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鋼材の接着接合部のせん断・引張と剥離に関する実験 An Experimental Study on the Shear, Tension, and Peeling Strength of Adhesively Bonded Steel-to-Steel Joints 建築都市空間デザイン専攻 空間防災講座 建築構造工学研究室 髙野春菜 Abstract A series of shear, tension, and peeling tests were conducted to examine the strength of adhesively bonded steel-to-steel joints. The effects of loading condition, adhesive type (epoxy or acrylic), surface finish of steel (blast cleaned, galvanized, cold rolled), adhesive thickness, adhesion length, test temperature, etc. were examined from the test results. Joints with epoxy adhesive exhibited brittle failure while those with acrylic exhibited some ductility. Joints with epoxy adhesive were sensitive to galvanization. In comparison, joints with acrylic adhesive were insensitive to surface finish or loading condition. Keywords: adhesive joint, structural adhesive, tensile, shear 1. はじめに 建築鋼構造への適用に耐えうる強度の高い構造 用接着剤が、すでに商品化されている。鋼構造分野 における接着剤の適用として、耐震補強ブレースの 端部接合 1) や橋桁の腐食部への当て板補修 2) 、梁が 降伏しない部位の梁継手 3) などが検討されている。 いずれも、高力ボルト摩擦接合や溶接を接着接合に 代えた例であり、接着接合にせん断応力の伝達を期 待した適用例である。しかし、現段階では、主要構 造部への適用例はほぼ皆無である。接着接合の実用 を阻む原因として、破壊性状が極めて脆性的である こと、力学的特性が十分に解明できていないことな どが挙げられる。 そこで本研究では、普通鋼材やめっき鋼材を接着 接合して形成した部材を建築構造物に用いること を想定して、接着剤種や被着材の表面状態、被着材 の寸法等をパラメータに、接着剤のせん断強度、引 張強度、剥離強度を検証するための試験を行った。 接着剤には、構造用接着剤を代表するエポキシ樹脂 系とアクリル樹脂系を使用した。 2. 実験計画 1 に示す 6 種類の試験体を用いて、引張 せん断接着強さ試験(試験体種 I)、ビス併用 一面せん断試験(同Ⅱ)、引張接着強さ試験 (同Ⅲ)、剥離接着強さ試験(同Ⅳ)を行っ た。表 1 に主要パラメータを示す。 試験体種Ⅰは、純せん断強度を検証するこ とを目的とした。対応する規格試験 JIS K6850 は一面せん断試験だが、剥離応力を なるべく排除するために二面せん断試験を 選択した。試験体種 Ia は、ショットブラス ト処理を施した SS400 の厚板を被着材とし、 接着剤種と接着長さ、温度をパラメータとし て計 63 体用意した。試験体種 Ib は、板厚 3.2 mm のめっき鋼板 SGH400-Z12(以下 Z12 と略記)を 使用し、目標接着厚をパラメータとして計 3 体用意 した。試験体種 Ic は、ショットブラスト処理を施 した SPHC SS400 のミガキ材、めっき鋼板 1 試験体寸法 [寸法:mm](a) 試験体種a; (b) 試験体種b; (c) 試験体種c; (d) 試験体種(e) 試験体種; (f) 試験体種と冶具 1 主要パラメータ 鋼材 接着剤 板厚 (mm) 接着 長さ L (mm) その他 n t1 t2 Ia SS400* エポキシ アクリル 9 19 6 12 80, 160, 240 温度() (20, 60, 90) 5 体または 3 体ずつ 合計 63 Ib SGH400-Z12 エポキシ 3.2 3.2 30 接着厚 (mm) (0.2, 0.5, 1.0) 1 体ずつ 合計 3 Ic SPHC* ミガキ材 SGH400-K18 SGH400-Z27 エポキシ アクリル 3.2 2.3 3.2 2.3 1.6 30, 50, 80 接着厚 (mm) (0.2, 0.5, 1.0) 3 体ずつ 合計 66 SGH400-K27 エポキシ アクリル 3.2 30 ビス本数() (0, 2, 4, 6, 8) 3 体ずつ 合計 42 SS400* エポキシ アクリル 5 体ずつ 合計 10 SS400* SGH400-K18 SGH400-K27 エポキシ アクリル 12 6 3.2 接着厚 (mm) (0.2, 0.5, 1.0) 3 体ずつ 合計 72 *ショットブラスト処理を施した鋼材 L 50 t 2 t 1 3.2 3.2 30 3.2 (a) (b) (c) 50 50 t 1 試験体 冶具 (f) (d) 3.2 30 60 (e) 80 80 35 φ21 30 t 1 t 2

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Page 1: 1 )2 3) (d) (f) - labs.eng.hokudai.ac.jplabs.eng.hokudai.ac.jp/labo/1-ko/english/wp-content/uploads/2018/03/... · 系接着剤は主剤と硬化剤を重量比1:1 ないし2:1 で

鋼材の接着接合部のせん断・引張と剥離に関する実験

An Experimental Study on the Shear, Tension, and Peeling Strength of Adhesively Bonded Steel-to-Steel Joints

建築都市空間デザイン専攻 空間防災講座 建築構造工学研究室 髙野春菜

Abstract

A series of shear, tension, and peeling tests were conducted to examine the strength of adhesively bonded

steel-to-steel joints. The effects of loading condition, adhesive type (epoxy or acrylic), surface finish of steel

(blast cleaned, galvanized, cold rolled), adhesive thickness, adhesion length, test temperature, etc. were

examined from the test results. Joints with epoxy adhesive exhibited brittle failure while those with acrylic

exhibited some ductility. Joints with epoxy adhesive were sensitive to galvanization. In comparison, joints

with acrylic adhesive were insensitive to surface finish or loading condition.

Keywords: adhesive joint, structural adhesive, tensile, shear

1. はじめに

建築鋼構造への適用に耐えうる強度の高い構造

用接着剤が、すでに商品化されている。鋼構造分野

における接着剤の適用として、耐震補強ブレースの

端部接合 1)や橋桁の腐食部への当て板補修 2)、梁が

降伏しない部位の梁継手 3)などが検討されている。

いずれも、高力ボルト摩擦接合や溶接を接着接合に

代えた例であり、接着接合にせん断応力の伝達を期

待した適用例である。しかし、現段階では、主要構

造部への適用例はほぼ皆無である。接着接合の実用

を阻む原因として、破壊性状が極めて脆性的である

こと、力学的特性が十分に解明できていないことな

どが挙げられる。

そこで本研究では、普通鋼材やめっき鋼材を接着

接合して形成した部材を建築構造物に用いること

を想定して、接着剤種や被着材の表面状態、被着材

の寸法等をパラメータに、接着剤のせん断強度、引

張強度、剥離強度を検証するための試験を行った。

接着剤には、構造用接着剤を代表するエポキシ樹脂

系とアクリル樹脂系を使用した。

2. 実験計画

図 1に示す 6種類の試験体を用いて、引張

せん断接着強さ試験(試験体種 I)、ビス併用

一面せん断試験(同Ⅱ)、引張接着強さ試験

(同Ⅲ)、剥離接着強さ試験(同Ⅳ)を行っ

た。表 1に主要パラメータを示す。

試験体種Ⅰは、純せん断強度を検証するこ

とを目的とした。対応する規格試験 JIS

K6850 は一面せん断試験だが、剥離応力を

なるべく排除するために二面せん断試験を

選択した。試験体種 Ia は、ショットブラス

ト処理を施したSS400の厚板を被着材とし、

接着剤種と接着長さ、温度をパラメータとし

て計 63体用意した。試験体種 Ibは、板厚 3.2 mm

のめっき鋼板 SGH400-Z12(以下 Z12 と略記)を

使用し、目標接着厚をパラメータとして計 3体用意

した。試験体種 Ic は、ショットブラスト処理を施

した SPHC、SS400 のミガキ材、めっき鋼板

図 1 試験体寸法 [寸法:mm]:

(a) 試験体種Ⅰa; (b) 試験体種Ⅰb; (c) 試験体種Ⅰc;

(d) 試験体種Ⅱ;(e) 試験体種Ⅲ ; (f) 試験体種Ⅳと冶具

表 1 主要パラメータ

種 鋼材 接着剤 板厚 (mm)

接着 長さ

L (mm) その他 n

t1 t2

Ia SS400* エポキシ アクリル

9 19

6 12

80, 160, 240

温度(℃) (20, 60, 90)

5 体または 3 体ずつ 合計 63 体

Ib SGH400-Z12 エポキシ 3.2 3.2 30 接着厚 (mm) (0.2, 0.5, 1.0)

1 体ずつ 合計 3 体

Ic

SPHC* ミガキ材

SGH400-K18 SGH400-Z27

エポキシ アクリル

3.2 2.3

3.2 2.3 1.6

30, 50, 80

接着厚 (mm) (0.2, 0.5, 1.0)

3 体ずつ 合計 66 体

Ⅱ SGH400-K27 エポキシ アクリル

3.2 ― 30 ビス本数(本) (0, 2, 4, 6, 8)

3 体ずつ 合計 42 体

Ⅲ SS400* エポキシ アクリル

― ― ― ― 5 体ずつ 合計 10 体

Ⅳ SS400*

SGH400-K18 SGH400-K27

エポキシ アクリル

12 6

3.2 ― ―

接着厚 (mm) (0.2, 0.5, 1.0)

3 体ずつ 合計 72 体

*ショットブラスト処理を施した鋼材

L

50t2

t1 3.2

3.2 303.2

(a) (b) (c)

50 50

t1試験体

冶具

(f)(d)

3.2

30

60

(e)

8080

35

φ21

30

t1

t2

Page 2: 1 )2 3) (d) (f) - labs.eng.hokudai.ac.jplabs.eng.hokudai.ac.jp/labo/1-ko/english/wp-content/uploads/2018/03/... · 系接着剤は主剤と硬化剤を重量比1:1 ないし2:1 で

SGH400-K18 と Z27(以下 K18、Z27 と略記)を

使用し、接着剤種と鋼材種、接着長さ、継手厚、母

材厚、目標接着厚をパラメータとして、3体ずつ計

66 体用意した。接着厚は、目標厚さに応じた径の

ガラスビーズを接着剤にはさむことで調整した。

試験体種Ⅱは、接着剤が凝固した後にビスを打ち、

接着剤とビスを併用した接合部の強度を検証した。

被着材にめっき鋼板 SGH400-K27 を、ビスは薄板

軽量形鋼の接合に使用される径 4.8 mm のドリリ

ングタッピンねじを使用し、接着剤種とビスの本数

をパラメータとして 3体ずつ計 42体用意した。

試験体種Ⅲは、純引張強度を検証することを目的

に、接着層になるべく一様な垂直応力を負荷させる

形状を考案した。SS400丸鋼の対で構成され、荷重

の作用方向に直交する面を接着接合した。接着面の

反対側にネジ孔を設け、PC 鋼棒を介して丸鋼を中

心引張した。接着剤種をパラメータとして 5体ずつ

計 10体用意した。

試験体種Ⅳは、母材の面外変形により接着層に剥

離応力を生じる形状とした。規格試験 JIS K6854と

比較して、鋼構造接合部に生じる剥離応力をより正

確に表現するべく、スポット溶接の強度試験(JIS

Z3137)を参考に考案した。十字に重ね合わせて接

着した鋼板をボルトで専用冶具に固定し、引張荷重

を加えた。被着材に SS400と K18を使用し、接着

剤種と鋼材種、板厚、目標接着厚をパラメータとし

て、3体ずつ計 54体用意した。

すべての試験体において、接着剤の塗布に先立っ

て、鋼材の接着面をアセトンで脱脂した。エポキシ

系接着剤は主剤と硬化剤を重量比 1:1ないし 2:1で

混合し、アクリル系接着剤は専用のアプリケーター

を用い、それぞれの可使時間(混合開始から使用可

能な時間)内に接着剤を塗布し、鋼材を組み合わせ

た。万力で圧締した状態で、室温 20±5℃で 1週間

以上養生した。

試験には容量 1,000 kNの万能試験機を用い、室

温下で単調引張載荷した。試験体種 Ic とⅣは、ユ

ニバーサルジョイントを介して載荷した。試験体種

Ib、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳはクロスヘッド変位を 2基の変位計

で計測し、試験体種 Iaと Ic はクロスヘッド変位に

加え、図 1に示す母材突き合わせ部の標点間距離を

2基の変位計で計測した。

3. 実験結果

図 2 に、試験体種 Ia で測定した、荷重と標点間

変位の関係を示す。エポキシ系接着剤では、破壊に

至るまでほぼ線形挙動を示し、最大荷重をとった瞬

間に片側の継手板が勢いよく吹き飛び、母材が分離

する極めて脆性的な破壊を示した。アクリル系接着

剤では、徐々に剛性が低下する非線形挙動を示した。

破壊時に最大荷重をとったが、両側の継手板が片方

の母材に接着したままの状態で分離した。

図 3に、試験体種Ⅱで得た荷重とクロスヘッド変

位の関係を示す。ビスのみの試験体では、最大荷重

に達した後ビスが順番にせん断破壊し、段階的に荷

重が落ちた。ビスの滑りはなかった。接着剤とビス

を併用した場合、接着剤が先に破壊し、一度荷重が

低下したあと、ビスのみとほとんど同じ挙動を示し

た。いずれの接着剤においても、ビスのみで最大荷

重が決まった。

図 4に、試験体種Ⅲで測定した、荷重とクロスヘ

ッド変位の関係を示す。接着剤種によらず、図中に

〇印で示す時点で接着面が瞬時に分離して破壊す

るまで線形挙動を示し、破壊した時点で最大荷重を

とった。ここに図示しないが、試験体種Ⅳの挙動も、

試験体種Ⅲと同様であった。

4. 考察

図 5 に、試験体種 Ia のうち、接着長さをパラメ

ータとした試験体で得た、最大荷重を接着面積で除

した引張せん断接着強さと接着長さの関係を示す。

図中に、メーカーが提示する鋼板と亜鉛鉄板に対す

る接着強さの参考値を併せて示す。エポキシ系接着

剤を用いた試験体では、接着長さが長くなるほど強

度が低下し、接着長さ L = 240 mm でメーカー参考

値をわずかだが下まわった。写真表 1に、接着破壊

面の例を接着長さごとに比較する。図 6に示すよう

に、継手板端部を A、母材端部を Bとして見開きで

示す。エポキシ系接着剤は、L = 80 mm では破壊面

が比較的滑らかで均一であったが、L = 160, 240

mmでは荷重の作用方向に不均一で、表面が粗くな

0

20

40

60

80

100

120

0 0.2 0.4

荷重

(kN

)

標点間変位 (mm)

図2 荷重・変形関係( Ia , L = 80 mm)

エポキシ

アクリル

0 1 2 3 4

クロスヘッド変位 (mm)

0

5

10

15

20

0 1 2 3 4

荷重

(kN

)

クロスヘッド変位 (mm)

エポキシ+ ビス2本

ビス2本

エポキシ アクリル+ ビス2本

ビス2本アクリル

図3 荷重・変形関係(Ⅱ) 図4 荷重・変形関係(Ⅲ)

0

50

100

150

200

0 2 4 6

荷重

(kN

)

クロスヘッド変位 (mm)

エポキシ

アクリル

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った。Karachalios ら 4)は、破壊面が滑らかに見え

る部分は延性破壊であり、凸凹になっている部分は

脆性破壊の痕だと推察している。つまり、エポキシ

系接着剤を用いた L = 160, 240 mm の試験体は、

接着端部(A側)が降伏したあと、一気に破壊が進

行したと考えられる。脆性的なエポキシ系接着剤で

は応力再分配ができないために、若干でも応力が高

い接着端が一旦破壊すると瞬間的に全体に進行す

ると考えられる。アクリル系接着剤を用いた試験体

は比較的寸法効果が小さく、破壊面は全体的に均一

であった。しかし、写真表 1に示す L = 240 mm の

継手板端部(A)と母材端部(B)を電子顕微鏡で撮

影した拡大写真で比較すると、継手板端部に白化が

見られた(写真 1)。白く見えるのは、クレーズ発生

部と未発生部で屈折率が異なることによる、光の散

乱のためであると考えられる 5)。よって、アクリル

系接着剤の場合も継手板端部から破壊が始まった

と推測できる。

図 7に、接着長さ 30 mm、板厚 3.2 mmの試験

体種 Ibと Icで得た引張せん断接着強さを示す。エ

ポキシ系接着剤を用いた試験体の強度は、被着材が

ショットブラスト処理、ミガキ材、Z12の場合は参

考値を超えたが、K18 と Z27 では参考値を大きく

下まわり、鋼材の表面状態の影響を明瞭に受けた。

接着剤の破壊形態は、接着剤と被着材の界面に生ず

る界面破壊と、接着剤の内部で破壊する凝集破壊と

に大別される。界面破壊は被着材の表面状態や界面

での結合力の不足に起因し、凝集破壊は界面での結

合力が高かった場合に、接着剤の性能が十分に発揮

された結果だとされる 6)。エポキシ系接着剤は、母

材がショットブラスト処理、ミガキ材、Z12の場合

は、界面破壊と凝集破壊の両方を含む混合破壊を示

し、K18 または Z27 の場合は、ほぼ完全に界面破

壊を示した。エポキシ系接着剤の破壊形態は、鋼材

種による接着強さの大小(図 7 参照)と符合した。

既往の研究 7)では、めっきの表面に付着する微量の

不純物や汚染金属(Zn、C、Al、Pb、Mgなどの酸

化物)が、接着接合に悪影響をおよぼすことが知ら

れている。めっき鋼板表面の化学組成が接着強さに

影響を与えた可能性がある。

図 8 に、試験体種 Ia のうち試験温度をパラメー

タとした試験体で得た引張せん断接着強さと試験

温度の関係を、既往の実験結果 8), 9), 10)と併せて示す。

いずれの接着剤でも、試験温度と接着強さに明瞭な

負の相関関係があることを確認した。

図 9 に、試験体種 Ic で得た引張せん断接着強さ

と接着厚の関係を示す。接着剤種によらず、接着厚

が薄いほど接着強さが高い傾向があった。エポキシ

系接着剤を用いた試験体に強度のばらつきが大き

かったことは、ほぼ完全に界面破壊したことと対応

する。

図 10 に、試験体種ⅢとⅣで得た最大荷重を接着

面積で除した強度の平均値を比較する。前者は引張

強さ、後者は剥離強さの指標である。図中に、引張

強さの参考値(JIS K7161 による)を示す。エポキ

写真表 1 接着破壊面(試験体種 Ia)

図6 接着破壊面の表し方 写真 1 拡大写真(アクリル, L =240 mm)

0

5

10

15

20

25

30

エポキシ

アクリル

引張せん断接着強さ

(N/m

m2)

Icショットブラスト

IbZ12

IcK18

IcZ27

Icミガキ材

図7 引張せん断接着強さ(Ib , Ic)

0

5

10

15

20

25

30

0 80 160 240 320

引張せん断接着強さ

(N/m

m2)

接着長さ (mm)

図5 引張せん断接着強さ(Ia )

エポキシ

アクリル

エポキシ

アクリル

平均値

エポキシ

アクリル

A B 1 (mm)1 (mm)

80 mm 160 mm 240 mm

エポキシ

アクリル

L接着剤

A B

A B

A B

A B

A

A

B

B

継手板

母材

継手板

母材

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シ系接着剤では、一様垂直応力を受けた試験体種Ⅲ

では大きな強度を得たが、母材の面外変形により、

接着面の角部に剥離応力を生じた試験体種Ⅳでは、

試験体種Ⅲと比較して板厚 12 mm の場合で強度が

4分の 1、6 mm の場合で 8分の 1であった。同じ

板厚 6 mmで被着材に SS400とK18を用いた試験

体を比較すると、後者の方が著しく小さい強度を示

した。K18を用いた試験体では界面破壊が卓越して

おり、剥離応力に対しても、エポキシ系接着剤と亜

鉛めっきの相性が悪いと考えられる。アクリル系接

着剤では、すべての試験体で凝集破壊が卓越してお

り、エポキシ系接着剤と比べて、試験体種や板厚、

被着材表面の影響が小さかった。写真 2に、板厚 6

mm の SS400を用いた試験体種Ⅳの接着破壊面の

例と、電子顕微鏡で撮影した拡大写真を示す。エポ

キシ系接着剤では、角部は細かく、中央部は粗くな

っていた。引張せん断接着強さ試験と同様に、粗い

部分は脆性破壊であると考えられる。アクリル系接

着剤では、角部に白化した空洞を観察した。この空

洞がつながり、クラックとなり、破壊に至ったと考

えられる。このことから、いずれの接着剤も、角部

が破壊の起点となったと推測できる。

5. まとめ

実用的な鋼材の接着接合部における応力状態を

表現した様々な試験方法を考案し、合計 256体の試

験を行い、接着剤種や被着材の表面状態等が接着強

さに及ぼす影響を検証した。エポキシ系接着剤とア

クリル系接着剤を比較すると、エポキシ系接着剤は

引張せん断接着強さの寸法効果が大きく、純引張強

度に比べ剥離接着強さが著しく小さかった。応力状

態によらず被着材のめっきの影響を受けやすく、界

面破壊が卓越した。いずれの接着剤種も、せん断に

対しては、温度が高いほど、また接着厚が厚いほど、

接着強さが小さい傾向があった。

参考文献 1) 曽田五月也ほか:日本建築学会大会学術講演梗概集,

pp.1003, 2012.9

2) 丹波寛夫ほか:構造工学論文集,Vol.60A,pp.703-714,2014.6

3) 渡邊洋介ほか:鋼構造年次論文報告集, pp. 602-609,

2017.11

4) E.F. Karachalios et al. :International Journal of

Adhesion and Adhesives, 43 pp. 81-95, 2013

5) 本間精一:プラスチック材料大全, 日刊工業新聞社,

pp.282-283, 2015

6) 柳澤誠一:接着・解体技術総覧―資源・環境・エネルギ―,

エヌジーティー, pp. 248-253, 2011

7) 中尾一宗: 高分子刊行会35巻4号pp.149-153, 1991

8) Y.Hu et al. :Use of Adhesives to Retrofit Out-of-

Plane Distortion Induced Fatigue Cracks, Final

Report, pp.1-186, 2006.2

9) 若生祐介ほか:日本建築学会大会学術講演梗概集, pp.

1369-1370, 2013.8

10) 寺田博昌ほか:鋼構造への接着接合の適用, 接着接合小委員会報告, pp. 15-26, 1993.11

写真 2 接着破壊面と 100 倍拡大写真:

(a) エポキシ;(b) アクリル

1 (mm)

1 (mm)

(a)

(b)

(ⅰ) (ⅱ)

(ⅰ) (ⅱ)

(i)

(ⅱ)

(ⅱ)

(i)

1 (mm)

1 (mm)

0

2

4

6

8

10

12

14

16

0 0.5 1 1.5

接着厚 (mm)

0 0.5 1 1.5

接着厚 (mm)

引張せん断接着強さ

(N/m

m2)

K18 Z27K18 Z27

図9 接着厚と引張せん断接着強さの関係:(a) エポキシ;(b)アクリル

(a) (b)

図8 温度と引張せん断接着強さの関係:(a) エポキシ;(b)アクリル

(a) (b)

引張せん断接着強さ

(N/m

m2)

0

5

10

15

20

25

30

35

0 20 40 60 80 100

温度(℃)

0 20 40 60 80 100

温度(℃)

本研究

寺田ら10)

Huら8)

若生ら9)

寺田ら10)

本研究

0

5

10

15

20

25

30

35

40

引張接着強さ

(N/m

m2)

t = 12SS400*

t = 6SS400*

t = 6 K18

t = 3.2K27

S400*引張(Ⅲ)

剥離(Ⅳ)

図10 引張接着強さの比較

エポキシ

アクリル

エポキシ

アクリル

*ショットブラスト処理を施した鋼板