1 2010 年 3 月 1 日 報告者:小野瀬由一 ブラジル sp 州アグロフォレスト

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1 2010 年 3 月 1 日 報告者:小野瀬由一 ブラジル SP 州アグロフォレストリー現地調査報告書 1.調査目的 VERSTA が支援するアグロフォレストリー(AF)について、サンパウロ州の現状と現地の 支援ニーズを調査し、併せて VERSTA 支援活動のサンパウロ(SP)州事業運営組織を構築す るため情報交換を行なう。 2.調査項目 1)サンパウロ州の AF の現状および候補地調査 2)サンパウロ州の AF 支援ニーズの調査 3)VERSTA 支援活動 SP 州事業運営組織の構築検討 4)VERSTA 支援事業の進め方検討 5)森林 CDM 取組み可能性の検討 3.調査行程:2010 年 1 月 11 日(月)出国~1 月 21 日(木)帰国 【第 1 日】2010 年 1 月 13 日(水) 8;00 NIKKEY PALACE HOTEL 出発 10:15~13:40 São Carlos 連邦大学 Sorocaba キャンパス訪問 20:00 PLAZA INN(Ribeirao Preto)到着 20:30~22:00 夕食会 【第 2 日】2010 年 1 月 14 日(木) 8:00~14:00 Ribeirao Preto より 30km 離れた Serrana 郡・SerraAzul 郡の 国立農地改革院(INCRA)プロジェクト Assentamento Sepe Tiaraju の 4 農家の AF 現地調査 17:00~17:30 Embrapa Meio Ambientes 表敬訪問 4.調査結果 【第 1 日】São Carlos 連邦大学 Sorocaba キャンパス訪問 P1. 同連邦大学 Sorocaba キャンパス正面玄関前 P2.同連邦大学 Sorocaba キャンパス会議室内 (出席者) Marcos de Afonso Marins 教授・博士(Sao Carlos 連邦大学 Sorocaba 副学長) Fernando Silveira Frasnco 教授・博士(Sao Carlos 連邦大学 Sorocaba キャンパス) Fabio Minoru Yamaji 教授・博士(Sao Carlos 連邦大学 Sorocaba キャンパス) Henderson Nobre 指導員(Embrapa Meio Ambientes)

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2010 年 3 月 1 日

報告者:小野瀬由一

ブラジル SP 州アグロフォレストリー現地調査報告書

1.調査目的

VERSTA が支援するアグロフォレストリー(AF)について、サンパウロ州の現状と現地の

支援ニーズを調査し、併せて VERSTA 支援活動のサンパウロ(SP)州事業運営組織を構築す

るため情報交換を行なう。

2.調査項目

1)サンパウロ州の AF の現状および候補地調査

2)サンパウロ州の AF 支援ニーズの調査

3)VERSTA 支援活動 SP 州事業運営組織の構築検討

4)VERSTA 支援事業の進め方検討

5)森林 CDM 取組み可能性の検討

3.調査行程:2010 年 1 月 11 日(月)出国~1月 21 日(木)帰国

【第 1日】2010 年 1 月 13 日(水)

8;00 NIKKEY PALACE HOTEL 出発

10:15~13:40 São Carlos 連邦大学 Sorocaba キャンパス訪問

20:00 PLAZA INN(Ribeirao Preto)到着

20:30~22:00 夕食会

【第 2日】2010 年 1 月 14 日(木)

8:00~14:00 Ribeirao Preto より 30km 離れた Serrana 郡・SerraAzul 郡の

国立農地改革院(INCRA)プロジェクト Assentamento Sepe

Tiaraju の 4 農家の AF 現地調査

17:00~17:30 Embrapa Meio Ambientes 表敬訪問

4.調査結果

【第 1日】São Carlos 連邦大学 Sorocaba キャンパス訪問

P1. 同連邦大学 Sorocaba キャンパス正面玄関前 P2.同連邦大学 Sorocaba キャンパス会議室内

(出席者)

Marcos de Afonso Marins 教授・博士(Sao Carlos 連邦大学 Sorocaba 副学長)

Fernando Silveira Frasnco 教授・博士(Sao Carlos 連邦大学 Sorocaba キャンパス)

Fabio Minoru Yamaji 教授・博士(Sao Carlos 連邦大学 Sorocaba キャンパス)

Henderson Nobre 指導員(Embrapa Meio Ambientes)

2

イシドロ山中(VERSTA 特別顧問・前ブラジル農務大臣特別補佐官)

山添源治(VERSTA 特別顧問・前サンパウロ州森林院総裁)

小野瀬由一(VERSTA 専務理事・経営学博士) 以上 7名

1)Sao Carlos 連邦大学の AF 研究概要

現地調査に先立ち訪問した Sao Carlos 連邦大学 Sorocaba キャンパスにおける、同連邦

大学 Frasnco 教授及び Embrapa Nober 研究員の説明概要は以下のとおりであった。

1)Ribeirao Preto の一帯の AF について(Frasnco 教授)

・カフェはエチオピア原産の植物で、元来木陰で育っていたものであり、AF によるカフェ

栽培が連邦大学の AF 研究の主目的である。

・São Paulo から Ribeirao Preto の一帯では、国立農地改革院(INCRA)による農地改革が

行われており、Embrapa との共同プロジェクトして AF による「継続性農業」「生態系農業」

の研究が行なわれている。

・「継続性農業」の研究 PJ のうち、カフェ栽培による AF は Ribeirao Preto だけで行われ

ている。

・「生態系農業」の研究 PJ では、1992 年から SP 州の森林間栽培による AF が行われている。

2) Serrana 郡・SerraAzul 郡の国立農地改革院(INCRA)プロジェクト Assentamento Sepe

Tiaraju について(Frasnco 教授)

・「継続性農業」PJ では、環境対応と農薬未使用が行われている。

・「生態系農業」PJ では、São Carlos 連邦大学と Embrapa の共同研究により、法定保存林

のアマゾン 90%・セラード 35%・その他 20%への寄与を目指している。

・入植地は全体で 800ha あり、入植者には一家族当り 3.5ha~7ha の農地使用権が無償提供

される。

・入植地の森林植生 35%が入植条件となっている。

・SP 州は河川保存林として AF を認定している。

・自然林遷移型の AF では在来種+カフェ栽培が可能である。

・今後 AF 作物として可能性が高い品目は、①カフェ(市場性が確保されている)、②バナ

ナ・キャッサバ・トウモロコシ・パイナップル(1年で収穫可能)などで、 初の年から継

続的に収入が得られることが重要である。

・カフェは 3年後に収入が高くなる長期的投資栽培である。

・多品種栽培により病害リスクの軽減と経済性・環境性のメリットが期待できる。

・Embrapa は技術提供と種・肥料・害虫防除(Neen)購入の資金援助を行っている。

・種・肥料・害虫防除(Neen)購入資金の確保や窒素固定などが問題である。

3)Embrapa の支援について(Nober 研究員)

・Embrapa では AF の技術開発と農家普及を行っている。

・AF の農家普及の方法は、モデル農場をつくり、農家参加方式により普及を行っている。

作物選定は農家の主体性を尊重している。

・AF 振興のための企業参加の枠組みは作れていないが、NGO による技術支援への参加はあ

る。

・国立農地改革院(INCRA)プロジェクトでは、食糧庁(CONABI)による年間 2800 レアル

(16 万 8000 円)の作物買上と作物の託児院提供が行なわれる。

4)VERSTA の AF 援助について

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・VERSTA による支援はマイクロクレジット方式による融資を考えている。(VERSTA 小野瀬)

・マイクロクレジット方式による融資は良い方法である。(Frasnco 教授)

・融資には為替レートによる為替差損の発生リスクがあり、これを避けるため大手銀行に

よる証券化の方法がある。(VERSTA イシドロ山中)

・入植家族への特別融資制度があるが、返済しないケースや他への流用のケースもある。

(Frasnco 教授)

・AF 農家の援助方法は、①農協設置または非営利組織設置による産物の販売・流通の支援

が考えられる。(Frasnco 教授+Nober 研究員)さらに、②大学レベルの教育交流が考えら

れる。(イシドロ山中)

5)有機農法認証について(Frasnco 教授)

・ブラジルでは、農薬未使用の有機農法の「有機農法認証」が始まった。現在はプライベ

ート認証だが、 近有機農法に関する法律ができたため、公的「有機農法認証」が成立す

る可能性がある。また、アグロフォレストリー認証の可能性もある。

・日本へ有機農法産品を輸出する場合、「有機 JAS」をパスする必要があり、現在、日本か

ら有機 JAS の専門家を招聘して毎年研修を行っている。

・民間認証機関 IBD「有機農法認証」の仕組みは、生産者組織 OTA が IBD に対し、認定料(売

上の1%)+監視料(国内市場向け 400R、海外市場向け 800R)+認証料(監視料の 5~10%)

を毎年支払う。

6)Sao Carlos 連邦大学について(Frasnco 教授)

・開学2年の新しい連邦大学で、学部では文化・芸術・農業の 15 コース、大学院(マスタ

ー)では 3 コースがあり、学生数は 1,600 人。大学は、教育・研究・普及を主活動として

おり、また持続可能性の研究を重要研究テーマとしている。授業料は無料である。アパー

トや寮に無料入居できる学生が 100~150 人いる。1コースに 1人のインディアン入学試験

制度がある。

7)Embrapa について(Nobre 指導員)

・Embrapa は連邦政府による農業研究所で、52 州にセンターを有している。 近では、環

境 Embrapa 研究が重要テーマであり、環境に良い農業研究が始まった。

8)VERSTA について(小野瀬専務理事)

・英文資料により、今回の調査目的および VERSTA の設立理念、ビジョン、ミッション、事

業プログラム、組織構成、森林 CDM の検討について説明した。

【第 2日】Serrana 郡・SerraAzul 郡の国立農地改革院(INCRA)プロジェクト Assentamento

Sepe Tiaraju の 4 農家の AF 現地調査

(調査参加者)

Fernando Silveira Frasnco 教授・博士(Sao Carlos 連邦大学 Sorocaba キャンパス)

Henderson Nobre 指導員(Embrapa Meio Ambientes)

イシドロ山中(VERSTA 特別顧問・前ブラジル農務大臣特別補佐官)

山添源治(VERSTA 特別顧問・前サンパウロ州森林院総裁)

小野瀬由一(VERSTA 専務理事・経営学博士) 以上 5名

4

1)OROVALD 農場(家族 7人/3.5Ha)

・マッドグロッソ州から 3年前に移住。

・カフェ栽培は 3 年前に植えた 2500 本。AF 栽培には、陰をつくる立木(SEDPO)と回りの

草(NAPIF)が必要になる。

・栽培種は、バナナ、パッション、ジャックフルーツなど。

・豚の放牧による施肥、子豚の販売も収入となっている。

・主収入源は、①バナナ、②キャッサバ。

P3.OROVALD 農場訪問 P4.OROVALD 農場 AF カフェ栽培①

P5.OROVALD 農場 AF カフェ栽培② P6.OROVALD 農場豚の放牧

2)AGUVALD 農場(単身/3.6Ha)

・有機農業出身者、入植 4年。

・栽培種は、バナナ、カフェ、パパイヤ、アテマイヤ、パイネラ、ココヤシ、サンタバー

バラ、アップル、パパイヤ、オレンジなど 102 種。

・主収入源はバナナだが、今後はカフェに力を入れたい。

・農薬栽培の副作用で肝臓を傷め、薬草を煎じて回復した。

・先駆樹種→中間樹種→極相樹種の生態的組み合わせが重要。

5

P7.AGUVALD 農場訪問 P8.AGUVALD 農場・パパイヤ(メス)

P9.AGUVALD 農場・アテマイヤ P10.AGUVALD 農場・パイネラ

P11.AGUVALD 農場・ココヤシ P12.AGUVALD 農場・サンタバーバラ

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P13.AGUVALD 農場・アップル P14.AGUVALD 農場・パパイヤ(メス)

P15.AGUVALD 農場・パパイヤ(オス) P16.AGUVALD 農場・カフェ+ココヤシ

P17.AGUVALD 農場・カフェ P18.AGUVALD 農場・オレンジ

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3)PEDRO 農場(夫妻/3.5Ha)

・パラー州出身、リベロンプレート在住。

・入植 4年目。

・栽培種は、グラビオーラ、マラクジャ、タオオパ、アボガド、マカデミア、UBAJaponesa、

カネーラ、カフェ、レモン、ウコン、キアボ、ゴマなど。

・バナナ等の果物は播種栽培している。

・カフェはさび病発生。

・水は山から引いている。

・SP 州の土地開発は、天然林→単一種開発→AF 転換。

・鹿等の野生動物が AF 農場を荒らす。

P19.PEDRO 農場訪問 P20.PEDRO 農場・グラビオーラ

P21.PEDRO 農場・マラクジャ P22.PEDRO 農場・タオオバ

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P23.PEDRO 農場・アボガド P24.PEDRO 農場・マカデミア

P25.PEDRO 農場・UBAJaponesa P26.PEDRO 農場・カネーラ

P27.PEDRO 農場・カフェ P28.PEDRO 農場・レモン

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P29.PEDRO 農場・ウコン P30.PEDRO 農場・キアボ

P31.PEDRO 農場・鹿の足跡 P32.PEDRO 農場・天然林

P33.PEDRO 農場・単一種開発後 P34.PEDRO 農場・AF 転換後

4)NETO&MARIA 農場(2世代家族 7人/3.5Ha)

・北東部ピアウィー州出身、さとうきび収穫のため移住。

・トラクター6家族共同購入←銀行融資。

・特徴は、牛・羊・鶏の放牧。餌は牧草のみ。

・バイオ肥料(灰+化成肥料+糖分+葉+シナモン+薬草+鶏糞+牛糞+水)を 5 倍希釈

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で散布→病害対策・防虫策。

P35.NETO&MARIA 農場訪問 P36.NETO&MARIA 農場・バイオ肥料

【右 3人目】POIARES 市会議員

P37.NETO&MARIA 農場・カフェ P38.NETO&MARIA 農場・カフェ+タピア

P39.NETO&MARIA 農場・マラクジャ P40.NETO&MARIA 農場・トウモロコシ

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P41.NETO&MARIA 農場・パッションフルーツ P42.NETO&MARIA 農場・羊放牧

5.文献等資料要約

サンパウロ州の森林の現状を理解するため、伯国特別顧問山添源治氏の資料「サンパウ

ロ州の森林と林業」「マタ・アトランチカ生態系の概要」等を要約して紹介する。

1)「サンパウロ州の森林と林業」の要約

・サンパウロ州の面積:247,000k㎡(ブラジル国土の約 3%)

・人口:4千百万人(ブラジル総人口の約 21%)

・地形:大西洋沿岸から一気に標高 700 メートルとなり、西部内陸に向けて徐々に標高を

下げ、隣接の南マッドグロッソ州、パラナー川に至る(標高 400 メートル)。州北東部、ミ

ナスジュライス州との州境付近ではマンチケイラ山脈の標高は約 2,000 メートルに達する。

・気候:亜熱帯に属し、年平均気温は 20℃前後。年間降雨量は 1,000~1,800mm。

・土壌:ラトソルが主体で、居所的にテラソルと呼ばれる赤色で養分に富み生産性の高い

土壌がある。

・主要農産物:砂糖・エタノール生産用のサトウキビ、トウモロコシ、大豆、柑橘類、ゴ

ムなど。集約農業では熱帯・温帯果樹、蔬菜。畜産は乳牛の他インド系統の肉牛。

・大西洋岸林:原植生の大西洋岸林は湿潤閉鎖林(Floreta Ombrofila Densa)で、内陸で

は、季節的半落葉(Floresta Estacional Semi-Decidual)のほか、サバナ(Ceeado)で

約 85%覆われていたが 19 世紀後半から 20 世紀半ばの約 100 年間にカフェ、綿栽培など

農地拡張により約 70%が失われた。

・森林面積:SP 州総森林 4,140,000Ha(森林比率は 16.8%)。うち、天然林 3,370,000Ha、

人工林 770,000Ha で、人工林の内訳は、ユーカリ 611,516Ha、マツ類 158,494Ha。

・ユーカリ植林:SP 州はサトウキビ栽培の拡大により地価が高騰したため、紙パルプ工場

は地価の安い他州へ移動し、紙パルプ工場のユーカリ植林は「頭打ち」になっている。

一方、農家単位のユーカリ植林は伸びている。

・マツ類植林:パラナマツはブラジル唯一の経済性を持つ針葉樹でサンパウロ州(標高 1,000

メートル以上)やブラジル南部に分布していたが、乱伐のため失われた。サンパウロ州

のマツ類の植林はユーカリと同じ理由で伸びていない。

・天然林植林:現在ブラジル在来種の植林は違法伐採の破損の代償または法廷保護林、渓

岸林の回復など法的に義務付けられた植林以外は経済的に在来種の植林は見られない。

天然植林は、複数の樹種の種子採取、保存、発芽処理、苗木生産、植付けにおける先駆

樹種、中間樹種、極相樹種の生態的組合せなど技術的に複雑であり、コスト高で、優良

材生産の伐採は 30 年以上になるので、その普及は難しい。

・森林の保存:サンパウロ州の州立公園、生態保護地区などで天然残存林が約 80 万 Ha 保

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存されている。その他、約 3万 Ha の人工造林(主にマツ類)を含めてサンパウロ森林院・

森林財団によって管理されている。

・研究・教育機関:サンパウロ大学(USP)、サンパウロ州立大学(UNESP)には林学部門が

ある。サンパウロ州環境局森林院は 120 年の歴史をもち、林業研究のほか天然林保存林、

州有人工林の管理に当たっている。森林院は JICA により、「サンパウロ林業研究プロジ

ェクト」「サンパウロ州森林・環境保存研究プロジェクト」「第三国研修プログラム」を

通じて 25 年間(1979 年~2004 年)継続的に技術協力を受けた。

2)「マタ・アトランチカ生態系の概要」の要約

・マタ・アトランチカ植生:ブラジル地理院作成 1998 年版植生地図によると、マタ・アト

ランチカ植生は熱帯降雨林(Floresta Ombrofila Densa)と類似した植生だが、マツ林、

疎開熱帯雨林、季節的半落葉林、季節的落葉林、マングローブ、海岸平地低木林、高原

草地、内陸湿地帯、北東森林までおよび、北はリオ・グランデ・ド・ノルテ州、南はリ

オ・グランデ・ド・スール州まで、ブラジルの大西洋沿岸約 5,000Km、17 州にまたがっ

ている。

・マタ・アトランチカ破壊の歴史:マタ・アトランチカの面積は、ブラジル発見当時(1500

年)130 万 K ㎡と推定され、現在のブラジル国土の 15%を占めていた。しかし、発見当

初から 18 世紀中期にかけて布地用の赤い染料を抽出する目的で、東北海岸のブラジルボ

ク(Pau Brasil)が大量に伐採され欧州諸国に運び出されたのが、初期のマタ・アトラ

ンチカ減少の要因となった。南東部のマタ・アトランチカの 初の破壊的減少をもたらし

たのは、ミナスジュライス州でのゴールドラッシュであった。人口の移動と人口の増加

は大量の食料需要を生み、それを充たすためマタ・アトランチカに農場や牧場が開拓さ

れた。19 世紀からリオデジャネイロ州で始まったカフェ栽培はパライバ渓谷を経てサン

パウロ州に至り、州内を西進、パラナ州へ南下して、20 世紀中期までに両州のマタ・ア

トランチカの大半は失われた。1950 年以降、カフェ栽培は霜害を避けてミナスジュライ

ス州に移り、パラナ州では大豆栽培が開始され、マタ・アトランチカはさらに減少し、

現在では当初面積の約 9%(約 10 万 K ㎡)と推定されている。

・マタ・アトランチカの生態系:原生林に近い熱帯降雨林の約 7割は、リオデジャネイロ、

サンパウロ、パラナ、サンタカタリナ諸州の海岸部に集中して残っており、一般に海岸

林(Serra de Mar)と呼ばれている。この森林が残された主な理由は地形が急峻で農地、

牧場には適さなかったことにある。この地域を中心にマタ・アトランチカには約 20 万種

の生物が生存し、植物だけでも 2 万 5,000 種以上あるといわれている。植物に関する生

物多様性が地球上 も高いのは、密度の面ではアマゾンではなく、マタ・アトランチカ

といわれている。

・マタ・アトランチカの生物多様性:マタ・アトランチカの上層林の平均樹高は 20~30 メ

ートルで、代表的樹種は熱帯雨林ではカネ―ラ、インブヤなどクスノキ科、ジュサラ椰

子など。マツ類林ではパラナマツ、マテ茶など。季節的半落葉樹林ではぺロバ、ジュキ

チバなど。その他マタ・アトランチカ全域で観賞用植物としてラン、シダ類、ベゴニア、

パイナップルなどが豊富に見られる。薬用植物ではカルケイジャ、エスピニュイラサン

タなど。

・マタ・アトランチカの生物絶滅種:ブラジル国内で絶滅の危機に瀕している哺乳動物の

うち 39%、鳥類、両生類、昆虫類の 90%はマタ・アトランチカ内でしか確認されていな

い。

3)伯国サンパウロ州クーニャ市「森とシイイタケプロジェクト(project floresta e

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shiitake)」の要約

・森とシイタケプロジェクト:この PJ は、サンパウロ州クーニャ市の小規模農家の所有す

る土地を対象にユーカリ等の早生樹植林を実施し、植林木が CO2 を吸収し炭素を固定す

る仕組みを利用する吸収源 CDM 活動によって CDM クレジットを獲得することを目指して

いる。植林に参加する小規模農家には、土地を植林に提供することによる収入の減少を

補うためシイタケ栽培を指導し、シイタケの出荷により正解の維持・向上を図るとして

いる。同時に当 PJ では、水源機能を高めるため水源地の周辺の郷土樹種植林や生物多様

性を高めるため、孤立した天然林を繋ぐ生物回廊造成のための郷土種植林を行う。

・日本の支援:当 PJ は、日本の(社)海外林業コンサルタンツ協会が農林水産省林野庁の

「CDM 植林総合推進対策事業」を受託し、国連 CDM 植林事業登録に必要な PJ 設計書(PDD)

の作成に関する技術的支援を実施している。

6.考察

今回の調査について、調査目的に基づき調査項目の成果と今後の課題を考察する。

今回の調査目的は、VERSTA が支援するアグロフォレストリー(AF)について、サンパウ

ロ州の現状と現地の支援ニーズを調査し、併せて VERSTA 支援活動のサンパウロ(SP)州事

業運営組織を構築するため情報交換を行なうことにあった。本調査は、VERSTA 特別顧問イ

シドロ山中氏および山添源治氏の全面的な支援により実現した。

以下、調査項目に沿って、調査成果と今後の課題を整理する。

1)サンパウロ州の AF の現状および候補地調査

サンパウロ州の AFは、国立農地改革院(INCRA)プロジェクト Assentamento Sepe Tiaraju

の土地なし農民支援策として実施されている。Serrana 郡・SerraAzul 郡の PJ では、São

Carlos 連邦大学と Embrapa の共同研究により、「継続性農業」PJ と「生態系農業」PJ が実

施されている。「継続性農業」PJ では、環境対応と農薬未使用が行われている。「生態系農

業」PJ では、法定保存林のアマゾン 90%・セラード 35%・その他 20%への寄与を目指し

ている。

マタ・アトランチカは、北はリオ・グランデ・ド・ノルテ州、南はリオ・グランデ・ド・

スール州まで、ブラジルの大西洋沿岸約 5,000Km、17 州に及んでおり、その植生は熱帯降

雨林、マツ林、疎開熱帯雨林、季節的半落葉林、季節的落葉林、マングローブ、海岸平地

低木林、高原草地、内陸湿地帯、北東森林に亘っている。

VERSTAのAF支援候補地としては、スポンサー企業であるカフェ事業との親和性の観点で、

今回現地調査した Ribeirao Preto 周辺農場が適切と考えられる。

2)サンパウロ州の AF 支援ニーズの調査

São Carlos 連邦大学 Frasnco 教授によると、国立農地改革院(INCRA)プロジェクトで

は、カフェ等栽培作物の種・肥料・害虫防除(Neen)購入資金の確保を課題としており、

その点で、VERSTA が日本の NPO 法人として参加企業による「AF 基金」を構築し、それら資

金提供役を演じることが期待できる。

3)VERSTA 支援活動 SP 州事業運営組織の構築検討

VERSTA 支援活動の SP 州受入組織については、Carlos 連邦大学、Embrapa、栽培農家を含

む組織体が考えられる。組織形態については、ブラジルの非営利組織体である協会組織

(Asosion)の構築が考えられる。協会組織の構築については、イシドロ山中氏および山添

源治氏に構成メンバーの提案および構築準備を依頼した。

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4)VERSTA 支援事業の進め方検討

国立農地改革院(INCRA)プロジェクトの AF カフェ支援事業は、VERSTA の「AF 基金」に

よりカフェ等栽培作物の種・肥料・害虫防除(Neen)購入資金を融資する方法が有望と考

えられる。その際、為替差損などの金融面のリスクも危惧されるため、大手銀行による証

券化も検討に値すると考えられる。

5)森林 CDM 取組み可能性の検討

国立農地改革院(INCRA)プロジェクトでは、森林 CDM への取り組みは行われていないが、

その可能性に対し São Carlos 連邦大学 Frasnco 教授が企業参画対策として大きな興味を示

したので、推進に値すると考えられる。

森林 CDM については、農林水産省林野庁の「CDM 植林総合推進対策事業」によるブラジル

SP 州での推進事例があるので、これらの事例を参考にしながら推進したい。

7.調査費用

1)日本⇔伯国渡航費用(アメリカン航空・エコノミー往復・帰国変更込) 192,770 円

2)サンパウロ(ニッケイパレス)宿泊費(5泊) 37,600円

3)レベロンプレート(プラザイン)宿泊費立替代(1泊×5人分) 41,350円

4)サンパウロ⇔レベロンプレート移動費立替代(2日分・2,000Km) 73,000円

5)調査日夕食費立替代 7,450円

6)電話代(3日分) 640円

合計 352,810円

【参考文献】

・山添源治「サンパウロ州の森林と農業」

・山添源治「マタ・アトランチカ生態系の概要」

・伯国サンパウロ州クーニャ市「森とシイイタケプロジェクト(project floresta e

shiitake)」

以上