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キーワード チーム医療,“from…patient…to…patient”, 検体測定室,郵送検診,POCT, POC コーディネータ,信頼性の保証, 臨床研究,“laboratory…science” 近年,感染対策,栄養管理,緩和ケア等のさまざまな現場で“チーム医療”が実践 されている.臨床検査技師として“チーム医療”に参画し,その能力を活かしながら 他職種との連携を行うためには,いま一度自身の置かれている環境を客観的に 捉え,担うべき役割について熟慮する必要がある.そして,“チーム医療”を通じて 臨床検査技師の技能を他職種に理解してもらうことで,仕事の幅はさらに広がる. 本講演では“チーム医療”を推進するためのポイントを解説し,今後,臨床検査技師 としてなすべきことについて提起する. チーム医療最前線! 求め求められる臨床検査技師 講演 1 天理医療大学 医療学部 臨床検査学科 教授 まつ しゅう 臨床検査技師を取り巻く 環境の変化 医療を取り巻く環境の中で臨床検査技師は現在,非 常に忙しい状況にあるといえます.検査機器の著しい進 歩に伴って至急検査や診察前検査の件数は増大し,日 常的検査から遺伝子検査,細胞診検査,心電図検査,超 音波検査などに波及しています.検査結果の報告が1時 間以内に行われる遺伝子検査,ベッドサイドで実施され る迅速細胞診,診察前に行われる心電図検査や超音波 検査……これらは今や日常的な風景となっています. 臨床検査室では,これら検査に関する迅速性と正確 さの両立に加え,人員削減と効率化,チーム医療への参 画,苦情への対応など,厳しい環境にあります.そんな臨 床検査室が医療現場に貢献している数多くのことの中で 最も誇ることができるのは,適切な診断・治療を行う際 に必要な検査データなどのあらゆる情報を,専門的な知 識をもって迅速かつ正確に,医療従事者に提供し続けて いることだと考えます. 一方で,近年話題となっている“チーム医療”でも,臨 床検査技師は能力を活かして活躍しています.それは喜 ばしいことではあるのですが,“チーム医療”に重点が置 かれることによって臨床検査室としての本来の役割を果 たしているだろうかという懸念もあります.検査センター との連携や検査機器・試薬メーカーの手厚いサポート体 制が確立する中で,機器が動かなければすぐにメーカー に頼ってしまい,電源が入っていないことにさえ気付かな い,そんな場面を見かけることがあります.臨床検査のプ ロとして,自分で検査装置の操作を行い,検査データを 読み,機器のメンテナンスも責任を持って行う――そのよ うな自負を抱いて働く臨床検査技師が減っているのでは ないかという印象を受けるのです. また,最近では超音波検査やCTなどの画像検査が 盛んに行われるようになっていますが,それとともに画像 検査の実施者が医師から臨床検査技師の手に移りつつ あります.その影響からか,生体検査や病理細胞診検査 を希望する臨床検査技師が増加しており,反面,臨床化 学や臨床免疫学を得意とする人材が減少する傾向にあり ます.特に,化学は検査の基本です.これを得意とする人 材の不足は,検査システムや検査体制に大きな影響を与 える可能性があり,憂慮すべきことだと考えています. 臨床検査技師としてできること ―仕事の幅を広げ,質の高い医療を支える― 臨床検査技師に求められる能力は,臨床検査に関す る知識や技術,検査値の判読力,品質マネジメント,デー タ管理能力,情報処理技術,医用工学,管理運営など, 多岐にわたります.これらは,システムの構築や体系化, 客観的な分析,機動力,探求心,熱意,研究力,厳しさや 3 2014 No.81 Series

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Page 1: 1 チーム医療最前線! 講演 求め求められる臨床検査技師 · 臨床検査技師の技能を他職種に理解してもらうことで,仕事の幅はさらに広がる.

キーワード

チーム医療,“from…patient…to…patient”,検体測定室,郵送検診,POCT,POCコーディネータ,信頼性の保証,臨床研究,“laboratory…science”

近年,感染対策,栄養管理,緩和ケア等のさまざまな現場で“チーム医療”が実践されている.臨床検査技師として“チーム医療”に参画し,その能力を活かしながら他職種との連携を行うためには,いま一度自身の置かれている環境を客観的に捉え,担うべき役割について熟慮する必要がある.そして,“チーム医療”を通じて臨床検査技師の技能を他職種に理解してもらうことで,仕事の幅はさらに広がる.本講演では“チーム医療”を推進するためのポイントを解説し,今後,臨床検査技師としてなすべきことについて提起する.

チーム医療最前線!求め求められる臨床検査技師講演1

天理医療大学 医療学部 臨床検査学科 教授

松ま つ

尾お

収しゅう

二じ

臨床検査技師を取り巻く環境の変化

 医療を取り巻く環境の中で臨床検査技師は現在,非常に忙しい状況にあるといえます.検査機器の著しい進歩に伴って至急検査や診察前検査の件数は増大し,日常的検査から遺伝子検査,細胞診検査,心電図検査,超音波検査などに波及しています.検査結果の報告が1時間以内に行われる遺伝子検査,ベッドサイドで実施される迅速細胞診,診察前に行われる心電図検査や超音波検査……これらは今や日常的な風景となっています. 臨床検査室では,これら検査に関する迅速性と正確さの両立に加え,人員削減と効率化,チーム医療への参画,苦情への対応など,厳しい環境にあります.そんな臨床検査室が医療現場に貢献している数多くのことの中で最も誇ることができるのは,適切な診断・治療を行う際に必要な検査データなどのあらゆる情報を,専門的な知識をもって迅速かつ正確に,医療従事者に提供し続けていることだと考えます. 一方で,近年話題となっている“チーム医療”でも,臨床検査技師は能力を活かして活躍しています.それは喜ばしいことではあるのですが,“チーム医療”に重点が置かれることによって臨床検査室としての本来の役割を果たしているだろうかという懸念もあります.検査センターとの連携や検査機器・試薬メーカーの手厚いサポート体

制が確立する中で,機器が動かなければすぐにメーカーに頼ってしまい,電源が入っていないことにさえ気付かない,そんな場面を見かけることがあります.臨床検査のプロとして,自分で検査装置の操作を行い,検査データを読み,機器のメンテナンスも責任を持って行う――そのような自負を抱いて働く臨床検査技師が減っているのではないかという印象を受けるのです. また,最近では超音波検査やCTなどの画像検査が盛んに行われるようになっていますが,それとともに画像検査の実施者が医師から臨床検査技師の手に移りつつあります.その影響からか,生体検査や病理細胞診検査を希望する臨床検査技師が増加しており,反面,臨床化学や臨床免疫学を得意とする人材が減少する傾向にあります.特に,化学は検査の基本です.これを得意とする人材の不足は,検査システムや検査体制に大きな影響を与える可能性があり,憂慮すべきことだと考えています.

臨床検査技師としてできること―仕事の幅を広げ,質の高い医療を支える―

 臨床検査技師に求められる能力は,臨床検査に関する知識や技術,検査値の判読力,品質マネジメント,データ管理能力,情報処理技術,医用工学,管理運営など,多岐にわたります.これらは,システムの構築や体系化,客観的な分析,機動力,探求心,熱意,研究力,厳しさや

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チーム医療最前線!求め求められる臨床検査技師

•システマティックな構築•客観的分析•探求心,熱意•研究力•厳しさ,寛容•機動力•協調性など

検査室

検査技師,検査医医師

仕事の幅を広げ,質の高い診療を継続的に支えよう!“from patient to patient”⇒“どこもが働く場所”

患者さん

看護師など

検査センター

健診施設

環境管理郵送検診

介護施設

コンビニエンスストア

研究施設

診療所血液センター

検体測定室

学校・職場

家庭・在宅

運動場スポーツクラブ

救急車

救急

病棟

外来

検査室手術室

ICU・CCU

薬局

診療施設病院

図 1 “from patient to patient”のイメージ図

図 2 臨床検査が行われている場所

寛容,協調性などにつながります. 医師や看護師は入れ替わりが激しく,また診療科や病棟ごとに風土や流儀が異なるので,診療体系が流動的になりがちです.それに対し臨床検査技師は同じ施設に長期間働くケースが比較的多いといえます.臨床検査技師が検査で培ったノウハウを活かしながら診断や治療に積極的かつ継続的に関わることで,病棟全体の医療レベルを高く保ちながら支えることができると考えます. ただし,現状の臨床検査室は中の動きが見えにくく,いわゆる“ブラックボックス”になってしまっていることも事実です.これまでは個々の医師に対して能力を発揮していた傾向があるわけですが,これからの臨床検査室は患者さんから始まり患者さんへつながる,“frompatienttopatient”の過程の中で能力を発揮すべきではないでしょうか(図1).それは,積極的に臨床検査室の外へ出て,臨床検査技師の業務や役割を理解してもらい,開かれた

臨床検査室をめざすということを意味します.まずは,臨床検査室以外にも働くべき多くの場所があることを認識すること,すなわち“どこもが働く場所”であると捉えて臨床検査技師の活躍の場を確保するとともに,質の高い医療を継続的に支えていくことが大切であると考えます.

臨床検査技師の能力を発揮するためにすべきこと

①臨床検査を手中に収める 臨床検査技師は臨床検査室を中心に,診療施設,検査センター,健診施設,血液センターなど,多くの場所で働いています(図2).しかし現在,検査はそれら以外の,われわれの知らないさまざまな場所で行われようとしており,一部ではすでに行われています. 『臨床検査技師等に関する法律』の一部改正によっ

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チーム医療最前線!求め求められる臨床検査技師

講演 1

臨床検査は臨床検査室の責任で!

■測定者は誰ですか

■管理者は誰ですか

医師38%

看護師30%

臨床工学技士17%

その他 2%臨床検査技師13%

医師39%

看護師22%

臨床工学技士13%

臨床検査技師 17%

その他 9%

図 3 POCT に関するアンケート調査

日本臨床検査自動化学会, 2003年

表 1 POC コーディネータの役割

1.…POCT管理運営のチームリーダー2.…医師,看護師等の測定者,利用者への教育,指導3.…システマティックな運用態勢の構築… 1)データの一元管理,時系列データの構築… 2)データの保証… … ◦精度管理… … ◦機器・試薬の管理… … ◦トラブル時の対応… … ◦過誤の防止と対応… … ◦他機器データとの互換性の明示… 3)データの有効活用の監視… … ◦異常値への対応(特に看護への活用の促進)… … ◦カルテへのデータの貼付(検査の証拠)… … ◦基準範囲の呈示4.…収支,コストの管理5.…運用実績,診療効果の評価

言い換えれば臨床検査コーディネータ

て,平成26年4月1日から自己採血検査などを行う施設として“検体測定室[P31参照]”が認められました.デパートやパチンコ店など,医療施設以外の場でも検査が行われるようになりました.そこで認められている測定項目は,AST(GOT),ALT(GPT),γ-GT(γ-GTP),中性脂肪(TG),HDLコレステロール,LDLコレステロール,血糖,HbA1cの8項目で,被検者が自ら採取した検体を,医師,薬剤師,看護師,あるいは臨床検査技師が測定します.また,セルフメディケーションを実施するための簡易検査として“郵送検診[P31参照]”も行われており,感染症の分野を中心にすでに数十万件の需要があります.これは自らが採血を行い,郵便や宅配便などを利用して検査機関に検体を発送することによって,自宅で検査結果を受け取ることができるものです.臨床検査に携わる者として,医療機関以外の施設においてもさまざまな検査が実施されている事実を,いま一度認識していただきたいと思います.

 また,病院や診療所などの医療機関内において,臨床検査室の外で行われる臨床現場即時検査(Point ofcare testing;POCT)[P31参照]があり,診察室やベッドサイド,手術室,ICUなどさまざまなところで行われています.2003年に日本臨床検査自動化学会で行われた,臨床検査技師に対するアンケート調査によると(図3),自施設内で行われているPOCTの測定者のうち,臨床検査技師は約1割で,医師,看護師,臨床工学技士に次いで4番目でした.また,POCTの管理者における臨床検査技師の割合は約2割でした.測定者,管理者ともに臨床工学技士が臨床検査技師と同程度の割合を占めており,臨床検査技師の存在意義が薄れてしまいかねない結果となっています.さらに,管理者にどの職種が適するかという質問では,臨床検査技師が回答している調査であるにもかかわらず,臨床検査技師のランクが低い結果となっており,POCTに対する意識の低さを示しています.POCTに関しては,教育・指導からデータの一元管理までをコーディネートする役割を担うPOCコーディネータ[P31参照](表1)がありますが,これは臨床検査技師こそが担当すべきであると考えます. 近年,検査データの精度が一定の水準に保たれるように管理を行う“精度管理”から,検査で得られた個々のデータの信頼性の確保を行う“信頼性の保証”へと移行しています.得られた検査データが異常値を示した場合,それを人任せにせず自分で解析を行うことが大切で,それにより,異常値の出るメカニズムを知ることができ,検査手法や試薬に対する理解が深まります.安易な再検査

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研究所

臨床工学

•血液透析•人工心肺•心カテーテル

•ME機器管理•ICU,手術室•内視鏡

•感染対策•糖尿病療養指導•NST•褥創•乳がん診療

•骨髄移植•がん登録•治験CRC•クリニカルパス       など

•各種委員会•各種カンファレンス

•病棟採血•骨髄検査介助

臨床検査

•検体検査(含 微生物)•輸血管理•生体検査•病理・細胞診

POCT 出張細胞診術中検査など

教育(学校,医師,看護師など)

臨床検査部

健診 救急 放射線部(RI, MRI)

病棟 ◦病棟採血◦病棟担当技師◦入院時検査の効率化◦患者状態連絡票◦POCTを含む検査機器の管理◦検査技師,看護師の研修…など

外来 ◦診察前検査の効率化◦情報伝達,コミュニケーションの改善◦安全管理(リスクマネジメント)◦採血,採尿の改善◦極異常値の見逃し防止など

図 4 臨床検査技師の関わるチーム医療

表 2 看護部との連携

(天理よろづ相談所病院)

(天理よろづ相談所病院)

•入院中の時間を有効に活用する•患者さんの動きを少なくする•職員間の電話のやりとりを少なくする

図 5 “検査の通行手形”

(天理よろづ相談所病院)

や精度管理へのこだわりから脱却し,十分な知識と熟練した技術を習得することは,新たな検査手法の開発力につながります.そして,個々の検査データを深く読み考えることで,メーカーや検査センターと検査データについての会話ができるようになるのです.臨床検査のプロとして,臨床検査室以外の検査についての実態を知り,管理し,臨床検査を手中に収めることが必要と考えます.

②他部署との連携を考える 臨床検査室の外に目を向けると,自分たちの関わるべき仕事が数多く存在することが分かります(図4).中でも看護部との連携は,病棟における採血や入院時検査,外来における診察前検査や安全管理など,非常に重要です(表2). 他部署との連携について,当院での事例を紹介します.図5は“検査の通行手形”と名付けましたが,入院検査の効率化を目的に,看護部および放射線部との連携を図るための仕組みを作りました.ここには心電図,出血時間,X線撮影,超音波検査,採血などが記載されており,その日に必要な検査項目にチェックを付けて患者さんに渡し,午後のある一定の時間帯にこの通行手形を持参すればいつでも検査の実施が可能です.それまでは,放射線部と臨床検査室,そして臨床検査室の中でも超音波室と心電図室などが別々に患者さんを呼び出していましたが,この仕組みによって,患者さんの動きを少なくして負担を軽減し,また職員間の連絡の手間も削減され,検査の効率化を図ることが可能になりました. チーム医療はあくまでもより良い診療を行うためのツールであり,チーム医療を通じて他職種との“連携”を考え,お互いに支え合う気持ちを持つことが大切です.臨床検査技師としての能力を活かして仕事の幅を

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チーム医療最前線!求め求められる臨床検査技師

講演 1

■ 診療への直接的な関与 ◦救急診療 ◦認知症の診療 ◦問診 ◦心音,呼吸音や腹音聴取 ◦バイタルサインのチェック…など

■ 検査の拡大 ◦経直腸,経膣超音波 ◦胃ゾンデ挿入 ◦鼻咽腔挿入による検体採取 ◦動脈採血…など

表 3 臨床検査技師に望まれること

広く捉えることができれば,例えば栄養サポートチーム(NutritionSupportTeam;NST)のメンバーとして測定値の解釈に関してアドバイスを行うなど,さまざまな業務に介入することが可能です. チーム医療に取り組む姿勢としては,大きく2つのポイントがあります.1つ目は,“プロとして”取り組むこと.決して低いレベルに合わせるのではなく,自らの技量を高める努力を怠らないことが重要です.必要があれば配置転換など診療の体制を変えることも視野に入れ,チーム全体の質を高めていく意識を持ちます.臨床検査技師は,コメディカルやパラメディカルではなく,メディカルそのものであるという自覚を持ちたいものです. 2つ目は,“人として”取り組むこと.外部からの依頼に対して否定から入るのではなく,謙虚に,何でもやらせていただく態度を身に付けましょう.互いの職種を認め合う関係を構築するためには,時に辛抱も必要です.チーム医療へ参画することは,新たな検査の掘り起こしや,検査相談室など臨床検査そのものの業務を拡大し,さらには臨床検査室以外の業務への展開にもつながる“職域拡大”の可能性が生まれます. 臨床検査技師が,今後関わるべき業務は身近なところにもたくさんあります.診療への直接的な関与としては,救急診療や認知症などが最近のテーマとなっていますが,私は,まずは問診,特に予診を行ってほしいと考えています(表3).予診を行うことは,その延長にある脈拍数や血圧測定などのバイタルサインのチェックにつながります.現在,臨床検査技師は明らかに侵襲性の高い検査項目(経直腸超音波検査,経膣超音波検査,胃ゾンデの挿入など)については検査を行うことができません.し

かし,経直腸超音波検査や経膣超音波検査は前立腺超音波検査や胎児エコー検査を行う際に必須の検査であり,これらの検査への介入は臨床での需要もあります.これを臨床検査技師が実施することが可能になれば,業務の幅がさらに広がります.鼻腔からの検体採取はすでに認められているので,これを足掛かりに臨床検査技師が関与できる検査項目を増やしていければと考えています.動脈採血なども臨床検査技師ができる検査として拡大をめざしましょう.

③求められる臨床検査技師へ ―判読力を上げる― 医療職の専門化が進む現状において,一人の医師が全てを把握するのは困難です.検査に関する項目や情報は非常に多く,患者さんに全てを説明するには時間も不足しがちです.また,日常的な臨床検査が軽視されている傾向もあり,結果,検査データをきちんと読める医師が少なくなっているという印象があります.当院職員から検査室への相談内容をみると,大半は検査の依頼方法に関するものであり,臨床検査技師が本来能力を発揮すべき検査結果の解釈についての相談は1割程度でしかないのが現状です. この点を踏まえ,日本臨床衛生検査技師会ではチーム医療の一端を担う臨床検査技師の役割として,検査説明・相談ができる臨床検査技師の育成を推進しています.医師をはじめとする医療従事者から求められる臨床検査技師となるためには,検査データに対する判読力の向上が必須です.そのためにすべきこととしては,日常的な活動では,検査情報(相談)室の設置,R-CPC(Reversedclinicopathologicalconference)[P31参照]

やカンファレンスへの参加,異常値の解析,臨床研究などが考えられます.こうした活動を通じて,臨床で得られる情報から種々の診断法や治療法を学び,解剖,病態生理,病気の知識を積極的に身に付けることができるのです. 当院検査室では,医療従事者への情報発信として,電話対応にて検査に関する相談を受ける検査情報(相談)室の設置,臨床検査の読み方・使い方をQ&A形式でまとめた手引きの作成,検査に関わる医療ニュースの配信などを行っています.また,患者さんへの情報発信としては,検査内容を説明したパンフレットや,看護部と連携して検査前の説明用資料などを作成しています.ちなみに,患者さん向けに検査内容を説明したパンフレットについては臨床検査振興協議会のホームページ(http://www.

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略歴 …松尾……収二…(まつお しゅうじ)1979年 山口大学医学部 卒業 同年 天理よろづ相談所病院 ジュニアレジデント1996年 天理よろづ相談所病院 臨床病理部長2009年 天理医療大学準備室 兼務2012年 天理医療大学 医療学部 臨床検査学科長現在に至る

■ 臨床検査室にしかできない臨床研究 ◦検査試料の活用   成分測定による異常値の解析   検査法,検査データ保証方法等の開発 ◦データ処理による病態解析 ◦検体検査と生体検査との融合

■ 身に付けるべきこと ◦分離分析,遺伝子学的手法等 ◦統計,疫学,データ処理技術 ◦解剖,生理,病気の知識

表 4 臨床研究を行う際に身に付けるべきことjpclt.org/index.html)にサンプルが掲載されているのでご利用ください.

④臨床検査室にしかできない臨床研究を 臨床研究は医師との連携の一つであり,臨床検査室の重要な責務です.しかも,検査試料の活用やデータ処理による病態の解析などは,臨床検査室にしかできない臨床研究といえます(表4).臨床研究には医師によるインフォームドコンセントが不可欠ですので,医師の知識,疑問やアイデア,経験や直感力などの優れた能力と共に,協力して臨床研究を行うことが必要です.臨床研究を行うために臨床検査技師が身に付けるべき知識や技術は多 あ々りますが,検体からさまざまな物質を取り出して人体への影響を調べる“分離分析”を行うことのできる人が少ないことを痛感しています. 現在,臨床検査技師の高学歴化が進んでいます.教育現場の多くで“臨床検査”は,“medical technology(医療技術)”ではなく“laboratoryscience(検査科学)”と呼ばれています.高度な専門知識と技術を身に付け,科学的な視点を持った臨床検査技師が今後数多く輩出されてくるでしょう.医師との連携のもと,臨床検査の分野の発展を促すためにも,臨床検査室にしかできない臨床研究を積極的に行っていきましょう.今の若い医師は臨床検査室に対して理解があり,寛容で高い順応性を持っています.医師と臨床検査技師とのfifty-fiftyの関係は,必ず築いていけると信じています.

 そして,重要なのは人づくりです.今後の臨床検査技師に必要なのは,異常なデータを見逃さない“気付き(感性)”と“踏み出す能力”を持ったリーダーとなる人材の育成であり,そのためには教育施設と臨床検査室の卒前・卒後教育との協力が必要です.人はそれぞれ異なる家庭環境の中で育ち,幼少期の経験はその後の人格に大きな影響を及ぼします.人格形成の基本は家庭教育であり,その責任は私たち大人にあります.「鉄は熱いうちに打て」,「三つ子の魂,百まで」と言われますが,同じように臨床検査室においても教育者としてのリーダーの資質は重要で,その影響は大きく,責任も重大といえます.このことを踏まえながら,臨床検査室としての存在価値を高め,“求め求められる臨床検査技師”の育成をめざしていきたいと考えています.

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