(x, y) =√|y|がすべての yについて連続だが、この初期値問題の解は
y ≡ 0 & y∗ =
x2
40 ≤ x,
−x2
4x < 0.
これは f が (仮定2)を初期値 (x0, y0) = (0, 0)を含むすべての領域において満たさないからである。なぜなら、y1 = 0で y2 > 0のとき、
|f(x, y2) − f(x, y1)||y2 − y1| =
√y2
y2=
1√y2
となるからである。
定理の証明関数列 {yi(x)}∞i=0を先程のピカールの逐次近似法のときのように定める。構成法から
yi(x)は連続関数である。まず、|x− x0| < αにおいて、|yi(x) − y0| ≤ bを示す。i = 0のときは明らか。そこで、
yn−1(x)が満たすと仮定すると、(仮定1)より
|yn(x) − y0| =
∣∣∣∣∫ x
x0
f(x, yn−1(x)) dx
∣∣∣∣ ≤ K|x− x0|≤ Kα ≤ b
が成り立つ。ゆえに数学的帰納法により |yi(x) − y0| ≤ bが任意の iで成り立つ。次に、yi(x)が(一様に)収束する事を示す。|x− x0| < αにおいて、
|y1(x) − y0(x)| =
∣∣∣∣∫ x
x0
f(x, y0) dx
∣∣∣∣ ≤ K|x− x0|.
i ≥ 2のとき、
|yi(x) − yi−1(x)| =
∣∣∣∣∫ x
x0
f(x, yi−1(x)) dx−∫ x
x0
f(x, yi−2(x)) dx
∣∣∣∣≤∫ x
x0
|f(x, yi−1(x)) − f(x, yi−2(x))| dx
≤ M
∫ x
x0
|yi−1(x) − yi−2(x)| dx
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より、i = 2のときには
|y2(x) − y1(x)| = M
∫ x
x0
|y1(x) − y0(x)| dx
≤ M
∫ x
x0
K|x− x0| dx =MK
2!|x− x0|2,
i = 3のときには
|y3(x) − y2(x)| = M
∫ x
x0
|y2(x) − y1(x)| dx
≤ M2K
2!
∫ x
x0
|x− x0|2 dx =M2K
3!|x− x0|3.
一般に、不等式
|yn(x) − yn−1(x)| ≤ Mn−1K
n!|x− x0|n
が成り立つ。ところで、
∞∑n=1
Mn−1K
n!|x− x0|n =
K
M(eM |x−x0| − 1),
yn(x) = y0 + (y1 − y0) + (y2 − y1) + · · ·+ (yn − yn−1)
であるから、ワイヤシュトラスのM判定法により、yn(x)は一様収束する。そこで、limn→∞
yn(x) =
φ(x)とおくと、
|φ(x) − y0| ≤ b
が成り立つ。さらに、
φ(x) = limn→∞
yn(x) = y0 + limn→∞
∫ x
x0
f(x, yn(x)) dx = y0 +
∫ x
x0
f(x, φ(x)) dx
が成り立つことが分かり、解の存在が示される。次に解の一意性を示す。初期値問題の2つの解 φ(x)、ψ(x)があったとする。このとき、
φ(x) = y0 +
∫ x
x0
f(x, φ(x)) dx, ψ(x) = y0 +
∫ x
x0
f(x, ψ(x)) dx
が成り立つ。(仮定2)を用いて
|φ(x) − ψ(x)| =
∣∣∣∣∫ x
x0
f(x, φ(x)) − f(x, ψ(x)) dx
∣∣∣∣≤ M
∫ x
x0
|φ(x) − ψ(x)| dx = M
∫ x
x0
|(φ(x) − y0) − (ψ(x) − y0)| dx
≤ M
∫ x
x0
|(φ(x) − y0)| + |(ψ(x) − y0)| dx ≤M
∫ x
x0
2b dx = 2bM |x− x0|.
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この評価を再び被積分関数に使い、この操作を繰り返すと
|φ(x) − ψ(x)| ≤ 2Mnb|x− x0|nn!
となり、左辺は n→ ∞のとき 0となるので、φ(x) = ψ(x)がいえる。(証明終わり)
注意: 解の一意性の証明には次の補題も有用であり、多くの応用があるので紹介する。
補題 1. Gronwallの不等式f(x)、g(x)は連続関数,g(x) ≥ 0とする。u(x)が
u(x) ≤ f(x) +
∫ x
c
g(t)u(t) dt x > c
を満たすならば、
u(x) ≤ f(x) +
∫ x
c
g(t)f(t) exp
(∫ x
t
g(s) ds
)dt x > c
が成り立つ。
補題の証明F (x) =
∫ x
cg(t)u(t) dtとおく。u(x) ≤ f(x) + F (x)の両辺に g(x) ≥ 0をかけて F (x)g(x)
を移項すれば、
u(x)g(x) − F (x)g(x) ≤ f(x)g(x)
を得る。F ′(x) = u(x)g(x)であるから、
F ′(x) − F (x)g(x) ≤ f(x)g(x)
である。この両辺に exp(− ∫ x
cg(t) dt
)> 0をかけて、積の微分公式に注意すれば、
d
dx
(exp
(−∫ x
c
g(t) dt
)F (x)
)≤ f(x)g(x) exp
(−∫ x
c
g(t) dt
)
を得る。この両辺を cから xまで積分して、F (c) = 0に注意すれば、
exp
(−∫ x
c
g(t) dt
)F (x) ≤
∫ x
c
f(t)g(t) exp
(−∫ t
c
g(s) ds
)dt
となる。この両辺に exp(∫ x
cg(t) dt
)をかければ、
F (x) ≤∫ x
c
f(t)g(t) exp
(∫ x
t
g(s) ds
)dt
となる。これと元の式 u(x) ≤ f(x) + F (x)をあわせれば,
u(x) ≤ f(x) +
∫ x
c
g(t)f(t) exp
(∫ x
t
g(s) ds
)dt
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となって求める不等式を得る。(証明終わり)
今、定理の証明内の不等式
|φ(x) − ψ(x)| ≤M
∫ x
x0
|φ(x) − ψ(x)| dx
において、Gronwallの不等式の
u(x) = |φ(x) − ψ(x)|, f(x) = u(x0) = 0, g(x) = M
とおけば、先の補題より
|φ(x) − ψ(x)| ≤ |φ(x0) − ψ(x0)|eM(x−x0) = 0
となり、φ(x) = ψ(x)が証明される。
3 変数分離、同次形
3.1 変数分離形微分方程式
次の形の微分方程式は変数分離形 (separable)と呼ばれる。
dy
dx= f(x)g(y) (3.1)
g(y) �= 0の場合は
1
g(y)
dy
dx= f(x)
となるから、この両辺を xで積分すると、∫dy
g(y)=
∫f(x) dx+ C (3.2)
が得られる。これを yについて解けば、それが微分方程式(3.1)の一般解である(Cは任意定数)。g(y) = 0となる場合には、g(y) = 0の解 y0に対して定数関数 y = y0も(3.1)の解にな
る。これが一般解(3.2)に含まれるときは、y = y0は特殊解、含まれないときは特異解である。
3.2 変数分離形微分方程式の例
1. 教科書P.7の [例1]
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2. 先の自由落下の例で、ここでは、最も簡単な空気抵抗のみを考慮してみる。空気抵抗力は速度に比例して大きくなり、運動を妨げる向きに生じるとする。(これは、比較的低速の場合に成り立つものである、例えば、v < m
Kg。)空気抵抗の比例係数を
K、落下物の質量をmとすると、運動方程式は
mdv(t)
dt= mg −Kv(t) (3.3)
と、速度 vに関する微分方程式が得られる。しかし、解を得るには右辺に vが入ってしまうため、(1.5)よりは困難である。(3.3)は
1(g − K
mv(t)) dv(t) = dt (3.4)
と、変数分離できるので、(3.4)の両辺を積分して、すなわち∫
1
(g−Km
v(t))dv(t) =
∫dt
を計算すると、
−mK
log
∣∣∣∣g − K
mv(t)
∣∣∣∣ + C = t (3.5)
と表せる(Cは任意定数)。(3.5)を指数表記すると
g − K
mv(t) = e−
Km
t · eKm
C , (3.6)
v(t) = −mKe−
Km
t · eKm
C +m
Kg (3.7)
となる。ここで、初期条件 t = 0の時、v(0) = 0より、
0 = −mKe
Km
C +m
Kg (3.8)
より、eKm
C = gとなるから、
v(t) = −mgKe−
Km
t +m
Kg (3.9)
が得られる。
3.3 同次形微分方程式dydxが y
xにのみ依存する関数として表される微分方程式
dy
dx= f(
y
x) (3.10)
を同次形 (homogeneous)の微分方程式という。これを解くには u = yxすなわち y = uxと
おく。この両辺を xで微分して得られる
y′ = u′x+ u
(u′ =
du
dx
)を(3.10)に代入すると、u′x+ u = f(u)、すなわち
u′ =f(u) − u
x(3.11)
となる。(3.11)は変数分離形微分方程式なので、uが求められ、解 y = uxが得られる。
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3.4 同次形微分方程式の例
1. 教科書P.9の [例4]
2.
2xyy′ = x2 + y2 (3.12)
は 2xy、x2+y2は2次の同次多項式であるから、微分方程式(3.12)は同次形である。
y′ =x2 + y2
2xy=
1 +(
yx
)22(
yx
)と変形して、y = uxとおくと、f(u) = 1+u2
2uであるから
u′ =1 − u2
2xu
となる。変数分離を用いて解くと、∫2u
1 − u2du =
∫1
xdx
より、
− log |1 − u2| = log |x| + C
を得る。すると、|x(1 − u2)| = eCだから x(1 − u2) = ±eC。ここに、u = yxを代入
して、
x2 − y2 = C ′x (3.13)
を得る(C ′ = ±eC)。なお、u = ±1のとき y = ±xであるが、これは C ′ = 0に対応する解である。よって微分方程式(3.12)の一般解は(3.13)である。
3.5 演習問題
1. 教科書P.8の [問題 1.1.1]を解いてみよ。
2. 教科書P.10の [問題 1.1.2]を解いてみよ。
4 1階線形微分方程式、ベルヌーイの方程式
4.1 1階線形微分方程式
y′ + f(x)y = g(x) (4.1)
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の形の微分方程式を、1階線形微分方程式という。g(x) ≡ 0のときは、(4.1)は変数分離形微分方程式で、その一般解は
y = Ce−�
f(x) dx (4.2)
となる。g(x) ≡ 0でないとき、解(4.2)においての任意定数Cを xの関数C(x)と考え、
y = C(x)e−�
f(x) dx (4.3)
が、(4.1)の解になるようにC(x)を定める。(これを定数変化法 (method of variation of
parameters)という。)(4.3)を微分すると、y′ = −f(x)y+C ′(x)e−
�f(x) dxとなるから、(4.1)より、C(x)を
C ′(x)e−�
f(x) dx = g(x)となるように定めればよい。すなわち、
C(x) =
∫ (e�
f(x) dxg(x))
dx+ C (4.4)
ゆえに、(4.1)の一般解は(4.3)から
y = e−�
f(x) dx
{∫ (e�
f(x) dxg(x))
dx+ C
}(4.5)
となる。
4.2 1階線形微分方程式の例
1. 教科書P.11の [例1]
2. 教科書P.12の [例2]
3. RC回路容量Cのコンデンサが時間的な変化をする電圧 e(t)を供給する電源により、抵抗R
を通して充電されているとき、そのコンデンサの電荷 q(t)は 1階線形微分方程式
Rdq
dt+q
C= e(t) (4.6)
を満たす。(図 1参照)
4. RL回路インダクタンス Lを含む回路では誘導電流による電圧降下が生じるので、回路のスイッチ Sを閉じるとき、電流 i(t)は 1階線形微分方程式
Ldi
dt+Ri = e(t) (4.7)
を満たす。(図 2参照)
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図 1: RC回路
図 2: RL回路
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実際、今図 2のようなRL回路において、時刻 t = 0のときスイッチ Sを閉じて起電力 e(t) = E0 sinwtを加え、初期条件 i(0) = 0の下で(4.7)を解いてみる。すると、(4.1)で x → t、y → i、f(t) = R
L、g(t) = E0
Lsinwtと考えれば良いので、一般
解は(4.5)から
i(t) = e−�
RL
dt
{∫ (e�
RL
dtE0
Lsinwt
)dt+ C
}(4.8)
より、
i(t) =E0
Le−
RL
t
∫e
RL
t sinwt dt+ Ce−RL
t (4.9)
となる。I(t) =∫e
RL
t sinwt dtとして部分積分を2回すると、
I(t) =L
Re
RL
t sinwt−∫
L
Re
RL
tw coswt dt
=L
Re
RL
t sinwt− Lw
R
{L
Re
RL
t coswt−∫
L
Re
RL
t(−w sinwt) dt
}
=L
R2e
RL
t (R sinwt− Lw coswt) − L2w2
R2I(t)
I(t) =L
R2 + L2w2e
RL
t (R sinwt− Lw coswt)
よって、一般解(4.9)は
i(t) =E0
R2 + L2w2(R sinwt− Lw coswt) + Ce−
RL
t (4.10)
となる。これに初期条件 i(0) = 0を考慮すると、
C =E0Lw
R2 + L2w2(4.11)
となるので、特殊解
i(t) =E0
R2 + L2w2
(Lwe−
RL
t +R sinwt− Lw coswt)
(4.12)
が得られる。さらに tanα = LwRとおけば、(4.12)は
i(t) =E0√
R2 + L2w2
(e−
RL
t sinα + sin (wt− α))
(4.13)
とも表せる。
4.3 ベルヌーイの方程式
非線形の微分方程式の解法は一般に難しいが、特別な場合は適当な変数変換によって線形微分方程式に帰着させることができる。その最も有名な例は次のベルヌーイの方程式である。
y′ + f(x)y = g(x)ya (4.14)
14
a = 0, 1のときは線形微分方程式である。a �= 0, 1のときは u = y1−aとおくと、u′ =
(1 − a)y−ay′より
ya
1 − au′ + f(x)yau = g(x)ya より u′ + (1 − a)f(x)yau = (1 − a)g(x)
となる。
4.4 ベルヌーイの方程式の例
1. 教科書P.13の [例3]
2. 教科書P.1の [例2] ロジスティック方程式
y′ −Ay = −By2 (A, Bは正の定数)
これはベルヌーイの方程式のa = 2の場合と思えばよい。よって、u = y−1とおくと、
u′ + Au = B.
(i)u′ + Au = 0を解くと、∫1
udu =
∫−A dx, log u = −Ax+ C, u = Ce−Ax.
(ii) 定数変化法を使う。u = C(x)e−Axとすると、
C ′(x)e−Ax − AC(x)e−Ax + AC(x)e−Ax = B, C ′(x) = BeAx, C(x) =B
AeAx + C.
よって、一般解は u = BA
+ Ce−Ax(Cは任意定数)なので、
y =1
BA
+ Ce−Ax, y ≡ 0.
ここで、
y′ = − −ACe−Ax(BA
+ Ce−Ax)2
またAは正定数より、初期条件により定まる任意定数 C が C > 0ならば y′ > 0となり、yは単調増加である。C < 0のときは y′ < 0より yは単調減少である。どちらの場合でも、
limx→+∞
y =A
B
に収束することがわかる。
15
4.5 演習問題
1. 教科書P.11の [問題 1.2.1]を解いてみよ。
2. 教科書P.13の [問題 1.2.2]を解いてみよ。
3. 教科書P.14の [問題 1.2.3]を解いてみよ。
5 完全微分方程式と積分因数
5.1 完全微分方程式
1階微分方程式
dy
dx= −f(x, y)
g(x, y)(5.1)
を
f(x, y) dx+ g(x, y)dy = 0 (5.2)
の形に表したとき、左辺がある関数 u(x, y)の全微分、すなわち
du =∂u
∂xdx+
∂u
∂ydy (5.3)
となっているとき、(5.2)は完全微分 (exact differential)方程式であるという。このとき、∂u∂x
= f(x, y)、∂u∂y
= g(x, y)で、(5.2)の一般解は
u(x, y) = C (5.4)
である(Cは任意定数)。
定理 2. ∂f∂y、 ∂g
∂xが連続関数であるとき、微分方程式(5.2)が完全微分方程式であるため
の必要十分条件は
∂f(x, y)
∂y=∂g(x, y)
∂x(5.5)
である。このとき、一般解は
u(x, y) =
∫f(x, y) dx+
∫ {g(x, y)− ∂
∂y
∫f(x, y) dx
}dy
= C (5.6)
で与えられる(Cは任意定数)。
16
証明(i)必要性:完全微分方程式⇒(5.6)
∂f(x, y)
∂y=∂2u(x, y)
∂y∂x=∂2u(x, y)
∂x∂y=∂g(x, y)
∂x.
ここで、1階偏導関数の連続性を使っていることがポイント。(ii)十分性:(5.6)⇒完全微分方程式F (x, y) =
∫f(x, y) dxとおくと、
∂F
∂x= f(x, y),
∂2F (x, y)
∂y∂x=∂f(x, y)
∂y=∂g(x, y)
∂x
よって、
∂
∂x
(∂F
∂y− g(x, y)
)= 0.
これは、( )内の関数が xによらず yのみに依存した関数であることを示しているので、これを h(y)とおくと、
f(x, y)dx+ g(x, y)dy =∂F
∂xdx+
(∂F
∂y− h(y)
)dy = d
(F (x, y) −
∫h(y) dy
).
従って、u = F (x, y) − ∫ h(y) dyとおくと、
∂u
∂x=∂F
∂x= f(x, y),
∂u
∂y=∂F
∂y− h(y) = g(x, y)
となり、(5.2)は完全微分方程式である。(証明終わり)
また、この定理を用いて完全微分方程式か否かが判定できれば、多くの場合、視察によって一般解が容易に求められる。
5.2 完全微分方程式の例
1. 教科書P.16の [例1]
2. 回転放物面鏡を太陽に向けると光は 1点、つまり焦点に集まる。超短波にもパラボラアンテナが使われる。逆にそのような性質を持つ回転面はどのようなものか考えてみる。
図 3において、y = f(x)のグラフをx軸のまわりに回転した曲面の内面を鏡とする。(∞, a)の無限遠点からの平行光線が反射されてすべて原点に集まるとすると、
dy
dx=
y√x2 + y2 + x
=
√x2 + y2 − x
y
あるいは、 (x√
x2 + y2− 1
)dx+
y√x2 + y2
dy = 0
17
図 3: 回転放物面鏡
すると、 ∂∂y
(x√
x2+y2− 1
)= − xy
(x2+y2)32、 ∂
∂x
(y√
x2+y2
)= − xy
(x2+y2)32ゆえに完全微分
形である。 ∂∂xu(x, y) = x√
x2+y2− 1より、
u(x, y) =√x2 + y2 − x+ ϕ(y)
次に、∂
∂yu(x, y) =
y√x2 + y2
+ ϕ′(y) =y√
x2 + y2
を満たすようにϕ(y)を定めると、ϕ′(y) = 0、ϕ(y) = C ′。よって一般解は√x2 + y2−
x = Cより、
y2 = C2 + 2xC
または
x =1
2C(y2 − C2)
となる(Cは任意定数)。従って求める鏡は放物面鏡に限る。
5.3 積分因数とその例
微分方程式(5.2)自身が完全微分方程式でなくとも、ある関数 λ(x, y) �= 0を掛けると
λ(x, y)f(x, y) dx+ λ(x, y)g(x, y)dy = 0 (5.7)
が完全微分方程式になるとき、この関数 λ(x, y)を(5.2)の積分因数 (integrating factor)
あるいは積分因子という。積分因数を直接求める一般的な方法はない。また積分因数は存在してもただ一つには定まらない。また、xmynの形の積分因数を求めて解く方法もよく用いられる(教科書 P.18[例2]参照)。
18
5.4 演習問題
1. 教科書P.17の [問題 1.3.1]を解いてみよ。
2. 教科書P.18の [問題 1.3.2]を解いてみよ。
6 他の一階微分方程式、曲線への応用
6.1 クレローの微分方程式
y = xy′ + g(y′) (6.1)
の形の微分方程式をクレローの微分方程式という。今、特に g(y′) =√
1 + (y′)2を考えてみる。y′ = pとおくと、
y = xp+√
1 + p2 (6.2)
となる。(6.2)の両辺を xで微分して、
p = p′x+ p+p√
1 + p2p′ (6.3)
となるので、(6.3)をまとめると
p′(x+
p√1 + p2
)= 0 (6.4)
となる。よって(6.2)の解は p′ = 0または x + p√1+p2
= 0の解となる。いま、p′ = 0の
時は p′ = y′′ = 0より、二度積分して y = C1x+ C2を得る。これを(6.2)に代入すると
C1x+ C2 = C1x+√
1 + C21 → C2 =
√1 + C2
1
となるので、C1 = Cとおけば、p′ = 0の一般解
y = Cx+√
1 + C2 (6.5)
を得る。一方、x+ p√1+p2
= 0の場合は p = − x√1−x2 であるから、これを(6.2)に代入す
ると
y = px+√
1 + p2 = − x2
√1 − x2
+
√1 +
x2
1 − x2=
1 − x2
√1 − x2
=√
1 − x2
となり、これは一般解からは得られないから
y2 + x2 = 1 (6.6)
19
図 4: クレローの微分方程式の解
は特異解である。これより、(6.2)の一般解(6.5)は直線族を表し、特異解(6.6)は(6.5)の円の包絡線族になっている。(図4参照)クレローの微分方程式(6.1)の一般解は cをパラメータとして
y = cx+ g(c) (6.7)
で与えられ、特異解は
x =- g′(c) (6.8)
となる。
6.2 ラグランジュの微分方程式
y = xf(y′) + g(y′) (6.9)
の形の微分方程式をラグランジュの微分方程式という。y′ = pとおき、両辺を xで微分すると、
p = f(p) + xf ′(p)dp
dx+ g′(p)
dp
dx→ p− f(p) =
dp
dx(xf ′(p) + g′(p)) (6.10)
となる。今、p− f(p) �= 0のときは
1dpdx
=dx
dp= x
f ′(p)p− f(p)
+g′(p)
p− f(p)(6.11)
20
となる。よって未知関数 xに対する1階線形微分方程式なので、。一般解は求めることができる。一旦 xについてとけたなら、パラメータ pを元の方程式(6.9)と連立させて消去して一般解が得られる。また、 p− f(p) = 0のときは
y = xf(p) + g(p) = xp+ g(p) (6.12)
となってクレローの微分方程式(6.1)に帰着される。
6.3 曲線への応用
cを1つのパラメータとする
f(x, y, c) = 0 (6.13)
は2次元での曲線を表し、cの値に応じて無限に多くの曲線が表現できる。その曲線全体を1つのパラメータの曲線族と呼ぶ。例えば、方程式
x2 + y2 − c2 = 0 (6.14)
は、原点を中心とする半径 cの同心円の族を表している。1階微分方程式の一般解は1つのパラメータ cを含む曲線族表す。逆に1つのパラメー
タの曲線族の多くは 1階微分方程式により表される。例えば、(6.14)の場合、微分してcを消去すれば、
y′ = −xy
(6.15)
が曲線族(6.14)を表す微分方程式である。また、1つの曲線族が与えられていて、その各曲線族と一定の角 αで交わる曲線族を
この曲線族の αの等交曲線 (isogonal trajectory)という。特に α = π2のときを直交曲線
(orthogonal trajectory)という。いま、(6.13)を一般解にもつ微分方程式を
F (x, y, y′) = 0 (6.16)
とする。α等交曲線 y = y(x)の各点 (x, y)での傾きを y′ = tan θとすれば、その点を通る曲線族の接線の傾きは tan (θ − α)であるから、tan (θ − α) = tan θ−tan α
1+tan θ tan α= y′−tanα
1+y′ tan αより、
F (x, y,y′ − tanα
1 + y′ tanα) = 0 (6.17)
が α等交曲線の満たす微分方程式となる。(6.17)を解いて α等交曲線の方程式が得られる。特に、α = π
2のときは、tan θ → ∞として、
F (x, y,− 1
y′) = 0 (6.18)
となる。いま、2次元で、真空中、原点に置かれた点電荷 qによる電場の等電位曲線を求め、直
21
交曲線である電気力線を求める問題を考える。点電場の作る電場はクーロンの法則で与えられる粒子間の距離 rの 1
r2 に比例する形であるので、適当な定点 (例えば無限遠点)を基準にして rまで積分すると、クーロンポテンシャル
V (r) =q
4πε0r(6.19)
が得られる(ここで ε0(真空の)誘電率)。よって等電位曲線は
c =q
4πε0√x2 + y2
(6.20)
と表される。微分して cを消去すると 0 = − q
4πε0(x2+y2)32(x+ yy′)なので、
y′ = −xy
= f(x, y) (6.21)
が、等電位曲線の微分方程式となる。変数分離で解けば、これは同心円の曲線族 x2 +y2−c2 = 0を表していることがわかる。すると、直交曲線の微分方程式は
y′ = − 1
f(x, y)=y
x(6.22)
なので、こちらも変数分離で解くと原点を通る直線族 y = cxを得る。これは点電荷を与えたときにできる等電位曲線は同心円でありそれに直交する電気力線は原点を通る直線で表されることを意味する。(図5参照)
図 5: 点電荷による等電位曲線と電気力線の直交性
22
7 高階線形微分方程式、基本解、ロンスキアン
7.1 高階線形微分方程式
y(n) + a1(x)y(n−1) + · · · + an(x)y = b(x) (7.1)
をn階線形微分方程式 (nth order linear differential equation)という。特に b(x) ≡ 0のとき、
y(n) + a1(x)y(n−1) + · · · + an(x)y = 0 (7.2)
をn階線形同次微分方程式 (homogeneous differential equation)という。また、b(x)が恒等的に 0でないとき、(7.1)をn階線形非同次微分方程式 (inhomogeneous differential equa-
tion)という。
定理 3. 重ね合わせの原理 (principle of superposition)
y1(x)、y2(x)を(7.2)の解とするとき、y1(x)と y2(x)の線形結合 c1y1(x) + c2y2(x)もまた(7.2)の解になる。
証明は教科書 P.23参照。また、(7.1)の2つの解の差は(7.2)の解になることが容易にわかるので、(7.1)の一
般解は
[(7.1)の一般解] = [(7.2)の一般解] + [(7.1)の特殊解]
と書けることが分かる。(7.1)の解の存在性については次が成り立つ。
定理 4.
微分方程式(7.1)において、{aj(x)}nj=1がすべて連続関数ならば、任意に与えられた定数
c1, c2, · · · , cnに対して、(7.1)の解で、初期条件 y(a) = c1, y′(a) = c2, · · · , y(n−1)(a) = cn
を満たす解が一意に存在する。
注意:この定理については教科書 P.23参照。また、n階の微分方程式の一般解には任意定数がn個含まれる。そのため、特殊解を求めるための初期条件もn個必要となる。またこのような初期値問題の他に考えている区間の端点に与える条件(境界条件)を課した境界値問題も知られている(教科書 P.5参照)。
定義 1.
y1(x), y2(x), · · · , yn(x)を(7.2)の解とするとき、
W (y1, y2, · · · , yn) ≡
∣∣∣∣∣∣∣∣∣∣∣
y1(x) y2(x) · · · yn(x)
y′1(x) y′2(x) · · · y′n(x)...
......
y(n−1)1 (x) y
(n−1)2 (x) · · · y
(n−1)n (x)
∣∣∣∣∣∣∣∣∣∣∣(7.3)
を解 y1(x), y2(x), · · · , yn(x)のロンスキー行列式 (Wronskian)という。
23
定理 5.
微分方程式(7.2)の解 y1(x), y2(x), · · · , yn(x)が線形独立であるための必要十分条件は
W (y1, y2, · · · , yn) �= 0 (7.4)
である。
証明は教科書 P.25参照。よって、(7.4)が成り立つような解y1(x), y2(x), · · · , yn(x)が求まれば、微分方程式(7.2)
の一般解は
y = c1y1 + c2y2 + · · ·+ cnyn (7.5)
で与えられる(c1, c2, · · · , cnは任意定数)。このような y1(x), y2(x), · · · , yn(x)を(7.2)の基本解 (fundamental solution)または基底という。
7.2 演習問題
1. 教科書P.26の [例1]を解いてみよ。
8 微分演算子関数がある数の集合から他の数の集合への写像であるのに対して、微分という演算は関
数のある集合(ある区間で微分可能な関数の全体)から関数の他の集合(その導関数の全体)への写像である。このような写像を演算子あるいは作用素と呼ぶ。いま、微分の演算をDで表す。高階微分も演算子でありDの反復とみなせるので、
y′ = Dy, y′′ = D2y, · · ·y(n) = Dny
と書くことにすれば、(7.1)は
Dny + a1(x)Dn−1y + · · · + an(x)y = b(x) (8.1)
となる。これを便宜上、
(Dn + a1(x)Dn−1 + · · ·+ an(x))y = b(x) (8.2)
と書くこともできる。Dやもっと一般的な(8.2)の左辺のような微分の演算を表す演算子を微分演算子 (differential operator)という。この微分演算子を導入することによって後述の高階の定数係数微分方程式が容易に扱うことができる。しかし、Dは単なる文字ではないので以下のことに注意が必要である。
注意: U、V を微分演算子とすると
1. (U ± V )y = Uy ± V y
24
2. 一般に積の交換法則は成り立たない。UV = V U
反例:U = x2D2 + xD + 2、V = D2とすると、
(UV )y = U(V y) = Uy′′ = x2y(4) + xy(3) + 2y′′
= (x2D4 + xD3 + 2D2)y,
(V U)y = V (Uy) = V (x2y′′ + xy′ + 2y) = D2(x2y′′ + xy′ + 2y)
= D(2xy′′ + x2y(3) + y′ + xy′′ + 2y′) = D(x2y(3) + 3xy′′ + 3y′)
= 2xy(3) + x2y(4) + 3y′′ + 3xy(3) + 3y′) = x2y(4) + 5xy(3) + 6y′′
= (x2D4 + 5xD3 + 6D2)y.
3. 2つの定数係数の多項式 f(t)、g(t)については、f(D)g(D) = g(D)f(D)
基本公式: f(t)を tの定数係数の多項式、u(x)を必要な階数だけ微分可能な関数、αと λ
を定数とすると
1. (D − α)n(eαxu(x)) = eαxDnu(x)
2. (D − λ)n(eαxu(x)) = eαx(D − λ+ α)nu(x)
3. f(D)(eαxu(x)) = eαxf(D + α)u(x)
特に、f(t) = (t− α)kのときは、(D − α)k(eαxu(x)) = eαxu(k)(x)
基本公式の証明は、1は2で λ = αと置いたものである。2.は帰納法を用いて証明できる。3は f(t) = tkのときに成り立つことを示せば十分である。
Dk(eαxu(x)) = Dk−1(αeαxu(x) + eαxu′(x)) = Dk−1(eαx(D + α)u(x))
= Dk−2(eαx(D + α)2u(x)) = · · · = eαx(D + α)ku(x).
関数 b(x)に対して、Dy = bを満たす関数を y = 1Dbと書く。もちろん定義によって
1
Db =
∫b(x) dx (8.3)
であり、 1Dbは積分定数の差を除いて定まる。 1
Dは微分演算の逆演算で、不定積分を表す
演算子である。一般に f(t)を定数係数の多項式とするとき、f(D)y = bを満たす関数を
y =1
f(D)b (8.4)
で表す。 1f(D)を f(D)の逆演算子 (inverse operator)という。 1
Dbが、積分定数を除いて定
まったのと同様に、 1f(D)
bは同次方程式 f(D)y = 0の差を除いて定まる。先の基本公式より次の定理が成り立つ。
25
定理 6.
b(x)を連続な関数とするとき、
1
(D − α)kb = eαx
∫· · ·∫
︸ ︷︷ ︸k 回
e−αxb(x) dx · · ·dx (8.5)
いま上の定理を用いて、例えば、 1D2−3D+2
exを計算してみる。
1
(D − 2)(D − 1)ex =
1
D − 2ex
∫e−xex dx =
1
D − 2xex
= e2x
∫e−2xxex dx = e2x
∫xe−x dx
= e2x(−e−x − xe−x) = −(1 + x)ex
だが、一方、
1
(D − 1)(D − 2)ex =
1
D − 1e2x
∫e−2xex dx =
1
D − 1(−ex)
= ex
∫e−x(−ex) dx = −xex
となる。2つの解に−exの差があるが、同次方程式 (D2 − 3D + 2)y = 0の一般解は後で述べるが c1e
x + c2e2xとなるので、どちらを用いても非同次方程式の一般解は一致する。
9 定数係数線形同次微分方程式
9.1 定数係数線形同次微分方程式
線形同次微分方程式(7.2)の係数がすべて定数の場合、すなわち
y(n) + a1y(n−1) + · · · + any = 0 (9.1)
に対して、先の微分演算子を用いて表記すれば f(D)y = 0である。そこで
f(t) ≡ t(n) + a1t(n−1) + · · · + an = 0 (9.2)
を(9.1)の特性方程式 (characteristic equation)と呼び、その根λjを特性根 (characteristic
roots)という。
定理 7.
線形定数係数n階同次微分方程式(9.1)の特性方程式 f(t) = 0の根が
f(t) =r∏
j=1
(t− λj)kj ,
r∑j=1
kj = n
とすると、(9.1)の一般解は
y(x) =
r∑j=1
(cj1 + cj2x+ · · · + cjkjxkj−1)eλjx (9.3)
となる。この形以外の解は存在せず、従って特異解は存在しない。
26
証明は(9.3)が(9.1)の解であることは前に挙げた基本公式2を用いると示すことができる。(9.3)の形に限られることの証明は少々込み入っているのでここでは省略する。また、実定数係数の場合でも特性方程式の解が一般に実数とは限らない。複素数 z = x+ iy
(x、yは実数)に対して指数関数 exがオイラーの公式により
ex = exeiy = ex(cos y + i sin y) (9.4)
として定義される。複素数値関数 f(x) = u(x) + iv(x)の微分を f ′(x) = u′(x) + iv′(x)で定義すると、任意の複素数 αに対して (eαx)′ = αeαxが成り立つ。また、
補題 2.
実数係数の代数方程式
f(t) = t(n) + a1t(n−1) + · · ·+ an = 0
の解が複素根 α = a+ biを持つならば、その共役複素数 α = a− biも解であり、複素根 α
が k重根であれば、αも k重根である。
この証明は αが解ならば、αも解であることは f(α) = 0より f(α) = f(α) = 0から明らかで、
f(t) =
r∏j=1
(t− α)k = 0 → f(α) =
r∏j=1
(t− α)k = 0
よりわかる。この補題により
eax cos bx =eαx + eαx
2, eax sin bx =
eαx − eαx
2i
に注意すると、線形微分方程式の解の線形結合も解であるから eax cos bxと eax sin bxも(9.1)の解になる。よって、特性方程式が複素根を持っていても解を複素数を用いずに表すことができる。以上の事柄について理解を容易にするために n = 2の場合でまとめる。
線形実定数係数2階の同次微分方程式
y′′ + py′ + qy = 0 (9.5)
について(p、qは実数定数)その特性方程式 f(t) = t2 + pt+ q = 0が
1. 相違なる2つの根 α、βを持つならば(9.5)の基本解は eαx、eβxであり、一般解は y = Aeαx +Beβxである(A、Bは任意定数)。
2. 重根 αを持つならば(9.5)の基本解は eαx、xeαxであり、一般解は y = Aeαx +Bxeαxである(A、Bは任意定数)。
3. 虚根 a± biを持つならば(9.5)の基本解は eax cos bx、eax sin bxであり、一般解は y = Aeax cos bx+Beax sin bxである(A、Bは任意定数)。
27
9.2 定数係数線形同次微分方程式の例
1. 教科書P.28~P.29の [例1]~[例3]。
2. 教科書P.33の [例4]。
3. バネ振り子
図 6: バネ振り子
図6のようにバネの先につけられた質量mの物体がある。物体が静止していたときの位置 x = 0から、時刻 tにおける物体の位置までの距離を x(t)とすると、物体の運動を記述する運動方程式は k1をバネ定数として
md2x
dt2= −k1x (9.6)
とかけるので、(9.1)に該当する。また速度に比例する抵抗力(減衰力)が存在する場合、γを正定数として
md2x
dt2= −k1x− γ
dx
dt(9.7)
とかける。ここで、k =√
k1
m、2h = γ
mとおけば、(9.7)は
d2x
dt2+ 2h
dx
dt+ k2x = 0 (9.8)
となるので、(9.1)に該当する。よって
28
(a) d = h2 − k2 < 0、すなわち h < kのとき、特性方程式は虚根−h±√k2 − h2 i
をもつ。従って、(9.8)の一般解は
x(t) = c1e−ht sin (
√k2 − h2 t) + c2e
−ht cos (√k2 − h2 t)
= c1e−ht sin (
√k2 − h2 t+ φ)
と表される。このとき、物体は周期 2π√k2−h2 の減衰運動をする事がわかる。
(b) d = h2 − k2 = 0、すなわち h = ±kのとき、特性方程式は重根 t = −hをもつ。従って、(9.8)の一般解は
x(t) = c1e−ht + c2te
−ht
と表される。
(c) d = h2 − k2 > 0、すなわち h > kのとき、特性方程式は2つの根 α = −h +√h2 − k2、β = −h−√
h2 − k2をもつ。従って、(9.8)の一般解は
x(t) = c1eαt + c2e
βt
と表される。
モデルとして良く現れるのは、(a)の特性方程式が複素解をもつ場合である。
9.3 演習問題
1. 教科書P.30の [問題 2.2.1]を解いてみよ。
2. 教科書P.33の [問題 2.2.2]を解いてみよ。
10 非同次定数係数線形微分方程式 1次に、n階非同次定数係数線形微分方程式
f(D)y ≡ y(n) + a1y(n−1) + · · ·+ any = b(x) (10.1)
について考える。同次方程式(9.1)の解は基本解 y1, y2, · · · ynを用いて
y(x) = c1y1(x) + c2y2(x) + · · ·+ cnyn(x) (10.2)
と書く。(10.1)の任意の1つの解(特殊解)を gとすると、f(D)の線形性により、非同次方程式(10.1)の一般解は
y(x) = c1y1(x) + c2y2(x) + · · ·+ cnyn(x) + g(x) (10.3)
29
表 1:
bn 消去するための微分演算子xn−1 Dn
xn−1eax (D − a)n
xn−1 coswx (D2 + w2)n
xn−1 sinwx (D2 + w2)n
xn−1eax sinwx (D2 − 2aD + a2 + w2)n
xn−1eax coswx (D2 − 2aD + a2 + w2)n
で表される。実際、(10.1)の他の任意の解を hとすると、
f(D)(h− g) = f(D)(h) − f(D)(g) = 0
より、h− gは同次方程式の解となるので(10.2)の形となるから、hは(10.3)の形となる。つまり、(10.1)の解は同次方程式の解(10.2)だけ不定であることに注意が必要である。また、上の議論からわかるように、非同次定数係数線形微分方程式(10.1)の一般解はその特殊解を1つ求める事ができれば、同次方程式の一般解との和で表される。特殊解の求め方には消去法 (cancellation method)と演算子法 (operator method)がある。
10.1 消去法
消去法は以下の手順で行う:
1. (10.1)の両辺に適当な微分演算子を施して(10.1)の解の満たす同次微分方程式を導く。
2. 1で得られた同次微分方程式を解く。
3. 2で得られた解を(10.1)に代入して、(10.1)の特殊解と一般解を求める。
そこで、(10.1)の右辺を消去するために必要な微分演算子を表にまとめる。教科書 P.38
~P.39の [例3]、[例4]を参照せよ。
10.2 演算子法
すでに学んだように定理6を用いて、(10.1)の特殊解は求められる。ここでは次の例を見てみよう。例: y′′ + y = ex sinxの特殊解を求めてみる。方程式を微分演算子で書き直すと、(D2 + 1)y = ex sinxとなるので、定理6を用いて
y =1
D2 + 1ex sinx =
1
(D + i)(D − i)ex sin x
=1
D + ieix
∫e−ixex sinx dx =
1
D + ieix
∫e(1−i)x sin x dx
30
ここで、部分積分を使って
I =
∫e(1−i)x sinx dx = −e(1−i)x cos x+
∫(1 − i)e(1−i)x cosx dx
= −e(1−i)x cosx+ (1 − i){e(1−i)x sinx− (1 − i)I
}= e(1−i)x(− cosx+ (1 − i) sinx) + 2iI
I =e(1−i)x
1 − 2i(− cosx+ (1 − i) sinx).
よって、
y =1
D + ieix e
(1−i)x
1 − 2i(− cos x+ (1 − i) sinx) =
1
D + i
ex
1 − 2i(− cosx+ (1 − i) sinx)
= e−ix
∫eix ex
1 − 2i(− cosx+ (1 − i) sinx) dx =
e−ix
1 − 2i
∫e(1+i)x(− cos x+ (1 − i) sinx) dx.
先と同様の計算により、∫e(1+i)x sinx dx =
e(1+i)x
1 + 2i(− cosx+ (1 + i) sin x),∫
e(1+i)x cosx dx =e(1+i)x
1 + 2i(sinx+ (1 + i) cosx).
よって、
y =e−ix
1 − 2i
{−e
(1+i)x
1 + 2i(sinx+ (1 + i) cosx) + (1 − i)
e(1+i)x
1 + 2i(− cos x+ (1 + i) sinx)
}
=e−ix
5e(1+i)x {−(sin x+ (1 + i) cosx) + (1 − i)(− cosx+ (1 + i) sin x)}
=ex
5(sinx− 2 cosx).
また、別の手法として、ex sinx = Im[e(1+i)x]であることに着目して、
(D2 + 1)y = e(1+i)x
を解いて、その解の虚部をみると、それが求める特殊解になっている。実際、
y =1
D2 + 1e(1+i)x =
1
(D + i)(D − i)e(1+i)x
=1
D + ieix
∫e−ixe(1+i)x dx =
1
D + ie(1+i)x
= e−ix
∫eixe(1+i)x dx = e−ix e
(1+2i)x
1 + 2i=e(1+i)x
1 + 2i
=1 − 2i
5ex(cos x+ i sinx) =
ex
5(cosx+ 2 sinx) + i
ex
5(−2 cosx+ sinx).
よって求める一つの特殊解は ex
5(−2 cosx+ sin x)。
10.3 演習問題
1. 教科書P.39の [問題 2.3.3]を解いてみよ。
31
11 非同次定数係数線形微分方程式 2
11.1 定数変化法
前節では非同次微分方程式(10.1)の右辺 b(x)が特別の場合に限られている。ここではより一般的な定数変化法を用いて 2階の非同次定数係数線形微分方程式
y′′ + a1y′ + a2y = b(x) (11.1)
の一般解を構成する。まず、(11.1)の同次方程式 y′′ + a1y
′ + a2y = 0の基本解を y1(x)、y2(x)とし、(11.1)の特殊解を
Φ(x) = c1(x)y1(x) + c2(x)y2(x) (11.2)
とおいて、2つの未知関数 c1(x)、c2(x)が
c′1(x)y1(x) + c′2(x)y2(x) = 0 (11.3)
を満たすように求める。(11.3)に注意して、(11.2)を微分してみると、
y′(x) = c′1(x)y1(x) + c′2(x)y2(x) + c1(x)y′1(x) + c2(x)y
′2(x) = c1(x)y
′1(x) + c2(x)y
′2(x)
y′′(x) = c′1(x)y′1(x) + c′2(x)y
′2(x) + c1(x)y
′′1(x) + c2(x)y
′′2(x)
となるから、これらを(11.1)に代入すると
y′′ + a1y′ + a2y
= c′1(x)y′1(x) + c′2(x)y
′2(x) + c1(x)y
′′1(x) + c2(x)y
′′2(x)
+a1(c1(x)y′1(x) + c2(x)y
′2(x)) + a2(c1(x)y1(x) + c2(x)y2(x))
= c1(x)(y′′1(x) + a1y
′1(x) + a2y1(x)) + c2(x)(y
′′2(x) + a1y
′2(x) + a2y2(x))
+c′1(x)y′1(x) + c′2(x)y
′2(x)
= b(x)
となる。y1(x)、y2(x)は同次方程式の基本解であるので、(11.2)が(11.1)の解であるためには
c′1(x)y′1(x) + c′2(x)y
′2(x) = b(x) (11.4)
が成り立てばよいことがわかる。すなわち、(11.3)と(11.4)が成立すればよい。つまりc′1(x)、c
′2(x)の連立方程式
y1(x) y2(x)
y′1(x) y′2(x)
c′1(x)
c′2(x)
=
0
b(x)
が得られる。y1(x)、y2(x)は同次方程式の基本解であるのでW (y1, y2) = y1y′2 − y′1y2 �= 0
が成り立つから、この連立方程式は解くことができて、
c′1(x) =−b(x)y2(x)
W (y1, y2), c′2(x) =
b(x)y1(x)
W (y1, y2)
32
となる。これらを積分して(11.2)に代入すれば(11.1)の1つの特殊解
y1(x)
∫ −b(x)y2(x)
W (y1, y2)dx+ y2(x)
∫b(x)y1(x)
W (y1, y2)dx (11.5)
が得られる。よって、(11.1)の一般解は
y(x) = Ay1(x) +By2(x) + y1(x)
∫ −b(x)y2(x)
W (y1, y2)dx+ y2(x)
∫b(x)y1(x)
W (y1, y2)dx (11.6)
で与えられることになる(A、Bは任意定数)。また、ここでは 2階の微分方程式のみを扱っているが、3階以上の微分方程式についても同様に考えることができる。実際n階の場合(10.1)については、まず同次方程式(9.1)の基本解 y1, y2, · · · , ynを求め、(10.1)の一つの特殊解Φ(x)を
Φ(x) = c1(x)y1 + c2(x)y2 + · · ·+ cn(x)yn
という形で求める。その際、(11.3)に相当する条件はこの場合(n-1)個必要になり、結果として以下の連立方程式を解けば、c1(x), c2(x), · · · , cn(x)が求められる。
y1(x) y2(x) · · · yn(x)
y′1(x) y′2(x) · · · y′n(x)...
... · · · ...
y(n−1)1 (x) y
(n−1)2 (x) · · · y
(n−1)n (x)
c′1(x)
c′2(x)...
c′n(x)
=
0
...
0
b(x)
11.2 定数変化法の例
1. 教科書P.36の [例1]
2. 次の初期値問題を解いてみる。
y′′ + y = cosx, y(0) = 0, y′(0) = 1 (11.7)
この同次方程式は y′′ + y = 0であるから、その特性方程式は虚根±iを持つので、基本解は
y1(x) = cosx, y2(x) = sin x (11.8)
である。y1(x)、y2(x)が一次独立であることは
W (cosx, sin x) =
∣∣∣∣∣∣cosx sin x
− sinx cosx
∣∣∣∣∣∣ = cos2 x+ sin2 x = 1 �= 0
で確かめられる。すると、(11.7)の一般解は(11.6)に代入して
y(x) = A cosx+B sin x+ cos x
∫(− cosx sin x) dx+ sinx
∫cos2 x dx
= A cosx+B sin x+1
4cosx cos 2x+
1
4sinx sin 2x+
x
2sinx
= C cosx+B sin x+x
2sinx (C = A+
1
4) (11.9)
33
と表される(C、Bは任意定数)。そこで(11.9)が初期条件 y(0) = 0, y′(0) = 1
を満たすようにC、Bを決定する。まず、y(0) = C = 0。また
y′(x) = B cosx+1
2sinx+
x
2cosx
なので、y′(0) = B = 1。従って初期値問題(11.7)の解は
y(x) = sinx+x
2sinx
となる。
11.3 演習問題
1. 教科書P.36の [問題 2.3.2]を解いてみよ。
12 ラプラス変換ラプラス変換は定数係数線形微分方程式を解くための最も一般的で統一的な解法であ
る。f(x)を [0,∞)で定義された関数とする。実数 sに対して無限積分した∫ ∞
0
e−sxf(x) dx (12.1)
が収束するとき、sに対して(12.1)の積分値を対応させる関数 F (s)を f(x)のラプラス変換 (Laplace transform)といい、L(f)で表す。また、逆に F (s)から f(x)を求めることをラプラス逆変換 (Laplace inverse transform)
といい、この変換をL−1で表す。すなわち
f(x) = L−1(F ) (12.2)
である。連続関数のラプラス変換を考える限り、その逆変換は一意に定まる(教科書P.81
一意性の記述を参照)。
12.1 ラプラス変換の存在性
ラプラス変換はどんな関数に対しても存在するわけではない。実際、ラプラス変換を求めるときには e−sxを掛けて積分するので、関数 f(x)がこの指数関数 e−sxが減衰するより急激に増加すると、例えば f(x) = ex2
のような場合、積分(12.1)が発散してしまい、ラプラス変換が存在しない。この積分(12.1)が収束するための1つの十分条件は
1. f(x)は [0,∞)のすべての有限区間において区分的に連続である。
2. すべての x ∈ [0,∞)と、ある定数 k、M に対して
|f(x)| ≤ Mekx
を満たす。
34
である。このとき∣∣∣∣∫ ∞
0
e−sxf(x) dx
∣∣∣∣ ≤∫ ∞
0
e−sx|f(x)| dx ≤∫ ∞
0
e−sxMekx dx
= M
∫ ∞
0
e−(s−k)x dx =M
s− k
であるから、すべての s > kに対して f(x)のラプラス変換は存在する(教科書P.80定理1参照)。この 2.が成り立つとき、f(x)は指数位数 kであるという(教科書P.80例1、例2参照)。
12.2 ラプラス変換の例
1. 教科書P.81~P.82の [例3]~[例7]
2. f(x) = 1、x > 0とすると
L(f) =
∫ ∞
0
e−sx1 dx =
[−1
se−sx
]∞0
=1
s
3. f(x) = sinwxとすると、部分積分により
L(f) =
∫ ∞
0
e−sx sinwx dx
=
[− 1
we−sx coswx
]∞0
− s
w
∫ ∞
0
e−sx coswx dx
=1
w− s
w
∫ ∞
0
e−sx coswx dx
=1
w− s
w
([− 1
we−sx sinwx
]∞0
+s
w
∫ ∞
0
e−sx sinwx dx
)
=1
w− s2
w2L(f)
より、
L(f) =w
s2 + w2
上の例のほかにも多くの関数のラプラス変換が知られており、ラプラス変換表として出版されている。最も簡単なものをまとめて表にしておく(教科書 P.90の表 5.1も参照)。
12.3 ラプラス変換の性質
1. ラプラス変換の線形性(教科書 P.83の定理1参照)ラプラス変換は線形変換なので、関数 f(x)、g(x)と任意の定数 a、bについて、
L(af + bg) = aL(f) + bL(g)
が成り立つ。
35
表 2:
f(x) L(f)xn−1
(n−1)!1sn (s > 0)
eax 1s−a
(s > a)
sinwx ws2+w2
coswx ss2+w2
eax sinwx w(s−a)2+w2
eax coswx s−a(s−a)2+w2
xne±x n!(s∓1)n+1
2. 第1移動定理(教科書P.84の定理2参照)関数 f(x)ラプラス変換可能(s > k)ならば、任意の定数 aに対して s− a > kで以下が成り立つ。
L(eaxf(x)) = F (s− a)
eaxf(x) = L−1(F (s− a)).
3. 微分のラプラス変換(教科書 P.86の定理4参照)おおまかにいって f(x)の微分のラプラス変換は、L(f)に sを掛けることに対応している。この性質により微積分演算がラプラス変換については簡単な代数方程式で置き換えられる。
定理 8.
f(x), f ′(x), · · · , f (n)(x)がラプラス変換可能(前述の十分条件を満たす)な [0,∞)上の連続関数とする。このとき
L(f (n)) = snL(f) − sn−1f(0) − sn−2f ′(0) − · · · − sf (n−2)(0) − f (n−1)(0) (s > k)
が成り立つ。
定理の証明まず、n = 1のとき、部分積分法を用いて、
L(f ′) =
∫ ∞
0
e−sxf ′(x) dx = [e−sxf(x)]∞0 + s
∫ ∞
0
e−sxf(x) dx
= sL(f) − f(0).
n = 2のとき、n = 1のときの結果を使って、
L(f ′′) = sL(f ′) − f ′(0) = s(sL(f ) − f(0)) − f ′(0)
= s2L(f) − sf(0) − f ′(0).
n ≥ 3のときも同様にして結果を得る。(証明終わり)
36
4. 積分のラプラス変換(教科書 P.86の定理5参照)おおまかにいって f(x)の積分のラプラス変換は、L(f)を sで割ることに対応している。
定理 9.
関数 f(x)ラプラス変換可能(s > k)ならば
L{∫ x
0
f(t) dt
}=
1
sF (s) (s > 0, s > k)
が成り立つ。この逆変換をとると、∫ x
0
f(t) dt = L−1
{1
sF (s)
}.
12.4 ラプラス変換による解法
ラプラス変換による微分方程式の解法はつぎの手順でおこなう:
1. 解くべき微分方程式をラプラス変換して代数方程式に直す。
2. 1の代数方程式を解く。
3. 2の代数方程式の解を逆ラプラス変換して微分方程式の解を求める。
また、ラプラス変換による解法の特徴は
1. 代数方程式を解くことで微分方程式の解が得られる。
2. まず、一般解を求めてから特殊解を得るのではなく、初期条件に注意してはじめから初期値問題の解が得られる。
3. 非同次方程式の場合、対応する同次方程式を解くことなく直接、非同次方程式の解が得られる。
などである。例:(教科書P.93~P.94[例1]、[例2]参照)次の初期値問題を解いてみよう。
y′′ + 4y = cosx, y(0) = 0, y′(0) = 1.
(i)両辺にラプラス変換を施す。
L(y′′ + 4y) = L(cosx), L(y′′) + 4L(y) =s
s2 + 1,
s2L(y) − sy(0) − y′(0) + 4L(y) =s
s2 + 1.
ここで、ラプラス変換の性質を用いていることに注意。さらに初期条件を代入すると
(s2 + 4)L(y) = 1 +s
s2 + 1
となり、簡単な求める解 yのラプラス変換L(y)に関する代数方程式となる。
37
(ii)L(y)について解き、ラプラス逆変換を考える。
L(y) =1
s2 + 4+
s
(s2 + 1)(s2 + 4)=
1
s2 + 4+As+ B
s2 + 1+Cs+D
s2 + 4,
(As+B)(s2 + 4) + (Cs+D)(s2 + 1) = s,
A+ C = 0, B +D = 0, 4A+ C = 1, 4B +D = 0,
B = D = 0, A =1
3, C = −1
3,
L(y) =1
s2 + 4+
1
3
s
s2 + 1− 1
3
s
s2 + 4,
L(y) =1
2
2
s2 + 4+
1
3
s
s2 + 1− 1
3
s
s2 + 4.
よって、ラプラス逆変換を行って(ラプラス変換表を使って)、
y =1
2sin 2x+
1
3cos x− 1
3cos 2x.
12.5 演習問題
1. 教科書P.81の [問題 5.1.1]を解いてみよ。
2. 教科書P.84の [問題 5.2.1]を解いてみよ。
3. 教科書P.85~P.86の [問題 5.2.2]を解いてみよ。
4. 教科書P.88の [問題 5.2.3]を解いてみよ。
5. 教科書P.89の [問題 5.2.4]を解いてみよ。
6. 教科書P.92~P.93の [問題 5.3.2]を解いてみよ。
7. 教科書P.94の [問題 5.4.1]を解いてみよ。
13 連立常微分方程式 1多くの現象は連立形の微分方程式で記述される。また高階微分方程式は新しい関数を導
入することによって連立1階微分方程式(simultaneous linear differential equation of the
first order)に帰着される。未知関数が2個以上の連立微分方程式の場合にも扱いは同様であるから、以下未知関数が2個の方程式の場合についてのみ述べる。
38
13.1 定数係数線形連立微分方程式
2つの未知関数 y(x)、z(x)に関する連立1階線形微分方程式
dydx
= a11y + a12z + u(x)
dzdx
= a21y + a22z + v(x)(13.1)
について、解を求め、その性質を調べる。ここで、aijは実定数、u(x)、v(x)は実数値連続関数とする。行列およびベクトル値関数
Y =
y
z
, A =
a11 a12
a21 a22
,Q =
u
v
の記法を用いて、(13.1)は
dY
dx= AY + Q (13.2)
と表され、Aを係数行列、Qを非同次項という。すると、次の定理が成り立つ。
定理 10.
1. (13.2)において非同次項Qが恒等的に 0である同次方程式の解をY1(x)、Y2(x)
とするとき、Y1(x)とY2(x)の線形結合C1Y1(x) +C2Y2(x)も同次方程式の解になる。
2. ψ(x)を(13.2)の1つの特殊解とするとき、同次方程式の一般解とψ(x)の和は(13.2)の一般解となる。
この定理から、まず、(13.2)の同次方程式
dY
dx= AY (13.3)
の解について考える。ベクトル値関数Y1(x)、Y2(x)に対して、
c1Y1(x) + c2Y2(x) = 0 ⇔ C =
c1
c2
=
0
0
が成り立つとき、Y1(x)、Y2(x)は線形独立であるという。線形独立でないときには、それらは線形従属であるという。また、
Φ(x) = (Y1(x) Y2(x)) =
y1(x) y2(x)
z1(x) z2(x)
39
とすると、ロンスキー行列式はW (x) = |Φ(x)|で定義され、W (x) �= 0のとき、Y1(x)、Y2(x)は線形独立となり、Φ(x)を基本行列と呼ぶ。すると、CΦ(x)が(13.3)の一般解となる。同次方程式(13.3)についてはその基本行列Φ(x)は行列の指数関数を用いて
eAx ≡∞∑
k=0
1
k!(Ax)k = I + Ax+
1
2A2x2 +
1
6A3x3 + · · · (13.4)
と表すことができる。ただし、I は単位行列。実際、Y(x) = CeAxとし、(13.3)に代入すると、
d
dxeAx = A+ A2x+
1
2A3x2 +
1
6A4x3 + · · ·
= A
(I + Ax+
1
2A2x2 +
1
6A3x3 + · · ·
)= AeAx
となり、(13.3)の解であることがわかる。また行列の指数関数については以下の性質がある。
命題 1.
1. 任意の正方行列Aに対して、eAは収束する。
2. 正方行列 P が正則なら、ePAP−1= PeAP−1。
3. 正方行列A、Bに対して、AB = BAならば eA+B = eAeB = eBeA。
4. e0 = I。
5. (eA)−1 = e−A、すなわち eAは常に正則。
6. A =
a −b
b a
とすると、eA = ea
cos b − sin b
sin b cos b
が成り立つ。
一般の行列Aに対して、eAを求めるのは困難であるが、Aが対角行列の場合には容易に求められる。以下において、固有値の分類に応じて例題を解きながら、具体的な解法を述べる。
13.2 定数係数線形同次連立微分方程式の例題
1. 教科書P.70の [例1]
2. 教科書P.73の [例2]
3. dYdx
= AY、A =
3 1
−4 −2
を解いてみよ。
この解をY = eλxU、U =
u1
u2
は定数ベクトルと仮定する。これを問題に代入
40
すると、
λeλxU = eλxAU,
eλx(AU− λU) = 0,
(A− λI)U = 0
となる。これが 0でないベクトルUに対して成り立つためには
|A− λI| =
∣∣∣∣∣∣3 − λ 1
−4 −2 − λ
∣∣∣∣∣∣ = 0
でなければならない。すなわち、
λ2 − λ− 2 = 0
であるから、この場合には2つの相違なる解 λ1 = −1、λ2 = 2が存在する。それらに対応して、
(A− λ1I)U = 0, (A− λ2I)U = 0
となるような 0でないベクトルUをそれぞれU1、U2とすると、 4 1
−4 −1
U1 = 0,
1 1
−4 −4
U2 = 0
より、U1 =
1
−4
、U2 =
1
−1
が得られるので、求める一般解は
Y(x) = CΦ(x) = c1Y1(x) + c2Y2(x) = c1e−x
1
−4
+ c2e
2x
1
−1
となる。ここで λ1、λ2は行列Aの固有値(eigenvalue)と呼ばれ、U1、U2は λ1、λ2に対するAの固有ベクトル(eigenvector)と呼ばれる。
4. 教科書P.175~P.176の [例6]
5. dYdx
= AY、A =
1 −2
2 5
を解いてみよ。
|A− λI| =
∣∣∣∣∣∣1 − λ −2
2 5 − λ
∣∣∣∣∣∣ = λ2 − 6λ+ 9 = (λ− 3)2 = 0
41
となり固有値は 3で重複している。その固有ベクトルは −2 −2
2 2
U1 = 0, U1 =
−1
1
ととれる。すると一つの解は
Y1(x) = e3xU1
である。これと線形独立なもう一つの解を求めるために、
Y2(x) = e3x(U + xU1)
とおき、Uを求める。Y2を問題に代入して、
e3xU1 + 3e3x(U + xU1) = e3xA(U + xU1)
これより、
(A− 3I)U − U1 + x(A− 3I)U1 = 0
を得る。U1の定め方から、(A− 3I)U1 = 0なので、
(A− 3I)U = U1,
−2 −2
2 2
U =
−1
1
ゆえに、U =
1
2
0
。よって、
Y1(x) = e3x
−1
1
, Y2(x) = e3x
1
2
0
+ x
−1
1
よって求める一般解は
Y = c1e3x
−1
1
+ c2e
3x
1
2
0
+ x
−1
1
となる。
6. dYdx
= AY、A =
1 −1
1 1
を解いてみよ。
|A− λI| =
∣∣∣∣∣∣1 − λ −1
1 1 − λ
∣∣∣∣∣∣ = λ2 − 2λ+ 2 = 0
42
となり固有値は λ1 = 1 + i、λ2 = 1 − iと虚数解になる。その固有ベクトルは ∓i −1
1 ∓i
U = 0, U1 =
i
1
, U2 =
−i
1
となり、求める一般解は
Y(x) = CΦ(x) = c1Y1(x) + c2Y2(x) = c1e(1+i)x
i
1
+ c2e
(1−i)x
−i
1
となる。このままでも良いが、実数の範囲内で表そうと思えば、e±ix = cos x± i sin xを用いると、
Y1(x) = ex
cosx
0
1
− sinx
1
0
+ i
sinx
0
1
+ cosx
1
0
,
Y2(x) = ex
cosx
0
1
− sinx
1
0
− i
sinx
0
1
+ cos x
1
0
より、これらの線形結合
Z1(x) =1
2(Y1(x) + Y2(x)) = ex
cos x
0
1
− sinx
1
0
,
Z2(x) =1
2i(Y1(x) − Y2(x)) = ex
cosx
0
1
+ sinx
1
0
ゆえに一般解は
Y(x) = ex
cosx
c1
0
1
+ c2
1
0
+ sin x
c1
0
1
− c2
1
0
となる。
13.3 演習問題
1. 教科書P.71の [問題 4.1.2]を解いてみよ。
2. 教科書P.75の [問題 4.1.3]を解いてみよ。
43
14 連立常微分方程式 2
14.1 定数係数線形非同次連立微分方程式
次に先の定理より同次方程式の解を用いて定数係数線形非同次連立微分方程式(13.2)
dY
dx= AY + Q (14.1)
の解法を考える。先の単独の線形微分方程式と同様に定数変化法を用いる。同次方程式(13.3)の解をΦ(x) = eAxとすると、先の定理より、(14.1)の一つの特殊
解 ψ(x)が求まれば、(14.1)の一般解は
Y(x) = Φ(x)C + ψ(x) (14.2)
で与えられる。そこで、一般解に含まれる定数ベクトルCを xの関数である未知ベクトルとして、(14.1)の1つの特殊解Y(x) = ψ(x)を
Y(x) = Φ(x)C(x) (14.3)
の形で求めることを考える。Φ(x)が同次方程式(13.3)の基本行列であるから、Φ′(x) =
AΦ(x)に注意して、(14.2)を微分すると、
dY
dx=
dΦ(x)
dxC(x) + Φ(x)
dC(x)
dx
= AΦ(x)C(x) + Φ(x)dC(x)
dx
= AY(x) + Φ(x)dC(x)
dx
となる。これを(14.1)に代入すると、
Φ(x)dC(x)
dx= Q(x) (14.4)
が得られるので、(14.4)を満たすようなC(x)を求めればよい。すると、
dC(x)
dx= Φ−1(x)Q(x),
(Φ−1(x) = e−Ax
)より、
C(x) =
∫Φ−1(x)Q(x) dx (14.5)
と定めれば良い。これで、
ψ(x) = Φ(x)C(x) = Φ(x)
∫Φ−1(x)Q(x) dx (14.6)
が(14.1)の1つの特殊解である事がわかる。従って、(14.1)の一般解は(14.2)より、
Y(x) = Φ(x)C + Φ(x)
∫Φ−1(x)Q(x) dx (14.7)
となる。ただし、Cは定数ベクトル。ここに得られた結果をまとめ、さらに初期条件を加味すると、次の定理が得られる。
44
定理 11.
定数係数線形非同次連立微分方程式(14.1)の一般解は、対応する同次方程式(13.3)の基本行列Φ(x) = eAxを用いて、
Φ(x)C + Φ(x)
∫ x
x0
Φ−1(t)Q(t) dt (14.8)
と表すことができる。また、初期条件Y(x0) = Y0を満たす(14.1)の解は(14.8)において、C = Φ−1(x0)Y0と置いたものに限る。
ここで、(14.8)の表示式は行列の指数関数を用いて表すと、
eAxC +
∫ x
x0
eA(x−t)Q(t) dt (14.9)
とも書ける。
14.2 定数係数線形非同次連立微分方程式の例題
次の初期値問題
y′′ + y = cosx, y(0) = 0, y′(0) = 1 (14.10)
を考えてみよう。この問題は
Y(x) =
y
y′
, A =
0 1
−1 0
, Q(x) =
0
cosx
, Y0 =
0
1
とおくと、
dY
dx= AY + Q, Y(0) = Y0 (14.11)
と表現される。すると、上の定理より(14.11)の解は
Φ(x)C + Φ(x)
∫ x
0
Φ−1(t)Q(t) dt, C = Φ−1(0)Y0 (14.12)
となるので、まずは同次方程式の基本行列 Φ(x)を求める。行列 Aの固有値は λ1 = i、λ2 = −iであり、これに対応する固有ベクトルは
U1 =
1
i
, U2 =
1
−i
となるので、基本行列Φ(x)は
Φ(x) =
eix e−ix
ieix −ie−ix
, Φ−1(x) = − 1
2i
−ie−ix −e−ix
−ieix eix
(14.13)
45
となる。よって解は
− 1
2i
eix e−ix
ieix −ie−ix
−i −1
−i 1
0
1
+
eix e−ix
ieix −ie−ix
∫ x
0
− 1
2i
−ie−it −e−it
−ieit eit
0
cos t
dt
となるので、
Y(x) =
sinx
cosx
− 1
2i
eix e−ix
ieix −ie−ix
∫ x
0
−e−it cos t
eit cos t
dt
=
sinx
cosx
− 1
2i
eix e−ix
ieix −ie−ix
−1
2t− i
4e−2it
12t− i
4e2it
x
0
=
sinx
cosx
− 1
2i
−1
2x(eix − e−ix)
− i2x(eix + e−ix) − 1
2(eix − e−ix)
=
sinx+ 1
2x sin x
cosx+ 12x cosx+ 1
2sinx
よって初期値問題(14.10)の解は
y(x) = sin x+1
2x sinx (14.14)
である。
14.3 演習問題
1. 初期値問題
y′′ − 5y′ + 4y = e3x, y(0) = 0, y′(0) = 0
を解いてみよ。
2. 教科書P.75~P.76の [例1]を解いてみよ。
3. 教科書P.78の [問題 4.2.2]を解いてみよ。
15 連立常微分方程式 3
15.1 その他の連立微分方程式
様々な1階の連立微分方程式の解法について例題で解説する。
46
1. 非線形の場合
2. 変数係数の場合一般の変数係数の連立微分方程式については確固たる解法はないが、適当な変数変換によって定数係数の連立微分方程式に帰着されるものがある。次の連立微分方程式を考えてみよう。
xdy
dx+ 2y + 2z = x
xdzdx
+ y + 3z = x2(15.1)
今、x = et、 ddt
= Dtとおくと、
Dty =dy
dt=
dy
dx
dx
dt=
dy
dxet = x
dy
dx
となる。よって、(15.1)は
(Dt + 2)y + 2z = et
y + (Dt + 3)z = e2t(15.2)
となる。まず、(15.2)の同次方程式
(Dt + 2)y + 2z = 0
y + (Dt + 3)z = 0(15.3)
の解を求めると、zを消去して (Dt + 1)(Dt + 4)y = 0より、yの一般解は
y = c1e−t + c2e
−4t
となる。これを(15.3)に代入して
z = −1
2(Dt + 2)y = −1
2c1e
−t + c2e−4t
となる。次に非同次方程式(15.2)の特殊解
ψ1
ψ2
を求める。
ψ1 =1
(Dt + 1)(Dt + 4){(Dt + 3)et − 2e2t}
=1
(Dt + 1)(Dt + 4)(4et − 2e2t)
=2
5et − 1
9e2t
となり、これを(15.2)に代入すると、
ψ2 =1
2{et − (Dt + 2)ψ1}
=1
2
{et −
(6
5et − 4
9e2t
)}= − 1
10et +
2
9e2t
47
となるので、求める一般解は y
z
=
x−1 x−4
−12x−1 x−4
c1
c2
+
2
5x− 1
9x2
− 110x+ 2
9x2
(15.4)
となる。
3. ラプラス変換を用いる解法連立微分方程式に対してもラプラス変換を用いる方法が同様に適用できる。次の初期値問題
dydx
= 4y − 2z + 1
dzdx
= 4y − z, y(0) = 0, z(0) = 2 (15.5)
を考えてみよう。(15.5)にラプラス変換を施すと
s(Ly)(s) − 1 = 4(Ly)(s) − 2(Lz)(s) + 1
s
s(Lz)(s) − 2 = 4(Ly)(s)− (Lz)(s)(15.6)
となる。(Ly)(s)と (Lz)(s)について解いて
(Ly)(s) = 12s
+ 12(s−2)
(Lz)(s) = 32s
+ 12(s−3)
(15.7)
となるので、このラプラス逆変換をとって、(15.5)の解 y
z
=
1
2+ 1
2e2x
32
+ 12e3x
(15.8)
を得る。
48
VIII. 偏微分方程式 - Hiroshima University...88 1 VIII. 偏微分方程式 2 3 18.偏微分方程式と解析解 4 5 偏微分を含む微分方程式を偏微分方程式とよぶ。
常微分方程式の初期値問題の数値解法 - 明治大学nalab.mind.meiji.ac.jp/~mk/labo/text/numerical-ode.pdf常微分方程式の初期値問題の数値解法 桂田祐史