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薬の効き方>循環器系に作用する薬>不整脈治療薬 1 http://yakugakulab.info 1 不整脈治療薬 不整脈 不整脈とは、正常洞調律以外の異常な心拍のことであり、頻脈性不整脈(心拍数が 100回/分を超 える不整脈)と徐脈性不整脈(心拍数が 60 回/分未満の不整脈)に分類される。 分類 概要 頻脈性 不整脈 洞性頻脈 洞房結節の自動能の亢進により誘発される不整脈 上室性 (心房性) 上室期外収縮 正常よりも早期に心房が興奮することで誘発される不整脈 発作性上室頻拍 心房に起因する頻拍発作が生じる不整脈 心房細動 心房において高頻度で無秩序な電気信号が不規則に発生するこ とで誘発される不整脈 心室性 心室期外収縮 正常よりも早期に心室が興奮することで誘発される不整脈 心室頻拍 心室に起因する頻拍を伴う不整脈 心室細動 心室筋が無秩序に興奮する不整脈 収縮期も拡張期も存在せず、心拍出量が「0」となる 徐脈性 不整脈 洞性徐脈 洞房結節の自動能が低下することにより誘発される不整脈 房室ブロック 心房から心室への興奮伝導が遅延または途絶し、徐脈を呈する不 整脈 Ⅰ度:房室伝導時間が延長する Ⅱ度:心房からの興奮が心室に伝わらないことがある Ⅲ度:房室伝導が全く伝わらない状態 その他 WPW 症候群 心房と心室を直接連結する副伝導路(ケント束)により心房から 心室に早期に興奮が伝導することで生じる不整脈 QT 延長症候群 心筋の活動電位持続時間が延長することで QT 間隔が延長する 状態(先天性、後天性のものがある)

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薬の効き方>循環器系に作用する薬>不整脈治療薬

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http://yakugakulab.info

1 不整脈治療薬

1 不整脈

不整脈とは、正常洞調律以外の異常な心拍のことであり、頻脈性不整脈(心拍数が 100 回/分を超

える不整脈)と徐脈性不整脈(心拍数が 60 回/分未満の不整脈)に分類される。

分類 概要

頻脈性

不整脈

洞性頻脈 洞房結節の自動能の亢進により誘発される不整脈

上室性

(心房性)

上室期外収縮 正常よりも早期に心房が興奮することで誘発される不整脈

発作性上室頻拍 心房に起因する頻拍発作が生じる不整脈

心房細動 心房において高頻度で無秩序な電気信号が不規則に発生するこ

とで誘発される不整脈

心室性 心室期外収縮 正常よりも早期に心室が興奮することで誘発される不整脈

心室頻拍 心室に起因する頻拍を伴う不整脈

心室細動 心室筋が無秩序に興奮する不整脈

収縮期も拡張期も存在せず、心拍出量が「0」となる

徐脈性

不整脈

洞性徐脈 洞房結節の自動能が低下することにより誘発される不整脈

房室ブロック 心房から心室への興奮伝導が遅延または途絶し、徐脈を呈する不

整脈

Ⅰ度:房室伝導時間が延長する

Ⅱ度:心房からの興奮が心室に伝わらないことがある

Ⅲ度:房室伝導が全く伝わらない状態

その他 WPW 症候群 心房と心室を直接連結する副伝導路(ケント束)により心房から

心室に早期に興奮が伝導することで生じる不整脈

QT 延長症候群 心筋の活動電位持続時間が延長することで QT 間隔が延長する

状態(先天性、後天性のものがある)

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1)刺激伝導系と心電図

心臓は1分間に 60〜70 回拍動しており、全身に血液を送り出している。通常、右心房に存在する

洞房結節で発生した興奮が心房に伝わり、左右の心房が収縮する。その後、房室結節→ヒス束→右脚・

左脚→プルキンエ線維の順に興奮が伝えられ、心室が収縮することで血液が送り出される。

洞房結節

房室結節

ヒス束

左脚

右脚

プルキンエ線維

P

Q

R

S

T

PQ 間隔 QRS

ST 部

QT 間隔

P 波:心房が脱分極することで現れる

(心房の興奮を表す)

QRS 波:心室が脱分極することで現れる

(心室の興奮を表す)

T 波:心室の膜電位が再分極することで現れる

(心室の興奮からの回復を表す)

PQ 間隔:洞結節から房室結節へ興奮が伝わる過

程を表す

QT 間隔:心室の興奮の始まりから回復するまで

を表す

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2)活動電位

(1)洞房結節の活動電位

ペースメーカー電流が緩徐な脱分極を起こす(4 相)。膜電位が閾値近くになると Ca2+チャネルが

順次開口し、細胞内に Ca2+が流入することにより脱分極が認められる(0相)。脱分極後、K+チャ

ネルが活性化されることにより再分極が認められる(3相)。

洞房結節では、Na+チャネルが少なく、活性化されないため、脱分極の立ち上がりは心室筋に比べ

穏やかである。

(2)心室筋の活動電位

Na+チャネルが開口し、細胞内に Na+が流入することにより脱分極が認められる(0相:急速脱分

極)。その後、Na+チャネルが閉鎖すると共に K+が細胞外に流出することによりわずかな再分極が

認められる(1相:早期急速再分極)。わずかな再分極の後、Ca2+チャネルが開口することで、電位

が一定となる(2 相:プラトー相)。その後、Ca2+チャネルが閉鎖すると共に K+チャネルが開口し、

細胞外に K+が流出することで再分極が認められる(3 相:最終急速再分極)。再分極後、Na+,K+−

ATPase や Na+−Ca2+交換系などにより細胞内外のイオン環境が元に戻る(4 相:静止期)。

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2 抗不整脈薬の分類

1)Vaughan Williams 分類

抗不整脈薬は、Vaughan Williams 分類によりⅠ群(Na+チャネル遮断薬)、Ⅱ群(β受容体遮断

薬)、Ⅲ群(K+チャネル遮断薬)、Ⅳ群(Ca2+チャネル遮断薬)に分類される。

クラス 作用 薬物

Ⅰ a Na+透過性抑制

活動電位の立ち上がり速度抑制

活動電位持続時間:延長

プロカインアミド、ジソピラミド

キニジン、シベンゾリン

ピルメノール

b Na+透過性抑制

活動電位の立ち上がり速度抑制

活動電位持続時間:短縮

リドカイン

メキシレチン

アプリンジン

c Na+透過性抑制

活動電位の立ち上がり速度抑制

活動電位持続時間:不変

プロパフェノン

フレカイニド

ピルシカイニド

Ⅱ アドレナリンβ受容体遮断 プロプラノロール など

Ⅲ K+透過性抑制

活動電位持続時間の延長

アミオダロン、ソタロール、

ニフェカラント

Ⅳ Ca2+チャネル遮断 ベプリジル、ベラパミル、

ジルチアゼム

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2)Sicilian Gambit 分類

Sicilian Gambit 分類とは、イオンチャネルや受容体への作用により抗不整脈薬を分類したもので

ある。

If:ペースメーカー電流

イオンチャネル 受容体 ポンプ

薬物 Na+ Ca2+ K+ If α β M2

Na+/K+

ATPase Fast Med Slow

リドカイン ○

メキシレチン ○

プロカインアミド A ●

ジソピラミド A ● ○

キニジン A ● ○ ○

プロパフェノン A ●

アプリンジン I ○ ○ ○

シベンゾリン A ○ ● ○

ピルメノール A ● ○

フレカイニド A ○

ピルシカイニド A

ベプリジル ○ ●

ベラパミル ○ ●

ジルチアゼム ●

ソタロール

アミオダロン ○ ○ ● ●

ニフェカラント

プロプラノロール ○

アトロピン

ジゴキシン ■

Na+チャネルの解離速度

Fast:速い

Med:中等

Slow:遅

遮断作用 その他

:高 ■:作動薬

●:中等

○:低

A:活性化チャネル遮断

I:不活性化チャネル遮断

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3 抗不整脈薬

1)Ⅰa群(Na+チャネル遮断薬)

① キニジン ② プロカインアミド ③ ジソピラミド ④ シベンゾリン ⑤ ピルメノール

・Na+チャネルを遮断することにより活動電位の立ち上がり 0 相を抑制する。

・K+チャネルを遮断することにより活動電位持続時間と不応期を延長する。

・頻脈性不整脈(上室性、心室性)に用いられる。

*ピルメノールは心室性のみ

・副作用として、QT 延長、心室細動、心室頻拍を起こすことがある。

・ジソピラミド、シベンゾリン、ピルメノールは、副作用として低血糖を起こすことがある。

・ジソピラミドは、抗コリン作用による口渇、便秘、眼圧上昇、排尿障害を誘発する可能性がある。

2)Ⅰb 群(Na+チャネル遮断薬)

① リドカイン ② メキシレチン ③ アプリンジン

・Na+チャネルを遮断することにより活動電位の立ち上がり 0 相を抑制する。

・活動電位持続時間を短縮する。

・頻脈性不整脈(上室性、心室性)に用いられる。

*メキシレチンは心室性のみ

・メキシレチンは、糖尿病性神経障害による自覚症状の改善にも用いられる。

プロカインアミド

リドカイン

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3)Ⅰc 群(Na+チャネル遮断薬)

① プロパフェノン ② ピルシカイニド ③ フレカイニド

・Na+チャネルを遮断することにより活動電位の立ち上がり 0 相を抑制する。

・活動電位持続時間に影響を与えない。

・頻脈性不整脈(他の抗不整脈薬が使用不可又は無効な場合)に用いられる。

●Ⅰ群(Na+チャネル遮断薬)使用時の活動電位の変化

立ち上がり0相を

抑制(中等度)

立ち上がり0相を

抑制(軽度)

立ち上がり0相を

抑制(高度)

活動電位持続時間:延長

活動電位持続時間:短縮

活動電位持続時間:不変

ピルシカイニド

Ⅰa群

Ⅰb 群

Ⅰc 群

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4)Ⅱ群(β受容体遮断薬)

●非選択的β受容体遮断薬

① プロプラノロール ② ピンドロール ③ カルテオロール ④ ナドロール

●選択的β受容体遮断薬

⑤ アテノロール ⑥ アセブトロール ⑦ メトプロロール ⑧ ビソプロロール

・β1受容体を遮断することにより以下の作用を示す。

自動能及び刺激伝導速度:低下 刺激閾値:上昇

活動電位持続時間:延長 異所性ペースメーカー活性:抑制

・頻脈性不整脈(上室性、心室性)に用いられる。

・副作用として、徐脈、房室ブロックを起こすことがある。

5)Ⅲ群(K+チャネル遮断薬)

① アミオダロン ② ソタロール ③ ニフェカラント

・K+チャネルを遮断することにより活動電位持続時間、不応期を延長する。

・アミオダロンはβ受容体遮断作用、Na+チャネル、Ca2+チャネル遮断作用も有する。

・ソタロールはβ受容体遮断作用も有する。

・他の抗不整脈が無効か、又は使用できない場合の心室頻拍、心室細動に用いられる。

・副作用として、QT 延長症候群を起こすことがある。

・アミオダロンは重大な副作用として間質性肺炎、肺線維症、甲状腺機能障害を起こすことがある。

プロプラノロール

アミオダロン

房室結節における

4 相の傾きが低下

再分極の遅延

不応期の延長

活動電位持続時間:延長

再分極の遅延

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6)Ⅳ群(Ca2+チャネル遮断薬)

① ベラパミル ② ジルチアゼム ③ ベプリジル

・洞房結節と房室結節の Ca2+チャネルを遮断することにより自動能、刺激伝達速度を低下させると

ともに不応期を延長する。

・頻脈性不整脈(上室性)に用いられる。

・副作用として、徐脈、洞停止、房室ブロックを起こすことがある。

7)ジギタリス製剤

① ジゴキシン ② メチルジゴキシン

・迷走神経を刺激し、心拍数を低下させるとともに房室結節の自動能、刺激伝導速度を低下させる。

・心房細動・粗動による頻脈、発作性上室頻拍に用いられる。

・副作用として、消化器障害(悪心・嘔吐)、徐脈、房室ブロック、心室性不整脈を起こすことがあ

る。

8)その他

① アトロピン

・心臓の M2受容体を遮断し、心拍数を増加させる。

・徐脈性不整脈(特に迷走神経が関与するもの)に用いられる。

◇関連問題◇

第 97 回問 157、第 98 回問 250〜251、第 99 回問 32、第 100 回問 31、第 102 回問 31、

第 103 回問 155、第 104 回問 31

ベプリジル

立ち上がり

(0 相)抑制

不応期の延長