01 08 特集 - nippon telegraph and telephone

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NTT技術ジャーナル 2015.1 41 情報通信サービスの環境負荷低減に向けた取り組み ICT装置の課題 近年,サーバや情報通信装置などの ICT装置は社会に広く普及し,経済活 動を支えています.通信ビルやデータ センタは,ICT装置を集中的に管理し ており,ICT装置の社会への浸透に伴 い,社会インフラとして重要性を増して います.重要性の高まりとともに,消費 される電力量も増加しており,消費電力 量の低減が課題となっています. 高電圧直流 *1 (HVDC)給電システ ムは,省エネルギー効果と高い給電信 頼性の観点から世界中で大きな期待が 寄せられており,NTTグループでは NTT環境エネルギー研究所とNTTファ シリティーズが世界に先駆けて基礎研 究から各装置開発を行ってきました (1) HVDC整流装置 HVDC整流装置は電力会社から供給 される商用の電力を直流380 Vに変換 する整流装置です (2) .100 kWクラス, 500 kWクラスの容量があり,最高98% と高い変換効率を有しています.また, 冗長構成を採用しており,万一障害発 生時も継続的な運用が可能です. HVDCコンセントバー ・ 電源プラグ 直流の高電圧化に際して課題となる 遮断時のアーク *2 対策として,HVDC 専用のHVDCコンセントバーと電源 プラグを開発しました(図1 ). ICT機器などの電源プラグをコンセ ントに接続し,プラグ未挿入時は動作 しない機械的スイッチをON側へスラ イドすることで内部の接点が閉じ,電 流が流れるとともに電源プラグの抜け 防止ロックが作動する構造としていま す.電源プラグを抜く際は,機械的ス イッチをOFF側へスライドすること で,内部の接点が開き,アークを遮断 し,ロックを解除するため,外部へアー クが発生することなく,作業者 ・ 保守 者が安全に挿抜作業を行うことがで きます. 高電圧直流給電システム HVDC整流装置 HVDCコンセントバー *1 高電圧直流:ICT分野において,直流の給 電電圧は,電気通信用として世界的に直流 −48 Vが使用されています.これに対して, 直流300〜400 V程度のなる高い電圧範囲を 高電圧直流と呼んでいます. *2 アーク:電極に電位差が生じることにより, 電極間にある気体に持続的に発生する放電 の一種. 図 1  HVDCコンセントバー・電源プラグ 高電圧直流給電システム導入に向けた装置開発 NTTファシリティーズでは高電圧直流(HVDC)給電システムの通信ビル・ データセンタなどへの導入に加え,将来的には太陽光発電システムなど再 生可能エネルギーを直流のまま連系したスマートグリッドへの適用も視野 に入れた研究開発を行っています.本稿では幅広い領域での活用に向けた, システム開発,構築・保守などの取り組みを紹介します. ほし ひでかず /矢 場崎 ただとし /廣 けいいち ひでのり /則 のりたけ まさとし たかし NTTファシリティーズ

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Page 1: 01 08 特集 - Nippon Telegraph and Telephone

NTT技術ジャーナル 2015.1 41

特集

情報通信サービスの環境負荷低減に向けた取り組み

ICT装置の課題

近年,サーバや情報通信装置などのICT装置は社会に広く普及し,経済活動を支えています.通信ビルやデータセンタは,ICT装置を集中的に管理しており,ICT装置の社会への浸透に伴い,社会インフラとして重要性を増しています.重要性の高まりとともに,消費される電力量も増加しており,消費電力量の低減が課題となっています.

高電圧直流* 1(HVDC)給電システムは,省エネルギー効果と高い給電信頼性の観点から世界中で大きな期待が寄せられており,NTTグループではNTT環境エネルギー研究所とNTTファシリティーズが世界に先駆けて基礎研究から各装置開発を行ってきました(1).

HVDC整流装置

HVDC整流装置は電力会社から供給される商用の電力を直流380 Vに変換する整流装置です(2).100 kWクラス,500 kWクラスの容量があり,最高98%と高い変換効率を有しています.また,冗長構成を採用しており,万一障害発生時も継続的な運用が可能です.

HVDCコンセントバー ・ 電源プラグ

直流の高電圧化に際して課題となる遮断時のアーク* 2対策として,HVDC専用のHVDCコンセントバーと電源プラグを開発しました(図 1 ).

ICT機器などの電源プラグをコンセントに接続し,プラグ未挿入時は動作しない機械的スイッチをON側へスライドすることで内部の接点が閉じ,電流が流れるとともに電源プラグの抜け防止ロックが作動する構造としていま

す.電源プラグを抜く際は,機械的スイッチをOFF側へスライドすることで,内部の接点が開き,アークを遮断し,ロックを解除するため,外部へアークが発生することなく,作業者 ・ 保守者が安全に挿抜作業を行うことができます.

高電圧直流給電システム HVDC整流装置 HVDCコンセントバー

*1 高電圧直流:ICT分野において,直流の給電電圧は,電気通信用として世界的に直流−48 Vが使用されています.これに対して,直流300〜400 V程度のなる高い電圧範囲を高電圧直流と呼んでいます.

*2 アーク:電極に電位差が生じることにより,電極間にある気体に持続的に発生する放電の一種.

図 1  HVDCコンセントバー・電源プラグ

高電圧直流給電システム導入に向けた装置開発

NTTファシリティーズでは高電圧直流(HVDC)給電システムの通信ビル・データセンタなどへの導入に加え,将来的には太陽光発電システムなど再生可能エネルギーを直流のまま連系したスマートグリッドへの適用も視野に入れた研究開発を行っています.本稿では幅広い領域での活用に向けた,システム開発,構築・保守などの取り組みを紹介します.

星ほ し

  秀ひでかず

和 /矢や じ ま

島 寛ひ ろ や

馬ば ば さ き

場崎 忠ただとし

利 /廣ひ ろ せ

瀬 圭けいいち

松ま つ お

尾 英ひでのり

徳 /則のりたけ

竹 政まさとし

武た け だ

田  隆たかし

NTTファシリティーズ

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NTT技術ジャーナル 2015.142

情報通信サービスの環境負荷低減に向けた取り組み

マイグレーション用電源変換装置の開発

HVDC給電システムを導入するにあたって,HVDC整流装置やHVDC分電盤といった装置のほか, HVDCに対応したICT装置の調達が必要となります.しかし,導入初期におけるシス

テム移行の過渡期には,導入予定のICT装置すべてがHVDCに対応していないことが想定されます.そのため,HVDC給電システムの大枠を変更することなく,部分的に従来の給電方式である交流200 V,交流100 Vや直流-₄8 Vで動作するICT装置を利用するために, HVDC整流装置から供給され

る直流380 Vを受電し,交流200 V,交流100 V,直流-₄8 Vいずれかの電力を出力するマイグレーション用電源変換装置が必要となります(図 ₂ ).

当社は,供給先の種類に合わせて,S(小容量)タイプとM(中容量)タイプのマイグレーション用電源変換装置を開発しました(図 ₃ ).Sタイプは,

既存交流,直流-48 V ICT装置

交流200 V直流380 V 直流380 V

HVDC整流装置(100 kW・500 kW)

直流380 V

蓄電池

HVDC分電盤

19インチラック

マイグレーション用電源変換装置(S・M)

マイグレーション用電源変換装置(S・M)

380 V対応ICT装置

既存交流,直流-48 V ICT装置

図 ₂  HVDC給電システムの構成

図 3  マイグレーション用電源変換装置ラインアップ

マイグレーション用電源変換装置(S) マイグレーション用電源変換装置(M)交流出力タイプ 直流出力タイプ 交流出力タイプ 直流出力タイプ

外観

寸法(mm)

W:430×D:700×H:43(1U)

W:430×D:700×H:43(1U)

W:430×D:553×H:130(3U)

W:430×D:652×H:130(3U)

入力電圧 定格 直流 380 V

出力電圧 交流 100 V 直流-48 V 交流 100 V,交流 200 V 直流-48 V

出力容量

1.0 kW(500 Wユニット× 2台+ 1台) 7 kW

ユニット効率 90%以上 93%以上 90%以上 94%以上

※Mタイプの寸法はユニット部

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NTT技術ジャーナル 2015.1 43

特集

モニタなどのコンソール系の装置で消費電力数100W程度の装置用に開発しています.Mタイプは,消費電力が数kW程度のICT装置を想定して開発しています.

今後の展開

本稿では,通信ビル ・ データセンタなどへのHVDC給電システム導入における取り組みについて紹介しました.

将来的には,通信ビル ・ データセンタなどへの導入だけでなく,太陽光発電システムなど直流で発電する分散型電源や蓄電池と組み合わせて,再生可能エネルギーをHVDCで運用するスマートグリッドへの展開も視野に入れています(3).環境省による地球温暖化対策技術開発 ・ 実証研究事業において,北海道帯広市,山形県山形市にてフィールド検証が実施されており

(図 ₄ ),得られた成果を積極的に活用していく予定です.

■参考文献(1) 朝倉 ・ 田中 ・ 馬場崎:“高電圧直流給電シス

テムの導入に向けて,” NTT技術ジャーナル,Vol.22,No.11,pp.1₆-19,2010.

(2) 宇田川 ・ 松尾:“情報通信分野における給電技 術 ・ 空 調 技 術,” NTT技 術 ジ ャ ー ナ ル,Vol.2₆,No.₇,pp.13-19,201₄.

(3) 廣瀬: “直流技術と応用の動向,” 電学論B,Vol.131,No.₄,pp.358-3₆1,2011.

直流380 V家電

※運用計画に基づいて各装置を制御する運用管理システムEMS: Energy Management SystemBMU: Battery Management Unit

左:リチウムイオン蓄電池充放電器

右:直流電力変換装置

リチウムイオン蓄電池

商用電力(北海道電力)

6600 V/200 V

太陽光パネル(10 kW× 2)

整流装置(15 kW)整流装置(15 kW)

直流電力変換装置(10 kW)

太陽光パネル(10 kW)太陽光パネル(10 kW)

直流電力変換装置(10 kW)

直流380 V

リチウムイオン充電器

リチウムイオン(25 kWh)

BMU

交流電力直流電力情報通信

直流380 V周辺機器

直流EMSサーバ

直流スイッチ 直流アダプタ

直流コンセント

電気自動車 LED照明 冷蔵庫液晶TV+ブルーレイディスクプレイヤ

電気自動車用双方向充電器

電気自動車(三菱i-MieV)

直流コンセント

直流スイッチ直流アダプタ

LED照明

ノートPC

冷蔵庫

液晶TV

ブルーレイディスクプレーヤ

直流EMS※

図 4  環境省フィールド実証システム(北海道帯広市)

(上段左から) 星  秀和/ 矢島 寛也/ 馬場崎 忠利/ 廣瀬 圭一

(下段左から) 松尾 英徳/ 則竹 政俊/ 武田  隆

NTTグループでは使用電力量の削減にエネルギーマネジメントの推進,エネルギー効率の高い装置の導入 ・更改といった取り組みが行われてきましたが,社会的に環境負荷低減がより重要視されている中,一層の使用電力量削減に貢献が出来るような研究開発に努めたいと思います.

◆問い合わせ先NTTファシリティーズ エネルギー事業本部 研究開発本部

TEL 03-₅₆₆₉-0₇8₅FAX 03-₅₆₆₉-1₆₅0E-mail matsuo₅₆ ntt-f.co.jp