肺高血圧症治療ガイドライン - jcs - 日本...

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1 目  次 改訂にあたって…………………………………………………… 3 Ⅰ.総論…………………………………………………………… 5 1. 肺高血圧症の定義 ……………………………………… 5 2. 肺高血圧症の臨床分類 ………………………………… 5 3. 肺高血圧症の症状,身体所見 ………………………… 7 4. 肺高血圧症の診断 ……………………………………… 7 5. 肺高血圧症の病理 ………………………………………13 6. 肺高血圧症の病因 ………………………………………15 Ⅱ.各論……………………………………………………………18 1. 肺動脈性肺高血圧症(PAH……………………………18 2. 左心疾患による肺高血圧症 ……………………………39 3. 肺疾患および/ または低酸素血症による肺高血圧症 42 4. 慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH………………50 Ⅲ.厚生労働省特定疾患における肺高血圧症…………………56 文 献………………………………………………………………57 循環器病の診断と診療に関するガイドライン(2011年度合同研究班報告) 肺高血圧症治療ガイドライン (2012 年改訂版) Guidelines for Treatment of Pulmonary Hypertension(JCS2012) 合同研究班参加学会: 日本循環器学会,日本移植学会,日本胸部外科学会,日本呼吸器学会,日本小児循環器学会, 日本静脈学会,日本心臓病学会,日本脈管学会,日本リウマチ学会,厚生労働省難治性疾患克 服研究事業呼吸不全調査研究班,厚生労働省難治性疾患克服研究事業混合性結合組織病の病態 解明-早期診断と治療法の確立に関する研究班 班 長 西 国立循環器病研究センター 班 員 藤田保健衛生大学心臓血管外科 国立循環器病研究センター 荻 野   均 東京医科大学心臓血管外科 佐 地   勉 東邦大学医療センター大森病院小児科 愛知医科大学 睡眠科睡眠医療センター 巽   浩一郎 千葉大学呼吸器内科 京都大学呼吸器外科 西 北海道大学第一内科 大阪大学移植医療部 東北大学循環器内科 自治医科大学附属さいたま医療 センター循環器科 三重大学大学院循環器内科学 藤田保健衛生大学内科 協力員 佐久間 聖 仁 国立循環器病研究センター 篠 邉 龍二郎 愛知医科大学 愛知医科大学 睡眠科睡眠医療センター 千葉大学呼吸器内科 北海道大学第一内科 三重大学大学院循環器内科学 国立病院機構岡山医療センター循環器科 藤田保健衛生大学内科 東邦大学医療センター大森病院 新生児学 外部評価委員 栗山医院内科 近 藤   丘 東北大学病院呼吸器外科 奈良県立医科大学第一内科 医療法人社団仁明会 齋藤病院 中 野   赳 山本総合病院循環器内科 (構成員の所属は2012 2 月現在)

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目  次

改訂にあたって…………………………………………………… 3Ⅰ.総論…………………………………………………………… 51. 肺高血圧症の定義 ……………………………………… 52. 肺高血圧症の臨床分類 ………………………………… 53. 肺高血圧症の症状,身体所見 ………………………… 74. 肺高血圧症の診断 ……………………………………… 75. 肺高血圧症の病理 ………………………………………136. 肺高血圧症の病因 ………………………………………15

Ⅱ.各論……………………………………………………………181. 肺動脈性肺高血圧症(PAH) ……………………………182. 左心疾患による肺高血圧症 ……………………………393. 肺疾患および /または低酸素血症による肺高血圧症 …424. 慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH) ………………50

Ⅲ.厚生労働省特定疾患における肺高血圧症…………………56文 献………………………………………………………………57

循環器病の診断と診療に関するガイドライン(2011年度合同研究班報告)

肺高血圧症治療ガイドライン(2012年改訂版)Guidelines for Treatment of Pulmonary Hypertension(JCS2012)

合同研究班参加学会:�日本循環器学会,日本移植学会,日本胸部外科学会,日本呼吸器学会,日本小児循環器学会,日本静脈学会,日本心臓病学会,日本脈管学会,日本リウマチ学会,厚生労働省難治性疾患克服研究事業呼吸不全調査研究班,厚生労働省難治性疾患克服研究事業混合性結合組織病の病態解明-早期診断と治療法の確立に関する研究班

班 長 中 西 宣 文 国立循環器病研究センター

班 員 安 藤 太 三 藤田保健衛生大学心臓血管外科

植 田 初 江 国立循環器病研究センター

荻 野   均 東京医科大学心臓血管外科

佐 地   勉 東邦大学医療センター大森病院小児科

塩 見 利 明 愛知医科大学 睡眠科睡眠医療センター

巽   浩一郎 千葉大学呼吸器内科

伊 達 洋 至 京都大学呼吸器外科

西 村 正 治 北海道大学第一内科

福 嶌 教 偉 大阪大学移植医療部

福 本 義 弘 東北大学循環器内科

百 村 伸 一 自治医科大学附属さいたま医療センター循環器科

山 田 典 一 三重大学大学院循環器内科学

吉 田 俊 治 藤田保健衛生大学内科

協力員 佐久間 聖 仁 国立循環器病研究センター

篠 邉 龍二郎 愛知医科大学 愛知医科大学睡眠科睡眠医療センター

田 邊 信 宏 千葉大学呼吸器内科

辻 野 一 三 北海道大学第一内科

中 村 真 潮 三重大学大学院循環器内科学

松 原 広 己 国立病院機構岡山医療センター循環器科

深 谷 修 作 藤田保健衛生大学内科

与 田 仁 志 東邦大学医療センター大森病院新生児学

外部評価委員栗 山 喬 之 栗山医院内科

近 藤   丘 東北大学病院呼吸器外科

斎 藤 能 彦 奈良県立医科大学第一内科

白 土 邦 男 医療法人社団仁明会 齋藤病院

中 野   赳 山本総合病院循環器内科

(構成員の所属は2012年2月現在)

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循環器病の診断と診療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告)

【略 語】AASM:American Academy of Sleep MedicineA-aDO2:alveolar-arterial O2 tension difference/gradientAHA:American Heart AssociationACC:American College of CardiologyACCP:American College of Chest PhysicianALK1:activin receptor-like kinase-1ACVRL1:activin A receptor type II-like 1AHI:apnea hypopnea indexARB:angiotensin receptor blockerASD:atrial septal defectBMPR2:bone morphogenetic protein receptor type IIBNP:brain natriuretic peptideBPA:balloon pulmonary angioplastyCAV1:caveolin-1CCB:calcium channel blockercGMP:cyclic guanosine monophosphateCHD-PAH:congenital hear disease-pulmonary arterial

hypertensionCI:cardiac index CO:cardiac outputCO2:carbon dioxideCOPD:chronic obstructive pulmonary diseaseCTEPH:chronic thromboembolic pulmonary hypertensionCTD-PAH:connective heart disease-pulmonary arterial

hypertensionCRT:cardiac resynchronization therapyCPAP:continuous positive airway pressureCPFE:combined pulmonary fibrosis and emphysemaCPX:cardio pulmonary exercise testCSAS:central sleep apnea syndromeDIC:disseminated intravascular coagulationDLCO:carbon monoxide diffusing capacityEC:endotherial cellsECMO:extracorporeal membrane oxygenationECD:endocardial cushion defectEGFR:epidermal growth factor receptorEPC:endothelial progenitor cellsERA:endothelin receptor antagonistERS:European Respiratory Society ESC:European Society of CardiologyHHT:hereditary hemorrhagic telangiectasiaHIV:human immunodeficiency virusHOT:home oxygen therapyHPAH:heritable pulmonary arterial hypertension

HRCT:high resolution computed tomographyICD:implantable cardioverter defibrillatorIIP: idiopathic interstitial pneumoniaIPAH:idiopathic pulmonary arterial hypertensionIPF:idiopathic pulmonary fibrosisJACC:Journal of the American College of CardiologyLVEF:left ventricular ejection fractionMAS:meconium aspiration syndromeMCTD:mixed connective tissue diseaseMRI:magnetic resonance imagingNO:nitric oxideNPPV:noninvasive positive pressure ventilationNT-proBNP:N-terminal proBNPNYHA:New York Heart AssociationOI:Oxygenation IndexOSAS:obstructive sleep apnea syndromeOSAHS:obstructive sleep apnea-hypopnea syndromePAG: pulmonary angiographyPAH:pulmonary arterial hypertensionPAHS: primary alveolar hypoventilation syndromePaCO2:partial pressure of carbon dioxidePaO2:partial pressure of oxygenPAP:pulmonary arterial pressurePCH:pulmonary capillary hemangiomatosisPCWP:pulmonary capillary wedge pressurePDA:patent ductus arteriosusPDE5-I:phosphodiesterase type 5 inhibitorPDGF:platelet-derived growth factorPEA:pulmonary endarterectomyPGI2:prostaglandin I2PM/DM:polymyositis/dermatomyositisPOPH:portopulmonary hypertension PPAR-γ:peroxisome proliferator-activated receptor γPPH: primary pulmonary hypertensionPPHN:persistent pulmonary hypertension of the newbornPSG: polysomnographyPTE:pulmonary thromboendarterectomyPTMC:percutaneous transluminal mitral commissurotomyPTPA:percutaneous transluminal pulmonary angioplastyPTTM: pulmonary tumor thrombotic microangiopathyPVOD:pulmonary veno-occlusive disease PVR:pulmonary vascular resistanceQOL:quality of lifeQp:pulmonary blood flow

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肺高血圧症治療ガイドライン

RA:right atriumREM:rapid eye movementRERA: respiratory effort-related arousalSaO2:saturation of arterial oxygen SAS:sleep apnea syndromeSHVS: sleep hypoventilation /hypoxic syndromeSLE:systemic lupus erythematosusSMC:smooth muscle cellSNP:single nucleotide polymorphismSSc:systemic sclerosis

SvO2:mixed-venous oxygen saturationTAPSE:tricuspid annular plane systolic excursionTPG: transpulmonary pressure gradientTGF: transforming growth factorVEGF:vascular endothelial growth factorVSD:Ventricular Septal DefectVSMC:vascular smooth muscle cellsWHO:World Health Organization6MWT:6 minutes walk test

改訂にあたって 肺高血圧症は様々な原因により肺動脈圧が持続的に上昇した病態で,右心不全/呼吸不全が順次進行する予後不良の難治性疾患として知られている.旧来,肺高血圧症の代表的な疾患としては Eisenmenger 症候群や原発性肺高血圧症(primary pulmonary hypertension: PPH)などが有名で,これらは小児循環器科や循環器/呼吸器科領域の特殊な疾患として考えられてきた.しかし近年心エコー・ドプラ法など種々の診断法の発達により,肺高血圧症は様々な領域の疾患で予想以上に広く存在していることが判明し,また一部の例に対しては有効な治療法の開発により,予後の改善も可能である.そこで今日では,一般医家に対しては本症の早期診断が,専門医には病状・病態に応じた適切な治療の実施が期待されるようになってきた. 日本循環器病学会では日本呼吸器学会や日本リウマチ学会,日本胸部外科学会など関連学会の協力を得て,1999年から2000年にかけて肺高血圧症治療ガイドラインの初版を,また2006年にはその部分改訂を行い,肺高血圧症の診療向上に寄与してきた.しかし前回改訂より6年が経過し肺高血圧症の診療状況が一変したことから,今回改めてガイドラインの改訂が企画されることとなった.通常,特定の疾患に関する診断・治療のガイドラインは作成時点における最良の臨床的エビデンスに基づいて作成されることが望ましい.しかし,肺高血圧症は希少疾患であり,日本単独では十分な規模の症例登録や臨床試験の実施は困難な場合が多く,我が国独自のガイドラインの作成に資するエビデンスは皆無に近い.一方,最近欧米では5年ごとに肺高血圧症に関する大規模なシンポジウムが開催され,その時々での大規模症例登録や種々の多施設共同ランダム化比較試験の結果を集約したエビデンスを基礎に診断・治療ガイドラインが作成

されるようになった.現時点で最新の肺高血圧症に関するガイドラインとしては,2008年に米国・ダナポイントで開催された第4回肺高血圧症ワールド・シンポジウム(ダナポイント会議)での議事録を集約した米国心臓病学会誌のガイドライン1),2)や欧州の心臓病学会(European Society of Cardiology: ESC)/呼吸器病学会(European Respiratory Society: ERS)作成の肺高血圧症診断・治療ガイドラインが存在する3),4).そこで本肺高血圧症治療ガイドライン2012年度版は,基本的にはこれら最新の欧米ガイドラインに準拠しつつ,我が国に固有の事情も加味して作成する方針とした.なお,2013年2月には第5回肺高血圧症ワールド・シンポジウム(ニース会議)が開催されたので,その発表内容の一部や,また現時点ではエビデンスとしては確立していないが,専門家間では有効/またはその可能性が高いと認識されている治療薬や方法についても,注釈を加えた上で記載した.このため本ガイドラインの内容はすべてがランダム化比較試験やこれに準じる客観的なエビデンスを根拠として記載されている訳ではなく,「治療の参考」とするべき程度の内容も多く含まれている.したがってその限界については理解し,本「ガイドライン」を利用していただきたい. 治療法の文献エビデンスレベルや推奨グレードについては,近年では「Minds診療ガイドライン作成の手引き2007」に準拠して作成される傾向にある.ただ,本ガイドラインでは従来の日本循環器病学会作成のガイドラインと統一性を保つ形式とし,AHA(American Heart Association)/ACC(American College of Cardiology)ガイドライン,ESC/ERSのガイドラインに準拠した表1

の「証拠のレベル」と,表2の「勧告の程度」の様式を採用した.「証拠のレベル」,「勧告の程度」は,これま

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循環器病の診断と診療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告)

での国内および国外の既出の論文に基づいて執筆担当者が判断し,最終的には,班員および外部評価委員の了承を得て決定した. 改訂版の構成は初版,前回改訂版と同様,総論と各論の2部構成とし,総論部で肺高血圧症の定義,診断方法,臨床分類,病理所見,発症機序などを解説し,各論では肺高血圧症の臨床分類に従って,それぞれの疫学,病因,診断方法,治療方法,予後,今後の展望などを解説した. 再度強調するが,本ガイドラインが対象とする肺高血圧症は,症例個々の臨床像は極めて多彩であり,ガイドラインに記載された治療方針を,各例に対して画一的に適用することは困難な場合が多い.記載された内容はあくまで最大公約数的な指針に過ぎず,各例ごとに個々の病態・病状や社会的背景を考慮し,担当医の判断で適切と思われる治療を検討すべきである.さらに肺高血圧症は,現在でもなお難治性の希少疾患で,鑑別診断や適切な治療法の選択は容易ではない.本症の治療は十分な経験を有する専門医,また専門医と共同で実施されるべきである. 以下に前回のガイドラインと比較して,本ガイドラインの主要な変更点を列記する.

 1)肺高血圧症の定義と臨床分類に関しては,2008年ダナポイント会議で提唱された改訂版肺高血圧臨床分類(ダナポイント分類)に,2013年2月のニース会議で加えられた変更点を加味したものを採用した(ニース分類-草案ではダナポイント分類に小規模な改訂が加えられたが,基本的な構造に変化はない。ニース分類は本稿作成時点ではまだ成文化されていないが,その内容は総会で承認され,今後は本分類が標準となることが予想される。以後,本文中に記載する肺高血圧症の分類は単に『再改訂版肺高血圧症臨床分類』とする). 2)肺動脈性肺高血圧症の治療指針についても,その骨子において大きな変更はないが,処方可能な薬剤を追加し,さらに併用療法に関するエビデンスレベルや具体的な投与法に関する記載を加筆した. 3)我が国での実臨床上の大きな変化として,これまでは,旧来の「原発性肺高血圧症(PPH)」のみが厚生労働省により特定疾患治療研究事業対象疾患にされていたが,2009年10月より「PPH」は「肺動脈性肺高血圧症:PAH」に疾患概念が拡大して再指定されたことが挙げられる.これにより現在,内科的治療法の主体である各種の特異的PAH治療薬が,Eisenmenger 症候群や結合組織病に伴う肺高血圧症など「PPH」以外の肺動脈性肺高血圧症に対しても,公費負担のもとで処方可能となった.これは,我が国の肺高血圧に関する臨床に大きく影響し,ガイドラインの作成上,極めて大きな変化であったといえる. 4)慢性肺血栓塞栓症が原因の肺高血圧症に対しては,特に我が国でに最近急速にカテーテルを用いた肺血管拡張術が行われるようになり,限られた施設ではあるが治療成績は良好であることが示されつつある.カテーテル治療はまだエビデンスとして十分とは言い難いが,世界に先駆けて我が国から発信できる本症治療上の重要な進歩として,ガイドラインにはその概要を記載した. 最後に本ガイドラインは循環器科のみならず,呼吸器科やリウマチ・膠原病科,小児科,心臓血管外科,移植科に加え「厚生労働省難治性疾患克服研究事業 呼吸不全調査研究班」や「厚生労働省難治性疾患克服研究事業混合性結合組織病の病態解明,早期診断と治療法の確立に関する研究班」など,多くの疾患領域における肺高血圧症専門家の協力により作成されたことを付記する.

Level A(高) 多数の患者を対象とする多くの無作為臨床試験によりデータが得られている.

Level B(中) 少数の患者を対象とする限られた数の無作為試験,あるいは非無作為試験または観察的登録の綿密な分析からデータが得られている場合.

Level C(低) 専門家の合意が勧告の主要な根拠となっている場合.

表1 証拠のレベル

ClassⅠ 手技・治療が有用・有効であることについて証明されているか,あるいは見解が広く一致している.(推奨/適応)

ClassⅡ 手技・治療の有用性・有効性に関するデータまたは見解が一致していない場合がある.

 ClassⅡa データ・見解から有用・有効である可能性が高い.(考慮すべき)

 ClassⅡb データ・見解により有用性・有効性がそれほど確立されていない.(考慮しても良い)

ClassⅢ 手技・治療が有用・有効ではなく,時に有害となる可能性が証明されているか,あるいは有害との見解が広く一致している.(推奨不可)

表2 勧告の程度

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肺高血圧症治療ガイドライン

Ⅰ 総論

1 肺高血圧症の定義

 2008年のダナポイント会議では,安静時に右心カテーテル検査を用いて実測した肺動脈平均圧(mean PAP)が25mmHg以上の場合が肺高血圧と定義された3),5).以前の肺高圧の定義では運動時の mean PAP が30mmHg以上も肺高血圧に含まれていたが,ダナポイント会議の定義では本基準は採用されていない.さらに肺高血圧症例中で特に肺動脈楔入圧(pulmonary capillary wedged pressure: PCWP)が15mmHg以下の場合を肺動脈性肺高血圧症(pulmonary arterial hypertension: PAH)と定義した.安静時,健常人の mean PAP は14±3mmHg,正常上限は20mmHgと報告されており6), mean PAP が20~25mmHgの例の臨床的意義は今後の検討課題とされている.近年心エコー法の発達により,右室と左室の形態や心ドプラ法より,肺動脈圧や心拍出量の推定が可能となった.本法は容易,かつ非侵襲的に肺高血圧の存在を推定することが可能なため,本症に関して極めて有用な診断手段といえる.しかし少なくとも初診時や治療法の変更時には,正確な病態評価を行うため,右心カテーテル検査を用いた肺血行動態の直接測定が必要であるとの考え方がダナポイント会議では提唱され,現在の世界標準となっている.

2 肺高血圧症の臨床分類

 肺高血圧を主徴とする疾患としては,PPHやEisenmenger症候群などが有名であるが肺疾患,結合組織病など他の多くの疾患や病態にも合併する.そこで 1998年フランスのエビアンにおけるWHO共催PPHワールド・シンポジウム(エビアン会議)では,病因・病態が類似する肺高血圧症例を5つの群に分類整理することが提案された(エビアン臨床分類).本分類法は 2003年ベニスにおけるアメリカ国立衛生研究所(NIH)後援の PAH ワールド・シンポジウム(ベニス会議)で若干の改訂が加えられてベニス分類となり7),8),さらに2008年の第4回肺高血圧症ワールドシンポジウム(ダナポイント会議)に踏襲されて改訂版肺高血圧症臨床分類(ダナポイント分類)となった9).本分類法は現在,ESC/ERSの肺高血圧症診断治療ガイドライン3),4)や,我が国厚生労働省指定の呼吸器難病における肺高血圧症の分類にも採用され,またこれを基礎として多くの臨床試験が行われ,膨大な論文や知見が蓄積してきている.そして2013年ニースで開催された第5回肺高血圧症ワールド・シンポジウムではダナポイント分類に再度修正が加えられたが,これは新生児遷延性肺高血圧症が第1群の亜型に,慢性溶血性貧血が第5群にそれぞれ移動されたなど,小規模の改訂に終わっている(表3).肺高血圧症を理解するためには肺高血圧症の分類法に関する理解が重要であり,まず簡単に再改訂版肺高血圧症臨床分類について解説する.

第1群.肺動脈性肺高血圧症(PAH)1)特発性肺動脈性肺高血圧症(idiopathic PAH: IPAH)

2) 遺伝性肺動脈性肺高血圧症(heritable PAH: HPAH) 1.BMPR2 2.ALK1,endoglin,SMAD9,CAV1 3.不明

3)薬物・毒物誘発性肺動脈性肺高血圧症

4) 各種疾患に伴う肺動脈性肺高血圧症(associated PAH: APAH) 1.結合組織病 2.エイズウイルス感染症 3.門脈肺高血圧 4.先天性心疾患 5.住血吸虫症

第1'群. 肺静脈閉塞性疾患(PVOD)および/または肺毛細血管腫症(PCH)

第1''群. 新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)

第2群.左心性心疾患に伴う肺高血圧症1)左室収縮不全2)左室拡張不全3)弁膜疾患4)先天性/後天性の左心流入路/流出路閉塞第3群.肺疾患および/または低酸素血症に伴う肺高血圧症1)慢性閉塞性肺疾患2)間質性肺疾患3)拘束性と閉塞性の混合障害を伴う他の肺疾患4)睡眠呼吸障害5)肺胞低換気障害6)高所における慢性暴露7)発育障害第4群.慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)第5群.詳細不明な多因子のメカニズムに伴う肺高血圧症1)血液疾患(慢性溶血性貧血,骨髄増殖性疾患,脾摘出)2) 全身性疾患(サルコイドーシス,肺ランゲルハンス細胞組織球症,リンパ脈管筋腫症,神経線維腫症,血管炎)

3)代謝性疾患(糖原病,ゴーシェ病,甲状腺疾患)4)その他(腫瘍塞栓,線維性縦隔炎,慢性腎不全)  区域性肺高血圧

表3 再改訂版肺高血圧症臨床分類

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循環器病の診断と診療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告)

1 再改訂版肺高血圧症臨床分類 ダナポイント分類では肺高血圧症を以下の5群,すなわち第1群:PAH,第2群:左心疾患による肺高血圧症,第3群:肺疾患および/または低酸素血症による肺高血圧症,第4群:慢性血栓塞栓性肺高血圧症(chronic thromboembolic pulmonary hypertension: CTEPH),第5群:原因不明あるいは複合的な要因による肺高血圧症,に分類した.再改訂版肺高血圧症臨床分類でもこの基本構造は維持されている.

①第1群:肺動脈性肺高血圧症(PAH)

 最も典型的な肺高血圧症としての臨床像を呈する疾患群である.PAHはさらに特発性PAH(idiopathic PAH: IPAH),遺伝性PAH(heritable PAH: HPAH),薬剤・毒物関連PAH,他疾患に伴うPAHと,第1群の亜型として肺静脈閉塞性疾患(pulmonary veno-occlusive disease: PVOD)/肺毛細血管腫症(pulmonary capillary hemangiomatosis: PCH)および新生児遷延性肺高血圧症とに細分類される.また他の疾患に伴うPAHには,結合組織病,HIV感染,門脈肺高血圧症,先天性心疾患,住血吸虫症がある.1)IPAH/HPAH 1998年のエビアン会議で初めて「PAH」という疾患概念が導入され,2003年のベニス会議では,特に原因となる疾患の存在を指摘することができない例を特発性PAH,家族歴をもつ家族性PAHと呼称することになった.次いでダナポイント会議では,「家族性PAH」は「HPAH」に名称が変更された.これは2000年に家族性PAH例においてBMPR2遺伝子に変異を持つ例が発見され10),さらに2001年にはBMPR2遺伝子と同じTGFβスパーファミリーに属するACVRL1遺伝子(ALK1)に変異が存在する例も発見されたことによる11).現在,HPAHと診断する例は,IPAHと臨床診断された例で新たに遺伝子変異(BMPR2,ACVRL1,ENG,SMAD9,その他)を持つことが確認された例,または旧来の家族性PAH例(遺伝子変異が確認されているか否かにかかわらず)と定義されている.ダナポイント会議の報告書には「HPAHという新しい分類は,IPAHや家族歴を有する他のPAHに対して遺伝子診断を義務づけるものではない」とのコメントも添えられていることを付記する.2)薬物および毒物誘発性PAH PAHの発症機序は未だ十分解明されていないが,その発症に特定の危険因子が関連している事例も知られている.食欲抑制剤などの薬剤や薬物もその危険因子であ

り,2006年のフランスからの報告では約10%が食欲抑制剤に伴うPAHであるが12),我が国での報告は多くはない.ダナポイント分類ではアミノレックスやフェンフルラミン誘導体がPAH発症の誘因であることが確実と評価されている.3)結合組織病に伴うPAH(connective tissue disease - PAH: CTD-PAH) 従来のエビアン─ベニス分類では「膠原病に伴うPAH」と記載されていたが,ダナポイント分類では「結合組織病に伴うPAH: CTD-PAH」に変更されている. CTD-PAH は我が国では特に症例数が多いと考えられ,臨床的に重要なPAHのサブグループである.欧米では強皮症(SSc)に伴うPAHが主で,その有病率は7~12%と報告され13),14),予後も I PAHに比して不良であることが知られている.しかし我が国ではSSc とともに混合性結合組織病(MCTD)や全身性エリテマトーデス(SLE)での肺高血圧の合併率も高いとされている15).結合組織病に伴う肺高血圧症の特徴は,PAHに加え肺線維症や肺血栓症,左室拡張不全を原因とする肺高血圧症などが関与し,すべてが純粋のPAHではなく,治療法決定には病態の慎重な評価が必要である.4)HIV感染症 HIV感染症に伴うPAHである.フランスの報告では HIV感染症によるPAHはPAH全体の約6%とされている12).さらにHIV例中のPAHの有病率は約0.5%と推定され16),HIVでPAHを発症する可能性は低くはない.我が国ではHIV自体が多くはなく,症例報告がある程度である.5) 門脈肺高血圧症(portopulmonary hypertension: POPH) 海外では,PAH全体に占めるPOPHの頻度は10%以下とされる12).肝移植対象例の5%程度に肺高血圧症が存在する17).POPHの発症機序に関してはまだ不明な点が多い.基礎肝疾患の存在よりも,門脈圧亢進症の存在が主要な肺高血圧発症の決定因子とされている18).6)先天性心疾患(congenital heart disease - PAH: CHD-PAH) 先天性の体循環─肺循環短絡性心疾患に伴う CHD-PAH の存在も以前よりよく知られている. ヨーロッパと北米からの報告では先天性心疾患に併発するPAHの頻度は成人100万人あたり1.6~12.5人で,そのうち25~50%が CHD-PAH の最重症型であるEisenmenger症候群に至ると概算されている19).Eisenmenger症候群例は肺動脈圧上昇の結果,右左シャントが常態化しており,単なるPAHとは病態が若干異なることに留意する必要が

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肺高血圧症治療ガイドライン

ある.7)住血吸虫症 ダナポイント分類からPAHのサブグループとして加わった疾患で,住血吸虫症に合併したPAHは,臨床像も病理的にも IPAHと類似していることが報告されている20).住血吸虫症が風土病となっている国々では,本症のPAH全体に占める頻度は高いが,我が国ではほとんど報告例はない.8)肺静脈閉塞性疾患(pulmonary veno-occlusive  disease: PVOD) および/または肺毛細血管腫症(pulmonary capillary hemangiomatosis: PCH) この両疾患の臨床像はPAHと共通点が多いが差異も存在し,再改訂版肺高血圧症臨床分類では1´の群として位置づけられている.PCHとPVOD間では組織像に多くの類似点があり21),同一疾患の異なった表現型とする考え方もある.PAHとPVOD/PCHでは内科治療に対する反応性および予後は異なり,PVOD/PCHがより予後不良の場合が多い.9)新生児遷延性肺高血圧症(persistent pulmonary  hypertention of the newborn: PPHN) 新生児で出生後に肺高血圧が遷延する病態があり,新生児遷延性肺高血圧症といわれている.ダナポイント分類では第1群:PAHに含まれていたが,ニース分類(草案)ではこれから外され,第1´´群とされた.

②第2群:左心疾患による肺高血圧症

 エビアン─ベニス分類では「肺静脈性肺高血圧症」となっていたが,ダナポイント分類では「左心疾患による肺高血圧症」へと名称が変更された.本群に属する症例数は肺高血圧症の中で最も多いといわれ,成因より左室の収縮機能障害,拡張症機能障害,弁膜症の3種のサブクラスが設定され,今回のニース分類(草案)ではさらに先天性/後天性の左心流入路/流出路閉塞が追加されている.本群の肺高血圧症では肺高血圧は存在するものの肺動脈楔入圧も高値を示し,計算上は肺血管抵抗の著明な上昇はみられない場合が多い.肺血管自体に病変を持つPAHとは基本的に病態が異なる.

③ 第3群:肺疾患および/または低酸素血症による肺高血圧症

 第3群は主に肺疾患に由来する肺高血圧症のグループである.本症は慢性閉塞性肺疾患(COPD),間質性肺疾患,睡眠呼吸障害,慢性の高地低酸素曝露など種々の肺疾患や低酸素血症に合併する.通常,肺実質障害による肺高血圧症では高度の肺高血圧は少ないと報告されて

いる22).

④ 第4群:慢性血栓塞栓性肺高血圧症(chronic thromboembolic pulmonary hypertension: CTEPH)

 CTEPHは肺動脈内の器質化血栓が原因となって発症した疾患である.以前我が国では特発性慢性肺血栓塞栓症(肺高血圧型)といわれていたがダナポイント分類からは「CTEPH」が正式名称となった.CTEPHはこれまで主要な血管閉塞の位置より中枢型と末梢型に細分類されていたが,現在ではこの区別は廃止されている.

⑤ 第5群:原因不明あるいは複合的な要因による肺高血圧症

 最近になって肺高血圧症を併発することが知られてきた疾患例が,全身性疾患(サルコイドーシスなど),代謝疾患(糖原病Ⅰa型),その他(腫瘍,人工透析)に分類された.ニース分類では鎌状赤血球症・サラセミア・遺伝性球状赤血球症・有口赤血球症・微小血管症性溶血性貧血などの慢性溶血性貧血は第1群からこの群に移された.

3 肺高血圧症の症状,身体所見

 肺高血圧症の自覚症状としては,労作時呼吸困難,息切れ,易疲労感,動悸,胸痛,失神,咳嗽,腹部膨満感などがみられる.いずれも軽度の肺高血圧では出現しにくく,症状が出現したときには,すでに高度の肺高血圧が認められることが多い.また,高度肺高血圧症には労作時の突然死の危険性がある. 身体所見としては,右室肥大に伴う傍胸骨拍動,Ⅱ音肺動脈成分の亢進,三尖弁閉鎖不全症に伴う胸骨左縁下部での汎収縮期雑音(吸気時に増強しRivero-Carvallo徴候と呼ばれる),肺動脈弁閉鎖不全症に伴う第Ⅱ肋間胸骨左縁での拡張早期雑音(Graham Steel雑音),収縮期早期のclick音,右室由来のⅢ音,Ⅳ音を聴取することがある.さらに進行例では,頸静脈怒張,肝腫大,下腿浮腫,腹水などがみられる.その他,肺高血圧症の原因となる基礎疾患に伴う様々な身体所見がみられる.

4 肺高血圧症の診断

1 血液検査 肺高血圧症を血液検査で診断することは困難であるが,本症の重症度評価や,肺高血圧症の基礎疾患を診断

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循環器病の診断と診療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告)

するためには不可欠の検査法である.肺高血圧が軽度の場合には血液検査所見は正常な場合もあるが,肺高血圧の結果として右心負荷/右心不全が生じれば,その重症度に応じてBNP 23),NT-proBNP 24)-26)尿酸27),28)が上昇することが報告されている.また右心不全が高度となれば肝機能異常が生じる可能性がある.肺高血圧症は種々の疾患に伴って発症し,PAHの中では,CTD-PAHの場合には各種自己抗体や炎症マーカーが,POPH では肝機能,HIVに伴うPAHを疑えばHIV抗体の測定が必要である.またPAHでは経過中に甲状腺疾患を合併してくる場合が知られ,甲状腺機能検査も必要である.貧血や逆シャントを伴うCHD-PAHでは多血症が顕著となる場合もあり,血小板数はすべての肺高血圧症で,臨床経過や治療薬の影響を受け増減する.CTEPHの場合には凝固線溶系分子マーカーや先天性・後天性の血栓性素因の検索も必要となる.

2 心電図 肺高血圧症の進行に伴い,右室肥大による心電図変化(右室ストレイン,V1のR波増高,R/S比>1,右軸偏位,など)や右房負荷に伴う肺性P波などがみられる.ただし,心電図でこうした所見がみられる場合にはすでに高度の肺高血圧症を来たしている場合が多い.

3 胸部X線写真 両側中枢側肺動脈の拡張と末梢肺動脈の急峻な狭小化,右心房,右心室の拡張に伴う心拡大が認められる場合が多い.特に大量の左右短絡血流を有する短絡性心疾患の場合には中枢側肺動脈の拡張は著しく瘤状になることもある.また,高度肺高血圧の長期間持続例では肺動脈壁に石灰化が認められる場合もある.右心不全が進行すれば胸水貯留が現れることがある.

4 心エコー 肺高血圧症が疑われる症例には必須の検査であり,非観血的に肺動脈圧を推定するのに有用である.肺動脈圧の推定にはいくつかの方法があるが,連続ドプラ法を用いた三尖弁逆流速度から簡易ベルヌーイ式を用いて推定する方法が最も一般的である.  (推定肺動脈収縮期圧=4×(三尖弁逆流速度)2

   +推定右房圧)) 推定右房圧はしばしば5mmHgもしくは10mmHgの固定値が用いられるが,より詳細な右房圧を下大静脈径と呼吸性変動の程度から推定する方法も提唱されている(表4).ただし,過小評価や過大評価も少なくなく29),

肺高血圧症の確定診断には右心カテーテル検査が必要である.その他,右室流出路血流波形での駆出加速時間の短縮,Bモード断層法では心臓の形態の変化を観察し,右心室・右心房の拡張と,高度肺高血圧の場合には心室中隔の左室側への偏位や右室壁肥厚が認められる. 心エコーは肺高血圧症の原因の検索にも重要であり,先天性心疾患に伴う肺高血圧症や第2群の左心疾患による肺高血圧症の有無の評価にも有用である.心エコーによる予後規定因子として,心嚢液貯留30),右房面積係数30),拡張末期eccentricity index 30),右室機能の指標としての tricuspid annular plane systolic excursion (TAPSE)31)

や right ventricular myocardial performance index(Tei index) 32)が報告されている.

5 動脈血ガス分析 動脈血ガス分析値は肺高血圧症を来たす基礎疾患により異なるが,過換気による低二酸化炭素血症を伴った低酸素血症を認めることが多い.しかし,COPDや肺胞低換気症候群が原因の肺高血圧症では,高二酸化炭素血症を認める.

6 呼吸機能検査 呼吸機能検査所見は肺高血圧症の原因となった基礎疾患により異なり,IPAH/HPAHでは典型的には拡散障害を伴った軽度から中等度の拘束性障害で,症例によっては残気量の増加と最大換気量の減少がみられる場合がある.また,COPDに伴う肺高血圧症では閉塞性換気障害が主体となる.SScに伴うPAHでは発症前からの一酸化炭素肺拡散能力(DLCO)低下が指摘されており発症予測因子として注目されている33).

7 肺換気-血流シンチグラム 肺動脈圧の評価には使用できないが,肺高血圧症の原因検索において,特にCTEPHの診断には有用である.ただし,肺血流シンチグラムは血流障害部位の検出に有用であるが,無気肺,肺気腫,肺炎などの肺実質病変部位でも血流欠損を生じる.そこで換気シンチグラムを同時に撮像するか,胸部X線や胸部CTといった他の画像

表4 下大静脈径と呼吸性変動からの右房圧推定下大静脈径 呼吸性変動 推定右房圧小(<15mm)正常(15~25mm)正常(15~25mm)拡大(>25mm)拡大+肝静脈拡大

虚脱>50%<50%<50%不変

0~5mmHg5~10mmHg10~15mmHg15~20mmHg>20mmHg

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肺高血圧症治療ガイドライン

を併用し,肺実質病変の有無も評価する.CTEPHや血管炎など肺血管の狭窄や閉塞がある場合には,血流障害部位のみが楔状血流欠損像として描出され,他の画像で異常が認めらない.PAHでは肺換気─血流シンチグラムは正常の場合も多いが,換気─血流ミスマッチを伴う末梢の小さな血流欠損や血流の小斑状不均一分布(mottled pattern)がみられることがある.

8 CT・MRI 高分解能CT(HRCT)は IPAHとPVOD/PCHとの鑑別,間質性肺疾患や肺気腫の評価に用いられる.軽微な間質性肺病変では,胸部X線写真では明らかでなくともHRCTで初めて存在が証明されることもあり,結合組織病に伴うPAHでは実施することが望ましい. 造影CTはCTEPHの診断およびその外科的治療法である血栓内膜摘除術の適応決定のため,血栓の存在部位を明らかにする方法として肺動脈造影とともに有用である. MRIにより両心機能と右室肥大の評価が可能である.具体的には両心室の拡張終期容積,収縮終期容積,心筋量が計測され,これらのデータから1回拍出量,心拍出量,駆出率が計算で求められる.

9 右心カテーテル 肺高血圧の確定,肺高血圧の分類,重症度・治療効果の判定には必須の検査である.経験のある施設では右心カテーテルに伴う検査リスクは高くはないが,NYHAやWHO機能分類Ⅳ度の症例では検査リスクが存在することを無視はできない.右心カテーテル手技に関わる重篤な有害事象は7,218回の検査で76件(1.1%)生じたことが報告され,内訳は静脈穿刺関連が29件,右心カテ操作関連が22件,血管反応性試験関連15件,肺動脈造影関連6件であった.また,致死的合併症は4件(0.055%)に発生し,そのうち直接右心カテーテル手技に関わったのは2件のみであったとの報告がある34).最近では肺高血圧症例の右心カテーテル穿刺部位として内頸静脈を用いることが多いが,合併症は1.7%(6/349;頸動脈穿刺3,洞性徐脈2,完全房室ブロック1)と報告されている35).しかし小児領域でのカテーテル検査リスクは成人領域より高く,肺高血圧症の小児で全身麻酔下に実施された右心カテーテルでは 6%(4/70)で心マッサージが行われた36).2例では不整脈,1例では低血圧,1例では致死的心不全が原因であった. 血行動態からみた場合,肺動脈圧上昇,心拍出量低下,右房圧上昇の順で肺高血圧症の臨床的重症度は高くな

る.血行動態指標の計測時の注意点と,IPAH/HPAHで治療方針決定に用いられる急性肺血管反応性試験の陽性基準につき以下に述べる.

①肺動脈圧(pulmonary arterial pressure: PAP)

 CTEPHでは病変部位によっては肺動脈圧の測定値が異なることがあるので,左右の主肺動脈,肺動脈幹で計測する.

② 肺動脈楔入圧(pulmonary capillary wedge  pressure: PCWP)

 PCWP は肺高血圧の原因鑑別に有用である.再改訂版肺高血圧症臨床分類1,3,4,5群の前毛細血管性肺高血圧症では PCWP は15mmHg以下,2群(左心疾患による肺高血圧症)では15mmHgを超える.しかし,肺高血圧症では近位部肺動脈が拡張し,正確な圧測定が困難な場合がある.その原因は肺動脈の拡張が高度でバルーンが肺動脈に完全には楔入しないこと(正確な圧より高い値となり,異常な圧パターンを示す),カテーテル先端が血管壁に当たることにある(測定している圧がドリフトし,異常な圧パターンを示す).このような場合には,バルーンへのガス量を調節しバルーンサイズを小さくして,区域肺動脈あるいはそれより末梢の肺動脈にウェッジさせることにより正確な PCWP が得られることが多い.また,CTEPHで拡張する肺動脈から急激に血管径が縮小する場合には上記の方法によっても楔入圧が得られないことがある,その場合には病変部の軽度な血管を選択して再度楔入圧測定を試みる.正確な PCWP が得られないと,臨床的判断を誤る可能性があることに注意し,正確な圧を得る努力をすべきである.

③ 心拍出量(cardiac output: CO)または肺血流量(Qp: pulmonary blood flow)

 基本的にはCOとQpは等しいが,シャント疾患ではCOとQpは異なる.したがって小児科領域で肺循環系の血行動態諸量を扱う場合にはQpが用いられる場合が多い.肺高血圧では有意な三尖弁逆流を伴うことが多く,熱希釈法により得られた CO は誤差が大きいことが知られている.三尖弁逆流に影響されないFick法による測定が勧められる.

④肺血管抵抗

 肺高血圧症は肺動脈圧の値のみで定義されているが,病態把握には肺血管抵抗の算出が重要である.肺循環系の血管抵抗には

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循環器病の診断と診療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告)

 1)  全肺抵抗(total pulmonary resistance:  TPR): mean PAP/CO 2)  肺血管抵抗(pulmonary vascular resistance:  PVR): (mean PAP-PCWP)/COがあり,単位は 圧(mmHg)/流量(L/min)で計算したWood単位,またはこれを80倍したメートル単位 dynes・sec・cm-5 が用いられる.特に小児科領域ではWood単位が用いられることが多い.TPRとPVRは生理学的には意義が異なる.左心疾患による肺高血圧ではTPRは上昇しているが,PVRは正常範囲である場合も多い.重症肺高血圧症の場合には,右室不全のため見かけ上の肺動脈圧は低下するがそれ以上に心拍出量が減少し,PVRが著明に増加している場合を経験する.

⑤ 酸素飽和度(SvO2: mixed-venous oxygen  saturation)

 SvO2はCOと相関があり,計測したCO測定値の信頼性を確かめる意味でも有用である.肺高血圧症の原因となる心房中隔欠損症,卵円孔開存などの短絡性心疾患を事前に診断されていない場合もあり,肺高血圧の初回右心カテーテル検査では,酸素飽和度のステップアップの有無をチェックすることが望ましい. 肺高血圧の治療効果判定にはmean PAP,CO,PVRの推移が有用である.しかし,肺─体血管抵抗比の推移も重要な指標である(肺血管選択性のある薬剤はこの比を低下させる).

⑥急性肺血管反応性試験

 右心カテーテル検査中に,短時間作用性の肺血管拡張薬を投与し,肺血行動態の変化の有無を観察し治療方針を決定する目的で行われる.急性肺血管反応性試験に使用する薬剤としてエポプロステノール持続静注,アデノシン静注,一酸化窒素(NO)吸入が欧米のガイドラインでは取り上げられている3).急性肺血管反応性試験が陽性の定義は mean PAP が10mmHg以上減少し40mmHg以下になることで,その際にCOが低下しないことが前提である37).ESC/ERSガイドラインでは,急性肺血管反応性試験の適応は IPAHかHPAH,または食欲抑制剤に伴うPAHに限られると記載されていることに注意していただきたい3).日本では急性肺血管反応性試験の有用性に関して専門家の間で意見の相違があり,本試験を実施しない場合も多い.この理由は,陽性判定のケースが極めて少ないこと,陽性例では欧米のガイドラインではカルシウムチャンネル拮抗薬が治療の選択となるが,このような症例ではそれ以外のPAH治療薬に対する反

応性も良好である可能性が高いことがある.しかし,陽性判定のケースでは安価なカルシウムチャンネル拮抗薬が有効である可能性が高く,カルシウムチャンネル拮抗薬以外での治療を選択する場合にも治療前に薬剤に対する効果がある程度予測できるメリットがある.

10 肺動脈造影(PAG) CTEPH,大動脈炎症候群に由来する肺血管病変,肺動静脈奇形,末梢性肺動脈狭窄症などでは診断および治療法の決定に有用である.しかしPAHに対しては,特別な場合を除きPAGの適応はない. CTEPHや大動脈炎症候群に由来する肺血管病変では右肺動脈と左肺動脈を別々に造影する(ピッグテイルカテーテルを用いると安定した撮像が可能となる場合が多い).基本的には右肺動脈は正面,側面,右前斜位45度,左前斜位45度で撮影,左肺動脈では肺動脈の枝を分離して観察できるように正面の代わりに左前斜位10~15度(さらに頭側に10~15度傾けることもある)で撮影する.一方,肺動静脈奇形,末梢性肺動脈狭窄症で病変部位が限局性で事前に病変部位が判明しているのであれば,ピッグテイルカテーテルを病変近くまで進め選択的造影を行う.びまん性の末梢肺血管病変の診断にはwedge-balloon カテーテルを区域肺動脈まで進め,バルーンを膨らませ血管を閉塞後,ゆっくり手押しで造影剤を注入するwedged PAGが有用である場合が多い(急速な注入は肺出血を引き起こす可能性がある.本法の主な有害事象は造影剤注入時の一過性咳嗽である). 造影剤の改良により,肺高血圧症患者への肺動脈造影の安全性は増大したが,NYHA/WHO機能分類Ⅳ度の症例に対しての造影は避けるべきである.Hofmanらは,重篤な合併症が慢性肺高血圧症で0.7% (1/151;非致死性),急性肺高血圧症で5.9%(3/51;全例致死性)に発生したと報告している38).

11 肺生検 我が国では先天性短絡性心疾患患者で手術適応の境界領域である場合に,適応の可否を決定するために肺生検所見が参考になるとの意見もある.しかしESC/ERSのガイドラインなど一般には,確定診断,鑑別診断を目的とした肺高血圧症に対する肺生検は,risk-benefitの観点から推奨されていない4),39).

12 運動負荷 肺高血圧症においては,これまで運動耐容能の測定を行うことにより,疾患重症度と生命予後を評価する手法

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肺高血圧症治療ガイドライン

が用いられてきた.

①6分間歩行距離(6 minutes walk test: 6MWT)

 6分間歩行距離は最大酸素消費量と良好な関連があり40),この指標が332m未満40),250m未満41),10%を超える酸素飽和度の低下42)では予後不良であるとの報告がある.本法は簡便であり方法が標準化されているため,従来から大半のPAHに対する治療薬の臨床試験では6分間歩行距離を主要なエンド・ポイントとしていた.

② 心肺運動負荷試験(cardio pulmonary exercise test: CPX)

 CPXで最大酸素消費量が10.4 mL/min/kg以下かつ最大収縮期圧が120mmHg以下の症例は予後が不良であることが報告されている43).ただPAHを対象とした研究では6分間歩行距離と最大酸素消費量の相関度はCPXを実施する施設ごとの技術的熟練度に依存することも指摘されているので注意が必要である44).

13 肺高血圧症の機能分類 肺高血圧症の臨床症状に基づく重症度分類として,表5に示したNYHA機能分類とWHO肺高血圧症機能分類の両者が用いられ,それぞれの分類で各重症度レベルの内容はほぼ同一である.そこで本ガイドラインでは前回のガイドラインに準じ,肺高血圧症の機能分類として,NYHA機能分類とWHO肺高血圧症機能分類を組み合わせてNYHA/WHO肺高血圧症機能分類として用いるこ

ととした.

14 診断手順  肺高血圧症の診断は,まず肺高血圧の存在診断,ついで肺高血圧を主徴とする疾患間における鑑別診断,治療方針決定のための重症度評価,の3種の要素に分けられる.診断手順を図1に示す.

①肺高血圧の診断

 病歴,主訴,身体所見,胸部単純X線写真,心電図などから肺高血圧の存在が疑われれば,現在最も簡便な肺高血圧の診断法である心エコー・ドプラ法を用いて肺高血圧の有無を検査する.肺高血圧症の存在が強く疑われた場合には,再改訂版肺高血圧臨床分類2~5群の他の肺高血圧症の鑑別診断を行いつつ,右心カテーテル法を用いて肺血行動態諸量の直接計測を行い確定診断とする.定義上,安静時の mean PAP ≧ 25mmHg が肺高血圧の確定に必須であり,加えてPAHの診断はPCWP ≦ 15mmHgを満たすことが必要となる.

②肺高血圧を主徴とする疾患の鑑別診断

 肺高血圧症例は,胸部X線写真,呼吸機能検査,心エコー,必要ならばCT・MRIなどの診断手段を用いて,第2群の左心疾患による肺高血圧症と第3群の肺疾患による肺高血圧症の診断を試みる.第2群と第3群の肺高血圧症が除外されれば,残りの例は第1群PAHまたは第4群CTEPHである可能性が高く,これらの鑑別には肺血流シンチグラムが極めて有用である.PAHの肺血流シンチグラム像には,ほぼ正常または肺野の一部に粗大な低灌流領域を示す所見,小斑状不均一分布(mottled pattern)を示す所見がある.一方,CTEPHでは肺血流シンチグラムで多発性楔状欠損像を呈することが特徴である.肺動脈造影はPAHの確定診断法としての意義は少なく,特に重症例では重篤な合併症が生じる場合もあり,特別な目的以外には検査適応とはならない.PAHの確定目的での肺生検に関しても JACCのガイドラインにもESC/ERSのガイドラインにも記載はない.

③詳細な鑑別診断

 PAHと確定診断した症例では,さらにPAHを構成する種々のPAH疾患の鑑別を行う.病歴,身体所見,血液検査・免疫学的検査などから結合組織病によるPAH,心エコー法で先天性心疾患に伴うPAH,腹部エコー検査などで門脈圧亢進症によるPAHなどの診断が可能である.IPAH/HPAHと診断された例については,IPAHと

NYHA心機能分類 Ⅰ度:通常の身体活動では無症状 Ⅱ度: 通常の身体活動で症状発現,身体活動がやや制限さ

れる Ⅲ度: 通常以下の身体活動で症状発現,身体活動が著しく

制限される Ⅳ度:どんな身体活動あるいは安静時でも症状発現

WHO肺高血圧症機能分類 Ⅰ度:身体活動に制限のない肺高血圧症患者      普通の身体活動では呼吸困難や疲労,胸痛や失神

など生じない. Ⅱ度:身体活動に軽度の制限のある肺高血圧症患者      安静時には自覚症状がない.普通の身体活動で呼

吸困難や疲労,胸痛や失神などが起こる. Ⅲ度:身体活動に著しい制限のある肺高血圧症患者      安静時に自覚症状がない.普通以下の軽度の身体

活動では呼吸困難や疲労,胸痛や失神などが起こる.

 Ⅳ度:どんな身体活動もすべて苦痛となる肺高血圧症患者      これらの患者は右心不全の症状を表している.安

静時にも呼吸困難および/または疲労がみられる.どんな身体活動でも自覚症状の増悪がある.

表5 肺高血圧症機能分類

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循環器病の診断と診療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告)

HPAHの鑑別を行う.このためにはBMPR2, ACVRL1, ENG, SMAD9に関する遺伝子検査,または詳細な家族歴の聴取が必要である.しかし遺伝子検査が可能な施設は限定され,また本遺伝子の浸透率は低く家族歴の十分な確認は困難であり,また両者で治療方針に大きな差はないことから,一般臨床の場では IPAHとHPAHの厳密な鑑別診断はあまり現実的でない. PAHには上記疾患以外にⅠ群の亜型としてPVOD/PCHやニース分類(草案)ではPPHNがある.IPAH/HPAHとPVOD/PCHの鑑別診断では,両者は類似の肺

血行動態を示しつつ,PVOD/PCHでは胸水やKerley B line,小葉間隔壁の肥厚やスリガラス様陰影などの所見が存在することが目安となる.またPVOD/PCHではPAH治療で用いられる肺血管拡張療薬により肺水腫が生じ,病態が悪化する可能性が報告されており,本所見も鑑別診断に有用である. 再改訂版肺高血圧症臨床分類第2群の肺高血圧症は,さらに収縮不全,拡張不全,弁膜症,左心流入路/流出路閉塞の4種の亜分類を設定し,心エコー・ドプラ法や右心カテーテルを組み合わせて詳細な病態決定を行う.

図1 肺高血圧症診断アルゴリズム

心カテ

症状 /身体所見 /病歴一般血液検査,心電図,胸部 X線写真

肺高血圧症として矛盾しない

肺高血圧症の可能性大

肺高血圧症の一般的原因(左心疾患,肺疾患)を考慮心電図,胸部 X線写真経胸壁心エコー血液ガス分析,肺機能を利用

第 2群:左心疾患由来第 2群あるいは第 3群:確定

右に示す疾患の確定

特発性 /遺伝性肺動脈性肺高血圧症肺静脈閉塞性疾患肺毛細血管腫症

No

No

No

Yes

造影 CTでの肺動脈内造影欠損and/or

肺換気 /血流シンチでのミスマッチ(肺血流シンチでの区域性血流欠損)

経胸壁心エコー(ドプラ法による右室–右房–間圧較差の推定を含む)

Yes

Yes

第 4群:慢性血栓塞栓性肺高血圧症

先天性心疾患

結合組織病

門脈圧亢進症

睡眠呼吸障害

第 3群:肺疾患 and/or低酸素症由来

追加検査:高分解能胸部 CT

追加検査:肺動脈造影

経胸壁心エコー,TEE,胸部MRI

抗核抗体,特異抗原

肝機能検査,腹部エコー,腹部 CT

簡易 SAS検査,睡眠ポリグラフ検査

患者背景,高分解能胸部 CTから鑑別 *

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肺高血圧症治療ガイドライン

第3群の肺疾患に併発する肺高血圧症もさらに閉塞性肺疾患,拘束性肺疾患,睡眠呼吸障害などの疾患の診断を行う.詳細はそれぞれ以降の解説項目を参照されたい. 第4群のCTEPHに関しては,前述のように肺血流シンチグラムで多発性楔状欠損像を呈すれば本症の可能性が極めて高いが,ごく稀に大動脈炎症候群の肺血管合併例であったり,肺動脈原発腫瘍の場合があり慎重な鑑別診断が必要となる.

5 肺高血圧症の病理45),46)

1 第1群: PAHにおける病理所見 PAHでは直径500μm以下の末梢の肺小動脈に下記の病変が出現する. IPAH/HPAH と 薬物または毒物誘発性のPAH では組織学的には差異はなく共通の所見を示す.病理学的にはHeath-Edwards分類(Ⅰ-Ⅳ)47)を用いることもあるが,重症度に関してはHeath-Edwards grading Ⅳ,Ⅴ,Ⅵは同程度である.

①IPAH,HPAH,薬物または毒物誘発性のPAH

1) 孤 立 性中膜肥厚(isolated medial hypertrophy)(Heath-EdwardsⅠ,Ⅱに相当) 筋性動脈では肺動脈圧上昇により中膜平滑筋細胞の肥大および細胞数の増加による壁の肥厚がみられる.さらに,正常なら筋層はほとんど存在しない細動脈(20~30μm)にまで筋層が出現する(細動脈の筋性動脈化:muscularization of arteriole).Rabinovitchらは肺高血圧の最早期病変でこの筋性動脈化現象が肺胞内の毛細血管にまでみられるとしている48).加えて,径250μm程度の筋性動脈では著明な中膜肥厚が認められる.この病変は肺血圧に適応して血管収縮,拡張を来たす結果と考えられている.肺高血圧の改善により,この中膜肥厚は可逆性といわれている.2)中膜肥厚と内膜肥厚の合併(with intimal thickening and medial hypertrophy)

(Heath-Edwards Ⅲ) 上記の肺動脈中膜病変に内膜肥厚が加わる.内膜成分はα -アクチン陽性平滑筋細胞,筋線維芽細胞(myofibroblast)など細胞成分の増加(細胞性内膜肥厚)と,弾性線維,膠原線維,細胞外基質の増加による線維性内膜肥厚がある.3)複合血管病変(complex lesion) 前述の中膜肥厚や内膜肥厚に加え,①叢状病変 (plexiform lesion; Heath-Edwards Ⅳ),②拡張性病変

(dilatation lesion; Heath-Edwards Ⅴ),③血管炎(arteritis,時にフィブリノイド壊死を伴う血管炎;Heath-Edwards Ⅵ)などの所見が単独でなく混在して出現する. 叢状病変(plexiform lesion)は末梢の肺筋性動脈の本幹から分岐した病変で,瘤状となった血管内に腎糸球体類似の毛細血管の増生が認められる(図2).血管腫様病変とも呼ばれ,肺動静脈シャントと考えられている.叢状病変の構成細胞は内皮細胞,平滑筋細胞,筋芽細胞などである.組織診断上は,血栓(塞栓)の再疎通像と鑑別が難しいことがある.叢状病変は IPAHのみならず,門脈圧亢進症や結合組織病,HIV感染など基礎疾患の異なる様々な肺高血圧症でも出現する. 拡張性病変(dilatation lesion)は静脈様に蛇行して拡張した血管を指し,しばしば叢状病変 (plexiform lesion)の遠位側にみられる.これも末梢の動静脈シャントの結果と考えられる. 血管炎(arteritis)は叢状病変や拡張性病変とともに出現することが多く,また叢状病変の前駆病変と考えられている.しかし,結合組織病に関連した肺高血圧症でも血管炎を認めることがある.

②結合組織病に併発するPAH 49),50)

1)全身性エリテマトーデス(SLE)および混合性結合組織病(MCTD) 第1群 IPAH/HPAH,薬物または毒物誘発性のPAH の病理所見とほぼ共通であり,肺動脈内膜のmyointimal cellの増殖や内膜の細胞線維性肥厚が起こる.plexiform lesionも呈することがある.稀に壊死性血管炎から叢状病変に移行がみられる.

図2 叢状病変(EVG染色,×100)

径 300μmの肺動脈から糸状体様の異常な分岐が出ている.300μm

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循環器病の診断と診療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告)

2)全身性強皮症(SSc) 間質の浮腫と関連する肺線維症によって肺胞壁が肥厚することで,肺胞壁に存在する肺小動脈中膜の肥厚と,内膜の線維化による血管内腔の狭窄により肺高血圧症が進行してくる50).毛細血管やごく末梢の肺細小動脈閉塞により,肺血管抵抗は上昇してくるものの,叢状病変など閉塞性肺血管病変の終末像を呈することはほとんどない.3)皮膚筋炎(DM) SScとほとんど同じ所見を示すことが多い.

③先天性短絡性心疾患に併発するPAH

 Heath-Edwards分類は元来,ASDやVSDなどの先天性心疾患の手術適応決定に際し,閉塞性肺血管病変の程度を分類するために作成された47).閉塞性肺血管病変の中膜の肥厚,内膜の細胞性肥厚,初期の内膜の線維性肥厚および筋弾性線維症といったHeath-Edwards Ⅰ~Ⅲは可逆的病変であり術後退縮する可能性があるとされている.一方,叢状病変などのより進行した閉塞性肺血管病変は不可逆的である.内膜病変は直径200μm付近の筋性肺動脈(いわゆる肺小動脈)に発生しやすく,内膜の線維性肥厚は通常血管内腔を同心円状に進行する51).叢状病変は拡張した血管と内腔を有し,内腔は増殖した内皮細胞,平滑筋細胞,筋線維芽細胞などにより分葉し,マクロファージなども出現する.中膜のフィブリノイド壊死を示すこともある. VSDなどでは肺血管に直接圧負荷がかかるため,肺小動脈中膜は圧負荷に対して適応するために肥厚する.完全大血管転位症やダウン症を伴う先天性心疾患では圧負荷に対して中膜は十分肥厚できず閉塞性肺血管病変が初期から出現するため早期手術が望まれる.

2第1群 グループ1’:肺静脈閉塞症(PVOD)/ 肺 毛 細 血 管 腫 症(PCH)

 稀な型とされていたPVODとPCHが1群に含まれる.PVODは末梢の肺静脈を原発性に障害する閉塞性病変である21),52).肺静脈の中膜が発達し筋性動脈と類似する.肺高血圧により,肺動脈側でも中膜肥厚,内膜肥厚はみられるが,叢状病変 (plexiform lesion)はほとんど出現しない.肺胞中隔から区間静脈の線維化,肺静脈の動脈化がある.血管腫様病変である毛細血管の散在性のうっ血,毛細血管の散在性の増生を認める.拡張した毛細血管の破綻による出血から肺胞内にヘモジデリンを貪食したマクロファージを多数認める.間質の浮腫,リンパ管

の拡大を認める.リンパ節腫脹もしばしば認められる.肺静脈の閉塞は炎症,線維化に起因すると考えられる.

3 第2群:左心疾患による肺高血圧 僧帽弁狭窄症,閉鎖不全症などの後天性心疾患では肺静脈圧の上昇に起因する肺高血圧症により,肺小動脈の中膜の肥厚と肺静脈内中膜の肥厚が認められる.肺毛細血管の拡張,浮腫,肺胞内出血が出現し,リンパ管の拡張リンパ節腫大がみられる.

4 第3群:肺疾患および/または低酸素血症による肺高血圧

 COPD,睡眠時無呼吸症候群,肺胞低換気症候群など低酸素血症に起因する肺高血圧では通常,肺動脈幹は大動脈より太く,末梢の肺小動脈中膜の肥厚は軽度である.また器質化した血栓に起因する偏在性の内膜線維化がみられることがある.気管支拡張症では肺小動脈と気管支動脈との吻合による短絡がみられることがある.

5 第4群:CTEPH CTEPHでは基礎疾患として①深部静脈血栓症②凝固能異常(抗リン脂質抗体陽性,Protein C や Protein Sなどの欠損など)が存在し,肺に血栓塞栓症を反復することで肺動脈が慢性閉塞し,閉塞した血管数が多くなるにつれ肺高血圧を呈するようになる. CTEPHの肺動脈病変は主肺動脈から連続して内膜肥厚が起こっている場合と,主に区域枝から内膜肥厚が始まっている症例がある.また,さらに末梢の肺動脈にのみ血栓形成が認められ,臨床的に IPAHとの鑑別が困難となる症例もある.末梢枝のみの閉塞の場合は手術による内膜剥離が困難となる.近年,我が国ではカテーテルを用いた肺動脈拡張術が行われるようになり,比較的末梢の血栓性閉塞も開大できるようになった.閉塞した部位の肺動脈には器質化した血栓塞栓や血栓内の再疎通血管像が存在する場合がある.非閉塞部での肺動脈でも肺高血圧の二次的変化としてびまん性内膜肥厚がみられる.拡張した肺動脈主幹部は瘤状となり,しばしば壁在血栓形成を来たす.閉塞部領域の陳旧性肺梗塞を認める.これは IPAHにはあまりみられない所見である53),54).

6 第5群: 原因不明あるいは複合的な要因による肺高血圧症

 肺結核,サルコイドーシスなどにより二次的に肺高血圧を来たすことがあり,肺血管病変が発生することがある.原疾患により異なる所見である.

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肺高血圧症治療ガイドライン

以上,再改訂版肺高血圧症臨床分類に則り,肺高血圧症の病理を提示した(表6).

付)悪性腫瘍による肺高血圧症1)�肺動脈内膜肉腫(intimal�sarcoma�of�pulmonary�artery)

 肺動脈内膜が腫瘍性に増殖し,CTEPH様の病態を呈する.早期は肺動脈内増殖のみで血管外へ腫瘍細胞が浸潤しにくいので,CTEPHと鑑別が難しい.CTEPHの手術により初めて発見されることがある.2)�肺動脈微小腫瘍塞栓(pulmonary�tumor�thrombotic�microangiopathy:�PTTM)

 原因不明の急速に進行する肺高血圧と呼吸不全を呈する症例の中にはPTTMによるものがある.腫瘍のリンパ管が静脈浸潤により肺小動脈レベルでの腫瘍塞栓が起こり,また内皮細胞傷害などから血栓も形成されることで,末梢肺動脈の腫瘍と血栓による閉塞を来たし,肺高血圧を示す病態である.基礎疾患は胃がんが多いが,他は大腸がん,乳がんなど腺がんがほとんどである.

6 肺高血圧症の病因

緒言 肺高血圧は,特発性を代表とするPAHと,左心不全を代表とする肺静脈性肺高血圧とに大きく分けられる.このうちPAHは,その病因が極めて多彩heterogeneousであり多因子性multifactorial である.肺高血圧症の臨床分類は病理組織学的分類とは異なる.

1 原因論のパラダイムシフト 肺高血圧症の成因は,1970年代からの肺血管における“収縮/拡張の不均衡”説から,現在では“血管壁の異常な細胞増殖による血管腔の狭窄・閉塞”説へと変遷してきた(図3)56)-58).この異常な細胞増殖の誘因には,

血管壁の炎症-変性-腫瘍性増殖の組み合わさった概念も背景因子として加わっている.本症は,臨床的にも家

表6 肺高血圧症の血管病理分類1.肺動脈性肺高血圧(前細葉動脈/細葉動脈)

1)肺動脈病変:孤立性中膜肥厚のみ(Heath-Edwards GradeⅠ)

2)肺動脈病変:中膜肥厚+内膜肥厚(細胞性・線維性)(Heath-Edwards GradeⅡ,Ⅲ)

①求心性層状病変②偏心性非層状病変

3)肺動脈病変・叢状病変(plexiform lesion),拡張病変,血管炎の単独,あるいは組み合わせ(Heath-Edwards Grade Ⅳ -Ⅵ)

4)孤立性血管炎1a. 1の病変に小静脈性病変(細胞性/線維性 内膜肥厚,

静脈の動脈化)の合併特記すべき所見の存在外膜肥厚,血栓性病変(新鮮,器質化,篩状),壊死性血管炎,単球性血管炎弾性動脈変化(線維化,動脈硬化,弾性線維変性),気管支動脈変化,鉄沈着,石灰化,異物塞栓,リンパ球浸潤を伴う陳旧性梗塞

2. 肺静脈閉塞症(あらゆる大きさの静脈および小静脈の病変に動脈病変を合併することもある)

1)静脈性変化:内膜肥厚・閉塞(細胞性,線維性),再疎通

2) 外膜肥厚:静脈の動脈化,異物反応を伴う鉄・カルシウム沈着

3)毛細血管変化:拡張,うっ血,血管腫様4) 間質性変化:浮腫,線維化,ヘモジデローシス,リンパ球浸潤

5) その他;リンパ管拡張,ヘモジデリン貧食マクロファージ細胞内浸潤,Ⅱ型肺胞上皮増殖

3. 肺微小血管症(動脈症,静脈症の合併があってもなくてもよい)

1) 微小血管病変:限局性毛細血管増殖,静脈内閉塞性毛細血管増殖

2)静脈内膜線維化3)間質性変化:浮腫,線維化,ヘモジデローシス4) その他:リンパ管拡張,ヘモジデリン貧食マクロファージ,Ⅱ型肺胞上皮増殖

4.分類不能 (文献45を改変)

図3 肺動脈性高血圧の病因における概念の変移

古いパラダイム

・肺血管の収縮 /拡張のアンバランス・血管 Shear stressの増加・凝固 /線溶異常

・遺伝的羅患感受性,腫瘍抑制遺伝子体細胞変異

・遺伝子発現調節エピジェティクス異常・感染・炎症仮説・自己免疫仮説血管再生仮説・骨髄幹細胞仮説などアポトーシス抵抗性仮説

新しいパラダイム

(文献55を引用,改変)

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循環器病の診断と診療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告)

族性・遺伝性に加え,結合組織病,HIV感染,先天性心疾患による shear stress増加,門脈疾患,新生児遷延性肺循環,血液疾患,サルコイドーシスなどの全身性疾患に伴って発症することから,その発症原因は遺伝子と環境因子との two-hit theoryもしくは multiple- な trigger を推測せざるを得ない.

2 調節不能な内皮細胞増殖 PAHの本体は,微小肺細小動脈(microscopically small pulmonary arteriole)の,機能的というよりもより器質的な狭窄・閉塞である.近年,その機序の一つとして,“血管壁細胞のアポトーシス抵抗性獲得と異常増殖”という“腫瘍性増殖説”が登場した55).すなわち細胞の分化・成長・増殖の調節異常が血管壁肥厚と内腔狭窄の主なメカニズムと考えられる,いわゆる“misguided angiogenesis”的理論である59).多くの血管収縮物質には同時に“細胞増殖・マトリックス増成による血管壁肥厚”作用があることが分かっている.一時的な過収縮状態が先行するか,または緩やかに“血管壁の硬化・弛緩不全”が進行した結果,肺血管床全体の肺血管抵抗が上昇する.おおむね70%以上の血管床が障害されると肺血圧が上昇するとされている.

3 遺伝子異常 PAHの重症例にみられる叢状病変(plexiform lesion)ではアポトーシス抵抗性を示す内皮細胞の活発な増殖像が確認されている.血管壁細胞の異常増殖の背景には,transforming growth factor(TGF)-β受容体のsuperfamilyの一つであるbone morphogenetic protein receptor type IIの遺伝子(BMPR2)や,activin like kinase(ALK)1をコードするACVRL1遺伝子,endoglinをコードするENG遺伝子,さらに細胞内シグナルであるSMAD 遺伝子などの細胞増殖調節経路の異常に加え,修飾遺伝子であるセロトニンの輸送蛋白質 (5-HTT)のプロモーター領域の遺伝子多型,ACEやeNOSの遺伝子多型の異常などが報告されている. PAHではこのBMPR2を構成する13個のexon全部にdeletion/ insertion nonsense,missense など多くの遺伝子変異が報告されてきた.BMPRは通常はⅠ型レセプターとⅡ型レセプターが2つずつ結合して4量体を形成し,この4量体のレセプターはBMPなどのリガンドが結合することによりリン酸化され,これが細胞内のSmad経路をリン酸化し,核内の転写調節因子に働きかけて,細胞増殖やアポトーシスの調節を行う. これまでに,家族性の70%,特発性の11~40%で

BMPR2遺伝子変異の報告がある.遺伝性出血性毛細血管拡張症(HHT)を伴うPAHでも遺伝子変異が報告されている.EndoglinやALK1の遺伝子変異はHHTの症状や家族歴を伴わない患者でも報告がある.それを裏づける報告として,内皮細胞内でBMPR2を遺伝子的にアブレーションするとPAHになりやすいことも判明している60).このような事実からは,PAHはBMPR2やALK1をコードする遺伝子のmutationにより細胞がモノクローナルに増殖されたり,アポトーシス抵抗性を伴う血管増殖性疾患であると推察することができる61). 家族歴のあるPAHではACVRL1かBMPR2のどちらかの変異が検出されることが多い.またBMPR2やACVRL1に異常を認めない症例ではSMAD9の変異も検出されている62).最近はcaveolin-1(CAV1)の遺伝子病変や63),Notch3のシグナルによりPAHが発症するという報告もある64).

4 内膜肥厚と成長因子 PAHでは血管内皮細胞の過形成による内膜肥厚に加え,中膜や外膜の肥厚・過形成も特徴であり,無秩序な増殖が観察される65).最近,血小板由来成長因子 platelet-derived growth factor(PDGF)が治療の targetとして注目を浴びてきた.IPAHでは,PDGF-BとPDGF-受容体α,βmRNAの発現が小動脈で有意に亢進している.また remodeling病変部位では,平滑筋細胞(SMC)や内皮細胞(EC)でPDGF-A,-Bの免疫染色が陽性である.SMCではPDGF-R α,βが染色され,そして基礎実験では抗PDGF作用を示す imatinib が肺血管由来細胞の増殖抑制作用を示すことが明らかになっている66).IPAHでは循環中と血小板の血管内皮成長因子 vascular endothelial growth factor (VEGF)も増加している67).さらに,表皮成長因子受容体epidermal growth factor recptor (EGFR)がモノクロタリン誘導性PAHモデルにおいては angiogenesis の役割を発揮している報告がある68).

5 血管内皮前駆細胞 骨髄由来の血管内皮前駆細胞 endothelial progenitor cells(EPC)は,一部末梢血中にも存在し血管形成に関与している.通常は血管障害が生じるとVEGFなどの刺激により骨髄から血中に動員され,障害血管部位に取り込まれ内皮細胞に分化する. EPC誘導が,右室圧上昇を抑制し,内皮細胞障害の修復に役立ち,血管再生angiogenesisを誘導し,PAHの進行を抑えることが報告されている69).

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肺高血圧症治療ガイドライン

 虚血性心疾患,心筋梗塞,動脈硬化,糖尿病などでも,末梢血中に存在するEPC(CD34+/CD133+/KDR+ cells) が減少していることが報告されている.また,生理的運動,statin, ARB(olmesartan, irbesartan,valsartan),estrogen, PDE5-I 阻 害 薬(sildenafil,vardenafil),PPAR-γ 賦 活 薬(rosiglitazone),erythropoietin(Epo)などでEPCの細胞数が増加したり,遊走能や増殖能が改善したとの報告がある.すなわち,血管修復の欠落が肺動脈壁の肥厚を促進するという可能性がある70).IPAH とEisenmenger症候群ではEPC数が低下しており,そしてEPC数の低下の度合いと心不全指標は相関するとの結果もある71).一方,Epoは骨髄由来EPCを誘導する重要な役割を担っている.低酸素性肺高血圧のマウスモデル(Epo受容体欠損マウス(Epo-R-/-Rescued mice)を3週間低酸素下に曝露すると肺高血圧になりやすいことが知られているが,このマウスではEPCの遊走・集積が低下していることが判明している72).つまりEpo/Epo-R系は,細胞の生存を促進する細胞内経路(PIPK/Akt,MAPK, STAT-5)を活性化し,多くの血管障害,循環障害,梗塞巣縮小,血管新生,アポトーシス抑制作用があり,貧血改善や造血細胞としての作用以外の血管壁細胞や,心筋細胞自体への有益な作用が注目を浴びている.

6 その他 TRPC6チャネルのmutationにより血管SMC内Ca濃度の上昇に伴う細胞増殖機講も発表された.食欲減退薬PAHの原因の一つであるKvチャネル異常に加えてCaチャネルのSNP異常が報告されている.今後は受容体経路から細胞内 signalの異常,そして核内NF-κBの活性化による,アポトーシス抵抗性という異常な細胞増殖へのシナリオが完成するのであろう73).HHV-8ウイルス感染説は現状では否定的である74). 治療薬からみたPAHの焦点は図4に示す,肺血管の炎症と増殖を主にした経路である.これらの薬物療法の作用点から,新たにPAHの発症・進展のメカニズムが考えられる.遺伝子学的な発症の riskを持つ個人から浸透率10~20%で発症するとされるPAHの原因はやはりheterogenousであり,必然的に治療にも多くの選択肢があると考えられる.

図4 肺高血圧症の治療ターゲット

肺血管壁の血管内皮細胞・平滑筋細胞の無秩序な増殖による remodelingとアポトーシス抵抗性

変性

アポトーシス抵抗性腫瘍性増殖

炎症

Remodeling血管壁再構築エンドセリン -1

セロトニンNO合成酵素ACEK・Caチャネル異常上皮成長因子(EGF)血管内皮新生因子(VEGF)血小板由来成長因子(PDGF)

プロスタサイクリントロンボキサン

TNFa腫瘍壊死因子アンギオテンシンⅡアンギオポエチン

MMP活性Tenascin-C

elastase異常 ROS酸化ストレス

Survivin,HHV-8,HCV,IL-1,IL-6,MCP-1(CCL2),MIP-1a,P-selectin,CX3CL1,CX3CR1,RANTES(CCL5),T細胞転写因子(NFAT),etc.....

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循環器病の診断と診療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告)

Ⅱ 各論

1 肺動脈性肺高血圧症(PAH)

1特発性肺動脈性肺高血圧症(IPAH)/遺伝性肺動脈性肺高血圧症(HPAH)

要旨 旧来の典型的な IPAH/HPAHの臨床像としては,まず極めて稀な,特に原因と思われる基礎疾患を持たない高度の肺高血圧を主徴とする疾患であることがあげられる.男女比は1:1.7と女性に多く,発症年齢も若年で,妊娠可能年齢の若い女性に好発することも特徴である75).発症頻度は100万人に1~2人と稀な疾患で,治療介入を行わなかった場合,診断からの平均生存期間が2.8年と非常に予後不良で76)あった.しかし最近の検討では小児期にも好発年齢帯が存在し,この時期の発症例では性差はないことも知られてきた. 本症は以前は治療法が皆無であったが,1990年以降に次々と治療薬が開発され,現時点では作用機序の異なる3種類の治療薬が存在し,これらの単剤または組み合わせ治療により生命予後は改善してきた.しかし薬剤抵抗性の例では,適切な時期に肺移植を考慮する必要がある.HPAHはPAHの中では唯一,遺伝子異常が確認され10),11),63),77),78),遺伝性疾患として認識されたが,IPAHについては発症原因は現在も不明である.

①疫学,成因

1)疫学 我が国では1998年から旧来のPPH(現在の IPAH/HPAH)が特定疾患治療研究事業対象疾患(いわゆる難病)に指定され,臨床調査個人票による疫学調査が始まった.本調査が我が国では唯一の公的・全国的な疫学情報である.しかしこの登録例には IPAH/HPAHに加えて他のPAH例が含まれている可能性が高く,厳密な意味では我が国の IPAH/HPAHの症例数とはいえないことが指摘されている.2009年10月より特定疾患治療研究事業対象疾患の「PPH」は世界標準の疾患概念である「PAH」に改訂され,IPAH/HPAHに加え,結合組織病に伴うPAHや先天性心疾患PAHも難病のPAHとして登録可能になった.2011年の統計ではPAH登録証例数は1,969

例であり,今後この内容を解析することにより我が国のIPAH/HPAH症例数が明らかになることが期待される. 海外における疫学情報では,米国で行われた最初のPPHに関する症例登録で100万人に1~2人と報告された79).フランスの国家登録作業では2002年に18歳以上のPAHが674例登録され,その中で IPAH/HPAHは290例であった.これより,本症の有病率は4.8人 /100万人と計算された12).2006年の米国REVEAL登録研究では2,525例のPAHが登録され,内IPAHは1,166例であった80).2)成因 HPAHの発症原因として遺伝子異常の存在が確認されている.これまでの報告ではHPAHの 約70 % に,家族歴の確認されていない IPAHと診断された例でも約20 % にBMPR2遺伝子の変異の存在が確認されている10),77).また,本来は遺伝性出血性毛細血管拡張症の原因遺伝子であるACVRL1遺伝子や 小児例では,endoglinの遺伝子異常が発見され81),82),最近では SMAD962),78)や caveolin-1(CAV1)の遺伝子変異63)も報告されている.しかし,遺伝子変異のない例における発症原因は未解決である.PAHの成因に関しては前項(6 肺高血圧症の病因)を参照していただきたい.

②診断方法

 IPAH/HPAHの診断手順は総論に記載された方法に準じる.概略すると,診断は肺高血圧の存在診断,肺高血圧症の鑑別診断,および重症度評価の要素から構成されている.IPAH/HPAHは多くの場合,原因不明の労作時呼吸困難か失神発作が初発症状となる. 心電図,胸部X線写真から肺高血圧の存在が疑われた場合,心エコー・ドプラ法により肺高血圧の確定と半定量評価を行う.同時に他の心肺疾患の存在を検索する.合併疾患が存在せず固定した肺高血圧が存在すれば,第1群のPAHか第4群のCTEPHの可能性が高いと判断される.この両者の鑑別には肺換気─血流シンチグラムが極めて有効であるが,造影CTで鑑別が可能な場合もある.これら検査結果の解釈は容易でない場合も多く,正確な診断は経験のある専門施設で行われることが望ましい. PAHである可能性が高いと診断された場合には,CTD-PAHやPOPH,CHD-PAH,PVOD/PCHを血液検査や画像検査で除外しつつ,右心カテーテルで肺血行動態を測定して確定診断,重症度評価を行う.運動耐容能などの評価も治療方針決定に有用である.IPAHとHPAHの鑑別は,一般診療の場では詳細な病歴聴取を行う以外に方法はない.遺伝子診断に関しては,検査が可

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肺高血圧症治療ガイドライン

能な施設は我が国では数か所存在し,確定診断も可能である.ただし,遺伝子検査は必須でもなく,また強制するべき検査でもない.表7には2010年に改訂された厚労省難治性疾患克服研究事業で定められたPAHの診断基準を示す.

③予後・重症度評価

1)予後 IPAH/HPAH の自然歴は極めて不良で,旧来の報告では,発症後の平均生存期間は成人例未治療の場合 2.8年で,死因は突然死,右心不全,喀血が多いとされていた76).小児の未治療 IPAH/HPAH の予後は成人に比較してさらに不良で,平均生存期間が10か月であると報告されている76). 我が国では IPAH/HPAHの自然予後に関する全国規模でのデータは存在しない.単施設の結果ではあるが,治

療薬が存在しなかった時期の自験例(国立循環器病研究センター)198例の調査の結果では,1年生存率,3年生存率,5年生存率が各々67.9%,40.2%,38.1%であり,海外例との間に予後に大きな差異は認めらなかった83).近年の欧米における大規模症例登録の解析結果では,本症の予後は改善してきており,フランスの報告ではIPAH/HPAH/薬剤性PAHの1年生存率,3年生存率,5年生存率が各々89%,77%,69%84),米国REVEAL登録研究では IPAH/HPAHの1年生存率 ,3年生存率,5年生存率,7年生存率はそれぞれ 91%, 74%, 65%,59%であった85).これは最近の特異的PAH治療薬の開発に負うところが大と考えられる.2)重症度/予後評価 以前の IPAH/HPAH の重症度/予後評価では,肺血行動態上の諸指標が重視され,これより予後を算出する計算式も提案されていた76).しかし現在では病状の進行度

表7 肺動脈性肺高血圧症の診断基準 肺動脈性肺高血圧症の診断には,右心カテーテル検査による肺動脈性の肺高血圧の診断とともに,臨床分類における鑑別診断,および他の肺高血圧を来たす疾患の除外診断が必要である.(1) 主要症状および臨床所見

① 労作時の息切れ② 易疲労感③ 失神④  肺高血圧症の存在を示唆する聴診所見(Ⅱ音の肺動脈成分の亢進など)

(2) 検査所見① 右心カーテル検査で⒜  肺動脈圧の上昇(安静時肺動脈平均圧で25mmHg 以上,肺血管抵抗で240dyne・sec・cm-5以上)

⒝ 肺動脈楔入圧(左心房圧)は正常(15mmHg 以下)②  肺血流シンチグラムにて区域性血流欠損なし(突発性または遺伝性肺動脈性肺高血圧症では正常または斑状の血流欠損像を呈する

(3) 参考とすべき検査所見①  心エコー検査にて,三尖弁収縮期圧較差40mmHg以上で,推定肺動脈圧の著明な上昇を認め,右室肥大所見を認めること.

②  胸部X線像で肺動脈本幹部の拡大,末梢肺血管陰影の細小化

③ 心電図で右室肥大所見(4) 肺動脈性肺高血圧症の臨床分類

以下のいずれかについて識別すること.① 突発性または遺伝性肺動脈性肺高血圧症② 膠原病に伴う肺動脈性肺高血圧症③ 先天性シャント性心疾患に伴う肺動脈性肺高血圧症④ 門脈圧亢進症に伴う肺動脈性肺高血圧症⑤ HIV感染に伴う肺動脈性肺高血圧症⑥ 薬剤/毒物に伴う肺動脈性肺高血圧症⑦ 肺静脈閉塞性疾患,肺毛細血管腫症⑧ 新生児遷延性肺高血圧症ただし,先天性シャント性心疾患に伴う肺動脈性肺高血圧症の場合は,手術不能症例,および手術施行後も肺動脈性肺高血圧症が残存する場合を対象とする.その際は,心臓カテーテル検査所見,心エコー検査所見,胸部X線・胸部CTなどの画像所見,などの検査所見を添付すること.

(5) 下記の肺高血圧を来たす疾患を除外できること 以下の疾患は肺動脈性肺高血圧症とは病態が異なるが,肺高血圧ひいては右室肥大,慢性肺性心を招来し得るので,これを除外する.① 左心系疾患による肺高血圧症② 呼吸器疾患および/または低酸素血症による肺高血圧症③ 慢性血栓塞栓性肺高血圧症④ その他の肺高血圧症 サルコイドーシス,ランゲルハンス細胞組織球症,リンパ脈管筋腫症,大動脈炎症候群,肺血管の先天性異常,肺動脈原発肉腫,肺血管の外圧迫などによる二次的肺高血圧症 ただし,呼吸器疾患および/または低酸素血症による肺高血圧症では,呼吸器疾患および/または低酸素血症のみでは説明のできない高度の肺高血圧症が存在する症例がある.この場合には肺動脈性肺高血圧症の合併と診断してよい.その際には,心臓カテーテル検査所見,胸部X線,胸部CTなどの画像所見,呼吸機能検査所見などの検査所見を添付すること.

(6) 認定基準以下の項目をすべて満たすこと.① 新規申請時

1)診断のための検査所見を右心カーテル検査所見および肺血流シンチグラム所見を満たすこと.

2)除外すべき疾患のすべてを除外できること.3)肺動脈性肺高血圧症の臨床分類①~⑧のどれに該当するのかを鑑別すること.

② 更新時1)参考とすべき検査所見の中の心臓エコー検査の所見を満たすこと.

2)参考とすべき検査所見の中の胸部X線所見か心電図所見のいずかを有すること.

3)除外すべき疾患のすべてを除外できること.4)肺動脈性肺高血圧症の臨床分類①~⑧のどれに該当するのかを鑑別すること.

なお,更新時には,肺高血圧の程度は新規申請時よりは軽減もしくは正常値になっていても,肺血管拡張療法などの治療が必要な場合は認める.

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循環器病の診断と診療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告)

や失神,右心不全の既往などの臨床症状の有無,NYHA/WHO肺高血圧症機能分類度,運動負荷試験(6分間歩行試験・心肺運動負荷試験)40),44),心エコー法で心嚢液の有無,TAPSE 31)などの生理学的指標や, BNP 23),血中尿酸値27)などのバイオマーカー値などを総合して重症度評価や治療効果判定を行うことが主流となってきている.ESC/ERSのガイドラインでは表8が重症度/予後と治療方針を決定するための参考にされ,病状を予後がよい指標とされる項目を多く含む順に「安定し,満足している」,「安定しているが,十分でない」,「不安定で,悪化してる」と分類し,治療方針決定に用いている3).また最近の米国のREVEAL症例登録研究からは,新たにPAHの予後についてのリスク スコアー計算法も発表されている86).これらの評価では,肺循環動態諸指標に関しては,肺動脈圧自身よりむしろ右房圧や心拍出量係数,肺血管抵抗が重視され,混合静脈血酸素飽和度(SvO2)も重症度評価には有用である.

④IPAH/HPAHの内科治療

 IPAH/HPAHに対する内科的治療法は近年飛躍的に発展した.現在我が国ではプロスタサイクリン経路に属するプロスタサイクリンとその誘導体,エンドセリン経路に属するエンドセリン受容体拮抗薬(endothelin receptor antagonist: ERA),および一酸化窒素(NO)経路に属するホスホジエステラーゼ5阻害薬(phosphodiesterase type-5 inhibitor: PDE5-I)のそれぞれ異なった3系統の特異的PAH治療薬が存在する. 欧米ではこれらの薬剤が認可される際,および市販後にも特異的PAH治療薬の治療効果について多くの臨床試験が行われ,種々のエビデンスが集積されてきた.そこで2008年のダナポイント会議では,当時の治療エビ

デンスを集約したPAH治療ガイドラインの作成が試みられ,2009年にはこれを成文化したPAH治療ガイドライン が Journal of the American College of Cardiology誌(JACC)1)に発表された.またこの内容をより具体化したESC/ERS肺高血圧症治療ガイドライン3)がEuropean Heart Journal誌に掲載され,ほぼ同内容のERSガイドライン4)もEuropean Respiratory Journal 誌に掲載されている.しかし我が国では肺高血圧症治療薬の大規模な臨床試験はなく,日本人に関するエビデンスにより独自のPAH治療ガイドラインを作成することは困難である.このため本日本循環器学会ガイドラインは JACCおよびESCやERSのPAHガイドライン,および2013年2月のニース会議の発表内容を基本とし,我が国では発売されていない治療薬は除いて作成した.1)IPAH/HPAHの治療指針概略(図5) IPAH/HPAHの治療指針は,まず IPAH/HPAHの確定診断と重症度評価を行いつつ,以下の一般的対応/支持療法を開始する(表9,表10).PAHでは基本的にはワルファリンを用いて抗凝固療法を行う.低酸素血症があれば酸素投与の適応と考えられ,我が国では肺高血圧症の診断で在宅酸素療法の健康保険の適応が得られている.右心不全症状があれば利尿薬の投与や,心房性頻拍症があればジゴキシンを用いる場合もある.妊娠は禁忌とされ,感染症予防の目的でインフルエンザや肺炎球菌の予防接種が勧められている. これらの支持療法を行いつつ,IPAH/HPAHについてはまずNO吸入かエポプロステノール静注法を用いた急性肺血管反応性試験を行うことが推奨される.急性肺血管反応性試験の詳細は「肺高血圧症の診断」の項を参照されたい.肺血管反応性が陽性の症例についてはカルシウムチャンネル拮抗薬(CCB)療法が推奨される.CCB治療開始後にNYHA/WHO機能分類のⅡ度またはⅠ度に改善すれば本治療を続行する. 急性肺血管反応性試験の陰性例,またはCCB治療を行っても症状の改善がみられない例については特異的PAH治療薬を速やかに開始する.特異的PAH治療薬には前述のように3系統の治療薬が存在し,そのいずれかを用いて治療を開始するが,NYHA/WHO機能分類の観点からⅡ度・Ⅲ度例に対しては,ERA,PDE5-Iの薬剤は適応とするエビデンスがある.またNYHA/WHO機能分類Ⅲ度例の中でも特に「症状の進行速度など」他の重症度指標で予後不良の項目が多い重症例ではエポプロステノールの適応を考慮する.NYHA/WHO機能分類Ⅳ度例はエポプロステノールの適応である. 単剤で十分な治療効果が得られない場合,現在は2剤,

予後良好 予後決定因子 予後不良無 右心不全の既往 有遅 症状の進行度 速無 失神 有

Ⅰ,Ⅱ WHO-機能分類 Ⅲ,Ⅳ500m以上 6MWT 300m以下

15mL/min/Kg以上 CPX(最大酸素摂取量) 12mL/min/Kg以下

正常,ほぼ正常 BNP 非常に高値,上昇傾向

心嚢液(-),TAPSE>2.0cm 心エコー所見 心嚢液(+),

TAPSE<1.5cmRA圧<8mmHg

Cl>2.5L/min/m2 肺血行動態 RA圧≧8mmHgCl<2.0L/min/m2

表8 肺動脈性肺高血圧症の重症度/予後評価

文献87より,引用,一部改変CPX: 心肺運動負荷試験

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肺高血圧症治療ガイドライン

3剤の併用療法が行われている.特異的PAH治療薬の各々については有効性を示すエビデンスの蓄積はある.しかしこれら薬剤の併用療法については組み合わせ方や順番,注意点についての情報は少なく,詳細は分かっていない.しかし「異なる作用機序をもつ治療薬の併用療法」という治療方針は,多くの専門家の合意は得られており,また有効であるとのエビデンスも蓄積しつつある. PAHに対する併用療法には,特定の治療到達目標を定め,その目標に到達するように逐次PAH治療薬を追加してゆく目標指向型治療(goal-oriented therapy)(treat-to-

target therapy)である sequential combination therapyと,特に具体的な治療目標を設定せず治療初期から複数の治療薬をほぼ時間差なく併用開始するupfront combination therapy/ upfront triple combination therapyがある.さらに目標指向型治療では治療目標を一定の運動耐容能に設定する方法や88),運動耐容能に加えて予後不良とされる

表10 特発性PAH/遺伝性PAHに対する支持療法ClassⅠ 1. 右心不全,体液貯留患者に対する利尿薬 (Level C) 2. SaO2<60mmHgのPAHに対する   長期酸素療法 (Level C)

ClassⅡa 1. IPAH,HPAH,食欲抑制剤に伴う  PAHに対する抗凝固療法 (Level C)

ClassⅡb 1. 他疾患に併発するPAHに対する抗凝固療法 (Level C) 2. 心房性の頻脈に対するジゴキシン (Level C)

表9 肺動脈性肺高血圧症に対する一般対応ClassⅠ 1.監視下運動療法 (Level A) 2.心理的・社会的支援  (Level C) 3.過激な身体的活動の回避  (Level C) 4.避妊  (Level C) 5.インフルエンザ・肺炎球菌の予防接種 (Level C)

図5 肺動脈性肺高血圧症に対する治療手順

肺動脈性肺高血圧症の診断

一般的処置 支持療法

多剤逐次追加併用療法 (I-A) 治療効果不十分

治療効果不十分肺移植(I-C)

CCB(I-C)

反応なし安定 /改善なし

NYHA/WHO Ⅰ,Ⅱで安定 /満足

専門施設への紹介

急性肺血管反応性試験(I-C)

治療続行

反応あり

認可 PAH治療薬による初期治療

推薦度 エビデンス NYHA/WHOⅡ NYHA/WHOⅢ NYHA/WHO Ⅳ

Ⅰ A or BERA

PDE5-IERA,

PDE5-IEpoprostenol iv

Epoprostenol iv

Ⅱa C ERA PDE5-I

B BeraprostⅡb

C 初期併用療法 初期併用療法

反応なし

図5補足ERA: エンドセリン受容体拮抗薬(アンブリセンタン,ボセンタン)PDE5Ⅰ: ホスホジエステラーゼ5阻害薬(シルデナフィル,タダラフィル)

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循環器病の診断と診療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告)

複数の重症度指標を設定し,これを減じるように投薬を追加する方法がある.目標指向型治療法を実践した最初の研究では,ボセンタンを初期治療薬として用い,シルデナフィル,iloprost(吸入,静注)を必要に応じて逐次追加することで3年生存率は79.9%と有意に延長したと報告されている88). 2009年のESC/ERSの肺高血圧治療ガイドラインでは,治療対象例の重症度を表8に示す各項目について評価し,まず任意の特異的PAH治療薬を単剤で開始する.治療は重症度指標の各項目について3~6か月ごとに評価を行い,病状が治療目標を満足していない場合,逐次治療薬を追加する3),4).しかし,具体的な治療薬の選択法についての言及は行われていない.右心カテーテルは治療開始,治療変更の3~4か月後,および臨床的増悪が認められた場合に施行することを推奨している. Upfront combination therapy に関しては,我が国でも多くの専門家が有用であると考え,すでに実際に行われている場合も多い.しかし,いわゆるエビデンスとしては,論文報告は少なく,既存の報告としてはNYHA/WHO機能分類のⅢ~Ⅳ度の重症例を対象にボセンタンとエポプロステノールを併用した upfront therapyの結果がある程度である89),90).現在,欧州ではNYHA/WHO機能分類のⅡ~Ⅲ度例についての有効性や,治療薬の組み合わせ(2剤,3剤併用を含む)につき治験が進行中である.upfront combination therapyの具体的な手順も,今後の検討課題である. 近年「IPAH/HPAHの治療目標をいかに設定するか?」に関して様々な議論が行われている.ESC/ERSのガイドラインなど欧米では予後決定因子を総合的に評価し「安定し,満足している」を治療目標とし,これを達成することが予後の改善につながると考え91),肺血行動態の正常化に関しては,これを絶対目標とはしていない場合が多い.一方,我が国では治療目標はあくまで肺血行動態の正常化を目指すべきであり,このために治療薬の増量・併用を積極的に勧めるとの考え方がある.ただしIPAH/HPAHでは,積極的治療により肺血行動態の正常化が達成される例もあるがEisenmenger 症候群などのCHD-PAHでは肺血行動態の正常化は極めて困難な場合が多い.同じ第1群に属していても各PAHで治療に対する反応性は大きく異なっている可能性がある.各PAH疾患の特性を把握し,治療目標を設定する作業は,現時点では各々の担当医の判断に委ねられており,そのためにも治療方針決定は十分な経験を持った施設で行われることが必要である. 内科的治療法に反応しない例は心房中隔裂開術や肺移

植の適応とされている.しかし我が国では心房中隔裂開術の報告はほとんどなくガイドラインには採用しなかった.一方,IPAH/HPAHに対する肺移植は近年ようやく現実の治療法となってきたが,未だ実施例は多くはない. 以上 IPAH/HPAHの治療指針について概略した.本指針を臨床の場で参考にする場合の注意点としては,まず本項の記載内容は第1群PAHのみを対象としたものであり,第2群~4群肺高血圧症の治療指針とはならないことに留意する.さらに,ここに記載した多くの臨床試験は,第1群PAHでも主として IPAH/HPAHが対象患者となり,CTD-PAHやCHD-PAHなど例の参加は多くはない.近年同じPAHに属していても,IPAH/HPAH,CTD-PAH,CHD-PAHなど各々は病因・病態や臨床像,生命予後は大きく異なっていることが報告されてきている92).したがって IPAH/HPAHに対する治療指針がすべてのPAHに同一に適応される訳ではなく,各PAHに対する治療は各々の病態に応じて工夫する必要がある.2)抗凝固療法 IPAH/HPAHおよび食欲減退薬によるPAHを対象とした3つの後ろ向き研究で,ワルファリンにより生命予後が改善されることが示されている93)-95).ワルファリンの用量は,PT-INRを1.5~2.5を目標とする場合が多い.しかし,これらの成績はすべてエポプロステノールが使用できない時代のものである.エポプロステノール持続静注法では,カテーテル由来の血栓を起こす可能性があるが,一方で強力な抗血小板凝集抑制作用による出血性の合併症も考えなければならない.Ogawaらはエポプロステノールと抗凝固療法の併用により肺胞出血の危険性が高くなる可能性を指摘している96).他の疾患に伴うPAHでは,出血性合併症(門脈─肺高血圧症の消化管出血や先天性心疾患における奇異性塞栓や肺胞出血の頻度など)の多寡により投与の有無や用量を決める.3)利尿薬 右心不全により水分貯留が起こり,そのコントロールのために用いられる.ループ利尿薬,サイアザイド系利尿薬,抗アルドステロン薬を単独あるいは併用する.使用に際しては,電解質異常や過度の血管内脱水による低血圧の発生,低心拍出の進行に十分注意を払う.4)長期酸素療法(在宅酸素療法) 酸素吸入はPAH例において平均肺動脈圧と肺血管抵抗を低下させる急性効果を有している97),98).一般に,慢性閉塞性肺疾患で証明されたと同様の生命予後改善を期待して,動脈血酸素分圧を60mmHg以上に保つ酸素投与が行われている.しかし,CHD-PAHを対象とした唯一の無作為割付試験では,2年間の酸素療法では死亡

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肺高血圧症治療ガイドライン

率の改善は示されなかったとの報告もある99).5)ジギタリス製剤 ジギタリス製剤は動物実験では弱い肺血管収縮作用が示されている100).肺高血圧患者に対する急性効果では心拍出量は増加し,肺血管抵抗は不変であった101).しかし,慢性効果については明らかでなく,心拍コントロールの際に考慮すべき薬剤として位置づけられている.6)その他の強心薬 重症右心不全の治療,あるいは肺血管拡張薬の導入時にカテコラミンを利用する場合がある.体血圧が比較的保たれている場合にはドブタミンが選択されるが,保たれない場合にはドパミン単独あるいはドブタミンと併用する.カテコラミンからの離脱にはピモベンダン,ドカルパミン,デノパミンなどの経口心不全治療薬が必要なこともある.7)カルシウムチャンネル拮抗薬(calcium channel blocker: CCB) 現在の特異的PAH治療薬が臨床応用開始される以前の1992年に,Richらは,急性肺血管反応性試験で反応例については高用量のCCBを投与して予後が改善することを初めて示した93).ただしCCBが著効する症例の割合は低く,また長期的に有効性が維持されるのは急性肺血管反応性試験の陽性例の半数に過ぎず37),反応例は若年者で多いことが知られている102).CCBが有効な例は IPAH/HPAHに限定される可能性も指摘されており,本治療薬の適応は極めて限られる.また急性肺血管反応性試験もそれ自体常に一定の危険性が存在し,肺高血圧症の治療に精通した専門施設でのみ実施されることが強く推奨されている. 使用される薬剤としてはニフェジピン,ジルチアゼム,アムロジピンが一般的である.欧米ではニフェジピンの120~240mg,ジルチアゼムの240~720mgの高用量が用いられているが,我が国ではこの使用量は困難で,最小量より開始し適正量を見つけることが肝要である.8)特異的PAH治療薬 PAHの病態は,発症初期には高度の肺動脈攣縮が生じ,その後これに器質化病変が加わり,肺高血圧症が固定化すると考えられている.近年,肺血管に選択性の高い3系統の血管拡張薬,すなわちプロスタサイクリン経路,エンドセリン経路,一酸化窒素(NO)経路の薬剤が開発され,本症に対する内科治療が本格的に開始されている.①�エンドセリン受容体拮抗薬(endothelin�receptor�antagonist:�ERA) ERAにはエンドセリンAおよびB受容体の両者に対

する拮抗薬であるボセンタンと,エンドセリンA受容体に選択性が高いアンブリセンタンがある.平滑筋細胞に存在するエンドセリンA受容体への刺激は血管平滑筋収縮と増殖,炎症・線維化を誘導・促進する.一方,エンドセリンB受容体は正常では主に血管内皮細胞に存在し,刺激により一酸化窒素やプロスタサイクリン産生を亢進することで血管を拡張させる.しかし肺高血圧症例においてエンドセリンB受容体は血管内皮細胞では減少,平滑筋細胞では増加する.それゆえ,肺高血圧治療にエンドセリンA受容体に選択性の高い薬剤と選択性のない薬剤に優劣があるのかについては議論がある.○ボセンタン エンドセリン受容体拮抗薬としては最初の経口薬剤で,2005年に日本でも処方可能となった.主なランダム化比較試験には対象の90%がNYHA/WHO機能分類ⅢのIPAHまたはSSCに伴うPAHであったBREATHE-1 103),先天 性 心 疾 患 に 由 来 す るPAHを 対 象 と し たBREATHE-5 104),NYHA/WHO機能分類Ⅱを対象としたEARLY試 験105)が あ る.BREATHE-1,BREATHE-5,EARLY試験では,それぞれ16週間,16週間,6か月でのボセンタンによる6分間歩行距離の改善が確認された.また,ボセンタンを第一選択薬とした際の長期生命予後はNIH登録の予測式から計算された予後より改善することが示された106),107).有害事象としては血清トランスアミナーゼ上昇が10%未満に出現する.この肝機能異常は用量依存性であり,中断や減量で改善する.定期的な肝機能検査が必要である.ESC/ERSガイドラインではNYHA/WHO機能分類Ⅱ,Ⅲ度がボセンタンのよい適応で,Ⅳ度例への投与のエビデンスレベルはやや低下する.我が国でも同様の対応としてよい. ボセンタンの投与法は,投与開始後4週間は62.5mgを1日2回,5週目より125mgを必要に応じて1日2回投与する.○アンブリセンタン アンブリセンタンの最初の臨床試験結果は2005年に発表され108),その後のNYHA/WHOⅠ~Ⅳ度の IPAH/HPAH,CTD-PAHを対象とした2つのランダム化比較試験(ARIES-1,ARIES-2)で治療期間12週間後に6分間歩行距離の改善が確認され109),それに続く2年の長期投与でも運動能が保たれていた110).試験は1日投与量が2.5mg,5mg,10mgの3群で実施されたが,全症例をプールした解析では1年生存率が94%,2年生存率が88%であった.また,血清トランスアミナーゼが正常上限の3倍を超える上昇は年間2%以下とされるが109),末梢浮腫の発現が報告されている.我が国での採用は

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循環器病の診断と診療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告)

2010年である.  アンブリセンタンの投与法は,5mgを1日1回,その後必要に応じて10mgを1日1回投与する.②�ホスホジエステラーゼ5阻害薬(phosphodiesterase�type-5�inhibitor:�PDE5-I) PDE5は肺組織,特に肺血管平滑筋細胞に豊富に存在し,血管拡張作用を有するcGMPを特異的に加水分解する.PDE5-IはこのPDE5を阻害することで,肺動脈血管平滑筋を弛緩させる.現在,我が国でPAH治療に承認されているPDE5-Iとしてはシルデナフィルとタダラフィルが存在し,両剤ともに経口薬である.肺血管選択性があるが,過度の体血圧低下を来たすことがあり,硝酸剤やNO供与薬との併用は禁忌である.○シルデナフィル シルデナフィルは最初に発売されたPDE5-Iである.初期の臨床試験の後111),112),ランダム化比較試験(SUPER-1)で運動耐容能,NYHA/WHO機能分類の改善および肺血行動態の改善が確認された113).これに加えシルデナフィルは主として換気の良好な肺組織において作用するため,換気血流不均衡の増悪を来たしにくく,低酸素血症の悪化は認められないとされる114),115).ERAと同様にNYHA/WHO分類Ⅱ,Ⅲ度がよい適応とされ,NYHA/WHO分類Ⅳ度にも適応可能である.我が国での保険適応は2008年である.その後発表された長期予後データ(SUPER-2)では,SUPER-1参加例に対しシルデナフィルを可能な限り240mg/日に増量し,18%の例ではERAまたはプロスタサイクリン経路の薬剤の追加を受けているが,運動耐容能,NYHA/WHO機能分類の改善とともに3年生存が79%であったと報告されている116). シルデナフィルの投与法は,20mgを1日3回投与である.○タダラフィル 1日1回投与で治療可能な長時間作用性のPDE5-Iである.2009年に IAPH/HPAHを主とするが,他疾患に合併するほぼすべてのPAHを対象としたランダム化比較試験(PHIRST)で運動耐容能,NYHA/WHO機能分類の改善,臨床症状悪化までの期間延長が確認され臨床応用可能となり117),その長期試験(PHIRST-2)でも運動耐容能は保たれていた118).ランダム化比較試験ではNYHA/WHO機能分類Ⅰ度の例も含まれているがESC/ERSガイドラインではNYHA/WHO機能分類Ⅱ,Ⅲ度および,エビデンスレベルは落ちるがNYHA/WHO機能分類Ⅳ度にも適応とされている.またごく小規模ではあるがEisenmenger 症候群を対象としたランダム化比較

試験も同様の結果であった119).承認が一番遅く,治療効果のエビデンスはまだ多くない. 投与法は40mgを1日1回投与である.③エポプロステノール,ベラプロスト プロスタグランジン I2 (プロスタサイクリン)は1976年に発見されていた血管内皮で産生される生理活性物質で,強力な肺血管拡張作用と血小板凝集抑制作用を有し,さらに血管平滑筋増殖抑制作用を持つと考えられている120). IPAH/HPAHでは血中プロスタサイクリンの減少とトロンボキサンの増加が報告され121),さらにはプロスタサイクリン合成酵素の発現低下122)も存在し,これが本症発症の一因である可能性が示唆されてきた.そこでプロスタサイクリンの投与は本症の基本的な治療手段となり得る可能性が予測された.このプロスタサイクリンを化学合成したものがエポプロステノールである. IPAH/HPAHの治療薬として臨床応用されているプロスタサイクリン関連薬剤には,持続静注法で用いられるエポプロステノール,持続皮下注で用いられるtreprostinil,吸入薬の iloprost,経口薬のベラプロストがあるが,我が国ではエポプロステノールとベラプロストのみが使用可能である.○エポプロステノール いくつかの多施設共同の臨床試験でエポプロステノールのIPAH/HPAHに対する治療効果が確認されたため123),124),1995年米国食品医薬品局(FDA)が IPAH/HPAHに対する初の治療薬としてエポプロステノールを認可した.1996年,多施設共同の大規模前向きランダム化試験で,運動耐容能,肺循環動態諸量,および生命予後の改善効果が証明され125),本治療法の IPAH/HPAHに対する標準治療法としての位置づけが確定した.急性肺血管拡張効果がみられない症例でもエポプロステノールの慢性投与により病状改善効果が認められるとの報告126)は,本薬剤の血管平滑筋増殖抑制作用などの機序も治療効果につながっている可能性を示唆している.結合組織病に伴うPAHに対しても有効との報告もあり127),現在,PAHに対する内科的治療法としては最も有効性が高い治療法である.肺高血圧症治療薬のランダム化比較試験(観察期間の多くは12~16週)についてメタ解析を行った最近の報告でも,PAHの生命予後を改善できる治療薬は,静注のエポプロステノース製剤のみとしている128). IPAH/HPAHを対象としたエポプロステノール持続静注法の長期予後は,1年目,2年目,3年目の生存率はそれぞれ87.8%,76.3%,62.8%(自然歴は58.9%,46.3%,35.4%)と報告されている129).小児 IPAH/HPAHでの1年,5年,10年治療成功率は93%,86%,60%であり,他

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肺高血圧症治療ガイドライン

の治療法や移植を併用した生存率は97%,97%,78%である130).また特にNYHA/WHOⅢ~Ⅳ度の重症IPAH/HPAHに限定した検討でも,1年目,2年目,3年目,5年目の生存率はそれぞれ85%,70%,63%,55%と改善を示している.ただし治療開始時に右心不全の既往,NYHA/WHOⅣ度,6分間歩行(250m以下),肺血行動態では右房圧>12mmHg, mean PAP >65mmHgは長期予後不良を示唆する所見であり,また治療開始3か月後に右心不全NYHAⅢ~Ⅳの持続,総肺血管抵抗値の低下が30%以下も予後不良のサインであり,肺移植登録を考慮すべきである41). 2004年ACCPガイドライン131)では,エポプロステノール投与は1~2 ng/kg/minの微量から開始し,副作用と容認性を考慮しつつ1~2 ng/kg/minずつ徐々に増量するが,通常各々の患者に関しては,それ以上増加の必要性がない投与量が存在すると推定した.この値は個人差は大きいものの,20~40 ng/kg/minの間に存在する場合が多く,長期にわたり至適量以上投与している場合には高心拍出性の心不全が生じる可能性を指摘している.一方,我が国では約100 ng/kg/minの高用量エポプロステノールを平均3.7年使用した例では,高心拍出性の心不全を来たすことなく平均肺動脈圧で30%,肺血管抵抗で60%の低下が得られたとの報告があり132),各症例に応じた投与量調節の設定が必要である.重篤な副作用としては,投与量を急速に増やし過ぎた場合に体血圧低下が生じる.軽微な副作用に関しては,投与量の増加に伴い,頭痛,発赤,最初の咀嚼時の下顎痛,下痢,斑状紅斑などがみられるが,通常は増量の一時中止により軽減する.急なエポプロステノールの投与停止はreboundから shock,突然死にいたる可能性があり決して行ってはならない.本剤は経静脈的に持続投与を行う必要があり,投与経路の感染対策や投与量調節など高度の専門性が要求されるので,本治療は肺高血圧症の治療に精通した施設で,熟練した内科医と看護師のもと行われることが推奨される.○ベラプロスト ベラプロストは我が国で開発され,1995年より治療に用いられている最初の経口投与可能なプロスタサイクリン誘導体である.我が国では介入研究の成績にて肺血行動態とNYHA/WHO機能分類の改善が報告され133),予後も改善した可能性があることから134),比較的軽症の IPAH/HPAHでは広く処方されている.しかし海外における2つのランダム化比較試験の結果では,6分間歩行距離を指標とした運動耐容能の短期改善効果は認められるが,長期効果は確認されていない135),136).このため

ベラプロストの推奨度はESC/ERSの肺高血圧症治療ガイドラインでは高くはない.その後,ベラプロスト徐放錠の臨床試験が行われ,短期の運動耐容能と肺血行動態の改善が報告された137).我が国では2007年より徐放錠が処方可能である. 投与法は,180μgを1日2回投与である.④併用療法 臨床の現場では単剤投与での治療効果の不十分例が少なくない.これらの症例に対して,我が国ではすでに一般的に作用機序の異なる薬剤の併用療法が行われている138)(図6).特異的PAH治療薬の併用療法におけるエビデンスとしては,2種の治療薬の組み合わせを検討したランダム化比較試験の結果が海外では複数報告されている.この中で,我が国で使用可能な薬剤の組み合わせとしては,BREATHE-2試験89)(エポプロステノール╱ボセンタン),PACES試験139)(エポプロステノール╱シルデナフィル),COMPASS-1試験140)(ボセンタン╱シルデナフィル),PHIRST試験114)(ボセンタン╱タダラフィル)などがあり,肺血行動態や運動耐容能で併用効果が得られたか,またはその傾向が認められたことが示された.したがって,いずれの系統の治療薬の組み合わせでも一定の併用効果が得られることは期待されるが,これらの試験はそれぞれ観察期間が4か月から6か月で,併用療法が長期生命予後に与える効果については,エビデンスとしては多くはない.○プロスタサイクリン とPDE5-Ⅰの併用 エポプロステノール療法中で安定している267例のPAH患者に対してシルデナフィル追加投与群とプラセボ群とを比較したランダム化比較試験(PACES試験)が行われ,シルデナフィル追加投与(4週間20mgを1日3回,4週間40mgを1日3回,8週間80mgを1日3回)群で有意に6分間歩行距離の延長と臨床的悪化までの期間延長が得られ,併用療法の効果と安全性が示され

図6 我が国における併用療法の現状(2009年)

225例中 142例で併用療法(28施設)

静注 PGI2+ボセンタン(2.8%) 3剤併用(4.2%)静注 PGI2+シルデナフィル(2.8%)

シルデナフィル+ボセンタン(16.2%)

ベラプロスト徐放薬+シルデナフィル(3.5%)

ベラプロスト徐放薬+ボセンタン(9.9%)

ベラプロスト+ボセンタン(43.0%)

ベラプロスト+シルデナフィル(17.6%)

文献138より引用

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循環器病の診断と診療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告)

た139).○PDE5-ⅠとERAの併用 ボセンタンを3か月以上継続投与中のPAH患者45例に対し,シルデナフィル25mg単回投与の急性効果をみたCOMPASS-1試験では,シルデナフィル投与後,有意な平均肺動脈圧と肺血管抵抗の低下,心拍出量の増加がみられ,追加による急性効果が示された140).現在,長期効果についての試験(COMPASS-2試験)が進められている.ただし,PDE5-IとERAの併用時には代謝酵素CYP3A4とCYP2C9を介した相互作用が指摘されており注意を要する.ボセンタン125mgの1日2回投与とシルデナフィル80mgの1日3回投与の併用時にはAUC,Cmaxがボセンタンで1.5倍,1.4倍と増加,シルデナフィルで0.37倍,0.45倍と低下した141).ボセンタンとタダラフィルの併用時にはAUC,Cmaxが10日目にタダラフィルで41.5%,26.6%と低下,ボセンタンとその代謝物はともに変化なかった.アンブリセンタンとシルデナフィルあるいはタダラフィルとの相互作用はないとされている.○プロスタサイクリンとERAの併用 エポプロステノール導入初期33例のPAH患者に対してボセンタン追加投与群とプラセボ群とを比較したランダム化比較試験(BREATHE-2試験)では,併用群で16週間後に肺血行動態は改善傾向にあったが統計学的な有意差は示されなかった89).ボセンタンと吸入プロスタサイクリン薬の併用療法に関するランダム化比較試験では,効果が得られたSTEP試験142)と効果が得られず症例登録中止したCOMBI試験があり143),未だ併用効果に関する見解は定まっていない.ただその後2012年に発表されたエポプロステノールとボセンタンを用い重症PAHを対象としてupfront combination therapy では,肺血行動態,NYHA/WHO機能分類,運動耐容能,予後で改善が得られたことが報告されている90).⑤メタアナリシス 近年,これまで報告された特異的PAH治療薬に対するランダム化比較試験結果のメタアナリシスが行われるようになった.この結果,これまでのランダム化比較試験では個々の治療薬における運動耐容能の改善やNYHA/WHO機能分類度,肺血行動態の改善は認められたが,予後の改善効果に関してはよい結果は得られていなかった.さらに3種類の特異的PAH治療薬間で特に治療効果に差は認められないことが報告されている144)-146). 単剤治療と併用療法に関するメタアナリシスも近年報告されている.これによると選択基準に合致したランダ

ム化比較試験のメタアナリシスでは,併用療法は単剤治療と比較して6MWTで有意な改善がみられ147),また肺血行動態や臨床的悪化までの期間にも改善がみられた148)が死亡率には差がなかったとしている.しかしこれらも観察期間が12~16週と短期間のランダム化比較試験の解析から得られた予後結果であり,今後併用療法の長期予後の検討が必要である.

2 結合組織病に伴う肺動脈性肺高血圧症

要旨 結合組織病は一般人口に比し,高率に肺高血圧症が合併する.多くは他に誘因がみられない IPAH様の肺高血圧症であるが,それ以外にも間質性肺炎や肺血栓塞栓症などに続発して起こる肺高血圧症も存在する. 結合組織病に伴う肺高血圧症の病態改善のための治療は,内科的には血管拡張薬,強心薬,抗凝固薬などがある.これらの投与は,IPAHや肺血栓塞栓症の治療指針に準じて行われる.しかしながら結合組織病に伴う肺高血圧症に対して,ステロイドや免疫抑制薬の投与が有効であったとの報告もみられる.また結合組織病に伴う肺高血圧症は,結合組織病という基礎疾患に対して定期的に経過観察されていることもあり,肺高血圧症に由来する臨床症状・所見が出現する前に肺高血圧症が発見されることもある. 2011年には混合性結合組織病(MCTD)に対する肺高血圧症の診断の手引きと治療ガイドラインの改訂がなされた.今後,これらの改訂案の検証と他の結合組織病への適用について検討が必要と思われる.

①疫学,成因

1)結合組織病に伴う肺高血圧症の頻度 結合組織病の肺高血圧症合併率については,国内外に種々の報告がある.本項では,代表的なデータとして1998年度の「厚生省特定疾患皮膚・結合組織調査研究班混合性結合組織病分科会」での調査成績149),2003年度の「厚生労働科学研究アレルギー疾患予防・治療研究事業,全身性自己免疫疾患における難治性病態の診断と治療法に関する研究」班での調査成績15)を示す(表11). 前者は日常診療の中で主治医が肺高血圧症を合併していると認識している患者に関する調査であり,臨床所見がみられる患者群である.一方,後者はMCTDに伴う肺高血圧症のスクリーニングのための診断の手引き(MCTDにおける肺高血圧症の診断基準150)に基づき,心

27

肺高血圧症治療ガイドライン

エコー検査を原則的に施行することを前提とした調査であり,無症候のものも含まれている可能性がある.前者ではMCTD 7.0%,強皮症(SSc) 5.0%,全身性エリテマトーデス(SLE) 1.7% に肺高血圧症の合併がみられ,多発性筋炎/皮膚筋炎(PM/DM)では肺高血圧症の合併例はなかった.後者ではMCTD 16.0%,SSc 11.4%,SLE 9.3%,PM/DM 1.5%に肺高血圧症がみられた.いずれもMCTDやSScなどいわゆる強皮症スペクトラムの疾患群で高率であった.後者では肺高血圧症合併40例中19例で肺高血圧症に由来する臨床症状・所見を認めず,心エコー検査をしなければ発見されなかった例と思われる.同様の所見は2005年に報告された北米50施設の研究151)でもみられている(表11).すなわちMCTDでは主治医診断で11.0%,心エコー検査で19.1%,SScでは主治医診断で15.5%,心エコー検査で27.7%と高率であった.かかる高率の肺高血圧合併頻度は,心エコー検査による偽陽性例を含む可能性が指摘されてきた.しかし2010年の報告152)で,フランスとイタリアのSSc患者1,165名において,肺高血圧症が疑われる患者に右心カテーテル検査を行い,5.5%に肺高血圧症が認められた.gold standardである右心カテーテル検査を用いて多数例のSSc患者における肺高血圧症の合併率が高いことが確認された.2)結合組織病に伴う肺高血圧症の原因 結合組織病に伴う肺高血圧症は,その発症機序から, ① 何らかの免疫異常に起因する血管炎が誘因として推測されるが,その他に明らかな原因はなく,肺動脈末梢での内腔の狭窄・閉塞によるもので,IPAH/HPAHと類似の病態と考えられるもの(結合組織病に伴う肺高血圧症の主要病態),

 ② 抗リン脂質抗体症候群や高安動脈炎などによって肺動脈に慢性血栓塞栓症が生じ,その結果肺高血圧症が続発してくるもの(慢性マクロ肺血栓塞栓症および IPAH/HPAHと鑑別不可能な慢性ミクロ肺血栓塞栓症がある),

 ③ SScなどにしばしば伴う間質性肺炎(肺線維症)が

肺血管床を減少させるような重度な場合,それに続発してくるもの(実際には間質性肺炎が強くてもあまり肺動脈圧は上がらない),

 ④ 高安動脈炎やSLEで報告のある肺動脈末梢の血管炎によるもの,

に大別される.

②予後・重症度評価

1)結合組織病に伴う肺高血圧症の予後に関する疫学 一般に肺高血圧症の予後は著しく不良であるが,結合組織病に伴うものは IPAHに比してさらに予後不良である.しかしながら,実臨床では必ずしも全例がすべて予後不良の患者ばかりではないことが知られている.このため1997年度の「厚生省特定疾患皮膚・結合組織調査研究班混合性結合組織病分科会」で予後調査153)が行われ,予後が比較的良好な群と,通常の肺高血圧症と同様に予後不良な群に分けられることが判明した.予後悪化因子として,分割表法では肺線維症,肺拡散能障害,労作時胸骨後痛,胸骨左縁収縮期雑音,疲れやすさ,筋逸脱酵素上昇があった.また多変量解析では多発関節炎,肺高血圧症の確診例,筋逸脱酵素上昇,SSc関連の皮膚病変が抽出された.さらにPM/DMの診断基準を満たす例の生命予後は不良であった.2)重症度評価 結合組織病に伴う肺高血圧症に特有な重症度評価は作成されていない.IPAHにおける重症度評価を通常用いている.

③特異的な診断手順

1)結合組織病の診断 各結合組織病には,それぞれ分類基準(診断基準)が作成されているので,それを参考にして診断を進める.2)肺高血圧症の診断 まず労作時の息切れ,顔面や下肢の浮腫,Ⅱ音肺動脈成分の亢進など自他覚症状の有無が重要である.ただ,特に初期ではこれらの所見のないことも少なくないため,必要に応じて胸部X線写真,心電図検査,心エコー検査などの肺高血圧症のスクリーニング検査を施行することが望まれる.1998年のRichによる原発性肺高血圧症ワールドシンポジウム報告書でも,強皮症スペクトラムの疾患(SScとMCTD)では無症状でも年1回の心エコー検査によるスクリーニングを勧めている.肺高血圧症が疑われる場合には,右心カテーテル検査による肺動脈圧,肺血管抵抗などの測定が有用である. 安静時の平均肺動脈圧が25mmHg以上をもって肺高

表11 膠原病における肺高血圧症の出現率M C T D 班内調査 149)

全身性自己免疫疾患班内調査15)

北米調査151) 北米調査151)

報告年 1998 2003 2005 2005主治医診断 心エコー調査 主治医診断 心エコー調査

MCTD 16/230(7.0%) 8/50(16.0%) 11/100(11.0%) 18/94(19.1%)SSc 26/320(5.0%) 12/105(11.4%) 111/715(15.5%) 193/697(27.7%)SLE 14/847(1.7%) 18/194(9.3%) ─ ─

PM/DM 0/154(0%) 1/66(1.5%) ─ ─

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循環器病の診断と診療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告)

血圧症と診断する.右心カテーテル検査の施行が事情によってできない場合も含めて,結合組織病(特にMCTD)に伴う肺高血圧症のスクリーニングのための診断の手引き(MCTDにおける肺高血圧症の診断基準)が厚生労働省混合性結合組織病に関する調査研究班により1991年に策定150)され,2011年に改訂154)された(図7). この診断の手引きの最も大きな改訂点は,右心カテーテル検査での平均肺動脈圧25mmHgが,心エコー検査の推定肺動脈圧のいくつに相当するのかを記載した点である.右心カテーテル検査を必須とはしていないが,治療を行う際には右心カテーテル検査で肺動脈圧の上昇を確認することが望ましい.この基準はMCTDのために作成されたものであり検証が必要である.他の結合組織病への準用が可能かどうかの検証も必要であるが,その有用性は強く期待される.

3)肺高血圧症発症機序の鑑別 肺高血圧症の発症機序が IPAH/HPAH様のものと,慢性肺血栓塞栓症や間質性肺炎(肺線維症)などに続発したものとを鑑別しておくことが治療上必要である.そのためには,肺換気─血流シンチグラムでの多発性の血流欠損により慢性肺血栓塞栓症の合併を,胸部X線写真や胸部CT所見などにより間質性肺炎(肺線維症)の合併の有無をみておくことが重要である.

④治療アルゴリズム

1) 治療の総論 結合組織病に伴う肺高血圧症の治療は,その発症機序に基づき,IPAH/HPAH様の肺高血圧症,慢性肺血栓塞栓症に伴う肺高血圧症,間質性肺炎(肺線維症)に伴う肺高血圧症,心筋の線維化による左心由来の肺高血圧症

図7 結合組織病に併発する肺高血圧症の診断手順

無症候でのスクリーニング1) 心臓超音波検査

推定肺動脈収縮期圧≧36mmHg

Aの4項目以上を満たす

PAHは否定的(定期的な評価が必要)3)

PAH疑い

右心カテーテル検査を推奨4)

PAH5)

2)推定肺動脈収縮期圧

37~ 50mmHg

2)推定肺動脈収縮期圧

>50mmHg

2)

いいえ はいAの4項目以上を満たす

いいえ はい

肺高血圧症を疑う臨床所見,検査所見A 労作時の息切れ  胸骨左縁収縮期拍動  第Ⅱ肺動脈音の亢進  胸部X線像での肺動脈本幹部の拡大あるいは左Ⅱ弓の突出  心電図上の右心肥大あるいは右室負荷B BNPまたは NT-ProBNP高値  %VC/%DLoo≧1.4  高尿酸血症

図7 の注1) 混合性結合組織病(MCTD)患者では肺高血圧症を示唆する臨床所見,検査所見がなくても,心臓超音波検査を行うことが望ましい。

2)右房圧は5mmHgと仮定.3) 推定肺動脈収縮期圧以外の肺高血圧症を示唆するパラメータである肺動脈弁逆流速度の上昇,肺動脈への右室駆出時間の短縮,右心系の径の増大,心室中隔の形状および機能の異常,右室肥厚の増加,主肺動脈の拡張を認める場合には,推定肺動脈収縮期圧が36mmHg以下であっても少なくとも1年以内に再評価することが望ましい.

4) 右心カーテル検査が施行できない場合には慎重に経過観察し,治療を行わない場合でも3か月後に心臓超音波検査を行い再評価する.

5)肺高血圧症の臨床分類,重症度評価のため,治療開始前に右心カテーテル検査を施行することが望ましい.

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肺高血圧症治療ガイドライン

などで異なる.それら肺高血圧症の病態改善の治療はそれぞれ由来する肺高血圧症に記述されている治療指針に準じて行われる.詳細はそれらの項目を参照されたい. 結合組織病では肺高血圧症以外の臓器病変に対して副腎皮質ステロイド(以下,ステロイド)が投与され,活動性が強く難治性の場合にはステロイドパルス療法や免疫抑制薬の併用などが行われる.また結合組織病に伴う肺高血圧症の発症機序には免疫学的異常が関与している可能性もある.したがってこれらの免疫療法が結合組織病に伴う肺高血圧症によい影響を与える可能性があり,有効であったとの報告もみられる.そこで,結合組織病に伴う肺高血圧症に対してステロイドや免疫抑制薬の使用も勘案した治療指針が,厚生労働省のMCTD班のほか「全身性自己免疫疾患における難治性病態の診断と治療法に関する研究」班,「免疫疾患の合併症とその治療法に関する研究」班との協議のもと合同で2005年に作成された155). その後,いくつかの重要な進歩がみられた.我が国における薬剤について,ベラプロスト徐放錠,ボセンタン,シルデナフィル,アンブリセンタン,タダラフィルが認可され,さらに複数の薬剤の治験が進行している(2012年1月現在).また IPAHの治療ガイドラインが,米国1)

やヨーロッパ3),我が国(06版日循)で改訂された.結合組織病に伴う肺高血圧症の治療において,本ガイドラインが欧米の治療ガイドラインと最も異なる点は,ステロイドなど免疫抑制療法の扱いである.従来,まとまった報告はみられなかったが,2006年に retrospectiveではあるが,多数例の免疫抑制療法に関する報告156)がなされ,その有用性が再認識された.これらを踏まえ,MCTD班において修正したガイドラインを作成した(図8)157).これはMCTD以外の結合組織病に伴う肺高血圧症にも準用できるものと思われる. IPAH類似の結合組織病に伴う肺高血圧症の治療を簡単にまとめると(表12),・速やかに抗凝固薬を使用する・右心負荷の軽減のため,有効な肺血管拡張薬を用いる・生活指導も重要で,安静に努め,肺高血圧症の増悪因子である喫煙,感染症,発熱,貧血,塩分・水分の過剰摂取,寒冷曝露,疲労の除去に努める.2)主な治療薬①酸素,抗凝固薬など・酸素吸入はSaO2が90%以上を保つように使用する.・抗凝固薬の適応は,①消化管に潰瘍のない例,②抗リン脂質抗体症候群併存例ではアスピリン服用にもかかわらず肺高血圧症を認める例とする.

・ジギタリス,利尿薬,カテコールアミンの使用はIPAHに準ずる.②副腎皮質ステロイド・免疫抑制薬 以前からステロイドや,免疫抑制薬が結合組織病に伴う肺高血圧症に有効と思われる症例のあることが報告されている.また,厚生労働省MCTD研究班内の約40例の結合組織病に伴う肺高血圧症の治療状況をみると,ステロイドが64%に使用されており,ステロイド投与群は非投与群に比し肺動脈圧の改善度が有意に優れていた.多数例の retrospectiveな研究156)では,シクロホスファミド間欠静注療法とステロイド大量療法を行うと,肺高血圧症の改善する例がみられ,NYHA/WHO機能分類のⅠ,Ⅱ度の症例や心拍出量,総肺血管抵抗など肺血行動態のよい症例で有効例は多かった.このようにステロイド・免疫抑制薬の有効な症例は存在し,特に発症早期・軽症の肺高血圧症に有効な可能性が考えられる.発症早期の定義や投与量については今後の検討が必要であるが,NYHAⅠ度(あるいはⅡ度まで)で肺高血圧症の症状が出る前が望ましい. プレドニゾロン:45mg/日,分3 アザチオプリン:100~150mg/日,分2~3 シクロホスファミド:500~1,000mgを500mLのブドウ糖液に混注し,ゆっくり点滴静注 /4週毎③プロスタサイクリン(プロスタグランジンI2:PGI2) プロスタサイクリンは血管内皮で合成されるプロスタグランジンで,強力な血小板凝集抑制作用と血管平滑筋弛緩による血管拡張作用を主たる作用とし,抗炎症作用や好中球遊走抑制作用,線溶系賦活作用も有する.肺では強力な肺血管拡張作用と強力な血小板凝集抑制作用および肺の血管透過性抑制作用がみられる. 我が国でも本薬剤の経口薬(ベラプロスト)と静注薬

表12 結合組織病に伴うPAHに対する治療ClassⅠ 抗凝固療法 (Level B) 酸素吸入  (Level B) ベラプロスト  (Level B) ERA  (Level B) PDE5⊖Ⅰ  (Level B) エポプロステノール  (Level B) 一酸化窒素(NO)(*)  (Level B) ジギタリス・利尿剤・強心薬  (Level B)

ClassⅡb 免疫抑制療法  (Level B)  ステロイド薬  免疫抑制薬

ERA:エンドセリン受容体拮抗薬PDE5-I:ホスホジエステラーゼ5阻害薬

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循環器病の診断と診療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告)

(エポプロステノール)が使用されており,最近,ベラプロストの徐放薬錠も認可された.特に静注薬のエポプロステノールは有効性が高く127),重度の肺高血圧症患者の福音となり得る.ただし24時間持続投与が必要であり,有効治療域に達するまで薬剤量を漸増する必要のあることや,わずかな投与量の変動で作用・副作用が変動しやすいこと,ほぼ毎日新たに薬液を調製する必要があることなど煩雑な面もある.本薬剤の副作用・問題点としては,血小板減少,神経障害性下肢痛,腹水,耐性による効果減弱がある. 在宅持続静注療法もPAHに対して保険適応がある.ベラプロストは軽症例には使用しやすい薬物であるが,血中濃度の急激な増加による顔面紅潮などの副作用で十分量投薬できない症例もみられる.徐放錠158)ではこの

副作用が軽減されるため,有効性の高まることが期待される. ベラプロストナトリウム徐放錠:120~360μg/日,分2 ベラプロストナトリウム:60~180μg/日,分3 エポプロステノール:点滴静注④�エンドセリン受容体拮抗薬(ERA:�ボセンタン�,アンブリセンタン) エンドセリンは,血管内皮細胞から産生される生体内で最も強力な血管収縮物質であり,また血管平滑筋細胞の増殖因子でもある.その受容体には,血管平滑筋細胞表面にあり血管収縮や平滑筋増殖に作用するA型受容体と,血管内皮細胞にありむしろ血管拡張に作用するB型受容体がある.ボセンタンは,A,B型両方の受容体

図8 結合性組織病に伴う肺高血圧症の治療手順

文献・ 吉田俊治,深谷修作,京谷晋吾,ほか:混合性結合組織病  (MCTD)の肺動脈性肺高血圧症(PAH)診断の手引き改訂について.

  厚生労働省難治性疾患克服研究事業 混合性結合組織病調査研究

 班平成22年度報告書154)

図8の説明結合組織病合併肺高血圧症の治療ガイドライン157)

・薬剤名の後のアルファベットは,Barst RJ, et al. Updated evidence-based treatment algorithm in pulmonary arterial hypertension1)による推奨度である。同じ推奨度の中ではABC順に薬剤名を記した。

・ボセンタンはNYHA Ⅲ度以上に保険適応が限定されているため,NYHA Ⅱ度の欄ではカッコを付けた。

・ETR:エンドセリン受容体拮抗薬(アンブリセンタン,ボセンタン) PDE5-I:ホスホジエステラーゼ5阻害薬(シルデナフィル,タダラフィル)  (本治療手順は2011年作成の為,若干今回2012年改訂版のIPAH/HPAHに対する治療手順とは異なる)

抗凝固療法・利尿薬・酸素療法

膠原病の疾患活動性

NYHAⅡ

・ステロイド薬・免疫抑制薬

・アンブリセンタン A・(ボセンタン)A・シルデナフィル A・Ca拮抗薬 B・タダラフィル B・ベラプロスト徐放薬

NYHAⅢ

・アンブリセンタン A・ボセンタン A・シルデナフィル A・エポプロステノール A・タダラフィル B・ベラプロスト C

NYHAⅣ

・エポプレステノール A・アンブリセンタン C・ボセンタン C・シルデナフィル C・タダラフィル C

PH発症早期進行性

有効(ある)無効(ない)

・心房中隔切開術・肺移植

併用療法 : ProstanoidERAPDE5-Ⅰ     の間で

ある

ある

ない

ない

継続

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肺高血圧症治療ガイドライン

に結合する物質,アンブリセンタンはA型受容体にのみ結合する物質で,いずれも強力な血管収縮抑制作用がある.IPAHにも結合組織病に伴う肺高血圧症にも有効性が確認されている103).我が国でもPAH全般に対して適応がある経口薬であり,その効果は,ベラプロストより強くエポプロステノールより弱い程度と思われる. ボセンタン:62.5~125(~250)mg/日,分2 アンブリセンタン:5(~10)mg/日,分1⑤�ホスホジエステラーゼ5阻害薬(PDE5-I:シルデナフィル,タダラフィル) サイクリックGMP特異的ホスホジエステラーゼ5型に対する選択的阻害薬である.この酵素は肺と陰茎に多量に存在し,陰茎動脈を拡張することから肺の血管拡張の可能性が考えられ,実際,IPAHにも結合組織病合併肺高血圧症にも有効性が確認されている113).体血圧は低下させないが,肺動脈圧を有意に低下させ,心拍出量を増加させる. シルデナフィル:60mg/日,分3 タダラフィル:40mg/日,分1

おわりに 結合組織病に伴う肺高血圧症はその頻度が高く,しかも予後を規制する因子が見出されている.さらに発症初期から観察できる可能性があり,早期診断早期治療が望める状況である.また副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬などが治療に参画できる可能性も指摘されている.その存在に常に留意し,早期診断に努めるとともに,近年優れた薬物が使用可能となっていることを十分認識し,適切な治療が望まれる.

3 門脈圧亢進症に伴う肺動脈性肺高血圧症

要旨 門脈圧亢進症に伴うPAHは,門脈肺高血圧症:portopulmonary hypertension (POPH) として知られている18),159).これは進行した肝疾患の既往の有無にかかわらず,門脈圧亢進症に伴う肺高血圧症のことを指す17),160).POPHの病態生理はまだ十分に解明されていないが,進行したPOPHの肺動脈病変は IPAH のそれと類似している.有意なPOPHを有する肝疾患患者の予後は不良であるが,PAHに対する特異的治療薬がPOPH患者の予後を改善する報告もある.肺高血圧を有する肝移植患者も,その予後は不良であるため,肺動脈平均圧を35mmHg未満に低下させることが必要である.

①疫学,成因

 最近のフランスの研究から,POPHはPAHの中で,IPAH,結合組織病に伴う肺高血圧症,先天性心疾患に伴うPAHに次いで,4番目に多いと報告されており12),門脈圧亢進症患者の2~6%にPOPHを有すると報告されている17),160)-162).POPHの成因は IPAHと異なり,まずシャントの出現や全身血管の拡張により高心拍出状態となるため,最初は肺血管抵抗が正常である.その後,肺血管へのshear stressが増加し,肺動脈内膜肥厚・肺動脈のリモデリングを生じ,肺動脈の閉塞・狭窄を来たし,肺血管抵抗が増加,さらにその部位に微小血栓が生じることでPOPHを生じると考えられている.進行するとPOPHの組織所見では血管内膜および中膜平滑筋の肥厚,血管内腔の叢状病変,壊死性血管炎やフィブリノイド壊死,微小血栓などを認める.また,肝疾患によるシャントの形成,肝代謝の低下により腸肝循環の代謝物質(セロトニンなど)が肺循環に流入することにより,肺の血管を収縮させ肺高血圧が生じるとも考えられている159). 最近の多施設研究から,POPHの進展には女性であることと自己免疫肝炎の2つが危険因子であり163),C型肝炎の合併はPOPH進展のリスクを低下させ9),その生命予後は肝硬変の存在および重症度と心機能に関連があると報告されている164).遺伝子レベルではエストロゲンシグナルが関与しておりestrogen recepter 1に変異があると増悪しやすいとされており,さらにカルシウム結合タンパクA4 (S100A4)が過剰発現することで小動脈のリモデリングを助長し,内膜を増殖させ,肺高血圧を導くことが明らかになっている.また,ホスホジエステラーゼ5 (PDE5) の遺伝子変異もPOPHを増悪させることが報告されており,PDE5-Iであるシルデナフィルは内膜増殖の抑制・肺血管拡張を来たし,肺血行動態を改善すると考えられている165).

②予後,重症度評価

 POPHは予後不良で,最近の報告によると,POPHで治療を行わなかった場合の5年生存率は14%であり,54%の患者が診断から1年以内に死亡する166).肝移植を行わずPOPHの加療のみを行った場合の5年生存率は45%で,肝移植が行える場合,5年生存率は67%と改善する167).肝移植前に肺血管拡張薬を併用し,肺血行動態を改善した上で肝移植を行うことによってPOPHの予後が改善する可能性があるが,今後の検討が待たれる. 肝移植を行うためのPOPHの治療目標は mean PAPが

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循環器病の診断と診療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告)

35mmHg以下,かつPVRが250 dynes・sec・cm-5以下である3).これは肝移植前の mean PAPが35mmHg以上の患者は,35mmHg以下の患者に比べ有意に死亡率が高いため167),肺血管拡張療法により mean PAP が35mmHg以下にならなければ肝移植は相対的に禁忌と考えられる. 右心カテーテル検査はPOPHの重症度判定に非常に重要で168),疾患の重症度に応じて治療オプションを考慮する169)(表13).

③POPHに特異的な診断基準と治療アルゴリズム

1)診断 POPHの診断基準を表14に示す3).肝硬変では全身血管抵抗の減少とそれに伴う心拍出量の増加を認めることがあり,その場合は心拍出量の増加に伴い肺動脈圧が上昇し,PVRが低下していることになる(肺肝症候群).肺肝症候群では一般的にPVRが低下することから,PVRの上昇がPOPHの特徴といえる. 診断のためには他の肺高血圧症と同様に,経胸壁心エコーでスクリーニングを行い,右心カテーテルで mean PAP,PAWP,CO(CI),PVRを測定し,POPHを診断する.2)治療(表15) POPHに特異的な治療は肝移植である.移植前に mean PAP 35mmHg以上の場合は予後不良であるため,PHの治療目標を, mean PAPが35mmHg未満,PVRが250 dynes/sec-cm-5未満を目標とする3),170). その他の治療は他のPAHと同様であるが,IPAHに使用する薬剤に関してPOPHで使用するにあたり注意が必要な場合がある. まず利尿薬に関しては慎重に用いる必要がある.右心

不全と慢性肝疾患に伴い血管内の血液量は増加しており,利尿薬はそれを減少させることで効果を認めるが,血液量が減少することで前負荷が減少し CO が減少する可能性がある171).抗凝固療法は IPAHや慢性肺塞栓症で有効であるが,肝硬変患者では易出血性であり,特に消化管出血の可能性が高くなるためPOPHには勧められない. 前述の通り,PDE5-Iも有効で,PVRを低下させるが,シルデナフィルにより6分間歩行を1年後に改善するものの, mean PAP,PVRに関して投与1年後には改善を維持できなかった症例も報告されており172),今後検討が必要である. プロスタサイクリン(エポプロステノール)はPOPHにも効果のある治療である.中等度から重症のPOPHではエポプロステノールの静脈注射が急性期も慢性期にも肺血行動態および心負荷所見を改善する. 小規模試験ではあるが,ERAのボセンタンでPOPHの生存期間の延長と右心不全の再発減少を認め173),アンブリセンタンで血行動態を改善した試験が報告されている174). これらの血管拡張薬の併用療法は IPAHではその有効性が示されているが,POPHでの併用に関しての報告は少なく167),これも今後の検討課題である.

表13 Portopulmonary hypertensionの重症度判定因子 正常 軽症 中等症 重症WHOクラス Ⅰ,Ⅱ Ⅱ,Ⅲ Ⅲ,ⅣmPAP(mmHg) 15-24 25-34 35-44 >45Cl(L/min-1/m2) 2.5-4 >2.5 2.0-2.5 <2.0PVR(dynes/s cm-3) <240 240-500 500-800 >800RAP(mmHg) 0-5 0-5 5-10 >10予後 良 良~不良 不良特殊治療 不要 不要~必要 必要肝移植後の改善 有 有~無 無

mPAP=mean pulmonary artcrial pressure;Cl=cardiac index;PVR=pulmonary vascular resistance;RAP=right atrial pressure;OLT=orthotropic liver transplantation, POPH=portopulmonary hypertension文献169より改変

表14:Portopulmonary hypertensionの診断基準慢性肝疾患の有無に関わらず門脈圧亢進症を認める安静時平均肺動脈圧(mPAP)>25mmHg平均肺動脈楔入圧(mPCWP)<15mmHg肺血管抵抗(PVR)>240dyne/sec/cm2

the European Respiratory Society Pulmonary Hepatic Vascular Disorder Task Force 2004 Consensus Report3)

表15 門脈圧亢進症に伴うPAHに対する治療ClassⅠ 1. 肝疾患を有する,もしくは肝移植の適応のある有症状

患者において,肺高血圧症の有無を検索する目的で心エコーによるスクリーニングを行う (Level B)

ClassⅡa 1. 門脈圧亢進症に関連するPAHでは合併症を考慮しなが

ら,IPAH患者と同じ治療アルゴリズムで治療を行う     (Level C)

ClassⅢ 1.抗凝固療法 (Level C) 2.平均肺動脈圧35mmHg以上かつ/または肺   血管抵抗 250 dyne・sec・cm-5以下の有意   なPAHへの肝移植 (Level C)

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肺高血圧症治療ガイドライン

4 先天性心疾患に伴う肺動脈性肺高血圧症

要旨 先天性心疾患(CHD)に伴う肺高血圧症は,主に中等度以上の左右短絡が持続した結果生じるもので,適切な時期に根治術を行い,肺血流を正常化させれば肺高血圧は可逆的である.しかし手術時期が遅れた症例や,約1/3の症例にみられる肺血流増加の時期がないまま成長した症例では肺動脈の閉塞性病変が進行して非可逆的となる.その結果,左右短絡の減少と右左短絡の増加によるチアノーゼが生じ,この病態はEisenmenger症候群と呼ばれる.左右短絡性CHDに肺高血圧症を合併してくると肺うっ血症状が軽くなり,肺血管抵抗(Rp)が12単位 /m2以上となり,肺体血管抵抗比も1に近くなる(注:小児科領域では伝統的に肺血管抵抗を表す単位としてWood単位が用いられる場合が多い).Eisenmenger症候群の予後は10歳代から50歳代までと様々で,最後の2~3年は低酸素血症,心不全症状,不整脈が目立つ. 本項の多くは,日本循環器学会ガイドライン「成人先天性心疾患診療ガイドライン」175)と,Canadian Consensus Conferenceのガイドライン176)の肺高血圧症関連の勧告に準拠しているので参照していただきたい.

①疫学,原因

 Eisenmenger症候群はこの30年間で小児期の患者は減少傾向にあるが,手術不能のまま思春期~成人期に達した症例や,術後肺高血圧症例が散見される.心室中隔欠損(VSD),動脈管開存(PDA),心内膜床欠損(ECD),完全大血管転位,Down症候群,多脾症候群,主要体肺側副血行合併例などでは肺高血圧症が起こりやすく,心房中隔欠損(ASD)では成人までは肺高血圧症になりにくい.大きな心内短絡による肺血流増加と肺動脈圧上昇による組織学的変化は6か月前後から始まり,1歳半~2歳以後では非可逆的になる.一部の奇形症候群,例えばDown症侯群合併例や,チアノーゼに肺血流増加を伴う大血管転位では生後2~3か月から始まることがある. 病理像の特徴は,肺細小動脈と300μm以下の動脈の変化である.肺細小動脈の中膜,内膜肥厚,さらにplexiform lesion,中膜の菲薄化や動脈瘤,拡張を来たす.肺動脈病変は,Heath-EdwardsによりⅠ~Ⅳ度に分類され,Ⅳ度以上は不可逆的変化と考えられている177). 臨床経過は原因となる心疾患により異なる.大きなVSDを持つ症例の15%では幼少期にRpの上昇を来た

す.2歳までに根治手術が行われれば肺高血圧が残存することはおおむねないが,手術時期の遅れた症例では残存肺高血圧が懸念される.大きなPDAの経過はVSDと同様である.ASDでは小児期は通常正常肺動脈圧であり,20%の症例で30歳代以降に肺高血圧の進行をみることがある.欧米の報告では心エコーの評価ではあるが成人CHDの4.2%に肺高血圧が合併し,特にASDでは6.1%がPAH,3.5%がEisenmenger 症候群であったとしている178),179).

②診断方法

1)症状 軽症例では安静時は無症状で,運動時に全身血管抵抗が下がったときにのみチアノーゼが出現する.進行例では強いチアノーゼ,ばち状指,ヘマトクリット60~70%の多血症がある.右左短絡が増加しヘマトクリットが65%に達すると血液粘稠度が亢進し酸素運搬能はかえって低下し,血栓塞栓症の合併率は高くなる.その他全身に合併症がみられる19)(表16). 診察上,前胸部拍動,右室挙上がある.Ⅱ音は単一化し分裂幅は狭く,Ⅱ音肺動脈成分は亢進する.両心室圧が等しくなるため短絡性雑音は弱くなり,欠損孔が閉鎖したかと錯覚することがある.右左短絡の多くは拡張期に起こる.肺動脈弁逆流雑音(Graham Steel雑音)や三尖弁逆流雑音が聴かれ,右心系のⅣ音が聴かれることがある.左右短絡による肺血流増加による肺うっ血の症状はほとんどなくなり,右心不全や低酸素血症が目立つようになる.2)検査(表17)①胸部X線検査 肺高血圧症では近位主肺動脈,左・右肺動脈枝は太くなるが,末梢肺血管陰影は tapering,細小化,枯れ枝状を呈し,肺野が明るくなる.肺血流が多い時期には肺う

表16 成人期Eisenmenger症候群の合併症1.心血管系  不整脈,心不全,失神,突然死,感染症,心内膜炎,奇異性血栓

2.血液学的異常 赤血球増多症,過粘度症候群,低色素性小球性貧血3.出血傾向 喀血,鼻出血,生理出血4.中枢神経 脳血栓塞栓症,脳梗塞,脳腫瘍,失神5.腎臓 慢性腎炎,糸球体硬化症6.その他 高尿酸血症,痛風性関節炎,肥厚性関節炎,バチ状指

(文献19より引用)

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循環器病の診断と診療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告)

っ血像があり,末梢血管はとぐろ状に蛇行する.PDAでは心拡大はないが,ASDでは若干大きい.②心電図検査 右軸偏位,両室または右室肥大.右房負荷があれば三尖弁逆流の合併がある.③心エコー法 右房圧,右室圧,肺動脈圧上昇.前駆出時間/駆出時間比の増加.短絡血流は減少し,両方向短絡がみられるようになる.④肺血流シンチグラム 肺血栓塞栓症,肺性心の鑑別診断に有用である.⑤右心カテーテル検査 基礎疾患を確定し肺高血圧の程度を算出する.さらに酸素,一酸化窒素(NO)吸入,プロスタサイクリン(PGI2),Ca拮抗薬などの血管拡張薬への反応性をみることも有用である.

③重症度判定

 右心カテーテル検査で,肺血管抵抗が800 dynes・sec・cm-5ないし,10~15単位 /m2以上をEisenmenger化した重症肺高血圧症と定義し,8~10単位 /m2は手術境界領域の肺高血圧である.Eisenmenger 症候群になるとVSD,ASDで は15~40単 位 /m2ま で 上 昇 す る.

Eisenmenger症候群では酸素や血管拡張薬に対する反応は IPAH/HPAHに比し少ない.負荷によって肺血管抵抗が6単位 /m2以下となる症例は予後良好である(表18)180).【病理組織像】 一般的にはHeath-Edwards分類48)(Ⅰ-Ⅳ度)(表19)に従い判定するが,Ⅳ度以上は非可逆的である.Heath-Edwards分類Ⅲ度以上は手術禁忌とされ,肺小動脈内腔の閉塞と,末梢血管の中膜の肥厚の退縮所見は絶対的禁忌である.重症例(Heath-Edwards分類Ⅳ-Ⅴ度)では一度閉塞した肺細小動脈の近傍に拡張した壁の薄い側副血行路が形成され,出血しやすく,喀血の原因となるため抗凝固薬の使用は危険である19).Heath-Edwards分類Ⅳ-Ⅵ度は中膜壊死,拡張病変,叢状病変が混在し,八巻はこれを一括して肺小動脈に壊死破壊を認めるものとして分類している.手術適応の境界例では肺生検により,Index of Pulmonary Vascular Disease(八巻)を参考にして,その scoreから手術適応を決定する場合もある177).

④治療方針

1)内科治療(表20) 特異的PAH治療薬の投与はQOLを改善し,有効であ

表17 一般検査Ⅰ.血液検査1 血算,生化学,尿一般,血液型,感染症スクリーニング2 血液凝固(PT,aPTT,トロンボテスト,第Ⅷ因子,von

Willebrand抗原,アンチトロンビンⅢ,プロテインC,プロテインS,フィブリノゲン)

3 血管作動性物質(hANP,BNP,エンドセリン -1,アドレノメジュリン,TXB2,6-keto-PG F1 α)

4 甲状腺機能検査5 膠原病の検査(赤沈,免疫グロブリン,血清補体価,抗核抗体,抗DNA抗体,抗RNA抗体,抗セントロメア抗体,抗リン脂質抗体,リウマチ因子など)

Ⅱ 画像6 胸部X線検査7 肺(換気)・血流シンチグラフィー8 心筋シンチグラフィー・心プールシンチグラフィー9 胸部CT検査および心臓MRI検査Ⅲ 生理検査10 12誘導心電図検査11 運動負荷心電図,24時間ホルター心電図12 心エコー法13 経皮酸素飽和度モニタリング(労作時,睡眠時を含む)14 6分間歩行テスト(酸素吸入あり・なし)15 肺機能検査16 心臓カテーテル検査

表18 肺高血圧症に対する心臓カテーテルでの負荷試験急性負荷試験

a 酸素吸入:純酸素(100%O2),10~15L/分を10~15分吸入させ,各循環諸量を測定.

b 肺血管拡張薬の負荷テストNO吸入,ATP,プロスタサイクリン投与により,可逆性の有無が検索できる.

c 判定基準  平均肺動脈圧が10mmHg以上低下して40mmHg以下となり,かつ心拍出量は変化なしあるいは増加する場合を良好な反応と定義する.  負荷試験によりRpが6単位・m2以下になる症例は予後が良好である.

文献180より引用

表19 Heath-Edwards分類Ⅰ度 : 肺小動脈の中膜筋層の肥厚Ⅱ度 : 肺小動脈の内膜の細胞増殖により内腔狭小化

(Ⅰ,Ⅱ度は可逆的,Ⅲ度以上は非可逆的)Ⅲ度 : 内膜の細胞増殖がさらに繊維化し内腔が狭くな

った状態Ⅳ度 : 小動脈の拡張性病変,血管腫状変化Ⅴ度 : 糸球体様変化,内腔閉塞,叢状変化Plexifrom lesion

拡張病変Ⅵ度 : 壊死性動脈炎

(Ⅳ,Ⅴ度では血管壁の希薄な側副血行路,肺動脈瘤が形成される)

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肺高血圧症治療ガイドライン

る可能性があるが,有用性を断定できるランダム化比較試験は多くない.CHDに伴う肺高血圧症の治療は,IPAH/HPAHと同様に肺血管拡張薬+抗心不全療法である.抗血小板薬,抗凝固薬は,出血傾向が助長されるために慎重に投与すべきである.NYHA/WHO Ⅱ度以下では,経口薬にて管理することが可能であり,Ⅲ~Ⅳ度ではエポプロステノール持続静注療法も考慮する.①エポプロステノール(プロスタサイクリンI2:PGI2) 肺高血圧を合併したCHDに対してもエポプロステノール持続静注療法は,平均肺動脈圧(-21%),心係数(+69%),肺血管抵抗値(-52%),NYHA/WHO機能分類(-31%),6分間歩行距離(+13%)での改善の報告がある181).経口PGI2薬(ベラプロスト)も承認されている. 皮下注薬・吸入薬は臨床試験中である.②エンドセリン受容体拮抗薬 BREATH-5試験とその延長試験182)では高い有用性が確認されている.③PDE5阻害薬 SUPER-1試験でPAHに対するシルデナフィルの有用性は証明され113),Eisenmenger症候群へのタダラフィルの効果も証明されている183).④併用療法 単一製剤による治療よりも併用療法が現時点では優れているとは必ずしも言い難い19). 瀉血はHt>65%か,症状のある患者に行うことがあるが,貧血に注意する.最近は有用性に乏しいとの意見も多い.心臓外科手術前には1~2単位の瀉血が推奨される104).2)外科治療(表21) 先天性心疾患に伴う肺高血圧症に対する根治術は,適切な時期に手術を行えば正常化するが,Eisenmenger症候群となった重症肺高血圧症では禁忌である(ClassⅠ,

Level B).境界肺高血圧症例,手術時期が遅れた症例では,術後に肺血圧が十分に低下しなかったり,数年後の遠隔期に再度肺高血圧症を発症することがある184)(ClassⅠ,Level B).軽症例では内科的治療の方が予後はよいとされる.【肺・心肺移植(ClassⅠ,Level�C)】 根治術の適応がないと考えられる症例で,肺,心肺移植の禁忌事項のない症例で考慮される.移植の informed consentが必要であり,脳死肺移植か生体肺葉移植についての適応を決定する.修復可能な心内奇形に対しては,先天性心疾患に対する心内修復術と,片肺または両肺移植の同時手術が行われる.修復不可能な心奇形症例,左心不全合併例に対しては心肺移植の適応が検討される185),186).

⑤日常生活管理

 日常生活においてもEisenmenger症候群では表22に示す病状悪化因子に注意する.また,生活制限上で注意すべきことがある(表23)4),187).1)妊娠,出産の問題(ClassⅢ,Level C) 基本的には,Eisenmenger症候群では妊娠分娩は禁忌である.一般的な心疾患ではNYHAⅠ,Ⅱ度が対象となるが,心不全増悪,母体死亡の可能性がある.肺高血圧症のない左右短絡性疾患は low riskであるが,チアノーゼを呈しているCHD(Fallot四徴,Eisenmenger 症候

(ClassⅠ,Level B)a)心房中隔欠損(ASD)  ASDではQp/Qs>1.3で,Rp 14単位・m2以下は手術適応とする.

  Rp/Rs>0.85なら適応なし.0.5<Rp/Rs<0.85なら,酸素負荷,薬物負荷への反応性,肺生検所見などを参考にして決定.

 Rp/Rs<0.5以下は適応.b)心室中隔欠損(VSD)  肺高血圧のあるVSDでは生後9か月までに,根治術を施行することが望ましい.

 Qp/Qs>1.3で,Rpが8~10単位・m2以下は手術適応.  Rpが上昇している症例では,トラゾリン負荷または酸素負荷でRpが7単位・m2以下となる症例は手術適応.  安静時,運動時に明らかな右左短絡のあるEisenmenger症候群は手術禁忌.

c)動脈管開存 左右短絡を有していれば手術適応とする.

d)大血管転位  肺高血圧を合併する完全大血管転位では生後3か月までに手術を済ませることを目標とする.

(Qp:肺血流量,Qs:体血流量,Rp:肺血管抵抗,Rs:体血管抵抗)

表21 肺高血圧を合併した先天性心疾患の根治術の適応

表20 Eisenmenger症候群に対する治療ClassⅠ 1.NYHA/WHO Ⅲ度へのボセンタン (Level B)ClassⅡa 1.その他のERA,PDE5-Ⅰ,PGI2 (Level C) 2.喀血(-)で肺血栓や心不全のある人   への抗凝固療法 (Level C) 3.酸素投与によりSaO2が上昇し,症状軽快  例への酸素投与人 (Level C) 4.Ht>65%で過粘稠により症状がある例での   瀉血 (Level C)ClassⅡb 1.併用療法 (Level C)ClassⅢ 1.カルシウム拮抗薬 (Level C)

文献4より引用一部改変

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循環器病の診断と診療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告)

群)では,母死亡30~70%,胎児死亡28~50%との報告もある.分娩後数日以内に死の転帰をとることが少なくない.その他早産,胎児発育不全,未熟児,感染症,育児の負担,心理的社会的問題がある.2)心以外の手術,麻酔 全身麻酔は血管拡張を来たし,右左短絡を増強する.循環血液量の減少は,低血圧,低酸素血症,血液濃縮を増強するので,十分な補液管理を必要とする.

⑥長期予後

 肺高血圧症を伴ったCHDの死因は主に,低酸素血症と不整脈で,心内膜炎,脳膿瘍,脳血管障害,肺梗塞,肺出血,喀血にも注意する.その他,多血症,貧血,血小板減少,溶血,DIC,脳血栓,塞栓,中枢神経異常,痛風,高尿酸血症,慢性腎炎,関節炎,変性を伴うばち状指,歯肉炎などもみられる.突然死もあり,一般的な予後は15~60歳,平均45~50歳と幅がある.また高いRpで高年齢で根治手術をした症例では,遠隔期にも肺高血圧が発症することがある.

5肺静脈閉塞性疾患(pulmonary veno-occlusive disease: PVOD)および/または肺毛細血管腫症(pulmonary capillary hemangiomatosis: PCH)

要旨 Pulmonary veno-occlusive disease (PVOD)とpulmonary capillary hemangiomatosis (PCH)は,肺静脈や毛細血管の異常に伴って肺高血圧症を呈する疾患であ

る.特徴的な臨床所見とPAH治療薬による肺水腫の危険性,予後不良であることなどから,ダナポイント分類では1’群と定義された.確定診断は病理組織所見によるが,両者の鑑別は必須ではなくPVOD/PCH疑診例と判断することが重要である.

①疫学,成因

 PVOD/PCHはこれまでに約200例が報告されている.以前は非常に稀とされていたが,臨床的に IPAHと診断された剖検例の約10%に認められたとの報告もある.発症に男女差はなく,PVODは人口100万人あたり0.1~0.2人程度,多くは50歳代までに発症し,PCHは診断時平均年齢28.8歳である.予後は極めて不良で症状発現から約2年で右心不全や呼吸不全で死亡する.急速に悪化し数か月で死の転帰をとることも多い188),189). 原因は不明だが,PVODではウイルス感染や喫煙,抗癌薬や骨髄移植との関連が指摘されている.PVOD例でのBMPR2遺伝子異常が報告されており190),PVOD/PCHいずれにも家族発症例があることから,何らかの遺伝子異常の関与も推測される.PVODの病理組織像では膠原線維に富んだ線維性組織による肺細静脈の狭窄と閉塞が広範に認められる.PCHでは多層性に増殖した毛細血管が正常構造部分を破壊し浸潤する.

②診断

 初発症状は労作時息切れ,呼吸困難が多い.PAHに比較して安静時の酸素飽和度の低下や軽労作時の著明な低下が目立ち,拡散能が低値であることは診断に有用である.胸部単純X線では間質影の増強,Kerley B lineがみられる.HRCTでの胸膜直下の小葉間隔壁肥厚,小葉中心性のground glass-opacity,縦隔リンパ節腫大の3徴候が診断に有用である191).肺換気─血流シンチグラムでは,亜区域性の血流欠損を認める.

③治療

 PVOD/PCHともに確立された内科的治療法はなく,根本的な治療法は肺移植のみである21). PAH治療薬のPVOD/PCHに対する有効性は確立していない.エポプロステノールなどの血管拡張薬は肺水腫の危険性から禁忌と考えられてきたが,低用量エポプロステノールの慎重投与が移植へのブリッジ治療として有用である可能性がある192).疑診例では早期に治療経験の豊富な施設との連携を図り,希望があれば肺移植登録を行う.

表22 Eisenmenger症候群病状悪化因子(Level C,ClassⅢ)妊娠,全身麻酔,脱水,大量出血,貧血,非心臓手術,心臓手術,不適切な薬物療法(血管拡張薬,利尿薬,経口避妊薬の一部,抗血小板薬,抗凝固薬),心臓カテーテル検査,運動負荷検査,空気フィルターのない静脈ライン,長時間の座位,高地訪問,肺感染症,喫煙

表23 日常生活上の制限

a) 激しい運動,長い階段の昇降,学校の体育は原則として禁止

b) 高地での滞在,旅行,航空機搭乗は避けるか,酸素の携帯が勧められる

c) 学童心臓検診の心臓病管理区分表では,Ⅰ,Ⅱ区分で,C以下となることが多い.

d) 妊娠・出産は禁忌.経口避妊薬も使用すべきではない.e) 感染予防 細菌性心内膜炎の予防のため歯科処置,手

術に際しては抗菌薬の投与が必要.f) 低酸素血症が強い場合は安静時でも,SpO2<92%なら

在宅酸素療法を行う.

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肺高血圧症治療ガイドライン

6 新生児遷延性肺高血圧症要旨 新生児期の肺高血圧症で最も頻度が多い疾患として,新 生 児 遷 延 性 肺 高 血 圧 症(persistant pulumonary hypertention of the newborn: PPHN)がある.PPHNは新生児期に限定された急性疾患であり,多くは原因となる疾患が存在する.近年PPHNに対し一酸化窒素(NO)吸入療法の有効性が認められ保険適応となった.

①疫学・成因・病態

 PPHNの発生頻度は1~2/1,000出生といわれ,早産児より正期産児,過期産児に多い193).原因疾患として明らかな肺病変を認めない一次性PPHNと二次性PPHNがあり,頻度は圧倒的に後者が多い.二次性PPHTNの原疾患としては,①肺実質病変(胎便吸引症侯群,呼吸窮迫症候群,先天性肺炎,気胸,dry lung syndrome),②肺血管の発達異常(横隔膜ヘルニア,肺低形成,alveolar capillary dysplasia),③出生時の適応障害や組織還流異常,④子宮内での動脈管早期収縮(非ステロイド抗炎症薬:NSAIDsなどによる)がある194). PPHNの基本病態は肺小動脈の中膜肥厚である.遷延性の肺血管抵抗の上昇は右室圧の後負荷と酸素需要を増加させ,心筋に対する虚血性障害と乳頭筋壊死,三尖弁逆流を引き起こす.心室中隔は左心室に偏位し,心拍出量も低下する.

②PPHNに特異的な診断手順

 呼吸障害やチアノーゼなど極めて重篤な臨床症状を示し,先天性チアノーゼ性心疾患との鑑別が必要である.高濃度酸素負荷テストを実施するとPaO2レベルが100mmHgを超えるとPPHNの可能性が高い.確定診断は心エコーによりチアノーゼ性心疾患を除外した上で,動脈管や卵円孔レベルでの右左短絡を証明することである(ClassⅠ)194).多くは人工呼吸管理中であるため,右心カテーテル検査などの侵襲的検査はむしろ有害である.

③重症度評価

 酸素化の指標として酸素指数(oxygenation index:OI)や肺胞─動脈血酸素分圧較差(A-aDO2)がある.OIが広く用いられている. OI={MAP×FiO2/PaO2}×100.  MAP=(PIP-PEEP)×Ti/(Ti+Te)+PEEP MAP:平均気道内圧, PIP :最大吸気圧,PEEP:終末呼

気圧,Ti:吸期時間, Te:呼気時間

④治療(表24)

 肺血管抵抗を下げ,かつ体血圧を正常に保つことにつきる.原疾患そのものの治療とアシドーシスなど破綻した代謝的異常の補正が不可欠である.1)人工呼吸療法 通常の人工換気の他,過換気療法,特に高頻度振動換気が効果的である193).人工呼吸の際にわずかな誘因で肺血管が攣縮することから,ミダゾラムなどの鎮静剤や臭化ベクロニウムなどの筋弛緩薬,フェンタニールなどの麻薬静注も考慮する.2)体血圧の管理 相対的に体動脈圧を上げる目的でカテコラミンの持続静注も有効である.volume expansion(輸血など)も低血圧時に有効である195).3)NO吸入療法 NOの登場はPPHNの治療を飛躍的に向上させた.投与経路が吸入療法であるため,選択的に肺血管拡張作用をもたらし,PPNHに対する特効治療として最も期待できる.2010年より新生児PPHNに対して保険適応となった.NOは人工呼吸器回路に接続し,吸入NO濃度とNO2濃度をモニターしながら20ppmで開始し,5ppm程度の有効最低量で維持する.採血によるメトヘモグロビン血症のチェックと環境汚染としてのNO2のモニタリングが必要である.図9にNO吸入療法の使用法を示した.4)その他の血管拡張薬①エポプロステノール PPHNについてエポプロステノールの大量療法(30~120ng/kg/min)の有効性を述べた報告がある196).

表24 新生児遷延性肺高血圧症に対する治療ClassⅠ 1.NO吸入療法 (Level A)

ClassⅡa 1.人工換気,過換気療法,高頻度振動   換気 (Level A)

ClassⅡb 1.エポプロステノール (Level B) 2.シルデナフィル (Level B) 3.膜型人工肺 (Level B) 4.鎮静剤(ミダゾラムなど),筋弛緩薬   (臭化ベクロニウムなど),麻薬静注   (フェンタニールなど) (Level C) 5 カテコラミン持続静注,volume expansion (Level C)

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循環器病の診断と診療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告)

②シルデナフィル PPHNに対するシルデナフィルはプラセボに比べ救命率が格段に上昇したとの報告がある197)-199).③膜型人工肺  (extracorporeal membrane oxygenation: ECMO) 前記の治療が無効で低酸素血症が持続する場合に適応と な る.OIが35ま た は40以 上200), ま たA-aDO2が600mmHg以上が4時間以上持続するような重症例はECMOを考慮する183).

⑥予後

 原疾患にもよるが,治療が奏功すると治癒可能な疾患でもある.ECMOを必要とするような肺炎,MASの合併したPPNHや特発性のPPHNの生存率は76~93%であるが,ECMOを必要とする横隔膜ヘルニアによるPPHNは生存率が低く60%程度である201).

7 肺動脈性肺高血圧症の外科治療

①心房中隔裂開術

 卵円孔開存を合併する IPAH/HPAHは,非合併例より予後がよいことから,本手術法が発想された202).心房中隔裂開術の手術死亡率は13%,30日生存率は82%とされるが,成績は報告によって一定していない.SpO2<80%の例,高度右心不全例は死亡率が高い.本法は他に採用し得る治療法がないか,他のすべてに治療に反応しない場合に限定すべきとされている203).我が国では肺高血圧症に対する実施例の報告はほとんどない.

②肺移植

 あらゆる内科的治療に反応しないNYHA のⅢ~Ⅳ度の患者例が移植適応と考えられる(表25)185).欧米では,IPAH/HPAH は肺移植適応疾患の3.3%と報告されている204).肺移植の術式には片肺移植,両肺移植,生体肺葉移植がある.IPAH/HPAH に対する肺移植は,90%以上が両肺移植で,本法が標準術式となりつつある.海外の報告では,5年生存率は通常50%であるが周術期の死亡率も約20%に達する. 我が国の肺移植では2011年4月までに204例が報告されている.生体肺移植が105例,脳死肺移植が99例で, IPAH/HPAH は43例(21.1%)であった.これらの 5年生存率は79.4%で,他疾患に対する肺移植と同等であった.周術期の死亡率は約15%であった.2008年の報告では IPAH/HPAH に対する生体肺移植は25例,3年生存率は85.4%で脳死肺移植より成績は良好であった205). 我が国では肺移植を希望する IPAH/HPAH 患者は,専門医によってエポプロステノールを含めた可能な限りの内科的治療を受け,その上で移植認定施設での適応検討,中央肺移植検討委員会で承認を受けた後,日本臓器移植ネットワークに登録される手順となっている.生体肺移植に関しては,移植認定施設の判断に委ねられる. 国際心肺移植学会によるガイドラインは下記のとおりである.

③心肺移植

1)適応疾患 移植以外では救命ないし延命の期待が持てない以下の重症疾患である① 不可逆的心機能低下を伴う IPAH/HPAH:心機能低下がどの時点で不可逆的なるかという閾値はまだ知られていないため,施設ごとに基準が異なっている3).総じて,左室駆出率が35もしくは45%未満206),致死的な不

表25 肺移植のガイドライン【肺移植相談のガイドライン】①  可能なかぎりの内科的治療にもかかわらずNYHA3度以上

② 急速な病状の進行

【肺移植適応のガイドライン】①  可能なかぎりの内科的治療にもかかわらずNYHA3度以上

② 6分間歩行距離が350m未満③ エポプロステノールの持続点滴に不応④ Cardiac index(CI)<2.0L/min/m3

⑤ 中心静脈圧>15mmHg

NO 20ppmより開始

酸素化の改善(+)

4時間以降

PaO2>60mmHg or SpO2>92%

NO 5ppmに減量

PaO2>70mmHg NO 5ppmを維持FiO2 0.4~ 0.6まで減量

臨床的に安定 NO 徐々に減量終了前には FiO2を 0.1増量してもよい

酸素化の改善(-)

NO開始後 PaO2上昇20mmHg以下・肺胞リクルートメント・ECMO導入を考慮

NO 20ppm以上には上げない

図9 NO吸入療法のプロトコール(アイノフロー®の添付文書より)

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肺高血圧症治療ガイドライン

整脈が認められる場合には,肺移植ではなく,心肺移植の適応と考える.② 肺高血圧を伴う先天性心疾患(Eisenmenger症候群)で外科的修復が困難か,心機能低下を伴うもの:心機能が保たれていて,先天性心疾患を修復可能な場合には,両側肺移植または片肺移植と先天性心疾患修復の併用手術の適応となる.一方,心内修復の際に大動脈遮断が1時間以上かかることが予想されるような複雑心奇形(両大血管右室起始症,完全大血管転位など)や,Fontan型手術しかできない先天性心疾患(単心室など)は心肺移植の適応となる207)-209).ただし,subaortic VSDを伴った両大血管右室起始症などは,術者の判断によって心内修復と両側片肺移植の適応となる210),211).提供臓器数のことを考えなければ,Eisenmenger症候群では,VSDでも心肺移植の方が肺移植より予後がよいと報告されており,今後も適応基準には変遷があると考える212).2)適応基準 内科的治療が発展したため,本症で肺または心肺移植の適応となる症例は減少した3),213).本症の余命を予測することは困難であるが,25%程度に移植を考慮する症例があると報告されており42),185),表26の①~⑤に示すような条件を満たすようになれば,2年以内に死亡する確率が増加すると考えられているので214),以下のような条件が揃ってくれば,適応評価を検討する. 我が国では,年齢は55歳以下が望ましいとしている.以上の医学的基準に加えて,移植手術を本人,家族が十分理解し,これに積極的な態度を示すとともに家族からの経済的,精神的な援助が期待できるかなどの,社会的,精神的な評価も重要である. 一方,移植の成績を損なわないように多くの適応除外条件が具体的に設けられている(表27).具体的には,肝臓,腎臓の不可逆的機能障害,活動性,全身性感染症,薬物依存症,悪性腫瘍,HIV抗体陽性などがあり,相対的除外条件として,肝臓,腎臓の可逆的機能障害,活動性消化性潰瘍,合併症を伴ったインスリン依存性糖尿病,高度胸郭変形や胸膜に広範な癒着や瘢痕,高度筋・神経疾患,極端な低栄養または肥満,リハビリテーションが行えない,その能力が期待できない症例,本人および家

族の理解と協力が得られない,精神社会生活上に重要な障害などがある.また,肺移植レシピエント選択の国際ガイドライン215)では,HB抗原陽性例,肝生検で肝疾患を認めるHCV陽性例も禁忌とされている.

2 左心疾患による肺高血圧症

要旨 肺高血圧症例の中で,肺静脈圧の上昇が原因となる肺高血圧症は,ダナポイント分類では左心疾患による肺高血圧症と命名された.本症の症例数は肺高血圧症の中で一番多いと想定され,さらに左室の収縮不全,拡張不全,弁膜症の3群に亜分類され,ニース会議では,これに先天性/後天性の左心流入路/流出路閉塞が追加された.これらの左心不全による肺高血圧症の予後は不良であることが知られているが,疫学情報は現在も十分ではない.左心疾患による肺高血圧症では,肺高血圧症は存在するが,肺動脈楔入圧も高いため,計算上の肺血管抵抗は低いものの一部の例で肺血管抵抗が著明に上昇していることがある.左心疾患による肺高血圧症に対する治療は,その原疾患に対する治療が優先される.本症に対するPAH治療薬の臨床試験では,十分な治療効果は得られていない.

①機序

 様々な左心疾患により肺静脈性肺高血圧がもたらされる.肺静脈性肺高血圧の原因となる左心疾患はまず左心不全をはじめとする左室充満圧の上昇を来たす疾患,僧房弁狭窄症や左房粘液腫のように左室の流入が障害され左房圧の上昇を来たす疾患などがある.左心疾患による

表26 心肺移植の適応① 心不全(右・左単独,両心不全の場合あり)②  最大限の内科的治療によってもNYHA/WHO機能分類:Ⅲ~Ⅳ度の場合

③  臓器障害(肝腎機能障害)が認められるようになった場合

④ 難治性の致死的不整脈⑤ 頻回の喀血(気管支動脈栓塞術無効例)

表27 心肺移植の適応除外条件1)絶対的除外条件  a)肝臓,腎臓の不可逆的機能障害  b)活動性,全身性感染症  c)薬物依存症(アルコールおよびニコチン依存症を含む)  d)悪性腫瘍  e)HIV抗体陽性

2)相対的除外条件  a)肝臓,腎臓の可逆的機能障害  b)活動性消化性潰瘍  c )合併症を伴ったインスリン依存性糖尿病  d)高度胸郭変形や胸膜に広範な癒着や瘢痕  e )高度筋・神経疾患   f )極端な低栄養または肥満  g) リハビリテーションが行えない,またはその能力が

期待できない症例  h)本人および家族の理解と協力が得られない   I )精神社会生活上に重要な障害

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循環器病の診断と診療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告)

肺高血圧の作用機序を図10に示した216). まず,左心不全は左室収縮機能の低下に基づく心不全と左室収縮機能の保持された心不全に分けられるが,原因にかかわらず左室充満圧は上昇し,その結果左房圧も上昇する.僧房弁狭窄症や左房粘液種では,左室への血液流入障害があるため左室充満圧の上昇はないが,やはり左房圧は上昇する.上昇した左房圧は肺静脈から肺毛細血管を介して肺動脈系に伝搬され,肺動脈圧は上昇する.この段階では肺高血圧は可逆性で,治療により左房圧が下がれば肺動脈圧も低下する.しかしこの状態が長期にわたり持続すると,肺動脈の反応性収縮が起こり肺高血圧が悪化する.さらには肺動脈のリモデリングが起こり解剖学的変化を来たすと,肺高血圧はさらに進行し,肺高血圧はもはや不可逆性となってしまう.このような状態は以前は“out of proportion”,つまり,肺静脈圧の上昇では説明のできないほどの肺高血圧を来たした状態と言われ,原疾患の治療を行っても肺高血圧は改善せず,弁置換後,心臓移植後の右心不全につながってゆく. 左房圧の上昇を来たす左心疾患のうち,収縮性心膜炎では例外的に肺動脈圧の上昇は肺静脈圧を反映しない.収縮性心膜炎では右心系の充満圧も左心系と同様に上昇するため,左心系充満圧の肺動脈への伝搬は起こらない.また1回拍出量の低下に伴い右室の発生圧は低いため,右室拡張期圧+右室発生圧で決定される肺動脈収縮期圧は上昇しない.

②疫学,原因

 肺高血圧症全体の原因として最も多いものは,実は左心疾患に起因する肺静脈性肺高血圧である.我が国にお

ける明らかな統計はないが,欧米の統計では左心機能不全患者の26~80%に肺高血圧を合併すると報告されている217)-219).我が国の心不全患者は100万人を超えると推定され,そのほとんどが左心不全であることを考慮すると,肺静脈性肺高血圧を伴う患者数は実はPAH患者数をはるかにしのぐ.最近増加している,左室収縮機能の保持された心不全(拡張期心不全または拡張性心不全)においても,肺高血圧症は高頻度に合併する219),220).自治医科大学さいたま医療センターに2010年に心不全で入院した患者計125名のうち,心エコーデータの揃っている99名の解析では 収縮機能の低下した(LVEF<40%, n=67)心不全患者の43%,左室収縮機能の保持された(LVEF>40%,n=32)50%に推定肺動脈収縮期圧35mmHg以上の肺高血圧がみられている. さらに肺高血圧は,心不全の予後悪化要因であることも1992年のAbramson の報告以来多くの研究によって明らかにされている217),218),221).過去の多くの報告は左室収縮機能の低下による心不全についてのものであったが,左室収縮機能の保持された心不全においてもやはり不良な予後の予測因子であることがLamによって最近報告され219)注目を集めている. 本群に属する肺高血圧症例の疫学については,まだ十分な資料はない.左心不全による心臓移植待機患者では,肺血管抵抗>3.5 Wood単位を肺高血圧症とすると,その頻度は19~35%との報告がある222),223).また別の報告では28か月の追跡期間で,中等度の肺高血圧合併例の死亡率は57%であったのに比して,肺高血圧非合併の心不全例では17%であった224).心不全例で肺高血圧合併例の予後は不良と報告されている.

③診断方法

 左室収縮機能低下に基づく心不全および左室拡張機能障害に基づく心不全の診断については『慢性心不全治療ガイドライン(2010年改訂版)』(慢性心不全治療ガイドライン)を参照されたいが,要約すると左室収縮機能低下に基づく心不全は心エコーなどで比較的診断が容易であるが,しばしば診断に困るのは左室収縮機能の保持された,つまり左室拡張機能障害に基づく心不全である.このタイプの心不全の診断はまず症状やBNPから心不全が疑われるが,左室駆出率が40~50%以上であることから始まる.この中から心不全と類似の非心臓疾患を除外したのち,先天性心疾患,心臓弁膜症,高拍出性心不全,心膜疾患,そしてPAHなどの基礎心疾患を除外した上で,心エコー・ドプラー検査における拡張期左室血液流入パターン,肺静脈環流パターン,および僧帽弁

図10 左心疾患に伴う肺高血圧症の発症機序

さらなる肺動脈圧の上昇と可逆性の消失

左室収縮機能不全 左室拡張機能不全

左室充満圧障害

僧帽弁狭窄症左房粘液腫瘍

左室流入障害

左房圧上昇

肺動脈圧上昇

肺動脈収縮およびリモデリング

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肺高血圧症治療ガイドライン

輪組織ドップラー,左房径または左房容積,BNP(またはNT-Pro BNP),右心カテーテルで実測した肺動脈楔入圧などから拡張機能障害の診断を確定してゆくことが推奨されている. 左心疾患による肺高血圧のほとんどは肺静脈圧の上昇に見合った程度のものであるが,なかには左心不全に伴う肺静脈圧の上昇のみでは説明しきれないほどの肺高血圧つまり“out of proportion”の肺高血圧を有する左心不全患者が存在する.肺静脈性肺高血圧では trans-pulmonary pressure gradient(TPG: 平均肺動脈圧─平均肺動脈楔入圧)は12mmHg を超えない.TPGが12mmHgを超える場合には肺動脈そのものに起因するPAHの要素が加わっていると考えられる.このようなTPG上昇例は心不全に対する一般的治療に応じた肺動脈圧の低下が得られなかったり,心臓移植術後の右心不全の遷延さらには予後の悪化につながることなどから問題となる.過去の報告をみるとPVR>2.5 Wood unit , TPG>15mmHgは術後の不良な予後の予測因子と考えられる225)-228).一方ニトロプルシドなど血管拡張薬に対する血管反応性試験により,PVRが2.5 Wood unit以下となる症例では移植後の予後が良好であるとの報告もある223).右心カテーテルによる肺血管拡張試験は左心疾患に基づく肺高血圧に対してはルーチン検査として推奨されないが,心臓移植術前患者においては,上記のように予後予測にある程度有効であるので推奨されている. なお我が国の心臓移植の適応基準の除外条件として肺高血圧症(肺血管抵抗が血管拡張薬を使用しても6 Wood単位以上)が挙げられている(日本循環器学会心臓移植委員会.心臓移植の適応. http://plaza.umin.ac.jp/~hearttp/).

④治療(表28)

 左心疾患による肺高血圧を是正するためにはまず原因となっている左心疾患の治療が先決である.左室機能不全が原因と考えられる場合には慢性心不全治療ガイドラインに準拠した心機能不全の治療が優先される.左室収縮機能不全に基づく心不全がある場合にはうっ血を軽減するための利尿薬,予後改善を目的としたACE阻害薬(ACE阻害薬に忍容性がない場合にはARB),β遮断薬,アルドステロン拮抗薬(NYHAⅢ度以上の心不全がある場合)である.非薬物治療としてはCRT,ICD,和温療法,合併する睡眠呼吸障害治療,心臓移植などが推奨される.利尿薬による短期的な水分,Na貯留の是正とエビデンスに基づいた心保護薬や非薬物療法による左室

リモデリングの逆行は,左室充満圧を低下し肺動脈圧の低下をもたらす.左室拡張機能不全基づく心不全においては,うっ血を軽減し左室充満圧を下げるためにはやはり利尿薬が必要であるが,予後自体を改善する薬剤は未だ明らかとなっていない. 僧帽弁狭窄症をはじめとする弁膜症,左房粘液腫に対してはそれぞれのガイドラインなどの治療指針に従ったPTMC,弁形成術,弁置換術が適応される.弁膜症における肺高血圧の合併は,自覚症状の有無にかかわらず病態の進行を意味し,ガイドラインにおいて積極的治療が推奨されている(循環器病の診断と治療に関するガイドライン[2006年度合同研究班報告]弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン[2007年改訂版]).一般にPTMC,弁置換術などの治療に伴い,僧帽弁狭窄症患者の肺動脈圧は低下する229)-233)が,肺動脈系に解剖学的変化を来たしている症例ではPAHの要素が加わり術後も肺高血圧が持続することがあることは古くから知られている234),235).

⑤ 左心疾患による肺高血圧に対する肺動脈性肺高血圧治療薬の治療

 肺高血圧を伴う心不全患者を対象としたPAH治療薬の臨床試験では,あまり目立った成果は得られていない.例えばプロスタノイドであるエポプロステロールを用いたFIRST試験ではNYHAⅢb/Ⅳの左室収縮機能低下に基づく比較的重症心不全患者が対象となり,血行動態は改善したものの予後は悪化する傾向にあり早期に打ち切られた236).またエンドセリン受容体拮抗薬については,Reach 1試験では,やはりNYHAⅢB/Ⅳ度心不全患者が対象のボセンタンとプラセボの比較が行われたが,ボセンタンの肝障害のために早期中止となった237).300名の重症心不全患者を対象としたEnable 1試験では,ボセンタンの目的用量1日500mg 投与で開始後1か月目の

表28 左心疾患に伴う肺高血圧症の治療Class Ⅰ 心不全治療ガイドラインに基づいた心不全自体の治療           (エビデンス Level C) 弁膜症治療ガイドラインに基づいた弁膜症の治療           (エビデンス Level C)Class Ⅱb 運動耐容能およびQOL改善を目的としたシルデナフィル           (エビデンス Level B)

Class Ⅲ 予後改善を目的としたエポプロステノール           (エビデンス Level C) 予後改善を目的としたボセンタン           (エビデンス Level C)

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循環器病の診断と診療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告)

心不全の悪化は増加傾向にあり238),Enable 2試験ではさらに症例数を増やし(1,613人),ボセンタンの目標用量も1日250mgに減量されたが,一次エンドポイントである総死亡または入院は減少せずむしろ早期の心不全悪化による入院が増加した239).他のエンドセリン拮抗薬については,急性非代償性左心不全を対象とする静注enresentanを用いたEncor試験では,血行動態の改善は得られたが有害事象が増加し240),NYHA Classは悪化の傾向を示し,darusentanのEARTH試験では左室リモデリング,入院,死亡率に対する改善効果は示されなかった241). 一方NO-cGMPシグナル伝達系に作用する薬剤についての臨床試験も行われている.Lewisらは小数例でシルデナフィルが心不全患者の運動耐容能を改善することを報告している242).Behlingも1か月のシルデナフィル投与でpeak VO2が21%改善したと報告している243).最近ではGuazzらがNYHAⅡ度,Ⅲ度の心不全患者45名で,1日150mgのシルデナフィル投与により運動耐容能のみならず拡張機能も改善することを報告している244).しかしながら,PDE 5阻害薬が左心不全患者の臨床アウトカムを改善するかどうかについては未だ明らかになっていない.一方,cinaciguatをはじめとする可溶性グアニル酸シクラーゼの刺激薬や,活性化薬も左心疾患による肺高血圧症に試みられている.僧帽弁術後の遷延する肺高血圧にも肺動脈拡張薬を試みた報告があり245),Trachteらは小数例の肺高血圧を伴う弁膜症術後患者にシルデナフィルを用いて有効であったと報告している246). いわゆるout of proportion症例については,このような肺動脈拡張作用を有する薬剤は有効である可能性があるが,肺高血圧を伴う左心不全全体についてみると,明確なエビデンスは未だ構築されていない状況である.今後さらに肺血管収縮を軽減する薬剤の心不全治療への可能性が検討されるべきで,そのためには綿密に計画され,臨床アウトカムを指標とした臨床試験が必要である.

3 肺疾患および/または低酸素血症による肺高血圧症

1 慢性閉塞性肺疾患要旨 慢性閉塞性肺疾患(COPD)とはタバコ煙を主とする有害物質を長期吸入曝露することで生じた肺の炎症性疾患であり,通常は進行性で正常に復すことのない気流閉

塞を呈する疾患である.気流閉塞は末梢気道病変と気腫性病変が様々な割合で複合的に作用することにより起こる247).本症では肺循環系にも様々な器質的・機能的影響が及び,特に低酸素血症を伴う重症例では肺高血圧を合併しやすい. COPDに合併する肺高血圧に対し治療効果が確立されているのは,酸素療法と肺移植である.そのほかの治療法として血管拡張薬,一酸化窒素吸入,肺容量減少手術,リハビリテーションなどがあるが,その効果は証明されていないか,あるいは検討中である.

①疫学,原因

 COPDの肺高血圧合併率は報告により値が大きく異なる.その理由は対象や肺高血圧の定義,診断方法の違いなどが原因と考えられる.COPDに肺高血圧が合併する原因としては肺血管床の減少のほか,低酸素血症に伴う肺血管攣縮や血管壁のリモデリングが考えられている248)-250). COPDの一部では,重症の肺高血圧を呈することが以前から報告されている.StevensらはシカゴのPulmonary Heart Disease Centerを受診して右心カテーテル検査を受けたCOPD 600例中5名(0.8%)に平均肺動脈圧が40mmHg以上の肺高血圧を認めたとしている251).北米のNational Emphysema Treatment Trialは,右心カテーテル検査にて肺容量減少手術対象の重症肺気腫患者の5%に平均肺動脈圧が35mmHg以上の肺高血圧を認めたとしている252).またChaouatらは,右心カテーテルを施行したCOPD 998例中27例(2.7%)で平均肺動脈圧が40mmHg以上だったと報告している22)(図11).

②診断方法

1)心電図 通常の右室肥大の基準では約3分の1しか診断できないとされる.逆に基準を満たす場合には高度の右室肥大が疑われ,予後も不良とされる253).また経過中に軸の右方偏位,V1でのR波の増高などを認めた場合には肺動脈圧上昇による右室負荷を考慮すべきである.2)動脈血ガス分析 COPDでは動脈血ガス分析値と肺循環障害の程度がよく相関する.動脈血酸素分圧(PaO2)が室内気吸入下で60Torr以下であれば肺高血圧を合併していることが多く,アシドーシスを伴っていればさらに合併率は高い.運動時あるいは夜間のみに低酸素血症と肺動脈圧の上昇がみられることがあり254),255),その場合経皮的な動脈血酸素飽和度(SpO2)のモニタリングが有用である.

43

肺高血圧症治療ガイドライン

3)心エコー 断層像による右心系の観察,三尖弁閉鎖不全の逆流速度,右室流出路における血流加速時間,右室駆出時間の計測などにて行う.経胸壁操作のほか肋骨弓下操作で明瞭な画像が得られる場合がある256).症状,心電図などで肺高血圧が疑われた場合は本検査にて肺動脈上昇の有無をより正確に推測可能である.4)肺換気-血流シンチグラム COPDを含む換気障害型呼吸器疾患に伴う肺高血圧と,肺動脈性肺高血圧,慢性血栓塞栓性肺高血圧では, 肺換気─血流シンチグラムのパターンが異なる(図

12).肺換気血流シンチグラムのみでこれらの確定診断は困難であるが,他の検査所見と合わせることで病態診断にも有用である.5)右心カテーテル検査 他の肺高血圧と同様,平均肺動脈圧25mmHg以上をもって肺高血圧と診断する.本検査は侵襲的であり,BNPなどの血液生化学検査や心エコーなどの非侵襲的検査結果も勘案し,総合的に右心カテーテル検査施行の必要性を判断する.一方,肺動脈圧の上昇が高度,あるいは進行性の場合には本検査によって正確な肺循環動態の把握と治療方針決定が可能であるため,安定軽症例の場合よりも積極的に施行を検討する.病態評価,治療方針決定にはMRI検査257)や核医学的検査258)などの所見も参考となる.

③予後・重症度判定

 肺高血圧は年齢や低肺機能とともにCOPDの予後増悪因子であり259),260),症状悪化頻度の増加にも関連している261).本症に合併する肺高血圧は比較的軽症が多いが,平均肺動脈圧で40mmHgを超える症例があることが知られ262),その場合予後不良であることも報告されている22).最近,肺CT画像で評価した肺動脈径/大動脈径比が1を超えた症例では増悪の頻度が高いと欧米から報告されているが,我が国では確認されておらず,また肺高血圧との関連も明らかではない263).

図11 平均肺動脈圧と動脈血酸素分圧の関係

文献22より(左図)COPD以外に明らかな呼吸器・循環器の病気を認めなかったが平均肺動脈圧(Ppa)が40mmHg以上であった症例のPpaと動脈血酸素分圧(PaO2)の関係。(右図)Ppaが40mmHg未満であったCOPD症例のPpaとPaO2の関係。

図12 原因不明の肺高血圧症の鑑別診断

(動脈血液ガス分析)

換気 血流 換気 血流 換気 血流

胸部X線で肺野に異常なし,またはX線所見や呼吸機能検査に比して肺高血圧の程度が著しい

肺換気・血流スキャン

正常または斑状血流欠損

肺動脈性肺高血圧症(PAH) 慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)その他の肺血管疾患

換気障害型肺疾患に伴う肺高血圧症

換気に異常を認めない区域性血流欠損

換気に異常を認める血流欠損

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循環器病の診断と診療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告)

④治療

 COPDに合併する肺高血圧の治療は慢性安定期と増悪期とで異なる.前者では酸素療法,後者では酸素療法に加え抗菌薬など増悪因子への対処が中心となる.なお,COPD自体に対する適切かつ最善の気管支拡張薬の投与は肺高血圧治療に対しても重要である(表29).1)慢性安定期①酸素療法(表30) COPDに合併する肺高血圧に対して唯一有効性が証明されている治療法である.在宅酸素療法の施行によって肺高血圧ないし肺性心の進行の阻止,および生命予後の改善が期待され264),265),さらにうつ傾向の軽減など精神神経機能への効果も期待できる260).ただし本治療による肺高血圧の部分的進展抑制効果が示されているものの,肺動脈圧の正常化は期待できない267).酸素の投与にあたっては低流量から開始しCO2ナルコーシスを避ける注意が必要である.運動時のみ,および睡眠中のみの低酸素血症に対する在宅酸素療法の長期効果についてはエビデンスに乏しく意見が一致していない268).②血管拡張薬 血管拡張薬は直接的な肺動脈圧降下作用を持つ一方,低酸素性肺血管攣縮を解除することで低酸素血症の増悪や体血圧の低下をもたらす可能性がある269).これまで種々の血管拡張薬の全身投与が試みられたが,酸素療法に匹敵する効果は証明されていない.一酸化窒素(NO)の吸入療法も明らかな有用性は示されていないが270),271),酸素吸入との併用が有効であるとの報告がある272). 一方ASPIRE(Assessing the Spectrum of Pulmonary hypertension Identified at a Referral centre)登録研究のサブグループ解析では,肺血管拡張療法に対する治療反応

群の予後が良好であるとの結果が示され,一部の重症肺高血圧症例では肺血管拡張療法が有用である可能性が示唆された273).③外科療法 肺移植は肺高血圧を合併したCOPDにも適応があり,国際心肺移植学会のCOPDに対する肺移植の適応基準にも「酸素治療によっても解除されない肺高血圧の合併」が含まれている(表31)215).肺容量減少手術の肺高血圧に対する効果は定まっておらず274),逆に酸素吸入中の平均肺動脈圧が30mmHg以上の症例は適応から外す基準が一般に用いられている275).④リハビリテーション リハビリテーションは運動耐容能の改善をもたらすものの,肺循環動態の改善効果は証明されていない276).⑤禁煙 喫煙はCOPDの主要な危険因子である.逆に禁煙は肺機能の低下を遅延させるため最も効果的で,費用対効果の優れた方法である277).禁煙の肺高血圧症そのものへの影響に関する知見は乏しいが,COPDの重症化を防ぐことから肺高血圧症合併例でも試みるべき治療である.2)増悪期 増悪期には通常低酸素血症は悪化し,その結果肺動脈圧も一般に上昇する.急性増悪の原因としては一般に気道感染が多いが原因の特定が困難な場合も少なくない. 治療は低酸素血症の改善を第一の目標とし,高炭酸ガス血症を伴う場合には換気補助療法を考慮する.換気補助療法では非侵襲的陽圧換気療法(noninvasive positive pressure ventilation: NPPV) の 適 応 を ま ず 考 慮 し,NPPVの装着が困難な場合,誤嚥がある場合,気道内分泌物の除去が必要な場合などは挿管下の人工呼吸を考える.その他増悪因子に応じて抗生物質,気管支拡張薬,ステロイド,去痰薬,利尿薬などの投与を行う.

表29 COPD伴う肺高血圧症の治療ClassⅠ 1.低酸素血症を伴う症例に対する長期   (在宅)酸素療法 (Level A)

ClassⅡa 1. 適応基準を満たす症例に対する   肺移植 (Level B)ClassⅡb 1.血管拡張療法の経口または(持続)静脈内   投与 (Level B) 2.一酸化窒素(NO),iloprostの吸入投与 (Level B) 3.volume reduction surgery (Level B) 4.リハビリテーション (Level B)

表30 社会保険による在宅酸素療法の適応基準●対象疾患

1)高度慢性呼吸不全例2)肺高血圧症3)慢性心不全4)チアノーゼ型先天性心疾患

●高度慢性呼吸不全例の対象患者 動脈血酸素分圧(PaO2)55Torr以下の者,およびPaO2 60Torr以下で睡眠時または運動負荷時に著しい低酸素血症を来たす者であって,医師が在宅酸素療法を必要であると認めた者. なお,適応患者の判定に,経皮的動脈血酸素飽和度測定器による酸素飽和度から求めたPaO2を求めることは差し支えない.

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肺高血圧症治療ガイドライン

【治療効果】 最も多く行われる酸素療法の急性効果と予後には必ずしも関連がないとされる278).よって酸素投与の急性効果がなくても,長期的観点で同治療の継続が考慮される必要がある.

⑤今後の展望,課題

 今後はCOPDの中でも重症および/あるいは進行性の肺高血圧合併例について特に病態の解明および治療法の確立が望まれる273).その他禁煙プログラムなどによる一次予防,心エコー,心臓MRIなどによる非侵襲的検査による早期発見・治療,および再生医療の応用などが期待される.

1 間質性肺疾患要旨 肺高血圧を合併する間質性肺疾患には特発性間質性肺炎(idiopathic interstitial pneumonias: IIPs),結合組織病に合併する間質性肺炎,サルコイドーシス,ランゲルハンス細胞組織球症などがある.間質性肺疾患に伴う肺高血圧の治療の中心は酸素療法である.ただし結合組織病合併間質性肺炎,サルコイドーシス,ランゲルハンス細胞組織球症いずれでも各疾患に特異的な検査,治療薬を考慮して診療にあたる.結合組織病に合併する間質性肺炎については,本ガイドラインの他項「結合組織病に伴う肺動脈性肺高血圧症」も参照されたい.

①疫学,原因

 間質性肺疾患に伴う肺高血圧の包括的な疫学データは少ない.その中で間質性肺疾患症例の32%に肺高血圧が合併していたとする報告や279),特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis: IPF)では40.7%に肺高血圧が合併するとの報告がある280).IPF以外の間質性肺疾患では,サルコイドーシスで5.7%に肺高血圧を合併していたとする我が国からの報告や281),より重症例では74%に肺高血圧が合併したとの報告がある282).ランゲルハンス細胞組織球症では,COPD,IPFよりは肺高血圧の合併が多くかつ重症とされるが,一方で治療反応性が比較的良好であるとする報告もある283),284).

 間質性肺疾患における肺高血圧の原因は,低酸素血症に伴う肺血管攣縮,肺実質障害に伴う細動脈・毛細血管の圧排,閉塞(肺血管床の減少),血管壁のリモデリングなどと考えられる285),286).サルコイドーシス,肺ランゲルハンス細胞組織球症では,疾患特有の血管病変が肺動脈圧上昇に関与している可能性がある.

②診断

 他の病型と同様に平均肺動脈圧が25mmHg以上で肺高血圧ありと診断される.自覚症状から肺高血圧の存在を疑うことは,併存する肺病変のため一般に困難である.肺高血圧による自他覚症状は他の肺高血圧と大きな差はなく,息切れ,易疲労感,浮腫,心音の IIp成分の亢進,などである.夜間あるいは労作時の低酸素血症が肺高血圧の発症や進行に関与する場合があり,この場合経皮的動脈血酸素飽和度モニタリングが有用である.

③予後,重症度判定

 肺高血圧の合併は間質性肺炎の予後不良因子である92),279). 疾 患 別 で は 間 質 性 肺 炎 全 体 の ほ か,IPF287)-289),サルコイドーシス282),289),290)で予後不良因子であることが示されている.

④治療(表32)

 間質性肺疾患に合併する肺高血圧で低酸素血症が存在する例は酸素療法を考慮する.ただCOPDと異なり予後改善効果は明らかではない.浮腫,心不全に対しては適宜,利尿薬,ジギタリス製剤,抗凝固薬の使用を考慮する.血管拡張療法の効果は証明されていないが291),292),少数例の検討で IPFに合併した肺高血圧に,シルデナフィルおよび吸入プロスタサイクリン(iloprost)が有効であったとの報告がある115),293).エポプロステノールは肺血管抵抗を下げるが,同時に低酸素血症も悪化させ,また長期効果も確認されていない293),294).近年,アンブリセンタンは IPFで病態悪化リスクの増加の可能性が報告され,肺線維化を伴うPAHに対しては慎重に適応を考慮することとなった295). 高炭酸ガス血症を伴う呼吸不全に陥った場合には換気補助療法を考慮する.種々の間質性肺疾患にステロイド療法,免疫抑制療法が試みられる.病変の消退,低酸素血症の改善が得られれば肺高血圧の改善も期待できるが,一般的な治療として確立するに至っていない.内科的治療に抵抗性で,かつ重度・進行性の経過をとる場合には肺移植を検討する.ただし全身性疾患の併存などにより適応となる症例は限られる.

表31 国際新肺移植学会のCOPDに対する肺移植適応ガイドライン● 一秒量が予測値の35%未満● 低酸素血症(PaO2 55-60Torr 以下)● 高炭酸ガス血症(PaO2 50Torr 以上)● 肺高血圧症の合併

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循環器病の診断と診療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告)

⑤今後の展望,課題

 間質性肺疾患に伴う肺高血圧に明らかな効果を発揮する単一の治療は現在のところない.ただし気腫合併肺線維症など特定の病型で治療効果がみられる可能性があり,今後肺動脈圧上昇の病態の解明,前向き試験による治療法の検証などが必要である.

3 拘束型閉塞型の混合型を示すその他の呼吸器疾患

要旨 肺気腫と肺線維症が合併する症例があることは我が国でも古くから知られていたが,2005年にCottinらはCTにて上肺野優位の小葉中心性肺気腫と下肺野優位の線維化を認める疾患群を気腫合併肺線維症(combined pulmonary fibrosis and emphysema syndrome (CPFE))として提唱した296).特徴的な臨床所見として,1.スパイロ所見が比較的軽症であること,2.肺拡散能力の低下が著明であること,3.低酸素血症の程度が強いこと,4.肺高血圧を高頻度に合併すること297),などがある.CPFE症例の一部に重症の肺高血圧が認められることが報告されており,ダナポイント分類/ニース分類(草案)でも第3群(肺疾患に合併する肺高血圧)の中で独立した疾患として分類されている.CPFEで肺高血圧を呈する症例の頻度や成因は明らかではないが,予後は不良とされる.PAHと同様に,肺血管拡張療法の適応である可能性があり,今後の検討課題である.

①疫学,原因

 CPFEの診断基準が統一されていないため,現時点では報告により背景疾患や重症度も様々であり,原因,疫学に関する十分な情報はない.CPFEでは推定収縮期肺動脈圧が45mmHgを超える肺高血圧を呈する頻度は,診断時で47%,経過観察中を含めると55%と高率であると報告されている296).

②診断

 肺高血圧の診断は他の肺疾患に合併する肺高血圧と同様である.心エコー法などでその存在を推定し,右心カテーテル法で確定診断を行う.

③予後,重症度判定

 CPFEで肺高血圧を合併した症例の予後は不良で,PVRが485 dynes・sec・cm-5以上の肺高血圧例の生存期間中央値は6.6か月と報告されている297).

④治療

 現時点でCPFEに対し明確な効果をもたらす治療法は確立していない.COPD,間質性肺炎の治療に準じて酸素療法,換気補助,増悪因子の除去などを行う.肺血管拡張薬の有効性を示すエビデンスはない.COPDや間質性肺疾患に伴う肺高血圧症とは病態が異なると考えられ,血管拡張療法の治療効果は,CPFE合併肺高血圧症と他の肺疾患合併の肺高血圧症では別個に検証される必要がある.

⑤今後の展望,課題

 CPFEやそれ以外の肺疾患であっても,肺高血圧の重症度が背景となる肺疾患の重症度と比較して明らかに重篤であると判断される症例が存在し,これはout of proportion PHと称される3).このような症例は,他の通常の肺疾患合併肺高血圧症と病態が異なる可能性があり,血管拡張療法の治療効果も別個に検証される必要がある.今後はこのようなout of proportion PHを呈する3群肺高血圧においては,薬物治療介入の意義が無作為前向き試験によって検証されるべきである.

4 原発性肺胞低換気症候群要旨 原発性肺胞低換気症候群(primary alveolar hypoventilation syndrome: PAHS)は,ほぼ正常の肺機能でありながら,肺胞低換気のために慢性の高炭酸ガス血症を来たす症候群である.肺胞低換気による低酸素性肺血管攣縮により肺高血圧を呈する.

①疫学,原因

 PAHSは極めて稀な疾患で,厚生労働省呼吸不全研究班の調査による全国推定患者数は40人(95%信頼区間30~50人)である.PAHSの原因としては,化学呼吸調節系の障害が考えられているが正確な機序は不明であ

表32 間質性肺疾患に伴う肺高血圧症の治療ClassⅡa 1.高炭酸ガス血症を伴っていない低酸素   血症に対する酸素療法 (Level C) 2.高炭酸ガス血症を伴った場合の換気   補助療法 (Level C) 3.感染が明らかな憎悪因子となって   いる場合の抗菌療法 (Level C) 4.気道収縮が明らかな憎悪因子と   なっている場合の気管支拡張療法 (Level C) 5.ステロイド薬の全身投与 (Level C)

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肺高血圧症治療ガイドライン

る.

②診断

 厚生労働省呼吸不全調査研究班は,疫学調査のための原発性肺胞低換気症候群および肥満低換気症候群の診断基準を示している(表33).

③予後,重症度判定

 診断がされず適切な治療が施行されない場合の予後は不良と推定される.在宅人工呼吸療法の普及により,予後は改善していると推定される.重症度判定基準は示されていないが,高炭酸ガス血症の程度,睡眠時低酸素血症の程度は,重症度を反映していると考えられる.

④治療

 在宅酸素療法および人工呼吸療法が治療の選択肢として挙げられる.横隔膜ペーシングが一時的に有効である症例の存在も報告されているが,長期的に継続可能なのかどうかは不明である.

⑤治療効果

 人工呼吸療法により肺胞低換気の程度が改善されれば治療効果ありと判定されるが,それが予後に影響するかどうかは不明である.

⑥今後の展望,課題

 PAHS は極めて稀な病気であり,治療法は低酸素血症・高炭酸ガス血症に対する在宅酸素療法・人工呼吸療法が中心となる.肺高血圧症は,低酸素血症・高炭酸ガス血症が改善されれば,それに伴い改善が期待できる.肺高血圧症の程度が予後に影響するかどうかは不明である.

5 肺結核後遺症要旨 肺結核後遺症は,拘束性/閉塞性換気障害がその主因となり,睡眠呼吸障害・肺循環障害・労作時呼吸困難を伴う症候群である.病態・治療に関しては,拘束型,閉塞型の混合型を示すその他の肺疾患に準じる.

①疫学,原因

 日本における肺結核後遺症の正確な疫学は不明であるが,在宅酸素療法全体の患者の中で,その割合は減少している. 肺結核後遺症における肺高血圧症の合併は広汎な無気肺病変を有する症例,あるいは片肺切除術,胸郭形成術後で低酸素血症を伴う症例で頻度が高いと思われる.肺高血圧症の発症機序は肺構造の破壊に伴う肺血管床の減少・リモデリング,低酸素血症に伴う肺血管攣縮によると推定される.

②診断

 肺結核後遺症の診断は病歴および胸部画像所見による.肺高血圧症の疑診は心臓エコー検査にて,確定診断は右心カテーテル検査にて行う.平均肺動脈圧の値の推定をPaO2値から行うことはCOPD症例と比較すると困難である.低酸素血症を来たしていなくても,肺動脈圧の上昇を認めることが多い(図13)298).

③予後,重症度判定

 肺結核後遺症患者の予後規定因子は必ずしも明らかではない.多くの患者は呼吸不全ないしは右心不全の悪化による急性増悪により予後不良となっている.低酸素血症・高炭酸ガス血症の程度の悪化とともに,肺高血圧症の程度も悪化すると予想される.右心カテーテルにて重症度の判定は可能であるが,動脈血液ガス分圧の値から,肺高血圧症の重症度の推定は可能である.

④治療(表34)

 在宅酸素療法および人工呼吸療法が治療の選択肢とし

表33 原発性肺胞低換気症候群(PAHS)【定義】原因不明の肺胞低換気による慢性の高炭酸ガス血症,低酸素血症を来たす症候群である.睡眠呼吸障害を伴い,睡眠中には低換気状態が増強し,低酸素血症,高炭酸ガス血症が増悪するのを特徴とする.慢性閉塞性肺疾患などの肺疾患や神経筋疾患,陳旧性肺結核症による慢性の低換気は二次性の肺胞低換気症候群として除外する.

【診断基準】1.慢性の高炭酸ガス血症(PaCO2≧45Torr)2.睡眠時における低酸素血症の増悪を認める(基準値より4%以上の経皮的酸素飽和度(SpO2)の低下,またはSpO2<90%の時間が5分以上,またはSpO2<85%に達する場合を目安として総合的に判断)

3.自発的過換気により高炭酸ガス血症の改善がみられる(PaCO2で5Torr以上の低下)4.ほぼ正常の呼吸機能(肺活量(VC)>60%対予測値,および1秒率(FEV1/FVC)>60%を目安)であり,肺の器質的疾患が血液ガス異常の主体であることが除外されること.

5.薬剤などによる呼吸中枢抑制や呼吸筋麻痺が否定され,かつ神経筋疾患などの病態が否定されること.

6.画像診断および神経学的所見より呼吸中枢の以上に関連する中枢神経系の器質的病変が否定されること.

7.Body mass index(BMI)<30kg/m2であること.8.典型的睡眠時無呼吸症候群を除く.

出典 http://kokyufuzen.umin.jp/

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循環器病の診断と診療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告)

て挙げられる.気管支拡張薬,去痰薬などの内科的治療は気道病態の改善を介して肺循環動態を改善し得る可能性を持つ.

⑤治療効果

 在宅酸素療法は本疾患患者の平均肺動脈圧を低下させる299).在宅人工呼吸療法も同様の効果があることが期待される.

⑥今後の展望,課題

 肺結核後遺症患者数は,今後さらに減少する.肺結核後遺症に伴う肺高血圧症に関して,新しいエビデンスが出ることは期待できず,肺血管拡張療法が適応になることはないと予想される.新規の重症肺結核症の発症を可能な限り抑制することが最も重要である.

6 睡眠呼吸障害要旨 2005年にAmerican Academy of Sleep Medicine(AASM)の睡眠障害国際分類 (ICSD)が改訂され,第2版(ICSD-2)300)となった.その中で,睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome: SAS)301)に代表される睡眠呼吸障害は,①閉塞性睡眠時無呼吸症候群(obstructive sleep apnea syndrome: OSAS),②中枢性睡眠時無呼吸症候群(central sleep apnea syndrome:CSAS),③睡眠時低換気/ 低 酸 素 症 候 群(sleep hypoventilation/ hypoxic syndrome: SHVS)などの14種類に分類された.これら睡眠呼吸障害においてOSASとSHVSで高頻度に肺高血圧を合併することが報告されている302)-307).SASに対する治療により肺高血圧症は改善する可能性が期待されている.

①疫学,原因

 睡眠呼吸障害の中で最も頻度が高い疾患はOSASである.OSASの罹病率は,米国では30~60歳の男性4%,女性2%であり,我が国の名古屋市近郊の調査では男性の3.3%,女性の0.5%であった308),309). SASでは,睡眠時無呼吸に伴う肺胞低換気が原因となって肺胞低酸素/低酸素血症が生じる.SASに伴う肺高血圧症は,肺動脈が低酸素性肺血管攣縮(hypoxic

図13 COPDおよび肺結核後遺症患者における動脈血酸素分圧と平均肺動脈圧の関係

COPD 肺結核後遺症

平均肺動脈圧(mmHg)

平均肺動脈圧(mmHg)

文献298より引用

表34 肺結核後遺症に伴う肺高血圧症の治療ClassⅠ 1.適応基準を満たす症例に対する   在宅酸素療法 (Level B)

ClassⅡ a 1.気道収縮あるいは気道分泌の亢進している   症例に対する気管支拡張薬,去痰薬 (Level C) 2.肺結核の再燃を伴う場合の抗結核薬 (Level C)

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肺高血圧症治療ガイドライン

pulmonary vasoconstriction)という機序により収縮することが主原因である.本症では無呼吸に呼応して一過性の肺動脈圧上昇を認めるが,昼間覚醒時にも肺高血圧が持続する例が存在し,その合併率は10~79%である.OSASにおける持続性の肺高血圧は,昼間の低酸素血症が原因である可能性が大きく303),慢性肺疾患を除いたOSASの昼間の肺高血圧の合併率は10~41%である302)-305),307).Chaouatらは,OSASにおける肺高血圧の合併は220例中37例(17%)であり,肺高血圧の合併例は非合併例に比べて肺活量(VC)や1秒量(FEV1.0)が有意に低下し,動脈血CO2分圧(PaCO2)が有意に上昇すると報告している305).

②診断

 SASの 診 断 は, 終 夜 睡 眠 ポ リ グ ラ フ 検 査(polysomnography: PSG)によって行う.表35にはICSD-2によるOSASの診断基準を示す300).無呼吸はPSGで10秒以上続く鼻温度センサーの90%以上の低下で定義される換気停止であり,低呼吸とは鼻圧センサ信号の振幅が前後の安定した呼吸の30%以上の低下が10秒以上持続し,イベント前のSpO2から3%以上の低下したものである.呼吸努力関連覚醒(respiratory effort-related arousal: RERA)310)とは,無呼吸や低呼吸の基準を満たさないが10秒以上の呼吸努力の増加や,鼻圧波形の平低化に伴った覚醒反応を睡眠中に生じる病態の新

しい指標である. 睡眠時無呼吸に伴う肺高血圧症の確定診断は,PSG下に右心カテーテル検査を併用して行われる305),307).SASに合併する肺高血圧症に関する報告では,平均肺動脈圧20 mmHg以上を肺高血圧として採用している場合が多い307).またOSASにおける睡眠中の一過性の肺動脈圧上昇は,non-REM期よりもREM期で最大値を示す306).この機序は不明であるが,REM期には交感神経系の緊張亢進を伴い,持続時間の長い無呼吸が出現して高度の低酸素血症を生じ,より強い低酸素性肺血管攣縮を起こしやすいのが原因と考えられている311).肺高血圧の診断は右心カテーテル検査を用いることが原則であるが,SAS例では,一般に肺動脈圧は昼間の値が高い例ほど夜間睡眠中も並行して上昇し,昼間の持続的肺高血圧を証明できれば,ルーチン検査としてPSG下で夜間に肺動脈圧の測定を行うことは不要である.さら心エコー・ドプラ検査は非観血的に肺動脈圧を評価可能であり,SASに合併する肺高血圧症を昼間に簡便にスクリーニングする方法として有用である.

③治療(表36)

 最も普及したOSASの治療法は,我が国では平成10年4月から医療保険が適応とされた在宅持続陽圧呼吸療法(nasal continuous positive airway pressure: nasal CPAP)である.本治療法により睡眠中に生じる上気道の狭窄や抵抗を除去し,無呼吸が改善されれば夜間の低酸素血症が軽減あるいは消失し,低酸素性肺血管攣縮などに基づく肺動脈圧の上昇はなくなると考えられる. しかし上気道閉塞の開放後も陽圧が肺まで加わり続けて肺血管抵抗が有意に増加するため,肺動脈圧は不変あるいは上昇傾向を示すとの報告もある312),313).一方,nasal bilevel PAP治療ではこの影響が少なく,肺高血圧を改善するという報告がある314).

④今後の展望・課題

 最近,SASに対するnasal CPAP治療は我が国でも脚光を浴びて普及しつつあるが,その肺循環に及ぼす影響は短期的にも長期的にも十分には解明されていない.Kesslerらは,SASに合併した軽度あるいは中等度の肺高血圧に対する特別な治療は不要であるとも述べている315).OSASに肺高血圧を合併する機序とともに,その肺高血圧治療の必要性の有無については更なる検討を加える必要がある.

AとBとD,またはCとDで基準が満たされる.A.以下のうち少なくとも一つ以上が該当する. ⅰ. 患者が,覚醒中に不意に眠り込むこと,日中の眠気,

爽快感のない睡眠,疲労感,または不眠を訴える. ⅱ. 患者が,呼吸停止,喘ぎ,または窒息感で覚醒する. ⅲ. ベッドパートナーが,患者の睡眠中の大きないびき,

呼吸中断,またはその両方を報告する.B. PSG記録で以下のものが認められる. ⅰ. 睡眠1時間あたり5回以上の呼吸イベント(無呼吸,低

呼吸,または呼吸努力関連覚醒 respiratory effort-related arousal; RERA)

 ⅱ. 各呼吸イベントのすべて,または一部における呼吸努力のエビデンス(RERAは,食道内圧測定で認めるのが最も好ましい)

またはC.PSG記録で以下のものが認められる. ⅰ. 睡眠1時間あたり15回以上の呼吸イベント(無呼吸,

低呼吸,またはRERA) ⅱ. 各呼吸イベントのすべて,または一部における呼吸努

力のエビデンス(RERAは,食道内圧測定で認めるのが最も好ましい)

D.異常が,他の現行の睡眠障害,身体疾患や神経疾患,薬物,または他の物質使用で説明できない.

表35 閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)の診断基準(ICSD-2)

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循環器病の診断と診療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告)

4 慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)

要旨 慢性肺血栓塞栓症とは器質化した血栓により肺動脈が閉塞し,肺血流分布ならびに肺循環動態の異常が6か月以上にわたって固定している病態である316).また慢性肺血栓塞栓症において平均肺動脈圧が25mmHg以上の肺高血圧を合併している例を慢性血栓塞栓性肺高血圧症(chronic thromoboembolic pulmonary hypertension:

CTEPH)という317). CTEPHには過去に急性肺血栓塞栓症を示唆する症状が認められる反復型と,明らかな症状のないまま病態の進行がみられる潜伏型がある.比較的軽症のCTEPHでは,抗凝固療法を主体とする内科的治療のみで病態の進行を防ぐことが可能な例も存在する.しかし平均肺動脈圧が30mmHgを超える症例では,肺高血圧は時間経過とともに悪化する場合も多く,一般には予後不良である318),319).近年,一部のCTEPHに対しては手術(肺動脈血栓内膜摘除術)によりQOLや予後の改善が得られるようになった320)-326).また,最近では非手術適応例に対してカテーテルを用いた経皮的肺動脈拡張術も開始され327)-330),さらに内科的な血管拡張療法の臨床試験が行われている331). 本症は,旧来厚生労働省が指定する治療給付対象疾患として特発性慢性肺血栓塞栓症(肺高血圧型)という名称が用いられてきたが,2009年10月,ダナポイント分

類に合わせて名称が変更され,CTEPHに統一された317).我が国で本症の認定を受けるためには,右心カテーテル検査で肺血行動態を実測し,肺動脈平均圧が25mmHg以上であることを確定することが必須である.

①疫学,原因

 我が国における,急性例および慢性例を含めた肺血栓塞栓症の発生頻度は,欧米に比べ少ないと考えられている.少し古い報告ではあるが,剖検輯報にみる病理解剖を基礎とした検討では,その発生率は米国の約1/10であった332).米国では,急性肺血栓塞栓症の年間発生数が50~60万人と推定されており,急性期を脱した例の約0.1~0.5%がCTEPHへ移行するものと考えられてきた333).しかし急性例の3.8%が慢性化したとの報告が近年行われ,CTEPHの症例数は予想外に多い可能性がある334).CTEPHは我が国では特定疾患給付対象疾患(難病)に指定されており,臨床調査個人票の集計から,頻度は2011年度で1,590人と集計されている. 英国では主要な5つのPHセンターで2001年からの5年間に496例がCTEPHと診断されている335). CTEPHでは肺動脈閉塞の程度が,肺高血圧症の要因として重要で,多くの症例では肺血管床の40%以上の閉塞を認めるとされている.血栓塞栓の反復と肺動脈内での血栓の進展が病状の悪化に関与していることも考えられ,①PAHでみられるような亜区域レベルの弾性動脈での血栓性閉塞,②血栓を認めない部位の増加した血流に伴う筋性動脈の血管病変,③血栓によって閉塞した部位より遠位における気管支動脈系との吻合を伴う筋性動脈の血管病変など,small vessel disease の関与も病態を複雑化していると考えられる336).CTEPHは海外では性差はないが,我が国では女性に多く,また深部静脈血栓症では頻度が低いHLA-B*5201やHLA-DPB1*0202と関連する症例がみられことが報告されている337).これらのHLAは欧米では極めて頻度の少ないタイプのため,欧米例と異なった発症機序を持つ症例の存在が示唆されている.

②診断

 CTEPHの診断は,厚生労働省特定疾患呼吸不全調査研究班により作成された診断の手引きをもとに診断を進める場合が一般的である.労作時の息切れを主訴とし,他にこれを説明できる原因が存在しない患者では,本症を疑うことが重要であり,表37に示した症状や臨床所見を参考にしながら,動脈血ガス分析,胸部X線写真,心電図検査,心エコー法にみられる肺高血圧症の特徴的

表36 睡眠時無呼吸症候群に伴う肺高血圧症の治療睡眠呼吸障害に対する治療

ClassⅠ 1. OSASに対するnasal CPAP (Level A)   ただし,nasal CPAPの肺高血圧に対する有効性はClassⅡb (Level C) 2.肥大した口蓋扁桃やアデノイドの摘出術    (Level B) 3.軽症OSASに対する口腔内装置 (Level B) 4.高炭酸ガス血症を伴う場合のnasal bilevel    PAP (Level C) 5.気管切開術 (Level C) 6.粘液水腫の甲状腺ホルモン補充療法 (Level C)ClassⅡa 1.口蓋垂軟口蓋咽頭形成術 (Level B) 2.CSASに対する薬物療法(アセタゾラミド) (Level C)ClassⅡb 1.単純肥満の体重減量療法 (Level B) 2. OSASに対する薬物療法(アセタゾラミド,プロゲス

テロン) (Level C)

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肺高血圧症治療ガイドライン

所見の有無を検索する.さらに他の肺高血圧症との鑑別には,肺血流シンチグラムが有用で,CTEPHでは区域性の血流欠損を呈することが特徴で,血流シンチグラムが正常の場合には本症は除外することが可能となる4),338)(図14).CTEPHの確定診断は,肺動脈造影または造影CTにて特徴的所見である,①pouch defects(小袋状変化)あるいはmural defects,②webs and bands(帯状狭窄),③ intimal irregularities,④abrupt narrowing,⑤complete obstructionのうちの少なくとも1つ以上が証明されること(図14,15)317),339),および右心カテーテル検査で,肺動脈圧の上昇(安静時肺動脈平均圧が25 mmHg以上, 肺血管抵抗で240 dynes・sec.・cm-5以上),ならびに肺動脈楔入圧(左心房圧)が正常(15 mmHg以下)であることの証明が必要である317).造影CT検査は,肺動脈区域枝レベルまでの血栓の検出と肺動脈肉腫や肺動脈炎,線維性縦隔炎などとの鑑別に有用である338).

③重症度判定

 本症の生命予後およびQOLは,肺高血圧の程度に左右される316),319).平均肺動脈圧で30 mmHg未満もしくは肺血管抵抗で300 dynes・sec・cm-5未満の症例の予後は良好である.また,NYHA/WHO Class Ⅱ以下の軽症例の予後も良好とされている340).しかし心拍出量の低下ならびに肺血管抵抗の上昇に伴い,予後は不良となり,特に肺血管抵抗が1,000 dynes・sec・cm-5以上のCTEPH症例では予後は極めて不良とされている318).英国のCTEPH,496例では1年生存率,3年生存率は各々,82%,70%と報告されている335).

④治療方針(図16,表38)

 本症に対し有効であることがエビデンスで確認されている治療法としては唯一,肺動脈血栓内膜摘除術があるのみである.しかし近年我が国では手術適応とされなか

表37 慢性血栓塞栓性肺高血圧症の診断基準 慢性血栓塞栓性肺高血圧症は,器質化した血栓により肺動脈が慢性的に閉塞を起こし,肺高血圧症を合併し,臨床症状として労作時の息切れなどを強く認めるものである.本症の診断には,右心カテーテル検査による肺高血圧症の診断とともに,他の肺高血圧症を来たす疾患の除外診断が必要である.

(1)主要症状および臨床所見① 労作時の息切れ② 急性例にみられる臨床症状(突然の呼吸困難,胸痛,失神など)が,以前に少なくとも1回以上認められている.③ 下肢深部静脈血栓症を疑わせる臨床症状(下肢の腫脹および疼痛)が以前に少なくとも1回以上認められている.④ 肺野にて肺血管性雑音が聴取される.⑤ 胸部聴診上,肺高血圧症を示唆する聴診所見の異常(Ⅱ音肺動脈成分の亢進,Ⅳ音,肺動脈弁弁口部の拡張期心雑音,三尖弁弁口部の収縮期心雑音のうち,少なくとも1つ)がある.

(2)検査所見① 右心カテーテル検査で

1.肺動脈圧の上昇(安静時の肺動脈平均圧が25mmHg以上,肺血管抵抗で240dyne・sec・cm-5以上)

2.肺動脈楔入圧(左心房圧)が正常(15mmHg以下)② 肺換気・血流シンチグラム所見換気分布に異常のない区域性血流分布欠損(segmental defects)が,血栓溶解療法または抗凝固療法施行後も6か月以上不変あるいは不変と推測できる.推測の場合には,6か月後に不変の確認が必要である.

③ 肺動脈造影所見慢性化した血栓による変化として,1.pouch defects,2.webs and bands,3.intimal irregularities,4.abrupt narrowing,5.complete obstructonの5つのうち少なくとも1つが証明される.

④ 胸部造影CT所見造影CTにて,慢性化した血栓による変化として,1.mural de fec t s,2.webs and bands,3. in t imal irregularities,4.abrupt narrowing,5.complete obstructionの5つのうち少なくとも1つが証明される.

(5)認定基準以下の項目をすべて満たすこと.① 新規申請時

1)診断のための検査所見の右心カテーテル検査所見を満たすこと.

2)診断のための検査所見の肺換気・血流シンチグラム所見を満たすこと.

3)診断のための検査所見の肺動脈造影所見ないしは胸部造影CT所見を満たすこと.

4)除外すべき疾患のすべてを除外できること.② 更新時手術例と非手術例に大別をして更新をすること.

1)手術例肺血栓内膜摘除術例においては,肺高血圧症の程度は改善していても,手術日の記載があり,更新時において肺換気・血流シンチグラム所見ないしは胸部造影CT所見のいずれかの所見を有すること.

2)非手術例肺血管拡張療法などの治療により,肺高血圧症の程度は新規申請時よりは軽減もしくは正常値になっていても,内科的治療継続が必要な場合.a)参考とすべき検査所見の中の心臓エコー検査の所見を満たすこと.

b)診断のための検査所見の肺換気・血流シンチグラム所見,胸部造影CT所見のいずれかを有すること.なお,肺換気・血流シンチグラムないしは胸部造影CT検査は,新規申請時に使用した検査と同一のものでないこと.

c)除外すべき疾患のすべてを除外できること.

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循環器病の診断と診療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告)

った末梢側血栓が主体のCTEPHに対し,カテーテルを用いた経皮経管的肺動脈拡張術(balloon pulmonary angioplasty[BPA],または,percutaneous transluminal pulmonary angioplasty[PTPA])の有効性が発表されつつある.一方,現時点ではCTEPHの治療薬として保険適応が得られている薬剤は我が国でも海外でも存在しない. CTEPHの治療方針では,まず正確な確定診断と重症度評価を行うことが必要である.次いで病状の進展防止を期待して血栓再発予防と二次血栓形成予防のための抗凝固療法を開始する.抗凝固療法が禁忌である場合や抗凝固療法中の再発などに対して,下大静脈フィルターを留置する場合もある.低酸素血症対策,右心不全対策も必要ならば実施する.そして肺動脈血栓内膜摘除術または経皮的肺動脈拡張術の適応を検討する.肺動脈血栓内膜摘除術は,原則としてNYHA/WHO Class Ⅲ以上が適応とされているが,低酸素血症が高度の例ではQOLの改善を目的としてClass Ⅱ の例も適応となる場合があ

る. 肺動脈血栓内膜摘除術は,器質化血栓の近位端が主肺動脈から区域動脈近位部にある,いわゆる中枢型CTEPHがよい適応である.しかし手術適応は手術担当施設の経験によって左右され341),その決定は手術を多く経験している施設で行われることが必要である.中枢側の血栓量に相応しない著明な肺血管抵抗高値を示す例や,区域動脈や亜区域動脈に限局する末梢型CTEPHは手術は困難であると考えられている325).高齢者や他臓器に障害を有する例,患者が手術を希望しない例は手術の適応となりにくい. 手術の対象とならない例,術後残存肺高血圧例に対しては,一般内科的治療に加え特異的PAH治療薬が投与される場合がある.しかし本稿作成時点ではCTEPHに対し正式承認を得た肺血管拡張薬は存在しない.欧米のガイドラインでも,CTEPHに対する肺血管拡張薬の臨床試験療が行われていれば,これに参加することを考慮するとの記載がなされているのみである.

⑤内科治療 

1)抗凝固療法 未治療CTEPHでは経過とともに肺血行動態が悪化する症例がある.この原因は急性肺血栓塞栓症の顕性/不顕性の再発による可能性も否定できないが,in situでの血栓形成機序の関与も考えられる.そこで,CTEPHではワルファリンによる終生の抗凝固療法が必要とされている.ワルファリンの投与量については,急性肺血栓塞栓症に準じた投与量(INR 1.5 ~ 2.5)が行われる場合が多いが投与量に関しては具体的なエビデンスはない.2)血栓溶解療法 CTEPHでは定義上,血栓溶解療法は無効である.し

図14 慢性血栓塞栓性肺高血圧症 肺血流スキャンと肺動脈造影

図15 慢性血栓塞栓性肺高血圧症 造影CT所見

BandMuraldefects

Lower lobe arteryComplete obstruction

表38 慢性血栓塞栓性肺高血圧症に対する治療ClassⅠ 1.肺動脈血栓内膜摘除術   (区域動脈~本幹の血栓 中枢血栓とこれに相応した肺   血管抵抗値) (Level C) 2.抗凝固療法 (Level C)

ClassⅡa 1.肺動脈バルーン拡張術(末梢型CTEHに対して)    (Level C) 2.右心不全に対する強心・利尿薬 (Level C) 3.肺移植 (Level C)

ClassⅡb 1.下大静脈フィルター留置 (Level C) 2.酸素吸入療法 (Level C) 3.血管拡張療法 (Level C)

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肺高血圧症治療ガイドライン

かし経過中に病状の急速な悪化をみた場合,いわゆるacute on chronic PTEといわれる病態を考える必要がある.Dダイマーなどの凝固─線溶系分子マーカーが高値の場合には血栓溶解療法で症状の軽快が得られる可能性があり,症例によっては一度は試みてもよい.3)低酸素血症 CTEPHでは,肺血管床の血栓性閉塞性に加え,低酸素血症に伴う低酸素性肺血管攣縮が肺高血圧値に影響を及ぼしている可能性がある.酸素療法は酸素輸送能の向上による自覚症状の改善に加え,低酸素性肺血管攣縮の解除により一定範囲での降圧が期待できる場合がある.我が国では肺高血圧症例は在宅酸素療法(home oxygen therapy: HOT)の保険適用が得られており, CTEPHもその対象疾患である.4)右心不全対策 胸水や肝腫大・肝機能異常,血小板減少,下腿浮腫などが出現した右心不全例に対しては,安静と水分摂取の制限,利尿薬・経口強心薬などによる一般的な心不全治療が行われ,重症例ではカテコラミンの投与も必要となる.5)肺血管拡張薬 前述のように現時点では,我が国でも海外でも正式にCTEPHの治療薬として正式承認が得られている肺血管

拡張薬は存在しない.しかしPAHに準じて血管拡張薬のベラプロストナトリウム342),クエン酸シルデナフィル11),343),PGI2持続静注療法344,345),ボセンタン346)-348)

などの投与を行い,肺血行動態や運動体用能の評価で有効との研究報告も存在する.さらに血管拡張療法が使用されて以後,本症の予後が改善したとする報告もみられる335),340).また現在,グアニルシクラーゼ活性化薬や,PGI2受容体アゴニストの臨床試験も行われている. 血管拡張療法の適応としては,NYHA/WHO Class Ⅱ以上の症例で,末梢型CTEPHや合併症を有し手術困難例,本人が手術を希望しない例,手術後に肺高血圧症残存例などで,その可能性がある4),338).また重症の手術適応例では術前の肺血行動態を改善し,手術成績の向上を期待した術前の使用も試みられているが,その評価は定まっていない344),345),349),350).

⑥経皮経管的肺動脈拡張術

 主要な病変が手術困難な末梢側に存在するか,高齢や,その他の合併症があるために外科的な血栓内膜摘除術の適応がないと判断された場合,肺動脈の物理的狭窄や閉塞を解除する代替手段として,肺動脈バルーン拡張術(BPA)または経皮経管的肺動脈拡張術(PTPA)がある.本法の最初の症例報告は1988年351)に行われ,2001年に

図16 慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)の治療手順

CTEPHの確定診断

酸素療法抗凝固療法

手術適応検討

肺動脈血栓内膜摘除術(I-C)

BPA(IIa-C)

BPA適応検討

(肺高血圧症治療施設への紹介)(手術実施施設への紹介)

あり

あり なし

なし

肺高血圧残存

内科的治療  酸素療法(IIb-C)  抗凝固療法(I-C)  血管拡張療法(含,臨床試験)(IIb-C)

重症例

肺移植(IIa-C)BPA: バルーン肺動脈形成術

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循環器病の診断と診療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告)

は18例に対するBPAに治療成績が報告327)され,その有用性が確認されている.しかし治療部位で,高頻度に再灌流後の肺水腫が発症することや死亡例も1例報告されるなど,治療成績は熟練施設における血栓内膜摘除術の有効性・安全性を上回るものではなかった.そのため,欧米においてはBPAは,CTEPHに対する治療の選択肢として重視されなかった. 我が国では血栓内膜摘除術に熟練した施設は少なく,また手術適応とならない末梢型のCTEPHも多い.そこで肺高血圧症治療薬の発達や非侵襲的陽圧呼吸法(NPPV)の普及を背景として,BPAをCTEPHの治療オプションとして確立することが試みられている.そして最近では,我が国から相次いでBPAの治療成績が報告され,発表された論文のみでも治療例の総数は100例を超え328)-330),本法による肺血行動態の改善度は血栓内膜摘除術に準じ,薬物治療と比較してはるかに治療効果が高いことも判明してきた.しかし,以前と同様に治療後の肺水腫は高頻度に見られ,死亡例も報告されている.ただこれら有害事象の頻度には各論文間で差が見られ,BPAの治療手技の標準化に関して今後の検討が必要である.CTEPHの症例数は多くなく,肺動脈の病変も変化に富み,正確に病態を評価することは非専門家には容易ではない.本症の治療で緊急対応を迫られることは多くはなく,したがって経験の少ない施設で安易にBPAを試みることは望ましくない.

⑦外科治療

 CTEPHに対する外科治療には肺動脈血栓内膜摘除術と肺移植がある.肺動脈血栓内膜摘除術には,側方開胸法と超低体温法による肺動脈血栓内膜摘除術の2つの術式があるが,現在では側方開胸による肺動脈血栓内膜摘除術はほとんど行われていない.手術不能例では肺移植の適応を考慮する.1)外科的適応 CTEPHの診断は症状や血液検査,肺血流シンチグラムや心エコー法などの画像診断法などでなされるが,治療方針を決定するには肺動脈造影,MDCT,右心カテーテル検査などの所見が重要である. CTEPHに対する手術適応として,Jamiesonらは①平均肺動脈圧30mmHg以上,肺血管抵抗300 dynes・sec・cm-5以上,②血栓の中枢端が手術的に到達し得る部位にあること,③重篤な合併症がないことなどを挙げている(表39)320),352).さらに手術適応の決定には肺動脈の閉塞形態と臨床症状(NYHAⅢ度以上で非ショック例)が重要である321),353),354).

 Jamiesonらは摘除血栓内膜から肺動脈の閉塞形態を4 型に分類し,Ⅰ型(主肺動脈や葉間動脈に壁在血栓が存在する),Ⅱ型(区域動脈の中枢側に器質化血栓や内膜肥厚がある)が中枢型で,Ⅲ型(区域動脈の末梢側に内膜肥厚や線維化組織が存在する)を末梢型とした.またⅣ型は細動脈の病変で手術適応はない355)と述べている.この中枢型がよい手術適応であり,末梢型では遠隔期を含めて成績不良である356),357). 手術は上記適応内にあり,心肺の予備能力がまだ温存されている場合がよく,呼吸循環動態が増悪した症例では内科的治療を行って状態を改善してから手術を行うことが望ましい.2)手術術式 急性肺血栓塞栓症と異なり,CTEPHでみられる血栓は淡白色を呈していて,器質化した血栓が肺動脈壁に固く付着しているので,手術ではこの器質化血栓を肺動脈内膜とともに摘除する必要がある354).このため,手術術式はpulmonary thromboendarterectomy(PTE)といわれたが,進行したCTEPHでは血栓がない場合もあり,2003年のベニス会議以後にpulmonary endarterectomy(PEA)へと変更になった. PEAには開胸にて一側肺に行う方法と,人工心肺下に胸骨正中切開,超低体温間歇的循環停止法を用いて両側肺の血栓内膜摘除を行う方法があるが, 現在では後者がCTEPHに対する標準術式となっている320),355)-361).①血栓内膜摘除術の要点 CTEPHでは内膜摘除を伴わない血栓塞栓摘除術は全く有効ではない.このためPEAを行うに際して剥離面の決定が第一に重要となる.内弾性板と中膜の間が理想的な剥離面であり,中膜の深い層に入ると薄いピンク色の外膜が見えてきて,外へと出る危険がある352).第二に重要な点は器質化血栓は強固でちぎれにくいので,血栓内膜を少しずつ剥離して引っ張りながら末梢側に剥離を進めていき,区域動脈まで樹枝状に器質化血栓を内膜とともに摘除することである.第三に無血術野を得ることが重要である.このためにJamieson剥離子は有用であるし,適宜間歇的に循環停止を行う.1回の循環停止時間は15分までとして,必要なら静脈酸素飽和度が90%になるか,10分間は必ず再灌流を行って再度循環停

表39 CTEPHに対する手術適応1.平均肺動脈圧≧30mmHg,PVR≧300dyne/sec-cm-5

2.肺動脈中枢側に血栓が存在3.他の重要臓器に合併症がない4.患者・家族の積極的手術同意

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肺高血圧症治療ガイドライン

止とする.循環停止時間が長いと術後脳障害の原因となる. 摘除血栓内膜は症例によって取れ方が異なる.PEAの問題点としては閉塞性病変が末梢性であって,正中到達法では手術的に血栓内膜摘除が施行できない症例をどうするか,また壁在血栓が脆くて引っ張りながらの剥離ができない症例をどう対処するか,炎症を伴った症例をどう扱うかにある.②血栓内膜摘除の手術手順 Jamiesonらの方法に準じたPEAの実際を述べる. ⅰ)術前準備:術中は回収式自己血輸血装置を使用するが,1週間前までに貧血のない症例では自己血採血を行ってもよい.深部静脈血栓症を認める症例や,明らかに既往のある症例では術前に下大静脈フィルターを挿入しておく.術中のモニターとして中枢温(咽頭温)・動脈圧・パルスオキシメーター,術前後の検査用に経食道エコーとSwan-Gantzカテーテルを準備する.肺出血に備えて分離気管内挿管を行う.頭部を包む氷嚢を用意する.術中は回収式自己血輸血装置を使用する.ⅱ)胸骨正中切開後,上行大動脈送血,上大静脈(直接)と下大静脈(右房より)の2本脱血にて体外循環を開始する.冷却を始めて心室細動となったら右上肺静脈から左房ベント挿入,肺動脈本幹へ一時的ベントを挿入する.ⅲ)冷却中に上大静脈を右房から無名静脈まで全周性に剥離する.この際,右横隔膜神経の損傷に注意する.左右の肺動脈前面を右は右上肺静脈下まで,左は心膜翻転部まで剥離する.ⅳ)右肺動脈のPEA:上大静脈と上行大動脈の間に開創器をかけ,右肺動脈の前面中央を上行大動脈の下より右上肺静脈下まで切開する.肺動脈内に大きな器質化血栓や二次血栓があればこれを取り除き,後壁で剥離層を見つけてPEAを開始する.剥離層が同定できたら開創器を外して,上行大動脈を遮断して順行性と逆行性に心筋保護液を注入する.開創器をかけ直して中枢温が18℃で間歇的循環停止として,Jamieson剥離子を用いて区域動脈に向かいPEAを続行する.1回の循環停止時間は15分までとし,10分間は全身灌流を再開する.右肺動脈のPEAが終了したら体循環を再開して,右肺動脈をモノフィラメント糸を用いて二重に縫合閉鎖する.ⅴ)左肺動脈のPEA:心ネットで右側下方に心臓を引き,左肺動脈を肺動脈幹より心膜翻転部まで切開する.ベントチューブを右肺動脈内に挿入,同様に剥離層を決定して間歇的循環停止下にPEAを区域動脈に向けて行う.終了したら循環再開して復温しながら左肺動脈を同様に閉鎖する.

ⅵ)心房中隔欠損は閉鎖する.冠動脈バイパス術や弁膜症の手術を要する場合には,復温中に施行する.三尖弁逆流は肺動脈圧が低下すれば軽減するので,原則として放置する362).ⅶ)復温が完了してから人工心肺の離脱を試みる.平均肺動脈圧が30mmHg以下に低下していると順調に離脱可能であるが,30mmHg以上の肺高血圧残存例では,カテコラミンや血管拡張薬を投与して時間をかけて慎重に離脱を図る.肺動脈圧が体血圧と等圧となったり,気道出血を多量に認める症例では,PCPSを装着してから体外循環を終了してプロタミンを投与する.ⅷ)術後数週して心嚢液貯留による心タンポナーデを合併することがあるため,予防のために,左側心膜を大きく切徐して開窓し,左胸腔内にもドレーンを挿入する.3)術後管理 PCPSを装着して ICUに帰室した症例では,数日間の時間をかけて離脱を試みる.1週間以上の長期PCPS補助で救命できることもある.また心不全が高度の場合には,経皮的大動脈内バルーンパンピング補助を同時に行って有効な症例がある.輸血は自己の貯血血液を用い,術中術後の他家血輸血はできる限り行わないようにする.PEA術後の再灌流障害による肺浮腫や気管内出血は最も注意すべき合併症である363).術後の気管内出血は手術時の肺動脈壁損傷によることも多い.このために呼吸不全が遷延化したら長期にPEEPをかけながら人工呼吸管理を慎重に行う.気道出血やドレーンからの出血が心配なくなったらヘパリンを開始し,ワルファリンの経口投与に変更していく.10~ 15%の症例では術後に残存肺高血圧が認められ364),血管拡張薬(PGE1,PGI2など)と,カテコラミン投与により長期にわたる右心不全管理を要する場合がある.4)外科治療の成績 CTEPHに対する超低体温循環停止下のPEAの手術成績は,以前の報告では Jamiesonらは手術死亡率が8.7%320),365)と報告し低くはなかったが,最近のMayerやThistlethwaiteらの報告ではいずれも4.7%と改善してきている366),367).Oginoらは病院死亡8.0 %(7/88)368),安藤らの待機手術84例では7例(8.3%)369),最近5年の75例では2例(2.7%)370)の手術死亡であった.各施設とも最近になって手術成績の向上が得られている. CTEPHに対する内科的治療の遠隔成績は良好ではないが,PEA後では呼吸循環動態は改善して良好な遠隔予後が期待できる361).6年の生存率が75%322),5年の生存率が86%324)などの報告がある.ただし術後に肺高血圧が残存した症例では遠隔期の成績は不良とな

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循環器病の診断と診療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告)

る356),357).

Ⅲ 厚生労働省特定疾患における肺高血圧症

 特定疾患とは,いわゆる「難病」の中で,厚生労働省が実施している難治性疾患克服研究事業の臨床調査研究分野の対象に指定された疾患であり,2011年3月31日現在,対象は130疾患である.厚生労働省の定める特定疾患とは,診療報酬の医学管理などにおいて特定疾患療養管理料としての請求対象の特定疾患ではない. 我が国では,いわゆる難病の中でも積極的に研究を推進する必要のある疾患について,調査研究,重点的研究,横断的研究からなる難治性疾患克服研究事業を行っている.対象となる疾患は,厚生労働省健康局長の私的諮問機関である特定疾患対策懇談会において検討の上決定されている.この中で,特に治療が極めて困難であり,かつ,医療費も高額である疾患について,医療の確立,普

及を図るとともに,患者の医療費負担軽減を図る目的で,都道府県を実施主体として特定疾患治療研究事業が行われている.対象は2011年3月31日現在56疾患である.特定疾患治療研究事業の対象疾患については,医療費の患者自己負担分の一部または全部について国と都道府県による公的な助成(公費負担医療)を受けることができる. 特定疾患治療研究事業の中で,肺高血圧症との関係が強いと推定される疾患を下記に挙げる(疾病番号とされている番号を記載するので,順不同になっている).ただし,これ以外の疾患でも肺高血圧症の合併ないしは併存はあり得る.39. 肺動脈性肺高血圧症43. 慢性血栓塞栓性肺高血圧症4. 全身性エリテマトーデス9. 強皮症,皮膚筋炎および多発筋炎34. 混合性結合組織病36. 特発性間質性肺炎53. リンパ脈管筋腫症(LAM)

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肺高血圧症治療ガイドライン

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